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特許7416029温度検出装置、温度検出方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】温度検出装置、温度検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01K 13/20 20210101AFI20240110BHJP
   A61B 5/01 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01K13/20 361Z
A61B5/01 250
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021148315
(22)【出願日】2021-09-13
(65)【公開番号】P2023041130
(43)【公開日】2023-03-24
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山谷 崇史
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-222543(JP,A)
【文献】特開2003-75262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
A61B 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源を有する対象のある第1部位の第1の温度を検出する第1温度センサと、
前記第1部位よりも前記熱源から離れた第2部位の第2の温度を検出する第2温度センサと、
処理部と、を備え、
前記処理部は、
予め定められた、前記熱源の温度のある変化状態に応じたある条件を満たした状態において前記第1温度センサで検出された前記第1の温度、及び前記ある条件を満たした状態において前記第2温度センサで検出された前記第2の温度に係る複数の組の推定用温度データを取得し、
取得された前記複数の組の各々に係る前記推定用温度データに基づいて、前記熱源、前記第1部位及び前記第2部位を含み、前記熱源と前記第1部位との間の温度及び熱流の関係が第1の熱抵抗により表され、かつ前記第1部位と前記第2部位との間の温度及び熱流の関係が第2の熱抵抗により表される熱モデルにおける前記第1の熱抵抗と前記第2の熱抵抗との関係を表す尤もらしい熱抵抗パラメータをそれぞれ推定し、
推定された複数の前記熱抵抗パラメータのうち予め定められた基準を満たさない値が推定された前記組を除外した前記複数の組に係る前記推定用温度データに基づいて、尤もらしい前記熱抵抗パラメータを推定し、
推定された前記熱抵抗パラメータ、検出された前記第1の温度及び前記第2の温度に基づいて、前記熱源の温度を前記対象の深部温度として推定する
温度検出装置。
【請求項2】
前記ある条件には、検出された前記第1の温度の第1変化量の絶対値がある第1閾値以上である第1の条件と、検出された前記第2の温度の第2変化量が前記第1変化量と同一符号であって、かつ当該第2変化量の絶対値が前記第1変化量の絶対値よりも大きい第2の条件とが含まれる請求項1記載の温度検出装置。
【請求項3】
前記熱源の温度のある変化状態は、当該熱源の温度の時間変化がない状態である請求項2記載の温度検出装置。
【請求項4】
前記熱抵抗パラメータは、前記第1の熱抵抗と前記第2の熱抵抗との比である請求項1~のいずれか一項に記載の温度検出装置。
【請求項5】
熱源を有する対象のある第1部位の第1の温度を検出する第1温度センサと、前記第1部位よりも前記熱源から離れた第2部位の第2の温度を検出する第2温度センサと、を用いた温度検出方法であって、
予め定められた、前記熱源の温度のある変化状態に応じたある条件を満たした状態において前記第1温度センサで検出された前記第1の温度、及び前記ある条件を満たした状態において前記第2温度センサで検出された前記第2の温度に係る複数の組の推定用温度データを取得し、
取得された前記複数の組の各々に係る前記推定用温度データに基づいて、前記熱源、前記第1部位及び前記第2部位を含み、前記熱源と前記第1部位との間の熱流が第1の熱抵抗により表され、かつ前記第1部位と前記第2部位との間の熱流が第2の熱抵抗により表される熱モデルにおける前記第1の熱抵抗と前記第2の熱抵抗との関係を表す尤もらしい熱抵抗パラメータをそれぞれ推定し、
推定された複数の前記熱抵抗パラメータのうち予め定められた基準を満たさない値が推定された前記組を除外した前記複数の組に係る前記推定用温度データに基づいて、尤もらしい前記熱抵抗パラメータを推定し、
推定された前記熱抵抗パラメータ、検出された前記第1の温度及び前記第2の温度に基づいて、前記熱源の温度を前記対象の深部温度として推定する
温度検出方法。
【請求項6】
熱源を有する対象のある第1部位の第1の温度を検出する第1温度センサと、前記第1部位よりも前記熱源から離れた第2部位の第2の温度を検出する第2温度センサと、から計測結果を取得するコンピュータを、
予め定められた、前記熱源の温度のある変化状態に応じたある条件を満たした状態において前記第1温度センサで検出された前記第1の温度、及び前記ある条件を満たした状態において前記第2温度センサで検出された前記第2の温度に係る複数の組の推定用温度データを取得する取得手段、
取得された前記複数の組の各々に係る前記推定用温度データに基づいて、前記熱源、前記第1部位及び前記第2部位を含み、前記熱源と前記第1部位との間の熱流が第1の熱抵抗により表され、かつ前記第1部位と前記第2部位との間の熱流が第2の熱抵抗により表される熱モデルにおける前記第1の熱抵抗と前記第2の熱抵抗との関係を表す尤もらしい熱抵抗パラメータをそれぞれ推定し、推定された複数の前記熱抵抗パラメータのうち予め定められた基準を満たさない値が推定された前記組を除外した前記複数の組に係る前記推定用温度データに基づいて、尤もらしい前記熱抵抗パラメータを推定するパラメータ推定手段、
推定された前記熱抵抗パラメータ、検出された前記第1の温度及び前記第2の温度に基づいて、前記熱源の温度を前記対象の深部温度として推定する温度推定手段、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、温度検出装置、温度検出方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
直接計測することのできない部位(検出対象部位)の温度を検出する温度検出装置がある。このような温度検出装置としては、計測可能な部位での温度及び熱流の計測結果に基づき、熱モデルを用いて検出対象部位と温度計測可能な部位との間の熱流から検出対象部位の温度を算出するものが知られている。
【0003】
熱モデルとしては、2点間の温度差と熱抵抗とにより熱流量が特定され、容量成分を考慮しない熱モデルがある。特許文献1では、熱抵抗が既知の2点間の温度を、検出対象部位の温度が変化していないとの前提で2回計測して、上記2点のうち1か所と検出対象部位との間の熱抵抗を推定し、検出対象部位の温度を算出推定可能とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-97819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術では、2点間の熱抵抗が既知のパラメータとされるが、検出対象部位の推定に係るパラメータは、検出対象への温度検出装置の取り付け度合や検出対象の状況などに応じて変化し得るので、安定して検出対象部位の温度を得づらいという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、直接計測のできない検出対象部位の温度をより安定して得ることのできる温度検出装置、温度検出方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、
熱源を有する対象のある第1部位の第1の温度を検出する第1温度センサと、
前記第1部位よりも前記熱源から離れた第2部位の第2の温度を検出する第2温度センサと、
処理部と、を備え、
前記処理部は、
予め定められた、前記熱源の温度のある変化状態に応じたある条件を満たした状態において前記第1温度センサで検出された前記第1の温度、及び前記ある条件を満たした状態において前記第2温度センサで検出された前記第2の温度に係る複数の組の推定用温度データを取得し、
取得された前記複数の組の各々に係る前記推定用温度データに基づいて、前記熱源、前記第1部位及び前記第2部位を含み、前記熱源と前記第1部位との間の温度及び熱流の関係が第1の熱抵抗により表され、かつ前記第1部位と前記第2部位との間の温度及び熱流の関係が第2の熱抵抗により表される熱モデルにおける前記第1の熱抵抗と前記第2の熱抵抗との関係を表す尤もらしい熱抵抗パラメータをそれぞれ推定し、
推定された複数の前記熱抵抗パラメータのうち予め定められた基準を満たさない値が推定された前記組を除外した前記複数の組に係る前記推定用温度データに基づいて、尤もらしい前記熱抵抗パラメータを推定し、
推定された前記熱抵抗パラメータ、検出された前記第1の温度及び前記第2の温度に基づいて、前記熱源の温度を前記対象の深部温度として推定する
温度検出装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従うと、直接計測のできない検出対象部位の温度をより安定して得ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の温度検出装置を説明する図である。
図2】深部温度の推定方法について説明する図である。
図3】深部温度推定処理の制御手順を示すフローチャートである。
図4】深部温度推定処理の変形例1を示すフローチャートである。
図5】深部温度推定処理の変形例3を示すフローチャートである。
図6】温度検出装置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の温度検出装置1を説明する図である。
この温度検出装置1は、生体(熱源を有する対象。ここでは人体)の深部温度(深部体温)を、計測可能な部位の温度の計測結果に基づいて推定により検出するためのものであって、例えば、生体の耳の穴に挿入されて耳の内部及び入口付近の2か所の温度を計測する。深部体温とは、一般に内臓や脳などの体内の発熱部位(熱源)の温度を指す。
【0011】
図1(a)に示すように、温度検出装置1は、挿入部10aと、本体部10bとに分けられ、挿入部10aが耳穴内に挿入される。挿入部10aには、第1計測部11(第1温度センサ)と、第2計測部12(第2温度センサ)とが位置し、本体部10bには、CPU13(処理部。Central Processing Unit)と、記憶部14と、通信部15などが位置する。
【0012】
第1計測部11は、上記耳の奥側の第1部位(発熱部位に近い部位)の温度(第1の温度)を計測(検出)して、計測結果をCPU13へ出力する。第1計測部11は、例えば、赤外線温度センサであり、温度検出装置1の耳奥への挿入側端部付近から鼓膜などの温度を計測する。
【0013】
第2計測部12は、耳の開口側の第2部位(発熱部位から第1部位よりも離れた部位)の温度(第2の温度)を計測して、計測結果をCPU13へ出力する。第2計測部12は、例えば、サーミスタなどを用いた接触式温度センサである。
【0014】
CPU13は、演算処理を行って温度検出装置1の動作を統括制御するハードウェアプロセッサであり、ここでは、専用のマイコン(マイクロコンピュータユニット)やICチップなどを含む。
【0015】
記憶部14は、RAM(Random Access Memory)と不揮発性メモリとを有する。RAMはCPU13に作業用のメモリ空間を提供して一時データを記憶する。不揮発性メモリには、CPU13が実行する制御プログラムや設定データなどが記憶される。不揮発性メモリは、例えば、フラッシュメモリである。
【0016】
図1(b)のブロック図に示すように、記憶部14には、プログラム141と温度データ142とが記憶される。プログラム141は、不揮発性メモリに記憶されており、温度検出装置1の制御動作を行うためのものである。温度データ142は、第1計測部11及び第2計測部12による計測結果のデータ、当該計測結果に基づいて求められ(推定され)た演算パラメータ、及びこれら計測結果及び演算パラメータにより推定(算出)された各タイミングの深部温度(深部体温)などを含む。これらのデータは、RAMに記憶されても不揮発性メモリに記憶されてもよい。例えば、温度検出装置1が常時温度の計測動作を行い、適宜通信部15により外部機器へ計測結果を送信するのであれば、温度データ142は、RAMに記憶されるだけであってもよく、スイッチ操作などにより動作のオンオフが切り替えられ、オフの間にも外部機器へ未送信のデータを保持する必要がある場合などには、温度データ142は、不揮発性メモリに記憶される。
【0017】
通信部15は、外部機器との間で無線通信を行う。無線通信規格は、例えば、BAN(Body Area Network)に準拠したUWB(Ultra Wide Band)などであってもよいし、ブルートゥース(登録商標)のLow Energy規格などであってもよいが、人体に対する悪影響が生じないように電波強度などが定められる。外部機器においてアプリケーションプログラムなどにより第1計測部11及び第2計測部12による計測データなどをリアルタイムで表示可能な場合には、通信部15は、計測結果を、CPU13の制御によりリアルタイムで外部機器へ送信してもよい。
【0018】
CPU13、記憶部14及び通信部15は、これらの動作に伴う発熱が第1計測部11及び第2計測部12のそれぞれの計測温度に影響しない必要がある。例えば、温度検出装置1は、本体部10bのCPU13、記憶部14及び通信部15が位置する部分と、第1計測部11及び第2計測部12が位置する部分との間に断熱層を有していてもよい。この断熱層は、生体の耳付近からの放熱を妨げない程度のサイズ、位置、向きであってよい。一方で、本体部10bが大きいと、装着感の低下、特に、睡眠の妨げなどを生じ得るので、小型(薄型)形状であってもよい。
【0019】
温度検出装置1は、上記の他にバッテリを内蔵可能であり、当該バッテリからの電力供給を受けて各部が動作する。バッテリは、乾電池などであってよく、適宜着脱交換が可能であってよい。あるいは、バッテリは、繰り返し充電可能な二次電池であってもよい。
【0020】
また、温度検出装置1は、図示略のスイッチを有し、スイッチがオンされている間だけ温度の計測動作を行ってもよいし、スイッチを有さずに常に温度の計測動作が継続されてもよい。あるいは、温度検出装置1は、接触センサなどを有し、自装置が耳に挿入されているか否かの判別結果に基づいて、温度の計測有無や計測間隔を変更してもよい。また、温度の計測開始から計測終了までの継続時間や、温度計測が行われる時間帯(開始時刻及び終了時刻)が設定されて、自動的に計測終了(開始)されてもよい。この場合には、温度検出装置1は、現在日時を計数し、当該現在日時に基づいて温度の計測開始タイミング及び/又は計測終了タイミングを定めればよい。
【0021】
また、温度検出装置1は、表示部を有していてもよい。表示部は、計測した温度を表示したり、上記の現在日時、継続時間や時間帯を表示したりすることのできるものであればよい。
【0022】
次に、本実施形態の温度検出方法である深部温度の推定方法について説明する。
本実施形態の温度検出装置1では、適宜な時間間隔でCPU13が第1部位の第1の温度及び第2部位の第2の温度をそれぞれ第1計測部11及び第2計測部12から取得する。これらの計測温度のデータを蓄積した後、後述の条件を満たすものを抽出して、当該条件に応じて深部温度の推定に必要なパラメータを求める。このパラメータが求められると、当該パラメータと第1部位の温度及び第2部位の温度とに基づいて、深部温度が算出推定可能となる。
【0023】
図2は、深部温度の推定方法について説明する図である。
図2(a)に示すように、温度検出装置1では、熱抵抗を有する熱回路で表される(容量成分を考慮しない;準静的な)熱モデルにより体内の熱源(深部温度の計測部位Pb)、第1部位P1、第2部位P2、及び外部環境の間での体表面に垂直な方向についての熱流を考慮する。ここでは、耳Eに挿入された挿入部10aから離隔した鼓膜Edが第1部位P1とされて、挿入部10aの長さに比して第1部位P1と第2部位P2との距離が大きく定められている。
【0024】
各部位間の各時刻tでの熱流i(t)は、熱抵抗Rと各部位間の当該時刻tでの温度差dT(t)で定まる。すなわち、計測部位Pb(深部温度Tb(t))と第1部位P1(温度T1(t))(を含む面)との間では、熱抵抗Rb(第1の熱抵抗)とすると、この部分での時刻tにおける外向きの熱流ib(t)と温度T1(t)、深部温度Tb(t)との関係は、式(1)で与えられる。
ib(t)=(Tb(t)-T1(t))/Rb … (1)
また、第1部位P1(を含む面)と第2部位P2(温度T2(t))(を含む面)との間では、熱抵抗Rs(第2の熱抵抗)とすると、この部分での時刻tにおける外向きの熱流is(t)と温度T1(t)、T2(t)との関係は、式(2)で与えられる。
is(t)=(T1(t)-T2(t))/Rs … (2)
この熱モデルでは、熱源の熱は熱吸収体、ここでは外気まで収支なしに流れるので、ib(t)=is(t)が成り立つ。したがって、深部温度Tb(t)は、熱抵抗Rs、Rbをパラメータとして、温度T1(t)、T2(t)が計測されることで特定され得る。しかしながら、本実施形態の温度検出装置1では、熱抵抗Rs、Rbとも未知のパラメータである。
【0025】
熱流の収支の式(1)、(2)を整理すると、以下の式(3)が得られる。
Tb(t)=(Rb/Rs)×(T1(t)-T2(t))+T1(t) … (3)
したがって、熱抵抗Rs、Rbをそれぞれ特定せずとも、熱抵抗Rs、Rbの関係を示す単一の熱抵抗パラメータとして熱抵抗比a=Rb/Rsが得られれば、当該熱抵抗比aと、計測された温度T1(t)、T2(t)とにより深部温度Tb(t)が算出される。
【0026】
ここで、上記の式(3)において、推定対象である深部温度Tb(t)を計測、特定するのは容易ではない。また、熱抵抗Rb、Rsも計測対象者やその温度検出装置1の装着状態などに応じて変化し得るパラメータであり、予め一律に定めておくことができない。そこで、式(3)の時間変化を取ると、式(4)、(5)となる。
dTb(t)=a×dTdf(t)+dT1(t) … (4)
dTdf(t)=dT1(t)-dT2(t) … (5)
この式(4)、(5)において、深部温度Tb(t)の特定の温度変化量dTb(t)が満たされる条件での温度差の変化量dTdf(t)、すなわち、温度T1(t)の変化量dT1(t)(第1変化量)及び温度T2(t)の変化量dT2(t)(第2変化量)が得られれば、熱抵抗比aが得られる。
【0027】
深部温度Tb(t)の温度変化量dTb(t)は、しばしばゼロ(熱源の温度のある変化状態)となり得る。特に睡眠時などには、深部温度Tb(t)の大きな変化が抑制され、日変化周期内での緩やかな増減が主な変化となり、短い時間間隔では、しばしば温度変化量dTb(t)がゼロとなる。このときでも、深部温度Tb(t)と環境温度Te(t)とは、通常の場合は異なるので、両者の間で熱流i(t)が生じており、環境温度Te(t)の変化に応じて温度T1(t)及び温度T2(t)が変化する。環境温度Te(t)は、睡眠時には、周囲の温度(室温)だけではなく、布団や枕と耳との位置関係などにも影響を受けて変化する。
【0028】
図2(b)に示すように、このような環境温度Te(t)の変化がある前提では、本実施形態の熱モデルにおいて深部温度Tb(t)の温度変化量dTb(t)がゼロである場合には、計測される温度T1(t)、T2(t)の変化量dT1(t)、dT2(t)には、いくつかの制約が生じる。すなわち、深部温度Tb(t)に対して環境温度Te(t)が変化することで:
(条件A)これら熱源と外部環境との中間で計測される温度T1(t)、T2(t)にも変化が生じる(変化量dT1(t)、dT2(t)の絶対値は、ある第1閾値以上;第1の条件)。
(条件B)この場合における温度T1(t)、T2(t)の変化は、環境温度Te(t)の変化とそれぞれ同一の変化方向(変化量dT1(t)、dT2(t)が同一符号)となる。そして、その変化量は、各区間の熱抵抗の比によって定まり、環境温度Te(t)の変動の影響を受けやすい外側で計測される温度T2(t)の変化量dT2(t)の絶対値の方が、内側で計測される温度T1(t)の変化量dT1(t)の絶対値よりも大きくなる(第2の条件)。
【0029】
これらの条件A、B(上記変化状態に応じたある条件)は、温度変化量dTb(t)がゼロであるための十分条件ではないが、環境温度Te(t)の温度が変化したという前提において、温度変化量dTb(t)が環境温度Te(t)の変化に比して小さく、かつ熱モデルの仮定が崩れていない(すなわち、計測部位Pbと外部環境の間に熱容量や他の熱源などが生じていない)ための必要条件となる。これらの条件A、Bを予め定めておき、各温度データの組が当該条件A、Bを満たす(条件A、Bが成立している)か否かを判定して、当該条件A、Bを満たす複数組の温度の変化量dT1(t)、dT2(t)を抽出する。そして、抽出された変化量dT1(t)、dT2(t)を用いて、dTb(t)=0に対して尤もらしいパラメータ(熱抵抗比a)を統計的に求める(推定する)ことで、深部温度Tb(t)が算出、推定可能となる。
なお、条件に係る第1閾値は、変化量dT1(t)、dT2(t)が計測可能な程度の範囲で適宜に定められてよい。
【0030】
具体的には、抽出されたN組の温度変化データの各成分(変化量dT1(t)、変化量dT2(t))をそれぞれ配列したN次元ベクトル、v(dT1(ts))、v(dT2(ts))と、深部温度Tb(t)の温度変化量dTb(t)のN次元ベクトルv(dTb(ts))とは(ここで、vはベクトルを意味する)、式(4)から、以下の式(6)で表される。
v(dTb(ts))=a×v(dTdf(ts))+v(dT1(ts)) … (6)
このv(dTb(ts))の大きさ|v(dTb(ts))|が極小値を取る熱抵抗比a、すなわち、式(6)の右辺各成分の二乗和のaによる偏微分が0となる場合の熱抵抗比aが当該熱抵抗比aの尤もらしい値となる。式演算の結果は、次の式(7)で表される。
a=-v(T1(ts))・v(dTdf(ts))/|v(dTdf(ts))| … (7)
ここで、この式(7)における「・」は、前後のベクトルの内積である。
【0031】
抽出された変化量dT1(ts)、dT2(ts)は、単純に時間的に隣り合う計測結果間での差分値であってもよいが、一般的にノイズや計測精度(デジタル変換値の分解能)上の細かいばらつきや変動が多いので、温度T1(t)、T2(t)の時間変化が平滑化されてもよい。平滑化としては、対象時刻に対してある期間内の計測結果の移動平均(重み付き平均でもよい)の差分であってもよいし、ある期間内の複数の計測データを周波数フィルタリングして計測上ノイズとして生じやすい周波数成分を落として、時間変化を平滑化してから、その平滑化された各時間データの差分値などが取得されてもよい。また、ある期間内の局所的な変動を多項式近似して、当該多項式近似を用いたSavitzky-Gоlayの微分フィルタの出力に基づいて上記変化量dT1(t)、dT2(t)などを定めてもよい。また、環境温度Te(t)の変化直後は、温度分布や熱流も熱モデルから外れた動的な状態となるので、このような動的な変動が落ち着く程度の時間間隔での温度変化が反映されるような周波数特性で平滑化されるのがよい。
【0032】
上記のように、本実施形態の温度検出装置1では、パラメータである熱抵抗比aを複数の計測データが得られてから行う。特に、統計的には、熱抵抗比aが変化しない範囲で抽出される計測データの組の数が多いほど精度が上昇するので、得られた熱抵抗比aを用いた深部温度Tb(t)の推定は、リアルタイムではなく、ある程度の計測時間でまとまったデータが得られてから行われる。例えば、睡眠時間中に継続して計測データを取得し、他のセンサの計測データ又は時刻情報などに基づいて計測を終了した後にまとめて熱抵抗比a及び各時刻の深部温度Tb(t)の推定が行われてもよい。
【0033】
図3は、本実施形態の温度検出装置1で実行される深部温度推定処理のCPU13による制御手順を示すフローチャートである。
この深部温度推定処理は、例えば、温度検出装置1の動作が開始されてから定められた時間が経過するまで継続的に計測が行われる場合に、当該動作の開始時にプログラム141が不揮発性メモリなどからCPU13により読み込まれて開始される。
【0034】
深部温度推定処理が開始されると、CPU13は、第1計測部11及び第2計測部12の起動、記憶領域の設定などの初期設定を行い、第1計測部11及び第2計測部12による温度計測を開始する(ステップS101)。第1計測部11の計測タイミングと第2計測部12の計測タイミングは同時であってもよいが、第1部位P1と第2部位P2との間の熱伝導に比して短いタイムスケールで多少のずれがあってもよい。また、同時に計測された場合でも、計測データのCPU13への送信タイミングが互いにずらされていてもよい。
【0035】
CPU13は、計測された温度が準静的な状態であるか否かを判別する(ステップS102)。準静的ではない状態としては、ここでは、まず、温度検出装置1の耳への装着当初に第2部位P2の温度と温度検出装置1自体の温度に大きな差がある場合に生じる熱流による温度T2(t)の急激な変化などが想定される。例えば、CPU13は、計測開始後、温度が想定される体温程度(36-40℃)へ速やかに上昇し、温度変化が基準値以下になる、又は温度が極大値を取るまでは、準静的ではないと判別してもよい。なお、温度取得が開始された後、取得が継続中であっても、急激な温度変化などが生じた場合には、動的な熱流状態(温度分布)となり得るが、これらも深部温度推定処理内で判別されてもよいし、後の解析時などに別途処理されることとしてデータ取得時には判別せずに全て取得されてもよい。
【0036】
計測温度が準静的であると判別された場合には(ステップS102で“YES”)、CPU13は、第1計測部11及び第2計測部12からそれぞれ計測データを取得して記憶部14に記憶させる(ステップS103)。記憶データは計測日時が特定可能に保持される。すなわち、記憶部14では、計測日時と計測温度が各々対応付けられていてもよいし、記憶開始日時と計測間隔のみが初期情報として定められて、以降は計測温度のみが順番に記憶されてもよい。この場合、準静的なデータの取得開始後に計測エラーが生じた場合には、計測データがスキップされるのではなく、エラーを示すデータが記憶保持される。CPU13は、また、記憶部14に記憶させた計測データを通信部15により外部機器に送信させてもよい。それから、CPU13の処理は、ステップS104へ移行する。計測温度が準静的ではないと判別された場合には(ステップS102で“NO”)、CPU13の処理は、ステップS104へ移行する。
【0037】
ステップS104の処理へ移行すると、CPU13は、計測が終了(計測時間や計測時間帯の終了他、スイッチの手動オフや温度検出装置1が耳から外れた場合なども含み得る)したか否かを判別する(ステップS104)。計測が終了していないと判別された場合には(ステップS104で“NO”)、CPU13の処理は、ステップS102へ戻る。
【0038】
計測が終了したと判別された場合には(ステップS104で“YES”)、CPU13は、記憶された計測温度の配列中から外れ値のデータを除外する(ステップS105)。外れ値は、例えば、ある期間内の複数の計測温度の標準偏差を利用して基準となる偏差よりも大きいずれ量の計測温度を検出してもよいし、中央絶対偏差(Hampel識別子など)が利用されて基準よりも大きいずれ量の計測温度を検出してもよい。上記のエラーデータも外れ値に含まれてよい。検出された外れ値の計測値は、前後のデータ(前後1データずつでなくてもよい)の補間値や近傍中央値などで置き換えられればよい。
【0039】
CPU13は、計測データの配列から、温度T1(t)の変化量dT1(t)及び温度T2(t)の変化量dT2(t)をそれぞれ計算する(ステップS106)。CPU13は、得られた時間変化のデータの組の各々について、それぞれ上記の条件A及び条件Bを満たすか否かを判別し、条件A及び条件Bを満たす変化量の組のデータ(dT1(ts)、dT2(ts))(まとめて推定用温度データ)を抽出する(ステップS107;取得手段、取得ステップ)。CPU13は、抽出したデータから式(6)により、熱抵抗比aを算出、推定する(ステップS108;パラメータ推定手段、パラメータ推定ステップ)。
【0040】
CPU13は、得られた熱抵抗比aを用いて、式(3)により、温度T1(t)、T2(t)の各組の計測タイミングにおける深部温度Tb(t)の推定値を算出する(ステップS109;温度推定手段、温度推定ステップ)。そして、CPU13は、深部温度推定処理を終了する。
なお、CPU13は、処理の終了前に通信部15を介して外部機器へ温度T1(t)、T2(t)及び深部温度Tb(t)の組の履歴データを送信出力してもよいし、手動操作などで通信命令があった場合にのみ履歴データが送信出力されてもよい。
【0041】
このように、検出され、取得された温度T1(t)、T2(t)の履歴データにより単一のパラメータである熱抵抗比aを統計的に求め、この熱抵抗比aにより温度T1(t)、T2(t)の組に対応する深部温度Tb(t)も求められる。
【0042】
[変形例]
本実施形態の深部温度推定処理の変形例1として、上記にかかわらず、計測時間の途中であっても、ある基準時間以上の計測データが得られた段階で熱抵抗比aの推定と、これまでに温度T1(t)、T2(t)が取得された各時刻での深部温度Tb(t)の推定とがまとめて行われ、以降はリアルタイムで温度T1(t)、T2(t)とともに深部温度Tb(t)が推定されてもよい。
【0043】
図4は、深部温度推定処理の変形例1を示すフローチャートである。
この変形例1の深部温度推定処理は、深部温度の推定を可能な範囲でリアルタイムで実行する。したがって、この深部温度推定処理は、リアルタイムで計測結果が外部機器に出力されて表示されるような場合に好ましく用いられる。
【0044】
この変形例の深部温度推定処理は、図3に示した実施形態の深部温度推定処理に対してステップS111~S114が追加されている。その他の処理は同一であり、同一の処理内容には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0045】
ステップS103の処理で、計測データを記憶部14に記憶させると、CPU13は、基準組数の計測データが記憶部14に記憶されているか否かを判別する(ステップS111)。基準組数のデータが記憶されていないと判別された場合には(ステップS111で“NO”)、CPU13の処理は、ステップS104へ移行する。
【0046】
基準組数(以上)の計測データが記憶部14に記憶されていると判別された場合には(ステップS111で“YES”)、CPU13は、熱抵抗比aが算出済であるか否かを判別する(ステップS112)。熱抵抗比aが算出済ではないと判別された場合には(ステップS112で“NO”)、CPU13の処理は、ステップS105へ移行する。熱抵抗比aが算出済であると判別された場合には(ステップS112で“YES”)、CPU13は、当該熱抵抗比aと直近のステップS103の処理で記憶させた計測データとにより深部温度Tb(t)の推定値を算出する(ステップS113)。上記のように、CPU13は、深部温度Tb(t)の推定値を通信部15により外部機器へ送信してもよい。それから、CPU13の処理は、ステップS114へ移行する。
【0047】
ステップS105~S109の処理が実行された後にも、CPU13の処理は、ステップS114へ移行する。
【0048】
ステップS114の処理へ移行すると、CPU13は、再度計測(計測時間、計測時間帯)が終了したか否かを判別する(ステップS114)。計測が終了していないと判別された場合には(ステップS114で“NO”)、CPU13の処理は、ステップS102へ戻る。計測が終了したと判別された場合には(ステップS114で“YES”)、CPU13は、深部温度推定処理を終了する。
【0049】
また、本実施形態の深部温度推定処理の変形例2として、抽出された温度の変化量dT1(ts)、dT2(ts)の全体から尤もらしい熱抵抗比aを算出する代わりに、個々の温度の変化量dT1(t)、dT2(t)からそれぞれ熱抵抗比a(t)を算出し、得られた複数(抽出した温度の変化量の組の数)の熱抵抗比a(t)の代表値を熱抵抗比aとして特定してもよい。
【0050】
この場合、熱抵抗比aの代表値として、例えば、平均値や中央値を熱抵抗比aとしてもよい。
【0051】
あるいは、本実施形態の深部温度推定処理の変形例3として、上記実施形態の統計的な算出方法に対して、上記変形例2の個別算出の結果を利用してもよい。例えば、一度、条件A、Bを満たす組の温度の変化量dT1(t)、dT2(t)(複数の組の各々に係る推定用温度データ)により個別に熱抵抗比a(t)を算出して、外れ値であるa(t)が算出された温度の変化量dT1(t)、dT2(t)の組を除外した変化量のベクトルv(dT1(tsm))、v(dT2(tsm))によって、統計的に尤もらしい熱抵抗比aを求めてもよい。外れ値の判別は、例えば、標準偏差やHampel識別子などが利用されればよい。
【0052】
図5は、変形例3の深部温度推定処理の制御手順を示すフローチャートである。
この変形例3の深部温度推定処理は、上記実施形態の深部温度推定処理(図3)に対してステップS121、S122が追加されている点のみが異なる。その他の処理は、上記実施形態の深部温度推定処理における処理内容と同一であって、同一の符号を用いて示し、詳しい説明を省略する。
【0053】
ステップS107の処理で、深部温度変化に係る条件A、Bを満たすデータを抽出すると(ステップS107)、CPU13は、各温度dT1(t)、dT2(t)の組でdTb(t)=0として、熱抵抗比a(t)を算出する(ステップS121)。CPU13は、得られた熱抵抗比a(t)の外れ値を特定し、特定された外れ値の熱抵抗比a(t)が算出された温度dT1(t)、dT2(t)の組をステップS107で抽出されたデータから除外する(ステップS122)。それから、CPU13の処理は、ステップS108へ移行する。
【0054】
図6は、温度検出装置1の変形例を示す図である。
図6(a)に示すように、変形例4の温度検出装置1aの第1計測部11aは、第2計測部12と同じ接触型温度計であって、耳の壁面に接して温度を計測するものであってもよい。第1計測部11aと第2計測部12の計測位置が耳の穴の深さ方向について近すぎると計測精度が低下するので、挿入部10aは、適宜な長さとされる。また、挿入部10aは、先端付近の第1計測部11aが耳の壁面に接触しやすいような太さを有する形状であってもよい。
【0055】
あるいは、図6(b)に示すように、変形例5の温度検出装置1bは、必ずしも耳に挿入されて温度を計測するものではなくてもよい。ここでは、体表面K(例えば、額など)に張り付けられる薄型の構造体10cの内部又は表面に第1計測部11b、第2計測部12b、CPU13、記憶部14及び通信部15が位置している。第1計測部11bの計測部位(第1部位)は、体表面Kに接して又は至近距離に位置し、第2計測部12bの計測部位(第2部位)は、第1計測部11bの計測部位(第1部位)よりも体表面K(すなわち、深部温度の計測部位)から離隔して位置している。
【0056】
このような温度検出装置1bであっても、外部環境、体温や汗などの影響によって変化し得る構造体10cの熱抵抗Rsを特定せずに、体内の熱抵抗Rbとの熱抵抗比aを算出特定するだけで、深部温度を推定することが可能になる。
【0057】
以上のように、本実施形態の温度検出装置1は、熱源を有する対象である生体のある第1部位P1の温度T1(t)を検出する第1計測部11と、第1部位P1よりも熱源から離れた第2部位P2の温度T2(t)を検出する第2計測部12と、CPU13と、を備える。CPU13は、予め定められた、熱源の温度のある変化状態、ここではdTb(t)=0に応じたある条件A、B(ここでいうある条件は、単一の条件に限定されることを意味しない)満たした状態において取得された温度T1(t)及び温度T2(t)(ステップS107)に基づいて、熱源、第1部位P1及び第2部位P2を含み、熱源と第1部位P1との間の温度(Tb(t)、T1(t))及び熱流(ib(t))の関係が熱抵抗Rbにより表され、かつ第1部位P1と第2部位P2との間の温度(T1(t)、T2(t))及び熱流(is(t))の関係が熱抵抗Rsにより表される(容量成分を含まない)熱モデルにおける熱抵抗Rbと熱抵抗Rsとの関係(比)を表す熱抵抗パラメータ(熱抵抗比a)を推定し(ステップS108)、推定された熱抵抗パラメータ、温度T1(t)及び温度T2(t)に基づいて、熱源の温度を対象(生体)の深部温度Tb(t)として推定する(ステップS109)。
このように、熱抵抗Rs、Rbをいずれも特定せず、単一のパラメータとしての熱抵抗比aを、ある条件が成立する計測データに基づいて推定することで、2点の温度計測から深部温度Tb(t)を推定することが可能になるので、計測点数を増やす必要がなく、より容易に深部温度Tb(t)が得られる。また、計測期間ごとなど、適宜熱抵抗比aを推定して更新していくことで、熱抵抗Rs、Rbの計測状況に応じた変化にまとめて容易に対応することができるので、計測状況の変化に対して対応してより正確な深部温度Tb(t)を推定しやすい。
【0058】
また、上記のある条件には、検出された温度T1(t)の変化量dT1(t)の絶対値がある第1閾値以上である条件Aと、検出された温度T2(t)の変化量dT2(t)が変化量dT1(t)と同一符号であって、かつ変化量dT2(t)の絶対値が変化量dT1(t)の絶対値よりも大きい条件Bとが含まれる。すなわち、本実施形態の熱容量などを考慮せずに熱抵抗のみで熱回路を表す熱モデルでは、深部温度Tb(t)の温度変化量dTb(t)がゼロの間に、環境温度Te(t)が変化すると、その変化に対する影響は、第1部位P1、第2部位P2の両方に同じ傾向として伝わり、かつより外部環境に近い第2部位P2の温度T2(t)に対する影響の方が大きくなる。このように、温度変化量dTb(t)=0、環境温度Te(t)の変化が非ゼロの場合に生じる温度条件を満たす計測データを用いて未知のパラメータである熱抵抗比aを求めることで、深部温度Tb(t)の計測が直接行われなくても、ある程度の精度で熱抵抗比aを推定することができる。
【0059】
また、熱源の温度のある変化状態は、当該熱源の温度の時間変化がない状態(dTb(t)=0)であってよい。この条件に対して、上記の条件A、Bを必要条件として定めて計測データを抽出することで、熱抵抗比aを唯一の未知数として容易にこれを算出することが可能となる。
【0060】
特に、CPU13は、複数の温度T1(t)及び温度T2(t)の組に係る推定用温度データ(温度の変化量dT1(t)及びdT2(t))を取得し、当該推定用温度データに基づいて、尤もらしい熱抵抗比aを推定することができる(ステップS108)。上記のように、温度T1(t)、T2(t)の組の抽出条件は、dTb(t)=0に対する十分条件ではないので、温度変化量dTb(t)が多少ゼロからずれたデータも混入することになる。このような不完全なデータの組であっても、複数まとめて統計的に処理することで、もっともらしい熱抵抗比aの値の精度を適切に向上させて、深部温度Tb(t)を精度よく推定することが可能となる。
【0061】
あるいは、CPU13は、推定用温度データ、すなわち、条件A、Bを満たす複数の組の温度の変化量dT1(t)、dT2(t)のそれぞれについて、熱抵抗比a(t)を推定し(ステップS121)、得られた複数の熱抵抗比a(t)のうち、予め定められた基準を満たさずに外れ値とされた熱抵抗比a(t)が推定された変化量dT1(t)、dT2(t)の組を除いた(ステップS122)上記推定用温度データに基づいて、尤もらしい熱抵抗比aを推定する(ステップS108)。
このように、条件A、Bを満たしているものの、他の変化量dT1(t)、dT2(t)の組とは大きく異なる熱抵抗比a(t)が推定された変化量dT1(t)、dT2(t)の組を除外してから改めて統計的に尤もらしい熱抵抗比aを推定することで、より正確に熱抵抗比aを求めることが可能になる。その結果、温度検出装置1bでは、深部温度Tb(t)をより精度よく推定することができる。
【0062】
また、熱抵抗パラメータは、熱抵抗Rbと熱抵抗Rsとの比、すなわち、熱抵抗比aである。上記の式(3)のとおり、熱抵抗比aが熱抵抗Rbと熱抵抗Rsとの関係を示す最適なパラメータであり、式(7)のように熱抵抗比aを求めることで、容易に深部温度Tb(t)の推定計算を行うことが可能になる。
【0063】
また、本実施形態の温度検出方法は、熱源を有する対象(生体)のある第1部位P1の温度T1(t)を検出する第1計測部11と、第1部位P1よりも熱源から離れた第2部位P2の温度T2(t)を検出する第2計測部12と、による温度検出方法であって、予め定められた、熱源の温度(深部温度Tb(t))のある変化状態(dTb(t)=0)に応じたある条件A、Bを満たした状態において取得された温度T1(t)及び温度T2(t)(ステップS107)に基づいて、熱源、第1部位P1及び前記第2部位をP2含み、上記熱源の位置(計測部位Pb)と第1部位P1との間の熱流が熱抵抗Rbにより表され、第1部位P1と第2部位P2との間の熱流が熱抵抗Rsによって表される(容量成分を含まない)熱モデルにおける熱抵抗Rbと熱抵抗Rsとの関係を表す熱抵抗パラメータ(熱抵抗比a)を推定し(ステップS108)、推定された熱抵抗パラメータ、温度T1(t)及び温度T2(t)に基づいて、熱源の温度を対象の深部温度Tb(t)として推定する(ステップS109)。
このように、本実施形態の温度検出方法では、熱抵抗Rs、Rbを特定せずに、2点の温度計測のみで、計測期間ごとに適切にこれら熱抵抗Rs、Rbの関連を示すパラメータを得て、深部温度Tb(t)を推定することができる。したがって、この温度検出方法では、直接計測のできない深部温度Tb(t)をより安定して得ることができる。
【0064】
また、本実施形態のプログラム141を、第1計測部11及び第2計測部12からデータを受信(取得)可能なコンピュータにインストールし、上記の温度検出方法に係る各処理を実行させることで、特殊なハードウェアを用いずにより容易に安定して、2点の計測温度から深部温度Tb(t)を推定することができる。
【0065】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、深部温度Tb(t)の温度変化量dTb(t)がゼロになる必要条件として条件A、Bの2つを例示したが、これに加えて又は代えて他の必要条件が追加されてもよい。継続した温度計測中に熱抵抗比aを推定するのに十分な計測データの組を抽出可能な範囲で、温度変化量dTb(t)がより確実にゼロ程度となるように条件を定めてもよい。また、単なる必要条件ではなく、必要十分条件となるように条件設定がなされてもよい。また、温度検出装置1以外の生体計測装置による計測結果が得られる場合、例えば、脈拍(心拍)計測を行っている場合には、dTb(t)=0である条件に、上記条件A、Bとは独立して、更に脈拍が所定の基準値よりも小さい(ノンレム睡眠中など)などの条件を追加してもよい。
【0066】
一方で、温度変化量dTb(t)がより確実にゼロ程度となるのであれば、熱抵抗比aの推定に用いる計測データの組の数を減少(最低1組)させてもよい。
【0067】
また、上記実施の形態では、dTb(t)=0の状態を満たすような必要条件を定めたが、その他の状態を満たすような必要条件が用いられても、原理的に熱抵抗比a及び深部温度Tb(t)の推定に係る上記手法が適用可能である。
【0068】
また、上記実施の形態では、計測データを逐次取得した後、まとめて条件A、Bを満たすか否かを判別して、これらの条件A、Bを満たすものにより熱抵抗比aを推定することとしたが、これに限られない。計測データの取得時に各々条件A、Bを満たすか否かを判定してフラグなどを設定しておき、必要なデータが得られた段階で当該フラグに基づいて熱抵抗比aを推定するのに用いられるデータを抽出、利用してもよい。
【0069】
また、求められる単一パラメータとして熱抵抗比aについて説明したが、熱抵抗Rs、Rbの関係が特定されるパラメータであれば、これに限られなくてもよい。
【0070】
また、上記実施の形態では、熱抵抗比a及び深部温度Tb(t)の推定を温度検出装置1内で全て行うものとして説明したが、これに限られない。温度T1(t)、T2(t)の計測データを外部機器に転送した後に、当該外部機器などで熱抵抗比a及び深部温度Tb(t)を推定してもよい。この場合、深部温度Tb(t)は、外部機器で確認可能であってもよいし、通信部15を介して再度温度検出装置1に戻されて、当該温度検出装置1で確認可能とされてもよい。
【0071】
また、以上の説明では、本発明の深部温度推定処理の制御に係るプログラム141を記憶するコンピュータ読み取り可能な媒体としてフラッシュメモリなどの不揮発性メモリなどからなる記憶部14を例に挙げて説明したが、これらに限定されない。その他のコンピュータ読み取り可能な媒体として、MRAMなどの他の不揮発性メモリ、HDD(Hard Disk Drive)や、CD-ROM、DVDディスクなどの可搬型記憶媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウェーブ(搬送波)も本発明に適用される。
その他、上記実施の形態で示した具体的な構成、処理動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明の範囲は、上述の実施の形態に限定するものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲とその均等の範囲を含む。
以下に、この出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲に記載した発明を付記する。付記に記載した請求項の項番は、この出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の通りである。
【0073】
[付記]
<請求項1>
熱源を有する対象のある第1部位の第1の温度を検出する第1温度センサと、
前記第1部位よりも前記熱源から離れた第2部位の第2の温度を検出する第2温度センサと、
処理部と、を備え、
前記処理部は、
予め定められた、前記熱源の温度のある変化状態に応じたある条件を満たした状態において前記第1温度センサで検出された前記第1の温度、及び前記ある条件を満たした状態において前記第2温度センサで検出された前記第2の温度に係る推定用温度データを取得し、
取得された前記推定用温度データに基づいて、前記熱源、前記第1部位及び前記第2部位を含み、前記熱源と前記第1部位との間の温度及び熱流の関係が第1の熱抵抗により表され、かつ前記第1部位と前記第2部位との間の温度及び熱流の関係が第2の熱抵抗により表される熱モデルにおける前記第1の熱抵抗と前記第2の熱抵抗との関係を表す熱抵抗パラメータを推定し、
推定された前記熱抵抗パラメータ、検出された前記第1の温度及び前記第2の温度に基づいて、前記熱源の温度を前記対象の深部温度として推定する
温度検出装置。
<請求項2>
前記ある条件には、検出された前記第1の温度の第1変化量の絶対値がある第1閾値以上である第1の条件と、検出された前記第2の温度の第2変化量が前記第1変化量と同一符号であって、かつ当該第2変化量の絶対値が前記第1変化量の絶対値よりも大きい第2の条件とが含まれる請求項1記載の温度検出装置。
<請求項3>
前記熱源の温度のある変化状態は、当該熱源の温度の時間変化がない状態である請求項2記載の温度検出装置。
<請求項4>
前記処理部は、
複数の組の前記第1の温度及び前記第2の温度に係る前記推定用温度データを取得し、
当該推定用温度データに基づいて、尤もらしい前記熱抵抗パラメータを推定する
請求項1又は2記載の温度検出装置。
<請求項5>
前記処理部は、
前記複数の組の各々に係る前記推定用温度データに基づいて、それぞれ前記熱抵抗パラメータを推定し、
推定された複数の前記熱抵抗パラメータのうち予め定められた基準を満たさない値が推定された前記組を除外した前記複数の組に係る前記推定用温度データに基づいて、尤もらしい前記熱抵抗パラメータを推定する
請求項4記載の温度検出装置。
<請求項6>
前記熱抵抗パラメータは、前記第1の熱抵抗と前記第2の熱抵抗との比である請求項1~5のいずれか一項に記載の温度検出装置。
<請求項7>
熱源を有する対象のある第1部位の第1の温度を検出する第1温度センサと、前記第1部位よりも前記熱源から離れた第2部位の第2の温度を検出する第2温度センサと、を用いた温度検出方法であって、
予め定められた、前記熱源の温度のある変化状態に応じたある条件を満たした状態において前記第1温度センサで検出された前記第1の温度、及び前記ある条件を満たした状態において前記第2温度センサで検出された前記第2の温度に係る推定用温度データを取得し、
取得された前記推定用温度データに基づいて、前記熱源、前記第1部位及び前記第2部位を含み、前記熱源と前記第1部位との間の熱流が第1の熱抵抗により表され、かつ前記第1部位と前記第2部位との間の熱流が第2の熱抵抗により表される熱モデルにおける前記第1の熱抵抗と前記第2の熱抵抗との関係を表す熱抵抗パラメータを推定し、
推定された前記熱抵抗パラメータ、検出された前記第1の温度及び前記第2の温度に基づいて、前記熱源の温度を前記対象の深部温度として推定する
温度検出方法。
<請求項8>
熱源を有する対象のある第1部位の第1の温度を検出する第1温度センサと、前記第1部位よりも前記熱源から離れた第2部位の第2の温度を検出する第2温度センサと、から計測結果を取得するコンピュータを、
予め定められた、前記熱源の温度のある変化状態に応じたある条件を満たした状態において前記第1温度センサで検出された前記第1の温度、及び前記ある条件を満たした状態において前記第2温度センサで検出された前記第2の温度に係る推定用温度データを取得する取得手段、
取得された前記推定用温度データに基づいて、前記熱源、前記第1部位及び前記第2部位を含み、前記熱源と前記第1部位との間の熱流が第1の熱抵抗により表され、かつ前記第1部位と前記第2部位との間の熱流が第2の熱抵抗により表される熱モデルにおける前記第1の熱抵抗と前記第2の熱抵抗との関係を表す熱抵抗パラメータを推定するパラメータ推定手段、
推定された前記熱抵抗パラメータ、検出された前記第1の温度及び前記第2の温度に基づいて、前記熱源の温度を前記対象の深部温度として推定する温度推定手段、
として機能させるプログラム。
【符号の説明】
【0074】
1、1a、1b 温度検出装置
10a 挿入部
10b 本体部
10c 構造体
13 CPU
14 記憶部
141 プログラム
142 温度データ
15 通信部
K 体表面
Pb 計測部位
ib、is 熱流
Rb、Rs 熱抵抗
a 熱抵抗比
T1、T2 温度
Tb 深部温度
a 熱抵抗比
図1
図2
図3
図4
図5
図6