(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】物体認識装置、物体認識方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01B 11/00 20060101AFI20240110BHJP
G06T 7/73 20170101ALI20240110BHJP
G01B 11/26 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01B11/00 A
G06T7/73
G01B11/26 Z
(21)【出願番号】P 2020147324
(22)【出願日】2020-09-02
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100095795
【氏名又は名称】田下 明人
(74)【代理人】
【識別番号】100143454
【氏名又は名称】立石 克彦
(72)【発明者】
【氏名】桂 正士
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-189510(JP,A)
【文献】特開平05-242136(JP,A)
【文献】国際公開第2010/038774(WO,A1)
【文献】特開2003-099793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G06T 7/73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物体の三次元形状を表す点群データからなる三次元モデルデータを取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記三次元モデルデータから一対の点データを複数組選択する第1選択部と、
前記第1選択部により選択された複数組の前記一対の点データについてそれぞれ特徴量を算出する第1特徴量算出部と、
所定の計測範囲における前記対象物体の表面の形状を表す点群データからなる三次元計測データを計測する三次元センサと、
前記三次元センサにより計測された前記三次元計測データから一対の点データを複数組選択する第2選択部と、
前記第2選択部により選択された複数組の前記一対の点データについてそれぞれ特徴量を算出する第2特徴量算出部と、
前記第1特徴量算出部による算出結果と前記第2特徴量算出部による算出結果とに基づいて、前記三次元センサにより計測された前記対象物体の位置及び姿勢を認識する認識部と、
を備え、
前記三次元センサにて計測される前記点データには、当該三次元センサから前記対象物体に向かう方向をZ軸とするXYZ三次元座標データが含まれ、
前記第2選択部は、前記三次元計測データから、基準点として選択された1つの点データと、前記基準点を基準とする座標系であって当該基準点との距離が前記Z軸に関してX軸及びY軸よりも大きくなるように座標変換した所定の座標系において前記基準点との距離が最も小さくなる点データとを、前記一対の点データとして選択することを特徴とする物体認識装置。
【請求項2】
三次元センサにより計測された対象物体の位置及び姿勢を認識する物体認識方法であって、
前記対象物体の三次元形状を表す点群データからなる三次元モデルデータを取得するステップと、
前記三次元モデルデータから一対の点データを複数組選択する第1選択ステップと、
前記第1選択ステップにより選択された複数組の前記一対の点データについてそれぞれ特徴量を算出する第1特徴量算出ステップと、
前記三次元センサによって所定の計測範囲における前記対象物体の表面の形状を表す点群データからなる三次元計測データを計測するステップと、
前記三次元計測データから一対の点データを複数組選択する第2選択ステップと、
前記第2選択ステップにより選択された複数組の前記一対の点データについてそれぞれ特徴量を算出する第2特徴量算出ステップと、
前記第1特徴量算出ステップによる算出結果と前記第2特徴量算出ステップによる算出結果とに基づいて、前記三次元センサにより計測された前記対象物体の位置及び姿勢を認識するステップと、
を備え、
前記三次元センサにて計測される前記点データには、当該三次元センサから前記対象物体に向かう方向をZ軸とするXYZ三次元座標データが含まれ、
前記第2選択ステップでは、前記三次元計測データから、基準点として選択された1つの点データと、前記基準点を基準とする座標系であって当該基準点との距離が前記Z軸に関してX軸及びY軸よりも大きくなるように座標変換した所定の座標系において前記基準点との距離が最も小さくなる点データとが、前記一対の点データとして選択されることを特徴とする物体認識方法。
【請求項3】
三次元センサにより計測された対象物体の位置及び姿勢を認識する物体認識装置を制御するコンピュータにより実行されるプログラムであって、
前記対象物体の三次元形状を表す点群データからなる三次元モデルデータを取得するステップと、
前記三次元モデルデータから一対の点データを複数組選択する第1選択ステップと、
前記第1選択ステップにより選択された複数組の前記一対の点データについてそれぞれ特徴量を算出する第1特徴量算出ステップと、
前記三次元センサによって所定の計測範囲における前記対象物体の表面の形状を表す点群データからなる三次元計測データを計測するステップと、
前記三次元計測データから一対の点データを複数組選択する第2選択ステップと、
前記第2選択ステップにより選択された複数組の前記一対の点データについてそれぞれ特徴量を算出する第2特徴量算出ステップと、
前記第1特徴量算出ステップによる算出結果と前記第2特徴量算出ステップによる算出結果とに基づいて、前記三次元センサにより計測された前記対象物体の位置及び姿勢を認識するステップと、
を前記コンピュータに実行させ、
前記三次元センサにて計測される前記点データには、当該三次元センサから前記対象物体に向かう方向をZ軸とするXYZ三次元座標データが含まれ、
前記第2選択ステップでは、前記三次元計測データから、基準点として選択された1つの点データと、前記基準点を基準とする座標系であって当該基準点との距離が前記Z軸に関してX軸及びY軸よりも大きくなるように座標変換した所定の座標系において前記基準点との距離が最も小さくなる点データとが、前記一対の点データとして選択されることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物体の位置及び姿勢を認識する物体認識装置、物体認識方法及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、三次元センサにて計測した対象物体の位置及び姿勢を認識する物体認識に関する技術として、例えば、下記特許文献1に開示されるロボットシステムが知られている。このロボットシステムでは、三次元センサによって対象物体の表面形状を表すシーン点群データが取得されて、このシーン点群データから選択されたポイントペアの幾何学的関係を規定するポイントペア特徴量(PPF)が各ポイントペアについて計算されると、これらのポイントペア特徴量と予め用意されたモデル点群データから計算されたポイントペア特徴量とに基づいて、三次元シーンにおける対象物体の姿勢が認識される。これにより、箱の中に乱雑に積まれた複数の物体の中から把持すべき特定の物体の姿勢を把握でき、その物体を適切に把持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、計測対象となる物体の色や材質等によっては、対象物体からの反射光が不安定になるため、計測結果にノイズが含まれる場合がある。例えば、表面が黒色の部材や鏡面反射が生じやすい金属部材、半透明の樹脂部材などでは、対象物体からの反射光が不安定になりやすく、計測結果にノイズが含まれやすくなる。このように発生したノイズの影響により、対象物体の位置及び姿勢に関して認識誤差が生じると、ロボットによる対象物体のピッキングミス等が発生しやすくなるという問題がある。
【0005】
このため、例えば、高性能なセンサを導入すると、センサ導入コストが高くなるだけでなくセンサ自体が大型化するために、ロボットアームに搭載できない等、用途が限られてしまう場合がある。また、計測回数を増やすことで計測精度を高めることができるが、計測時間が長くなることからレスポンスが悪化するという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、対象物体の位置及び姿勢の認識に関してノイズの影響を抑制し得る構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲の請求項1に記載の発明は、
対象物体(W)の三次元形状を表す点群データからなる三次元モデルデータを取得する取得部(11,16)と、
前記取得部により取得された前記三次元モデルデータから一対の点データを複数組選択する第1選択部(11)と、
前記第1選択部により選択された複数組の前記一対の点データについてそれぞれ特徴量を算出する第1特徴量算出部(11)と、
所定の計測範囲における前記対象物体の表面の形状を表す点群データからなる三次元計測データを計測する三次元センサ(12)と、
前記三次元センサにより計測された前記三次元計測データから一対の点データを複数組選択する第2選択部(11)と、
前記第2選択部により選択された複数組の前記一対の点データについてそれぞれ特徴量を算出する第2特徴量算出部(11)と、
前記第1特徴量算出部による算出結果と前記第2特徴量算出部による算出結果とに基づいて、前記三次元センサにより計測された前記対象物体の位置及び姿勢を認識する認識部(11)と、
を備え、
前記三次元センサにて計測される前記点データには、当該三次元センサから前記対象物体に向かう方向をZ軸とするXYZ三次元座標データが含まれ、
前記第2選択部は、前記三次元計測データから、基準点として選択された1つの点データと、前記基準点を基準とする座標系であって当該基準点との距離が前記Z軸に関してX軸及びY軸よりも大きくなるように座標変換した所定の座標系において前記基準点との距離が最も小さくなる点データとを、前記一対の点データとして選択することを特徴とする。
なお、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明では、三次元モデルデータから第1選択部により選択された複数組の一対の点データについてそれぞれ特徴量を算出する第1特徴量算出部の算出結果と、三次元センサにより計測された三次元計測データから第2選択部により選択された複数組の一対の点データについてそれぞれ特徴量を算出する第2特徴量算出部の算出結果とに基づいて、三次元センサにより計測された対象物体の位置及び姿勢が認識部により認識される。三次元センサにて計測される点データには、当該三次元センサから対象物体に向かう方向をZ軸とするXYZ三次元座標データが含まれ、第2選択部では、三次元計測データから、基準点として選択された1つの点データと、基準点を基準とする座標系であって当該基準点との距離がZ軸に関してX軸及びY軸よりも大きくなるように座標変換した所定の座標系において基準点との距離が最も小さくなる点データとが、一対の点データとして選択される。
【0009】
対象物体からの反射光が不安定になるために生じるノイズは、対象物体に向かう方向で大きくなりやすい。すなわち、上述した変換の前の実座標系での点データのXYZ三次元座標データは、Z座標値がX座標値及びY座標値に対してノイズの影響を受けやすい。そうすると、最も距離が小さくなる一対の点データを複数組選択してそれぞれ特徴量を算出する場合に、Z座標値に関してノイズの影響を受けた点データが誤って選択されてしまったために、正確な特徴量が算出できなくなる。
【0010】
このため、第2選択部では、上述のように基準点との距離がZ軸に関してX軸及びY軸よりも大きくなるように座標変換した所定の座標系において基準点との距離が最も小さくなる点データが選択される。このように選択された点データは、X座標値及びY座標値を、ノイズの影響を受けやすいZ座標値よりも重視するように選択されたものとなるからである。これにより、特徴量を算出するための一対の点データに関してノイズの可能性が高い点データが選択され難くなるので、対象物体の位置及び姿勢の認識に関してノイズの影響を抑制することができる。
【0011】
請求項2の発明では、請求項1と同様の効果を奏する物体認識方法を実現できる。
請求項3の発明では、請求項1と同様の効果を奏するプログラムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る物体認識装置を概略的に例示するブロック図である。
【
図2】一対の点データからPPFによって算出される特徴量を説明する説明図である。
【
図3】物体認識装置の制御部にてなされる物体認識処理の流れを例示するフローチャートである。
【
図4】第1実施形態において仮想座標系と実座標系との関係を説明する説明図である。
【
図5】仮想座標距離の算出例を説明する説明図である。
【
図6】Z精度とX精度及びY精度との計測精度比を例示する説明図である。
【
図7】第1実施形態の第1変形例において仮想座標系と実座標系との関係を説明する説明図である。
【
図8】第1実施形態の第2変形例においてθ≧θ’となる場合の仮想座標系と実座標系との関係を説明する説明図である。
【
図9】第1実施形態の第2変形例においてθ<θ’となる場合の仮想座標系と実座標系との関係を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
以下、本第1実施形態に係る物体認識装置、物体認識方法及びプログラムについて、図面を参照して説明する。
図1に示す物体認識装置10は、三次元センサにより計測された対象物体の位置及び姿勢を認識する装置である。より具体的には、物体認識装置10は、対象物体となるワークWを把持して移動させるロボットアーム(図示略)に搭載されており、予め取得して記憶部に記憶したワークWの三次元モデルデータを利用して、ロボットアームの制御部に対して、把持すべきワークWの位置及び姿勢等に関する情報を出力するように構成されている。なお、ワークWの三次元モデルデータは、当該ワークWの三次元形状を表す点群データによって構成されるもので、各点群データにはそれぞれ三次元座標データ及び法線ベクトルが含まれている。
【0014】
物体認識装置10は、CPU等からなる制御部11や三次元センサ12、半導体メモリ等からなる記憶部13に加えて、操作部14及び表示部15やロボットアーム等の外部機器と通信するための通信部16などを備えている。
【0015】
三次元センサ12は、所定の計測範囲におけるワークWなどの対象物体からの反射光を受光することで、その対象物体の表面の三次元形状を表す点群データからなる三次元計測データを計測するように機能する。点群データを構成する多数の点データには、それぞれ、三次元センサ12から対象物体に向かう方向をZ軸とするXYZ三次元座標データ及び法線ベクトルが含まれている。
【0016】
このように構成される物体認識装置10では、当該物体認識装置10を制御するコンピュータとして機能する制御部11にて実行される所定のプログラム(以下、物体認識プログラムともいう)によって実現される物体認識処理により、ワークWの位置及び姿勢が認識される。この物体認識処理では、三次元センサ12の三次元計測データから算出される特徴量の算出結果と予め取得したワークWの三次元モデルデータから算出される特徴量の算出結果とに基づいて、三次元センサ12により計測されたワークWの位置及び姿勢が認識されて、その認識結果がロボットアームの制御部に出力される。
【0017】
より具体的には、点群データから一対の点データを複数組選択して、
図2に例示するように、距離dだけ離れた一対の点データのXYZ三次元座標データ(m1,m2)及び法線ベクトル(n1,n2)からPoint Pair Feature(PPF)と呼ばれる算出方法を用いて特徴量(F1~F4)が算出される。このように算出される特徴量は、2点間の変位ベクトルとその2点における法線ベクトルとの幾何学的関係を表す4次元量に相当するもので、全ての一対の点データごとに特徴量が計算される。このような特徴量の算出が三次元センサ12を利用して計測されたワークWの三次元計測データと予め取得したワークWの三次元モデルデータとについてそれぞれなされ、それぞれ算出された特徴量のマッチングに応じてワークWの位置及び姿勢が認識される。
【0018】
特に、本実施形態では、三次元計測データにおける特徴量の算出に関して、基準点として選択された1つの点データと、この基準点を基準とする座標系であって当該基準点との距離がZ軸に関してX軸及びY軸よりも大きくなるように座標変換した所定の座標系(以下、仮想座標系ともいう)において上記基準点との距離が最も小さくなる点データとを、一対の点データとして選択する。
【0019】
以下、このように、Z軸に関して基準点との距離が大きくなるように座標変換した仮想座標系において基準点との距離が最も小さくなる点データを選択する理由について説明する。
【0020】
計測対象となる物体の色や材質等によっては、対象物体からの反射光が不安定になるために計測結果にノイズが含まれる場合がある。例えば、その表面が黒色の部材や鏡面反射が生じやすい金属部材、半透明の樹脂部材などからなるワークWを計測対象とする場合、ワークWからの反射光が不安定になりやすく、計測結果にノイズが含まれやすくなる。このように発生したノイズの影響により、ワークWの位置及び姿勢に関して認識誤差が生じると、ロボットによるワークWのピッキングミス等が発生しやすくなるという問題がある。
【0021】
上述のように対象物体からの反射光が不安定になるために生じるノイズは、対象物体に向かう方向で大きくなりやすい。すなわち、対象物体に向かう方向をZ軸とするとき、上述した変換の前の実座標系での点データのXYZ三次元座標データは、Z座標値がX座標値及びY座標値に対してノイズの影響を受けやすい。そうすると、実座標系において最も距離が小さくなる一対の点データを複数組選択してそれぞれ特徴量を算出する場合に、Z座標値に関してノイズの影響を受けた点データが誤って選択されてしまったために、正確な特徴量が算出できなくなる場合がある。
【0022】
そこで、本実施形態において制御部11にてなされる物体認識処理では、上述のように基準点との距離がZ軸に関してX軸及びY軸よりも大きくなるように座標変換した仮想座標系において基準点との距離が最も小さくなる点データと、その基準点とを、一対の点データとして選択する。このように選択された点データは、X座標値及びY座標値を、ノイズの影響を受けやすいZ座標値よりも重視するように選択されたものとなるからである。これにより、特徴量を算出するための一対の点データに関してノイズの可能性が高い点データが選択され難くなるので、対象物体の位置及び姿勢の認識に関してノイズの影響を抑制することができる。
【0023】
以下、制御部11にてなされる物体認識処理について、
図3に示すフローチャートを参照して詳述する。
操作部14に対する所定の操作等に応じて制御部11により物体認識処理が開始されると、まず、ステップS101に示す三次元モデルデータ取得処理がなされる。この処理では、計測対象となるワークWの三次元モデルデータが、通信部16を介して外部機器等から取得されて、記憶部13に記憶される。なお、制御部11及び通信部16は、「取得部」の一例に相当し得る。
【0024】
次に、ステップS103に示す点データ選択処理がなされ、取得された三次元モデルデータから一対の点データが上述のように複数組選択される。続いて、ステップS105に示す三次元モデル特徴量算出処理がなされ、選択された全ての一対の点データごとに、上述したPPFを利用した特徴量(以下、三次元モデル特徴量ともいう)が算出される。なお、ステップS103の点データ選択処理は、「第1選択ステップ」の一例に相当し、この点データ選択処理を実行する制御部11は、「第1選択部」の一例に相当し得る。また、ステップS105の三次元モデル特徴量算出処理は、「第1特徴量算出ステップ」の一例に相当し、この三次元モデル特徴量算出処理を実行する制御部11は、「第1特徴量算出部」の一例に相当し得る。
【0025】
このように、三次元モデル特徴量が算出されると、ステップS107に示す三次元計測データ計測処理がなされ、三次元センサ12により、所定の計測範囲におけるワークWの表面の形状を表す点群データからなる三次元計測データが計測される。
【0026】
次に、ステップS109に示す点データ選択処理がなされ、計測された三次元計測データから一対の点データが上述した座標変換を利用して複数組選択される。なお、ステップS109の点データ選択処理は、「第2選択ステップ」の一例に相当し、この点データ選択処理を実行する制御部11は、「第2選択部」の一例に相当し得る。
【0027】
具体的には、本実施形態では、
図4に示すように、実座標系における正円C1が楕円C2に変換される仮想座標系において、基準点Poに対して選択候補となる点(以下、ペア候補点Pcともいう)と基準点Poとの距離(以下、仮想座標距離ともいう)を算出して、この仮想座標距離が最も短くなるペア候補点Pcを選択する。
図4のa,bは、楕円C2の縦横比率パラメータであり、長軸aに対して短軸bを小さくするほど、仮想座標距離に関して、Z座標値の影響がX座標値及びY座標値に対して小さくなる。
【0028】
このため、
図4の正円C1上に位置するペア候補点Pcと基準点Poとの実座標距離をD1、このペア候補点Pcと基準点Poとを繋ぐ直線と
図4の楕円C2との交点までの実座標距離をD2とするとき、実座標系から仮想座標系に変換する変換係数r2は、D2/D1に基づいて、ペア候補点Pcの
図4での角度θを利用して、
図4の式(1)が成立する。なお、角度θは、基準点Poの座標を(0,0,0)、ペア候補点Pcの座標を(x,y,z)とするとき、
図4の式(2)によって表される。
【0029】
このため、楕円C2の縦横比率パラメータa,bと角度θとから求めた変換係数r2に基づいて、仮想座標距離を、D1/r2として求め、この仮想座標距離が最も短くなるペア候補点Pcを、その基準点とのペアとして選択する。例えば、変換係数r2が0.7として算出された場合に、実座標距離D1が1mmとして計測されていると、仮想座標距離は、1.43mmとして算出される。
【0030】
このように、仮想座標系での仮想座標距離が最も短くなるペア候補点Pcを選択することで、ノイズが生じやすいZ座標値の影響をX座標値及びY座標値に対して小さくすることができる。
【0031】
例えば、
図5に例示するように、長軸a:短軸bが1:0.5となる楕円C2に実座標系における正円C1が変換される仮想座標系において、基準点Po(0,0,0)に関して、ペア候補点Pc1(1,1,0)とペア候補点Pc2(1,0,1)とで仮想座標距離を算出する場合を想定する。ペア候補点Pc1(1,1,0)は、θ=0°、r2=1となることから、仮想座標距離は1.41として算出される。一方、ペア候補点Pc2(1,0,1)は、θ=45°、r2=0.63となることから、仮想座標距離は2.24として算出される。このため、仮想座標距離が短くなるペア候補点Pc1(1,1,0)が選択される。
【0032】
上述のように仮想座標系を考慮しない場合には、基準点Poからペア候補点Pc1までの実座標距離と基準点Poからペア候補点Pc2までの実座標距離とは同じになるため、上述のような仮想座標系を考慮することで、Z座標値の影響をX座標値及びY座標値に対して小さくできていることがわかる。
【0033】
上述のようにステップS109の点データ選択処理にて三次元計測データから複数組の一対の点データが複数組選択されると、ステップS111に示す三次元計測特徴量算出処理がなされ、選択された全ての一対の点データごとに、上述したPPFを利用した特徴量(以下、三次元計測特徴量ともいう)が算出される。なお、ステップS111の三次元計測特徴量算出処理は、「第2特徴量算出ステップ」の一例に相当し、この三次元計測特徴量算出処理を実行する制御部11は、「第2特徴量算出部」の一例に相当し得る。
【0034】
続いて、ステップS113に示す認識処理がなされ、算出された各三次元モデル特徴量と各三次元計測特徴量とのマッチングに基づいて、三次元センサ12により計測されたワークWの位置及び姿勢が認識される。そして、ステップS115に示す出力処理がなされ、上述のようにワークWに関して認識された認識結果等に関する情報が、通信部16を介してロボットアームの制御部に出力される。なお、ステップS113の認識処理を実行する制御部11は、「認識部」の一例に相当し得る。
【0035】
このように、ロボットアームの制御部では、把持すべきワークWの位置及び姿勢を物体認識装置10から取得できるので、そのワークWを正確に把持することができる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係る物体認識装置10では、三次元モデルデータからステップS103の点データ選択処理により選択された複数組の一対の点データについてそれぞれ特徴量を算出するステップS105の三次元モデル特徴量算出処理の算出結果と、三次元センサ12により計測された三次元計測データからステップS109の点データ選択処理により選択された複数組の一対の点データについてそれぞれ特徴量を算出するステップS111の三次元計測特徴量算出処理の算出結果とに基づいて、三次元センサ12により計測されたワークWの位置及び姿勢がステップS113の認識処理により認識される。三次元センサ12にて計測される点データには、当該三次元センサ12からワークWに向かう方向をZ軸とするXYZ三次元座標データが含まれ、ステップS109の点データ選択処理では、三次元計測データから、基準点として選択された1つの点データと、基準点を基準とする座標系であって当該基準点との距離がZ軸に関してX軸及びY軸よりも大きくなるように座標変換した所定の座標系において基準点との距離が最も小さくなる点データとが、一対の点データとして選択される。
【0037】
このように、ステップS109の点データ選択処理では、基準点との距離がZ軸に関してX軸及びY軸よりも大きくなるように座標変換した所定の座標系において基準点との距離が最も小さくなる点データが選択される。このように選択された点データは、X座標値及びY座標値を、ノイズの影響を受けやすいZ座標値よりも重視するように選択されたものとなるからである。これにより、特徴量を算出するための一対の点データに関してノイズの可能性が高い点データが選択され難くなるので、対象物体の位置及び姿勢の認識に関してノイズの影響を抑制することができる。
【0038】
なお、上記ステップS109に示す点データ選択処理にて利用される座標変換では、長軸a:短軸bが1:0.5となる楕円C2に実座標系における正円C1が変換される処理が採用されることに限らず、対象物体等に応じて、他の楕円比率にて変換される処理が採用されてもよい。例えば、
図6に示すような計測精度比の対象物体に対して物体認識処理を行う場合には、Z精度がX精度やY精度に対して約100倍となっていることから、長軸a:短軸bが1:0.01となる楕円に実座標系における正円が変換される処理を採用してもよい。
【0039】
また、上記ステップS109に示す点データ選択処理にて利用される座標変換は、上述した実座標系における正円が楕円に変換される仮想座標系が採用されることに限らず、基準点との距離がZ軸に関してX軸及びY軸よりも大きくなるように座標変換した所定の座標系であればよい。
【0040】
例えば、本実施形態の第1変形例として、
図7に例示するように、実座標系における正円C1が菱形C3(長軸a,短軸b)に変換される仮想座標系が採用されてもよい。この仮想座標系では、
図7の正円C1上に位置するペア候補点Pcと基準点Poとの実座標距離をD1、このペア候補点Pcと基準点Poとを繋ぐ直線と
図7の菱形C3との交点までの実座標距離をD3とするとき、実座標系から仮想座標系に変換する変換係数r3は、D3/D1に基づいて、ペア候補点Pcの
図7での角度θを利用して、
図7の式(3)が成立する。なお、角度θは、基準点Poの座標を(0,0,0)、ペア候補点Pcの座標を(x,y,z)とするとき、
図7の式(4)によって表される。
【0041】
図7に示すような仮想座標系を採用することで、楕円を利用した仮想座標系に対して、よりシビアに基準点とペア候補点の選択が行われるため、低精度な認識による誤動作が許容されず、高精度な認識結果を保証することが要求される用途に適用することができる。具体的には、例えば、高精度な三次元センサとロボットを組み合わせたシステムによる、精密部品のピッキングや組付けなどに採用することができる。
【0042】
また、例えば、本実施形態の第2変形例として、
図8及び
図9に例示するように、実座標系における正円C1が長方形C4(長軸a,短軸b)に変換される仮想座標系が採用されてもよい。この仮想座標系では、
図8及び
図9に示すように、正円C1上に位置するペア候補点Pcと基準点Poとの実座標距離をD1、このペア候補点Pcと基準点Poとを繋ぐ直線と長方形C4との交点までの実座標距離をD4とするとき、実座標系から仮想座標系に変換する変換係数r4は、D4/D1に基づいて、ペア候補点Pcの角度θを利用して、
図8の式(5)又は
図9の式(6)が成立する。なお、θ≧θ’となる場合に
図8の式(5)が成立し、θ<θ’となる場合に
図9の式(6)が成立する。また、角度θは、基準点Poの座標を(0,0,0)、ペア候補点Pcの座標を(x,y,z)とするとき、
図8及び
図9の式(7)によって表され、角度θ’は、
図8及び
図9の式(8)によって表される。
【0043】
図8及び
図9に示すような仮想座標系を採用することで、よりルーズに基準点とペア候補点の選択が行われるため、低精度な認識が許容されるような用途に適用することができる。具体的には、例えば、低精度な三次元センサとロボットを組み合わせたシステムで、大型のパレット搬送などに採用することができる。
【0044】
[他の実施形態]
なお、本発明は上記実施形態及び変形例等に限定されるものではなく、例えば、以下のように具体化してもよい。
(1)三次元モデルデータの特徴量は、上述した物体認識処理におけるステップS101,S103,S105の処理のように通信部16を介して取得した三次元モデルデータから算出されることに限らず、予め算出された三次元モデルデータの特徴量が外部機器等から通信部16を介して物体認識装置10に入力されてもよい。この場合、三次元モデルデータの特徴量を算出した外部機器等を物体認識装置10に含めることができる。
【0045】
(2)物体認識処理では、前回と同じ形状の対象物体の位置及び姿勢を認識する場合には、前回得た三次元モデル特徴量を利用することで、ステップS101,S103,S105の処理を省略してもよい。
【0046】
(3)本発明は、PPFを用いて特徴量を算出する物体認識処理に採用されることに限らず、例えば、Fast Point Feature Histograms(FPFH)など、点群データから一対の点データを複数組選択して特徴点を算出する物体認識処理に採用することができる。
【0047】
(4)本発明に係る物体認識装置10は、対象物体となるワークWを把持して移動させるロボットアームに搭載されるように構成されることに限らず、他の対象物体を認識する装置、例えば、侵入者有無判断する外周監視用の物体認識装置等として構成されてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10…物体認識装置
11…制御部(取得部,第1選択部,第1特徴量算出部,第2選択部,第2特徴量算出部,認識部)
12…三次元センサ
16…通信部(取得部)
W…ワーク(対象物体)