(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】輝度計状態判定システム、輝度計状態判定装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01J 3/02 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
G01J3/02 C
(21)【出願番号】P 2020039202
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】繁永 伸明
(72)【発明者】
【氏名】原田 孝仁
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0278578(US,A1)
【文献】米国特許第9952102(US,B1)
【文献】特開2018-205021(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0143767(US,A1)
【文献】特開2010-249548(JP,A)
【文献】特開2011-39311(JP,A)
【文献】国際公開第2013/073438(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00-G01J 4/04
G01J 7/00-G01J 9/04
G01J 1/00-G01J 1/60
G01J 11/00
G01M 11/00-G01M 11/08
G09F 9/00
G02F 1/13
G09G 3/12-G09G 3/38
H10K 39/32-H10K 39/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ異なる複数個の測定対象物の輝度を測定する複数個の輝度計と、
各輝度計で輝度を測定された複数個の測定対象物の中から選択されたそれぞれ複数個の測定対象物であって、各輝度計で輝度を測定された測定対象物の各合計数よりも少ない数の測定対象物の輝度を測定する基準輝度計と、
前記複数個の輝度計
毎に、輝度計による測定対象物の測定結果と
、前記基準輝度計による
測定対象物の測定結果とを比較する比較手段と、
前記比較手段による比較の結果、前記輝度計の調整の要否を判定する判定手段と、
を備えたことを特徴とする輝度計状態判定システム。
【請求項2】
前記比較手段による比較結果に基づいて、前記複数の輝度計毎に、前記基準輝度計との測定値差のばらつきを演算する演算手段を備え、
前記判定手段は、前記演算手段で演算された測定値差のばらつきが許容値を超えた輝度計について、調整が必要と判定する請求項1に記載の輝度計状態判定システム。
【請求項3】
前記許容値は、前記基準輝度計による測定対象物の測定値のばらつきよりも大きな値に設定される請求項2に記載の輝度計状態判定システム。
【請求項4】
前記許容値は、前記測定値差から統計的手法により不確かさを求めることにより設定される請求項2に記載の輝度計状態判定システム。
【請求項5】
前記判定手段により、前記輝度計の調整が不要と判定され、補正行列の変更が必要と判定された場合、複数の測定対象物についての前記輝度計による測定結果と前記基準輝度計による測定結果から新たな補正行列を生成する生成手段と、
前記生成手段で生成された補正行列を用いて出力値の補正を行う補正手段と、
をさらに備えている請求項1~4のいずれかに記載の輝度計状態判定システム。
【請求項6】
前記生成手段は、複数の測定対象物についての測定結果に基づく複数の補正行列の中から選択することにより、新たな補正行列を生成する請求項5に記載の輝度計状態判定システム。
【請求項7】
前記生成手段は、複数の測定対象物についての測定結果に基づく複数の補正行列から、平均化または内挿近似によって新たな補正行列を生成する請求項5に記載の輝度計状態判定システム。
【請求項8】
それぞれ異なる複数個の測定対象物の輝度を測定する複数個の輝度計による測定対象物の測定結果を取得するとともに、
各輝度計で輝度を測定された複数個の測定対象物の中から選択されたそれぞれ複数個の測定対象物であって、各輝度計で輝度を測定された測定対象物の各合計数よりも少ない数の測定対象物の輝度を測定する基準輝度計による測定結果を取得する取得手段と、
前記複数個の輝度計毎に、前記取得手段により取得した前記輝度計による測定結果と前記基準輝度計による測定結果を比較する比較手段と、
前記比較手段による比較の結果、前記輝度計の調整の要否を判定する判定手段と、
を備えたことを特徴とする輝度計状態判定装置。
【請求項9】
前記比較手段による比較結果に基づいて、前記複数の輝度計毎に、前記基準輝度計との測定値差のばらつきを演算する演算手段を備え、
前記判定手段は、前記演算手段で演算された測定値差のばらつきが許容値を超えた輝度計について、調整が必要と判定する請求項8に記載の輝度計状態判定装置。
【請求項10】
前記許容値は、前記基準輝度計による測定対象物の測定値のばらつきよりも大きな値に設定される請求項9に記載の輝度計状態判定装置。
【請求項11】
前記許容値は、前記測定値差から統計的手法により不確かさを求めることにより設定される請求項9に記載の輝度計状態判定装置。
【請求項12】
前記判定手段により、前記輝度計の調整が不要と判定され、補正行列の変更が必要と判定された場合、複数の測定対象物についての前記輝度計による測定結果と前記基準輝度計による測定結果から新たな補正行列を生成する生成手段と、
前記生成手段で生成された補正行列を用いて出力値の補正を行う補正手段と、
をさらに備えている請求項8~11のいずれかに記載の輝度計状態判定装置。
【請求項13】
前記生成手段は、複数の測定対象物についての測定結果に基づく複数の補正行列の中から選択することにより、新たな補正行列を生成する請求項12に記載の輝度計状態判定装置。
【請求項14】
前記生成手段は、複数の測定対象物についての測定結果に基づく複数の補正行列から、平均化または内挿近似によって新たな補正行列を生成する請求項12に記載の輝度計状態判定装置。
【請求項15】
それぞれ異なる複数個の測定対象物の輝度を測定する複数個の輝度計による測定対象物の測定結果を取得するとともに、
各輝度計で輝度を測定された複数個の測定対象物の中から選択されたそれぞれ複数個の測定対象物であって、各輝度計で輝度を測定された測定対象物の各合計数よりも少ない数の測定対象物の輝度を測定する基準輝度計による測定結果を取得する取得ステップと、
前記複数個の輝度計毎に、前記取得ステップにより取得した前記輝度計による測定結果と前記基準輝度計による測定結果を比較する比較ステップと、
前記比較ステップによる比較の結果、前記輝度計の調整の要否を判定する判定ステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項16】
前記比較ステップによる比較結果に基づいて、前記複数の輝度計毎に、前記基準輝度計との測定値差のばらつきを演算する演算ステップを前記コンピュータにさらに実行させ、
前記判定ステップでは、前記演算ステップで演算された測定値差のばらつきが許容値を超えた輝度計について、調整が必要と判定する請求項15に記載のプログラム。
【請求項17】
前記許容値は、前記基準輝度計による測定対象物の測定値のばらつきよりも大きな値に設定される請求項16に記載のプログラム。
【請求項18】
前記許容値は、前記測定値差から統計的手法により不確かさを求めることにより設定される請求項16に記載のプログラム。
【請求項19】
前記判定ステップにより、前記輝度計の調整が不要と判定され、補正行列の変更が必要と判定された場合、複数の測定対象物についての前記輝度計による測定結果と前記基準輝度計による測定結果から新たな補正行列を生成する生成ステップと、
前記生成ステップで生成された補正行列を用いて出力値の補正を行う補正ステップと、
を前記コンピュータにさらに実行させる請求項15~18のいずれかに記載のプログラム。
【請求項20】
前記生成ステップでは、複数の測定対象物についての測定結果に基づく複数の補正行列の中から選択することにより、新たな補正行列を生成する請求項19に記載のプログラム。
【請求項21】
前記生成ステップでは、複数の測定対象物についての測定結果に基づく複数の補正行列から、平均化または内挿近似によって新たな補正行列を生成する請求項19に記載のプログラム。
【請求項22】
複数個の輝度計により、それぞれ異なる複数個の測定対象物の輝度を測定する第1の測定ステップと、
各輝度計で輝度を測定された複数個の測定対象物の中から選択されたそれぞれ複数個の測定対象物であって、各輝度計で輝度を測定された測定対象物の各合計数よりも少ない数の測定対象物の輝度を基準輝度計により測定する第2の測定ステップと、
前記複数個の輝度計毎に、輝度計による測定対象物の測定結果と、前記基準輝度計による測定対象物の測定結果とを比較する比較ステップと、
前記比較ステップでの比較の結果、前記輝度計の調整の要否を判定する判定ステップと、
を備えたことを特徴とする輝度計状態判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば複数の刺激値型輝度計を用いて、複数のディスプレイなどの測定対象物の輝度測定を行う場合に、輝度計の状態を判定する状態判定システム及び状態判定装置、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物である例えばディスプレイの工場等において、複数の刺激値型輝度計を用いて生産されたディスプレイの輝度(分光放射特性)を測定し監視することで、ディスプレイの品質を保持することが行われている。
【0003】
しかしながら、刺激値型輝度計はセンサ等の分光応答度の誤差によって真の測定値から誤差を生じ、一般的にその誤差は刺激値型輝度計毎にばらつく。つまり器差を有する。このため、刺激値型輝度計の器差を低減するために、事前に基準光源を用いて分光測色方式によるスペクトル型輝度計で基準値を取得し、その基準値に合わせて刺激値型輝度計の出力値を補正することが行われている。
【0004】
この場合、安定した測定条件を整えて測定誤差を極力減らすため、刺激値型輝度計を通常の稼働環境から移して、安定した環境条件下で基準光源の測定が実施される。そのため、刺激値型輝度計の移送や基準光源測定の手間がかかる問題が生じる。
【0005】
この問題に対して、各刺激値型輝度計の付近に基準光源を設置することも考えられるが、複数の基準光源自体の不確かさが増加するため、器差の増大が生じる。
【0006】
なお、特許文献1には、複数の生産拠点と開発部門等の間で、ホワイトバランス調整に使用する計測器が異なっている場合でも、計測器のずれ分を校正してより精度の高い計測データを提供する校正システムが提案されている。
【0007】
具体的には、拠点サーバ23は、分光放射輝度計12によりホワイトバランス調整を行った標準サンプル11に対して、分光放射輝度計12による第1の計測データと、カラーアナライザ22による第2の計測データとのずれに基づく校正用データを算出し、製品21に対してカラーアナライザ22によりホワイトバランス調整を行ったときの拠点計測データ及び校正用データをセンターサーバ30にアップロードする。センターサーバ30は、拠点サーバ23からアップロードされた拠点計測データ及び校正用データを生産拠点毎に記憶し、端末装置13からの要求に応じて、記憶した拠点計測データを校正用データにより校正し、校正後の拠点計測データを端末装置13に送信する、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載の技術は、標準サンプルを用いて定期的にカラーアナライザと基準輝度計とによる計測データのずれを監視し補正する必要があり、測定対象物の生産プロセス等に一旦組み込まれたカラーアナライザや刺激値型輝度計を取り出してこの作業を行うのは手間がかかるとともに、カラーアナライザの調整中は生産プロセスが停止するため効率的でない。
【0010】
この発明は、このような技術的背景に鑑みてなされたものであって、生産プロセス等に組み込まれた複数個の輝度計について、生産プロセス等を停止することなくディスプレイ等の測定対象物の計測を行いながら、複数の輝度計について状態を判定することができる輝度計状態判定システム、輝度計状態判定装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は以下の手段によって達成される。
(1)それぞれ異なる複数個の測定対象物の輝度を測定する複数個の輝度計と、各輝度計で輝度を測定された複数個の測定対象物の中から選択されたそれぞれ複数個の測定対象物であって、各輝度計で輝度を測定された測定対象物の各合計数よりも少ない数の測定対象物の輝度を測定する基準輝度計と、前記複数個の輝度計毎に、輝度計による測定対象物の測定結果と、前記基準輝度計による測定対象物の測定結果とを比較する比較手段と、前記比較手段による比較の結果、前記輝度計の調整の要否を判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする輝度計状態判定システム。
(2)前記比較手段による比較結果に基づいて、前記複数の輝度計毎に、前記基準輝度計との測定値差のばらつきを演算する演算手段を備え、前記判定手段は、前記演算手段で演算された測定値差のばらつきが許容値を超えた輝度計について、調整が必要と判定する前項1に記載の輝度計状態判定システム。
(3)前記許容値は、前記基準輝度計による測定対象物の測定値のばらつきよりも大きな値に設定される前項2に記載の輝度計状態判定システム。
(4)前記許容値は、前記測定値差から統計的手法により不確かさを求めることにより設定される前項2に記載の輝度計状態判定システム。
(5)前記判定手段により、前記輝度計の調整が不要と判定され、補正行列の変更が必要と判定された場合、複数の測定対象物についての前記輝度計による測定結果と前記基準輝度計による測定結果から新たな補正行列を生成する生成手段と、前記生成手段で生成された補正行列を用いて出力値の補正を行う補正手段と、をさらに備えている前項1~4のいずれかに記載の輝度計状態判定システム。
(6)前記生成手段は、複数の測定対象物についての測定結果に基づく複数の補正行列の中から選択することにより、新たな補正行列を生成する前項5に記載の輝度計状態判定システム。
(7)前記生成手段は、複数の測定対象物についての測定結果に基づく複数の補正行列から、平均化または内挿近似によって新たな補正行列を生成する前項5に記載の輝度計状態判定システム。
(8)それぞれ異なる複数個の測定対象物の輝度を測定する複数個の輝度計による測定対象物の測定結果を取得するとともに、各輝度計で輝度を測定された複数個の測定対象物の中から選択されたそれぞれ複数個の測定対象物であって、各輝度計で輝度を測定された測定対象物の各合計数よりも少ない数の測定対象物の輝度を測定する基準輝度計による測定結果を取得する取得手段と、前記複数個の輝度計毎に、前記取得手段により取得した前記輝度計による測定結果と前記基準輝度計による測定結果を比較する比較手段と、前記比較手段による比較の結果、前記輝度計の調整の要否を判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする輝度計状態判定装置。
(9)前記比較手段による比較結果に基づいて、前記複数の輝度計毎に、前記基準輝度計との測定値差のばらつきを演算する演算手段を備え、前記判定手段は、前記演算手段で演算された測定値差のばらつきが許容値を超えた輝度計について、調整が必要と判定する前項8に記載の輝度計状態判定装置。
(10)前記許容値は、前記基準輝度計による測定対象物の測定値のばらつきよりも大きな値に設定される前項9に記載の輝度計状態判定装置。
(11)前記許容値は、前記測定値差から統計的手法により不確かさを求めることにより設定される前項9に記載の輝度計状態判定装置。
(12)前記判定手段により、前記輝度計の調整が不要と判定され、補正行列の変更が必要と判定された場合、複数の測定対象物についての前記輝度計による測定結果と前記基準輝度計による測定結果から新たな補正行列を生成する生成手段と、前記生成手段で生成された補正行列を用いて出力値の補正を行う補正手段と、をさらに備えている前項8~11のいずれかに記載の輝度計状態判定装置。
(13)前記生成手段は、複数の測定対象物についての測定結果に基づく複数の補正行列の中から選択することにより、新たな補正行列を生成する前項12に記載の輝度計状態判定装置。
(14)前記生成手段は、複数の測定対象物についての測定結果に基づく複数の補正行列から、平均化または内挿近似によって新たな補正行列を生成する前項12に記載の輝度計状態判定装置。
(15)それぞれ異なる複数個の測定対象物の輝度を測定する複数個の輝度計による測定対象物の測定結果を取得するとともに、各輝度計で輝度を測定された複数個の測定対象物の中から選択されたそれぞれ複数個の測定対象物であって、各輝度計で輝度を測定された測定対象物の各合計数よりも少ない数の測定対象物の輝度を測定する基準輝度計による測定結果を取得する取得ステップと、前記複数個の輝度計毎に、前記取得ステップにより取得した前記輝度計による測定結果と前記基準輝度計による測定結果を比較する比較ステップと、前記比較ステップによる比較の結果、前記輝度計の調整の要否を判定する判定ステップと、をコンピュータに実行させるためのプログラム。
(16)前記比較ステップによる比較結果に基づいて、前記複数の輝度計毎に、前記基準輝度計との測定値差のばらつきを演算する演算ステップを前記コンピュータにさらに実行させ、前記判定ステップでは、前記演算ステップで演算された測定値差のばらつきが許容値を超えた輝度計について、調整が必要と判定する前項15に記載のプログラム。
(17)前記許容値は、前記基準輝度計による測定対象物の測定値のばらつきよりも大きな値に設定される前項16に記載のプログラム。
(18)前記許容値は、前記測定値差から統計的手法により不確かさを求めることにより設定される前項16に記載のプログラム。
(19)前記判定ステップにより、前記輝度計の調整が不要と判定され、補正行列の変更が必要と判定された場合、複数の測定対象物についての前記輝度計による測定結果と前記基準輝度計による測定結果から新たな補正行列を生成する生成ステップと、前記生成ステップで生成された補正行列を用いて出力値の補正を行う補正ステップと、を前記コンピュータにさらに実行させる前項15~18のいずれかに記載のプログラム。
(20)前記生成ステップでは、複数の測定対象物についての測定結果に基づく複数の補正行列の中から選択することにより、新たな補正行列を生成する前項19に記載のプログラム。
(21)前記生成ステップでは、複数の測定対象物についての測定結果に基づく複数の補正行列から、平均化または内挿近似によって新たな補正行列を生成する前項19に記載のプログラム。
(22)複数個の輝度計により、それぞれ異なる複数個の測定対象物の輝度を測定する第1の測定ステップと、各輝度計で輝度を測定された複数個の測定対象物の中から選択されたそれぞれ複数個の測定対象物であって、各輝度計で輝度を測定された測定対象物の各合計数よりも少ない数の測定対象物の輝度を基準輝度計により測定する第2の測定ステップと、前記複数個の輝度計毎に、輝度計による測定対象物の測定結果と、前記基準輝度計による測定対象物の測定結果とを比較する比較ステップと、前記比較ステップでの比較の結果、前記輝度計の調整の要否を判定する判定ステップと、を備えたことを特徴とする輝度計状態判定方法。
【発明の効果】
【0012】
前項(1)、(8)及び(15)に記載の発明によれば、それぞれ異なる複数個の測定対象物の輝度を測定する複数個の輝度計による測定対象物の測定結果と、各輝度計で輝度を測定された複数個の測定対象物の中から選択されたそれぞれ複数個の測定対象物であって、各輝度計で輝度を測定された測定対象物の各合計数よりも少ない数の測定対象物の輝度を測定する基準輝度計による測定結果とを比較し、比較の結果、輝度計の調整の要否を判定するから、生産ライン等において複数の測定対象物の測定を行いながら、輝度計の調整の要否を判定することができる。従って、標準サンプルを用いて定期的に輝度計と標準輝度計との測定データのずれを監視し補正する場合のように、標準サンプルの測定のために生産プロセス等を停止する必要は無いから、効率低下も抑制することができる。
【0013】
前項(2)、(9)及び(16)に記載の発明によれば、複数個の輝度計による測定対象物の測定結果と、基準輝度計による測定結果との比較結果に基づいて、複数の輝度計毎に、基準輝度計との測定値差のばらつきを演算し、測定値差のばらつきが許容値を超えた輝度計については、調整が必要と判定される。
【0014】
前項(3)、(10)及び(17)に記載の発明によれば、許容値は、基準輝度計による測定対象物の測定値のばらつきよりも大きな値に設定されるから、確実性の高い判定を行うことができる。
【0015】
前項(4)、(11)及び(18)に記載の発明によれば、許容値は、測定値差から統計的手法により不確かさを求めることにより設定されるから、確実性の高い判定を行うことができる。
【0016】
前項(5)、(12)及び(19)に記載の発明によれば、輝度計の調整が不要と判定され、補正行列による補正が必要と判定された場合、複数の測定対象物についての輝度計による測定結果と基準輝度計による測定結果から新たな補正行列が生成され、この生成された補正行列を用いて出力値が補正される。
【0017】
前項(6)、(13)及び(20)に記載の発明によれば、複数の測定対象物についての測定結果に基づく複数の補正行列の中から選択することにより、新たな補正行列が生成される。
【0018】
前項(7)、(14)及び(21)に記載の発明によれば、複数の測定対象物についての測定結果に基づく複数の補正行列から、平均化または内挿近似によって新たな補正行列が生成される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の一実施形態に係る輝度計状態判定システムが適用される測定対象物の生産プロセスの概略構成を示す図である。
【
図2】この発明の一実施形態に係る輝度計状態判定装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】輝度計と基準輝度計で同一の基準光源を時間を変えて測定したときの輝度計の経時変化の様子を示すグラフである。
【
図4】輝度計と基準輝度計で測定対象物を測定したときのY値の変化を示すグラフである。
【
図5】1個の輝度計と1個の基準輝度計で複数の測定対象物を測定したときのY値の測定値差を示すグラフである。
【
図6】(A)は、3個の輝度計と1個の基準輝度計で複数の測定対象物を測定したときのY値の測定値差を示すグラフであり、(B)は測定値差の頻度をヒストグラムで表した図である。
【
図7】(A)(B)は、ばらつきの許容値を決定する方法を説明するための図である。
【
図8】ばらつきの許容値を決定する他の方法を説明するための図である。
【
図9】新たな補正行列を生成する方法を説明するための図である。
【
図10】輝度計状態判定装置によって実行される輝度計の状態変化を判定する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、この発明の一実施形態に係る輝度計状態判定システムが適用される測定対象物の生産プロセスの概略構成を示す図である。
【0022】
図1において、輝度計状態判定システムは複数の刺激値型輝度計1と、1個の基準輝度計2を備えている。
【0023】
各刺激値型輝度計1は、それぞれ測定対象物3の生産プロセスに組み込まれ、図示しない移送装置により搬送されてくる測定対象物3を、それぞれ順次測定する。この実施形態では測定対象物3がディスプレイである場合を示すが、測定対象物3はディスプレイに限定されることはない。以下の説明では、測定対象物をディスプレイともいう。
【0024】
また、この実施形態において、ディスプレイ3は各刺激値型輝度計1による測定を一旦実施された後、発光状態の調整が行われており、
図1に示した生産プロセスは、調整後に刺激値型輝度計1により出荷前の再度の検査測定を行うプロセスである。
【0025】
基準輝度計2は、この実施形態では分光測色方式によるスペクトル型輝度計によって構成されている。基準輝度計2は、各刺激値型輝度計1で輝度を測定されたディスプレイ3の中から選択されたディスプレイ3を測定する。従って、基準輝度計2で輝度を測定されるディスプレイ3の数は、各刺激値型輝度計1で測定されたディスプレイ3の合計数よりも少ない。
【0026】
図2は、この発明の一実施形態に係る輝度計状態判定装置4の構成を示すブロック図である。状態判定装置4は、CPU41とRAM42とハードディスク装置等からなる記憶部43等を備えたパーソナルコンピュータによって構成されている。
【0027】
さらに、輝度計状態判定装置4は
図2に示すように、入力部44と、ばらつき演算部45と、比較部46と、判定部47と、補正行列生成部48と、補正部49を備えているが、これらはCPU41の機能によって構成されても良い。
【0028】
入力部44は、各刺激値型輝度計1及び基準輝度計2の測定値を入力・取得する。入力された測定値は刺激値型輝度計1の種類、ディスプレイ3の識別情報等と関連付けて、記憶部43に保存される。なお、ディスプレイ3が測定値を記憶可能なメモリを備えており、各刺激値型輝度計1及び基準輝度計2による測定時点で測定値がメモリに記憶されている場合は、入力部44はメモリから読み出して測定値を取得しても良い。
【0029】
ばらつき演算部45は、各刺激値型輝度計1毎に、基準輝度計2との測定値差のばらつきを演算する。
【0030】
比較部46は、ばらつき演算部45で演算された各刺激値型輝度計1についてのばらつきを、それぞれ許容値と比較する。
【0031】
判定部47は、比較部46による比較結果に基づいて、各刺激値型輝度計1毎に調整の要否を判定する。
【0032】
補正行列生成部は、判定部による判定の結果、刺激値型輝度計1の数値補正で対応可能と判定された場合、新たな補正行列を生成する。
【0033】
補正部は、補正行列(新たな補正行列が生成された場合は新たな補正行列)により、刺激値型輝度計1の出力値を補正する。
【0034】
次に、輝度計状態判定装置4によって実行される、具体的な状態判定処理について説明する。
【0035】
図3は、刺激値型輝度計1と基準輝度計2であるスペクトル型輝度計で、同一の基準光源を時間を変えて測定したときの、刺激値型輝度計1の経時変化の様子を示すグラフであり、Y値の変化を例示したものである。この例及び以降の例では、刺激値型輝度計1として、コニカミノルタ株式会社製のCA-410、基準輝度計(スペクトル型輝度計)2として、同じくコニカミノルタ株式会社製のCS-2000を使用した。
【0036】
図3において、白丸は基準輝度計2の測定値を、黒丸は刺激値型輝度計1の測定値をそれぞれ示している。
図3において、基準輝度計2の測定値は経時的に変化している。通常この微小な変化を”不確かさ”として測定器は管理されている。また、基準輝度計2の測定値を基準値として、刺激値型輝度計1の測定値との差は誤差として扱われる。
【0037】
実際の生産プロセスでは、上述したように、刺激値型輝度計1の測定結果に基づいてディスプレイ3を調整後、再度、刺激値型輝度計1で測定値を測定され、さらにディスプレイ3のいくつかは、基準輝度計2で測定されることになる。
【0038】
刺激値型輝度計1と基準輝度計2で、ディスプレイ3を測定したときのY値の変化を
図4に示す。
図4において、白丸は基準輝度計2の測定値を、黒丸は刺激値型輝度計1の測定値をそれぞれ示している。また、縦方向に並ぶ測定値は同一のディスプレイ(
図4ではDisplay panelと記している)3についての測定値であり、横方向に異なるディスプレイ3の測定値を示している。
【0039】
図4において、基準輝度計2による測定値が、現場での真値(基準値)として扱われる。この値はディスプレイ3の特性変化の影響は受けない。刺激値型輝度計1との測定誤差がバラツキとして表れる。
【0040】
なお、ディスプレイ3は発光状態を既に調整済みなので、刺激値型輝度計1による測定値のばらつきは小さく見える。刺激値型輝度計1による測定値には、輝度計の経時変化以外に、ディスプレイ3の特性(分光発光スペクトルなど)が影響する。
【0041】
この実施形態では、前述したように、基準輝度計2による測定値と刺激値型輝度計1の測定値との測定値差(測定誤差)のばらつきを、複数の刺激値型輝度計1のそれぞれについて演算する。
【0042】
図5に、1個の刺激値型輝度計1(CA-410)と1個の基準輝度計2(CS-2000)で複数のディスプレイ3を測定したときのY値の測定値差(Y(CA-410)-Y(CS-2000))を示す。測定値差はばらついているが、測定値差が大きくなった時、原因特定のためそれが刺激値型輝度計1の出力の問題か、ディスプレイ3の特性変化の問題かを判断する必要がある。
【0043】
図6(A)は、3個の刺激値型輝度計1(CA-410)と1個の基準輝度計2(CS-2000)で複数のディスプレイ3を測定したときのY値の測定値差(Y(CA-410)-Y(CS-2000))を示すグラフであり、同図(B)は測定値差の頻度をヒストグラムで表した図である。3個の刺激値型輝度計1をそれぞれID=001、ID=002、ID=003で示す。
【0044】
ID001及びID002の刺激値型輝度計1は、いずれも、測定値差が予め設定された誤差限界値を超える場合があった。ただし、ID001の刺激値型輝度計1は、輝度計そのものまたはディスプレイ3が不安定で、測定再現性が低く、このため刺激値型輝度計1の修理、ディスプレイ3の駆動条件見直し等の対策が必要であった。ID002の刺激値型輝度計1は、測定再現性は高いが、ディスプレイ3に適した補正行列が選択されておらず、出力値に対する数値補正の実施で解決できるものであった。ID003の刺激値型輝度計1は問題がなかった。
【0045】
そこで、ID001の刺激値型輝度計1とID002の刺激値型輝度計1を区別するために、この実施形態では、以下のような手法を採用する。
【0046】
即ち、それぞれの輝度計の誤差のばらつきを標準偏差で表す。ID=001、ID=002、ID=003の各刺激値型輝度計1の標準偏差を、それぞれσ001、σ002、σ003とする。そして、標準偏差が許容値σTHを超えている刺激値型輝度計1については、数値補正で解決できず、調整が必要と判定する。上記の例では、ID=001の刺激値型輝度計1の標準偏差σ001が許容値σTHを超えており、修理か測定条件の見直しを行う。
【0047】
また、誤差限界値を超えた測定値差が存在していても、標準偏差が許容値σTHを超えていなければ、刺激値型輝度計1の出力の数値補正で解決できる問題であると判定する。上記の例では、ID=002の刺激値型輝度計1が該当する。この場合、適切な補正行列に書き換えて、刺激値型輝度計1の測定値を補正する。この点については後述する。
【0048】
次に、許容値σTHの決定方法について説明する。
【0049】
第1の決定方法として、基準輝度計2によるディスプレス3の測定値のばらつきよりも大きな値に設定する。適切な基準ディスプレイ3で刺激値型輝度計1の校正が実施されていなければ、適切な補正行列が生成されない。刺激値型輝度計1自体に問題はない(経時変化がない)状態で、ディスプレイ3が変動したことが原因で誤差が生じているとして、補正行列の変更をすべきかどうかの判断をする場合、
図7(A)に示すように、基準輝度計2による複数のディスプレス3の分光スペクトルの測定結果から、ディスプレス3の測定値のばらつきを求める。そして、
図7(B)のX、Y、Z値に矢印で示すように、刺激値型輝度計1の誤差を見積もってマージンを加え、許容値σTHを決定する。
図7(B)において縦軸は許容誤差である。つまり、既定の誤差限界値を超える測定値が存在する場合、ディスプレイ3の測定ばらつきを超えるばらつきを生じる刺激値型輝度計1は、数値補正では解決できないと判断し、ディスプレイ3の測定ばらつきを超えないばらつきを生じる刺激値型輝度計1は、数値補正で解決できると判断する。
【0050】
許容値σTHの第2の決定方法として、各刺激値型輝度計1と基準輝度計2との測定値差から統計的手法により不確かさを求めることにより決定する方法を挙げることができる。つまり、
図8に示すように、各刺激値型輝度計1の測定値差を基に、統計的手法により許容誤差の範囲(不確かさ)を特定することで、許容値σTHを決定する。
【0051】
次に、誤差限界値を超えている測定値差が存在するが、測定値差の標準偏差が許容値σTHを超えない、例えば上述のID=002の刺激値型輝度計1の出力値の補正について説明する。
【0052】
周知のように、刺激値型輝度計1は、光学フィルタやセンサの分光特性等に起因して測定誤差を生じ、この誤差を解消するために測定値を補正行列を用いて補正することが行われている。ID=002の刺激値型輝度計1については、この補正行列を適正な補正行列に変更することで、適正な測定値の算出が可能となる。
【0053】
新たな補正行列は、複数のディスプレイ3についてのID=002の刺激値型輝度計1と基準輝度計2による測定結果から生成される。生成方法として次のような方法がある。
【0054】
まず、複数のディスプレイ3についての実際の測定結果に基づく複数の補正行列の中から、
図9に示すように、測定値の中央値や平均値(
図9に破線で示す)に近いものを選択して、新たな補正行列とする。
【0055】
他の方法として、複数のディスプレイ3についての実際の測定結果、例えば前回の新たな補正行列の生成時から直前までの測定結果に基づく複数の補正行列を用い、それらの平均値や内挿近似により新たな補正行列を生成しても良い。
【0056】
こうして生成された新たな補正行列を用いて、ID=002の刺激値型輝度計1による出力値を補正する。
【0057】
図10は、状態判定装置4によって実行される刺激値型輝度計1の状態変化を判定する処理を示すフローチャートである。この処理は、
図2の輝度計状態判定装置4のCPU41が記憶部43等に格納された動作プログラムに従って動作することにより実行される。
【0058】
ステップS01では、各刺激値型輝度計1及び基準輝度計2から測定データを取得したのち、ステップS02で、取得した測定データを記憶部43等に保存する。
【0059】
ステップS03では、記憶部43等に保存された測定値を読み出し、ステップS04で、読み出した各刺激値型輝度計1と基準輝度計2による測定値差を算出し、ステップS05で、各刺激値型輝度計1毎にばらつき(標準偏差)を算出する。
【0060】
ステップS06では、算出したばらつきを許容値と比較し、ステップS07で、各刺激値型輝度計1毎に問題が無いかどうかを判定する。ばらつきが許容値を超えず、また各測定値が誤差限界値を超えていない場合は問題なしと判定され(ステップS07でYES)、ステップS10に進む。ステップS10では、問題なしと判定された刺激値型輝度計1の出力値を、従来通りの補正行列で補正して補正後の測定値とする。
【0061】
ステップS07で、ばらつきが許容値を超えるか、許容値を超えていなくても誤差限界値を超える測定値が存在する刺激値型輝度計1は、問題有りと判定され(ステップS07でNO)、ステップS08で数値補正で対応可能かどうかを判断する。ばらつきが許容値を超えている刺激値型輝度計1は数値補正で対応できないから、ステップS08でNOと判定され、ステップS11に進み、調整が必要と判定される。
【0062】
一方、誤差限界値を超える測定値差が存在していても、ばらつきが許容値を超えていなく刺激値型輝度計1は、数値補正で対応可能であるから(ステップS08でYES)、ステップS09に進み、新たな補正行列を生成する。そして、ステップS10では、生成した新たな補正行列で、出力値を補正する。
【0063】
このように、この実施形態では、複数個の刺激値型輝度計1によるディスプレイ3の測定結果と、刺激値型輝度計1により測定値を測定されたディスプレイ3の中から選択されたディスプレイ3の基準輝度計2による測定結果とを比較し、比較の結果、刺激値型輝度計1の調整の要否を判定する。具体的には、複数個の刺激値型輝度計1によるディスプレイ3の測定結果と、基準輝度計2による測定結果との比較結果に基づいて、複数の刺激値型輝度計1毎に、基準輝度計2との測定値差のばらつきを演算し、測定値差のばらつきが許容値を超えた輝度計については、調整が必要と判定されるから、生産ライン等において複数のディスプレイ3の測定を行いながら、刺激値型輝度計1の調整の要否を判定することができる。従って、標準サンプルを用いて定期的に刺激値型輝度計1と標準輝度計2との測定データのずれを監視し補正する場合のように、標準サンプルの測定のために生産プロセス等を停止する必要は無いから、効率低下も抑制することができる。
【0064】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることはない。例えば、基準輝度計2は1個としたが、複数個使用しても良い。この場合、基準輝度計2同士は、基準光源を用いてそれらの測定値差を把握しておくことが望ましい。
【符号の説明】
【0065】
1 輝度計(刺激値型輝度計)
2 基準輝度計
3 ディスプレイ(測定対象物)
4 状態判定装置(コンピュータ)
41 CPU
42 RAM
43 記憶部
44 入力部(取得部)
45 ばらつき演算部
46 比較部
47 判定部
48 補正行列生成部
49 補正部