(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】故障診断方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20240110BHJP
F02D 41/22 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
F02D45/00 345
F02D41/22
(21)【出願番号】P 2021052679
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 優太
(72)【発明者】
【氏名】作本 弘司
(72)【発明者】
【氏名】尼ヶ崎 真
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-329086(JP,A)
【文献】特開2006-257939(JP,A)
【文献】特開2009-167998(JP,A)
【文献】特開2016-014375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 41/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのインジェクターからの燃料噴射量が過少であることを示す診断結果が得られた場合の、故障診断方法であって、
前記エンジンの吸気管に設けられたマスエアフローセンサーにより得られた実際の吸入空気量から目標吸入空気量を引いた差分
を、
給排気系の異常を検出するための第1閾値
を用いて閾値判定する第1判断ステップと、
インジェクター関連のエラーコードが
、前記燃料噴射量が過少であることを示すエラーコードと併発していないかを判断する第2判断ステップと、
前記エンジンの排気管に設けられたNOxセンサーにより得られたO
2
値
を、NOxセンサーの故障を検出するための第2閾値
を用いて閾値判定する第3判断ステップと、
前記第1判断ステップ
において前記差分が前記第1閾値未満である判定結果が得られ、かつ前記第2判断ステップ
において前記エラーコードが併発していない判断結果が得られ、かつ前記第3判断ステップ
において前記O
2
値が前記第2閾値未満である判定結果が得られた場合に、前記給排気系、前記インジェクター及び前記NOxセンサーは故障しておらず、前記マスエアフローセンサー
の特性を基準特性に近づけるための補正係数を再学習する必要性
があると判断する第4判断ステップと、
を含む、故障診断方法。
【請求項2】
前記エンジンの吸気管に設けられたマスエアフローセンサーにより得られた実際の吸入空気量から目標吸入空気量を引いた差分が、前記第1閾値以上の場合、吸排気系が異常であると判断するステップを、さらに含む、
請求項1に記載の故障診断方法。
【請求項3】
インジェクター関連のエラーコードが併発していた場合、前記インジェクターが故障していると判断するステップを、さらに含む、
請求項1又は2に記載の故障診断方法。
【請求項4】
前記NOxセンサーにより得られたO
2
値が前記第2閾値以上の場合、前記NOxセンサーが故障していると判断するステップを、さらに含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載の故障診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ディーゼルエンジンを有する車両における故障診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料噴射量が少ない場合に故障と判定し、正常なインジェクターを誤って交換してしまう場合がある。
【0003】
特許文献1等には、インジェクターの故障診断方法が開示されている。特許文献1には、インジェクターの故障している気筒を特定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃料噴射量が少なくなった原因がインジェクターの故障でないにもかかわらず、インジェクターを交換してしまうと、無駄に修理費用が発生してしまう。
【0006】
また、燃料噴射量が少なくなった原因がインジェクターの故障でないにもかかわらず、燃料噴射量が少なくなった場合に特許文献1のようなインジェクターの故障診断を行うことは、無駄な診断処理を行うことに繋がる。
【0007】
本開示は、以上の点を考慮してなされたものであり、インジェクターからの燃料噴射量が少なくなった場合に、的確かつ効率的に故障原因を診断することができる、故障診断方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の故障診断方法の一つの態様は、
エンジンのインジェクターからの燃料噴射量が過少であることを示す診断結果が得られた場合の、故障診断方法であって、
前記エンジンの吸気管に設けられたマスエアフローセンサーにより得られた実際の吸入空気量から目標吸入空気量を引いた差分を、給排気系の異常を検出するための第1閾値を用いて閾値判定する第1判断ステップと、
インジェクター関連のエラーコードが、前記燃料噴射量が過少であることを示すエラーコードと併発していないかを判断する第2判断ステップと、
前記エンジンの排気管に設けられたNOxセンサーにより得られたO
2
値を、NOxセンサーの故障を検出するための第2閾値を用いて閾値判定する第3判断ステップと、
前記第1判断ステップにおいて前記差分が前記第1閾値未満である判定結果が得られ、かつ前記第2判断ステップにおいて前記エラーコードが発生していない判断結果が得られ、かつ前記第3判断ステップにおいて前記O
2
値が前記第2閾値未満である判定結果が得られた場合に、前記給排気系、前記インジェクター及び前記NOxセンサーは故障しておらず、前記マスエアフローセンサーの特性を基準特性に近づけるための補正係数を再学習する必要性があると判断する第4判断ステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、インジェクターからの燃料噴射量が少なくなった場合に、的確かつ効率的に故障原因を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係る故障診断方法が適用されるディーゼルエンジンとその周辺構成の一例を示す模式図
【
図3】実施の形態に係る故障診断方法の説明に供するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
まず、本発明の実施の形態に係るディーゼルエンジン1とその周辺構成について、
図1を用いて説明する。
【0013】
図1は、実施の形態に係る故障診断方法が適用されるディーゼルエンジン1とその周辺構成の一例を示す模式図である。
図1において、実線の矢印は気体の流れを示し、破線の矢印は電気信号の流れを示している。
【0014】
図1において符号を付して示す各構成要素は、例えば、車両に搭載される。
【0015】
ディーゼルエンジン1は、例えば、4つの気筒2を有する。ディーゼルエンジン1には、各気筒2内の燃焼室(図示略)に燃料を噴射するインジェクター(図示せず)が設けられている。
【0016】
ディーゼルエンジン1の上流側には、インテークマニホールド3を介して、車両の外部から取り込まれ、ディーゼルエンジン1に供給されるエアーが流れる吸気管4が接続されている。
【0017】
ディーゼルエンジン1の下流側には、エキゾーストマニホールド5を介して、ディーゼルエンジン1から排出された排ガスが流れる排気管6が接続されている。
【0018】
吸気管4と排気管6との間には、ターボチャージャー(過給機)7が設けられている。ターボチャージャー7は、吸気管4に配置されたコンプレッサー8と、排気管6に配置された排気タービン9とを有する。排気タービン9は、ディーゼルエンジン1から排出された排ガスによって駆動される。コンプレッサー8は、その排気タービン9の駆動によって同軸駆動され、エアーを圧縮する。
【0019】
また、吸気管4には、コンプレッサー8により圧縮された空気を冷却するインタークーラ10が設けられている。インタークーラ10により冷却された空気は、ディーゼルエンジン1の各気筒2内の燃焼室に流入する。
【0020】
また、吸気管4には、吸気管4を流れるエアーの流量を検出するMAF(Mass Air flow)センサー14が設けられている。MAFセンサー14は、検出した流量(以下、MAF値と呼ぶこともある)を示す信号を、適宜、故障診断装置100へ出力する。
【0021】
また、排気管15には、NOxセンサー15が設けられている。NOxセンサー15は、検出したNOx濃度を示す信号を、適宜、故障診断装置100へ出力する。
【0022】
MAF値及びNOx濃度は、後述する故障診断装置100の故障診断処理に用いられる。
【0023】
EGR配管11は、一端がインテークマニホールド3に接続され、他端がエキゾーストマニホールド5に接続されている。エンジン1から排出された排ガスの一部(以下、EGRガスという)は、エキゾーストマニホールド5を介して、EGR配管11へ流入する。EGR配管11へ流入したEGRガスは、インテークマニホールド3へ還流される。
【0024】
EGR配管11には、EGRガスを冷却するEGRクーラー12が設けられている。また、EGR配管11には、EGRガスの流量を調整するEGRバルブ13が設けられている。EGRバルブ13の開閉は、図示しないコントローラーにより制御される。
【0025】
以上、本実施の形態に係る故障診断方法が適用されるディーゼルエンジン1とその周辺構成例について説明した。
【0026】
次に、本実施の形態に係る故障診断方法を実行する故障診断装置100について説明する。
【0027】
実際上、故障診断装置100は、ECM(Engine Control Module)の一部分により具現化されている。故障診断装置100は、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)等の記憶媒体、RAM(Random Access Memory)等の作業用メモリ、および通信回路を有する。故障診断装置100による故障診断処理は、CPUが制御プログラムを実行することにより実現される。
【0028】
本実施の形態による故障診断処理が実行されるのに先立って、
図2に示した燃料噴射過少診断処理が行われる。この処理も、例えばECMにより行われる。
【0029】
燃料噴射過少診断処理では、閾値算出3Dマップ201によりエンジン回転数及び目標噴射量に応じた閾値を得るとともに、閾値算出2Dマップ202により吸気温に応じた閾値を得、乗算部203によりこれらの閾値同士を乗算する。
【0030】
また、実空燃比算出部205がNOxセンサー15により得られたO
2
値により実空燃比を算出し、理論空燃比算出部207がMAF値、目標噴射量及び係数により理論空燃比を算出する。除算部206では、実空燃比を理論空燃比で除算する。
【0031】
比較部204において、閾値の乗算結果よりも、実空燃比を理論空燃比で除算した値の方が大きい場合に、燃料噴射量が過少であると診断される。なお、燃料噴射量が過少であることの診断は、勿論、
図2で示した方法以外の方法で行ってもよい。
【0032】
このようにして、燃料噴射量が過少であると診断されると、故障診断装置100は、
図3の噴射量過少診断時処理を実行する。
【0033】
故障診断装置100は、ステップS11で実MAF値を取得し、ステップS12で目標MAF値を取得する。なお、実MAF値とは、実際の吸入空気量であり、MAFセンサー14により測定された実際のセンサー値である。目標MAF値とは、目標とする吸入空気量であり、例えば、エンジン1の運転状態に基づいて参照されるベースマップ(不図示)に、吸気温度及び大気圧に応じた補正係数を乗じることで設定される値である。
【0034】
故障診断装置100は、続くステップS13において、実MAF値から目標MAF値を引いた差分が閾値Th1以上か否か判断し、閾値Th1以上であった場合には吸排気系に異常があると判断して、ステップS14に移って、吸排気系が異常であることを通知する。
【0035】
これに対して、ステップS13において否定結果が得られた場合、故障診断装置100は、ステップS15に移って、インジェクター関連のエラーコード(DTC)を併発していないかを判断する。インジェクター関連のエラーコードを併発している場合には、故障診断装置100はインジェクターが故障していると判断し、ステップS16に移って、インジェクターを修理することを指示する通知を行う。
【0036】
ステップS15において否定結果が得られた場合、故障診断装置100は、ステップS17に移って、NOxセンサー15のO
2
値を取得し、続くステップS18において、O
2
値が閾値Th2以上か否か判断する。なお、換言すれば、ステップS18では、O
2
値が閾値Th2未満か否か判断していると言うことができる。
【0037】
故障診断装置100は、O
2
値が閾値Th2以上の場合、NOxセンサー15が故障していると判断し、ステップS19に移って、NOxセンサー15の交換を指示する通知を行う。ここで、閾値Th2は、高度に応じて変更することが好ましい。このようにすれば、平地以外でもNOxセンサー15の故障を診断できる。
【0038】
これに対して、故障診断装置100は、O
2
値が閾値Th2未満の場合、MAFセンサーの再学習が必要であると判断し、ステップS20に移って、MAFセンサー14を再学習することを指示する。
【0039】
ここでMAFセンサーの学習については、既知の技術なので簡単に説明する。燃料噴射制御部はMAF値を用いてインジェクターから噴射する燃料の量を制御する。MAFセンサーの学習とは、使用過程で特性が変化したMAFセンサーを基準特性に近づくように、MAF値に加算する補正係数を学習により求めることである。
【0040】
続くステップS21において、故障診断装置100は、燃料噴射量が過少であることを示すエラーコードが依然として出されているかを判断する。故障診断装置100は、エラーコードがまだ出されている場合には、ステップS22に移って、修理書を見ることを指示する通知を行う。これに対して、故障診断装置100は、エラーコードが出されていない場合には、ステップS23に移って、正常になったことを通知する。
【0041】
以上説明したように、本実施の形態によれば、エンジン1の吸気管4に設けられたマスエアフローセンサー14により得られた実際の吸入空気量(実MAF値)から目標吸入空気量(目標MAF値)を引いた差分が、第1閾値Th1以上か否かを判断する第1判断ステップ(S13)と、インジェクター関連のエラーコードを併発しているか否かを確認する第2判断ステップ(S15)と、エンジン1の排気管6に設けられたNOxセンサー15により得られたO
2
値が第2閾値Th2未満であるか否かを判断する第3判断ステップ(S18)と、第1判断ステップ(S13)、第2判断ステップ(S15)及び第3判断ステップ(S18)の判定結果に基づいて、マスエアフローセンサー14の補正係数を再学習する必要性を判断する第4判断ステップ(S20)と、を含む。
【0042】
これにより、インジェクターからの燃料噴射量が過少である原因がマスエアフローセンサーにあり、マスエアフローセンサー14の補正係数の再学習の必要性を的確かつ効率的に診断できるようになる。
【0043】
また、本実施の形態によれば、エンジン1の吸気管4に設けられたマスエアフローセンサー14により得られた実際の吸入空気量(実MAF値)から目標吸入空気量(目標MAF値)を引いた差分が、第1閾値Th1以上の場合、吸排気系が異常であると判断するステップ(S13、S14)を、さらに含む。
【0044】
これにより、インジェクターからの燃料噴射量が過少である原因が吸排気系の異常であることを的確かつ効率的に診断できるようになる。
【0045】
また、本実施の形態によれば、インジェクター関連のエラーコード(DTC)を併発していないかを判断し、インジェクター関連のエラーコードを併発している場合、インジェクターが故障していると判断するステップ(S15、S16)を、さらに含む。
【0046】
これにより、インジェクターからの燃料噴射量が過少である原因がインジェクターの故障であることを的確かつ効率的に診断できる。
【0047】
また、本実施の形態によれば、NOxセンサー15により得られたO
2
値が第2閾値Th2以上の場合、NOxセンサー15が故障していると判断するステップ(S18、S19)を、さらに含む。
【0048】
これにより、インジェクターからの燃料噴射量が過少である原因がNOxセンサー15の故障であることを的確かつ効率的に診断できる。
【0049】
上述の実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することの無い範囲で、様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本開示は、ディーゼルエンジンを有する車両において、インジェクターからの燃料噴射量が過少であると診断された場合の、故障診断方法として有用である。
【符号の説明】
【0051】
1 ディーゼルエンジン
2 気筒
3 インテークマニホールド
4 吸気管
5 エキゾーストマニホールド
6 排気管
7 ターボチャージャー
8 コンプレッサー
9 排気タービン
10 インタークーラ
11 EGR配管
12 EGRクーラー
13 EGRバルブ
14 MAFセンサー
15 NOxセンサー
100 診断装置