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特許7415558炭化珪素エピタキシャル基板および炭化珪素半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】炭化珪素エピタキシャル基板および炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20240110BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20240110BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20240110BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20240110BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240110BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240110BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240110BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B25/20
H01L21/20
H01L21/265 Z
H01L21/265 602A
H01L29/78 652T
H01L29/78 658E
H01L29/78 655A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019538952
(86)(22)【出願日】2018-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2018016565
(87)【国際公開番号】W WO2019044029
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2017168252
(32)【優先日】2017-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 洋典
(72)【発明者】
【氏名】堀 勉
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-135789(JP,A)
【文献】特開2006-028016(JP,A)
【文献】特開2005-167035(JP,A)
【文献】特開2013-107788(JP,A)
【文献】特開2009-088223(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0054609(US,A1)
【文献】特開2012-246168(JP,A)
【文献】国際公開第2009/107188(WO,A1)
【文献】特開2016-166101(JP,A)
【文献】特開2013-239606(JP,A)
【文献】特開2017-059670(JP,A)
【文献】Hidekazu TSUCHIDA et.al,Japanese Journal of Applied Physics,2005年,Vol.44,No.25,pp.L806-L808
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 25/20
H01L 21/20
H01L 21/265
H01L 29/12
H01L 21/336
H01L 29/739
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素基板と、
前記炭化珪素基板上にある炭化珪素エピタキシャル膜とを備え、
前記炭化珪素基板および前記炭化珪素エピタキシャル膜のポリタイプは、4Hであり、
前記炭化珪素エピタキシャル膜は、前記炭化珪素基板と接する第1層と、前記第1層上にありかつ前記炭化珪素エピタキシャル膜の主表面を構成する第2層とを含み、
前記炭化珪素基板と、前記第1層と、前記第2層とは、n型不純物を含み、
前記第1層には、p型不純物がイオン注入されておらず、
前記第1層が含むn型不純物の濃度は、前記炭化珪素基板が含むn型不純物の濃度より低く、かつ前記第2層が含むn型不純物の濃度より高く、
前記炭化珪素基板の主表面には、第1面密度を有する基底面転位があり、
前記炭化珪素エピタキシャル膜の主表面には、前記第1面密度よりも低い第2面密度を有する基底面転位があり、
前記炭化珪素エピタキシャル膜は、基底面転位が転換して形成された貫通刃状転位を含み、
前記第2面密度を、前記第1面密度で除した値は、1/1000以下であり、
前記炭化珪素エピタキシャル膜の主表面は、(000-1)面または(000-1)面に対して8°以下のオフ角で傾斜した面であり、
前記炭化珪素エピタキシャル膜の主表面の最大径は、150mm以上であり、
前記第1層の厚みは、0.5μm以上2μm以下であり、
前記第2層の厚みは、5μm以上30μm以下であり、
前記第1層が含むn型不純物の濃度は、1×1017cm-3以上1×1019cm-3以下であり、
前記第2層が含むn型不純物の濃度は、1×1015cm-3以上1×1016cm-3以下である、炭化珪素エピタキシャル基板。
【請求項2】
前記第2面密度を、前記第1面密度で除した値は、1/2000以下である、請求項1に記載の炭化珪素エピタキシャル基板。
【請求項3】
前記炭化珪素エピタキシャル膜の主表面における前記貫通刃状転位の面密度は、3990cm-2より高い、請求項1または請求項2に記載の炭化珪素エピタキシャル基板。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板を準備する工程と、
前記炭化珪素エピタキシャル基板を加工する工程と、を備える、炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭化珪素エピタキシャル基板および炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。本出願は、2017年9月1日に出願した日本特許出願である特願2017-168252号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
特開2014-170891号公報(特許文献1)には、炭化珪素単結晶基板上に炭化珪素層をエピタキシャル成長させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-170891号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る炭化珪素エピタキシャル基板は、炭化珪素基板と、炭化珪素エピタキシャル膜とを備えている。炭化珪素エピタキシャル膜は、炭化珪素基板上にある。炭化珪素基板および炭化珪素エピタキシャル膜のポリタイプは、4Hである。炭化珪素エピタキシャル膜は、炭化珪素基板に接する第1層と、第1層上にありかつ炭化珪素エピタキシャル膜の主表面を構成する第2層とを含んでいる。炭化珪素基板と、第1層と、第2層とは、n型不純物を含んでいる。第1層が含むn型不純物の濃度は、炭化珪素基板が含むn型不純物の濃度より低く、かつ第2層が含むn型不純物の濃度より高い。炭化珪素基板の主表面には、第1面密度を有する基底面転位がある。炭化珪素エピタキシャル膜の主表面には、第1面密度よりも低い第2面密度を有する基底面転位がある。第2面密度を、第1面密度で除した値は、1/1000以下である。炭化珪素エピタキシャル膜の主表面は、(000-1)面または(000-1)面に対して8°以下のオフ角で傾斜した面である。
【0005】
本開示に係る炭化珪素エピタキシャル基板は、炭化珪素基板と、炭化珪素エピタキシャル膜とを備えている。炭化珪素エピタキシャル膜は、炭化珪素基板上にある。炭化珪素基板および炭化珪素エピタキシャル膜のポリタイプは、4Hである。炭化珪素エピタキシャル膜は、炭化珪素基板に接する第1層と、第1層上にありかつ炭化珪素エピタキシャル膜の主表面を構成する第2層とを含んでいる。炭化珪素基板と、第1層と、第2層とは、n型不純物を含んでいる。第1層が含むn型不純物の濃度は、炭化珪素基板が含むn型不純物の濃度より低く、かつ第2層が含むn型不純物の濃度より高い。炭化珪素基板の主表面には、第1面密度を有する基底面転位がある。炭化珪素エピタキシャル膜の主表面には、第1面密度よりも低い第2面密度を有する基底面転位がある。第2面密度を、第1面密度で除した値は、1/1000以下である。炭化珪素エピタキシャル膜の主表面は、(000-1)面または(000-1)面に対して8°以下のオフ角で傾斜した面である。炭化珪素エピタキシャル膜の主表面の最大径は、150mm以上である。第1層の厚みは、0.5μm以上2μm以下である。第2層の厚みは、5μm以上30μm以下である。第1層が含むn型不純物の濃度は、1×1017cm-3以上1×1019cm-3以下である。第2層が含むn型不純物の濃度は、1×1015cm-3以上1×1016cm-3以下である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板の構成を示す平面模式図である。
図2図2は、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板の構成を示す断面模式図である。
図3図3は、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造装置の構成を示す一部断面模式図である。
図4図4は、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図5図5は、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法の第1工程を示す断面模式図である。
図6図6は、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法の第2工程を示す断面模式図である。
図7図7は、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造条件を示す図である。
図8図8は、本実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図9図9は、本実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法の第1工程を示す断面模式図である。
図10図10は、本実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法の第2工程を示す断面模式図である。
図11図11は、本実施形態に係る炭化珪素半導体装置の構成を示す断面模式図である。
図12図12は、サンプル2に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示の実施形態の概要]
まず本開示の実施形態の概要について説明する。本明細書の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示す。結晶学上の指数が負であることは、通常、数字の上に”-”(バー)を付すことによって表現されるが、本明細書では数字の前に負の符号を付すことによって結晶学上の負の指数を表現する。
【0008】
(1)本開示に係る炭化珪素エピタキシャル基板100は、炭化珪素基板10と、炭化珪素エピタキシャル膜20とを備えている。炭化珪素エピタキシャル膜20は、炭化珪素基板10上にある。炭化珪素基板10および炭化珪素エピタキシャル膜20のポリタイプは、4Hである。炭化珪素エピタキシャル膜20は、炭化珪素基板10に接する第1層21と、第1層21上にありかつ炭化珪素エピタキシャル膜20の主表面14を構成する第2層22とを含んでいる。炭化珪素基板10と、第1層21と、第2層22とは、n型不純物を含んでいる。第1層21が含むn型不純物の濃度は、炭化珪素基板10が含むn型不純物の濃度より低く、かつ第2層22が含むn型不純物の濃度より高い。炭化珪素基板10の主表面12には、第1面密度を有する基底面転位1がある。炭化珪素エピタキシャル膜20の主表面14には、第1面密度よりも低い第2面密度を有する基底面転位1がある。第2面密度を、第1面密度で除した値は、1/1000以下である。炭化珪素エピタキシャル膜20の主表面14は、(000-1)面または(000-1)面に対して8°以下のオフ角で傾斜した面である。
【0009】
(2)上記(1)に係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、第2面密度を、第1面密度で除した値は、1/2000以下であってもよい。
【0010】
(3)上記(1)または(2)に係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、炭化珪素エピタキシャル膜20の主表面14の最大径111は、100mm以上であってもよい。
【0011】
(4)上記(3)に係る炭化珪素エピタキシャル基板において、炭化珪素エピタキシャル膜20の主表面14の最大径111は、150mm以上であってもよい。
【0012】
(5)本開示に係る炭化珪素エピタキシャル基板100は、炭化珪素基板10と、炭化珪素エピタキシャル膜20とを備えている。炭化珪素エピタキシャル膜20は、炭化珪素基板10上にある。炭化珪素基板10および炭化珪素エピタキシャル膜20のポリタイプは、4Hである。炭化珪素エピタキシャル膜20は、炭化珪素基板10に接する第1層21と、第1層21上にありかつ炭化珪素エピタキシャル膜20の主表面14を構成する第2層22とを含んでいる。炭化珪素基板10と、第1層21と、第2層22とは、n型不純物を含んでいる。第1層21が含むn型不純物の濃度は、炭化珪素基板10が含むn型不純物の濃度より低く、かつ第2層22が含むn型不純物の濃度より高い。炭化珪素基板10の主表面12には、第1面密度を有する基底面転位1がある。炭化珪素エピタキシャル膜20の主表面14には、第1面密度よりも低い第2面密度を有する基底面転位1がある。第2面密度を、第1面密度で除した値は、1/1000以下である。炭化珪素エピタキシャル膜20の主表面14は、(000-1)面または(000-1)面に対して8°以下のオフ角で傾斜した面である。炭化珪素エピタキシャル膜20の主表面14は、(000-1)面または(000-1)面に対して8°以下のオフ角で傾斜した面である。炭化珪素エピタキシャル膜20の主表面14の最大径111は、150mm以上である。第1層21の厚みは、0.5μm以上2μm以下である。第2層22の厚みは、5μm以上30μm以下である。第1層21が含むn型不純物の濃度は、1×1017cm-3以上1×1019cm-3以下である。第2層22が含むn型不純物の濃度は、1×1015cm-3以上1×1016cm-3以下である。
【0013】
(6)本開示に係る炭化珪素半導体装置300の製造方法は以下の工程を備えている。上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板100が準備される。炭化珪素エピタキシャル基板100が加工される。
【0014】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態の詳細について説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
【0015】
(炭化珪素エピタキシャル基板)
図1および図2に示されるように、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100は、炭化珪素基板10と、炭化珪素エピタキシャル膜20とを有している。炭化珪素エピタキシャル膜20は、炭化珪素基板10上にある。炭化珪素基板10は、第1主面11と、第1主面11と反対側の第1主表面12とを有する。炭化珪素エピタキシャル膜20は、第1主面11と接する。炭化珪素エピタキシャル膜20は、第1主面11と接する第3主面13と、第3主面13と反対側の第2主表面14とを有する。炭化珪素基板10および炭化珪素エピタキシャル膜20のポリタイプは、4Hである。図1に示されるように、炭化珪素エピタキシャル基板100には、第1方向101に延在する第1フラット16が設けられて入れてもよい。炭化珪素エピタキシャル基板100には、第2方向102に延在する第2フラット(図示せず)が設けられていてもよい。
【0016】
第2方向102は、たとえば<1-100>方向である。第1方向101は、第2主表面14に対して平行であり、かつ第2方向102に対して垂直な方向である。第1方向101は、たとえば<11-20>方向成分を含む方向である。図1に示されるように、第2主表面14の最大径111(直径)は、たとえば100mm以上である。最大径111は150mm以上でもよいし、200mm以上でもよいし、250mm以上でもよい。最大径111の上限は特に限定されない。最大径111は、たとえば300mm以下であってもよい。
【0017】
炭化珪素基板10は、たとえば炭化珪素単結晶から構成される。炭化珪素基板10は、たとえば窒素(N)などのn型不純物を含んでいる。炭化珪素基板10の導電型は、たとえばn型である。第1主面11は、(000-1)面または(000-1)面に対して8°以下のオフ角で傾斜した面である。第1主面11が(000-1)面に対して傾斜している場合、第1主面11の傾斜方向は、たとえば<11-20>方向である。炭化珪素基板10の厚みは、たとえば350μm以上500μm以下である。
【0018】
図2に示されるように、炭化珪素エピタキシャル膜20は、炭化珪素基板10の第1主面11上にある。炭化珪素エピタキシャル膜20は、エピタキシャル層である。炭化珪素エピタキシャル膜20は、第1主面11に接している。炭化珪素エピタキシャル膜20は、たとえば窒素などのn型不純物を含んでいる。炭化珪素エピタキシャル膜20の導電型は、たとえばn型である。第2主表面14は、カーボン面またはカーボン面に対して8°以下のオフ角θで傾斜した面である。言い換えれば、第2主表面14は、(000-1)面または(000-1)面に対して8°以下のオフ角θで傾斜した面である。オフ方向は、たとえば<11-20>方向である。なお、オフ方向は、<11-20>方向に限定されない。オフ方向は、たとえば<1-100>方向であってもよいし、<1-100>方向成分と<11-20>方向成分とを有する方向であってもよい。
【0019】
オフ角θは、第2主表面14が(000-1)面に対して傾斜している角度である。オフ角θは、たとえば0°より大きく8°以下である。オフ角θは、1°以上であってもよいし、2°以上であってもよい。オフ角は、7°以下であってもよいし、6°以下であってもよい。
【0020】
図2において破線で記載された面は、たとえば{0001}面である。第3方向103は、{0001}面に対して垂直な方向である。第3方向103は、たとえば[000-1]方向である。第4方向104は、第3方向103に対して垂直な方向である。第4方向104は、たとえば<11-20>方向である。第4方向104は、たとえばオフ方向である。第2主表面14の法線方向は、第5方向105である。第5方向は、たとえば[000-1]方向に対してオフ方向にオフ角θだけ傾斜した方向である。
【0021】
図2に示されるように、炭化珪素エピタキシャル膜20は、第1層21と、第2層22とを含む。第1層は、たとえばバッファ層である。第2層22は、たとえばドリフト層である。第1層21は、第1主面11に接している。第1層21は、炭化珪素基板10と接している。第1層21は、第3主面13を構成する。第2層22は、第1層21上にある。第2層22は、第2主表面14を構成する。第1層21の厚みは、たとえば0.5μm以上2μm以下である。第1層21の厚みは、0.7μm以上であってもよいし、1.0μm以上であってもよい。第1層21の厚みは、1.8μm以下であってもよいし、1.5μm以下であってもよい。第2層22の厚みは、たとえば5μm以上30μm以下である。第2層22の厚みは、7μm以上であってもよいし、10μm以上であってもよい。第2層22の厚みは、25μm以下であってもよいし、20μm以下であってもよい。
【0022】
第1層21および第2層22の各々は、たとえば窒素などのn型不純物を含んでいる。第1層21が含むn型不純物の濃度は、たとえば1×1017cm-3以上1×1019cm-3以下である。第1層21が含むn型不純物の濃度は、3×1017cm-3以上であってもよいし、5×1017cm-3以上であってもよい。第1層21が含むn型不純物の濃度は、7×1018cm-3以下であってもよいし、5×1018cm-3以下であってもよい。第2層22が含むn型不純物の濃度は、たとえば1×1015cm-3以上1×1016cm-3以下である。第2層22が含むn型不純物の濃度は、2×10 15cm-3以上であってもよいし、3×1015cm-3以上であってもよい。第2層22が含むn型不純物の濃度は、9×1015cm-3以下であってもよいし、8×10 15cm-3以下であってもよい。
【0023】
第1層21が含むn型不純物の濃度は、炭化珪素基板10が含むn型不純物の濃度より低く、かつ第2層22が含むn型不純物の濃度より高い。n型不純物の濃度は、たとえば水銀プローブ方式のC-V測定装置により測定される。プローブの面積は、たとえば0.005cm2である。
【0024】
図2に示されるように、炭化珪素基板10および炭化珪素エピタキシャル膜20は、基底面転位1を有している。基底面転位1は、たとえば第1主面11および第1主表面12の双方に露出している。基底面転位1は、{0001}面と平行な方向に延在している。基底面転位1は、たとえば第1基底面転位25と、第2基底面転位26と、第3基底面転位27とを有する。炭化珪素エピタキシャル膜20は、たとえば第2基底面転位26と、第3基底面転位27と、貫通刃状転位2とを有する。第3基底面転位27と、貫通刃状転位2とは、第2主表面14に露出している。貫通刃状転位2は、たとえば第1貫通刃状転位35と、第2貫通刃状転位36とを有する。第1貫通刃状転位35は、第1基底面転位25が転換して形成された転位である。同様に、第2貫通刃状転位36は、第2基底面転位26が転換して形成された転位である。貫通刃状転位2は、{0001}に対してほぼ垂直な第3方向103に沿って延在している。
【0025】
基底面転位1が炭化珪素エピタキシャル基板100に存在すると、たとえば炭化珪素エピタキシャル基板100上に形成されるゲート絶縁膜の信頼性が劣化する。一方、貫通刃状転位2は、炭化珪素エピタキシャル基板に存在していても、炭化珪素エピタキシャル基板上に形成されるゲート絶縁膜の信頼性にはほとんど影響を与えない。そのため、炭化珪素基板10に存在する基底面転位1を貫通刃状転位2に転換し、炭化珪素エピタキシャル膜20における基底面転位1の数を低減することが望ましい。
【0026】
本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、炭化珪素基板10の第1主表面12には、第1面密度を有する基底面転位1がある。炭化珪素エピタキシャル膜20の第2主表面14には、第1面密度よりも低い第2面密度を有する基底面転位1がある。第2面密度を、第1面密度で除した値は、1/1000以下である。言い換えれば、基底面転位1から貫通刃状転位2に転換した割合(転換率)は、99.9%以上である。第2面密度を、第1面密度で除した値は、たとえば1/2000以下であってもよい。言い換えれば、基底面転位1から貫通刃状転位2に転換した割合(転換率)は、99.95%以上である。
【0027】
第2面密度は、たとえば10cm-2以下である。第2面密度は、たとえば6cm-2以下であってもよいし、2cm-2以下であってもよい。炭化珪素エピタキシャル膜20においては、基底面転位の面密度は低くなっているが、貫通刃状転位の面密度は高くなっている。炭化珪素エピタキシャル膜20の第2主表面14における貫通刃状転位の面密度は、たとえば3990cm-2より高くてもよい。第1面密度の下限は特に限定されないが、第1面密度はたとえば2000cm-2以上であってもよいし、2500cm-2以上であってもよい。第1面密度の上限は特に限定されないが、第1面密度はたとえば6000cm-2以下であってもよいし、5500cm-2以下であってもよい。
【0028】
(基底面転位の面密度の測定方法)
次に、基底面転位の面密度の測定方法について説明する。基底面転位の観察には、たとえば株式会社フォトンデザイン社製のフォトルミネッセンスイメージング装置(型番:PLIS-100)が用いられる。炭化珪素エピタキシャル基板の被測定領域に対して励起光が照射されると、被測定領域からフォトルミネッセンス光が観測される。励起光源としては、たとえば水銀キセノンランプが使用される。光源からの励起光は、313nmのバンドパスフィルターを通過した後、被測定領域に照射される。フォトルミネッセンス光は、たとえば750nmのローパスフィルタを通過した後、カメラ等の受光素子に到達する。以上のように、被測定領域のフォトルミネッセンス画像が撮影される。測定温度は、室温である。
【0029】
たとえば炭化珪素エピタキシャル基板の主面(具体的には、第2主表面14または第1主表面12)と平行な方向に炭化珪素エピタキシャル基板を移動させながら、主面のフォトルミネッセンス画像が撮影される。これにより、主面の全領域におけるフォトルミネッセンス画像がマッピングされる。取得されたフォトルミネッセンス画像において基底面転位が特定され、当該基底面転位の合計数が計算される。基底面転位の合計数を全測定面積で除することにより、基底面転位の面密度が算出される。
【0030】
本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100においては、第1主表面12は、(0001)面または(0001)面に対して8°以下のオフ角で傾斜した面である。第1主表面12における基底面転位の面密度の算出は、たとえば水酸化カリウム(KOH)融液を用いて発生させたピットを数えることにより行われてもよい。具体的には、第1主表面12がKOH融液を用いてエッチングされる。KOH融液の温度は、たとえば500℃以上550℃以下程度とする。エッチング時間は、たとえば5以上10分以下程度とする。エッチング後、ノルマルスキー微分干渉顕微鏡によって第1主表面12が観察される。基底面転位はKOH融液によりエッチングされてピットを形成する。ピットの合計数を全測定面積で除することにより、基底面転位の面密度が算出される。なお、貫通刃状転位も基底面転位と同様にピットを形成する。貫通刃状転位に由来するピットと、基底面転位に由来するピットとは、以下のように区別する。丸みを帯びた六角形状のピットが貫通刃状転位に由来するものであり、楕円形状のピットが基底面転位に由来するものである。
【0031】
(炭化珪素エピタキシャル基板の製造装置)
次に、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の製造装置200の構成について説明する。
【0032】
図3に示されるように、炭化珪素エピタキシャル基板100の製造装置200は、たとえばホットウォール方式の横型CVD(Chemical Vapor Deposition)装置である。製造装置200は、反応室201と、発熱体203、石英管204、断熱材205、誘導加熱コイル206とを主に有している。
【0033】
発熱体203は、たとえば筒状の形状を有しており、内部に反応室201を形成している。発熱体203は、たとえば黒鉛製である。断熱材205は、発熱体203の外周を取り囲んでいる。断熱材205は、石英管204の内周面に接するように石英管204の内部に設けられている。誘導加熱コイル206は、たとえば石英管204の外周面に沿って巻回されている。誘導加熱コイル206は、外部電源(図示せず)により、交流電流が供給可能に構成されている。これにより、発熱体203が誘導加熱される。結果として、反応室201が発熱体203により加熱される。
【0034】
反応室201は、発熱体203に取り囲まれて形成された空間である。反応室201内には、炭化珪素基板10が配置される。反応室201は、炭化珪素基板10を加熱可能に構成されている。反応室201には、炭化珪素基板10を保持するサセプタ210が設けられている。サセプタ210は、回転軸212の周りを自転可能に構成されている。
【0035】
製造装置200は、ガス導入口207およびガス排気口208を有している。ガス排気口208は、排気ポンプ(図示せず)に接続されている。図6中の矢印は、ガスの流れを示している。ガスは、ガス導入口207から反応室201に導入され、ガス排気口208から排気される。反応室201内の圧力は、ガスの供給量と、ガスの排気量とのバランスによって調整される。
【0036】
製造装置200は、たとえば、シランと、アンモニアと、水素と、プロパンとを含む混合ガスを、反応室201に供給可能に構成されたガス供給部(図示せず)を有している。具体的には、ガス供給部は、プロパンガスを供給可能なガスボンベと、水素ガスを供給可能なガスボンベと、シランガスを供給可能なガスボンベと、アンモニアガスを供給可能なガスボンベとを有していてもよい。
【0037】
反応室201の軸方向において、誘導加熱コイル206の巻き密度を変化させてもよい。巻き密度[回/m]とは、装置の軸方向の単位長さあたりのコイルの周回数である。たとえば、上流側でアンモニアを効果的に熱分解させるために、上流側の誘導加熱コイル206の巻き密度は、下流側の誘導加熱コイル206の巻き密度よりも高くてもよい。
【0038】
(炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法)
次に、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法について説明する。
【0039】
まず、炭化珪素単結晶基板準備工程(S11:図4)が実施される。たとえば昇華法により、ポリタイプ4Hの炭化珪素単結晶が製造される。次に、たとえばワイヤーソーによって、炭化珪素単結晶をスライスすることにより、炭化珪素基板10が準備される。炭化珪素基板10は、たとえば窒素などのn型不純物を含んでいる。炭化珪素基板10の導電型は、たとえばn型である。
【0040】
図5に示されるように、炭化珪素基板10は、第1主面11と、第1主面11の反対側にある第1主表面12とを有する。第1主面11は、たとえば(000-1)面に対してオフ角θだけオフ方向に傾斜した面である。オフ方向は、たとえば<11-20>方向である。炭化珪素基板10の第1主面11の最大径は、たとえば100mm以上である。炭化珪素基板10には、たとえば複数の基底面転位1が存在する。基底面転位1は、{0001}面と平行な方向に延在している。基底面転位1は、たとえば第1基底面転位25と、第2基底面転位26と、第3基底面転位27とを有する。
【0041】
次に、炭化珪素基板10が反応室201内においてサセプタ210上に配置される(図3参照)。炭化珪素基板10は、大気圧の状態で反応室201内に配置される(時点T0)。次に、反応室201内が減圧される。図7に示されるように、時点T1から時点T2にかけて、反応室201内の圧力が大気圧から1×10-4Pa程度に低減される。
【0042】
次に、昇温工程が実施される。時点T2から時点T3にかけて、反応室201内の圧力が1×10-4Pa程度の状態で、炭化珪素基板10の温度が室温から1100℃程度まで上昇する。次に、時点T3から時点T4にかけて、炭化珪素基板10の温度が1100℃で一定時間維持される。時点T4から時点T5にかけて、炭化珪素基板10の温度が1100℃から1630℃まで上昇する。時点T4において、反応室201内に水素(H)ガスが導入される。水素ガスの流量は、たとえば100slmである。反応室201内の圧力は、たとえば10kPa程度である。これにより、水素エッチング工程が実施される。時点T5から時点T6にかけて、炭化珪素基板10の温度が1630℃に維持された状態で、炭化珪素基板10の表面が水素ガスによってエッチングされる。
【0043】
次に、バッファ層形成工程(S12:図4)が実施される。具体的には、反応室201に、原料ガス、ドーパントガスおよびキャリアガスが供給される。たとえば、反応室201に、シラン(SiH)とプロパン(C)とアンモニア(NH)と水素とを含む混合ガスが供給される。図7に示されるように、時点T6から時点T7までの間、炭化珪素基板10は1630℃程度で維持される。反応室201において、それぞれのガスが熱分解されることで、炭化珪素基板10上にバッファ層21が形成される(図6参照)。バッファ層21を形成する工程において、サセプタ210は回転軸212の周りを自転していてもよい。炭化珪素基板10は回転軸212の周りを公転していてもよい(図3参照)。
【0044】
バッファ層を形成する工程においては、成長速度がたとえば5μm/hとなるように、シランおよびプロパンの流量が調整される。具体的には、シランガスの流量がたとえば46sccmとなるように調整される。プロパンガスの流量がたとえば29sccmとなるように調整される。アンモニアガスの流量がたとえば1.5sccmとなるように調整される。水素ガスの流量が100slmとなるように調整される。バッファ層21の厚みは、たとえば1μmである。反応室201の圧力は、たとえば10kPaである。C/Si比は、たとえば1.9である。
【0045】
図6に示されるように、炭化珪素基板10に存在していた複数の基底面転位1の一部が貫通刃状転位に転換される。たとえば、第1基底面転位25は、第1貫通刃状転位35に転換される。たとえば、第2基底面転位26および第3基底面転位27は、貫通刃状転位に転換されず、基底面転位としてバッファ層21内を伝搬する。
【0046】
次に、ドリフト層形成工程(S13:図4)が実施される。具体的には、反応室201に、シランとプロパンとアンモニアと水素とを含む混合ガスが供給される。時点T6から時点T7までの間、炭化珪素基板10は1630℃で維持される。反応室201において、それぞれのガスが熱分解され、バッファ層21上にドリフト層22が形成される(図2参照)。ドリフト層22を形成する工程において、サセプタ210は回転軸212の周りを自転していてもよい。炭化珪素基板10は回転軸212の周りを公転していてもよい(図3参照)。
【0047】
ドリフト層を形成する工程においては、成長速度がたとえば25μm/hとなるように、シランおよびプロパンの流量が調整される。具体的には、シランガスの流量がたとえば115sccmとなるように調整される。プロパンガスの流量がたとえば57.6sccmとなるように調整される。アンモニアガスの流量がたとえば2.5×10-2sccmとなるように調整される。水素ガスの流量が100slmとなるように調整される。ドリフト層22の厚みは、たとえば10μmである。反応室201の圧力は、たとえば10kPaである。C/Si比は、たとえば1.5である。以上のように、炭化珪素エピタキシャル膜のドリフト層22の成長速度を25μm/h程度に高くすることにより、基底面転位が貫通刃状転位に転換する割合(転換率)を向上することができる。
【0048】
次に、冷却工程が行われる。図7に示されるように、時点T8から時点T9にかけて、炭化珪素基板10の温度が1630℃から室温まで低減される。時点T9において、反応室201に導入される水素の供給が停止され、反応室201の圧力は大気圧に戻る。以上のように、炭化珪素エピタキシャル基板100が製造される。
【0049】
(炭化珪素半導体装置の製造方法)
次に、本実施形態に係る炭化珪素半導体装置300の製造方法について説明する。
【0050】
本実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は、エピタキシャル基板準備工程(S10:図8)と、基板加工工程(S20:図8)とを主に有する。
【0051】
まず、エピタキシャル基板準備工程(S10:図8)が実施される。具体的には、前述した炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法によって、炭化珪素エピタキシャル基板100が準備される(図2参照)。
【0052】
次に、基板加工工程(S20:図8)が実施される。具体的には、炭化珪素エピタキシャル基板を加工することにより、炭化珪素半導体装置が製造される。「加工」には、たとえば、イオン注入、熱処理、エッチング、酸化膜形成、電極形成、ダイシング等の各種加工が含まれる。すなわち基板加工ステップは、イオン注入、熱処理、エッチング、酸化膜形成、電極形成およびダイシングのうち、少なくともいずれかの加工を含むものであってもよい。
【0053】
以下では、炭化珪素半導体装置の一例としてのMOSFETの製造方法を説明する。基板加工工程(S20:図8)は、たとえばイオン注入工程(S21:図8)、酸化膜形成工程(S22:図8)、電極形成工程(S23:図8)およびダイシング工程(S24:図8)を含む。
【0054】
まず、イオン注入工程(S21:図8)が実施される。開口部を有するマスク(図示せず)が形成された第2主表面14に対して、たとえばアルミニウム(Al)等のp型不純物が注入される。これにより、p型の導電型を有するボディ領域132が形成される。次に、ボディ領域132内の所定位置に、たとえばリン(P)等のn型不純物が注入される。これにより、n型の導電型を有するソース領域133が形成される。次に、アルミニウム等のp型不純物がソース領域133内の所定位置に注入される。これにより、p型の導電型を有するコンタクト領域134が形成される(図9参照)。
【0055】
炭化珪素エピタキシャル膜20の第2層22において、ボディ領域132、ソース領域133およびコンタクト領域134以外の部分は、ドリフト領域131となる。ソース領域133は、ボディ領域132によってドリフト領域131から隔てられている。イオン注入は、炭化珪素エピタキシャル基板100を300℃以上600℃以下程度に加熱して行われてもよい。イオン注入の後、炭化珪素エピタキシャル基板100に対して活性化アニールが行われる。活性化アニールにより、炭化珪素エピタキシャル膜20に注入された不純物が活性化し、各領域においてキャリアが生成される。活性化アニールの雰囲気は、たとえばアルゴン(Ar)雰囲気である。活性化アニールの温度は、たとえば1800℃程度である。活性化アニールの時間は、たとえば30分程度である。
【0056】
次に、酸化膜形成工程(S22:図8)が実施される。たとえば炭化珪素エピタキシャル基板100が酸素を含む雰囲気中において加熱されることにより、第2主表面14上に酸化膜136が形成される(図10参照)。酸化膜136は、たとえば二酸化珪素等から構成される。酸化膜136は、ゲート絶縁膜として機能する。熱酸化処理の温度は、たとえば1300℃程度である。熱酸化処理の時間は、たとえば30分程度である。
【0057】
酸化膜136が形成された後、さらに窒素雰囲気中で熱処理が行なわれてもよい。たとえば、一酸化窒素の雰囲気中、1100℃程度で1時間程度、熱処理が実施される。さらにその後、アルゴン雰囲気中で熱処理が行なわれる。たとえば、アルゴン雰囲気中、1100℃以上1500℃以下程度で、1時間程度、熱処理が行われる。
【0058】
次に、電極形成工程(S23:図8)が実施される。具体的には、ゲート電極141は、酸化膜136上に形成される。ゲート電極141は、たとえばCVD法により形成される。ゲート電極141は、たとえば導電性を有するポリシリコン等から構成される。ゲート電極141は、ソース領域133およびボディ領域132に対面する位置に形成される。
【0059】
次に、ゲート電極141を覆う層間絶縁膜137が形成される。層間絶縁膜137は、たとえばCVD法により形成される。層間絶縁膜137は、たとえば二酸化珪素等から構成される。層間絶縁膜137は、ゲート電極141と酸化膜136とに接するように形成される。次に、酸化膜136および層間絶縁膜137の一部がエッチングによって除去される。これにより、ソース領域133およびコンタクト領域134が、酸化膜136から露出する。
【0060】
次に、たとえばスパッタリング法により当該露出部にソース電極142が形成される。ソース電極142は、たとえばチタン、アルミニウムおよびシリコン等から構成される。ソース電極142が形成された後、ソース電極142と炭化珪素エピタキシャル基板100が、たとえば900℃以上1100℃以下程度の温度で加熱される。これにより、ソース電極142と炭化珪素エピタキシャル基板100とがオーミック接触するようになる。次に、ソース電極142に接するように、配線層138が形成される。配線層138は、たとえばアルミニウムを含む材料から構成される。次に、第3主面13にドレイン電極143が形成される。ドレイン電極143は、たとえばニッケルおよびシリコンを含む合金(たとえばNiSi等)から構成される。
【0061】
次に、ダイシング工程(S24:図8)が実施される。たとえば炭化珪素エピタキシャル基板100がダイシングラインに沿ってダイシングされることにより、炭化珪素エピタキシャル基板100が複数の半導体チップに分割される。以上より、炭化珪素半導体装置300が製造される(図11参照)。
【0062】
なお上記において、MOSFETを例示して、本開示に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を説明したが、本開示に係る製造方法はこれに限定されない。本開示に係る製造方法は、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、SBD(Schottky Barrier Diode)、サイリスタ、GTO(Gate Turn Off thyristor)、PiNダイオード等の炭化珪素半導体装置に適用可能である。
【0063】
次に、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板および炭化珪素半導体装置の製造方法の作用効果について説明する。
【0064】
基底面転位1が炭化珪素エピタキシャル基板100に存在すると、通電時に基底面転位1が拡張して積層欠陥になる場合がある。その場合、たとえば炭化珪素エピタキシャル基板100上に形成されるゲート絶縁膜がダメージを受け、炭化珪素半導体装置300の耐圧の低下を引き起こすおそれがある。結果として、炭化珪素半導体装置300の信頼性が低下する場合がある。一方、貫通刃状転位2は、炭化珪素エピタキシャル基板100に存在していても、炭化珪素半導体装置300の信頼性にはほとんど影響を与えない。そのため、炭化珪素半導体装置300の信頼性を高めるためには、基底面転位1を貫通刃状転位2に転換して、基底面転位1の数を低減することが望ましい。またシリコン面と比較して、カーボン面上の基底面転位1を低減することは困難であった。
【0065】
本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100によれば、第2主表面14における基底面転位1の面密度(第2面密度)を、第1主表面12における基底面転位1の面密度(第1面密度)で除した値は、1/1000以下である。また第2主表面14は、カーボン面またはカーボン面に対して8°以下のオフ角で傾斜した面である。つまり本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100によれば、炭化珪素基板10における基底面転位1の大部分を貫通転位に転換することにより、炭化珪素エピタキシャル膜20の第2主表面14における基底面転位1を低減することができる。そのため、カーボン面またはカーボン面に対して8°以下のオフ角で傾斜した第2主表面14を有する炭化珪素エピタキシャル基板100を含む炭化珪素半導体装置300の信頼性を向上することができる。
【実施例
【0066】
次に、実施例について説明する。まず、サンプル1および2に係る炭化珪素基板が準備された。サンプル1および2に係る炭化珪素基板の主面における基底面転位(BPD)は、4000cm-2であった。サンプル1および2に係る炭化珪素基板の主面の最大径は、150mmであった。次に、サンプル1および2に係る炭化珪素基板上に炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた。
【0067】
サンプル1に係る炭化珪素基板に対しては、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法を用いて、炭化珪素エピタキシャル膜を形成した。つまり、サンプル1に係る炭化珪素基板に対しては、図7で示した温度プロファイルを用いて、炭化珪素エピタキシャル膜を形成した。具体的には、バッファ層の成長速度を5μm/hとした。ドリフト層の成長速度を25μm/hとした。バッファ層の厚みを1μmとした。バッファ層のキャリア濃度を1×1018cm-3とした。ドリフト層の厚みを10μmとした。ドリフト層のキャリア濃度を7×1015cm-3とした。
【0068】
サンプル2に係る炭化珪素基板に対しては、図12で示した温度プロファイルを用いて、炭化珪素エピタキシャル膜を形成した。具体的には、バッファ層の成長速度を5μm/hとした。ドリフト層の成長速度を10μm/hとした。バッファ層の厚みを1μmとした。バッファ層のキャリア濃度を1×1018cm-3とした。ドリフト層の厚みを10μmとした。ドリフト層のキャリア濃度を7×1015cm-3とした。
【0069】
サンプル2に係る炭化珪素基板の製造方法は、ドリフト層形成工程においてサンプル1に係る炭化珪素基板の製造方法と異なっており、その他の工程においてはサンプル1に係る炭化珪素基板の製造方法と同様である。サンプル2に係る炭化珪素基板のドリフト層形成工程においては、シランガスの流量がたとえば69sccmとなるように調整された。プロパンガスの流量がたとえば43.5sccmとなるように調整された。アンモニアガスの流量がたとえば1.0×10-2sccmとなるように調整された。C/Si比は、1.9であった。
【0070】
以上のように、サンプル1および2に係る炭化珪素エピタキシャル基板が製造された。次に、サンプル1および2に係る炭化珪素エピタキシャル基板の第1主表面12および第2主表面14における基底面転位の面密度が測定された。基底面転位の面密度は、前述の測定方法を用いて測定された。
【0071】
【表1】
【0072】
表1は、炭化珪素基板の第1主表面12の基底面転位(BPD)の面密度(第1面密度)と、炭化珪素エピタキシャル膜の第2主表面14の基底面転位(BPD)の面密度(第2面密度)と、第2面密度を第1面密度で除した値と、基底面転位から貫通刃状転位への転換率とを示している。表1に示されるように、サンプル1および2に係る炭化珪素基板エピタキシャル基板の第2主表面14における基底面転位の面密度を、第1主表面12における基底面転位の面密度で除した値は、それぞれ0.0005および0.01045であった。またサンプル1および2に係る炭化珪素基板エピタキシャル基板において、第1面密度から第2面密度を引いた値を第1面密度で除した値として求められる転換率は、それぞれ99.95%および98.955%であった。
【0073】
以上の結果より、図7の製造条件を用いて炭化珪素エピタキシャル基板を製造する場合は、図12の製造条件を用いて炭化珪素エピタキシャル基板を製造する場合よりも、基底面転位を貫通刃状転位に転換する割合を高め、結果として、炭化珪素エピタキシャル膜における基底面転位の面密度を低減可能であることが確認された。
【0074】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
1 基底面転位、2 貫通刃状転位、10 炭化珪素基板、11 第1主面、12 第1主表面、13 第3主面、14 第2主表面、16 第1フラット、20 炭化珪素エピタキシャル膜、21 第1層(バッファ層)、22 第2層(ドリフト層)、25 第1基底面転位、26 第2基底面転位、27 第3基底面転位、35 第1貫通刃状転位、36 第2貫通刃状転位、100 炭化珪素エピタキシャル基板、101 第1方向、102 第2方向、103 第3方向、104 第4方向、105 第5方向、111 最大径、131 ドリフト領域、132 ボディ領域、133 ソース領域、134 コンタクト領域、136 酸化膜、137 層間絶縁膜、138 配線層、141 ゲート電極、142 ソース電極、143 ドレイン電極、200 製造装置、201 反応室、203 発熱体、204 石英管、205 断熱材、206 誘導加熱コイル、207 ガス導入口、208 ガス排気口、210 サセプタ、212 回転軸、300 炭化珪素半導体装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12