(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】遠隔支援システム、遠隔支援装置、及び遠隔支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/40 20240101AFI20240110BHJP
G08G 1/09 20060101ALI20240110BHJP
H04Q 9/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G06Q50/30
G08G1/09
H04Q9/00 301B
(21)【出願番号】P 2020201323
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眞方山 貴也
【審査官】久宗 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-175209(JP,A)
【文献】特開2020-175715(JP,A)
【文献】特開2018-142265(JP,A)
【文献】特開2019-160146(JP,A)
【文献】再公表特許第2020/183690(JP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3115858(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0330605(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G08G 1/09
H04Q 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調整部を含む管制装置と、監視対象の車両の各々に対応した監視装置の各々とを含む遠隔支援システムであって、
前記調整部は、異常事象の発生を契機として前記車両ごとに行われる、監視員が対応する遠隔支援のタスクについて、異常事象の発生状況を示す異常発生情報が複数得られ、複数の前記タスクの各々を処理する場合に、前記タスクについて予定されている開始時間よりも前記タスクの開始時間を前倒すことを含むタスク処理順序の組み合わせについて計算されたコストに基づいて、前記タスクの各々の開始時間を調整し、
前記監視装置の各々は、前記調整部による調整結果に応じて、所定の案内の継続時間、及び前記タスクの開始時間を更新する、
遠隔支援システム。
【請求項2】
前記調整部は、前記コストに応じて前記予定されている開始時間よりも早い開始時間となる車両のタスクについては、前記予定されている開始時間に対して前記タスクの開始時間を前倒すように調整し、
前記調整結果において開始時間を前倒す車両に対応した前記監視装置は、前記案内の継続時間を短縮し、短縮後の前記案内の終了後に前記タスクを開始する請求項1に記載の遠隔支援システム。
【請求項3】
前記調整部は、前記コストに応じて前記予定されている開始時間よりも遅い開始時間となる車両のタスクについては、前記予定されている開始時間に対して前記タスクの開始時間を後ろ倒すように調整し、
前記調整結果において開始時間を後ろ倒す車両に対応した前記監視装置は、前記案内の継続時間を延長し、延長後の前記案内の終了後に前記タスクを開始する請求項1又は請求項2に記載の遠隔支援システム。
【請求項4】
前記調整部は、前記タスク処理順序の各々について、前記監視員の作業状況に応じて前後させた前記タスクの開始時間と、タスク種別に応じた優先度とを用いて前記タスクの各々についてのタスクコストを計算し、前記タスクコストの和を前記コストとして計算し、前記タスク処理順序を決定する請求項1~請求項3の何れか1項に記載の遠隔支援システム。
【請求項5】
前記タスクを前倒す場合の当該タスクの前倒し相当の値を用いて前記タスクコストを計算する請求項4に記載の遠隔支援システム。
【請求項6】
前記タスクの種別に応じて前記優先度の値が時系列の各時点において設定されている請求項4又は請求項5に記載の遠隔支援システム。
【請求項7】
前記調整部は、前記タスクの各々を二以上の前記監視員に時系列に割り当てた前記タスク処理順序の組み合わせの各々について前記コストを計算する請求項1~請求項6の何れか1項に記載の遠隔支援システム。
【請求項8】
前記調整部は、前記監視員を追加した場合に、前記タスク処理順序の組み合わせにおいて当該追加した監視員の準備時間を含むようにして、前記コストを計算する請求項7に記載の遠隔支援システム。
【請求項9】
前記調整部は、前記監視員が遠隔支援を行っている前記タスクの延長の発生が予測された場合に、前記コストを再計算する請求項1~請求項8の何れか1項に記載の遠隔支援システム。
【請求項10】
前記監視員の遠隔支援の作業の進捗と、前記監視員が遠隔支援を行っている前記タスクについて予定されている進捗とに基づいて、前記監視員の作業が予定通り進捗しているか否かを判定し、前記監視員の作業が予定通り進捗していないと判定した場合に、前記タスクの延長が発生すると予測する請求項9に記載の遠隔支援システム。
【請求項11】
前記管制装置は表示部を更に含み、
前記表示部は、調整された前記タスクの開始時間を含む車両管制情報を表示する請求項1~請求項10の何れか1項に記載の遠隔支援システム。
【請求項12】
前記監視装置は監視制御部を更に含み、
前記調整部は、前記調整による前記タスクの開始時間を含む調整結果を前記監視装置へ送信し、
前記監視制御部は、前記調整結果に応じて監視員の呼び出し時間を示す設定値を更新し、更新された当該設定値に従って、前記監視員の呼び出しを開始する請求項1~請求項11の何れか1項に記載の遠隔支援システム。
【請求項13】
異常事象の発生を契機として車両ごとに行われる、監視員が対応する遠隔支援のタスクについて、異常事象の発生状況を示す異常発生情報が複数得られ、複数の前記タスクの各々を処理する場合に、前記タスクについて予定されている開始時間よりも前記タスクの開始時間を前倒すことを含むタスク処理順序の組み合わせについて計算されたコストに基づいて、所定の案内の継続時間、及び前記タスクの各々の開始時間を調整する調整部、
を含む遠隔支援装置。
【請求項14】
異常事象の発生を契機として車両ごとに行われる、監視員が対応する遠隔支援のタスクについて、異常事象の発生状況を示す異常発生情報が複数得られ、複数の前記タスクの各々を処理する場合に、前記タスクについて予定されている開始時間よりも前記タスクの開始時間を前倒すことを含むタスク処理順序の組み合わせについて計算されたコストに基づいて、所定の案内の継続時間、及び前記タスクの各々の開始時間を調整する、
処理をコンピュータに実行させる遠隔支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遠隔支援システム、遠隔支援装置、及び遠隔支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動運転車の遠隔制御を管理するための技術がある。
【0003】
例えば、複数台の自動運転車の遠隔制御に係る作業(タスク)について、コスト計算を実施し、最小コストとなる順序でタスクをオペレータ(監視員)に割り当てる技術がある(特許文献1参照)。この技術では、タスクの発生予測時刻(遠隔制御の対象となる時刻)と作業時間及び優先度を算出し、作業時間および優先度に基づき処理順序を決定し、遠隔制御の作業を監視員に割り当てるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、車両の移動に関して必要となる遠隔支援のタスクに対して監視員を割り当てることを行っており、タスクの割り当てを最適化している。これらの遠隔支援のタスクは、車両の移動に伴って、タスクの作業開始時刻が決定されるが、車両の位置に寄らないタスクについては、タスク開始時間を調整することが可能となる。監視員の作業開始時刻を調整(特に前倒し)することが可能なタスクの場合には、作業開始時刻を調整することで自動運転車両に乗車する乗客が快適に利用できると考えられる。ここで、例えば自動運転バスのような車両に多数の乗客を乗車させる場合、トラブル時のストレスが大きくなることが想定されるため、より快適性を確保することが求められる。従来技術では、遠隔支援のタスクに対してタスクの割り当て以外の改善、及び乗客に対する最適化については考慮されていないため、乗客の快適性を確保するための仕組みが必要であると考えられる。
【0006】
また、快適性の確保を想定した仕組みについて、複数のタスクをどのように複数の監視員に割り当てるのかについても考慮が必要である。また、監視員が作業中のタスクが予定されている作業時間よりも延長した場合等、タスクの作業時間の変化が生じた場合についても考慮が必要である。また、タスクの状況等に応じた優先度の変化についても考慮が必要である。また、必ずしも事前にタスクの発生を予想し得るとは限らず、タスクの処理順序を決定した後に追加タスクが発生する場合等、監視員が対処しなければならないタスクの数に変化が生じた場合についても考慮が必要である。
【0007】
本開示は上記事情を鑑みてなされたものであり、待ち時間を考慮して、タスクに関する時間を調整することができる遠隔支援システム、遠隔支援装置、及び遠隔支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る遠隔支援システムは、調整部を含む管制装置と、監視対象の車両の各々に対応した監視装置の各々とを含む遠隔支援システムであって、前記調整部は、異常事象の発生を契機として前記車両ごとに行われる、監視員が対応する遠隔支援のタスクについて、異常事象の発生状況を示す異常発生情報が複数得られ、複数の前記タスクの各々を処理する場合に、前記タスクについて予定されている開始時間よりも前記タスクの開始時間を前倒すことを含むタスク処理順序の組み合わせについて計算されたコストに基づいて、所定の案内の継続時間、及び前記タスクの各々の開始時間を調整し、前記監視装置の各々は、前記調整部による調整結果に応じて、所定の案内の継続時間、及び前記タスクの開始時間を更新する。
【0009】
本開示に係る遠隔支援装置は、異常事象の発生を契機として車両ごとに行われる、監視員が対応する遠隔支援のタスクについて、異常事象の発生状況を示す異常発生情報が複数得られ、複数の前記タスクの各々を処理する場合に、前記タスクについて予定されている開始時間よりも前記タスクの開始時間を前倒すことを含むタスク処理順序の組み合わせについて計算されたコストに基づいて、所定の案内の継続時間、及び前記タスクの各々の開始時間を調整する調整部、を含む。
【0010】
本開示に係る遠隔支援プログラムは、異常事象の発生を契機として車両ごとに行われる、監視員が対応する遠隔支援のタスクについて、異常事象の発生状況を示す異常発生情報が複数得られ、複数の前記タスクの各々を処理する場合に、前記タスクについて予定されている開始時間よりも前記タスクの開始時間を前倒すことを含むタスク処理順序の組み合わせについて計算されたコストに基づいて、所定の案内の継続時間、及び前記タスクの各々の開始時間を調整する、処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本開示の遠隔支援システム、遠隔支援装置、及び遠隔支援プログラムによれば、待ち時間を考慮して、タスクに関する時間を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】複数台の車両で異常事象が発生したことを遠隔支援システムで検知した場合の一例を示す図である。
【
図2】特定の車両に異常事象が発生した場合の遠隔支援システムにおける処理の流れの一例を示す図である。
【
図3】従来手法によってタスクの割り当てをした場合の遠隔支援の一例を示す図である。
【
図4】本実施形態の手法によってタスクの割り当てをした場合の遠隔支援の一例を示す図である。
【
図5】本開示の各実施形態に係る遠隔支援システムの構成を示すブロック図である。
【
図6】管制装置及び監視装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図7】異常事象の種類、注意喚起、及び呼出予告の一覧を示す図である。
【
図8】複数のタスクの組み合わせごとのコスト計算の一例を示す図である。
【
図9】監視制御部の監視制御処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図10】監視制御部の更新処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図11】案内部の案内処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図12】調整部の調整処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図13】車両管制情報の表示の一例を示す図である。
【
図14】第2実施形態について、タスクの割り当てで監視員1にタスクが集中した場合の一例を示す図である。
【
図15】第2実施形態について、タスクの割り当てで監視員1及び監視員2にタスクを分散させた場合の一例を示す図である。
【
図16】複数の監視員及び複数のタスクの組み合わせごとのコスト計算の一例を示す図である。
【
図17】第3実施形態について、遠隔支援が延長した場合に再計算しなかった場合の一例を示す図である。
【
図18】第3実施形態について、遠隔支援が延長した場合に再計算する場合の一例を示す図である。
【
図19】第3実施形態について、調整部の再計算処理ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の各実施形態(以下、本実施形態と記載する)について図面を用いて説明する。
【0014】
まず本実施形態の遠隔支援システムの概要について説明する。遠隔支援システムは、平時には車内を遠隔監視し、異常事象の発生時には遠隔支援を行うシステムである。遠隔監視とは、車内の状況を監視員が監視することを指す。また、車内で発生する異常事象の種類や程度によっては、監視員の処置を必要とする異常事象があるため、処置が必要な場合に遠隔支援を行う。遠隔支援とは、監視員が車内にいる乗客に呼びかける、又は乗客と対話を行う等の処置を行うことにより、車内で発生している異常事象の解決を支援することを指す。当然のことながら、遠隔支援は、発生した異常事象を解消するために行われる処置を指し、ここで述べられた処置に限らないことは言うまでもない。監視員は、遠隔地から管制装置を介して遠隔監視、又は遠隔支援を行う。また、以下に説明するタスクとは、監視員に割り当てられる遠隔支援の作業を指す。なお、タスクには、例えば、異常事象の種類に応じて必要作業時間があらかじめ定められていることとする。
【0015】
遠隔支援システムでは監視員の数以上の複数台の車両を担当することが想定される。車両や車室内設備等の自動化が進むと、車内の異常に対応する頻度が低減するため監視員1人が複数台の車両を担当することが予想されるからである。遠隔支援システムでは、管制装置が、同時刻に監視員の数以上の車両から支援を要求する支援要求を受信した場合に、対応待ち車両が発生する。ここで、同時刻に支援要求を受信するケースには、特定のタスクを対応中に別のタスクの支援要求が発生することを含む。このような場合を想定して、遠隔支援システムでは、支援要求の発生時刻を予測しながらタスクスケジュールを管理する。車両は、運転手による手動運転が行われていても、自動運転が行われていてもどちらでもよいが、特に断りがない場合、以降では、自動運転が行われている車両の例について説明する。なお、自動運転とは、非特許文献1においてレベル3以上に相当する運転自動化レベルを指し、手動運転とは、非特許文献1においてレベル2以下に相当する運転自動化レベルを指す。以下、本実施形態で想定する車両は、自動運転バスを想定するが、遠隔支援システムが管理する車両全般に適用可能である。
【0016】
[非特許文献1]
高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 官民データ活用推進戦略会議“官民ITS構想ロードマップ2020”、内閣府、2020年7月15日、p.23
【0017】
上述したように、複数台の車両を1人で監視する監視員には、偶発的に複数台の車両が同時に遠隔支援を必要とする場合がある。特定の監視員に遠隔支援要求が集中すると共に負荷が増加して、監視員が異常事象に対応開始するまでの時間が長くなり、車内の乗客は異常事象が継続した車内に滞在し続けることとなるため、不安感を誘発するという課題があった。特に、乗客の身体的な傷害を伴う異常事象の場合は、対応が遅れると生命の危険が発生する。また、車内の安全を阻害する異常事象の場合は、車内事故の発生に繋がってしまう。よって、複数台の車両から遠隔支援要求が発生した場合は、異常事象の種類や影響度に応じて適切な順序やタイミングで対応し、可能であればタスクの開始時間を前倒すことが望ましい。
【0018】
以上を鑑みて、本実施形態の遠隔支援システムでは、異常事象が発生した場合に、事前にタスクの優先度に基づいて監視員へのタスクの割り当てを調整する。また、調整結果に応じて、タスクの開始時間を更新すると共に、遠隔支援の前に実施する車内の案内の継続時間を更新する。以上により、監視員の負荷を平滑化し、かつ、乗客の安心感を向上させることができる。
【0019】
図1は、複数台の車両で異常事象が発生したことを遠隔支援システムで検知した場合の一例を示す図である。
図1に示す例では、複数台の車両の各々に車載の監視装置があり、車載の監視装置が異常事象の発生を検知し、車内にて処置が困難となった場合に、異常発生情報を管制装置に送信する。管制装置では、複数台の車両の異常発生情報を受け付けると、車両ごとのタスクを作成し、監視員にタスクを割り当てる。管制装置は、タスクを割り当てた監視員に対して、呼出予定時間に基づく通知を行ってもよい。呼出予定時間に基づく通知は、例えば、「あと60秒で呼出」、「あと20秒で呼出」等、タスクごとの監視員が呼び出されるまでの残り時間を示す情報である。
【0020】
図2は、特定の車両に異常事象が発生した場合の遠隔支援システムにおける処理の流れの一例を示す図である。
図2に示すように、(1)車内移動等による、車内事故に繋がる異常事象が発生した場合、異常事象の発生を検知し、管制装置に通知する。(2)異常事象を検知した場合の初動対応として、乗客に対する注意喚起の案内(アナウンス)を実施する。注意喚起は後述するように既定値の継続時間で行われるアナウンスである。また、注意喚起は、経過時間に応じて注意レベルを設定する。例えば、注意レベルは「弱」又は「強」とし、注意レベルに応じて、乗客に注意を促すアナウンスを変更する。なお、注意レベルの段階は設けなくてもよい。(3)注意喚起を所定時間行っても異常事象が解消しなかった場合に、監視員の呼び出し(支援要求)を行う。(4)監視員による遠隔支援を行う。管制装置は支援要求をトリガとして監視員による遠隔支援を開始する。監視員は、車両情報、及びカメラ映像を確認し、テレビ電話、又は音声電話を通じた乗客への呼びかけ、及び車載の監視装置へ制御コマンドを送信して異常事象の解決を図る。当然のことながら、遠隔支援は、発生した異常事象を解消するために行われる処置を指し、ここで述べられた処置に限らないことは言うまでもない。
【0021】
図3に、従来手法によってタスクを割り当てた場合の遠隔支援の一例を示す。
図3に示す例では、異常発生情報が複数得られ、複数のタスクの各々を処理する場合を示している。
図3のタスクの割り当てでは、監視員が車両Aについて遠隔支援を行っている間に、車両B及び車両Cについて、注意喚起の案内が所定の時間で終了してしまい、待ち時間が発生してしまう。待ち時間とは、呼出予告によって監視員を呼び出すアナウンスを開始してから、監視員が遠隔支援を開始するまでの時間である。監視員が異常事象に対応開始するまでの監視員を呼び出すとアナウンスしてからの待ち時間が長くなってしまうと、乗客が不安感を抱く状況が発生してしまう。
【0022】
異常事象を解消する方法として、一般的には、事前に規定される設定値による注意喚起の案内を所定の秒数行った後、自動的に管制装置への支援要求を行い、遠隔支援にあたらせる監視員を呼び出す。しかしながら、事故発生のリスク低減と監視員の負荷低減を両立する観点では、監視員が対応していない場合は、異常事象の検知後に速やかに監視員が対応することが望ましい。
【0023】
そこで、本実施形態の遠隔支援システムでは、複数台の車両からの車内の異常事象の発生の通知から、支援要求の送信時刻を予想し、タスクの開始時間を調整することを特徴とする。タスクの開始時間の調整において、異常事象の検知から遠隔支援の必要判断までの時間を遠隔の監視員の対応状況に応じて、短縮して接続するように調整する。また、調整したタスクの開始時間を実際の運用に反映するには、車載の監視装置から管制装置に支援要求を送信する時間も調整する必要がある。そこで、車載の監視装置では、調整結果の開始時間(呼出予定時間)に基づき、支援要求を送信する時間を調整する。これにより、複数台の車両からの同時刻からの呼出の重複を抑止する。また、監視員の負荷を平滑化し、乗客の快適性を確保するシステムを実現する。
【0024】
図4に、本実施形態の手法によってタスクの割り当てをした場合の遠隔支援の一例を示す。
図4に示すようなタスクの割り当てでは、乗客に対して不安感を与えないように、監視員の作業状況に応じて、タスクの前倒しを行う。また、前倒しに伴う注意喚起の短縮、及び待ち時間の発生を抑止するための注意喚起の延長が行われる。
図4の例では、車両Aに対して、呼出予告の時間の前倒し、及び注意喚起の短縮を図っている。車両Bについては、車両Aの前倒しがあったことにより待ち時間が解消されている。車両Cについては、車両Aの前倒し及び車両Bの待ち時間の解消によってもまだ待ち時間が生じ得るため、注意喚起の時間の延長を図り、乗客の不安感を和らげる措置をとっている。このように予定されている開始時間よりも早い開始時間となる車両についてはタスクを前倒しし、予定されている開始時間よりも遅い開始時間となる車両についてはタスクを後ろ倒すように調整する。
【0025】
以上が本実施形態の手法に係る概要である。以下、本実施形態の構成及び作用について説明する。
【0026】
(第1実施形態)
[遠隔支援システムの構成]
図5は、本開示の第1実施形態に係る遠隔支援システム100の構成を示すブロック図である。
図5に示すように、遠隔支援システム100は、管制装置110と、複数台の車両に搭載された監視装置120と、監視員が操作する監視端末115とがネットワークNを介して接続されている。監視端末115は、管制装置110とのみ接続されていればよい。遠隔支援システム100では、監視装置120が搭載された車両について遠隔支援を行う。管制装置110が本開示の技術の遠隔支援装置の一例である。
【0027】
図6は、管制装置110及び監視装置120のハードウェア構成を示すブロック図である。
図6に示すように、管制装置110は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、ストレージ14、入力部15、表示インタフェース(I/F)16及び通信インタフェース(I/F)17を有する。各構成は、バス19を介して相互に通信可能に接続されている。また、監視装置120についても同様に構成することができる。監視装置120は、CPU21、ROM22、RAM23、ストレージ24、入力部25、表示インタフェース26及び通信インタフェース27を有する。各構成は、バス29を介して相互に通信可能に接続されている。以下は、管制装置110の各部を例に説明する。
【0028】
CPU11は、中央演算処理ユニットであり、走行支援プログラムを含む各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU11は、ROM12又はストレージ14からプログラムを読み出し、RAM13を作業領域としてプログラムを実行する。CPU11は、ROM12又はストレージ14に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM12又はストレージ14には、管制プログラム(遠隔支援プログラム)が格納されている。
【0029】
ROM12は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM13は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ14は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の記憶装置により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0030】
入力部15は、マウス等のポインティングデバイス、及びキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0031】
表示インタフェース16は、例えば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示インタフェース16は、タッチパネル方式を採用して、入力部15として機能してもよい。
【0032】
通信インタフェース17は、端末等の他の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、セルラー通信システム等の規格が用いられる。以上が管制装置110及び監視装置120のハードウェア構成の一例の説明である。
【0033】
以下、機能的な構成について説明する。
【0034】
管制装置110は、情報記憶部111と、通信部112と、調整部113と、表示部114とを含む。監視装置120は、センサ121と、通信部122と、認識部123と、監視制御部124と、案内部125とを含む。
【0035】
まず管制装置110の各部の機能構成について説明する。情報記憶部111には、遠隔支援を行うための各種情報である車両管制情報が格納される。車両管制情報は、車両のごとの車両情報、車内情報、異常発生情報、監視員情報、タスク情報、及びタスクスケジュール等である。車両情報、車内情報、及び異常発生情報は、監視装置120から受け付けることにより更新される。車両情報は、例えば車両ID、走行状態、速度、及び走行位置が挙げられる。車内情報は、例えば、乗客数、発生した異常事象、及び現時点で行っている案内の内容である。異常発生情報には、車両ID、異常発生時刻、及び異常事象の種類を含む。なお、情報記憶部111には、異常事象の種類に応じて呼出予定時間、及び注意喚起の継続時間等の時間を記録したテーブルがあらかじめ記憶されていることとする。なお、監視装置120側で個別に呼出予定時間が管理されている場合には、異常発生情報に呼出予定時間を含めるようにしてもよい。監視員情報、タスク情報、及びタスクスケジュールは、調整部113により更新される。監視員情報には、監視員が担当する車両ID、及び監視員の作業状況を含む。作業状況は、監視員がタスクを作業中であるか否かを示す情報、作業の進捗、及び予定されているタスクの開始時間である。タスク情報は、例えば、タスクの対応開始時刻、経過時間、終了予定時刻、タスクの終了予定時刻までの残り時間、呼出内容、及び優先度である。タスクスケジュールは、調整部113がタスクの割り当てを調整した結果であり、監視員に単位時間ごとにタスクをどのように割り当てるかを示す情報である。タスクスケジュールには、調整部113で計算されたタスクの組み合わせごとのコストも併せて記録される。
【0036】
通信部112は、監視装置120から定期的に車両情報、及び車内情報を受信する。また、車両に異常が発生した場合に、監視装置120から異常発生情報を受信する。また、通信部112は、調整部113によるタスクの調整結果を監視装置120へ送信する。
【0037】
調整部113は、異常事象の発生状況を示す異常発生情報が複数得られた場合に、タスク処理順序の組み合わせごとにコストを計算し、コストに基づいて、タスクの割り当てを調整する。タスク処理順序の組み合わせには、タスクについて予定されている開始時間(基準時間)よりも当該タスクの開始時間を前倒す組み合わせが含まれる。基準時間には、既定値として設定されている呼出予定時間を用いる。コストに応じて基準時間よりも早い開始時間となる車両のタスクもあれば、基準時間よりも遅い開始時間となる車両のタスクもある。調整部113は、基準時間に対してタスクの開始時間を前倒す、又は後ろ倒す調整を行う。タスクの割り当てを調整することにより、タスクの各々の開始時間(呼出予定時間)が調整される。
【0038】
なお、遠隔支援の開始の時点に対応した表現である「呼出予定時間」及び「タスクの開始時間」について整理する。「呼出予定時間」に応じて監視装置120から支援要求を送信する。そして、支援要求を受け付けた管制装置110で監視員による遠隔支援を開始した時間が「タスクの開始時間」となる。つまり時系列上は「呼出予定時間」の後に「タスクの開始時間」となる流れとなり、「呼出予定時間」が調整されることにより「タスクの開始時間」も調整されることになる。
【0039】
コストの計算手法について以下に説明する。調整部113は、調整対象の車両の監視装置120に調整結果を送信する。調整結果には、調整後の呼出予定時間が含まれる。また、調整結果に、注意喚起の短縮又は延長の指示を含めるようにしてもよい。
【0040】
コストの計算には以下(1)式のコスト関数を用いる。調整部113では、タスク処理順序の各々について、コスト関数により、タスクiごとのタスクコストを計算し、タスクコストの和を、当該タスク処理順序のタスクの割り当て全体のコストとして計算する。
【数1】
・・・(1)
【0041】
ここで、タスクiの作業着手までの時間を時間hiとする。タスクiの作業着手までの時間hiが、本開示の技術のタスクの開始時間の一例である。タスクiについて、時間hiと、タスク種別に応じた優先度とを用いてタスクコストを計算する。優先度は、タスク種別、及び車内情報に応じて定められるようにすればよい。
【0042】
前倒して対応する場合は負値、呼出予定時間通りで0、対応遅れで正値を加えるようにする。例えば、監視員の作業依頼の呼出予定時間をX秒だけ前倒してタスクiに対応する場合、時間hiからX秒相当の値を差し引く。秒単位であれば「時間hi=hi-X」と計算する。車両から監視員の作業依頼の呼出予定時間に対応する場合、当該タスクの時間hi=0とする。監視員の作業依頼の呼出予定時間からY秒だけ遅れて対応する場合、時間hiからY秒相当の値を加算し、「時間hi=hi+Y」と計算する。特許文献1では、遅延時間のみの加算を考慮していたが、本実施形態では、前倒した場合の減算についても考慮し、前倒しによるメリットがコスト計算に反映されるようにした。このように、タスクの開始時間を前倒す場合のみ、コスト値を減少させるため、異常事象が発生し、かつ、監視員が作業していない場合は、車内の事象に積極的に関与して、車内事故を未然に防ぐことが可能となる。このように、監視員の作業状況に応じて呼出予定時間(タスクの開始時間)を前後させて調整し、コストを計算する。以上のようにして、調整部113は、コスト関数で計算したタスク処理順序の各々のコストのうち、最小コスト値となるタスク処理順序を決定することにより、タスクの割り当てを調整する。調整部113は、このようにして得られた調整結果を監視装置120に送信する。
【0043】
表示部114は、監視員の操作に応じて、所定の車両管制情報を監視員が操作する監視端末115に表示させる。表示される車両管制情報には、調整部113で調整されたタスクの開始時間が含まれる。表示の具体例については後述する。
【0044】
次に監視装置120の各部の機能構成について説明する。センサ121は、例えば、車内の映像を撮影することができる車載カメラ、及び車両情報を検知するための車載センサを利用することができる。車載カメラにより撮影したカメラ画像(又はカメラ映像)を、センサ情報として認識部123へ出力する。なお、車載カメラのほかにも車内の状況を検知可能なセンサであばれよく、測距センサ、又は、ミリ波センサ、又は、赤外線センサ、又は、超音波センサ等どのようなセンサを用いてもよい。車載センサは、運転挙動を示す車両情報を検知する。運転挙動には、自動運転中か否かを示す状態のほか、車速、加速度、ステアリング、アクセル、及びブレーキの踏み込みなどが含まれる。
【0045】
通信部122は、認識部123による認識結果である車内情報、及びセンサ121による車両情報を定期的に管制装置110に送信する。また、通信部122は、車内で異常事象の発生を認識部123により検知した場合に、異常発生情報を管制装置110に送信する。また、通信部122は、管制装置110から、タスクの調整結果を受信する。
【0046】
認識部123は、センサ情報に基づいて、車内の異常事象の発生を検知する。異常事象の検知は、あらかじめ異常事象ごとのセンサ情報のパターンを機械学習等により学習した認識モデルを用いればよい。
【0047】
認識部123で検知した異常事象の種類には、車内の乗客に向けたアナウンスが定められている。
図7は、異常事象の種類、注意喚起、及び呼出予告の一覧を示す図である。なお、
図7の例では注意喚起のアナウンスの例を1つだけ示しているが、注意レベルを段階的にする場合でも、1つのアナウンスを用いて、注意レベルの変化に伴い音量を上げる、又は、警告音を用いる等を行ってもよい。
図7に示すように、異常事象の種類には、例えば「立ち上がり発生」、「違法行為」、「迷惑行為」、及び「座り込み発生」が挙げられる。注意喚起、及び呼出予告にはアナウンスが定められている。「立ち上がり発生」の注意喚起は“立ち上がりを検知しました。走行中は危険ですので、着席ください。”、呼出予告は“着席ください。着席されない場合は、オペレータへ繋ぎます。”とすることができる。「違法行為」の注意喚起は“違法行為を検知しました。やめてください。”、呼出予告は“違法行為はやめてください。やめない場合は、オペレータへ繋ぎます。”とすることができる。「迷惑行為」の注意喚起は“迷惑行為を検知しました。やめてください。”、呼出予告は“迷惑行為はやめてください。やめない場合は、オペレータへ繋ぎます。”とすることができる。「迷惑行為」の注意喚起は“座り込みを検知しました。体調がすぐれない場合は、通話ボタンをご使用ください。”、呼出予告は“座り込みを検知しました。安全確認のため、オペレータへ繋ぎます。”とすることができる。異常事象に応じて、タスクの優先度付け(異常事象に応じて重みを定める等)、又は時間経過に応じたコストを変化させることもできる。また、異常事象の種類には、ラベルを定めるようにしてもよい。例えば、「立ち上がり発生」、「違法行為」、「迷惑行為」であれば「安全阻害事象」、「座り込み発生」であれば「身体異常事象」等とラベリングして、異常事象を区別できるようにしてもよい。また、「立ち上がり発生」の場合に、注意喚起「弱」では「走行中はお座りください」、注意喚起「強」では「走行中の立ち上がりは危険です。着席ください。」と注意レベルに応じて異なるアナウンスを実施してもよい。
【0048】
監視制御部124は、管制装置110から調整結果を受け付けた場合に、遠隔支援の開始時間(呼出予定時間)の設定値を更新する。また、監視制御部124は、調整結果に応じて、注意喚起の時間を短縮又は延長する。調整結果において開始時間を前倒す場合には、注意喚起の時間を短縮する。調整結果において開始時間を後ろ倒す場合には、注意喚起の時間を延長する。また、監視制御部124は、設定値に基づいて、呼出予定時間になった場合に、遠隔支援の支援要求を管制装置110に送信する。
【0049】
案内部125は、認識部123で異常事象を検知した場合に注意喚起の案内のアナウンスを実行する。また、案内部125は、呼出予定時間になった場合に呼出予告を実行する。注意喚起、及び呼出予告のアナウンスは、
図7に示した内容である。
【0050】
ここで、注意喚起の継続時間、及び呼出予定時間の設定値は、既定値が定められているとする。注意喚起は異常事象の検知後から開始されるとして、案内の開始時は注意喚起「弱」から開始する。一例として、注意喚起「弱」の継続時間は60秒間と設定値で定められており、注意喚起「弱」のアナウンスを60秒間の間繰り返す。また、注意喚起「弱」終了後は、注意喚起「強」を開始する。一例として、注意喚起「強」の継続時間は60秒間と設定値で定められているとする。この場合、呼出予定時間は、120秒後と設定される。呼出予定時間の設定値をトリガとして、監視制御部124の支援要求、及び案内部125の呼出予告が、同時に実行される。監視制御部124では、この既定値を変更するようにして設定値を更新する。
【0051】
ここで、管制装置110及び監視装置120による具体的な遠隔支援の処理例を説明する。
【0052】
図8は、複数のタスクの組み合わせごとのコスト計算の一例を示す図である。
図8では、タスクα、タスクβ、及びタスクγがある場合の、従来手法、及び本手法によるコスト計算の例を対比して示している。上段のタスクごとの時系列の線表は、基準時間から10、20、30、・・・と10秒ごとの優先度の時系列変化を表している。優先度の時系列変化では、タスクごとに1~3の優先度が割り当てられている。なお、
図8では、本手法によるコスト計算の例として、タスクα、タスクβ、及びタスクγのうち、最も先に対応するタスクの開始時間を10秒前倒した場合を記載しているが、この限りではない。以下、タスクの組み合わせごとのコストの計算例について説明する。なお、優先度はPと表す。
【0053】
従来の一行目のタスクαβγの組み合わせの場合について説明する。タスクαは基準時間(既定値として設定されている呼出予定時間)通りであるためhα=0、タスクβは10秒遅れているためhβ=1、タスクγは40秒遅れているためhγ=4と表される。時系列の優先度については、タスクαはPα=1、タスクβはPβ=1、タスクγはPγ=3と表される。よって上記(1)式のコスト関数によれば、タスクαβγの組み合わせのコストは「0×1+1×1+4×3=13」と計算される。
【0054】
次に、本手法の場合のコスト計算について説明する。本手法の2行目のタスクαγβの組み合わせの場合について説明する。なお、前倒した場合に減算を行うのは最初のタスクのみとし、2番目以降は基準時間通りと計算する場合について説明する。なお、コスト関数の設計に応じて2番目以降についても減算してもよく、適宜、設計に応じて減算対象を定めるようにすればよい。タスクαは基準時間から10秒前倒しているためhα=(0-1)、タスクγは基準時間より前倒しされている2番目のタスクであるためhγ=0、タスクβは40秒遅れているためhγ=4と表される。時系列の優先度については、タスクαはPα=1、タスクγはPγ=3、タスクβはPβ=2と表される。よって上記(1)式のコスト関数によれば、タスクαβγの組み合わせのコストは「(0-1)×1+0×3+4×2=7」と計算される。なお、計算は一例であり、例えば、前倒し前の値と、前倒し相当の値を別々に計算してもよい。上記タスクαについてであれば、「(0×1)+(-1×1)=(0-1)」と計算される。
【0055】
[遠隔支援システムの作用]
次に、本開示の第1実施形態に係る遠隔支援システム100の作用について、管制装置110及び監視装置120のそれぞれの処理を、フローチャートを用いて説明する。
【0056】
監視装置120に係る処理は、CPU21が監視装置120の各部として機能することにより実行される。なお、認識部123の認識処理、通信部122の通信処理については、データ送受信ごとに実行されていることとして説明を省略する。
【0057】
図9は、監視制御部124の監視制御処理ルーチンを示すフローチャートである。監視制御処理ルーチンは周期動作として繰り返す。
【0058】
ステップS100では、CPU21が、認識部123から認識結果を受信したか否かを判定する。受信したと判定した場合にはステップS102へ移行し、受信していないと判定した場合には本ステップを繰り返す。
【0059】
ステップS102では、CPU21が、認識結果の異常有無を識別する。
【0060】
ステップS104では、CPU21が、識別結果において、異常事象が発生しているか否かを判定する。異常事象が発生していると判定した場合にはステップS112へ移行し、異常事象が発生していないと判定した場合にはステップS106へ移行する。
【0061】
ステップS106では、CPU21が、発生していた異常事象が解決したか否かを判定する。解決した場合にはステップS108へ移行し、解決していない場合にはステップS100に戻って処理を繰り返す。
【0062】
ステップS108では、CPU21が、異常解決通知を管制装置110に送信する。なお、異常解決通知は、異常事象が解決したことを通知するための情報である。通知管制装置110では、異常解決通知を受け付けると、タスクの割り当てにおいて当該異常事象に対応付けられたタスクを完了扱いとする。
【0063】
ステップS110では、CPU21が、案内部125に対して正常確認のアナウンスを指示する。
【0064】
ステップS112では、CPU21が、設定値における呼出予定時間を経過したか否かを判定する。呼出予定時間を経過していないと判定した場合にはステップS114へ移行し、呼出予定時間を経過したと判定した場合にはステップS118へ移行する。
【0065】
ステップS114では、CPU21が、通信部122を介して異常発生情報を管制装置110に送信する。
【0066】
ステップS116では、CPU21が、案内部125に対して注意喚起のアナウンスを指示する。案内部125で注意喚起のアナウンスの指示を受け付けた場合、案内部125は、注意喚起のアナウンスを一定間隔で繰り返す。注意喚起「弱」の継続時間が60秒と設定されているのであれば、60秒間の中で注意喚起「弱」のアナウンスを一定間隔で繰り返す。注意喚起「弱」の60秒間が経過した後は注意喚起「強」に移行する。注意喚起「強」の継続時間が60秒と設定されているのであれば、60秒間の中で注意喚起「強」のアナウンスを一定間隔で繰り返す。当然のことながら、アナウンスの間隔は一定でなくともよい。例えば、注意喚起「弱」の60秒間のうち、前半の30秒間のアナウンス間隔より後半の30秒間のアナウンス間隔を短くすることで、より効果的なアナウンスを実施することができる。
【0067】
ステップS118では、CPU21が、遠隔支援の支援要求を管制装置110に送信する。
【0068】
ステップS120では、CPU21が、案内部125に対して呼出予告のアナウンスを指示する。案内部125で呼出予告のアナウンスの指示を受け付けた場合、案内部125は、注意喚起のアナウンスを一定間隔で繰り返す。以上が監視制御処理ルーチンについての説明である。
【0069】
次に、設定値の更新処理ルーチンについて説明する。
図10は、監視制御部124の更新処理ルーチンを示すフローチャートである。
【0070】
ステップS140では、CPU21が、管制装置110から調整結果を受信したか否かを判定する。調整結果を受信した場合にはステップS142へ移行し、調整結果を受信していない場合には本ステップを繰り返す。
【0071】
ステップS142では、CPU21が、調整結果に従って、呼出予定時間の設定値を更新する。
【0072】
ステップS144では、CPU21が、更新後の呼出予定時間に応じて、注意喚起の継続時間の設定値を短縮又は延長するように更新する。なお、短縮又は延長に関しては、任意の処理として実行してよく、監視装置120の設定に応じて更新しなくてもよい。
【0073】
ステップS146では、CPU21が、更新後の継続時間による注意喚起を案内部125に指示する。
【0074】
図11は案内部125の案内処理ルーチンを示すフローチャートである。
【0075】
ステップS160では、CPU21が、指示を受信したか否かを判定する。指示を受信した場合にはステップS162へ移行し、指示を受信していない場合には本ステップを繰り返す。
【0076】
ステップS162では、CPU21が、受信した指示に基づくアナウンスを実施する。指示については上記説明したとおりである。
【0077】
以上が監視装置120の処理についての説明である。次に、管制装置110の処理について説明する。管制装置110に係る処理は、CPU11が管制装置110の各部として機能することにより実行される。なお、通信部112の通信処理については、データ送受信ごとに実行されていることとして説明を省略する。また、通信部112が受信したデータについては情報記憶部111に格納すればよい。
【0078】
図12は、調整部113の調整処理ルーチンを示すフローチャートである。
【0079】
ステップS200では、CPU11が、情報記憶部111から、異常発生情報、及び監視員情報を取得する。
【0080】
ステップS202では、CPU11が、異常発生情報に含まれる異常発生時刻及び異常事象の種類に対応するタスクごとの呼出予定時間を取得する。ここで取得する呼出予定時間は、既定値として設定されている呼出予定時間(基準時間)である。
【0081】
ステップS204では、CPU11が、基準時間に基づくタスクの作業時間が重複するか否かを判定する。重複すると判定した場合にはステップS206へ移行し、重複しないと判定した場合にはステップS200に戻って処理を繰り返す。
【0082】
ステップS206では、CPU11が、監視員情報に基づいて、呼出予定時間の調整が可能であるか否かを判定する。調整可能であると判定した場合にはステップS208へ移行し、調整可能でないと判定した場合にはステップS200に戻って処理を繰り返す。なお、調整可能であるかは、監視員の作業状況において、作業中のタスクがない場合、又は監視員に予定されているタスクの前に他のタスクが割り当てられていない場合に調整可能であるとすればよい。
【0083】
ステップS208では、CPU11が、上記(1)式のコスト関数に従って、基準時間に対する前後によって調整を加えるように、コストを計算する。前倒しでは、負値を加えてタスクコストを計算し、タスクコストの和を全体のコストとして計算する。
【0084】
ステップS210では、CPU11が、ステップS208で計算したコストに基づいて、タスクスケジュールを調整する。調整結果には、タスクごとの調整後の呼出予定時間が含まれる。
【0085】
ステップS212では、CPU11が、調整結果により、呼出予定時間が前倒し又は後ろ倒しになった自動運転車両に対応する監視装置120に対して、通信部112を介して調整結果を送信する。以上が管制装置110の処理についての説明である。
【0086】
以上の遠隔支援システム100の処理により遠隔支援が行われる。ここで、監視員が遠隔監視を行う際に監視端末115に表示させる車両管制情報の画面例を説明する。
図13は、車両管制情報の表示の一例を示す図である。
図13に示す画面例では、当該監視員が担当するタスクについての車両管制情報の一覧が表示されている。表示されている車両管制情報は、タスク情報、運行情報としての車内情報、及び車両情報、並びにタスクスケジュールである。当然のことながら、ここで示した車両管制情報の項目は一例であり、これらのうちの一つ、または、複数を選択して表示してもよいことは言うまでもない。タスク情報は、監視員が現時点で作業中のタスク情報である。車内情報、及び車両情報は、作業中のタスクに対応する車両の運行情報である。タスクスケジュールは、監視員について予定されているタスク(車両ID及び優先度を示すブロックとして表示)を時系列で示した予定表である。タスクスケジュールにはタスクについて予定されている進捗も含まれる。なお、監視端末115には、当該監視端末115を持つ監視員に割り当てられたタスクについて、管制装置110から呼出予定時間に基づく通知を行うようにしてもよい。当該通知のタイミングは、タスクが割り当てられた時、又は一定間隔等、適宜定めればよい。
【0087】
以上説明したように、本開示の第1実施形態に係る遠隔支援システムによれば、待ち時間を考慮して、タスクに関する時間を調整することができる。
【0088】
(第2実施形態)
第2実施形態は、特定の監視員にタスクが集中した場合に、タスクを他の監視員に分散させる場合を想定した態様である。なお、第2実施形態の構成及び作用は第1実施形態と同様であるため、異なる箇所についてのみ説明する。
【0089】
図14は、タスクの割り当てで監視員1にタスクが集中した場合の一例を示す図である。
図14に示す例では、監視員1が担当する車両A、車両B、及び車両Cについて、タスクが重複する時間帯に発生している。そのため、車両B及び車両Cで待ち時間が発生するタスクの割り当てになっている。一方で、監視員2については担当する車両のタスクがないため、タスク対応可能状態になっている。
【0090】
そこで、第2実施形態では、タスクの割り当て先を2以上の監視員として、コストを計算し、タスクを割り当てる。ここでは、当該監視員の担当以外の車両のタスクをタスクの割り当て対象に追加した場合について説明する。当該監視員に新たに割り当てたタスクについては、対応準備のための準備時間を考慮してコスト計算を行う想定とする。当然のことながら、対応準備のための準備時間を考慮せずにコスト計算を行う場合においても本発明が効果を有することは言うまでもない。なお、対応準備のための準備時間を想定するのは、担当車両ではない車両のタスクに対処しなければならない、という監視員にとってイレギュラーな対応であることによる。例えば、予め既定されている複数台の車両を監視対象の車両として担当している場合、突発で平時に担当していない車両のタスクに対応するときには、本来であれば監視業務開始前に実施できる車両の走行エリアやルートの把握等といった確認作業を急遽実施することとなり、担当車両のタスク対応と比較して対応準備に時間を要すると予想される。よって、対応準備のための準備時間は、上述の担当車両以外の車両のタスクに対応するために必要な時間を想定したものである。当然のことながら、準備時間は運用形態に応じて適宜設定されるものであって、必ずしも必要ではない。
【0091】
図15は、タスクの割り当てで監視員1及び監視員2にタスクを分散させた場合の一例を示す図である。
図15に示す例では、監視員1の車両Aのタスクを前倒すと共に、注意喚起を短縮する。車両Bのタスクは、監視員2の準備時間を考慮した上で割り当て、準備時間の間、注意喚起を延長する。また、監視員1の車両Cのタスクを前倒す。以上のようにして、待ち時間が発生しないようにタスクの割り当てを調整している。
【0092】
調整部113は、監視員を追加した場合に、タスク処理順序の組み合わせにおいて当該追加した監視員の準備時間を含むようにして、以下(2)式のコスト関数に従ってコストを計算する。
【数2】
・・・(2)
【0093】
全タスクの個数をNt、全監視員の数をNopの場合、タスクが割り当てられない監視員が存在しても良く、各監視員に割り当てるタスクの順番の場合の数も考慮することから、Nt+(Nop-1)の個の順列と考えることができる。このとき、全タスクNt、全監視員Nopの割り振りの場合の数は{Nt+(Nop-1)}!通りある。ここで、n番目の監視員に割り当てられたタスクの個数を以下(Ntn)で表す。Ntnについては、例えば、監視員1にタスク1,2を、監視員2にタスク1,2,3を割り振る、というように、監視員nに対するタスクtの割り振りのパターンにより表せる。
【0094】
調整部113では、以上の(2)式により{Nt+(Nop-1)}!通りのコスト関数を算出し、コスト関数が最小のタスクの割り当てパターンとなるようにタスクの割り当てを調整する。
【0095】
図16は、複数の監視員及び複数のタスクの組み合わせごとのコスト計算の一例を示す図である。説明の便宜のため組み合わせの順序は簡略化して表している。従来手法に対して、本手法では前倒しを行い、前倒し相当の値を考慮してコスト計算を行っている。従来手法では、αβγのタスク順が最小コスト値となっている。一方、本手法では、αβγ又はαγβのタスク順が最小コスト値となり、いずれかのタスク順で作業することを推奨することができる。
図16の例の場合、タスクβより優先度の高いタスクγを優先して対応するように設定することができ、αγβのタスク順で作業することにより、優先度等の設定に応じた全体最適化が実現できる。
【0096】
(第3実施形態)
第3実施形態では、監視員の遠隔支援の作業の進捗が遅れ、タスクの延長の発生が予測された場合に、再計算を考慮する態様である。なお、第3実施形態の構成は第1実施形態と同様であり、再計算のための作用について異なるため、以下、異なる箇所についてのみ説明する。
【0097】
図17は、遠隔支援が延長した場合に再計算しなかった場合の一例を示す図である。
図17に示すように、車両Aについての遠隔支援が延長した分、後続の車両B及び車両Cについて、元々は発生する予定のなかった待ち時間が発生してしまうことになる。
【0098】
図18は、遠隔支援が延長した場合に再計算する場合の一例を示す図である。
図18に示すように、再計算後は、車両Bのタスクについて再割り当てして注意喚起を延長する。車両Cについて監視員2に再割り当てする。なお、監視員が一人の場合であっても再計算による再割り当てによって延長する。以上のように、遠隔支援の作業時間に延長が生じた場合であっても、再計算により待ち時間の発生を抑制する。
【0099】
図19は、調整部113の再計算処理ルーチンを示すフローチャートである。
【0100】
ステップS300では、CPU11は、情報記憶部111から、監視員の作業状況、及びタスクスケジュールを取得する。
【0101】
ステップS302では、CPU11は、監視員の作業状況とタスクスケジュールとの比較により、監視員の作業が予定通り進捗しているか否かを判定する。予定通り進捗していると判定した場合にはステップS300に戻って処理を繰り返す。予定通り進捗してないと判定した場合にはステップS304へ移行する。進捗の判定は、監視員の作業状況における作業の進捗と、監視員が遠隔支援を行っているタスクについて予定されている進捗とを比較し、作業の進捗が予定されている進捗に対して遅れている場合に予定通り進捗していないと判定し、作業の進捗が予定されている進捗に対して遅れていなければ予定通り進捗していると判定する。予定通り進捗していないと判定した場合に、タスクの延長が発生するとの予測が得られたものとして、再計算を行う。また、進捗以外にも、監視員のスキル、タスクの難易度、タスクの種別、及び車内の状況等も考慮してタスクの延長の発生を予測してもよい。
【0102】
ステップS304では、CPU11は、監視員へのタスクの割り当てを再計算する。なお、監視員が一人の場合は上記(1)式、複数の監視員を想定する場合は上記(2)式のコスト関数を用いればよい。
【0103】
ステップS306では、CPU11は、再計算に基づくタスクの割り当ての再調整を行い、調整結果を作成する。再計算に基づく調整結果は、再計算により、呼出予定時間が変更(前倒し又は後ろ倒し)された車両に対応する監視装置120に対して作成する。なお、呼出予定時間の変更によって監視装置120側では、必要に応じて注意喚起の延長が行われるが(ステップS144)、再計算に基づく調整結果に、注意喚起の延長する指示を含めるようにしてもよい。
【0104】
ステップS308では、CPU11は、対象となる監視装置120に再計算に基づく調整結果を送信する。
【0105】
再計算に基づく調整結果を受け付けた監視装置120では、監視制御処理ルーチン、又は案内処理ルーチンを実行すればよい。
【0106】
なお、本開示は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0107】
また、本願明細書中において、プログラムがあらかじめインストールされている実施形態として説明したが、当該プログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して提供することも可能である。
【符号の説明】
【0108】
100 遠隔支援システム
110 管制装置
111 情報記憶部
112 通信部
113 調整部
114 表示部
115 監視端末
120 監視装置
121 センサ
122 通信部
123 認識部
124 監視制御部
125 案内部