(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】給電機構および調光体
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1345 20060101AFI20240110BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G02F1/1345
G02F1/13 505
(21)【出願番号】P 2020022275
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 裕介
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-122456(JP,A)
【文献】国際公開第2019/194278(WO,A1)
【文献】特許第6635156(JP,B1)
【文献】国際公開第98/005999(WO,A1)
【文献】特開平11-258618(JP,A)
【文献】特開平06-112371(JP,A)
【文献】特開2001-075132(JP,A)
【文献】特開平06-082810(JP,A)
【文献】特開2007-057925(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0026573(US,A1)
【文献】中国実用新案第201021958(CN,Y)
【文献】特開2011-209590(JP,A)
【文献】特開2015-027752(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0098289(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1345
G02F 1/13
G02F 1/1333
G02F 1/136-1/1368
G02F 1/15-1/19
G09F 9/00
H05B 33/06
H10K 50/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の表面に透明導電層を備えた一対の基板の透明導電層を内側にして調光層を挟持した調光体に駆動電圧を給電する給電機構であって、
接合部と、前記接合部を被覆するように位置する転写部とを有し、
前記接合部は、
前記透明導電層と、
導電性接着剤層と、
前記導電性接着剤層を介して前記透明導電層と電気的に接続された給電部材と、を備え、
前記転写部は、
接着剤層と、
前記接着剤層上に設けられた紫外線遮光層と、を備える給電機構。
【請求項2】
前記透明基材の融点と、前記導電性接着剤
層の導電性接着剤の硬化温度と、前記接着剤
層の接着剤の硬化温度と、が(透明基材の融点)>(導電性接着
剤の硬化温度)≧
(接着剤
の硬化温度)なる関係を満たす事を特徴とする請求項1に記載の給電機構。
【請求項3】
前記紫外線遮光層が、金属薄膜からなる事を特徴とする請求項1または2に記載の給電機構。
【請求項4】
透明基材の表面に透明導電層を備えた一対の基板の透明導電層を内側にして調光層を挟持した調光体において、双方の基板の端部に請求項1~3のいずれかに記載の給電機構を備えている事を特徴とする調光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光体に駆動電力を供給する給電機構に関する。
【背景技術】
【0002】
電気的制御によって光の透過、散乱を切り換える事が可能な調光体は、車両、船舶といった移動体および建築物の窓ガラスに使用され、室内外の視認性などを制御するために使用されている。
【0003】
調光体は通常、一対の透明基板上に設けられた透明電極に液晶材料が挟持された構成であり、透明電極に印加する駆動電圧を印加する事によって駆動される。
透明電極に駆動電圧を供給する役割を果たすのが給電機構である。
給電機構は、透明電極に駆動電圧を供給する電気配線と、電気配線を透明電極に接続する給電部と、から構成されている。
【0004】
給電部としては、通常、透明電極に電気配線を接触させた状態で固定する導電性テープや導電性ペーストなどが使用されている。
【0005】
一方、調光フィルムなどの調光体は、建築物や車両の窓など、太陽光に晒される過酷な環境の下で使用される事が多い。その為、その様な環境下での信頼性の保証が求められる。その様な信頼性は、調光体の本体だけでなく、調光体全体として求められるものである為、調光体の電極と外部電源からの配線を接続する部分である給電機構に対しても求められている。
【0006】
給電機構の信頼性を確保する為、従来は給電機構を形成した後、金属膜付きの粘着部材を給電機構の上から手作業で貼合する方法が行なわれていた。
しかしながら、この方式では金属膜付きの粘着部材を貼合する位置精度を確保する事が容易ではなかった。
また、近年、調光体の給電部は設置するガラスの美装性の観点から、限りなく狭く、また小さくする事が求められている。その為、粘着部材を狭く、小さな領域に手作業で貼合する方法は、位置精度の点でますます困難になって来ているため、生産性が低下しており、工程負荷が増大している。
【0007】
この様な問題点を解決する技術に類似する先行技術としては、特許文献1には、給電線、特に、給電線基端部の振動などによる劣化や作業ミスなどによる損傷を防止でき、よって、給電線基端部における積層体接合面のすきまの発生を防ぎ、給電線および積層体の耐久性、防水性を向上させ、作業効率を向上させることができるコネクタが開示されている。また、特許文献2は、狭いスペース内に光学素子を収める端子構造が開示されている。また、特許文献3には、透明導電膜と電極構造との接合強度を向上させた調光体が開示されている。
【0008】
しかしながら、これらの先行技術は、太陽光下などの過酷な屋外環境に長時間晒されても、調光体の給電機構の信頼性を確保することを配慮した技術ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5026818号公報
【文献】特許第4480646号公報
【文献】特開2018-22154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の事情に鑑み、本発明は、高い耐候性に基づく長期の信頼性を備え、且つ狭くて小さな領域であっても高い位置精度で形成可能な給電機構を提供する事を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決する手段として、本発明は、透明基材の表面に透明導電層を備えた一対の基板の透明導電層を内側にして調光層を挟持した調光体に駆動電圧を給電する給電機構であって、
接合部と、前記接合部を被覆するように位置する転写部とを有し、
前記接合部は、
前記透明導電層と、
導電性接着剤層と、
前記導電性接着剤層を介して前記透明導電層と電気的に接続された給電部材と、を備え、
前記転写部は、
接着剤層と、
前記接着剤層上に設けられた紫外線遮光層と、を備える給電機構である。
【0012】
また、本発明は、前記透明基材の融点と、前記導電性接着剤の硬化温度と、前記接着剤の硬化温度と、が(透明基材の融点)>(導電性接着剤層の接着剤の硬化温度)≧(接着剤層の接着剤)なる関係を満たす事を特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記紫外線遮光層が、金属薄膜からなる事を特徴とする。
【0014】
また、本発明は、基材フィルムの上に、剥離層と、紫外線遮光層および接着剤層からなる転写層と、をこの順に備えている事を特徴とする転写層転写フィルムである。
【0015】
また、本発明は、透明基材の表面に透明導電層を備えた一対の基板の透明導電層を内側にして調光層を挟持した調光体において、双方の基板の端部に上記給電機構を備えている事を特徴とする調光体である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の給電機構によれば、調光体の透明導電層と外部電源からの配線である給電部材を、導電性接着剤層を介して接着した接合部を、接着剤層で被覆した上に紫外線遮光層を備えている。その為、長時間、太陽光下などの屋外環境に晒されても、接着剤層と導電性接着剤層とが、紫外線などによる劣化を防ぐ事ができる耐候性を備えている。その事から長期に亘る信頼性を確保する事ができる。
また、本発明の給電機構は、熱転写によって、接着剤層とその上に形成された紫外線遮光層を形成する為、狭い部分に高い位置精度で形成する事が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の調光体および調光体に備えられた本発明の給電機構の層構成を例示した断面説明図。
【
図2】本発明の転写層転写フィルムの層構成を例示した断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<給電機構>
本発明の給電機構について、
図1を用いて説明する。
本発明の給電機構10は、透明基材1の表面に透明導電層2を備えた一対の基板8の透明導電層2を内側にして調光層3を挟持した調光体20に駆動電圧を供給する給電機構10である。
【0019】
本発明の給電機構10は、上記の基板8の端部において、透明導電層2と、導電性接着剤層4と、駆動電圧を伝える給電部材5と、をこの順に備えた接合部9と、接合部9を被覆する様に転写された転写層14と、をこの順に備えている。
【0020】
転写層14は、接着剤層6と、接着剤層6の上に備えられた紫外線遮光層7と、をこの順に備えている事が特徴である。
【0021】
給電機構10は、駆動電圧の発生装置から給電部材5を通して伝えられる駆動電圧を、透明導電層2を介して調光層3に伝達する、給電部材5と透明導電層2との接合部9を提供するものであるが、本発明においては、更にその接合部9を紫外線から保護する機能を備えているため、屋外に長時間晒されても、劣化し難い為、長時間の信頼性を確保する事が可能となる。
【0022】
また、透明基材1の融点と、導電性接着剤層4の接着剤の硬化温度と、接着剤層6の接着剤の硬化温度と、が下記の式を満たす事が好ましい。
(透明基材1の融点)>(導電性接着剤層4の接着剤の硬化温度)≧(接着剤層6の接着剤)
この様な関係にある事で、透明基材1が溶融しない温度範囲で、導電性接着剤層4の接着剤と、接着剤層6の接着剤と、を熱硬化させる事が可能となる。また、接着剤層6が最も低温で硬化する事により、最も低温で接合部9の周囲を硬化させることができる。
【0023】
また、紫外線遮光層7が、金属薄膜であっても良い。金属膜は密度が高い為、薄い薄膜であっても紫外線遮光機能が高い為である。紫外線遮光層7を薄くする事により、紫外線遮光層7の破断が容易となり、転写層14の転写を容易にする事ができる。
【0024】
(透明基材)
透明基材1は、透明性および耐熱性を有するプラスチックフィルムであれば特に限定されない。好ましくは、ポリエステルフィルム、シクロオレフィンポリマー系フィルム、ポリカーボネートフィルムなどを挙げる事ができる。
透明基材1の厚さは、16μm~1000μmである事が好ましい。16μm未満であるとハンドリングが困難になる為、品質の維持が難しくなる。また1000μmを超えるとフレキシブル性が失われる事によりハンドリング性が悪くなる。また、透明性が落ちる。
【0025】
(透明導電層)
透明導電層2は、透明性が維持できる範囲であれば特に限定されない。ここで、透明性とは、表面抵抗率が2000Ω/sq(スクエア)で、全光透過率が70%以上である事を指す。全光透過率が70%未満であると、調光体を透明状態で使用する際に曇りが感じられ、散乱時との差異が低減する。その為、調光体としての機能が良好ではなくなる。また、表面抵抗率が2000Ω/sqを超えると、透明導電層2の抵抗が大きくなり過ぎる為、調光体への均一な電圧の給電が困難となる。その為、調光体の駆動に支障をきたす他、発熱などの危険を生じる虞がある。
具体的な材料としては、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)等の無機材料およびPEDOT(PolyEthylene DioxyThiophene)等の有機材料を挙げる事ができるが、いずれを
用いても構わない。
膜厚については、1μm以下である事が好ましい。1μmを超えると、透明基材1への追従性が劣る様になり、ハンドリング時に透明導電層2が損傷を受け、亀裂などによる導電不良を招く虞がある。また、高価な材料の使用量が増加する事にもなる。
【0026】
(導電性接着剤層)
導電性接着剤層4は、導電部材と熱硬化性樹脂からなる。熱硬化性樹脂としては、接着性を併せ持つ樹脂である事が好ましい。
【0027】
導電部材としては、金、銀、銅、錫、パラジウム、ニッケルなどの金属や、それらの金属の合金で被覆された樹脂製粒子が一般的であるが、表面層が導電性を有する微粒子からなる材料であれば、如何なる形状であっても良く、如何なる材料であっても良い。また、導電特性が異方性を備えた材料であっても、異方性を備えていない材料であっても良い。
【0028】
熱硬化性樹脂としては、常温で液状または粘性状を示し、250℃以下の加熱により流動性、粘性、タック性を失い、固化するものが好適である。固化するのに250℃を超える加熱が必要な樹脂である場合、透明基材1の融点を超える事があり、透明基材1との熱圧着時に、透明基材1が変形などの損傷を受ける虞がある。
【0029】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂やアクリル系樹脂を好適に使用する事ができる。また、熱硬化を促進する硬化剤を含有している事が好ましいが、自己反応性、自己架橋性により硬化させる事でも良い。
【0030】
導電性接着剤層4の厚さは、1μm~50μmである事が好ましい。1μm未満であると給電部材5の表面に形成されている凹凸に追従できずに通電不良を招く虞がある。50μmを超える場合は、厚過ぎる事により、熱圧着の際に導電性接着剤層4の全体に亘って加熱する事ができず、樹脂の熱硬化が不十分となる部分ができる事により、接着性不良となる虞が出てくる。また、高価な材料の使用量が増加してしまう。
【0031】
(給電部材)
給電部材5としては、銅やアルミニウムなどの通電を行える材料からなり、少なくとも透明導電層2との接続を行う部分が舌片状や短冊状となっている部材であれば好適に使用することができる。その他の部分の形態は如何なるものであっても構わない。例えば、銅箔をポリイミド樹脂で被覆し、接続に使用する部分だけポリイミド樹脂を除去したFPC(Flexible Prinnted Circuits、フレキシブルプリント配線板)を挙げる事ができる。
【0032】
(転写層)
転写層14は、接着剤層6の上に紫外線遮光層7が形成されている層である。後ほど説明する転写層転写フィルム13を使用して、給電機構10の接合部9の上から、接着剤層6と紫外線遮光層7を、接着剤層6を面して転写した層である。
紫外線遮光層7は、紫外線を遮断可能であり、且つ、容易に破断する事が可能な層であれば特に限定されない。例えば、金属材料からなる薄膜(金属薄膜)である。
金属材料は特に限定されないが、薄膜が形成し易く、高価な材料では無い材料であれば好適に使用可能である。例えば、アルミニウム薄膜を挙げる事ができる。
厚さとしては、紫外線を遮断可能な厚さであれば良い。例えば、数nm~数μmの薄膜であれば、十分な紫外線遮光性を備えており、且つ容易に破断する事ができるため、好適である。
【0033】
(接着剤層)
接着剤層6は、紫外線遮光層7と透明導電層2の間に挿入され、それらを接着すると同時に、両者の導通をとるものである。
接着剤層6の材料としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、ポリアミド樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂から選択した単体、または混合体からなる組成物とする事が好ましい。
接着剤層6の厚さとしては50μm以下である事が好ましい。50μmを超えると、熱が伝わり難くなる事による、熱硬化が不十分になる虞がある。また、その為に美装性が損なわれる虞もある。
【0034】
(紫外線遮光層)
紫外線遮光層7としては、十分な紫外線遮光性を備えていれば、材料や厚さに関して特に限定する必要は無い。
紫外線遮光層7の材料としては、遮光性が高い為、各種の金属材料を好適に使用する事ができる。下地との密着性の良さ、環境上の問題、材料価格、薄膜形成の容易さ、などを考慮すると、従来から樹脂フィルム上に形成されて来たアルミニウムを好適に使用する事ができる。
紫外線遮光層7の膜厚としては、数nm~1000μmの薄膜であれば、十分な紫外線遮光性を備えており、且つ容易に破断する事ができるため、好適に使用する事ができる。破断をより容易に実行可能とする為、10μm以下である事がより好ましい。厚さが1000μmを超えると調光体の本体との段差が目立つ為、美装性を損なう虞がある。
【0035】
<調光体>
調光体20の本体は、透明基材1の表面に透明導電層2が形成された一対の基板8の透明導電層2側を内側にして、調光層3を挟持したものである。調光層3は、電圧を印加する事によって、透明な状態から不透明になったり、逆に不透明な状態から透明になる材料からなる層である。材料としては、高分子分散型液晶(PDLC)やポリマーネットワーク型液晶(PNLC)などを好適に用いる事ができるが、これらに限定する必要は無く、上記の機能を有する材料であれば使用することができる。
【0036】
調光体20としては、上記の調光体20の本体と、その本体の一対の基板8の透明導電層2の端部に給電部材5を接続する給電機構10を備えている。
【0037】
<転写層転写フィルム>
次に、
図2を用いて、本発明の転写層転写フィルム13を説明する。
本発明の転写層転写フィルム13は、基材フィルム11の上に、剥離層12と、紫外線遮光層7と、接着剤層6と、をこの順に備えている事が特徴である。
【0038】
(基材フィルム)
基材フィルム11は、耐熱性を有するプラスチックフィルムであれば特に限定はされない。剥離性の観点からは二軸延伸ポリプロピレンフィルム、耐熱性の観点からは二軸延伸ポリエステルフィルムが好適である。
基材フィルム11の厚さは、8μm~250μmが好ましい。8μm未満であるとハンドリングが困難となり、製造工程で生じる各種の損傷により品質の維持が難しくなる虞がある。250μmより厚くなると、熱圧着時の導熱が不十分となり、熱圧着不良を招く虞がある。
【0039】
(剥離層)
剥離層12は、転写層転写フィルム13を調光体20の接合部9の上から熱転写する際に、紫外線遮光層7と接着剤層6の積層体が容易に剥離して転写可能とするものである。
ただし、基材フィルム11と紫外線遮光層7とが、容易に剥離できる場合は、積極的に剥離層12を設ける必要は無い。
【実施例】
【0040】
次に、本発明の実施例を用いて更に詳しく説明する。
【0041】
<実施例1>
(転写層転写フィルムの作製)
まず、基材フィルムとして、厚さ25μmのポリエステルフィルム(ルミラーF65、東レ製)を用い、その一方の面に剥離層として剥離ニス45-3(昭和インク製)を、バーコーターを用いて乾燥後の厚さが0.5~2.0μmに入る様に調整し、塗布、乾燥し、剥離層を形成した。
【0042】
次に、剥離層の上に紫外線遮光層として、真空蒸着法を用いて厚さ50nmのアルミニウム薄膜を形成した。
【0043】
次に、アルミニウム薄膜の上に、接着剤層として、変性アクリルコートSE-70 ホワイト(和信化学工業製)に酢酸ビニル塩化ビニル共重合体を加えた接着材料を使用し、バーコーターを用いて、厚さ0.5μm~1.0μmに入る様に調整して、塗布、乾燥を行う事により接着剤層を形成した。
この様にして、転写層転写フィルムを得た後、15mm×15mmの大きさに切り出して、熱転写に使用する転写層転写フィルムとした。
【0044】
(調光体の本体の作製)
基材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一方の面にITOを成膜した透明導電層付きPETフィルム(以後、ITO-PETと記す。)を2枚用いて、双方の透明導電層を向い合せにして、液晶材料(PNLC)からなる調光層を挟持して、厚さ20μmの調光層を備えた調光体の本体を得た。この液晶材料は、平均粒子径80nm~150nmのPNLC液晶が高分子膜に包まれたカプセルを有するものである。なお、ここで平均粒子径は、レーザー回折/散乱法による体積基準の平均粒子径である。
【0045】
(ITO層の取り出し)
まず、作製した調光体の本体を断裁してA4サイズの調光体を作製した。断裁した調光体の2つの短辺を上下とした場合、ITO-PETの短辺側のうち左下角部から短辺方向に10mm、長辺方向に7mm、まで薄手の金属板を用いて剥離し、そのITO-PETを切除することにより、調光層を露出させた。
【0046】
次に、それぞれ露出した調光層を、調光層を拭き取り可能な溶剤を浸みこませた不織布を用いて拭き取る事で、ITO層を露出させた。
【0047】
次に、調光体を裏返しにして、同様にして調光層を露出させ、調光層を拭き取り可能な溶剤を浸みこませた不織布を用いて拭き取る事で、ITO層を露出させた。
以上により、2枚のITO-PETのITO層が露出され、調光層への通電が可能となった。
【0048】
(給電機構の付与)
2枚のITO-PETのITO層が露出された調光体に対して、次のようにして給電機構を設置した。
【0049】
まず、調光体の露出したITO層の上に、導電性接着剤として、異方性導電フィルム CP923CM-25AC(デクセリアルズ社製)を積層した。
【0050】
次に、その異方性導電フィルムの上に、給電部材として、ポリイミドフィルムの上に銅箔を接着した標準FPC(厚さ25μmのポリイミドフィルム上に厚さ18μmの銅箔を片面に備えたFPC、沖電気製)に配線パターンを形成したものを使用して、その銅箔側を異方性導電フィルム側にして積層し、接合部を形成した。
【0051】
次に、接合部の上およびITO層を被覆する様に、15mm×15mmに切り出した転写層転写フィルムの接着剤層側を面して積層した。
【0052】
次に、転写層転写フィルムの裏面(紫外線遮光層側)から10mm×7mmの寸法を有するサーマルヘッドを備えた熱転写装置を用いて180℃、0.5MPaの熱圧条件にて、紫外線遮光層と接着剤層からなる転写層を、熱転写した。
同じ作業を、もう1つの露出したITO層にも実施した。
【0053】
その結果、転写層転写フィルムのサーマルヘッドで熱圧したエリアのみに、転写層が転写し、アルミニウム蒸着膜で被覆された給電機構が、調光体に設置され、給電可能な調光体が得られた。
【0054】
<実施例2>
異方性導電フィルムとして、導電性接着剤テープ♯9707を用いた以外は、実施例1と同様にして、給電可能な調光体を作製した。
【0055】
<比較例1>
紫外線遮光層と接着剤層からなる転写層を熱転写しなかった事を除き、実施例1と同様にして、給電可能な調光体を作製した。
【0056】
<比較例2>
接着剤層のみからなる転写層を熱転写した事を除き、実施例1と同様にして、給電可能な調光体を作製した。
【0057】
<比較例3>
転写層転写フィルムを使用せずに、アルミ基材粘着テープ ♯8303(寺岡製作所製)を15mm×12mmに切り出して、接合部およびITO層を被覆する様に、手作業にて貼合した事以外は、実施例1と同様とした。
【0058】
<比較例4>
サーマルヘッドを備えた熱転写装置を用いて、290℃、0.5MPaの熱圧条件にて、紫外線遮光層と接着剤層からなる転写層を、熱転写した事以外は実施例1と同様とした。290℃はPETフィルムの融点270℃を超える温度である。その為、基材であるPETフィルムが溶融分解し、調光体として機能しなかった。
【0059】
<比較例5>
サーマルヘッドを備えた熱転写装置を用いて、50℃、0.5MPaの熱圧条件にて、紫外線遮光層と接着剤層からなる転写層を、熱転写した事以外は実施例1と同様とした。その結果、転写層の接着剤層と導電性接着剤層が、加熱不足で熱硬化せず、給電機構を設置する事ができなかった為、調光体として機能しなかった。
【0060】
<調光体の特性評価>
実施例1~2および比較例1~3で得られた調光体(比較例4と5は除外)を、透明粘着フィルムOCA8146(スリーエム社製)を用い、厚さ3mmで、250mm×35
0mmのガラス板に貼り付けた。調光体において、電極以外の外周端部にはアルミ基材粘着テープを貼り付け、水分その他の影響を排除した。また、給電部となるFPCの端部、金属がむき出しとなった部分にもアルミ基材粘着テープを貼り付けた。
【0061】
(初期特性の評価)
ガラス板に貼合した調光体のAサイズの中心部について光学特性(ヘイズ)の測定を行った。測定には、ヘイズメーター NDH-7000(スガ試験機社製)を用いた。調光体の動作確認のために、無通電の状態でヘイズを測定し、更にAC40V(50Hz)を印加した後、ヘイズを測定した。
【0062】
(信頼性の評価)
ガラス板に貼合した調光体を、ガラス面が上になる様にしてSUS製のフレームにはめ込み、3か月間屋外に放置した後、SUS製フレームから取り外し、初期特性の評価と同様にして光学特性を測定した。
【0063】
測定結果を、まとめて表1に示す。
【0064】
【0065】
表1に示す様に、実施例1、2は3か月の屋外放置した後も、給電機構の劣化は見られず、初期と同様に機能した。
一方、比較例1、2は、調光体に通電しても機能しなかった。解析の結果、接合部の導通不良が発生していた。
これは、屋外環境の紫外線および水分により電極部材が劣化した為と推定される。
比較例3では、アルミ基材粘着テープを適切な位置に貼合する事ができず、調光体の美装性を損なう結果となった。
比較例5は、給電機構が脱落したため、給電を行う事ができず、調光体として機能しなかった。
【符号の説明】
【0066】
1・・・透明基材
2・・・透明導電膜
3・・・調光層
4・・・導電性接着剤層
5・・・導電性部材(または給電部材)
6・・・接着剤層
7・・・紫外線遮光層
8・・・基板
9・・・接合部
10・・・給電機構
11・・・基材フィルム
12・・・剥離層
13・・・紫外線遮光部材転写フィルム
14・・・転写層
20・・・調光体