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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】単相インバータの出力導体固定装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240110BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020208909
(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公開番号】P2022096029
(43)【公開日】2022-06-29
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】内田 誉人
【審査官】阿部 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-175869(JP,A)
【文献】実開昭57-113620(JP,U)
【文献】特開平03-138685(JP,A)
【文献】実開平01-040230(JP,U)
【文献】実開昭51-087298(JP,U)
【文献】特開2008-080240(JP,A)
【文献】特開2003-033001(JP,A)
【文献】特開2017-091902(JP,A)
【文献】特開2020-068601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形平面板形状の相間絶縁板と、
前記相間絶縁板の一方の面から垂直方向に設定距離隔てて配設された単相インバータの第1の出力導体と、
前記相間絶縁板の他方の面から垂直方向に設定距離隔てて配設された単相インバータの第2の出力導体と、
前記相間絶縁板の左右端部を、一方の面側と他方の面側から各々挟んで保持する絶縁板挟持部と、前記相間絶縁板の左端部と右端部の間の中央部において、前記第1の出力導体の前記相間絶縁板に対向する面と反対側の面が固定される第1固定面と、前記相間絶縁板の左端部と右端部の間の中央部において、前記第2の出力導体の前記相間絶縁板に対向する面と反対側の面が固定される第2固定面とが形成された絶縁保持体と、
前記第1の出力導体を前記絶縁保持体の第1固定面に、前記第2の出力導体を前記絶縁保持体の第2固定面に各々固定する固定部材と、を備えたことを特徴とする単相インバータの出力導体固定装置。
【請求項2】
前記相間絶縁板の厚みD2を、単相インバータの相間の電位差に対して相間絶縁板の絶縁耐力が上回る厚みに設定し、
前記相間絶縁板の一方の面と、第1の出力導体の相間絶縁板に対向する面との間の第1の空気層の厚みD1と、前記相間絶縁板の他方の面と、第2の出力導体の相間絶縁板に対向する面との間の第2の空気層の厚みD3とを、式(5)、式(6)、式(7)で定義される電界強度Eが空気層の絶縁耐力以下となる値に設定した、ことを特徴とする請求項1に記載の単相インバータの出力導体固定装置。
【数5】

(ただし、η:集中係数、V:前記単相インバータの相間の電位差、D’:等価絶縁距離)
【数6】

【数7】

(ただし、ε1:前記第1の空気層の比誘電率、ε2:前記相間絶縁板の比誘電率、ε3:前記第2の空気層の比誘電率、比誘電率は各物質における誘電率を真空の誘電率(電気定数)で除したもの、Raは往復導体の角部における曲率)
【請求項3】
前記絶縁保持体の第1固定面の左右端と絶縁板挟持部の間に第1のスロープ部が形成され、前記第1の出力導体の左右端部は前記第1のスロープ部に点接触して固定され、
前記絶縁保持体の第2固定面の左右端と絶縁板挟持部の間に第2のスロープ部が形成され、前記第2の出力導体の左右端部は前記第2のスロープ部に点接触して固定されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の単相インバータの出力導体固定装置。
【請求項4】
前記固定部材は、
一端を第1の出力導体に固着し、他端を、絶縁保持体の第1固定面の中央部を貫通させた貫通穴に通して絶縁保持体の外周面から突出させた第1のねじと、第1のねじの他端側から締め付ける第1のナットと、
一端を第2の出力導体に固着し、他端を、絶縁保持体の第2固定面の中央部を貫通させた貫通穴に通して絶縁保持体の外周面から突出させた第2のねじと、第2のねじの他端側から締め付ける第2のナットと、
を備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の単相インバータの出力導体固定装置。
【請求項5】
前記固定部材は、
一端を第1の出力導体に固着し、他端を、絶縁保持体の第1固定面の中央部を貫通させた貫通穴に通して絶縁保持体の外周面から突出させた第1のばねと、第1のばねの他端を前記絶縁保持体に固定する第1の機構部と、
一端を第2の出力導体に固着し、他端を、絶縁保持体の第2固定面の中央部を貫通させた貫通穴に通して絶縁保持体の外周面から突出させた第2のばねと、第2のばねの他端を前記絶縁保持体に固定する第2の機構部と、
を備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の単相インバータの出力導体固定装置。
【請求項6】
前記絶縁保持体の第1固定面および第2固定面の間の間隔Hと、前記絶縁板挟持部における挟持間隔H’を調整する間隔調整部材を備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の単相インバータの出力導体固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単相インバータに係り、特に導体および絶縁物の固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波電流を出力する単相インバータでは、交流出力側の導体による配線インピーダンスのL(インダクタンス)分を低減することが求められる。
【0003】
図1は単相インバータと負荷の接続状態を表しており、単相インバータ100の入力側は図示省略の直流電源の正極P、負極Nに接続されている。
【0004】
単相インバータ100の交流出力側はU相導体を構成する往復導体21(第1の出力導体)およびV相導体を構成する往復導体22(第2の出力導体)を介して負荷200に接続されている。
【0005】
Lu、Lvは往復導体21、22による配線インピーダンスのL(インダクタンス)分を示している。
【0006】
前記配線インピーダンスのL(インダクタンス)分Lu、Lvを低減することを目的に、図示省略の絶縁板を介して往復導体21、22を積層し、往復導体間の距離を近接させて配線する。
【0007】
しかし、往復導体間の距離を近接させすぎると往復導体間の電界強度が高くなるため、出力が高電圧の場合は、空気層の絶縁破壊によるコロナ放電を抑制する観点から一定以上の往復導体間の距離が必要である。
【0008】
すなわち、往復導体間の距離を決定づける往復導体および相間絶縁物の固定方法が重要であり、固定方法の先行技術としては特許文献1が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-91902号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】「ブスバーインダクタンスの簡易計算方法とインバータDCリンクの寄生共振の解析」、電学論D Vol.117、No.11、pp1364-1374
【文献】「集積回路の配線インダクタンスの解析モデルの測定による検証」、情報処理学会研究報告、SLDM-110、pp37-42、2003-05-15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1では、往復導体(第1ブスバー12、第2ブスバー14)および相間絶縁物(絶縁板17)をクランプ18、19で挟んで固定している。前記往復導体(12、14)と相間絶縁物(絶縁板17)は接触し、往復導体間の距離は相間絶縁物の厚み分となる。
【0012】
特許文献1に記載の技術では、次のような課題がある。
(1)往復導体(12、14)と相間絶縁物(17)を接触させているが、一般に空気層よりも絶縁物の誘電率の方が高いため往復導体間の電界強度が高くなりやすく、特に接触部周辺に生じる微小な空気層部分でコロナ放電が発生しやすい。
(2)電界強度を下げてコロナ放電を抑制するために絶縁物を厚くすると、往復導体間の距離が大きくなり配線インピーダンスが大きくなる。
(3)往復導体と相間絶縁物が密着するため、往復導体の発熱の影響で絶縁物の劣化を招く場合がある。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、相間絶縁板を挟んで互いに所定距離隔てて対向配設した第1および第2の出力導体間の距離、第1の出力導体と相間絶縁板の間の距離、第2の出力導体と相間絶縁板の間の距離を一定以上に維持することで、第1および第2の出力導体間の電界強度を下げてコロナ放電を抑制しつつ、前記各距離を最小限にして配線インピーダンスL(インダクタンス)分を低減することができる単相インバータの出力導体固定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための請求項1に記載の単相インバータの出力導体固定装置は、
矩形平面板形状の相間絶縁板と、
前記相間絶縁板の一方の面から垂直方向に設定距離隔てて配設された単相インバータの第1の出力導体と、
前記相間絶縁板の他方の面から垂直方向に設定距離隔てて配設された単相インバータの第2の出力導体と、
前記相間絶縁板の左右端部を、一方の面側と他方の面側から各々挟んで保持する絶縁板挟持部と、前記相間絶縁板の左端部と右端部の間の中央部において、前記第1の出力導体の前記相間絶縁板に対向する面と反対側の面が固定される第1固定面と、前記相間絶縁板の左端部と右端部の間の中央部において、前記第2の出力導体の前記相間絶縁板に対向する面と反対側の面が固定される第2固定面とが形成された絶縁保持体と、
前記第1の出力導体を前記絶縁保持体の第1固定面に、前記第2の出力導体を前記絶縁保持体の第2固定面に各々固定する固定部材と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の単相インバータの出力導体固定装置は、請求項1において、
前記相間絶縁板の厚みD2を、単相インバータの相間の電位差に対して相間絶縁板の絶縁耐力が上回る厚みに設定し、
前記相間絶縁板の一方の面と、第1の出力導体の相間絶縁板に対向する面との間の第1の空気層の厚みD1と、前記相間絶縁板の他方の面と、第2の出力導体の相間絶縁板に対向する面との間の第2の空気層の厚みD3とを、式(5)、式(6)、式(7)で定義される電界強度Eが空気層の絶縁耐力以下となる値に設定した、ことを特徴とする。
【0016】
【数5】
【0017】
(ただし、η:集中係数、V:前記単相インバータの相間の電位差、D’:等価絶縁距離)
【0018】
【数6】
【0019】
【数7】
【0020】
(ただし、ε1:前記第1の空気層の比誘電率、ε2:前記相間絶縁板の比誘電率、ε3:前記第2の空気層の比誘電率、比誘電率は各物質における誘電率を真空の誘電率(電気定数)で除したもの、Raは往復導体の角部における曲率)
請求項3に記載の単相インバータの出力導体固定装置は、請求項1又は2において、
前記絶縁保持体の第1固定面の左右端と絶縁板挟持部の間に第1のスロープ部が形成され、前記第1の出力導体の左右端部は前記第1のスロープ部に点接触して固定され、
前記絶縁保持体の第2固定面の左右端と絶縁板挟持部の間に第2のスロープ部が形成され、前記第2の出力導体の左右端部は前記第2のスロープ部に点接触して固定されている、ことを特徴とする。
【0021】
請求項4に記載の単相インバータの出力導体固定装置は、請求項1から3のいずれか1項において、
前記固定部材は、
一端を第1の出力導体に固着し、他端を、絶縁保持体の第1固定面の中央部を貫通させた貫通穴に通して絶縁保持体の外周面から突出させた第1のねじと、第1のねじの他端側から締め付ける第1のナットと、
一端を第2の出力導体に固着し、他端を、絶縁保持体の第2固定面の中央部を貫通させた貫通穴に通して絶縁保持体の外周面から突出させた第2のねじと、第2のねじの他端側から締め付ける第2のナットと、
を備えたことを特徴とする。
【0022】
請求項5に記載の単相インバータの出力導体固定装置は、請求項1から3のいずれか1項において、
前記固定部材は、
一端を第1の出力導体に固着し、他端を、絶縁保持体の第1固定面の中央部を貫通させた貫通穴に通して絶縁保持体の外周面から突出させた第1のばねと、第1のばねの他端を前記絶縁保持体に固定する第1の機構部と、
一端を第2の出力導体に固着し、他端を、絶縁保持体の第2固定面の中央部を貫通させた貫通穴に通して絶縁保持体の外周面から突出させた第2のばねと、第2のばねの他端を前記絶縁保持体に固定する第2の機構部と、
を備えたことを特徴とする。
【0023】
請求項6に記載の単相インバータの出力導体固定装置は、請求項1から5のいずれか1項において、
前記絶縁保持体の第1固定面および第2固定面の間の間隔Hと、前記絶縁板挟持部における挟持間隔H’を調整する間隔調整部材を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
(1)請求項1~6に記載の発明によれば、第1の出力導体と第2の出力導体の間の距離、および相間絶縁板と第1の出力導体の間の(空気層の)距離、相間絶縁板と第2の出力導体の間の(空気層の)距離を一定以上維持することができ、第1および第2の出力導体間の電界強度を下げてコロナ放電を抑制しつつ、第1および第2の出力導体間の距離を最小限にして配線インピーダンスのL(インダクタンス)分を低減でき、熱による絶縁物の劣化を防ぐことができる。
(2)請求項2に記載の発明によれば、前記各厚みD1、D2、D3の設定により、必要な絶縁の確保とコロナ放電の抑制を満足しつつ、第1の出力導体と第2の出力導体の互いに対向する面の間の距離D0(=D1+D2+D3)を最小限にして配線インピーダンスのL(インダクタンス)分を低減することができる。
(3)請求項3に記載の発明によれば、第1の出力導体の左右端部が第1のスロープ部に点接触して固定され、第2の出力導体の左右端部が第2のスロープ部に点接触して固定されるので、第1および第2の出力導体の左右方向の位置決め精度が高められる。
(4)請求項4に記載の発明によれば、ねじとナットによる簡単な構成により、第1および第2の出力導体を第1固定面および第2固定面に各々固定することができる。
(5)請求項5に記載の発明によれば、ねじ締め作業が不要となり、組立の作業性が高まる。
(6)請求項6に記載の発明によれば、第1の出力導体、相間絶縁板、第2の出力導体間の各間隔を、コロナ放電を抑制しつつ配線インピーダンスのL(インダクタンス)分を低減できる間隔に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】単相インバータの外部との接続状態を表す構成図。
図2】本発明の実施例1による出力導体固定装置の要部断面図。
図3】本発明の実施例1による出力導体固定装置の斜視図。
図4】本発明の実施例2による出力導体固定装置の要部断面図。
図5】本発明の実施例3による出力導体固定装置の要部断面図。
図6】インバータの出力導体間距離とインダクタンスの関係を示す特性図。
図7】方形の幾何学的平均距離のモデルを表す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
実施例1による出力導体固定装置の、要部断面図を図2に示し、斜視図を図3に示す。これらの図において、10は、一対の短辺と一対の長辺を有して矩形平面板形状に形成された相間絶縁板である。相間絶縁板10の一方の面から垂直方向に設定した距離隔てて矩形平面形状の往復導体21(第1の出力導体)が配設され、相間絶縁板10の他方の面から垂直方向に設定した距離隔てて矩形平面形状の往復導体22(第2の出力導体)が配設されている。
【0028】
往復導体21、22は、例えば図1のように負荷200に接続される単相インバータ100のU相導体(21)、V相導体(22)であり、長辺の長さは相間絶縁板10の長辺と略同一寸法に各々形成され、短辺の長さは相間絶縁板10の短辺よりも短い寸法に各々形成され、相間絶縁板10の短辺方向の中央寄りに、相間絶縁板10と平行に各々配設されている。
【0029】
31、32は、相間絶縁板10、往復導体21、22の位置を決めて保持するための第1の絶縁保持体、第2の絶縁保持体であり、直方体形状の絶縁物から成り、相間絶縁板10、往復導体21、22の外周側の、相間絶縁板の長辺の中央付近において、相間絶縁板10の短辺方向に沿って各々配設されている。
【0030】
第1の絶縁保持体31と第2の絶縁保持体32は、相間絶縁板10、往復導体21、22を介して互いに対向配設されており、第1の絶縁保持体31の長手方向両端部には、相間絶縁板10の配設方向と平行な接合面31a、31bが形成され、第3の絶縁保持体32の長手方向両端部には、相間絶縁板10の配設方向と平行な接合面32a、32bが形成され、接合面31a、31bと接合面32a、32bは互いに対向して各々接合されている。
【0031】
第1の絶縁保持体31の、接合面31a、31bの長手方向内側端から、長手方向内側に設定した距離隔てた位置までの部位を切り欠いて、相間絶縁板10の左右端が各々挿入される相間絶縁板挟持用凹部31c、31dが形成されている。
【0032】
第2の絶縁保持体32の、接合面32a、32bの長手方向内側端から、長手方向内側に設定した距離隔てた位置までの部位を切り欠いて、相間絶縁板10の左右端が各々挿入される相間絶縁板挟持用凹部32c、32dが形成されている。
【0033】
前記凹部31c、31d、32c、32dによって、本発明の絶縁板挟持部を構成している。
【0034】
第1の絶縁保持体31の、相間絶縁板挟持用凹部31cの長手方向内側端から相間絶縁板挟持用凹部31dの長手方向内側端までの部位を切り欠いて、往復導体21が配設される往復導体固定用凹部31eが形成されている。
【0035】
第2の絶縁保持体32の、相間絶縁板挟持用凹部32cの長手方向内側端から相間絶縁板挟持用凹部32dの長手方向内側端までの部位を切り欠いて、往復導体22が配設される往復導体固定用凹部32eが形成されている。
【0036】
前記往復導体固定用凹部31eの底部には往復導体21が固定される固定面(第1の固定面)31fが形成され、固定面31fの中央部に位置する第1の絶縁保持体31は貫通されて貫通穴31gが形成されている。
【0037】
前記往復導体固定用凹部32eの底部には往復導体22が固定される固定面(第2の固定面)32fが形成され、固定面32fの中央部に位置する第1の絶縁保持体32は貫通されて貫通穴32gが形成されている。
【0038】
貫通穴31gにはねじ41が挿入され、その一端は往復導体21に固着されている。ねじ41の他端はナット51(第1のナット)に通され、ナット51を締め付けることによって往復導体21は第1の絶縁保持体31の固定面31fに固定される。
【0039】
貫通穴32gにはねじ42が挿入され、その一端は往復導体22に固着されている。ねじ42の他端はナット52(第2のナット)に通され、ナット52を締め付けることによって往復導体22は第2の絶縁保持体32の固定面32fに固定される。
【0040】
接合面31a、32a、31b、32bが設けられた第1および第2の絶縁保持体31、32の長手方向両端部には、接合面31a、32a、31b、32bに直交する方向で貫通させた穴部が設けられ、その穴部にビス60a、60bを挿入し、ビス60a、60bの挿入先端から通したナット70a、70bにより締め付けを行うことにより、相間絶縁板10、往復導体21、22の位置決めおよび固定、保持がなされる。
【0041】
前記第1の絶縁保持体31の固定面31fと第2の絶縁保持体32の固定面32fの間の間隔H、相間絶縁板挟持用凹部31c、31d、32c、32dによる挟持間隔H’は、前記凹部31c、31d、32c、32dの寸法設計により決められるが、ナット70a、70bの締め付け度合いによって前記間隔H、H’を調整することができる。
【0042】
したがって、ビス60a、60bおよびナット70a、70bが、本発明の間隔調整部材を構成している。
【0043】
図中の寸法D1は相間絶縁板10の一方の面と、往復導体21の相間絶縁板10に対向する面との間の第1の空気層の厚み、寸法D2は相間絶縁板10の厚み、寸法D3は相間絶縁板10の他方の面と、往復導体22の相間絶縁板10に対向する面との間の第2の空気層の厚みを各々示している。寸法D0は往復導体21、22間の距離であり、寸法D1、D2、D3の総和である(D0=D1+D2+D3)。
【0044】
上記のように構成された実施例1の装置において、配線インピーダンスのL分を低減する観点から、往復導体21、22間の距離寸法D0は極力小さくすることが望ましい。そのため、図2に示すように相間絶縁板10を介して往復導体21、22を積層し導体間距離D0を近接させ、配線インピーダンスのL分(Lu、Lv)を低減する。
【0045】
このとき、導体間距離D0とインダクタンスM、Lu、Lvの関係は図6の特性図に示す関係となる。
【0046】
図6の特性図では、往復導体21(22)の左右幅、すなわち短辺の長さWを50mm、厚さtを3mm、用辺の長さlを1000mm、自己インダクタンスLを1000nHとしている。図6によれば、導体間距離D0を極力小さくすることで、相互インダクタンスMが大となり、自己インダクタンスLと打ち消し合って配線インピーダンスのL分(Lu、Lv)を低減できることがわかる。
【0047】
配線インピーダンスのL分、相互インダクタンスM、相互幾何学的距離Dの関係式は、公知の非特許文献1の式(17)を参照すれば次の式(1)~式(3)で表される。
【0048】
【数1】
【0049】
(ただしL:自己インダクタンス、M:相互インダクタンス)
【0050】
【数2】
【0051】
【数3】
【0052】
ただし、式(3)の左辺のlogDはlog(D/(1[m]))を意味しており、D0:往復導体間の距離、t:往復導体21(22)の厚み寸法、RD0+2t:辺の長さがW,(D0+2t)となる方形の自己幾何学的平均距離、RD0+t:辺の長さがW,(D0+t)となる方形の自己幾何学的平均距離、RD0:辺の長さがW,D0となる方形の自己幾何学的平均距離であり、方形の幾何学的平均距離のモデルは図7のとおりである。
【0053】
辺の長さがW,Dからなる矩形における自己幾何学的平均距離は、公知の非特許文献2を参照すると、近似的に以下の式(4)で求めることが可能である。下式(4)の係数部は、WとDの比率により変動する。
【0054】
【数4】
【0055】
一方で、往復導体間の絶縁やコロナ放電の抑制のために寸法D0は一定以上の大きさが必要となる。
【0056】
必要な絶縁の確保とコロナ放電の抑制を満足しつつ、往復導体21、22間の距離D0を最小限にして配線インピーダンスのL分を低減する手段として、本実施例1では、下記の要領で図2に示した寸法H、H’、D0、D1、D2、D3を決定し、往復導体21、22間に一定の空気層(D1、D3)と相間絶縁板10(D2)を設ける。
【0057】
往復導体21、22間の距離D0を最小限にするには、寸法D1、D2、D3のそれぞれを最小限に設定する。
【0058】
寸法D2は、単相インバータの相間の電位差V[KV]に対して相間絶縁板10の絶縁耐力が上回る厚みとする。例えば相間の電位差30[KV]で相間絶縁板10の材質を絶縁耐力:15[KV/mm]のガラスエポキシ積層板とした場合、寸法D2は2[mm]以上とする。
【0059】
寸法D1および寸法D3は、コロナ放電を抑制するために、次の式(5)、式(6)、式(7)で定義される電界強度Eが空気層の絶縁耐力:3[KV/mm]以下となる値とする。
【0060】
【数5】
【0061】
(ただし、η:集中係数、V:前記単相インバータの相間の電位差、D’:等価絶縁距離)
【0062】
【数6】
【0063】
【数7】
【0064】
(ただし、ε1:前記第1の空気層の比誘電率、ε2:前記相間絶縁板の比誘電率、ε3:前記第2の空気層の比誘電率、比誘電率は各物質における誘電率を真空の誘電率(電気定数)で除したもの、Raは往復導体の角部における曲率)
実施例1の図2の構成では、相間絶縁板挟持用凹部31c、32c(31d、32d)および往復導体固定用凹部31e、32eで構成される段溝部の深さ寸法H(すなわち第1の絶縁保持体31の固定面31fと第2の絶縁保持体32の固定面32fの間の間隔H)を調整することで任意の寸法D0、D1、D2、D3の大きさとすることができる。
【0065】
寸法D0は、前記段溝部の深さ寸法Hから往復導体21、22の導体厚み分(寸法t×2)を引いた大きさとなる。相間絶縁板10を挟持し位置決めするため、絶縁板挟持部における挟持間隔H’、すなわち相間絶縁板挟持用凹部31c(31d)の底面と相間絶縁板挟持用凹部32c(32d)の底面の間の寸法H’は、相間絶縁板10の厚みである寸法D2と同等とする。もしくは相間絶縁板10のつぶれ防止のために寸法D2よりも僅かに大きい寸法としてクリアランスを設ける。
【0066】
一般的に絶縁板の比誘電率ε2>空気層の比誘電率ε1、ε3なので、特許文献1のような往復導体間を絶縁板のみで構成した先行技術よりも、単位体積当たりの等価絶縁距離D’(式(6))を大きくすることができる。その結果、式(5)に示す電界強度Eを低減できるので、往復導体21、22間の距離D0をより一層近接できる。
【0067】
加えて、寸法D1およびD3の空気層によって往復導体21、22と相間絶縁板10の接触が無くなり、熱伝導の相間絶縁板10への熱影響が低減される。
【0068】
以上のように本実施例1によれば、往復導体21、22が近接し導体間距離D0が小さくなるので、相互インダクタンスによるインダクタンス打消し作用を高めて配線インピーダンスのL分(Lu、Lv)を低減することができる。
【0069】
また、往復導体21、22および相間絶縁板10が精度よく位置決めされ、誘電率の低い空気層の厚みD1、D3を確保することで、導体間距離D0を最小限としつつ等価絶縁距離D’(式(6))を大きくすることができ、電界強度E(式(5))を低減してコロナ放電を抑制することができる。
【0070】
また、寸法D1およびD3の空気層によって往復導体21、22と相間絶縁板10の接触を無くし、熱伝導の相間絶縁板10への熱影響を低減することができる。
【実施例2】
【0071】
本実施例2では、往復導体21、22の左右の位置決め精度を高めるために、図2の往復導体固定用凹部(31e,32e)の代わりに、図4のようにスロープ部(31h、32h、31i、32i)を形成した。
【0072】
図4において図2と同一部分は同一符号をもって示している。図4において、第1の絶縁保持体31における相間絶縁板挟持用凹部31cの長手方向中央寄りの端部と、固定面31fの前記凹部31c側の端部とを結んでスロープ部31hが形成され、相間絶縁板挟持用凹部31dの長手方向中央寄りの端部と、固定面31fの前記凹部31d側の端部とを結んでスロープ部31iが形成されている。
【0073】
第2の絶縁保持体32における相間絶縁板挟持用凹部32cの長手方向中央寄りの端部と、固定面32fの前記凹部32c側の端部とを結んでスロープ部32hが形成され、相間絶縁板挟持用凹部32dの長手方向中央寄りの端部と、固定面32fの前記凹部32d側の端部とを結んでスロープ部32iが形成されている。
【0074】
上記構成によれば、ナット51を締め付けることにより、往復導体21の左右端はスロープ部31h、31iに点接触して固定されるので、往復導体21の左右方向の位置決めの精度がより高められる。
【0075】
同様にナット52を締め付けることにより、往復導体22の左右端はスロープ部32h、32iに点接触して固定されるので、往復導体22の左右方向の位置決めの精度がより高められる。
【0076】
その他の部分は図2と同様に構成され、図2と同様の作用、効果が得られる。
【実施例3】
【0077】
本実施例3では、組立の作業性を高めるために、図2のねじ41、42、ナット51、52の代わりに、図5のようにばね(81、82)および機械的機構(91,92、;機構部)を設けた。
【0078】
図5において、第1の絶縁保持体31の貫通穴31gにはばね81が挿入され、ばね81の一端は往復導体21に固着されている。第2の絶縁保持体32の貫通穴32gにはばね82が挿入され、ばね82の一端は往復導体22に固着されている。
【0079】
91はばね81の他端を第1の絶縁保持体31に固定するための機械的機構であり、第1の絶縁保持体31の外周上で、長手方向両端から中央にかけて所定距離形成されたビス固定片91a、91bと、ビス固定片91a、91bの中央側の端部からばね81の他端の高さまで垂直に立ち上がる屈曲片91c、91dと、屈曲片91c、91dの、ビス固定片91a、91bと反対側の端部どうしを結ぶばね取付片91eとを備えている。
【0080】
ビス固定片91a、91bは前記ナット70a、70bの締め付けによって前記ビス60a、60bの先端側で固定され、ばね取付片91eの中央部はばね81の他端と固着されている。
【0081】
92はばね82の他端を第2の絶縁保持体32に固定するための機械的機構であり、第2の絶縁保持体32の外周上で、長手方向両端から中央にかけて所定距離形成されたビス固定片92a、92bと、ビス固定片92a、92bの中央側の端部からばね82の他端の高さまで垂直に立ち上がる屈曲片92c、92dと、屈曲片92c、92dの、ビス固定片92a、92bと反対側の端部どうしを結ぶばね取付片92eとを備えている。
【0082】
ビス固定片92a、92bは前記ナット70a、70bの締め付けによって前記ビス60a、60bの頭部側で固定され、ばね取付片92eの中央部はばね82の他端と固着されている。
【0083】
これらばね81、82、機械的機構91、92によって、往復導体21、22は固定面31f、32fに各々固定される。
【0084】
図5の構成によれば、図2図4のようなねじ締めが不要となり、組立の作業性が高まる。
【0085】
その他の部分は図2と同様に構成され、図2と同様の作用、効果が得られる。
【0086】
また、本実施例3は、スロープ部が形成された実施例2に適用してもよい。すなわち、図4のねじ41、42、ナット51、52から成る固定部材に代えて、図5のばね81、82、機械的機構91、92を設けるように構成する。その場合も、実施例2と同様の作用、効果が得られる。
【符号の説明】
【0087】
10…相間絶縁板
21,22…往復導体
31,32…絶縁保持体
31a,31b,32a,32b…接合面
31c,31d,32c,32d…相間絶縁板挟持用凹部
31e,32e…往復導体固定用凹部
31f,32f…固定面
31g,32g…貫通穴
31h,31i,32h,32i…スロープ部
41,42…ねじ
51,52,70a,70b…ナット
60a,60b…ビス
81,82…ばね
91,92…機械的機構
91a,91b,92a,92b…ビス固定片
91c,91d,92c,92d…屈曲片
91e,92e…ばね取付片
100…単相インバータ
200…負荷
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7