(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】チェーンテンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/08 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
F16H7/08 B
(21)【出願番号】P 2020017385
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】森 正樹
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-021496(JP,A)
【文献】特開平09-147701(JP,A)
【文献】特開2009-047023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端の開口から他端の開口に延びる筒状空間が形成されたテンショナボディと、
前記一端の開口から突出するように前記筒状空間に収容されたプランジャと、
前記他端の開口を塞ぐように前記テンショナボディに固定されたボルトと、
前記プランジャに対して押し出し方向にバネ力を作用させるスプリングと、を備え、
前記ボルトには前記プランジャが入り込む
大径空間が形成され、
前記プランジャの基端部には前記大径空間に連なる小径空間が形成され、
前記スプリングは、前記大径空間に設置された大径スプリングと、前記小径空間に設置された小径スプリングと、前記大径スプリング及び前記小径スプリングを直列に接続する接続部材と、を有し、
前記接続部材は、前記大径スプリングの内側に入り込む有底筒部と、前記有底筒部から径方向外側に広がるフランジ部と、を有し、
前記大径スプリングが前記有底筒部の外側に取り付けられ、前記小径スプリングが前記有底筒部の内側に取り付けられ、前記小径スプリングの一部が前記大径スプリングの内側に入り込み、前記有底筒部の内側に前記プランジャの基端部が入り込んでいることを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項2】
前記大径スプリング及び前記小径スプリングが同じバネ定数を有することを特徴とする請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項3】
前記接続部材が前記大径空間に収まっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のチェーンテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーンテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのカムチェーンの張力を保持するラチェット式のチェーンテンショナが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のチェーンテンショナのテンショナボディには筒状の貫通穴が形成されており、貫通穴の一端はボルトによって塞がれている。貫通穴にはコイルスプリングとプランジャが収容されており、コイルスプリングによって貫通穴の他端からプランジャが押し出されている。プランジャの外周面にはラチェット歯が形成され、テンショナボディにはラチェット爪が揺動可能に設けられている。プランジャの先端がカムチェーンに押し当てられた状態で、ラチェット歯とラチェット爪によってカムチェーンによるプランジャの押し返しが規制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、プランジャにはカムチェーンの着脱時にカムチェーンを弛ませることができるストロークが必要であり、コイルスプリングにはプランジャのストローク全域に亘って良好なバネ特性を得ることができるスプリング長が必要である。特許文献1に記載のチェーンテンショナは、プランジャ、コイルスプリング、ボルトが直線的に並べられているため、プランジャのストローク及びコイルスプリングのスプリング長を十分に確保するとチェーンテンショナの全長が長くなる。このため、チェーンテンショナと周辺部品の干渉を避けるために、車両が大型化するという問題がある。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、プランジャのストロークを確保し、ストローク全域に亘って良好なバネ特性を維持しつつ、全長を短くすることができるチェーンテンショナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のチェーンテンショナは、一端の開口から他端の開口に延びる筒状空間が形成されたテンショナボディと、前記一端の開口から突出するように前記筒状空間に収容されたプランジャと、前記他端の開口を塞ぐように前記テンショナボディに固定されたボルトと、前記プランジャに対して押し出し方向にバネ力を作用させるスプリングと、を備え、前記ボルトには前記プランジャが入り込む大径空間が形成され、前記プランジャの基端部には前記大径空間に連なる小径空間が形成され、前記スプリングは、前記大径空間に設置された大径スプリングと、前記小径空間に設置された小径スプリングと、前記大径スプリング及び前記小径スプリングを直列に接続する接続部材と、を有し、前記接続部材は、前記大径スプリングの内側に入り込む有底筒部と、前記有底筒部から径方向外側に広がるフランジ部と、を有し、前記大径スプリングが前記有底筒部の外側に取り付けられ、前記小径スプリングが前記有底筒部の内側に取り付けられ、前記小径スプリングの一部が前記大径スプリングの内側に入り込み、前記有底筒部の内側に前記プランジャの基端部が入り込んでいることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様のチェーンテンショナによれば、スプリングのバネ力によってチェーンにプランジャが押し付けられることでチェーンの張力が保持される。また、プランジャがボルトの収容空間に入り込むことで、チェーンテンショナの全長を短くした状態で、プランジャのストロークが確保される。さらに、スプリングが収容空間に設置されることで、チェーンテンショナの全長を短くした状態で、プランジャのストローク全域に亘って良好なバネ特性が得るために必要なスプリング長が確保される。チェーンテンショナの全長が短くなることで、チェーンテンショナと周辺部品の干渉を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】本実施例のチェーンテンショナの断面図である。
【
図3】本実施例のチェーンテンショナの分解断面図である。
【
図4】比較例のカムチェーンの張力調整を示す図である。
【
図5】本実施例のカムチェーンの張力調整を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様のチェーンテンショナは、一端の開口から他端の開口に延びる筒状空間が形成されたテンショナボディを備えている。テンショナボディの筒状空間にはプランジャが収容されており、テンショナボディの一端の開口からプランジャが突出している。テンショナボディにはボルトが固定されており、ボルトによってテンショナボディの他端の開口が塞がれている。ボルトにはプランジャが入り込む収容空間が形成され、収容空間にはプランジャに対して押し出し方向にバネ力を作用させるスプリングが設置されている。スプリングのバネ力によってチェーンにプランジャが押し付けられることでチェーンの張力が保持される。また、プランジャがボルトの収容空間に入り込むことで、チェーンテンショナの全長を短くした状態で、プランジャのストロークが確保される。さらに、スプリングが収容空間に設置されることで、チェーンテンショナの全長を短くした状態で、プランジャのストローク全域に亘って良好なバネ特性が得るために必要なスプリング長が確保される。チェーンテンショナの全長が短くなることで、チェーンテンショナと周辺部品の干渉を抑えることができる。
【実施例】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本実施例について詳細に説明する。以下の説明では、エンジンのクランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するカムチェーンの張力を調整するチェーンテンショナについて説明する。ただし、本実施例のチェーンテンショナは、クランクシャフトの回転をオイルポンプ等の補機に伝達するチェーン等の他のチェーンにも適用することができる。
図1は本実施例のエンジンの縦断面図である。
【0011】
図1に示すように、エンジン10は、クランクケース11の上部にシリンダブロック12を設置した自動二輪車の多気筒エンジンである。シリンダブロック12の上部にはシリンダヘッド13が取り付けられ、シリンダヘッド13の上部にはヘッドカバー14が取り付けられている。クランクケース11にはクランクシャフト15が支持されており、クランクシャフト15には駆動スプロケット16が取り付けられている。シリンダヘッド13のジャーナル壁17にキャップ18が取り付けられ、ジャーナル壁17とキャップ18にカムシャフト19が支持されている。カムシャフト19には従動スプロケット21が取り付けられている。
【0012】
クランクシャフト15とカムシャフト19は平行に延在しており、駆動スプロケット16と従動スプロケット21にはカムチェーン22が巻き掛けられている。駆動スプロケット16、従動スプロケット21、カムチェーン22によってチェーン伝達機構が形成されている。このチェーン伝達機構を介してクランクシャフト15の回転が減速されてカムシャフト19に伝達される。クランクケース11、シリンダブロック12、シリンダヘッド13の内側には、駆動スプロケット16と従動スプロケット21の間で、カムチェーン22の周回移動をガイドするチェーンガイド23、24が設けられている。
【0013】
チェーンガイド23には側面視直線状のガイド面が形成されており、従動スプロケット21から駆動スプロケット16に引き込まれるカムチェーン22がチェーンガイド23によってガイドされる。チェーンガイド24には側面視アーチ状のガイド面が形成されており、駆動スプロケット16から従動スプロケット21に送り出されるカムチェーン22がチェーンガイド24によってガイドされる。駆動スプロケット16から従動スプロケット21に向かうカムチェーン22に弛みが生じるため、カムチェーン22の張力が保持されるように、チェーンテンショナ30によってチェーンガイド24がカムチェーン22に押し付けられている。
【0014】
ところで、エンジン10の内側には様々な部品が設置されており、チェーンテンショナ30の設置スペースを十分に確保することが難しい。チェーンテンショナ30のストロークを長く取ることが好ましいが、チェーンテンショナ30のストロークが長くなると、チェーンテンショナ30の全長が長くなる。このため、狭い設置スペースにチェーンテンショナ30を設置すると、チェーンテンショナ30が周辺部品に干渉するおそれがある。また、チェーンテンショナ30に短いスプリングを使用して小型化すると、スプリングのバネ定数が高くなってストローク全域で良好なバネ特性を得ることが難しい。
【0015】
そこで、本実施例のチェーンテンショナ30では、中空のテンショナボディ31を塞ぐボルト51の中にプランジャ41が入り込むことで、チェーンテンショナ30の全長を短くした状態でプランジャ41のストロークが確保されている(
図2参照)。また、チェーンテンショナ30には、大径スプリング62と小径スプリング63を部分的にオーバーラップさせた組み合わせバネ61が使用されている(
図2参照)。大径スプリング62と小径スプリング63によって、チェーンテンショナ30の全長を短くした状態でプランジャ41のストローク全域に亘って良好なバネ特性が得られている。
【0016】
図2及び
図3を参照して、チェーンテンショナについて説明する。
図2は、本実施例のチェーンテンショナの断面図である。
図3は、本実施例のチェーンテンショナの分解断面図である。なお、
図2は、チェーンテンショナが収縮した状態を示している。
【0017】
図2及び
図3に示すように、チェーンテンショナ30のテンショナボディ31は、シリンダブロック12の内側に入り込む中空の筒状部32と、シリンダブロック12の外面に固定されるフランジ部33とを有している。筒状部32には一端の開口34から他端の開口35に軸線C上に延びる筒状空間36が形成されており、フランジ部33には筒状空間36よりも大径の雌ネジ穴37が形成されている。筒状空間36及び雌ネジ穴37は、同軸上に並んでおり、テンショナボディ31の他端の開口35を通じて連通している。このように、テンショナボディ31には、筒状空間36と雌ネジ穴37によって軸線Cに沿った穴が貫通している。
【0018】
テンショナボディ31の筒状空間36には、円筒状のプランジャ41が進退可能に収容されている。プランジャ41の先端部は一端の開口34からシリンダブロック12の内側に突出しており、プランジャ41の基端部は他端の開口35から雌ネジ穴37に突出している。プランジャ41の先端部にはチェーンガイド24(
図1参照)に当接するキャップ42が取り付けられており、プランジャ41の基端部には小径空間43が形成されている。また、プランジャ41の外周面の一部は進退方向に沿って窪んでおり、窪みの底面には進退方向に並んだ多数のラチェット歯45が形成されている。
【0019】
テンショナボディ31の雌ネジ穴37には、他端の開口35を塞ぐようにワッシャ53を挿通したボルト51が固定されている。ボルト51の先端から頭部に向かって大径空間(収容空間)52が形成されている。ボルト51の大径空間52はプランジャ41の基端部よりも大径に形成されており、大径空間52にプランジャ41の基端部が入り込むことでチェーンテンショナ30の全長が短くなっている。また、ボルト51の大径空間52にプランジャ41の小径空間43が連通しており、大径空間52と小径空間43にはプランジャ41に対して押し出し方向にバネ力を作用させる組み合わせバネ61が設置されている。
【0020】
組み合わせバネ61は、ボルト51の大径空間52に設置された大径スプリング62と、プランジャ41の小径空間43に設置された小径スプリング63と、大径スプリング62及び小径スプリング63を直列に接続する接続部材64とを有している。大径スプリング62の内径は小径スプリング63の外径よりも大きく形成されており、大径スプリング62の自由長は小径スプリング63の自由長よりも短く形成されている。大径スプリング62及び小径スプリング63が同じバネ定数になるように、線径、コイル径、巻き数が調整されている。なお、同じバネ定数とは、実質的に略同じと見做せる程度の誤差がある場合も含んでいる。
【0021】
接続部材64は、断面視ハット状に形成されており、大径スプリング62の内側に入り込む有底筒部65と、有底筒部65から径方向外側に広がるフランジ部66とを有している。有底筒部65の外径は大径スプリング62の内径に合わせて形成され、有底筒部65の内径はプランジャ41の基端部の外径に合わせて形成されている。有底筒部65の外側には大径スプリング62が設置され、大径スプリング62の端部がフランジ部66に当接している。有底筒部65の内側にはプランジャ41と共に小径スプリング63が入り込み、小径スプリング63の端部が有底筒部65の底部に当接している。
【0022】
大径スプリング62の内側に小径スプリング63の一部が入り込んだ状態で、接続部材64によって大径スプリング62と小径スプリング63が一体化される。大径スプリング62に小径スプリング63が部分的にオーバーラップした状態で直列に接続されることで、大径空間52と小径空間43からなる狭い設置スペースに組み合わせバネ61が設置されても、荷重に対するバネの変位量を十分に確保することができる。大径スプリング62と小径スプリング63が接続部材64を介して一体的に伸縮されて、プランジャ41のストローク全域に亘って良好なバネ特性を得ることができる。
【0023】
テンショナボディ31の筒状部32にはラチェット爪38が揺動可能に支持されている。また、テンショナボディ31にはスプリング39が設けられており、スプリング39によってラチェット爪38が半時計回りに引っ張られている。チェーンテンショナ30には、テンショナボディ31のラチェット爪38とプランジャ41のラチェット歯45の噛み合いによってラチェット機構が形成されている。プランジャ41の前進移動はラチェット爪38がラチェット歯45を乗り越えることで許容され、プランジャ41の後退移動はラチェット爪38とラチェット歯45の噛み合いによって規制される。
【0024】
このようなチェーンテンショナ30の組付け時には、プランジャ41を挿入したテンショナボディ31がシリンダブロック12に取り付けられる。プランジャ41のキャップ42がチェーンガイド24(
図1参照)に当接され、チェーンガイド24がカムチェーン22に当接されている。このとき、プランジャ41の先端部は一端の開口34から突出し、プランジャ41の基端部は他端の開口35から突出している。プランジャ41の基端部の小径空間43に小径スプリング63が設置され、プランジャ41から突出した小径スプリング63に接続部材64の有底筒部65が被せられる。
【0025】
有底筒部65の外側に大径スプリング62が装着され、ワッシャ53を介してテンショナボディ31のフランジ部33にボルト51がネジ止めされる。ボルト51のネジ止めによって大径スプリング62と小径スプリング63が圧縮され、大径スプリング62と小径スプリング63のバネ力によってプランジャ41が押し出される。プランジャ41によってチェーンガイド24(
図1参照)がカムチェーン22に強く押し付けられてカムチェーン22の張力が保持される。このとき、ラチェット爪38とラチェット歯45の噛み合いによって、カムチェーン22の押し返しによるプランジャ41の後退移動が規制されている。
【0026】
続いて、
図4及び
図5を参照して、チェーンテンショナによるカムチェーンの張力調整について説明する。
図4は、比較例のカムチェーンの張力調整を示す図である。
図5は、本実施例のカムチェーンの張力調整を示す図である。
図4(A)及び
図5(A)はボルトの締め込み前の状態、
図4(B)及び
図5(B)はボルトの締め込み後の状態をそれぞれ示している。
【0027】
図4(A)の比較例に示すように、比較例のチェーンテンショナ70は、テンショナボディ71に一端の開口72から他端の開口73に軸線C上に延びる筒状空間74が形成されている。一端の開口72からはプランジャ76の先端部が突出し、プランジャ76の先端部にはチェーンガイド24(
図1参照)に当接するキャップ77が取り付けられている。他端の開口73側は雌ネジ穴になっており、他端の開口73にはワッシャ78を挿通したボルト79が装着される。プランジャ76の基端部及びボルト79の軸部にはそれぞれ空間81、82が形成されており、この空間81、82の内側に長尺のスプリング83が設置されている。
【0028】
比較例のチェーンテンショナ70にも、本実施例のチェーンテンショナ30と同様なラチェット機構が形成されている。テンショナボディ71にはスプリング84によって半時計回りに引っ張られたラチェット爪86が揺動可能に支持されている。テンショナボディ71のラチェット爪86は、プランジャ76の外周面のラチェット歯87に噛み合わさっており、ラチェット爪86とラチェット歯87の噛み合いによってプランジャ76の後退移動が規制されている。このように、比較例のチェーンテンショナ70は、主にボルト79とプランジャ76の間に長尺のスプリング83が介在される点で本実施例のチェーンテンショナ30と異なっている。
【0029】
この初期状態では、ボルト79によって長尺のスプリング83が十分に圧縮されていない。このため、スプリング83によってプランジャ76が強く押し込まれておらず、プランジャ76がチェーンガイド24から退避してカムチェーン22(
図1参照)が着脱可能に弛んでいる。プランジャ76にはカムチェーン22を弛ませるために十分なストロークを確保しなければならず、プランジャ76のストローク全域で良好なバネ特性を得るために長尺のスプリング83が使用されている。このため、プランジャ76、スプリング83、ボルト79が軸線C上に並ぶことでチェーンテンショナ70の全長が長くなっている。
【0030】
図4(B)に示すように、テンショナボディ71の雌ネジ穴にボルト79が締め込まれると、長尺のスプリング83が収縮して当該スプリング83のバネ力によってプランジャ76が押し出される。比較例のチェーンテンショナ70では、ボルト79とプランジャ76が離間しており、長尺のスプリング83が使用されている。プランジャ76のストロークを確保し、プランジャ76のストローク全域で良好なバネ特性を得ることができるが、ボルト79の頭部からキャップ77の先端までのチェーンテンショナ70の全長L1が長くなっている。このため、チェーンテンショナ70と周辺部品の干渉を避けるために車両が大型化する。
【0031】
図5(A)の本実施例に示すように、初期状態では、ボルト51によって大径スプリング62及び小径スプリング63が十分に圧縮されておらず、プランジャ41がチェーンガイド24(
図1参照)から退避してカムチェーン22が着脱可能に弛んでいる。ボルト51にはプランジャ41が入り込む大径空間52が形成され、大径空間52によってプランジャ41のストロークが確保されている。大径スプリング62及び小径スプリング63の組み合わせバネ61によってプランジャ41のストローク全域で良好なバネ特性が得られている。このため、プランジャ41、大径スプリング62、小径スプリング63、ボルト51が軸線Cに並んでもチェーンテンショナ30の全長が長くなることがない。
【0032】
図5(B)に示すように、テンショナボディ31の雌ネジ穴37にボルト51が締め込まれると、大径スプリング62及び小径スプリング63が収縮して、大径スプリング62及び小径スプリング63のバネ力によってプランジャ41が押し出される。本実施例のチェーンテンショナ30では、ボルト51の内側にプランジャ41の基端部が入り込み、大径スプリング62と小径スプリング63がオーバーラップした組み合わせバネ61が使用されている。比較例のチェーンテンショナ70の全長L1と比べて、ボルト51の頭部からキャップ18の先端までのチェーンテンショナ30の全長L2が短くなっている。このため、チェーンテンショナ30と周辺部品の干渉を避けるために車両が大型化することがない。
【0033】
このように、カムチェーン22の組付け時には、カムチェーン22(
図1参照)を弛ませるためにプランジャ41のストロークを十分に確保することができる。また、比較例のチェーンテンショナ70のように長尺のスプリング83を使用することなく、大径スプリング62と小径スプリング63によって、プランジャ41のストロークの全域に亘って良好なバネ特性を得ることができる。大径スプリング62と小径スプリング63のバネ定数が同じであるため、大径スプリング62と小径スプリング63のバネ特性が荷重に対して線形的に変位する。よって、チェーンテンショナ30によって安定的にカムチェーン22の張力を調整することができる。
【0034】
以上、本実施例によれば、大径スプリング62及び小径スプリング63のバネ力によってカムチェーン22にプランジャ41が押し付けられることでカムチェーン22の張力が保持される。また、プランジャ41がボルト51の大径空間52に入り込むことで、チェーンテンショナ30の全長を短くした状態で、プランジャ41のストロークが確保される。さらに、大径スプリング62及び小径スプリング63が大径空間52及び小径空間43に設置されることで、チェーンテンショナ30の全長を短くした状態で、プランジャ41のストローク全域に亘って良好なバネ特性が得るために必要なスプリング長が確保される。チェーンテンショナ30の全長が短くなることで、チェーンテンショナ30と周辺部品の干渉が抑えられる。
【0035】
なお、本実施例ではチェーンテンショナに対して、大径スプリングの内側に小径スプリングの一部が入り込む組み合わせバネを適用した構成について説明したが、このような構成はチェーンテンショナ以外の伸縮機構にも適用可能である。以下、
図6を参照して、他の実施例の伸縮機構について説明する。
図6は、他の実施例の伸縮機構の模式図である。
【0036】
図6に示すように、伸縮機構90は、上記のチェーンテンショナ30と同様に、2部材を組み合わせバネによって連結して構成されている。すなわち、伸縮機構90は、所定方向に相対的に移動可能な第1の部材91及び第2の部材92と、第1の部材91及び第2の部材92の間に設置された大径スプリング93と、第1の部材91及び第2の部材92の間に設置された小径スプリング94と、大径スプリング93及び小径スプリング94を直列に接続する接続部材95と、を備えている。また、小径スプリング94の一部が接続部材95を介して大径スプリング93の内側に入り込み、小径スプリング94と大径スプリング93が同じバネ定数を有している。
【0037】
より詳細には、筒状ガイド97の一端に円筒状の第1の部材91の一部が収容され、筒状ガイド97の他端に円筒状の第2の部材92の一部が収容されている。第1の部材91は基台等に固定されており、第2の部材92は筒状ガイド97に沿って摺動可能に収容されている。第1の部材91と第2の部材92は大径スプリング93及び小径スプリング94を介して連結されている。第1の部材91には大径スプリング93が当接しており、第2の部材92には小径スプリング94が当接している。大径スプリング93と小径スプリング94は、断面視ハット状の接続部材95を介して直列に接続されている。
【0038】
大径スプリング93の内側には接続部材95の有底筒部96が入り込み、有底筒部96の内側には小径スプリング94が入り込んでいる。このように、筒状ガイド97の内側には、大径スプリング93と小径スプリング94がオーバーラップした状態で設置されている。大径スプリング93と小径スプリング94のオーバーラップによって、伸縮機構90を伸縮方向に短くした状態で、第1、第2の部材91、92の相対的な移動ストローク全域に亘って良好なバネ特性を得るために必要なスプリング長が確保される。伸縮機構90の全長が短くなることで、伸縮機構90と周辺部品の干渉が抑えることができる。また、大径スプリング93と小径スプリング94のバネ特性が荷重に対して線形的に変位するため、伸縮機構90に加えられた荷重に対して安定的に伸縮することができる。
【0039】
なお、上記の変形例においては、第1の部材91側に大径スプリング93が設置され、第2の部材92側に小径スプリング94が設置されたが、第1の部材91側に小径スプリング94が設置され、第2の部材92側に大径スプリング93が設置されてもよい。また、第1の部材91が基台等に固定され、第2の部材92が筒状ガイド97に沿って摺動可能に収容されたが、第2の部材92が基台等に固定され、第1の部材91が筒状ガイド97に沿って摺動可能に収容されてもよい。さらに、第1の部材91及び第2の部材92の両方が筒状ガイド97に沿って摺動可能に収容されてもよい。
【0040】
また、伸縮機構に対して圧縮方向に力が作用してもよいし、伸縮機構に対して引張方向に力が作用してもよい。圧縮方向に力が作用する伸縮機構は、例えば、ショックアブソーバー等の緩衝機構に適用することができ、引張方向に力が作用する伸縮機構は、例えば、バネ秤等に適用することができる。
【0041】
また、本実施例では、ボルトに大径空間が形成され、プランジャに小径空間が形成される構成について説明したが、ボルトにプランジャが入り込む空間が形成されていればよく、プランジャに小径空間が形成されていなくてもよい。
【0042】
また、本実施例では、チェーンテンショナに大径スプリングと小径スプリングが設けられる構成について説明したが、チェーンテンショナに単一のスプリングが設けられていてもよい。単一のスプリングがボルトの大径空間に設置されることで、チェーンテンショナの全長を短くした状態で、プランジャのストローク全域に亘って良好なバネ特性を得るのに必要なスプリング長を確保することも可能である。
【0043】
また、本実施例では、ボルト側に大径スプリングが設置され、プランジャ側に小径スプリングが設置される構成にしたが、ボルト側に小径スプリングが設置され、プランジャ側に大径スプリングが設置されてもよい。
【0044】
また、本実施例では、大径スプリングと小径スプリングが同じバネ定数を有する構成にしたが、チェーンテンショナによるカムチェーンの調整に悪影響を及ぼさない範囲で、大径スプリングと小径スプリングのバネ定数が異なっていてもよい。
【0045】
また、本実施例では、接続部材が断面視ハット状に形成されたが、接続部材は大径スプリング及び小径スプリングを直列に接続可能な形状に形成されていればよい。
【0046】
また、本実施例のチェーンテンショナは、鞍乗型車両、自動四輪車、バギータイプの自動三輪車、水上バイク、芝刈り機、船外機等に適宜適用することができる。
【0047】
以上の通り、本実施例のチェーンテンショナ(30)は、一端の開口(34)から他端の開口(35)に延びる筒状空間(36)が形成されたテンショナボディ(31)と、一端の開口から突出するように筒状空間に収容されたプランジャ(41)と、他端の開口を塞ぐようにテンショナボディに固定されたボルト(51)と、プランジャに対して押し出し方向にバネ力を作用させるスプリング(組み合わせバネ61)と、を備え、ボルトにはプランジャが入り込む収容空間(大径空間52)が形成され、当該収容空間にスプリングが設置されている。この構成によれば、スプリングのバネ力によってチェーン(カムチェーン22)にプランジャが押し付けられることでチェーンの張力が保持される。また、プランジャがボルトの収容空間に入り込むことで、チェーンテンショナの全長を短くした状態で、プランジャのストロークが確保される。さらに、スプリングが収容空間に設置されることで、チェーンテンショナの全長を短くした状態で、プランジャのストローク全域に亘って良好なバネ特性が得るために必要なスプリング長が確保される。チェーンテンショナの全長が短くなることで、チェーンテンショナと周辺部品の干渉を抑えることができる。
【0048】
本実施例のチェーンテンショナにおいて、スプリングは、ボルト側に設置された大径スプリング(62)と、プランジャ側に設置された小径スプリング(63)と、を有し、小径スプリングの一部が大径スプリングの内側に入り込んでいる。この構成によれば、大径スプリングと小径スプリングのオーバーラップによって、プランジャのストローク全域に亘って良好なバネ特性が得るために必要なスプリング長を短くできる。よって、チェーンテンショナの全長をより短くすることができる。
【0049】
本実施例のチェーンテンショナにおいて、スプリングは、大径スプリング及び小径スプリングを直列に接続する接続部材(64)を有し、接続部材は、大径スプリングの内側に入り込む有底筒部(65)と、有底筒部から径方向外側に広がるフランジ部(66)と、を有し、大径スプリングが有底筒部の外側に取り付けられ、小径スプリングが有底筒部の内側に取り付けられる。この構成によれば、大径スプリングと小径スプリングのオーバーラップ量を増やしても、大径スプリングと小径スプリングを一体的に伸縮させることができる。
【0050】
本実施例のチェーンテンショナにおいて、大径スプリング及び小径スプリングが同じバネ定数を有する。この構成によれば、大径スプリングと小径スプリングのバネ特性が荷重に対して線形的に変位する。よって、チェーンテンショナによって安定的にチェーンの張力を調整することができる。
【0051】
他の実施例の伸縮機構(90)において、所定方向に相対的に移動可能な第1の部材(91)及び第2の部材(92)と、第1の部材及び第2の部材の間に設置された大径スプリング(93)と、第1の部材及び第2の部材の間に設置された小径スプリング(94)と、大径スプリング及び小径スプリングを直列に接続する接続部材(95)と、を備え、小径スプリングの一部が接続部材を介して大径スプリングの内側に入り込み、小径スプリングと大径スプリングが同じバネ定数を有している。この構成によれば、大径スプリングと小径スプリングのオーバーラップによって、伸縮機構を伸縮方向に短くした状態で、第1、第2の部材の相対的な移動ストローク全域に亘って良好なバネ特性を得るために必要なスプリング長が確保される。伸縮機構の全長が短くなることで、伸縮機構と周辺部品の干渉が抑えることができる。また、大径スプリングと小径スプリングのバネ特性が荷重に対して線形的に変位するため、伸縮機構に加えられた荷重に対して安定的に伸縮することができる。
【0052】
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0053】
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【符号の説明】
【0054】
30 :チェーンテンショナ
31 :テンショナボディ
34 :一端の開口
35 :他端の開口
36 :筒状空間
41 :プランジャ
51 :ボルト
52 :大径空間(収容空間)
61 :組み合わせバネ(スプリング)
62 :大径スプリング
63 :小径スプリング
64 :接続部材
65 :有底筒部
66 :フランジ部