(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッドのフィッティング装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A63B 53/00 20150101AFI20240110BHJP
A63B 53/04 20150101ALI20240110BHJP
A63B 69/36 20060101ALI20240110BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20240110BHJP
【FI】
A63B53/00 B
A63B53/04 F
A63B69/36 541W
A63B102:32
(21)【出願番号】P 2020017365
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】植田 尚良
(72)【発明者】
【氏名】植田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】永野 祐樹
【審査官】関口 英樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0318211(US,A1)
【文献】特開平10-015116(JP,A)
【文献】特開2006-247023(JP,A)
【文献】特開2003-190335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B53/00-53/14
69/00-69/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルファーに適したゴルフクラブヘッドを決定するためのフィッティング装置であって、
ゴルファーによるゴルフクラブのスイングから、前記ゴルフクラブのゴルフクラブヘッドの動きに関連付けられた少なくとも一つのパラメータを計測する計測部と、
前記パラメータに基づいて、ゴルフクラブヘッドのフェースに設けられた溝の形状を決定する決定部とを
含み、
前記パラメータは、前記ゴルフクラブヘッドのヘッドスピードを含み、
前記溝の形状は、溝深さであり、
前記決定部は、前記ヘッドスピードが早いほど、前記溝の溝深さが大きくなるように決定する、
ゴルフクラブヘッドのフィッティング装置。
【請求項2】
ゴルファーに適したゴルフクラブヘッドを決定するためのフィッティング装置であって、
ゴルファーによるゴルフクラブのスイングから、前記ゴルフクラブのゴルフクラブヘッドの動きに関連付けられた少なくとも一つのパラメータを計測する計測部と、
前記パラメータに基づいて、ゴルフクラブヘッドのフェースに設けられた溝の形状を決定する決定部とを含み、
前記パラメータは、前記ゴルフクラブヘッドのブロー角を含み、
前記溝の形状は、前記溝の溝壁の傾斜角度であり、
前記決定部は、前記ブロー角が大きいほど、前記溝の前記傾斜角度が大きくなるように決定する、
ゴルフクラブヘッドのフィッティング装置。
【請求項3】
前記決定部は、
前記パラメータが入力される入力部と、
前記パラメータと前記パラメータに対応する前記溝の形状との関係を記憶する記憶部と、
前記入力部に入力された前記パラメータと前記記憶部に記憶された前記関係とを用いて、前記溝の形状を決定する制御部とを含む、請求項1又は2に記載のゴルフクラブヘッドのフィッティング装置。
【請求項4】
ゴルファーに適したゴルフクラブヘッドを決定するためのフィッティング方法であって、
ゴルファーによるゴルフクラブのスイングから、前記ゴルフクラブに具えられたゴルフクラブヘッドの動きに関連付けられた少なくとも一つのパラメータを計測する工程と、
前記パラメータに基づいて、ゴルフクラブヘッドのフェースに設けられた溝の形状を決定する工程とを含み、
前記パラメータは、前記ゴルフクラブヘッドのヘッドスピードを含み、
前記溝の形状は、溝深さであり、
前記決定する工程は、前記ヘッドスピードが早いほど、前記溝の溝深さが大きくなるように決定する、
ゴルフクラブヘッドのフィッティング方法。
【請求項5】
ゴルファーに適したゴルフクラブヘッドを決定するためのフィッティング方法であって、
ゴルファーによるゴルフクラブのスイングから、前記ゴルフクラブに具えられたゴルフクラブヘッドの動きに関連付けられた少なくとも一つのパラメータを計測する工程と、
前記パラメータに基づいて、ゴルフクラブヘッドのフェースに設けられた溝の形状を決定する工程とを含み、
前記パラメータは、前記ゴルフクラブヘッドのブロー角を含み、
前記溝の形状は、前記溝の溝壁の傾斜角度であり、
前記決定する工程は、前記ブロー角が大きいほど、前記溝の前記傾斜角度が大きくなるように決定する、
ゴルフクラブヘッドのフィッティング方法。
【請求項6】
コンピュータに、ゴルファーに適したゴルフクラブヘッドを決定するためのフィッティング方法
を実行させるためのプログラムであって、
前記コンピュータに、
ゴルファーによるゴルフクラブのスイングから、前記ゴルフクラブに具えられたゴルフクラブヘッドの動きに関連付けられた少なくとも一つのパラメータを
受け取る工程と、
前記パラメータに基づいて、ゴルフクラブヘッドのフェースに設けられた溝の形状を決定する工程とを
実行させ、
前記パラメータは、前記ゴルフクラブヘッドのヘッドスピードを含み、
前記溝の形状は、溝深さであり、
前記決定する工程は、前記ヘッドスピードが早いほど、前記溝の溝深さが大きくなるように決定する、
プログラム。
【請求項7】
コンピュータに、ゴルファーに適したゴルフクラブヘッドを決定するためのフィッティング方法を実行させるためのプログラムであって、
前記コンピュータに、
ゴルファーによるゴルフクラブのスイングから、前記ゴルフクラブに具えられたゴルフクラブヘッドの動きに関連付けられた少なくとも一つのパラメータを受け取る工程と、
前記パラメータに基づいて、ゴルフクラブヘッドのフェースに設けられた溝の形状を決定する工程とを実行
させ、
前記パラメータは、前記ゴルフクラブヘッドのブロー角を含み、
前記溝の形状は、前記溝の溝壁の傾斜角度であり、
前記決定する工程は、前記ブロー角が大きいほど、前記溝の前記傾斜角度が大きくなるように決定する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルファーに適したゴルフクラブヘッドを決定するためのフィッティング装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルファーの技量、体力、スイング等の態様は様々である。したがって、それぞれのゴルファーには、自らの技量等に適した最適なゴルフクラブヘッドが存在する。近年、ゴルフスコアの向上のために、個々のゴルファーに、それぞれの技量等により適合するようなゴルフクラブを提案するためのゴルフクラブのフィッティング方法ないし装置が種々開発されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゴルフクラブヘッドは、ボールを打撃する面であるフェースに、複数の溝(フェースラインとも呼ばれることがある。)が形成されている。これらの溝は、ボールとの摩擦を高め、打球のスピン量及び飛距離に影響を与える。従来、前記フェースの溝は、ゴルファーの技量やゴルフスイング特性には関連付けられていなかった。
【0005】
一方、発明者らの実験では、前記フェースの溝による打球のスピン発現効果は、ゴルファーのスイングの仕方などによって異なることが確認された。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、個々のゴルファーにより適したゴルフクラブヘッドを決定することができるゴルフクラブヘッドのフィッティング装置、方法、及びプログラムを提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、ゴルファーに適したゴルフクラブヘッドを決定するためのフィッティング装置であって、ゴルファーによるゴルフクラブのスイングから、前記ゴルフクラブのゴルフクラブヘッドの動きに関連付けられた少なくとも一つのパラメータを計測する計測部と、前記パラメータに基づいて、ゴルフクラブヘッドのフェースに設けられた溝の形状を決定する決定部とを含む、ゴルフクラブヘッドのフィッティング装置である。
【0008】
本発明の他の態様では、前記パラメータが、前記ゴルフクラブヘッドのヘッドスピードを含むことができる。
【0009】
本発明の他の態様では、前記パラメータが、前記ゴルフクラブヘッドの前記フェースの角度に関するパラメータを含むことができる。
【0010】
本発明の他の態様では、前記決定部は、前記パラメータが入力される入力部と、前記パラメータと前記パラメータに対応する前記溝の形状との関係を記憶する記憶部と、前記入力部に入力された前記パラメータと前記記憶部に記憶された前記関係とを用いて、前記溝の形状を決定する制御部とを含むことができる。
【0011】
本発明の他の態様では、前記溝の形状は、溝深さ、溝幅、溝壁の傾斜角度及び溝の配置ピッチの少なくとも1つを含むことができる。
【0012】
本発明の別の態様は、ゴルファーに適したゴルフクラブヘッドを決定するためのフィッティング方法であって、ゴルファーによるゴルフクラブのスイングから、前記ゴルフクラブに具えられたゴルフクラブヘッドの動きに関連付けられた少なくとも一つのパラメータを計測する工程と、前記パラメータに基づいて、ゴルフクラブヘッドのフェースに設けられた溝の形状を決定する工程とを含む、ゴルフクラブヘッドのフィッティング方法である。
【0013】
本発明のさらに別の態様は、コンピュータに、ゴルファーに適したゴルフクラブヘッドを決定するためのフィッティング方法を実行させるためのプログラムであって、前記コンピュータに、ゴルファーによるゴルフクラブのスイングから、前記ゴルフクラブに具えられたゴルフクラブヘッドの動きに関連付けられた少なくとも一つのパラメータを受け取る工程と、前記パラメータに基づいて、ゴルフクラブヘッドのフェースに設けられた溝の形状を決定する工程とを実行させる、プログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のゴルフクラブヘッドのフィッティング装置及び方法は、ゴルファーのゴルフスイング特性に応じた最適な前記溝の形状を具えたゴルフクラブヘッドを決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態を示すフィッティング装置の全体斜視図である。
【
図2】ゴルフクラブヘッドの一例を示す正面図である。
【
図4】ゴルフクラブヘッドのフェースに設けられた溝の横断面図である。
【
図5】決定部の構成を説明するためのブロック図である。
【
図6】(A)及び(B)は、記憶部に予め記憶されたパラメータと溝の形状との関係を示すグラフである。
【
図7】スイング時のブロー角を説明する線図である。
【
図8】(A)はゴルフクラブヘッドでゴルフボールを打撃した状態を示す側面図、(B)は、そのX部拡大図である。
【
図9】
図8(B)からゴルフボールを省略したフェースの要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。以下に詳述される実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容を理解するためのものであって、本発明は、それらの具体的な構成に限定されるものではない。また、以後の説明では、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略されている点が理解されなければならない。
【0017】
図1は、本実施形態のゴルフクラブヘッドのフィッティング装置1の全体斜視図を示す。本実施形態のフィッティング装置1は、ゴルファーに適したゴルフクラブヘッドを決定するためのものである。具体的な態様では、本実施形態は、ゴルファーに、最適化されたゴルフクラブヘッドを具えた「ゴルフクラブ」を提案するためのフィッティング装置として好適に利用される。本実施形態のより好ましい態様は、決定されたゴルフクラブ又はゴルフクラブヘッドを製造する工程を含んでも良い。本実施形態のさらに好ましい態様は、製造されたゴルフクラブ又はゴルフクラブヘッドをゴルファーに提供する工程とを含んで実施されるであろう。
【0018】
[フィッティング装置の全体構成]
図1に示されるように、本実施形態のフィッティング装置1は、計測部2と、決定部3とを含む。
【0019】
[計測部]
計測部2は、例えば、ゴルファー100によるゴルフクラブ101のスイングから、ゴルフクラブ101に具えられたゴルフクラブヘッド102の動きに関連付けられた少なくとも一つのパラメータ(以下、単に「パラメータ」という。)を計測するための装置である。計測部2は、例えば、ゴルフクラブ101がスイングされるスイングスペースの近くに設置されて、必要な各種のパラメータを取得する。なお、
図1のスイングスペースには、打球の目標飛球線方向Tと平行な方向をx、上下方向をz、これらの2つの方向x及びzにともに直交する方向をyとして、x-y-z座標系が定義される。
【0020】
好ましい態様では、計測部2は、ゴルフクラブヘッド102で実際にゴルフボール200を打撃するときのスイングからパラメータを計測する。他の態様では、計測部2は、いわゆる素振りのように、実際にはゴルフボール200を打撃しないスイングから必要なパラメータを計測することができる。
【0021】
計測部2としては、例えば、スイング中のゴルフクラブヘッド102を撮像する撮像手段を含むことができる。撮像手段は、例えば、高速度撮像が可能なカメラ2Aを含むことができる。本実施形態では、カメラ2Aは、ゴルフクラブヘッド102とゴルフボール200との打撃瞬間を撮像しうるように、ゴルファー100の正面かつ地面側に置かれている。ただし、カメラ2Aは、計測したいパラメータに応じて、様々な位置に設置されても良い。
【0022】
計測部2の他の態様としては、カメラ2Aとともに又はカメラ2Aに代えて、ゴルフクラブヘッド102のスピード(速度)を計測するための速度計2Bを含むことができる。本実施形態の計測部2は、カメラ2Aと速度計2Bの両者を含む態様が示されている。本実施形態の速度計2Bは、地面に置かれているが、最適な位置に設置されればよい。また、速度計2Bは、ゴルフクラブ101に直接取り付けられるようなものでも良い。
【0023】
計測部2は、この計測部2で直接的に計測されたパラメータ(一次パラメータ)を出力するものの他、一次パラメータを所定の二次パラメータに加工する機能を有するものを含むことができる。このような例として、計測部2は、例えば、カメラ2Aと、カメラ2Aで撮像されたデータを処理して、ゴルフクラブヘッド102の動きに関する様々なパラメータを計算するための計算部2Cとを含むことができる。
【0024】
前記パラメータ(一次及び二次)としては、スイング中のヘッドの動きに関するものであれば、様々なものが対象となる。パラメータとしては、例えば、ゴルフクラブヘッド102のヘッドスピードや、ゴルフクラブヘッド102のフェース104の角度に関するパラメータ(例えば、ブロー角、動ロフト角等)などが挙げられる。
【0025】
[ゴルフクラブヘッドの構造]
図2及び
図3には、ゴルフクラブ101の部分正面図及び部分側面図が示されている。よく知られているように、ゴルフクラブ101は、ボールを打撃するためのゴルフクラブヘッド102と、一端がゴルフクラブヘッド102に固着されたシャフト103とを含む。この実施形態では、ゴルフクラブ101として、アイアン型のゴルフクラブが示されている。
【0026】
ゴルフクラブヘッド102は、ボールと接触しかつ打撃するためのフェース104を具える。このフェース104は、実質的に平坦な面である。フェース104には、ゴルフボール200との摩擦等を高めるために、例えば、ゴルフクラブヘッド102のトウ・ヒール方向に延びる複数本の溝105が設けられている。溝105は、フェースラインとも呼ばれることがある。
【0027】
図2及び
図3では、ゴルフクラブ101は、基準状態とされている。基準状態は、ゴルフクラブヘッド102のフェース104に形成された溝105が、水平面HPに平行とされた状態で、ゴルフクラブヘッド102が水平面HP上に置かれた状態である。基準状態では、シャフト103の中心軸線CLが基準垂直面VP内に配されている。基準垂直面VPは、水平面HPに対して垂直な平面である。基準状態では、溝105は、水平面HPに平行であり、かつ、基準垂直面VPに平行となるように形成される。この基準状態において、シャフト103と水平面HPとのなす角度αがライ角(
図2)であり、フェース104と基準垂直面VPとのなす角度βがロフト角である。
【0028】
[溝の形状]
図4には、1本の溝105の長手方向と104と直交する横断面が示されている。溝105は、溝底106と、一対の溝壁107とを有する。符号dは、溝深さを示す。
【0029】
溝底106は、例えば、フェース104と平行な面として形成されている。一対の溝壁107は、それぞれ、溝底106からフェース104に向かって溝幅が広がる向きに傾斜している。本実施形態の溝壁107は、平面で構成されており、その傾斜角度Bは、フェース104に立てた法線Nに対する角度として定義される。一対の溝壁107は、溝中心線に対して、互いに対称形状に構成されている。なお、前記「平行」や前記「対称形状」は、いずれも、溝105を機械加工する際の現実的な精度を考慮して、実質的な「平行」や実質的な「対称形状」を意図しているものと理解されなければならない。
【0030】
溝壁107とフェース104とが交差するコーナ部108は、所定の曲率半径の滑らかな円形状とされている。この丸みの曲率半径は、例えば、ゴルフ規則に従って、少なくとも0.010インチ(0.254mm)の有効半径を有するように定められれば良い。
【0031】
[決定部]
図1に示されるように、決定部3は、計測部2で得られたパラメータに基づいて、当該ゴルファー100に適した溝105の形状を決定するための装置である。決定部3は、例えば、コンピュータによって構成されても良い。好ましい態様では、決定部3には、決定された溝105の形状などを含む各種の情報を出力するためのプリンタ装置10などが連係されていても良い。コンピュータは、例示のラップトップ型以外にも、タブレットPCなどでもよい。
【0032】
[フィッティング装置の作用]
本実施形態のフィッティング装置1では、打球のスピン発現効果を高めるために、ゴルファー100のスイングからゴルフクラブヘッド102の動きに関するパラメータを計測し、このパラメータに基づいて、溝105の形状を具えたゴルフクラブヘッド102を決定することができる。フェース104の溝105による打球のスピン発現効果は、ゴルファー100のスイングの仕方などによって大きく異なるが、本実施形態のフィッティング装置1は、ゴルファー100のスイング特性を考慮して、それに最適な溝105の形状を具えたゴルフクラブヘッド102を決定することができる。
【0033】
[決定部の具体例]
図5には、決定部3の構成を説明するためのブロック図が示されている。決定部3は、例えば、入力部4、記憶部5、制御部6、作業用メモリ7及び出力部8を含む。
【0034】
入力部4は、計測部2で得られたパラメータが入力される。入力部4には、ケーブル又は無線により、パラメータが入力される。パラメータは、インターネットサバーを介して、遠隔地から入力されても良い。また、必要に応じて、入力部4には、様々な情報、例えば、スイングに使用されたゴルフクラブヘッド102のスペックや、ゴルファーに関する各種の情報やニーズなどが入力される。
【0035】
記憶部5は、例えば、情報を記憶するための手段である。記憶部5には、後述のフィッティング方法を決定部3に実行させるためのプログラムが記憶されている。また、記憶部5には、前記パラメータと、パラメータに対応する溝105の形状との関係が記憶されている。
図6(A)及び(B)には、記憶部5に格納される関係の例が示されている。これについては、あとで詳細に述べる。
【0036】
制御部6は、入力部4、記憶部5、制御部6、作業用メモリ7及び出力部8にアクセス可能に設けられている。また、制御部6は、記憶部5に格納されたプログラムに基づいて、入力部4から必要なパラメータ等を受け取り、かつ、これを記憶部5に記憶された関係を用いて、フィッティング方法を実行する。実行処理には、作業用メモリ7が使用される。フィッティング方法の結果は、出力部8を経て、ディスプレイやプリンタ装置10へ視覚情報として出力される。
【0037】
次に、決定部3の具体的な処理内容が説明される。
【0038】
[ヘッドスピードと溝深さ]
図6(A)は、パラメータとしてスイング時のヘッドスピードが採用され、かつ、溝105の形状として、溝深さdが採用されたときの両者の関係が示されている。また、
図6(A)の関係では、ヘッドスピードが早くなるほど、溝105の溝深さdが大きくなることを示す。この関係は、ゴルファー100の打球のスピン量を高めるのに役立つ溝105の形状を決定する。
【0039】
発明者らの実験によれば、ヘッドスピードが速いスイングでは、フェース104と衝突したゴルフボール200は大きく弾性変形し、溝105の中にゴルフボールのカバー材(表面層)等がより深く嵌まり込む。このため、ゴルフボール200と溝105との大きな係合作用が得られる。換言すると、ヘッドスピードが速いスイングの場合、溝105の溝深さdを大きくするほど、大きな係合作用が期待できる。
図6(A)の関係は、このような効果を期待するもので、ヘッドスピードが速いゴルファーに対して、打球のスピン量をさらに増加させるのに有効なゴルフクラブヘッド102を決定することができる。
【0040】
一方、ヘッドスピードが遅いスイングでは、フェース104に衝突したときのゴルフボールの弾性変形は小さく、溝105とゴルフボール200のカバー材との係合作用も小さい。したがって、ヘッドスピードが遅いゴルファー群に対しては、溝深さdを大きくすることはあまり効果がないため、小さい溝深さdが決定される。溝深さdが小さいゴルフクラブヘッド102は、溝深さdが大きいゴルフクラブヘッドに比べると、耐久性を損ねずに、フェース104の全厚さを小さくすることが可能になる。このため、ヘッドスピードが遅いゴルファーには、反発性能に優れるゴルフクラブヘッド102を決定し、提供することが可能になる。
【0041】
[フェースの角度と溝壁の傾斜角度]
図6(B)には、パラメータとしてスイング時のフェースの角度に関連するパラメータとしてブロー角が採用され、かつ、溝105の形状として溝壁107の傾斜角度Bが採用されたときの関係が示されている。
図6(B)の関係は、ブロー角が大きくなるほど、傾斜角度Bが大きくなることを示している。
【0042】
多くのゴルファーのスイングを検証したところ、ゴルファーによって、ブロー角は様々であることが分かった。ブロー角は、
図7に、3種の線で示されるように、ゴルファー100のスイングをy軸方向からみたときのゴルフクラブヘッド102(
図7では不図示)の軌道において、ゴルフボール200を打撃する直前での2点P1、P2を結ぶ直線の地面とのなす角度θとして定義される。
図7では、スイング軌道の最下点P1がゴルフボール200の接地点200Aと一致するレベルブローSW1、同最下点P1がゴルフボール200の接地点200Aよりも前方に位置するダウンブローSW2、及び、同最下点P1がゴルフボール200の接地点200Aよりも後方に位置するアッパーブローSW3のスイング軌道が示されている。そして、ブロー角θの大きさは、一般に、上記スイング軌道において、ダウンブローSW2が最も大きく、アッパーブローSW3が最も小さくなる。
【0043】
また、同じゴルフクラブ101であっても、スイング時のブロー角が変わると、ゴルフクラブヘッド102のフェース104がゴルフボール200を打撃するときの角度である動ロフト角が変わる。つまり、ゴルフボール200の打撃時における溝105とゴルフボール200との間の係合作用が変わる。特に、アプローチショット等を行うロフト角の大きいゴルフクラブヘッドについては、この種の傾向が顕著である。発明者らは、上記係合作用をより効果的に高めるために、ブロー角と、溝105の溝壁107の傾斜角度Bとの関係性に着目した。
【0044】
図8(A)には、アプローチショット時のゴルフクラブヘッド102とゴルフボール200との打撃瞬間の側面図を示し、
図8(B)は、そのX部の拡大断面図を示している。
図8(B)から理解されるように、打撃時、ゴルフボール200のカバー材109は、大きく弾性変形してフェース104及び溝105と接触する。とりわけ、カバー材109は、一対の溝壁107のうち、上側の溝壁107とより多く接触する。
【0045】
図9には、
図8(B)のフェース104の部分拡大図が示されている。
図9では、ゴルフボールは省略されている。また、
図9において、フェース104は、垂直軸zに対して角度A(以下、「動ロフト角A」と言い換える。)で傾いている。なお、動ロフト角Aは、ブロー角の関数である。発明者らは、ゴルフボール200とフェース104との係合作用を左右するパラメータとして、90度の角度から動ロフト角A及び溝105の溝壁107の傾斜角度Bを差し引いた角度C(即ち、C=90(度)-A-B)を溝壁107の引っ掛かり角度として着目した。そして、種々の実験の結果、この引っ掛かり角度Cを正の値かつ6~20度の範囲に設定すると、ゴルフボール200のバックスピン量の増大に役立つことを突き止めた。
【0046】
引っ掛かり角度Cを上記のように設定すると、ボール打撃時、溝105の上側の溝壁107は、垂直線に対してやや前傾する。前傾した溝壁107とゴルフボール200とが接触した場合、
図8(B)で示したように、ゴルフボール200のカバー材109は、上側の溝壁107との間で物理的に非常に強い引っ掛かり作用(係合作用)が得られると同時に、ゴルフボール200は、より長い時間、溝105に引っ掛かって接触を続ける。このため、ゴルフボール200に大きなせん断力Fが長時間作用し、ひいては、スピン量が大幅に増加する。一方、上記引っ掛かり角度Cが0度以下では、ゴルフボール200とフェース104との間に、例えば、芝生などが介在している状況では、両者の間で強い係合作用が得られ難く、ボールに大きなせん断力を与えることができない。
【0047】
引っ掛かり角度Cは、動ロフト角A及び溝壁107の傾斜角度Bと以下の関係(1)がある。したがって、6~20度の中で引っ掛かり角度Cの適値を予め設定しておけば、パラメータであるブロー角から動ロフト角Aが決まると、最適な溝壁107の傾斜角度Bを決定することができる。
図6(B)は、このような関係に基づいて設定されている。
C=90(度)-A-B …(1)
【0048】
以上のように、
図6(B)の関係を用いた具体例においても、ゴルファー100の打球のスピン量を増加させるような溝105を具えたゴルフクラブヘッド102を決定することができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されるものではなく、種々の態様で実施しうるのは、言うまでもない。例えば、溝105の配置ピッチについては、上記
図6で示した決定に加えて、又は、これらとは別個に、例えば、ゴルファーのヘッドスピードに関連付けて、決定されても良い。この場合、例えば、ヘッドスピードの遅いゴルファーほど、溝105の配置ピッチを小さくして、ボールと溝105との接触機会を高め、打球のバックスピン量を高めるように決定されても良い。
【符号の説明】
【0050】
1 フィッティング装置
2 計測部
3 決定部
100 ゴルファー
101 ゴルフクラブ
102 ゴルフクラブヘッド
104 フェース
105 溝
107 溝壁
200 ゴルフボール