(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】染色システム
(51)【国際特許分類】
D06P 5/28 20060101AFI20240110BHJP
D06P 7/00 20060101ALI20240110BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20240110BHJP
G02C 7/10 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
D06P5/28
D06P7/00
G02B5/22
G02C7/10
(21)【出願番号】P 2020004760
(22)【出願日】2020-01-15
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2019140255
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019140256
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【氏名又は名称】大川 智也
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 稔
(72)【発明者】
【氏名】柴田 良二
(72)【発明者】
【氏名】田中 基司
(72)【発明者】
【氏名】阿部 功児
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-107410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 5/28
D06P 7/00
G02B 5/22
G02C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂体を染色する染色システムであって、
基体に染料を印刷する印刷装置と、
前記染料が印刷された前記基体に前記樹脂体を対向させた状態で、前記染料を樹脂体に転写する転写装置と、
前記染料が転写された前記樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させる染料定着装置と、
前記染料が定着された前記樹脂体の色情報を計測する色情報計測器と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
染色する予定色を前記樹脂体に染色するための、前記印刷装置による前記基体への染料の吐出量を決定する吐出量決定ステップと、
前記吐出量決定ステップにおいて決定された吐出量の染料が使用されることで、前記印刷装置、前記転写装置、および前記染料定着装置によって実際に染色された樹脂体について、前記色情報計測器によって計測された色情報である結果色情報を取得する結果色情報取得ステップと、
前記結果色情報取得ステップにおいて取得された前記結果色情報と、前記予定色とに基づいて、前記吐出量決定ステップにおいて決定される染料の吐出量を補正することで、以後の染色工程において染色される樹脂体の色を予定色に近づける補正ステップと、
を実行することを特徴とする染色システム。
【請求項2】
請求項1に記載の染色システムであって、
前記制御部は、
前記吐出量決定ステップにおいて、前記印刷装置が吐出可能な複数の染料のうち、1つの特定の染料によって染色される、予定の濃度の色を前記予定色として、前記特定の染料の吐出量を決定し、
前記補正ステップにおいて、前記結果色情報が示す濃度と、前記予定色の濃度に基づいて、前記吐出量決定ステップにおいて決定される前記特定の染料の吐出量を補正することを特徴とする染色システム。
【請求項3】
請求項2に記載の染色システムであって、
前記制御部は、
前記印刷装置が吐出可能な複数の染料の
うちの1つを特定の染料として、前記吐出量決定ステップ、前記結果色情報取得ステップ、および前記補正ステップ
を実行
することで、前記特定の染料の吐出量を補正し、且つ、
前記複数の染料のうち、吐出量が未だ補正されていない他の1つの染料を新たな特定の染料として、前記吐出量決定ステップ、前記結果色情報取得ステップ、および前記補正ステップを実行することで、前記新たな特定の染料の吐出量を補正することを特徴とする染色システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の染色システムであって、
前記制御部は、
前記吐出量決定ステップにおいて、前記印刷装置が吐出可能な複数の染料のうち複数の染料によって染色される、予定の濃度の色を前記予定色として、前記複数の染料の吐出量を決定し、
前記補正ステップにおいて、前記結果色情報と前記予定色に基づいて、前記複数の染料の少なくともいずれかの吐出量を補正することを特徴とする染色システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の染色システムであって、
前記色情報計測器は、前記樹脂体の分光スペクトルを前記色情報として計測する分光計測器であることを特徴とする染色システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の染色システムであって、
前記制御部は、
前記結果色情報取得ステップにおいて取得された前記結果色情報と、前記予定色との差が許容範囲を超えている場合に、前記樹脂体の染色の品質が不良であることをユーザに通知する通知ステップをさらに実行することを特徴とする染色システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の染色システムであって、
前記制御部は、
前記結果色情報取得ステップにおいて取得された前記結果色情報と、前記予定色との差が閾値を超えている場合に、前記補正ステップを実行することを特徴とする染色システム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の染色システムであって、
前記制御部は、
樹脂体の染色工程を実行する毎に前記補正ステップを繰り返すフィードバック制御を実行することを特徴とする染色システム。
【請求項9】
請求項1から8に記載の染色システムであって、
染色される前記樹脂体は、眼鏡に使用されるレンズであり、
前記制御部は、前記補正ステップにおいて、染色される前記レンズの基材の種類毎に、前記吐出量決定ステップにおいて決定される染料の吐出量を補正することを特徴とする染色システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂体を染色する染色システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズ等の樹脂体を染色するための種々の技術が提案されている。例えば、浸染法と言われる染色方法では、樹脂体を染色液の中に浸漬することで樹脂体が染色される。しかし、浸染法では、作業環境を良好にすることが難しく、また、一部の樹脂体(例えば高屈折率のレンズ等)を染色するのが困難である。
【0003】
そこで、染料を樹脂体の表面に転写し、染料が付着した樹脂体を加熱することで樹脂体を染色する技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載の染色方法では、昇華性の染料が、インクジェットプリンタによって基体に塗布(印刷)される。次いで、真空中で樹脂体と基体が非接触で配置された状態で、基体に塗布された昇華性の染料が昇華されることで、染料が樹脂体に転写される。次いで、レーザ光が樹脂体に対して走査されることで、樹脂体が加熱されて染料が定着する。気相転写法によって昇華性の染料を樹脂体に転写し、樹脂体を染色する方法を、気相転写染色法という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
気相転写染色法では、染色する予定色を樹脂体に染色するために、予定色に対応する吐出量で染料が印刷装置によって基体に印刷される必要がある。ここで、予定色に対応する吐出量で染料を印刷するように印刷装置が制御されたとしても、印刷装置の個体差、使用による印刷装置の状態の変化、染色システムの設置環境(例えば気温等)、樹脂体を加熱する加熱手段の個体差等に応じて、染色された樹脂体の色が予定色とならない場合もある。従来の方法では、作業者は、染色された樹脂体の色を確認し、以後の染色工程において予定色が染色されるように、印刷装置による染料の吐出量を自ら調整する必要があった。従って、作業者の作業工程を抑制することは困難であった。
【0006】
本開示の典型的な目的は、予定されている色を適切に樹脂体に染色することが可能な染色システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示における典型的な実施形態が提供する染色システムは、樹脂体を染色する染色システムであって、基体に染料を印刷する印刷装置と、前記染料が印刷された前記基体に前記樹脂体を対向させた状態で、前記染料を樹脂体に転写する転写装置と、前記染料が転写された前記樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させる染料定着装置と、前記染料が定着された前記樹脂体の色情報を計測する色情報計測器と、制御部と、を備え、前記制御部は、染色する予定色を前記樹脂体に染色するための、前記印刷装置による前記基体への染料の吐出量を決定する吐出量決定ステップと、前記吐出量決定ステップにおいて決定された吐出量の染料が使用されることで、前記印刷装置、前記転写装置、および前記染料定着装置によって実際に染色された樹脂体について、前記色情報計測器によって計測された色情報である結果色情報を取得する結果色情報取得ステップと、前記結果色情報取得ステップにおいて取得された前記結果色情報と、前記予定色とに基づいて、前記吐出量決定ステップにおいて決定される染料の吐出量を補正することで、以後の染色工程において染色される樹脂体の色を予定色に近づける補正ステップと、を実行する。
【0008】
本開示に係る染色用トレイによると、予定されている色が適切に樹脂体に染色される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】染色システム1のシステム構成を示すブロック図である。
【
図2】2つのレンズLが設置され、且つ基体Sが設置されていない状態の染色用トレイ80を右斜め上方から見た斜視図である。
【
図3】
図2における2つの装着部82のうちの一方に装着される載置枠89、レンズL、およびスペーサ87を分解して示す、染色用トレイ80の斜視図である。
【
図4】自動染色装置3を右斜め上方から見た斜視図である。
【
図5】転写・定着ユニット4を右斜め上方から見た斜視図である。
【
図6】搬送装置10を右斜め上方から見た斜視図である。
【
図7】第1引き渡し部110を右斜め上方から見た斜視図である。
【
図8】転写装置40を右斜め上方から見た斜視図である。
【
図9】転写装置40の縦断面を後方から見た断面図である。
【
図10】閉塞室セット部430を右斜め上方から見た斜視図である。
【
図11】基体保持装置90を右斜め上方から見た斜視図である。
【
図12】染料定着装置50を正面から見た部分断面図である。
【
図13】コントローラ71が実行する第1染色制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図14】コントローラ71が実行する第2染色制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図15】コントローラ71が実行する第3染色制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図16】コントローラ71が実行する吐出量メンテナンス処理の一例を示すフローチャートである。
【
図17】コントローラ71が実行する染色品質判定処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<概要>
(第1態様)
本開示で例示する染色システムは、搬送装置、読取部、染料定着装置、および制御部を備える。搬送装置は、樹脂体を含む搬送ユニットを連続して搬送する。搬送ユニットは、搬送装置によって搬送される単位である。読取部は、搬送ユニットに関する情報を読み取る。染料定着装置は、搬送装置によって搬送された搬送ユニットの樹脂体を加熱することで、樹脂体の表面に付着された染料を樹脂体に定着させる。制御部は、パラメータ取得ステップと定着制御ステップを実行する。パラメータ取得ステップでは、制御部は、読取部によって読み取られた情報に基づいて、情報を読み取った搬送ユニットに含まれる樹脂体に対して実行する処置のパラメータを取得する。定着制御ステップでは、制御部は、情報を読み取った搬送ユニットの樹脂体を染料定着装置によって加熱する際に、取得したパラメータに従って染料定着装置の駆動を制御する。
【0011】
本開示で例示する染色システムによると、読取部によって読み取られた搬送ユニットに関する情報に基づいて、樹脂体に対して実行する処置のパラメータが搬送ユニット毎に取得される。取得されたパラメータに従って、各々の樹脂体に応じた適切な方法で樹脂体が加熱され、染料が定着する。従って、樹脂体が自動的且つ適切に染色される。
【0012】
搬送装置は、複数の搬送ユニットを連続して搬送してもよい。読取部は、各々の搬送ユニット毎に、搬送ユニットに関する情報を読み取ってもよい。染料定着装置は、搬送装置によって搬送される搬送ユニット毎に、搬送ユニットに含まれる樹脂体を加熱することで、樹脂体の表面に付着された染料を樹脂体に定着させてもよい。この場合、複数の樹脂体の各々が連続して自動的に染色される。一方で、複数の搬送ユニットを連続して搬送しつつ、各々の搬送ユニットに含まれる樹脂体を染色する場合には、搬送ユニットの搬送順が入れ替えられる場合や、一部の搬送ユニットが搬送の途中で搬送装置から取り外される場合等もある。その結果、予定していた態様と異なる態様で樹脂体が染色されてしまう可能性がある。しかし、本開示の染色システムでは、搬送ユニットの搬送順が入れ替えられた場合等でも、読取部によって読み取られた搬送ユニットに関する情報に基づいて、各々の樹脂体に応じた方法で樹脂体が染色される。よって、複数の樹脂体が、各々の樹脂体に応じて適切に染色される。
【0013】
染料定着装置は、電磁波を発生させる電磁波発生部を備えていてもよい。染料定着装置は、電磁波を樹脂体に照射することで、樹脂体を加熱してもよい。この場合、染色システムは、樹脂体に応じて電磁波による樹脂体の加熱を適切に制御することができる。よって、樹脂体が自動的且つ適切に染色される。
【0014】
なお、染料定着装置が樹脂体に電磁波を照射するための具体的な方法は適宜選択できる。例えば、染料定着装置の電磁波発生部は、レーザ光を出射するレーザ光源であってもよい。染料定着装置は、レーザ光源から出射されたレーザ光を樹脂体上で走査する走査部を備えていてもよい。制御部は、情報を読み取った搬送ユニットの樹脂体を染料定着装置によって加熱する際に、取得したパラメータに従って、染料定着装置の走査部の駆動を制御してもよい。この場合、複数の樹脂体の各々に応じてレーザ光が走査されるので、適切に染料が樹脂体に定着する。また、染料定着装置は、電磁波発生部から樹脂体に照射される電磁波の強度分布を調整する分布調整部を備えてもよい。分布調整部は、例えば、電磁波の一部を通過させる開口部を備えており、電磁波発生部と樹脂体の間に設置されてもよい。制御部は、例えば、取得したパラメータに従って、分布調整部の位置および開口部の形状等の少なくともいずれかを変更してもよい。この場合でも、樹脂体に応じて適切に電磁波が照射される。
【0015】
レーザ光源または分布調整部等を用いる場合には、他の方法を用いる場合(例えば、樹脂体の周囲の気体または液体の温度を上昇させることで樹脂体を加熱する場合等)に比べて、染料を定着させるために必要な時間を短縮させ易い。一方で、電磁波を樹脂体に照射すると、樹脂体の表面の温度が急激に上昇するので、樹脂体の部位(例えば、中央部と周辺部の違い等)に応じて温度差が生じる場合がある。部位による温度差が生じると、染色品質が低下する場合がある。温度差の生じ方は、樹脂体の形状等によって異なる。また、樹脂体の材質に応じて電磁波の照射方法を変更することが望ましい場合もある。これに対し、本開示の染色システムは、各々の樹脂体に応じて、電磁波による樹脂体の加熱を適切に制御することができる。よって、樹脂体が自動的且つ適切に染色される。
【0016】
読取部は、発送ユニット毎に設けられた識別子を読み取る識別子読取部を含んでいてもよい。制御部は、パラメータ取得ステップにおいて、搬送ユニット毎にパラメータを記憶するデータベースから、識別子読取部によって読み取られた識別子に対応する搬送ユニットのパラメータを取得してもよい。この場合、例えば複数の搬送ユニットの順番が変わる場合等でも、各々の搬送ユニットのパラメータが制御部によって適切に把握される。
【0017】
制御部は、樹脂体に対して実行する処置内容を示す処置情報に基づいて、処置内容を示すパラメータを、樹脂体が含まれる搬送ユニットの識別子に対応付けてデータベースに記憶させる対応付けステップを実行してもよい。この場合、搬送ユニット毎(つまり、樹脂体毎)に、識別子とパラメータが適切に対応付けられた状態でデータベースに記憶される。従って、識別子が読み取られることで、樹脂体毎に適切な処置が実行される。
【0018】
染色システムは、印刷装置および転写装置をさらに備えていてもよい。印刷装置は、シート状の基体に染料を印刷する。転写装置は、搬送装置によって搬送された搬送ユニットの樹脂体を、染料が印刷された基体に対向させた状態で、染料を樹脂体に転写する。制御部は、印刷装置を制御することで、搬送ユニットに対応する識別子を染料と共に基体に印刷させる識別子印刷制御ステップをさらに実行してもよい。この場合、樹脂体が設置される設置部(例えばトレイ)等に識別子が設けられていない場合でも、パラメータが搬送ユニット毎に適切に取得される。また、染色工程の実行後であっても、樹脂体と共に搬送された基体の識別子が読み取られることで、染色工程の予定と結果(例えば、染色工程が予定通り行われたか否か等)が容易に確認される。
【0019】
なお、制御部は、識別子と共に、搬送ユニットに含まれる樹脂体に対して実行する処置内容を示す文字および記号等の少なくともいずれかを基体に印刷させてもよい。この場合、作業者は、読取部に識別子を読み取らせなくても、樹脂体に対して実行する(または実行された)処置内容を容易に確認することができる。
【0020】
搬送ユニットは、樹脂体が設置される設置部(例えば、樹脂体が載置されるトレイ等)を含んでいてもよい。識別子は設置部に設けられていてもよい。この場合、樹脂体が設置される設置部の識別子が読取部によって読み取られることで、樹脂体に対して実行する処置のパラメータが適切に取得される。
【0021】
ただし、識別子を設ける部材を変更することも可能である。例えば、樹脂体自体に識別子が設けられていてもよい。この場合、樹脂体のパラメータが取得される際に、ある樹脂体のパラメータと、他の樹脂体のパラメータが取り違えられる可能性がさらに低下する。
【0022】
読取部は、搬送ユニットに設けられた書き込み可能なタグから情報を読み取るタグ読取部を含んでいてもよい。制御部は、パラメータ取得ステップにおいて、タグ読取部によって読み取られた情報に含まれるパラメータを取得してもよい。この場合、処置内容を示すパラメータを予めタグに記憶させておく事で、例えば複数の搬送ユニットの順番が変わる場合等でも、各々の搬送ユニットのパラメータが制御部によって適切に把握される。
【0023】
読取部は、レンズである樹脂体の光学特性を測定する光学特性測定装置を含んでいてもよい。制御部は、パラメータ取得ステップにおいて、光学特性測定装置によって測定されたレンズの光学特性に基づいて、染料定着装置の駆動を制御するパラメータを取得してもよい。樹脂体がレンズである場合、レンズの形状に応じて光学特性が変化する。レンズの形状が異なると、染料定着装置によってレンズを加熱する際の、レンズの部位による温度差の生じ方が異なる。従って、染色システムは、光学特性測定装置によって測定されたレンズの光学特定に基づいて、レンズの形状に応じたパラメータを取得することで、各々のレンズに応じた適切な方法でレンズを加熱することができる。また、レンズの材質に応じて光学特性が変化する。レンズの材質に応じて、染料定着装置によるレンズの加熱方法を変更することが望ましい場合もある。従って、染色システムは、光学特性測定装置によって測定された光学特性に基づいて、レンズの材質に応じたパラメータを取得することで、各々のレンズに応じた適切な方法でレンズを加熱することができる。
【0024】
また、制御部は、光学特性測定装置によって実際に測定されたレンズの光学特性が、識別子またはタグ等が読み取られることで取得されたパラメータに含まれる光学特性と異なる場合には、作業者に対する警告処理、および、染色工程を中断する処理の少なくともいずれかを実行してもよい。この場合、より適切にレンズが染色される。
【0025】
染色システムは、樹脂体を染色する染色工程のうち、染料定着装置によって実行される染料定着工程以外の工程を実行する少なくとも1つの染色工程実行装置をさらに備えていてもよい。搬送装置は、搬送ユニットを染料定着装置および染色工程実行装置の各々に搬送してもよい。制御部は、情報を読み取った搬送ユニットの樹脂体に対する染色工程を、染色工程実行装置に実行させる際に、取得したパラメータに従って染色工程実行装置の駆動を制御してもよい。つまり、制御部は、各々の樹脂体に対して実行される複数の染色工程を、読取部によって読み取られた情報に基づいて制御してもよい。この場合、複数の染色工程が、各々の樹脂体に応じて適切に実行される。よって、より適切に各々の樹脂体が染色される。
【0026】
なお、染色工程のうち、染料定着工程以外の工程は、シート上の基体に染料を付着させる染料付着工程、および、基体に付着した染料を樹脂体に転写する転写工程の少なくともいずれかを含んでいてもよい。この場合、染色システムは、一連の染色工程をより円滑に実行することができる。
【0027】
制御部は、情報を読み取った搬送ユニットに使用する基体への染料の印刷を、染色工程実行装置の1つである印刷装置に実行させる際に、取得したパラメータに従って印刷装置の駆動を制御する印刷制御ステップをさらに実行してもよい。この場合、樹脂体を染色するための染料付基体が、各々の樹脂体に応じて適切に印刷される。
【0028】
染色システムは、染色工程実行装置の1つである回転装置をさらに備えていてもよい。回転装置は、搬送装置によって搬送される搬送ユニット毎に樹脂体を回転させることで、染料付基体に対する樹脂体の方向を規定する。制御部は、情報を読み取った搬送ユニットの樹脂体を回転装置によって回転させる際に、取得したパラメータに従って回転装置の駆動を制御する回転制御ステップをさらに実行してもよい。例えば、円柱レンズおよび累進レンズ等にグラデーションの染色を行う場合等には、染料付基体に対するレンズの向き(方向)を回転装置によって適切に規定する必要がある。染色システムは、パラメータに応じて回転装置の駆動を制御することで、染料付基体に対する樹脂体の方向を搬送ユニット毎に適切に規定することができる。
【0029】
染色システムは、コーティング装置をさらに備えていてもよい。コーティング装置は、搬送装置によって搬送される搬送ユニット毎に、染料定着装置によって染料が定着された樹脂体の表面にコーティングを行う。制御部は、情報を読み取った搬送ユニットの樹脂体にコーティングを行う際に、取得したパラメータに従ってコーティング装置の駆動を制御するコーティング制御ステップをさらに実行してもよい。この場合、樹脂体に対するコーティングが、各々の樹脂体に応じて適切に実行される。
【0030】
搬送装置は、搬送ユニットを印刷装置から転写装置に搬送してもよい。この場合、印刷装置において染料が印刷された基体が搬送ユニットに設置されることで、基体が搬送ユニットと共に転写装置に搬送される。従って、基体を搬送する工程が簡略化される。
【0031】
(第2態様)
本開示で例示する染料定着装置は、レーザ光照射部、レーザ光遮断部、流入口、排出口、および圧力差発生部を備える。レーザ光照射部は、レーザ光を出射するレーザ光源を備え、対物レンズを介して樹脂体にレーザ光を照射する。レーザ光遮断部は、レーザ光照射部の対物レンズから樹脂体に伸びるレーザ光の光路の周囲の少なくとも一部を覆うことで、高路外へのレーザ光の漏洩を遮断する筒状の部材である。流入口は、レーザ光遮断部に形成され、レーザ光遮断部の外部から内部へ気体を流入させる。排出口は、レーザ光遮断部に形成され、レーザ光遮断部の内部から外部へ気体を排出する。圧力差発生部は、流入口から排出口へ気体を流すための圧力差を発生させる。
【0032】
本開示で例示する染料定着装置によると、流入口から排出口へ向けて気体が流れる。つまり、レーザ光遮断部の内部を気体が流れる。従って、樹脂体の表面の染料が加熱されてガス化しても、染料は、レーザ光照射部の対物レンズに付着し難くなる。よって、レーザ光照射部の対物レンズに染料が付着することで生じる種々の影響が適切に抑制される。
【0033】
なお、排出口は、レーザ光遮断部のうち、レーザ光照射部の対物レンズよりもレーザ光の光路の下流側に形成されていてもよい。この場合、流入口から排出口に流れる気体にガス化した染料が含まれている場合でも、気体は対物レンズに到達し難い。よって、排出口が対物レンズよりもレーザ光の光路の上流側に形成されている場合に比べて、ガス化した染料が対物レンズに付着する可能性がさらに低下する。
【0034】
また、レーザ光の光路が延びる方向は適宜規定できる。例えば、レーザ光源が上方から下方へ向けてレーザ光を出射する場合には、レーザ光の光路の下流側は下側、光路の上流側は上側となる。また、レーザ光源が左方へレーザ光を出射する場合には、レーザ光の光路の下流側は左側、上流側は右側となる。
【0035】
また、本開示で例示する流入口および排出口は、レーザ光遮断部の壁面に形成された孔である。しかし、流入口および排出口の構成を変更することも可能である。例えば、流入口および排出口の少なくともいずれかは、レーザ光遮断部と他の部材(例えば、レーザ光照射部または樹脂体等)との間に形成される隙間であってもよい。
【0036】
排出口は、レーザ光遮断部のうち、流入口よりもレーザ光の光路の下流側に形成されていてもよい。この場合、レーザ光遮断部の内側では、レーザ光の光路の上流側から下流側へ気体が流れる。従って、ガス化した染料がレーザ光照射部の対物レンズに付着する可能性がさらに低下する。
【0037】
排出口は、レーザ光遮断部のうち、樹脂体が設置される位置よりもレーザ光の光路の上流側に設けられていてもよい。レーザ光遮断部のうち、樹脂体が設置される位置、または、樹脂体が設置される位置よりも光路の下流側に排出口が設置されている場合には、流入口から流入した気体は樹脂体を通過する。気体が樹脂体を通過すると、加熱対象の樹脂体が気体によって冷却されるので、加熱効率が悪化する。これに対し、排出口を樹脂体の位置よりも光路の上流側に設けた場合には、流入口から流入した気体は樹脂体まで到達し難くなる。よって、染料定着装置は、気体によって樹脂体が冷却されることを抑制しつつ、ガス化した染料が対物レンズに付着することを適切に抑制することができる。
【0038】
ただし、流入口および排出口の位置を変更することも可能である。例えば、レーザ光遮断部のうち、レーザ光照射部の対物レンズと樹脂体が設置される位置の間に、流入口と排出口が光路を挟んで対向するように形成されていてもよい。この場合、レーザ光の光路を横切るように気体が通過する。従って、ガス化した染料が樹脂体から対物レンズに向けて移動しても、ガス化した染料は、対物レンズに到達する前に排出口へ流れやすくなる。また、レーザ光遮断部のうち、樹脂体が設置される位置、または、樹脂体が設置される位置よりも光路の下流側に排出口が設けられていてもよい。この場合でも、ガス化した染料は対物レンズに付着し難くなる。
【0039】
染料定着装置は、サーモカメラを備えていてもよい。サーモカメラは、レーザ光遮断部の内部に設けられ、樹脂体の熱分布を検出する。この場合、染料定着装置は、サーモカメラによる熱分布の検出結果に基づいて、より適切に樹脂体の加熱制御を実行することができる。
【0040】
染料定着装置は、レーザ光源から出射されたレーザ光を樹脂体に対して相対的に走査させる走査部をさらに備えていてもよい。染料定着装置の制御部は、サーモカメラによって検出された樹脂体の熱分布に基づいて、走査部の駆動を制御してもよい。この場合、実際の樹脂体の熱分布に基づいて、より適切にレーザ光による樹脂体の加熱処理が行われる。
【0041】
なお、走査部の具体的な構成は適宜選択できる。例えば、走査部は、レーザ光の進行方向を偏向するスキャナ(例えば、ガルバノミラー、ポリゴンミラー、音響光学素子等の少なくともいずれか)であってもよい。この場合、走査部は、レーザ光照射部に設けられていてもよい。また、走査部は、レーザ光に対して樹脂体の位置を移動させる移動部であってもよい。スキャナと移動部が共に用いられてもよい。
【0042】
排出口は、レーザ光遮断部のうち、サーモカメラに電磁波を入射させる電磁波入射部よりもレーザ光の光路の下流側に形成されていてもよい。この場合、レーザ光によって加熱されてガス化した染料は、レーザ光照射部の対物レンズに加えて、サーモカメラの電磁波入射部にも付着し難くなる。従って、電磁波入射部に染料が付着してサーモカメラの性能が低下することが、適切に抑制される。
【0043】
なお、電磁波入射部は、例えば、樹脂体から発生する電磁波(赤外線等)をサーモカメラの検出素子に結像させる結像レンズ(例えばゲルマニウムレンズ等)であってもよい。また、サーモカメラには、レーザ光照射部によって照射されるレーザ光の波長の光を遮断するフィルタが設けられていてもよい。この場合、電磁波入射部は、結像レンズとフィルタによって構成されていてもよい。
【0044】
圧力差発生部は、流入送風機および排出送風機の少なくともいずれかを備えていてもよい。流入送風機は、流入口からレーザ光遮断部の内部に気体を送風する。排出送風機は、排出口からレーザ光遮断部の外部に気体を送風する。染料定着装置は、流入送風機および排出送風機の少なくともいずれかを備えることで、流入口から排出口へ気体を流すための圧力差を、簡易な構成で適切に発生させることができる。
【0045】
染料定着装置は、圧力差発生部が正常に駆動しているか否かを検出する駆動検出部をさらに備えていてもよい。染料定着装置の制御部は、圧力差発生部が正常に駆動していない旨が駆動検出部によって検出された場合に、作業者への警告処理、および、レーザ光照射部による樹脂体の加熱動作を禁止する処理の少なくともいずれかを実行してもよい。この場合、圧力差発生部の故障等によってレーザ光照射部の対物レンズに染料が付着することが、適切に抑制される。
【0046】
(第3態様)
本開示で例示する染料定着装置は、レーザ光照射部、レーザ光遮断部、および輻射熱反射部を備える。レーザ光照射部は、樹脂体にレーザ光を照射する。レーザ光遮断部は、レーザ光照射部から樹脂体に伸びるレーザ光の光路の周囲の少なくとも一部を覆うことで、光路外へのレーザ光の漏洩を遮断する筒状の部材である。輻射熱反射部は、レーザ光遮断部のうち少なくとも、樹脂体の周囲を覆う樹脂体周辺部の内周面に設けられており、樹脂体からの輻射熱を反射する。
【0047】
本開示で例示する染料定着装置によると、光路外へのレーザ光の漏洩が、レーザ光遮断部によって遮断される。さらに、レーザ光遮断部のうち、樹脂体の周囲を覆う樹脂体周辺部の内周面に、輻射熱反射部が設けられている。従って、レーザ光によって加熱された樹脂体から放出される輻射熱の少なくとも一部が、輻射熱反射部によって樹脂体に向けて反射される。その結果、樹脂体(特に外周部)の熱が周囲に拡散し難くなるので、樹脂体の温度がレーザ光によって適切に上昇し易くなる。よって、染料が適切に樹脂体に定着し易くなる。
【0048】
輻射熱反射部は、筒状である樹脂体周辺部の全周に設けられていてもよい。この場合、樹脂体から放出される輻射熱が、より効率よく輻射熱反射部によって樹脂体に反射され易くなる。よって、より適切に樹脂体がレーザ光によって加熱される。
【0049】
ただし、輻射熱反射部は、樹脂体周辺部の周方向の一部に(例えば間欠的に)設けられていてもよい。この場合でも、輻射熱反射部が設けられていない場合に比べて、樹脂体は適切に加熱される。
【0050】
レーザ光遮断部のうち、樹脂体周辺部とは異なる部位の少なくとも一部が、レーザ光照射部から照射されるレーザ光を遮断し且つ可視光を透過させる光透過性部材によって形成されていてもよい。この場合、作業者は、光透過性部材を通じて、レーザ光遮断部に覆われた樹脂体の状態を見ることができる。よって、より適切に作業が行われる。
【0051】
なお、筒状であるレーザ光遮断部の本体の全体が、光透過性部材によって形成されていてもよい。光透過性部材によって形成されたレーザ光遮断部の本体に、輻射熱反射部が装着されることで、レーザ光遮断部が形成されていてもよい。この場合、作業者は、輻射熱反射部以外の種々の部位から樹脂体を見ることができる。
【0052】
ただし、レーザ光遮断部の構成を変更することも可能である。例えば、レーザ光遮断部の本体の全体が、輻射熱反射部によって形成されていてもよい。
【0053】
輻射熱反射部は、アルミニウムまたはステンレスを含む金属によって形成されていてもよい。アルミニウムおよびステンレスは、輻射熱(電磁波)を反射し易い。従って、樹脂体の温度がさらに上昇し易くなる。
【0054】
ただし、輻射熱反射部は、アルミニウムおよびステンレス以外の金属によって形成されていてもよい。また、金属以外の材質によって輻射熱反射部が形成されていてもよい。
【0055】
(第4態様)
本開示で例示する染色システムは、印刷装置、転写装置、染料定着装置、色情報計測器、および制御部を備える。印刷装置は、基体に染料を印刷する。転写装置は、染料が印刷された基体(染料付基体)に樹脂体を対向させた状態で、染料を樹脂体に転写する。染料定着装置は、染料が転写された樹脂体を加熱することで、樹脂体に染料を定着させる。色情報計測器は、染料が定着された樹脂体(つまり、染色された樹脂体)の色情報を計測する。制御部は、吐出量決定ステップ、結果色情報取得ステップ、および補正ステップを実行する。吐出量決定ステップでは、制御部は、染色する予定の色(予定色)を樹脂体に染色するための、印刷装置による基体への染料の吐出量を決定する。結果色情報取得ステップでは、制御部は、吐出量決定ステップにおいて決定された吐出量の染料が使用されることで、印刷装置、転写装置、および染料定着装置によって実際に染色された樹脂体について、色情報計測器によって計測された色情報である結果色情報を取得する。補正ステップでは、制御部は、結果色情報と予定色に基づいて、吐出量決定ステップにいて決定される染料の吐出量を補正することで、以後の染色工程において染色される樹脂体の色を予定色に近づける。
【0056】
本開示の染色システムによると、染色する予定の予定色と、実際に染色された樹脂体の色(結果色)に応じて、以後に吐出量決定ステップにおいて決定される染料の吐出量(つまり、予定色を樹脂体に染色するための染料の吐出量)が補正される。その結果、以後の染色工程において、予定色を染色するために基体に印刷される染料の吐出量が補正されるので、実際に染色される樹脂体の色が、適切に予定色に近づく。よって、予定されている色が適切に樹脂体に染色される。
【0057】
吐出量決定ステップにおいて決定される染料の吐出量を補正するための具体的な方法は、適宜選択できる。例えば、制御部は、結果色情報と予定色の色情報の比較処理の結果に応じて、染料の吐出量を補正してもよい。比較処理は、例えば、結果色情報と予定色の色情報との差を取得する処理であってもよいし、結果色情報と予定色の色情報との比率を取得する処理であってもよい。
【0058】
例えば、制御部は、吐出量決定ステップにおいて染料の吐出量を決定するための決定手順を補正することで、以後に吐出量決定ステップにおいて決定される染料の吐出量を補正してもよい。染料の吐出量を決定するための決定手順(つまり、染料の吐出量を決定するアルゴリズム)には、種々の手順を採用できる。例えば、樹脂体を染色する各々の色と、各染料の吐出量とを対応付けるテーブルが、記憶装置に記憶されていてもよい。制御部は、予定色に対応する各染料の吐出量を、テーブルから取得することで、吐出量を決定してもよい。この場合、補正ステップでは、テーブルの情報を補正することで、決定手順を補正してもよい。また、色が異なる複数の染料(例えば、赤(Red)、黄(Yellow)、および青(Blue))の各々を予定の濃度で樹脂体に染色するための、各染料の吐出量の情報(ベース色情報)が、記憶装置に記憶されていてもよい。制御部は、ベース色情報に基づいて、予定色を染色するための各染料の吐出量を演算することで、吐出量を決定してもよい。この場合、補正ステップでは、ベース色情報を補正することで、決定手順を補正してもよい。
【0059】
また、本開示では、染料を樹脂体に転写する転写方式として、真空中で樹脂体と染料付基体を非接触で対向させた状態で、基体に印刷された昇華性の染料を昇華させることで、染料を樹脂体に転写する気相転写方式を例示する。しかし、転写方式を変更することも可能である。例えば、染料付基体を樹脂体に接触させた状態で、染料が樹脂体に転写されてもよい。
【0060】
制御部は、吐出量決定ステップにおいて、印刷装置が吐出可能な複数の染料のうち、1つの特定の染料によって染色される、予定の濃度の色を予定色として、特定の染料の吐出量を決定してもよい。制御部は、補正ステップにおいて、結果色情報が示す濃度と、予定色の濃度に基づいて、以後の吐出量決定ステップにおいて決定される特定の染料の吐出量を補正してもよい。この場合、特定の染料について、予定する濃度で適切に樹脂体が染色されるように、染料の吐出量が補正される。よって、特定の染料で染色される色が、予定する濃度で適切に樹脂体に染色される。
【0061】
制御部は、印刷装置が吐出可能な複数の染料の各々を特定の染料として、吐出量決定ステップ、結果色情報取得ステップ、および補正ステップを繰り返し実行してもよい。この場合、複数の染料の各々について、予定する濃度で適切に樹脂体が染色されるように、吐出量が補正される。よって、複数の染料の組み合わせによって表現される多数の色が、適切に樹脂体に染色される。
【0062】
制御部は、吐出量決定ステップにおいて、印刷装置が吐出可能な複数の染料のうち複数の染料によって染色される、予定の濃度の色を予定色として、複数の染料の吐出量を決定してもよい。制御部は、補正ステップにおいて、結果色情報と予定色に基づいて、複数の染料の少なくともいずれかの吐出量を補正してもよい。この場合、複数の染料の吐出量を、まとめて補正することも可能である。
【0063】
色情報計測器は、樹脂体の分光スペクトルを色情報として計測する分光計測器であってもよい。この場合には、RGBカメラ等を色情報計測器として使用する場合に比べて、照明環境等の影響が抑制された色情報が取得される。よって、染色品質がさらに向上する。また、複数の染料が用いられて樹脂体が染色された場合でも、波長毎の強度の分布である分光スペクトルが取得されるので、複数の染料の各々の吐出量が適切に補正される。
【0064】
分光スペクトルに基づいて染料の吐出量を補正するための具体的な方法も、適宜選択できる。例えば、制御部は、染色された樹脂体の分光透過率を結果色情報として取得し、各染料の最大吸収ピークの透過率と、予定色の透過率とに基づいて、染料の吐出量を補正してもよい。つまり、制御部は、特定の染料で染色される色の透過率が予定よりも高ければ、特定の染料の吐出量を補正前よりも増加させると共に、透過率が予定よりも低ければ、特定の染料の吐出量を補正前よりも減少させてもよい。複数の染料を用いて樹脂体を染色した場合には、制御部は、個々の染料の最大吸収ピークの透過率に基づいて、各染料毎に吐出量を補正してもよい。
【0065】
ただし、分光計測器以外の計測器(例えばRGBカメラ等)が、色情報計測器として使用されてもよい。また、一般的なカメラとRGBフィルタが組み合わされることで、樹脂体の分光特性が色情報として推定されてもよい。
【0066】
制御部は、結果色情報取得ステップにおいて取得された結果色情報と、予定色との差が許容範囲を超えている場合に、樹脂体の染色の品質が不良であることをユーザに通知する通知ステップをさらに実行してもよい。この場合、ユーザは、樹脂体の染色が適切に行われなかった旨を容易に把握することができる。
【0067】
制御部は、結果色情報取得ステップにおいて取得された結果色情報と、予定色との差が閾値を超えている場合に、補正ステップを実行してもよい。この場合、染色の品質が良好でなければ、染料の吐出量が補正されて、その後の染色の品質が向上する。よって、より適切に樹脂体が染色される。
【0068】
制御部は、樹脂体の染色工程を実行する毎に補正ステップを繰り返すフィードバック制御を実行してもよい。この場合、樹脂体が実際に染色される毎に、染料の吐出量が適切に補正されるので、より適切に樹脂体が染色される。
【0069】
ただし、補正ステップを実行するタイミングは適宜選択できる。例えば、染色システムをメーカーから出荷する出荷時、染色システムの最初の稼働時、または、染色システムのメンテナンス時等に、補正ステップが実行されてもよい。また、補正ステップを実行させる指示がユーザによって入力された際に、制御部は補正ステップを実行してもよい。また、結果色情報と予定色との差が閾値を超えた回数が所定回数となった際に、制御部は補正ステップを実行してもよい。
【0070】
色情報計測器は、種類が互いに異なる複数の光源(例えば、規格で定められた標準光源(一例として、CIE標準光源D65等)、白色光源、および、太陽光に近似する光を出射する光源等の2つ以上)を備えていてもよい。この場合、ユーザが所望する光源によって、染色された樹脂体の色情報が適宜取得される。
【0071】
染色される樹脂体は、眼鏡に使用されるレンズであってもよい。制御部は、補正ステップにおいて、染色されるレンズの基材の種類毎に、以後に決定される染料の吐出量を補正してもよい。染料の吐出量が同一である場合でも、レンズの基材の種類に応じて、染色される色が異なる。従って、レンズの基材の種類毎に染料の吐出量が補正されることで、各々の基材を適切に染色するために必要な染料の吐出量が、基材に応じて決定される。
【0072】
なお、制御部は、染色される前のレンズの色情報を取得し、結果色情報から、染色される前のレンズの色情報を減算することで、染色された色についての色情報を取得してもよい。この場合、染色される前のレンズの色の影響が除外されるので、染料の吐出量と染色結果の関係が適切に把握される。
【0073】
(第5態様)
本開示で例示する染色用トレイには、気相転写染色法による染色工程において、染色される樹脂体が載置される。本開示で例示する染色用トレイは、トレイ本体と、樹脂体が載置される載置枠を備える。載置枠は、トレイ本体に対して着脱可能である。
【0074】
作業者は、本開示の染色用トレイを使用する場合、トレイ本体から載置枠を取り外し、取り外した載置枠を洗浄または破棄することができる。従って、作業者は、トレイ全体を洗浄または破棄する場合に比べて、染色工程を効率よく適切に実行することができる。
【0075】
トレイ本体には、載置枠が着脱可能に装着される装着部が設けられていてもよい。この場合、載置枠が適切な位置に装着され易くなるので、染色品質がさらに向上する。
【0076】
トレイ本体には基体載置部が形成されていてもよい。基体載置部は、トレイ本体のうち装着部よりも上方の外側に形成されてもよい。基体載置部には、昇華性染料が付着する基体が載置される。この場合、基体載置部に基体が載置された状態で昇華性染料が昇華されることで、染料が適切に樹脂体に転写される。
【0077】
基体載置部は、トレイ本体のうち装着部よりも上方の外側に形成されてもよい。この場合、基体載置部に基体が載置されることで、載置枠に載置された樹脂体に基体が適切に対向する。
【0078】
染色用トレイはスペーサをさらに備えていてもよい。スペーサは、基体載置部に載置された基体と、載置枠との間に空間を形成する。この場合、スペーサによって形成された空間を通じて、基体から樹脂体へ昇華性染料が適切に転写される。また、昇華された染料が外部に漏洩することが、スペーサによって適切に抑制される。
【0079】
スペーサは、載置枠のうち、樹脂体が載置される部位の外周部から上方に筒状に延びていてもよい。この場合、基体と載置枠の間に、スペーサによって適切に空間が形成される。
【0080】
なお、スペーサがトレイ本体に装着された際に、スペーサの上端部は基体載置部の載置面よりも上方に突出してもよい。この場合、基体とスペーサの上端部が密着し易くなるので、昇華された染料がさらに外部に漏洩し難くなる。
【0081】
スペーサは、載置枠とは別の部材であってもよい。つまり、スペーサと載置枠は一体でなく分離されていてもよい。スペーサは、載置枠と共にトレイ本体に着脱されてもよい。この場合、作業者は、スペーサを取り外した状態で、トレイ本体に設置された載置枠に樹脂体を載置することができる。スペーサが取り外されている場合には、載置枠とスペーサが共にトレイ本体に設置されている場合に比べて、載置枠の周囲の空間が広くなる。よって、作業者は容易に樹脂体を載置枠に載置することができる。また、載置枠とスペーサを別部材とする場合、載置枠の材質とスペーサの材質を異なる材質とし易い。よって、染色用トレイの製造者は、載置枠およびスペーサの各々の機能に応じた材質を適切に選択できる。
【0082】
ただし、載置枠とスペーサが一体となっていてもよい。この場合でも、昇華性染料は適切に樹脂体へ転写され、且つ、外部に漏洩し難い。
【0083】
トレイ本体は、位置決め部をさらに備えていてもよい。位置決め部は、基体載置部に載置される基体を樹脂体に対して位置決めする。この場合、樹脂体に対する基体の位置が、位置決め部によって正確に位置決めされる。また、基体の位置が樹脂体に対してずれてしまう可能性も低下する。よって、より容易に高い品質で染色が行われる。なお、位置決め部は、トレイ本体のうち、基体載置部よりも外側から上方に突出していてもよい。この場合、位置決め部の内側に基体が適切に位置決めされる。
【0084】
トレイ本体は、基体保護部をさらに備えていてもよい。基体保護部は、トレイ本体のうち、基体載置部において基体が載置される載置面よりも、基体の厚み以上に上方の位置まで延びる。この場合、基体が載置された状態の染色用トレイ上に何らかの物体(例えば、他の染色用トレイ等)が積み重ねられた場合でも、積み重ねられた物体は基体でなく基体保護部に接触し易いので、基体の損傷等が生じにくい。よって、染色品質が低下することが適切に抑制される。なお、基体載置部の載置面からの基体保護部の高さは、基体の厚みよりも大きい方がより望ましい。この場合、基体がより適切に保護される。
【0085】
位置決め部の少なくとも一部と、基体保護部の少なくとも一部が兼用されてもよい。この場合、基体を位置決めする機能と、基体を保護する機能を共に有する染色用トレイの構造が、容易に簡素化される。
【0086】
トレイ本体は、底部勘合部および上部勘合部をさらに備えていてもよい。底部勘合部は、トレイ本体部の底部に形成された凹部である。上部勘合部は、トレイ本体の上部に形成された突部であり、他のトレイ本体が上部に積み重ねられた際に、積み重ねられたトレイ本体の底部勘合部に勘合する。この場合、複数の染色用トレイが、安定した状態で上下に積み重ねられる。
【0087】
位置決め部の少なくとも一部と、上部勘合部の少なくとも一部が兼用されてもよい。また、基体保護部の少なくとも一部と、上部勘合部の少なくとも一部が兼用されてもよい。この場合、染色用トレイの構造が容易に簡素化される。
【0088】
基体載置部の載置面からの上部勘合部の高さは、底部勘合部の深さと基体の厚みの和以上であってもよい。この場合、複数の染色用トレイが上下に積み重ねられても、基体は上部に積み重ねられた染色用トレイに接触し難いので、基体の損傷等が生じにくい。よって、染色品質が低下することが適切に抑制される。なお、基体載置部の載置面からの基体保護部の高さは、底部勘合部の深さと基体の厚みの和よりも大きい方がより望ましい。この場合、基体がより適切に保護される。
【0089】
染色対象となる樹脂体は、眼鏡に使用されるレンズであってもよい。1つのトレイ本体には、載置枠が装着される装着部が2つ形成されていてもよい。この場合、1対(左右)の眼鏡レンズが、1つの染色用トレイに載置された状態で染色される。よって、作業者の作業効率がさらに向上する。
【0090】
染色されるレンズの径に応じて、複数種類の載置枠が設けられていてもよい。この場合、レンズの径に対応する載置枠が適宜選択されることで、径が異なる種々のレンズが、1つのトレイ本体を用いて適切に染色される。
【0091】
載置枠および装着部の各々に、光を上下方向に透過する光透過部が形成されていてもよい。この場合、染色用トレイにレンズが設置(載置)された状態のまま、レンズの色情報および光学特性の少なくともいずれかを測定することができる。よって、作業効率がさらに向上する。
【0092】
トレイ本体における装着部の周囲に、装着部から外側に向けて広がる凹部が形成されていてもよい。この場合、作業者は、凹部に指等を挿入することで、装着部に対する各種部材(例えば、載置枠および樹脂体等)の着脱を容易に行うことができる。
【0093】
装着部には、光センサによって出射された光を透過させるセンサ用透過部がさらに形成されていてもよい。この場合、樹脂体、載置枠、およびスペーサの少なくともいずれかがトレイ本体に設置されているか否かが、光センサによって適切に検出される。
【0094】
載置枠のうち、少なくとも樹脂体が接触する部位の材質の融点は、200℃以上であってもよい。気相転写染色法における定着工程では、樹脂体が高温となる。従って、載置枠の材質の融点を200℃以上とすることで、載置枠の変形等が適切に抑制される。また、載置枠のうち、少なくとも樹脂体が接触する部位の材質の熱伝導率は、0.5W/mK以下であってもよい。この場合、加熱された樹脂体から熱が外部へ伝導され難くなるので、樹脂体が適切に加熱され易くなる。載置枠の材質の融点を200℃以上とし、且つ、熱伝導率を0.5W/mK以下とすることで、載置枠の変形等が抑制されると共に、樹脂体が加熱され易くなる。
【0095】
前述した識別子またはタグは、トレイ本体に設けられていてもよい。トレイ本体は、載置枠等に比べて多くの回数使用することができる。従って、載置枠等に識別子またはタグが設けられている場合に比べて、識別子またはタグを部材に設置する頻度が低下する。
【0096】
なお、本開示では、樹脂体が載置されるトレイが、樹脂体が設置される設置部として使用される。しかし、設置部の構成を変更することも可能である。例えば、設置部は、樹脂体を側方から挟み込んで保持してもよい。
【0097】
<実施形態>
以下、本開示に係る典型的な実施形態の1つについて、図面を参照して説明する。染色システム1は、樹脂体を自動的に連続して染色する。本実施形態では、染色する対象とする樹脂体は、眼鏡に使用されるプラスチック製のレンズL(
図2等参照)である。しかし、本開示で例示する技術の少なくとも一部は、レンズL以外の樹脂体を染色する場合にも適用できる。例えば、ゴーグル、携帯電話のカバー、ライト用のカバー、アクセサリー、玩具、フィルム(例えば、厚みが400μm以下)、板材(例えば、厚みが400μm以上)等、種々の樹脂体を染色する場合に、本開示で例示する技術の少なくとも一部を適用することも可能である。染色される樹脂体には、樹脂体とは異なる部材(例えば、木材またはガラス等)に付加された樹脂体も含まれる。また、本実施形態の染色システム1は、複数の樹脂体を連続して搬送しながら染色する。しかし、樹脂体を1セットずつ搬送して染色する染色システムにも、本開示で例示する技術の少なくとも一部を採用できる。
【0098】
(システム構成)
図1を参照して、本実施形態の染色システム1のシステム構成について概略的に説明する。本実施形態の染色システム1は、搬送装置10、前準備ユニット20、印刷装置30、転写装置40、染料定着装置50、コーティング装置60、および制御装置70を備える。
【0099】
詳細は後述するが、本実施形態の転写装置40および染料定着装置50は、複数のレンズLに対する染料の転写および定着を自動的に連続して実行する自動染色装置3に含まれる。なお、自動染色装置3には、転写装置40および染料定着装置50以外の装置(例えば印刷装置30等)も組み込まれていてもよい。
【0100】
搬送装置10は、搬送ユニットU(
図4,5,6,8参照)を自動染色装置3等に搬送する。詳細には、本実施形態の搬送装置10は、複数の搬送ユニットUを、印刷装置30および自動染色装置3等に連続して搬送する。本実施形態の搬送装置10は、前準備ユニット20、印刷装置30、転写装置40、染料定着装置50、およびコーティング装置60の順に(つまり、
図1における左から右に)搬送ユニットUを搬送する。搬送ユニットUには、染色用トレイ80(
図2参照)と、染色用トレイ80に載置されたレンズLが含まれる。染色用トレイ80は、樹脂体であるレンズLが設置される設置部の一例である。さらに、搬送ユニットUには、表面に染料が付着されたシート状の基体(染料付基体)S(
図5,6,8参照)が含まれる場合もある。
【0101】
前準備ユニット20は、レンズLに対する染料の転写および定着を実際に実行する前の準備を行う。詳細には、本実施形態の前準備ユニット20は、光学特性測定装置21および回転装置22を備える。
【0102】
光学特性測定装置21は、レンズLの光学特性を測定する測定光学系を備える。光学特性測定装置21は、レンズLに測定光束を投光し、レンズLを経た測定光束を受光することで、レンズLの光学特性(例えば、球面度数、乱視度数、乱視軸角度、プリズム度数等)を読み取る。レンズLの乱視軸角度が測定されることで、レンズLの回転方向の角度が判別される。光学特性測定装置21には公知の構成を採用できるので、その詳細な説明は省略する(光学特性測定装置21の構成は、例えば特開2012-107910号公報等に記載されている)。
【0103】
回転装置22は、レンズLを支持する支持部と、支持部によって支持されたレンズLを回転させるアクチュエータ(例えばモータ等)を備える。回転装置22は、搬送装置10によって搬送される搬送ユニットU毎に、樹脂体の一種であるレンズLを回転させることで、レンズLの回転方向を規定する。本実施形態の回転装置22は、光学特性測定装置21によって測定されたレンズLの回転方向の角度に基づいて、レンズLを回転させることで、レンズLの回転方向を目標とする方向に規定する。詳細は後述するが、本実施形態の染色システム1は、グラデーション染色を実行する場合であり、且つ、レンズLが幾何中心軸を中心として対象な形状でない場合に、レンズLを回転させることで、基体Sに印刷される染料の角度に対してレンズLの角度を合わせる。
【0104】
なお、回転装置22によってレンズLを回転させるための具体的な方法を変更することも可能である。まず、レンズLの回転方向の角度を判別する方法は、レンズLの乱視軸角度を測定する方法に限定されない。例えば、前準備ユニット20は、レンズLの回転方向の角度を示す隠しマークを検出する隠しマーク検出部を備えていてもよい。この場合、回転装置22は、隠しマーク検出部によって検出された隠しマークに基づいて、レンズLの回転方向の角度を判別し、判別結果に基づいてレンズLを回転させてもよい。また、レンズLの角度の判別、およびレンズLの回転の少なくとも一方が、作業者によって行われてもよい。また、レンズLが幾何中心軸を中心として対象な形状である場合、レンズLを回転させる処置を省略できることは言うまでもない。
【0105】
印刷装置30は、シート状の基体S(
図5,6,8参照)に染料を印刷する。本実施形態では、基体Sには、適度な硬さの紙または金属性(本実施形態ではアルミニウム製)のフィルムが使用される。しかし、基体Sの材質には、ガラス板、耐熱性樹脂、セラミック等の他の材質を用いることも可能である。また、詳細は後述するが、本実施形態の染色システム1では、染料の凝集等を防ぎつつ染料を適切にレンズLに転写するために、真空(略真空を含む)の環境下で基体SとレンズLを離間させて対向させた状態で、基体Sの染料が加熱されることで、染料がレンズLの表面に転写(蒸着)される(本実施形態における染色方法を、気相転写染色方法という)。従って、印刷装置30には、昇華性染料を含有したインクを基体Sに印刷するインクジェットプリンタが使用される。また、印刷装置30は、昇華性染料を含有していない通常のインクを基体Sに印刷することも可能である。印刷装置30は、情報処理装置(本実施形態ではパーソナルコンピュータ(以下「PC」という)である制御装置70によって作成された印刷データに基づいて印刷を実行する。その結果、基体Sの適切な位置に適切な量の染料が付着する。グラデーションの染色を行うための染料付基体Sの作成も容易である。
【0106】
なお、印刷装置30の構成を変更することも可能である。例えば、印刷装置はレーザープリンタであってもよい。この場合、トナーに昇華性染料が含まれていてもよい。また、印刷装置30の代わりに、ディスペンサー(液体定量塗布装置)、ローラ等によって、基体Sに染料が付着されてもよい。
【0107】
転写装置40は、搬送装置10によって搬送される搬送ユニットU毎に、染料が印刷された基体SをレンズLに対向させた状態で、染料を基体SからレンズLに転写する。前述したように、本実施形態では、気相転写法によって基体SからレンズLに染料が転写される。ただし、染料をレンズLに転写する方法を変更することも可能である。例えば、基体SとレンズLを接触させた状態で、染料が基体SからレンズLに転写されてもよい。転写装置40の構成の詳細については後述する。
【0108】
染料定着装置50は、搬送装置10によって搬送される搬送ユニットU毎にレンズLを加熱することで、レンズLの表面に付着された染料を樹脂体に定着させる。本実施形態の染料定着装置50は、電磁波であるレーザ光をレンズLに照射することで、レンズLを加熱する。ただし、レーザ光以外の電磁波をレンズLに照射する装置(例えばオーブン等)が、染料定着装置として用いられてもよい。染料定着装置50の構成の詳細については後述する。
【0109】
搬送装置10による搬送ユニットUの搬送経路のうち、染料定着装置50よりも下流側(本実施形態では、染料定着装置50とコーティング装置60の間の経路上)には、転写装置40および染料定着装置50によって染料が染色された(定着された)レンズLの色情報を計測する色情報計測器51が設けられている。本実施形態の色情報計測器51は、レンズLの分光スペクトル(詳細には、本実施形態では透過スペクトル)を色情報として計測する分光計測器である。従って、RGBカメラ等を用いる場合に比べて、照明環境等の影響が抑制された状態で色情報が取得される。また、複数の染料が用いられてレンズLが染色された場合でも、波長毎の強度の分布である分光スペクトルが取得されるので、染色されたレンズLの色情報が適切に取得される。
【0110】
ただし、分光計測器以外のデバイス(例えばRGBカメラ等)が、色情報計測器として使用されてもよい。また、色情報計測器51が設けられる場所を変更することも可能である。例えば、染料定着装置50に色情報計測器51が設けられていてもよい。搬送経路のうちコーティング装置60よりも下流側に、色情報計測器51が設けられていてもよい。
【0111】
コーティング装置60は、搬送装置10によって搬送される搬送ユニットU毎に、染料定着装置50によって染料が定着されたレンズLの表面にコーティングを行う。コーティング装置60がレンズLのコーティングを行うための具体的な方法は、適宜選択できる。例えば、スプレー方式、インクジェット方式、スピン方式、ディップ方式等の少なくともいずれかが、コーティング方法として採用されてもよい。コーティングの種類も、多くの種類(例えば、ハードコート、反射防止コート、撥水コート、プライマーコート等)から適宜選択されればよい。
【0112】
制御装置70は、染色システム1における各種制御を司る。制御装置70には、種々の情報処理装置(例えば、PC、サーバ、および携帯端末等の少なくともいずれか)を使用できる。制御装置70は、制御を司るコントローラ(例えばCPU等)71と、各種データを記憶するデータベース72を備える。なお、制御装置70の構成を変更することも可能である。まず、複数のデバイスが協働して制御装置70として機能してもよい。例えば、染色システム1における各種制御を司る制御装置と、データベース72を備えた制御装置が別のデバイスであってもよい。また、複数のデバイスのコントローラが協働して、染色システム1における各種制御を実行してもよい。例えば、搬送装置10、光学特性測定装置21、回転装置22、印刷装置30、転写装置40、染料定着装置50、およびコーティング装置60の少なくともいずれかがコントローラを備える場合も多い。この場合、制御装置70のコントローラと他の装置のコントローラが協働して、染色システム1の制御を司ってもよい。
【0113】
染色システム1は、各々の搬送ユニットU毎に、搬送ユニットUに関する情報を読み取る読取部2を備える。一例として、本実施形態の読取部2は、搬送ユニットUに設けられた識別子を読み取る識別子読取部である。識別子読取部2によって読み取られる識別子によって、搬送ユニットUが特定される。染色システム1に使用する識別子の種類は適宜選択できる。例えば、QRコード(登録商標)、バーコード、所定の規則で形成された識別穴等の少なくともいずれかを、識別子として採用できる。識別子読取部2は、使用されている識別子に対応する識別子リーダー(例えば、QRコード(登録商標)リーダー、バーコードリーダー、識別穴リーダー等)であればよい。
【0114】
本実施形態では、染料定着装置50によってレンズLが加熱される際に、搬送ユニットUの温度が上昇する。また、転写装置40によって染料がレンズLに転写される際にも、基体Sが加熱されることで搬送ユニットUの温度が上昇する。さらに、本実施形態の転写装置40は、略真空の環境下で染料をレンズLに転写する。従って、熱および気圧の影響で、読取部2による情報の読み取りが困難になることも考えられる。しかし、本実施形態では、熱および気圧の影響を受け難い識別子が搬送ユニットUに設けられている。よって、本実施形態の染色システム1は、加熱および減圧が必要な染色工程を実行しつつ、搬送ユニットUに関する情報を適切に読み取ることができる。
【0115】
ただし、読取部2の構成を変更することも可能である。例えば、情報を書き込み可能なタグ(例えばICタグ等)が搬送ユニットUに設けられていてもよい。タグに書き込まれる情報には、搬送ユニットUに含まれるレンズLに対して実行する処置のパラメータが含まれていてもよい。この場合、読取部2には、タグから情報を読み取るタグ読取部を採用すればよい。タグ読取部2によってタグから情報が読み取られることで、各々のレンズLに対して実行する処置のパラメータが、制御装置70によって適切に取得される。
【0116】
また、レンズLの光学特性を読み取る光学特性測定装置21が、搬送ユニットUに関する情報を読み取る読取部として機能してもよい。また、レンズLの隠しマークを検出する隠しマーク検出部が、搬送ユニットUに関する情報を読み取る読取部として機能してもよい。
【0117】
本実施形態では、染色システム1を構成する複数の装置の各々に読取部2が設けられている。詳細には、搬送装置10による搬送ユニットUの搬送経路のうち、前準備ユニット20に搬送ユニットUが到達する位置よりも前(上流側)の位置に、読取部2Aが設けられている。前準備ユニット20に読取部2Bが設けられている。印刷装置30に読取部2Cが設けられている。転写装置40に読取部2Dが設けられている。染料定着装置50に読取部2Eが設けられている。コーティング装置60に読取部2Fが設けられている。複数の装置の各々に読取部2が設けられることで、搬送ユニットUが各々の装置に搬送される毎に、搬送ユニットUに関する情報が読み取られたうえで適切に各種工程が実行される。
【0118】
ただし、読取部2の位置を変更することも可能である。まず、
図1に示す複数の読取部2A~2Fのうちの少なくともいずれかを省略することも可能である。例えば、搬送経路の上流側に設けられた読取部2Aのみが採用されてもよい。制御装置70は、各々の搬送ユニットUが搬送装置10によって搬送されている位置を判別してもよい。この場合、制御装置70は、各々の搬送ユニットUの位置と、搬送ユニットUに関して読取部2によって読み取られた情報とに基づいて、各レンズLに対する処置を実行してもよい。
【0119】
(染色用トレイ)
図2および
図3を参照して、本実施形態の染色システム1で使用される染色用トレイ80について説明する。前述したように、染色用トレイ80は、搬送中にレンズLが設置される設置部の一例である。
図2は、2つのレンズLが設置(載置)され、且つ基体Sが設置されていない状態の染色用トレイ80の斜視図である。
図3は、2つの装着部82のうちの一方に装着される載置枠89、レンズL、およびスペーサ87を分解して示す、染色用トレイ80の斜視図である。
【0120】
図2および
図3に示すように、本実施形態の染色用トレイ80は、トレイ本体81、載置枠89、およびスペーサ87を備える。トレイ本体81、載置枠89、およびスペーサ87は、いずれも、高温および低圧(略真空)に耐えることが可能な材質で形成されている。本実施形態では、載置枠89のうち、少なくともレンズLが載置されて接触する部位(本実施形態では載置枠89の全体)は、融点が200℃以上の材質(例えば、テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂、ステンレス、およびアルミニウム等の少なくともいずれか)によって形成されている。気相転写染色法における定着工程(詳細は後述する)では、レンズLが高温となる。従って、載置枠89の材質の融点を200℃以上とすることで、載置枠89の変形等が適切に抑制される。さらに、載置枠89のうち、少なくともレンズLが載置されて接触する部位(本実施形態では載置枠89の全体)は、熱伝導率が0.5W/mK以下の材質(例えば、テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂等)によって形成されることがより望ましい。載置枠89の材質の熱伝導率を0.5W/mK以下とすることで、加熱されたレンズLから熱が載置枠89へ伝導され難くなるので、レンズLが適切に加熱され易くなる。本実施形態では、トレイ本体81およびスペーサ87は金属(アルミニウム)によって形成されており、載置枠89はテフロン(登録商標)によって形成されている。しかし、染色用トレイ80の材質を変更することも可能である。例えば、トレイ本体81およびスペーサ87が樹脂等によって形成されていてもよい。載置枠89が金属等によって形成されていてもよい。
【0121】
載置枠89には、染色対象となる樹脂体(本実施形態ではレンズL)が載置される。本実施形態の載置枠89は、レンズLよりもやや大きい外径を有するリング状に形成されている。載置枠89の中央部には、光を上下方向に透過する円形の孔である光透過部89Sが形成されている。光透過部89Sは、孔の代わりに、光を透過する物質(例えばガラス等)によって形成されていてもよい。設置されるレンズLの径に応じて、レンズLが載置される環状の段差部の径が異なる複数種類の載置枠89が容易されている。作業者は、染色するレンズLの径に応じた載置枠89を用いて、レンズLを染色用トレイ80に載置する。
【0122】
スペーサ87は、載置枠89のうち、レンズLが載置される部位の外周部から上方に筒状(円筒状)に延びる。前述したように、本実施形態では、スペーサ87と載置枠89は別の部材である。従って、作業者は、スペーサ87を取り外した状態で、載置枠89にレンズLを載置することができる。よって、作業者は容易にレンズLを載置枠89に載置することができる。また、載置枠89とスペーサ87が別部材であるため、載置枠89の材質とスペーサ87の材質を異なる材質とし易い。ただし、載置枠89とスペーサ87が一体となっていてもよい。
【0123】
トレイ本体81には装着部82が形成されている。装着部82には、載置枠89およびスペーサ87が着脱可能に装着される。従って、作業者は、トレイ本体81の装着部82から載置枠89およびスペーサ87を取り外し、取り外した載置枠89およびスペーサ87のみを洗浄または破棄することができる。よって、染色用トレイ80のうち、染色工程中に染料が付着し易い載置枠89およびスペーサ87のみが、効率よく洗浄または破棄される。
【0124】
本実施形態の装着部82は、リング状である載置枠89の径、および円筒状であるスペーサ87の径よりもやや大きい径を有する有底筒状に形成されている。よって、作業者は、装着部82に載置枠89を容易に装着することができる。ただし、載置枠89および装着部82の形状を適宜変更できることは言うまでもない。
【0125】
図3に示すように、有底筒状である装着部82の底部(本実施形態では底部の中央)には、光を上下方向に透過する孔(本実施形態では円形の孔)である光透過部82Sが形成されている。光透過部82Sは、孔の代わりに、光を透過する物質(例えばガラス等)によって形成されていてもよい。装着部82に光透過部82Sが形成され、且つ、載置枠89にも光透過部89Sが形成されているので、染色用トレイ80にレンズLが設置(載置)され、且つ基体Sが染色用トレイ80から取り外された状態で、レンズLの色情報および光学特性等を測定することができる。
【0126】
本実施形態では、1つのトレイ本体81に2つの装着部82が形成されている。従って、1つの眼鏡に使用される一対(左右)のレンズLが、1つの染色用トレイ80に載置された状態で染色される。よって、作業者の作業効率が向上する。
【0127】
トレイ本体81のうち、装着部82よりも上方の外側に、昇華性染料が付着するシート状の基体S(
図5、
図6、および
図8参照)が載置される基体載置部85が形成されている。基体載置部85に基体Sが載置されることで、基体Sに付着した昇華性染料が、載置枠89に載置されたレンズLに対向する。従って、染料が適切に樹脂体に転写される。
【0128】
筒状であるスペーサ87は、基体載置部85に載置された基体Sと、載置枠89に載置されたレンズLとの間に空間を形成する。従って、スペーサ87によって形成された空間を通じて、基体SからレンズLへ昇華性染料が適切に転写される。また、昇華された染料が外部に漏洩することが、スペーサ87によって適切に抑制される。よって、空間の外部が染料によって汚れにくく、且つ染色品質も低下し難い。
【0129】
載置枠89およびスペーサ87が装着部82に装着されると、スペーサ87の上端部は、基体載置部85の載置面よりも上方に突出する。従って、基体載置部85に載置された基体Sと、スペーサ87の上端部とが密着し易くなるので、昇華された染料がさらに外部に漏洩し難くなる。
【0130】
トレイ本体81のうち装着部82の周囲に、装着部82から外側に向けて広がる凹部83(つまり、載置枠89およびスペーサ87と、トレイ本体81との間に空間を形成する凹部83)が形成されている。従って、作業者は、凹部83に指等を挿入することで、装着部82から載置枠89、スペーサ87、およびレンズLを容易に取り外すことができる。本実施形態の凹部83は、略板状のトレイ本体81に形成された切欠きである。しかし、凹部83の構成を変更することも可能である。例えば、装着部82に装着された状態の載置枠89の上面よりも下方に凹む凹部が形成されてもよい。また、本実施形態の凹部83は、各々の装着部82の周囲に4つずつ形成されている。しかし、凹部83の数を適宜変更できることは言うまでもない。
【0131】
図3に示すように、略有底筒状である装着部82の側面には、光センサによって出射された光を透過させる一対のセンサ用透過部82Tが形成されている。従って、レンズL、載置枠89、およびスペーサ87の少なくともいずれか(本実施形態ではスペーサ87)が装着部82に装着されているか否かが、光センサによって適切に検出される。本実施形態の染色システム1は、スペーサ87が装着部82に装着されていないことが光センサによって検出された場合に、転写装置40による転写工程、および、染料定着装置50による定着工程(つまり、染料を定着させるためのレーザ光の照射)を禁止する。
【0132】
トレイ本体81のうち、装着部82よりも外側(詳細には、基体載置部85よりも外側)の位置には、基体Sが載置される基体載置部85の載置面よりも上方に突出する突部84(84A,84B)が設けられている。
【0133】
本実施形態の基体Sの形状は、2つの装着部82を共に覆う矩形のシート状である。本実施形態では、染色用トレイ80の適切な位置に載置された状態(つまり、基体載置部85に適切に載置された状態)の基体Sの外周に沿う位置に、複数(8個)の突部84が形成されている。従って、複数の突部84によって囲まれる領域(基体載置部85)に基体Sが載置されることで、基体SがレンズLに対して適切に位置決めされる。また、載置された基体Sの位置がレンズLに対してずれてしまう可能性も低下する。つまり、本実施形態における複数の突部84の少なくとも一部(本実施形態では、全ての突部84A,84B)は、基体SをレンズLに対して位置決めする位置決め部として機能する。
【0134】
また、複数の突部84の少なくとも一部(本実施形態では、全ての突部84A,84B)は、基体Sが載置される基体載置部85の載置面よりも、基体Sの厚み以上に上方の位置まで突出している。従って、基体Sが載置された状態の染色用トレイ80に何らかの物体が積み重ねられた場合でも、積み重ねられた物体は突部84に接触しやすいので、物体は基体Sに接触し難い。よって、基体Sの損傷等が生じにくい。以上のように、本実施形態の突部84は、染色用トレイ80に載置された基体Sを、基体Sの上部に積み重ねられた物体から保護する基体保護部として機能する。
【0135】
本実施形態では、複数の突部84が、位置決め部と基体保護部を兼用する。換言すると、位置決め部の少なくとも一部と、基体保護部の少なくとも一部が、突部84によって兼用されている。従って、染色用トレイ80の構造が容易に簡素化される。
【0136】
トレイ本体81の底部(本実施形態では、各々の装着部82の底部の2か所)には、上方に向けて凹んだ凹部である底部勘合部86が形成されている。トレイ本体81の上部に形成された複数の突部84のうち、装着部82に隣接する4つの突部84Bは、染色用トレイ80の上部に他の染色用トレイ80(トレイ本体81)が積み重ねられた際に、積み重ねられた染色用トレイ80の底部勘合部86に勘合する。つまり、4つの突部84Bは、上部に積み重ねられた他のトレイ本体81の底部勘合部86に勘合する上部勘合部として機能する。よって、複数の染色用トレイ80が、安定した状態で上下に積み重ねられる。なお、本実施形態の底部勘合部86および上部勘合部の各々は、非対称(例えば回転非対称等)に配置されている。従って、作業者は、複数の染色用トレイ80を、向きを合わせた状態で積み重ねやすい。
【0137】
また、基体載置部85の載置面からの突部84Bの高さは、底部勘合部86の深さ(窪みの深さ)と、基体Sの厚みの和以上となっている。従って、基体載置部85に基体Sが載置された状態で、複数の染色用トレイ80が積み重ねられた場合でも、基体Sは上部に積み重ねられた染色用トレイ80に接触し難いので、基体Sの損傷等が生じにくい。
【0138】
以上のように、本実施形態では、突部84Bは、上部勘合部、位置決め部、および基体保護部を兼用する。従って、染色用トレイ80の構造が容易に簡素化される。ただし、上部勘合部、位置決め部、および基体保護部のうちの2つまたは全てが、別々の部材で構成されていてもよい。
【0139】
なお、複数の突部84をトレイ本体81に設ける場合、突部84の数が8つに限定されないことは言うまでもない。また、突部84の形状を変更することも可能である。例えば、突部は、基体Sの外周に沿う位置から上方に延びるリブ状の部材であってもよい。
【0140】
トレイ本体81には、読取部2によって読み取られる識別子88が設けられている。トレイ本体81は、載置枠89等に比べて多くの回数使用することができる。従って、載置枠89等に識別子88が設けられている場合に比べて、識別子88を部材に設置する頻度が低下する。なお、読取部2(
図1参照)として、タグから情報を読み取るタグ読取部が使用される場合、情報を書き込み可能なタグが、識別子88の代わりにトレイ本体81に設けられてもよい。
【0141】
(自動染色装置)
図4から
図12を参照して、本実施形態の自動染色装置3について説明する。前述したように、本実施形態の自動染色装置3は、転写装置40および染料定着装置50を備え、複数のレンズLに対する染料の転写および定着を自動的に連続して実行する。自動染色装置3は、印刷装置30等と共に染色システム1に組み込まれる。なお、前述したように、印刷装置30等も自動染色装置3に組み込まれていてもよい。
【0142】
図4に示すように、自動染色装置3は略箱状の筐体31を備える。筐体31の内部には、転写装置40および染料定着装置50等が搬送装置10の一部に組み付けられた転写・定着ユニット4(
図5参照)が内蔵されている。転写・定着ユニット4のうち、搬送装置10の左右の端部は、筐体31から外側に突出している。
【0143】
筐体31の正面32(
図3の左手前側)は、右端部でヒンジを介して筐体31の本体に接続されており、筐体31の本体に対して回動可能に設けられている。自動染色装置3のメンテナンス等が行われる場合には、正面32の全体が開放される。また、筐体31の上下方向中央部よりもやや上方の広い範囲は、透明な部材で形成されている。従って、作業者は、自動染色装置3が実行している処置を、透明な部材を介して確認することができる。筐体31の正面32における上下方向中央部よりもやや下方には、自動染色装置3の動作を強制的に停止させる指示を入力するための緊急停止ボタン34等が設けられている。また、筐体31の正面32における上部には、ユーザが各種操作指示を入力するタッチパネル35が設けられている。
【0144】
図5に示すように、転写・定着ユニット4は、搬送装置10の一部、転写装置40、染料定着装置50、および基体保持装置90を備える。本実施形態の搬送装置10は、概略的には、搬送方向の上流側(
図5の紙面左側)から下流側(
図5の紙面右側)へ、複数の搬送ユニットUを連続して搬送する。転写・定着ユニット4では、搬送方向の上流側から、転写装置40、染料定着装置50、および基体保持装置90の順に各装置が配置されている。搬送装置10は、転写装置40、基体保持装置90、染料定着装置50、基体保持装置90の順に搬送ユニットUを搬送する。なお、染料定着装置50と基体保持装置90の配置は逆であってもよい。本実施形態の自動染色装置3は、染料が付着した基体Sを含む搬送ユニットUを、転写・定着ユニット4に搬送する。
【0145】
(搬送装置)
図6および
図7を参照して、転写・定着ユニット4に含まれる搬送装置10について説明する。
図6に示すように、搬送装置10は、搬送方向に延びる一対のレール101を備える。レール101の近傍には、レール101に沿って配置された回転ベルト102が設けられている。回転ベルト102は、搬送モータ103(例えばステップモータ等)に接続されている。搬送モータ103が駆動することで、回転ベルト102が回転する。回転ベルト102が回転することで、搬送ユニットUがレール101に沿って搬送方向に移動する。
【0146】
レール101の複数の位置には、搬送ユニットUの有無を検出するためのセンサ(本実施形態では光電センサ)104が設けられている。制御装置70は、複数のセンサ104の各々の検出結果に基づいて、搬送装置10によって搬送されている搬送ユニットUの位置を検出することができる。
【0147】
搬送装置10は、第1引き渡し部110および第2引き渡し部120を備える。第1引き渡し部110は、転写装置40(
図5参照)の近傍の転写引き渡し位置に設けられており、搬送装置10と転写装置40の間で搬送ユニットUを引き渡すために用いられる。第2引き渡し部120は、染料定着装置50(
図5参照)の近傍の定着引き渡し位置に設けられており、搬送装置10と染料定着装置50の間で搬送ユニットUの樹脂体(レンズL)を引き渡すために用いられる。
【0148】
図7に示すように、第1引き渡し部110は、基部111、左アーム部112、右アーム部113、および上下動部114を備える。基部111は、左アーム部112と右アーム部113を接続する。詳細には、左アーム部112は、基部111の左端から上方に延び、且つ、上端部から右方に屈曲している。右アーム部113は、基部111の右端から上方に延び、且つ、上端部から左方に屈曲している。左アーム部112の上端と右アーム部113の上端の間の距離は、染色用トレイ80(
図2および
図3参照)の左右方向の長さよりも僅かに短くなるように設定されている。
【0149】
上下動部114は基部111に固定されている。上下動部114は、モータ、シリンダ、またはソレノイド等のアクチュエータ(本実施形態ではシリンダ)である。上下動部114が駆動されることで、基部111、左アーム部112、および右アーム部113が一体となって上下動する。搬送ユニットUが転写装置40の近傍の所定の転写引き渡し位置に搬送された状態で、左アーム部112および右アーム部113が上方に移動されることで、転写引き渡し位置の搬送ユニットUが持ち上げられる。第1引き渡し部110によって持ち上げられた搬送ユニットUは、転写装置40に引き渡される(詳細は後述する)。また、搬送ユニットUは、左アーム部112および右アーム部113が上方に移動された状態で、転写装置40から第1引き渡し部110に引き渡される。その後、左アーム部112および右アーム部113が下降されることで、搬送ユニットUが搬送経路に戻される。
【0150】
図6の説明に戻る。第2引き渡し部120は、レンズリフト部121、上下動部122、および樹脂体切替部123を備える。レンズリフト部121は、定着引き渡し位置に搬送された状態の搬送ユニットUの下方に位置する。上下動部122は、レンズリフト部121に固定されている。上下動部122は、モータ、シリンダ、またはソレノイド等のアクチュエータ(本実施形態ではシリンダ)である。上下動部122が駆動されることで、レンズリフト部121が上下方向に移動する。レンズリフト部121が上方に移動すると、搬送ユニットUの2つのレンズLの一方が、染料定着装置50による定着工程が行われる定着位置に引き渡される。また、レンズリフト部121が下方に移動すると、レンズLが定着位置から搬送経路に引き渡される。樹脂体切替部123は、モータ、シリンダ、またはソレノイド等のアクチュエータ(本実施形態ではシリンダ)を備える。樹脂体切替部123は、アクチュエータによってレンズリフト部121を搬送方向に移動させることで、搬送ユニットUに含まれる2つのレンズLのうち、定着位置に配置するレンズLを切り替える。
【0151】
搬送装置10は、複数のユニット位置決め部130を備える。ユニット位置決め部130は、一対のレール101の間の搬送経路上の所定位置に設けられている。上下動アクチュエータ(図示せず)によってユニット位置決め部130が上方に移動すると、搬送経路を搬送されてきた搬送ユニットUにユニット位置決め部130が接触し、所定箇所で搬送ユニットUの搬送が停止する。従って、本実施形態の搬送装置10は、搬送経路上の所定位置で搬送ユニットUを正確に停止させることができる。つまり、本実施形態の自動染色装置3は、センサ104およびユニット位置決め部130を共に使用することで、より正確な位置で搬送ユニットUを停止させることができる。ただし、センサ104およびユニット位置決め部130の一方を省略することも可能である。
【0152】
(転写装置)
図8~
図10を参照して、転写装置40について説明する。
図8に示すように、本実施形態の転写装置40は、台部401、電磁波通過部410R,410L、電磁波発生部420、閉塞室セット部430、および気圧制御部450を備える。台部401は、転写装置40を支持する。電磁波通過部410R,410Lは、電磁波発生部420が発生させた電磁波を、後述する閉塞室C(
図9参照)内に配置された基体Sへ通過させる。電磁波発生部420は、基体Sを加熱するための電磁波を発生させる。閉塞室セット部430は、台部401等と共に閉塞室Cを形成する。つまり、閉塞室Cの内部は、閉塞室セット部430および台部401等に囲まれた密閉空間となる。また、閉塞室セット部430は、搬送装置10の第1引き渡し部110(
図7参照)から引き渡された搬送ユニットUを、閉塞室Cの内部にセットする。気圧制御部450は、閉塞室C内の気圧を変動させる。
【0153】
台部401は、底部402、右柱部403R、左柱部403L、および基部404を備える。底部402は、設置場所に載置され、転写装置40の全体を支持する。右柱部403Rは、底部402の右端部から上方に延びる。左柱部403Lは、底部402の左端部から上方に延びる。基部404は、右柱部403Rの上端部と左柱部403Lの上端部に固定されている。従って、台部401を前後方向から見ると、台部401には矩形の開口が形成される。基部404は、十分な強度を有する略板状の部材である。基部404には、閉塞室セット部430によって閉塞室C内にセットされる2つのレンズLの各々に対向する位置に、開口部が形成されている。
【0154】
電磁波通過部410R,410Lは、円筒状の部材であり、基部404に形成された2つの開口部の各々と電磁波発生部420の間に設けられている。
図9に示すように、電磁波発生部420は、電磁波を発生させる発生源(本実施形態ではハロゲンヒータ)421R,421Lを内部に備える。発生源421Rは、筒状である電磁波通過部410Rの軸上に配置されている。同様に、発生源421Lは、筒状である電磁波通過部410Lの軸上に配置されている。
【0155】
図10に示すように、閉塞室セット部430は、基台431、閉塞室底部440、前後動部432、上下動部433、およびガイドポール434R,434L(
図10ではガイドポール434Rのみが図示されている)を備える。基台431は、略板状の部材であり、閉塞室セット部430のベースとなる。
図8に示すように、基台431は、台部401における矩形の開口の内部に配置される。
図10に示すように、閉塞室底部440は、十分な強度を有する略板状の部材である。閉塞室底部440の上面には、基体Sを含む搬送ユニットU(
図8等参照)が載置される搬送ユニット載置部441が形成されている。本実施形態の搬送ユニット載置部441は、染色用トレイ80(
図2、
図3、および
図9参照)の形状に合致する凹凸を有する。
【0156】
詳細は後述するが、閉塞室底部440は、台部401における基部404(
図8および
図9参照)に対して下方から上方に向けて押圧されることで、閉塞室C(
図9参照)の底面を閉塞する。
図10に示すように、閉塞室底部440の上面には、トレイ押圧部442およびシール部443が設けられている。
【0157】
トレイ押圧部442は、搬送ユニット載置部441における複数の位置(本実施形態では、搬送ユニット載置部441の4つの角部)の各々から上方に突出すると共に、付勢部材(例えばバネ等)によって上方に向けて付勢されている。閉塞室底部440が基部404に対して下方から上方に押圧されると、搬送ユニットUの染色用トレイ80が、複数のトレイ押圧部442によって閉塞室Cの内部に押圧される。その結果、電磁波によって加熱されて基体Sから昇華した染料が、染色用トレイ80の載置枠89およびスペーサ87(
図2および
図3参照)の外部に漏れにくくなる。
【0158】
シール部443は、搬送ユニット載置部441の外周を環状に隙間なく覆うように配置されている。シール部443は、搬送ユニット載置部441の上面よりも僅かに上方に突出している。シール部443は、高温および圧力変化に耐え得ると共に、適度な弾性を有する材質によって形成されている。従って、閉塞室底部440が基部404に対して下方から上方に押圧されると、シール部443が基部404の底面に押圧されて変形し、閉塞室C(
図9参照)の気密性が向上する。
【0159】
前後動部432は、作用軸432Aを前後方向に移動させるアクチュエータ(本実施形態ではシリンダ)であり、基台431に固定されている。前後動部432の作用軸432Aは、閉塞室底部440に固定されている。前後動部432が駆動されると、閉塞室底部440が前後方向に移動する。
【0160】
図9に示すように、上下動部433は、作用軸433Aを上下方向に移動させるアクチュエータ(本実施形態ではシリンダ)であり、台部401の底部402に固定されている。上下動部433の作用軸433Aは、基台431に固定されている。また、ガイドポール434R,434Lは、基台431の底面から下方に延びる棒状の部材である。ガイドポール434R,434Lは、台部401の底部402に設けられた筒部405R,405Lの各々に、上下動可能に挿入されている。上下動部433が駆動されると、基台431が上下方向に移動する。基台431の上下動は、ガイドポール434R,434Lおよび筒部405R,405Lによって案内される。基台431が上下方向に移動することで、基台431によって支持された閉塞室底部440が上下方向に移動する。
【0161】
図9に示すように、円筒状である電磁波通過部410Rの中央部には、マスク部412Rが設けられている。同様に、電磁波通過部410Lの中央部には、マスク部412Lが設けられている。マスク部412R,412Lは、電磁波発生部420の発生源421R,421Lから基体Sに照射される電磁波の経路のうち、基体Sに円形に付着した染料の中央部に照射される電磁波の経路を遮断する。一例として、本実施形態のマスク部412R,412Lは、円筒状である電磁波通過部410R,410Lの軸に沿って下方に延びる軸部と、軸部の下部から軸を中心として円形に外側に広がる円盤部を備える。円形の染料の中央部に照射される電磁波は、円盤部によって遮断される。
【0162】
マスク部412R,412Lが設けられていない場合、円形に付着した染料の中央部に照射される電磁波の強度は、染料の周辺部に照射される電磁波の強度よりも大きくなる。また、円形の染料の中央部の熱は、周辺部の熱に比べて発散されにくい。従って、円形の染料の中央部に照射される電磁波が、マスク部412R,412Lによって遮断されることで、染料の中央部の温度が周辺部の温度に比べて過度に上昇することが抑制される。その結果、染料が均一にレンズLに転写され易くなる。
【0163】
電磁波通過部410Rには、内部の温度を検出する温度検出部414Rが設けられている。同様に、電磁波通過部410Lには、内部の温度を検出する温度検出部414Lが設けられている。コントローラ71は、発生源421R,421Lによって電磁波を照射しても閉塞室C内の温度が上昇しない場合、故障が発生している旨を作業者に警告する処理、および、転写工程の実行を禁止する処理の少なくともいずれかを実行する。
【0164】
気圧制御部450(
図8参照)は、ポンプおよび電磁弁を備える。ポンプが駆動されることで、閉塞室C内の気体が給排気管(図示せず)を通じて外部へ排出される。その結果、閉塞室C内が略真空状態となる。電磁弁が閉じられることで、閉塞室C内の気密性が保たれる。また、電磁弁33が開放されることで、減圧状態の閉塞室C内に外部から気体が導入されて、閉塞室C内の気圧が上昇する。なお、閉塞室C内には、閉塞室C内の気圧を検出する圧力センサが設けられている。コントローラ71は、ポンプを駆動させても閉塞室C内の気圧が低下しない場合には、転写装置40が故障している旨を作業者に警告する処理、および、転写工程の実行を禁止する処理の少なくともいずれかを実行する。
【0165】
転写装置40による転写工程の動作について説明する。まず、コントローラ71は、第1引き渡し部110(
図5~
図7参照)によって搬送ユニットUを上昇させた状態で、閉塞室セット部430の前後動部432(
図8および
図10参照)を駆動させることで、閉塞室底部440を台部401の開口内から前方(搬送経路側)に移動させる。その結果、閉塞室底部440は、搬送ユニットUの下方に位置する。次いで、コントローラ71は、第1引き渡し部110によって搬送ユニットUを下降させることで、搬送ユニットUを、閉塞室底部440の搬送ユニット載置部441に載置させる。次いで、コントローラ71は、閉塞室セット部430の前後動部432を駆動させることで、搬送ユニットUが載置された閉塞室底部440を、台部401における基部404の下方に移動させる。次いで、コントローラ71は、閉塞室セット部430の上下動部433を駆動させることで、搬送ユニットUが載置された閉塞室底部440を上方に移動させて、基部404に対して下方から上方に押圧させる。
【0166】
ここで、転写装置40は閉塞室Cを形成する必要がある。閉塞室Cの内部は略真空状態とされるので、閉塞室Cを形成する部材の重量は大きくなり易い。従って、転写装置40の全体を移動させて、搬送ユニットUを閉塞室Cの内部に配置するのは効率が悪い。これに対し、本実施形態の転写装置40は、閉塞室Cを形成する部材のうち、閉塞室Cの底部を閉塞する閉塞室底部440のみを上昇させることで、閉塞室Cを形成しつつ、搬送ユニットUを閉塞室Cの内部に配置する。従って、転写工程が効率よく実行される。
【0167】
また、前述したように、搬送ユニットUの染色用トレイ80は、トレイ押圧部442によって閉塞室Cの内部に下方から押圧される。その結果、昇華した染料が、隙間を通じて染色用トレイ80の載置枠89およびスペーサ87の外部に漏れにくくなる。また、閉塞室底部440が基部404に対して下方から押圧されると、シール部443が基部404の底面に押圧されて変形する。その結果、シール性が向上する。
【0168】
次いで、コントローラ71は、気圧制御部450を駆動させることで、閉塞室C内を略真空状態とする。コントローラ71は、電磁波発生部420の発生源421R,421Lに電磁波を発生させることで、搬送ユニットUに含まれる基体Sの染料を加熱する。加熱された染料は昇華し、基体Sに対向して配置されたレンズLの表面(本実施形態では上面)に転写される。ここで、マスク部412R,412Lは、基体Sに円形に付着した染料の中央部に照射される電磁波の経路を遮断する。よって、円形の染料が均一に加熱され易い。
【0169】
次いで、コントローラ71は、発生源421R,421Lの駆動を停止させると共に、気圧制御部450によって閉塞室C内の気圧を上昇させる。コントローラ71は、閉塞室セット部430の上下動部433を駆動させることで、搬送ユニットUが載置された閉塞室底部440を下方に移動させる。次いで、コントローラ71は、閉塞室セット部430の前後動部432を駆動させることで、搬送ユニットUが載置された閉塞室底部440を搬送経路側に移動させる。その結果、第1引き渡し部110の左アーム部112と右アーム部113の上端の屈曲部は、閉塞室底部440と染色用トレイ80の間に位置する。コントローラ71は、左アーム部112と右アーム部113を上昇させて、搬送ユニットUを持ち上げた状態で、閉塞室底部440を搬送経路から後方に退避させる。コントローラ71は、第1引き渡し部110によって搬送ユニットUを下降させて、搬送経路上に引き渡す。以上の処理によって、転写工程が終了する。
【0170】
(基体保持装置)
図11を参照して、基体保持装置90について説明する。基体保持装置90は、転写工程が実行された後、且つ定着工程が実行される前に、搬送ユニットUから基体Sを除去する。さらに、本実施形態の基体保持装置90は、定着工程が実行された後に、除去していた基体Sを搬送ユニットUに再び載置する。
【0171】
本実施形態の基体保持装置90は、前後動部901、上下動部902、および基体保持部903を備える。前後動部901は、作用軸901Aを前後方向に移動させるアクチュエータ(本実施形態ではシリンダ)である。前後動部901の作用軸901Aは、上下動部902に固定されている。上下動部902は、作用軸(図示せず)を上下方向に移動させるアクチュエータ(本実施形態ではシリンダ)である。上下動部902の作用軸は、基体保持部903に固定されている。前後動部901が駆動されると、上下動部902および基体保持部903が前後方向に移動する。上下動部902が駆動されると、基体保持部903が上下方向に移動する。
【0172】
基体保持部903は、吸着口904および流路接続部905を備える。吸着口904は下方を向いている。本実施形態の基体保持部903には6個の吸着口904が設けられている(
図11では、5個の吸着口904のみが図示されている)。しかし、吸着口904の数を変更できることは言うまでもない。流路接続部905は、チューブを介して、吸引圧を発生させるポンプ(図示せず)に接続される。複数の吸着口904と流路接続部905は、基体保持部903の内部に形成された気体の流路(図示せず)によって接続されている。ポンプが駆動されることで、吸着口904から気体が吸引される。
【0173】
基体保持装置90によって基体Sを搬送ユニットUから除去する場合、コントローラ71は、前後動部901を駆動させて、基体保持装置90の前方の基体除去位置に搬送された搬送ユニットUの上方に、基体保持部903を移動させる。次いで、コントローラ71は、上下動部902を駆動させて、基体保持部903を下方に移動させる。基体保持部903が下降すると、搬送ユニットUに載置された基体Sの上面に、基体保持部903の吸着口904が接触する。コントローラ71は、ポンプを駆動させて、吸着口904から気体を吸引させる。その結果、吸着口904によって基体Sが吸引されて保持される。コントローラ71は、基体保持部903に基体Sを保持させた状態で前後動部901を駆動させて、基体保持部903および基体Sを後方(つまり、搬送経路から退避した退避位置)に退避させる。
【0174】
なお、詳細は後述するが、染色システム1は、搬送ユニットUを識別するための識別子を、染料と共に基体Sに印刷する場合もある。この場合、染料定着装置50の読取部2E(
図1参照)は、退避位置に移動した状態の基体保持部903の下方に配置されている。前述したように、染料は、シート状の基体Sの上面および下面のうち、レンズLに対向する下面に印刷される。従って、印刷装置30は、染料と同様に識別子も基体Sの下面に印刷すれば、識別子を基体Sの上面に印刷する場合に比べて工数が減少する。一方で、基体Sの下面に識別子が印刷されている場合、基体Sが搬送ユニットUに載置された状態で識別子を読み取ることは困難である。これに対し、本開示では、退避位置にある基体保持部903の下方に読取部2Eが配置されている。従って、染色システム1は、基体Sの下面に印刷された識別子を適切に読み取ることができる。ただし、識別子は基体Sの上面に印刷されていてもよい。この場合、読取部2Eは、退避位置に移動した状態の基体保持部903の上方に配置されていてもよい。
【0175】
また、基体保持装置90の近傍には、前述した色情報計測器51(
図1参照)が設けられている。コントローラ71は、基体保持装置90によって基体Sを染色用トレイ80上から退避させた状態で、色情報計測器51によるレンズLの色情報の計測を実行させる。前述したように、本実施形態の染色用トレイ80(
図2および
図3参照)では、装着部82に光透過部82Sが形成され、且つ、載置枠89にも光透過部89Sが形成されている。従って、染色用トレイ80にレンズLが設置(載置)され、且つ基体Sが染色用トレイ80から取り外された状態で、レンズLの色情報が色情報計測器51によって適切に測定される。
【0176】
染料定着装置50による定着工程が終了すると、コントローラ71は、前後動部901を駆動させて、基体除去位置に搬送された搬送ユニットUの上方に、基体保持部903を移動させる。次いで、コントローラ71は、上下動部902を駆動させて、基体保持部903を下方に移動させる。コントローラ71は、ポンプの駆動を停止させることで、基体保持部903による基体Sの保持を解除する。その結果、搬送ユニットUから一旦除去されていた基体Sが、搬送ユニットUに戻される。定着工程の終了後に、搬送ユニットUに基体Sが戻されることで、作業者は、染色されたレンズLと、染色に使用された基体Sを容易に比較することができる。よって、作業者は、染色品質の確認、および、染色品質が低い場合の原因の確認等を適切に行うことができる。
【0177】
なお、搬送ユニットUに基体Sを再び載置するタイミングは、染料定着装置50による定着工程と、コーティング装置60(
図1参照)によるコーティング工程が共に終了した後であってもよい。この場合、搬送ユニットUから基体Sが除去された状態で、定着工程とコーティング工程が容易に実行される。
【0178】
(染料定着装置)
図12を参照して、染料定着装置50について説明する。染料定着装置50は、レンズLを加熱することで、レンズLの表面に付着した染料をレンズLに定着させる定着工程を実行する。詳細には、本実施形態の染料定着装置50は、電磁波であるレーザ光をレンズLに照射することで、レンズLを加熱する。染料定着装置50は、レーザ光照射部510、レーザ光遮断部520、サーモカメラ530、流入口540、排出口550、圧力差発生部560、および輻射熱反射部570を備える。
【0179】
レーザ光照射部510は、レーザ光源511および対物レンズ512を備える。レーザ光源511は、レンズLの材質に吸収される波長のレーザ光を出射する。レーザ光源511から出射されたレーザ光は、対物レンズ512を介して、定着位置501に設置されたレンズLに照射される。なお、本実施形態のレーザ光源511は、レーザ光を下方へ向けて照射する。従って、レーザ光の光路の下流側は、レーザ光源511から見て下側となる。しかし、レーザ光が照射される方向は、下方向以外の方向(例えば、横方向、上方向、または斜め方向等)であってもよい。レーザ光の光路の上流側および下流側の方向は、レーザ光が照射される方向に応じて一意に定まる。
【0180】
また、レーザ光照射部510は走査部513を備える。走査部513は、レーザ光源511から出射されたレーザ光を、レンズLに対して相対的に走査させる。本実施形態の走査部513は、レーザ光の進行方向を偏向するスキャナを備える。レーザ光源511から出射されたレーザ光は、スキャナによって進行方向を偏向された後、対物レンズ512を経てレンズLに向けて照射される。詳細には、本実施形態の走査部513は、レーザ光の光軸に交差するX方向にレーザ光を走査するXスキャナと、光軸およびX方向に共に交差するY方向にレーザ光を走査するYスキャナを備える。走査部513は、XスキャナとYスキャナによって、レーザ光を二次元方向に走査することができる。一例として、本実施形態のスキャナ(XスキャナおよびYスキャナの各々)にはガルバノミラーが採用されている。しかし、ガルバノミラー以外のスキャナ(例えば、ポリゴンミラーまたは音響光学素子等)が使用されてもよい。また、走査部は、レーザ光に対してレンズLの位置を移動させる移動部であってもよい。走査部として、スキャナと移動部が共に用いられてもよい。
【0181】
レーザ光遮断部520は、レーザ光を遮断する材質(例えば、アクリル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル等の樹脂、および金属等の少なくともいずれか)によって形成された筒状の部材である。レーザ光遮断部520は、レーザ光照射部510の対物レンズ512から、定着位置501に設置されたレンズLへ延びる光路の周囲(つまり、対物レンズ512の光軸Oの周囲)の少なくとも一部を覆うことで、光路外へのレーザ光の漏洩を遮断する。従って、レーザ光遮断部520によって安全性が向上する。詳細には、本実施形態のレーザ光遮断部520は、対物レンズ512からレンズLへ延びる光路の全体の周囲を覆う。よって、安全性がさらに向上する。本実施形態のレーザ光遮断部520の形状は略円筒状である。しかし、レーザ光遮断部520の形状は、略円筒状に限定されない。
【0182】
レーザ光遮断部520のうち、定着位置501に設置されるレンズLの周囲を覆う樹脂体周辺部525とは異なる部位の少なくとも一部は、レーザ光を遮断し且つ可視光を透過させる光透過性部材(一例として、本実施形態では透明なアクリル樹脂)によって形成されている。従って、作業者は、光透過性部材を通じて、レーザ光遮断部520に覆われたレンズLの状態を見ることができる。なお、本実施形態では、樹脂体周辺部525以外のレーザ光遮断部520の本体の全体が、光透過性部材によって形成されている。従って、作業者は、樹脂体周辺部以外の種々の部位からレンズLを見ることができる。
【0183】
レーザ光遮断部520には、定着位置501にレンズLが配置されているか否かを検出するレンズ検出センサ521が設けられている。コントローラ71は、定着位置501にレンズLが配置されていないことがレンズ検出センサ521によって検出されている場合に、レンズLが配置されていないことを作業者に警告する警告処理、および、定着工程の実行(つまり、レーザ光の照射)を禁止する禁止処理の少なくともいずれかを実行する。
【0184】
サーモカメラ530は、筒状であるレーザ光遮断部520の内部に設けられている。サーモカメラ530は、定着位置501に配置されたレンズLの熱分布を検出する。詳細には、サーモカメラ530は、定着位置501に配置されたレンズLから生じる電磁波を、電磁波入射部531を介して内部に入射させて、検出素子によって検出する。サーモカメラ530は、検出された電磁波に基づいて、レンズLの熱分布を検出することができる。なお、電磁波入射部531は、レンズLから生じる電磁波を検出素子に結像させる結像レンズ(例えばゲルマニウムレンズ等)を含む。さらに、電磁波入射部531には、レーザ光照射部510によって照射されるレーザ光の波長を遮断するフィルタを含む。従って、サーモカメラ530の検出結果にレーザ光が影響を与え難くなる。
【0185】
コントローラ71は、サーモカメラ530によって検出されたレンズLの熱分布に基づいて、走査部513の駆動を制御する。従って、実際のレンズLの熱分布に基づいて、より適切にレンズLの加熱処理が実行される。
【0186】
流入口540および排出口550は、共に、筒状であるレーザ光遮断部520に形成されている。流入口540は、レーザ光遮断部520のうち、排出口550よりもレーザ光の光路の上流側に設けられている。流入口540は、レーザ光遮断部520の外部から内部へ気体を流入させる。排出口550は、レーザ光遮断部520のうち、流入口540よりもレーザ光の光路の下流側(つまり、流入口540よりもレンズLに近い側)に設けられている。また、排出口550は、レーザ光遮断部520のうち、サーモカメラ530の電磁波入射部531よりもレーザ光の光路の下流側に設けられている。さらに、排出口550は、レーザ光遮断部520のうち、定着位置501に配置されたレンズLの位置よりもレーザ光の光路の上流側に設けられている。排出口550は、レーザ光遮断部520の内部から外部へ気体を排出する。排出口550には、排出される気体を所定の位置へ誘導する排気管551が接続されている。従って、気体がより適切にレーザ光遮断部520から排出される。
【0187】
圧力差発生部560は、流入口540から排出口550へ気体を流すための圧力差を発生させる。一例として、本実施形態の圧力差発生部560は、流入口540からレーザ光遮断部520の内部に気体を送風する流入送風機である。つまり、本実施形態の圧力差発生部560は流入口540に設けられている。しかし、流入送風機とは別に、または流入送風機と共に、排出口550からレーザ光遮断部520の外部に気体を送風する排出送風機が、排出口550および排気管551の少なくともいずれかに設けられていてもよい。つまり、圧力差発生部560は、流入口540からレーザ光遮断部520の内部に流入される気体の経路、および、排出口550からレーザ光遮断部520の外部に排出される気体の経路の少なくともいずれかに設けられていればよい。
【0188】
圧力差発生部560には駆動検出部561が設けられている。駆動検出部561は、圧力差発生部が正常に駆動しているか否かを検出する。コントローラ71は、圧力差発生部560が正常に駆動していないことが駆動検出部561によって検出された場合に、作業者への警告処理、および、レーザ光照射部510によるレンズLの加熱動作を禁止する処理の少なくともいずれかを実行する。従って、圧力差発生部560が故障した状態で定着工程が実行される可能性が低下する。
【0189】
レーザ光遮断部520のうち、少なくとも樹脂体周辺部525の内周面には、樹脂体であるレンズLから発生する輻射熱を反射する輻射熱反射部570が設けられている。従って、レーザ光によって加熱されたレンズLから放出される輻射熱の少なくとも一部が、輻射熱反射部570によってレンズLに向けて反射される。その結果、レンズL(特に、レンズLの外周部)の熱が周囲に拡散し難くなるので、レンズLの温度がレーザ光によって適切に上昇し易くなる。つまり、輻射熱反射部570によって、レンズLの全体の温度が上昇し易くなり、且つ、レンズLの外周部と内側の温度差も生じにくくなる。よって、染料が適切にレンズLに定着し易くなる。
【0190】
輻射熱反射部570は、筒状である樹脂体周辺部525の内周面における周方向の全周に設けられる。従って、樹脂体周辺部525の内周面における周方向の一部に輻射熱反射部が設けられている場合に比べて、レンズLから放出される輻射熱が、より効率よく輻射熱反射部570によってレンズLに反射され易くなる。
【0191】
前述したように、レーザ光遮断部520のうち、輻射熱反射部570が設けられる樹脂体周辺部525以外の部位の少なくとも一部は、光透過性部材によって形成されている。従って、本実施形態の染料定着装置50によると、レンズLが適切に加熱され、且つ、レンズLの状態を確認することも容易である。
【0192】
輻射熱反射部570は、樹脂体周辺部525の内周面の下端部よりも下方に突出している。従って、定着位置501に設置されるレンズLの周囲が、より適切に輻射熱反射部570によって覆われる。よって、レンズLがより適切に加熱される。
【0193】
輻射熱反射部570は、アルミニウムまたはステンレスを含む金属(本実施形態では、アルミニウムの単体、またはステンレスの単体)によって形成されている。アルミニウムおよびステンレスは、輻射熱(電磁波)を反射し易い。従って、レンズLの温度がより適切に上昇する。
【0194】
染料定着装置50による定着工程の動作について説明する。コントローラ71は、搬送装置10の第2引き渡し部120(
図6参照)によってレンズLを定着位置501に移動させると共に、圧力差発生部560を駆動させる。コントローラ71は、圧力差発生部560を駆動させた状態で、レーザ光源511からレーザ光を出射させると共に、走査部513の駆動を制御する。詳細には、コントローラ71は、読取部2E(
図1参照)によって読み取られた搬送ユニットUに関する情報に基づいて、レンズLに対して実行する処置のパラメータを取得する。コントローラ71は、取得したパラメータと、サーモカメラ530によって検出されたレンズLの熱分布に基づいて、走査部513の駆動を制御する。パラメータには、例えば、レンズLの目標温度のパラメータが含まれていてもよい。また、定着工程では、レンズLの各部位の温度差が発生する程度は、レンズLの形状に応じて異なる。よって、パラメータには、レンズLの形状に関するパラメータ(例えば、レンズLのパワーに関するパラメータ等)が含まれていてもよい。また、レンズLの材質に応じてレンズLの温度推移を変更した方が、染料が適切にレンズLに定着する場合もある。従って、パラメータには、レンズLの材質に関するパラメータが含まれていてもよい。また、レンズLに染色する色の濃度に応じて、レンズLの温度推移を変更した方が、染料が適切にレンズLに定着する場合もある。従って、パラメータには、レンズLに染色する色の濃度に関するパラメータが含まれていてもよい。また、コントローラ71は、サーモカメラ530によって検出されたレンズLの熱分布に基づいて、レンズLの各部位の温度差が小さくなるように走査部513の駆動を制御してもよい。
【0195】
ここで、本実施形態の染料定着装置50では、レーザ光遮断部520の内部を流入口540から排出口550へ向けて気体が流れる。つまり、レーザ光の光路の上流側(本実施形態では上方)から下流側(本実施形態では下方)へ向けて気体が流れる。従って、レンズLの表面の染料が加熱されてガス化しても、染料は、レーザ光照射部510の対物レンズ512に付着し難くなる。よって、対物レンズ512に染料が付着することで生じる影響が抑制される。
【0196】
また、排出口550は、レーザ光遮断部520のうち、定着位置501に配置されたレンズLの位置よりもレーザ光の光路の上流側に設けられている。従って、流入口540からレーザ光遮断部520の内部に流入した気体は、加熱されているレンズLまでは到達し難い。よって、加熱する対象のレンズLが、レーザ光遮断部520の内部に流入する気体によって冷却されることが抑制される。よって、加熱効率が低下することが抑制される。
【0197】
また、排出口550は、レーザ光遮断部520のうち、サーモカメラ530の電磁波入射部531よりもレーザ光の光路の下流側に設けられている。従って、レンズLの表面の染料が加熱されてガス化しても、染料は、サーモカメラ530の電磁波入射部531に付着し難い。よって、サーモカメラ530の性能が低下することも適切に抑制される。
【0198】
なお、流入口540および排出口550の位置を変更することも可能である。例えば、レーザ光遮断部520のうち、レーザ光照射部510の対物レンズ512と、定着位置501に配置されたレンズLの位置の間に、流入口と排出口がレーザ光の光路を挟んで対向するように形成されていてもよい。この場合、ガス化した染料がレンズLから対物レンズ512に向けて移動しても、ガス化した染料は、対物レンズ512に到達する前に排出口へ流れやすくなる。
【0199】
レーザ光によるレンズLの加熱処理が終了すると、コントローラ71は、搬送装置10の第2引き渡し部120(
図6参照)によって、レンズLを搬送経路に戻す。コントローラ71は、既に加熱処理が終了したレンズL以外にも、加熱処理が必要なレンズLが染色用トレイ80(
図2および
図3参照)に載置されているか否かを、パラメータに基づいて判断する。さらに加熱処理が必要なレンズLが染色用トレイ80に載置されていなければ、コントローラ71は、搬送ユニットUのレンズLに対する定着工程を終了し、搬送ユニットUを下流側(本実施形態では基体保持装置90)に搬送させる。さらに加熱処理が必要なレンズLが染色用トレイ80に載置されている場合、コントローラ71は、第2引き渡し部120の樹脂体切替部123を駆動することで、定着位置501に配置するレンズLを切り替える。その後、コントローラ71は、定着位置501に配置されたレンズLを加熱して、搬送ユニットUを下流側に搬送させる。
【0200】
なお、本実施形態の染色システム1では、搬送装置10による搬送経路のうち、転写装置40の上流側、および染料定着装置50の上流側に、光センサ(図示せず)が設けられている。光センサは、染色用トレイ80の装着部82に形成された一対の光透過部82Sを共に通過する方向に光を出射することで、染色用トレイ80にレンズL、載置枠89、およびスペーサ87の少なくともいずれか(本実施形態ではスペーサ87)が設置されているか否かを検出する。従って、コントローラ71は、染色用トレイ80における一対の装着部82の各々にスペーサ87が装着されているか否か(つまり、レンズLが設置されているか否か)を適切に把握することが可能である。
【0201】
(第1染色制御処理)
図13を参照して、染色システム1のコントローラ71が実行する第1染色制御処理について説明する。第1染色制御処理は、染色用トレイ80(本実施形態ではトレイ本体81)に識別子が設けられている場合に実行される。つまり、第1染色制御処理では、搬送ユニットUに設けられた識別子の情報が読み取られて、読み取られた情報に対応するパラメータが取得される。取得されたパラメータに応じて、染料定着装置50等による染色工程の動作が制御される。コントローラ71は、複数の搬送ユニットUの各々に載置されたレンズLに対して染色工程を実行する際に、記憶装置に記憶された染色制御プログラムに従って、
図13に例示する第1染色制御処理を実行する。
【0202】
まず、コントローラ71は、レンズLに対して実行する処置内容を示す処置情報を取得したか否かを判断する(S1)。処置情報は、例えば、作業者が操作部(図示せず)を操作することでコントローラ71に入力されてもよいし、他のデバイスによって作成されてもよい。第1染色制御処理では、S1で取得される処置情報には、グラデーション染色の実行の有無および方向を示す情報、1つの搬送ユニットUに含めるレンズLの数(1つまたは2つ)の情報、レンズLに染色する色(つまり、基体Sに印刷する染料の色)の情報、染色する色の濃度の情報、レンズLの材質の情報、および、レンズLに対して実行するコーティングに関する情報の少なくともいずれかが含まれる。また、S1で取得される処置情報には、レンズLの形状に関する情報が含まれていてもよい。レンズLの形状(カーブ値および厚み等)は、レンズLの光学特性(例えば球面度数等)に影響する。従って、レンズLの形状に関する情報には、レンズLのカーブ値、厚み、およびレンズLの光学特性に関する情報が含まれていてもよい。レンズLの形状に関する情報がS1で取得される場合、後述するS6の処理は省略されてもよい。また、レンズLの光学特性は、レンズLの材質に応じて変化する。従って、レンズLの材質の情報は、光学特性測定装置21によって測定されたレンズLの光学特性に基づいて取得されてもよい。さらに、レンズLの形状に関する情報には、レンズLの径および外形形状等の少なくともいずれかが含まれていてもよい。処置情報が取得されていなければ(S1:NO)、処理はそのままS4へ移行する。
【0203】
レンズLに対する処置情報が取得された場合(S1:YES)、処置情報の取得対象となったレンズLが載置される搬送ユニットUの識別子88が、読取部2Aによって読み取られる(S2)。コントローラ71は、S1で取得された処置情報に基づいて、処置内容を示すパラメータを、S2で読み取られた識別子に対応付けてデータベース72に記憶させる(S3)。S3で記憶されるパラメータには、グラデーション染色の実行の有無および方向を示すグラデーションパラメータ、1つの搬送ユニットUに含めるレンズLの数を示すレンズ数パラメータ、レンズLに染色する色(つまり、基体Sに印刷する染料の色)を示す色パラメータ、レンズLに染色する色(つまり、基体Sに印刷する色の濃度)を示す濃度パラメータ、レンズLの材質を示す材質パラメータ、および、レンズLに対して実行するコーティングの内容を示すコーティングパラメータの少なくともいずれかが含まれる。また、レンズLの形状に関する情報がS1で取得されている場合には、レンズLの形状を示す形状パラメータがS3で記憶されてもよい。
【0204】
次いで、搬送ユニットUが前準備ユニット20に搬送されたか否かが判断される(S4)。搬送ユニットUが前準備ユニット20に搬送されていなければ(S4:NO)、処理はそのままS8へ移行する。搬送ユニットUが前準備ユニット20に到達すると(S4:YES)、S5において、前準備ユニット20に到達した搬送ユニットUの識別子88が、読取部2Bによって読み取られる。また、読み取られた識別子88に対応するパラメータ(S5では、少なくともグラデーションパラメータ)が、データベース72から取得される(S5)。次いで、コントローラ71は、光学特性測定装置21によって読み取られたレンズLの光学特性に基づいて、レンズLの形状パラメータを取得し、S5で読み取られた識別子に対応付けてデータベース72に記憶させる(S6)。コントローラ71は、S5で読み取られた識別子に対応するグラデーションパラメータと、光学特性測定装置21によって読み取られたレンズLの方向とに基づいて、回転装置22によるレンズLの回転駆動を制御する(S7)。つまり、コントローラ71は、グラデーション染色を実行する場合であり、且つ、レンズLが幾何中心軸を中心として対象な形状でない場合に、レンズLを回転させることで、基体Sに印刷される染料の角度に対してレンズLの角度を合わせる。なお、レンズLの形状が、幾何中心軸を中心として対象である場合、S7の処理は省略されてもよい。
【0205】
なお、染色システム1は、回転装置22によって樹脂体であるレンズLを回転させる代わりに、読み取ったレンズLの方向に合わせて、後述する印刷装置30に印刷させる染料の領域の回転方向の角度を決定してもよい。この場合でも、グラデーション染色等が適切に樹脂体に施される。また、コントローラ71は、レンズLの光学特性のパラメータをS5で取得してもよい。コントローラ71は、光学特性測定装置21によって読み取られたレンズLの光学特性が、S5で取得された光学特性と異なる場合に、作業者に警告を行う警告処理、および、レンズLに対する染色工程を中断する中断処理の少なくともいずれかを実行してもよい。この場合、染色対象のレンズLとは異なるレンズLに誤って染色が行われる可能性が低下する。
【0206】
次いで、搬送ユニットUが印刷装置30に搬送されたか否かが判断される(S8)。搬送ユニットUが印刷装置30に搬送されていなければ(S8:NO)、処理はそのままS11へ移行する。搬送ユニットUが印刷装置30に到達すると(S8:YES)、S9において、印刷装置30に到達した搬送ユニットUの識別子88が、読取部2Cによって読み取られる。また、読み取られた識別子88に対応するパラメータ(S9では、グラデーションパラメータ、レンズ数パラメータ、色パラメータ、濃度パラメータ、材質パラメータ、および形状パラメータ(光学特性のパラメータが含まれていてもよい)の少なくともいずれか)が、データベース72から取得される。コントローラ71は、S9で取得したパラメータに従って印刷装置30の駆動を制御することで、基体Sに対する染料の印刷動作を印刷装置30に実行させる(S10)。例えば、コントローラ71は、色パラメータが示す色の染料を、グラデーションパラメータが示すグラデーションの有無等に従って、濃度パラメータが示す濃度で印刷装置30に印刷させてもよい。また、コントローラ71は、レンズ数パラメータが示すレンズ数と同数の円形の染料領域を、印刷装置30に印刷させてもよい。コントローラ71は、レンズLの基材の材質に応じた吐出量で染料を印刷装置30に印刷させてもよい。
【0207】
次いで、搬送ユニットUが転写装置40に搬送されたか否かが判断される(S11)。搬送ユニットUが転写装置40に搬送されていなければ(S11:NO)、処理はそのままS13へ移行する。搬送ユニットUが転写装置40に到達すると(S11:YES)、コントローラ71は、搬送ユニットUに載置されているレンズLの数(レンズLの数が1つである場合には、レンズLの位置)に応じて、転写装置40に転写工程を実行させる(S12)。具体的には、S12では、転写装置40に到達した搬送ユニットUの識別子88が、転写装置40の読取部2Dによって読み取られる。また、読み取られた識別子88に対応するパラメータ(S12では、少なくともレンズ数パラメータ)が、データベース72から取得される。コントローラ71は、取得したパラメータに従って転写装置40の動作を制御する。
【0208】
次いで、搬送ユニットUが染料定着装置50に搬送されたか否かが判断される(S13)。搬送ユニットUが染料定着装置50に搬送されていなければ(S13:NO)、処理はそのままS16へ移行する。搬送ユニットUが染料定着装置50に到達すると(S13:YES)、S14において、染料定着装置50に到達した搬送ユニットUの識別子88が、読取部2Eによって読み取られる。また、読み取られた識別子88に対応するパラメータ(S14では、少なくともグラデーションパラメータ、レンズ数パラメータ、色パラメータ、濃度パラメータ、材質パラメータ、および形状パラメータ(光学特性のパラメータ、およびレンズ径のパラメータ等の少なくともいずれかが含まれていてもよい))が、データベース72から取得される。コントローラ71は、取得したパラメータに従って染料定着装置50の駆動を制御する(S15)。
【0209】
詳細には、コントローラ71は、グラデーションパラメータに従って、レンズLのうち色が薄い部位(視感透過率が高い部分)の温度を、色が濃い部分の温度よりも低い温度に制限する。その結果、色が薄い部位の温度が過度に上昇して基材が変色することが抑制される。また、コントローラ71は、レンズ数パラメータに応じた数のレンズLに対する定着工程を、染料定着装置50に実行させる。また、コントローラ71は、色パラメータに従ってレンズLの目標温度を設定することで、染色する色に応じた適切な温度にレンズLの温度を上昇させる。また、コントローラ71は、材質パラメータに従ってレンズLの温度推移を制御することで、レンズLの材質に応じた適切な方法で染料をレンズLに定着させる。詳細には、コントローラ71は、レンズLの材質に応じて、レンズLの温度を目標温度に到達させるまでの時間、温度上昇割合、レンズLの温度を目標温度で維持する時間の長さ等の少なくともいずれかを制御する。また、コントローラ71は、形状パラメータに従って走査部513の駆動を制御することで、レンズLの形状に起因する部位毎の温度差が過度に大きくなることを抑制する。詳細には、本実施形態のコントローラ71は、レーザ光の出力を一定とした状態で、レンズL上におけるレーザ光の走査速度を部位に応じて変化させることで、レンズLに加えるエネルギーを部位毎に調整する。レーザ光の走査速度が小さい位置では、走査速度が大きい位置に比べて、単位時間当たりに部位に加わるエネルギーが大きくなる。各部位に均等にレーザ光のエネルギーが加えられた場合、レンズLのうち厚みが小さい部位では、厚みが大きい位置に比べて温度が上昇しやすい。また、レンズLの周囲部位は、レンズLの中心部位に比べて熱が放出され易いので、周辺部位の温度は中心部位に比べて上昇し難い。よって、コントローラ71は、レンズLの形状パラメータに従って、レンズLの厚みおよび位置に応じた適切な走査速度でレーザ光を走査させることで、部位毎の温度差が過度に大きくなることを抑制する。
【0210】
次いで、搬送ユニットUがコーティング装置60に搬送されたか否かが判断される(S16)。搬送ユニットUがコーティング装置60に搬送されていなければ(S16:NO)、処理はそのままS1へ戻る。搬送ユニットUがコーティング装置60に到達すると(S16:YES)、S17において、コーティング装置60に到達した搬送ユニットUの識別子88が、読取部2Fによって読み取られる。また、読み取られた識別子88に対応するパラメータ(S17では、少なくともコーティングパラメータ)が、データベース72から取得される。コントローラ71は、取得したパラメータに従って、コーティング装置60の駆動を制御する(S18)。その後、処理はS1へ戻る。
【0211】
(第2染色制御処理)
図14を参照して、染色システム1のコントローラ71が実行する第2染色制御処理について説明する。第2染色制御処理では、コントローラ71は、印刷装置30を制御することで、染料と共に識別子を基体Sに印刷させる。つまり、第2染色制御処理が実行される場合には、第1染色制御処理が実行される場合とは異なり、識別子は染色用トレイ80でなく基体Sに設けられる。なお、第2染色制御処理における一部の処理には、前述した第1染色制御処置(
図13参照)と同様の処理を採用できる。従って、第2染色制御処理のうち、第1染色制御処理と同様の処理を採用できるステップについては、第1染色制御処理で付したステップ番号と同じ番号を付し、その説明を省略または簡略化する。また、第2染色制御処理が実行される場合、染色システム1に設けられる複数の読取部2(
図1参照)のうち、少なくとも読取部2A、読取部2B、および読取部2C省略は省略してもよい。
【0212】
まず、コントローラ71は、レンズLに対して実行する処置内容を示す処置情報を取得したか否かを判断する(S1)。処置情報が取得されていなければ(S1:NO)、処理はそのままS11へ移行する。レンズLに対する処置情報が取得された場合(S1:YES)、コントローラ71は、処置情報の取得対象となったレンズLに対応付ける識別子を決定する(S21)。次いで、コントローラ71は、処置情報の取得対象となったレンズLが含まれる搬送ユニットUを、前準備ユニット20へ搬送させる(S22)。コントローラ71は、光学特性測定装置21によって読み取られたレンズLの光学特性に基づいて、レンズLの形状パラメータを取得し、S21で決定した識別子に対応付けてデータベース72に記憶させる(S6)。なお、レンズLの形状に関する情報がS1で取得されている場合には、S6の処理を省略してもよい。コントローラ71は、S1で取得されたグラデーションの処置情報に対応するグラデーションパラメータと、光学特性測定装置21によって読み取られたレンズLの方向とに基づいて、回転装置22によるレンズLの回転駆動を制御する(S7)。
【0213】
次いで、コントローラ71は、処置情報の取得対象となったレンズLが含まれる搬送ユニットUを、印刷装置30へ搬送させる(S23)。コントローラ71は、S1で取得された処置情報に基づくパラメータ(グラデーションパラメータ、レンズ数パラメータ、色パラメータ、濃度パラメータ、材質パラメータ、および形状パラメータ(光学特性のパラメータが含まれていてもよい)の少なくともいずれか)に従って印刷装置30の駆動を制御することで、基体Sに対する染料の印刷動作を印刷装置30に実行させる(S10)。また、コントローラ71は、印刷装置30の駆動を制御することで、S21で決定した識別子を、染料と共に基体Sに印刷させる(S24)。さらに、コントローラ25は、印刷装置30の駆動を制御することで、レンズLに対して実行する処置内容を示す文字および記号等の少なくともいずれかを、基体Sに印刷させる(S25)。従って、作業者は、基体Sに印刷された文字および記号等の少なくともいずれかを見ることで、レンズLに対して実行される(または実行された)処置内容を容易に確認することができる。
【0214】
次いで、搬送ユニットUが転写装置40に到達すると(S11:YES)、コントローラ71は、搬送ユニットUに載置されているレンズLの数(レンズLの数が1つである場合には、レンズLの位置)に応じて、転写装置40に転写工程を実行させる(S12)。具体的には、S12では、搬送ユニットUに含まれる基体Sに印刷されている識別子が、転写装置40の読取部2Dによって読み取られる。読み取られた識別子に対応するパラメータ(S12では、少なくともレンズ数パラメータ)が、データベース72から取得される。コントローラ71は、取得したパラメータに従って転写装置40の動作を制御する。
【0215】
搬送ユニットUが染料定着装置50に到達すると(S13:YES)、基体Sに印刷されている識別子が読取部2Eによって読み取られて、読み取られた識別子に対応するパラメータが取得される(S14)。コントローラ71は、取得したパラメータに従って染料定着装置50の駆動を制御する(S15)。
【0216】
搬送ユニットUがコーティング装置60に到達すると(S16:YES)、基体Sに印刷されている識別子が読取部2Fによって読み取られて、読み取られた識別子に対応するパラメータが取得される(S17)。コントローラ71は、取得したパラメータに従って、コーティング装置60の駆動を制御する(S18)。その後、処理はS1へ戻る。
【0217】
(第3染色制御処理)
図15を参照して、染色システム1のコントローラ71が実行する第3染色制御処理について説明する。第3染色制御処理では、コントローラ71は、タグ読取部2によって読み取られたパラメータに従って、各装置の動作を制御する。つまり、第2染色制御処理が実行される場合には、第1・第2染色制御処理が実行される場合とは異なり、パラメータ自体が搬送ユニットUのタグに記憶される。なお、第3染色制御処理における一部の処理には、前述した第1染色制御処置(
図13参照)と同様の処理を採用できる。従って、第3染色制御処理のうち、第1染色制御処理と同様の処理を採用できるステップについては、第1染色制御処理で付したステップ番号と同じ番号を付し、その説明を省略または簡略化する。また、第3染色制御処理が実行される場合、染色システム1に設けられる複数の読取部2(
図1参照)のうちの少なくともいずれか(本実施形態では、読取部2B,2C,2D,2E,2F)は、タグから情報を読み取るタグ読取部を含む。また、第3染色制御処理が実行される場合、
図1に示す読取部2Aは、タグに情報を書き込むタグ書き込み部2Aに変更される。また、以下説明する実施形態では、
図1に示す読取部2Bは、タグからの情報の読み取り、およびタグへの情報の書き込みを共に実行なタグ読み取り・書き込み部2Bに変更される。タグは、搬送ユニットUに含まれる部材(例えば、染色用トレイ80のトレイ本体81等)に設けられている。
【0218】
まず、コントローラ71は、レンズLに対して実行する処置内容を示す処置情報を取得したか否かを判断する(S1)。処置情報が取得されていなければ(S1:NO)、処理はそのままS4へ移行する。レンズLに対する処置情報が取得された場合(S1:YES)、コントローラ71は、S1で取得された処置情報に含まれるパラメータを、情報書き込み部2Aによって、処置情報が取得された搬送ユニットUのタグに書き込む(S31)。
【0219】
次いで、搬送ユニットUが前準備ユニット20に到達すると(S4:YES)、タグ読み取り・書き込み部2Bによって、搬送ユニットUのタグから情報が読み取られる(S32)。コントローラ71は、光学特性測定装置21によって読み取られたレンズLの光学特性に基づいて、レンズLの形状パラメータを取得し、タグ読み取り・書き込み部2Bによってタグに書き込む(S33)。なお、レンズLの形状に関する情報がS1で取得されている場合には、S33の処理を省略してもよい。コントローラ71は、S32で読み取られた情報に含まれるグラデーションパラメータと、光学特性測定装置21によって読み取られたレンズLの方向とに基づいて、回転装置22によるレンズLの回転駆動を制御する(S7)。
【0220】
搬送ユニットUが印刷装置30に到達すると(S8:YES)、読取部2Cによって、搬送ユニットUのタグから情報が読み取られる(S34)。コントローラ71は、S34で読み取られた情報に含まれるパラメータに従って印刷装置30の駆動を制御することで、基体Sに対する染料の印刷動作を印刷装置30に実行させる(S10)。
【0221】
搬送ユニットUが転写装置40に到達すると(S11:YES)、コントローラ71は、搬送ユニットUに載置されているレンズLの数(レンズLの数が1つである場合には、レンズLの位置)に応じて、転写装置40に転写工程を実行させる(S12)。具体的には、S12では、搬送ユニットUのタグに書き込まれた情報が、転写装置40の読取部2Dによって読み取られる。読み取られた情報に含まれるパラメータ(S12では、少なくともレンズ数パラメータ)に従って、転写装置40の動作が制御される。
【0222】
搬送ユニットUが染料定着装置50に到達すると(S13:YES)、読取部2Eによって、搬送ユニットUのタグから情報が読み取られる(S35)。コントローラ71は、S35で読み取られた情報に含まれるパラメータに従って、染料定着装置50の駆動を制御する。
【0223】
搬送ユニットUがコーティング装置60に到達すると(S16:YES)、読取部2Fによって、搬送ユニットUのタグから情報が読み取られる(S36)。コントローラ71は、S36で読み取られた情報に含まれるパラメータに従って、コーティング装置60の駆動を制御する(S18)。
【0224】
(吐出量メンテナンス処理)
図16を参照して、染色システム1のコントローラ71が実行する吐出量メンテナンス処理について説明する。吐出量メンテナンス処理では、染色する予定の色(色の濃度も含む)が適切にレンズLに染色されるように、印刷装置30によって基体Sに吐出(印刷)される染料の吐出量が補正される。作業者は、吐出量メンテナンス処理を実行させる指示を、染色システム1に入力することができる。作業者は、例えば、染色システム1をメーカーから顧客に出荷する出荷時、染色システム1を最初に稼働させる初期稼働時、染色システム1のメンテナンス時、および、レンズLの染色品質が悪化した場合等に、吐出量メンテナンス処理の実行指示を入力することができる。コントローラ71は、吐出量メンテナンス処理を実行させる指示が入力された場合に、記憶装置に記憶された吐出量メンテナンス制御プログラムに従って、
図16に例示する吐出量メンテナンス処理を実行する。
【0225】
まず、コントローラ71は、染色されるレンズLの基材の種類の情報を取得する(S40)。印刷装置30に吐出させる染料の吐出量が同一である場合でも、レンズLの基材の種類に応じて、染色される色(例えば色の濃度等)が異なる。従って、コントローラ71は、S40で取得された基材の種類毎に、後述するS42~S52の処理を実行する。その結果、各々の基材を適切に染色するために必要な染料の吐出量が、基材に応じて決定される。
【0226】
次いで、コントローラ71は、印刷装置30が吐出(印刷)することが可能な複数の染料(一例として、本実施形態では、赤(Red)、黄(Yellow)、および青(Blue)、)のうちの1つを、吐出量を補正する対象の染料として特定する(S41)。
【0227】
次いで、コントローラ71は、S41で特定した染料によって染色される、予定の濃度の色を、レンズLに染色する予定色として決定する(S42)。予定色等の色情報は、色相、明度(または濃度)、および彩度で表現されてもよい。本実施形態では、予定色を含むレンズLの色を特定する色情報として、分光透過率データが使用される。例えば、色情報には、L*a*b*色空間が使用されてもよい。さらに、色情報には、視感透過率Y値が使用されてもよい。L*は明度、a*とb*は色度(色相と彩度)を示す。また、視感透過率Y値は、レンズLが可視光線を透過させる割合を示す。ただし、レンズLの色情報として、他の表色系が用いられてもよいことは言うまでもない。
【0228】
次いで、コントローラ71は、S42で決定した予定色をレンズLに染色するために、印刷装置30に吐出(印刷)させる特定の染料の吐出量を、決定手順に従って決定する(S43)。一例として、本実施形態では、複数の染料(本実施形態では赤、黄、青)の各々を予定の濃度で樹脂体に染色するための、各染料の吐出量の情報(ベース色情報)が、記憶装置(例えばデータベース72等)に予め記憶されている。コントローラ71は、ベース色情報に基づいて、予定色をレンズLに染色するための各染料の吐出量(S43では、特定の染料の吐出量)を演算することで、吐出量を決定する。つまり、本実施形態では、吐出量を決定する決定手順(アルゴリズム)として、ベース色情報と予定色に基づいて各染料の吐出量を演算する手順が用いられる。前述したように、本実施形態では、吐出量を決定する決定手順は、染色するレンズLの基材の種類毎に定められている。
【0229】
ただし、各染料の吐出量の決定手順を変更することも可能である。例えば、予定色の色情報と、予定色をレンズLに染色するために必要な各染料の吐出量とを対応付けるテーブルが、記憶装置(例えばデータベース72等)に予め記憶されていてもよい。コントローラ71は、予定色に対応する各染料の吐出量を、テーブルから取得することで、染料の吐出量を決定してもよい。つまり、吐出量を決定する決定手順(アルゴリズム)として、予定色と吐出量を対応付けるテーブルが用いられてもよい。
【0230】
次いで、コントローラ71は、印刷装置30に対し、特定した染料を、S43で決定した吐出量だけ基体Sに吐出(印刷)させる指示を出力する(S44)。印刷が完了すると、コントローラ71は、搬送ユニットUを転写装置40に搬送させて、転写装置40に転写工程を実行させる(S45)。転写工程が完了すると、コントローラ71は、搬送ユニットUを染料定着装置50に搬送させて、染料定着装置50に定着工程を実行させる(S46)。S46における定着制御処理には、S15(
図13~
図15参照)と同様の処理を採用できる。
【0231】
次いで、コントローラ71は、印刷装置30、転写装置40、および染料定着装置50によって実際に染色されたレンズLについて、色情報計測器51(
図1参照)によって計測された色情報(結果色情報)を取得する(S47)。一例として、本実施形態では、結果色情報として、前述のように分光透過率データ(詳細には、L
*a
*b
*色空間、および、視感透過率Y値)が使用される。
【0232】
ここで、本実施形態の色情報計測器51は、種類が互いに異なる複数の光源(例えば、標準光源(一例として、CIE標準光源D65等)、白色光源、太陽光に近似する光を出射する光源等のうちの2つ以上)を備えている。色情報計測器51は、作業者によって指定された光源を用いて、レンズLの結果色情報を取得する。従って、ユーザが所望する光によって、レンズLの結果色情報が適宜取得される。
【0233】
次いで、コントローラ71は、S47で取得された結果色情報と、S42で決定された予定色の色情報との比較処理の結果に応じて、以後の染色工程において染色されるレンズLの色が予定色に近づくように、特定した染料の印刷装置30による吐出量(一例として、本実施形態では吐出量の決定手順)を補正する(S49)。本実施形態では、比較処理として、結果色情報と予定色の色情報との差を算出する処理が行われる。しかし、結果色情報と予定色の色情報の割合を算出する処理等が、比較処理として用いられてもよい。本実施形態のS49では、結果色情報が示す色の濃度と、予定色の色情報が示す濃度との差に基づいて、特定した染料の吐出量を決定するための決定手順が補正される。詳細には、吐出量の決定手順(アルゴリズム)として、ベース色情報と予定色に基づく演算が用いられている場合には、色情報の差に基づいて演算手順が補正される。また、吐出量の決定手順(アルゴリズム)として、予定色と吐出量を対応付けるテーブルが用いられている場合には、テーブルにおける対応付けが補正される。なお、決定手順を補正する具体的な方法は、適宜選択できる。例えば、結果色情報と予定色の色情報との差または割合等に応じて、決定手順の補正量が予め定められていてもよい。また、機械学習アルゴリズムによって訓練された数学モデルに、結果色情報と予定色の色情報との差または割合が入力されることで、決定手順の補正量が取得されてもよい。前述したように、S49に例示する補正処理は、レンズLの基材の種類に応じて実行される。
【0234】
次いで、コントローラ71は、印刷装置30が吐出(印刷)することが可能な複数の染料の全てについて、S42~S49の処理が完了したか否かを判断する(S51)。完了していない場合には(S51:NO)、複数の染料のうち、処理が完了していない他の染料が特定されて(S52)、S42~S49の処理が繰り返される。その結果、全ての染料の吐出量が適切に補正される。よって、複数の染料の組み合わせによって表現される多数の色も、適切に樹脂体に染色される。全ての染料についての処理が完了すると(S51:YES)、吐出量メンテナンス処理は終了する。
【0235】
なお、
図16に例示した吐出量メンテナンス処理では、複数の染料(本実施形態では赤、黄、青)の全てについて、吐出量(本実施形態では吐出量の決定手順)が補正される。しかし、複数の染料の一部についてのみ、吐出量が補正されてもよい。また、
図16に例示した吐出量メンテナンス処理では、各々の染料毎に吐出量が補正される。しかし、S42では、複数の染料によって染色される予定色が決定されてもよい。S43では、予定色を染色するための複数の染料の各々の吐出量が決定されてもよい。S44では、複数の染料が基体Sに印刷されてもよい。S49では、結果色情報と予定色の色情報に応じて、複数の染料の各々の吐出量が補正されてもよい。また、S49では、結果色情報である分光透過率データから取得される、各染料の最大吸収ピークの波長の透過率の値に基づいて、各染料の吐出量が補正されてもよい。この場合、S42~S49の処理が1回行われることで、複数の染料の吐出量が適切に補正される。なお、本実施形態では、色情報計測器51として、レンズLの分光スペクトルを計測する分光計測器が使用される。よって、複数の染料によってレンズLが染色される場合でも、各々の染料の吐出量は適切に補正される。
【0236】
(染色品質判定処理)
図17を参照して、染色システム1のコントローラ71が実行する染色品質判定処理について説明する。染色品質判定処理では、実際に染色されたレンズLの結果色と、予定色との差が許容範囲を超えているか否か(つまり、染色の品質が不良であるか否か)が判定され、判定結果に応じた処理が行われる。
【0237】
なお、染色品質判定処理は、前述した第1~第3染色制御処理(
図13~
図15参照)に組み込んで実行することも可能である。つまり、染色品質判定処理でも、
図13~
図15で説明した、識別子およびタグを用いた処理、前準備ユニット20による処理、およびコーティング装置60による処理を実行することが可能である。しかし、染色品質判定処理についての説明を簡略化するために、以下では、識別子およびタグを用いた処理等の説明は省略する。また、染色品質判定処理における一部の処理(例えば、S44~S47の処理等)には、前述した吐出量メンテナンス処理(
図16参照)と同様の処理を採用できる。従って、染色品質判定処理のうち、吐出量メンテナンス処理と同様の処理を採用できるステップについては、吐出量メンテナンス処理で付したステップ番号と同じ番号を付し、その説明を省略または簡略化する。コントローラ71は、複数の搬送ユニットUの各々に載置されたレンズLに対して染色工程を実行する際に、記憶装置に記憶された染色制御プログラムに従って、
図17に例示する染色品質判定処理を実行する。
【0238】
まず、コントローラ71は、染色されるレンズLの基材の種類の情報を取得する(S40)。後述するS61~S66の処理は、S40で取得された基材の種類毎に実行される。次いで、コントローラ71は、レンズLを染色する予定色の情報(色情報)を取得する(S61)。前述したように、コントローラ71は、識別子88に対応付けられた色パラメータ、または、タグから読み取られた色パラメータを、予定色の情報として取得してもよい。
【0239】
コントローラ71は、S61で取得した予定色をレンズLに染色するための、各々の染料の吐出量を決定する(S62)。各々の染料の吐出量を決定する決定手順には、前述したS42(
図16参照)と同様の手順を採用できる。S62の処理は、レンズLの基材の種類に応じて実行される。
【0240】
コントローラ71は、印刷装置30に対し、S62で決定した吐出量だけ各々の染料を基体Sに吐出(印刷)させる指示を出力する(S44)。印刷が完了すると、コントローラ71は、搬送ユニットUを転写装置40に搬送させて、転写装置40に転写工程を実行させる(S45)。転写工程が完了すると、コントローラ71は、搬送ユニットUを染料定着装置50に搬送させて、染料定着装置50に定着工程を実行させる(S46)。次いで、コントローラ71は、印刷装置30、転写装置40、および染料定着装置50によって実際に染色されたレンズLについて、色情報計測器51(
図1参照)によって計測された色情報(結果色情報)を取得する(S47)。
【0241】
次いで、コントローラ71は、結果色情報と、S61で取得された予定色の色情報との差が許容範囲(閾値)を超えているか否かを判定する(S62)。閾値は、求められている染色品質の程度等に応じて適宜設定されればよい。結果色情報と予定色との差が閾値以下である場合には(S62:NO)、染色品質は許容範囲内であるので、処理はそのまま終了する。
【0242】
結果色情報と予定色との差が閾値を超えている場合には(S62:YES)、品質不良通知処理が実行される(S63)。品質不良通知処理では、レンズLの染色の品質が不良であることが、ユーザに通知される。染色品質が不良であることを通知する方法は、適宜選択できる。例えば、メッセージをモニタに表示させる方法、音声で通知する方法、または、警告ランプによって通知する方法等を採用できる。
【0243】
次いで、コントローラ71は、吐出量補正モードが作業者によって選択されているか否かを判断する(S65)。本実施形態では、作業者は、染色システム1に染色工程を実行させる際に、吐出量補正モードまたは品質不良判定モードを選択することができる。吐出量補正モードでは、染色品質が不良である場合に、各染料の吐出量が補正される。品質不良判定モードでは、単に、染色品質が不良である場合に、品質が不良である旨が作業者に通知される。
【0244】
吐出量補正モードが選択されておらず、品質不良判定モードが選択されている場合には(S65:NO)、処理はそのまま終了する。吐出量補正モードが選択されている場合には(S65:YES)、コントローラ71は、S47で取得された結果色情報と、S61で取得された予定色の色情報に応じて、以後の染色工程において染色されるレンズLの色が予定色に近づくように、各染料の印刷装置30による吐出量(本実施形態では、吐出量の決定手順)を補正する(S66)。本実施形態のS66では、結果色情報が示す色の濃度と、予定色の色情報が示す濃度との差に基づいて、各染料の吐出量を決定するための決定手順が、レンズLの基材の種類毎に補正される。詳細には、吐出量の決定手順(アルゴリズム)として、ベース色情報と予定色に基づく演算が用いられている場合には、色情報の差に基づいて演算手順が補正される。また、吐出量の決定手順(アルゴリズム)として、予定色と吐出量を対応付けるテーブルが用いられている場合には、テーブルにおける対応付けが補正される。
【0245】
吐出量補正モードが常に選択されている場合には、レンズLの染色工程を実行する毎に、S66の補正処理が繰り返し実行される。つまり、染色工程が実行される毎に、結果色情報に応じて染料の吐出量を補正するフィードバック制御が行われる。
【0246】
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。例えば、上記実施形態で例示した複数の技術の一部のみを採用してもよい。一例として、上記実施形態で例示した第1染色制御処理~第3染色制御処理では、レンズLに対して実行する処置のパラメータが多数取得され、取得された多数のパラメータに従って、染色システム1による各種動作が制御される。しかし、上記実施形態で例示した多数のパラメータのうちの一部のみを参照して、染色システム1における一部の動作を制御することも可能である。
【0247】
なお、
図13のS5,S9,S14,S17、
図14のS14,S17、および
図15のS32,S34,S35,S36でパラメータを取得する処理は、「パラメータ取得ステップ」の一例である。
図13~
図15のS15で染料定着装置の駆動を制御する処理は、「定着制御ステップ」の一例である。
図13のS3でパラメータを識別子に対応付けて記憶させる処理は、「対応付けステップ」の一例である。
図14のS24で識別子を基体Sに印刷させる処理は、「識別子印刷制御ステップ」の一例である。
図13~
図15のS10で印刷装置30に染料を印刷させる処理は、「印刷制御ステップ」の一例である。
図13~
図15のS7で回転装置22の駆動を制御する処理は、「回転制御ステップ」の一例である。
図13~
図15のS18でコーティング装置の駆動を制御する処理は、「コーティング制御ステップ」の一例である。
【0248】
図16のS43、および
図17のS62で、予定色をレンズLに染色するための染料の吐出量を決定する処理は、「吐出量決定ステップ」の一例である。
図16および
図17のS47で結果色情報を取得する処理は、「結果色情報取得ステップ」の一例である。
図16のS49、および
図17のS66で決定手順を補正する処理は、「補正ステップ」の一例である。
図17のS63で実行される品質不良通知処理は、「通知ステップ」の一例である。
【符号の説明】
【0249】
1 染色システム
2 読取部
10 搬送装置
21 光学特性測定装置
22 回転装置
30 印刷装置
40 転写装置
50 染料定着装置
51 色情報計測器
60 コーティング装置
71 コントローラ
72 データベース
80 染色用トレイ
81 トレイ本体
82 装着部
82S 光透過部
83 凹部
84A 突部(位置決め部、基体保護部)
84B 突部(位置決め部、基体保護部、上部勘合部)
85 基体載置部
86 底部勘合部
87 スペーサ
88 識別子
89 載置枠
89S 光透過部
510 レーザ光照射部
511 レーザ光源
512 対物レンズ
513 走査部
520 レーザ光遮断部
525 樹脂体周辺部
530 サーモカメラ
540 流入口
550 排出口
560 圧力差発生部
570 輻射熱反射部
L レンズ
S 基体
U 搬送ユニット