(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】角度検出装置
(51)【国際特許分類】
G01B 7/30 20060101AFI20240110BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20240110BHJP
F16H 59/08 20060101ALI20240110BHJP
F16H 59/64 20060101ALI20240110BHJP
F16H 61/28 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01B7/30 H
F16H61/02
F16H59/08
F16H59/64
F16H61/28
(21)【出願番号】P 2020108980
(22)【出願日】2020-06-24
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡戸 久高
(72)【発明者】
【氏名】久保田 貴光
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-206911(JP,A)
【文献】特開2009-025222(JP,A)
【文献】特開2013-167310(JP,A)
【文献】特開2009-162268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00 - 7/30
F16H 59/00 - 61/12
F16H 61/26 - 61/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転することによって走行レンジを切り替えるレンジ切替シャフト(4)を有する自動変速機に適用される角度検出装置であって、
磁界を発生し、前記レンジ切替シャフトと連動して回転する磁界発生部(21)を有するとともに、前記レンジ切替シャフトの回転によって変化する前記磁界を検出することで、前記レンジ切替シャフトの回転角度を検出し、検出した前記回転角度を角度情報として出力する角度検出部(20)と、
前記磁界発生部の周囲温度を検出し、検出した前記周囲温度を温度情報として出力する温度検出部(30)と、
前記温度情報に基づいて前記角度情報を補正した補正検出値を出力する検出値出力部(40)と
、
前記周囲温度の変化に起因する前記角度情報の誤差を示すデータである温特変動量の推測値を算出する温特推測部(42)と、を備え、
前記検出値出力部は、前記温度情報と、
前記温特変動量とに基づいて前記角度情報を補正して前記補正検出値を生成する演算処理部(422)とを有
し、
前記演算処理部は、前記温度情報と、前記推測値とに基づいて前記角度情報を補正して前記補正検出値を生成
し、
前記レンジ切替シャフトには、前記走行レンジを切り替えるための目標回転角度が複数定められており、
前記磁界発生部は、前記レンジ切替シャフトに取り付け可能であって、
前記温特推測部は、
前記磁界発生部が前記レンジ切替シャフトに取り付けられる前の状態において、前記磁界発生部が複数の前記目標回転角度のうち、所定の目標回転角度に対応する回転角度に位置付けられた状態で前記周囲温度が複数の温度に変化した際に、前記角度検出部が出力する前記角度情報に基づいて前記複数の温度毎の前記温特変動量を算出し、
算出した前記複数の温度毎の前記温特変動量に基づいて、前記磁界発生部が前記所定の目標回転角度に対応する回転角度に位置付けられた状態で前記周囲温度が前記複数の温度と異なる温度に変化した際の前記温特変動量の近似値を算出し、
前記磁界発生部が前記レンジ切替シャフトに取り付けられた後の状態において、前記レンジ切替シャフトが前記所定の目標回転角度に位置付けられた状態で前記周囲温度が2つ以上、且つ、前記複数の温度の数量以下である所定の数量の温度に変化した際において前記角度検出部が出力する前記角度情報に基づいて前記所定の数量の温度の温度毎の前記温特変動量を算出し、
算出した前記近似値および算出した前記所定の数量の温度の温度毎の前記温特変動量に基づいて、前記レンジ切替シャフトが前記所定の目標回転角度に位置付けられた状態で前記周囲温度が前記所定の数量の温度と異なる温度に変化した際の前記推測値を算出する角度検出装置。
【請求項2】
回転することによって走行レンジを切り替えるレンジ切替シャフト(4)を有する自動変速機に適用される角度検出装置であって、
磁界を発生し、前記レンジ切替シャフトと連動して回転する磁界発生部(21)を有するとともに、前記レンジ切替シャフトの回転によって変化する前記磁界を検出することで、前記レンジ切替シャフトの回転角度を検出し、検出した前記回転角度を角度情報として出力する角度検出部(20)と、
前記磁界発生部の周囲温度を検出し、検出した前記周囲温度を温度情報として出力する温度検出部(30)と、
前記温度情報に基づいて前記角度情報を補正した補正検出値を出力する検出値出力部(40)と
、
前記周囲温度の変化に起因する前記角度情報の誤差を示すデータである温特変動量の推測値を算出する温特推測部(42)と、を備え、
前記検出値出力部は、前記温度情報と、
前記温特変動量とに基づいて前記角度情報を補正して前記補正検出値を生成する演算処理部(422)とを有
し、
前記演算処理部は、前記温度情報と、前記推測値とに基づいて前記角度情報を補正して前記補正検出値を生成
し、
前記レンジ切替シャフトには、前記走行レンジを切り替えるための目標回転角度が3つ以上定められており、
前記磁界発生部は、前記レンジ切替シャフトに取り付け可能であって、
前記温特推測部は、
前記磁界発生部が前記レンジ切替シャフトに取り付けられる前の状態において、前記磁界発生部が複数の前記目標回転角度のうちの少なくとも2つの目標回転角度のそれぞれに対応する回転角度に位置付けられた状態で前記周囲温度が前記複数の温度に変化した際に、前記角度検出部が出力する前記角度情報に基づいて前記複数の温度毎の前記温特変動量を算出し、
算出した前記複数の温度毎の前記温特変動量に基づいて、前記磁界発生部が前記少なくとも2つの目標回転角度のそれぞれに対応する回転角度に位置付けられた状態で前記周囲温度が前記複数の温度と異なる温度に変化した際の前記温特変動量の近似値を算出し、
前記磁界発生部が前記レンジ切替シャフトに取り付けられた後の状態において、前記レンジ切替シャフトが前記少なくとも2つの目標回転角度に位置付けられた状態で前記周囲温度が2つ以上、且つ、前記複数の温度の数量以下である所定の数量の温度に変化した際において前記角度検出部が出力する前記角度情報に基づいて前記所定の数量の温度の温度毎の前記温特変動量を算出し、
算出した前記近似値および算出した前記所定の数量の温度の温度毎の前記温特変動量に基づいて、前記レンジ切替シャフトが前記少なくとも2つの目標回転角度のそれぞれに位置付けられた状態で前記周囲温度が前記所定の数量の温度と異なる温度に変化した際の前記推測値を算出するとともに、前記レンジ切替シャフトが前記少なくとも2つの目標回転角度と異なる目標回転角度に位置付けられた状態で前記周囲温度が前記所定の数量の温度および前記所定の数量の温度と異なる温度に変化した際の前記推測値を算出する角度検出装置。
【請求項3】
前記2つの目標回転角度は、一方の目標回転角度が、前記レンジ切替シャフトの回転する範囲のうちの最大の回転角度および最小の回転角度のうちのいずれか一方の角度に設定され、他方の目標回転角度が、前記回転する範囲における中心の角度に設定されている請求項
2に記載の角度検出装置。
【請求項4】
前記磁界発生部は、前記角度検出部が検出する磁界の磁束密度が0となる前記レンジ切替シャフトの回転位置が、前記レンジ切替シャフトの回転する範囲における中心の角度から前記レンジ切替シャフトの回転する範囲を絶対値で示した値の±5%以内の角度となるように設定されている請求項1ないし
3のいずれか1つに記載の角度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、角度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクチュエータと、アクチュエータの駆動によって回転するレンジ切替シャフトを有するディテント機構と、レンジ切替シャフトの回転角度を検出するセンサとを備える自動変速機のレンジ切替機構が知られている(例えば、特許文献1参照)。このレンジ切替機構は、センサの検出値に基づいて、位置決めされた走行レンジおよび位置決めされた走行レンジと異なる走行レンジそれぞれにおけるレンジ切替シャフトの目標位置を推定学習する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、発明者らは、自動変速機のレンジ切替シャフトの回転角度を検出するセンサとして磁気センサを用いることで、レンジ切替シャフトの回転角度をレンジ切替シャフトの回転に伴って変化する磁界の磁束密度として検出することを検討した。ところで、磁束密度は、磁気センサの周囲温度が変化すると変化する。このため、磁気センサによって検出される磁束密度は、磁気センサの周囲温度の変化により、実際のレンジ切替シャフトの回転角度に対して誤差が生じる虞がある。
【0005】
しかしながら、特許文献1には、センサの周囲温度の変化に起因するセンサの検出値の誤差を補正する方法について何ら記載されていない。このため、特許文献1に記載の自動変速機に磁気センサを用いると、レンジ切替シャフトの回転角度を精度良く検出することが難しい。
【0006】
本開示は、レンジ切替シャフトの回転角度の検出精度を向上可能な角度検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、
回転することによって走行レンジを切り替えるレンジ切替シャフト(4)を有する自動変速機に適用される角度検出装置であって、
磁界を発生し、レンジ切替シャフトと連動して回転する磁界発生部(21)を有するとともに、レンジ切替シャフトの回転によって変化する磁界を検出することで、レンジ切替シャフトの回転角度を検出し、検出した回転角度を角度情報として出力する角度検出部(20)と、
磁界発生部の周囲温度を検出し、検出した周囲温度を温度情報として出力する温度検出部(30)と、
温度情報に基づいて角度情報を補正した補正検出値を出力する検出値出力部(40)と、
周囲温度の変化に起因する角度情報の誤差を示すデータである温特変動量の推測値を算出する温特推測部(42)と、を備え、
検出値出力部は、温度情報と、温特変動量とに基づいて角度情報を補正して補正検出値を生成する演算処理部(422)とを有し、
演算処理部は、温度情報と、推測値とに基づいて角度情報を補正して補正検出値を生成し、
レンジ切替シャフトには、走行レンジを切り替えるための目標回転角度が複数定められており、
磁界発生部は、レンジ切替シャフトに取り付け可能であって、
温特推測部は、
磁界発生部がレンジ切替シャフトに取り付けられる前の状態において、磁界発生部が複数の目標回転角度のうち、所定の目標回転角度に対応する回転角度に位置付けられた状態で周囲温度が複数の温度に変化した際に、角度検出部が出力する角度情報に基づいて複数の温度毎の温特変動量を算出し、
算出した複数の温度毎の温特変動量に基づいて、磁界発生部が所定の目標回転角度に対応する回転角度に位置付けられた状態で周囲温度が複数の温度と異なる温度に変化した際の温特変動量の近似値を算出し、
磁界発生部がレンジ切替シャフトに取り付けられた後の状態において、レンジ切替シャフトが所定の目標回転角度に位置付けられた状態で周囲温度が2つ以上、且つ、複数の温度の数量以下である所定の数量の温度に変化した際において角度検出部が出力する角度情報に基づいて所定の数量の温度の温度毎の温特変動量を算出し、
算出した近似値および算出した所定の数量の温度の温度毎の温特変動量に基づいて、レンジ切替シャフトが所定の目標回転角度に位置付けられた状態で周囲温度が所定の数量の温度と異なる温度に変化した際の推測値を算出する。
また、請求項2に記載の発明は、
回転することによって走行レンジを切り替えるレンジ切替シャフト(4)を有する自動変速機に適用される角度検出装置であって、
磁界を発生し、レンジ切替シャフトと連動して回転する磁界発生部(21)を有するとともに、レンジ切替シャフトの回転によって変化する磁界を検出することで、レンジ切替シャフトの回転角度を検出し、検出した回転角度を角度情報として出力する角度検出部(20)と、
磁界発生部の周囲温度を検出し、検出した周囲温度を温度情報として出力する温度検出部(30)と、
温度情報に基づいて角度情報を補正した補正検出値を出力する検出値出力部(40)と、
周囲温度の変化に起因する角度情報の誤差を示すデータである温特変動量の推測値を算出する温特推測部(42)と、を備え、
検出値出力部は、温度情報と、温特変動量とに基づいて角度情報を補正して補正検出値を生成する演算処理部(422)とを有し、
演算処理部は、温度情報と、推測値とに基づいて角度情報を補正して補正検出値を生成し、
レンジ切替シャフトには、走行レンジを切り替えるための目標回転角度が3つ以上定められており、
磁界発生部は、レンジ切替シャフトに取り付け可能であって、
温特推測部は、
磁界発生部がレンジ切替シャフトに取り付けられる前の状態において、磁界発生部が複数の目標回転角度のうちの少なくとも2つの目標回転角度のそれぞれに対応する回転角度に位置付けられた状態で周囲温度が複数の温度に変化した際に、角度検出部が出力する角度情報に基づいて複数の温度毎の温特変動量を算出し、
算出した複数の温度毎の温特変動量に基づいて、磁界発生部が少なくとも2つの目標回転角度のそれぞれに対応する回転角度に位置付けられた状態で周囲温度が複数の温度と異なる温度に変化した際の温特変動量の近似値を算出し、
磁界発生部がレンジ切替シャフトに取り付けられた後の状態において、レンジ切替シャフトが少なくとも2つの目標回転角度に位置付けられた状態で周囲温度が2つ以上、且つ、複数の温度の数量以下である所定の数量の温度に変化した際において角度検出部が出力する角度情報に基づいて所定の数量の温度の温度毎の温特変動量を算出し、
算出した近似値および算出した所定の数量の温度の温度毎の温特変動量に基づいて、レンジ切替シャフトが少なくとも2つの目標回転角度のそれぞれに位置付けられた状態で周囲温度が所定の数量の温度と異なる温度に変化した際の推測値を算出するとともに、レンジ切替シャフトが少なくとも2つの目標回転角度と異なる目標回転角度に位置付けられた状態で周囲温度が所定の数量の温度および所定の数量の温度と異なる温度に変化した際の推測値を算出する。
【0008】
これによれば、角度検出部から送信される回転情報に周囲温度の変化に起因する誤差が含まれていても、温度情報と温特変動量とに基づいて、角度検出部が検出する角度情報を補正することができる。このため、角度検出装置におけるレンジ切替シャフトの回転角度の検出精度を向上させることができる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る角度検出装置の適用対象である自動変速機の概略構成図である。
【
図2】一実施形態に係る角度検出装置の概略構成図である。
【
図3】一実施形態に係る角度検出装置の外観図である。
【
図4】一実施形態に係る磁界発生部および磁界検出部の位置を示す図である。
【
図5】一実施形態に係る角度検出シャフトの回転角度に対する磁界検出部が出力する電圧値を示す図である。
【
図6】一実施形態に係る温特推測部が補正マップを作成する作動を説明するための説明図である。
【
図7】取付前の角度検出装置の温特変動量を算出する際に温特推測部が実行する制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】一実施形態に係る角度検出装置が自動変速機に取り付けられる前の温特変動量および温特近似値を示す図である。
【
図9】取付後の角度検出装置の温特変動量を算出する際に温特推測部が実行する制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】一実施形態に係る角度検出装置が自動変速機に取り付けられた後の温特推測値の一部を示す図である。
【
図11】一実施形態に係る角度検出装置が自動変速機に取り付けられた後の全ての設計角度の温特推測値を示す図である。
【
図12】一実施形態に係る角度検出部が検出する角度情報を補正するための補正マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の一実施形態について、
図1~
図12を参照して説明する。本実施形態の角度検出装置10は、車両の自動変速機1に適用されるものであって、自動変速機1の走行レンジを切り替えるレンジ切替シャフト4の回転角度を検出するものである。自動変速機1は、走行レンジの情報が入力されるエレクトロニックコントロールユニット2(以下、ECU2と呼ぶ)と、ECU2からの送信信号に基づいて作動するアクチュエータ3と、アクチュエータ3の作動によって回転するレンジ切替シャフト4とを有する。また、自動変速機1は、レンジ切替シャフト4と一体に回転するレンジ切替バルブ5と、複数の図示しない歯車を有するとともに、レンジ切替バルブ5の回転によって当該歯車の噛み合わせが変化することで走行レンジを切り替える歯車機構6とを有する。さらに、自動変速機1は、レンジ切替シャフト4の回転速度を減速させる減速機7と、減速機7を介してレンジ切替シャフト4と一体に回転する角度検出シャフト8と、角度検出シャフト8の回転角度を検出する角度検出装置10とを有する。
【0012】
本実施形態の自動変速機1は、電気制御によって走行レンジを切り替えるシフトバイワイヤ方式が採用されている。また、自動変速機1は、歯車機構6の歯車の噛み合わせを変更させることによって、走行レンジのうちのDレンジ(すなわち、ドライブレンジ)におけるギア段を1速~8速のうちのいずれか1つに切替可能に構成されている。
【0013】
アクチュエータ3は、歯車機構6の歯車の組み合わせを変更させるレンジ切替シャフト4の駆動源である。アクチュエータ3は、ECU2から送信される走行レンジの情報に基づいて作動する。アクチュエータ3は、例えば、油圧で作動するモータを含んで構成されており、レンジ切替シャフト4が連結されている。アクチュエータ3は、ECU2から送信される走行レンジの情報に基づいて、レンジ切替シャフト4を指定された走行レンジに対応する目標回転角度に近づくように回転させる。
【0014】
レンジ切替シャフト4は、アクチュエータ3の作動によって回転する回転軸である。レンジ切替シャフト4は、アクチュエータ3によって、予め定められる1速~8速のそれぞれのギア段に対応する目標回転角度に回転可能に構成されている。レンジ切替シャフト4には、レンジ切替シャフト4の回転運動を歯車機構6に伝達するレンジ切替バルブ5と、レンジ切替シャフト4の回転運動を減速させて角度検出シャフト8に伝達する減速機7が連結されている。
【0015】
レンジ切替バルブ5は、レンジ切替シャフト4の回転運動の動力を直進運動の動力に変換して歯車機構6に伝達するものである。レンジ切替バルブ5は、レンジ切替シャフト4の軸心方向に直交する方向に沿って設けられており、歯車機構6に連結されている。レンジ切替バルブ5は、レンジ切替シャフト4が1速~8速のいずれかに対応する目標回転角度に回転すると、当該目標回転角度に対応する位置までレンジ切替バルブ5の軸心方向に沿う方向に移動可能に構成されている。また、レンジ切替バルブ5は、レンジ切替バルブ5の軸心方向に移動することで、歯車機構6の複数の歯車の噛み合わせを切り替え可能に構成されている。
【0016】
歯車機構6は、レンジ切替バルブ5がギア段の1速~8速のうちのいずれかに対応する位置に位置付けられると、複数の歯車の噛み合わせが指定された走行レンジに対応する噛み合わせに切り替えられる。
【0017】
減速機7は、レンジ切替シャフト4の回転速度を減少させてレンジ切替シャフト4の回転運動を角度検出シャフト8に伝達するものである。減速機7は、複数の歯車によって構成されている。減速機7は、入力側にレンジ切替シャフト4が連結されており、出力側に角度検出シャフト8が連結されている。本実施形態の減速機7は、角度検出シャフト8をレンジ切替シャフト4の回転速度の1/4の速度で回転させる。
【0018】
角度検出シャフト8は、レンジ切替シャフト4の回転に伴って回転する回転軸であって、所定の基準位置を中心に一方側および他方側に回転可能に構成されている。本実施形態において、角度検出シャフト8は、基準位置の角度を0°としたとき、0°を中心に一方側と他方側とに同じ角度だけ回転可能に設定されている。具体的に、角度検出シャフト8は、レンジ切替シャフト4の回転に伴って、角度0°の位置から一方側および他方側に向かってそれぞれ40°ずつ回転可能に構成されている。すなわち、角度検出シャフト8が回転する範囲は、-40°から40°までである。
【0019】
また、角度検出シャフト8は、レンジ切替シャフト4が1速~8速のそれぞれに対応する目標回転角度に位置付けられた際に、1速~8速のそれぞれに対応する角度として予め設定された角度に位置付けられるように設定されている。具体的に、レンジ切替シャフト4のそれぞれの目標回転角度に対応する角度検出シャフト8の設計角度は、1速から8速までの順に-40°、-30°、-20°、-10°、0°、10°、25°、40°と設定されている。角度検出シャフト8は、減速機7が連結されている側の端部とは反対側の端部に角度検出装置10が設けられている。
【0020】
角度検出装置10は、角度検出シャフト8の回転角度を検出することで間接的にレンジ切替シャフト4の回転角度を検出する回転角センサである。角度検出装置10は、
図2に示すように、角度検出シャフト8の回転角度を検出する角度検出部20と、角度検出部20の周囲温度を検出する温度検出部30と、後述する補正検出値を出力する検出値出力部40とを有する。また、角度検出装置10は、角度検出装置10をECU2に電気的に接続させるためのコネクタ50を有する。角度検出装置10は、ECU2に補正検出値を出力可能に構成されるとともに、ECU2から走行レンジの情報を受信可能に構成されている。
【0021】
角度検出部20は、
図3および
図4に示すように、磁界を発生させる磁界発生部21と、磁界発生部21が発生させた磁界を検出し、検出した磁界に対応する信号を出力する磁界検出部22とを有する。
【0022】
本実施形態において、磁界発生部21は、複数の図示しない磁石を有する略円環状のロータによって構成されている。磁界発生部21は、角度検出シャフト8の端部に取り付けられており、角度検出シャフト8と一体に-40°から40°までの範囲内で回転可能に構成されている。換言すれば、磁界発生部21は、角度検出シャフト8および減速機7を介してレンジ切替シャフト4に取り付けられており、レンジ切替シャフト4と連動して回転可能に構成されている。磁界発生部21の内側には、磁界発生部21が発生させる磁界の磁束密度を検出する磁界検出部22が設けられている。
【0023】
磁界発生部21は、角度検出部20が検出する磁界の磁束密度が0となるレンジ切替シャフト4の回転位置が、レンジ切替シャフト4の回転範囲における中心の角度からレンジ切替シャフト4の回転する範囲を絶対値で示した値の±5%以内の角度となるように設定されていることが望ましい。すなわち、磁界発生部21は、角度検出部20が検出する磁界の磁束密度が0となる角度検出シャフト8の回転位置が、-4°から4°の範囲内のいずれかの角度となるように設定されていることが望ましい。本実施形態において、磁界発生部21は、角度検出シャフト8の回転する範囲における中心の角度0°に角度検出シャフト8が位置付けられた際に、角度検出部20が検出する磁界の磁束密度が0となるように設定されている。
【0024】
磁界検出部22は、磁界発生部21が角度検出シャフト8と一体に回転することによって変化する磁界の磁束密度を検出する図示しない磁気検出素子および磁気検出素子が検出した磁束密度の変化に対応する信号を出力する図示しない回路部を有する。本実施形態において、磁気検出素子は、半導体式センサ素子であるTMR素子(Tunnel Magneto-Resistance素子)で構成されており、検出する磁束密度の変化に応じて磁気検出素子の電気抵抗値が変化する。なお、磁気検出素子は、TMR素子と異なる磁気抵抗効果素子であるGMR素子(Giant Magneto-Resistance素子)で構成されていてもよい。また、磁気検出素子は、磁気抵抗効果素子と異なる素子(例えば、ホール素子)で構成されていてもよい。
【0025】
回路部は、磁気検出素子の電気抵抗値の変化に応じて、磁界発生部21の回転角度(すなわち、角度検出シャフト8の回転角度)に対応する電圧値を検出値出力部40に出力可能に構成されている。回路部は、
図5に示すように、角度検出シャフト8の回転角度が-40°から40°に向かって大きくなるにしたがい、出力する電圧値が大きくなるように設定されている。回路部が出力する電圧値は、角度検出シャフト8の回転角度に比例して大きくなるように設定されている。
【0026】
回路部が出力する電圧値は、磁界発生部21の周囲温度が予め定められる基準温度である場合において、角度検出シャフト8の設計角度と
図6のグラフに示す相関関係を有するように定められている。例えば、回路部は、角度検出シャフト8の回転角度が-40°の場合、0.6Vの電圧値を出力し、回転角度が0°の場合、2.2Vの電圧値を出力し、回転角度が40°の場合、3.8Vの電圧値を出力するように設定されている。本実施形態において、基準温度は20℃で定められている。
【0027】
このように、角度検出部20は、検出する角度検出シャフト8の-40°から40°までの範囲の回転角度を0.6Vから3.8Vまでの範囲の電圧値に変換し、当該電圧値を角度情報として検出値出力部40に出力可能に構成されている。
【0028】
温度検出部30は、磁界発生部21の周囲温度を検出する温度センサである。温度検出部30は、例えば、サーミスタで構成されており、磁界発生部21の周囲に配置されることによって、磁界発生部21の周囲温度を検出可能に構成されている。温度検出部30は、検出した磁界発生部21の周囲温度を温度情報として検出値出力部40に出力可能に構成されている。
【0029】
検出値出力部40は、プログラムやデータ等を記憶する記憶部41と、制御処理や演算処理を行う演算部42とを有するマイクロコンピュータと、その周辺回路とで構成されている。記憶部41は、角度検出装置10の動作のために必要な各種データなどを記憶する記憶媒体であり、例えばROM、RAM、フラッシュメモリ等により構成されている。また、記憶部41は、非遷移的実体的記憶媒体である。
【0030】
演算部42は、記憶部41に記憶されたプログラムに従って各種演算処理を実行するCPUによって構成されている。演算部42は、CPUが記憶部41に記憶された所定のプログラムに従って演算処理を行うことで温特推測部421として機能し、所定のプログラムとは別のプログラムに従って演算処理を行うことで演算処理部422として機能可能に構成されている。
【0031】
温特推測部421は、温度検出部30が検出する温度情報に基づいて、角度検出部20が角度情報として出力する電圧値の誤差を補正するための後述する補正マップを作成する。演算処理部422は、温特推測部421が作成する補正マップに基づいて角度検出部20が出力する角度情報を補正した補正検出値を算出する。演算処理部422は、演算処理部422が生成した補正検出値をコネクタ50を介してECU2に出力可能に構成されている。
【0032】
コネクタ50は、ECU2および図示しない電力供給源と電気的に接続されている。コネクタ50は、検出値出力部40が出力する補正検出値をECU2に出力させるとともに、電力供給源が供給する電力を受電するためのインターフェースである。
【0033】
ECU2は、CPU、ROM、RAMを含むマイクロコンピュータとその周辺回路で構成され、ROM等に記憶された制御プログラムおよび入力される情報に基づいて、アクチュエータ3の作動を制御する制御部である。
【0034】
ECU2の入力側には、車両に設けられた図示しないシフトレバーおよび角度検出装置10が電気的に接続されている。ECU2は、シフトレバーの操作によって選択されるギア段の情報および角度検出装置10が出力する補正検出値の情報を受信可能に構成されている。また、ECU2の出力側には、アクチュエータ3が電気的に接続されている。
【0035】
ECU2は、シフトレバーから送信されるギア段の情報に基づいて、レンジ切替シャフト4の目標回転角度に対応する信号をアクチュエータ3に送信可能に構成されている。また、ECU2は、角度検出装置10から送信される角度検出シャフト8の回転角度の情報に基づいて、アクチュエータ3をフィードバック制御可能に構成されている。
【0036】
ここで、角度検出部20が出力する角度情報の誤差について説明する。磁界発生部21が発生させる磁界の磁束密度は、磁界を発生させる磁石の温度によって変化する。そして磁界発生部21の磁石の温度は、磁界発生部21の周囲温度によって変化する。このため、磁界検出部22が検出する磁界の磁束密度は、角度検出シャフト8の回転角度が一定であっても、磁界発生部21の周囲温度が変化すると変化する。すなわち、磁気検出素子の電気抵抗値は、磁界発生部21の周囲温度によって変化する。
【0037】
この場合、角度検出シャフト8が設計角度のいずれかに位置付けられた際に磁界検出部22が出力する電圧値は、予め設定された当該設計角度に対応する電圧値からずれる虞がある。例えば、磁界発生部21の周囲温度が20℃と異なる場合、角度検出シャフト8が0°に位置付けられた際に磁界検出部22が出力する電圧値は、2.2Vと異なる電圧値になる虞がある。すなわち、角度検出部20が角度情報として出力する電圧値には、磁界発生部21の周囲温度の変化に起因する誤差が生じる虞がある。
【0038】
このため、磁界発生部21の周囲温度の変化を考慮することなく角度検出部20が出力する角度情報に基づいてレンジ切替シャフト4の回転角度を算出すると、レンジ切替シャフト4の回転角度を精度良く算出することが難しい。以下、磁界発生部21の周囲温度を単に周囲温度と呼ぶ場合がある。また、角度検出部20が角度情報として出力する電圧値の誤差を示すデータであって、周囲温度の変化に起因するものを温特変動量とも呼ぶ。
【0039】
ところで、温特変動量の大きさは、周囲温度と基準温度との差の大きさによって異なる。このため、周囲温度によって変化するそれぞれの温特変動量は、角度検出シャフト8を所定の設計角度に位置付けして周囲温度を変化させた際に、周囲温度毎の角度検出部20が出力する電圧値と設計角度に対応する電圧値との差に基づいて算出することができる。
【0040】
また、温特変動量の大きさは、周囲温度が一定であっても、角度検出シャフト8が位置付けられる設計角度によって異なる値になる。このため、設計角度毎の温特変動量は、角度検出シャフト8を設計角度毎に位置付けして周囲温度を変化させた際に、周囲温度毎に角度検出部20が出力する電圧値と設計角度に対応する電圧値との差に基づいて算出することができる。
【0041】
しかしながら、角度検出装置10を自動変速機1に取り付けた状態で角度検出シャフト8をそれぞれの設計角度に回転させるためには、自動変速機1の構成機器それぞれを作動させる必要がある。例えば、角度検出シャフト8を-40°に回転させる場合、ECU2からレンジ切替シャフト4の目標回転角度に対応する信号をアクチュエータ3に送信させ、アクチュエータ3、レンジ切替シャフト4、レンジ切替バルブ5、歯車機構6等を動作させる必要がある。このため、角度検出装置10を自動変速機1に取り付けた状態で角度検出シャフト8の回転角度を全ての設計角度に変化させ、且つ、自動変速機1の周囲温度を変化させて、全ての設計角度毎に温特変動量を算出することは容易でない。
【0042】
これに対して、温特変動量の大きさは、角度検出装置10を自動変速機1に取り付ける前においても温特変動量を算出することができる。温特変動量の大きさは、磁界発生部21の回転角度を設計角度に位置付けして磁界発生部21の周囲温度を変化させた際に、角度検出部20が出力する電圧値に基づいて算出することで、角度検出装置10を自動変速機1に取り付ける前の温特変動量を算出できる。これによれば、角度検出装置10が自動変速機1に取り付けられた状態で温特変動量を算出する場合に比較して、簡易に温特変動量を算出することができる。このため、発明者らは、角度検出装置10を自動変速機1に取り付ける前に予め温特変動量を算出することを検討した。
【0043】
しかし、例えば、磁界発生部21を角度検出シャフト8に取り付ける前と取り付けた後とで、角度検出シャフト8の軸心方向における磁界発生部21と磁界検出部22との相対位置がずれると、磁界検出部22が検出する磁界の磁束密度が変化する。このため、角度検出シャフト8の回転角度および磁界発生部21の周囲温度が一定であっても、温特変動量は、角度検出装置10を自動変速機1に取り付ける際の設計上の組付誤差によって、角度検出装置10を取り付け前と取り付け後とで値が異なる場合がある。
【0044】
したがって、発明者らは、角度検出装置10を自動変速機1に取り付ける前に予め算出した温特変動量に基づいて、角度検出装置10を自動変速機1に取り付けた後の温特変動量を推測する方法について検討した。以下、自動変速機1に取り付けられる前の角度検出装置10を取付前の角度検出装置10、自動変速機1に取り付けられた後の角度検出装置10を取付後の角度検出装置10とも呼ぶ。そして、取付後の角度検出装置10の温特変動量を推測するための補正マップを温特推測部421が作成する方法について、
図6~
図8を参照して説明する。
【0045】
図6に示すように、温特推測部421は、ステップS10において、取付前の角度検出装置10の温特変動量を算出し、ステップS20において、当該算出した温特変動量に基づいて、取付後の角度検出装置10の温特変動量を算出する。そこで、まず、取付前の角度検出装置10の温特変動量を算出する方法について説明する。
【0046】
取付前の角度検出装置10の温特変動量を算出するために、記憶部41には、取付前の角度検出装置10において磁界発生部21が所定の設計角度に位置付けられた状態で周囲温度を変化させた際に角度検出部20が出力する電圧値の実測値が予め入力される。そして、温特推測部421は、
図6に示すように、当該実測値を記憶部41から取得する。当該実測値は、例えば、取付前の角度検出装置10において、作業者が磁界発生部21と磁界検出部22との位置を調整し、周囲温度を変化させた際に角度検出部20が出力する電圧値を計測することによって得ることができる。
【0047】
角度検出部20は、作業者によって磁界発生部21と磁界検出部22との位置が調整された際に磁界発生部21の回転角度を検出し、検出した角度情報を電圧値に変換して記憶部41に出力する。取付前の角度検出装置10の温特変動量を算出する場合、作業者は、磁界発生部21を予め定められた所定の設計角度に位置付けするとともに、周囲温度を予め定められた所定の周囲温度に変化させることで、実測値を得るための角度検出装置10の設定を行う。
【0048】
作業者によって実測値を得るための角度検出装置10の設定がなされ、磁界発生部21が実測値を得るための所定の設計角度に位置付けられると、角度検出部20は、磁界発生部21の回転角度を検出する。そして、角度検出部20は、検出した回転角度に対応する電圧値の実測値を記憶部41に出力する。また、この際に、温度検出部30は、周囲温度を検出し、検出した温度情報を記憶部41に出力する。以下、取付前の角度検出装置10において、磁界発生部21の回転角度が所定の設計角度に位置付けられ、周囲温度が所定の周囲温度に変化した際に角度検出部20が磁界発生部21の回転角度を計測することによって得られる電圧値を取付前実測値とも呼ぶ。
【0049】
本実施形態において、取付前実測値を得るための所定の設計角度は、8つの設計角度のうちの少なくとも2つの設計角度である。本実施形態において、取付前実測値を得るための所定の設計角度は、8つの設計角度のうち、最小の回転角度である-40°と、最大の回転角度である40°と、回転範囲の中心の角度である0°の3つの回転角度である。
【0050】
また、取付前実測値を得るための所定の周囲温度は、-40℃、-30℃、-5℃、20℃、50℃、70℃、100℃、120℃の8つの計測温度である。記憶部41には、取付前の角度検出装置10において磁界発生部21が当該3つの設計角度のそれぞれに位置付けられた状態で、周囲温度を当該8つの計測温度に変化させた際に計測された電圧値が入力される。なお、当該8つの計測温度は、角度検出装置10の設計上の使用範囲内の温度である。
【0051】
温特推測部421は、記憶部41から取付前実測値を取得後、ステップS10において、取付前実測値に基づいて、取付前の角度検出装置10における温特変動量を算出する。温特推測部421が実行するステップS10の詳細について、
図7を参照して説明する。
図7に示すように、温特推測部421は、ステップS11において、取付前実測値に基づいて、磁界発生部21が3つの設計角度に位置付けられた状態で、周囲温度を8つの計測温度に変化させた際のそれぞれの温特変動量を算出する。
【0052】
温特推測部421は、例えば、磁界発生部21が-40°に位置付けられた状態で周囲温度を8つの計測温度に変化させた際のそれぞれの温特変動量を取付前実測値と回路部に設定された回転角度0°に対応する電圧値0.6Vとの差に基づいて算出する。また、温特推測部421は、磁界発生部21が0°に位置付けられた状態で周囲温度を8つの計測温度に変化させた際のそれぞれの温特変動量を取付前実測値と回路部に設定された回転角度0°に対応する電圧値2.2Vとの差に基づいて算出する。そして、温特推測部421は、磁界発生部21が40°に位置付けられた状態で周囲温度を8つの計測温度に変化させた際のそれぞれの温特変動量を取付前実測値と回路部に設定された回転角度40°に対応する電圧値3.8Vとの差に基づいて算出する。
【0053】
図8に示す〇は、磁界発生部21が-40°に位置付けられた状態で周辺温度をそれぞれの計測温度に変化させた際に角度検出部20が出力する電圧値に基づいて、温特推測部421が算出した温特変動量を示す。
図8に示すように、磁界発生部21が-40°に位置付けられ、周辺温度をそれぞれの計測温度に変化させた場合の温特変動量は0mV以上である。また、磁界発生部21が-40°に位置付けられた場合の温特変動量は、周囲温度が基準温度より大きくなるほど大きくなり、且つ、周囲温度が基準温度より小さくなるほど大きくなる。そして、周囲温度と基準温度との差に対する温特変動量の大きさの比の絶対値は、周囲温度が基準温度より大きくなるほど大きくなり、且つ、周囲温度が基準温度より小さくなるほど大きくなる。
【0054】
図8に示す△は、磁界発生部21が0°に位置付けられた状態で周辺温度をそれぞれの計測温度に変化させた際に角度検出部20が出力する電圧値に基づいて、温特推測部421が算出した温特変動量を示す。
図8に示すように、磁界発生部21が0°に位置付けられ、周辺温度がそれぞれの計測温度に変化した場合の温特変動量は、周囲温度が基準温度より大きいと0mVより大きくなる傾向があり、周囲温度が基準温度より小さいと0mVより小さくなる傾向がある。また、磁界発生部21が0°に位置付けられた場合、磁界発生部21が-40°に位置付けられた場合に比較して、周囲温度と基準温度との差に対する温特変動量の大きさの比の絶対値が小さい。
【0055】
図8に示す□は、磁界発生部21が40°に位置付けられた状態で周辺温度をそれぞれの計測温度に変化させた際に角度検出部20が出力する電圧値に基づいて、温特推測部421が算出した温特変動量を示す。
図8に示すように、磁界発生部21が40°に位置付けられ、周辺温度がそれぞれの計測温度に変化した場合の温特変動量は0mV以下である。また、磁界発生部21が40°に位置付けられた場合の温特変動量は、周囲温度が基準温度より大きくなるほど小さくなり、且つ、周囲温度が基準温度より小さくなるほど小さくなる。
【0056】
そして、周囲温度と基準温度との差に対する温特変動量の大きさの比の絶対値は、周囲温度が基準温度より大きくなるほど大きくなり、且つ、周囲温度が基準温度より小さくなるほど大きくなる。さらに、磁界発生部21が40°に位置付けられた場合、磁界発生部21が0°に位置付けられた場合に比較して、周囲温度と基準温度との差に対する温特変動量の大きさの比の絶対値が大きい。
【0057】
このように、取付前の角度検出装置10における温特変動量の絶対値は、周囲温度が基準温度から離れるにしたがい大きくなる。また、取付前の角度検出装置10において、周囲温度と基準温度との差に対する温特変動量の大きさの比の絶対値は、磁界発生部21の回転角度が、磁界発生部21の回転範囲の中心の角度である0°から離れるにしたがい大きくなる。
【0058】
続いて、温特推測部421は、ステップS12において、計測温度毎の温特変動量に基づいて、磁界発生部21が3つの設計角度に位置付けられた状態で周囲温度が計測温度と異なる温度に変化した際のそれぞれの周囲温度毎の温特変動量の近似値を算出する。具体的に、磁界発生部21が-40°および40°のそれぞれに位置付けられた状態で周囲温度が計測温度と異なる温度に変化した際の温特変動量の近似値を以下の式(1)に基づいて算出する。
【0059】
【数1】
上記式(1)における変数xは、周囲温度と基準温度との差である。また、磁界発生部21が-40°に位置付けられた場合の上記式(1)における係数α、係数β、定数γは、ステップS11において算出された温特変動量のうち、磁界発生部21が-40°に位置付けられた際の計測温度毎の温特変動量に基づいて算出される。そして、磁界発生部21が40°に位置付けられた場合の上記式(1)における係数α、係数β、定数γは、ステップS11において算出された温特変動量のうち、磁界発生部21が40°に位置付けられた際の計測温度毎の温特変動量に基づいて算出される。上記式(1)における係数α、係数β、定数γは、例えば、最小二乗法によって算出できる。
【0060】
磁界発生部21が-40°に位置付けられた場合における周囲温度毎の温特変動量の近似値は、
図8に示す実線で示すように、周囲温度が20℃である際に最小値の0mVであって、当該最小値を頂点とする放物線で表される。また、磁界発生部21が40°に位置付けられた場合における周囲温度毎の温特変動量の近似値は、
図8に示す破線で示すように、周囲温度が20℃である際に最大値の0mVであって、当該最大値を頂点とする放物線で表される。
【0061】
また、温特推測部421は、ステップS12において、磁界発生部21が0°に位置付けられた状態で周囲温度が計測温度と異なる温度に変化した場合の温特変動量の近似値を以下の式(2)に基づいて算出する。
【0062】
【数2】
上記式(2)における変数xは、基準温度と周囲温度との差である。また、上記式(2)における係数aおよび定数bは、ステップS11において算出された温特変動量のうち、磁界発生部21が0°に位置付けられた際の計測温度毎の温特変動量に基づいて、例えば、最小二乗法によって算出される。
【0063】
磁界発生部21が0°に位置付けられた場合における周囲温度毎の温特変動量の近似値は、
図8に示す一点鎖線で示すように、周囲温度が20℃である際に0mVであって、周囲温度と基準温度との差に比例して大きくなる直線で表される。式(1)および式(2)で算出される温特変動量の近似値は、取付前の角度検出装置10における温特変動量の推測値である。以下、式(1)および式(2)で算出される取付前の角度検出装置10における温特変動量の近似値を温特近似値とも呼ぶ。記憶部41は、温特推測部421が算出する温特近似値を記憶する。
【0064】
ところで、取付前の角度検出装置10における温特変動量は、角度検出装置10を自動変速機1に取り付ける際の設計上の組付誤差によって、取付後の角度検出装置10における温特変動量と異なる場合がある。このため、取付前の角度検出装置10において取付前実測値に基づいて算出される温特変動量を用いて算出する温特近似値は、取付後の角度検出装置10における温特変動量の近似値とならない虞がある。
【0065】
しかし、取付後の角度検出装置10における温特変動量の絶対値は、角度検出装置10を取り付ける前と同様に、周囲温度が基準温度から離れるにしたがい大きくなる。また、取付後の角度検出装置10において、周囲温度と基準温度との差に対する温特変動量の大きさの比の絶対値は、角度検出装置10を取り付ける前と同様に、磁界発生部21の回転角度0°から離れるにしたがい大きくなる。このため、取付後の角度検出装置10における温特変動量は、取付前の角度検出装置10において算出される温特近似値に基づいて推測することができる。
【0066】
温特推測部421は、取付前の角度検出装置10において温特近似値を算出後、当該温特近似値を用いて演算処理することにより、取付後の角度検出装置10の温特変動量の推測値を算出する。以下、温特推測部421によって算出される取付後の角度検出装置10における温特変動量の推測値を温特推測値とも呼ぶ。以下において、取付後の角度検出装置10の温特変動量を算出する方法について説明する。
【0067】
図6に示すように、取付後の角度検出装置10の温特変動量を算出するにあたり、角度検出装置10は、取付前の角度検出装置10における温特変動量の近似値を算出後、自動変速機1に取り付けられる。そして、記憶部41には、取付後の角度検出装置10において角度検出シャフト8が所定の設計角度に位置付けられた状態で周囲温度を変化させた際に角度検出部20が出力する電圧値の実測値が予め入力される。温特推測部421は、当該実測値を記憶部41から取得する。
【0068】
ここで、取付後の角度検出装置10において予め入力される実測値は、例えば、角度検出装置10が自動変速機1に取り付けられた状態で角度検出シャフト8が所定の設計角度に回転するように自動変速機1を作動させることで得ることができる。例えば、角度検出シャフト8が-40°に位置付けられた際の実測値を得る場合、ECU2は、ギア段の1速に対応する信号をアクチュエータ3に送信し、レンジ切替シャフト4、レンジ切替バルブ5、歯車機構6などを動作させ、角度検出シャフト8を回転させる。
【0069】
なお、ECU2から送信される信号によって回転する角度検出シャフト8の回転角度は設計上の角度であって、実際の回転角度と異なる場合がある。このため、例えば、ECU2から送信される信号によって-40°に位置付けられる角度検出シャフト8の回転角度は、取付前実測値を得るために作業者によって-40°位置付けられた磁界発生部21の回転角度と異なる場合がある。
【0070】
取付後の角度検出装置10の温特変動量を算出する場合、作業者は、自動変速機1を作動させて角度検出シャフト8を予め定められた所定の設計角度に回転させる。また、作業者は、角度検出シャフト8を所定の設計角度に位置付けした状態で周囲温度を予め定められた所定の周囲温度に変化させることで、電圧値の実測値を得るための角度検出装置10の設定を行う。
【0071】
作業者によって実測値を得るための角度検出装置10の設定がなされ、角度検出シャフト8が実測値を得るための所定の設計角度に位置付けられると、角度検出部20は、角度検出シャフト8の回転角度を検出する。そして、角度検出部20は、検出した回転角度に対応する電圧値の実測値を記憶部41に出力する。この際、温度検出部30は、周囲温度を検出し、検出した温度情報を記憶部41に出力する。以下、取付後の角度検出装置10において、角度検出シャフト8が所定の設計角度に位置付けられ、周囲温度が所定の周囲温度に変化した際に角度検出部20が角度検出シャフト8の回転角度を計測することによって得られる電圧値を取付後実測値とも呼ぶ。
【0072】
本実施形態において、記憶部41には、角度検出シャフト8が8つの設計角度のうち、少なくとも2つの設計角度に位置付けられた状態で周囲温度を複数の計測温度に変化させた際に角度検出部20が出力する電圧値が入力される。本実施形態において、取付後実測値を得るための所定の設計角度は、取付前実測値を得るために位置付けられた磁界発生部21の設計角度と同じ回転角度のうち、-40°および0°の2つの回転角度である。また、取付後実測値を得るための所定の周囲温度の数量は、2つ以上、且つ、取付前実測値を得るための計測温度の数量8つ以下の数量である。本実施形態において、取付後実測値を得るための所定の周囲温度は、20℃および80℃の2つの計測温度である。
【0073】
記憶部41には、角度検出シャフト8が-40°になるように自動変速機1を作動させた状態で周囲温度を20℃および80℃に変化させた際に角度検出部20が出力するそれぞれの周囲温度毎の電圧値が入力される。また、記憶部41には、角度検出シャフト8が設計角度0°になるように自動変速機1を作動させた状態で周囲温度を20℃および80℃に変化させた際に角度検出部20が出力するそれぞれの周囲温度毎の電圧値が入力される。
【0074】
温特推測部421は、記憶部41から取付後実測値を取得後、ステップS20において、取付後実測値に基づいて、角度検出シャフト8が8つの設計角度のそれぞれに位置付けられた状態で周囲温度が変化した際の周囲温度毎の温特推測値を算出する。
【0075】
具体的に、温特推測部421は、取付後の角度検出装置10において、取付後実測値を得るために位置付けられた2つの設計角度と同じ設計角度に角度検出シャフト8が位置付けられた際における周囲温度毎の温特推測値を算出する。そして、温特推測部421は、当該算出した温特推測値に基づいて、8つの設計角度のうち、残りの6つの設計角度に角度検出シャフト8が位置付けられた際における周囲温度毎の温特推測値を算出する。温特推測部421が実行するステップS20の詳細について、
図9を参照して説明する。
【0076】
温特推測部421は、
図9に示すように、ステップS21において、取付後実測値に基づいて、角度検出シャフト8が-40°および0°に位置付けられ、周囲温度が20℃および80℃に変化した際のそれぞれの温特変動量を算出する。換言すれば、温特推測部421は、角度検出シャフト8が、角度検出シャフト8の設計角度のうちの最小の回転角度である-40°および角度検出シャフト8の回転する範囲における中心の角度である0°に位置付けられた場合のそれぞれの温特変動量を算出する。
【0077】
温特推測部421は、例えば、角度検出シャフト8が-40°に位置付けられた状態で周囲温度を20℃および80℃に変化させた際の温特変動量を、取付後実測値と回路部に設定された回転角度-40°対応する電圧値0.6Vとの差に基づいて算出する。また、温特推測部421は、角度検出シャフト8が0°に位置付けられた状態で周囲温度を20℃および80℃に変化させた際の温特変動量を、取付後実測値と回路部に設定された回転角度0°に対応する電圧値2.2Vとの差に基づいて算出する。
【0078】
続いて、温特推測部421は、ステップS22において、角度検出シャフト8が-40°および0°のそれぞれに位置付けられた状態で周囲温度が20℃および80℃と異なる温度に変化した際の周囲温度毎の温特推測値を算出する。具体的に、温特推測部421は、角度検出シャフト8が-40°に位置付けられた状態で周囲温度が20℃および80℃と異なる温度に変化した際の周囲温度毎の温特推測値を以下の式(3)に基づいて算出する。
【0079】
【数3】
上記式(3)における定数SV1は、取付後実測値に基づいて算出される温特変動量のうち、角度検出シャフト8が-40°に位置付けられ、周囲温度が80℃である条件のもとに算出される温特変動量である。上記式(3)における定数AV1は、式(1)において、磁界発生部21の回転角度が定数SV1を算出した際の回転角度-40°に位置付けられ、周囲温度が定数SV1を算出した際の周囲温度が80℃である条件のもとに算出される温特近似値である。上記式(3)における定数SV0は、取付後実測値に基づいて算出される温特変動量のうち、角度検出シャフト8が-40°に位置付けられ、周囲温度が20℃である条件のもとに算出される温特変動量である。
【0080】
ここで、本実施形態においては、式(3)より算出される、角度検出シャフト8が-40°に位置付けられ、周囲温度が80℃である場合の温特推測値は、同一周囲温度、同一回転角度の条件のもと、式(1)より算出される定数AV1より大きい。このため、角度検出シャフト8が-40°に位置付けられた状態で周囲温度が変化した際に、式(3)より算出されるそれぞれの周囲温度毎の温特推測値は、式(1)より算出される同一周囲温度、同一回転角度でのそれぞれの周囲温度毎の温特近似値以上になる。また、角度検出シャフト8が-40°に位置付けられた場合における温特推測値は、
図10に示す3つの二点鎖線のうちの一番上の二点鎖線で示すように、周囲温度が20℃である際に最小値の0mVであって、当該最小値を頂点とする放物線で表される。なお、
図10に示す実線、破線、一点鎖線は、
図8と同じ実線、破線、一点鎖線を示す。
【0081】
また、温特推測部421は、ステップS22において、角度検出シャフト8が0°に位置付けられた状態で周囲温度が20℃および80℃と異なる温度に変化した際の周囲温度毎の温特推測値を以下の式(4)に基づいて算出する。
【0082】
【数4】
上記式(4)における定数SV2は、取付後実測値に基づいて算出される温特変動量のうち、角度検出シャフト8が0°に位置付けられ、周囲温度が80℃である条件のもとに算出される温特変動量である。上記式(4)における定数AV2は、式(2)において、磁界発生部21の回転角度が定数SV2を算出した際の回転角度である0°に位置付けられ、周囲温度が定数SV2を算出した際の周囲温度が80℃である条件のもとに算出される温特近似値である。上記式(4)における定数SV3は、取付後実測値に基づいて算出される温特変動量のうち、角度検出シャフト8が0°に位置付けられ、周囲温度が20℃である条件のもとに算出される温特変動量である。
【0083】
ここで、本実施形態においては、式(4)より算出される、角度検出シャフト8が0°に位置付けられ、周囲温度が80℃である場合の温特推測値は、同一周囲温度、同一回転角度の条件のもと、式(2)より算出される定数AV2と略等しい。このため、角度検出シャフト8が0°に位置付けられた場合における周囲温度毎の温特推測値は、式(2)より算出される同一回転角度、同一周囲温度での温特近似値と略等しい。また、角度検出シャフト8が0°に位置付けられた場合における温特推測値は、
図10に示す3つの二点鎖線のうちの中央の二点鎖線で示すように、周囲温度が20℃である際の温特変動量が0mVであって、周囲温度に比例して大きくなる直線で表される。
【0084】
続いて、温特推測部421は、ステップS23において、角度検出シャフト8が、角度検出シャフト8の設計角度のうちの最大の回転角度である40°に位置付けられた際の周囲温度毎の温特推測値を算出する。当該最大の回転角度は、角度検出シャフト8の回転する範囲のうちの中心の角度である0°を基準に、最小の回転角度-40°に対して対称となる角度である。ここで、角度検出シャフト8が0°を基準に対称となる回転角度に位置付けられた際のそれぞれの回転角度毎の温特変動量について説明する。
【0085】
上述したように、磁界検出部22は、磁界発生部21が角度検出シャフト8と一体に回転することによって変化する磁界の磁束密度を検出する。また、磁界発生部21は、磁界発生部21の回転角度が0°の場合に磁界検出部22が検出する磁束密度が0となるとともに、回転角度0°を中心に一方側および他方側(すなわち、プラス側およびマイナス側)のそれぞれに回転するように設定されている。
【0086】
当該磁束密度は、角度検出シャフト8の回転角度が0°から離れるにしたがい大きくなる。そして、磁束密度が大きくなるにしたがい温特変動量が大きくなる。このため、温特変動量は、磁界検出部22が検出する磁束密度が0となる磁界発生部21の回転角度0°を基準に、磁界発生部21の回転角度のプラス側とマイナス側とで値が略対称になる。
【0087】
例えば、
図8に示すように、磁界発生部21が-40°に位置付けられた際の温特近似値が0°に位置付けられた際の温特変動量より大きい場合、磁界発生部21が40°に位置付けられた際の温特近似値は、0°に位置付けられた際の温特変動量より小さい。そして、磁界発生部21が40°に位置付けられた際の温特近似値と0°に位置付けられた際の温特近似値との差は、同一温度において磁界発生部21が-40°に位置付けられた際の温特近似値と0°に位置付けられた際の温特変動量との差に略等しい。このように、磁界発生部21が40°に位置付けられた際の温特近似値は、磁界発生部21が0°に位置付けられた際の温特近似値を基準に、磁界発生部21が-40°に位置付けられた際の温特近似値に略対称となる。
【0088】
このため、角度検出シャフト8が40°に位置付けられた際の周囲温度毎の温特推測値は、角度検出シャフト8が0°および-40°に位置付けられた際のそれぞれの周囲温度毎の温特推測値に基づいて算出することができる。具体的に、温特推測部421は、角度検出シャフト8が40°に位置付けられた際の温特推測値を、角度検出シャフト8が0°に位置付けられた際の温特推測値を基準に、角度検出シャフト8が-40°に位置付けられた際の温特推測値に対称となるように算出する。
【0089】
角度検出シャフト8が40°に位置付けられた際の温特推測値は、
図10に示す3つの二点鎖線のうちの一番下の二点鎖線で示すように、周囲温度が20℃である際に最大値の0mVであって、当該最大値を頂点とする放物線で表される。また、角度検出シャフト8が40°に位置付けられた際の温特推測値は、0°に位置付けられた際の温特推測値との差が、角度検出シャフト8が-40°に位置付けられた際の温特推測値と0°に位置付けられた際の温特推測値との差と等しい。
【0090】
続いて、温特推測部421は、ステップS24において、角度検出シャフト8が、角度検出シャフト8の設計角度のうち、-40°、0°、40°のいずれもとも異なる回転角度に位置付けられた際の周囲温度毎の温特推測値を算出する。温特推測部421は、磁界発生部21の周囲温度が所定の温度であって、角度検出シャフト8が-30°、-20°、-10°、10°、25°のいずれかに位置付けられた際におけるそれぞれの周囲温度毎の温特推測値を以下の式(5)に基づいて算出する。
【0091】
【数5】
上記式(5)における定数GVs1は、角度検出シャフト8が-40°(すなわち、ギア段の1速に対応する回転角度)に位置付けられ、周囲温度が所定の温度であるという条件のもと、式(3)に基づいて算出される温特推測値である。上記式(5)における定数GVs8は、角度検出シャフト8が40°(すなわち、ギア段の8速に対応する回転角度)に位置付けられ、周囲温度が所定の温度であるという条件のもと算出される温特推測値である。すなわち、定数GVs8は、式(4)に基づいて算出される角度検出シャフト8が0°に位置付けられた際の温特推測値を基準に、式(3)に基づいて算出される角度検出シャフト8が-40°に位置付けられた際の温特推測値の対象となる温特推測値である。
【0092】
上記式(5)における定数Ds8は、ギア段の8速に対応する角度検出シャフト8の回転角度(すなわち、40°)である。また、上記式(5)における変数Dsxは、ギア段の2速、3速、4速、6速、7速に対応する角度検出シャフト8の回転角度(すなわち、-30°、-20°、-10°、10°、25°)のうち、温特推測値を算出するギア段に対応する回転角度である。上記式(5)における定数Ds1は、ギア段の1速に対応する角度検出シャフト8の回転角度(すなわち、-40°)である。
【0093】
これにより、温特推測部421は、
図11に示すように、角度検出シャフト8が-30°、-20°、-10°、10°、25°のそれぞれに位置付けられた際における周囲温度毎の温特推測値を算出することができる。
図11に示す8つの二点鎖線は、角度検出シャフト8がギア段の1速~8速のそれぞれに対応する回転角度に位置付けられた際の周囲温度毎の温特推測値を示す線が上から下に向かって1速から8速の順に並んでいる。
【0094】
このように、温特推測部421は、角度検出シャフト8がギア段の1速から8速のそれぞれに対応する角度に位置付けられた際における周囲温度毎の温特推測値を算出可能に構成されている。そして、温特推測部421は、ステップS25において、角度検出シャフト8がギア段の1速から8速のそれぞれに対応する角度に位置付けられた際の周囲温度毎の温特推測値に基づいて、角度検出部20が検出する角度情報を補正するための補正マップを作成する。補正マップは、
図12に示すように、角度検出シャフト8のそれぞれの設計角度における周囲温度と温特推測値との相関関係を示すものであって、
図11に示すグラフを3次元で表したものである。記憶部41は、温特推測部421が作成した補正マップの情報を記憶する。
【0095】
続いて、演算処理部422が補正検出値を生成するために、角度検出シャフト8のそれぞれの設計角度に対応する電圧値を補正する方法について説明する。演算処理部422は、記憶部41に補正マップの情報が記憶されると、記憶部41に記憶される補正マップの情報に基づいて、角度検出シャフト8のそれぞれの設計角度に対応する補正後の電圧値を算出する。当該それぞれの設計角度に対応する補正後の電圧値は、補正検出値を生成する際に用いられるものである。
【0096】
演算処理部422は、それぞれの設計角度に対応する補正後の電圧値を、予め定められるそれぞれの設計角度に対応する電圧値からそれぞれの設計角度毎に算出されるオフセット電圧値を増加または減少して算出する。それぞれの設計角度毎のオフセット電圧値とは、補正マップが有する情報であって、式(5)において、角度検出シャフト8が設計角度に位置付けられ、周囲温度が基準温度20℃であるという条件のもとに設計角度毎に算出される温特推測値である。記憶部41は、演算処理部422が算出したそれぞれの設計角度毎のオフセット電圧値の情報を記憶する。以上説明したステップS10およびステップS20で示した処理は、自動変速機1が車両に取り付けられる前に予め行われるものである。
【0097】
続いて、自動変速機1の作動および取付後の角度検出装置10の作動について説明する。ECU2は、運転手のシフトレバーの操作によってシフトレバーからギア段の情報が入力されると、入力されたギア段に対応する信号をアクチュエータ3および角度検出装置10に送信する。アクチュエータ3は、ECU2から送信される情報に基づいて、レンジ切替シャフト4を送信されたギア段に対応する目標回転角度となるように回転させる。歯車機構6は、レンジ切替シャフト4が目標回転角度に回転することによって、複数の歯車の噛み合わせが指定されたギア段に切り替えられる。また、アクチュエータ3は、レンジ切替シャフト4および減速機7を介して角度検出シャフト8を設定されたギア段に対応する設計角度に回転させる。
【0098】
角度検出装置10は、角度検出部20が角度検出シャフト8の回転角度を検出し、検出した角度情報を検出値出力部40に出力する。また、角度検出装置10は、温度検出部30が磁界発生部21の周囲温度を検出し、検出した温度情報を検出値出力部40に出力する。
【0099】
検出値出力部40は、角度検出部20から角度情報として電圧値を受信後、演算処理部422がECU2から送信されるシフト情報と、記憶部41に記憶された補正マップの情報および補正後の電圧値の情報に基づいて、角度情報を補正して補正検出値を生成する。具体的に、演算処理部422は、補正検出値を以下の式(6)から算出する。
【0100】
【数6】
上記式(6)における定数Vsは、ECU2から送信されるシフト情報に対応する角度検出シャフト8のそれぞれの設計角度に対応する補正後の電圧値である。また、上記式(6)における変数GVsxは、ECU2から送信されるシフト情報と、角度検出部20から送信される角度情報と、温度検出部30から送信される温度情報と、補正マップとに基づいて算出される温特推測値である。具体的に、変数GVsxは、検出値出力部40が角度検出部20から角度情報を受信する際において、角度情報および温度情報に基づいて補正マップから算出される温特推測値である。検出値出力部40は、演算処理部422が生成した補正検出値をコネクタ50を介してECU2に出力する。
【0101】
ECU2は、角度検出装置10から送信される検出値に基づいて、アクチュエータ3をフィードバック制御する。具体的に、ECU2は、アクチュエータ3に送信したギア段に対応する信号である角度情報と角度検出装置10から送信される補正検出値との間に差異がある場合、当該差異が小さくなるように、アクチュエータ3を作動させる。
【0102】
以上、説明した角度検出装置10によれば、角度検出部20から送信される回転情報に周囲温度の変化に起因する誤差が含まれていても、温度情報と温特推測値とに基づいて、角度検出部20が検出する角度情報を補正することができる。このため、角度検出装置10におけるレンジ切替シャフト4の回転角度の検出精度を向上させることができる。
【0103】
また、例えば、角度検出シャフト8を-40°に位置付けし、周囲温度を複数の計測温度に変化させた際の温特変動量に基づいて、角度検出シャフト8を-40°に位置付けし、周囲温度が計測温度と異なる温度に変化した際の温特推測値を算出することができる。このため、角度検出装置10は、角度検出シャフト8を-40°に位置付けし、周囲温度を使用範囲内のそれぞれの温度毎に温特変動量を算出して周囲温度毎に角度情報を補正する場合に比較して、容易に角度情報を補正することができる。
【0104】
また、取付前の角度検出装置10において算出される温特近似値に基づいて、取付後の角度検出装置10における温特推測値を算出し、当該温特推測値に基づいて取付後の角度検出装置10が検出する角度情報を補正することができる。このため、角度検出装置10を自動変速機1に取り付けた状態でレンジ切替シャフト4を目標回転角度毎に位置付けし、それぞれの温特変動量を算出する方法に比較して、容易に温特変動量を算出することができる。
【0105】
さらに、取付後の角度検出装置10における温特推測値を算出するために必要な取付後実測値を得るための所定の周囲温度の数量は、取付前実測値を得るための計測温度の数量
より少ない数で設定されている。このため、作業者が自動変速機1を実際に作動させることによってレンジ切替シャフト4を回転させて温特変動量を算出する場合であっても、作業者の工数を抑制することができる。
【0106】
また、角度検出シャフト8が-40°および0℃に位置付けられた状態で算出される温特変動量を用いて、角度検出シャフト8が-40°および0℃と異なる設計角度に位置付けられた状態における温特推測値を算出することができる。これにより、予め温特変動量が算出される設計角度と異なる設計角度に角度検出シャフト8が位置付けられた場合であっても、角度情報を補正することができる。このため、角度検出装置10は、予め角度検出シャフト8を全ての設計角度のそれぞれに位置付けしてそれぞれの設計角度毎に温特推測値を算出する場合に比較して、設計角度に位置付けられた際のそれぞれの角度情報を容易に補正することができる。
【0107】
また、磁界発生部21は、角度検出シャフト8の回転する範囲における中心の角度0°に角度検出シャフト8が位置付けられた際に、角度検出部20が検出する磁界の磁束密度が0となるように設定されている。このため、角度検出部20が検出する磁界の磁束密度が0となる角度検出シャフト8の回転位置が、角度検出シャフト8の回転する範囲における中心の角度0°と異なる角度に設定されている場合に比較して、温特変動量を抑制することができる。
【0108】
(他の実施形態)
以上、本開示の代表的な実施形態について説明したが、本開示は、上述の実施形態に限定されることなく、例えば、以下のように種々変形可能である。
【0109】
上述の実施形態では、角度検出装置10が温特推測部421を備え、温特推測部421が算出する温特変動量の推測値に基づいて、演算処理部422が補正検出値を生成する例について説明したが、これに限定されない。例えば、角度検出装置10は、温特推測部421を備えておらず、使用温度の範囲内のそれぞれの周囲温度毎に予め算出される温特変動量の実測値に基づいて演算処理部422が補正検出値を生成する構成であってもよい。
【0110】
上述の実施形態では、温特推測部421が、取付前の角度検出装置10のレンジ切替シャフト4が目標回転角度に位置付けられた際の周囲温度毎の温特近似値に基づいて取付後の角度検出装置10の温特推測値を推測する例について説明したが、これに限定されない。例えば、温特推測部421は、取付前の角度検出装置10のレンジ切替シャフト4が目標回転角度に位置付けられた際に算出される周囲温度毎の温特変動量に基づいて、取付後の角度検出装置10の周囲温度毎の温特推測値を推測してもよい。
【0111】
上述の実施形態では、温特推測部421が、角度検出シャフト8が-40°および0°に位置付けられた際のそれぞれの温特推測値に基づいて、角度検出シャフト8が40°に位置付けられた際の温特推測値を推測する例について説明したが、これに限定されない。例えば、温特推測部421は、取付前の角度検出装置10において、角度検出シャフト8が40°に位置付けられた際の温特近似値に基づいて、角度検出シャフト8が40°に位置付けられた際の温特推測値を推測してもよい。
【0112】
上述の実施形態では、温特推測部421が、取付前の角度検出装置10において、角度検出シャフト8が-40に位置付けられた際の温特変動量の近似値を近似式(1)に基づいて算出する例について説明したが、これに限定されない。温特変動量は、磁界発生部21の磁石および磁界検出部22の磁気検出素子のそれぞれの特性によって異なる。このため、温特推測部421は、磁界発生部21が-40°に位置付けられた状態で周辺温度を変化させた場合に算出される温特変動量に基づいて、近似式(1)と異なる近似式(例えば近似式(2)で示す近似式)に基づいて温特変動量の近似値を算出してもよい。
【0113】
上述の実施形態では、温特推測部421が、予め温特変動量が算出された目標回転角度毎の温特推測値に基づいて、予め温特変動量が算出された目標回転角度と異なる目標回転角度毎の温特推測値を推測する例について説明したが、これに限定されない。例えば、温特推測部421は、レンジ切替シャフト4を全ての目標回転角度のそれぞれに位置付けした際に算出される温特変動量に基づいて、目標回転角度のそれぞれにおける周囲温度毎の温特推測値を推測してもよい。
【0114】
上述の実施形態では、温特推測部421が、レンジ切替シャフト4の最小の回転角度および中心の角度にレンジ切替シャフト4を位置付けした際の温特推測値に基づいて、角度検出シャフト8をこれらの回転角度と異なる回転角度に位置付けした際の温特推測値を推測する例について説明したが、これに限定されない。例えば、温特推測部421は、レンジ切替シャフト4の回転する範囲および当該回転する範囲において設定されるそれぞれの目標回転角度の比率に応じて、目標回転角度のうちの2つの目標回転角度に位置付けした際の温特推測値に基づいて、角度検出シャフト8を当該2つの目標回転角度と異なる回転角度に位置付けした際の温特推測値を推測してもよい。
【0115】
上述の実施形態では、温特推測部421が、取付後の角度検出装置10において、周囲温度を20℃および80℃に変化させた際の温特変動量を算出し、算出した温特変動量に基づいて、補正検出値を生成する例について説明したが、これに限定されない。温特推測部421は、取付後の角度検出装置10において、周囲温度を20℃および80℃と異なる温度に変更させた際に算出される温特変動量に基づいて、補正検出値を生成してもよい。また、温特推測部421は、取付後の角度検出装置10において、周囲温度を3つ以上の温度に変更させた際に算出される温特変動量に基づいて、補正検出値を生成してもよい。
【0116】
上述の実施形態では、磁界発生部21が、角度検出シャフト8の回転する範囲における中心の角度0°に角度検出シャフト8が位置付けられた際に、角度検出部20が検出する磁界の磁束密度が0となるように設定される例について説明したが、これに限定されない。例えば、磁界発生部21は、角度検出シャフト8の回転する範囲における中心の角度から角度検出シャフト8の回転する範囲の±5%より離れている位置に位置付けられた際に、角度検出部20が検出する磁界の磁束密度が0となるように設定されていてもよい。
【0117】
上述の実施形態では、磁界発生部21が角度検出シャフト8を介してレンジ切替シャフト4に取り付けられる例について説明したが、これに限定されない。例えば、磁界発生部21は、レンジ切替シャフト4に直接取り付けられる構成であってもよい。
【0118】
上述の実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0119】
上述の実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
【0120】
上述の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。
【符号の説明】
【0121】
4 レンジ切替シャフト
20 角度検出部
21 磁界発生部
30 温度検出部
40 検出値出力部
43 演算処理部