(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】アイボルト
(51)【国際特許分類】
F16B 35/06 20060101AFI20240110BHJP
F16B 23/00 20060101ALI20240110BHJP
B66C 1/66 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
F16B35/06 D
F16B23/00 G
B66C1/66 P
(21)【出願番号】P 2021009090
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅 祐太
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-120301(JP,A)
【文献】特開2000-320525(JP,A)
【文献】特開平05-149316(JP,A)
【文献】特開平10-280694(JP,A)
【文献】特開2003-155188(JP,A)
【文献】特開2018-003981(JP,A)
【文献】特開2004-308843(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0047888(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 35/06
F16B 23/00
B66C 1/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角柱状のヘッド部と、前記ヘッド部の底面中央に立設する雄ねじ軸とを有し、前記ヘッド部は上面中央が開口した非貫通穴を有する、ボルト本体と、
基部と、前記基部の上に環の一部が固定されたリング部とを有する吊金具と、を備え、
前記吊金具は、
前記雄ねじ軸の軸心を回転軸とする第1回転角において、前記回転軸の軸方向へ、前記基部を前記非貫通穴に挿入および抜去可能であり、
前記基部を前記非貫通穴に挿入して第2回転角まで回転させた状態において、前記基部が前記非貫通穴の内面に引っ掛かり、前記基部を抜去できないように構成され
、
前記基部は、多角形の厚板であり、
前記非貫通穴は、前記回転軸に垂直な断面について、開口部の断面形状が前記多角形であり、前記非貫通穴の内部の断面積が前記開口部の断面積よりも大きいこと、
を特徴とするアイボルト。
【請求項2】
角柱状のヘッド部と、前記ヘッド部の底面中央に立設する雄ねじ軸とを有し、前記ヘッド部は上面中央が開口した非貫通穴を有する、ボルト本体と、
基部と、前記基部の上に環の一部が固定されたリング部とを有する吊金具と、を備え、
前記吊金具は、
前記雄ねじ軸の軸心を回転軸とする第1回転角において、前記回転軸の軸方向へ、前記基部を前記非貫通穴に挿入および抜去可能であり、
前記基部を前記非貫通穴に挿入して第2回転角まで回転させた状態において、前記基部が前記非貫通穴の内面に引っ掛かり、前記基部を抜去できないように構成され、
前記ボルト本体は、前記吊金具に替えて、前記基部と同形状の第2基部と前記第2基部の上に環の一部が固定された第2リング部とを有する第2吊金具を着脱可能であり、
前記回転軸の回転方向について、前記第2基部に対する前記第2リング部の固定角度は、前記吊金具の前記基部に対する前記リング部の固定角度と異なり、
前記第2吊金具は、
前記第1回転角において、前記回転軸の軸方向へ、前記第2基部を前記非貫通穴に挿入および抜去可能であり、
前記第2基部を前記非貫通穴に挿入して前記第2回転角まで回転させた状態おいて、前記第2基部が前記非貫通穴の内面に引っ掛かり、前記第2基部を抜去できないように構成されていること、
を特徴とす
るアイボルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1(実用新案登録第3185814号公報)に開示されるように、輪形ヘッド部とボルト軸とが一体に構成されたアイボルトが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アイボルトは、スイッチギヤなどの重量物(数百kg)を移動又は設置する際に吊り上げるために利用される。具体的には、アイボルトは、吊り上げる物品に設けられたボルト孔にそのボルト軸を取り付け、クレーン等の吊り上げ装置のフックをその輪形ヘッド部に引っ掛けて物品を吊り上げるために利用されている。
【0005】
物品の据え付け後は、突起した輪形ヘッド部が外観上の問題となるため、アイボルトは工具を用いて取り外され、物品のボルト孔は塞ぎボルトで塞がれる。塞ぎボルトが挿入されるのは、塵埃(屋外であれば雨水等も含む)がボルト孔から物品内へ侵入することを防止するためである。
【0006】
このように、従来は、アイボルトと塞ぎボルトの2種類のボルトを手配する用品コストが必要であった。また、工具を用いてアイボルトを塞ぎボルトに交換する作業コストが必要であった。これらのコストを削減できることが望まれる。
【0007】
この発明は、上述の課題を解決するためになされた。この発明の目的は、物品の搬入作業や搬出作業において、アイボルトと塞ぎボルトの2種類の用品手配を削減し、かつ、ボルトの交換作業を削減できるアイボルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的の達成のため、本発明に係るアイボルトは以下のように構成される。
本発明にかかるアイボルトは、ボルト本体と、前記ボルト本体に着脱可能な吊金具とを備える。
【0009】
前記ボルト本体は、角柱状のヘッド部と、前記ヘッド部の底面中央に立設する雄ねじ軸とを有する。前記ヘッド部は、上面中央が開口した非貫通穴を有する。
【0010】
前記吊金具は、基部と、前記基部の上に環の一部が固定されたリング部とを有する。
前記吊金具は、前記雄ねじ軸の軸心を回転軸とする第1回転角において、前記回転軸の軸方向へ、前記基部を前記非貫通穴に挿入および抜去可能である。
さらに、前記吊金具は、前記基部を前記非貫通穴に挿入して第2回転角まで回転させた状態において、前記基部が前記非貫通穴の内面に引っ掛かり、前記基部を抜去できないように構成されている。
【0011】
第1の態様において、前記基部は、多角形の厚板である。前記非貫通穴は、前記回転軸に垂直な断面について、開口部の断面形状が前記多角形であり、前記非貫通穴の内部の断面積が前記開口部の断面積よりも大きい。
【0013】
第2の態様において、前記ボルト本体は、前記吊金具に替えて、第2吊金具を着脱可能である。前記第2吊金具は、前記基部と同形状の第2基部と前記第2基部の上に環の一部が固定された第2リング部とを有する。
前記回転軸の回転方向について、前記第2基部に対する前記第2リング部の固定角度は、前記吊金具の前記基部に対する前記リング部の固定角度と異なる。
前記第2吊金具は、前記第1回転角において、前記回転軸の軸方向へ、前記第2基部を前記非貫通穴に挿入および抜去可能である。
前記第2吊金具は、前記第2基部を前記非貫通穴に挿入させて前記第2回転角まで回転させた状態おいて、前記第2基部が前記非貫通穴の内面に引っ掛かり、前記第2基部を抜去できないように構成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るアイボルトによれば、物品に締結したボルト本体に吊金具を取り付けて吊具用ボルトとして使用した後、ボルト本体に手を加えることなく、突起した吊金具のみを取り外すことができる。ボルト本体は塞ぎボルトとして代用できる。そのため、別途の塞ぎボルトの手配も、ボルトの付け替えも不要であり、用品コストの削減および作業工程の短縮が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】物品にアイボルトを取り付けて吊り上げる状態を説明するための図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係るアイボルトの斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態1に係るアイボルトのA-A断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態1に係るアイボルトの上面図である。
【
図5】本発明の実施の形態1に係る吊金具のパターンを説明するための図である。
【
図6】本発明の実施の形態2に係るアイボルトの斜視図である。
【
図7】本発明の実施の形態2に係るアイボルトのB-B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数にこの発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0017】
実施の形態1.
図1を参照して、アイボルトの使用状態について説明する。
図1は、物品にアイボルトを取り付けて吊り上げる状態を説明するための図である。
【0018】
物品4は、スイッチギヤなどの重量物であり、上面端部にボルト孔が設けられている。アイボルト1は、ボルト本体2と、ボルト本体2に着脱可能な吊金具3とを備える。ボルト本体2は、工具を使用して物品4のボルト孔に締め付けられる。ボルト本体2に装着された吊金具3には、ワイヤー5が取り付けられ、クレーン6がワイヤー5を引き上げることにより物品4は吊り上げられる。
【0019】
図2および
図3を参照してアイボルト1の構成について説明する。
図2は、本発明の実施の形態1に係るアイボルト1の斜視図である。
図3は、本発明の実施の形態1に係るアイボルト1のA-A断面図である。
【0020】
吊金具3は、基部31とリング部32とを有する。基部31は、例えば多角形の厚板である。
図2に示す基部31の形状は、上面視において正四角形であるが、真円以外であればよく、楕円、長方形、三角形、六角形、八角形、十文字型などであってもよい。リング部32は、基部31の上に環の一部が固定されている。また、吊金具3は、雄ねじ軸22の軸心を回転軸25(
図3)として回転可能である。
【0021】
ボルト本体2は、ヘッド部21と、溝を円筒の外面に設けた雄ねじ軸22とを有する。雄ねじ軸22は、ヘッド部21の底面中央に立設する。雄ねじ軸22は、物品4の上面に設けられた雌ねじ穴(ボルト孔)に螺合可能である。
【0022】
ヘッド部21の形状は角柱状である。
図2に示すヘッド部21の形状は六角柱であるが、三角柱、四角柱、八角柱などであってもよい。また、ヘッド部21は、その上面中央に開口した非貫通穴24を有する。この開口部分を開口部23と称する。
【0023】
非貫通穴24は、回転軸25に垂直な断面について、開口部23の断面形状が基部31の断面形状と略同じ相似形である。また、非貫通穴24の内部の断面積は開口部23の断面積よりも大きい。具体的には、非貫通穴24の内部空間は、基部31が挿入された状態で、基部31が回転軸25を中心に回転可能な広さを有する。
【0024】
以下の説明において、回転角は、回転軸25を含む平面(任意の平面を基準平面とする)と、リング部32の径を含む平面とがなす角度である。第1回転角および第2回転角に関する基準平面は同じである。
【0025】
吊金具3は、雄ねじ軸22の軸心を回転軸25とする第1回転角において、回転軸25の軸方向へ、基部31を非貫通穴24に挿入および抜去可能である。第1回転角は、吊金具3の回転角であり、基部31を回転軸25の軸方向へ移動させることで、基部31を開口部23に挿入できる回転角である。
【0026】
また、吊金具3は、基部31を非貫通穴24に挿入して第2回転角まで回転させた状態において、基部31が非貫通穴24の内面に引っ掛かり、基部31を抜去できないように構成されている。
【0027】
図4を参照して、第2回転角について説明する。
図4は、本発明の実施の形態1に係るアイボルト1の上面図である。
【0028】
図4には、上面視において正四角形の基部31が非貫通穴24に挿入されて第2回転角まで回転した状態が表現されている。
図4に示す例では、第2回転角は、第1回転角から45度回転させた角度である。
【0029】
回転止めピン33は、第2回転角において、開口部23と基部31との隙間に挿入されて、基部31の回転を防ぐことで、回転位置を第2回転角に固定する。
【0030】
図4に示す状態において、回転軸25の軸方向への基部31の移動は、基部31の上面と開口部23の縁(非貫通穴24の内面)との引っ掛かりにより妨げられる。また、回転軸25の周方向への基部31の回転は、回転止めピン33により妨げられる。そのため、吊金具3はボルト本体2に固定された状態となり、アイボルト1は吊具用ボルトとして機能する。
【0031】
なお、基部31が略長方形または略楕円の場合、第2回転角は、第1回転角から90度回転させた角度である。基部31が略正三角形の場合、第2回転角は、第1回転角から60度回転させた角度である。基部31が略正六角形の場合、第2回転角は、第1回転角から30度回転させた角度である。基部31が略正M角形の場合、第2回転角は、第1回転角から180/M度(π/Mラジアン)回転させた角度である。
【0032】
以上説明したように、
図1~
図4に示すアイボルト1によれば、ボルト本体2と吊金具3とは結合および分離可能である。物品4に締結したボルト本体2に吊金具3を取り付けて吊具用ボルトとして使用した後(第2回転角)、ボルト本体2に手を加えることなく、突起した吊金具3のみを取り外すことができる(第1回転角)。ボルト本体2は突起しておらず従来の塞ぎボルトとして代用できる。そのため、別途の塞ぎボルトの手配も、ボルトの付け替えも不要であり、用品コストの削減および作業工程の短縮が可能となる。
【0033】
<変形例>
ところで、ボルト本体2を物品4に締め込んだ場合、ヘッド部21の最終的な取り付け角度は、雄ねじ軸22の切り込み位置によって異なり、一様にはならない。
図1のように物品4を吊り上げる場合、吊り上げ方向がリング部32の径方向に一致しないと、吊り上げ時にリング部32が変形するおそれがある。そのため、従来はアイボルトの取り付けに際して、ボルト本体2と物品4との間にワッシャーを挟むことで、吊り上げ方向とリング部32の径方向とが一致するように調整していた(特開2020-133788号公報参照)。しかしながら、このような調整にかかる作業コストは削減できることが望ましい。
【0034】
そこで、
図5に示すような複数種類の吊金具を1つ選択して、ボルト本体2に取り付けることとする。
図5は、基部31に対するリング部32の固定角度が異なる3種類の吊金具(3,3b,3c)について説明するための図である。
【0035】
図5の(B)は第2吊金具3bを示す図である。
図5の(C)は第3吊金具3cを示す図である。第2基部31bおよび第3基部31cは、基部31と同形状である。回転軸25の回転方向について、第2基部31bに対する第2リング部32bの固定角度(
図5の(B))は、吊金具3の基部31に対するリング部32の固定角度(
図5の(A))と異なる。また、第3基部31cに対する第3リング部32cの固定角度(
図5の(C))は、吊金具3(
図5の(A))とも第2吊金具3b(
図5の(B))とも異なる。
【0036】
具体的には、
図5の(A)では、リング面(リング部の径方向の断面)を基部31の1辺と平行に配置している。
図5の(C)では、リング面を基部31の対角線と平行に配置している。
図5の(B)では、リング面と基部31との位置関係を(A)および(C)と異なるように構成している。
【0037】
吊金具の基部が、略正N角形の場合、基部とリング部の成す角度はゼロ~π/N(ラジアン)で複数用意すればよい。すなわち、基部とリングの成す角度がゼロ~第2回転角までの間で異なる複数の吊金具を用意すればよい。
【0038】
このように、基部に対するリング部の固定角度が異なる吊金具を複数用意しておけば、ボルト本体2を締め付けた後、吊り上げ方向とリング部32の径方向とが一致する吊金具を選択し取り付けることで、ワッシャーによる調整手間は不要になる。また、吊金具は繰り返し使用できるので、多量の在庫を持つ必要はない。なお、回転止めピンの位置はどの角度であっても可能なように複数用意しておく。なお、この変形例は、以下の実施の形態にも適用可能である。
【0039】
実施の形態2.
次に、
図6および
図7を参照して本発明の実施の形態2について説明する。
図6は、本発明の実施の形態2に係るアイボルトの斜視図である。
図7は、本発明の実施の形態2に係るアイボルトのB-B断面図である。
【0040】
図6および
図7に示す構成は、基部31が雄ねじ軸31dであり、非貫通穴24が雌ねじ穴24dである点を除き、
図2および
図3に示す構成と基本的に同様である。以下、
図6および
図7の説明において、
図2および
図3に示す構成と同様の構成については、説明を簡略又は省略する。
【0041】
吊金具3dは、雄ねじ軸31dとリング部32とを有する。リング部32は、雄ねじ軸31dの上に環の一部が固定されている。また、雄ねじ軸31dの回転軸25は、雄ねじ軸22の軸心と同じである。
【0042】
ボルト本体2dは、ヘッド部21dと、雄ねじ軸22とを有する。ヘッド部21dの形状は雌ねじ穴24dを除き上述したヘッド部21と同じである。雌ねじ穴24dは、雄ねじ軸31dと螺合可能である。
【0043】
図6および
図7に示す構成によれば、雄ねじ軸31dを雌ねじ穴24dに締め付けることで吊金具3dをボルト本体2dに固定し、吊具用ボルトとして使用することができる。また、吊具用ボルトとして使用した後、ボルト本体2dに手を加えることなく、突起した吊金具3dのみを取り外すことができる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 アイボルト
2、2d ボルト本体
3、3d 吊金具
3b 第2吊金具
3c 第3吊金具
4 物品
5 ワイヤー
6 クレーン
21、21d ヘッド部
22 雄ねじ軸
23 開口部
24 非貫通穴
24d 雌ねじ穴
25 回転軸
31 基部
31b 第2基部
31c 第3基部
31d 雄ねじ軸
32 リング部
32b 第2リング部
32c 第3リング部
33 回転止めピン