(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】誘電体膜、その製造方法及びそれを用いた光学部材
(51)【国際特許分類】
G02B 1/113 20150101AFI20240110BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20240110BHJP
【FI】
G02B1/113
G02B1/18
(21)【出願番号】P 2020561196
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2019042794
(87)【国際公開番号】W WO2020129424
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2018239799
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 仁一
(72)【発明者】
【氏名】多田 一成
【審査官】加藤 範久
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-197171(JP,A)
【文献】特開2001-033607(JP,A)
【文献】特開2002-338306(JP,A)
【文献】国際公開第2017/056598(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/110018(WO,A1)
【文献】特開2018-180429(JP,A)
【文献】特開2008-109063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/113
G02B 1/18
B32B 9/00
C23C 14/08-10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に具備された誘電体膜であって、
前記誘電体膜の最上層がSiO
2を含有し、
前記SiO
2の含有量が、前記最上層の全質量に対して、90質量%以上であり、
前記最上層が、
Na
2
O、K
2
O、CaO、又はMgOを、更に含有し、
前記最上層の膜密度が、92%以上である
ことを特徴とすることを特徴とする誘電体膜。
【請求項2】
透明基板上に具備された誘電体膜であって、
前記誘電体膜の最上層がSiO
2を含有し、
前記SiO
2の含有量が、前記最上層の全質量に対して、90質量%以上であり、
前記最上層が、
Na
2
O、K
2
O、CaO、又はMgOを、更に含有し、
前記最上層の膜密度が、98%以上であり、
前記誘電体膜が、前記最上層に隣接する透明基板側に、光触媒機能を有する金属酸化物を主成分とする機能層を有し、
前記機能層が、最上層より、層厚及び屈折率が大きく、
前記機能層が、光触媒として、TiO
2
を含有し、
前記最上層が、前記機能層の表面を部分的に露出させる複数の細孔を有
する
ことを特徴とする誘電体膜。
【請求項3】
前記最上層において、前記
Na
2
O、K
2
O、CaO、及びMgOの含有量が、0.5~10質量%の範囲内であり、層厚が1μm以下であることを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載の誘電体膜。
【請求項4】
前記最上層の水接触角が、85℃・85%RH環境下で1000時間保存後、30°以下であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の誘電体膜。
【請求項5】
透明基板上に形成された誘電体膜を製造する誘電体膜の製造方法であって、
前記誘電体膜の最上層として、SiO
2
と、Na
2
O、K
2
O、CaO、及びMgOから選ばれる化合物とを含有する層を形成する工程を有し、
SiO
2
と、Na
2
O、K
2
O、CaO、又はMgOとを混合したターゲットを用いる
ことを特徴とする誘電体膜の製造方法。
【請求項6】
透明基板上に形成された誘電体膜を製造する誘電体膜の製造方法であって、
前記誘電体膜の最上層として、SiO
2と、
Na
2
O、K
2
O、CaO、及びMgOから選ばれる
化合物とを含有する層を形成する工程と、
前記最上層の透明基板側に、光触媒機能を有する金属酸化物を主成分とする機能層を形成する工程と、
前記最上層に、前記機能層の表面を部分的に露出させる複数の細孔を形成する工程と、を有し、
前記SiO
2の含有量が、前記最上層の全質量に対して、90質量%以上である
ことを特徴とする誘電体膜の製造方法。
【請求項7】
前記誘電体膜を、イオンアシスト蒸着又はスパッタリングで成膜する工程を有することを特徴とする
請求項5又は請求項6に記載の誘電体膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項
4までのいずれか一項に記載の誘電体膜を具備することを特徴とする光学部材。
【請求項9】
前記光学部材が、車載用レンズであることを特徴とする請求項8に記載の光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体膜、その製造方法及びそれを用いた光学部材に関する。より詳しくは、表面の塩水耐性や耐傷性に優れ、かつ高温高湿環境下で長期にわたり低い水接触角を維持できる誘電体膜等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の運転支援のため、車両に車載カメラを搭載することが行われている。より具体的には、車両の後方や側方を撮像するカメラを自動車の車体に搭載し、このカメラによって撮像された映像を運転者が視認可能な位置に表示することによって死角を減らし、これにより安全運転に貢献できる。
【0003】
ところで、車載カメラは車外に取り付けられる場合が多く、用いられるレンズについては、耐環境性への保証要求が厳しい。例えば、レンズへの塩水噴霧試験において、レンズ表面にある反射防止層の成分である酸化ケイ素(以下、SiO2と表記)が塩水に溶解することで光反射率が変化すると、ゴーストやフレアの発生の原因となる。
【0004】
また、当該レンズ上に水滴や泥等の汚れがしばしば付着する。レンズに付着した水滴や汚れの度合によっては、カメラで撮像された画像が不鮮明となるおそれがある。
【0005】
特許文献1には、特定のアルコール系溶剤とオルガノシリカゾルを含有する有機基材用防曇防汚材を有機基材に接触又は塗布して、当該溶剤により有機基材の表面を膨潤させ、その膨潤面にオルガノシリカゾルを侵入させて、親水性を示すシリカ皮膜を形成する方法が開示されている。当該文献によれば、水接触角が低く、防汚性、防曇性、密着性及び耐久性に優れる有機基材が得られるとある。
【0006】
しかしながら、表面に形成される当該シリカ皮膜を、車載カメラに適用しようとすると、潮風に含まれる塩水、酸性雨、洗車等の際に使用される洗剤やワックス等の薬剤等による表面劣化や変質を生ずるおそれがある。例えば、引用文献1に開示されているような塗布系のシリカ(SiO2)皮膜では表面がポーラスで脆いため、塩水噴霧試験でSiO2が溶解し、結果皮膜が薄くなり、上記性能を維持することは困難である。また、当該シリカ皮膜はポーラスな表面のため、高温高湿(85℃・85%RH)環境下では、低い水接触角(親水性)を長期にわたって維持することができないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、表面の塩水耐性や耐傷性に優れ、高温高湿環境下で長期にわたり低い水接触角を維持できる誘電体膜、その製造方法及びそれを用いた光学部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、反射防止機能を有する誘電体膜の最上層が、特定の膜密度を有し、少なくともSiO2及び特定の元素を含有することで、当該誘電体膜表面が優れた塩水耐性や耐傷性を有し、
かつ高温高湿環境下で長期にわたり低い水接触角を維持できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0011】
1.透明基板上に具備された誘電体膜であって、
前記誘電体膜の最上層がSiO2を含有し、
前記SiO2の含有量が、前記最上層の全質量に対して、90質量%以上であり、
前記最上層が、Na
2
O、K
2
O、CaO、又はMgOを、更に含有し、
前記最上層の膜密度が、92%以上である
ことを特徴とする誘電体膜。
【0012】
2.透明基板上に具備された誘電体膜であって、
前記誘電体膜の最上層がSiO
2
を含有し、
前記SiO
2
の含有量が、前記最上層の全質量に対して、90質量%以上であり、
前記最上層が、Na
2
O、K
2
O、CaO、又はMgOを、更に含有し、
前記最上層の膜密度が、98%以上であり、
前記誘電体膜が、前記最上層に隣接する透明基板側に、光触媒機能を有する金属酸化物を主成分とする機能層を有し、
前記機能層が、最上層より、層厚及び屈折率が大きく、
前記機能層が、光触媒として、TiO
2
を含有し、
前記最上層が、前記機能層の表面を部分的に露出させる複数の細孔を有する
ことを特徴とする誘電体膜。
【0013】
3.前記最上層において、前記Na
2
O、K
2
O、CaO、及びMgOの含有量が、0.5~10質量%の範囲内であり、層厚が1μm以下であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の誘電体膜。
【0015】
4.前記最上層の水接触角が、85℃・85%RH環境下で1000時間保存後、30°以下であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の誘電体膜。
【0018】
5.透明基板上に形成された誘電体膜を製造する誘電体膜の製造方法であって、
前記誘電体膜の最上層として、SiO
2
と、Na
2
O、K
2
O、CaO、及びMgOから選ばれる化合物とを含有する層を形成する工程を有し、
SiO
2
と、Na
2
O、K
2
O、CaO、又はMgOとを混合したターゲットを用いる
ことを特徴とする誘電体膜の製造方法。
6.透明基板上に形成された誘電体膜を製造する誘電体膜の製造方法であって、
前記誘電体膜の最上層として、SiO2と、Na
2
O、K
2
O、CaO、及びMgOから選ばれる化合物とを含有する層を形成する工程と、
前記最上層の透明基板側に、光触媒機能を有する金属酸化物を主成分とする機能層を形成する工程と、
前記最上層に、前記機能層の表面を部分的に露出させる複数の細孔を形成する工程と、を有し、
前記SiO2の含有量が、前記最上層の全質量に対して、90質量%以上である
ことを特徴とする誘電体膜の製造方法。
【0020】
7.前記誘電体膜を、イオンアシスト蒸着又はスパッタリングで成膜する工程を有することを特徴とする第5項又は第6項に記載の誘電体膜の製造方法。
【0021】
8.第1項から第4項までのいずれか一項に記載の誘電体膜を具備することを特徴とする光学部材。
【0022】
9.前記光学部材が、車載用レンズであることを特徴とする第8項に記載の光学部材。
【発明の効果】
【0023】
本発明の上記手段により、表面の塩水耐性や耐傷性に優れ、かつ高温高湿環境下で長期にわたり低い水接触角を維持できる誘電体膜、その製造方法及びそれを用いた光学部材を提供することができる。
【0024】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0025】
高温高湿(85℃・85%RH)環境下でのSiO2含有層の耐久性(親水性の維持)に関しては、本発明に係る最上層は、電気陰性度がSiより小さい元素を含有することによって、親水機能がより向上する。純粋なSiO2の場合に比べ、アルカリ金属元素を取り込んだSiO2は電子の配置に極性が発現してくるものと考えられ、これが極性分子であるH2Oと親和すると考えられる。なかでも、SiとOの電気陰性度差分より、ナトリウム元素とOの電気陰性度差分の方が大きく電気的な偏りが発生する。このナトリウム元素の含有量としては0.1~10質量%の範囲が最も良く電気的な偏りを発生させ、極性分子である水を引き付けるものと推察される。中でもナトリウム酸化物であるNa2Oは、融点がSiO2の融点と比較的近い為、混合蒸着材としてSiO2と同時成膜しやすい利点がある。蒸着された膜の組成比の点でも狂いが少ない。
【0026】
また、例えば、ナトリウムを含有させた場合は、ナトリウム由来のNaOHは潮解性があるため、外部環境の水分を取り込んで水溶液になろうとする性質が有り、高温高湿環境下で水を取り込むために親水性を長期間維持できるものと推察される。
【0027】
さらに、従来の高屈折率層(Ta2O5)/低屈折率層(SiO2)含有層が複数交互に積層された誘電体膜の構成において、最上層を形成するSiO2含有層は、下記のような塩水噴霧試験を実施すると、当該SiO2含有層が塩水に溶解し光反射率が変化する現象がみられる。このような変化によって、例えば、レンズ上の反射防止層(誘電体膜)の最上層が外的環境(塩水)によって溶解剥離したときには、フレアやゴーストが発生し、製造当初性能から劣化するものと考えられる。
【0028】
<塩水噴霧試験>
以下の(a)~(c)を1サイクルとし、8サイクル実施する。
【0029】
(a)35±2℃の噴霧槽内温度にて、25±2℃の下記溶剤を2時間試料表面に噴霧する(塩水濃度5%)。
【0030】
(b)噴霧終了後40±2℃、95%RHにて22時間放置する。
【0031】
(c)(a)及び(b)を4回繰り返した後に、25℃、55%RHに72時間放置する。
【0032】
〈溶剤〉
使用溶質:NaCl、MgCl2、CaCl2
溶質濃度:5±1%(質量比)
これは、SiO2含有層の上記塩水噴霧試験では、塩水の25℃でのpHが7程度(弱アルカリ性)であるのでSi-O結合が切断されやすくなり、SiO2含有層が徐々に塩水に溶解し剥離していくものと推察される。
【0033】
本発明に係るSiO2含有層は、塗布系のシリカ(SiO2)では表面がポーラスで脆いため塩水に溶解しやすいが、イオンアシスト蒸着(Ion Assisted Deposition、以下、単に「IAD」ともいう。)やスパッタリングによる成膜をし、膜密度を92%以上に調整した高密度なSiO2含有層を形成することで、塩水耐性や耐傷性が向上したものと推察される。IADは、成膜中にイオンの持つ高い運動エネルギーを作用させて高密度な膜を形成し、かつ、膜と基材の密着力を高める方法であり、最上層の耐久性を向上する手段として適用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図3A】本発明に係る機能層と細孔を有する最上層を示す模式図
【
図3B】本発明に係る機能層と細孔を有する最上層を示す模式図
【
図3C】本発明に係る機能層と細孔を有する最上層を示す模式図
【
図3D】本発明に係る機能層と細孔を有する最上層を示す模式図
【
図4】最上層表面に細孔を形成する工程のフローチャート
【
図5A】粒子状の金属マスクを形成して細孔を形成する工程を説明する概念図
【
図5B】粒子状の金属マスクを形成して細孔を形成する工程を説明する概念図
【
図5C】粒子状の金属マスクを形成して細孔を形成する工程を説明する概念図
【
図5D】粒子状の金属マスクを形成して細孔を形成する工程を説明する概念図
【
図5E】粒子状の金属マスクを形成して細孔を形成する工程を説明する概念図
【
図7A】最上層が葉脈状に加工された誘電体膜のSEM画像と拡大図
【
図7B】最上層が葉脈状に加工された誘電体膜のSEM画像と拡大図
【
図7C】最上層が葉脈状に加工された誘電体膜のSEM画像と拡大図
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の誘電体膜は、透明基板上に具備された誘電体膜であって、前記誘電体膜の最上層がSiO
2
を含有し、前記SiO
2
の含有量が、前記最上層の全質量に対して、90質量%以上であり、前記最上層が、Na
2
O、K
2
O、CaO、又はMgOを、更に含有し、前記最上層の膜密度が、92%以上であることを特徴とする。
本発明の誘電体膜は、透明基板上に具備された誘電体膜であって、前記誘電体膜の最上層がSiO2を含有し、前記SiO2の含有量が、前記最上層の全質量に対して、90質量%以上であり、前記最上層が、Na
2
O、K
2
O、CaO、又はMgOを、更に含有し、前記最上層の膜密度が、98%以上であり、前記誘電体膜が、前記最上層に隣接する透明基板側に、光触媒機能を有する金属酸化物を主成分とする機能層を有し、前記機能層が、最上層より、層厚及び屈折率が大きく、前記機能層が、光触媒として、TiO
2
を含有し、前記最上層が、前記機能層の表面を部分的に露出させる複数の細孔を有することを特徴とする。これらの特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0036】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記最上層が、ナトリウム、カルシウム、カリウム及びマグネシウムから選ばれる元素を含有すること、加えて、その含有量が前記最上層において、0.5~10質量%の範囲内であり、層厚が1μm以下であることが、高温高湿環境下での長期保存に対して、優れた親水性維持効果を発現することから好ましい。なお、当該含有量は2種以上含まれる場合は、合計量を示す範囲である。
【0037】
前記含有量は、0.5質量%以上であると本発明に係る高温高湿環境下での低い親水性の維持効果を発現し、また10質量%以内であることにより、SiO2の溶解が発生せずに反射防止性に影響がない範囲となる。
【0038】
また、前記最上層の膜密度が、98%以上であることが、優れた塩水耐性や耐傷性を発現することから、好ましい。膜密度は98~100%の範囲であることが、塩水耐性や耐傷性の観点から好ましい。
【0039】
また、前記最上層の水接触角が、85℃・85%RH環境下で1000時間保存後、30°以下であることが好ましく、長期にわたって親水性を発現することができる。本発明でいう親水性とは水接触角が30°以下であることをいい、好ましくは15°以下である。15°以下である場合を、本発明では「超親水性」と定義する。
【0040】
さらに、前記最上層の透明基板側に、光触媒機能を有する金属酸化物を主成分とする機能層を有することが、当該光触媒機能によって最上層に付着した汚れをセルフクリーニングする観点から、好ましい。
【0041】
その場合は、前記最上層が、前記機能層の表面を部分的に露出させる複数の細孔を有することが、セルフクリーニング効果を有効に発現する観点から、好ましい。従来の塗布等の条件で成膜すると膜が脆くなり塩水試験で解けてしまう。一方、緻密で硬いSiO2含有層に最上層を貫通して機能層に届く細孔を空けると、塩水耐性と光触媒機能が両立し、ともに向上する。
【0042】
本発明の誘電体膜の製造方法は、前記誘電体膜の最上層として、SiO
2
と、Na
2
O、K
2
O、CaO、及びMgOから選ばれる化合物とを含有する層を形成する工程を有し、SiO
2
と、Na
2
O、K
2
O、CaO、又はMgOとを混合したターゲットを用いることを特徴とする。
本発明の誘電体膜の製造方法は、前記誘電体膜の最上層として、SiO2と、Na
2
O、K
2
O、CaO、及びMgOから選ばれる化合物とを含有する層を形成する工程と、前記最上層の透明基板側に、光触媒機能を有する金属酸化物を主成分とする機能層を形成する工程と、前記最上層に、前記機能層の表面を部分的に露出させる複数の細孔を形成する工程と、を有し、前記SiO2の含有量が、前記最上層の全質量に対して、90質量%以上であることを特徴とする。
【0043】
さらに、前記最上層の透明基板側に光触媒機能を有する金属酸化物を主成分とする機能層を形成する工程と、前記最上層に前記機能層の表面を部分的に露出させる複数の細孔を形成する工程と、を有することが、塩水耐性とセルフクリーニングの効果発現の観点から、好ましい。
【0044】
また、前記誘電体膜を製造する際に、イオンアシスト蒸着又はスパッタリングで成膜する工程を有することが、前記最上層を高密度な膜として形成し塩水耐性や耐傷性を向上する観点から、好ましい実施態様である。
【0045】
本発明の誘電膜は、光学部材に好適に具備され、当該光学部材が車載用レンズであることが、好ましい。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0046】
≪本発明の誘電多層膜の概要≫
本発明の誘電体膜は、透明基板上に具備された誘電体膜であって、前記誘電体膜の最上層がSiO
2
を含有し、前記SiO
2
の含有量が、前記最上層の全質量に対して、90質量%以上であり、前記最上層が、Na
2
O、K
2
O、CaO、又はMgOを、更に含有し、前記最上層の膜密度が、92%以上であることを特徴とする。
本発明の誘電体膜は、透明基板上に具備された誘電体膜であって、前記誘電体膜の最上層がSiO2を含有し、前記SiO2の含有量が、前記最上層の全質量に対して、90質量%以上であり、前記最上層が、Na
2
O、K
2
O、CaO、又はMgOを、更に含有し、前記最上層の膜密度が、98%以上であり、前記誘電体膜が、前記最上層に隣接する透明基板側に、光触媒機能を有する金属酸化物を主成分とする機能層を有し、前記機能層が、最上層より、層厚及び屈折率が大きく、前記機能層が、光触媒として、TiO
2
を含有し、前記最上層が、前記機能層の表面を部分的に露出させる複数の細孔を有することを特徴とする。
【0047】
前記電気陰性度がSiより小さい元素とは、ナトリウム、カルシウム、カリウム及びマグネシウムから選ばれる元素であることが好ましく、その含有量が、0.5~10質量%の範囲内であることが好ましく、1.0~5.0質量%の範囲であることが、より好ましい。
【0048】
さらに、前記最上層の膜密度が、98%以上であることが、好ましい。
【0049】
ここで、「低屈折率層」とはd線における屈折率が1.7より小さい層をいう。高屈折率層とはd線における屈折率が1.7以上の層をいう。基板とは、樹脂又はガラスでできた光学部材で形状は問わない。光波長550nmにおける透過率は90%以上が望ましい。
【0050】
当該構成により、誘電体膜の最上層の膜密度が高いことから、表面の塩水耐性や耐傷性に優れ、かつ、前記特定の元素を含有し表面の親水性を維持できることから、高温高湿環境下で長期にわたり低い水接触角を維持できる誘電体膜を提供できる。
【0051】
〈最上層の組成分析〉
最上層の組成分析は、下記X線光電子分光分析装置(XPS)を用いて測定することができる。
【0052】
(XPS組成分析)
・装置名称:X線光電子分光分析装置(XPS)
・装置型式:Quantera SXM
・装置メーカー:アルバック・ファイ
・測定条件:X線源:単色化AlKα線25W-15kV
・真空度:5.0×10-8Pa
アルゴンイオンエッチングにより深さ方向分析を行う。データ処理は、アルバック・ファイ社製のMultiPakを用いる。
【0053】
〈膜密度の測定方法〉
ここで、本発明において「膜密度」は、空間充填密度を意味し、下記式(1)で表される値pと定義する。
【0054】
空間充填密度p=(膜の固体部分の体積)/(膜の総体積)・・・(1)
ここで、膜の総体積には膜の固体部分の体積と膜の微小孔部分の体積の総和である。
【0055】
本発明の誘電多層膜の最上層の膜密度を92%以上とすることで、塩水に対する耐性をより向上させることができる。膜密度は以下の方法によって測定することができ、膜密度は98%~100%の範囲であることがより好ましい。
【0056】
(i)白板ガラスBK7(SCHOTT社製)(φ(直径)=30mm、t(厚さ)=2mm)からなる基板上に、SiO2とナトリウム、カルシウム、カリウム及びマグネシウムのいずれかの元素とを含有する層(本発明に係る最上層に該当)のみを形成し、当該最上層の光反射率を測定する。一方、(ii)薄膜計算ソフト(Essential Macleod)(シグマ光機株式会社)にて、当該最上層と同一の材料からなる層の光反射率の理論値を算出する。そして、(ii)で算出した光反射率の理論値と(i)で測定された光反射率との比較によって、最上層の膜密度を特定する。
【0057】
〈水接触角の測定方法〉
高温高湿(85℃・85%RH)環境下に試料を長時間放置することによって、下記測定による水接触角が30°以下に維持できる時間を測定する。400時間以上である場合を親水性に対する耐久性有りと判断し、1000時間以上である場合を親水性に対する耐久性が極めて優れると判断する。なお、1000時間保存時点で、水接触角が15°以下である場合は、「超親水性」が長期間維持できると判断する。
【0058】
接触角の測定方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、標準液体(純水が好ましい。)と、最上層表面との接触角を、JIS R3257で規定される方法に準拠して測定する。測定条件は、温度23±5℃、湿度50±10%、標準液体の滴下液滴量1~10μL、標準液体の滴下から接触角測定までの時間は1分以内とする。具体的な操作の手順としては、温度23℃において、前記標準液体である純水をサンプル上に約10μL滴下して、エルマ株式会社製G-1装置によりサンプル上の5か所を測定し、測定値の平均から平均接触角を得る。接触角測定までの時間は標準液体を滴下してから1分以内に測定する。
【0059】
以下、
図1は、本発明の誘電体膜の構造の一例を示す断面図である。
【0060】
本発明の誘電体膜の層構成は、「単層」(この場合は、「単膜」ともいう。)でも「複数の層」(この場合は、「誘電体多層膜」又は「多層膜」ともいう。)でもよい。
【0061】
図1には、複数の層を有する「誘電体多層膜」の実施形態を示すが、低屈折率層及び高屈折率層の層数は一例であって、これに限定されるものではない。また、前述のとおり、本発明の効果を発現する観点において、本発明に係る低屈折率層又は最上層は単層構成である場合も含むものである。
【0062】
反射防止機能を有する誘電体膜100は、例えば、レンズを構成するガラス製の基板101の屈折率よりも高い屈折率を有する高屈折率層103、105aと、前記高屈折率層よりも低い屈折率を有する低屈折率層102、104とを有する。これら高屈折率層と、低屈折率層とが交互に積層された多層構造を有することが好ましい。本発明の誘電体膜は、光波長420~680nmの範囲において、法線方向からの光入射に対する光反射率が平均2%以下であることが、車載用レンズとして撮像された映像の視認性を向上する観点から、好ましい。本発明では、誘電体膜100は、光学部材ともいう。
【0063】
本発明に係る最上層106は、SiO2を含有する層であり、かつ、当該最上層が、電気陰性度がSiより小さい元素を含有することが特徴であり、当該電気陰性度がSiより小さい元素とは、ナトリウム、カルシウム、カリウム及びマグネシウムのいずれかの元素であることが好ましい。当該最上層の光波長587.56nmに対する屈折率は、1.6以下であることが、光反射層として、下層の光反射率を変化させないことから好ましい屈折率の範囲である。
【0064】
図1において、最上層106の基板側に光触媒機能を有する金属酸化物を主成分とする機能層105bを配置してもよく、当該光触媒機能によって最上層に付着した汚れをセルフクリーニングする観点から、好ましい。最上層106に隣接して機能層105bを設けることで、例えば光触媒機能を有効に発揮でき、光触媒効果、光活性効果を持つ金属酸化物を用いることで、表面の有機物を除去し最上層106の親水性の維持に寄与できることから好ましい態様である。
【0065】
最上層の機能は低屈折率層であり、主成分としてSiO2であることが好ましい。ここで、「主成分」とは、前記最上層の全体の質量のうち、51質量%以上がSiO2であることをいい、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であることをいう。但し、その他の金属酸化物を含有することも好ましく、SiO2と一部Al2O3の混合物やMgF2などであることも光反射率の観点から好ましい。
【0066】
また、前記機能層105bは、後述するように光触媒機能を有するTiO2を含有する層であることが好ましく、その場合屈折率の関係から、高屈折率層105aの代替え層として配置することができる。
【0067】
なお、
図1で示す本発明の誘電体膜は、基板101上に低屈折率層、高屈折率層及び本発明に係る最上層106が積層されて誘電体膜を構成しているが、基板101の両側に本発明に係る最上層が形成されていてもよい。すなわち、本発明に係る最上層は外部環境に曝露される側にあることが好ましい態様であるが、曝露される側ではなく、例えば、暴露される側とは反対側となる内側においても内部環境の影響を防止するために、本発明に係る最上層とが形成されていてもよい。また、本発明の光学部材は、レンズ以外に、例えば反射防止部材や遮熱部材などの光学部材に適用することができる。
【0068】
〔1〕誘電体膜の構成と製造方法
反射防止機能を有する誘電体膜は、基板の屈折率よりも高い屈折率を有する高屈折率層と、前記高屈折率層よりも低い屈折率を有する低屈折率層とを有する。これら高屈折率層と、低屈折率層とが交互に積層された多層構造を有することが好ましい。層数に関しては特に制限されるものではないが、12層以内であることが高い生産性を維持して反射防止層を得る観点から、好ましい。すなわち、積層数は、要求される光学性能によるが、おおむね3~8層程度の積層をすることで、可視域全体の反射率を低下させることができ、上限数としては12層以下であることが、膜の応力が大きくなって膜が剥がれたりすることを防止できる点で好ましい。
【0069】
本発明に係る誘電体膜(高屈折率層、低屈折率層)に用いられる材料としては、好ましくは、例えば、Ti、Ta、Nb、Zr、Ce、La、Al、Si、及びHfなどの酸化物、又はこれらを組み合わせた酸化化合物及びMgF2が適している。また、異なる誘電体材料を複数層積み重ねることで、可視域全体の反射率を低下させた機能を付加することができる。
【0070】
前記低屈折率層は、屈折率1.7より小さい材料から構成され、本発明においては、SiO2を含有する層である。但し、その他の金属酸化物を含有することも好ましく、SiO2と一部Al2O3の混合物などであることも光反射率の観点から好ましい。
【0071】
前記高屈折率層は、屈折率1.7以上の材料から構成され、例えば、Taの酸化物とTiの酸化物の混合物や、その他、Tiの酸化物、Taの酸化物、Laの酸化物とTiの酸化物の混合物などであることが好ましい。本発明においては、Ta2O5やTiO2であることが好ましく、より好ましくはTa2O5である。
【0072】
誘電体膜の全体の厚さは、好ましくは、50nm~5μmの範囲内である。厚さが50nm以上であれば、反射防止の光学特性を発揮させることができ、厚さが5μm以下であれば、多層膜自体の膜応力による面変形が発生するのを防止することができる。
【0073】
基板上に金属酸化物等の薄膜を形成する方法として、蒸着系では真空蒸着法、イオンビーム蒸着法、イオンプレーティング法等、スパッタ系ではスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法等が知られているが、本発明の誘電体膜を形成する成膜方法としては、イオンアシスト蒸着法(以下、本発明ではIADともいう。)又はスパッタリング法であることが好ましく、特に最上層はイオンアシスト蒸着法を用いて高密度な膜を形成することが好ましい。
【0074】
誘電体膜の他の各層は蒸着法で成膜されており、各層のうちいずれかの層はIADで成膜されていることが好ましい。IADによる成膜で誘電体膜全体の耐傷性をより向上できる。
【0075】
特に、最上層106は、IAD又はスパッタリング法等で成膜されることにより、膜密度を高めることができる。
【0076】
最上層106の膜密度は、92%以上であり、さらに98%以上であることが好ましい。ここで、膜密度は、前述のとおり空間充填密度を意味する。最上層106の膜密度を98~100%の範囲とすることで、塩水耐性や耐傷性をより向上させることができる。
【0077】
IADは、成膜中にイオンの持つ高い運動エネルギーを作用させて緻密な膜としたり、膜の密着力を高める方法であり、例えばイオンビームによる方法は、イオンソースから照射されるイオン化されたガス分子により被着材料を加速し、基板表面に成膜する方法である。
【0078】
図2は、IADを用いた真空蒸着装置の一例を示す模式図である。
【0079】
IADを用いた真空蒸着装置1(以下、本発明ではIAD蒸着装置ともいう。)は、チャンバー2内にドーム3を具備し、ドーム3に沿って基板4が配置される。蒸着源5は蒸着物質を蒸発させる電子銃、又は抵抗加熱装置を具備し、蒸着源5から蒸着物質6が、基板4に向けて飛散し、基板4上で凝結、固化する。その際、IADイオンソース7より基板に向けてイオンビーム8を照射し、成膜中にイオンの持つ高い運動エネルギーを作用させて緻密な膜としたり、膜の密着力を高めたりする。
【0080】
ここで本発明に用いられる基板4は、ガラス、ポリカーボネート樹脂やシクロオレフィン樹脂等の樹脂が挙げられ、車載用レンズであることが好ましい。
【0081】
チャンバー2の底部には、複数の蒸着源5が配置されうる。ここでは、蒸着源5として1個の蒸着源を示しているが、蒸着源5の個数は複数あってもよい。蒸着源5の成膜材料(蒸着材料)を電子銃によって蒸着物質6を発生させ、チャンバー2内に設置される基板4(例えば、レンズ)に成膜材料を飛散、付着させることにより、成膜材料からなる層(例えば、低屈折率素材である、SiO2、MgF2、又はAl2O3や、高屈折率素材である、Ta2O5やTiO2など)が基板4上に成膜される。
【0082】
本発明に係る最上層を形成する場合は、蒸着源5にSiO2ターゲットとナトリウム、カルシウム、カリウム及びマグネシウムのいずれかの元素を含有するターゲットを配置し、それらの物質が混合された蒸着物質6を発生し用いることができる。また、SiO2と前記元素が混合されたターゲットを用いることができる。最上層の組成の精度を高めるためには、後者の混合ターゲットを用いることが好ましい。
【0083】
ナトリウムとしては、Na2O、カルシウムとしてはCaO、カリウムとしては、K2O及びマグネシウムとしてはMgOを用いることが好ましく、いずれもMerck社製より入手が可能である。
【0084】
また、チャンバー2には、図示しない真空排気系が設けられており、これによってチャンバー2内が真空引きされる。チャンバー内の減圧度は、通常1×10-4~1Pa、好ましくは1×10-3~1×10-2Paの範囲である。
【0085】
ドーム3は、基板4を保持するホルダー(不図示)を、少なくとも1個保持するものであり、蒸着傘とも呼ばれる。このドーム3は、断面円弧状であり、円弧の両端を結ぶ弦の中心を通り、その弦に垂直な軸を回転対称軸として回転する回転対称形状となっている。ドーム3が軸を中心に例えば一定速度で回転することにより、ホルダーを介してドーム3に保持された基板4は、軸の周りに一定速度で公転する。
【0086】
このドーム3は、複数のホルダーを回転半径方向(公転半径方向)及び回転方向(公転方向)に並べて保持することが可能である。これにより、複数のホルダーによって保持された複数の基板4上に同時に成膜することが可能となり、素子の製造効率を向上させることができる。
【0087】
IADイオンソース7は、本体内部にアルゴンや酸素ガスを導入してこれらをイオン化させ、イオン化されたガス分子(イオンビーム8)を基板4に向けて照射する機器である。イオン源としては、カウフマン型(フィラメント)、ホローカソード型、RF型、バケット型、デュオプラズマトロン型等を適用することができる。IADイオンソース7から上記のガス分子を基板4に照射することにより、例えば複数の蒸発源から蒸発する成膜材料の分子を基板4に押し付けることができ、密着性及び緻密性の高い膜を基板4上に成膜することができる。IADイオンソース7は、チャンバー2の底部において基板4に対向するように設置されているが、対向軸からずれた位置に設置されていても構わない。
【0088】
IADで用いるイオンビームは、イオンビームスパッタリング法で用いられるイオンビームよりは、低真空度で用いられ、加速電圧も低い傾向にある。例えば加速電圧が100~2000Vのイオンビーム、電流密度が1~120μA/cm2のイオンビーム、又は加速電圧が500~1500Vで電流密度が1~120μA/cm2のイオンビームを用いることができる。成膜工程において、イオンビームの照射時間は例えば1~800秒とすることができ、またイオンビームの粒子照射数は例えば1×1013~5×1017個/cm2とすることができる。成膜工程に用いられるイオンビームは、酸素のイオンビーム、アルゴンのイオンビーム、又は酸素とアルゴンの混合ガスのイオンビームとすることができる。例えば、酸素導入量30~60sccm、アルゴン導入量0~10sccmの範囲内とすることが好ましい。「SCCM」は、standard cc/minの略であり、1気圧(大気圧1013hPa)、0℃で1分間あたりに何cc流れたかを示す単位である。
【0089】
モニターシステム(不図示)は、真空成膜中に各蒸着源5から蒸発して自身に付着する層を監視することにより、基板4上に成膜される層の波長特性を監視するシステムである。このモニターシステムにより、基板4上に成膜される層の光学特性(例えば分光透過率、光反射率、光学層厚など)を把握することができる。また、モニターシステムは、水晶層厚モニターも含んでおり、基板4上に成膜される層の物理層厚を監視することもできる。このモニターシステムは、層の監視結果に応じて、複数の蒸発源5のON/OFFの切り替えやIADイオンソース7のON/OFFの切り替え等を制御する制御部としても機能する。
【0090】
また、スパッタリング法による成膜は、2極スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、中間的な周波数領域を用いたデュアルマグネトロンスパッタリング(DMS)、イオンビームスパッタリング、ECRスパッタリングなどを単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。また、ターゲットの印加方式はターゲット種に応じて適宜選択され、DC(直流)スパッタリング、及びRF(高周波)スパッタリングのいずれを用いてもよい。
【0091】
スパッタリング法は、複数のスパッタリングターゲットを用いた多元同時スパッタリングであってもよい。これらのスパッタリングターゲットを作製する方法や、これらのスパッタリングターゲットを用いて薄膜を作製する方法については、例えば、特開2000-160331号公報、特開2004-068109号公報、特開2013-047361号公報などの記載が適宜参照されうる。
【0092】
また、最上層106にSiO2を主成分として用いる場合、成膜後に200℃以上で2時間の加熱処理を施すことで、塩水耐性や耐傷性がより向上し、好ましい。
【0093】
なお、本発明の誘電体膜において、前記最上層106の直下層として、TiO2を含有する層を、セルフクリーニング機能を有する光触媒層として用いることが好ましい。TiO2のセルフクリーニング機能とは、光触媒による有機物分解効果をいう。これは、TiO2に紫外光が照射されたときに、電子が放出された後に・OHラジカルが生じ、当該・OHラジカルの強い酸化力によって有機物を分解するものである。本発明の誘電体膜にTiO2含有層を加えることで、光学部材に付着した有機物等が汚れとして光学系を汚染するのを防止することができる。その際は、上層のSiO2含有層は、やや粗である膜質であることが、・OHラジカルが移動しやすく、光学部材表面の防汚性を向上できるため好ましい。これは、上層のSiO2含有層を成膜する際のIAD条件を制御することで、膜質を制御することが可能である。また、最上層106を緻密な膜として形成し、最上層106に機能層105bを部分的に露出するような細孔を形成することが、・OHラジカルがより移動しやすくなり、光触媒効果の効果を発現しやすく、さらに塩水耐性を具備することができる。
【0094】
本発明の誘電体膜100は、望ましくは以下の条件式を満たす。
【0095】
10nm≦TL≦350nm…… (1)
50nm≦Tcat≦700nm…(2)
ここで、TL:最上層106の膜厚を表す。Tcat:最上層106に隣接した高屈折率層105a又は機能層105bの膜厚を表す。
【0096】
条件式(1)の値が上限以下であると、最上層106に設けた複数の細孔30を通じてUV光で励起した活性酸素をやり取りすることにより光触媒効果を発揮できる。
【0097】
一方、条件式(1)の値が下限以上であると、最上層106の親水性機能を維持しやすく、かつ強固な最上膜を形成できるため十分な塩水耐性や耐傷性を確保できる。なお、誘電体膜100は、以下の式(1b)を満たすことが好ましい。
【0098】
60nm≦TL≦250nm… (1b)
条件式(2)の値が下限以上であると、機能層105bの膜厚を確保できるため十分な光触媒効果を期待できる。一方、機能層105bの厚さが増大すればするほど光触媒効果を期待できるが、その代わり多層膜に要求される所望の分光特性を得にくくなるため、条件式(2)の値は上限以下とすることが望ましい。なお、機能層105bは、以下の式(2b)を満たすことが好ましい。
【0099】
50nm≦Tcat≦600nm…(2b)
最上層106に隣接した機能層105bは、Tiを主成分とする酸化物(例えばTiO2)から形成されている。TiO2等のTi酸化物は光触媒効果が非常に高いものとなっている。特に、アナターゼ型のTiO2は、光触媒効果が高いため機能層105bの材料として望ましい。
【0100】
最上層106は例えば主にSiO2から形成されている。最上層106において、SiO2は90%以上含有されていることが好ましい。夜間や屋外等ではUV光が入射しにくく、Tiを主成分とする酸化物では親水効果が低下するが、かかる場合でも最上層106をSiO2から形成することで親水効果を発揮でき、また、塩水耐性もより高められる。親水性を有するとは、誘電体膜100上の水滴10μLの接触角が30°以下、望ましくは15°以下になることを意味する。
【0101】
また、耐傷性をより高めるには最上層106にSiO2を用いる場合、成膜後に500℃で2時間の加熱処理を施すことが好ましい。
【0102】
なお、最上層106はSiO2とAl2O3との混合物(ただし、SiO2の組成比が90質量%以上)から形成されてもよい。これにより夜間や屋外等でも親水効果を発揮でき、また、SiO2とAl2O3との混合物とすることで耐傷性もより高められる。最上層106にSiO2とAl2O3との混合物を用いる場合、成膜後に200℃以上で2時間の加熱処理を施すことで、耐傷性を向上することができる。
【0103】
誘電体膜100は以下の条件式を満たすと好ましい。
【0104】
1.35≦NL≦1.55…(3)
ここで、NL:低屈折率層の材料のd線での屈折率を表す。
【0105】
条件式(3)を満たすことで、所望の光学特性を有する誘電体膜100を得ることができる。ここで、d線とは波長587.56nmの波長の光をいう。低屈折率層の素材として、d線での屈折率が1.48であるSiO2や、d線での屈折率が1.385であるMgF2を用いることができる。
【0106】
誘電体膜100は以下の条件式を満たすことが好ましい。
【0107】
1.6≦Ns≦2.2…(4)
ここで、Ns:基材のd線での屈折率
光学設計上、基材のd線での屈折率として条件式(4)を満たすことで、コンパクトな構成とした上で誘電体膜100の光学性能を高めることができる。条件式(4)を満たすガラス基材に本実施形態の誘電体膜を成膜することで、外界に対して露出するレンズ等に用いることができ、優れた耐環境性能と光学性能とを両立することができる。
【0108】
本発明に係る最上層の直下層には、光触媒機能を有する金属酸化物を主成分とする機能層を配置し、当該最上層は、前記機能層の表面を部分的に露出させる複数の細孔を有することが、好ましい。
【0109】
図3A~Dは、本発明に係る機能層と細孔を有する最上層を示す模式図である。
【0110】
図3Aは、粒子状の細孔を有する金属マスクを形成して作製した誘電体膜100の断面を模式的に示す図であり、Bは、隣接する細孔がつながった葉脈状の細孔を有する金属マスクを形成して作製した誘電体膜の断面を模式的に示す図であり、Cは、Bの最上層の表面のSEM画像であり、Dは、ポーラス状の細孔を有する金属マスクを形成して作製した誘電体膜の断面を模式的に示す図である。
【0111】
図3A~Dに示すように、最上層106は、隣接する高屈折率層となる機能層105bに光触媒機能を発現させるための複数の細孔30を有している。細孔30は、ドライエッチングで形成される。最上層106の表面積に対する複数の細孔30の横断面の総面積(最上層106を上から見たときの細孔30の総面積)の割合(以下、細孔密度又は膜抜け落ち率という)は、例えば後述する葉脈状金属マスク50を用いて細孔30を形成した場合、膜抜け落ち率は50%程度となることが好ましい。また、細孔30の横断面は、穴の寸法サイズが様々ありネットワーク上に繋がった形状を有している。
【0112】
以下、
図4、
図5、
図6及び
図7を参照しつつ、誘電体膜100及び最上層に細孔を形成する製造方法について説明する。
【0113】
図4は、本発明に係る最上層表面に細孔を形成する工程のフローチャートである。
【0114】
図5A~Eは、粒子状の金属マスクを形成して、本発明に係る最上層表面に細孔を形成する工程を説明する概念図である。
【0115】
図6A~Dは、各金属マスクを形成した本発明に係る最上層表面のSEM画像である。
【0116】
図7A~Cは、本発明に係る最上層表面が葉脈状に加工されたときのSEM画像と拡大図である。
【0117】
まず、
図4において、基材(基板)上に多層膜としての低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層する(多層膜形成工程:ステップS11)。ただし、ステップS11においては、多層膜のうち最上層106と機能層105bとを除いた層を形成する。つまり、機能層105bの下側に隣接する低屈折率層まで形成する。多層膜は、各種の蒸着法、IAD又はスパッタリング法等を用いて形成する。なお、誘電体膜100の構成に応じて、ステップS11での多層膜の形成を省略してもよい。
【0118】
次いでステップ12として機能層105を形成し、引き続きステップ13として最上層106を形成する。形成方法は、IADで成膜することが好ましい。
【0119】
最上層形成工程後、最上層106の表面に金属マスク50を成膜する(マスク形成工程:ステップS14)。
図5A及び
図6Aに示すように、金属マスク50は、最上層106の表面に粒子状に形成される。これにより、最上層106にナノサイズの金属マスク50を形成することができる。なお、
図5D及び
図6Cに示すように、金属マスク50を葉脈状の細孔を有するように形成してもよい。また、
図5E及び
図6Dに示すように、金属マスク50をポーラス状の細孔を有するように形成してもよい。ポーラス状とは細孔が複数ある状態で、例えば投影面積の円換算で直径数十nm位の孔が複数空いている状態をいう。
【0120】
金属マスク50は、金属部50aと、露出部50bとで構成される。金属マスク50の膜厚は、1~30nmの範囲となっている。成膜条件にもよるが、例えば蒸着法を用いて膜厚を2nmとなるように金属マスク50を成膜すると、金属マスク50は粒子状になりやすい(
図6A)。また、例えば、蒸着法を用いて膜厚を12nm~15nmとなるように金属マスク50を成膜すると、金属マスク50は葉脈状になりやすい(
図6C)。さらに、例えばスパッタリング法を用いて膜厚を10nmとなるように成膜すると、金属マスク50はポーラス状になりやすい(
図6D)。金属を上記範囲の厚さに薄く成膜することで、粒子状、葉脈状、又はポーラス状の最適な金属マスク50を容易に形成することができる。金属マスク50は、例えばAgやAl等で形成される。
【0121】
次に、最上層106に複数の細孔30を形成する(細孔形成工程:ステップS15)。
図5B及び
図6Bに示すように、エッチングには、不図示のエッチング装置を用いたドライエッチングを用いる。また、上述の多層膜の成膜や金属マスク50の成膜に用いた成膜装置を用いてもよい。細孔形成工程において、最上層106の材料、具体的にはSiO
2と反応するガスを用いて複数の細孔を形成する。この場合、金属マスク50に損傷を与えず、最上層106のSiO
2を削ることができる。エッチングガスとしては、例えばCHF
3、CF
4、COF
2及びSF
6等を用いる。これにより、最上層106において機能層105bの表面を露出させる複数の細孔30が形成される。つまり、金属マスク50の露出部50bに対応する最上層106がエッチングされて細孔30が形成され、部分的に機能層105bの表面が露出した状態となる。
【0122】
細孔形成工程後、
図5Cに示すように、金属マスク50を除去する(マスク除去工程:ステップS16)。具体的には、金属マスク50は、酢酸等を用いたウェットエッチングによって除去される。また、金属マスク50は、例えばArやO
2をエッチングガスとして用いたドライエッチングによって除去してもよい。金属マスク50のエッチングをドライエッチングを用いて行えば、多層膜MCの形成から金属マスク50のエッチングまでの一連の工程を同じ成膜装置内で行うことができる。
【0123】
以上の工程により、最上層106に複数の細孔30を有する誘電体膜100を得ることができる。
【0124】
上記誘電体膜の製造方法によれば、最上層106を成膜後、機能層105bに光触媒機能を発現させるための複数の細孔30を形成することにより、超親水性と光触媒機能とを両立させることができる。細孔30は、機能層105bに光触媒機能を発現させる程度の大きさであり、ユーザーに視認されることがなく、かつ塩水耐性も有する。
【0125】
機能層105bは光触媒機能を発現するが、高屈折率層であるため、誘電体膜100の反射防止特性を維持するためには、機能層105bの上に低屈折率層である最上層106を設ける必要がある。そのため、最上層106の密度が高い場合、機能層105bの光触媒機能が発現されなくなるという問題がある。一方、最上層106の膜密度を低くすると、最上層106の塩水耐性や耐傷性が低くなるという問題がある。本実施形態にかかる誘電体膜100のように、最上層106に複数の細孔30を設けることにより、反射防止特性、親水性、及び塩水耐性や耐傷性を保ちつつ、機能層105bの光触媒機能を発現させることができる。
【0126】
このように、誘電体膜100は、反射防止特性を有する耐塩水性及び対傷性に優れた多層膜を有し、超親水性及び光触媒効果を発揮することができ、車載用レンズや通信用レンズ、或いは建材に好適に用いられ、中でも車載用レンズとして好適である。
【実施例】
【0127】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0128】
〔実施例1〕
本発明の誘電体膜に具備される最上層を評価するために、表Iに記載の単膜を作製し評価した。
【0129】
<単膜1の作製>
ガラス基材TAFD5G(HOYA株式会社製:屈折率1.835)上に、本発明に係る最上層として、SiO2とNa2O(株式会社豊島製作所 商品名 SiO2-Na2O)を質量比で95:5に混合した粒子を調製し、以下の蒸着を行った。
【0130】
上記の基材を真空蒸着装置に設置して、第1蒸発源に前記成膜材料を装填し、IADにて、成膜速度3Å/secで蒸着し、ナトリウム含有量が5質量%になるようにして、基材上に厚さが100nmの単膜1を作製した。
【0131】
<成膜条件>
(チャンバー内条件)
加熱温度 370℃
開始真空度 1.33×10-3Pa
(成膜材料の蒸発源)
電子銃
IADは、加速電圧1200V、加速電流1000mA、中和電流1500mAで、オプトラン社RFイオンソース「OIS One」の装置を用いた。IAD導入ガスはO250sccm、Arガス10sccm、ニュートラルガスO250sccmの条件で行った。
【0132】
なお、最上層の組成分析は、下記X線光電子分光分析装置(XPS)を用いて測定した。
【0133】
(XPS組成分析)
・装置名称:X線光電子分光分析装置(XPS)
・装置型式:Quantera SXM
・装置メーカー:アルバック・ファイ
・測定条件:X線源:単色化AlKα線25W-15kV
・真空度:5.0×10-8Pa
アルゴンイオンエッチングにより深さ方向分析を行う。データ処理は、アルバック・ファイ社製のMultiPakを用いた。
【0134】
<単膜2~9の作製>
成膜処方は表Iに示す通りであるが、単膜1の作製において、蒸着条件の変化によるNa2Oを用いたナトリウムの含有量変化、K2O、CaO、Fe2O3及びMgO(いずれもMerck社製)によるカリウム、カルシウム、鉄及びマグネシウムを含有した本発明に係る最上層をIADにて蒸着成膜して、単膜2~9を得た。
【0135】
なお、単膜8の作製は、単膜1の作製において、IADによる蒸着時に370℃の加熱をしなかった以外は同様にして成膜し、単膜8を得た。
【0136】
<単膜10の作製>
単膜1の作製において、成膜材料として、Na2O、K2O及びCaOを質量比で1:1:1で混合し、合計含有量が5質量%になるようにした以外は同様にして、単膜9を得た。
【0137】
<単膜11の作製>
単膜1の作製において、スパッタ法で成膜した以外は同様にして、単膜11を得た。
【0138】
スパッタ装置としては、マグネトロンスパッタ装置(キヤノンアネルバ社製:型式EB1100)を用いた。
【0139】
プロセスガスにはArとO2とを用いて、上記マグネトロンスパッタ装置により、RF方式による成膜を行った。スパッタ電源パワーは5.0W/cm2とし、成膜圧力は0.4Paとした。また、酸素分圧は適宜調整した。なお、事前に成膜時間に対する層厚変化のデータを取り、単位時間当たりに成膜される層厚を算出した後、設定層厚となるように成膜時間を設定した。
【0140】
<単膜12:誘電体多層膜1の作製>
ガラス基材TAFD5G(HOYA株式会社製:屈折率1.835)上に、SiO2(Merck社製製)を用いた低屈折率層、OA600(キヤノンオプトロン株式会社製の素材:Ta2O5、TiO、Ti2O5の混合物)を用いた高屈折率層を表Iの層番号1~4まで、下記条件のIADを用いて所定の膜厚にて積層した。次いで、実施例1の単膜1と同様な最上層(層番号5)として、SiO2とNa2O(株式会社豊島製作所 商品
名 SiO2-Na2O)を質量比で95:5に混合した粒子を調製した。
【0141】
上記の基材を真空蒸着装置に設置して、第3蒸発源に前記成膜材料を装填し、成膜速度3Å/secで蒸着し、上記機能層上に厚さが88nmの最上層(層5)を形成した。当該機能層の形成は、同様にIAD、370℃加熱条件によって行った。
【0142】
<成膜条件>
(チャンバー内条件)
加熱温度 370℃
開始真空度 1.33×10-3Pa
(成膜材料の蒸発源)
電子銃
(低屈折率層及び高屈折率層の成膜)
低屈折率層の成膜材料:SiO2(Merck社製 商品名 SIO2)
上記の基材をIAD真空蒸着装置に設置して、第1蒸発源に前記成膜材料を装填し、成膜速度3Å/secで蒸着し、基材上に厚さが31.7nmの低屈折率層を形成した。
【0143】
IADは、加速電圧1200V、加速電流1000mA、中和電流1500mAで、オプトラン社RFイオンソース「OIS One」の装置を用いた。IAD導入ガスはO250sccm、Arガス0sccm、ニュートラルガスO250sccmの条件で行った。
【0144】
高屈折率層の成膜材料:OA600(キヤノンオプトロン株式会社製の素材:Ta2O5、TiO、Ti2O5の混合物)
上記の基材を真空蒸着装置に設置して、第2蒸発源に前記成膜材料を装填し、成膜速度3Å/secで蒸着し、上記低屈折率層上に厚さが30.8nmの高屈折率層を形成した。当該高屈折率層の形成は、同様にIADによって行った。
【0145】
上記形成した高屈折率層上に、表IIに記載の層厚条件で低屈折率層、高屈折率層及び最上層(実施例1の単膜1相当)を前記低屈折率層の形成条件と同様にして積層成膜し、合計5層の誘電体多層膜1を作製した。
【0146】
<単膜13:誘電体多層膜2の作製>
誘電体膜1の作製において、第4層のOA600含有層の代わりに、光触媒層としてTiO2含有層を113nmの層厚でIADにて成膜した。なお、TiO2は富士チタン社製(商品名 Ti3O5)を用いた。次いで、その上に、表II記載のように、低屈折率層、高屈折率層及び誘電体膜1の作製と同様にして厚さ88nmの最上層をIADにて成膜し、誘電体多層膜2を得た。
【0147】
<単膜14:誘電体多層膜付きミラー膜3の作製>
誘電体膜1の作製において、基板としてポリカーボネート樹脂フィルム(PC:帝人社製 商品名 ピュアエース)を用いて、表II記載のように、Al2O3(Merck社製 商品名 Al2O3)、Ag、H4(Merck社製の商品名「H4」:LaTiO3)の各含有層を計8層積層し、誘電体多層膜付きミラー膜3を作製した。
【0148】
なお、表中のAgの光波長550nmにおける光吸収係数は次式で算出した。
【0149】
α=4πk/λ
ここで、αは光吸収係数、kは消光係数、λは波長である。また、当該「波長における消光係数はエリプソメトリーにより計測を行った。
【0150】
<単膜15:誘電体多層膜4の作製>
誘電体膜2の作製において、基板としてシクロオレフィン樹脂フィルム(三井化学社製 商品名 APEL)を用い、各層の層厚を変化させた以外は同様にして、誘電体多層膜4を作製した。
【0151】
<単膜16の作製:比較例>
特開2013-203774号公報実施例段落〔0026〕の調製においてNa2O(株式会社豊島製作所 商品名Na2O)を添加し、かつ〔0038〕に従いSiO2とナトリウム含有量が5質量%となるよう塗布にて最上層を形成し、単膜16を得た。
【0152】
<単膜17の作製:比較例>
単膜1の作製において、最上層にナトリウムを含有しない最上層を形成した以外は同様にして、単膜17を得た。
【0153】
≪評価≫
(1)最上層の膜密度の測定
各誘電体膜の最上層の膜密度は、以下の方法で測定した。
【0154】
(i)白板ガラスBK7(SCHOTT社製)(φ(直径)=30mm、t(厚さ)=2mm)からなる基板上に、最上層のみを形成し、当該高屈折率層の光反射率を測定する。一方、(ii)薄膜計算ソフト(Essential Macleod)(シグマ光機株式会社)にて、最上層と同一の材料からなる層の光反射率の理論値を算出する。そして、(ii)で算出した光反射率の理論値と(i)で測定された光反射率との比較によって、最上層の膜密度を特定した。
【0155】
(2)光反射率の測定
反射率測定機(USPM-RUIII)(オリンパス株式会社製)によって、波長420
~670nmの試料の平均光反射率を測定した。
【0156】
(3)高温高湿環境下での親水性評価
高温高湿(85℃・85%RH)環境下に試料を長時間放置することによって、下記測定による水接触角が30°以下を維持できる時間を測定した。15時間にて水接触角が30°を超えた場合を×、400時間経過後で超えた場合を〇、1000時間経過後で超えた場合を◎とした。◎の評価試料の1000時間保存時時点の水接触角値を測定したところ、いずれも15°以下であり、本発明の誘電体膜を具備する試料は、「超親水性」が長期間維持できることが分かった。
【0157】
〈水接触角の測定〉
接触角の測定方法は、標準液体(純水)と最上層表面との接触角を、JIS R3257で規定される方法に準拠して測定した。測定条件は、温度23℃、湿度50%RHにおいて、前記標準液体である純水をサンプル上に約10μL滴下して、エルマ株式会社製G-1装置によりサンプル上の5か所を測定し、測定値の平均から平均接触角を得た。接触角測定までの時間は標準液体を滴下してから1分以内に測定する。
【0158】
(4)塩水耐性の評価
「塩水耐性」については、塩乾湿複合サイクル試験機(CYP-90)(スガ試験機株式会社製)を用いて、塩水噴霧試験を行って評価した。試験は、以下の工程(a)~(c)を1サイクルとし、8サイクル実施した。
(a)35℃±2℃の噴霧層内温度にて、25±2℃の塩水濃度5%の溶剤(NaCl、MgCl2、CaCl2、濃度(質量比)5%±1%)を試料に2時間噴霧する。
(b)噴霧終了後、40℃±2℃、95%RHの環境下に試料を22時間放置する。
(c)工程(a)及び(b)を4回繰り返した後、常温(20℃±15℃)及び常湿(45%RH~85%RH)の環境下に試料を72時間放置する。
【0159】
上記試験後、反射率測定機(USPM-RUIII)(オリンパス株式会社製)によって、試料の光反射率を測定し、光反射率に変化がない(反射率変化が0%)場合、評価を符号○とし、反射率変化が2%未満である場合、評価を符号△とし、反射率変化が2%以上である場合、評価を符号×とした。
【0160】
(5)耐傷性の評価
誘電体膜試料の表面を、亀の甲たわしを用いて、2kgの荷重で250往復擦り試験を行い、光反射率が0.5%未満の変化である場合、評価を○とし、反射率変化が0.5~2.0%未満である場合、評価を△とし、反射率変化が2.0%以上である場合、評価を×として耐傷性を評価した。
【0161】
以上の単膜の構成及び評価結果を表I及び表IIに示した。
【0162】
【0163】
〔実施例2〕
誘電体多層膜2において、光反射性及び光触媒性を評価するために、最上層に下記手順にて細孔を形成し、細孔付きの誘電体多層膜2を作製し評価した。
【0164】
図4及び
図5に示した細孔形成方法にしたがい、マスク材料としてAg、マスク成膜として蒸着法、マスク厚さ12nm、マスク構造として葉脈状、エッチングガスCHF
3、及びエッチング時間60secの条件で、
図6Cで示される細孔を上記最上層に形成し、細孔付きの誘電体多層膜2を作製した。
【0165】
詳細な細孔形成条件は以下のとおりである。
【0166】
Ag成膜には成膜装置(BES-1300)(株式会社シンクロン製)を用い、下記の条件で成膜した。成膜時の膜厚を変えることで、葉脈状、ポーラス状及び粒子状のAgマスクを形成できる。
【0167】
加熱温度 25℃
開始真空度 1.33×10-3Pa
成膜レート 7Å/sec
エッチングにはエッチング装置(CE-300I)(アルバック社製)を用い、下記の条件で成膜した。エッチング時間を変更することで、細孔の幅長、深さを調整した。
【0168】
アンテナRF 400W
バイアスRF 38W
APC圧力 0.5Pa
CHF3流量 20sccm
エッチング時間 60sec
<マスクの剥離>
細孔を形成した後、エッチング装置(CE-300I)(アルバック社製)を用いて、O2プラズマを照射することでマスク材料Agを剥離した。剥離は下記の条件で行った。
【0169】
アンテナRF 400W
バイアスRF 38W
APC圧力 0.5Pa
O2流量 50sccm
エッチング時間 600sec
≪評価≫
実施例1の評価に加えて、以下の評価をそれぞれ実施した。
【0170】
(4)光反射率の評価
「光反射率」については、反射率測定機(USPM-RUIII)(オリンパス株式会社製)を用いて、波長域420nm~670nmの最大反射率で試料の反射率を評価した。ここで、反射率が1%以下である場合、評価を符号○とし、反射率が1%を超え2%以下である場合、評価を符号△とした。
【0171】
(5)光触媒効果の評価
「光触媒効果」については、20℃80%の環境下において、ペンで色づけした試料に対してUV照射で積算20J照射し、ペンの色変化を段階的に評価した。具体的には、ペンとしてThe visualiser(inkintelligent社製)を用いた。ここで、色変化度が大のもの(又は色が消える)は光触媒効果が十分にあるとして評価〇とし、やや色が残る場合は光触媒効果があるとして評価△、はっきりと色が残る(光触媒効果が失活する)場合を×と評価した。
【0172】
誘電体膜の構成及び上記評価結果を表IIIに示す。
【0173】
【表3】
誘電体多層膜1及び2は、高温高湿環境下での長期保存における親水性、塩水耐性、及び光反射率に優れている。加えて、電体多層膜2は光触媒効果を有し、セルフクリーニング性に優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明の誘電体膜は、反射防止性を有し、表面の塩水耐性や耐傷性に優れ、かつ高温高湿環境下で長期にわたり低い水接触角を維持できる誘電体膜であることから、車載用レンズや通信用レンズ、或いは建材に好適に用いられ、中でも車載用レンズとして好適である。
【符号の説明】
【0175】
1 IAD蒸着装置
2 チャンバー
3 ドーム
4 基板
5 蒸着源
6 蒸着物質
7 IADイオンソース
8 イオンビーム
30 細孔
50 金属マスク
50a 金属部
50b 露出部
100 誘電体膜(光学部材)
101 基板
102、104 低屈折率層
103、105a 高屈折率層
105b 機能層
106 最上層