(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】赤外光カットフィルター、固体撮像素子用フィルター、固体撮像素子、および、赤外光カットフィルターの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20240110BHJP
C08F 20/16 20060101ALI20240110BHJP
C08F 20/32 20060101ALI20240110BHJP
C08F 220/30 20060101ALI20240110BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G02B5/22
C08F20/16
C08F20/32
C08F220/30
H01L27/146 D
(21)【出願番号】P 2020019156
(22)【出願日】2020-02-06
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】古川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】三好 英恵
(72)【発明者】
【氏名】平井 友梨
(72)【発明者】
【氏名】岩田 玲子
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204650(JP,A)
【文献】国際公開第2017/098996(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/101219(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/186050(WO,A1)
【文献】特開2019-014807(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194527(WO,A1)
【文献】特開2017-218580(JP,A)
【文献】特開2013-249467(JP,A)
【文献】特開2016-188357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
C08F 20/16
C08F 20/32
C08F 220/30
H01L 27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメチン、および、前記ポリメチンの両末端に1つずつ位置し、窒素を含む2つの複素環を有するカチオンと、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸と、を含むシアニン色素と、
4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する第1繰り返し単位と、前記第1繰り返し単位とは異なる第2繰り返し単位と、を含むアクリル共重合体と、を含
み、
前記第2繰り返し単位は、フェニルメタクリレートに由来し、
前記アクリル共重合体は、前記第1繰り返し単位と前記第2繰り返し単位とから構成され、5質量%以上の前記第1繰り返し単位を含む
赤外光カットフィルター。
【請求項2】
前記アクリル共重合体は、10質量%以上20質量%以下の前記第1繰り返し単位を含む
請求項
1に記載の赤外光カットフィルター。
【請求項3】
ポリメチン、および、前記ポリメチンの両末端に1つずつ位置し、窒素を含む2つの複素環を有するカチオンと、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸と、を含むシアニン色素と、
4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する第1繰り返し単位と、前記第1繰り返し単位とは異なる第2繰り返し単位と、を含むアクリル共重合体と、を含み、
前記第2繰り返し単位は、フェニルメタクリレートに由来し、
前記アクリル共重合体は、前記第1繰り返し単位、前記第2繰り返し単位、および、グリシジルメタクリレートに由来する第3繰り返し単位によって構成され、15質量%以下の前記第3繰り返し単位を含む
赤外光カットフィルター。
【請求項4】
前記アクリル共重合体は、10質量%以上25質量%以下の前記第1繰り返し単位を含む
請求項
3に記載の赤外光カットフィルター。
【請求項5】
ポリメチン、および、前記ポリメチンの両末端に1つずつ位置し、窒素を含む2つの複素環を有するカチオンと、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸と、を含むシアニン色素と、
4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する第1繰り返し単位と、前記第1繰り返し単位とは異なる第2繰り返し単位と、を含むアクリル共重合体と、を含み、
前記第2繰り返し単位は、メチルメタクリレートに由来し、
前記アクリル共重合体は、前記第1繰り返し単位、前記第2繰り返し単位、および、ジシクロペンタニルメタクリレートに由来する第3繰り返し単位によって構成される
赤外光カットフィルター。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか一項に記載の赤外光カットフィルターを備える
固体撮像素子用フィルター。
【請求項7】
光電変換素子と、
請求項
6に記載の固体撮像素子用フィルターと、を備える
固体撮像素子。
【請求項8】
ポリメチン、および、前記ポリメチンの両末端に1つずつ位置し、窒素を含む2つの複素環を有するカチオンと、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸と、を含むシアニン色素と、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する第1繰り返し単位と、前記第1繰り返し単位とは異なる第2繰り返し単位とを含むアクリル共重合体と、を含む塗膜を形成すること、および、
硬化した塗膜をドライエッチングによってパターニングすること、を含
み、
前記第2繰り返し単位は、フェニルメタクリレートに由来し、
前記アクリル共重合体は、前記第1繰り返し単位と前記第2繰り返し単位とから構成され、5質量%以上の前記第1繰り返し単位を含む
赤外光カットフィルターの製造方法。
【請求項9】
ポリメチン、および、前記ポリメチンの両末端に1つずつ位置し、窒素を含む2つの複素環を有するカチオンと、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸と、を含むシアニン色素と、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する第1繰り返し単位と、前記第1繰り返し単位とは異なる第2繰り返し単位とを含むアクリル共重合体と、を含む塗膜を形成すること、および、
硬化した塗膜をドライエッチングによってパターニングすること、を含み、
前記第2繰り返し単位は、フェニルメタクリレートに由来し、
前記アクリル共重合体は、前記第1繰り返し単位、前記第2繰り返し単位、および、グリシジルメタクリレートに由来する第3繰り返し単位によって構成され、15質量%以下の前記第3繰り返し単位を含む
赤外光カットフィルターの製造方法。
【請求項10】
ポリメチン、および、前記ポリメチンの両末端に1つずつ位置し、窒素を含む2つの複素環を有するカチオンと、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸と、を含むシアニン色素と、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する第1繰り返し単位と、前記第1繰り返し単位とは異なる第2繰り返し単位とを含むアクリル共重合体と、を含む塗膜を形成すること、および、
硬化した塗膜をドライエッチングによってパターニングすること、を含み、
前記第2繰り返し単位は、メチルメタクリレートに由来し、
前記アクリル共重合体は、前記第1繰り返し単位、前記第2繰り返し単位、および、ジシクロペンタニルメタクリレートに由来する第3繰り返し単位によって構成される
赤外光カットフィルターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外光カットフィルター、固体撮像素子用フィルター、固体撮像素子、および、赤外光カットフィルターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CMOSイメージセンサーおよびCCDイメージセンサーなどの固体撮像素子は、光の強度を電気信号に変換する光電変換素子を備える。固体撮像素子の一例は、複数の色に対応する光を検出することが可能である。固体撮像素子は、各色用のカラーフィルターと各色用の光電変換素子とを備え、各色用の光電変換素子によって各色用の光を検出する(例えば、特許文献1を参照)。固体撮像素子の他の例は、有機光電変換素子と無機光電変換素子とを備え、カラーフィルターを用いずに、各光電変換素子によって各色の光を検出する(例えば、特許文献2を参照)。
【0003】
固体撮像素子は、光電変換素子上に赤外光カットフィルターを備える。赤外光カットフィルターが有する赤外光吸収色素が赤外光を吸収することによって、各光電変換素子が検出し得る赤外光を光電変換素子に対してカットする。これによって、各光電変換素子での可視光の検出精度が高められる。赤外光カットフィルターは、例えば、赤外光吸収色素であるシアニン色素を含む(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-060176号公報
【文献】特開2018-060910号公報
【文献】特開2007-219114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、赤外光カットフィルターを備える固体撮像素子が実装基板に実装されるときには、リフロー方式によるはんだ付けによって、固体撮像素子が実装基板に実装される。この際に、固体撮像素子が備える赤外光カットフィルターがはんだを溶融させる温度にまで加熱される。赤外光カットフィルターの加熱は、シアニン色素を変性させ、結果として加熱後の赤外光カットフィルターが有する赤外光の吸光度が、加熱前の赤外光カットフィルターが有する赤外光の吸光度よりも低下することがある。
【0006】
本発明は、加熱に起因した赤外光の吸光度における低下を抑制可能とした赤外光カットフィルター、固体撮像素子用フィルター、固体撮像素子、および、赤外光カットフィルターの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための赤外光カットフィルターは、ポリメチン、および、前記ポリメチンの両末端に1つずつ位置し、窒素を含む2つの複素環を有するカチオンと、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸と、を含むシアニン色素と、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する第1繰り返し単位と、前記第1繰り返し単位とは異なる第2繰り返し単位と、を含むアクリル共重合体と、を含む。
【0008】
上記課題を解決するための固体撮像素子用フィルターは、上記赤外光カットフィルターを備える。
上記課題を解決するための固体撮像素子は、光電変換素子と、上記固体撮像素子用フィルターと、を備える。
【0009】
上記課題を解決するための赤外光カットフィルターの製造方法は、ポリメチン、および、前記ポリメチンの両末端に1つずつ位置し、窒素を含む2つの複素環を有するカチオンと、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸と、を含むシアニン色素と、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する第1繰り返し単位と、前記第1繰り返し単位とは異なる第2繰り返し単位とを含むアクリル共重合体と、を含む塗膜を形成すること、および、硬化した塗膜をドライエッチングによってパターニングすること、を含む。
【0010】
上記各構成によれば、アクリル共重合体が4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する第1繰り返し単位を含むことによって、アクリル共重合体が第2繰り返し単位のみから構成される場合に比べて、赤外光カットフィルターにおいて、加熱に起因した吸光度の低下が抑えられる。
【0011】
上記赤外光カットフィルターにおいて、前記第2繰り返し単位は、フェニルメタクリレートに由来し、前記アクリル共重合体は、前記第1繰り返し単位と前記第2繰り返し単位とから構成され、5質量%以上の前記第1繰り返し単位を含んでもよい。
【0012】
上記構成によれば、アクリル共重合体が第1繰り返し単位と第2繰り返し単位との2成分から構成され、アクリル共重合体が5質量%未満の第1繰り返し単位を含む場合に比べて、赤外光カットフィルターにおいて、加熱に起因した吸光度の低下が抑えられる。
【0013】
上記赤外光カットフィルターにおいて、前記アクリル共重合体は、10質量%以上20質量%以下の前記第1繰り返し単位を含んでもよい。この構成によれば、2成分から構成されるアクリル共重合体が、10質量%以上20質量%以下の第1繰り返し単位を含むことによって、赤外光カットフィルターにおいて、加熱に起因した吸光度の低下が特に抑えられる。
【0014】
上記赤外光カットフィルターにおいて、前記第2繰り返し単位は、フェニルメタクリレートに由来し、前記アクリル共重合体は、前記第1繰り返し単位、前記第2繰り返し単位、および、グリシジルメタクリレートに由来する第3繰り返し単位によって構成され、15質量%以下の前記第3繰り返し単位を含んでもよい。
上記赤外光カットフィルターにおいて、前記アクリル共重合体は、10質量%以上25質量%以下の前記第1繰り返し単位を含んでもよい。
【0015】
上記各構成によれば、フェニルメタクリレートとグリシジルメタクリレートとを含む3成分から構成されるアクリル共重合体を含む赤外光カットフィルターにおいて、加熱に起因した吸光度の低下が抑えられる。
【0016】
上記赤外光カットフィルターにおいて、前記第2繰り返し単位は、メチルメタクリレートに由来し、前記アクリル共重合体は、前記第1繰り返し単位、前記第2繰り返し単位、および、ジシクロペンタニルメタクリレートに由来する第3繰り返し単位によって構成されてもよい。この構成によれば、メチルメタクリレートとジシクロペンタニメタクリレートとを含む3成分から構成される赤外光カットフィルターにおいて、加熱に起因した吸光度の低下が抑えられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、加熱に起因した赤外光の吸光度における低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態の固体撮像素子における構造を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1を参照して、赤外光カットフィルター、固体撮像素子用フィルター、固体撮像素子、および、赤外光カットフィルターの製造方法における一実施形態を説明する。以下では、固体撮像素子、赤外光カットフィルター、固体撮像素子用フィルターの製造方法、製造例、および、試験例を順に説明する。なお、本実施形態において、赤外光は、0.7μm以上1mm以下の範囲に含まれる波長を有した光であり、近赤外光は、赤外光のなかで特に700nm以上1100nm以下の範囲に含まれる波長を有した光である。また、本実施形態において、可視光は、400nm以上600nm以下の範囲に含まれる波長を有した光である。
【0020】
[固体撮像素子]
図1を参照して、固体撮像素子を説明する。
図1は、固体撮像素子の一部における各層を分離して示す概略構成図である。
【0021】
図1が示すように、固体撮像素子10は、固体撮像素子用フィルター10F、および、複数の光電変換素子11を備える。
複数の光電変換素子11は、赤色用光電変換素子11R、緑色用光電変換素子11G、青色用光電変換素子11B、および、赤外光用光電変換素子11Pを備える。各色用の光電変換素子11R,11G,11Bは、その光電変換素子11R,11G,11Bに対応付けられた特定の波長を有する可視光の強度を測定する。各赤外光用光電変換素子11Pは、赤外光の強度を測定する。
【0022】
固体撮像素子10は、複数の赤色用光電変換素子11R、複数の緑色用光電変換素子11G、複数の青色用光電変換素子11B、および、複数の赤外光用光電変換素子11Pを備える。なお、
図1では、図示の便宜上、固体撮像素子10における光電変換素子11の繰り返し単位が示されている。
【0023】
固体撮像素子用フィルター10Fは、複数の可視光用フィルター、赤外光パスフィルター12P、赤外光カットフィルター13、複数の可視光用マイクロレンズ、および、赤外光用マイクロレンズ15Pを備える。
【0024】
可視光用カラーフィルターは、赤色用フィルター12R、緑色用フィルター12G、および、青色用フィルター12Bから構成される。赤色用フィルター12Rは、赤色用光電変換素子11Rに対して光の入射側に位置する。緑色用フィルター12Gは、緑色用光電変換素子11Gに対して光の入射側に位置する。青色用フィルター12Bは、青色用光電変換素子11Bに対して光の入射側に位置する。
【0025】
赤外光パスフィルター12Pは、赤外光用光電変換素子11Pに対して光の入射側に位置する。赤外光パスフィルター12Pは、赤外光用光電変換素子11Pが検出し得る可視光を赤外光用光電変換素子11Pに対してカットする。すなわち、赤外光パスフィルター12Pは、赤外光用光電変換素子11Pに対する可視光の透過を抑える。これによって、赤外光用光電変換素子11Pによる赤外光の検出精度が高められる。赤外光用光電変換素子11Pが検出し得る赤外光は、例えば近赤外光である。
【0026】
赤外光カットフィルター13は、各色用フィルター12R,12G,12Bに対して光の入射側に位置する。赤外光カットフィルター13は、貫通孔13Hを備える。赤外光カットフィルター13が広がる平面と対向する視点から見て、貫通孔13Hが区画する領域内には、赤外光パスフィルター12Pが位置する。一方で、赤外光カットフィルター13が広がる平面と対向する視点から見て、赤外光カットフィルター13は、赤色用フィルター12R、緑色用フィルター12G、および、青色用フィルター12B上に位置する。
【0027】
赤外光カットフィルター13は、赤外光吸収色素であるシアニン色素を含む。シアニン色素は、近赤外光に含まれるいずれかの波長において、赤外光の吸収率における最大値を有する。そのため、赤外光カットフィルター13によれば、赤外光カットフィルター13を通過する近赤外光を確実に吸収することが可能である。これにより、各色用の光電変換素子11で検出され得る近赤外光が、赤外光カットフィルター13によって十分にカットされる。すなわち、赤外光カットフィルター13は、各色用の光電変換素子11に対する近赤外光の透過を抑える。赤外光カットフィルター13は、例えば、300nm以上3μm以下の厚さを有することが可能である。
【0028】
固体撮像素子用フィルター10Fは、バリア層14をさらに備える。バリア層14は、赤外光カットフィルター13の酸化源が、赤外光カットフィルター13に向けて透過することを抑える。酸化源は、酸素および水などである。バリア層14が有する酸素透過率は、例えば、5.0cc/m2/day/atm以下であることが好ましい。酸素透過率は、JIS K7126‐2:2006に準拠した値である。詳細には、酸素透過率は、JIS K7126‐2:2006の付属書Aに準拠し、かつ、23℃かつ相対湿度50%における酸素透過率である。酸素透過率が5.0cc/m2/day/atm以下に定められるから、バリア層14によって赤外光カットフィルター13に酸化源が到達することが抑制されるため、赤外光カットフィルター13が酸化源によって酸化されにくくなる。そのため、赤外光カットフィルター13の耐光性が向上可能である。
【0029】
バリア層14を形成する材料は、無機化合物である。バリア層14を形成する材料は、珪素化合物であることが好ましい。バリア層14を形成する材料は、例えば、窒化珪素、酸化珪素、および、酸窒化珪素からなる群から選択される少なくとも一つであってよい。
【0030】
マイクロレンズは、赤色用マイクロレンズ15R、緑色用マイクロレンズ15G、青色用マイクロレンズ15B、および、赤外光用マイクロレンズ15Pから構成される。赤色用マイクロレンズ15Rは、赤色用フィルター12Rに対して光の入射側に位置する。緑色用マイクロレンズ15Gは、緑色用フィルター12Gに対して光の入射側に位置する。青色用マイクロレンズ15Bは、青色用フィルター12Bに対して光の入射側に位置する。赤外光用マイクロレンズ15Pは、赤外光パスフィルター12Pに対して光の入射側に位置する。
【0031】
各マイクロレンズ15R,15G,15B,15Pは、外表面である入射面15Sを備える。各マイクロレンズ15R,15G,15B,15Pは、入射面15Sに入る光を各光電変換素子11R,11G,11B,11Pに向けて集めるための屈折率差を外気との間において有する。各マイクロレンズ15R,15G,15B,15Pは、透明樹脂を含む。
【0032】
[赤外光カットフィルター]
以下、赤外光カットフィルター13についてより詳細に説明する。
赤外光カットフィルター13は、シアニン色素、および、アクリル重合体を含む。シアニン色素は、カチオンとアニオンとを含む。カチオンは、ポリメチン、および、ポリメチンの両末端に1つずつ位置し、窒素を含む2つの複素環を有する。アニオンは、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸(FAP)である。
【0033】
シアニン色素は、下記式(1)に示される構造を有してもよい。
【0034】
【0035】
上記式(1)において、Xは、1つのメチン、または、ポリメチンである。メチンが含む炭素原子に結合された水素原子は、ハロゲン原子、または、有機基に置換されてもよい。ポリメチンは、ポリメチンを形成する炭素を含む環状構造を有してもよい。環状構造は、ポリメチンを形成する複数の炭素において、連続する3つの炭素を含むことができる。ポリメチンが環状構造を有する場合には、ポリメチンの炭素数は5以上であってよい。各窒素原子は、五員環または六員環の複素環に含まれている。複素環は、縮環されてもよい。
【0036】
また、シアニン色素は、下記式(2)に示される構造を有してもよい。
【0037】
【0038】
上記式(2)において、nは1以上の整数である。nは、ポリメチン鎖に含まれる繰り返し単位の数を示している。R1およびR2は水素原子、または、有機基である。R3およびR4は、水素原子または有機基である。R3およびR4は、炭素数1以上の直鎖状アルキル基、または、分岐鎖状アルキル基であることが好ましい。各窒素原子は、五員環または六員環の複素環に含まれている。複素環は、縮環されてもよい。
【0039】
なお、式(1)において、ポリメチンが環状構造を含む場合には、環状構造は、例えば、環状構造がエチレン性二重結合などの不飽和結合を少なくとも1つ有し、かつ、当該不飽和結合がポリメチン鎖の一部として電子共鳴する環状構造であってよい。こうした環状構造は、例えば、シクロペンテン環、シクロペンタジエン環、シクロヘキセン環、シクロヘキサジエン環、シクロヘプテン環、シクロオクテン環、シクロオクタジエン環、および、ベンゼン環などであってよい。これらの環状構造は、いずれも置換基を有してもよい。
【0040】
また、式(2)において、nが1である化合物はシアニンであり、nが2である化合物はカルボシアニンであり、nが3である化合物はジカルボシアニンである。式(2)において、nが4である化合物はトリカルボシアニンである。
【0041】
R1およびR2の有機基は、例えば、アルキル基、アリール基、アラルキル基、および、アルケニル基であってよい。アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基、sec‐ブチル基、イソブチル基、tert‐ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、および、デシル基などであってよい。アリール基は、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、および、ナフチル基などであってよい。アラルキル基は、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、および、フェニルプロピル基などであってよい。アルケニル基は、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、および、オクテニル基などであってよい。
【0042】
なお、各有機基が有する水素原子の少なくとも一部が、ハロゲン原子またはシアノ基によって置換されてもよい。ハロゲン原子は、フッ素、臭素、および、塩素などであってよい。置換後の有機基は、例えば、クロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基、および、シアノエチル基などであってよい。
【0043】
R3またはR4は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基、sec‐ブチル基、イソブチル基、tert‐ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、および、デシル基などであってよい。
【0044】
各窒素原子が含まれる複素環は、例えば、ピロール、イミダゾール、チアゾール、および、ピリジンなどであってよい。
こうしたシアニン色素が含むカチオンは、例えば、下記式(3)および下記式(4)によって表される構造であってよい。
【0045】
【0046】
【0047】
なお、シアニン色素が含むカチオンは、例えば、下記式(5)から式(44)に示される構造を有してもよい。すなわち、シアニン色素が含む各窒素原子は、以下に示される環状構造中に含まれてもよい。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
シアニン色素は、700nm以上1100nm以下に含まれるいずれかの波長において、赤外光の吸光度における最大値を有する。すなわち、700nm以上1100nm以下に含まれるいずれかの波長において、赤外光の透過率における最小値を有する。そのため、赤外光カットフィルター13によれば、赤外光カットフィルター13を通過する近赤外光を確実に吸収することが可能である。これにより、各色用の光電変換素子11で検出され得る近赤外光が、赤外光カットフィルター13によって十分にカットされる。言い換えれば、赤外光カットフィルター13によって、各色用の光電変換素子11に対する近赤外光の透過が十分に抑えられる。
【0089】
トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸([(C2F5)3PF3]-)は、下記式(45)によって示される構造を有する。
【0090】
【0091】
固体撮像素子10の製造過程において、赤外光カットフィルター13は、200℃程度に加熱される。上述したシアニン色素は、200℃程度に加熱されることによって、シアニン色素が有する構造が変わり、これによって、シアニン色素における赤外光に対する透過率が変化することがある。
【0092】
この点で、FAPは、シアニン色素におけるポリメチン鎖の近傍に位置することが可能な分子量および分子構造を有するため、シアニン色素のポリメチン鎖が、シアニン色素の加熱によって切断されることが抑えられる。それゆえに、シアニン色素の加熱に起因してシアニン色素が有する赤外光の透過率が変化することが抑えられ、結果として、赤外光カットフィルター13における赤外光の透過率が変化することが抑制される。
【0093】
アクリル共重合体は、第1繰り返し単位と、第1繰り返し単位とは異なる第2繰り返し単位を含む。第1繰り返し単位は、下記式(46)によって表される4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート(HPMA)(C10H10O3)に由来する。
【0094】
【0095】
アクリル共重合体が4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する第1繰り返し単位を含むことによって、アクリル共重合体が第2繰り返し単位のみから構成される場合に比べて、赤外光カットフィルターにおいて、加熱に起因した吸光度の低下が抑えられる。
【0096】
HPMAを含むアクリル共重合体によれば、HPMAを含まないアクリル共重合体、または、アクリル単独重合体に比べて、酸素を含まない雰囲気下での加熱に起因した重量の減少率、および、酸素を含む雰囲気下での加熱に起因した重量の減少率の両方を所定の範囲内に抑えることが可能である。アクリル重合体では、アクリル重合体の加熱に起因して、解重合および側鎖の脱離などを含むアクリル重合体の分解が生じる。こうしたアクリル重合体の分解における態様は、アクリル重合体が加熱される雰囲気における酸素の有無によって変わり得る。そして、アクリル重合体を含む赤外光カットフィルターが加熱される環境においては、酸素を含む雰囲気下においてアクリル重合体を分解する反応、および、酸素を含まない雰囲気下においてアクリル重合体を分解する反応の両方が進行する。
【0097】
アクリル重合体が分解されることによって、赤外光カットフィルター内にはラジカルが生じる。赤外光カットフィルター内のラジカルは、赤外光カットフィルター内のシアニン色素、特にシアニン色素が含むポリメチン鎖と反応することによって、反応前のシアニン色素が有する分光特性を当該分光特性とは異ならせるような変化をシアニン色素に生じさせる。これにより、赤外光カットフィルターは、赤外光カットフィルターに求められる波長における吸光度が低下する、言い換えれば透過率が上昇し、結果として、赤外光カットフィルターの分光特性が劣化する。
【0098】
この点で、上述したように、HPMAを含むアクリル共重合体によれば、酸素を含まない雰囲気下での加熱に起因した重量の減少率、および、酸素を含む雰囲気下での加熱に起因した重量の減少率の両方が所定の範囲内に抑えられるから、赤外光カットフィルターにおいて、加熱に起因した分光特性の劣化が抑えられる。
【0099】
第2繰り返し単位は、下記式(47)によって表されるフェニルメタクリレート(PhMA)(C10H10O2)に由来してよい。この場合には、アクリル共重合体は、第1繰り返し単位と第2繰り返し単位とから構成され、5質量%以上の第1繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0100】
【0101】
アクリル共重合体が第1繰り返し単位と第2繰り返し単位との2成分から構成され、アクリル共重合体が5質量%未満の第1繰り返し単位を含む場合に比べて、赤外光カットフィルターにおいて、加熱に起因した吸光度の低下が抑えられる。
【0102】
アクリル共重合体が第1繰り返し単位と第2繰り返し単位とから構成される場合には、アクリル共重合体は、10質量%以上20質量%以下の第1繰り返し単位を含むことが好ましい。2成分から構成されるアクリル共重合体が、10質量%以上20質量%以下の第1繰り返し単位を含むことによって、赤外光カットフィルターにおいて、加熱に起因した吸光度の低下が特に抑えられる。
【0103】
なお、第2繰り返し単位がフェニルメタクリレートに由来し、かつ、アクリル共重合体が、第1繰り返し単位、第2繰り返し単位、および、第3繰り返し単位によって構成されてもよい。この場合には、第3繰り返し単位は、下記式(48)によって表されるグリシジルメタクリレート(GMA)(C7H10O3)に由来し、アクリル共重合体は、15質量%以下の第3繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0104】
【0105】
また、アクリル共重合体は、10質量%以上25質量%以下の第1繰り返し単位を含むことが好ましい。これらの場合には、3成分から構成されるアクリル共重合体を含む赤外光カットフィルターにおいて、加熱に起因した吸光度の低下が抑えられる。
【0106】
なお、第2繰り返し単位が、下記式(49)によって表されるメチルメタクリレート(MMA)(C5H8O2)に由来し、アクリル共重合体が、第1繰り返し単位、第2繰り返し単位、および、第3繰り返し単位によって構成されてもよい。この場合には、第3繰り返し単位が、下記式(50)によって表されるジシクロペンタニルメタクリレート(DCPMA)(C14H20O2)に由来する。
【0107】
【0108】
【0109】
このように、メチルメタクリレートとジシクロペンタニメタクリレートとを含む3成分から構成される赤外光カットフィルターにおいて、加熱に起因した吸光度の低下が抑えられる。
【0110】
また、アクリル共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、および、グラフト共重合体のいずれの構造を有していてもよい。アクリル共重合体の構造がランダム共重合体であれば、製造工程およびシアニン色素との調製が容易である。そのため、ランダム共重合体は、他の共重合体よりも好ましい。
【0111】
アクリル共重合体を得るための重合方法は、例えば、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、リビングラジカル重合、リビングカチオン重合、および、リビングアニオン重合などであってよい。アクリル共重合体を得るための重合方法には、工業的に生産が容易なことから、ラジカル重合が選択されることが好ましい。ラジカル重合は、溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法、および、懸濁重合法などであってよい。ラジカル重合には、溶液重合法を用いることが好ましい。溶液重合法を用いることによって、アクリル共重合体における分子量の制御が容易である。さらに、アクリルモノマーの重合後にアクリル共重合体を含む溶液を溶液の状態で固体撮像素子用フィルターの製造に使用することができる。
【0112】
ラジカル重合では、上述したアクリルモノマーを重合溶剤によって希釈した後に、ラジカル重合開始剤を加えてアクリルモノマーの重合を行ってもよい。
重合溶剤は、例えば、エステル系溶剤、アルコールエーテル系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族系溶剤、アミド系溶剤、および、アルコール系溶剤などであってよい。エステル系溶剤は、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n‐ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t‐ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、および、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどであってよい。アルコールエーテル系溶剤は、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3‐メトキシ‐1‐ブタノール、および、3‐メトキシ‐3-メチル‐1‐ブタノールなどであってよい。ケトン系溶剤は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、および、シクロヘキサノンなどであってよい。芳香族系溶剤は、例えば、ベンゼン、トルエン、および、キシレンなどであってよい。アミド系溶剤は、例えば、ホルムアミド、および、ジメチルホルムアミドなどであってよい。アルコール系溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノール、n‐ブタノール、イソブタノール、s‐ブタノール、t‐ブタノール、ジアセトンアルコール、および、2‐メチル‐2‐ブタノールなどであってよい。このうち、ケトン系溶剤、および、エステル系溶剤は、固体撮像素子用フィルターの製造に用いることができるため好ましい。なお、上述した重合溶剤において、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0113】
ラジカル重合において、重合溶剤を使用する量は特に限定されないが、アクリルモノマーの合計を100重量部に設定する場合に、重合溶剤の使用量は、1重量部以上1000重量部以下であることが好ましく、10重量部以上500重量部以下であることがより好ましい。
【0114】
ラジカル重合開始剤は、例えば、過酸化物およびアゾ化合物などであってよい。過酸化物は、例えば、ベンゾイルペルオキシド、t‐ブチルパーオキシアセテート、t‐ブチルパーオキシベンゾエート、および、ジ‐t‐ブチルパーオキシドなどであってよい。アゾ化合物は、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスアミジノプロパン塩、アゾビスシアノバレリックアシッド(塩)、および、2,2’‐アゾビス[2‐メチル‐N‐(2‐ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]などであってよい。
【0115】
ラジカル重合開始剤の使用量は、アクリルモノマーの合計を100重量部に設定した場合に、0.0001重量部以上20重量部以下であることが好ましく、0.001重量部以上15重量部以下であることがより好ましく、0.005重量部以上10重量部以下であることがさらに好ましい。ラジカル重合開始剤は、アクリルモノマーおよび重合溶剤に対して、重合開始前に添加されてもよいし、重合反応系中に滴下されてもよい。ラジカル重合開始剤をアクリルモノマーおよび重合溶剤に対して重合反応系中に滴下することは、重合による発熱を抑制することができる点で好ましい。
【0116】
ラジカル重合の反応温度は、ラジカル重合開始剤および重合溶剤の種類によって適宜選択される。反応温度は、製造上の容易性、および、反応制御性の観点から、60℃以上110℃以下であることが好ましい。
【0117】
アクリル共重合体の重合時に使用するラジカル重合開始剤が、側鎖に芳香環を有する有機過酸化物である場合には、赤外光カットフィルターに含まれるアクリル共重合体を100重量部に設定する場合に、赤外光カットフィルターが、0.35重量部未満の有機過酸化物を含むことが好ましい。赤外光カットフィルターが0.35重量部未満の有機過酸化物を含むことによって、可視光領域、および、赤外光領域における赤外光カットフィルターの分光特性の劣化が抑えられる。
【0118】
アクリル共重合体のガラス転移温度は、75℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が75℃以上であれば、赤外光カットフィルターにおいて、赤外光カットフィルター13が加熱された場合に、赤外光の透過率における変化を抑える確実性を高めることが可能である。
【0119】
アクリル共重合体の分子量は、3万以上15万以下であることが好ましく、5万以上15万以下であることがより好ましい。アクリル共重合体の分子量がこの範囲に含まれることによって、赤外光カットフィルター13が加熱された場合に、赤外光の透過率における変化を抑える確実性を高めることが可能である。
【0120】
15万を超える分子量を有したアクリル共重合体は、重合時の粘度上昇によりシアニン色素とともに塗液化することが困難である。そのため、アクリル共重合体の分子量が15万を超える場合には、赤外光カットフィルター13の形成が容易ではない。一方で、アクリル共重合体の分子量が15万以下であれば、アクリル共重合体とシアニン色素とを含む塗液を形成することが可能であることから、赤外光カットフィルター13の形成がより容易である。なお、アクリル共重合体の平均分子量は、重量平均分子量である。アクリル共重合体の重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー法によって測定することが可能である。例えば、ラジカル重合反応において、溶液中のアクリルモノマーおよびラジカル重合開始剤の濃度を変更することによって、アクリル共重合体の分子量を制御することができる。
【0121】
アクリル共重合体の質量と、アクリル共重合体を構成するアクリルモノマーの質量との和(MS)に対するアクリルモノマーの質量(MM)の百分率(MM/MS×100)は、20%以下であることが好ましい。残存モノマーが20%よりも多い場合に比べて、赤外光カットフィルター13が加熱された場合に、シアニン色素における赤外光の透過率が変化しにくくなる。
【0122】
なお、アクリル共重合体の質量と、アクリル共重合体を構成するアクリルモノマーの質量との和(MS)に対するアクリルモノマーの質量(MM)の百分率(MM/MS×100)は、10%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。アクリル共重合体の質量、および、アクリルモノマーの質量は、アクリル共重合体の分析結果に基づき定量することが可能である。アクリル共重合体の分析方法は、例えば、ガスクロマトグラフィー量分析法(GC‐MS)、核磁気共鳴分光法(NMR)、および、赤外分光法(IR)などであってよい。
【0123】
アクリル共重合体の質量とアクリルモノマーの質量との和に対するアクリルモノマーの質量の割合を変更する方法は、例えば、重合時間を変更する方法、および、重合温度を変更する方法などであってよい。また、アクリル共重合体の質量とアクリルモノマーの質量との和に対するアクリルモノマーの質量の割合を変更する方法は、重合反応の開始時におけるアクリルモノマーおよびラジカル重合開始剤の濃度を変更する方法などであってよい。アクリル共重合体の質量とアクリルモノマーの質量との和に対するアクリルモノマーの質量の割合を変更する方法は、重合反応後の精製条件を変更する方法などであってよい。このうち、重合時間を変更する方法は、アクリルモノマーの質量の割合を変更する制御の精度が高いため好ましい。
【0124】
[固体撮像素子用フィルターの製造方法]
固体撮像素子用フィルターの製造方法は、赤外光カットフィルターの製造方法を含む。赤外光カットフィルターの製造方法は、シアニン色素とアクリル共重合体とを含む塗膜を形成すること、および、硬化した塗膜をドライエッチングによってパターニングすることを含む。シアニン色素は、ポリメチン、および、ポリメチンの両末端に1つずつ位置し、窒素を含む2つの複素環を有するカチオンと、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸とを含む。アクリル共重合体は、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する第1繰り返し単位と、第1繰り返し単位とは異なる第2繰り返し単位とを含む。以下、固体撮像素子用フィルターの製造方法をより詳しく説明する。
【0125】
各色用フィルター12R,12G,12B、および、赤外光パスフィルター12Pは、着色感光性樹脂を含む塗膜の形成、および、フォトリソグラフィー法を用いた塗膜のパターニングによって形成される。例えば、赤色用感光性樹脂を含む塗膜は、赤色用感光性樹脂を含む塗布液の塗布、および、塗膜の乾燥によって形成される。赤色用フィルター12Rは、赤色用感光性樹脂を含む塗膜に対し、赤色用フィルター12Rの領域に相当する露光、および、現像を経て形成される。なお、緑色用フィルター12G、青色用フィルター12B、および、赤外光パスフィルター12Pも、赤色用フィルター12Rと同様の方法によって形成される。
【0126】
赤色用フィルター12R、緑色用フィルター12G、および、青色用フィルター12Bの着色組成物に含有される顔料には、有機または無機の顔料を単独でまたは2種類以上混合して用いることができる。顔料は、発色性が高く、かつ、耐熱性の高い顔料、特に耐熱分解性の高い顔料であることが好ましく、有機顔料であることが好ましい。有機顔料は、例えば、フタロシアニン系、アゾ系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、アンサンスロン系、インダンスロン系、ペリレン系、チオインジゴ系、イソインドリン系、キノフタロン系、および、ジケトピロロピロール系などであってよい。
【0127】
また、赤外光パスフィルター12Pに含有される着色成分には、黒色色素、あるいは、黒色染料を用いることができる。黒色色素は、単一で黒色を有する色素、あるいは、2種以上の色素によって黒色を有する混合物であってよい。黒色染料は、例えば、アゾ系染料、アントラキノン系染料、アジン系染料、キノリン系染料、ペリノン系染料、ペリレン系染料、および、メチン系染料などであってよい。
各色の感光性着色組成物にはさらに、バインダー樹脂、光重合開始剤、重合性モノマー、有機溶剤、および、レベリング剤などが含まれる。
【0128】
赤外光カットフィルター13を形成する際には、上述したシアニン色素、アクリル共重合体、および、有機溶剤を含む塗布液を各色用フィルター12R,12G,12B上、および、赤外光パスフィルター12P上に塗布し、塗膜を乾燥させる。次いで、乾燥した塗膜を加熱によって硬化させる。
【0129】
赤外光カットフィルター13が備える貫通孔13Hを形成する際には、まず、赤外光カットフィルター13上にフォトレジスト層を形成する。このフォトレジスト層をパターニングすることによってレジストパターンを形成する。次に、このレジストパターンをエッチングマスクとして用いたドライエッチングによって、赤外光カットフィルター13をエッチングする。そして、エッチング後の赤外光カットフィルター13に残存するレジストパターンを剥離液によって除去することによって貫通孔13Hが形成される。これにより、赤外光カットフィルターをパターニングすることができる。
【0130】
剥離液には、レジストパターンを溶解することが可能な液体を用いることができる。剥離液は、例えば、N‐メチルピロリドン、または、ジメチルスルホキシドであってよい。赤外光カットフィルター13と剥離液とを接触させる方法は、ディップ法、スプレー法、および、スピン法などいずれの方法であってもよい。
【0131】
バリア層14は、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法などの気相成膜法、あるいは、塗布法などの液相成膜法を用いた成膜によって形成される。酸化珪素から構成されるバリア層14は、例えば、赤外光カットフィルター13が形成された基板に対し、酸化珪素からなるターゲットを用いたスパッタリングによる成膜を経て形成される。酸化珪素から構成されるバリア層14は、例えば、赤外光カットフィルター13が形成された基板に対し、シランと酸素とを用いたCVDによる成膜を経て形成される。酸化珪素から構成されるバリア層14は、例えば、ポリシラザンを含む塗布液の塗布、改質、および、塗膜の乾燥によって形成される。バリア層14の層構造は、単一の化合物からなる単層構造でもよいし、単一の化合物からなる層の積層構造であってもよいし、相互に異なる化合物からなる層の積層構造であってもよい。
【0132】
各マイクロレンズ15R,15G,15B,15Pは、透明樹脂を含む塗膜の形成、フォトリソグラフィー法を用いた塗膜のパターニング、および、熱処理によるリフローによって形成される。透明樹脂は、例えば、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、および、ノルボルネン系樹脂などである。
【0133】
[製造例]
表1を参照して製造例を説明する。なお、以下に説明する製造例によって製造されたアクリル共重合体が含む各繰り返し単位の割合は、当該アクリル共重合体を製造する際に用いたアクリルモノマーにおける使用量の割合に等しい。
【0134】
【0135】
[製造例1]
400重量部のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を重合溶剤として準備し、100重量部のメチルメタクリレート(MMA)(C5H8O2)をアクリルモノマーとして準備した。また、2.42重量部のベンゾイルペルオキシド(BPO)をラジカル重合体として準備した。これらを攪拌装置と環流管とが設置された反応容器に入れ、反応容器に窒素ガスを導入しつつ、80℃に加熱しながら8時間にわたって攪拌しかつ環流した。これにより、メチルメタクリレートから生成された単独重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0136】
[製造例2]
製造例1において、メチルメタクリレートをジシクロペンタニルメタクリレート(DCPMA)(C14H20O2)に変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.10重量部に変更した以外は、製造例1と同様の方法によって、ジシクロペンタニルメタクリレートから生成された単独重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0137】
[製造例3]
製造例1において、メチルメタクリレートをシクロヘキシルメタクリレート(CHMA)(C10H16O2)に変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.44重量部に変更した以外は、製造例1と同様の方法によって、シクロヘキシルメタクリレートから生成された単独重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0138】
[製造例4]
製造例1において、メチルメタクリレートをフェニルメタクリレート(PhMA)(C10H10O2)に変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.49重量部に変更した以外は、製造例1と同様の方法によって、フェニルメタクリレートから生成された単独重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0139】
[製造例5]
製造例1において、50重量部のジシクロペンタニルメタクリレートと、50重量部のメチルメタクリレートとをアクリルモノマーとして準備し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.76重量部に変更した。それ以外は、製造例1と同様の方法によって、ジシクロペンタニルメタクリレートとメチルメタクリレートとから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0140】
[製造例6]
製造例5において、ジシクロペンタニルメタクリレートをシクロヘキシルメタクリレートに変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.93重量部に変更した以外は、製造例5と同様の方法によって、シクロヘキシルメタクリレートとメチルメタクリレートとから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0141】
[製造例7]
製造例5において、ジシクロペンタニルメタクリレートをフェニルメタクリレートに変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.96重量部に変更した以外は、製造例5と同様の方法によって、フェニルメタクリレートとメチルメタクリレートとから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0142】
[製造例8]
製造例7において、メチルメタクリレートをジシクロペンタニルメタクリレートに変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.30重量部に変更した以外は、製造例7と同様の方法によって、フェニルメタクリレートとジシクロペンタニルメタクリレートとから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0143】
[製造例9]
製造例1において、50重量部のジシクロペンタニルメタクリレート、35重量部のメチルメタクリレート、および、15重量部の4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートをアクリルモノマーとして準備し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.60重量部に変更した。それ以外は、試験例1と同様の方法によって、ジシクロペンタニルメタクリレート、メチルメタクリレート、および、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0144】
[製造例10]
製造例1において、80重量部のフェニルメタクリレート、10重量部の4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート、および、10重量部のグリシジルメタクリレート(GMA)(C7H10O3)をアクリルモノマーとして準備し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.50重量部に変更した。それ以外は、製造例1と同様の方法によって、フェニルメタクリレート、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート、および、グリシジルメタクリレートから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0145】
[製造例11]
製造例10において、フェニルメタクリレートの量を70重量部に変更し、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートの量を25重量部に変更し、グリシジルメタクリレートの量を5重量部に変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.47重量部に変更した。それ以外は、製造例10と同様の方法によって、フェニルメタクリレート、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート、および、グリシジルメタクリレートから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0146】
[製造例12]
製造例11において、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートの量を15重量部に変更し、グリシジルメタクリレートの量を15重量部に変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.50重量部に変更した。それ以外は、製造例11と同様の方法によって、フェニルメタクリレート、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート、および、グリシジルメタクリレートから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0147】
[製造例13]
製造例11において、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートの量を18重量部に変更し、グリシジルメタクリレートの量を12重量部に変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.49重量部に変更した。それ以外は、製造例11と同様の方法によって、フェニルメタクリレート、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート、および、グリシジルメタクリレートから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0148】
[製造例14]
製造例13において、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートの量を20重量部に変更し、グリシジルメタクリレートの量を10重量部に変更した。それ以外は、製造例13と同様の方法によって、フェニルメタクリレート、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート、および、グリシジルメタクリレートから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0149】
[製造例15]
製造例11において、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートの量を22.5重量部に変更し、グリシジルメタクリレートの量を7.5重量部に変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.48重量部に変更した。それ以外は、製造例11と同様の方法によって、フェニルメタクリレート、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート、および、グリシジルメタクリレートから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0150】
[製造例16]
製造例11において、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートの量を24重量部に変更し、グリシジルメタクリレートの量を6重量部に変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.47重量部に変更した。それ以外は、製造例11と同様の方法によって、フェニルメタクリレート、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート、および、グリシジルメタクリレートから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0151】
[製造例17]
製造例13において、フェニルメタクリレートの量を65重量部に変更し、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートの量を21重量部に変更し、グリシジルメタクリレートの量を14重量部に変更した。それ以外は、製造例13と同様の方法によって、フェニルメタクリレート、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート、および、グリシジルメタクリレートから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0152】
[製造例18]
製造例17において、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートの量を25重量部に変更し、グリシジルメタクリレートの量を10重量部に変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.48重量部に変更した。それ以外は、製造例17と同様の方法によって、フェニルメタクリレート、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート、および、グリシジルメタクリレートから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0153】
[製造例19]
製造例17において、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートの量を17.5重量部に変更し、グリシジルメタクリレートの量を17.5重量部に変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.51重量部に変更した。それ以外は、製造例17と同様の方法によって、フェニルメタクリレート、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート、および、グリシジルメタクリレートから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0154】
[製造例20]
製造例4において、98重量部のフェニルメタクリレートと、2重量部の4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートを準備した以外は、製造例4と同様の方法によって、フェニルメタクリレートと4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートとから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0155】
[製造例21]
製造例20において、フェニルメタクリレートの量を95重量部に変更し、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートの量を5重量部に変更した以外は、製造例20と同様の方法によって、フェニルメタクリレートと4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートとから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0156】
[製造例22]
製造例20において、フェニルメタクリレートの量を90重量部に変更し、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートの量を10重量部に変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.48重量部に変更した。それ以外は、製造例20と同様の方法によって、フェニルメタクリレートと4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートとから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0157】
[製造例23]
製造例20において、フェニルメタクリレートの量を80重量部に変更し、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートの量を20重量部に変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.47重量部に変更した。それ以外は、製造例20と同様の方法によって、フェニルメタクリレートと4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートとから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0158】
[製造例24]
製造例20において、フェニルメタクリレートの量を70重量部に変更し、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートの量を30重量部に変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.45重量部に変更した。それ以外は、製造例20と同様の方法によって、フェニルメタクリレートと4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートとから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0159】
[製造例25]
製造例20において、フェニルメタクリレートの量を60重量部に変更し、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートの量を40重量部に変更し、ベンゾイルペルオキシドの量を1.44重量部に変更した。それ以外は、製造例20と同様の方法によって、フェニルメタクリレートと4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートとから生成された共重合体を含むポリマー溶液を得た。
【0160】
[評価方法]
[重量減少率]
各製造例のアクリル重合体について、窒素雰囲気下での重量減少率(%)、および、大気雰囲気下での重量減少率(%)を以下の方法によって測定した。重量減少率(%)の測定には示差熱熱重量同時測定装置(STA7000、(株)日立ハイテクサイエンス製)を用いた。各製造例について得られたポリマー溶液を生成して粉末化し、当該粉末化したサンプルを窒素雰囲気下、および、大気雰囲気下の各々において250℃で20分間加熱した。そして、各サンプルについて、加熱前の初期重量(W0)から加熱後の重量を引いた重量減少量(W)を初期重量(W0)で割ることによって、重量減少率(W/W0)を算出した。
【0161】
[評価結果]
各製造例のアクリル重合体について、重量減少率の測定結果は、以下の表2に示す通りであった。
【0162】
【0163】
表2が示すように、製造例1から製造例4の測定結果から、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位を含まないアクリル単独重合体では、窒素雰囲気下での重量減少率、および、大気雰囲気下での重量減少率のいずれかが極端に大きいことが認められた。また、製造例5,6,8の測定結果から、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位を含まないアクリル共重合体では、アクリル単独重合体と同様、窒素雰囲気下での重量減少率、および、大気雰囲気下での重量減少率のいずれかが極端に大きいことが認められた。また、製造例5,6,8の測定結果から、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位を含まないアクリル共重合体では、アクリル単独重合体に比べて、窒素雰囲気下での重量減少率、および、大気雰囲気下での重量減少率の両方が大きい傾向が認められた。
【0164】
これに対して、製造例20から製造例25の測定結果から、フェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位と、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位との2成分によって構成されるアクリル共重合体では、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位を含まないアクリル単独重合体、および、アクリル共重合体に比べて、以下の傾向が認められた。すなわち、窒素雰囲気下での重量減少率、および、大気雰囲気下での重量減少率の両方が所定の範囲内に抑えられる傾向が認められた。また、製造例20から製造例25の測定結果から、アクリル共重合体が、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位を5重量部以上含むことによって、窒素雰囲気下での重量減少率、および、大気雰囲気下での重量減少率の両方が20%以下に抑えられることが認められた。
【0165】
さらには、製造例20から製造例25の測定結果から、フェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位と、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位との2成分によって構成されるアクリル共重合体では、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位の割合が高いほど、窒素雰囲気下での重量減少率が低い傾向が認められた。一方で、フェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位と4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位との2成分によって構成されるアクリル共重合体では、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位の割合が低いほど、大気雰囲気下での重量減少率が低い傾向が認められた。
【0166】
製造例9から製造例19の測定結果から、4‐フェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位を含む3成分によって構成されるアクリル共重合体では、4‐フェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位を含まないアクリル単独重合体またはアクリル重合体に比べて、以下の傾向が認められた。すなわち、窒素雰囲気下での重量減少率、および、大気雰囲気下での重量減少率の両方が所定の範囲内に抑えられる傾向が認められた。
【0167】
また、製造例10から製造例19の測定結果から、フェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位、および、グリシジルメタクリレートに由来する繰り返し単位の3成分によって構成されるアクリル共重合体では、以下の事項が認められた。すなわち、グリシジルメタクリレートに由来する繰り返し単位が15重量部以下である場合に、グリシジルメタクリレートに由来する繰り返し単位の割合がより高い場合に比べて、窒素雰囲気下での重量減少率がより抑えられることが認められた。
【0168】
また、製造例10から製造例19の測定結果から、アクリル共重合体中に含まれるフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位の割合が同一である前提では、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位の割合が高いほど、窒素雰囲気下での重量減少率が低い傾向が認められた。さらに、アクリル共重合体中に含まれるフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位の割合が同一である前提では、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位の割合が低いほど、大気雰囲気下での重量減少率が低い傾向が認められた。
【0169】
[試験例]
表3を参照して試験例を説明する。
製造例1から製造例25のアクリル共重合体を以下の方法で用いることによって、25種の赤外光カットフィルターを得た。そして、各赤外光カットフィルターにおいて、耐熱試験前、および、耐熱試験後における透過率を以下に説明する方法で測定した。
【0170】
0.3gのシアニン色素、12.0gの25%ポリマー溶液、および、10gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含む塗液を作製した。この際に、シアニン色素として、上記式(3)によって表される色素を用い、上述した製造例1から製造例25によって得られたアクリル共重合体をそれぞれ含む25種のポリマー溶液を用いた。塗液を透明基板上に塗布し、塗膜を乾燥させた。次いで、塗膜を230℃に加熱して硬化させることによって、1.0μmの厚さを有する試験例1から試験例25の赤外光カットフィルターを得た。
【0171】
[評価方法]
[分光特性]
分光光度計(U-4100、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて350nmから1150nmの各波長を有した光に対する各試験例の赤外光カットフィルターにおける透過率を測定した。これにより、各赤外光カットフィルターについて、透過率のスペクトルを得た。なお、上記式(3)によって表されるシアニン色素における透過率のスペクトルは、950nmにおいて極小値を有する。そのため、各赤外光カットフィルターにおける950nmでの透過率を、耐熱試験の前後において測定した。
【0172】
[耐熱試験]
各試験例の赤外光カットフィルターにおける透過率の測定後、各試験例の赤外光カットフィルターを250℃で加熱した。加熱後の各試験例の赤外光カットフィルターについて、加熱前の各試験例の赤外光カットフィルターに対する方法と同様の方法によって透過率を測定した。
【0173】
[透過率の変化量]
各試験例について、耐熱試験後における950nmでの透過率から耐熱試験前における950nmでの透過率を減算することによって、透過率の変化量を算出した。
【0174】
[評価結果]
各試験例について、耐熱試験前の透過率、すなわち初期透過率と、透過率の変化量とは以下の表3に示す通りであることが認められた。なお、耐熱試験前の赤外光カットフィルターにおいて、950nmでの透過率が20%未満である場合を「○」とし、20%以上である場合を「×」とした。また、耐熱試験後の赤外光カットフィルターにおいて、透過率の変化量が15%以下である場合を「○」とし、透過率の変化量が15%よりも大きく20%以下である場合を「△」とし、透過率の変化量が20%よりも大きい場合を「×」とした。
【0175】
【0176】
表3が示すように、試験例9から試験例25の赤外光カットフィルターにおける透過率の変化量が、試験例1から試験例8の赤外光カットフィルターにおける透過率の変化量よりも小さいことが認められた。すなわち、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位を含み、かつ、2種以上の繰り返し単位を含むアクリル共重合体において、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位を含まないアクリル単独重合体、および、アクリル共重合体よりも透過率の変化量が小さいことが認められた。したがって、赤外光カットフィルターが、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位を含み、かつ、2種以上の繰り返し単位を含むアクリル共重合体を含むことによって、加熱に起因した吸光度の低下が抑えられると言える。
【0177】
なお、試験例19,20における透過率の変化量、および、試験例2,7における透過率の変化量の比較から、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートは、ジシクロペンタニルメタクリレート、および、フェニルメタクリレートに比べて、化学構造に起因して色素を安定化させる効果を有すると考えられる。
【0178】
また、試験例20から試験例25の赤外光カットフィルターによれば、アクリル共重合体が、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位を5重量部以上含むことによって、加熱に起因した吸光度の低下がより抑えられることが認められた。さらに、試験例20から試験例25の赤外光カットフィルターによれば、アクリル共重合体が、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位を10重量部以上20重量部以下含む場合に、透過率が極小値を有することが認められた。そのため、アクリル共重合体が、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位を10重量部以上20重量部以下含む場合に、加熱に起因した吸光度の低下が特に抑えられると言える。
【0179】
一方で、試験例10から試験例19の赤外光カットフィルターによれば、フェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位、および、グリシジルメタクリレートに由来する繰り返し単位から構成されるアクリル共重合体において、以下の事項が認められた。すなわち、アクリル共重合体が15重量部以下のグリシジルメタクリレートに由来する繰り返し単位を含むことによって、アクリル共重合体がより多くのグリシジルメタクリレートに由来する繰り返し単位を含む場合に比べて、加熱に起因した吸光度の低下が抑えられることが認められた。また、当該3成分から構成されるアクリル共重合体では、アクリル共重合体が4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位を10重量部以上25重量部以下の割合で含む場合に、加熱に起因した吸光度の低下が抑えられることが認められた。
【0180】
なお、試験例9によれば、ジシクロペンタニルメタクリレートに由来する繰り返し単位、メチルメタクリレートに由来する繰り返し単位、および、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位から構成されるアクリル共重合体においても、以下の事項が認められた。すなわち、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する繰り返し単位を含まないアクリル単独重合体、または、アクリル共重合体に比べて、透過率の変化量が小さいことが認められた。言い換えれば、加熱に起因した吸光度の低下が抑えられることが認められた。
【0181】
以上説明したように、赤外光カットフィルター、固体撮像素子用フィルター、固体撮像素子、および、赤外光カットフィルターの製造方法における一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
【0182】
(1)アクリル共重合体が4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートに由来する第1繰り返し単位を含むことによって、アクリル共重合体が第2繰り返し単位のみから構成される場合に比べて、赤外光カットフィルターにおいて、加熱に起因した吸光度の低下が抑えられる。
【0183】
(2)アクリル共重合体が第1繰り返し単位と第2繰り返し単位との2成分から構成され、アクリル共重合体が5質量%未満の第1繰り返し単位を含む場合に比べて、赤外光カットフィルターにおいて、加熱に起因した吸光度の低下が抑えられる。
【0184】
(3)2成分から構成されるアクリル共重合体が、10質量%以上20質量%以下の第1繰り返し単位を含むことによって、赤外光カットフィルターにおいて、加熱に起因した吸光度の低下が特に抑えられる。
【0185】
(4)フェニルメタクリレートとグリシジルメタクリレートとを含む3成分から構成されるアクリル共重合体を含む赤外光カットフィルターにおいて、加熱に起因した吸光度の低下が抑えられる。
【0186】
(5)メチルメタクリレートとジシクロペンタニメタクリレートとを含む3成分から構成される赤外光カットフィルターにおいて、加熱に起因した吸光度の低下が抑えられる。
【0187】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[バリア層]
・バリア層14は、赤外光カットフィルター13とマイクロレンズ15R、15G,15B,15Pとの間に限らず、各マイクロレンズ15R、15G,15B,15Pの外表面に配置されてもよい。
【0188】
・固体撮像素子10は、バリア層14とバリア層14の下層との間にアンカー層を備えてもよい。この場合には、バリア層14とバリア層14の下層との密着性がアンカー層によって高められる。また、固体撮像素子10は、バリア層14とバリア層14の上層との間にアンカー層を備えてもよい。この場合には、バリア層とバリア層の上層との密着性をアンカー層によって高められる。アンカー層を形成する材料は、例えば、多官能アクリル樹脂、あるいは、シランカップリング剤などである。
【0189】
・バリア層14の層構造は、単一の化合物からなる単層構造でもよいし、単一の化合物からなる層の積層構造であってもよいし、相互に異なる化合物からなる層の積層構造でもよい。
【0190】
・バリア層14は、赤外光カットフィルター13の表面と赤外光パスフィルター12Pの表面が形成する段差を埋める平坦化層として機能してもよい。
【0191】
[その他]
・各色用フィルター12R,12G,12Bの厚さは、赤外光パスフィルター12Pと相互に等しい大きさであってもよいし、異なる大きさであってもよい。各色用フィルター12R,12G,12Bの厚さは、例えば、0.5μm以上5μm以下であってよい。
【0192】
・カラーフィルターは、シアン用フィルター、イエロー用フィルター、マゼンタ用フィルターから構成された三色用フィルターでもよい。また、カラーフィルターは、シアン用フィルター、イエロー用フィルター、マゼンタ用フィルター、ブラック用フィルターから構成された四色用フィルターでもよい。また、カラーフィルターは、透明用フィルター、イエロー用フィルター、赤色用フィルター、ブラック用フィルターから構成された四色用フィルターでもよい。
【0193】
・赤外光カットフィルター13を形成する材料は、光安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、および、帯電防止剤などの他の機能を兼ね備えるための添加物を含むことが可能である。
・固体撮像素子10は、赤外光カットフィルター13に対して入射面15Sの側に位置する積層構造での酸素透過率が、5.0cc/m2/day/atm以下である構成であってもよい。例えば、積層構造は、平坦化層や密着層などの他の機能層であって、各マイクロレンズと共に、その酸素透過率が5.0cc/m2/day/atm以下であってもよい。
【0194】
・固体撮像素子10は、複数のマイクロレンズに対して光の入射面側にバンドパスフィルターを備えてもよい。バンドパスフィルターは可視光と近赤外光の特定の波長を有する光のみを透過するフィルターであり、赤外光カットフィルター13と類似の機能を備える。すなわち、バンドパスフィルターにより各色用光電変換素子11R,11G,11Bが検出し得る不要な赤外光をカットすることができる。それによって、各色用光電変換素子11R,11G,11Bによる可視光の検出精度、および、赤外光用光電変換素子11Pの検出対象である850nmあるいは940nm帯域の波長を有した近赤外光の検出精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0195】
10…固体撮像素子
10F…固体撮像素子用フィルター
11…光電変換素子
12R…赤色用フィルター
12G…緑色用フィルター
12B…青色用フィルター
12P…赤外光パスフィルター
13…赤外光カットフィルター
13H…貫通孔
14…バリア層
15R…赤色用マイクロレンズ
15G…緑色用マイクロレンズ
15B…青色用マイクロレンズ
15P…赤外光用マイクロレンズ