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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】人工培地構造体、栽培装置及び栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20240110BHJP
   A01G 24/44 20180101ALI20240110BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20240110BHJP
   A01G 22/25 20180101ALI20240110BHJP
   A01G 27/02 20060101ALI20240110BHJP
   A01G 9/02 20180101ALI20240110BHJP
【FI】
A01G31/00 615
A01G24/44 ZAB
A01G7/00 602C
A01G22/25 ZBP
A01G27/02 B
A01G31/00 601Z
A01G9/02 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020052660
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021151193
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉本 英夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 奈美
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-023292(JP,A)
【文献】特開2016-198013(JP,A)
【文献】特開2011-050361(JP,A)
【文献】特開平06-062688(JP,A)
【文献】特開2015-073467(JP,A)
【文献】特開平05-184215(JP,A)
【文献】特開2003-033112(JP,A)
【文献】特開2006-141309(JP,A)
【文献】特開昭63-216409(JP,A)
【文献】特開2008-011752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
A01G 24/44
A01G 7/00
A01G 22/25
A01G 27/02
A01G 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流体が通過可能な多数の空隙を有する基材と、
根菜類が植え付けられた培地が接触する導液シートと、を備え、
前記導液シートは、親液性の表面を有する織布から構成され
前記基材を用いて、前記根菜類の根の種類に合わせて幅が調整されるとともに前記根を生育させる空間が構成され、
前記培地は前記空間よりも上方の位置に前記導液シートと接触した状態で設けられ、
前記導液シートは、前記空間を区画する前記基材の内側面であって、前記根菜類の根が前記培地から前記空間内を通って下方に向かって成長する際に、前記根菜類の根に接触する位置に設けられていることを特徴とする人工培地構造体。
【請求項2】
前記基材は、立体網目構造を有する構造体である
請求項1に記載の人工培地構造体。
【請求項3】
前記導液シートは、前記基材のうち上面及び側面に設けられる
請求項1又は2に記載の人工培地構造体。
【請求項4】
前記導液シートに吸収された養液の蒸散を抑制する被覆シートをさらに備え、
前記被覆シートは、前記基材の上面にて開口する植物載置用開口を有する
請求項1~3のいずれか1項に記載の人工培地構造体。
【請求項5】
前記導液シートは、前記織布及び不織布を積層した積層構造を有する
請求項1~4のいずれか1項に記載の人工培地構造体。
【請求項6】
複数の前記基材はその配置が調整可能に設けられ、前記基材の位置が調整されることにより前記空間の幅が前記根菜類の成長に合わせて変更される請求項1~5のいずれか1項に記載の人工培地構造体。
【請求項7】
前記基材の空隙率が45%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の人工培地構造体。
【請求項8】
内部に流体が通過可能な多数の空隙を有する基材、及び根菜類が植え付けられた培地が接触する導液シートを備える人工培地構造体と、
前記人工培地構造体に潅液を行う潅液装置と、を備え、
前記導液シートは、親液性の表面を有する織布から構成され
前記基材を用いて、前記根菜類の根の種類に合わせて幅が調整されるとともに前記根を生育させる空間が構成され、
前記培地は前記空間よりも上方の位置に前記導液シートと接触した状態で設けられ、
前記導液シートは、前記空間を区画する前記基材の内側面であって、前記根菜類の根が前記培地から前記空間内を通って下方に向かって成長する際に、前記根菜類の根に接触する位置に設けられていることを特徴とする栽培装置。
【請求項9】
内部に流体が通過可能な多数の空隙を有する基材と、親液性の表面を有する織布から構成される導液シートとを用いて人工培地構造体を構成するとともに
前記基材を用いて、根菜類の根の種類に合わせて幅が調整されるとともに前記根を生育させる空間を構成し、
前記空間を区画する前記基材の内側面であって、前記根菜類の根が前記空間内を通って下方に向かって成長する際に、前記根菜類の根に接触する位置に前記導液シートを設け、
前記根菜類が植え付けられた培地を、前記空間よりも上方の位置に、前記基材の上面に設けられた前記導液シートと接触した状態で載置し、
前記人工培地構造体に養液を供給することを特徴とする栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工培地構造体、栽培装置及び栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、植物の根を養液に浸して生育する水耕栽培用の栽培装置が知られている(例えば特許文献1参照)。栽培装置は、植物が根を張る保水培地に養液を供給可能な載置台を備える。また、保水培地に養液を供給するものとしてロックウールからなるものが用いられることがある。ロックウールは、保水性が高く保水培地に水分を供給しやすい点で優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-370044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ロックウールは、植物の根を過湿状態にしやすいといった問題がある。保水培地が過湿状態になると、根腐れや、細菌への感染等が発生しやすくなるおそれがある。
本発明は、上記問題点を解決するものであり、その目的は、植物の根の環境を良好に制御することを可能にする人工培地構造体、栽培装置及び栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する人工培地構造体は、内部に流体が通過可能な空隙を有する基材と、植物が植え付けられた培地が接触する導液シートと、を備え、前記導液シートは、親液性の表面を有する織布から構成される。
【0006】
上記課題を解決する栽培装置は、内部に流体が通過可能な空隙を有する基材、及び植物が植え付けられた培地が接触する導液シートを備える人工培地構造体と、前記人工培地構造体に潅液を行う潅液装置と、を備え、前記導液シートは、親液性の表面を有する織布から構成される。
【0007】
上記課題を解決する栽培方法は、内部に流体が通過可能な空隙を有する基材と、親液性の表面を有する織布から構成される導液シートとを備える人工培地構造体に、植物が植え付けられた培地を前記導液シートに接触させて載置し、前記人工培地構造体に養液を供給する。
【0008】
上記の各構成によれば、導液シートは、培地に吸収した過剰な養液を吸収し拡散することができる。これにより、培地の過湿を防いで根腐れを抑制することができる。また、培地内の養液の流動性を高めることによって、植栽の根の細菌の感染等に起因する病気の発生を抑制することができる。また、導液シートは、間隙を有する基材に設けられる、導液シートの排液性をさらに高めることができる。また、基材まで伸びた植栽の根を、基材の間隙を介して供給される空気に接触させることができるため、植栽の根を支持するとともに、植栽の生育を促進することができる。
【0009】
上記人工培地構造体について、前記基材は、立体網目構造を有する構造体であることが好ましい。
上記構成によれば、立体網目構造を有する成型品を基材として用いるため、取り扱いが容易になる。また、基材を水又は薬品で洗浄することにより、再利用することができる。
【0010】
上記人工培地構造体について、前記導液シートは、前記基材のう上面及び側面に設けられることが好ましい。
上記構成によれば、培地から導液シートに吸収された養液を、基材の側面を覆う導液シートに沿って鉛直方向下方に移動させることができる。
【0011】
上記人工培地構造体について、前記導液シートに吸収された養液の蒸散を抑制する被覆シートをさらに備え、前記被覆シートは、前記基材の上面にて開口する植物載置用開口を有することが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、導液シートは、植栽載置用開口を除く部分を、被覆シートによって覆われるので、導液シートに含まれる養液量を適度な範囲にすることができる。
上記人工培地構造体について、前記導液シートは、前記織布及び不織布からなることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、導液シートは、織布及び不織布からなるので、導液シート内における養液の滞留を抑制しつつ、導液シートを湿った状態とすることができる。
上記人工培地構造体について、前記基材は、根菜類の根を栽培する空間を備え、前記空間には、当該空間の内側面に前記導液シートが設けられることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、根菜類の根部分が空間内の導液シートに接触しながら伸びるので、根部分に養液及び空気を供給しながら根菜類を生育させることができる。
上記栽培装置について、複数の前記人工培地構造体の間に根菜類の根を栽培する空間を形成することが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、根菜類の根部分が空間内の導液シートに接触しながら伸びるので、根部分に養液及び空気を供給しながら根菜類を生育させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、植物の根の環境を良好に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係る栽培装置を示す斜視図。
図2】同実施形態に係る栽培装置の断面図。
図3】本発明の第2実施形態に係る栽培装置を示す断面図であって、(a),(b)は根菜類の植物を生育する栽培装置、(c)は広く根を張る植物を生育する栽培装置を示す。
図4】本発明の第3実施形態に係る栽培装置を示す断面図。
図5】本発明の第4実施形態に係る栽培装置を示す断面図。
図6】変形例に係る栽培装置を示す断面図。
図7】変形例に係る栽培装置を示す断面図。
図8】変形例に係る栽培装置を示す断面図。
図9】変形例に係る栽培装置を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図1に示すように、栽培装置10は、人工培地構造体11と、潅液装置12とを備える。人工培地構造体11には、植物15が植え付けられた培地13が載置されている。潅液装置12は、人工培地構造体11に養液を供給する。本実施形態では、養液は水を主成分とする。
【0019】
図2を参照して、人工培地構造体11について詳述する。人工培地構造体11は、基材20と、培地13が接触する導液シート21と、被覆シート22とを備える。
基材20は、流体が通過可能な空隙を有している。流体は、空気及び養液である。例えば、基材20は、樹脂からなる線材を、線材同士の間に空隙が形成されるように成型された構造体から構成される。構造体は、立体網目構造体であってもよいし、線材をコイル状に成形したものであってもよい。線材同士の接触箇所は、熱融着等により接合されていてもよい。基材20の空隙率は、45%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。なお、空隙率は、基材20の全体の体積に対する空隙の体積の総和の百分率である。基材20は、栽培の対象である植物15の種類に応じて厚さが調整されるが、汎用性や取り扱いの容易さ等を考慮すると25mm以上75mm以下が好ましい。また、基材20を薬品で洗浄して繰り返し使うために、基材20は、耐薬品性を有する材料を用いて形成されることが好ましい。基材20は、例えば「ヘチマロン(登録商標)」(新光ナイロン株式会社製)、「もやいドレーンマット(登録商標)」(株式会社吉原化工製)等を用いることができる。
【0020】
導液シート21は、繊維からなるシートである。導液シート21は、吸収した液体を繊維内又は繊維間の毛細管現象により広範囲に行き渡らせる。導液シート21は、培地13との間で養液の移動を可能とするために培地13と接触していればよく、基材20の上面25の一部に設けられていてもよい。また、導液シート21を、基材20のうち上面25及び側面26を覆うように設けた場合には、導液シート21に沿って広い範囲に養液を行き渡らせることができる。本実施形態では基材20の全ての面を覆っている。
【0021】
導液シート21の構成について詳述する。導液シート21は、疎液性繊維を織って織布とし、さらに織布の表面を親液化処理したものである。本実施形態では、養液を含んだ場合に化学反応を起こしたり実質的に溶解若しくは膨潤したりしない繊維を、疎液性繊維という。疎液性繊維として、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の繊維を用いることができる。疎液性繊維は、短繊維、長繊維のいずれであってもよい。繊維の太さは、特に限定されないが、0.1D(デニール)以上800D以下が好ましい。また、疎液性繊維として、同一の種類の繊維を用いてもよいし、異なる複数の種類の繊維を用いてもよい。疎液性繊維は、繊維を一方向に並べて撚り合わせた撚糸、紡績糸、又は無撚糸等の糸とされる。疎液性繊維からなる糸は、例えば平織り、綾織り、繻子織り等の各種の方法で織布とされる。なお、織布を構成する複数の糸の少なくとも一部が疎液性繊維の糸であればよい。織布は、繊維間の隙間を大きく塞がない程度に、疎液性樹脂のバインダーで接着してもよい。
【0022】
親液化処理は、従来から合成繊維に施されている各種の親液化加工を施すことができる。例えば、疎液性繊維がポリエステルの場合、ポリエステルにポリエチレングリコールをグラフト重合した処理剤等を用いて親液化処理を行う。また、疎液性繊維がポリアミド繊維の場合、ポリアミドにポリエチレングリコールをグラフト重合した処理剤等を用いて親液化処理を行う。
【0023】
また、導液シート21の表面220は起毛処理されている。導液シート21は、表面220が培地13に接触し裏面221が基材20側となるように設けられている。導液シート21が起毛処理されることにより、培地13から液体を吸収する能力が高められる。この導液シート21は、水面に下端を垂下させた場合に、毛細管現象によって下端から20cm以上の高さまで水を吸い上げる能力(揚水能力)を有することが好ましい。
【0024】
被覆シート22は、導液シート21からの液体の蒸散を抑制するシートである。被覆シート22は、例えばビニール等の樹脂からなる。被覆シート22には、1乃至複数の植物載置用開口23が設けられている。培地13を導液シート21に接触させるための植物載置用開口23は、培地13の大きさに合わせて形成されている。被覆シート22は、導液シート21に吸収される養液の蒸散を抑制する観点では、導液シート21が設けられた基材20のうち少なくとも上面25、前方、後方、左側及び右側の側面26を覆うことが好ましい。
【0025】
潅液装置12は、人工培地構造体11に潅液する装置である。養液には、肥料成分が含まれていてもよい。潅液装置12は、養液が通過する管に設けられた孔から養液を少量ずつ滴下させる装置、貯留部から養液を滴下させる装置等、各種の装置を用いることができる。図2では、潅液装置12は、孔が形成された管を備える装置であって、被覆シート22の上側から植物載置用開口23を介して導液シート21に養液を供給する。
【0026】
次に、栽培装置10を用いた栽培方法について、その作用とともに説明する。
まず、生育対象の植物に合わせた基材20に、導液シート21を固定する。また、導液シート21の上側から被覆シート22を被せて、被覆シート22を基材20に固定する。
【0027】
次いで、植物15が植え付けられた培地13を、被覆シート22に予め形成した植物載置用開口23を介して導液シート21上に載置する。培地13を載置した後は、潅液装置12を作動させて潅液を行う。導液シート21を構成する織布は表面が親液化処理されているため、織布に養液が吸収されやすくなる。また、織布を構成する疎液性繊維は、養液を含んでも膨潤しないため、織布に吸収された養液は、織布を構成する糸の内部又は糸同士の間における毛細管現象によって養液の膜を形成し、僅かな勾配で糸に沿って移動する。その結果、養液が導液シート21の広い範囲に移動する。導液シート21に浸透した養液の一部は培地13に吸収され、そのほかの養液は、主に基材20の側面26を覆う導液シート21に沿って基材20の下面へ向かって移動する。
【0028】
また、導液シート21は、空隙を有する基材20と接触しているため、導液シート21に吸収された養液はロックウールを基材とする場合と比べ蒸散しやすい。また、導液シート21に吸収された余分な養液は、基材20側に落下するため、導液シート21は養液を最大限吸収した飽和状態になりにくい。
【0029】
さらに図2に示すように、植物15の根16は、水分(水分のポテンシャル勾配)を感知して水分を吸収しやすい箇所に向かってに伸びる性質があるため、基材20の内部ではなく、導液シート21に沿って伸びる。根16は、植物15の種類にもよるが、基材20の上面25を覆う導液シート21から、側面26を覆う導液シート21に沿って伸びる。また、導液シート21を構成する織布は、不織布に比べて根16の成長を妨げにくい。その理由は、不織布は、繊維がランダムに絡み合っている構造であるため根が繊維の間を縫って伸びにくいが、織布は糸の間に適度な大きさの隙間が規則的に形成されていることから根の成長の抵抗となりにくいためである。さらに、導液シート21に沿って伸びた根16は、基材20の間隙を介して供給される空気に接触するため、根の呼吸が促される。
【0030】
このような構成の人工培地構造体11は軽量なため運びやすい。さらに、培地13を植物載置用開口23に接触させるように載置すればよいため、作業が簡単であり、膨大な数の植物15を栽培する大規模な栽培にも向いている。植物15の栽培が終了すると、人工培地構造体11は一旦分解される。植物15の根16は基材20に若干絡まることがあるものの大部分は導液シート21に沿って伸びているため、導液シート21を引き剥がすことにより、導液シート21と基材20とを容易に分離することができる。また、ロックウールを基材として用いた場合には、洗浄したとしても根や細菌が残留し基材を再利用することができないが、上記の基材20には根が殆ど入り込んでいないため、薬剤等で洗浄することにより、根や細菌を除去することが可能であり、基材20を再利用することができる。また、基材20は樹脂からなるため、基材20を廃棄する場合にはロックウールのように産業廃棄物として廃棄する必要が無い。
【0031】
以上説明したように、第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)導液シート21は、培地13から過剰な養液を吸収するため、培地13の過湿を防いで植物の根腐れを抑制することができる。また、導液シート21内では養液が移動しやすいため、養液の滞留を原因とする細菌の増殖が抑制される。このため、根への細菌の感染等に起因する病気の発生を抑制することができる。また、導液シート21は、間隙を有する基材20に設けられる、導液シート21の排液性をさらに高めるとともに、基材20まで伸びた植物の根を空気に接触させることができるため、根の呼吸を促すことができる。したがって、根の生育環境を良好にすることができる。
【0032】
(2)導液シート21は、表面220が親液性加工された織布からなるため、糸の内部又は糸同士の間で、毛細管現象により養液を流動させやすくすることができる。また、織布は、疎液性繊維からなるため、繊維に養液が含まれても膨潤せず、糸内又は糸同士の間の隙間が塞がれにくくなり、養液を広範囲に移動させることができる。
【0033】
(3)基材20は、樹脂の線材を用いた立体網目構造体又は線材をコイル状にした構造体からなるため、軽量であって、壊れにくいので、取り扱いが容易になる。また、植物15を育成した後の基材20を水又は薬品で洗浄することにより、再利用することができる。
【0034】
(4)導液シート21は、基材20のうち少なくとも上面25及び側面26を覆うため、培地13から導液シート21に吸収された養液が、基材20の側面26を覆う導液シート21に沿って下方に流れ落ちやすくなる。
【0035】
(5)導液シート21は、被覆シート22によって覆われるので過度な乾燥を抑制することができる。
(第2実施形態)
次に、栽培装置の第2実施形態を説明する。なお、第2実施形態では、根菜類を栽培するために隣り合う基材の間に空間を設けた。以下、第1実施形態と同様の部分については同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0036】
図3(a)~図3(c)に示すように、本実施形態では、複数の人工培地構造体11を、それらの間に空間30を設けた状態で配置する。空間30は、植物15の根16,16Aを育てるための空間である。人工培地構造体11のうち、空間30側の内側面24は、被覆シート22によって覆われず導液シート21が露出し、根16,16Aが接触可能な状態とされている。また、培地13は、導液シート21に接触している。人工培地構造体11の配置間隔は容易に調整できるので、空間30の幅を、植物15の種類や、植物15を生育させる目的に応じて適宜変更することができる。なお、これらの人工培地構造体11をまとめて一枚の被覆シート22で覆うようにしてもよい。なお、導液シート21は、内側面24のうち、少なくとも根16Aの一部が接触可能な位置に設けられていればよい。
【0037】
図3(a)は、人参等、根16Aを食用部分とする根菜類17を生育させるための人工培地構造体11を示す。空間30の幅は、根菜類17の成長に伴い大きくしてもよい。根16Aは空間30内に伸びる。このとき、根16Aが導液シート21に接触するため、根16Aは導液シート21から養液を吸収することができる。また、導液シート21は根16Aを過湿状態としないため根腐れが抑制される。さらに導液シート21は、重力に従って基材20の上面側から基材20の下面側に向かって養液を移動させるため、養液が滞留しにくく細菌への感染を抑制することができる。
【0038】
図3(b)は、ひげ根等の細かい根16Aを広げて成長する根菜類17の植物15を生育するための人工培地構造体11を示す。このような植物15としては、根16Aに有効成分を含むものがあり、例えば高麗人参、ワサビ、肉桂等が挙げられる。この態様においては、人工培地構造体11の空間30を、縦方向及び横方向に広がる根16Aの少なくとも一部が導液シート21に接触し且つ養液を吸収できる程度に調整する。このような植物15が土壌で生育されると、根を収穫する際にひげ根のような細かい根は切れてしまい収穫が難しいが、このように空間30で根16Aを生育させる場合は、ひげ根まで容易に収穫することができる。
【0039】
図3(c)は、一つの植物15が複数の空間30に根16を張る態様を示す。この場合には、植物15の根16が広範囲に成長するため、生育が安定し、収穫可能な期間を長くすることができる。この態様は、例えば、トマト等のような周年栽培される植物15に向いている。
【0040】
以上説明したように、第2実施形態によれば、第1実施形態に記載の効果に加えて以下の効果が得られる。
(6)植物15の根16,16Aが、基材20を覆う導液シート21に接触しながら伸びるので、根16,16Aに養液及び空気を供給することによって根16,16Aの生育環境を良好にすることができる。
【0041】
(第3実施形態)
次に、栽培装置の第3実施形態を説明する。なお、第3実施形態では、導液シート21の構成が第1実施形態と相違する。以下、第1実施形態と同様の部分については同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0042】
図4に示すように、導液シート21Aは、織布210及び不織布211を積層した積層構造を有する。織布210は、第1実施形態の導液シート21と同様に、表面が親液化処理された疎液性繊維の織布からなる。不織布211は、繊維を織ることなく化学的、機械的又は熱によりシート状にしたものである。不織布211に用いられる繊維は、疎水性繊維、親水性繊維のいずれでもよい。不織布211に用いられる繊維は、例えば、レーヨン、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ビニロン、セルロース等である。織布210及び不織布211は、接着剤、又は熱処理等により互いに固定されていてもよい。導液シート21Aは、織布210が培地13に接し、不織布211が基材20に接するように設けられている。また、織布210の厚さは特に限定されず、不織布211よりも厚くてもよいし、薄くてもよい。
【0043】
導液シート21Aの作用について説明する。培地13は織布210に接しているので、植物15の根16の大部分は織布210内で成長する。このため、根16の生育を妨げないようにすることができる。また、織布210は、吸収した養液を広い範囲に移動させ、養液の滞留を抑制する。不織布211は、織布210の裏面側において養液を保持する。導液シート21Aは、第1実施形態の導液シート21と同様に作用しながらも導液シート21に比べて、根16の生育環境の湿潤状態を維持するとともに、基材20内に落下する養液量を減らすことができる。
【0044】
以上説明したように、第3実施形態によれば、第1実施形態に記載の効果に加えて以下の効果が得られる。
(7)導液シート21Aの不織布211が織布210の裏面側で養液を保持するため、植物15の根の環境を良好にしつつ、導液シート21Aを比較的湿潤した状態とすることができる。
【0045】
(第4実施形態)
次に、栽培装置の第4実施形態を説明する。なお、第4実施形態では、導液シート21の構成が第1実施形態と相違し、第3実施形態の導液シート21Aの織布210及び不織布211の積層の順番が相違する。以下、第1実施形態と同様の部分については同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0046】
図5に示すように、導液シート21Bは、不織布213及び織布212を積層した積層構造を有する。不織布213及び織布212は、第3実施形態と同様な材料からなるが、不織布213が培地13に接し、織布212が基材20に接するように設けられている。また、不織布213の厚さは特に限定されず、織布212よりも厚くてもよいし、薄くてもよい。
【0047】
導液シート21Bの作用について説明する。培地13は不織布213に接しているので、植物15の根16の大部分は不織布213内で成長する。織布212は、不織布213に吸収された養液の一部を吸収するため、不織布213は養液を限界まで吸収した飽和状態とはならない。織布212は、養液を広い範囲に移動させ、不織布213内での養液の滞留を抑制する。導液シート21Aは、第1実施形態の導液シート21と同様に作用しながらも導液シート21に比べ根16の生育環境を湿潤状態にするとともに、基材20内に落下する養液量を減らすことができる。このため、特に養液を多く必要とする植物を育成する場合に適している。植物15の栽培が終了した後は、不織布213のみを交換すれば、織布212、基材20及び被覆シート22は再利用することができる。
【0048】
以上説明したように、第4実施形態によれば、第1実施形態に記載の効果に加えて以下の効果が得られる。
(8)導液シート21Bの不織布213が織布212の表面側で養液を保持するため、植物15の根の環境を良好にしつつ、導液シート21Bを比較的湿潤した状態とすることができる。
【0049】
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・第3実施形態及び第4実施形態では、織布及び不織布からなる導液シート21A,21Bを用いた。これらの導液シート21A,21Cに、さらに組紐を組み合わせてもよい。図6に示す例では、第3実施形態の導液シート21Bに組紐31を追加した構成である。組紐31は、複数の糸を組み上げた紐であり、不織布211内に設けられている。複数の組紐31は、互いに略平行となるように不織布211内に並べて設けられている。この態様によれば、組紐31が延びる方向に養液をさらに移動させやすくすることができる。
【0050】
・第2実施形態では、1対の人工培地構造体11の間に空間30を設けた。これに代えて、図7に示すように、根菜類の根16Aを栽培する空間30Aを基材20の内側に備えていてもよい。空間30Aは、基材20Aを成形する工程で形成されたり、基材20Aを切削する等の加工により形成されたりする。空間30Aには、当該空間30Aの内側面24Aを覆う導液シート21が設けられる。このようにしても、根菜類17の根16Aが、基材20を覆う導液シート21に接触しながら伸びるので、根16Aに養液及び空気を供給することによって根16Aの生育環境を良好にすることができる。また、基材20に予め空間30が形成されているため1対の人工培地構造体11を向かい合わせる場合よりも作業が容易である。
【0051】
・上記各実施形態では、潅液装置12は、被覆シート22の上側から植物載置用開口23を介して導液シート21に養液を供給するようにしたが、潅液装置12の位置は被覆シート22の上方に限定されない。図8に示すように、潅液装置12Aは、基材20に埋設されていてもよい。潅液装置12Aによって供給された養液は、導液シート21の揚液能力(揚水能力)によって基材20の上面側へ移動し、培地13に吸収される。また、図9に示すように、潅液装置12Bは、導液シート21と被覆シート22との間に設けられていてもよい。この場合、潅液装置12Bによって供給された養液は、導液シート21の揚液能力によって基材20の上面側へ移動し、培地13に吸収される。
【0052】
・上記各実施形態では、導液シート21を被覆シート22で覆うようにした。生育対象の植物の特性等から、導液シート21に吸収される養液量を少なくすることが望ましい場合には、不要な養液を排出又は蒸散しやすくするために被覆シート22を省略してもよい。
【0053】
・上記各実施形態では、導液シート21及び被覆シート22を別体とし、それぞれ基材20に固定するようにしたが、これらを一体化した積層シートとしてもよい。導液シート21及び被覆シート22は、熱又は振動等による溶着、接着剤等による接着、縫合等により積層構造とされる。
【0054】
・上記各実施形態では、被覆シート22の植物載置用開口23を上側に向けて植物を栽培するようにした。これに代えて、被覆シート22の植物載置用開口23を側方に向けて、植物を縦型栽培(壁面栽培ともいう)するようにしてもよい。このようにしても、培地13が過湿状態とならないので、根腐れ及び細菌への感染等を抑制することができる。
【0055】
・上記各実施形態では、導液シート21,21A,21Bは、基材20,20Aの全ての面を覆うように取り付けられた。これに代えて、導液シート21,21A,21Bは、培地13と接触できればよく、基材20に設けられる導液シート21,21A,21Bは、基材20の上面25の一部、上面25のみに設けられてもよい。さらに、導液シート21,21A,21Bは、側面26の一部、又は側面26のみに設けられてもよい。また、根菜類17を育成する空間30を形成するための基材20,20Aは、少なくとも植物の根と接触する側面に導液シート21,21A,21Bが設けられていればよい。
【0056】
・上記各実施形態では、導液シート21,21A,21Bとして、疎液性繊維からなる織布であって表面を親液化処理したものを用いた。これに代えて、疎液性繊維以外の繊維からなる織布であって表面が親液性であるものを用いてもよい。少なくとも糸を織ったものであれば、織布に吸収された養液が糸の方向に沿って移動することができる。
【符号の説明】
【0057】
10…栽培装置、11…人工培地構造体、12,12A,12B…潅液装置、13…培地、15…植物、16,16A…根、17…根菜類、20,20A…基材、21,21A,21B,21C…導液シート、22…被覆シート、23…植物載置用開口、24,24A…内側面、25…上面、26…側面、30,30A…空間、31…組紐、210,212…織布、211,213…不織布、220…表面、221…裏面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9