(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】車両の駆動制御システム
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20240110BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240110BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240110BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20240110BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240110BHJP
【FI】
H02P27/08
B60L50/60
B60L15/20 J
B60L9/18 J
H02M7/48 F
(21)【出願番号】P 2020007308
(22)【出願日】2020-01-21
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 鉄隆
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-019402(JP,A)
【文献】国際公開第2010/143511(WO,A1)
【文献】特開2014-193096(JP,A)
【文献】特開2017-093218(JP,A)
【文献】特開2013-005618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K6/20-6/547
B60L1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
B60W10/00
10/02
10/06
10/08
10/10
10/18
10/26
10/28
10/30-20/50
H02M7/42-7/98
H02P21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置と、
走行用の電動機を駆動するインバータと、
前記蓄電装置と前記インバータとの間に設けられ、前記蓄電装置から前記インバータに供給される直流電力の電圧を前記蓄電装置の電圧以上に昇圧するコンバータと、
前記インバータ及び前記コンバータを制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
パルス幅変調制御と矩形波制御とを変調度により切り替えて前記インバータを制御し、
前記コンバータを連続的に作動させる連続制御モードと、前記コンバータを間欠的に作動させる間欠制御モードとのいずれかで前記コンバータを制御し、
前記コンバータが前記間欠制御モードで作動するときの前記矩形波制御の制御ゲインは、前記コンバータが前記連続制御モードで作動するときの
前記矩形波制御の前記制御ゲインよりも大きい、車両の駆動制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の駆動制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2015-223070号公報(特許文献1)は、直流電源に接続されて直流電源電圧を昇圧するDC/DCコンバータを備える車両の駆動制御システムを開示する。この駆動制御システムでは、DC/DCコンバータの損失を低減するために、DC/DCコンバータの昇圧動作中に所定の停止条件の成立に応じて、DC/DCコンバータを停止する昇圧間欠制御が行なわれる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-223070号公報
【文献】特開2019-146281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンバータを間欠的に作動させる昇圧間欠制御は、コンバータの損失を低減できる点で有用であるが、コンバータの停止中の負荷変動に応じてコンバータの出力電圧(昇圧後の直流電圧であり、以下「電圧VH」と称する場合がある。)の変動は大きくなる。そのため、電圧VHに対するインバータ出力電圧(モータ電圧)の比である変調度(「電圧利用率」と称される場合もある。)によりパルス幅変調制御(以下「PWM(Pulse Width Modulation)制御」と称する。)と矩形波制御とを切り替えてインバータを制御する場合に、昇圧間欠制御による電圧VHの変動に応じて変調度が変動することにより、PWM制御と矩形波制御とが頻繁に切り替わる。これにより、詳細は後述するが、d軸電圧指令値が徐々に上昇し、その結果、トルク指令値に対する実トルクの追従性が低下してトルク偏差が生じる場合がある。また、トルクの追従性が低下すると、本来発生し得ないような各種偏差が生じる場合もあり、このような偏差に基づいてシステムを監視している場合に、異常と誤検出することも懸念される。
【0005】
本開示は、かかる問題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、コンバータの昇圧間欠制御によりコンバータの損失低減を図りつつ、昇圧間欠制御に起因するトルク追従性の低下を抑制可能な車両の駆動制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の車両の駆動制御システムは、蓄電装置と、インバータと、コンバータと、制御装置とを備える。インバータは、走行用の電動機を駆動する。コンバータは、蓄電装置とインバータとの間に設けられ、蓄電装置からインバータに供給される直流電力の電圧を蓄電装置の電圧以上に昇圧する。制御装置は、インバータ及びコンバータを制御する。制御装置は、PWM制御と矩形波制御とを変調度により切り替えてインバータを制御する。また、制御装置は、コンバータを連続的に作動させる連続制御モードと、コンバータを間欠的に作動させる間欠制御モード(昇圧間欠制御)とのいずれかでコンバータを制御する。そして、コンバータが間欠制御モードで作動するときの矩形波制御の制御ゲインは、コンバータが連続制御モードで作動するときの矩形波制御の制御ゲインよりも大きい。
【0007】
上述のように、間欠制御モード時は、電圧VHの変動が大きくなるため、PWM制御と矩形波制御とが頻繁に切り替わることによりd軸電圧指令値が徐々に上昇し、その結果、トルク追従性の低下が生じる場合がある。この現象について、発明者らは詳細な解析を試み、以下の知見を得た。
【0008】
間欠制御モード中に、コンバータの停止により指令値に対して電圧VHが低下すると、PWM制御において、q軸電圧指令値に対して実際のq軸電圧が低下する。そうすると、d軸電流が負側に増加し、d軸電流偏差に応じてd軸電圧指令値が増加する。これにより、変調度が上昇し、インバータの制御はPWM制御から矩形波制御に切り替わる。矩形波制御では、電圧位相が操作され、増加したd軸電圧指令値は低下していく。一方、コンバータについては、電圧VHが所定レベルまで低下すると、コンバータが作動して電圧VHが上昇する。電圧VHが上昇すると、変調度が低下し、矩形波制御からパルス幅変調制御に切り替わる。
【0009】
ところで、インバータの入力側(直流側)には、通常、平滑用のコンデンサが設けられており、装置小型化のために、コンデンサの容量を低減する場合がある。この場合、負荷変動に応じて電圧VHが変動しやすくなるため、センサ誤差等の外乱によるロバスト性を考慮して、矩形波制御の制御ゲインを低めに設定する場合がある。
【0010】
このため、PWM制御において増加したd軸電圧指令値が矩形波制御により適切なレベルに戻る(低下する)前に、コンバータの作動による電圧VHの上昇により矩形波制御からPWM制御に切り替わる場合がある。そうすると、前回のPWM制御への切替時よりもd軸電圧指令値が大きい状態からPWM制御が行なわれ、d軸電圧指令値がさらに増加する。このように、PWM制御と矩形波制御とが頻繁に切り替わると、d軸電圧指令値が徐々に上昇していく。
【0011】
そこで、本開示の駆動制御システムでは、矩形波制御の制御ゲインについて、コンバータが間欠制御モードで作動するときの制御ゲインを、コンバータが連続制御モードで作動するときの制御ゲインよりも大きくする。これにより、間欠制御モードにおいて、PWM制御において増加したd軸電圧指令値を矩形波制御において適切なレベルに戻すことが可能となる。したがって、この駆動制御システムによれば、コンバータの昇圧間欠制御によりコンバータの損失低減を図りつつ、昇圧間欠制御に起因するトルク追従性の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示の車両の駆動制御システムによれば、コンバータの昇圧間欠制御によりコンバータの損失低減を図りつつ、昇圧間欠制御に起因するトルク追従性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の実施の形態1に従う駆動制御システムを搭載した車両の全体構成図である。
【
図2】
図1に示す制御装置の構成を機能的に示すブロック図である。
【
図3】
図2に示すPWM制御部の構成例を示すブロック図である。
【
図4】
図2に示す矩形波制御部の構成例を示すブロック図である。
【
図5】間欠制御モード中の各種パラメータの変化を示すタイミングチャートである。
【
図6】実施の形態1に従う制御装置により実行される矩形波制御の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】実施の形態2に従う制御装置により実行されるPWM制御の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下では、複数の実施の形態について説明するが、各実施の形態で説明された構成を適宜組合わせることは出願当初から予定されている。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0015】
[実施の形態1]
<駆動制御システムの構成>
図1は、本開示の実施の形態1に従う駆動制御システムを搭載した車両の全体構成図である。
図1を参照して、車両100は、直流電圧発生部10♯と、コンデンサC0と、インバータ14と、電動機M1と、制御装置30とを備える。
【0016】
直流電圧発生部10♯は、蓄電装置Bと、システムリレーSR1,SR2と、コンデンサC1と、コンバータ12とを含む。蓄電装置Bは、再充電可能に構成された電力貯蔵要素である。蓄電装置Bは、たとえば、リチウムイオン電池或いはニッケル水素電池等の二次電池や、電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を含んで構成される。なお、リチウムイオン二次電池は、リチウムを電荷担体とする二次電池であり、電解質が液体の一般的なリチウムイオン二次電池のほか、固体の電解質を用いた所謂全固体電池も含み得る。
【0017】
蓄電装置Bの電圧Vb及び蓄電装置Bに対して入出力される電流Ibは、それぞれ電圧センサ10及び電流センサ11によって検知される。システムリレーSR1は、蓄電装置Bの正極端子と電力線6との間に接続され、システムリレーSR2は、蓄電装置Bの負極端子と電力線5との間に接続される。システムリレーSR1,SR2は、制御装置30からの信号SEによりオン/オフされる。
【0018】
コンバータ12は、リアクトルL1と、スイッチング素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。スイッチング素子Q1,Q2は、電力線7と電力線5の間に直列に接続される。スイッチング素子Q1,Q2のオン/オフは、制御装置30からのスイッチング制御信号S1,S2によって制御される。ダイオードD1,D2は、それぞれスイッチング素子Q1,Q2に逆並列に接続される。リアクトルL1は、スイッチング素子Q1,Q2の接続ノードと電力線6との間に接続される。コンデンサC0は、電力線7と電力線5との間に接続される。
【0019】
インバータ14は、電力線7と電力線5との間に並列に設けられる、U相アーム15と、V相アーム16と、W相アーム17とを含む。各相アームは、電力線7と電力線5との間に直列接続されたスイッチング素子を含む。たとえば、U相アーム15は、スイッチング素子Q3,Q4から成り、V相アーム16は、スイッチング素子Q5,Q6から成り、W相アーム17は、スイッチング素子Q7,Q8から成る。スイッチング素子Q3~Q8には、それぞれダイオードD3~D8が逆並列に接続される。スイッチング素子Q3~Q8のオン/オフは、制御装置30からのスイッチング制御信号S3~S8によって制御される。
【0020】
なお、スイッチング素子Q1~Q8としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)や電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタ、電力用バイポーラトランジスタ等を用いることができる。
【0021】
電動機M1は、図示しない駆動輪を駆動するためのトルクを発生する。或いは、電動機M1は、図示しないエンジンにて駆動される発電機の機能を持つように構成されてもよく、電動機及び発電機の機能を併せ持つように構成されてもよい。電動機M1は、代表的には3相の永久磁石型同期電動機であり、U,V,W相の3つのコイルの一端が中性点に共通接続されて構成される。そして、U,V,W相コイルの他端は、それぞれU,V,W相アーム15~17のスイッチング素子の中間点に接続される。
【0022】
コンバータ12は、基本的には、各スイッチング周期内でスイッチング素子Q1,Q2が相補的かつ交互にオン/オフするように制御される。コンバータ12は、電圧VHを電圧Vb以上に昇圧する。この昇圧動作は、スイッチング素子Q2のオン期間にリアクトルL1に蓄積される電磁エネルギを、スイッチング素子Q1及びダイオードD1を介して電力線7へ供給することにより行なわれる。
【0023】
この昇圧動作における電圧変換比(VH及びVbの比)は、上記スイッチング周期に対するスイッチング素子Q1,Q2のオン期間比(デューティ比)により制御される。なお、スイッチング素子Q1,Q2をそれぞれオン,オフに固定すれば、VH=Vb(電圧変換比=1.0)とすることもできる。
【0024】
コンデンサC0は、コンバータ12からの直流電圧を平滑化し、その平滑化した直流電圧をインバータ14へ供給する。電圧センサ13は、コンデンサC0の両端の電圧すなわち電圧VHを検出し、その検出値を制御装置30へ出力する。
【0025】
インバータ14は、電動機M1のトルク指令値が正(Trqcom>0)の場合には、スイッチング制御信号S3~S8に応答したスイッチング素子Q3~Q8のスイッチング動作により直流電圧を交流電圧に変換し、正のトルクを出力するように電動機M1を駆動する。また、インバータ14は、電動機M1のトルク指令値が零の場合(Trqcom=0)には、スイッチング制御信号S3~S8に応答したスイッチング動作により直流電圧を交流電圧に変換し、トルクが零になるように電動機M1を駆動する。これにより、電動機M1は、トルク指令値Trqcomによって指定された零又は正のトルクを発生するように駆動される。
【0026】
さらに、車両の回生制動時には、電動機M1のトルク指令値が負に設定される(Trqcom<0)。この場合には、インバータ14は、スイッチング制御信号S3~S8に応答したスイッチング動作により、電動機M1が発電した交流電圧を直流電圧に変換し、その変換した直流電圧をコンバータ12へ供給する。なお、ここでいう回生制動とは、電動車両を運転するドライバーによるフットブレーキ操作があった場合の回生発電を伴なう制動や、フットブレーキを操作しないものの、走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両を減速(又は加速の中止)させることを含む。
【0027】
電流センサ24は、電動機M1に流れるモータ電流iを検出し、その検出値を制御装置30へ出力する。なお、三相電流iu,iv,iwの瞬時値の和は零であるので、電流センサ24は、2相分のモータ電流(たとえばV相電流iv及びW相電流iw)を検出するように配置すれば足りる。
【0028】
回転角センサ(レゾルバ)25は、電動機M1のロータの回転角θを検出し、その検出値を制御装置30へ出力する。制御装置30は、回転角θに基づいて、電動機M1の回転速度及び角速度ω(rad/s)を算出することができる。なお、回転角センサ25については、回転角θを制御装置30にてモータ電圧や電流から直接演算することによって配置を省略してもよい。
【0029】
制御装置30は、電子制御ユニット(ECU(Electronic Control Unit))により構成され、CPU(Central Processing Unit)と、メモリ(ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory))と、各種信号を入出力するための入出力ポートとを含んで構成される(いずれも図示せず)。制御装置30は、各センサから受ける信号並びにメモリに記憶されたプログラム及びマップ等に基づいて、車両100の走行状態や蓄電装置Bの充放電等の各種制御を実行する。なお、これらの制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で構築して処理することも可能である。
【0030】
代表的な機能として、制御装置30は、トルク指令値Trqcomや、各センサによって検出される電圧Vb、電流Ib、電圧VH、モータ電流iv,iw、回転角θ等に基づいて、後述する制御方式により電動機M1がトルク指令値Trqcomに従ったトルクを出力するように、インバータ14の動作を制御する。
【0031】
また、制御装置30は、コンバータ12を連続制御モード及び間欠制御モードのいずれかで制御する。連続制御モードは、コンバータ12が昇圧動作を停止することなく作動するモードである。間欠制御モードは、コンバータ12が昇圧動作と昇圧動作の停止とを間欠的に繰り返すモードである。間欠制御モードは、コンバータの停止状態を含むため、コンバータ12を間欠制御モードで作動させることにより、コンバータ12の損失を低減することができる。
【0032】
制御装置30は、たとえば、車両100が低負荷走行中であって電動機M1の電流消費が少ない場合に、コンバータ12を間欠制御モードで作動させる。そして、間欠制御モードでは、制御装置30は、電圧VHの指令値VHrと電圧VHとの偏差が所定値よりも小さいときは、コンバータ12を停止し、上記偏差が所定値を超えると、コンバータ12を作動させて電圧VHを指令値VHrまで昇圧させる。なお、コンバータ12が昇圧動作を行なうときは、スイッチング素子Q1,Q2のオン/オフが切り替えられ、コンバータ12が停止するときは、スイッチング素子Q1,Q2のいずれもオフにされる。
【0033】
なお、連続制御モードでコンバータ12が昇圧を行なわない場合と、間欠制御モードでコンバータ12が停止する場合とは、以下の点で相違する。すなわち、連続制御モードでコンバータ12が昇圧を行なわない場合には、スイッチング素子Q1,Q2がそれぞれオン,オフに固定され(デューティ比1)、電圧VHは、蓄電装置Bの電圧となる。一方、間欠制御モードでコンバータ12が停止する場合は、スイッチング素子Q1,Q2がいずれもオフにされ、電圧VHが蓄電装置Bの電圧Vbよりも低くならない限り、蓄電装置Bの電圧がコンバータ12を通じてインバータ14へ供給されることはない。
【0034】
<電動機M1の制御>
この駆動制御システムでは、電動機M1の制御について、PWM制御と矩形波制御とを切り替えて使用する。
【0035】
PWM制御では、たとえば、正弦波状の電圧指令と搬送波(代表的には三角波)との電圧比較に従って、各相アーム素子のオン/オフが制御される(正弦波PWM制御)。この結果、上アーム素子のオン期間に対応するハイレベル期間と、下アーム素子のオン期間に対応するローレベル期間との集合について、一定期間内でその基本波成分が正弦波となるようにデューティが制御される。
【0036】
なお、正弦波PWM制御では、正弦波状の電圧指令の振幅が搬送波振幅以下の範囲に制限されるため、電動機M1への印加電圧(以下、「モータ印加電圧」とも称する。)の基本波成分を電圧VHの約0.61倍程度までしか高めることができない。電圧VHに対するモータ印加電圧(線間電圧)の基本波成分(実効値)の比である変調度は、たとえば次式によって示される。
【0037】
変調度=√(Vd2+Vq2)/VH …(1)
なお、PWM制御は、電圧指令(正弦波成分)の振幅が搬送波振幅より大きい範囲で正弦波PWM制御と同様のPWM制御を行なう過変調PWM制御を含んでもよい。過変調PWM制御では、電圧指令を本来の正弦波波形から歪ませること(振幅補正)によって基本波成分を高めることができ、変調度を正弦波PWM制御モードでの最高変調率から0.78の範囲まで高めることができる。なお、以下では、PWM制御は、正弦波PWM制御であるものとする。
【0038】
矩形波制御では、上記一定期間内で、ハイレベル期間及びローレベル期間の比が1:1の矩形波1パルス分の電圧が電動機M1に印加される。これにより、矩形波制御では、変調率は0.78まで高められる。
【0039】
電動機M1においては、回転速度や出力トルクが増加すると誘起電圧が高くなるので、必要となる駆動電圧(モータ必要電圧)が高くなる。電圧VHは、このモータ必要電圧よりも高く設定する必要がある。一方、電圧VHには、限界値が存在する。したがって、電動機M1の動作状態に応じて、PWM制御と矩形波制御とが選択的に適用される。なお、矩形波制御では、モータ印加電圧の振幅が固定されるので、トルク指令値に対するトルク偏差(トルク実績値(推定値)とトルク指令値との差)に基づく矩形波電圧パルスの位相制御によってトルク制御が実行される。
【0040】
図2は、
図1に示した制御装置30の構成を機能的に示すブロック図である。
図2を参照して、制御装置30は、PWM制御部200と、矩形波制御部400と、制御モード切替部500とを含む。
【0041】
PWM制御部200は、トルク指令値Trqcomと、電流センサ24によって検出されるモータ電流iv,iwと、回転角センサ25により検出される回転角θとを受ける。そして、PWM制御部200は、これらの信号に基づいて、インバータ14に印加する電圧指令値Vd#,Vq#を電流フィードバック制御により生成し、生成された電圧指令値Vd#,Vq#に基づいて、インバータ14を駆動するためのスイッチング制御信号S3~S8を生成して制御モード切替部500へ出力する。
【0042】
矩形波制御部400は、トルク指令値Trqcomと、モータ電流iv,iwと、回転角θとを受ける。そして、矩形波制御部400は、これらの信号に基づいて、インバータ14に印加する矩形波電圧の位相をトルクフィードバック制御により設定し、その設定された電圧位相に基づいて、インバータ14を駆動するためのスイッチング制御信号S3~S8を生成して制御モード切替部500へ出力する。
【0043】
制御モード切替部500は、PWM制御部200から電圧指令値Vd#,Vq#を受け、電圧センサ13から電圧VHを受ける。そして、制御モード切替部500は、電圧VHと電圧指令値Vd#,Vq#とから算出される変調度に基づいて、PWM制御と矩形波制御との切替を行なう。詳しくは、制御モード切替部500は、変調度がM1まで上昇するとPWM制御から矩形波制御へ切り替える。また、制御モード切替部500は、変調度がM2(M2<M1)まで低下すると矩形波制御からPWM制御へ切り替える。M2<M1としているのは、しきい値近傍での切替チャタリングを防ぐためである。
【0044】
<PWM制御>
図3は、
図2に示したPWM制御部200の構成例を示すブロック図である。
図3を参照して、PWM制御部200は、電流指令生成部210と、座標変換部220,250と、PI演算部240,242と、PWM変調部260とを含む。
【0045】
電流指令生成部210は、トルクとd軸電流及びq軸電流との関係を示す予め準備されたマップ又はテーブルを用いて、電動機M1のトルク指令値Trqcomに対応するd軸電流指令値Idcom及びq軸電流指令値Iqcomを生成する。座標変換部220は、電動機M1の回転角θを用いた座標変換(uvw3相→dq2相)により、電流センサ24によって検出されるV相電流iv及びW相電流iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
【0046】
PI演算部240は、d軸電流指令値Idcomに対するd軸電流偏差ΔId(ΔId=Idcom-Id)について、次式に従ってPI(比例積分)演算を行なうことによりd軸電圧指令値Vd♯を算出する。
【0047】
Vd♯=Kdp×ΔId+Kdi×ΣΔId …(2)
PI演算部242は、q軸電流指令値Iqcomに対するq軸電流偏差ΔIq(ΔIq=Iqcom-Iq)について、次式に従ってPI演算を行なうことによりq軸電圧指令値Vq♯を算出する。
【0048】
Vq♯=Kdq×ΔIq+Kqi×ΣΔIq …(3)
なお、式(2),(3)において、Kdp,Kdqは比例ゲインであり、Kdi,Kqiは積分ゲインである。
【0049】
座標変換部250は、電動機M1の回転角θを用いた座標変換(dq2相→uvw3相)によって、d軸電圧指令値Vd♯及びq軸電圧指令値Vq♯をU相,V相,W相の各相電圧指令値Vu,Vv,Vwに変換する。PWM変調部260は、各相電圧指令値Vu,Vv,Vwと搬送波との比較に基づいて、インバータ14を駆動するためのスイッチング制御信号S3~S8(PWM信号)を生成する。なお、搬送波は、所定周波数の三角波やのこぎり波によって構成される。
【0050】
<矩形波制御>
図4は、
図2に示した矩形波制御部400の構成例を示すブロック図である。
図4を参照して、矩形波制御部400は、座標変換部410と、トルク推定部420と、PI演算部430と、スイッチング指令演算部440とを含む。
【0051】
座標変換部410は、電動機M1の回転角θを用いた座標変換(uvw3相→dq2相)により、電流センサ24によって検出されるV相電流iv及びW相電流iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。トルク推定部420は、d軸電流及びq軸電流とトルクとの関係を示す予め準備されたマップ又はテーブルを用いて、d軸電流Id及びq軸電流Iqから電動機M1のトルク推定値Trqを算出する。
【0052】
PI演算部430は、トルク指令値Trqcomに対するトルク偏差ΔTrq(ΔTrq=Trqcom-Trq)について、次式に従ってPI演算を行なうことにより矩形波電圧の位相φvを算出する。
【0053】
φv=Kp×ΔTrq+Ki×ΣΔTrq …(4)
Kp,Kiは、それぞれ比例ゲイン及び積分ゲインであり、いずれも正値である。このようなトルクフィードバック(F/B)制御により、正トルク発生時(Trqcom>0)には、トルク不足時(ΔTrq>0)には電圧位相を進める(φv>0)一方で、トルク過剰時(ΔTrq<0)には電圧位相を遅らせる(φv<0)とともに、負トルク発生時には、トルク不足時には電圧位相を遅らせる一方で、トルク過剰時には電圧位相を進める。
【0054】
スイッチング指令演算部440は、電圧位相φvに従って各相電圧指令値(矩形波パルス)Vu,Vv,Vwを生成し、各相電圧指令値Vu,Vv,Vwに基づいてスイッチング制御信号S3~S8を生成する。そして、インバータ14がスイッチング制御信号S3~S8に従ったスイッチング動作を行なうことにより、電圧位相φvに従った矩形波パルスが電動機M1の各相電圧として印加される。
【0055】
なお、座標変換部410及びトルク推定部420に代えてトルクセンサを配置することによって、当該トルクセンサの検出値に基づいてトルク偏差ΔTrqを求めてもよい。
【0056】
<間欠制御モードにおけるトルク偏差の発生>
コンバータ12の間欠制御モード中は、コンバータ12の停止中の負荷変動に応じて電圧VHの変動が大きくなる。そのため、電圧VHの変動に応じて変調度が変動し、PWM制御と矩形波制御とが頻繁に切り替わる。これにより、d軸電圧指令値Vd♯が徐々に上昇し、その結果、トルク指令値Trqcomに対する実トルクの追従性が低下してトルク偏差が生じる場合がある。以下、このトルク偏差発生のメカニズムについて説明する。
【0057】
図5は、間欠制御モード中の各種パラメータの変化を示すタイミングチャートである。この
図5では、電圧VH、コンバータ12の作動状態(禁止/作動)、インバータ14の制御(矩形波制御/PWM制御)、d軸電流Id、d軸電圧指令値Vd#、変調度、電動機M1の実トルク(トルク推定値Trq)の時系列変化が示されている。
【0058】
図5を参照して、時刻t1において、電圧VHが指令値VHrに達したために、コンバータ12の駆動が禁止され、コンバータ12が停止する。時刻t2では、変調度がM2を下回ったため、インバータ制御が矩形波制御からPWM制御に切り替わる。
【0059】
時刻t1以降は、コンバータ12が停止しているため、電圧VHが低下する。指令値VHrに対して電圧VHが低下すると、PWM制御において、q軸電圧指令値Vq#に対して実際のq軸電圧Vqが低下する。q軸電圧Vqが低下すると、d軸電流Idが負側に増加する。そうすると、PWM制御において、d軸電流偏差ΔId(ΔId=Idcom-Id)に基づいてd軸電圧指令値Vd#が増加する。
【0060】
d軸電圧指令値Vd#が増加すると、変調度が増加する。そして、時刻t3において、変調度がM1に達すると、インバータ制御がPWM制御から矩形波制御に切り替わる。矩形波制御においては、モータ印加電圧の位相が操作され、PWM制御において増加したd軸電圧指令値Vd#が低下傾向となる。
【0061】
一方、コンバータ12については、時刻t4において、指令値VHrに対して電圧VHが所定値以上低下したため、コンバータ12の駆動禁止が解除され、コンバータ12が作動して電圧VHが上昇する。電圧VHが上昇すると、変調度は低下する。
【0062】
そして、時刻t5において、電圧VHが指令値VHrに達したことにより、コンバータ12の駆動が禁止され、コンバータ12が停止する。時刻t6では、変調度がM2を下回ったため、インバータ制御が矩形波制御からPWM制御に再び切り替わる。
【0063】
ところで、矩形波制御においては、制御安定化の観点から制御ゲインが低めに設定される場合がある。特に、装置小型化のために平滑用のコンデンサC0の容量を小さくする場合には、負荷変動に応じて電圧VHが変動しやすくなるため、センサ誤差等の外乱によるロバスト性を考慮して、矩形波制御の制御ゲインを低めに設定することが行なわれる。
【0064】
この場合、時刻t2~t3のPWM制御において増加したd軸電圧指令値Vd#が、時刻t3~t6の矩形波制御により適切なレベルに戻る(低下する)前に、時刻t6において、コンバータ12の作動による電圧VHの上昇により矩形波制御からPWM制御に再び切り替わる。そうすると、前回の時刻t2におけるPWM制御への切替時よりもd軸電圧指令値Vd#が大きい状態からPWM制御が行なわれ、d軸電圧指令値Vd#がさらに増加する。
【0065】
そして、時刻t6~t10においても、時刻t2~t6と同様に、d軸電圧指令値Vd#が全体として上昇する。このように、PWM制御と矩形波制御とが頻繁に切り替わると、d軸電圧指令値Vd#が徐々に上昇し、その結果、トルク偏差Trqが増加していく。
【0066】
そこで、本実施の形態1に従う駆動制御システムでは、コンバータ12の間欠制御モード中は、矩形波制御の制御ゲインを連続制御モード時の制御ゲインよりも大きくする。これにより、間欠制御モードにおいて、PWM制御において増加したd軸電圧指令値Vd#を矩形波制御において適切なレベルに戻すことが可能となる。したがって、この駆動制御システムによれば、コンバータ12の昇圧間欠制御によりコンバータ12の損失低減を図りつつ、昇圧間欠制御に起因するトルク偏差を抑制することができる。
【0067】
なお、間欠制御モードにおいて連続制御モード時よりも大きくする矩形波制御の制御ゲインは、積分ゲインKiと比例ゲインKpとの双方であってもよいし、積分ゲインKiのみであってもよい。d軸電圧指令値Vd#の上昇は、矩形波制御部400におけるPI演算部430の積分項の増加によるものであるため、積分ゲインKiを大きくすることが効果的であるが、十分な制御応答性が得られれば比例ゲインKpのみを大きくしてもよい。
【0068】
図6は、実施の形態1に従う制御装置30により実行される矩形波制御の処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示される一連の処理は、所定の期間毎に繰り返し実行される。
【0069】
図6を参照して、制御装置30は、回転角センサ25から電動機M1の回転角θの検出値を取得し、電流センサ24から電動機M1の電流iv,iwを取得する(ステップS10)。次いで、制御装置30は、ステップS20において、取得した回転角θを用いて、電流センサ24によって検出されるV相電流iv及びW相電流iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する(uvw3相→dq2相変換)。
【0070】
次いで、制御装置30は、d軸電流及びq軸電流とトルクとの関係を示す予め準備されたマップ又はテーブルを用いて、d軸電流Id及びq軸電流Iqから、電動機M1の実トルクの推定値であるトルク推定値Trqを算出する(ステップS30)。
【0071】
続いて、制御装置30は、コンバータ12が間欠制御モード中であるか否かを判定する(ステップS40)。たとえば、制御装置30は、車両100が低負荷走行中であって電動機M1の電流消費が所定値よりも少ない場合に、コンバータ12を間欠制御モードで作動させる。
【0072】
間欠制御モード中ではない、すなわち連続制御モード中であると判定されると(ステップS40においてNO)、制御装置30は、矩形波制御の制御ゲインとして、連続制御モード用のF/B制御ゲインK1(比例ゲインKp1及び積分ゲインKi1)を設定する(ステップS50)。
【0073】
一方、ステップS40において間欠制御モード中であると判定されると(ステップS40においてYES)、制御装置30は、矩形波制御の制御ゲインとして、間欠制御モード用のF/B制御ゲインK2(比例ゲインKp2及び積分ゲインKi2)を設定する(ステップS60)。
【0074】
ここで、間欠制御モード用のF/B制御ゲインK2は、連続制御モード用のF/B制御ゲインK1よりも大きい。本実施の形態1では、比例ゲインKp及び積分ゲインKiのいずれについても、間欠制御モード用のゲインは連続制御モード用のゲインよりも大きく、すなわち、Kp2>Kp1、Ki2>Ki1である。なお、各ゲインKp1,Ki1,Kp2,Ki2は、制御装置30のメモリ(ROM)に記憶されている。
【0075】
次いで、制御装置30は、トルク指令値Trqcomとトルク推定値Trqとの偏差ΔTrqを算出し、その算出されたトルク偏差ΔTrqに基づくPI制御(トルクF/B制御)を実行する(ステップS70)。具体的には、制御装置30は、トルク偏差ΔTrqについてPI演算を行なうことにより制御偏差を算出し、その制御偏差に応じて矩形波電圧の位相φvを設定する。
【0076】
そして、制御装置30は、設定された電圧位相φvに従って、各相電圧指令値(矩形波パルス)Vu,Vv,Vwを生成し、各相電圧指令値Vu,Vv,Vwに基づいてスイッチング制御信号S3~S8を生成する(ステップS80)。そして、インバータ14がスイッチング制御信号S3~S8に従ったスイッチング動作を行なうことにより、電圧位相φvに従った矩形波パルスがモータの各相電圧として印加される。
【0077】
以上のように、この実施の形態1においては、矩形波制御の制御ゲインについて、コンバータ12が間欠制御モードで作動するときの制御ゲインK2が、コンバータ12が連続制御モードで作動するときの制御ゲインK1よりも大きい。これにより、間欠制御モードにおいて、PWM制御において増加したd軸電圧指令値Vd#を矩形波制御において適切なレベルに戻すことができる。したがって、この実施の形態1によれば、コンバータ12の昇圧間欠制御によりコンバータ12の損失低減を図りつつ、昇圧間欠制御に起因するトルク追従性の低下を抑制することができる。
【0078】
[実施の形態2]
実施の形態1では、間欠制御モードにおいて、PWM制御において増加したd軸電圧指令値Vd#を矩形波制御において適切なレベルに戻すために、矩形波制御の制御ゲインを連続制御モード時のF/B制御ゲインよりも大きくするものとした。本実施の形態2では、間欠制御モードにおいて、PWM制御におけるd軸電圧指令値Vd#の増加を抑制するために、PWM制御の制御ゲインを連続制御モード時の制御ゲインよりも小さくする。
【0079】
実施の形態2における車両100及びそれに搭載される駆動制御システムの全体構成は、
図1から
図4に示した構成と同じである。
【0080】
図7は、実施の形態2に従う制御装置30により実行されるPWM制御の処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示される一連の処理は、所定の期間毎に繰り返し実行される。
【0081】
図7を参照して、制御装置30は、回転角センサ25から電動機M1の回転角θの検出値を取得し、電流センサ24から電動機M1の電流iv,iwを取得する(ステップS110)。次いで、制御装置30は、ステップS120において、取得した回転角θを用いて、電流センサ24によって検出されるV相電流iv及びW相電流iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する(uvw3相→dq2相変換)。
【0082】
次いで、制御装置30は、電動機M1のトルクとd軸電流及びq軸電流との関係を示す予め準備されたマップ又はテーブルを用いて、トルク指令値Trqcomからd軸電流指令値Idcom及びq軸電流指令値Iqcomを算出する(ステップS130)。
【0083】
続いて、制御装置30は、コンバータ12の制御モードが間欠制御モード中であるか否かを判定する(ステップS140)。たとえば、制御装置30は、車両100が低負荷走行中であって電動機M1の電流消費が所定値よりも少ない場合に、コンバータ12を間欠制御モードで作動させる。
【0084】
間欠制御モード中ではない、すなわち連続制御モード中であると判定されると(ステップS140においてNO)、制御装置30は、PWM制御の制御ゲインとして、連続制御モード用のF/B制御ゲインK3(d軸電圧指令値Vd#算出用の比例ゲインKdp3及び積分ゲインKdi3、並びにq軸電圧指令値Vq#算出用の比例ゲインKqp3及び積分ゲインKqi3)を設定する(ステップS150)。
【0085】
一方、ステップS140において間欠制御モード中であると判定されると(ステップS140においてYES)、制御装置30は、PWM制御の制御ゲインとして、間欠制御モード用のF/B制御ゲインK4(d軸電圧指令値Vd#算出用の比例ゲインKdp4及び積分ゲインKdi4、並びにq軸電圧指令値Vq#算出用の比例ゲインKqp4及び積分ゲインKqi4)を設定する(ステップS160)。
【0086】
ここで、間欠制御モード用のF/B制御ゲインK4は、連続制御モード用のF/B制御ゲインK3よりも小さい。本実施の形態1では、比例ゲインKdp,Kqp及び積分ゲインKdi,Kqiのいずれについても、間欠制御モード用のゲインは連続制御モード用のゲインよりも小さく、すなわち、Kdp4<Kdp3、Kdi4<Kdi3、Kqp4<Kqp3、Kqi4<Kqi3である。
【0087】
次いで、制御装置30は、d軸電流指令値Idcomとd軸電流Idとの偏差ΔId、及びq軸電流指令値Iqcomとq軸電流Iqとの偏差ΔIqを算出し、その算出された偏差ΔId,ΔIqに基づくPI制御(電流F/B制御)を実行する(ステップS170)。具体的には、制御装置30は、d軸電流偏差ΔIdについてPI演算を行なうことにより制御偏差を算出し、その制御偏差に応じてd軸電圧指令値Vd#を設定する。また、制御装置30は、q軸電流偏差ΔIqについてPI演算を行なうことにより制御偏差を算出し、その制御偏差に応じてq軸電圧指令値Vq#を設定する。
【0088】
次いで、制御装置30は、ステップS180において、ステップS110にて取得した回転角θを用いて、設定されたd軸電圧指令値Vd#及びq軸電圧指令値Vq#をU相,V相,W相の各相電圧指令Vu,Vv,Vwに変換する(dq2相→uvw3相変換)。
【0089】
そして、制御装置30は、生成された各相電圧指令Vu,Vv,Vwと搬送波との比較に基づいて、インバータ14を駆動するためのスイッチング制御信号S3~S8を生成する(ステップS190)。そして、インバータ14がスイッチング制御信号S3~S8に従ったPWMスイッチング動作を行なうことにより、d軸電圧指令値Vd#及びq軸電圧指令値Vq#に従った電圧がモータの各相電圧として印加される。
【0090】
以上のように、この実施の形態2においては、PWM制御の制御ゲインについて、コンバータ12が間欠制御モードで作動するときの制御ゲインK4が、コンバータ12が連続制御モードで作動するときの制御ゲインK3よりも小さい。これにより、間欠制御モードにおいて、PWM制御におけるd軸電圧指令値Vd#の増加を抑制することができ、増加したd軸電圧指令値Vd#を矩形波制御において適切なレベルに戻すことができる。したがって、この実施の形態2によっても、コンバータ12の昇圧間欠制御によりコンバータ12の損失低減を図りつつ、昇圧間欠制御に起因するトルク追従性の低下を抑制することができる。
【0091】
今回開示された各実施の形態は、技術的に矛盾しない範囲で適宜組合わせて実施することも予定されている。そして、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0092】
5,6,7 電力線、10,13 電圧センサ、10# 直流電圧発生部、11,24 電流センサ、12 コンバータ、14 インバータ、15 U相アーム、16 V相アーム、17 W相アーム、25 回転角センサ、30 制御装置、100 車両、200 PWM制御部、210 電流指令生成部、220,250,410 座標変換部、240,242,430 PI演算部、260 PWM変調部、400 矩形波制御部、420 トルク推定部、440 スイッチング指令演算部、500 制御モード切替部、C0,C1 コンデンサ、D1~D8 ダイオード、L1 リアクトル、M1 電動機、Q1~Q8 スイッチング素子。