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特許7415771分析支援装置、分析支援方法および分析支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】分析支援装置、分析支援方法および分析支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/02 20060101AFI20240110BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01N30/02 Z
G01N30/86 F
G01N30/86 P
G01N30/86 M
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020077306
(22)【出願日】2020-04-24
(65)【公開番号】P2021173628
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 覚
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-163476(JP,A)
【文献】特開平02-300660(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02270491(EP,A1)
【文献】特開平07-151743(JP,A)
【文献】特開平06-324029(JP,A)
【文献】米国特許第05209853(US,A)
【文献】特開2014-098672(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0156612(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析装置に与えられる複数の分析条件データと、前記複数の分析条件データに基づいて前記分析装置で得られた同一試料に対しての複数の測定データを用いて、前記複数の分析条件データとは異なる新たな分析条件データの推定測定品質指標データの分布を推定する推定部と、
前記複数の分析条件データとは異なる新たな分析条件データに基づいて前記分析装置から得られた新たな測定データから新たな測定品質指標データを算出する算出部と、
前記推定部により推定された前記推定測定品質指標データ、および、前記算出部により算出された前記新たな測定品質指標データを比較表示する比較表示部と、を備える、分析支援装置。
【請求項2】
前記比較表示部は、前記推定部により推定された前記推定測定品質指標データの確率分布、および、前記算出部により算出された前記新たな測定品質指標データを比較表示する、請求項1に記載の分析支援装置。
【請求項3】
前記分析装置は、クロマトグラフを含み、
前記推定測定品質指標データは、前記クロマトグラフにおいて分析された各成分の保持時間データを含み、
前記比較表示部は、前記推定部により推定された前記保持時間データ、および、前記算出部により算出された前記保持時間データを比較表示する、請求項1または請求項2に記載の分析支援装置。
【請求項4】
前記比較表示部は、前記推定部により推定された前記保持時間データを表すスペクトルのピーク画像、および、前記算出部により算出された前記保持時間データを表すスペクトルのピーク画像を比較表示する、請求項3に記載の分析支援装置。
【請求項5】
前記比較表示部は、前記推定部により推定された前記保持時間データを示す数値、および、前記算出部により算出された前記保持時間データを示す数値を比較表示する、請求項3に記載の分析支援装置。
【請求項6】
前記比較表示部は、前記推定部により推定された前記保持時間データと、前記算出部により算出された前記保持時間データとの差を分類表示する、請求項3に記載の分析支援装置。
【請求項7】
前記推定部により推定された前記推定測定品質指標データの分布を表示する測定品質指標表示部、をさらに備え、
前記比較表示部は、前記測定品質指標表示部により表示された分布画像中の任意の点に対する指定操作に応答して、指定された点に対応する前記分析条件データを取得し、取得した前記分析条件データに対応した推定された前記推定測定品質指標データ、および、取得した前記分析条件データに対応した算出された前記新たな測定品質指標データを比較表示する、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の分析支援装置。
【請求項8】
分析装置に与えられる複数の分析条件データと、前記複数の分析条件データに基づいて前記分析装置で得られた同一試料に対しての複数の測定データを用いて、前記複数の分析条件データとは異なる新たな分析条件データの推定測定品質指標データの分布を推定する推定工程と、
前記複数の分析条件データとは異なる新たな分析条件データに基づいて前記分析装置から得られた新たな測定データから新たな測定品質指標データを算出する算出工程と、
前記推定工程により推定された前記推定測定品質指標データ、および、前記算出工程により算出された前記新たな測定品質指標データを比較表示する比較表示工程と、を含む、分析支援方法。
【請求項9】
分析装置に与えられる複数の分析条件データと、前記複数の分析条件データに基づいて前記分析装置で得られた同一試料に対しての複数の測定データを用いて、前記複数の分析条件データとは異なる新たな分析条件データの推定測定品質指標データの分布を推定する推定処理と、
前記複数の分析条件データとは異なる新たな分析条件データに基づいて前記分析装置から得られた新たな測定データから新たな測定品質指標データを算出する算出処理と、
前記推定処理により推定された前記推定測定品質指標データ、および、前記算出処理により算出された前記新たな測定品質指標データを比較表示する比較表示処理と、をコンピュータに実行させるための分析支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析支援装置、分析支援方法および分析支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
試料の成分を分析する分析装置がある。分析装置に設定される分析条件によって、試料の分析結果に変化が生じるため、最適な分析条件を探索するメソッドスカウティングが行われる。
【0003】
下記特許文献1には、クロマトグラフ用データ処理装置が開示されている。特許文献1のデータ処理装置は、未検討の分析条件をユーザに提示することで、分析条件の変更を支援するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-166726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたデータ処理装置によれば、未検討の分析条件を容易に取得することができる。さらに、分析条件の最適化を図るための様々な情報を提供することができれば、分析装置を使用するユーザにとって有益である。
【0006】
本発明の目的は、分析装置において分析条件の最適化のために有用な情報をユーザに提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に従う分析支援装置は、分析装置に与えられる複数の分析条件データと、複数の分析条件データに基づいて分析装置で得られた複数の測定データを用いて、測定品質指標データの分布を推定する推定部と、分析装置から得られた測定データから測定品質指標データを算出する算出部と、推定部により推定された測定品質指標データ、および、算出部により算出された品質測定指標データを比較表示する比較表示部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分析装置において分析条件の最適化のために有用な情報をユーザに提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態に係る分析システムの全体図である。
図2】本実施の形態に係るコンピュータの構成図である。
図3】本実施の形態に係るコンピュータの機能ブロック図である。
図4】液体クロマトグラフにおいて得られたクロマトグラムを示す図である。
図5】クロマトグラムにおけるピークを示す図である。
図6】分離度の分布を示す応答曲面を示す図である。
図7】分離度の分布に対するデザインスペースを示す図である。
図8】本実施の形態に係る分析支援方法を示すフローチャートである。
図9】本実施の形態に係る分析支援方法を示すフローチャートである。
図10】ディスプレイに表示された分析支援画面を示す図である。
図11】ディスプレイに表示された変形例1に係る分析支援画面を示す図である。
図12】ディスプレイに表示された変形例2に係る分析支援画面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態に係る分析支援装置、方法およびプログラムの構成について説明する。
【0011】
(1)分析システムの全体構成
図1は、本実施の形態に係る分析システム5の全体図である。分析システム5は、コンピュータ1および液体クロマトグラフ3を備える。コンピュータ1および液体クロマトグラフ3は、ネットワーク4を介して接続される。ネットワーク4は、例えばLAN(Local Area Network)である。
【0012】
コンピュータ1は、液体クロマトグラフ3に分析条件を設定する機能、液体クロマトグラフ3における測定結果を取得し、測定結果を分析する機能などを備える。コンピュータ1には、液体クロマトグラフ3を制御するためのプログラムがインストールされる。
【0013】
液体クロマトグラフ3は、ポンプユニット、オートサンプラユニット、カラムオーブンユニットおよび検出器ユニットなどを備える。液体クロマトグラフ3は、また、システムコントローラを備える。システムコントローラは、コンピュータ1からネットワーク4経由で受信した制御指示に従って、液体クロマトグラフ3を制御する。システムコントローラは、液体クロマトグラフ3の測定結果のデータを、ネットワーク4経由でコンピュータ1に送信する。
【0014】
(2)コンピュータ(分析支援装置)の構成
図2は、コンピュータ1の構成図である。コンピュータ1は、本実施の形態においてはパーソナルコンピュータが利用される。コンピュータ1は、CPU(Central Processing Unit)101、RAM(Random Access Memory)102、ROM(Read Only Memory)103、ディスプレイ104、操作部105、記憶装置106、通信インタフェース107、および、デバイスインタフェース108を備える。
【0015】
CPU101は、コンピュータ1の制御を行う。RAM102は、CPU101がプログラムを実行するときにワークエリアとして使用される。ROM103には、制御プログラムなどが記憶される。ディスプレイ104は、例えば液晶ディスプレイである。操作部105は、ユーザの操作を受け付けるデバイスであり、キーボード、マウスなどを含む。ディスプレイ104がタッチパネルディスプレイで構成され、ディスプレイ104が操作部105としての機能を備えていても良い。記憶装置106は、各種プログラムおよびデータを記憶する装置である。記憶装置106は、例えばハードディスクである。通信インタフェース107は、他のコンピュータおよびデバイスと通信を行うインタフェースである。通信インタフェース107は、ネットワーク4に接続される。デバイスインタフェース108は、各種の外部デバイスにアクセスするインタフェースである。CPU101は、デバイスインタフェース108に接続された外部デバイス装置を介して記憶媒体109にアクセスすることができる。
【0016】
記憶装置106には、分析支援プログラムP1、分析条件データAP、測定データMD、測定品質指標データMQおよび分布データDDが記憶される。分析支援プログラムP1は、液体クロマトグラフ3を制御するためのプログラムである。分析支援プログラムP1は、液体クロマトグラフ3に対して分析条件を設定する機能、液体クロマトグラフ3から測定結果を取得し、測定結果を分析する機能などを備える。分析条件データAPは、液体クロマトグラフ3に設定する分析条件を記述したデータであり、複数の分析パラメータを含む。測定データMDは、液体クロマトグラフ3から取得した測定結果のデータである。測定品質指標データMQは、液体クロマトグラフ3から取得した測定結果の品質を評価するためのデータである。測定品質指標データMQは、保持時間データRTDおよび分離度データRDを含む。分布データDDは、実際に液体クロマトグラフ3に設定された分析条件データAPおよび実際に液体クロマトグラフ3において測定された測定データMDに基づいて推定された測定品質指標データMQの分布を示すデータである。分布データDDは、測定品質指標データMQの応答曲面を示す。測定品質指標データMQの分布および応答曲面については、後で詳しく説明する。
【0017】
図3は、コンピュータ1の機能ブロック図である。制御部200は、CPU101が、RAM102をワークエリアとして使用し、分析支援プログラムP1を実行することにより実現される機能部である。制御部200は、分析管理部201、算出部202、推定部203および比較表示部204を備える。
【0018】
分析管理部201は、液体クロマトグラフ3の制御を行う。分析管理部201は、ユーザによる分析条件データAPの設定および分析処理の開始指示を受けて、液体クロマトグラフ3に対する分析処理の指示を行う。分析管理部201は、また、液体クロマトグラフ3から測定データMDを取得する。
【0019】
算出部202は、液体クロマトグラフ3における測定結果を示す測定データMDに基づいて、測定品質指標データMQを算出する。算出部202は、測定品質指標データMQとして、保持時間データRTDおよび分離度データRDを算出する。
【0020】
推定部203は、実際の測定に用いられた分析条件データAP、および、その分析条件データAPに基づいて実際に算出された測定品質指標データMQに基づいて、測定品質指標データMQの分布を示す分布データDDを推定する。つまり、分布データDDにおいては、実際に測定に用いられていない分析条件データAPに対する測定品質指標データMQの推定値が含まれている。推定部203は、分布データDDを推定するために回帰分析を行う。
【0021】
比較表示部204は、分析条件データAPに基づいて実際に算出された測定品質指標データMQ、および、推定された測定品質指標データMQを用いて、ディスプレイ104に測定品質指標の比較表示を行う。
【0022】
(3)測定品質指標およびデザインスペース
次に、図4図6を参照しながら、測定品質指標およびデザインスペースについて説明する。図4は、液体クロマトグラフ3において得られたクロマトグラム30を示す図である。液体クロマトグラフ3が備える分離カラムにおいて、試料に含まれる成分が分離される。分離された成分は、液体クロマトグラフ3が備える検出器において検出される。検出器は、分離カラムにおいて分離された各成分の吸光スペクトル、屈折率、または、光の散乱などを検出する。図4で示すクロマトグラム30は、液体クロマトグラフ3の検出器において検出された各成分の吸光スペクトルなどの信号強度が示されている。
【0023】
図5は、クロマトグラム30における2つのピークPK1,PK2を示す図である。ピークPK1,PK2の保持時間は、それぞれrt1,rt2である。また、ピークPK1,PK2のピーク幅は、それぞれW1,W2である。また、ピークPK1,PK2の半値幅(半値全幅)は、Wh1,Wh2である。このとき、ピークPK1,PK2の分離度Rは、例えば、以下の(1)または(2)式で表される。
(1)R=2×(rt2-rt1)/(W1+W2)
(2)R=1.18×{(rt2-rt1)/(Wh1+Wh2)}
【0024】
分離度Rは、値が大きいほど、隣り合うピークが分離されていることを意味する。例えば、分離度Rが1.5以上、または、2.0以上などの場合に、隣り合うピークは、完全分離されていると判断される。
【0025】
分離度Rが、所定の閾値(例えば、2.0)を超えることにより、液体クロマトグラフ3における測定結果は有効であると考えられる。つまり、分離度Rは、液体クロマトグラフ3における測定品質指標の一つとなる。クロマトグラム30においては、複数の成分に対応した複数のピークが出現する。これら複数のピークから算出される複数の分離度Rの中で最小の分離度Rを測定品質指標とすることができる。あるいは、保持時間rt1,rt2も、液体クロマトグラフ3における測定品質指標の1つとなる。
【0026】
液体クロマトグラフ3に実際に複数の分析条件データAPを与えることにより、複数の測定データMDを得ることができる。この実際に測定された測定データMDから、各分析条件データAPに対応する分離度データRDを算出することができる。そして、複数の分析条件データAP、および、複数の分析条件データAPから得られた複数の分離度データRDから、回帰分析により分離度データRDの分布を得ることができる。つまり、複数の分析条件データAPおよび複数の分離度データRDから、測定品質指標データMQの分布を得ることができる。
【0027】
具体的には、実際に用いられる複数の分析条件データAP、および、実際に測定された測定データMDから算出された複数の分離度データRDとの間の回帰式を取得する。そして、実際に用いられていない他の分析条件データAPに対して、回帰式を適用させることにより、それら他の分析条件データAPに対する分離度データRDを推定する。これにより、測定品質指標としての分離度データRDの分布が得られる。つまり、回帰式は、測定品質指標としての分離度データRDの分布を示す。あるいは、回帰分析により、保持時間データRTDの分布を推定し、推定された保持時間データRTDから分離度データRDを算出してもよい。回帰分析においては、ベイズ推定を用いることができる。
【0028】
図6は、分離度データRDの分布である応答曲面33の一例を示す図である。つまり、測定品質指標としての分離度データRDの分布を示す図である。図6は、分析条件として2種類の分析パラメータ31A,31Bに対する分離度Rの変化を示す応答曲面33が描かれている。つまり、分析条件である分析パラメータ31A,31Bの組み合わせが決まると、それに対応する分離度Rが応答曲面33から求められる。
【0029】
図7は、分離度Rの分布に対するデザインスペースを示す図である。図6に示す応答曲面33において、測定品質指標である分離度Rの閾値を設定することによって、分離度Rの許容範囲であるデザインスペース35が取得される。図7は、図6で示す応答曲面33において、分離度Rが閾値(例えば2.0)以上となる領域をデザインスペース35として描画した図である。図7において、斜線の領域がデザインスペース35である。デザインスペース35の領域内においては、分析パラメータ31A,31Bを変化させた場合であっても、測定品質指標として分離度Rが許容範囲に収まることを示している。
【0030】
(4)分析支援方法
次に、本実施の形態に係るコンピュータ1(分析支援装置)において実行される分析支援方法について説明する。図8および図9は、本実施の形態に係る分析支援方法を示すフローチャートである。図8および図9に示す処理を開始する前に、予め、ユーザが操作部105を操作し、複数の分析条件の設定を行う。具体的には、ユーザは、溶媒濃度、溶媒混合比、グラジエント初期値、グラジエント勾配、カラム温度などの分析パラメータの設定値の組み合わせを、分析条件として設定する。ユーザは、これら分析パラメータの組み合わせを複数セット設定する。例えば、溶媒濃度を少しずつ変化させた分析パラメータの組み合わせや、カラム温度を少しずつ変化させた分析パラメータの組み合わせなどを分析条件として設定する。このようなユーザの設定操作を受けて、分析管理部201は、記憶装置106に複数の分析条件データAPを保存する。
【0031】
次に、図8に示すステップS101において、分析管理部201が、複数の分析条件データAPを液体クロマトグラフ3に設定する。具体的には、分析管理部201は、液体クロマトグラフ3のシステムコントローラに対して、複数の分析条件データAPを設定する。これに応じて、液体クロマトグラフ3において、設定された複数の分析条件データAPに基づいて、同一の試料に対して複数回の分析処理が実行される。液体クロマトグラフ3において、複数の分析条件データAPに対応して複数の測定データMDが取得される。つまり、液体クロマトグラフ3において、複数の分析条件データAPに対応した複数のクロマトグラムが取得される。
【0032】
次に、ステップS102において、分析管理部201は、液体クロマトグラフ3から複数の測定データMDを取得する。分析管理部201は、記憶装置106に、取得した複数の測定データMDを保存する。
【0033】
次に、ステップS103において、算出部202が、ステップS102において記憶装置106に保存された複数の測定データMDを取得し、取得した複数の測定データMDから複数の保持時間データRTDおよび半値幅データWhDを取得する。測定データMDは、クロマトグラムであるので、それぞれの測定データMDには、複数のピークが含まれる。したがって、それぞれの測定データMDからは複数のピークに対応する複数の保持時間データRTDおよび複数の半値幅データWhDが取得される。
【0034】
次に、ステップS104において、推定部203は、複数の分析条件データAPおよび複数の保持時間データRTDに基づいて回帰分析を行う。これにより、推定部203は、分析条件と保持時間との間の回帰式を算出する。続いて、推定部203は、ステップS105において、回帰式に基づいて保持時間データRTDの分布を推定する。本実施の形態においては、回帰分析を行うときに、ベイズ推定を用いている。他に、回帰分析として最小二乗法を用いることも可能である。
【0035】
さらに、推定部203は、測定された複数の保持時間データRTDおよび複数の半値幅データWDに基づいて回帰分析を行う。これにより、推定部203は、保持時間と半値幅との間の回帰式を算出する。続いて、推定部203は、ステップS106において、回帰式に基づいて半値幅データWhDを推定する。本実施の形態においては、回帰分析を行うときに、ベイズ推定を用いている。他に、回帰分析として最小二乗法を用いることも可能である。
【0036】
以上のステップS101~S106により、保持時間データRTDおよび半値幅データWhDの分布が推定される。続いて、ステップS107において、推定された保持時間データRTDおよび半値幅データWhDに基づいて、分離度データRDの分布を推定する。具体的には、上記の数式(2)を利用することで、保持時間データRTDおよび半値幅データWhDに基づいて、分離度データRDを算出する。なお、本実施の形態においては、半値幅データWhDの分布を推定し、数式(2)を利用して分離度データRDを算出したが、ピーク幅の分布を推定し、数式(1)を利用して分離度データRDを算出するようにしてもよい。
【0037】
分析支援プログラムP1による以上のステップS101~S107がコンピュータ1において実行されることにより、実際に実行された分析条件以外の分析条件についても、保持時間データRTDおよび分離度データRDが推定される。これにより、分離度データRDを測定品質指標とする分布を作成することができる。また、所定の閾値を設定することにより、分離度データRDを測定品質指標とするデザインスペースを作成することができる。
【0038】
続いて、ユーザは、操作部105を操作し、新たな分析条件の設定を行う。これに応じて、分析管理部201は、記憶装置106に新たな分析条件データAPを保存する。分析管理部201は、図9に示すステップS108において、新たな分析条件データAPを液体クロマトグラフ3に設定する。これに応じて、液体クロマトグラフ3において、設定された新たな分析条件データAPに基づいて、分析処理が実行される。液体クロマトグラフ3において、新たな分析条件データAPに対応して新たな測定データMDが取得される。
【0039】
次に、ステップS109において、分析管理部201は、液体クロマトグラフ3から新たな測定データMDを取得する。分析管理部201は、記憶装置106に、取得した新たな測定データMDを保存する。
【0040】
次に、ステップS110において、算出部202が、ステップS109において記憶装置106に保存された新たな測定データMDを取得し、取得した新たな測定データMDから保持時間データRTDを取得する。
【0041】
次に、比較表示部204は、ステップS111において、ステップS105において推定された保持時間データRTDと、ステップS110で取得した保持時間データRTDとを比較表示する。図10は、比較表示部204がディスプレイ104に表示する分析支援画面210を示す図である。分析支援画面210は、メソッド一覧表示部220、クロマトグラム表示部230、および、測定品質指標表示部240を備える。
【0042】
メソッド一覧表示部220には、複数の分析条件データAPが一覧表示されている。一行の分析条件データAPは、複数の分析パラメータX,Y・・・から構成されている。
【0043】
クロマトグラム表示部230には、測定データMDに基づいてクロマトグラムが表示されている。クロマトグラム表示部230に表示されているクロマトグラムは、メソッド一覧表示部220に表示されている複数の分析条件データAPのうち、いずれか1つの分析条件データAPに対応するクロマトグラムである。図10で示す例では、メソッド一覧表示部220において、No.2の分析条件データAPが強調表示されており、クロマトグラム表示部230には、No.2の分析条件データAPに対応するクロマトグラムが表示されている。クロマトグラム表示部230に表示されているクロマトグラムのうち、破線のクロマトグラムは、推定部203において推定されたクロマトグラムである。実線のクロマトグラムは、算出部202において算出された測定データMD(実際に測定された測定データMD)に基づくクロマトグラムである。
【0044】
測定品質指標表示部240には、測定品質指標として分離度データRDの分布が表示されている。分布の横軸は分析パラメータXであり、縦軸は分析パラメータYである。分離度データRDの分布は、2つの分析パラメータX,Yと分離度データRDとの関係が示されている。分離度データRDの大きさは、濃淡で示されている。色の濃い部分は、分離度データRDが小さい領域を示し、色が薄い部分は、分離度データRDが大きい領域を示している。つまり、色が薄い領域は、測定品質指標が高いことを示している。
【0045】
また、図の実線241は、50%パーセンタイルにおいて、分離度データRDが閾値2.0以上となる有効領域を示す。図の破線242は、80%パーセンタイルにおいて、分離度データRDが閾値2.0以上となる有効領域を示す。図の破線243は、90%パーセンタイルにおいて、分離度データRDが閾値2.0以上となる有効領域を示す。本実施の形態においては、測定品質指標表示部240に表示されている分離度データRDは、ベイズ推定により算出されているため、確率分布を持つ。したがって、各パーセンタイルに応じて分離度データRDが閾値2.0以上となるデザインスペースが描画されている。測定品質指標表示部240の濃淡の色分けは、50%パーセンタイルの分離度データRDに基づいて描画されている。
【0046】
また、測定品質指標表示部240において、分析条件ポインタ245が示されている。これは、現在、選択されている分析条件データAPのポイントを示している。そして、分析条件ポインタ245で指定されている分析条件データAPに対応するクロマトグラムが、クロマトグラム表示部230に表示されている。つまり、メソッド一覧表示部220において強調表示されている分析条件データAPと、測定品質指標表示部240において分析条件ポインタ245で指定されている分析条件データAPとは一致している。メソッド一覧表示部220における選択位置と、分析条件ポインタ245による指定位置とは連動しており、いずれかの操作を行うことで、両者の状態が変更される。
【0047】
また、クロマトグラム表示部230においては、ピーク位置マーク231,232が表示されている。ピーク位置マーク231は、破線で示された推定されたクロマトグラムのピーク位置を示している。つまり、ピーク位置マーク231は、推定された保持時間データRTDを示している。ピーク位置マーク232は、実線で示された算出されたクロマトグラムのピーク位置を示している。つまり、ピーク位置マーク232は、実際に測定された測定データMDに基づく、保持時間データRTDを示している。ピーク位置マーク231のうち、白抜き星マークは、50%パーセンタイルの推定値、白抜き三角マークは、90%パーセンタイルの推定値を示している。本実施の形態においては、推定部203における保持時間データRTDの推定には、ベイズ推定が用いられている。したがって、推定される保持時間データRTDも、確率分布を持つ。
【0048】
このように、本実施の形態の分析支援方法において、比較表示部204は、推定部203により推定された保持時間データRTD、および、算出部202により算出された保持時間データRTD(実際に測定された保持時間データRTD)を比較表示する。つまり、比較表示部204は、推定部203により推定された測定品質指標、および、算出部202により算出された品質測定指標を比較表示する。これにより、ユーザは、推定部203による推定の精度を確認することができる。本実施の形態のコンピュータ1は、分析条件の最適化のために有用な情報をユーザに提供することができる。
【0049】
また、比較表示部204は、クロマトグラム表示部230において、推定部203により推定された測定品質指標である保持時間データRTDの確率分布を表示する。そして、比較表示部204は、保持時間データRTDの確率分布、および、算出された保持時間データRTD(実際に測定された保持時間データRTD)を比較表示する。図8の例では、保持時間データRTDの50%パーセンタイルの推定値、および、90%パーセンタイルの推定値を、実際に測定された保持時間データRTDと比較表示している。これにより、ユーザは、実際の測定値と、推定部203による推定値の確率分布とを比較することができる。
【0050】
また、比較表示部204は、測定品質指標表示部240において、推定部203により推定された測定品質指標である分離度データRDの分布を表示する。そして、比較表示部204は、測定品質指標表示部240において表示された分布画像中の任意の点に対する指定操作に応答して、指定された点に対応する分析条件データAPを取得する。比較表示部204は、さらに、取得した分析条件データAPに対応した、推定された保持時間データRTD、および、取得した分析条件データAPに対応した、算出部202により算出された保持時間データRTDを比較表示する。これにより、ユーザは、測定品質指標表示部240における分布と、推定された保持時間データRTDおよび算出された保持時間データRTDとの関係を確認することができる。
【0051】
(5)変形例1
図11は、変形例1に係る分析支援画面210Aを示す図である。分析支援画面210Aは、メソッド一覧表示部220A、クロマトグラム表示部230、および、測定品質指標表示部240を備える。クロマトグラム表示部230、および、測定品質指標表示部240の内容は、図10で示した分析支援画面210と同様である。変形例1のメソッド一覧表示部220Aには、図10で示した分析支援画面210と比べて、表示項目として、推定保持時間および実測保持時間の欄が追加されている。
【0052】
推定保持時間の項目には、各分析条件データAPに対して、推定部203において推定された保持時間データRTDが表示されている。実測保持時間の項目には、各分析条件データAPに対して、算出部202において算出された保持時間データRTD(測定された保持時間データRTD)が表示されている。これら推定保持時間および実測保持時間は、ピークの数だけ表示される。これにより、ユーザは、推定部203による推定の精度を数値により確認することができる。本実施の形態のコンピュータ1は、分析条件の最適化のために有用な情報をユーザに提供することができる。
【0053】
(6)変形例2
図12は、変形例2に係る分析支援画面210Bを示す図である。分析支援画面210Bは、メソッド一覧表示部220B、クロマトグラム表示部230、および、測定品質指標表示部240を備える。クロマトグラム表示部230、および、測定品質指標表示部240の内容は、図10で示した分析支援画面210と同様である。変形例2のメソッド一覧表示部220Bには、図10で示した分析支援画面210と比べて、表示項目として、カテゴリー欄が追加されている。
【0054】
カテゴリーの項目には、推定部203において推定された保持時間データRTDと、算出部202において算出された保持時間データRTDとの差のカテゴリーが表示されている。図12で示す例では、カテゴリーとして、Level_A,Level_B,Level_Cのランクが示されている。カテゴリーは、Level_A>Level_B>Level_Cの順で推定部203による推定結果の精度が高いことを示している。つまり、推定された保持時間データRTDと、測定された保持時間データRTDの差が小さい順にカテゴリーがLevel_A,Level_B,Level_Cにランクされている。これにより、ユーザは、推定部203による推定の精度をカテゴリーにより確認することができる。本実施の形態のコンピュータ1は、分析条件の最適化のために有用な情報をユーザに提供することができる。
【0055】
(7)請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。上記の実施の形態では、液体クロマトグラフ3が分析装置またはクロマトグラフの例である。また、上記の実施の形態では、コンピュータ1が分析支援装置の例である。
【0056】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する種々の要素を用いることもできる。
【0057】
(8)他の実施の形態
上記実施の形態においては、本発明の分析装置として、液体クロマトグラフ3を例に説明した。本発明は、他にも、ガスクロマトグラフにも適用可能である。また、上記の実施の形態において、本実施の形態の分析支援装置であるコンピュータ1は、ネットワーク4を介して分析装置である液体クロマトグラフ3に接続される場合を例に説明した。他の実施の形態として、コンピュータ1が、分析装置に内蔵される構成であってもよい。
【0058】
上記実施の形態においては、分析支援プログラムP1は、記憶装置106に保存されている場合を例に説明した。他の実施の形態として、分析支援プログラムP1は、記憶媒体109に保存されて提供されてもよい。CPU101は、デバイスインタフェース108を介して記憶媒体109にアクセスし、記憶媒体109に保存された分析支援プログラムP1を、記憶装置106またはROM103に保存するようにしてもよい。あるいは、CPU101は、デバイスインタフェース108を介して記憶媒体109にアクセスし、記憶媒体109に保存された分析支援プログラムP1を実行するようにしてもよい。
【0059】
なお、本発明の具体的な構成は、前述の実施形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更および修正が可能である。
【0060】
(9)態様
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0061】
(第1項)
一態様に係る分析支援装置は、
分析装置に与えられる複数の分析条件データと、前記複数の分析条件データに基づいて前記分析装置で得られた複数の測定データを用いて、測定品質指標データの分布を推定する推定部と、
前記分析装置から得られた測定データから前記測定品質指標データを算出する算出部と、
前記推定部により推定された前記測定品質指標データ、および、前記算出部により算出された前記測定品質指標データを比較表示する比較表示部と、
を備える。
【0062】
ユーザは、推定部による推定の精度を確認することができる。分析支援装置は、分析条件の最適化のために有用な情報をユーザに提供することができる。
【0063】
(第2項)
第1項に記載の分析支援装置において、
前記比較表示部は、前記推定部により推定された前記測定品質指標データの確率分布、および、前記算出部により算出された前記測定品質指標データを比較表示してもよい。
【0064】
ユーザは、実際の測定値と、推定部による推定値の確率分布とを比較することができる。
【0065】
(第3項)
第1項または第2項に記載の分析支援装置において、
前記分析装置は、クロマトグラフを含み、
前記測定品質指標データは、前記クロマトグラフにおいて分析された各成分の保持時間データを含み、
前記比較表示部は、前記推定部により推定された前記保持時間データ、および、前記算出部により算出された前記保持時間データを比較表示してもよい。
【0066】
ユーザは、クロマトグラフを用いる分析処理において、推定部による保持時間データの推定の精度を確認することができる。分析支援装置は、分析条件の最適化のために有用な情報をユーザに提供することができる。
【0067】
(第4項)
第3項に記載の分析支援装置において、
前記比較表示部は、前記推定部により推定された前記保持時間データを表すスペクトルのピーク画像、および、前記算出部により算出された前記保持時間データを表すスペクトルのピーク画像を比較表示してもよい。
【0068】
スペクトルのピーク画像が比較表示されるので、ユーザは、視覚的に推定部による推定の精度を確認することができる。
【0069】
(第5項)
第3項に記載の分析支援装置において、
前記比較表示部は、前記推定部により推定された前記保持時間データを示す数値、および、前記算出部により算出された前記保持時間データを示す数値を比較表示してもよい。
【0070】
ユーザは、推定部による推定の精度を数値の大小により確認することができる。分析支援装置は、分析条件の最適化のために有用な情報をユーザに提供することができる。
【0071】
(第6項)
第3項に記載の分析支援装置において、
前記比較表示部は、前記推定部により推定された前記保持時間データと、前記算出部により算出された前記保持時間データとの差を分類表示してもよい。
【0072】
ユーザは、推定部による推定の精度を分類表示により確認することができる。分析支援装置は、分析条件の最適化のために有用な情報をユーザに提供することができる。
【0073】
(第7項)
第1項~第6項のいずれか一項に記載の分析支援装置において、
前記推定部により推定された前記測定品質指標データの分布を表示する測定品質指標表示部、
をさらに備え、
前記比較表示部は、前記測定品質指標表示部により表示された分布画像中の任意の点に対する指定操作に応答して、指定された点に対応する前記分析条件データを取得し、取得した前記分析条件データに対応した推定された前記測定品質指標データ、および、取得した前記分析条件データに対応した算出された前記測定品質指標データを比較表示してもよい。
【0074】
これにより、ユーザは、測定品質指標表示部における分布と、推定された保持時間データおよび算出された保持時間データとの関係を確認することができる。
【0075】
(第8項)
他の態様に係る分析支援方法は、
分析装置に与えられる複数の分析条件データと、前記複数の分析条件データに基づいて前記分析装置で得られた複数の測定データを用いて、測定品質指標データの分布を推定する推定工程と、
前記分析装置から得られた測定データから前記測定品質指標データを算出する算出工程と、
前記推定工程により推定された前記測定品質指標データ、および、前記算出工程により算出された前記測定品質指標データを比較表示する比較表示工程と、
を含む。
【0076】
(第9項)
他の態様に係る分析支援プログラムは、
分析装置に与えられる複数の分析条件データと、前記複数の分析条件データに基づいて前記分析装置で得られた複数の測定データを用いて、測定品質指標データの分布を推定する推定処理と、
前記分析装置から得られた測定データから前記測定品質指標データを算出する算出処理と、
前記推定処理により推定された前記測定品質指標データ、および、前記算出処理により算出された前記測定品質指標データを比較表示する比較表示処理と、
をコンピュータに実行させる。
【符号の説明】
【0077】
1…コンピュータ、3…液体クロマトグラフ、104…ディスプレイ、106…記憶装置、200…制御部、201…分析管理部、202…算出部、203…推定部、204…比較表示部、220,220A,220B…メソッド一覧表示部、230…クロマトグラム表示部、240…測定品質指標表示部、AP…分析条件データ、MD…測定データ、MQ…測定品質指標データ、RTD…保持時間データ、RD…分離度データ、DD…分布データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12