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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/22 20060101AFI20240110BHJP
   F02D 41/20 20060101ALI20240110BHJP
   F02M 51/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
F02D41/22
F02D41/20
F02M51/00 A
F02M51/00 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020111597
(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公開番号】P2022010837
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩介
(72)【発明者】
【氏名】石川 恭雅
【審査官】西山 智宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/053317(WO,A1)
【文献】特開平11-082116(JP,A)
【文献】特表2013-540238(JP,A)
【文献】特開2011-127474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/22
F02D 41/20
F02M 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に燃料を供給する燃料噴射弁(2)を電流駆動することにより、燃料噴射を制御する噴射制御装置であって、
前記燃料噴射弁の燃料噴射量の指令値を出力する燃料噴射量指令値出力部(14)と、
前記内燃機関の空燃比の検出に基づいてA/F補正量を算出し前記燃料噴射量の指令値を補正する燃料噴射量補正部(16)と、
前記燃料噴射量指令値に応じた通電電流積算値を得るような通電時間と通電電流値との関係を示した通電電流プロファイルに基づいて前記燃料噴射弁に対する電流制御を実行する制御部(5)とを備え、
前記制御部は、前記通電電流プロファイルの積算電流と、電流検出部の検出した前記燃料噴射弁に流れる電流の積算電流との差に基づいて積算電流値を同等とするように通電時間の面積補正量(ΔTi)を算出して補正を行う電流面積補正を行い、
前記面積補正量が異常判定値(TML)以上のときに、面積補正異常を判定する面積補正異常判定部(15)を設けると共に、
前記面積補正異常判定部は、
前記A/F補正量により、前記異常判定値を変更するものであり、
前記A/F補正量が第1閾値以上のリッチ側にあるときに、前記異常判定値を所定の第1判定値とし、
前記A/F補正量が第1閾値未満のリーン側にあるときに、前記異常判定値を前記第1判定値よりも小さい値に変更する噴射制御装置。
【請求項2】
内燃機関に燃料を供給する燃料噴射弁(2)を電流駆動することにより、燃料噴射を制御する噴射制御装置であって、
前記燃料噴射弁の燃料噴射量の指令値を出力する燃料噴射量指令値出力部(14)と、
前記内燃機関の空燃比の検出に基づいてA/F補正量を算出し前記燃料噴射量の指令値を補正する燃料噴射量補正部(16)と、
前記燃料噴射量指令値に応じた通電電流積算値を得るような通電時間と通電電流値との関係を示した通電電流プロファイルに基づいて前記燃料噴射弁に対する電流制御を実行する制御部(5)とを備え、
前記制御部は、前記通電電流プロファイルの積算電流と、電流検出部の検出した前記燃料噴射弁に流れる電流の積算電流との差に基づいて積算電流値を同等とするように通電時間の面積補正量(ΔTi)を算出して補正を行う電流面積補正を行い、
前記面積補正量が異常判定値(TML)以上のときに、面積補正異常を判定する面積補正異常判定部(15)を設けると共に、
前記面積補正異常判定部は、
前記A/F補正量により、前記異常判定値を変更するものであり、
前記A/F補正量が第1閾値未満のリーン側にあるときに、前記異常判定値を、前記A/F補正量の低下に応じて段階的に低下させ、
前記A/F補正量が前記第1閾値よりも小さい第2閾値未満のときに、前記異常判定値を、所定の最低判定値とするように変更する噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁を電流駆動することにより、内燃機関に対する燃料噴射を制御する噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
噴射制御装置は、インジェクタと称される燃料噴射弁を開弁・閉弁することで燃料を内燃機関例えば自動車エンジンに噴射するために用いられる(例えば、特許文献1参照)。噴射制御装置は、電気的に駆動可能な燃料噴射弁に電流を通電することで開弁制御する。近年では、PN規制強化に伴い微小噴射即ちパーシャルリフト噴射を多用するようになり、燃費向上や有害物質排出量減少のために高い噴射精度が要求される。そこで、指令噴射量に応じた通電電流プロファイルが定められ、噴射制御装置は、その通電電流プロファイルに基づいて燃料噴射弁に電流を供給するという開弁制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-33343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料噴射弁の制御においては、燃料噴射弁の通電電流の勾配が、周辺温度環境、経年劣化等の様々な要因を理由として通電電流プロファイルよりも低下し、実噴射量が指令噴射量から低下する虞がある。本出願人は、燃料噴射量が通電電流の積算値に応じて得られることから、燃料噴射弁の駆動時の電流をモニタして通電電流の傾きを検出し、傾きに応じて通電時間を延ばすように補正する電流面積補正を行う技術を開発し、先に出願している(特願2019-41574号)。尚、上記指令噴射量は、内燃機関の負荷などに応じて演算され、その際に、排気からA/Fセンサ等により実空燃比を検出し、目標空燃比と比較してフィードバック制御により指令噴射量の補正が行われる。
【0005】
ところで、燃料噴射弁の通電制御において電流面積補正を行う場合、面積補正量即ち通電時間が異常に大きくなることを防止するためには、面積補正量に異常判定値としての上限値を設けることが望ましい。このとき、面積補正量が上限値に至ると、面積補正異常と判定されて電流面積補正が停止される。ところが、上限値まで補正を行った場合に、過剰補正となり、燃料の噴射し過ぎとなるケースが考えられる。その際には、A/Fセンサが検出した空燃比がリッチとなり、その空燃比に基づくA/F補正量が、リーン側に大きく振れてしまう不具合が生ずる。更に、異常判定に基づいて電流面積補正が停止されてしまうことによって、燃料噴射量がより一層リーンになる虞がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、燃料噴射弁の通電制御に、通電電流の積算値に基づく電流面積補正を行うものにあって、通電時間の面積補正量に基づいて電流面積補正の異常の検出を適切に行うことができる噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、噴射制御装置(1)は、内燃機関に燃料を供給する燃料噴射弁(2)を電流駆動することにより、燃料噴射を制御するものであって、前記燃料噴射弁の燃料噴射量の指令値を出力する燃料噴射量指令値出力部(14)と、前記内燃機関の空燃比の検出に基づいてA/F補正量を計算し前記燃料噴射量の指令値を補正する燃料噴射量補正部(16)と、前記燃料噴射量指令値に応じた通電電流積算値を得るような通電時間と通電電流値との関係を示した通電電流プロファイルに基づいて前記燃料噴射弁に対する電流制御を実行する制御部(5)とを備え、前記制御部は、前記通電電流プロファイルの積算電流と、電流検出部の検出した前記燃料噴射弁に流れる電流の積算電流との差に基づいて積算電流値を同等とするように通電時間の面積補正量(ΔTi)を算出して補正を行う電流面積補正を行い、前記面積補正量が異常判定値(TML)以上のときに、面積補正異常を判定する面積補正異常判定部(15)を設けると共に、前記面積補正異常判定部は、前記A/F補正量により、前記異常判定値を変更する。
【0008】
上記構成によれば、制御部は、燃料噴射弁に対する電流制御を実行するにあたり、通電電流の積算値に応じた燃料噴射量が得られることから、通電電流プロファイルの積算電流と、電流検出部の検出した燃料噴射弁に流れる電流の積算電流との差に基づいて積算電流値を同等とするように通電時間の面積補正量を算出して電流面積補正を行う。この場合、一般に、通電電流プロファイルに示される通電電流の理想的な傾きに対し、電流検出部の検出した実際の電流値との間には、傾きが小さくなる方へのずれが生ずる。そこで、上記電流面積補正を行うことにより、燃料噴射量指令値に応じた燃料噴射弁に対する通電電流積算値、ひいては適切な燃料噴射量を得ることができる。また、面積補正異常判定部を設けたことにより、面積補正量が異常判定値以上の時に、面積補正異常を判定することができる。
【0009】
このとき、仮に異常判定値を固定的に設ける場合、異常判定値を比較的小さくすると頻繁に異常判定がなされてしまい、逆に、異常判定値を比較的大きくすると、過剰補正となり、燃料を噴射し過ぎてしまう虞がある。そこで、面積補正異常判定部は、空燃比の検出に基づいて燃料噴射量の指令値を補正するためのA/F補正量を用いて、異常判定値を変更する。これにより、A/F補正量と、電流面積補正の面積補正量との双方に基づいて、面積補正異常の判定を行うことができる。
【0010】
従って、例えば、A/F補正量がリーン側であるにもかかわらず、電流面積補正の面積補正量が大きくなってしまうような場合に、過剰補正が行われて燃料を噴射し過ぎてしまう前に、速やかに面積補正異常を判定することが可能となる。この結果、燃料噴射弁の通電制御に、通電電流の積算値に基づく電流面積補正を行うものにあって、通電時間の面積補正量に基づいて電流面積補正の異常の検出を適切に行うことができるという優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態を示すもので、噴射制御装置の電気的構成を示すブロック図
図2】電流面積補正制御を説明するための燃料噴射弁の通電時間と通電電流との関係を示す図
図3】A/F補正量に対する異常判定値の関係を示す図
図4】実施例におけるA/F補正量と面積補正異常判定の様子を示す図
図5】比較例におけるA/F補正量と面積補正異常判定の様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、内燃機関としての自動車のガソリンエンジンの直噴制御に適用した一実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態に係る噴射制御装置としての電子制御装置1は、ECU(Electronic Control Unit)と称され、図1に示すように、エンジンの各気筒に設けられた燃料噴射弁2の燃料噴射を制御する。燃料噴射弁2は、インジェクタとも称され、ソレノイドコイル2aに通電してニードル弁を駆動することにより、エンジンの各気筒内に燃料を直接噴射する。尚、図1では4気筒のエンジンを例としているが、3気筒、6気筒、8気筒等でも適用できる。また、ディーゼルエンジン用の噴射制御装置に適用しても良い。
【0013】
図1に示すように、前記電子制御装置1は、昇圧回路3、マイクロコンピュータ4(以下、マイコン4と略す)、制御IC5、駆動回路6、及び電流検出部7としての電気的構成を備える。このマイコン4は、1又は複数のコア4a、ROM、RAMなどのメモリ4b、A/D変換器などの周辺回路4cを備えて構成される。また、マイコン4には、エンジンの運転状態などを検出するための各種センサ8からのセンサ信号Sが入力される。後述するように、マイコン4は、メモリ4bに記憶されたプログラム、及び、各種センサ8から取得されるセンサ信号S等に基づいて、燃料噴射量の指令値を求める。
【0014】
このとき、前記各種センサ8としては、エンジンの排気経路に設けられ、排気の空燃比を検出するためのA/Fセンサ9を含んでいる。図示は省略するが、各種センサ8には、それ以外にも、エンジンの冷却水の温度を検出する水温センサ、エンジンのクランク角を検出するクランク角センサ、エンジンの吸入空気量を検出するエアフロメータ、エンジンに噴射する際の燃料圧力を検出する燃圧センサ、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ等を含んでいる。図1では、センサ8を簡略化して示している。
【0015】
前記マイコン4のコア4aは、燃料噴射量指令値出力部14、面積補正異常判定部15、燃料噴射量補正部16としての機能を実現する。そのうち燃料噴射量指令値出力部14は、前記各種センサ8のセンサ信号Sからエンジンの負荷を把握し、そのエンジン負荷に基づいて、燃料噴射弁2の要求される燃料噴射量を算出し、前記制御IC5に対し、燃料噴射量指令値TQとして噴射開始指示時刻t0と共に出力する。前記面積補正異常判定部15の詳細については後述する。
【0016】
このとき、後の作用説明でも述べるように、前記燃料噴射量補正部16は、前記A/Fセンサ9の検出した空燃比に基づいて、目標空燃比となるようにA/F補正量CVを算出し、燃料噴射量指令値TQが補正される。これにて、燃料噴射量指令値TQに関する空燃比フィードバック制御が実行される。更に、詳しい説明は省略するが、マイコン4においては、A/F補正の履歴に基づいてA/F学習が行われ、前記A/F補正量CVの計算に、学習補正値が加味されるようになっている。
【0017】
前記制御IC5は、例えばASICによる集積回路装置であり、図示はしないが、例えばロジック回路、CPUなどによる制御主体と、RAM、ROM、EEPROMなどの記憶部、コンパレータを用いた比較器などを備えている。この制御IC5は、そのハードウェア及びソフトウェア構成により、前記駆動回路6を介して前記燃料噴射弁2の電流制御等を実行する。このとき、以下に述べるように、制御IC5は、昇圧制御部10、通電制御部11、電流モニタ部12、面積補正量算出部13としての機能を備える。
【0018】
前記昇圧回路3は、詳しい図示は省略するが、バッテリ電圧VBが入力され、そのバッテリ電圧VBを昇圧して、充電部としての昇圧コンデンサ3aに昇圧電圧Vboostを充電させるように構成されている。このとき、前記昇圧制御部10は、この昇圧回路3の動作を制御し、入力されたバッテリ電圧VBを昇圧制御し、昇圧コンデンサ3aの昇圧電圧Vboostを満充電電圧まで充電させる。この昇圧電圧Vboostは、前記燃料噴射弁2の駆動用の電力として駆動回路6に供給される。
【0019】
前記駆動回路6には、前記バッテリ電圧VB及び昇圧電圧Vboostが入力される。図示は省略するが、この駆動回路6は、前記各気筒の燃料噴射弁2のソレノイドコイル2aに対し昇圧電圧Vboostを印加するためのトランジスタやバッテリ電圧VBを印加するためのトランジスタ、通電する気筒を選択する気筒選択用のトランジスタ等を備えている。このとき、駆動回路6の各トランジスタは、前記通電制御部11によりオン、オフ制御される。これにより、駆動回路6は通電制御部11の通電制御に基づいて、ソレノイドコイル2aに電圧を印加して燃料噴射弁2を駆動する。
【0020】
前記電流検出部7は、図示しない電流検出抵抗等から構成され、前記ソレノイドコイル2aに流れる電流を検出する。前記制御IC5の電流モニタ部12は、例えば図示しないコンパレータによる比較部やA/D変換器等を用いて構成され、各気筒の燃料噴射弁2のソレノイドコイル2aに実際に流れる通電電流値EIについて、電流検出部7を通じてモニタする。
【0021】
前記制御IC5には、燃料噴射量指令値TQに応じた燃料噴射弁2の通電電流積算値を得るような通電時間Tiと通電電流値との理想的な関係を示した通電電流プロファイルPIが記憶されている。制御IC5の通電制御部11は、通電電流プロファイルPIに基づいて駆動回路6を介して燃料噴射弁2に対する電流制御を実行する。このとき、燃料噴射弁2の制御においては、燃料噴射弁2の通電電流の勾配が、周辺温度環境、経年劣化等の様々な要因を理由として通電電流プロファイルPIよりも低下し、実噴射量が指令噴射量よりも低くなる事情がある。一方、燃料噴射弁2を通電制御するにあたり、通電電流の積算値に応じたつまり比例した燃料噴射量が得られる。
【0022】
そこで、通電制御部11は、通電電流プロファイルPIの積算電流と、電流検出部7の検出した燃料噴射弁2に実際に流れる通電電流値EIの積算電流との差に基づいて、電流値を同等とするように通電時間の面積補正量ΔTiを算出して補正を行う電流面積補正を実行するように構成されている。ここで、燃料噴射弁2のパーシャルリフト噴射を行う場合の、制御IC5の通電制御部11が実行する電流面積補正制御について、図2を参照しながら簡単に述べる。
【0023】
即ち、通電電流プロファイルPIに基づいた制御では、オンタイミングt0から通電を開始すると、通電電流がやや曲線を描きながら次第に上昇し、通電時間Tiの通電により、時刻taにおいてピーク電流Ipkに達し、燃料噴射量指令値TQの燃料噴射量が得られる。しかし、燃料噴射弁2の実際の通電電流値EIは、それより緩やかな傾きで曲線を描きながら上昇し、時刻taにおいてピーク電流Ipkよりも低い電流値となる。そのため、燃料噴射量は、通電電流プロファイルPIと通電電流値EIとの積算電流値の差、言い替えれば、図2の時刻t0から時刻taまでの、通電電流プロファイルPIの曲線と、通電電流値EIの曲線との間のグラフの面積即ち面積差A1に該当する分だけ不足する。
【0024】
電流面積補正制御においては、前記面積補正量算出部13により、通電時間の面積補正量ΔTiが算出される。この面積補正量ΔTiは、通電電流プロファイルPIと通電電流値EIとの積算電流値を同等とするように、即ち、図2の面積差A1と、面積A2とが同等となるように求められる。そして、算出された面積補正量ΔTiによって、通電制御部11は通電時間の補正即ち延長を行い、上記した燃料噴射量の不足分が補われる。
【0025】
面積補正量ΔTiを算出する手法としては、例えば、通電電流プロファイルPI及び実際の通電電流値EIの夫々において、第1の電流閾値I1に達する時間t1n及び時間t1を求めると共に、第2の電流閾値I2に達する時間t2n及び時間t2を求める。そして、それらから面積差A1を推定し、その面積差A1と同等の面積A2を得るような面積補正量ΔTiを算出するといった方法を用いることができる。このような電流面積補正制御の実行により、燃料噴射量指令値TQに応じた燃料噴射弁2の適切な燃料噴射量を得ることができる。尚、図1に示すように、前記マイコン4には、前記面積補正量算出部13から面積補正量ΔTiが入力される。
【0026】
さて、上記したように、前記マイコン4は、面積補正量ΔTiが異常判定値TML以上のときに、面積補正異常を判定する面積補正異常判定部15の機能を備えている。また、面積補正異常判定部15により面積補正異常が判定されたときには、マイコン4から制御IC5に対し電流面積補正停止指令が出力され、電流面積補正が停止されるようになっている。このとき本実施形態では、面積補正異常判定部15は、前記燃料噴射量補正部16が算出したA/F補正量CVに基づいて、前記異常判定値TMLを変更するように構成されている。
【0027】
図3は、本実施形態における、A/F補正量CVと、異常判定値TMLとの関係の具体例を示している。図3に示すように、A/F補正量CVは、目標空燃比であるストイキ値例えば14.7に等しい場合に1倍とされ、その際の値を第1閾値としている。A/F補正量CVが第1閾値以上のリッチ側にある場合には、異常判定値TMLは、所定の第1判定値である例えば90μsとされる。また、A/F補正量CVが第1閾値未満のリーン側にあるときには、異常判定値TMLが、前記第1判定値よりも小さい値に変更される。
【0028】
さらにこのとき、A/F補正量CVが第1閾値未満のリーン側にあるときに、A/F補正量CVが第1閾値よりも小さい第2閾値例えば0.6倍未満のときに、異常判定値TMLは、所定の最低判定値例えば50μsとされる。A/F補正量CVが第1閾値第2閾値との間は、異常判定値TMLが、A/F補正量CVの低下に応じて段階的に低下される。具体的には、異常判定値TMLは、上記第1判定値即ち90μsから、最低判定値例えば50μsまで、リニアに減少するように変更される。この具体例では、例えばA/F補正量CVが0.8倍の場合には、異常判定値TMLは、70μsとされる。
【0029】
次に、上記のように構成された電子制御装置1における作用、効果について、図4図5も参照して述べる。上記構成の電子制御装置1によれば、マイコン4及び制御IC5が燃料噴射弁2に対する電流制御を実行するにあたり、燃料噴射弁2の通電電流の積算値に応じた燃料噴射量が得られることを利用して、電流面積補正制御を行う構成とした。この電流面積補正制御においては、図2に示すように、通電電流プロファイルPIの積算電流と、電流検出部の検出した燃料噴射弁2に流れる通電電流値EIの積算電流との差に基づいて積算電流値を同等とするように通電時間の面積補正量ΔTiを算出して電流面積補正を行う。
【0030】
この場合、一般に、通電電流プロファイルPIに示される通電電流の理想的な傾きに対し、電流検出部7の検出した実際の電流値EIとの間には、傾きが小さくなる方へのずれが生ずる。そこで、そのような電流面積補正を行うことにより、燃料噴射量指令値TQに応じた燃料噴射弁2に対する実際の通電電流積算値つまり燃料噴射量の不足分を補うことができ、適切な燃料噴射量を得ることができる。このとき、本実施形態では、面積補正異常判定部15を設けたことにより、面積補正量ΔTiが異常判定値TML以上の時に、面積補正異常を判定することができる。面積補正異常が判定された場合には、電流面積補正が停止される。
【0031】
ここで、本実施形態では、マイコン4において、燃料噴射量指令値TQに関して、A/Fセンサ9の検出した空燃比に基づいて、目標空燃比となるようにA/F補正量CVを算出し、燃料噴射量指令値TQを補正する空燃比フィードバック制御が実行される。この場合、図4図5に一部示すように、A/Fセンサ9の検出した空燃比がリッチの場合には、A/F補正量CVがリーンとされ、燃料噴射量指令値TQが小さくなる方向に補正される。これにより、目標空燃比となるように燃料噴射量指令値TQのフィードバック制御がおこなわれる。
【0032】
ところが、上記のように面積補正量ΔTiの面積補正異常の判定を行う場合、仮に、上記した面積補正制御における異常判定値TMLを固定した値とすると、異常判定値TMLを比較的小さい場合には、頻繁に異常判定がなされてしまい、逆に、異常判定値TMLを比較的大きくすると、過剰補正が起きやすくなり、燃料を噴射し過ぎてしまう虞がある。そして、仮に異常判定値TMLを固定的に設けた場合には、空燃比による燃料噴射量指令値TQの補正との関係からも、必ずしも適切な制御が行われなくなる虞がある。
【0033】
即ち、図5は、仮に異常判定値TMLを、例えば第1判定値である90μsに固定した場合の、A/F補正量CVの変動の様子を、比較例として示している。この比較例においては、燃料噴射時(1)′において、A/Fセンサ9の検出した空燃比がリッチであってA/F補正量CVがリーンとされる。その状態で、その後の燃料噴射時(2)′において、何らかの異常が発生して面積補正量ΔTiが大きくなった場合には、燃料の噴射し過ぎとなり、A/F補正量CVが、リーン側に大きく振れたままの状態が継続されてしまう不具合が生ずる。更に、次の燃料噴射時(3)′において、異常判定に基づいて電流面積補正が停止されてしまうことによって、燃料噴射量がより一層リーンになる虞がある。
【0034】
これに対し、図4は、本実施形態における、異常判定値TMLを変更する場合のA/F補正量CVの変動の様子を示している。本実施形態においては、燃料噴射時(1)において、A/F補正量CVがリーンとされた状態では、異常判定値TMLが第1判定値からより小さくなるように変更されている。そのため、次回の燃料噴射時(2)において、何らかの異常が発生して面積補正量ΔTiが比較的大きくなったとしても、速やかに異常判定がなされて、過剰に噴射することが防止される。これにより、次の燃料噴射時(3)において、電流面積補正が停止されると共に、A/F補正量CVが、リーンのまま継続されてしまうことが抑えられる。
【0035】
このように、本実施形態では、A/Fセンサ9による空燃比の検出に基づいてA/F補正量CVを算出し、燃料噴射量指令値TQを補正する燃料噴射量補正部16を設け、面積補正異常判定部15を、そのA/F補正量CVを用いて、面積補正量ΔTiの異常判定値CVを変更するように構成した。これにより、いわばA/F補正量CVと電流面積補正の面積補正量ΔTiとの双方に基づいて、面積補正異常の判定を行うことができる。従って、本実施形態によれば、燃料噴射弁2の通電制御に、通電電流の積算値に基づく電流面積補正を行うものにあって、通電時間の面積補正量に基づいて電流面積補正の異常の検出を適切に行うことができるという優れた効果を得ることができる。
【0036】
そして、特に本実施形態では、図3に示したように、面積補正異常判定部15を、A/F補正量CVに基づいて、A/F補正量CVが第1閾値以上のリッチ側にあるときに、異常判定値TMLを所定の第1判定値し、A/F補正量CVが第1閾値未満のリーン側にあるときに、異常判定値TMLを第1判定値よりも小さい値に変更するように構成した。
【0037】
これによれば、A/F補正量CVが第1閾値以上のリッチ側にあるときには、異常判定値TMLを所定の第1判定値とすることにより、通常のタイミングで面積異常の判定を行うことができる。これに対し、A/F補正量CVが第1閾値未満のリーン側にあるときに、異常判定値TMLを第1判定値よりも小さい値に変更することにより、早めのタイミングに異常判定を行うことができ、電流面積補正を過剰に大きく行ってしまう以前に電流面積補正を停止することができる。ひいては、燃料噴射量が異常にリーン側に振れることを未然に防止することが可能となる。
【0038】
さらに、本実施形態では、図3に示したように、A/F補正量CVが第1閾値未満のリーン側にあるときに、異常判定値TMLを、A/F補正量CVの低下に応じて段階的に低下させるように構成した。これにより、異常判定値TMLの変更をより緻密に行うことができ、より効果的となる。しかも、A/F補正量CVが第1閾値よりも小さい第2閾値未満のときに、異常判定値TMLを所定の最低判定値とするように構成したので、面積異常の判定のタイミングを徒に早めることなく済ませることができる。
【0039】
尚、上記実施形態では、燃料噴射弁2に対する面積補正制御を実行するにあたり、通電電流プロファイルPI及び実際の通電電流値EIの夫々において、第1の電流閾値I1に達する時間t1n及び時間t1、第2の電流閾値I2に達する時間t2n及び時間t2を求め、それらから面積差A1を推定するといった比較的簡易な手法を採用したが、それ以外の各種方法を採用して、面積補正量ΔTiを求めるようにしても良い。また、上記実施形態では、A/F補正量CVの第1閾値から第2閾値までの間において、異常判定値TMLを、リニアに変更するように構成したが、2段階以上の段階的に変更することも可能である。
【0040】
上記したマイコン4及び制御IC5は、一体化しても良く、この場合、高速演算可能な演算処理装置を用いることが望ましい。マイコン4、制御IC5が提供する手段、機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェア及びそれを実行するコンピュータ、ソフトウェア、ハードウェア、あるいはそれらの組み合わせによって提供することができる。例えば制御装置がハードウェアである電子回路により提供される場合、1又は複数の論理回路を含むデジタル回路、または、アナログ回路により構成できる。また、例えば制御装置がソフトウェアにより各種制御を実行する場合には、記憶部にはプログラムが記憶されており、制御主体がこのプログラムを実行することで当該プログラムに対応する方法が実施される。
【0041】
その他、燃料噴射弁、昇圧回路や駆動回路、電流検出部などのハードウェア構成等についても、種々な変更が可能である。本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0042】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することにより提供された専用コンピュータにより実現されても良い。或いは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によりプロセッサを構成することにより提供された専用コンピュータにより実現されても良い。若しくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路により構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより実現されても良い。又、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていても良い。
【符号の説明】
【0043】
図面中、1は電子制御装置(噴射制御装置)、2は燃料噴射弁、2aはソレノイドコイル、3は昇圧回路、4はマイコン、5は制御IC(制御部)、6は駆動回路、7は電流検出部、9はA/Fセンサ、11は通電制御部、12は電流モニタ部、13は面積補正量算出部、14は燃料噴射量指令値出力部、15は面積補正異常判定部、16は燃料噴射量補正部を示す。
図1
図2
図3
図4
図5