(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】物体検出装置および物体検出方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20240110BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20240110BHJP
G01S 13/86 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G08G1/16 C
G01S13/931
G01S13/86
(21)【出願番号】P 2020135603
(22)【出願日】2020-08-11
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 拓磨
【審査官】貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/073292(WO,A1)
【文献】特開2009-168624(JP,A)
【文献】特開2018-81034(JP,A)
【文献】特開2017-26555(JP,A)
【文献】特開2005-138764(JP,A)
【文献】特開2005-10092(JP,A)
【文献】特開2009-59082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 1/16
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体検出装置(100)であって、
車両の周囲における対象物体の検出結果を用いて、前記対象物体の姿勢および速度を取得する取得部(F1)と、
取得された前記対象物体の姿勢に応じて、
取得された前記速度を前記対象物体の主方向に対応する主方向速度成分と、前記主方向と直交する直交方向に対応する直交方向速度成分との速度成分に分解し、分解した各前記速度
成分に対して適用するフィルタ
の平滑化レベルを設定し、フィルタ処理を実行するフィルタ処理部(F2)と、を備える物体検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物体検出装置において、
前記取得部は、前記対象物体の姿勢を取得する姿勢取得部(F11)と、前記対象物体の速度を取得する速度取得部(F12)とを備える、物体検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の物体検出装置において、
前記フィルタ処理部は
、前記主方向速度成分に対しては
平滑化レベルが弱い第1フィルタを設定し、前記直交方向速度成分に対しては前記第1フィルタより
平滑化レベルが強い第2フィルタを設定する、物体検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の物体検出装置において、
前記フィルタ処理部は、フィルタ処理が実行された前記主方向速度成分および前記直交方向速度成分を、前記物体検出装置の座標系に変換して出力する、物体検出装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の物体検出装置において、
前記フィルタ処理部は、前記対象物体が予め定められた特定対象物体である場合には、前記主方向速度成分と、前記直交方向速度成分とに対して共通のフィルタ
の平滑化レベルを設定してフィルタ処理を実行する、物体検出装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の物体検出装置において、
前記フィルタ処理部は、前記対象物体の種別に応じて異なる
、フィルタ
の平滑化レベルを設定する、物体検出装置。
【請求項7】
物体検出方法であって、
車両の周囲における対象物体の検出結果を用いて、前記対象物体の姿勢および速度を取得し、
取得された前記対象物体の姿勢に応じて、
取得された前記速度を前記対象物体の主方向に対応する主方向速度成分と、前記主方向と直交する直交方向に対応する直交方向速度成分との速度成分に分解し、分解した各前記速度
成分に対して適用するフィルタ
の平滑化レベルを設定し、フィルタ処理を実行すること、を備える物体検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は車両において用いられる物体を検出するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
運転支援の対象となる対象物体の速度を検出し、自車両の動き、例えば、ヨーレート、を用いて速度補正を行う技術が存在する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
しかしながら、一般的に検出器は個体差を有しており、また、検出環境によっては外乱に起因する検出誤差が発生する場合があり、検出精度の向上には余地がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、検出器の個体差や環境外乱の影響を抑制または排除して、対象物体の検出精度を向上させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の態様として実現することが可能である。
【0007】
第1の態様は、物体検出装置を提供する。第1の態様に係る物体検出装置は、車両の周囲における対象物体の検出結果を用いて、前記対象物体の姿勢および速度を取得する取得部と、取得された前記対象物体の姿勢に応じて、取得された前記速度を前記対象物体の主方向に対応する主方向速度成分と、前記主方向と直交する直交方向に対応する直交方向速度成分との速度成分に分解し、分解した各前記速度成分に対して適用するフィルタの平滑化レベルを設定し、フィルタ処理を実行するフィルタ処理部と、を備える。
【0008】
第1の態様に係る物体検出装置によれば、検出器の個体差や環境外乱の影響を抑制または排除して、対象物体の検出精度を向上させることができる。
【0009】
第2の態様は、物体検出方法を提供する。第2の態様に係る物体検出方法は、車両の周囲における対象物体の検出結果を用いて、前記対象物体の姿勢および速度を取得し、取得された前記対象物体の姿勢に応じて、取得された前記速度を前記対象物体の主方向に対応する主方向速度成分と、前記主方向と直交する直交方向に対応する直交方向速度成分との速度成分に分解し、分解した各前記速度成分に対して適用するフィルタの平滑化レベルを設定し、フィルタ処理を実行すること、を備える。
【0010】
第2の態様に係る物体検出方法によれば、検出器の個体差や環境外乱の影響を抑制または排除して、対象物体の検出精度を向上させることができる。なお、本開示は、物体検出装置の制御プログラムまたは当該プログラムを記録するコンピュータ読み取り可能記録媒体としても実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係る物体検出装置が搭載された車両の一例を示す説明図。
【
図2】第1の実施形態に係る物体検出装置の機能的構成を示す説明図。
【
図3】第1の実施形態に係る物体検出装置の内部構成の一例を示すブロック図。
【
図4】第1の実施形態に係る物体検出装置によって実行される物体検出の処理フローを示すフローチャート。
【
図5】物体検出装置が搭載されている車両に対する、対象物体としての他車両の姿勢の一例を示す説明図。
【
図6】取得した対象物体の速度を主方向速度成分および直交方向速度成分とに分解して示す説明図。
【
図7】第2の実施形態に係る物体検出装置によって実行される物体検出の処理フローを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示に係る物体検出装置および物体検出方法について、いくつかの実施形態に基づいて以下説明する。
【0013】
第1の実施形態:
図1に示すように、第1の実施形態に係る物体検出装置100は、車両50に搭載して用いられる。なお、物体検出装置100は、車両50の他、二輪車両や他の移動体に搭載して用いられても良い。第1の実施形態に係る物体検出装置100は、カメラ20、ミリ波レーダ21およびライダー(Lidar:Light Detection and Ranging)22と共に物体検出システム10を形成する。カメラ20は、CCD等の撮像素子または撮像素子アレイを備える撮像装置であり、可視光を受光することによって対象物の外形情報または形状情報を検出結果である画像データとして出力する検出器である。カメラ20は、車両50の前後ウィンドウや車両50の側面ボディに配置され得る。ミリ波レーダ21はミリ波を射出し、物標によって反射された反射波を受信することによって、物体検出装置100、すなわち、車両50に対する物標の距離、角度および速度を検出するための検出器である。物標によって反射された反射波は、物標に対応する検出点群として検出される。ミリ波レーダ21は、車両50の前後バンパ、前後グリル、前後ウィンドウに配置され得る。ライダー22は赤外レーザ光を射出し、物標によって反射された反射光を受信することによって、物体検出装置100、すなわち、車両50に対する物標の距離、角度および速度を検出するための検出器である。物標によって反射された反射光は、物標に対応する検出点群として検出される。ライダー22は、車両50の屋根、前後バンパ、前後グリル、前後ウィンドウに配置され得る。カメラ20、ミリ波レーダ21およびライダー22は、車両50の周囲の環境情報を検出するための検出器と総称され得る。なお、検出器の配置位置は例示であり、検出器20、21、22は、車両50における他の種々の位置に配置され得る。
【0014】
車両50はさらに、車両50の姿勢、より具体的には、車両50の左右旋回時における角速度であるヨーレートを検出するためのヨーレートセンサ25を備えている。加えて、車両50は、検出器20、21、22から入力される車両50の周囲の対象物体に関する情報を用いて、制動支援、操舵支援、駆動支援といった運転支援を実行する運転支援制御装置を制御するための車両制御装置30を備えている。
【0015】
第1の実施形態に係る物体検出装置100は、機能的構成として
図2に示す構成を備えている。物体検出装置100は、取得部F1、フィルタ処理部F2を備えている。取得部F1は、検出器20、21、22から入力される対象物体の検出結果を用いて対象物体の姿勢および速度を取得する。対象物体の姿勢は、物体検出装置100に対する対象物体の位置および向きであり、特には、対象物体が主に進行する方向、一般的には長手方向である主方向の方位を意味する。より具体的には、取得部F1は、対象物体の姿勢を取得する姿勢取得部F11と対象物体の速度を取得する速度取得部F12とを備えていても良い。すなわち、対象物体の姿勢と速度は同時に取得されても良く、別々に取得されても良い。フィルタ処理部F2は、取得された対象物体の姿勢に応じて、取得された速度に対して適用すべき特性を有するフィルタを設定し、フィルタ処理を実行する。フィルタ処理部F2によってフィルタ処理された処理済み速度は、例えば、車両制御装置30に対して出力される。
【0016】
図3に示すように、物体検出装置100は、中央処理装置(CPU)101、記憶部としてのメモリ102、取得部としての入出力インタフェース103および図示しないクロック発生器を備えている。CPU101、メモリ102、入出力インタフェース103およびクロック発生器は内部バス104を介して双方向に通信可能に接続されている。メモリ102は、対象物体の姿勢に応じて対象物体の速度に対して適用するフィルタを設定し、対象物体を検出するための物体検出プログラムPr1を不揮発的且つ読み出し専用に格納するメモリ、例えばROMと、CPU101による読み書きが可能なメモリ、例えばRAMとを含んでいる。メモリ102の不揮発的且つ読み出し専用領域は、少なくとも、平滑化のレベルが高い/強いフィルタ、平滑化のレベルが低い/弱いフィルタを格納するフィルタ記憶領域102aを含んでいる。フィルタ記憶領域102aにはさらに、対象物体に応じた更に異なる複数の種類のフィルタが格納されていても良い。CPU101、すなわち、物体検出装置100は、メモリ102に格納されている物体検出プログラムPr1を読み書き可能なメモリに展開して実行することによって、取得部F1、姿勢取得部F11および速度取得部F12並びにフィルタ処理部F2として機能する。なお、CPU101は、単体のCPUであっても良く、各プログラムを実行する複数のCPUであっても良く、あるいは、複数のプログラムを同時実行可能なマルチタスクタイプあるいはマルチスレッドタイプのCPUであっても良い。なお、メモリ102には、例えば、物体検出の結果を用いて運転支援処理や自立運転処理を実行する運転支援処理プラグラムが格納されていても良い。
【0017】
入出力インタフェース103には、物体を検出する検出器としての、カメラ20、ミリ波レーダ21およびライダー22、ヨーレートセンサ25および車両制御装置30がそれぞれ制御信号線を介して接続されている。入出力インタフェース103からカメラ20に対しては、物体検出のための撮像処理を指示する撮像制御信号が送信され、カメラ20から入出力インタフェース103に対しては、検出結果としての撮像画像を示す撮像信号が送信される。入出力インタフェース103からミリ波レーダ21に対しては、物体検出のための検出波の出射および入射波の受信を指示する検出制御信号が送信され、ミリ波レーダ21から入出力インタフェース103に対しては、検出結果としての距離信号および角度信号、あるいは、ローデータとしての入射波強度信号が送信される。入出力インタフェース103からライダー22に対しては、物体検出のための発光・受光処理を指示する検出制御信号が送信され、ライダー22から入出力インタフェース103に対しては、検出結果としての距離信号および角度信号、あるいは、ローデータとしての入射光強度信号が送信される。入出力インタフェース103から車両制御装置30に対しては、物体の検出結果を示す物体検出信号が送信される。
【0018】
図4を参照して、本実施形態に係る物体検出装置100によって実行される物体検出処理について説明する。
図4に示す処理ルーチンは、車両50の制御システムが始動された後、または、スタートスイッチがオンされた後に、予め定められた時間間隔、例えば、数ミリ秒毎に繰り返して実行される。CPU101が物体検出プログラムPr1を実行することによって
図4に示す処理フローが実行される。なお、以下の説明では、検出器として、カメラ20およびミリ波レーダ21が用いられる場合を例にとって説明する。本実施例においては、対象物体Taとして他車両を用い、物体検出装置100が搭載されている車両50に対して、
図5に示す姿勢を有している場合を例にとって説明する。なお、対象物体Taには、他の車両の他に、自転車、自動二輪車、歩行者、動物といった衝突可能性のある移動可能な物体が含まれ得る。
【0019】
CPU101は、入出力インタフェース103を介して、カメラ20およびミリ波レーダ21によって検出された対象物体Taの検出結果を取得する(ステップS100)。検出結果は、検出器によって対象物体Taを検出した結果得られる情報であり、例えば、カメラ20の場合には、対象物体Taの形状および位置を示す撮像画像、ミリ波レーダ21の場合には、対象物体Taに対応する検出点群並びに各検出点の距離および角度の情報である。対象物体Taは、例えば、カメラ20によって得られた撮像画像に対してパターンマッチングを行うことにより認識され、ミリ波レーダ21によって取得された検出点群を用いてクラスタリング処理を実行することにより認識される。
【0020】
CPU101は、取得された検出結果を用いて、対象物体Taの姿勢並びに速度Vを取得する(ステップS102)。対象物体Taの姿勢は、パターンマッチングにより認識された対象物体Taにおける2つ以上の特徴点、例えば、2つ以上の角部、望ましくは3つ以上の角部または4つ以上の特徴点に対応する画素の座標情報を用いて、対象物体Taの長手方向に対応する主方向と主方向と直交する直交方向とを決定し、車両50の横方向に対して主方向が成す角度として取得され得る。あるいは、対象物体Taの姿勢は、検出点群のクラスタリング処理により認識された対象物体Taに対応する複数の検出点、例えば、2つ以上の角部に対応する検出点、望ましくは3つ以上の角部に対応する検出点または4つ以上の検出点の座標情報を用いて対象物体Taの長手方向に対応する主方向と主方向と直交する直交方向とを決定し、車両50の横方向に対して主方向が成す角度として取得され得る。なお、対象物体Taの主方向は、対象物体Taの移動方向、向きや方位と言うことができる。対象物体Taが歩行者である場合、長手方向を決定することは容易でないため、カメラ20によって歩行者の顔を判別し、顔が向いている方向が主方向に決定されても良い。さらに、対象物体Taの姿勢は、カメラ20およびミリ波レーダ21の検出結果を用いてフュージョン処理を行い、フュージョン処理が成功したフュージョン成立検出点を用いて実行されても良い。
【0021】
対象物体Taの速度Vは、ミリ波レーダ21により得られた速度である検出速度をそのまま用いても良く、あるいは、対象物体Taの移動履歴、すなわち、検出点の位置履歴に対して時間微分を行うことによって算出された速度である履歴速度であっても良い。また、検出速度および履歴速度の双方が用いられても良い。この場合には、例えば、両速度の単純平均値、あるいは、いずれか一方の速度に重み付けされた加重平均値が用いられ得る。ここで取得される対象物体Taの速度Vは、
図5に示すように、物体検出装置100、すなわち、車両50のローカル座標における速度であり、進行方向速度成分Vyおよび進行方向に直交する横方向速度成分Vxとを含む。CPU101は、
図6に示すように、取得した対象物体Taの姿勢、すなわち、主方向および直交方向に従い、取得した速度V、すなわち、進行方向速度成分Vyおよび進行方向に直交する横方向速度成分Vxを、対象物体Taの主方向および直交方向の速度成分である主方向速度成分Vmaと直交方向速度成分Vorとに分解する。
【0022】
CPU101は、各速度成分Vma、Vorに対して適用するフィルタを設定する(ステップS104)。フィルタとしては、ノイズ成分に相当する高周波成分を除去するためにローパスフィルタが用いられ、例えば、移動平均フィルタやバタワース型ローパスフィルタが用いられ得る。一般的に、移動する対象物体Taは、主方向への変動が大きく垂直方向への変動は少ない。すなわち、対象物体Taが車両である場合、主方向においては、制動や加速により速度が変化しやすく、特に、急制動時や急加速時における速度変化は大きい。したがって、主方向速度成分Vmaについては応答性が求められるため、フィルタレベルの低いフィルタ、すなわち、平滑化のレベルが弱いフィルタが適している。一方、直交方向においては、制動時や加速時であっても速度は変化し難く、速度変化は小さい。したがって、直交方向速度成分Vorについては応答性よりも安定性が求められるため、フィルタレベルの高いフィルタ、すなわち、平滑化のレベルが強いフィルタが適している。したがって、CPU101は、主方向速度成分Vmaに対してはフィルタレベルの低い第1フィルタを設定し、直交方向速度成分Vorに対しては第1フィルタのフィルタレベルよりも高い第2フィルタを設定する。例えば、第1フィルタのフィルタ時定数は、第2フィルタのフィルタ時定数未満である。
【0023】
CPU101は、設定された第1フィルタおよび第2フィルタを用いて速度成分別のフィルタ処理を実行する(ステップS106)。速度成分別のフィルタ処理の結果の一例を
図6に示す。
図6の例では、説明を容易にするために、第2フィルタのフィルタレベルよりも第1フィルタのフィルタレベルが十分に小さい例を示しており、第1フィルタによるフィルタ補正量は示しておらず、この結果、フィルタ処理の前後において主方向速度成分Vmaに変化はない。一方、直交方向速度成分Vorについては、第2フィルタを用いた結果得られる補正量ΔVorが破線によって示されている。
【0024】
車両50の進行方向に対する対象物体Taの主方向の回転角がθであるとき、進行方向速度成分Vyおよび横方向速度成分Vxを用いると、主方向速度成分Vma、直交方向速度成分Vorおよび補正量ΔVorは以下の式によって表される。なお、VmafおよびVorfはフィルタ処理の結果得られる主方向速度成分Vmaおよび直交方向速度成分Vorであり、処理後速度成分である。
Vma=-Vxsinθ+Vycosθ
Vmaf=Vma+ΔVma
Vor=Vxcosθ+Vysinθ
Vorf=Vor+ΔVor
但し、ΔVor>ΔVmaまたはΔVor/Vor>ΔVma/Vmaであり、本実施例においてはΔVma=0である。したがって、処理後の主方向速度成分Vmafに対する補正量は、処理後の直交方向速度成分Vorfに対する補正量よりも小さくなり、主方向速度成分Vmaと同等の時間的および強度的変化を示す。一方、処理後の直交方向速度成分Vorfは、より大きく補正されるため、直交方向速度成分Vorに対して緩やかな時間的および少ない強度的変化を示す。
【0025】
CPU101は、処理後の主方向速度成分Vmafおよび直交方向速度成分Vorfを含む処理済み信号を、例えば、車両制御装置30に対して出力して(ステップS108)、本処理ルーチンを終了する。より具体的には、CPU101は、処理済みの主方向速度成分Vmafおよび直交方向速度成分Vorfを、物体検出装置100のローカル座標系、すなわち、車両50のローカル座標系に変換して処理済みの進行方向速度成分Vyfおよび横方向速度成分Vxfを含む速度信号として出力する。具体的には、
Vxf=Vorfcosθ-Vmafsinθ
=Vx+ΔVorcosθ-ΔVmafsinθ
Vyf=Vorfsinθ+Vmafcosθ
=Vy+ΔVorsinθ+ΔVmafcosθ
但し、本実施形態においては、ΔVmafsinθ=0、ΔVmafcosθ=0であるため、Vxf=Vx+ΔVorcosθ、Vyf=Vy+ΔVorsinθ。
【0026】
以上説明した第1の実施形態に係る物体検出装置100によれば、対象物体Taの姿勢に応じて対象物体Taの速度に対して適用するフィルタが設定されるので、検出器が個体差に起因する検出誤差、あるいは、検出環境の外乱に起因する検出誤差が発生する場合であっても、対象物体Taの速度の検出精度を向上させることができる。より具体的には、第1の実施形態に係る物体検出装置100においては、第1フィルタと、第1のフィルタレベルよりも高い第2フィルタを用い、対象物体Taの主方向速度成分Vmaに対して第1のフィルタ、直交方向速度成分Vorに対して第2のフィルタが設定されるので、制動や加速により速度が変化しやすい主方向においては応答性が維持され易く、急制動時や急加速時における大きな速度変化が維持され、制動時や加速時であっても速度が変化し難い直交方向においては細かな速度変化が平滑化され安定性が維持され易い。この結果、速度変化が小さく検出器の個体差や検出誤差の影響を受けやすい直交方向速度成分の変動が抑制され、速度変化が大きく検出器の個体差や検出誤差の影響を受け難い主方向速度成分の変動が維持され、結果として、対象物体Taの速度の検出精度が向上される。
【0027】
対象物体Taの速度の検出精度が向上される結果、車両制御装置30は、入力された処理済み速度を用いて、種々の運転支援制御を実行することが可能となり、運転支援の実行精度を向上させることができる。
【0028】
第2の実施形態:
第2の実施形態に係る物体検出装置は、対象物体Taの姿勢に応じて対象物体Taの速度に対して適用するフィルタを設定するに際して、特定の対象物体については速度成分別のフィルタに代えて、同一のフィルタ、すなわち、速度成分共通フィルタを用いる点において第1の実施形態に係る物体検出装置100と異なる。したがって、以下の説明における第2の実施形態に係る物体検出装置の構成要素については、第1の実施形態において用いた符号を用いて、詳細な説明を省略する。
【0029】
第2の実施形態に係る物体検出装置100は、物体検出プログラムPr1として、特定の対象物体については速度成分別のフィルタに代えて、速度成分共通フィルタを用いるプログラムをメモリ102に格納している。第2の実施形態に係る物体検出装置100によって実行される物体検出処理について
図7を参照して説明する。
図7に示す処理ルーチンは、車両50の制御システムが始動された後、または、スタートスイッチがオンされた後に、予め定められた時間間隔、例えば、数ミリ秒毎に繰り返して実行される。CPU101が物体検出プログラムPr1を実行することによって
図7に示す処理フローが実行される。なお、以下の説明において、第1の実施形態に係る物体検出装置100によって実行される処理ステップと同等の処理ステップに対しては第1の実施形態における符号と同一の符号を用いて詳細な説明を省略する。また、検出器や速度成分別のフィルタ処理の対象となる対象物体Taの姿勢についても第1の実施形態と同等である。
【0030】
CPU101は、入出力インタフェース103を介して、カメラ20およびミリ波レーダ21によって検出された対象物体Taの検出結果を取得する(ステップS100)。CPU101は、取得された検出結果を用いて、対象物体Taの姿勢並びに速度Vを取得する(ステップS102)。CPU101は、対象物体Taが予め定められた特定の対象物体、すなわち、特定対象物体であるか否かを判定する(ステップS103)。特定対象物体は、明確な移動方位、すなわち、主方向や長手方向を有していない対象物体Taであり、例えば、歩行者である。特定対象物体の判定は、例えば、カメラ20によって取得された撮像画像を用いたパターンマッチング、顔領域といった特徴領域の判別を実行することによって実行され得る。歩行者は、明確な主方向や長手方向を有しておらず、姿勢の判別精度が低く、また、車両と比較して主方向および直交方向における速度差も小さい。したがって、速度成分別にフィルタレベルの異なるフィルタを設定する技術的意義は低く、速度成分別のフィルタ処理に伴う処理時間を削減することが望ましい。
【0031】
CPU101は、対象物体Taが特定対象物体であると判定すると(ステップS103:Yes)、速度成分共通フィルタを設定する(ステップS105)。速度成分共通フィルタは、特定対象物体の速度、すなわち、移動量が小さいことに鑑み、例えば、第1の実施形態において直交方向速度成分Vorに対して適用されるフィルタレベルの高いフィルタである。CPU101は、設定した速度成分共通フィルタを用いてフィルタ処理を実行する(ステップS107)。具体的には、主方向速度成分Vmaおよび直交方向速度成分Vorに対して共通の特性を有するフィルタが適用される。この結果、フィルタ処理の結果として得られる補正量は同程度または各速度成分に対する補正量の比は同等である。
【0032】
CPU101は、対象物体Taが特定対象物体でないと判定すると(ステップS103:No)、各速度成分Vma、Vorに対して適用するフィルタを設定し(ステップS104)、設定された第1フィルタおよび第2フィルタを用いて速度成分別のフィルタ処理を実行する(ステップS106)。
【0033】
CPU101は、処理後の主方向速度成分Vmafおよび直交方向速度成分Vorfを含む処理済み信号を、例えば、車両制御装置30に対して出力して(ステップS108)、本処理ルーチンを終了する。
【0034】
以上説明した第2の実施形態に係る物体検出装置100によれば、対象物体Taの認識レベルが低いことに起因して、各速度成分に対して不適当なフィルタレベルのフィルタを設定し、あるいは、速度変動が小さい特定対象物体に対して低いフィルタレベルのフィルタが適用され、却って、速度の検出精度が低下することを抑制または防止することができる。なお、特定対象物体の場合には、特定対象物体の速度Vを、主方向速度成分Vmaおよび直交方向速度成分Vorに分解することなく、一のフィルタが適用されても良く、この場合には、物体検出装置100のローカル座標系においてフィルタ処理が実行される。
【0035】
その他の実施形態:
(1)上記各実施形態においては、対象物体Taの姿勢に応じて対象物体Taの速度に対して適用するフィルタが設定されているが、さらに、対象物体Taの種別に応じてフィルタレベルが変更されても良い。例えば、(フィルタレベル低)車両≦自動二輪車、自転車<歩行者(フィルタレベル高)といった種別に応じてフィルタレベルが選択されても良い。歩行者は、一般的に、車両と比較して細かな位置変動が大きい一方、移動の速度は高くないので、高いフィルタレベルのフィルタを適用することによって歩行者の動きからノイズ成分を除去し、歩行者の主たる移動特性の検出精度を向上させることができる。
【0036】
(2)上記各実施形態においては、対象物体Taの姿勢に応じて、対象物体Taの分解した速度成分に対して適用するフィルタが設定されている。これに対して、対象物体Taの姿勢に応じて対象物体Taの速度に対して適用するフィルタが設定されても良い。すなわち、主方向速度成分Vmaおよび直交方向速度成分Vorに対して同じフィルタレベルのフィルタが適用されても良い。たとえば、対象物体Taの主方向が車両50の進行方向に対して成す角度が予め定められたしきい値よりも小さい場合、すなわち、対象物体Taの移動の度合いが車両50の進行方向へ支配的である場合には、フィルタレベルの低いフィルタが設定され、対象物体Taの移動の度合いが車両50の横方向へ支配的である場合には、フィルタレベルの高いフィルタが設定されても良い。対象物体Taが主に車両50の進行方向に移動している場合は、車両50との接触の可能性が高いので高い応答性が求められる一方、対象物体Taが主に車両50の横方向に移動している場合は、車両50との接触の可能性は低く誤判定を抑制するために低い応答性が望ましいからである。
【0037】
(3)上記各実施形態においては、検出器として車両50に搭載されているカメラ20、ミリ波レーダ21およびライダー22を例にとって説明したが、対象物体Taとしての他車両に搭載されている検出器が用いられても良い。この場合、車車間通信や路車間通信を介して、他車両に搭載されている検出器による検出結果を受信することが可能となり、受信した検出結果を用いて他車両の速度や姿勢といった移動特性を取得することができる。他車両に搭載されている検出器においても個体差や検出誤差が生じる可能性はあり、また、通信遅延に起因する検出誤差も発生し得る。これに対して、上記各実施形態におけるフィルタ処理が実行される場合には、個体差や検出誤差の低減または除去が可能となる。
【0038】
(4)上記各実施形態において、ヨーレートセンサ25の出力結果を用いて、自車両に向きを補正し、対象物体Taとの位置関係(姿勢)が補正されても良い。この場合には、対象物体Taの速度の検出精度をさらに向上させることができる。
【0039】
(5)上記各実施形態においては、CPU101が物体検出プログラムPr1を実行することによって、車両50の姿勢に応じて速度に対する適用するフィルタを設定し、フィルタ処理を実行する物体検出装置100が実現されているが、予めプログラムされた集積回路またはディスクリート回路によってハードウェア的に実現されても良い。すなわち、上記各実施形態における制御部およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つまたは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部およびその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部およびその手法は、一つまたは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0040】
以上、実施形態、変形例に基づき本開示について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本開示の理解を容易にするためのものであり、本開示を限定するものではない。本開示は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本開示にはその等価物が含まれる。たとえば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
10…物体検出システム、20…カメラ、21…ミリ波レーダ、22…ライダー、30…車両制御装置、100…物体検出装置、101…CPU、102…メモリ、103…入出力インタフェース、104…バス、50…車両、Pr1…物体検出プログラム、Ta…対象物体。