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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】電子弦楽器
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/00 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
G10H1/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021199714
(22)【出願日】2021-12-09
(65)【公開番号】P2023085598
(43)【公開日】2023-06-21
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100182936
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】久野 俊也
【審査官】山下 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-160943(JP,A)
【文献】特開平9-106275(JP,A)
【文献】特開2002-287749(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0271594(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1本の直線状の弦部材と、
前記弦部材を長手方向の異なる位置で支持し、前記弦部材の撥弦によって変形する複数の弦支持部材と、
前記複数の弦支持部材のそれぞれの変形に応じた信号を出力する複数の検出手段と、
前記複数の検出手段が出力する信号に基づいて、楽音制御信号を生成する楽音制御信号生成手段と、
を備えたことを特徴とする電子弦楽器。
【請求項2】
前記複数の弦支持部材は、前記弦部材の長手方向の両端を支持する一対の弦支持部材であることを特徴とする請求項1に記載の電子弦楽器。
【請求項3】
前記複数の検出手段は、前記一対の弦支持部材にそれぞれに取り付けられて前記弦支持部材の変形を検出する一対のセンサであることを特徴とする請求項2に記載の電子弦楽器。
【請求項4】
前記複数の検出手段は、前記一対の弦支持部材のそれぞれの近傍に設けられて、前記一対の弦支持部材に設けた被検出部の位置変化を検出する一対のセンサであることを特徴とする請求項2に記載の電子弦楽器。
【請求項5】
前記楽音制御信号生成手段は、前記複数の検出手段がそれぞれ出力する信号の平均値に基づいて楽音制御信号を生成することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電子弦楽器。
【請求項6】
前記複数の検出手段がそれぞれ出力する信号に基づいて、前記弦部材の長手方向における撥弦位置を推定する撥弦位置推定手段を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電子弦楽器。
【請求項7】
前記楽音制御信号生成手段は、前記撥弦位置推定手段により推定された撥弦位置に基づいて、楽音の周波数特性を制御した楽音制御信号を生成することを特徴とする請求項6に記載の電子弦楽器。
【請求項8】
前記楽音制御信号生成手段は、前記撥弦位置推定手段により推定された撥弦位置に基づいて、音色を制御した楽音制御信号を生成することを特徴とする請求項6に記載の電子弦楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子弦楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子弦楽器は、弦、又は弦に相当する部材に対する操作(撥弦)を検出して、検出信号に基づいて楽音を電気的に発生させるものであり、様々な種類がある。まず、既存のアコースティック楽器の構造を踏襲しながら、弦の振動の検出のみをセンサ及び電子回路によって行うタイプがある。このタイプの電子弦楽器は、アコースティック楽器の構造を基本として、付加的に電子的検出手段を備えるため、構造が複雑になったり、コストが高くなったりしやすい。また、取得した弦の振動情報をアナログ-デジタル変換し、その上で発音処理を行うため、処理時間が長く、実際の撥弦動作から発音に至るまでのタイムラグが大きいという問題点がある。
【0003】
別のタイプの電子弦楽器として、アコースティック楽器の構造をそのまま踏襲せず、弦に代わる独自の操作手段とセンシング手段を備えたものがある。例えば、撥弦に相当する操作を行う部分を、可撓性を有する突起によって構成し、この突起を倒すことによって根元に設けた接点が接触して発音させる製品が知られている。このような製品を広義の電子弦楽器に含める場合もあるが、通常の弦楽器とは演奏の形態が異なるため、演奏者が違和感を覚えてしまい、アコースティック楽器の代替としては成立しにくい。
【0004】
特許文献1には、アコースティック楽器の弦を模した弦部材を備えたギター型の電子弦楽器が記載されている。特許文献1における弦部材は、支持構造や延設されている長さなどにおいてギターの弦とは異なるが、弦部材に対する撥弦位置や撥弦の方向はギターと似ているため、ギターの使用経験があるユーザーにとっては演奏時の違和感が少ない構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-251182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の電子弦楽器は、複数の弦部材のそれぞれの長手方向の一端側に板バネを接続し、撥弦に伴って板バネが撓む現象をセンサ(ピエゾセンサ)によって検出して、その検出信号に基づいて楽音レベルなどを設定している。
【0007】
ところで、線状の弦部材は、撥弦したときに全体が均等に変位するとは限らない。例えば、弦部材の長手方向の端部寄りを撥弦した場合に、撥弦位置に近い部分では大きく移動し、撥弦位置から遠い部分では移動が小さいという偏りが生じる可能性がある。特許文献1の電子弦楽器では、同じ強度で撥弦したとしても、前述のような弦部材の変位の偏りが生じた場合にはセンサの出力が変化する。そのため、撥弦の検出精度が不安定になったり、演奏内容に忠実な楽音制御が行われなかったりする可能性がある。
【0008】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、撥弦の検出精度と楽音制御性能に優れる電子弦楽器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の電子弦楽器は、少なくとも1本の直線状の弦部材と、弦部材を長手方向の異なる位置で支持し、前記弦部材の撥弦によって変形する複数の弦支持部材と、前記複数の弦支持部材のそれぞれの変形に応じた信号を出力する複数の検出手段と、前記複数の検出手段が出力する信号に基づいて、楽音制御信号を生成する楽音制御信号生成手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上の態様によれば、撥弦の検出精度と楽音制御性能に優れる電子弦楽器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】電子弦楽器のハードウェア構造を示した部である。
図2】電子弦楽器の弦操作部を示す斜視図である。
図3】弦部材の支持構造の第1実施形態を示す斜視図である。
図4】弦部材の支持構造の第1実施形態を示す斜視図である。
図5】両持ち構造の弦部材を撥弦したときの動作を示す図である。
図6】一箇所のみを支持した弦部材を撥弦したときの動作を示す図である。
図7】弦部材の支持構造の第2実施形態を示す斜視図である。
図8】弦部材の支持構造の第3実施形態を示す斜視図である。
図9】弦部材の支持構造の第4実施形態を示す斜視図である。
図10】弦部材の支持構造の第5実施形態を示す斜視図である。
図11】弦部材の支持構造の第6実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一態様である電子弦楽器10のハードウェア構造を示している。電子弦楽器10は、楽器本体と制御部20とによって構成されている。電子弦楽器10の楽器本体はギター型であり、胴体部11と棹部12を有している。胴体部11の正面(外面)には弦操作部13が設けられており、棹部12の正面(外面)には指板14が設けられている。棹部12の長手方向をX軸方向とする。電子弦楽器10の正面視(図1)で、X軸方向に対して垂直な方向をY軸方向とする。また、X軸方向及びY軸方向の両方に対して垂直な方向(図1の紙面に対して垂直な方向)をZ軸方向とする。
【0013】
弦操作部13は、複数本の弦部材15を備えている。電子弦楽器10は6弦ギターをモデルにしており、ギターの1弦から6弦に対応する6本の弦部材15を有している。6本の弦部材15は、Y軸方向に所定の間隔を空けて配されており、それぞれがX軸方向へ直線状に延びている。一般的なギターの弦とは異なり、それぞれの弦部材15はX軸方向で胴体部11の一部範囲にだけ配設されており、棹部12の領域まで弦部材15が延びていない。つまり、電子弦楽器10の演奏時には、指板14上で弦部材15に対する押弦操作は行われず、押弦を模した押し込み操作を指板14に対して行う。
【0014】
なお、弦部材15の数は6本に限定されるものではない。例えば、12弦ギターに対応する12本、4弦のベースに対応する4本など、モデルとする弦楽器に応じて、弦部材15の本数を適宜選択することができる。また、弦部材15の数が単数である場合にも適用可能である。つまり、本発明は、少なくとも1本の弦部材を備える電子弦楽器であれば適用できる。
【0015】
電子弦楽器10は、弦操作部13におけるそれぞれの弦部材15の動作を検出する弦動作検出手段16を備えている。図1では楽器本体の外側に弦動作検出手段16を模式的に記載しているが、弦動作検出手段16は弦操作部13に組み込まれている。弦動作検出手段16の詳細については後述するが、それぞれの弦部材15を撥弦したときに、撥弦の強さに応じた出力の検出信号を発生するものである。
【0016】
指板14上には、Y軸方向に延びる複数のフレット部17が、X軸方向に所定の間隔で形成されている。複数のフレット部17によって、棹部12がX軸方向で複数の領域に区画されている。ギターと同様に、複数のフレット部17は、X軸方向で胴体部11(弦操作部13)側に進むほど高音を示し、棹部12の先端側に進むほど低音を示し、段階的に音高を変化させる。なお、棹部12の領域まで弦部材15が延びておらず、演奏時に弦部材15を押弦してフレット部17に接触させることはないため、フレット部17は指板14上に突出する実体的な構造物ではなくてもよい。電子弦楽器10におけるフレット部17の機能は、演奏者に対する指板操作の目印である。
【0017】
電子弦楽器10は、指板14への操作を検出する指板操作検出手段18を備えている。図1では楽器本体の外側に指板操作検出手段18を模式的に記載しているが、指板操作検出手段18は棹部12に組み込まれている。具体的には、指板操作検出手段18は、指板14に対する押し込みを検出する複数のスイッチや、指板14への指の接触を検出するタッチセンサなどで構成され、指板14をX軸方向及びY軸方向で枡目状に区画した複数のエリアのうち、どのエリアに対して演奏者の押し込み操作が行われたかを検出することができる。つまり、いずれのフレット間の領域を操作したか(X軸方向の操作位置)、6本の弦部材15のうちどの延長上の領域を操作したか(Y軸方向の操作位置)が、指板操作検出手段18によって検出される。指板操作検出手段18は、検出された指板14上の操作位置情報を含む検出信号を出力する。
【0018】
胴体部11の外面には、ノブやレバーなどの形態の複数の設定操作部材19が設けられている。設定操作部材19の操作によって、電子弦楽器10における機能選択や演奏効果の調整などを行うことができる。
【0019】
電子弦楽器10を使用するユーザー(演奏者)は、片方の手で指板14上の任意の位置を押さえて(あるいは押さえずに開放弦として扱って)音高を選択し、他方の手で弦操作部13の弦部材15を撥弦して、ギターの演奏を模した演奏操作を行う。弦部材15と指板14に対する演奏操作が弦動作検出手段16と指板操作検出手段18によって検出され、弦動作検出手段16と指板操作検出手段18からの検出信号が制御部20へ送られる。また、設定操作部材19に対して操作を行った場合の操作信号も制御部20に入力される。
【0020】
制御部20は、電子弦楽器10を包括的に制御するものであり、少なくとも、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、プログラムが記憶された記憶部とを含んでいる。記憶部から読み出されたプログラムに従ってプロセッサが演算処理を行うことによって、電子弦楽器10に関する各種の制御を実行する。
【0021】
制御部20は、楽器本体とは別に設けた外部のコンピュータに搭載してもよいし、楽器本体内に搭載してもよい。外部のコンピュータに制御部20を搭載する場合は、楽器本体と外部コンピュータとを有線又は無線で通信可能に接続し、弦動作検出手段16や指板操作検出手段18からの検出信号を外部コンピュータに送信する。
【0022】
制御部20の機能ブロックとして、楽音制御手段21と楽音制御信号生成手段22が含まれている。楽音制御手段21は、電子弦楽器10の演奏によって発する楽音の制御を担っており、演奏の内容に基づいて、制御部20に記憶された音源データから楽音を生成して、楽音信号を発音システム25に送る。楽音制御信号生成手段22は、弦動作検出手段16と指板操作検出手段18から出力された検出信号に基づいて、楽音制御信号を生成する機能を有する。楽音制御手段21は、楽音制御信号生成手段22から取得した楽音制御信号に基づいて楽音の生成を制御する。
【0023】
より詳しくは、楽音制御信号生成手段22は、弦動作検出手段16から出力される検出信号に基づいて、各弦部材15の撥弦の有無、撥弦された弦部材15における撥弦の強度、撥弦された弦部材15における撥弦の方向などを判定する。
【0024】
また、楽音制御信号生成手段22は、指板操作検出手段18からの検出信号に基づいて、指板14に対する押し込み操作の有無と、押し込み操作の場所とを識別して、撥弦を行った弦部材15ごとに音高を特定する。指板14の押し込み操作があった場合は、押し込み操作位置に対して高音域側(X軸方向で弦操作部13寄り)に隣接するフレット部17に対応する音高に設定される。弦部材15の延長上で、指板14への押し込み操作が検出されなかった場合は、開放弦の音高(開放音)に設定する。また、1本の弦部材15の延長上で、指板14に対してX軸方向の複数箇所で同時に押し込み操作があった場合には、最も高音域側の押し込み位置を基準として音高を設定する。
【0025】
弦部材15の撥弦が行われた場合、楽音制御信号生成手段22は、弦動作検出手段16からの検出信号に基づいて判定した弦部材15の撥弦の強さ及び方向の情報と、指板操作検出手段18からの検出信号に基づいて判定した音高の情報とを含む楽音制御信号を生成する。
【0026】
楽音制御信号生成手段22で生成した楽音制御信号に含まれる撥弦の強弱や音高などの情報を参照して、楽音制御手段21が、発音システム25で処理可能な楽音信号を生成する。楽音制御手段21で生成された楽音信号は、発音システム25へ送信される。発音システム25は、アンプと音声出力部を備えており、楽音信号をアンプで増幅して音声出力部へ送る。音声出力部は、スピーカーやヘッドホン端子などで構成されており、スピーカーやヘッドホンから楽音を発する。
【0027】
以上のように、ギターの演奏に類似した形態で電子弦楽器10の演奏を行うと、電気的な処理によって、演奏内容を反映した楽音が発せられる。このような電子弦楽器10においては、演奏時の操作感が優れている(既存の弦楽器と比べたときに演奏の違和感が少ない)こと、演奏者の演奏(演奏技術)を的確に表現できることが望ましく、これらを満たすことで製品価値を向上させることができる。本態様の電子弦楽器10は、こうした要求を満たすものであり、以下に詳細を説明する。
【0028】
図2を参照して、弦操作部13の構成を説明する。弦操作部13は、胴体部11の前面に支持される基台30を有し、基台30上に6本の弦部材15を支持している。なお、基台30を介さずに、胴体部11の前面に弦部材15の支持構造を直接的に取り付ける構成を採用してもよい。
【0029】
基台30上には6つの台座部材31が固定されている。6つの台座部材31はそれぞれ、X軸方向に長手方向を向けた細長い部材であり、Y軸方向に所定の間隔を空けて配されている。それぞれの台座部材31のX軸方向の両端付近には、一対の弦支持部材32が取り付けられており、一対の弦支持部材32によって1本の弦部材15を支持している。
【0030】
弦支持部材32によって支持される各弦部材15の両端部分は、カバー33によって覆われている。図1はカバー33を取り付けた状態であり、図2はカバー33を取り外した状態である。図1に示すように、弦支持部材32は外観に表れずにカバー33により保護されており、6本の弦部材15のみが撥弦可能な状態で露出している。
【0031】
電子弦楽器10における6本の弦部材15は、太さ、断面形状、長さなどのスペックが同一である。それぞれの弦部材15は、長手方向に対して垂直な断面が略円形であり、長手方向に一様な断面形状を有する線状部材である。
【0032】
なお、弦部材15の形状や構造はこれに限定されない。弦部材15は、長手方向に対して垂直な断面形状が、楕円、長円、角型などであってもよい。また、弦部材15は、長手方向の全体で一様な断面形状ではなく、部分毎に断面形状が異なっていてもよい。また、弦部材15は、内部が中空構造であってもよい。さらに、6本の弦部材15は、太さ、断面形状、外面の粗さなどのスペックが互いに異なっていてもよい。
【0033】
一般的な弦楽器の弦は、撥弦によってそれ自身が撓み、その撓みから復元する際の振動によって発音する。これに対して電子弦楽器10の弦部材15は、撥弦で加わる程度の力ではほとんど撓まないように、高い剛性を有している。具体例として、焼入れを行った工具鋼のような鋼材、ピアノ線などの炭素鋼線材、高剛性のステンレス鋼材などの材料で弦部材15が形成される。
【0034】
図3及び図4を参照して、弦部材15の支持構造の詳細(第1実施形態)について説明する。図3及び図4は、1本の弦部材15の支持構造をY軸方向の一方と他方の側から見たものである。他の5本の弦部材15についても、図3及び図4に示すものと共通の支持構造によって支持されている。
【0035】
台座部材31は、合成樹脂や金属などの材料で形成されており、弦部材15を撥弦したときに撓まない剛性を有している。台座部材31は、Y軸方向に向く一対の側面31a及び側面31bと、Z軸方向に向く上面31c及び下面31dとを外面に有する四角柱状の概略形状を有しており、下面31dが基台30上に固定される。
【0036】
図3に示すように、X軸方向における台座部材31の両端付近には、側面31aの一部を凹ませた一対の凹部31eが形成されている。各凹部31eには、Y軸方向に向けて一対の突起31fが突出しており、一対の突起31fの間にネジ孔31gが形成されている。一対の突起31fとネジ孔31gはX軸方向に並んで配置されている。凹部31eと上面31cの間にはテーパ面31hが形成されている。テーパ面31hは、凹部31eから離れて上面31cに近づくにつれて、Y軸方向で側面31bに接近する(側面31bとの間隔を小さくする)傾斜面である。
【0037】
台座部材31における一対の凹部31eに対して一対の弦支持部材32が取り付けられる。弦支持部材32は、Y軸方向に向く一対の側面32a及び側面32bを有する平板形状であり、Z軸方向に長手方向を向け、X軸方向に短手方向を向けて、凹部31eに重なる状態で台座部材31に取り付けられる。
【0038】
弦支持部材32のうち、Z軸方向の一端側である基端部32cには、一対の突起31fに係合する一対の係合孔と、ネジ孔31gと重なる貫通孔が形成されており、突起31fに対する係合によって基端部32cの位置が定まる。そして、基端部32cの貫通孔を通してネジ孔31gに固定ネジ34を螺合させ、固定ネジ34を所定以上のトルクで締め付けることによって、固定ネジ34の頭部と凹部31eとの間に基端部32cが挟まれて、弦支持部材32が台座部材31に固定される。図3では、一対の弦支持部材32の一方を固定ネジ34で固定し、他方の弦支持部材32が未固定である状態を示している。
【0039】
台座部材31の両端付近に取り付けられた一対の弦支持部材32は、Z軸方向で上面31cよりも高く突出する長さを有しており、台座部材31と一対の弦支持部材32とによって上向きコ字型の支持構造が構成される。各弦支持部材32のうち、基端部32cとは反対のZ軸方向の先端側は、弦部材15を取り付ける弦固定部32dになっている。弦固定部32dは、台座部材31に対して固定されない自由端部になっている。一対の弦支持部材32のそれぞれの弦固定部32dに対して弦部材15の両端を固定することによって、一対の弦支持部材32の間に弦部材15が架け渡された支持構造になる。
【0040】
弦支持部材32は可撓性を有する板バネであり、厚み方向であるY軸方向に弾性変形しやすい。弦支持部材32のうち台座部材31に固定されるのは、凹部31eに当接する基端部32cであり、基端部32cよりも先の部分が弾性変形可能である。より詳しくは、弦支持部材32は、外力を加えない自由状態において、基端部32cからZ軸方向へ直線的に立ち上がる形状で自立している。そして、弦支持部材32は、外部からの力を受けることによって、固定された基端部32c側を支点として、弦固定部32d側をY軸方向に進退移動させる動作(揺動)を行うことができる。
【0041】
弦支持部材32は、弦部材15よりも剛性が低く撓みやすく設定されている。弦部材15を撥弦したときに、弦部材15がほとんど撓まないのに対して弦支持部材32が優先的に撓み、弦支持部材32の撓みに応じて弦部材15の位置が変化する。このような特性を有する弦支持部材32を形成する材料の例として、ステンレス鋼、バネ鋼、バネ用銅合金などを選択可能である。Y軸方向に一対の側面32a及び側面32bを向けている平板形状の弦支持部材32は、特にY軸方向に作用する力を受けたときに撓みやすくなっている。
【0042】
弦固定部32dと弦部材15は強固に固定されており、弦部材15を撥弦したときに分離を生じることなく、確実に弦支持部材32に力を伝達することができる。弦固定部32dに対する弦部材15の固定方法(固定構造)は、弦支持部材32と弦部材15の材質や、弦固定部32dと弦部材15の接触部分の形状に応じて、適宜選択が可能である。例えば、溶接(スポット溶接など)、はんだ付け、接着、ネジ止め、かしめなどを用いて、弦支持部材32に弦部材15を固定させることができる。
【0043】
弦自体を撓ませて演奏する一般的な弦楽器では、撥弦することによって生じる弦の変位量、その際の反力、反力による弦の戻り時間、弦の振動、振動の減衰態様などのパラメータが、演奏者の操作感に影響を及ぼす。そして、楽器の種類やチューニングにもよるが、優れた音質や良好な操作感を得るために、比較的高い弦の張力で使用することを前提として設計されている。そのため、既存の弦楽器における弦の支持構造には、高い強度や精度が要求される。
【0044】
このような弦楽器の構造を踏襲して電子弦楽器を製造すると、弦部材を支持する構造が大型で重くなり、製造コストも高くなるという問題がある。また、弦部材に高い張力を持たせるための構造部品に関して精度や設定がシビアになり、僅かな精度誤差が演奏時の操作感に大きく影響してしまうおそれがある。
【0045】
一方、電子弦楽器では、弦部材の振動自体で発音させるものではないため、弦部材の張力には設定の自由度がある。しかしながら、支持構造の簡素化などを目的として弦部材の張力を弱くすると、前述したパラメータが弦楽器と大きく異なって撥弦時の操作感に影響を及ぼし、演奏者に違和感を与えてしまうおそれがある。
【0046】
本実施形態では、弦部材15を撥弦したときに、高剛性である弦部材15はほとんど撓まず、弦部材15を支持する一対の弦支持部材32が、撥弦された方向に変形してから反力で反対方向に変形する揺動を、撥弦の強さに応じた量及び回数で行う。これにより、撥弦直後に弦部材15は往復の振動を生じる。この弦部材15の動作は弦楽器の弦の撥弦時の挙動に近いものであり、弦部材15が過度に撓んでしまうことがないため、高い張力で配した既存の弦と類似した操作感を演奏者に与えることができる。そして、弦部材15に高い張力を付与するための複雑で大型な構造を要さずに、可撓性のある一対の弦支持部材32で弦部材15を支持するというシンプル且つ安価な構造によって、弦楽器の弦に近い操作感を得ることができるという点で優れている。
【0047】
また、後述するように、弦動作検出手段16は弦支持部材32の変形に応じた信号を出力する。そのため、仮に撥弦時に弦部材15に大きな撓みが発生すると、弦支持部材32の撓みが相対的に縮小されてしまい、弦動作検出手段16の出力が低下するおそれがある。あるいは、弦部材15の撓みによって弦支持部材32の挙動が不安定になって、弦動作検出手段16の出力精度が悪化するおそれがある。本実施形態では、弦部材15を撓ませずに弦支持部材32を撓ませることによって、こうした不具合を回避して高い検出精度を得ることができる。
【0048】
一対の弦支持部材32からなる弦部材15の支持構造は、部品点数が少なくシンプルなものである。個々の部品についても、線状(棒状)の弦部材15と板バネである弦支持部材32はいずれも比較的安価に得ることができ、製造や組み立ても行いやすい。従って、製造コストが抑えられると共に、動作の信頼性やメンテナンス性に優れるという利点がある。
【0049】
弦支持部材32は、Z軸方向に長手方向を向けた概ね矩形の形状であるが、完全な矩形ではなく、弦固定部32d側にテーパ部32eが形成され、基端部32c側に拡幅部32fが設けられている。
【0050】
テーパ部32eは、Z軸方向で弦固定部32d側に進むにつれて、X軸方向での弦支持部材32の幅を徐々に小さくさせる傾斜形状を有している。拡幅部32fは、基端部32cからX軸方向に張り出して弦支持部材32の幅を拡大させている。つまり、基端部32cよりも弦固定部32dの方がX軸方向の幅が小さくなる先細りの形状に弦支持部材32が形成されている。この弦支持部材32の形状により、基端部32c側よりも弦固定部32d側の断面剛性が若干低くなり、弦部材15の撥弦に対する弦支持部材32の変形の追従性が向上する。また、基端部32cが広い幅で凹部31eに接触するので、台座部材31に対する弦支持部材32の支持の安定性が向上する。
【0051】
台座部材31に形成されたテーパ面31hは、Y軸方向への弦支持部材32の移動を妨げずにスムーズに撓ませるための干渉防止部として機能する。特に、基端部32cに近い根元部分で弦支持部材32が台座部材31に当て付くと、弦支持部材32の撓み量が制限されたり、弦支持部材32の撓みの円滑さが損なわれたりするおそれがある。基端部32cに近い位置にテーパ面31hを形成したことによって、このような不具合を防ぐことができる。
【0052】
弦支持部材32の側面32aには弾性体35が取り付けられている。弾性体35は、ゴムやスポンジなどの弾性材料からなり、弦部材15を撥弦したときの異音抑制に寄与する。異音の発生要因として、弦部材15や弦支持部材32が周辺の構造物(Y軸方向で隣接する別の弦部材15や弦支持部材32を含む)に対して衝突することで生じる衝突音や、弦部材15及び弦支持部材32に生じる特定の振動(撥弦による変位とは異なる固有の振動)を起因とする振動音などがある。周辺の構造物に衝突する部位を、弦部材15や弦支持部材32よりも柔軟な弾性体35にすることで、衝突音を低減できる。また、弾性体35を取り付けることで、弦部材15及び弦支持部材32の振動の減衰を促進させ、振動音を低減できる。
【0053】
図4に示すように、台座部材31には、上面31cからZ軸方向に突出する制限板31iが設けられている。制限板31iは弦支持部材32の側面32bに対向して位置し、弦支持部材32と制限板31iの間にはY軸方向に所定の隙間が存在する。制限板31iによって、Y軸方向のへの弦支持部材32の最大撓み量が制限される。
【0054】
弦支持部材32に沿って弾性体35と制限板31iを配した構成によって、弦支持部材32の過度な変形が生じず、弦部材15への許容範囲を超える撥弦力を吸収することができる。
【0055】
弦部材15を撥弦したときの一対の弦支持部材32の変形(撓み)を、弦動作検出手段16によって検出する。弦動作検出手段16を構成するものとして圧電センサ36を備えている。一対の弦支持部材32のそれぞれに圧電センサ36が取り付けられており、一対の圧電センサ36を用いて、X軸方向に離間した二箇所で各弦支持部材32の変形が検出される。
【0056】
圧電センサ36は平板状であり、弦支持部材32の側面32bに取り付けられている。弦部材15を撥弦せず弦支持部材32がY軸方向に振れていない初期状態では、圧電センサ36と制限板31iとの間には、Y軸方向に所定の大きさの隙間がある。
【0057】
圧電センサ36は、機械的応力を受けると電荷を生成する圧電素子(圧電セラミックスなど)と、その両側に配した電気的な端子とを有しており、圧電素子に撓みが発生すると起電力が発生する。弦部材15を撥弦すると、弦支持部材32が撥弦の方向に曲げられて撓みが発生する。弦部材15への撥弦が終了して外力が開放されると、弦支持部材32は撓みからの復元力によって撥弦とは反対方向に戻り、その後は減衰しながら振動する。弦支持部材32の撓みと振動によって、圧電センサ36の圧電素子が正逆に繰り返し撓まされ、その度に正負の電圧を繰り返し発生させる。この電圧の変化を示す波形が、圧電センサ36から検出信号として出力されて制御部20に入力される。
【0058】
制御部20は、圧電センサ36が出力する電圧波形の信号に基づいて、撥弦の有無や撥弦の強度を判定する。また、弦部材15の撥弦の方向によって、圧電センサ36が出力する電圧波形における特定のパルス(例えば、撥弦時の初動を表す第1パルスや、復元の動きを示すn番目のパルスなど)の正負の方向が決まるので、制御部20において波形を解析して、撥弦の方向を判別することができる。
【0059】
一般的に、演奏者には演奏の癖がある。例えば、Y軸方向で一定強度のストロークを行おうとした場合、Y軸方向の一方から撥弦するのと他方から撥弦するのとでは、撥弦強度にばらつきが生じることが多い。圧電センサ36からの検出信号に含まれる撥弦方向ごとの出力のばらつきを解析することで、制御部20の楽音制御信号生成手段22において、演奏の癖を補正した楽音制御信号を生成することも可能である。
【0060】
ところで、一般的なギターなどの弦楽器の場合、演奏者が撥弦する部分は、弦の長手方向で所定の範囲に亘っている。従って、電子弦楽器10においても、ギターに類似した演奏形態を実現するべく、弦部材15を撥弦可能な範囲をX軸方向においてある程度大きく確保する必要がある。具体的には、図1に示す弦操作部13では、両側のカバー33の間に弦部材15が露出している領域が、撥弦可能な範囲になっている。
【0061】
ここで、強度や方向が一定の撥弦動作を行っても、弦部材15を撥弦する位置によって、弦部材15の挙動に違いが生じる可能性を考慮する必要がある。すなわち、細長い形状である弦部材15は、撥弦時の変位の大きさや方向が、長手方向の全体に亘って常に均質になるとは限らない。
【0062】
図5の(A)は、一対の弦支持部材32によって支持された両持ち構造の弦部材15に対して、長手方向(X軸方向)の中央位置P1をY軸方向の片側に撥弦した場合を模式的に示している。この場合は、弦部材15の両端を支持する一対の弦支持部材32が均等に撓んで、弦部材15の全体がY軸方向に平行移動しており、弦部材15の長手方向における場所ごとの移動量のばらつきが生じない。従って、弦部材15の長手方向のどの部分で変位を検出しても、同等の検出結果が得られると想定できる。
【0063】
図5の(B)は、弦部材15の長手方向のうち一方の端部に近い位置P2をY軸方向の片側に撥弦した場合を示している。この場合、一対の弦支持部材32への入力の大きさに偏りが生じ、撥弦位置P2に近い側の弦支持部材32ではY軸方向への移動量(撓み量)が大きく、撥弦位置P2から遠い側の弦支持部材32ではY軸方向への移動量(撓み量)が小さくなる。その結果、弦部材15がX軸方向に対して非平行に傾いて変位している。図5の(B)は、撥弦時の最初の弦部材15の動きを表しているが、その後に続く弦部材15の振動においても、X軸方向に対して非平行な不均一な動きが生じる。
【0064】
図5の(B)の場合、弦部材15の長手方向のどの位置で変位を検出するかに応じて、検出結果にばらつきが生じることになる。特に、弦部材15の長手方向のいずれか一方の端部付近だけで検出を行うと、変位量のばらつきが最も大きい箇所を検出することになる。その結果、検出結果が不正確になり、これに基づく楽音生成において、演奏者が行った演奏を適正に反映しない楽音が発せられてしまうおそれがある。
【0065】
また、ギターなどの弦楽器の演奏技術として、弦の長手方向における撥弦位置を意図的に変化させるものがある。例えば、ギターは、ネックに近い位置で撥弦すると音が柔らかくなり、ブリッジに近い位置で撥弦すると音が硬くなり、ギターの演奏者が当該効果を意識した弾き分けを行うことがある。このような撥弦位置の弾き分けを弦部材15に対して行った場合も、弦部材15の変位が図5の(B)のようになる。そして、弦部材15の長手方向の一箇所だけで変位を検出する手法では、こうした演奏意図による撥弦位置の違いを判別することは困難である。
【0066】
以上のように、弦部材15の長手方向の一箇所のみで検出を行うと、検出精度にばらつきが生じたり、検出性能の制約によって演奏者の意図とは異なる楽音生成が行われてしまったりするおそれがある。
【0067】
図6は、弦部材の動作の正確な検出が難しい場合の別の例として、図3及び図4に示す弦部材15の支持構造とは異なる支持構造で支持された弦部材150を示している。この例では、弦部材150の長手方向の中央付近の一箇所のみを弦支持部材132によって支持している。弦支持部材132は、前述の弦支持部材32と同様に可撓性を有しており、弦部材150の方が弦支持部材132よりも撓みにくく設定されている。
【0068】
図6の(A)は、弦部材150の長手方向の中央位置P3(弦支持部材132による支持位置)をY軸方向の片側に撥弦した場合を示している。弦支持部材132による支持位置を正確に撥弦し、且つY軸方向へ直線的に力を加えた場合には、図6の(A)に示すように弦部材150の全体がY軸方向に平行移動し、弦部材150の長手方向における場所ごとの移動量のばらつきが生じないと想定される。しかしながら、実際の演奏動作において、このような入力が弦部材150に対して行われることは極めて稀である。また、仮にこのような入力が行われたとしても、一箇所だけの弦支持部材132で支持する構造は、弦部材150の挙動を不安定にさせやすく、図示のような想定通りに弦部材150が動作するとは限らない。
【0069】
図6の(B)は、弦支持部材132による支持位置からX軸方向にずれた位置P4で、弦部材150をY軸方向の片側に撥弦した場合を示している。この場合、弦部材150が弦支持部材132による支持位置を中心とする傾きを生じ、弦支持部材132による支持位置を境界とするX軸方向の一方の側と他方の側で、Y軸方向の位置変化が逆向きになる。また、弦部材150のうち、弦支持部材132に近い位置ではY軸方向の移動量が小さく、弦支持部材132から離れて長手方向の端部に近づくほどY軸方向の移動量が大きくなる。すると、弦部材150の長手方向のどの位置で変位を検出するかに応じて、検出結果にばらつきが生じることになる。特に、弦支持部材132による支持位置を挟んだX軸方向の両側で、Y軸方向の位置変化が逆向きになるので、実際の撥弦方向とは逆向きの撥弦が行われたという誤検出が生じるおそれがある。
【0070】
以上の理由から、電子弦楽器において弦部材に対して行われた撥弦の検出精度を高めるには、弦部材をどのような構造で支持するか、弦部材の挙動をどの位置で検出するか、が極めて重要になる。
【0071】
本実施形態では、弦部材15を長手方向の異なる複数の位置で弦支持部材32によって支持しているため、図6の(B)のような撥弦時の移動方向の逆転現象が生じず、弦部材15の全体で移動方向を揃えさせることができる。従って、撥弦の方向を逆に検出してしまうことを回避できる。
【0072】
また、複数の位置で弦部材15を支持することにより、支持の安定性と、撥弦時の挙動の安定性に優れている。特に、一対の弦支持部材32による支持を弦部材15の長手方向の両端(二箇所)で行い、その中間では弦部材15に接続する部分を有さないので、安定性が極めて高いと共に、弦部材15の挙動もスムーズになる。加えて、一対の弦支持部材32の間の広い範囲を、弦部材15に対する撥弦が可能な領域として有効に使用することができ、演奏者の指やピックが弦支持部材32などの支持構造に触れて演奏が妨げられるおそれがない。よって、演奏のしやすさという点でも優れている。
【0073】
電子弦楽器10の弦動作検出手段16は、弦部材15の長手方向に位置を異ならせた複数の圧電センサ36によって個別に弦支持部材32の変形を検出し、当該変形に応じた信号を出力するので、制御部20においてそれぞれの圧電センサ36の検出結果を参照することにより、弦部材15の変位の状態を正確に識別して、楽音の生成に利用することができる。
【0074】
特に、一対の圧電センサ36を用いて、図5の(B)のような場合に弦部材15の変位の差が最も大きくなる両端付近で独立して弦支持部材32の撓み量を検出するので、変位の程度を高精度に判定しやすいという利点がある。これにより、実際に行われた弦部材15の撥弦の強弱の程度や、弦部材15に対する撥弦位置などを高い精度で検出することができる。
【0075】
弦動作検出手段16からの出力を利用した楽音生成の一例として、制御部20の楽音制御信号生成手段22において、一対の圧電センサ36が出力する信号を平均化した平均値を用いて、弦部材15の変位を判定することができる。撓み量が大きい側の弦支持部材32に取り付けた圧電センサ36からの出力と、撓み量が小さい側の弦支持部材32に取り付けた圧電センサ36からの出力とを平均化することによって、撥弦可能な範囲のどの部分で弦部材15を撥弦したとしても、同様の強度の撥弦については、ほぼ一定のセンサ出力が得られることになる。その結果、撥弦位置の違いによるセンサ出力のばらつきの影響を排除し、実際に弦部材15に対して行われた撥弦の強度を適正に反映した楽音制御信号を生成して、楽音制御手段21での楽音の制御に用いることができる。
【0076】
なお、圧電センサ36から正負の電圧の波形をそのまま出力した場合、一対の圧電センサ36の出力を単純に平均化しても正しい値にならない場合がある。この場合には、圧電センサ36の出力をブリッジ回路で整流してから平均化するなどの処理を行ってもよい。
【0077】
弦動作検出手段16からの出力を利用した楽音生成の別の例として、一対の圧電センサ36がそれぞれ出力する信号に基づいて、弦部材15の長手方向における撥弦位置を推定し、撥弦位置の違いに応じた楽音制御信号の生成を行うことができる。これを実現する機能ブロックとして、制御部20は撥弦位置推定手段23(図1)を備えている。制御部20には、弦部材15の撥弦位置ごとの一対の圧電センサ36の出力の変化を表すデータや、一対の圧電センサ36の出力の内容から弦部材15の撥弦位置を求めるアルゴリズムなどが予め記録されている。撥弦位置推定手段23は、一対の圧電センサ36が出力する検出信号を個別に取得してそれぞれの出力の内容を比較し、前記のデータやアルゴリズムに従って、弦部材15のどの位置が撥弦されたかを推定する演算を実行する。そして、推定された撥弦位置情報を楽音制御信号生成手段22に送る。
【0078】
例えば、一対の圧電センサ36がそれぞれ出力する検出信号の振幅値がほぼ同じであれば、弦部材15の中央付近を撥弦したと推定することができる。また、一対の圧電センサ36の一方が出力する検出信号の振幅値が他方の振幅値より大きい場合は、検出信号の振幅値が大きい方の圧電センサ36に近い部分を撥弦したと推定することができる。そして、一対の圧電センサ36が出力する検出信号の振幅値の差が大きいほど、弦部材15の中央からの偏りが大きい部分(長手方向の端部寄りの部分)を撥弦したと推定できる。
【0079】
楽音制御信号生成手段22は、撥弦位置推定手段23により推定された撥弦位置に基づいて、楽音制御信号の内容を変更したり、楽音制御信号に付加情報を加えたりして、楽音制御手段21で行う楽音の生成に反映させる。
【0080】
一例として、楽音制御信号生成手段22は、撥弦位置推定手段23により推定された弦部材15の撥弦位置の違いに応じて、楽音の周波数特性を変えるように楽音制御信号を生成することができる。周波数特性の変更により、いわゆる音の硬軟を調整することができる。従って、ギターでネックに近い位置で撥弦した場合と、ブリッジに近い位置で撥弦した場合とに類似した楽音の違いを、電子弦楽器10においても、弦部材15の撥弦位置を異ならせた弾き分けによって表現することが可能になる。
【0081】
別の例として、楽音制御信号生成手段22は、撥弦位置推定手段23により推定された弦部材15の撥弦位置の違いに応じて、音色を変えるように楽音制御信号を生成することができる。制御部20に記憶された音源データには、複数種の楽器や効果音などに対応した様々な音色が含まれている。そして、弦部材15の撥弦領域と音源データに含まれる音色とを関連付けて、複数の音色から、撥弦位置に対応する特定の音色を選択させる。例えば、弦部材15の長手方向の第1の領域を撥弦した場合には第1の楽器の音色で発音し、第2の領域を撥弦した場合には第2の楽器の音色で発音する、といった制御を行うことができる。なお、音色の使い分けは2種類に限定されるものではなく、弦部材15の撥弦領域を3つ以上に区分けして3種類以上の音色から選択されるように制御してもよい。
【0082】
これらの制御例から分かるように、弦部材15の撥弦位置を推定し、推定された撥弦位置に応じた効果を付して楽音を制御することで、演奏表現の幅が広がり、電子弦楽器10の製品価値を向上させることができる。
【0083】
一対の圧電センサ36の出力に基づいてどのような楽音制御を行うかを、ユーザーが任意に選択できるようにしてもよい。例えば、前述の制御例を基にして、一対の圧電センサ36の出力を平均化して使用する平均化補正モード、撥弦位置の違いに応じて楽音の周波数特性を変更する周波数特性変更モード、撥弦位置の違いに応じて音色を変更する音色変更モードなどを準備し、設定操作部材19の操作を介してユーザーが所望のモードを選択する。
【0084】
なお、一対の圧電センサ36を備えた弦動作検出手段16の利用は、楽音の制御以外にも適用可能である。例えば、電子弦楽器10を演奏練習用の教材として用いる場合に、撥弦位置のばらつきや、撥弦強度のばらつきなどを検出して、ユーザーに報知して学習効果を高めることもできる。あるいは、弦部材15のどの位置を撥弦したかをモニタなどに表示させて視覚的な効果を得るという応用も可能である。
【0085】
弦楽器における撥弦以外の演奏操作として、演奏者が弦に触れて消音(ミュート)させるものがある。弦部材15と弦支持部材32の間で電気的な接続を持たせて、このような消音操作の検出を行うことが可能である。
【0086】
具体的には、弦部材15と弦支持部材32をそれぞれ導電性材料で構成する。また、弦固定部32dを弦部材15に固定させる部分についても、はんだ付けなどを用いて導通状態で接触させる。図3に示すように、静電容量センサ38を設け、弦支持部材32の一部(例えば拡幅部32f)と静電容量センサ38をリード線37で接続する。台座部材31に固定される基端部32cの一部である拡幅部32fにリード線37を接続させることにより、リード線37や静電容量センサ38が弦支持部材32の変形の障害や抵抗になることを防止できる。
【0087】
この場合、圧電センサ36に加えて静電容量センサ38も弦動作検出手段16を構成する。演奏者が触れていない状態での各弦部材15の静電容量を予め測定して制御部20の記憶部に記憶させておき、静電容量センサ38により検知される弦部材15の静電容量の変化と比較することにより、演奏者が弦部材15に触れているか否かを検出することができる。そして、所定の条件を満たした場合に、消音操作が行われていると楽音制御信号生成手段22が判定し、消音状態であることを示す楽音制御信号を楽音制御手段21に送る。これに基づき、楽音制御手段21は、残響音を含む発音全般をカットするように消音処理を実行する。消音操作を示す所定の条件とは、1本の弦部材15だけではなく、予め設定した複数本の弦部材15に演奏者が触れている場合などである。
【0088】
なお、弦部材15に対する消音操作の検出を要さない場合は、静電容量センサ38を省略したり、弦部材15と弦支持部材32を電気的に接続させない構成にしたりできる。例えば、弦部材15や弦支持部材32を合成樹脂などの非金属材料で形成したり、弦部材15と弦支持部材32の接続部分に非導電材を配置したりすることも可能である。
【0089】
図3及び図4に示す第1実施形態における弦部材15の支持構造は、一対の弦支持部材32の撓みが主としてY軸方向に生じるものであり、Y軸方向への撥弦を効率的に検出できるものである。これとは異なる弦部材15の支持構造を、図7の第2実施形態、図8の第3実施形態として示す。なお、図3及び図4の構成と共通する部分については、図7及び図8においても同じ符号で表して説明を省略する。
【0090】
図7の第2実施形態における一対の弦支持部材40はそれぞれ、基端部32cと弦固定部32dの間の中間部分に、X軸方向へ延びる複数のスリット41が形成されている。スリット41は、X軸方向の一端が開放され、当該開放部分からX軸方向の途中まで切り込まれた溝部である。各弦支持部材40にはZ軸方向に所定の間隔で5つのスリット41が形成されており、Z軸方向で隣り合うスリット41は、X軸方向で互いに逆向きに開放されている。これらのスリット41を形成したことによって基端部32cと弦固定部32dの間が蛇腹状になり、弦支持部材40がZ軸方向に伸縮可能となる。従って、弦支持部材40は、Y軸方向への撓みに加えて、Z軸方向への撓みも行いやすい構成になっている。また、弦支持部材40を各方向に捻る動作なども行いやすくなる。
【0091】
図8の第3実施形態における一対の弦支持部材42はそれぞれ、基端部32cと弦固定部32dの間の中間部分に貫通孔43が形成されており、貫通孔43の両側が一対の細い橋絡部44になっている。貫通孔43を形成したことによって弦支持部材42の可撓性が高くなり、撓みの方向の自由度も高くなる。例えば、一対の細い橋絡部44が独立して撓むことにより、Z軸方向での弦固定部32dの位置を変化させる動作や、弦支持部材42を各方向に捻る動作などを行いやすくなる。
【0092】
図7の弦支持部材40や図8の弦支持部材42は、弦支持部材32に比して撓みの方向の自由度が高いため、Y軸方向へストロークする演奏動作以外の動作でも弦部材15を追従して変位させやすい。例えば、Z軸方向への押し込み成分を含むスラップ奏法などを行う場合にも、弦部材15の動きを対応させることができる。そして、弦支持部材40や弦支持部材42に取り付けた圧電センサ36は、Z軸方向の撓みなども検出可能である。
【0093】
図7及び図8では図示を省略しているが、第1実施形態(図3)の弾性体35と同様の弾性体を弦支持部材40や弦支持部材42に取り付けて、異音の抑制や振動の減衰促進を図ってもよい。
【0094】
このように、本発明で検出の対象とする弦部材の変位方向は、弦部材の長手方向に対して交差する方向であればよく、複数本の弦部材が並ぶ方向(Y軸方向)への撥弦だけに限定されるものではない。
【0095】
図3図4図7及び図8の構成では、弦動作検出手段16として一対の圧電センサ36を用いているが、圧電センサ以外の検出手段を用いることも可能である。例えば、一対の弦支持部材32に取り付けた一対のひずみゲージによって弦動作検出手段16を構成してもよい。ひずみゲージは、金属などの抵抗体の変形に伴う抵抗値の変化を測定するものであり、前述した圧電センサ36と同様に弦支持部材32の変形を検出することができる。
【0096】
弦部材の支持構造や、弦部材の動作を検出する手段は、以上に説明したものには限定されない。図9から図11を参照して、弦部材の支持構造や、弦部材の動作を検出する手段が異なる別の実施形態を示す。なお、図9から図11では、各弦部材15の長手方向の一方の端部のみを示しており、各弦部材15の他方の端部については図示を省略しているが、各弦部材15の両端は同様の構造を有する。すなわち、図9から図11の各実施形態は、弦部材15の両端付近を可撓性のある一対の弦支持部材で支持し、両方の弦支持部材の動作を独立して検出しているという点で、前述の第1、第2及び第3実施形態と共通する。また、図9及び図10では一部の弦部材15を省略しているが、Y軸方向に並ぶ6本の弦部材15を備えるものとする。
【0097】
図9に示す第4実施形態では、各弦部材15の両端付近を支持する一対の弦支持部材50が基台30上に直接的に固定されており、第1から第3実施形態の台座部材31に対応する部材が設けられていない。弦支持部材50は、基台30上に固定される脚部50aと、脚部50aからZ軸方向に立ち上がる板状の立壁部50bとを有し、立壁部50bの先端に筒状部50cが設けられている。筒状部50cは、X軸方向に貫通する円筒形状であり、その内部に弦部材15の端部が挿入され、弦部材15と筒状部50cが互いに固定される。
【0098】
弦支持部材50は、立壁部50bからX軸方向に張り出す延長部50dを有している。延長部50dのX軸方向の先端には、Y軸方向に屈曲する屈曲部50eを備える。延長部50dの側面には弾性体51が取り付けられている。屈曲部50eには永久磁石52が取り付けられている。
【0099】
センサ支持部材53が基台30上に設けられている。センサ支持部材53は、Y軸方向に延設される細長い部材であり、複数(6つ)の弦支持部材50の延長部50dを跨ぐように配置されている。
【0100】
センサ支持部材53は、各弦支持部材50に対応する位置に溝部53aを有する。溝部53aはX軸方向に切り込まれた凹形状であり、溝部53a内に延長部50dが挿入されている。Y軸方向において、溝部53aの幅は延長部50dと弾性体51を合わせた厚みよりも大きく、延長部50dはセンサ支持部材53に対して溝部53aとのクリアランス分だけY軸方向へ移動可能である。溝部53aの内面に対して延長部50dの側面又は弾性体51が当接すると、弦支持部材50はそれ以上のY軸方向の移動が規制される。
【0101】
弾性体51は、第1実施形態(図3)の弾性体35と同様の役割を有している。弾性体51が溝部53aの内面に当接することで衝突音を抑制する。また、弾性体51によって弦支持部材50の振動の減衰を促進させ、振動音を低減させる。溝部53aの内面によって弦支持部材50の過度な変形が抑制され、弦部材15への許容範囲を超える撥弦力を弾性体51によって吸収することができる。
【0102】
センサ支持部材53は、溝部53aが形成された台座部53bと、台座部53bからZ軸方向に突出する支持板部53cとを有する。支持板部53cには、Y軸方向に間隔を空けて複数(6つ)の磁気センサ54が設けられている。各磁気センサ54は、X軸方向で各弦支持部材50の永久磁石52に対向する位置に配されている。
【0103】
磁気センサ54は、弦動作検出手段16(図1)を構成するものである。弦部材15を撥弦すると弦支持部材50が撓み、弦支持部材50の撓みに伴って永久磁石52が位置変化したときに、磁界の変化を磁気センサ54によって検知する。磁気センサ54として、ホール素子、ホールIC、コイルなどを用いることができる。これらはいずれも、永久磁石52との相対的な位置変化による磁束密度の変化に応じて電圧を発生するため、弦部材15の撥弦に伴う弦支持部材50の変位を磁気センサ54によって検出することができる。
【0104】
例えば、磁気センサ54としてコイルを用いた場合には、前述した圧電センサ36を用いた場合と類似した電圧波形が得られる。そして、永久磁石52の移動方向の違いによって磁界の変化が異なるため、磁気センサ54のコイルからの出力に基づいて、弦部材15の撥弦の方向を検出することができる。
【0105】
図9の構成は、可動部である弦支持部材50に永久磁石52を設けた、いわゆるムービングマグネットタイプの検出構造である。この構造の利点として、磁気センサ54から延びる配線が固定のセンサ支持部材53側にあり、可動の弦支持部材50側には配線が接続しないため、動作抵抗が少ないことや、磁気センサ54を含む電装系に負荷が加わりにくいことが挙げられる。但し、図9の構成とは逆に、弦支持部材50に磁気センサ54を設け、センサ支持部材53に永久磁石52を設けても、弦支持部材50の動作を検出することが可能であり、当該構成を排除するものではない。
【0106】
図10に示す第5実施形態は、弦動作検出手段16の構成要素以外が図9の第4実施形態と共通している。図9の構成と共通する部分については、図10においても同じ符号で表して説明を省略する。
【0107】
弦支持部材50は、延長部50dからX軸方向に延伸した反射板55を有している。弦支持部材50と反射板55は一体的に形成されている。なお、別部材として形成した反射板55を弦支持部材50に取り付ける構造であってもよい。反射板55は、Z軸方向に両面が向く平板形状である。
【0108】
センサ支持部材53の台座部53b上に支持板部53dが設けられ、支持板部53d上にY軸方向に間隔を空けて複数(6つ)の反射型光センサ56が設けられている。各反射型光センサ56は、Z軸方向で各弦支持部材50の反射板55に対向する位置に配されている。反射型光センサ56には、発光部56aと受光部56bがY軸方向に並列して配置されている。発光部56aはLEDなどの光源を有しており、反射板55側に向けて光を投射する。受光部56bは、光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換素子を備えている。
【0109】
反射型光センサ56は、弦動作検出手段16(図1)を構成するものである。反射型光センサ56の発光部56aから発した光が、反射板55で反射されて受光部56bで受光される。弦部材15を撥弦すると弦支持部材50が撓み、弦支持部材50の撓みに伴って反射板55が位置変化すると、受光部56bでの受光量が変動する。この受光量の変動を解析することによって、弦部材15の動作を検出することができる。
【0110】
図11に示す第6実施形態は、弦動作検出手段16の構成要素以外が図9の第4実施形態と共通している。図9の構成と共通する部分については、図11においても同じ符号で表して説明を省略する。
【0111】
弦支持部材50は、延長部50dからX軸方向に延伸した光遮蔽板57を有している。弦支持部材50と光遮蔽板57は一体的に形成されている。なお、別部材として形成した光遮蔽板57を弦支持部材50に取り付ける構造であってもよい。光遮蔽板57は、Z軸方向に両面が向く平板形状である。
【0112】
センサ支持部材53の台座部53b上に支持板部53eが設けられ、支持板部53eの側面にY軸方向に間隔を空けて複数(6つ)の透過型光センサ58が設けられている。各透過型光センサ58は、Z軸方向に離間して対向する発光部58aと受光部58bを有し、発光部58aと受光部58bの間に各弦支持部材50の光遮蔽板57が位置する。
【0113】
透過型光センサ58は、弦動作検出手段16(図1)を構成するものである。透過型光センサ58の発光部58aから発した光は、光遮蔽板57が有る部分では遮蔽され、光遮蔽板57が無い部分では受光部58bで受光される。弦部材15を撥弦すると弦支持部材50が撓み、弦支持部材50の撓みに伴って光遮蔽板57が位置変化すると、受光部58bでの受光量が変動する。この受光量の変動を解析することによって、弦部材15の動作を検出することができる。
【0114】
光遮蔽板57には、Y軸方向に間隔を空けて複数のスリット状の孔を形成してもよい。これらの孔はZ軸方向へ貫通しており、受光部58bでの受光がパルス状になるため、パルスの受光周期に基づいて弦部材15の振動の速度を検出できる。
【0115】
なお、図10の反射型光センサ56や図11の透過型光センサ58では、前述の圧電センサ36における電圧の正負のような出力にならないため、弦部材15の撥弦方向を検出するのが難しい場合がある。その対応として、弦支持部材50の移動方向を検出する補助的なセンサを用いてもよい。
【0116】
図9から図11の構成において、弦部材15と弦支持部材50の間に電気的な接続を持たせると共に、弦支持部材50に静電容量センサ(図示略)を接続して、弦部材15に対する消音操作の検出を行うようにしてもよい。
【0117】
以上の図9から図11の構成では、一対の弦支持部材50のそれぞれの近傍に設けた検出手段である一対の磁気センサ54、一対の反射型光センサ56、一対の透過型光センサ58によって、各弦支持部材50における被検出部である永久磁石52、反射板55、光遮蔽板57の位置変化を個別に検出している。従って、弦動作検出手段16を用いた弦部材15の動作の検出精度の高さや、弦動作検出手段16の検出結果に基づく楽音制御の自由度の高さなどにおいて、前述した第1から第3実施形態と同様の効果が得られる。
【0118】
以上に説明した各実施形態は、それぞれに利点があり、必要に応じて好適な構成を選択することができる。また、それぞれの実施形態の構成を適宜組み合わせることも可能である。
【0119】
第1実施形態(図3及び図4)、第2実施形態(図7)、第3実施形態(図8)では、一対の弦支持部材32(40、42)にそれぞれ取り付けた一対の圧電センサ36で弦動作検出手段16を構成しており、部品点数が少なく、弦部材15の周辺構造をシンプルにできるという利点がある。
【0120】
第1実施形態は、弦部材15を支持する一対の弦支持部材32がいずれもシンプルな平板状であるため、部品単価が低く、耐久性にも優れている。第2実施形態及び第3実施形態は、Y軸方向以外にも変形しやすい一対の弦支持部材40や一対の弦支持部材42によって弦部材15を支持しており、様々な演奏形態を検出しやすくなる。
【0121】
第4実施形態(図9)、第5実施形態(図10)、第6実施形態(図11)では、弦部材15に伴う移動を行う可動部である一対の弦支持部材50に被検出部(永久磁石52、反射板55、光遮蔽板57)を設け、弦部材15に伴う移動を行わない固定部であるセンサ支持部材53側に弦動作検出手段16(磁気センサ54、反射型光センサ56、透過型光センサ58)を設けている。被検出部と弦動作検出手段16の間が非接触であり、被検出部に接続する配線などを要さないため、可動部側の軽量化や動作レスポンスの向上を図ることができる。
【0122】
第1から第3実施形態の圧電センサ36や、第4実施形態の磁気センサ54(コイル)を用いたりすることで、弦部材15の振動の強度だけでなく振動の方向も比較的容易に検出できる。
【0123】
以上の各実施形態は、発明の理解を容易にするために具体例を示したものであり、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。一例として、実施形態の内容とそれに対応する変形例を以下に示す。
【0124】
前述の各実施形態では、複数本の弦部材15が同じスペックであり、それぞれの弦部材15を支持する支持構造も共通である。これにより、部品の共通化による製造コストの低減や、メンテナンス性の向上などの効果が得られる。また、弦操作部13がY軸方向に対称性を持つ構造になるため、ギターの右手ピッキング用と左手ピッキング用の弦の張り替えに類する調整が不要である。
【0125】
しかし、複数本の弦部材を支持する支持構造をそれぞれ異ならせることも可能である。例えば、弦支持部材が板バネである場合、板バネの厚み、板バネの幅、板バネを形成する材料などに違いを持たせることで、板バネの撓みやすさに差が生じる。これにより、複数の弦部材を撥弦する際の動作抵抗や反発を各々異ならせることができ、弦部材ごとに操作感をカスタマイズすることが可能となる。
【0126】
前述の各実施形態では、各弦部材15の長手方向の両側に共通仕様の一対のセンサを備えている。一対のセンサが共通仕様であると、導入コストが低くて済み、制御の負担も軽減される。特に、複数のセンサが出力する信号を相互参照して楽音の制御に用いるので、制御のしやすさや検出精度の観点から、各センサが共通仕様であることの利点が大きい。
【0127】
しかし、前述の各実施形態とは異なり、1本の弦部材に対して種類やスペックが異なる複数の検出手段を備える構成においても本発明は有用である。複数の検出手段については、複数の弦支持部材のそれぞれの変形に応じた信号を出力するという要件を満たしていればよく、信号の形態や検出の方法は限定されない。
【0128】
前述の各実施形態では、弦部材15の両端に一対の弦支持部材が接続している。この構成は、弦部材15の安定性が高いこと、撥弦時の弦部材15のスムーズな動作を実現できること、弦部材15の撥弦可能範囲が広いこと、弦動作検出手段16による検出精度が高いことなどの点で優れている。
【0129】
しかし、前述の各実施形態とは異なり、弦部材の両端以外の位置(両端よりも互いに近い位置)で一対の弦支持部材による支持を行う構造や、弦部材の長手方向の三箇所以上で弦支持部材による支持を行う構造を採用することも可能である。このような構成においても本発明は有用である。すなわち、本発明における弦部材の支持構造については、弦部材を長手方向の異なる位置で支持する複数の弦支持部材を備え、弦部材の撥弦によって各弦支持部材が変形するという要件を満たしていればよい。
【0130】
以下、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[付記1]
少なくとも1本の直線状の弦部材と、
前記弦部材を長手方向の異なる位置で支持し、前記弦部材の撥弦によって変形する複数の弦支持部材と、
前記複数の弦支持部材のそれぞれの変形に応じた信号を出力する複数の検出手段と、
前記複数の検出手段が出力する信号に基づいて、楽音制御信号を生成する楽音制御信号生成手段と、
を備えたことを特徴とする電子弦楽器。
[付記2]
前記複数の弦支持部材は、前記弦部材の長手方向の両端を支持する一対の弦支持部材であることを特徴とする付記1に記載の電子弦楽器。
[付記3]
前記複数の検出手段は、前記一対の弦支持部材にそれぞれに取り付けられて前記弦支持部材の変形を検出する一対のセンサであることを特徴とする付記2に記載の電子弦楽器。
[付記4]
前記複数の検出手段は、前記一対の弦支持部材のそれぞれの近傍に設けられて、前記一対の弦支持部材に設けた被検出部の位置変化を検出する一対のセンサであることを特徴とする付記2に記載の電子弦楽器。
[付記5]
前記楽音制御信号生成手段は、前記複数の検出手段がそれぞれ出力する信号の平均値に基づいて楽音制御信号を生成することを特徴とする付記1から4のいずれかに記載の電子弦楽器。
[付記6]
前記複数の検出手段がそれぞれ出力する信号に基づいて、前記弦部材の長手方向における撥弦位置を推定する撥弦位置推定手段を備えることを特徴とする付記1から4のいずれかに記載の電子弦楽器。
[付記7]
前記楽音制御信号生成手段は、前記撥弦位置推定手段により推定された撥弦位置に基づいて、楽音の周波数特性を制御した楽音制御信号を生成することを特徴とする付記6に記載の電子弦楽器。
[付記8]
前記楽音制御信号生成手段は、前記撥弦位置推定手段により推定された撥弦位置に基づいて、音色を制御した楽音制御信号を生成することを特徴とする付記6に記載の電子弦楽器。
【符号の説明】
【0131】
10 :電子弦楽器
11 :胴体部
12 :棹部
13 :弦操作部
14 :指板
15 :弦部材
16 :弦動作検出手段(検出手段)
18 :指板操作検出手段
20 :制御部
21 :楽音制御手段
22 :楽音制御信号生成手段
23 :撥弦位置推定手段
25 :発音システム
30 :基台
31 :台座部材
32 :弦支持部材
35 :弾性体
36 :圧電センサ(検出手段)
38 :静電容量センサ
40 :弦支持部材
41 :スリット
42 :弦支持部材
43 :貫通孔
44 :橋絡部
50 :弦支持部材
51 :弾性体
52 :永久磁石(被検出部)
53 :センサ支持部材
54 :磁気センサ(検出手段)
55 :反射板(被検出部)
56 :反射型光センサ(検出手段)
57 :光遮蔽板(被検出部)
58 :透過型光センサ(検出手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11