(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】回転テーブル装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 1/52 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
B23Q1/52
(21)【出願番号】P 2020009332
(22)【出願日】2020-01-23
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 義夫
(72)【発明者】
【氏名】古畑 鉄朗
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-309632(JP,A)
【文献】特開2005-138243(JP,A)
【文献】特開2006-132698(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第00701198(GB,A)
【文献】米国特許第02845312(US,A)
【文献】特開2017-159394(JP,A)
【文献】特開2016-129921(JP,A)
【文献】特開2000-271829(JP,A)
【文献】特開2002-292503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/52
B23B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向の回転軸線を中心として回転する回転軸部材と、
前記回転軸部材と一体に回転する回転テーブルと、
前記回転テーブルの下面が摺動する摺動面を有し、前記摺動面によって前記回転テーブルからの垂直荷重を受ける基台と、
前記回転テーブルの下方で前記回転軸部材と前記基台との間に配置され、複数の転動体を一対の軌道輪によって上下方向に挟んでなるスラスト軸受とを備え、
前記回転テーブルは、前記下面と前記摺動面との固体同士の摺動により前記基台に対して回転し、
前記スラスト軸受には、
前記一対の軌道輪のうち上側の軌道輪が鉛直方向下方に向か
って押し付けられることにより予圧が付与されており、
前記回転軸部材には、前記一対の軌道輪のうち下側の軌道輪を受ける受け部が設けられて
おり、
前記回転テーブルから受ける前記摺動面に作用する負荷が大きくなると、前記スラスト軸受に付与される予圧が小さくなる、
回転テーブル装置。
【請求項2】
前記基台は、前記受け部との間に前記スラスト軸受を挟む予圧付与部材と、前記予圧
付与部材が締結部材によって締結された基台本体とを有し、
前記予圧付与部材が前記締結部材によって前記基台本体に締結されることにより、前記スラスト軸受に前記予圧が付与されて
おり、
前記回転テーブルから受ける前記摺動面に作用する負荷が大きくなると、前記回転軸部材が前記基台に対して下方へ移動して前記スラスト軸受に付与される予圧が小さくなる、
請求項1に記載の回転テーブル装置。
【請求項3】
前記回転テーブルの積載重量に応じた押圧力で前記
スラスト軸受を押圧する押圧装置を備え、
前記押圧装置によって前記予圧が付与されている、
請求項1に記載の回転テーブル装置。
【請求項4】
前記押圧装置は、シリンダに供給される作動油の油圧を受けて前記一対の軌道輪のうち上側の軌道輪を押圧するピストンと、前記シリンダに前記作動油を供給する油圧ユニットと、前記油圧ユニットを制御する制御部とを有する、
請求項3に記載の回転テーブル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転テーブル上に載置される回転対象物を回転させる回転テーブル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マシニングセンタ等の工作機械には、回転テーブル装置によって工作物を回転させながら加工を行うものがある。このような回転テーブル装置としては、特許文献1,2に記載のものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の回転テーブル装置は、上向きに延びる軸部材を有するベースと、この軸部材の軸線回りに回転可能な回転テーブルとを備えている。回転テーブルは、ベースに設けられた側壁によって区画された流体圧室に油供給源から油が供給される静圧軸受構造により、ベース上で円滑に回転可能に支持されている。
【0004】
特許文献2に記載の回転テーブル装置は、ベースとしての支持台の上面に油含浸樹脂からなる摺動材が配置され、回転テーブルの下面にはスチール製の摺動部材が取り付けられている。回転テーブルは、電動モータ等の回転動力源によってベースに対して回転し、摺動部材が摺動材の上面を摺動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-129921号公報
【文献】特開2017-159394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
工作物の加工精度を上げるためには、加工荷重によって回転テーブルがベースから浮き上がったりずれたりしないよう、特許文献2に記載された回転テーブル装置のように、回転テーブルをベースに対して固体潤滑によって回転可能に支持することが望ましい。しかし、この場合には、回転テーブル上に工作物が載置された状態で回転テーブルが回転するときと、回転テーブル上に工作物が載置されない状態で回転テーブルが回転するときとで回転テーブルの摺動抵抗が大きく異なるため、何れの状態でも回転テーブルをベースに対して円滑に回転させるための電動モータのフィードバック制御における制御ゲイン(比例速度制御ゲインや積分制御ゲイン)の調整が難しいという課題がある。
【0007】
具体的には、回転テーブル上に工作物が載置されない軽負荷の状態の状態で電動モータの制御ゲインを調整すると、重量が大きな工作物が回転テーブル上に載置された重負荷の状態では回転テーブルの位置制御の応答性が低くなってしまう。また、重負荷の状態で電動モータの制御ゲインを調整すると、軽負荷の状態で回転テーブルを回転させるときに振動が発生しやすくなる。このため、例えば重負荷時の応答性が低く抑えられる値に制御ゲインを設定せざるを得ない場合があった。
【0008】
そこで、本発明は、回転テーブルが軽負荷で回転する場合の摺動抵抗と回転テーブルが重負荷で回転する場合の摺動抵抗との差を小さくし、以って軽負荷時の振動抑制と重負荷時の応答性とを両立させることが可能な回転テーブル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成するため、鉛直方向の回転軸線を中心として回転する回転軸部材と、前記回転軸部材と一体に回転する回転テーブルと、前記回転テーブルの下面が摺動する摺動面を有し、前記摺動面によって前記回転テーブルからの垂直荷重を受ける基台と、前記回転テーブルの下方で前記回転軸部材と前記基台との間に配置され、複数の転動体を一対の軌道輪によって上下方向に挟んでなるスラスト軸受とを備え、前記回転テーブルは、前記下面と前記摺動面との固体同士の摺動により前記基台に対して回転し、前記スラスト軸受には、前記一対の軌道輪のうち上側の軌道輪が鉛直方向下方に向かって押し付けられることにより予圧が付与されており、前記回転軸部材には、前記一対の軌道輪のうち下側の軌道輪を受ける受け部が設けられており、前記回転テーブルから受ける前記摺動面に作用する負荷が大きくなると、前記スラスト軸受に付与される予圧が小さくなる、回転テーブル装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る回転テーブル装置によれば、回転テーブルが軽負荷で回転する場合の摺動抵抗と回転テーブルが重負荷で回転する場合の摺動抵抗との差を小さくすることができ、軽負荷時の振動抑制と重負荷時の応答性とを両立させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る回転テーブル装置が用いられた横型マシニングセンタを示す外観斜視図である。
【
図4】回転テーブル装置をY軸方向に沿って上方から見た構成図である。
【
図5】(a)乃至(c)は、軽負荷時、中負荷時、及び重負荷時の回転テーブル装置の状態を示す説明図である。
【
図6】第2の実施の形態における回転テーブル装置の要部を示す断面図である。
【
図7】(a)及び(b)は、第2の実施の形態における回転テーブル装置の軽負荷時及び重負荷時の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、
図1乃至
図5を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る回転テーブル装置2が用いられた工作機械の一種である横型マシニングセンタ1を示す外観斜視図である。
図1では、互いに直交する三つの直線駆動軸をX軸、Y軸、及びZ軸を示しており、このうちX軸及びZ軸が水平方向であり、Y軸が鉛直方向である。また、
図1では、加工対象である工作物を符号10で示している。以下の説明において、「上」「下」とは、Y軸に沿った鉛直方向の上下をいうものとする。
【0014】
この横型マシニングセンタ1は、上面に一対のレール111が互いに平行に設けられた機械側ベッド11と、機械側ベッド11上を一対のレール111に沿ってZ軸方向に進退移動可能に設けられたZ軸移動コラム12と、Z軸移動コラム12に互いに平行に設けられた一対のレール121に沿ってY軸方向に進退移動可能に配置されたY軸移動体13と、Y軸移動体13に固設された主軸頭14と、主軸頭14に対して回転する工具15とを有している。工具15は、Z軸方向回りに回転し、工作物10を加工する。
【0015】
工作物10は、搬送側ベッド16をX軸方向に進退移動する回転テーブル装置2に保持されたパレット20上に図略の治具によって固定されている。搬送側ベッド16上には、X軸方向に沿って一対のレール161が互いに平行に設けられている。また、搬送側ベッド16上には、回転テーブル装置2を一対のレール161に沿って移動させるボールねじ軸162が配置されている。ボールねじ軸162は、図略の駆動装置によって回転駆動される。
【0016】
図2は、回転テーブル装置2の断面図である。
図3は、
図2の要部を拡大した部分拡大図である。
図4は、回転テーブル装置2をY軸方向に沿って上方から見た構成図である。
図2は、
図4におけるA-A線の断面図であり、パレット20に工作物10が載置されていない状態を示している。
図4では、パレット20を仮想線(二点鎖線)で示している。
【0017】
回転テーブル装置2は、搬送側ベッド16上に互いに平行に設けられた一対のレール161によってガイドされてX軸方向に進退移動する移動台3(以下、基台と称す)と、基台3に対してY軸方向の回転軸線Oを中心として回転する円筒状の回転軸部材4と、回転軸部材4と一体に回転する円盤状の回転テーブル5と、基台3に対して回転軸部材4を軸受支持する軸受機構6と、回転テーブル5を回転駆動する駆動機構7と、回転テーブル5に対してパレット20を固定するクランプ機構8と、内側ディストリビュータ91及び外側ディストリビュータ92を有するロータリージョイント9とを備えている。
【0018】
回転軸部材4及び回転テーブル5は、金属製であり、鉛直方向の回転軸線Oを中心として基台3に対してパレット20と共に回転する。回転テーブル5の上面5aには、パレット20に当接してパレット20からの荷重を受ける荷重受け部材50が配置されている。以下、回転軸線Oと平行な方向を軸方向という。
【0019】
基台3は、回転軸線Oを中心とする中心部に鉛直方向下方に向かって窪むように形成された凹部30を有する移動台本体31(以下、基台本体と称す)と、基台本体31に締結部材としての複数の予圧ボルト32によって締結された予圧付与部材33及びシリンダブロック34と、シリンダブロック34に対して上下方向に移動可能に配置されたブレーキピストン35と、基台本体31に固定されてレール161上をスライドするレール受け部材361と、ボールねじ軸162に螺合するボールねじナット362と、ボールねじナット362を保持する保持部材363とを備えている。
【0020】
レール受け部材361、ボールねじナット362、及び保持部材363は、基台本体31の下側に取り付けられている。ボールねじ軸162の回転力は、ボールねじナット362によってX軸方向の移動力に変換され、この移動力によって基台3が一対のレール161に沿って移動する。
【0021】
予圧ボルト32は、頭部321及び軸部322を有し、軸部322の先端部には雄ねじ323が設けられている。頭部321は、シリンダブロック34に形成された収容穴341に収容されている。軸部322は、シリンダブロック34、予圧付与部材33、及び基台本体31にそれぞれ形成されたボルト孔340,330,310に挿入されている。雄ねじ323は、基台本体31のボルト孔310の下端部に形成された雌ねじ311に螺合している。
【0022】
軸受機構6は、基台3に対する回転軸部材4の径方向の移動を規制するラジアル軸受61と、基台3に対する回転軸部材4の軸方向の移動を規制するスラスト軸受62とを有している。ラジアル軸受61は、外側軌道輪611及び内側軌道輪612と、外側軌道輪611と内側軌道輪612との間に配置された複数の転動体613とを有している。本実施の形態では、ラジアル軸受61が複列円筒ころ軸受であり、円筒状の転動体613が外側軌道輪611と内側軌道輪612との間に複列に配置されている。
【0023】
スラスト軸受62は、回転テーブル5及びラジアル軸受61の下方で回転軸部材4と基台3との間に配置されており、一対の軌道輪である上側軌道輪621及び下側軌道輪622と、上側軌道輪621及び下側軌道輪622の間に配置された複数の転動体623とを有している。上側軌道輪621及び下側軌道輪622は、上下方向に並び、複数の転動体623を上下方向に挟んでいる。本実施の形態では、スラスト軸受62が玉軸受であり、球状の転動体623が上側軌道輪621に形成された断面円弧状の軌道面621a及び下側軌道輪622に形成された断面円弧状の軌道面622aを転動する。
【0024】
回転軸部材4は、ラジアル軸受61及びスラスト軸受62によって基台3に対して回転可能に軸受支持されている。また、回転軸部材4は、ボルト431によって回転テーブル5に固定された筒状体41と、筒状体41の下端部にボルト432によって固定された受け部材42とを有している。ラジアル軸受61は、回転軸部材4の軸方向において回転テーブル5とスラスト軸受62との間に配置されており、外側軌道輪611が基台3の予圧付与部材33とシリンダブロック34との間に挟持され、内側軌道輪612が回転テーブル5と受け部材42との間に挟持されている。
【0025】
受け部材42には、スラスト軸受62の下側軌道輪622を下側から受ける受け部421が設けられている。スラスト軸受62は、予圧付与部材33と受け部材42の受け部421との間に挟まれ、予圧付与部材33から鉛直方向下方に向かう予圧を受けている。本実施の形態では、予圧付与部材33が予圧ボルト32によって基台本体31に締め付けられて上側軌道輪621に当接しているため、予圧ボルト32の軸力によってスラスト軸受62を下方に押し付ける方向の予圧が付与されている。すなわち、予圧付与部材33が予圧ボルト32によって基台本体31に締結されることにより、スラスト軸受62の上側軌道輪621に、下方向の予圧が付与されている。受け部材42は、下側軌道輪622から受け部421に伝達される予圧によって下方に押し付けられている。
【0026】
基台本体31の凹部30には、スラスト軸受62と、受け部421を含む回転軸部材4の一端部とが収容されている。凹部30には、内径が異なる大径内周面30a及び小径内周面30bが形成されており、小径内周面30bが大径内周面30aよりも下方に形成されている。スラスト軸受62は、凹部30の大径内周面30aと回転軸部材4の受け部材42との間に配置されている。大径内周面30aと小径内周面30bとの間には、上方を指向する環状の段差面30cが形成されており、下側軌道輪622の下面622bの外周側の一部が段差面30cと軸方向に対向している。
【0027】
図2に示すように、凹部30の下端部における底面30dには、内側ディストリビュータ91の円盤状のフランジ部911が取り付けられている。また、内側ディストリビュータ91は、フランジ部911よりも外径が小さい軸状のジョイント部912を有しており、このジョイント部912が円筒状に形成された外側ディストリビュータ92の第1のジョイント部921に収容されている。また、外側ディストリビュータ92は、第1のジョイント部921の上方に、第1のジョイント部921よりも外径が大きい第2のジョイント部922を有している。第2のジョイント部922は、回転テーブル5の中心部に形成された嵌合孔500に嵌合されている。
【0028】
駆動機構7は、駆動源である電動モータ71と、電動モータ71のトルクによって回転するウォームギヤシャフト72と、ウォームギヤシャフト72に噛み合わされたウォームホイール73と、ウォームホイール73と回転テーブル5とを連結する環状の連結部材74とを有して構成されている。ウォームホイール73は、ボルト751によって連結部材74に固定され、連結部材74は、ボルト752によって回転テーブル5に固定されている。電動モータ71は、制御装置100によって制御され、制御装置100から供給される電流によってウォームギヤシャフト72を回転させるトルクを発生する。なお、電動モータ71とウォームギヤシャフト72との間に、電動モータ71の回転を減速する減速機構をさらに設けてもよい。
【0029】
連結部材74には、ブレーキピストン35の当接面35aが接触する摩擦面74aが形成されている。ブレーキピストン35は、シリンダブロック34に対する相対回転が規制されていると共に、シリンダブロック34に対して上下方向に移動可能であり、ブレーキピストン35が下方に移動したとき、当接面35aが摩擦面74aに当接し、摩擦力を発生させる。ブレーキピストン35とシリンダブロック34及び予圧付与部材33との間には、ブレーキピストン35を下方に移動させる際に作動油が供給される上側油室301と、ブレーキピストン35を上方に移動させる際に作動油が供給される下側油室302とが形成されている。上側油室301及び下側油室302からの作動油の漏出は、ブレーキピストン35に取り付けられたOリング351,352,353によって抑止されている。
【0030】
制御装置100は、電動モータ71を回転させる際、図略の電磁式油圧バルブを制御して下側油室302に作動油を供給し、ブレーキピストン35の当接面35aを連結部材74の摩擦面74aから離間させる。また、制御装置100は、電動モータ71を制御して回転テーブル5を目標位置に回転させた後、電磁式油圧バルブを制御して上側油室301に作動油を供給し、ブレーキピストン35の当接面35aを連結部材74の摩擦面74aに当接させて連結部材74及び回転テーブル5を制動する。
【0031】
クランプ機構8は、矩形板状のパレットクランパ81と、パレットクランパ81を回転テーブル5に対してY軸方向にガイドする複数のガイドピン82と、ロータリージョイント9を介して供給される作動油の圧力によりパレットクランパ81をY軸方向に移動させる複数のクランプピン83とを有して構成されている。ガイドピン82は、ナット821によってパレットクランパ81に固定され、回転テーブル5に取り付けられたスリーブ51に軸方向移動可能に支持されている。
【0032】
クランプピン83は、円盤状のピストン部831と軸部832とを有し、ピストン部831が回転テーブル5に設けられたシリンダ52に収容されている。軸部832は、回転テーブル5上に固定されたキャップ53に挿通され、キャップ53から上方に突出した端部がナット84によってパレットクランパ81に固定されている。シリンダ52は、上端部がキャップ53によって閉塞されている。回転テーブル5には、ロータリージョイント9を介して供給される作動油をシリンダ52におけるピストン部831の上側及び下側に導く図略の油路が形成されている。ピストン部831の上側に作動油が供給されると、パレットクランパ81が下降し、ピストン部831の下側に作動油が供給されると、パレットクランパ81が上昇する。
【0033】
パレット20には、パレットクランパ81を収容する空洞部200、及び空洞部200に収容されたパレットクランパ81が下降したときにパレットクランパ81に当接する当接部201が形成されている。パレット20は、パレットクランパ81が上昇端にある状態でパレットクランパ81の長手方向に沿って回転テーブル装置2と相対移動し、空洞部200にパレットクランパ81が挿入される。パレット20は、パレットクランパ81が下降して当接部201に当接することにより、回転テーブル5に固定される。また、パレット20には、工作物10を固定する治具を取り付けるための複数のTスロット202が上面20aに開口して設けられている。
【0034】
基台本体31は、鋳鉄からなり、駆動機構7の連結部材74よりも外径側における上端部312に、回転テーブル5の下面5bが摺動する摺動面31aを有している。摺動面31aは、Y軸方向に対して垂直な環状の平坦面である。回転テーブル5は、駆動機構7に駆動され、下面5bを摺動面31aに摺動させて回転する。すなわち、基台本体31の摺動面31aと回転テーブル5の下面5bとの固体同士の摺動により、回転テーブル5が回転する。なお、基台本体31の摺動面31aと回転テーブル5の下面5bとの間に潤滑油を供給してもよく、基台本体31の摺動面31a及び回転テーブル5の下面5bの少なくとも何れかに固体潤滑性を有する樹脂等からなる潤滑材を配置してもよい。
【0035】
基台本体31は、摺動面31aによって回転テーブル5からの軸方向に沿った垂直荷重を受ける。摺動面31aは、基台本体31の外周端部の近傍に形成されており、ラジアル軸受61及びスラスト軸受62は、
図4に示すように基台3の軸方向視において摺動面31aの内側に配置されている。
【0036】
ここで、回転テーブル5にパレット20が保持されていない軽負荷の状態と、回転テーブル5に保持されたパレット20上に重量が大きい工作物10が載置された重負荷の状態とで基台本体31が回転テーブル5から受ける垂直荷重が大きく異なると、軽負荷時と重負荷時とで回転テーブル5を回転させる際の摺動抵抗が大きく変動する。そして、何れの状態でも回転テーブル5を円滑に回転させるための電動モータ71のフィードバック制御における制御ゲイン(比例速度制御ゲインや積分制御ゲイン)の調整が難しくなる。
【0037】
本実施の形態では、スラスト軸受62に鉛直方向下方に向かう予圧を付与することにより、工作物10の重量による回転テーブル5の摺動抵抗の変動を小さくしている。次に、
図5を参照し、軽負荷時、中負荷時、及び重負荷時の垂直荷重について具体的に説明する。
【0038】
図5(a)は、回転テーブル5にパレット20が保持されていない軽負荷の状態を示している。この状態では、回転テーブル5の重量による荷重F1と、スラスト軸受62に付与されている予圧による荷重F2とを合わせた垂直荷重が基台本体31の摺動面31aに作用する。なお、
図5(a)ならびに後述する
図5(b)及び(c)では、荷重の大きさを矢印の長さで表している。
【0039】
図5(b)は、回転テーブル5にパレット20が保持され、さらにパレット20上に比較的重量が軽い工作物10Aが載置された中負荷の状態を示している。この状態では、回転テーブル5の重量による荷重F1と、スラスト軸受62に付与されている予圧による荷重F2と、パレット20及び工作物10Aの重量による荷重F3とを合わせた垂直荷重が基台本体31の摺動面31aに作用する。
【0040】
この中負荷の状態では、
図5(a)に示す軽負荷の状態よりもスラスト軸受62に付与されている予圧による荷重F2が小さくなっている。この荷重F2の変化は、パレット20及び工作物10Aの重量により、回転テーブル5の中央部が下方に沈み込むように弾性変形して回転軸部材4が基台3に対して下方に移動し、スラスト軸受62が予圧付与部材33から受ける予圧が小さくなることによるものである。すなわち、回転テーブル5がパレット20から受ける荷重が大きくなるに連れてスラスト軸受62が予圧付与部材33から受ける予圧が小さくなり、この予圧の変化によって荷重F2が減少する。そして、この荷重F2の減少が荷重F3の一部と相殺され、
図5(a)に示す軽負荷時と比較した場合の荷重F1,F2,及びF3を合わせた垂直荷重の増加が緩和される。
【0041】
図5(c)は、回転テーブル5にパレット20が保持され、さらにパレット20上に比較的重量が重い工作物10Bが載置された重負荷の状態を示している。この状態では、荷重F3が中負荷時よりも増大する一方、凹部30の段差面30cにスラスト軸受62の下側軌道輪622の下面622bが当接し、スラスト軸受62に付与される予圧による荷重F2がゼロとなる。このようにして荷重F2がゼロとなることにより、基台本体31の摺動面31aに作用する垂直荷重の増加分が、工作物10Aと工作物10Bとの重量差による荷重F3の増加分よりも小さくなり、回転テーブル5を回転させる際の摺動抵抗の変動が抑制される。
【0042】
以上のように、本実施の形態によれば、回転テーブル5上に配置される物体の総重量である負荷重量が増大するに連れてスラスト軸受62に付与される予圧による荷重F2が小さくなるので、負荷重量の変化割合に対する回転テーブル5の摺動抵抗の変化割合が小さくなり、中負荷時や重負荷時に適した制御ゲインの調整を行っても、軽負荷時において振動の発生が抑えられる。これにより、軽負荷時の振動抑制と中負荷時や重負荷時の応答性とを両立させることが可能となる。
【0043】
また、本実施の形態によれば、基台3に対する回転テーブル5の軸方向の移動を規制するスラスト軸受62が基台3の凹部30に配置されていることにより、工具15が工作物10に押し付けられることによる回転テーブル5の基台3に対する浮き上がりを抑制することが可能となる。またさらに、本実施の形態では、スラスト軸受62に鉛直方向下方に向かう予圧が付与されているので、回転テーブル5の浮き上がりをより確実に抑制することが可能となる。
【0044】
また、本実施の形態によれば、スラスト軸受62がラジアル軸受61の下方に配置されているので、この配置が逆である場合に比較してスラスト軸受62と摺動面31aとの間隔が広がり、回転テーブル5の浮き上がりをより確実に抑制することが可能となる。
【0045】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、
図6及び
図7を参照して説明する。第1の実施の形態では、予圧付与部材33を予圧ボルト32によって基台本体31に締結することにより、スラスト軸受62に予圧を付与する場合について説明したが、本実施の形態では、回転テーブル5の積載重量に応じた押圧力でスラスト軸受62を下方に押圧する押圧装置300を備え、この押圧装置300によってスラスト軸受62に予圧を付与する。
【0046】
図6は、本実施の形態における回転テーブル装置2Aの要部を示す断面図である。本実施の形態における回転テーブル装置2Aは、第1の実施の形態に係る回転テーブル装置2の予圧ボルト32及び予圧付与部材33に替えて、導油部材37と、導油部材37によってシリンダ370に導かれる作動油の油圧によってスラスト軸受62を下方に押圧するピストン38とを備えている。回転テーブル装置2Aのその他の構成は、第1の実施の形態に係る回転テーブル装置2と同様であるので、
図6及び後述する
図7において第1の実施の形態に係る回転テーブル装置2について説明したものと共通する構成要素については、第1の実施の形態で用いたものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0047】
ピストン38は、導油部材37とスラスト軸受62との間に配置された断面L字状の環状部材であり、シリンダ370に供給される作動油の油圧を受けてスラスト軸受62の上側軌道輪621を押圧する。導油部材37には、油圧ユニット900から供給される作動油をシリンダ370に導く油路371が形成されている。油路371におけるシリンダ370側以外の開口は、栓体372によって閉塞されている。また、基台本体31には、導油部材37に連通する油路313が形成されている。シリンダ370からの作動油の漏出は、ピストン38に取り付けられたOリング381,382、及び基台本体31に取り付けられたOリング314により抑止されている。
【0048】
油圧ユニット900は、油圧ポンプ901と、油圧ポンプ901を駆動する電動モータ902と、油圧ポンプ901からシリンダ370への流路中に配設された電磁式油圧バルブ903とを備えている。制御装置100は、駆動機構7の電動モータ71を制御するモータ制御部101の他、電磁式油圧バルブ903を制御する油圧制御部102を有している。電磁式油圧バルブ903は、油圧制御部102から供給される電流に応じて作動油の往路及び復路の弁開度が変化する。
【0049】
制御装置100は、例えば横型マシニングセンタ1の制御装置あるいは製造ライン全体を統括する制御装置から、パレット20及び工作物10の重量、すなわち回転テーブル5の積載重量の情報を取得可能であり、回転テーブル5の積載重量に応じた押圧力でスラスト軸受62が押圧されるように電磁式油圧バルブ903を制御する。導油部材37、ピストン38、油圧ユニット900、及び油圧制御部102は、押圧装置300を構成する。
【0050】
ここで、「回転テーブル5の積載重量に応じた押圧力」とは、回転テーブル5の積載重量が変化しても基台本体31の摺動面31aに作用する垂直荷重の変化量が小さくなるように調節された押圧力であり、回転テーブル5の積載重量が大きくなるほどピストン38が上側軌道輪621を押圧する押圧力が小さくなる。
【0051】
図7(a)は、本実施の形態において、回転テーブル5にパレット20が保持されていない軽負荷の状態を示している。
図7(b)は、回転テーブル5に保持されたパレット20に工作物10が載置された重負荷の状態を示している。
図7(a)及び(b)では、回転テーブル5の重量による荷重F1、スラスト軸受62に付与されている予圧による荷重F2、及びパレット20及び工作物10の重量による荷重F3の大きさを矢印の長さで表している。
【0052】
本実施の形態では、回転テーブル5の積載重量に応じた押圧力でスラスト軸受62が下方に押圧されるので、
図7(a)及び(b)に示すように、軽負荷時及び重負荷時の何れにおいても基台本体31の摺動面31aに作用する垂直荷重を実質的に一定に保つことができる。これにより、制御ゲインの調整をより適切に行うことができ、軽負荷時において振動の発生が抑えられると共に、重負荷時の応答性を高めることが可能となる。また、第1の実施の形態と同様に、回転テーブル5の浮き上がりを抑制することが可能となる。
【0053】
(付記)
以上、本発明を第1及び第2の実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0054】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能であり、例えば回転テーブル装置2,2Aを工作機械以外の用途に用いることも可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…横型マシニングセンタ 100…制御装置
101…油圧制御部(制御部) 2,2A…回転テーブル装置
20…パレット 3…基台(移動台)
30…凹部 300…押圧装置
31…基台本体(移動台本体) 31a…摺動面
32…予圧ボルト(締結部材) 33…予圧付与部材
37…導油部材 370…シリンダ
38…ピストン 4…回転軸部材
421…受け部 5…回転テーブル
61…ラジアル軸受 62…スラスト軸受
621…上側軌道輪 622…下側軌道輪
623…転動体 900…油圧ユニット