(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ナノセルロース及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 5/14 20060101AFI20240110BHJP
C08B 15/04 20060101ALI20240110BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20240110BHJP
C08L 79/02 20060101ALI20240110BHJP
C08L 1/08 20060101ALI20240110BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C08B5/14
C08B15/04
C08L101/02
C08L79/02
C08L1/08
C08K7/02
(21)【出願番号】P 2020548316
(86)(22)【出願日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 JP2019035024
(87)【国際公開番号】W WO2020059525
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2018177610
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】長▲浜▼ 英昭
(72)【発明者】
【氏名】木下 友貴
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊樹
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108359017(CN,A)
【文献】特開2013-253200(JP,A)
【文献】特開2017-057285(JP,A)
【文献】特許第6582110(JP,B1)
【文献】セルロース学会 編集,セルロースの事典,株式会社 朝倉書店,2000年11月10日,第131-133頁
【文献】Journal of Nanomaterials,2015年,Volume 2015, Article ID 687490,DOI: 10.1155/2015/687490
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B、C08L、C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸基及び/又はスルホ基、
及びリン酸基又はカルボキシル基のうちの少なくとも1つであるアニオン性官能基を含有するナノセルロースであって、前記硫酸基及び/又はスルホ基及びアニオン性官能基の総量が0.1mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下で
あって、前記ナノセルロースが、繊維幅が50nm以下でアスペクト比が5~50であるセルロースナノクリスタルであることを特徴とするナノセルロース。
【請求項2】
請求項
1記載のナノセルロース及び多価カチオン樹脂を含有する混合物から成ることを特徴とする成形体。
【請求項3】
前記多価カチオン樹脂が、ポリエチレンイミンである請求項
2記載の成形体。
【請求項4】
セルロース原料を硫酸処理することにより得られた、硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルを、
硫酸処理以外の親水化処理することを特徴とする請求項
1記載のナノセルロースの製造方法。
【請求項5】
前記親水化処理が、カルボジイミド
、三酸化硫黄-ピリジン錯体、リン酸-尿素、TEMPO触媒、酸化剤の何れかを用いた処理である請求項
4記載のナノセルロースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノセルロース及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、ガスバリア性や取扱い性に優れたアニオン性官能基含有ナノセルロース及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノセルロースは、高度バイオマス原料として、機能性添加剤、フィルム複合材料等として種々の用途に使用することが提案されている。特に、セルロースナノファイバーから成る膜やセルロースナノファイバーを含有する積層体等の材料は、セルロース繊維間の水素結合や架橋的な強い相互作用から、ガスの溶解、拡散を抑制できるため酸素バリア性等のガスバリア性に優れていることが知られており、セルロースナノファイバーを利用したバリア材料が提案されている。
セルロース繊維の微細化のため、機械的処理と共に、カルボキシル基やリン酸基等の親水性の官能基を、セルロースの水酸基に導入する化学的処理を行うことが行われており、これにより微細化処理に要するエネルギーを低減可能であると共に、バリア性や水系溶媒への分散性が向上する。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を含み、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.4~2mmol/gであるガスバリア用材料が記載されている。
また下記特許文献2には、最大繊維径が1000nm以下かつ数平均繊維径が2~150nmのセルロース繊維であって、セルロースの水酸基の一部がカルボキシル基およびアルデヒド基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基に酸化されており、且つセルロースI型結晶構造を有することを特徴とする微細セルロース繊維が記載されている。
更に下記特許文献3には、0.2質量%の水分散体としたとき、溶液ヘーズが15%以下であり、リン酸基に由来する強酸性基を0.6~3.8mmol/g含む、リン酸エステル化微細セルロース繊維が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許第4965528号公報
【文献】日本国特許第4998981号公報
【文献】日本国特許第6128212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献に記載されたセルロースナノファイバーは繊維長が長いことからガスバリア性の点で未だ充分満足するものではない。またTEMPO触媒を用いて化学処理されたセルロースナノファイバーは粘度が高いことから、例えば塗料組成物等に含有させた場合には、塗工性に劣る等の取扱い性の点で未だ充分満足するものではなかった。また、上記セルロースナノファイバーでもその繊維長が短くなれば、より高いガスバリア性を得ることも可能であるが、そのためには更なる処理が必要であり、経済性に劣る。
またセルロースナノファイバーに比して繊維長の短いナノセルロースとして、セルロース繊維を強酸で加水分解処理して成るセルロースナノクリスタルが知られている。しかしながら、一般にセルロースナノクリスタルは、上述したようなカルボキシル基等が導入されたセルロースナノファイバーに比してガスバリア性に劣っている。
【0006】
従って本発明の目的は、繊維長が短く且つアニオン性官能基を多く含有して、優れたバリア性及び取扱い性を発現可能であると共に、経済性にも優れたナノセルロース及びその製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、優れたガスバリア性及び層間密着性を有するナノセルロース含有層を有する成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、硫酸基及び/又はスルホ基、及びリン酸基又はカルボキシル基のうちの少なくとも1つであるアニオン性官能基を含有するナノセルロースであって、前記硫酸基及び/又はスルホ基及びアニオン性官能基の総量が0.1mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下であって、前記ナノセルロースが、繊維幅が50nm以下でアスペクト比が5~50であるセルロースナノクリスタルであることを特徴とするナノセルロースが提供される。
【0008】
本発明によればまた、上記ナノセルロース及び多価カチオン樹脂を含有する混合物から成ることを特徴とする成形体が提供される。
上記成形体においては、前記多価カチオン樹脂が、ポリエチレンイミンであることが好適である。
【0009】
本発明によればさらに、セルロース原料を硫酸処理することにより得られた、硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルを、硫酸処理以外の親水化処理することを特徴とする上記記載のナノセルロースの製造方法が提供される。
本発明のナノセルロースの製造方法においては、前記親水化処理が、カルボジイミド、三酸化硫黄-ピリジン錯体、リン酸-尿素、TEMPO触媒、酸化剤の何れかを用いた処理であることが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のナノセルロースは、硫酸基、スルホ基、カルボキシル基等のアニオン性官能基を0.1mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下の量で含有し、ナノセルロース間の荷電反発による緻密な自己組織化構造が形成されていることから、優れたガスバリア性が発現される。
また繊維長の短いセルロースナノクリスタルから成ることにより、上述した自己組織化構造と相まって、更にガスバリア性が向上されている。
更にまた、本発明のナノセルロース及び多価カチオン樹脂を含有する混合物から成る成形体においては、ナノセルロース間の緻密な自己組織化構造を維持しながら、ナノセルロース間に多価カチオン樹脂が自然拡散して介在した混合状態になっており、ナノセルロースの自己組織化構造が多価カチオンによって更に強化されていることから、ナノセルロースだけで発現されるガスバリア性よりも優れたガスバリア性を有する。
本発明のナノセルロースの製造方法においては、アニオン性官能基を0.1mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下の量で含有するナノセルロースを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で得られた成形体のTOF-SIM分析装置による成分分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(ナノセルロース)
本発明のナノセルロースは、硫酸処理由来の硫酸基及び/又はスルホ基、及び親水化処理由来のアニオン性官能基を含有するナノセルロースであって、前記硫酸基及び/又はスルホ基及びアニオン性官能基の総量が0.1mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下、特に0.3~1.3mmol/gであることが重要な特徴である。
前述したとおり、ナノセルロースのガスバリア性は、ナノセルロース同士の荷電反発により形成される自己組織化構造が透過ガスの透過経路の障壁になることにより発現される。本発明のナノセルロースにおいては、ナノセルロースの表面に、硫酸基、スルホ基、カルボキシル基等のアニオン性官能基が上記範囲の量で存在することにより、これらのアニオン性官能基が有する電荷(アニオン)により自己組織化構造を効率よく形成し、優れたガスバリア性を発現できる。すなわち、上記範囲よりもアニオン性官能基の量が少ない場合には、十分な自己組織化構造が形成されず、所望のガスバリア性が得られず、その一方上記範囲よりもアニオン性官能基の量が多い場合は、ナノセルロースの結晶構造が維持できず、かえってガスバリア性を損なうおそれがある。
【0013】
本発明においては、後述するように、セルロースナノクリスタルを出発物質として用いることにより、ガスバリア性に優れた繊維長の短いナノセルロースを得ることができ、上述した自己組織化構造と相俟って優れたガスバリア性を発現できる。
またかかるセルロースナノクリスタルが、硫酸処理により加水分解されたセルロースナノクリスタルであることにより、自己組織化構造の形成に寄与する硫酸基及び/又はスルホ基を既に含有していることから特に好ましい。すなわち、セルロースナノクリスタルには、セルロース繊維を硫酸処理或いは塩酸処理により酸加水分解するものがあるが、塩酸処理によるセルロースナノクリスタルは硫酸基及び/又はスルホ基を有しないため、自己組織化構造の形成に寄与する硫酸基及び/又はスルホ基を有する、硫酸処理によるセルロースナノクリスタルに比してバリア性を向上できない。
本発明のナノセルロースが有するアニオン性官能基は、後述するナノセルロースの親水化処理の方法によって決まり、特にカルボキシル基、リン酸基、硫酸基及び/又はスルホ基であることが好適である。これにより前述した自己組織化構造が効率よく形成され、ガスバリア性が向上する。
尚、本明細書において、硫酸基は、硫酸エステル基をも含む概念である。
【0014】
本発明のナノセルロースは、硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基の総量が上記範囲にあることから、結晶化度が60%以上の範囲にあることが望ましい。
本発明のナノセルロースにおいては、上記条件を満足する限り、繊維幅が50nm以下でアスペクト比が5~50であるセルロースナノクリスタル及び/又は繊維幅が50nm以下でアスペクト比が10以上のセルロースナノファイバーを含有することもできる。
すなわち、出発物質である、繊維幅が50nm以下でアスペクト比が5~50の範囲にあるセルロースナノクリスタルがそのままの状態で含有される場合や、繊維幅が50nm以下でアスペクト比が10以上のセルロースナノファイバーを所望により含有させてもよい。
【0015】
(ナノセルロースの製造方法)
本発明のナノセルロースは、セルロース原料を硫酸処理することにより得られた、硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルを、親水化処理することにより製造することができる。また親水化処理の前後、必要により、解繊処理、分散処理に付することもできる。
【0016】
[セルロースナノクリスタル]
本発明のナノセルロースの原料として使用される、セルロースナノクリスタルは、パルプなどのセルロース繊維を硫酸や塩酸で酸加水分解処理することにより得られる、ロッド状のセルロース結晶繊維であるが、本発明においては、自己組織化構造の形成に寄与可能な硫酸基及び/又はスルホ基を有する、硫酸処理によるセルロースナノクリスタルを使用する。
セルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基を0.01~0.1mmol/gの量で含有することが好適である。またセルロースナノクリスタルは、平均繊維径が50nm以下、特に2~50nm、の範囲にあり、平均繊維長が100~500nmの範囲にあり、アスペクト比が5~50の範囲にあり、結晶化度が60%以上、特に70%以上であるものを好適に用いることができる。
本発明のナノセルロースは、硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタルに後述する親水化処理を施すことにより得られるが、従来の酸化方法によって製造された、繊維幅が50nm以下でアスペクト比が10以上であるセルロースナノファイバーを、本発明のナノセルロースが有する優れたバリア性や取扱い性を損なわない範囲で含有させてもよく、具体的には、セルロースナノクリスタルの50%未満の量で使用することができる。
【0017】
[親水化処理]
本発明においては、上述したスルホ基を有するセルロースナノクリスタルの親水化処理を行うことにより、硫酸基及び/又はスルホ基量を調整、或いは、カルボキシル基、リン酸基等のアニオン性官能基をセルロースの6位の水酸基に導入し、硫酸基、スルホ基、カルボキシル基、リン酸基等のアニオン性官能基の総量が0.1mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下、特に0.3~1.3mmol/gの範囲にあるナノセルロースを調製する。
親水化処理としては、水溶性カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、リン酸-尿素、TEMPO触媒、酸化剤の何れかを用いて行う。カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、の何れかを用いた処理により、セルロースナノクリスタルの硫酸基及び/又はスルホ基量が調整されると共に、更にナノセルロースが更に短繊維化される。またリン酸-尿素又はTEMPO触媒、酸化剤の何れかを用いた処理により、リン酸基又はカルボキシル基のアニオン性官能基が導入されて、ナノセルロースの総アニオン性官能基量が上記範囲に調整される。
尚、親水化処理は、アニオン性官能基の総量が上記範囲となる限り、いずれか一つの処理を行えばよいが、同一の処理を複数回、或いは他の処理と組み合わせて複数回行ってもよい。
【0018】
<カルボジイミド用いた親水化処理>
カルボジイミドを用いた処理においては、ジメチルホルムアミド等の溶媒中でセルロースナノクリスタルとカルボジイミドを撹拌し、これに硫酸を添加した後、0~80℃の温度で5~300分反応させて硫酸エステルとする。カルボジイミド及び硫酸は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して5~30mmol及び5~30mmolの量で使用することが好ましい。
次いで水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を添加して、セルロースナノクリスタルに導入されたスルホ基をH型からNa型に変換することが、収率を向上する上で好ましい。その後、透析膜等を用いた濾過処理に付して不純物等を除去することにより、スルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
カルボジアミドとしては、分子内にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する水溶性化合物である1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド等を例示できる。また有機溶媒に溶解するジシクロヘキシルカルボジイミド等を使用することもできる。
【0019】
<硫酸を用いた親水化処理>
本発明で使用するセルロースナノクリスタルは、セルロース繊維を硫酸で加水分解処理して成るものであるが、このセルロースナノクリスタルを更に硫酸を用いて親水化処理する。硫酸は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して40~60質量%で使用することが好ましい。40~60℃の温度で5~300分反応させ、その後、透析膜等を用いた濾過処理に付して不純物等を除去することにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
【0020】
<三酸化硫黄-ピリジン錯体を用いた親水化処理>
三酸化硫黄-ピリジン錯体を用いた処理においては、ジメチルスルホキシド中でセルロースナノクリスタルと三酸化硫黄-ピリジン錯体を、0~60℃の温度で5~240分反応させることにより、セルロースグルコールユニットの6位の水酸基に硫酸基及び/又はスルホ基を導入する。
三酸化硫黄-ピリジン錯体は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して0.5~4gの質量で配合することが好ましい。
反応後、水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を添加して、セルロースナノクリスタルに導入された硫酸基及び/又はスルホ基をH型からNa型に変換することが、収率を向上する上で好ましい。その後、ジメチルホルムアミド又はイソプロピルアルコールを添加して、遠心分離等によって洗浄した後、透析膜等を用いた濾過処理によって不純物等を除去し、得られた濃縮液を水に分散させることにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
【0021】
<リン酸-尿素を用いた親水化処理>
リン酸-尿素を用いた親水化処理は、リン酸-尿素を用いてリン酸基を導入する従来公知の処理と同様に行うことができる。具体的には、尿素含有化合物の存在下で、セルロースナノクリスタルとリン酸基含有化合物を、135~180℃の温度で5~120分反応させることによって、セルロースグルコースユニットの水酸基にリン酸基を導入する。
リン酸基含有化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩等を例示できる。中でもリン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸等を好適に単独または混合して使用できる。リン酸基含有化合物は、セルロースナノクリスタル10g(固形分)に対して10~100mmolの量で添加することが好ましい。
また尿素含有化合物としては、尿素、チオ尿素、ビュウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素などを例示できる。中でも尿素を好適に使用できる。尿素含有化合物は、セルロースナノクリスタル10g(固形分)に対して150~200mmolの量で使用することが好ましい。
【0022】
<TEMPO触媒を用いた親水化処理>
TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)を用いた親水化処理は、TEMPO触媒を用いた従来公知の酸化方法と同様に行うことができる。具体的には、硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタルを、TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル)を介した水系、常温、常圧の条件下で、セルロースグルコースユニットの6位の水酸基をカルボキシル基に酸化する親水化反応を生じさせる。
TEMPO触媒としては、上記2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシルの他、4-アセトアミドーTEMPO、4-カルボキシーTEMPO、4-フォスフォノキシーTEMPO等のTEMPOの誘導体を用いることもできる。
TEMPO触媒の使用量は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.01~100mmol、好ましくは0.01~5mmolの量である。
【0023】
また親水化酸化処理時には、単独又はTEMPO触媒と共に、酸化剤、臭化物又はヨウ化物等の共酸化剤を併用することが好適である。
酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物等公知の酸化剤を例示することができ、特に次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムを好適に使用できる。酸化剤は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.5~500mmol、好ましくは5~50mmolの量である。酸化剤を添加して一定時間が経過した後、更に酸化剤を加えることで追酸化処理することもできる。
また共酸化剤としては、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属、ヨウ化ナトリウム等のヨウ化物アルカリ金属を好適に使用できる。共酸化剤は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.1~100mmol、好ましくは0.5~5mmolの量である。
また反応液は、水やアルコール溶媒を反応媒体とすることが好ましい。
【0024】
親水化処理の反応温度は1~50℃、特に10~50℃の範囲であり、室温であってもよい。また反応時間は1~360分、特に60~240分であることが好ましい。
反応の進行に伴い、セルロース中にカルボキシル基が生成するため、スラリーのpHの低下が認められるが、酸化反応を効率よく進行させるため、水酸化ナトリウム等のpH調整剤を用いてpH9~12の範囲に維持することが望ましい。
酸化処理後に、使用した触媒等を水洗などにより除去する。
【0025】
[解繊処理]
本発明のナノセルロースの製造方法においては、原料として繊維長の短いセルロースナノクリスタルを使用するので、必ずしも必要ではないが、親水化処理後に解繊処理を行うこともできる。
解繊処理は、従来公知の方法によって行うことができ、具体的には、超高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、グラインダー、高速ブレンダ―、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル、離解機、叩解機、二軸押出機等を使用して微細化することができる。
解繊処理は、親水化処理後のナノセルロースの状態や、ナノセルロースの用途に応じて、乾式又は湿式の何れで行うこともできる。ナノセルロースは、分散液の状態で使用することが好適であることから、水等を分散媒として超高圧ホモジナイザー等により解繊することが好適である。
【0026】
[分散処理]
本発明のナノセルロースは、後述する成形体への成形等に、分散液の状態で使用することが好適であることから分散処理に付することが望ましい。
分散処理は超音波分散機、ホモジナイザー、ミキサー等の分散機を好適に使用することができ、また、攪拌棒、攪拌石等による攪拌方法を用いても良い。
上記親水化処理されたナノセルロースを含有する分散液は、固形分1質量%の水分散で、粘度が10~40000mPa・s(レオメーター、温度30℃)、ゼータ電位が-60~-10mVの範囲にあることから、取扱い性、塗工性に優れており、容易に後述するガスバリア材を製造することができる。
本発明のナノセルロースは、繊維長及び繊維径の小さいセルロースナノクリスタルを含有すると共に、アニオン性官能基を0.1mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下、好適には0.3~1.3mmol/gの量で含有することから、ナノセルロースを固形分として1m2当たり1.0g含有する場合の23℃0%RHにおける酸素透過度が0.4(cc/m2・day・atm)未満と、優れたガスバリア性を有している。また繊維長が短いことから、分散性、塗工性、乾燥等の取扱い性にも優れている。
【0027】
(成形体)
本発明の成形体は、上記ナノセルロースと多価カチオン樹脂を含有する混合物から成る成形体であり、ナノセルロースを固形分として1m2当たり1.0g含有する場合の23℃0%RHにおける酸素透過度が0.40(cc/m2・day・atm)未満と、優れた酸素バリア性を発現可能であると共に、基材上に成形体を成形した場合に、基材層との密着性を顕著に向上可能な成形体である。
本発明の成形体は、多価カチオン樹脂から成る層上にナノセルロースを含有する層を形成することによって、上記ガスバリア性及び基材への密着性を発現可能な混合状態を有する混合物の成形体として成形できる。すなわち、本発明の成形体における混合状態を定量的に表現することは困難であるが、前述したナノセルロースが有する自己組織化構造が維持された状態で多価カチオン樹脂及びナノセルロースが混合されることによって初めてこのような混合状態が形成される。成形体の混合物の内部は最外部の表面付近から熱可塑性樹脂から成る基材方向までナノセルロースと多価カチオン樹脂が存在している特徴を有している。
【0028】
[多価カチオン樹脂]
本発明の成形体に使用する多価カチオン樹脂としては、水溶性あるいは水性分散性の多価カチオン性官能基を含有する樹脂である。このような多価カチオン樹脂としては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリン、ポリアミンエピクロロヒドリン等の水溶性アミンポリマー、ポリアクリルアミド、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)、ジシアンジアミドホルマリン、ポリ(メタ)アクリレート、カチオン化澱粉、カチオン化ガム、キトサン、キチン、ゼラチン等を挙げることができるが、中でも水溶性アミンポリマー、特にポリエチレンイミンを好適に使用することができる。
【0029】
(成形体の製造方法)
本発明の成形体は、多価カチオン樹脂含有溶液を塗工・乾燥し、多価カチオン樹脂から成る層を形成する工程、該多価カチオン樹脂から成る層上に、ナノセルロース含有分散液を塗工・乾燥することにより、多価カチオン樹脂及びナノセルロースが特有の混合状態で混合された混合物の成形体として製造することができる。
この際、熱可塑性樹脂から成る基材上に多価カチオン樹脂含有溶液を塗工することにより、基材上に、ナノセルロース及び多価カチオン樹脂から成る成形体が形成された積層体として製造することもできる。また多価カチオン樹脂含有溶液及びナノセルロース含有分散液をこの順序でそれぞれ塗布・乾燥させてキャストフィルムとして形成し、ガスバリア性フィルムとして使用することもできる。
【0030】
[多価カチオン樹脂含有溶液の塗工・乾燥]
多価カチオン樹脂含有溶液は、多価カチオン樹脂を固形分基準で0.01~30質量%、特に0.1~10質量%の量で含有する溶液であることが好ましい。上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、ガスバリア性及び界面剥離強度の向上を図ることができず、一方上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が多くてもガスバリア性及び界面剥離強度の更なる向上は得られず経済性に劣ると共に、塗工性や製膜性にも劣るおそれがある。
また多価カチオン樹脂含有溶液に用いる溶媒としては、水、メタノール,エタノール,イソプロパノール等のアルコール、2-ブタノン,アセトン等のケトン、トルエン等の芳香族系溶剤、及びこれらと水との混合溶媒であってもよい。
【0031】
多価カチオン樹脂含有溶液は、ナノセルロース含有分散液から形成される層中のナノセルロース量(固形分)を基準に、多価カチオン樹脂含有溶液の濃度によって塗工量が決定される。すなわち、前述したとおり、ナノセルロース(固形分)を1m2当たり1.0gの量で含有する場合に、多価カチオン樹脂が1m2当たり0.01~2.0gの量で含有されるように、塗工することが好ましい。上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、ポリエステル樹脂などの疎水性の基材に対する界面剥離強度の向上を図ることができず、その一方、上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して、成形体のガスバリア性の向上が得られないおそれがある。
塗布方法としては、これに限定されないが、例えばスプレー塗装、浸漬、或いはバーコーター、ロールコーター、グラビアコーター等により塗布することが可能である。また塗膜の乾燥方法としては、温度5~200℃で0.1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましい。また乾燥処理は、オーブン乾燥、赤外線加熱、高周波加熱等により行うことができるが、自然乾燥であってもよい。
【0032】
[ナノセルロース含有分散液の塗工・乾燥]
ナノセルロース含有分散液は、固形分基準で0.01~10質量%、特に0.5~5.0質量%の量で含有されていることが好ましく、上記範囲よりも少ない場合には、上記範囲にある場合に比してガスバリア性が劣るようになり、その一方上記範囲より多いと上記範囲にある場合に比して塗工性や製膜性に劣るようになる。
また分散液は、水だけでもよいが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、2-ブタノン、アセトン等のケトン、トルエン等の芳香族系溶剤と水との混合溶媒であってもよい。
また上記多価カチオン樹脂含有溶液又はナノセルロース含有分散液には、必要に応じて、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、耐水化剤、粘土鉱物、架橋剤、金属塩、微粒子、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン等、公知の添加剤を配合することができる。
【0033】
ナノセルロース含有分散液は、ナノセルロース(固形分)が1m2当たり0.1~3.0gとなるように塗工することが好ましい。
ナノセルロース分散含有液の塗布方法及び乾燥方法は、多価カチオン含有溶液の塗布方法及び乾燥方法と同様に行うことができるが、温度5~200℃で0.1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましい。
【0034】
(積層体)
本発明の成形体を含む積層体は、本発明の成形体から成るバリア層を熱可塑性樹脂から成る層上に形成して成るものであり、多価カチオン樹脂の存在により疎水性の樹脂から成る層との界面剥離強度が向上されていることから、バリア層と熱可塑性樹脂から成る層の界面剥離強度が2.3(N/15mm)以上であり、バリア層と基材との層間剥離の発生が有効に防止されている。
積層体は、前述したとおり、熱可塑性樹脂から成る層(基材)上に上述した多価カチオン樹脂含有溶液を塗布・乾燥して多価カチオン樹脂含有層を形成し、次いでこの多価カチオン樹脂含有層上にナノセルロース含有分散液を塗布・乾燥することにより、多価カチオン樹脂及びナノセルロースが混合された混合物の成形体から成るバリア層が熱可塑性樹脂から成る層(基材)上に形成されることにより製造できる。
基材としては、熱可塑性樹脂を用い、押出成形、射出成形、ブロー成形、延伸ブロー成形或いはプレス成形等の手段で製造された、フィルム、シート、或いはボトル状、カップ状、トレイ状等の成形体を例示できる。
基材の厚みは、積層体の形状や用途等によって一概に規定できないが、フィルムの場合で5~50μmの範囲にあることが好適である。
【0035】
熱可塑性樹脂としては、低-、中-或いは高-密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-共重合体、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のオレフィン系共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリエチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、メタキシリレンアジパミド等のポリアミド;ポリスチレン、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)等のスチレン系共重合体;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の塩化ビニル系共重合体;ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート・エチルアクリレート共重合体等のアクリル系共重合体;ポリカーボネート、セルロース系樹脂;アセチルセルロース、セルロースアセチルプロピーネート、セルロースアセテートブチレート、セロファン等の再生セルロース等を例示できるが、ポリエチレンテレフタレートを好適に用いることができる。
熱可塑性樹脂には、所望に応じて顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤等の添加剤の1種或いは2種類以上を配合することができる。
【0036】
本発明の成形体においては、上記基材及び成形体から成る層以外に、必要により他の層を形成することもできる。
ナノセルロース含有層は、高湿度条件下ではガスバリア性が低下することから、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等の従来公知の耐湿性樹脂から成る層を更に形成することが好適である。
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらの実施例には限定されない。各項目の測定方法は、次の通りである。
【0038】
<アニオン性官能基量>
ナノセルロース含有分散液を秤量し、イオン交換水を加えて0.05~0.3質量%のナノセルロース含有分散液100mlを調製した。陽イオン交換樹脂を0.1g加えて攪拌処理した。その後ろ過を行い陽イオン交換樹脂とナノセルロース分散液を分離した。陽イオン交換後の分散液に対して電位差自動滴定装置(京都電子社製)を用いて0.05M水酸化ナトリウム溶液を滴下し、ナノセルロース含有分散液が示す電気伝導度の変化を計測した。得られた伝導度曲線からアニオン性官能基の中和の為に消費された水酸化ナトリウム滴定量を求め、下記式を用いてアニオン性官能基量(mmol/g)を算出した。
アニオン性官能基量(mmol/g)=アニオン性官能基の中和の為に消費した水酸化ナトリウム滴定量(ml)×前記水酸化ナトリウム濃度(mmol/ml)÷ナノセルロースの固形質量(g)
【0039】
<酸素透過度>
酸素透過量測定装置(OX-TRAN2/22、モコン)を用いて、23℃、湿度0%RHの条件で成形体の酸素透過度(cc/m2・day・atm)を測定した。
【0040】
<TOF-SIMS>
多価カチオン樹脂及びナノセルロースを含有する混合物から成る成形物を1cm角に切り出し、塗工面側を上部にして試料台に固定した。TOF-SIMS分析装置(アルバック・ファイ製、TRIFT V)において塗工面の表面から基材内部までエッジングしながら分析を行った。Arガスクラスターイオン(Ar
n
+)をエッジングイオンとして一次イオン(Bi
3
2+)を照射した。一次イオン加速電圧は30KV、測定極性を負イオンにし、帯電補正用中和銃を使用した。
図1に結果を示す。
【0041】
<実施例1>
<ナノセルロース含有分散液の調製>
パルプを64重量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル1g(固形量)をN,N-ジメチルホルムアミド5mlに対して分散させた。N,N-ジメチルホルムアミド5mlに対して1-エチル-3-(3-ジエチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(東京化成工業株式会社製)が10mmol溶解した溶液をセルロースナノクリスタル分散液に加えて5分間分散した。その後N,N-ジメチルホルムアミド5mlに対して硫酸が10mmol分散された溶液をセルロースナノクリスタル分散液にゆっくり加え、前記セルロースナノクリスタルを0℃で60分間攪拌しながら親水化処理させることでナノセルロース含有分散液を調製した。その後イオン交換水と水酸化ナトリウム溶液を添加し、透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去しナノセルロース含有分散液を調製した。前記の精製されたナノセルロース含有分散液にイオン交換水を加えてミキサーで分散処理することでナノセルロースの固形量が1質量%のナノセルロース含有分散液を得た。ナノセルロースのアニオン性官能基量は0.7mmol/gであった。
【0042】
<多価カチオン樹脂及びナノセルロースを含有する混合物から成る成形体の作製>
以下の手順により多価カチオン樹脂及びナノセルロースを含有する混合体から成る成形体を作製した。コロナ処理された2軸延伸PETフィルム(ルミラーP60,12μm,東レ株式会社製)基材にバーコーターを用いてポリエチレンイミン(PEI)(エポミン,P-1000,株式会社日本触媒製)を塗工量が固形量として0.6g/m2になるように塗工した。熱風乾燥器(MSO-TP,ADVANTEC社製)により50℃で10分乾燥して固形化した後、バーコーターを用いて前記方法で製造された1質量%のナノセルロース含有分散液を塗工し、室温で一晩風乾した。ナノセルロースの塗工量は固形量として1.0g/m2であった。成形体の酸素透過度は0.26cc/m2・day・atmであった。
【0043】
<実施例2>
パルプを64重量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル1g(固形量)をジメチルスルホキシド20mlに対して分散させた。ジメチルスルホキシド20mlに対して1gの三酸化硫黄-ピリジン錯体(東京化成工業株式会社製)を分散した溶液をセルロースナノクリスタル分散液に加え、前記セルロースナノクリスタルを25℃で60分間攪拌しながら親水化処理させることでナノセルロース含有分散液を調製した。その後水酸化ナトリウム溶液と2-プロパノールを添加し、超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いて洗浄した。その後イオン交換水と水酸化ナトリウム溶液を添加し、透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去しナノセルロース含有分散液を調製した。前記の精製されたナノセルロース含有分散液にイオン交換水を加えて分散処理することでナノセルロースの固形量が1質量%のナノセルロース含有分散液を得た。ナノセルロースのアニオン性官能基量は0.5mmol/gであった。前記方法で製造された1質量%のナノセルロース含有分散液を用いて塗工した以外は実施例1と同様に行い、多価カチオン樹脂及びナノセルロースを含有する混合物から成る成形体を得た。成形体の酸素透過度は0.35cc/m2・day・atmであった。
【0044】
<実施例3>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル1g(固形量)をイオン交換水10mlに対して分散させた。さらに硫酸を添加することで硫酸が50質量%のセルロースナノクリスタル分散液を調製し、前記セルロースナノクリスタルを40℃で240分間攪拌しながら親水化処理させることでナノセルロース含有分散液を調製した。その後イオン交換水と水酸化ナトリウム溶液を添加し、透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去しナノセルロース含有分散液を調製した。前記の精製されたナノセルロース含有分散液にイオン交換水を加えて分散処理することでナノセルロースの固形量が1質量%のナノセルロース含有分散液を得た。ナノセルロースのアニオン性官能基量は0.4mmol/gであった。前記方法で製造された1質量%のナノセルロース含有分散液を用いて塗工した以外は実施例1と同様に行い、多価カチオン樹脂及びナノセルロースを含有する混合物から成る成形体を得た。成形体の酸素透過度は0.40cc/m2・day・atmであった。
【0045】
<実施例4>
尿素10g、リン酸二水素ナトリウム二水和物6g及びリン酸水素二ナトリウム4gをイオン交換水10gに対して溶解させたリン酸溶液を調製し、前記リン酸溶液にパルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル10g(固形量)を加えて分散処理した。多重安全式乾燥機(二葉科学製)を用いて165℃で30分間セルロースナノクリスタル分散液を蒸発させながら加熱を行い、前記セルロースナノクリスタルを親水化処理した。その後イオン交換水を100ml加えて分散処理し、超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いて洗浄した。更にイオン交換水と水酸化ナトリウム溶液を加えてpHを12に調製し、イオン交換水を加えながら超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いてpHが8になるまで洗浄した。その後透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去しナノセルロース含有分散液を調製した。前記の精製されたナノセルロース含有分散液にイオン交換水を加えて分散処理することでナノセルロースの固形量が1質量%のナノセルロース含有分散液を得た。ナノセルロースのアニオン性官能基量は0.3mmol/gであった。前記方法で製造された1質量%のナノセルロース含有分散液を用いて塗工した以外は実施例1と同様に行い、多価カチオン樹脂及びナノセルロースを含有する混合物から成る成形体を得た。成形体の酸素透過度は0.20cc/m2・day・atmであった。
【0046】
<実施例5>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル10g(固形量)の水分散液に対しTEMPO触媒(Sigma Aldrich社製)0.8mmolと臭化ナトリウム12.1mmolを添加し、イオン交換水を加えて1Lにメスアップし、均一に分散するまで攪拌した。その後5mmolの次亜塩素酸ナトリウムを添加し、酸化反応を開始した。反応中は0.5N水酸化ナトリム水溶液でpH10.0から10.5に系内のpHを保持し、30℃で4時間攪拌しながら親水化処理を行った。親水化処理したセルロースナノクリスタルはイオン交換水を加えながら超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いてpHが8になるまで洗浄した。その後透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去しナノセルロース含有分散液を調製した。前記の精製されたナノセルロース含有分散液にイオン交換水を加えて分散処理することでナノセルロースの固形量が1質量%のナノセルロース含有分散液を得た。ナノセルロースのアニオン性官能基量は0.9mmol/gであった。前記方法で製造された1質量%のナノセルロース含有分散液を用いて塗工した以外は実施例1と同様に行い、多価カチオン樹脂及びナノセルロースを含有する混合物から成る成形体を得た。成形体の酸素透過度は0.30cc/m2・day・atmであった。
【0047】
<実施例6>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル10g(固形量)の水分散液に対しTEMPO触媒(Sigma Aldrich社製)0.8mmolと臭化ナトリウム12.1mmolを添加し、イオン交換水を加えて1Lにメスアップし、均一に分散するまで攪拌した。その後15mmolの次亜塩素酸ナトリウムを添加し、酸化反応を開始した。その後は実施例5と同様に行い、ナノセルロースの固形量が1質量%のナノセルロース含有分散液を得た。ナノセルロースのアニオン性官能基量は1.3mmol/gであった。前記方法で製造された1質量%のナノセルロース含有分散液を用いて塗工した以外は実施例1と同様に行い、多価カチオン樹脂及びナノセルロースを含有する混合物から成る成形体を得た。成形体の酸素透過度は0.11cc/m2・day・atmであった。
【0048】
<実施例7>
尿素24g、リン酸二水素アンモニウム9gをイオン交換水27gに対して溶解させたリン酸溶液を調製し、前記リン酸溶液にパルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル20g(固形量)を加えて分散処理した。多重安全式乾燥機(二葉科学製)を用いて165℃で30分間セルロースナノクリスタル分散液を蒸発させながら加熱を行い、前記セルロースナノクリスタルを親水化処理した。その後イオン交換水を100ml加えて分散処理し、超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いて洗浄した。更にイオン交換水と水酸化ナトリウム溶液を加えてpHを12に調整し、イオン交換水を加えながら超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いてpHが8になるまで洗浄した。その後透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去しナノセルロース含有分散液を調製した。前記の精製されたナノセルロース含有分散液にイオン交換水を加えて分散処理することでナノセルロースの固形量が1質量%のナノセルロース含有分散液を得た。ナノセルロースのアニオン性官能基量は0.8mmol/gであった。前記方法で製造された1質量%のナノセルロース含有分散液を用いて塗工した以外は実施例1と同様に行い、多価カチオン樹脂及びナノセルロースを含有する混合物から成る成形体を得た。成形体の酸素透過度は0.07cc/m2・day・atmであった。
【0049】
<比較例1>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル1g(固形量)をイオン交換水に加えて分散処理を行う事でナノセルロースの固形量が1質量%のナノセルロース含有分散液を得た。ナノセルロースのアニオン性官能基量は0.1mmol/gであった。前記方法で製造された1質量%のナノセルロース含有分散液を用いて塗工した以外は実施例1と同様に行い、多価カチオン樹脂及びナノセルロースを含有する混合物から成る成形体を得た。成形体の酸素透過度は0.43cc/m2・day・atmであった。
【0050】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のナノセルロースは、優れたガスバリア性及び取扱い性を有することから、ガスバリア性能を付与可能なコーティング剤として使用される。また本発明のナノセルロースと多価カチオン樹脂との混合物から成る成形体とすることで、ナノセルロースだけで発現されるガスバリア性よりも優れたガスバリア性を発現可能であり、ガスバリア性フィルムとして、或いは熱可塑性樹脂等から成る疎水性の基材との界面剥離強度も向上されていることから、ガスバリア性積層体として好適に使用される。