(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】バルブタイミング調整装置
(51)【国際特許分類】
F01L 1/356 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
F01L1/356 Z
(21)【出願番号】P 2020176656
(22)【出願日】2020-10-21
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 幸大
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-096387(JP,A)
【文献】特開2019-157679(JP,A)
【文献】特開2015-102064(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0200052(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/34- 1/356
F01L 9/00- 9/40
F01L 13/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフト(12)と同期回転する駆動側回転体(21)およびカムシャフト(13)と一体回転する従動側回転体(22)の相対回転位相を変化させて、エンジン(11)のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置(10)であって、
前記駆動側回転体および前記従動側回転体の一方を第1回転体とし、他方を第2回転体とすると、
前記第1回転体の回転軸心(AX1)に対して偏心する偏心軸心(AX2)上に配置され、前記第1回転体の内歯(37)に噛み合う外歯(45)を有し、前記回転軸心まわりに公転することにより前記第1回転体に対して相対回転する遊星回転体(24)と、
前記遊星回転体と前記第2回転体との間に配置されたオルダムリング(46)と、
前記オルダムリングの所定の径方向を第1径方向とすると、前記オルダムリングの中心を挟んだ前記第1径方向の両側の2箇所に配置され、前記遊星回転体と前記オルダムリングとの間で前記回転軸心まわりの回転を伝達しつつ、前記遊星回転体に対する前記オルダムリングの前記第1径方向の相対移動を許容する第1摺動部(47)と、
前記第1径方向に交差する所定の径方向を第2径方向とすると、前記オルダムリングの中心を挟んだ前記第2径方向の両側の2箇所に配置され、前記第2回転体と前記オルダムリングとの間で前記回転軸心まわりの回転を伝達しつつ、前記第2回転体に対する前記オルダムリングの前記第2径方向の相対移動を許容する第2摺動部(48)と、
を備え、
前記第1摺動部および前記第2摺動部の少なくとも一方は、軸方向から見て凸状の曲面に形成された摺動曲面(54,542,64)と、平面に形成された摺動平面(55,552,65)との組み合わせであ
り、
前記摺動曲面(542,64)は、軸方向へ延びる円柱状または円筒状の突起(532,61)の外周面であり、
前記突起は、前記オルダムリング、前記遊星回転体、前記駆動側回転体、または前記従動側回転体に圧入されたピンである、バルブタイミング調整装置。
【請求項2】
クランクシャフト(12)と同期回転する駆動側回転体(21)およびカムシャフト(13)と一体回転する従動側回転体(22)の相対回転位相を変化させて、エンジン(11)のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置(10)であって、
前記駆動側回転体および前記従動側回転体の一方を第1回転体とし、他方を第2回転体とすると、
前記第1回転体の回転軸心(AX1)に対して偏心する偏心軸心(AX2)上に配置され、前記第1回転体の内歯(37)に噛み合う外歯(45)を有し、前記回転軸心まわりに公転することにより前記第1回転体に対して相対回転する遊星回転体(24)と、
前記遊星回転体と前記第2回転体との間に配置されたオルダムリング(46)と、
前記オルダムリングの所定の径方向を第1径方向とすると、前記オルダムリングの中心を挟んだ前記第1径方向の両側の2箇所に配置され、前記遊星回転体と前記オルダムリングとの間で前記回転軸心まわりの回転を伝達しつつ、前記遊星回転体に対する前記オルダムリングの前記第1径方向の相対移動を許容する第1摺動部(47)と、
前記第1径方向に交差する所定の径方向を第2径方向とすると、前記オルダムリングの中心を挟んだ前記第2径方向の両側の2箇所に配置され、前記第2回転体と前記オルダムリングとの間で前記回転軸心まわりの回転を伝達しつつ、前記第2回転体に対する前記オルダムリングの前記第2径方向の相対移動を許容する第2摺動部(48)と、
を備え、
前記第1摺動部および前記第2摺動部の少なくとも一方は、軸方向から見て凸状の曲面に形成された摺動曲面(54,542,64)と、平面に形成された摺動平面(55,552,65)との組み合わせであ
り、
前記摺動曲面(542,64)は、軸方向へ延びる円柱状または円筒状の突起(532,61)の外周面であり、
前記突起の先端部、または、前記摺動平面のうち軸方向において前記突起が挿入される側の縁部には、面取り部(67)が形成されている、バルブタイミング調整装置。
【請求項3】
クランクシャフト(12)と同期回転する駆動側回転体(21)およびカムシャフト(13)と一体回転する従動側回転体(22)の相対回転位相を変化させて、エンジン(11)のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置(10)であって、
前記駆動側回転体および前記従動側回転体の一方を第1回転体とし、他方を第2回転体とすると、
前記第1回転体の回転軸心(AX1)に対して偏心する偏心軸心(AX2)上に配置され、前記第1回転体の内歯(37)に噛み合う外歯(45)を有し、前記回転軸心まわりに公転することにより前記第1回転体に対して相対回転する遊星回転体(24)と、
前記遊星回転体と前記第2回転体との間に配置されたオルダムリング(46)と、
前記オルダムリングの所定の径方向を第1径方向とすると、前記オルダムリングの中心を挟んだ前記第1径方向の両側の2箇所に配置され、前記遊星回転体と前記オルダムリングとの間で前記回転軸心まわりの回転を伝達しつつ、前記遊星回転体に対する前記オルダムリングの前記第1径方向の相対移動を許容する第1摺動部(47)と、
前記第1径方向に交差する所定の径方向を第2径方向とすると、前記オルダムリングの中心を挟んだ前記第2径方向の両側の2箇所に配置され、前記第2回転体と前記オルダムリングとの間で前記回転軸心まわりの回転を伝達しつつ、前記第2回転体に対する前記オルダムリングの前記第2径方向の相対移動を許容する第2摺動部(48)と、
を備え、
前記第1摺動部および前記第2摺動部の少なくとも一方は、軸方向から見て凸状の曲面に形成された摺動曲面(54,542,64)と、平面に形成された摺動平面(55,552,65)との組み合わせであ
り、
前記摺動曲面(542,64)は、軸方向へ延びる円柱状または円筒状の突起(532,61)の外周面であり、
前記第2回転体としての前記駆動側回転体は、軸方向の一方および他方に分かれた第1駆動側回転部材(31)および第2駆動側回転部材(32)を含み、
前記突起は、前記第1駆動側回転部材から軸方向へ突き出し、前記第2駆動側回転部材の嵌合穴(71)に嵌合している、バルブタイミング調整装置。
【請求項4】
前記突起は、前記第1駆動側回転部材とは別体に構成されつつ当該第1駆動側回転部材に組み付けられており、
前記突起の前記第2駆動側回転部材側の端部は、先端側に位置する小径部(72)と、中間側に位置する大径部(73)とを有する段付き形状になっており、
前記小径部の直径をAとし、前記大径部の直径をBとし、前記嵌合穴の直径をCとすると、A<C<Bである、請求項
3に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項5】
クランクシャフト(12)と同期回転する駆動側回転体(21)およびカムシャフト(13)と一体回転する従動側回転体(22)の相対回転位相を変化させて、エンジン(11)のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置(10)であって、
前記駆動側回転体および前記従動側回転体の一方を第1回転体とし、他方を第2回転体とすると、
前記第1回転体の回転軸心(AX1)に対して偏心する偏心軸心(AX2)上に配置され、前記第1回転体の内歯(37)に噛み合う外歯(45)を有し、前記回転軸心まわりに公転することにより前記第1回転体に対して相対回転する遊星回転体(24)と、
前記遊星回転体と前記第2回転体との間に配置されたオルダムリング(46)と、
前記オルダムリングの所定の径方向を第1径方向とすると、前記オルダムリングの中心を挟んだ前記第1径方向の両側の2箇所に配置され、前記遊星回転体と前記オルダムリングとの間で前記回転軸心まわりの回転を伝達しつつ、前記遊星回転体に対する前記オルダムリングの前記第1径方向の相対移動を許容する第1摺動部(47)と、
前記第1径方向に交差する所定の径方向を第2径方向とすると、前記オルダムリングの中心を挟んだ前記第2径方向の両側の2箇所に配置され、前記第2回転体と前記オルダムリングとの間で前記回転軸心まわりの回転を伝達しつつ、前記第2回転体に対する前記オルダムリングの前記第2径方向の相対移動を許容する第2摺動部(48)と、
を備え、
前記第1摺動部および前記第2摺動部の少なくとも一方は、軸方向から見て凸状の曲面に形成された摺動曲面(54,542,64)と、平面に形成された摺動平面(55,552,65)との組み合わせであ
り、
前記摺動平面(552、65)は径方向に延びる嵌合溝(522、63)の側面であり、
前記嵌合溝の底部の角は凹曲面(68)になっている、バルブタイミング調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブタイミング調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クランクシャフトと同期回転する駆動側回転体およびカムシャフトと一体回転する従動側回転体の相対回転位相を変化させて、エンジンのバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置が知られている。特許文献1に開示された位相調節機構は、カムシャフトに固定される出力ギアと、出力ギアに対して偏心する偏心軸心上に配置され、オルダム継手を介して駆動側回転体に連結される入力ギア(すなわち遊星回転体)とを備える。位相調節機構は、出力ギアの内歯の一部に入力ギアの外歯の一部を噛み合わせ、カムシャフトの回転軸心を中心に偏心軸心の位置を公転させることにより、出力ギアに対して入力ギアを相対回転させる。
【0003】
オルダム継手は、駆動側回転体と入力ギアとの間に設けられるオルダムリングを備えており、駆動側回転体とオルダムリングとの間、およびオルダムリングと入力ギアとの間において、互いに対向する何れか一方の部材に設けられた直線状の溝部と、何れか他方に設けられた矩形状の凸部とがスライド自在に係合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1において、オルダム継手は、駆動側回転体とオルダムリングとの間に設けられた第1の摺動部と、オルダムリングと入力ギアとの間に設けられた第2の摺動部とを備える。第1の摺動部と第2の摺動部は、摺動方向が互いに交差するように設けられることで、2方向の移動自由度を確保している。また、両方の摺動部において、溝部と凸部の嵌合部は、オルダムリングの中心を挟んだ両側の2箇所に配置されており、この2箇所の嵌合部を同時に嵌合させる必要がある。
【0006】
2箇所の嵌合部を同時に嵌合可能とするためには、溝部に対する凸部の周方向位置の設計中心値からのずれ量に応じて、溝部と凸部との間に周方向の隙間が必要となる。しかし、回転を伝達する際、上記隙間に起因して打音が発生し、騒音となるおそれがある。この騒音を抑制するためには、上記隙間が小さくて済むように対称度をはじめとした部品の精度を上げる必要がある。
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、部品の精度を上げることなく騒音を抑制することができるバルブタイミング調整装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、クランクシャフト(12)と同期回転する駆動側回転体(21)およびカムシャフト(13)と一体回転する従動側回転体(22)の相対回転位相を変化させて、エンジン(11)のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置(10)であって、遊星回転体(24)と、オルダムリング(46)と、第1摺動部(47)と、第2摺動部(48)とを備える。
【0009】
駆動側回転体および従動側回転体の一方を第1回転体とし、他方を第2回転体とすると、遊星回転体は、第1回転体の回転軸心(AX1)に対して偏心する偏心軸心(AX2)上に配置されている。遊星回転体は、第1回転体の内歯(37)に噛み合う外歯(45)を有し、回転軸心まわりに公転することにより第1回転体に対して相対回転する。
【0010】
オルダムリングは、遊星回転体と第2回転体との間に配置されている。オルダムリングの所定の径方向を第1径方向とすると、第1摺動部は、オルダムリングの中心を挟んだ第1径方向の両側の2箇所に配置されている。第1摺動部は、遊星回転体とオルダムリングとの間で回転軸心まわりの回転を伝達しつつ、遊星回転体に対するオルダムリングの第1径方向の相対移動を許容する。第1径方向に交差する所定の径方向を第2径方向とすると、第2摺動部は、オルダムリングの中心を挟んだ第2径方向の両側の2箇所に配置されている。第2摺動部は、第2回転体とオルダムリングとの間で回転軸心まわりの回転を伝達しつつ、第2回転体に対するオルダムリングの第2径方向の相対移動を許容する。
【0011】
第1摺動部および第2摺動部の少なくとも一方は、軸方向から見て凸状の曲面に形成された摺動曲面(54,542,64)と、平面に形成された摺動平面(55,552,65)との組み合わせである。
第1~第3の態様では、摺動曲面(542,64)は、軸方向へ延びる円柱状または円筒状の突起(532,61)の外周面である。第1の態様では、突起は、オルダムリング、遊星回転体、駆動側回転体、または従動側回転体に圧入されたピンである。第2の態様では、突起の先端部、または、摺動平面のうち軸方向において突起が挿入される側の縁部には、面取り部(67)が形成されている。第3の態様では、第2回転体としての駆動側回転体は、軸方向の一方および他方に分かれた第1駆動側回転部材(31)および第2駆動側回転部材(32)を含み、突起は、第1駆動側回転部材から軸方向へ突き出し、第2駆動側回転部材の嵌合穴(71)に嵌合している。
第4の態様では、摺動平面(552、65)は径方向に延びる嵌合溝(522、63)の側面であり、嵌合溝の底部の角は凹曲面(68)になっている。
【0012】
これによれば、摺動曲面および摺動平面の一方に対する他方の周方向位置が設計値からずれたとしても、オルダムリングの位置を調整することで、中心を挟んだ両側の2箇所において摺動曲面の部分と摺動平面の部分とを嵌合させることができる。そのため、摺動曲面と摺動平面との間の周方向の隙間を大きく設定する必要がない。したがって、部品の精度を上げることなく騒音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態のバルブタイミング調整装置の断面図である。
【
図2】
図1の矢印II方向から見たリアケース、第2嵌合突起、オルダムリングおよび遊星回転体を示す図である。
【
図3】
図2のオルダムリング、環状突出部および第2嵌合突起を模式的に示す図であって、第1摺動曲面の形成位置が設計値からずれた場合を示す図である。
【
図4】
図2のオルダムリング、環状突出部および第2嵌合突起を模式的に示す図であって、第2摺動曲面の形成位置が設計値からずれた場合を示す図である。
【
図5】
図1の外側突出部および第2嵌合突起のV-V線端面図である。
【
図6】
図1のオルダムリングの第2嵌合溝を加工する様子を示す図である。
【
図8】第2実施形態のオルダムリング、第1嵌合突起および第2嵌合突起を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、複数の実施形態を図面に基づき説明する。実施形態同士で実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
[第1実施形態]
図1に示すように、第1実施形態のバルブタイミング調整装置10は、エンジン11のクランクシャフト12からカムシャフト13までの動力伝達経路に設けられている。バルブタイミング調整装置10は、クランクシャフト12と同期回転する駆動側回転体21およびカムシャフト13と一体回転する従動側回転体22の相対回転位相を変化させて、カムシャフト13が開閉駆動する吸気弁または排気弁のバルブタイミングを調整する。
【0015】
図1~
図2に示すように、バルブタイミング調整装置10は、駆動側回転体21、従動側回転体22、入力回転体23、遊星回転体24、およびオルダム機構25を備える。第1実施形態では、従動側回転体22が第1回転体であり、また駆動側回転体21が第2回転体である。
【0016】
駆動側回転体21は、軸方向の一方および他方に分かれた第1駆動側回転部材および第2駆動側回転部材としてのリアケース31およびフロントケース32を備え、ボルト33により互いに一体に固定されている。リアケース31の外周部にはスプロケット34が形成されている。スプロケット34は、チェーン等の伝達部材35を介してクランクシャフト12に連結されている。これにより駆動側回転体21は、カムシャフト13の回転軸心AX1を中心にクランクシャフト12に同期して回転する。
【0017】
従動側回転体22は、駆動側回転体21の内側に配置され、ボルト36によりカムシャフト13の端部に一体に固定されている。従動側回転体22には内歯37が形成されている。従動側回転体22は、駆動側回転体21に対して相対回転自在であり、カムシャフト13と一体に回転する。
【0018】
入力回転体23は、駆動側回転体21の内側に配置された筒状部材であり、フロントケース32に設けられた軸受38により回転軸心AX1まわりに回転自在に支持されている。入力回転体23の内壁には係合溝41が形成されている。入力回転体23は、係合溝41に係合する継手部42を介して回転式アクチュエータ14に連結されている。また入力回転体23は、回転軸心AX1に対して偏心する偏心軸心AX2上に偏心部43を有する。
【0019】
遊星回転体24は、偏心軸心AX2上に配置され、偏心部43に設けられた軸受44により偏心軸心AX2を中心に回転自在に支持されている。遊星回転体24には外歯45が形成されている。外歯45の一部は内歯37の一部に噛み合っている。遊星回転体24は、回転軸心AX1まわりに公転して噛み合い位置を変えることにより偏心軸心AX2まわりに自転し、内歯37と外歯45との歯数差に相当する角度だけ従動側回転体22に対して相対回転する。
【0020】
オルダム機構25は、駆動側回転体21と遊星回転体24との間の偏心を吸収しながらそれら相互間で回転を伝達するものであって、オルダムリング46、第1摺動部47および第2摺動部48を有する。オルダムリング46は、駆動側回転体21と遊星回転体24との間に配置された環状部材である。
【0021】
オルダムリング46の所定の径方向を第1径方向とすると、第1摺動部47は、オルダムリング46の中心を挟んだ第1径方向の両側の2箇所に配置されている。第1摺動部47は、遊星回転体24とオルダムリング46との間で回転軸心AX1まわりの回転を伝達しつつ、遊星回転体24に対するオルダムリング46の第1径方向の相対移動を許容する。第1径方向に交差する所定の径方向を第2径方向とすると、第2摺動部48は、オルダムリング46の中心を挟んだ第2径方向の両側の2箇所に配置されている。第2摺動部48は、駆動側回転体21とオルダムリング46との間で回転軸心AX1まわりの回転を伝達しつつ、駆動側回転体21に対するオルダムリング46の第2径方向の相対移動を許容する。
【0022】
バルブタイミング調整装置10は、回転式アクチュエータ14により入力回転体23を回転させて、遊星回転体24を従動側回転体22に対して相対回転させることにより、駆動側回転体21に対する従動側回転体22の相対回転位相を変化させる。
【0023】
次に、オルダム機構25について詳細に説明する。
図1~
図4に示すように、遊星回転体24は、軸方向のオルダムリング46側に突出する環状突出部51を有する。環状突出部51の周方向一部には、第1嵌合溝52が形成されている。オルダムリング46は、環状の本体部66から径方向内側に突き出して第1嵌合溝52に嵌合している第1嵌合突起53を有する。
【0024】
第1摺動部47は、第1嵌合溝52の側面すなわち「第1嵌合突起53と周方向に対向する面」であって、軸方向から見て凸状の曲面に形成された第1摺動曲面54と、第1嵌合突起53の側面すなわち「第1摺動曲面54と周方向に対向する面」であって、平面に形成された第1摺動平面55との組み合わせである。
【0025】
1つの第1摺動部47において、第1摺動曲面54と第1摺動平面55との組み合わせは2つ設けられている。一方の組み合わせは、回転軸心AX1を中心とする一方向の回転を伝達し、また、他方の組み合わせは、回転軸心AX1を中心とする他方向の回転を伝達する。第1摺動平面55は、第1摺動曲面54に周方向で当接するとともに第1径方向に摺動可能である。つまり、第1嵌合突起53は、第1嵌合溝52にスライド自在に係合している。
【0026】
駆動側回転体21の内壁には、軸方向へ延びる円柱状の第2嵌合突起61が設けられている。オルダムリング46は、本体部66から径方向外側に突出する外側突出部62を有する。外側突出部62には、径方向に延びる第2嵌合溝63が形成されている。第2嵌合突起61は、第2嵌合溝63に嵌合している。
【0027】
第2摺動部48は、第2嵌合溝63の側面すなわち「第2嵌合突起61と周方向に対向する面」であって、平面に形成された第2摺動平面65と、第2嵌合突起61の外周面すなわち「第2摺動平面65と周方向に対向する面」であって、軸方向から見て凸状の曲面に形成された第2摺動曲面64との組み合わせである。
【0028】
1つの第2摺動部48において、第2摺動曲面64と第2摺動平面65との組み合わせは2つ設けられている。一方の組み合わせは、回転軸心AX1を中心とする一方向の回転を伝達し、また、他方の組み合わせは、回転軸心AX1を中心とする他方向の回転を伝達する。第2摺動平面65は、第2摺動曲面64に周方向で当接するとともに第2径方向に摺動可能である。つまり、第2嵌合突起61は、第2嵌合溝63にスライド自在に係合している。
【0029】
図5に示すように、第2摺動平面65を含む第2嵌合溝63の内壁面のうち、軸方向において第2嵌合突起61が挿入される側の縁部には、面取り部67が形成されている。また、
図6に示すように、第2嵌合溝63の底部の角は凹曲面68になっている。
【0030】
図1および
図7に示すように、第2嵌合突起61は、駆動側回転体21とは別体に構成されつつリアケース31の圧入孔69に圧入されたピンである。第2嵌合突起61は、リアケース31から軸方向へ突き出し、フロントケース32の嵌合穴71に嵌合している。フロントケース32は、回転方向の2箇所で第2嵌合突起61に嵌合することで位置決めされている。
【0031】
第2嵌合突起61のフロントケース32側の端部は、先端側に位置する小径部72と、中間側に位置する大径部73とを有する段付き形状になっている。小径部72の直径をAとし、大径部73の直径をBとし、嵌合穴71の直径をCとすると、「A<C<B」である。
【0032】
(効果)
以上説明したように、第1実施形態では、第1摺動部47は、オルダムリング46の中心を挟んだ第1径方向の両側の2箇所に配置されている。第1摺動部47は、遊星回転体24とオルダムリング46との間で回転軸心AX1まわりの回転を伝達しつつ、遊星回転体24に対するオルダムリング46の第1径方向の相対移動を許容する。第2摺動部48は、オルダムリング46の中心を挟んだ第2径方向の両側の2箇所に配置されている。第2摺動部48は、駆動側回転体21とオルダムリング46との間で回転軸心AX1まわりの回転を伝達しつつ、駆動側回転体21に対するオルダムリング46の第2径方向の相対移動を許容する。
【0033】
第1摺動部47は、軸方向から見て凸状の曲面に形成された第1摺動曲面54と、平面に形成された第1摺動平面55との組み合わせである。第2摺動部48は、軸方向から見て凸状の曲面に形成された第2摺動曲面64と、平面に形成された第2摺動平面65との組み合わせである。
【0034】
これによれば、
図3に示すように第1摺動平面55に対する第1摺動曲面54の周方向位置が設計値54aからずれたとしても、オルダムリング46の位置を調整することで、中心を挟んだ両側の2箇所において第1摺動曲面54の部分(すなわち第1嵌合溝52)と第2摺動平面65の部分(すなわち第1嵌合突起53)とを嵌合させることができる。そのため、第1摺動曲面54と第1摺動平面55との間の周方向の隙間を大きく設定する必要がない。また
図4に示すように第2摺動平面65に対する第2摺動曲面64の周方向位置が設計値64aからずれたとしても同様のことが言える。したがって、部品の精度を上げることなく騒音を抑制することができる。
【0035】
また、第1実施形態では、第2摺動曲面64は、軸方向へ延びる円柱状の第2嵌合突起61の外周面である。これにより第2嵌合突起61の形状を簡素化することでコストを削減できる。
【0036】
また、第1実施形態では、第2嵌合突起61は、駆動側回転体21のリアケース31に圧入されたピンである。これにより第2嵌合突起61およびリアケース31の形状を簡素化することでコストを削減できる。
【0037】
また、第1実施形態では、第2摺動平面65のうち軸方向において第2嵌合突起61が挿入される側の縁部には、面取り部67が形成されている。これによりフロントケース32と第2嵌合突起61との組付け性が向上する。
【0038】
また、第1実施形態では、駆動側回転体21は、軸方向の一方および他方に分かれたリアケース31およびフロントケース32を含む。第2嵌合突起61は、リアケース31から軸方向へ突き出し、フロントケース32の嵌合穴71に嵌合している。これにより第2嵌合突起61をリアケース31の位置決めに流用できる。
【0039】
また、第1実施形態では、第2嵌合突起61は、駆動側回転体21とは別体に構成されつつリアケース31に組み付けられている。第2嵌合突起61のフロントケース32側の端部は、先端側に位置する小径部72と、中間側に位置する大径部73とを有する段付き形状になっている。小径部72の直径をAとし、大径部73の直径をBとし、嵌合穴71の直径をCとすると、A<C<Bである。これにより第2嵌合突起61を構成するピンの抜けを防止できる。
【0040】
また、第1実施形態では、第2摺動平面65は、径方向に延びる第2嵌合溝63の側面である。第2嵌合溝63の底部の角は凹曲面68になっている。これにより
図6に示すように第2嵌合溝63がフライス90等で加工しやすくなり、コストを削減できる。
【0041】
[第2実施形態]
第2実施形態では、
図8に示すように、オルダムリング46は、本体部66から径方向内側に突出する内側突出部56を有する。内側突出部56には、径方向に延びる第1嵌合溝522が形成されている。遊星回転体24は、軸方向に突き出して第1嵌合溝522に嵌合している円柱状の第1嵌合突起532を有する。
【0042】
第1摺動部472は、第1嵌合突起532の外周面である第1摺動曲面542と、第1嵌合溝522の側面である第1摺動平面552との組み合せである。このように第1摺動曲面542が円柱状の第1嵌合突起532の外周面から構成されてもよい。
【0043】
[他の実施形態]
他の実施形態では、第1摺動部および第2摺動部の一方だけが摺動曲面と摺動平面との組み合わせであってもよい。それでも直線状の溝部とそれに嵌合する矩形状の凸部との組合せから摺動部が構成される従来形態と比べて、騒音抑制の効果がある。
【0044】
第1実施形態では、第1摺動部の第1摺動曲面は遊星回転体に設けられ、第1摺動平面はオルダムリングに設けられていた。これに対して他の実施形態では、第1摺動曲面はオルダムリングに設けられ、第1摺動平面は遊星回転体に設けられてもよい。例えば、オルダムリングに第1嵌合突起が設けられつつ当該第1嵌合突起の側面が曲面に形成されて第1摺動曲面を構成し、遊星回転体に第1嵌合溝が形成されつつ当該第1嵌合溝の側面が平面に形成されて第1摺動平面を構成してもよい。
【0045】
第1実施形態では、第2摺動部の第2摺動曲面は駆動側回転体に設けられ、第2摺動平面はオルダムリングに設けられていた。これに対して他の実施形態では、第2摺動曲面はオルダムリングに設けられ、第2摺動平面は駆動側回転体に設けられてもよい。例えば、オルダムリングに第2嵌合突起が設けられつつ当該第2嵌合突起の側面が曲面に形成されて第2摺動曲面を構成し、駆動側回転体に第2嵌合溝が形成されつつ当該第2嵌合溝の側面が平面に形成されて第2摺動平面を構成してもよい。
【0046】
他の実施形態では、第1摺動部または第2摺動部の摺動曲面を形成する突起は、駆動側回転体またはオルダムリング等の部材と別体ではなく、一体に設けられてもよい。
【0047】
第1実施形態では、組付け性の向上のためにオルダムリングの第2嵌合溝の縁部に面取り部が形成されていた。これに対して他の実施形態では、第2嵌合突起の先端部に面取り部が形成されてもよい。
【0048】
第1実施形態では、従動側回転体が第1回転体であり、また駆動側回転体が第2回転体であった。これに対して他の実施形態では、駆動側回転体が第1回転体であり、また従動側回転体が第2回転体であってもよい。この場合、駆動側回転体に内歯が形成され、遊星回転体が駆動側回転体に噛み合うように設けられる。そして、オルダムリングが遊星回転体と従動側回転体との間に設けられる。
【0049】
他の実施形態では、フロントケースの一方の嵌合穴が円形に、他方の嵌合穴が長穴になっている。これによりフロントケースを回転方向に位置決めするとともにフロントケースと第2嵌合突起との嵌合を容易にする。
【0050】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 バルブタイミング調整装置、11 エンジン、12 クランクシャフト、
13 カムシャフト、21 駆動側回転体、22 従動側回転体、24 遊星回転体、
37 内歯、45 外歯、46 オルダムリング、47 第1摺動部、
48 第2摺動部、54,542,64 摺動曲面、55,552,65 摺動平面、
AX1 回転軸心、AX2 偏心軸心。