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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】試料前処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/04 20060101AFI20240110BHJP
   G01N 35/10 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01N35/04 Z
G01N35/10 H
G01N35/10 K
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020207480
(22)【出願日】2020-12-15
(65)【公開番号】P2022094535
(43)【公開日】2022-06-27
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 直樹
(72)【発明者】
【氏名】依田 里都子
(72)【発明者】
【氏名】伊永 章史
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-170158(JP,A)
【文献】特開2002-340912(JP,A)
【文献】国際公開第2020/090159(WO,A1)
【文献】特表2009-544955(JP,A)
【文献】特開2008-175722(JP,A)
【文献】特表2017-523434(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0159578(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00 - 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N行×M列(但し、N、Mともに2以上の整数)の行列状にウェルが形成されてなる第1ウェルプレートと、該第1ウェルプレートにおける1行中のM個のウェルに相当する長さの細長ウェルがN本形成されている、又は該第1ウェルプレートにおいて1列中のN個のウェルに相当する長さの細長ウェルがM本形成されている第2ウェルプレートと、を含む、複数の容器を収納可能である容器保管部と、
前記容器が載置可能である作業台と、前記第1ウェルプレートにおける1行中のM個のウェルに対応するM連チップ、又は該第1ウェルプレートにおける1列中のN個のウェルに対応するN連チップを含むピペット部と、該ピペット部を通して前記作業台に載置された容器中の液体を吸引吐出するポンプ部と、を含む分注作業部と、
前記容器保管部と前記作業台との間で前記容器を搬送する搬送部と、
前記分注作業部及び前記搬送部の動作を制御するものであって、前記容器保管部に用意された、L本(但し、Lは2以上でN又はM以下の整数)の細長ウェルにそれぞれ前処理用の試液が収容された状態の第2ウェルプレートと、L個の空の第1ウェルプレートとを、それぞれ前記容器保管部から前記作業台まで搬送する搬送工程と、前記作業台において、前記M連チップ又は前記N連チップを用い、試液入りの第2ウェルプレートの各細長ウェルに収容されているL個の試液のうちの一つの試液を吸引してL個の空の第1ウェルプレートのうちの一つの第1ウェルプレートの各ウェルに分注する、という動作を、用意されたL個の試液についてそれぞれ実行する試液分注工程と、前記作業台において、第1試液が分注されている第1ウェルプレートの各ウェルへそれぞれ試料を注入する試料注入工程と、前記試液分注工程後に、前処理の第2段階で使用する第2試液が分注されている第1ウェルプレートが前記作業台から前記容器保管部まで戻されている場合には該第2試液入りの第1ウェルプレートを前記容器保管部から前記作業台へ搬送したうえで、該作業台において、該第2試液入りの第1ウェルプレートの各ウェルへ、前記第1試液及び試料の混合溶液が収容されている第1ウェルプレートの各ウェルから該混合溶液をそれぞれ注入する混合溶液注入工程と、を実行するように前記分注作業部及び前記搬送部の動作を制御する制御部と、
を備える試料前処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記試液分注工程後に、前処理の第1段階で使用する第1試液以外の試液が分注されている第1ウェルプレートを前記作業台から前記容器保管部まで戻す戻し工程を実行するとともに、前記混合溶液注入では、第2試液入りの第1ウェルプレートを前記容器保管部から前記作業台へ搬送するように、前記分注作業部及び前記搬送部の動作を制御する請求項1に記載の試料前処理装置。
【請求項3】
前記制御部は、試液入りの第2ウェルプレートから空の第1ウェルプレートへの試液の分注が全て終了したあとに、該第2ウェルプレートを前記作業台から前記容器保管部へと戻し、前記試料が収容されている容器を前記容器保管部から前記作業台まで搬送し試料の分注を行うように、前記分注作業部及び前記搬送部の動作を制御する、請求項1又は2に記載の試料前処理装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1試液が収容されている第1ウェルプレートの各ウェルに試料を分注する際に、該ウェルにおいて液体の吸引及び吐出動作を行うことにより混和促進処理を実施する、請求項1~3のいずれか1項に記載の試料前処理装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第2試液が収容されている第1ウェルプレートの各ウェルへ混合溶液をそれぞれ注入する際に、該ウェルにおいて液体の吸引及び吐出動作を行うことにより混和促進処理を実施する、請求項1~4のいずれか1項に記載の試料前処理装置。
【請求項6】
前記作業台において前記第2段階以降の複数の段階を経て前処理が終了したあとの複数の溶液をそれぞれ、マトリックス支援レーザー脱離イオン化用のサンプルプレート上に滴下し、該サンプルプレート上で該溶液と所定のマトリックスとを混合させてサンプルを調製するサンプル調製部、をさらに備える、請求項1~5のいずれか1項に記載の試料前処理装置。
【請求項7】
Nは8でMは12である、又は、Nは16でMは24である、請求項1~6のいずれか1項に記載の試料前処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析や測定の対象である試料の前処理を行う試料前処理装置に関し、さらに詳しくは、試薬・試液等を用いて多数の液体試料の前処理を行う試料前処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症の主要な原因であるアルツハイマー病の発症には、ヒトの体内で産生されるペプチドの一種であるアミロイドβ(Amyloid β、以下「Aβ」と略すことがある)が深く関わっていると考えられている。Aβが脳全体に蓄積すると健全な神経細胞が変化したり脱落したりして脳萎縮を進行させる、と言われており、脳内におけるAβの蓄積状態を正確に判定することはアルツハイマー病の早期診断を行ううえで重要である。
【0003】
脳内におけるAβの蓄積の有無を判定する方法の一つとして、近年、免疫沈降(ImmunoPrecipitation:IP)法とマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Mass Spectrometry:以下「MALDI-MS」と略すことがある)とを組み合わせたIP-MS法が提案され注目を集めている。例えば非特許文献1、2等には、Aβ関連ペプチドAPP669-711/Aβ1-42比とAβ1-40/Aβ1-42比とを組み合わせた複合バイオマーカー(composite biomarker)が脳内におけるアミロイド蓄積の血液バイオマーカーとして有望であることが報告されている(なお、「APP」はAβの前駆体タンパク質(Amyloid precursor protein))。
【0004】
IP-MS法によるAβの検査を大規模に実施するには、多数の検体(血漿サンプル)をIP法によって同時に且つ迅速に処理する必要があり、そのためには、検体や複数種類の試液を自動的に分注する分注機構を有する試料前処理装置が不可欠である。また、作業者の技量や熟練に依存することなく、同じ操作を繰り返し実行する際の再現性を向上させるためにも、自動試料前処理装置を用いてIP法に関する処理を実施することは重要である。
【0005】
従来、こうした処理のために用いられる自動分注装置としては、アジレント(Agilent)社製の「Bravo」、サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)社製の「NIMBUS」、エッペンドルフ(Eppendorf)社製の「epMotion」、ハミルトン(Hamilton)社製の「Microlab」、べックマン・コールター(Beckman Coulter)社製の「Biomak」などが知られている。こうした従来の自動分注装置では、広く使用されている96ウェルプレート上の各ウェルから96ウェルプレート上の各ウェルへの分注、リザーバーから96ウェルプレート上の各ウェルへの分注、或いは、マイクロチューブやコニカルチューブから96ウェルプレート上の各ウェルへの分注、などの操作が可能となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Kaneko N、ほか12名、「ノベル・プラズマ・バイオマーカー・サロゲーティング・セレブラル・アミロイド・デポジション(Novel plasma biomarker surrogating cerebral amyloid deposition」、Proc. Jpn. Acad.、Ser. B、Phys. Biol. Sci.、2014年、Vol.90、No.9、pp.353-364
【文献】Nakamura A、ほか19名、「ハイ・パフォーマンス・プラズマ・アミロイドベータ・バイオマーカーズ・フォー・アルツハイマーズ・デジーズ(High performance plasma amyloid-β biomarkers for Alzheimer's disease)」、Nature、2018年、Vol.554、No.7691、pp.249-254
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1、2等に開示されているように、上記IP-MS法におけるIP法の処理は2段階のアフィニティ精製を行うこともあって、その工程が複雑であり、多種類の試液を必要とする。そして、そのうちの幾つかの種類の試液については、予め96ウェルプレート(又は384ウェルプレート)の各ウェルに移ししてからでないと、同時処理を進めることができない。複数種類の試液をそれぞれ複数枚の96ウェルプレートへ分注する操作を作業者が手作業で行うと非常に手間が掛かるだけでなく、試液の入れ間違いや混入などのリスクも生じる。上述したような自動分注装置を使用すれば、それぞれの試液が収容されているマイクロチューブやコニカルチューブから96ウェルプレート上の各ウェルへ試液を確実に分注することは可能であるものの、分注に長い時間を要する。試液の種類が増えれば、さらに分注時間は伸びることになり、前処理の効率が低下する。
【0008】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その主たる目的は、複数種類の試液をそれぞれ異なるウェルプレート上の各ウェルに効率良く分注することができ、分注作業に要する時間を短縮することで効率的な前処理を実施することができる試料前処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る試料前処理装置の一態様は、
N行×M列(但し、N、Mともに2以上の整数)の行列状にウェルが形成されてなる第1ウェルプレートと、該第1ウェルプレートにおける1行中のM個のウェルに相当する長さの細長ウェルがN本形成されている、又は該第1ウェルプレートにおいて1列中のN個のウェルに相当する長さの細長ウェルがM本形成されている第2ウェルプレートと、を含む、複数の容器を収納可能である容器保管部と、
前記容器が載置可能である作業台と、前記第1ウェルプレートにおける1行中のM個のウェルに対応するM連チップ、又は該第1ウェルプレートにおける1列中のN個のウェルに対応するN連チップを含むピペット部と、該ピペット部を通して前記作業台に載置された容器中の液体を吸引吐出するポンプ部と、を含む分注作業部と、
前記容器保管部と前記作業台との間で前記容器を搬送する搬送部と、
前記分注作業部及び前記搬送部の動作を制御するものであって、前記容器保管部に用意された、L本(但し、Lは2以上でN又はM以下の整数)の細長ウェルにそれぞれ前処理用の試液が収容された状態の第2ウェルプレートと、L個の空の第1ウェルプレートとを、それぞれ前記容器保管部から前記作業台まで搬送する搬送工程と、前記作業台において、前記M連チップ又は前記N連チップを用い、試液入りの第2ウェルプレートの各細長ウェルに収容されているL個の試液のうちの一つの試液を吸引してL個の空の第1ウェルプレートのうちの一つの第1ウェルプレートの各ウェルに分注する、という動作を、用意されたL個の試液についてそれぞれ実行する試液分注工程と、前記作業台において、第1試液が分注されている第1ウェルプレートの各ウェルへそれぞれ試料を注入する試料注入工程と、前記試液分注工程後に、前処理の第2段階で使用する第2試液が分注されている第1ウェルプレートが前記作業台から前記容器保管部まで戻されている場合には該第2試液入りの第1ウェルプレートを前記容器保管部から前記作業台へ搬送したうえで、該作業台において、該第2試液入りの第1ウェルプレートの各ウェルへ、前記第1試液及び試料の混合溶液が収容されている第1ウェルプレートの各ウェルから該混合溶液をそれぞれ注入する混合溶液注入工程と、を実行するように前記分注作業部及び前記搬送部の動作を制御する制御部と、
を備えるものである。
【0010】
例えば、標準的に使用されている96ウェルプレートを第1ウェルプレートとして使用する場合には、N=8、M=12(又はその逆)であり、384ウェルプレートを第1ウェルプレートとして使用する場合には、N=16、M=24(又はその逆)である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る試料前処理装置の一態様では、第2ウェルプレートの複数の細長ウェルの各々に収容されている試液を、ピペット部のM連チップ又はN連チップを用いて第1ウェルプレートのM個又はN個のウェルに同時に分注し、これを複数回実行することで、一つの第1ウェルプレートの(N×M)個のウェルへ一つの試液の分注を完了することができる。そして、この動作をL種類の試液それぞれについて実施することで、L個の第1ウェルプレートにそれぞれ異なる種類の試液を充填することができる。
【0012】
このようにして本発明に係る試料前処理装置の一態様によれば、前処理に使用する試液の数が多い場合であっても、各試液をそれぞれ異なるウェルプレート上の各ウェルに効率良く分注することができ、試液の分注作業に要する時間を短縮することができる。
【0013】
また、試液の数が多いと該試液が分注されるウェルプレートの数も多くなるが、直近で使用する又は前処理の始めのほうの段階で使用する試液以外の試液が分注されたウェルプレートを一旦、容器保管部に戻し、或る試液が前処理に必要であるときにその都度、容器保管部から必要な試液が分注されたウェルプレートを分注作業部に搬送するようにすることで、比較的狭いスペースの作業台において多くの試液を使用する複雑な前処理を行うことができる。それにより、試料前処理装置のサイズ、特に設置面積を抑えることができる。
【0014】
また、本発明に係る試料前処理装置の一態様によれば、作業段階の数や使用する試液の数が相違する様々な前処理に柔軟に対応することができる汎用性の高い前処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態である試料前処理装置の概略外観図。
図2】本実施形態の試料前処理装置の制御系のブロック構成図。
図3】IP-MS法を利用したAβ測定のための前処理(IP法の処理)及びサンプル調製の手順の一例を示すフローチャート。
図4】本実施形態の試料前処理装置を用いてIP法の処理を実施する際の、試液の分注状況の説明図。
図5】本実施形態の試料前処理装置で用いられる96ウェルプレートの概略平面図。
図6】本実施形態の試料前処理装置で用いられる8ウェルプレート(8レーンリザーバープレート)の概略平面図。
図7】本実施形態の試料前処理装置で用いられる12ウェルプレート(12レーンリザーバープレート)の概略平面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る試料前処理装置について説明する前に、上述したIP-MS法を利用したAβ測定の際のIP法の処理手順の一例について、図面を参照して説明する。
【0017】
[IP法の処理手順]
図3は、Aβ測定のためのIP法の処理手順の一例を示すフローチャートである。この手順自体は、非特許文献1、2等ですでに公開されているものである。
試料(検体)は被検者から採取された血液のうちの血漿である。前処理のための試液はA液、B液、C液、D液、E液、F液、G液の7種類である。また、それ以外に、アフィニティ精製のための所定の抗体を固定化したビーズとしてaビーズ、bビーズの2種類を使用する。なお、ここでは、発明の趣旨ではないので試液についての詳しい説明は省略するが、その具体的な種類は非特許文献1、2等に開示されているものを用いることができる。
【0018】
まず、試料をA液に混合し(ステップS1)、その試料とA液との混合液を、aビーズが収容されている容器(ウェル)に導入して混合する(ステップS2)。その状態で適宜の時間(例えば1時間)、aビーズ入り容器をインキュベートすることで、試料中の目的成分(厳密には目的成分を含む化合物)とaビーズに固定化されている抗体との反応を促進させる(ステップS3)。これにより、試料中の目的成分はビーズに担持される。そのあと、aビーズを残して容器中の上清、つまりは試料とA液の混合液を除去する(ステップS4)。
【0019】
次いで、目的成分が担持された状態のaビーズを、B液とC液を用いて洗浄する(ステップS5)。この洗浄によって、ビーズに単に付着していた夾雑物の多くは除去される。そのあと、洗浄後のaビーズが収容されている容器に溶出液であるD液を導入して混合し、aビーズに担持されている目的成分をD液中に溶出させる(ステップS6)。ここまでが、第1段階のアフィニティ精製である。
【0020】
次に、目的成分が含まれるD液つまりは溶出液を容器から採取し、これをE液に混合する(ステップS7)。そして、溶出液とE液との混合液をbビーズが収容されている容器に導入し混合する(ステップS8)。ステップS3と同様に、その状態で適宜の時間(例えば1時間)だけ、bビーズ入りの容器をインキュベートすることで、試料中の目的成分(厳密には目的成分を含む化合物)とbビーズに固定化されている抗体との反応を促進させる(ステップS9)。これにより、溶出液中の目的成分はbビーズに担持される。そのあと、容器内にbビーズを残して上清、つまりは溶出液とE液の混合液を除去する(ステップS10)。
【0021】
次いで、目的成分が担持された状態のbビーズを、F液、C液、及びG液をその順に用いてそれぞれ洗浄する(ステップS11)。そして、洗浄後のbビーズとH液とを混合し、bビーズに担持されている目的成分をH液中に溶出させる(ステップS12)。なお、H液には、溶出処理の直前に揮発性を有するアセトニトリルが添加される。ここまでが、第2段階のアフィニティ精製であり、H液中に目的成分が溶解した溶出液が得られる。この溶出液を、MALDI用のサンプルプレート上に滴下しマトリックスを添加したうえで乾固させて、MALDI用のサンプルを調製する(ステップS13)。
【0022】
上述したように、IP-MS法を用いたAβ測定では、分析対象のAβ関連物質を血漿から抽出するのにかなり複雑な操作を要する。本発明の一実施形態である試料前処理装置では、この一連の操作を人手を介すことなく自動的に行うことができる。
【0023】
[本実施形態の試料前処理装置の構成]
図1は、本実施形態の試料前処理装置の概略外観図であり、(a)は略正面図、(b)は略上面図である。図2は本実施形態の試料前処理装置の制御系のブロック構成図である。図1は、説明に必要な構成要素のみを記載した概略図である。説明の都合上、図1中に示すように、互いに直交するX、Y、Zの3軸を空間内に定めており、装置の設置面はX-Y面に平行な面である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の試料前処理装置は、ベースプレート1上に、容器保管部2と、分注作業部3と、容器保管部2と分注作業部3との間でウェルプレートなどの容器を搬送する容器搬送部4と、を有する。また、図2に示すように、本実施形態の試料前処理装置は、制御部5と、ユーザーインターフェイスである操作部6と、を含む。
【0025】
容器保管部2は、SBS規格に準拠した所定のサイズのウェルプレートやリザーバー、或いはチューブラックなどの各種の容器を多数収容可能である一種の棚である。
【0026】
分注作業部3は、ウェルプレートなどの容器を複数載置することが可能である作業台30と、作業台30上に載置された例えばウェルプレートのウェル内から液体を吸引したりウェル内に液体を吐出したりするための吸引吐出部31と、吸引吐出部31をX-Y面内で移動させるとともにZ軸方向につまり上下方向に移動させる吸引吐出機構移動部32と、を含む。吸引吐出部31は、吸引吐出の対象である液体に接触するチップ311が先端に装着されたピペット部312と、該ピペット部312を介して液体を吸引したり吐出したりするポンプ部313と、を含む。ここでは、後述する8ウェルプレートから同時に分注を行うために、チップ311として12個のチップが一体化された12連チップを使用する。作業台30上には、ウェルプレートを載置するために、後述するマグネットプレートや冷却プレートを含む複数のプレートが設けられている。
【0027】
容器搬送部4は、ウェルプレートなどの容器を把持するアーム機構41と、該アーム機構をX、Y、Zの3軸方向に所定の範囲内で移動させるアーム移動部42と、を含む。
【0028】
制御部5は、予め格納された動作プログラム51に従って、アーム移動部42、吸引吐出部31(ポンプ部313)、及び吸引吐出機構移動部32を駆動することで、後述するような分注作業を含む一連の前処理を実行する。
なお、制御部5の機能の少なくとも一部は、パーソナルコンピューターをハードウェア資源とし、該コンピューターに予めインストールされた専用のソフトウェアを該コンピューターで実行することにより達成されるものとすることができる。
【0029】
[前処理に使用される容器]
上記のような一連の処理を本実施形態の試料前処理装置で実行するために、ここでは、幾つかの種類の容器を用いる。図5図7は代表的なウェルプレートを示す平面図である。図5は96ウェルプレート、図6は8ウェルプレート、図7は12ウェルプレートの平面図である。
【0030】
図5に示す96ウェルプレート7はSBS規格に準拠したものであり、合成樹脂製である平板状部材に、同じ径、同じ深さの96個のウェル71が8行×12列の行列状に形成されたものである。96ウェルプレート7としては、例えば、エッペンドルフ社製の「Eppendorf twin.tec(登録商標) PCR Plates」やコーニング(Corning)社製の「Axygen(登録商標)96ウェルPCRプレート」などを用いることができる。この96ウェルプレート7にはウェル71の深さが異なるdeep wellタイプとPCR Wellタイプとがあり、前者は後者よりもウェル71が深く容量が大きい。
【0031】
図6に示す8ウェルプレート8もSBS規格に準拠したものであり、96ウェルプレート7と同じサイズの平板状部材に、その96ウェルプレート7において1行に並ぶ12個のウェル71全体をカバーする長さの溝状の細長ウェル1が8本形成されたものである。8ウェルプレート8としては、例えば、コーニング社製の「Axygen 8チャンネル試薬リザーバー ハイプロファイル」などを使用することができる。
同様に、図7に示す12ウェルプレート9もSBS規格に準拠したものであり、96ウェルプレート7と同じサイズの平板状部材に、その96ウェルプレート7において1列に並ぶ8個のウェル71全体をカバーする長さの溝状の細長ウェル91が12本形成されたものである。12ウェルプレート9としては、例えば、コーニング社製の「Axygen 12チャンネル試薬リザーバー ハイプロファイル」などを使用することができる。
【0032】
また、後述の処理では、上記ウェルプレート以外に、SBS規格に準拠したサイズの大容量のリザーバーなどが用いられる。
【0033】
[本実施形態の試料前処理装置における前処理動作]
次に、本実施形態の試料前処理装置を用いて図3に示したIP法の処理を行う際の作業及び装置の動作について説明する。
【0034】
オペレーターは、準備工程として、1枚の8ウェルプレート8(又は12ウェルプレート9でもよい)の各ウェル81にそれぞれ、前処理に必要である異なる種類の試液を注入する。8ウェルプレート8を使用した場合には最大で8種類の試液を、12ウェルプレート9を使用した場合には最大で12種類の試液を使用することができる。ここでは、図4に示したように、A液、aビーズ(懸濁液)、E液、bビーズ(懸濁液)、H液の5種類の試液を8ウェルプレート8の8個の細長ウェル81にそれぞれ収容する。なお、それ以外の試液、つまりはB液、C液、D液、F液、及びG液は、それぞれリザーバーに収容される。
【0035】
オペレーターは、上記5種類の試液が収容された8ウェルプレート(以下、このウェルプレートを「試液プレート」という)8と、5種類の試液が収容されたリザーバー、試液の種類の数と同じ枚数、ここでは5枚の空の96ウェルプレート7と、96本の試料(検体)が収容されているチューブラックを、それぞれ容器保管部2の所定位置にセットする。5枚の空の96ウェルプレートのうち2枚はdeep well型、3枚はPCR well型である。これで、自動前処理の準備が完了し、続いて、オペレーターは操作部6で処理開始のための所定の操作を行う。
【0036】
処理開始の指示を受けた制御部5は、アーム移動部42を駆動し、試液プレートと5枚の空の96ウェルプレート7とをそれぞれ、容器保管部2から分注作業部3の作業台30上の所定位置へと移動させる。作業台30上に、5枚の空の96ウェルプレート7を載置するスペースがある場合、又は、5枚の空の96ウェルプレート7を重ねて載置することが可能である場合には、後述する試液の分注の前に5枚の空の96ウェルプレート7全てを移送してもよいが、そのスペースが作業台30上にない場合には、1枚の空の96ウェルプレート7を移送し、試液の分注が終了したならば試液が分注された96ウェルプレート7を容器保管部2に戻すとともに、別の空の96ウェルプレート7を容器保管部2から作業台30上へ移送する、という動作を繰り返すようにすればよい。
【0037】
試液プレートと空の96ウェルプレート7が作業台30上の所定位置に載置されると、制御部5は吸引吐出機構移動部32を駆動し、吸引吐出部31を試液プレートの上方まで移動させる。そして、吸引吐出部31を降下させて、チップ(12連チップ)311を試液プレートの一つの細長ウェル中の試液に浸漬させる。12連チップの全てが試液プレートの一つの細長ウェル中の試液に、つまり同じ試液に浸漬される。そして、吸引吐出部31のポンプ部313を動作させ、試液を12連チップの各チップに吸引して保持する。そのあと、制御部5は、吸引吐出機構移動部32により吸引吐出部31を上昇させるとともに、今度は1枚の空の96ウェルプレート7の上方まで移動させる。そして、吸引吐出部31を降下させて空の96ウェルプレート7の一つの行に並ぶ12個のウェル71に、保持していた試液を一斉に吐出する。それにより、1種類の試液が、1枚の96ウェルプレート7内の12個のウェル71に同時に分注される。この動作を8回繰り返すことにより、同じ1種類の試液を1枚の96ウェルプレート7内の全てのウェル71に分注する。
【0038】
次に、試液プレートに用意されている他の4種類の試液についても、同様にして、それぞれ別の空の96ウェルプレート7の各ウェル71に分注する。これにより、図4に示すように、用意された5枚の空の96ウェルプレートのそれぞれに、異なる種類の試液、即ち、A液、aビーズ、E液、bビーズ、及びH液が分注される。
【0039】
そのあと、制御部5はアーム移動部42を駆動して、試液分注後の試液プレート、及び、試液が収容されている5枚の96ウェルプレート7を作業台30上から容器保管部2移動させる。但し、前処理の最初の工程(図3中のステップS1)において使用する試液(ここではA液)が分注されている96ウェルプレート7は、必要に応じて(例えば時間をおかずに引き続き前処理を行う場合など)、作業台30上に置いたままでもよい。また、上述したように、容器保管部2から作業台30上に空の96ウェルプレート7を1枚ずつ順番に搬送して試液の分注を行い、分注が終了したならばその96ウェルプレート7を一旦容器保管部2に戻す、という作業を繰り返してもよい。
【0040】
試液の分注終了後、制御部5はアーム移動部42を駆動して、IP法の処理の第1段階(図3中のステップS1)に使用される試液であるA液が分注されている96ウェルプレート7、及び、試料(検体)が収容されているチューブラックを、容器保管部2から作業台30まで移動させる。もちろん、A液が分注されている96ウェルプレート7が既に作業台30上に存在する場合には、チューブラックのみを移動させればよい。
【0041】
そのあと、制御部5は吸引吐出機構移動部32及び吸引吐出部31を駆動し、吸引吐出部31によりチューブラック内の各チューブから所定量の試料を吸引し、A液が入っている96ウェルプレート7の各ウェルへ試料をそれぞれ注入する。このとき、必要に応じて、ウェル中の液体(A液と試料との混合液)の吸引及び吐出を1回以上実行することにより、A液と試料との混和を促進する。そして、同様の動作を繰り返すことによって、96ウェルプレート7の全てのウェルにそれぞれ収容されているA液にそれぞれ異なる試料を混和させる。これにより、A液のみが収容されていた96ウェルプレート7の各ウェル中の溶液は、A液と試料との混合液となる。試料が吸引されたあとのチューブラックは容器搬送部4により容器保管部2戻される。
【0042】
なお、上述したように、初めに試液を分注する際には、チップ311として8連チップ又は12連チップを用いるが、試料とA液との混合以降の各処理の際には、チップ311として上述した8連チップ又は12連チップ以外のチップを用いてもよく、例えば、全てのウェルについて同時に液体の吸引吐出が可能である96連チップを用いてもよい。
【0043】
次いで、制御部5はアーム移動部42を駆動して、IP法の第段階のアフィニティ精製図3中のステップS2~S6)に用いる試液であるaビーズが収容されている96ウェルプレート7を容器保管部2から作業台30のマグネットプレートへ移動させる。この移動は、aビーズが収容されている96ウェルプレート7が既にマグネットプレート上に存在する場合(分注後にaビーズが収容されている96ウェルプレート7が容器保管部2に戻されなかった場合)には不要である。マグネットプレートは磁石が装備された載置台であり、磁力によってウェル内のビーズを引き付ける作用を有する。そのため、マグネットプレート上に載置された96ウェルプレート7の各ウェル内のビーズ(aビーズだけでなくbビーズも同様)は、そのウェルの底部又は側面に張り付く。
【0044】
制御部5は吸引吐出機構移動部32及び吸引吐出部31を駆動し、直前に各試料とA液とが混合されてなる混合液をそれぞれ、aビーズが収容されている96ウェルプレート7の各ウェルへと注入する。このときにも、必要に応じて、ウェル内の液体についての吸引吐出を繰り返すことで混和を促進することができる。なお、ここで使用する試液がaビーズが含まれるビーズ懸濁液である場合には、懸濁液の上清を吸引して除去する処理を先立って行ってもよい。その際に、磁力によってビーズをウェル底部に張り付けることにより、上清のみを吸引することができる。
【0045】
上述したようにaビーズがそれぞれ各ウェルに収容されている96ウェルプレート7にA液と試料との混合液が注入されると、抗原抗体反応を促進させるために、その96ウェルプレート7は、所定時間(例えば1時間)作業台30上に設けた冷却プレートの上でインキュベートされる。インキュベート中は、96ウェルプレート7の各ウェル内でビーズが懸濁した状態が維持されるように、吸引吐出部31によるウェル内の液体についての吸引吐出動作を所定時間継続して連続的に、又は一定時間が経過する毎に間欠的に実施する。なお、作業台30上でインキュベートさせるのではなく、作業台30とは別にインキュベートのためのスペースを設けてもよい。このスペースは容器保管部2に設けてもよい。これにより、或る1枚の96ウェルプレート7中の試料についてのインキュベートを実施している期間中に別の試料についてのステップS1、S2の処理を行うことができる。
【0046】
そして、インキュベートが終了したならば、その96ウェルプレート7を作業台30上へと戻し、引き続き、B液、C液、D液、E液、F液、G液、H液、及びbビーズを用い、ステップS4~S12に対応する処理を作業台30上で順次実施する。いずれの作業を行う場合にも、その作業に必要な試液が収容されているウェルプレート又はリザーバーを容器保管部2から作業台30上へと移送し、その作業が終了したならばウェルプレート又はリザーバーを容器保管部2へと戻せばよい。
【0047】
ステップS12に対応する処理が終了した時点で、作業台30上には、各ウェルにbビーズと溶出液であるH液が収容されている96ウェルプレート7が載置された状態である。ウェル中のH液中には、bビーズに担持されていた試料由来のAβ関連ペプチドが溶出した状態である。このときのウェル中の溶出液がIP法による前処理終了後の試料溶液である。引き続いて、制御部5は吸引吐出機構移動部32及び吸引吐出部31を駆動し、上記処理後の96ウェルプレート7の各ウェル中の各溶液を所定量吸引して、用意されたMALDI用サンプルプレート上にそれぞれ滴下する。そのあと、予め用意されたマトリックスがサンプルプレート上の各スポットに添加され、それが風乾されることで、サンプルが調製される。このように本実施形態の試料前処理装置にスポッティング装置の機能を組み込むことで、MALDI用サンプルの調製までの処理を連続的に実行することができる。また、MALDI用サンプルプレート上に先にマトリックスを滴下しておき、その上に処理後の96ウェルプレート7の各ウェル中の溶液を滴下することによっても、サンプルを調製することができる。
【0048】
なお、上記処理後の96ウェルプレート7を例えば別のハンドリング機構により本実施形態の試料前処理装置とは別のスポッティング装置に搬送し、そのスポッティング装置においてウェル中の各溶液がMALDI用サンプルプレート上にそれぞれ滴下され、マトリックスが添加されて風乾されることで、サンプルが調製されるようにしてもよい。
【0049】
以上のようにして本実施形態の試料前処理装置では、Aβ測定のためのIP法の一連の処理を自動的に実施することができる。
上述したように本実施形態の試料前処理装置では、複数の試液をそれぞれ1枚のウェルプレートの各ウェルに分注する際に、8連チップ又は12連チップを使用している。そのため、複数のマイクロチューブ又はコニカルチューブから96ウェルプレートの各ウェルへ試液を分注する場合と比べて、12ウェルプレートと8連チップを用いた場合には試液の分注に要する時間を1/8に短縮することができ、8ウェルプレートと12連チップを用いた場合には試液の分注に要する時間を1/12に短縮することができる。分注する必要がある試液の種類が多いほど、分注時間の短縮効果は高くなる。
【0050】
また、本実施形態の試料前処理装置では、多数の試液がそれぞれ用意されたウェルプレートやリザーバーを容器保管部2で保管し、作業に必要なもののみを作業台30に搬送し、作業が終わったならば容器保管部2に戻すような手順で前処理が進行する。そのため、多数の試液を使用する複雑な前処理であっても、液体の分注や注入のための作業スペースが狭くて済み、前処理装置のサイズを抑え狭いスペースにも装置を設置することが可能となる。
【0051】
なお、上記実施形態や変形例はあくまでも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。例えば上記実施形態の装置では、標準的に使用されている96ウェルプレートを作業に用いていたが、この4倍のウェル数の384ウェルプレートを用いる装置とすることもできる。また、当然のことながら、動作プログラムを入れ替えることで、様々な種類や手順の前処理に対応することが可能である。
【0052】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0053】
(第1項)本発明に係る試料前処理装置の一態様は、
N行×M列(但し、N、Mともに2以上の整数)の行列状にウェルが形成されてなる第1ウェルプレートと、該第1ウェルプレートにおける1行中のM個のウェルに相当する長さの細長ウェルがN本形成されている、又は該第1ウェルプレートにおいて1列中のN個のウェルに相当する長さの細長ウェルがM本形成されている第2ウェルプレートと、を含む、複数の容器を収納可能である容器保管部と、
前記容器が載置可能である作業台と、前記第1ウェルプレートにおける1行中のM個のウェルに対応するM連チップ、又は該第1ウェルプレートにおける1列中のN個のウェルに対応するN連チップを含むピペット部と、該ピペット部を通して前記作業台に載置された容器中の液体を吸引吐出するポンプ部と、を含む分注作業部と、
前記容器保管部と前記作業台との間で前記容器を搬送する搬送部と、
前記分注作業部及び前記搬送部の動作を制御するものであって、前記容器保管部に用意された、L本(但し、Lは2以上でN又はM以下の整数)の細長ウェルにそれぞれ前処理用の試液が収容された状態の第2ウェルプレートと、L個の空の第1ウェルプレートとを、それぞれ前記容器保管部から前記作業台まで搬送する搬送工程と、前記作業台において、前記M連チップ又は前記N連チップを用い、試液入りの第2ウェルプレートの各細長ウェルに収容されているL個の試液のうちの一つの試液を吸引してL個の空の第1ウェルプレートのうちの一つの第1ウェルプレートの各ウェルに分注する、という動作を、用意されたL個の試液についてそれぞれ実行する試液分注工程と、前記作業台において、第1試液が分注されている第1ウェルプレートの各ウェルへそれぞれ試料を注入する試料注入工程と、前記試液分注工程後に、前処理の第2段階で使用する第2試液が分注されている第1ウェルプレートが前記作業台から前記容器保管部まで戻されている場合には該第2試液入りの第1ウェルプレートを前記容器保管部から前記作業台へ搬送したうえで、該作業台において、該第2試液入りの第1ウェルプレートの各ウェルへ、前記第1試液及び試料の混合溶液が収容されている第1ウェルプレートの各ウェルから該混合溶液をそれぞれ注入する混合溶液注入工程と、を実行するように前記分注作業部及び前記搬送部の動作を制御する制御部と、
を備えるものである。
【0054】
第1項に記載の試料前処理装置によれば、前処理に使用する試液の数が多い場合であっても、各試液をそれぞれ異なるウェルプレート上の各ウェルに効率良く分注することができ、試液の分注作業に要する時間を短縮することができる。また、第1項に記載の試料前処理装置によれば、作業段階の数や使用する試液の数が相違する様々な前処理に柔軟に対応することができる汎用性の高い試料前処理装置を提供することができる。
【0055】
(第2項)第1項に記載の試料前処理装置において、前記制御部は、前記試液分注工程後に、前処理の第1段階で使用する第1試液以外の試液が分注されている第1ウェルプレートを前記作業台から前記容器保管部まで戻す戻し工程を実行するとともに、前記混合溶液注入では、第2試液入りの第1ウェルプレートを前記容器保管部から前記作業台へ搬送するように、前記分注作業部及び前記搬送部の動作を制御するものとすることができる。
【0056】
第2項に記載の試料前処理装置によれば、比較的狭いスペースの作業台において多くの試液を使用する複雑な前処理を行うことができる。それにより、試料前処理装置のサイズ、特に設置面積を抑えることができる。
【0057】
(第3項)第1項又は第2項に記載の試料前処理装置において、前記制御部は、試液入りの第2ウェルプレートから空の第1ウェルプレートへの試液の分注が全て終了したあとに、該第2ウェルプレートを前記作業台から前記容器保管部へと戻し、前記試料が収容されている容器を前記容器保管部から前記作業台まで搬送し試料の分注を行うように、前記分注作業部及び前記搬送部の動作を制御するものとすることができる。
【0058】
第3項に記載の試料前処理装置によれば、使用済みの第2ウェルプレートが容器保管部に戻されるので、必要に応じてオペレータは、その第2ウェルプレートを直ぐに回収して次の作業を行うことができる。また、試料が収容されている容器も他の容器とともに容器保管部に載置すればよいので、作業が簡素化される。
【0059】
(第4項)第1項~第3項のいずれか1項に記載の試料前処理装置において、前記制御部は、前記第1試液が収容されている第1ウェルプレートの各ウェルに試料を分注する際に、該ウェルにおいて液体の吸引及び吐出動作を行うことにより混和促進処理を実施するものとすることができる。
【0060】
(第5項)第1項~第4項のいずれか1項に記載の試料前処理装置において、前記制御部は、前記第2試液が収容されている第1ウェルプレートの各ウェルへ混合溶液をそれぞれ注入する際に、該ウェルにおいて液体の吸引及び吐出動作を行うことにより混和促進処理を実施するものとすることができる。
【0061】
第4項又は第5項に記載の試料前処理装置によれば、ウェルに収容されている液体とそれに加える液体とを短時間で且つ十分に混和させることができ、例えば両液体中の成分の反応を促進させることができる。それにより、前処理に必要な時間を短縮したり、或いは、反応の効率を高めて良好な前処理を実施したりすることができる。
【0062】
(第6項)第1項~第5項のいずれか1項に記載の試料前処理装置において、前記作業台において前記第2段階以降の複数の段階を経て前処理が終了したあとの複数の溶液をそれぞれ、マトリックス支援レーザー脱離イオン化用のサンプルプレート上に滴下し、該サンプルプレート上で該溶液と所定のマトリックスとを混合させてサンプルを調製するサンプル調製部、をさらに備えるものとすることができる。
【0063】
上記サンプル調製部では、前処理が終了したあとの溶液をサンプルプレート上に滴下したあと、マトリックスを溶液のスポット上に滴下することで、両者を混合させるものとすることができる。或いは、サンプルプレート上にマトリックスを滴下し、それを乾固させる前に又は乾固させたあとにその上に前処理が終了したあとの溶液を滴下することにより、両者を混合させるものとしてもよい。
第6項に記載の試料前処理装置によれば、MALDI用サンプル調製までの作業を1台の装置で実施することができ、MALDI質量分析の作業の効率を一段と向上させることができる。
【0064】
(第7項)第1項~第6項のいずれか1項に記載の試料前処理装置において、Nは8でMは12である、又は、Nは16でMは24であるものとすることができる。
【0065】
第7項に記載の試料前処理装置によれば、広く使用されているウェルプレート等の容器に対応した前処理が行える。
【符号の説明】
【0066】
1…ベースプレート
2…容器保管部
3…分注作業部
30…作業台
31…吸引吐出部
311…チップ
312…ピペット部
313…ポンプ部
32…吸引吐出機構移動部
4…ステップS
41…アーム機構
42…アーム移動部
5…制御部
6…操作部
7…96ウェルプレート
71…ウェル
8…8ウェルプレート
9…12ウェルプレート
81、91…細長ウェル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7