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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 5/60 20060101AFI20240110BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H02P5/60
B62D5/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020194448
(22)【出願日】2020-11-24
(65)【公開番号】P2022083159
(43)【公開日】2022-06-03
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 淳
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特許第5768999(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2004/0012350(US,A1)
【文献】特開平3-25074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 5/60
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相モータ(800)に通電する電力変換回路である第1の回路(68、681、682)と、
所定の区間を移動体(24)が移動可能に構成された区間移動アクチュエータ(20、30)において、前記移動体を移動させるようにトルクを出力する直流モータ(720、730)に通電する電力変換回路である第2の回路(67)と、
前記第1の回路及び前記第2の回路を操作し、前記直流モータ及び前記多相モータに電圧を印加し、電流を通電して前記多相モータ及び前記直流モータの動作を制御する制御部(400)と、
を備え、
前記第1の回路及び前記第2の回路は同一の筐体(600)内に設けられており、前記第1の回路及び前記第2の回路において直列接続された一組の高電位側及び低電位側スイッチング素子をレッグとすると、前記直流モータの一方の端子が前記多相モータの一相の相電流経路に接続され、前記直流モータの他方の端子が前記第2の回路における一組の高電位側及び低電位側スイッチング素子の間に接続されることで、前記第1の回路及び前記第2の回路は、一つのレッグを共有する統合電力変換回路(60)をなしており、
前記制御部は、前記直流モータへの通電時に、前記区間移動アクチュエータの前記移動体が区間の端に当接したことであるエンド当てを判定するエンド当て判定部(502、503、504、504T、505)を有し、
前記エンド当て判定部は、
前記多相モータにおける前記直流モータが接続された接続相の相電流検出値に基づいて前記直流モータに流れる直流モータ電流値を推定し、推定した前記直流モータ電流値を用いて前記エンド当てを判定するモータ制御装置。
【請求項2】
前記エンド当て判定部(502)は、
前記多相モータの全相の電流検出値の和を前記直流モータ電流値として推定する請求項に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記エンド当て判定部(503)は、
前記多相モータの前記接続相の相電流検出値と相電流指令値との差分を前記直流モータ電流値として推定する請求項に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記エンド当て判定部(504、504T)は、
前記多相モータの前記接続相の相電流検出値をフィルタ処理して交流電流成分と直流電流成分とに分離し、当該直流電流成分の値を前記直流モータ電流値として推定する請求項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記エンド当て判定部(504T)は、
前記多相モータの角速度に応じてフィルタ処理のフィルタ時定数を変更する請求項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記エンド当て判定部は、
前記直流モータ電流値の絶対値が電流閾値を上回ったとき、エンド当て状態であると判定する請求項1~5のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記多相モータの相電圧指令値の中心電圧を操作量とするフィードバック制御により前記直流モータ電流値を制御する請求項1~5のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
多相モータ(800)に通電する電力変換回路である第1の回路(68、681、682)と、
所定の区間を移動体(24)が移動可能に構成された区間移動アクチュエータ(20、30)において、前記移動体を移動させるようにトルクを出力する直流モータ(720、730)に通電する電力変換回路である第2の回路(67)と、
前記第1の回路及び前記第2の回路を操作し、前記直流モータ及び前記多相モータに電圧を印加し、電流を通電して前記多相モータ及び前記直流モータの動作を制御する制御部(400)と、
を備え、
前記第1の回路及び前記第2の回路は同一の筐体(600)内に設けられており、前記第1の回路及び前記第2の回路において直列接続された一組の高電位側及び低電位側スイッチング素子をレッグとすると、前記直流モータの一方の端子が前記多相モータの一相の相電流経路に接続され、前記直流モータの他方の端子が前記第2の回路における一組の高電位側及び低電位側スイッチング素子の間に接続されることで、前記第1の回路及び前記第2の回路は、一つのレッグを共有する統合電力変換回路(60)をなしており、
前記制御部は、前記直流モータへの通電時に、前記区間移動アクチュエータの前記移動体が区間の端に当接したことであるエンド当てを判定するエンド当て判定部(501、505)を有し、
前記制御部は、前記多相モータの相電圧指令値の中心電圧を操作量とするフィードバック制御により前記直流モータに流れる直流モータ電流値を制御し、
前記エンド当て判定部は、
前記直流モータ電流値の検出値を用いて前記エンド当てを判定するモータ制御装置。
【請求項9】
前記エンド当て判定部(505)は、
前記フィードバック制御により前記直流モータの端子間電圧の絶対値が電圧閾値を下回ったとき、エンド当て状態であると判定する請求項7または8に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
前記多相モータは、車両の電動パワーステアリングシステムにおいてドライバの操舵をアシストする操舵アシストモータ、又は、ステアバイワイヤシステムにおいてドライバの操舵に対する反力を付与する反力モータであり、
前記区間移動アクチュエータは、ステアリング位置を可変させるチルトアクチュエータ(20)又はテレスコピックアクチュエータ(30)である請求項1~のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多相モータと直流モータとを駆動する回路を共用したモータ制御装置が知られている。
【0003】
例えば特許文献1に開示されたモータ制御装置は、一つの三相インバータ駆動回路により、三相交流モータと二つの直流モータとを駆動する。具体的にこのモータ制御装置は車両のステアリング装置に用いられ、電動パワーステアリング(EPS)用三相モータと、チルトアクチュエータ用の直流モータ及びテレスコピックアクチュエータ用の直流モータとを駆動する。三相モータ及び直流モータの電力変換器を共用することで、電力変換器の小型化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5614588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えばステアリング装置のチルトアクチュエータやテレスコピックアクチュエータは、所定の区間を移動体が移動することで、上昇限から下降限まで、或いは前進限から後退限までの範囲を変位する。本明細書では、所定の区間を移動体が移動可能に構成されたアクチュエータを総称して「区間移動アクチュエータ」という。また、区間移動アクチュエータの移動体が区間の端に当接したことを「エンド当て」という。ここで、「当接した」の語は過去形ではなく現在完了形、すなわち、今ちょうど当接したところだ、という意味で用いている。
【0006】
直流モータは、区間移動アクチュエータにおいて、移動体を移動させるようにトルクを出力する。エンド当て状態では移動体の速度がゼロになるため、直流モータの誘起電圧がゼロになり、過電流が発生する。オープン制御の直流モータでは、電流を検出して出力を制御することができず、さらに過大な推力の発生により区間移動アクチュエータの機構が破損するおそれがある。これを防ぐために位置センサを搭載しようとすると、センサ信号を受信するコネクタピン数の増加や、部品増加に伴うコストアップ等の問題が発生する。このようなエンド当てを考慮した直流モータの制御法に関し、特許文献1には何ら言及されていない。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、多相モータ、及び、区間移動アクチュエータの移動体を移動させる直流モータの駆動を制御するモータ制御装置において、電力変換回路を小型化しつつ、区間移動アクチュエータのエンド当てを判定可能なモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のモータ制御装置は、第1の回路(68、681、682)と、第2の回路(67)と、制御部(400)とを備える。第1の回路は、多相モータ(800)に通電する電力変換回路である。第2の回路は、直流モータ(720、730)に通電する電力変換回路である。この直流モータは、所定の区間を移動体(24)が移動可能に構成された区間移動アクチュエータ(20、30)において、移動体を移動させるようにトルクを出力する。制御部は、第1の回路及び第2の回路を操作し、直流モータ及び多相モータに電圧を印加し、電流を通電して多相モータ及び直流モータの動作を制御する。
【0009】
第1の回路及び第2の回路は同一の筐体(600)内に設けられている。第1の回路及び第2の回路において直列接続された一組の高電位側及び低電位側スイッチング素子をレッグとする。直流モータの一方の端子が多相モータの一相の相電流経路に接続され、直流モータの他方の端子が第2の回路における一組の高電位側及び低電位側スイッチング素子の間に接続されることで、第1の回路及び第2の回路は、一つのレッグを共有する「統合電力変換回路(60)」をなしている。
【0010】
制御部は、直流モータへの通電時に、区間移動アクチュエータの移動体が区間の端に当接したことである「エンド当て」を判定するエンド当て判定部(50)を有する。
【0011】
エンド当て判定部は、多相モータにおける直流モータが接続された接続相の相電流検出値に、直流モータの電流が重畳する現象を利用する。一態様のエンド当て判定部は、接続相の相電流検出値から直流モータ電流値を推定し、推定した直流モータ電流値を用いてエンド当てを判定する。或いは、制御部がフィードバック制御により直流モータ電流値を制御する構成において、他の態様のエンド当て判定部は、直流モータ電流値の検出値を用いてエンド当てを判定する。例えばエンド当て判定部は、直流モータの端子間電圧の絶対値に基づいてエンド当てを判定する。
【0012】
本発明では、多相モータに通電する第1の回路、及び、直流モータに通電する第2の回路は、一つのレッグを共有する統合電力変換回路をなしている。そのため、複数のモータを駆動対象とする電力変換回路を小型化することができる。
【0013】
また本発明では、エンド当て判定部によりエンド当てを判定可能である。区間移動アクチュエータがエンド当て状態であると判定されたとき、制御部は、例えば直流モータへの通電を停止することで、直流モータに過電流が流れることや、過大な推力の発生により機構が破損することを未然に防止することができる。さらに、位置センサの搭載が不要になることで、コネクタピン数の増加等を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態のモータ制御装置が適用されるコラムタイプEPSシステムの図。
図2】本実施形態のモータ制御装置が適用されるラックタイプEPSシステムの図。
図3】本実施形態のモータ制御装置が適用されるSBWシステムの図。
図4】(a)チルトアクチュエータの模式図、(b)テレスコピックアクチュエータの模式図。
図5】コネクタの接続構成例を示す図。
図6】一系統の三相モータを駆動する統合電力変換回路の回路構成図。
図7】二系統の三相モータを駆動する統合電力変換回路の回路構成図。
図8】三相二重巻線回転機の構成を示す模式図。
図9】制御部の基本的な制御アルゴリズムを示すブロック図。
図10】(a)区間移動アクチュエータのエンド当てを説明する模式図、(b)エンド当てによるDCモータ電流の変化を示す波形図。
図11】第1実施形態によるエンド当て判定部の構成図。
図12】第2~第4実施形態によるDCモータ電流の推定原理として、接続相の相電流にDCモータ電流が重畳することを説明する回路図。
図13】第2実施形態によるエンド当て判定部の構成図。
図14】第2実施形態によるDCモータ電流の推定を説明する波形図。
図15】第3実施形態によるエンド当て判定部の構成図。
図16】第3実施形態によるDCモータ電流の推定を説明する波形図。
図17】第4実施形態によるエンド当て判定部の構成図。
図18】第4実施形態によるDCモータ電流の推定を説明する波形図。
図19】第4実施形態の変形例によるエンド当て判定部の構成図。
図20】第1~第4実施形態によるエンド当て判定のフローチャート。
図21】第5実施形態の制御アルゴリズムを示すブロック図。
図22】第5実施形態によるエンド当て判定のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明によるモータ制御装置の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。各実施形態のモータ制御装置は、車両の電動パワーステアリングシステム(以下「EPSシステム」)又はステアバイワイヤシステム(以下「SBWシステム」)に適用され、EPS-ECU又はSBW-ECUとして機能する。以下、EPS-ECU又はSBW-ECUをまとめて「ECU」と表す。また、後述の各実施形態を包括して「本実施形態」という。複数の実施形態において実質的に同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0016】
[システム構成]
最初に図1図4を参照し、「モータ制御装置」としてのECUが適用されるシステムの構成について説明する。図1図2には、操舵機構と転舵機構とが機械的に接続されたEPSシステム901を示す。そのうち、図1にはコラムタイプ、図2にはラックタイプのEPSシステム901を示す。区別する場合、コラムタイプのEPSシステムの符号を901C、ラックタイプのEPSシステムの符号を901Rと記す。図3には、操舵機構と転舵機構とが機械的に分離したSBWシステム902を示す。図1図3において車輪99は片側のみを図示し、反対側の車輪の図示を省略する。
【0017】
EPSシステム901及びSBWシステム902は共通に、「多相モータ」としての三相モータ800、及び、直流モータ720、730を備える。EPSシステム901における三相モータ800は、ドライバの操舵をアシストする操舵アシストモータであり、SBWシステム902における三相モータ800は、ドライバの操舵に対する反力を付与する反力モータである。直流モータ720、730は、それぞれチルトアクチュエータ20及びテレスコピックアクチュエータ30用のモータである。以下の実施形態の説明及び図面において、直流モータを「DCモータ」と記す。
【0018】
図1図2に示すように、EPSシステム901は、ステアリングホイール91、ステアリングシャフト92、インターミディエイトシャフト95、ステアリングラック97等を含む。ステアリングシャフト92はステアリングコラム93に内包されており、一端にステアリングホイール91が接続され、他端にインターミディエイトシャフト95が接続されている。
【0019】
インターミディエイトシャフト95のステアリングホイール91と反対側の端部には、ラックアンドピニオン機構により回転を往復運動に変換して伝達するステアリングラック97が設けられている。ステアリングラック97が往復すると、タイロッド98及びナックルアーム985を介して車輪99が転舵される。また、インターミディエイトシャフト95の途中にはユニバーサルジョイント961、962が設けられている。
【0020】
図1に示すコラムタイプのEPSシステム901Cでは、三相モータ800はステアリングコラム93に配置される。三相モータ800の出力トルクは、ステアリングシャフト92に伝達される。トルクセンサ94は、ステアリングシャフト92の途中に設けられ、トーションバーの捩れ変位に基づきトルクを検出し、トルクセンサ値T_snsを出力する。
【0021】
図2に示すラックタイプのEPSシステム901Rでは、三相モータ800はステアリングラック97に配置される。三相モータ800の出力トルクによりステアリングラック97の往復運動がアシストされる。トルクセンサ94は、ステアリングラック97に伝達されるトルクを検出し、トルクセンサ値T_snsを出力する。
【0022】
ECU10は、車両スイッチ11のON/OFF信号等により起動する。なお、車両スイッチ11は、エンジン車、ハイブリッド車、電気自動車のイグニッションスイッチやプッシュスイッチに相当する。ECU10への各信号は、CANやシリアル通信等を用いて通信されるか、アナログ電圧信号で送られる。
【0023】
本明細書では、所定の区間を移動体が移動可能に構成されたアクチュエータを総称して「区間移動アクチュエータ」という。ステアリングコラム93には、区間移動アクチュエータとしてのチルトアクチュエータ20及びテレスコピックアクチュエータ30が設けられている。DCモータ720、730は、それぞれチルトアクチュエータ20及びテレスコピックアクチュエータ30において、移動体を移動させるようにトルクを出力する。
【0024】
ドライバがチルトスイッチ12を操作することにより、「上がる/下がる」の指示がECU10に入力されると、ECU10は、指示方向に応じてチルトアクチュエータ20用のDCモータ720を正転又は逆転させる。すると図4(a)に示すように、チルトアクチュエータ20はチルト角度を調整し、ステアリングホイール91を上下に移動させる。そして、車両スイッチ11がオンされて車両が起動するとき、あらかじめ記憶してある運転位置まで動き、車両スイッチ11がオフされて車両が停止するとき、ドライバの空間が広くなる側に移動する。
【0025】
また、ドライバがテレスコピックスイッチ13を操作することにより、「伸びる/縮む」の指示がECU10に入力されると、ECU10は、指示方向に応じてテレスコピックアクチュエータ30用のDCモータ730を正転又は逆転させる。すると図4(b)に示すように、テレスコピックアクチュエータ30はテレスコピック長を調整し、ステアリングホイール91を前後に移動させる。そして、車両スイッチ11がオンされて車両が起動するとき、あらかじめ記憶してある運転位置まで動き、車両スイッチ11がオフされて車両が停止するとき、ドライバの空間が広くなる側に移動する。
【0026】
続いて図3に示すように、操舵機構と転舵機構とが機械的に分離されたSBWシステム902では、EPSシステム901に対し、インターミディエイトシャフト95が存在しない。ドライバの操舵トルクあるいはステアリングホイール91の角度などのドライバ入力情報が、ECU10を経由して電気的に転舵モータ890に伝達される。転舵モータ890の回転は、ステアリングラック97の往復運動に変換され、タイロッド98及びナックルアーム985を介して車輪99が転舵される。なお、図3には図示を省略するが、ドライバのステアリングホイール入力に対して転舵モータ890を駆動する転舵モータECUが存在する。
【0027】
また、SBWシステム902では、ドライバは操舵に対する反力を直接感知することができない。そこで、ECU10は、反力モータである三相モータ800の駆動を制御し、操舵に対する反力を付与するようにステアリングホイール91を回転させ、ドライバに適切な操舵フィーリングを与える。以下、ECU10の説明において、EPSシステム901とSBWシステム902との違いは無い。
【0028】
制御部400は、三相モータ800及びDCモータ720、730に電圧を印加し、電流を通電する。「第1の回路」としての三相インバータ回路68は、三相モータ800に通電する電力変換回路である。「第2の回路」としてのHブリッジ回路67は、DCモータ720、730に通電する電力変換回路である。
【0029】
本実施形態において三相インバータ回路68及びHブリッジ回路67は、制御部400と共に同一の筐体600内に設けられている。これにより、ECU10を小型化し、ハーネスやコネクタ等の配線部品を減らすことができる。また、詳しくは図6図7を参照して後述するように、三相インバータ回路68及びHブリッジ回路67は、一つのレッグを共有する「統合電力変換回路60」をなしている。図1図3において、三相インバータ回路68とHブリッジ回路67との枠が一部重なるように図示しているのは、二つの回路がレッグを共有することを意味している。
【0030】
制御部400は、マイコン、駆動回路等で構成され、図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備え、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理や、専用の電子回路によるハードウェア処理による制御を実行する。
【0031】
制御部400は、三相インバータ回路68、Hブリッジ回路67に対して共通に設けられており、三相モータ800及びDCモータ720、730の動作を制御する。制御部400は、トルクセンサ94が検出したトルクセンサ値T_snsや車速センサ14が検出した車速Vに基づいて三相インバータ回路68を操作し、三相モータ800の動作を制御する。また制御部400は、Hブリッジ回路67を操作し、DCモータ720、730の動作を制御する。
【0032】
さらに本実施形態の制御部400は、DCモータ720、730への通電時に、チルトアクチュエータ20及びテレスコピックアクチュエータ30のエンド当てを判定する。エンド当てとは、区間移動アクチュエータの移動体が区間の端に当接したことをいう。詳しくは後述するように、エンド当てが発生すると、DCモータ720、730の過電流や機構の破損が生じるおそれがある。本実施形態では制御部400が区間移動アクチュエータ20、30のエンド当てを判定することで、DCモータ720、730の過電流や機構の破損を防止することができる。
【0033】
以下では、区間移動アクチュエータとして一台のチルトアクチュエータ20が接続される構成として説明し、テレスコピックアクチュエータ30については省略する。次に図5を参照し、コネクタ接続構成の一例を示す。本実施形態の三相モータ800は、軸方向の一方側にECU10が一体に構成された「機電一体式」のブラシレス三相モータとして構成されている。一方、チルトアクチュエータ20用のDCモータ720は、コネクタを介してECU10と接続されている。
【0034】
この接続構成では、パワー系コネクタ191、信号系コネクタ192及びトルクセンサ用コネクタ193が分かれて設けられている。パワー系コネクタ191には、直流電源からの電源線(PIG)及びグランド線が接続される。信号系コネクタ192には、制御用電源線(IG)、CAN通信線、駆動指令の信号線の他、区間移動アクチュエータ用DCモータのモータ線(M+、M-)が接続される。トルクセンサ用コネクタ193には、トルクセンサ94の電源線、信号線、グランド線がまとめて接続される。
【0035】
DCモータのモータ線(M+、M-)はパワー系であるが、三相モータに比べてモータ電流が小さいため、信号系コネクタ192に含めて接続可能である。DCモータの電流が大きい場合は別のコネクタとするか、直流電源からの電源線(PIG)及びグランド線のパワー系コネクタ191と共通のコネクタとしてもよい。
【0036】
なお、一般に区間移動アクチュエータの配線では、モータ線の他に、位置センサの電源線、信号線及びグランド線が接続される構成が知られている。位置センサにより移動体が所定の位置に到達したことを検出することでエンド当てを判定可能である。しかし、位置センサを搭載することにより必要なコネクタピン数が増加する。特に入出力信号の種類が多いEPSシステム901やSBWシステム902では、ピン数の確保が問題となる。本実施形態では制御部400がエンド当てを判定することにより位置センサが不要となり、位置センサの配線も不要となるため、コネクタの使用ピン数を節減することができる。
【0037】
[統合電力変換回路の構成]
続いて図6図8を参照し、統合電力変換回路の回路構成例について説明する。まず、三相インバータ回路68の駆動対象である三相モータ800に関し、三相巻線組と当該巻線組に対応する三相インバータ回路とを含む単位を「系統」という。図6には一系統の回路構成例を示し、図7には二系統の回路構成例を示す。図8に示すように、二系統構成では、「第1の回路」68は二つの三相インバータ回路681、682からなる。
【0038】
一系統構成の三相巻線組は、U相、V相、W相の巻線811、812、813が中性点Nで接続されて構成されている。各相の巻線811、812、813には、三相インバータ回路68から電圧が印加される。各相には、回転数と位相のsin値との積に比例した逆起電圧が発生する。各相に発生する逆起電圧は、電圧振幅A、回転数ω、位相θに基づき、例えば式(1.1)~(1.3)により表される。なお、後述の部分では、回転数ωは角速度ω、位相θは電気角θとも言い換えられる。
【0039】
Eu=-Aωsinθ ・・・(1.1)
Ev=-Aωsin(θ-120) ・・・(1.2)
Ew=-Aωsin(θ+120) ・・・(1.3)
【0040】
二系統構成の三相モータ800は二組の三相巻線組801、802を有する。第1系統の三相巻線組801は、U1相、V1相、W1相の巻線811、812、813が中性点N1で接続されて構成されている。第1系統の三相巻線組801の各相の巻線811、812、813には、第1系統の三相インバータ回路681から電圧が印加される。第2系統の三相巻線組802は、U2相、V2相、W2相の巻線821、822、823が中性点N2で接続されて構成されている。第2系統の三相巻線組802の各相の巻線821、822、823には、第2系統の三相インバータ回路682から電圧が印加される。
【0041】
図8に示すように、二系統構成の三相モータ800は、二組の三相巻線組801、802が同軸に設けられた二重巻線回転機をなしている。二組の三相巻線組801、802は電気的特性が同等であり、例えば共通のステータに、互いに電気角30[deg]ずらして配置されている。その場合、第1系統及び第2系統の各相に発生する逆起電圧は、電圧振幅A、回転数ω、位相θに基づき、例えば式(2.1)~(2.3)、(2.4a)~(2.6a)により表される。
【0042】
Eu1=-Aωsinθ ・・・(2.1)
Ev1=-Aωsin(θ-120) ・・・(2.2)
Ew1=-Aωsin(θ+120) ・・・(2.3)
Eu2=-Aωsin(θ+30) ・・・(2.4a)
Ev2=-Aωsin(θ-90) ・・・(2.5a)
Ew2=-Aωsin(θ+150) ・・・(2.6a)
【0043】
なお、二系統の位相関係を逆にした場合、例えばU2相の位相(θ+30)は(θ-30)となる。その場合、第2系統の各相に発生する逆起電圧は、式(2.4a)~(2.6a)に代えて式(2.4b)~(2.6b)で表される。さらに、30[deg]と等価な位相差は、一般化して(30±60×k)[deg](kは整数)と表される。或いは第2系統が第1系統と同位相に配置されてもよい。
【0044】
Eu2=-Aωsin(θ-30) ・・・(2.4b)
Ev2=-Aωsin(θ+90) ・・・(2.5b)
Ew2=-Aωsin(θ-150) ・・・(2.6b)
【0045】
Hブリッジ回路67の駆動対象であるDCモータについては、代表としてチルトアクチュエータ20用のDCモータ720の一台のみについて説明する。二台以上のDCモータを駆動する場合は同様の構成が複数設けられる。DCモータ720への通電時、巻線724に、回転数ωdに比例した逆起電圧Edが発生する。比例定数をEとすると、逆起電圧Eは、式「Ed=-Eωd」で表される。また、DCモータ720に通電される直流電流をIdcと記す。
【0046】
次に、一系統、二系統の回路構成例について順に説明する。「第1の回路」である三相インバータ回路68、及び、「第2の回路」であるHブリッジ回路67において直列接続された一組の高電位側及び低電位側スイッチング素子を「レッグ」とする。図6に示す一系統の回路構成例では、Hブリッジ回路67の片側のレッグが三相インバータ回路68のU相レッグと共有されている。図示の都合上、符号「67」は、非共有側レッグを指しているように見えるが、実際には、三相インバータ回路68のU相レッグと非共有側レッグとを合わせた部分を指している。
【0047】
このように、三相インバータ回路68の一相(例えばU相)のレッグと、Hブリッジ回路67の片側のレッグとが共有されて構成される電力変換回路を、本明細書では「統合電力変換回路」という。図6の回路構成例では、一系統の三相インバータ回路68とHブリッジ回路67とが統合電力変換回路60をなしている。
【0048】
統合電力変換回路60は、高電位線Lpを介して電源Btの正極と接続され、低電位線Lgを介して電源Btの負極と接続されている。電源Btは、例えば基準電圧12[V]のバッテリである。電源Btから統合電力変換回路60に入力される直流電圧を「入力電圧Vr」と記す。
【0049】
統合電力変換回路60の電源Bt側には高電位線Lpと低電位線Lgとの間にコンデンサCが設けられている。電源BtとコンデンサCとの間の電流経路において、電源Bt側に電源リレーPr、コンデンサC側に逆接保護リレーPRが直列接続されている。電源リレーPr及び逆接保護リレーPRは、MOSFET等の半導体スイッチング素子もしくは機械式リレー等により構成され、オフ時に電源Btから統合電力変換回路60への通電を遮断可能である。電源リレーPrは、電源Btの電極が正規の向きに接続されたときに流れる方向の電流を遮断する。逆接保護リレーPRは、電源Btの電極が正規の向きとは逆向きに接続されたときに流れる方向の電流を遮断する。
【0050】
三相インバータ回路68は、ブリッジ接続された高電位側及び低電位側の複数のインバータスイッチング素子IUH、IUL、IVH、IVL、IWH、IWLの動作により電源Btの直流電力を三相交流電力に変換し、三相モータ800に通電する。詳しくは、インバータスイッチング素子IUH、IVH、IWHは、それぞれU相、V相、W相の高電位側に設けられる上アーム素子であり、インバータスイッチング素子IUL、IVL、IWLは、それぞれU相、V相、W相の低電位側に設けられる下アーム素子である。以下、同相の上アーム素子と下アーム素子とをまとめて、符号を「IUH/L、IVH/L、IWH/L」と記す「IUH/L」はU相レッグの符号に相当する。
【0051】
三相インバータ回路68の各相の下アーム素子IUL、IVL、IWLと低電位線Lgとの間には、各相を流れる相電流Iu、Iv、Iwを検出する電流センサSAU、SAV、SAWが設置されている。電流センサSAU、SAV、SAWは、例えばシャント抵抗で構成される。
【0052】
Hブリッジ回路67の非共有側レッグは、DCモータ端子Mdcを介して直列接続された高電位側のスイッチング素子MUH、及び、低電位側のスイッチング素子MULにより構成される。以下、非共有側レッグを構成する一組のスイッチング素子を「DCモータ用スイッチング素子」と称する。インバータスイッチング素子と同様に、高電位側及び低電位側のスイッチング素子をまとめてDCモータ用スイッチング素子の符号を「MUH/L」と記す。
【0053】
三相インバータ回路68の各相インバータスイッチング素子IUH/L、IVH/L、IWH/L、及び、DCモータ用スイッチング素子MUH/Lは、例えばMOSFETである。その他、スイッチング素子は、MOSFET以外の電界効果トランジスタやIGBT等であってもよい。ここで、DCモータ720に通電される電流は、三相モータ800に流れる相電流よりも小さい。そのため、DCモータ用スイッチング素子MUH/Lは、インバータスイッチング素子IUH/L、IVH/L、IWH/Lよりも電流容量が小さいスイッチが使用されてもよい。
【0054】
三相巻線組のU相電流経路の分岐点Juには、DCモータ720の一方の端子である第1端子T1が接続されている。DCモータ720の他方の端子である第2端子T2は、Hブリッジ回路67における一組の高電位側及び低電位側スイッチング素子の間のDCモータ端子Mdcに接続されている。DCモータ用スイッチング素子MUH/LはDCモータ720を介してU相巻線811に接続されている。以下、三相モータ800におけるDCモータ720が接続された相を「接続相」と記す。DCモータ用スイッチング素子の符号「MUH/L」の「U」は接続相であるU相を意味する。なお、二台以上のDCモータが共通の三相モータ800に接続される場合、各DCモータの接続相は同じ相でも異なる相でもよい。
【0055】
三相インバータ回路68に流れる相電流Iu、Iv、Iwに対し、三相巻線組に通電される相電流をIu#、Iv#、Iw#と記す。図6の例では接続相であるU相電流経路の分岐点Juにおいて相電流Iuの一部がDCモータ電流Idcとして分かれる。分岐点Juの三相インバータ回路68側に流れるインバータ相電流Iu、Iv、Iwと、分岐点Juの三相モータ800側に通電されるモータ相電流Iu#、Iv#、Iw#との関係は、式(3.1)~(3.4)により表される。式(3.4)の関係は第2、第3実施形態で利用される。
【0056】
Iu#=-Iv-Iw ・・・(3.1)
Iv#=Iv ・・・(3.2)
Iw#=Iw ・・・(3.3)
Idc=Iu-Iu#=Iu+Iv+Iw ・・・(3.4)
【0057】
DCモータ720において、第1端子T1から第2端子T2に向かう電流Idc方向を正方向とし、第2端子T2から第1端子T1に向かう電流Idcの方向を負方向とする。第1端子T1と第2端子T2との間には端子間電圧Vxが印加される。端子間電圧Vxの符号は、第1端子T1の電圧が第2端子T2の電圧より高いときを正とする。DCモータ720は、正方向に通電されたとき正転し、負方向に通電されたとき逆転する。
【0058】
制御部400は、電流センサSAU、SAV、SAWが検出した相電流検出値Iu、Iv、Iw、及び、三相モータ800の電気角θ又は角速度ωに基づき、三相モータ800の動作を制御する。また制御部400は、三相モータ800の三相電圧指令値の中心電圧を操作しながら、三相インバータ回路68に「ゲート信号」を出力する。それと同時に制御部400は、DCモータ720の回転方向に応じて、DCモータ用スイッチング素子MUH/Lの一方をONし、他方をOFFするように「DCモータ駆動指令」を出力する。
【0059】
つまり、DCモータ720の正方向に通電するとき、制御部400は、低電位側スイッチング素子をONし、高電位側スイッチング素子をOFFすると共に、接続相の分岐点Juの電圧をDCモータ端子Mdcの電圧よりも高く設定して、端子間電圧Vxを正の値に調整する。また、DCモータ720の負方向に通電するとき、制御部400は、高電位側スイッチング素子をONし、低電位側スイッチング素子をOFFすると共に、接続相の分岐点Juの電圧をDCモータ端子Mdcの電圧よりも低く設定して、端子間電圧Vxを負の値に調整する。
【0060】
以上のように、三相モータ800に通電する三相インバータ回路68、及び、DCモータ720に通電するHブリッジ回路67は、三相インバータ回路68の一相のレッグとHブリッジ回路67の片側のレッグとを共有する統合電力変換回路60をなしている。そのため、複数のモータを駆動対象とする電力変換回路を小型化することができる。
【0061】
また、本実施形態の制御部400は、エンド当て判定部50を有している。後述する複数の実施形態のうち第1実施形態では、エンド当て判定部50は、破線で示すように、DCモータ720の電流経路に設けられた電流センサ75からDCモータ電流値の検出値Idc_snsを取得する。第2~第4実施形態では、エンド当て判定部50は、制御部400に入力された相電流検出値Iu、Iv、Iwや三相モータ800の角速度ωの情報に基づき、DCモータ電流値Idcを推定する。以下、文脈に応じて、「DCモータ電流」と「DCモータ電流値」のように「値」の有無が併存する場合がある。基本的には「電流値」は「値」であることを強調した語であるが、厳密に区別するものではない。
【0062】
図7に示す二系統の回路構成例では、三相モータ800に通電する「第1の回路」68(符号は図8参照)が二系統の三相インバータ回路681、682により構成される。第1系統の三相インバータ回路681は、三相巻線組801のU1相、V1相、W1相の巻線811、812、813に接続されている。第2系統の三相インバータ回路682は、三相巻線組802のU2相、V2相、W2相の巻線821、822、823に接続されている。第2系統の構成要素の符号及び電流の記号は、第1系統の構成要素の符号及び電流の記号の「1」を「2」に置き換えて表される。また、第2系統の構成要素について、第1系統の構成要素についての説明が援用される。
【0063】
第1系統の三相インバータ回路681には、インバータスイッチング素子IU1H/L、IV1H/L、IW1H/L、及び、各相電流Iu1、Iv1、Iw1を検出する電流センサSAU1、SAV1、SAW1が設けられている。三相インバータ回路681の電源Bt側にはコンデンサC1が設けられている。また、電源Btと三相インバータ回路681との間に、電源リレーP1r及び逆接保護リレーP1Rが設けられている。電源Btから三相インバータ回路681に入力される直流電圧を「入力電圧Vr1」と記す。三相巻線組801には相電流Iu1#、Iv1#、Iw1#が通電される。
【0064】
図7の構成例では、第1系統の回路が図6に示す一系統の回路と同様に構成される。つまり、第1系統の三相巻線組801の接続相であるU1相電流経路の分岐点JuにDCモータ720の第1端子T1が接続されており、第1系統の三相インバータ回路681のU1相レッグがHブリッジ回路67の片側のレッグと共有されている。一方、第2系統の回路はDCモータ720とは直接接続されておらず、専ら三相モータ800の駆動にのみ用いられる。また、制御部400がエンド当て判定部50を有する点やエンド当て判定部50への信号入力についても図6と同様であるため省略する。以下の説明では一系統構成を基本として示す。三相モータ800が二系統構成の場合、第1系統の制御に対し、適宜第2系統の制御を追加して解釈すればよい。
【0065】
[基本的な制御アルゴリズム]
次に図9を参照し、制御部400が一系統構成の三相モータ800及びDCモータ720を駆動する基本的な制御アルゴリズムの例について説明する。制御部400は、q軸電流偏差算出器43、q軸電流制御器44、d軸電流偏差算出器45、d軸電流制御器46、dq/三相変換部47、中性点電圧操作部48及びPWM変調器49を備える。
【0066】
q軸電流偏差算出器43は、q軸電流指令Iq*と、フィードバックされたq軸電流Iqとのq軸電流偏差ΔIqを算出する。q軸電流制御器44は、q軸電流偏差ΔIqを0に近づけるように、言い換えればq軸電流Iqがq軸電流指令Iq*に追従するようにq軸電圧指令Vq*を演算する。なお、q軸電流指令Iq*は、トルク制御、位置制御、速度制御、電流制御、電圧制御等により演算される。また、必要に応じて電流制限値以下に制限されてもよい。
【0067】
d軸電流偏差算出器45は、d軸電流指令Id*と、フィードバックされたd軸電流Idとのd軸電流偏差ΔIdを算出する。d軸電流制御器46は、d軸電流偏差ΔIdを0に近づけるように、言い換えればd軸電流Idがd軸電流指令Id*に追従するようにd軸電圧指令Vd*を演算する。
【0068】
dq/三相変換部47は、dq軸電圧指令Vq*、Vd*を三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に座標変換する。なお、座標変換演算のためdq/三相変換部47に入力される電気角θの信号図示を省略する。dq/三相変換部47が出力する三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の中心電圧は0[V]である。
【0069】
中心電圧操作部48は、オフセット電圧Vm*を用いて三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の中心電圧を操作する。例えば入力電圧Vrが12[V]の場合、DCモータ720が非駆動状態での中心電圧は6[V]にオフセットされる。DCモータ720の正方向に通電するとき、要求トルクが大きいほど正の端子間電圧の絶対値|Vx|が大きくなるように、中心電圧は12[V]に近い値にオフセットされる。DCモータ720の負方向に通電するとき、要求トルクが大きいほど負の端子間電圧の絶対値|Vx|が大きくなるように、中心電圧は0[V]に近い値にオフセットされる。
【0070】
PWM変調器49は、中心電圧操作後の三相電圧指令をPWM変調し、ゲート信号を生成する。PWM変調器49が出力したゲート信号は、図6に示す三相インバータ回路68のインバータスイッチング素子IUH/L、IVH/L、IWH/Lの各ゲートに入力される。
【0071】
[エンド当て判定部の構成]
次に図10(a)、(b)を参照し、区間移動アクチュエータにおけるエンド当てについて説明する。図10(a)には、区間移動アクチュエータを代表してチルトアクチュエータの符号「20」を用い、区間移動アクチュエータの構成例を模式的に示す。
【0072】
例えば区間移動アクチュエータ20は、区間の両端に設けられたエンド部材27、28の間にボールねじ23が回転可能に支持されている。ボールねじ23は、DCモータ720の出力軸に連結されており、DCモータ720の回転に従って正逆方向に回転する。これに伴い、ボールねじ23に螺合した移動体24が、図示しない機構によりガイドされてエンド部材27、28の間を往復移動する。そして、移動体24が一方のエンド部材27又は他方のエンド部材28に当接すると、エンド当て状態となる。
【0073】
ここで、DCモータ720の印加電圧Vxは、巻線724のインダクタンスL及び抵抗R、微分演算子s、逆起電圧Eωdを用いて、式(4)で表される。
Vx=(Ls+R)×Idc+Eωd ・・・(4)
【0074】
エンド当て状態では回転が停止し角速度ωd=0となるため、逆起電圧項が0となる。したがって図10(b)に示すように、通常駆動時からエンド当てしたとき、DCモータ電流値の絶対値|Idc|が急激に増加する。この現象を利用して、エンド当て判定部50は、検出又は推定されたDCモータ電流値の絶対値|Idc|が急激に増加したことに基づきエンド当てを判定する。
【0075】
続いて図11図22を参照し、各実施形態によるエンド当て判定について順に説明する。エンド当て判定の一つの方法については、第1~第4実施形態の構成を説明した後、図20のフローチャートを参照して説明する。また、エンド当て判定の別の方法については、第5実施形態の構成を説明した後、図22のフローチャートを参照して説明する。以下、各実施形態のエンド当て判定部の符号は、「50」に続く3桁目に実施形態の番号を付す。
【0076】
(第1実施形態)
図11に第1実施形態のエンド当て判定部501の構成を示す。図6に破線で示すように、第1実施形態ではDCモータ720の電流経路に電流センサ75が設けられている。エンド当て判定部501は、電流センサ75から取得したDCモータ電流値の検出値Idc_snsを用いてエンド当てを判定する。第1実施形態ではDCモータ電流Idcの推定演算をしないため、演算負荷を低減することができる。
【0077】
(第2~第4実施形態の共通事項)
第2~第4実施形態では、図6に破線で示すDCモータ電流センサ75は設けられないことを前提とする。第2~第4実施形態のエンド当て判定部502、503、504は、三相モータ800の接続相の相電流検出値Iuに基づいてDCモータ電流値Idcを推定し、推定したDCモータ電流値Idc_estを用いてエンド当てを判定する。第2~第4実施形態では、DCモータ電流センサ75が不要であるため、搭載スペースや部品コスト低減の点で有利となる。
【0078】
図12を参照し、DCモータ電流値Idcの推定原理について説明する。三相インバータ回路68のDuty動作により、三相モータ800のU相電流Iu#は中性点Nから低電位線Lgに太実線矢印の経路で流れる。また、高電位側のDCモータ用スイッチング素子MUHがONし、電位側のDCモータ用スイッチング素子MUがOFFしたとき、DCモータ電流Idcは太破線矢印の経路で流れる。
【0079】
したがって、電流センサSAUには、U相電流Iu#にDCモータ電流Idcが重畳した電流Iuが流れる。つまり、U相電流Iu#にDCモータ電流Idcが重畳した値が、電流センサSAUによりU相電流検出値Iuとして検出される。そこでエンド当て判定部502、503、504は、U相電流検出値IuからDCモータ電流Idcを抽出することで、DCモータ電流Idcを推定することができる。
【0080】
以下の図14図16図18には、DCモータ720の通電開始時に正のDCモータ電流Idcが重畳したU相電流検出値Iuの波形を示す。時刻tsに通電を開始すると、突入電流によりDCモータ電流値Idcが増加し、時刻tpにピークに達する。時刻tp後、DCモータ電流値Idcは漸減する。仮にDCモータ720の通電中にエンド当てすると、図10(b)に参照されるように、DCモータ電流値Idcは急激に増加する。
【0081】
(第2実施形態)
図13図14を参照し、第2実施形態のエンド当て判定部502について説明する。三相モータ800の各相巻線811、812、813に流れる三相電流Iu#、Iv#、Iw#の和は理論的にゼロである。そのため、上述の式(3.4)の通り、三相の相電流検出値Iu、Iv、Iwの和とゼロとの差分がDCモータ電流値Idcに相当する。そこでエンド当て判定部502は、U相電流検出値Iu、V相電流検出値Iv及びW相電流検出値Iwを加算することで、重畳したDCモータ電流Idcを抽出する。このようにエンド当て判定部502は、三相モータ800の三相の電流検出値Iu、Iv、Iwの和をDCモータ電流値Idc_estとして推定する。
【0082】
(第3実施形態)
図15図16を参照し、第3実施形態のエンド当て判定部503について説明する。U相電流検出値Iuは、三相モータ800のU相巻線811への通電に係るU相電流指令値Iu*にDCモータ電流値Idcを加えた値となる。そこでエンド当て判定部503は、U相電流検出値IuからU相電流指令値Iu*を減じることで、重畳したDCモータ電流Idcを抽出する。この考え方は、式(3.4)において、モータ相電流Iu#をU相電流指令値Iu*に置き換えた式に相当する。このように、エンド当て判定部503は、三相モータ800の接続相の相電流検出値と相電流指令値との差分をDCモータ電流値Idc_estとして推定する。
【0083】
(第4実施形態)
図17図18を参照し、第4実施形態のエンド当て判定部504について説明する。エンド当て判定部504は、相電流検出値Iuをフィルタ処理して交流電流成分と直流電流成分とに分離するローパスフィルタ541を有している。ローパスフィルタ541により、交流電流成分に重畳した直流電流成分がDCモータ電流Idcとして抽出される。このように、エンド当て判定部504は、三相モータ800の接続相の相電流検出値をフィルタ処理して交流電流成分と直流電流成分とに分離し、当該直流電流成分の値をDCモータ電流値Idc_estとして推定する。
【0084】
図19に第4実施形態の変形例のエンド当て判定部504Tを示す。エンド当て判定部504Tは、ローパスフィルタ541に加え、カットオフ周波数設定部542を有している。カットオフ周波数設定部542は、三相モータ800の角速度ωに応じてカットオフ周波数fcoを変更する。具体的には、低速域ではカットオフ周波数fcoを小さくし、高速域ではカットオフ周波数fcoを大きくする。高速になるほど交流電流の周波数が高くなるため、カットオフ周波数fcoを大きくすることで、DCモータ電流値Idcの抽出速度及び精度が向上する。
【0085】
ローパスフィルタ541によるフィルタ処理のカットオフ周波数fcoとフィルタ時定数τとの関係は、fco=(1/2πτ)で表されるため、カットオフ周波数fcoを変更することとフィルタ時定数τを変更することは実質的に同じ意味である。このように、エンド当て判定部504Tは、三相モータ800の角速度ωに応じてフィルタ処理のフィルタ時定数τを変更する。
【0086】
(第1~第4実施形態のエンド当て判定)
次に図20のフローチャートを参照し、第1~第4実施形態により検出又は推定したDCモータ電流値Idcに基づくエンド当て判定について説明する。フローチャートの記号「S」はステップを示す。図20の説明ではエンド当て判定部の総括符号である「50」を用いる。S13でエンド当て判定部50は、DCモータ電流値Idcを検出又は推定する。
【0087】
S14では、DCモータ電流値の絶対値|Idc|が電流閾値Idc_thを上回ったか判断される。この例では、S14でYESと判断された回数をカウントし、所定回数に達したとき、S14の肯定判断を確定する。S14でNOの場合、S15で「カウント値=0」が出力され、ルーチンを終了する。S14でYESの場合、S16でカウント値がインクリメントされる。
【0088】
S17では、カウント値が閾値Count_thに達したか判断され、NOの場合、S14からの処理が繰り返される。S17でYESの場合、S18でエンド当て判定部50は、エンド当て状態であると判定し、DCモータ720への通電を停止する。
【0089】
以上のように第1~第4実施形態では、エンド当て判定部50は、DCモータ電流値の絶対値|Idc|が電流閾値Idc_thを上回ったことに基づき、エンド当てを判定可能である。また、区間移動アクチュエータがエンド当て状態であると判定されたとき、制御部400は、DCモータ720への通電を停止することで、DCモータ720に過電流が流れることや、過大な推力の発生により機構が破損することを未然に防止することができる。
【0090】
(第5実施形態)
次に図21図22を参照し、第5実施形態によるエンド当て判定について説明する。図21には、図9に示す制御アルゴリズムに加え、中心電圧操作部48において三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の中心電圧を操作するオフセット電圧Vm*の演算が追加された構成を示す。
【0091】
制御部400は、図9の構成に加え、DCモータ電流偏差算出器55及びDCモータ電流制御器56を備える。DCモータ電流偏差算出器55は、DCモータ電流指令Idc*と、フィードバックされたDCモータ電流値IdcとのDCモータ電流偏差ΔIdcを算出する。フィードバックされるDCモータ電流値Idcは、第1実施形態のような検出値Idc_snsでもよく、第2~第4実施形態と同様に推定された推定値Idc_estでもよい。
【0092】
DCモータ電流制御器56は、DCモータ電流偏差ΔIdcを0に近づけるように、言い換えればDCモータ電流IdcがDCモータ電流指令Idc*に追従するようにオフセット電圧Vm*を演算し、相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の中心電圧を操作する。上述の通り、DCモータ用スイッチング素子MUH/LのON/OFFに合わせて中心電圧が操作されることで、DCモータ720の端子間電圧Vxが変化する。そして、端子間電圧の絶対値|Vx|に伴って、DCモータ電流値の絶対値|Idc|が変化する。変化後のDCモータ電流値Idcは、DCモータ電流偏差算出器55にフィードバックされる。
【0093】
このように制御部400は、三相モータ800の相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の中心電圧を操作量とするフィードバック制御によりDCモータ電流値Idcを制御する。この制御は、DCモータでの一般的なオープン制御とは異なり、三相モータの制御と同様に、DCモータのトルクを正確に制御しようとする思想によるものである。
【0094】
この制御構成において、エンド当てによりDCモータ電流値の絶対値|Idc|が急激に増加すると、DCモータ電流制御器56は、端子間電圧の絶対値|Vx|を小さくする方向に相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の中心電圧を操作する。そこで、第5実施形態のエンド当て判定部505は、例えばオフセット電圧Vm*の変化に基づいて端子間電圧の絶対値|Vx|が小さくなったことを認識し、これに基づきエンド当てを判定する。
【0095】
図22に、第5実施形態によるエンド当て判定について説明する。制御部400は、S51でDCモータ電流値Idcを指令値Idc*に対してフィードバックし、S52で三相モータ800の相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の中心電圧を操作する。S53でエンド当て判定部505は、例えばオフセット電圧Vm*に基づき、端子間電圧Vxの情報を取得する。この取得には算出や検出が含まれる。
【0096】
S54では、端子間電圧の絶対値|Vx|が電圧閾値Idc_thを下回ったか判断される。S54の後のS15~S18は、図20のフローチャートと同じでるため、同一のステップ番号を付して説明を省略する。
【0097】
第5実施形態では、エンド当て判定部505は、端子間電圧の絶対値|Vx|が電圧閾値Idc_thを下回ったことに基づき、エンド当てを判定可能である。また、エンド当てが発生したとき、フィードバック制御により端子間電圧の絶対値|Vx|が抑制されるため、それ自体で、DCモータ720に過電流が流れることや、過大な推力の発生により機構が破損することを未然に防止することができる。
【0098】
(その他の実施形態)
(a)本発明においてDCモータは、チルトアクチュエータやテレスコピックアクチュエータの他、ステアリングロック、シート、スライドドア等、所定の区間で移動体を往復移動させる各種の区間移動アクチュエータに用いることができる。また、多相モータは、EPSの操舵アシストモータに限らない。例えば、多相モータとDCモータとが近接配置される車両用モータとして、ブレーキの油圧ポンプ用のモータと電動パーキングブレーキ用のモータ、電動ウォーターポンプのモータと電動ファンのモータなどの組み合わせに適用可能である。さらに、本発明は車載用以外のモータに適用されてもよい。
【0099】
(b)区間移動アクチュエータにおいて移動体を移動させる機構は、図10(a)に例示したボールねじを用いるものに限らず、減速ギヤ機構やラックアンドピニオン機構等を適宜組み合わせて構成されてもよい。DCモータ自体が移動体と共に移動するように構成されてもよい。
【0100】
(c)「多相モータ」は三相モータに限らず、四相以上のモータであってもよい。その場合、第2実施形態における「三相モータの三相の電流検出値の和」は、「多相モータの全相の電流検出値の和」に一般化される。
【0101】
(d)図6図7に示した一系統又は二系統の回路構成に対し、三相モータリレーやDCモータリレーが追加されたり、入力部にLCフィルタ回路が追加されたりしてもよい。第1の回路と第2の回路とが共通の電源Btに接続されるのでなく、個別の電源に接続されてもよい。また、二台以上のDCモータが、同一系統の同じ相もしくは異なる相、又は、それぞれ別の系統に接続されてもよい。
【0102】
本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【0103】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0104】
10・・・ECU(モータ制御装置)、
20・・・チルトアクチュエータ(区間移動アクチュエータ)、 24・・・移動体、
30・・・テレスコピックアクチュエータ(区間移動アクチュエータ)、
400・・・制御部、
50(501-505)・・・エンド当て判定部、
60・・・統合電力変換回路、
67・・・Hブリッジ回路(第2の回路)、
68(681、682)・・・三相インバータ回路(第1の回路)、
720、730・・・DCモータ(直流モータ)、
800・・・三相モータ(多相モータ)。
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