(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】運転計画作成装置、運転計画作成方法及び運転計画作成プログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20240110BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20240110BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20240110BHJP
H02J 3/46 20060101ALI20240110BHJP
H02J 7/35 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/32
H02J3/38 130
H02J3/46
H02J7/35
(21)【出願番号】P 2021199796
(22)【出願日】2021-12-09
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼口 謙一
(72)【発明者】
【氏名】稲村 彰信
(72)【発明者】
【氏名】小熊 祐司
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-173972(JP,A)
【文献】国際公開第2020/121447(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/153443(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/189501(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00 - 5/00
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
H02J 13/00
H02J 15/00
H01M 8/04 - 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生可能エネルギー発電装置と、負荷装置とを含むマイクログリッドにおける、前記負荷装置の運転計画を作成する運転計画作成装置であって、
前記運転計画には、前記負荷装置の起動動作または停止動作を実行する計画が含まれ、
前記運転計画の作成期間全体の前記再生可能エネルギー発電装置における発電電力の予測値に係る情報と、前記負荷装置における電力消費の特性に係る情報と、前記運転計画に含まれる前記負荷装置の前記起動動作または前記停止動作において必要な一時消費電力に関する情報と、に基づいて、前記運転計画を作成する作成部を含む、運転計画作成装置。
【請求項2】
前記マイクログリッドは、エネルギー貯蔵装置をさらに有し、
前記作成部は、前記エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量にも基づいて、前記運転計画を作成する、請求項1に記載の運転計画作成装置。
【請求項3】
前記作成部は、前記起動動作または前記停止動作の実行可能時間帯を限定した条件で、前記運転計画を作成する、請求項1または2に記載の運転計画作成装置。
【請求項4】
前記作成部は、前記負荷装置の前記起動動作及び前記停止動作の上限または回数を指定した条件で、前記運転計画を作成する、請求項1~3のいずれか一項に記載の運転計画作成装置。
【請求項5】
前記作成部は、前記負荷装置の消費電力変動がなだらかな計画を優先して採用する条件で、前記運転計画を作成する、請求項1~4のいずれか一項に記載の運転計画作成装置。
【請求項6】
前記マイクログリッドは、外部とのエネルギーの授受が可能であって、
前記作成部は、前記外部とのエネルギー授受量の変動がなだらかな計画を優先して採用する条件で、前記運転計画を作成する、請求項1~5のいずれか一項に記載の運転計画作成装置。
【請求項7】
前記作成部は、前記負荷装置の動作によって生成される生成物の総量または当該生成物に基づく収益が最大化することを条件とした最適化問題を設定し、これを解くことによって前記運転計画を作成する、請求項1~6のいずれか一項に記載の運転計画作成装置。
【請求項8】
再生可能エネルギー発電装置と、負荷装置とを含むマイクログリッドにおける、前記負荷装置の運転計画を作成する運転計画作成方法であって、
前記運転計画には、前記負荷装置の起動動作または停止動作を実行する計画が含まれ、
前記運転計画の作成期間全体の前記再生可能エネルギー発電装置における発電電力の予測値に係る情報と、前記負荷装置における電力消費の特性に係る情報と、前記運転計画に含まれる前記負荷装置の前記起動動作または前記停止動作において必要な一時消費電力に関する情報と、に基づいて、前記運転計画を作成する、運転計画作成方法。
【請求項9】
再生可能エネルギー発電装置と、負荷装置とを含むマイクログリッドにおける、前記負荷装置の運転計画の作成をコンピュータに実行させる運転計画作成プログラムであって、
前記運転計画には、前記負荷装置の起動動作または停止動作を実行する計画が含まれ、
前記運転計画の作成期間全体の前記再生可能エネルギー発電装置における発電電力の予測値に係る情報と、前記負荷装置における電力消費の特性に係る情報と、前記運転計画に含まれる前記負荷装置の前記起動動作または前記停止動作において必要な一時消費電力に関する情報と、に基づいて、前記運転計画を作成することを前記コンピュータに実行させる、運転計画作成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、運転計画作成装置、運転計画作成方法及び運転計画作成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生可能エネルギーの普及に伴い、電力ネットワークへの影響の懸念が社会的な課題となっている。再生可能エネルギーは変動性再生可能エネルギーともよばれ、これらを電力系統にそのまま接続した場合、その規模によっては電力系統の電圧や周波数に悪影響を及ぼすことが知られている。その対策として、再生可能エネルギーの余剰電力を使って水素を製造する技術(P2G:Power to Gas)に注目が集まっている。これは、再生可能エネルギーで得られた電力を貯蔵に優れたガス体エネルギーである水素に変換し、化石燃料が主であるガス(都市ガスなど)を水素に転換する取り組みである。
【0003】
再生可能エネルギーを利用して水電解装置を稼働させる技術が記載された文献として、以下の特許文献1~3が存在する。例えば、特許文献1では、太陽光発電の発電電力が負荷の消費電力よりも大きい場合に余剰電力を蓄電池に蓄電させ、太陽光発電の発電電力が負荷の消費電力よりも小さい場合に蓄電池の放電によって負荷を動作させる構成が開示されている。また、特許文献2には、太陽光発電電力システムから配電される電力がある閾値を超えると判定した場合、その余剰電力分を水電解装置へ消費電力として指令を与えるエネルギー管理システムが記載されている。また、特許文献3には、太陽光発電電力を水電解装置の消費電力および蓄電池の充放電によって平滑化させるシステムが記載されている。さらに、特許文献4には、太陽光発電電力と水電解装置の定格値の比較結果をもとに、蓄電池の充電と放電を制御することによって、なるべく水電解装置を定格で運転させるシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-198729号公報
【文献】特開2021-118574号公報
【文献】特開2018-85862号公報
【文献】特開2019-029050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~4には、負荷装置となる水素製造装置(水電解装置)の動作に係る条件が種々設定されている一方で、負荷装置を動作させる際の電力消費特性が十分に考慮されていないため、負荷装置の運転計画を作成するための手法として改善の余地があった。
【0006】
本開示は上記を鑑みてなされたものであり、負荷装置の電力消費特性を考慮した運転計画を柔軟に作成することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一形態に係る運転計画作成装置は、再生可能エネルギー発電装置と、負荷装置とを含むマイクログリッドにおける、前記負荷装置の運転計画を作成する運転計画作成装置であって、前記運転計画には、前記負荷装置の起動動作または停止動作を実行する計画が含まれ、前記運転計画の作成期間全体の前記再生可能エネルギー発電装置における発電電力の予測値に係る情報と、前記負荷装置における電力消費の特性に係る情報と、前記運転計画に含まれる前記負荷装置の前記起動動作または前記停止動作において必要な一時消費電力に関する情報と、に基づいて、前記運転計画を作成する作成部を含む。
【0008】
本開示の一形態に係る運転計画作成方法は、再生可能エネルギー発電装置と、負荷装置とを含むマイクログリッドにおける、前記負荷装置の運転計画を作成する運転計画作成方法であって、前記運転計画には、前記負荷装置の起動動作または停止動作を実行する計画が含まれ、前記運転計画の作成期間全体の前記再生可能エネルギー発電装置における発電電力の予測値に係る情報と、前記負荷装置における電力消費の特性に係る情報と、前記運転計画に含まれる前記負荷装置の前記起動動作または前記停止動作において必要な一時消費電力に関する情報と、に基づいて、前記運転計画を作成する。
【0009】
本開示の一形態に係る運転計画作成プログラムは、再生可能エネルギー発電装置と、負荷装置とを含むマイクログリッドにおける、前記負荷装置の運転計画の作成をコンピュータに実行させる運転計画作成プログラムであって、前記運転計画には、前記負荷装置の起動動作または停止動作を実行する計画が含まれ、前記運転計画の作成期間全体の前記再生可能エネルギー発電装置における発電電力の予測値に係る情報と、前記負荷装置における電力消費の特性に係る情報と、前記運転計画に含まれる前記負荷装置の前記起動動作または前記停止動作において必要な一時消費電力に関する情報と、に基づいて、前記運転計画を作成することを前記コンピュータに実行させる。
【0010】
上記の運転計画作成装置、運転計画作成方法及び運転計画作成プログラムによれば、運転計画の作成期間全体の再生可能エネルギー発電装置における発電電力の予測値に係る情報と、負荷装置における電力消費の特性に係る情報と、負荷装置の起動動作または停止動作において必要な一時消費電力に関する情報と、に基づいて運転計画が作成される。このように、負荷装置における電力消費の特性に係る情報と、負荷装置の起動動作または停止動作において必要な一時消費電力に関する情報とを用いることで、一時消費電力を含む、負荷装置の電力消費に関するより詳細な情報に基づいて運転計画を作成することができる。したがって、負荷装置の電力消費特性を考慮した運転計画を柔軟に作成することが可能となる。
【0011】
ここで、前記マイクログリッドは、エネルギー貯蔵装置をさらに有し、前記作成部は、前記エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量にも基づいて、前記運転計画を作成する態様であってもよい。このような構成とすることで、エネルギー貯蔵装置においてエネルギー貯蔵を行うことも考慮した運転計画を作成することが可能となり、より柔軟に運転計画を作成することができる。
【0012】
前記作成部は、前記起動動作または前記停止動作の実行可能時間帯を限定した条件で、前記運転計画を作成する態様であってもよい。負荷装置の起動動作及び停止動作は、例えば、作業者による動作が必要な場合など、動作可能な時間帯が限定される場合がある。このような場合に、上記の構成とすることで、運転計画の実行への支障が低減された運転計画を作成することが可能となる。
【0013】
前記作成部は、前記負荷装置の前記起動動作及び前記停止動作の上限または回数を指定した条件で、前記運転計画を作成する態様であってもよい。負荷装置の起動動作及び停止動作の回数が増えることは、作業者の負担の増大や、負荷装置の起動動作及び停止動作によって生じる消費電力変動に由来する劣化を引き起こす可能性が考えられる。このような場合に、上記の構成とすることで、運転計画の実行への支障が低減された運転計画を作成することが可能となる。
【0014】
前記作成部は、前記負荷装置の消費電力変動がなだらかな計画を優先して採用する条件で、前記運転計画を作成する態様であってもよい。負荷装置の消費電力変動は、負荷装置自体の劣化に影響を与える可能性がある。これに対して、上記の構成とすることで、運転計画の実行への支障が低減された運転計画を作成することが可能となる。
【0015】
前記マイクログリッドは、外部とのエネルギーの授受が可能であって、前記作成部は、前記外部とのエネルギー授受量の変動がなだらかな計画を優先して採用する条件で、前記運転計画を作成する態様であってもよい。マイクログリッドと外部とのエネルギー授受量が増大すると、外部の電力系統の安定性を脅かす可能性がある。これに対して、上記の構成とすることで、外部とのエネルギー授受量が安定した運転計画を作成することが可能となる。
【0016】
前記作成部は、前記負荷装置の動作によって生成される生成物の総量または当該生成物に基づく収益が最大化することを条件とした最適化問題を設定し、これを解くことによって前記運転計画を作成する態様であってもよい。上記の構成とすることで、負荷装置の動作に基づく成果が大きくなる条件で運転計画を作成することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、負荷装置の電力消費特性を考慮した運転計画を柔軟に作成することが可能な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る電力供給システムの概略図である。
【
図2】
図2は、EMSの機能について説明するブロック図である。
【
図3】
図3は、水電解装置における水素の製造流量と電力消費量の関係について説明する図である。
【
図4】
図4は、第1実施例における太陽光発電の発電電力の予測値を示す図である。
【
図5】
図5は、第1実施例におけるシミュレーションの結果を示す図である。
【
図6】
図6は、第2実施例における太陽光発電の発電電力の予測値を示す図である。
【
図7】
図7は、第2実施例におけるシミュレーションの結果を示す図である。
【
図8】
図8は、EMSのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本開示に係る例示的実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
[電力供給システム]
図1は、一実施形態に係る電力供給システム1の概略構成図である。
図1に示すように、電力供給システム1は、マイクログリッド2と、エネルギーマネジメントシステム3(運転計画作成装置)とを備えている。以下、「エネルギーマネジメントシステム」を「EMS」という。マイクログリッド2は、太陽光発電設備21、2台の水電解装置22A,22B、蓄電設備23、接続部24、受電電力測定部25及び送電電力測定部26を含んで構成される。また、マイクログリッド2は外部の電力系統90と接続していて、電力系統90との間で電力を送電・受電することができる。
【0021】
太陽光発電設備21は、再生可能エネルギー発電装置の一例である。太陽光発電設備21は、太陽光(Photovoltaic:PV)による発電を行うシステムであり、太陽光パネル21a及び図示しないパワーコンディショナ(Power Conditioning System:PCS)を含む。パワーコンディショナはPV-PCSと呼ぶ場合もある。PV-PCSは直流を交流に変換する。
【0022】
なお、本開示において、再生可能エネルギー発電設備の種類は、太陽光発電に限定しない。例えば、再生可能エネルギー発電設備は、風力発電システム、地熱発電システムであってもよいし、バイオマス発電システムやごみ発電システムであってもよい。太陽光発電であれば、気象条件(日射、温度、降雪)に影響を受け、発電量が変動する。また、風力発電であれば、風速の影響を受けて発電量が変動する。また、バイオマス発電やごみ発電は、原料となるバイオマスやごみ(廃棄物や汚泥等)の性状が一般には安定ではなく、さらに、一時的な焼却不適物の混入等により、出力が安定しない。したがって、上記の発電方法は、太陽光発電と同様に本開示で説明する手法を効果的に適用する方法である。
【0023】
水電解装置22A,22Bは、負荷装置の一例である。以下の実施形態では
図1に示す水電解装置1を水電解装置22Aとし、水電解装置2を水電解装置22Bと呼ぶ場合がある。
【0024】
水電解装置は、水電解によって水素を製造するシステムである。一般に、水電解装置は、水電解方法によって、アルカリ型電解装置、AEM:Anion Exchange Membrane(陰イオン交換膜方式)、SOEC:Solid Oxide Electrolysis Cell(固体酸化物型電解セル(高温型))、PEEC:Proton Exchange Electrolysis Cell(プロトン導電型電解セル(高温型))、PEM:Proton Exchange Membrane(陽イオン交換膜方式)に分類することができる。水電解装置22A,22Bとしては、上記のいずれの水電解装置を採用してもよい。なお、2台の水電解装置22A,22Bは、同一の水電解方法を用いる装置であってもよいが、互いに異なる水電解方法を用いる装置同士を組み合わせてもよく、例えば、PEM及びアルカリ型の水電解装置を1台ずつ組み合わせた構成であってもよい。
【0025】
本実施形態では、2台の水電解装置22A,22Bは独立して稼働が可能なものとする。製造した水素は水素貯蔵システム(図示せず)に保持される。貯蔵された水素は、例えば、水素圧縮機によってガードルや水素トレーラに充填され、水素需要地に輸送されてもよいし、燃料電池車(FCV)に対してディスペンサを経由して現地で水素を供給してもよい(後者はオンサイト水素ステーションとよばれる)。また、貯蔵された水素は、パイプラインを通じて、別の水素需要地に供給してもよい。いずれの例においても、水電解装置22A,22Bで製造された水素は、適宜輸送等によってマイクログリッド2から出ていくものとする。
【0026】
なお、マイクログリッド2における負荷装置は水素製造及び貯蔵に係る上述のシステムに限定されず、別の負荷装置であってもよい。例えば、水電解装置22A,22Bに代えて電気ボイラを使用し、水素貯蔵システムに代えてスチームアキュムレータを使用してもよい。また、複数の負荷装置の種類を互いに異ならせてもよい。例えば、2台の負荷装置のうち、1台は水電解装置であって、もう1台は電気ボイラであってもよい。立上げや立下げ時に昇温や通気などによる消費電力を使用する電力負荷装置であれば、本実施形態で説明する構成を適用可能である。
【0027】
蓄電設備23は、エネルギー貯蔵装置の一例である。蓄電設備23は蓄電池を含んで構成される。蓄電池は、リチウムイオン電池、鉛蓄電池、レドックスフローなどの二次電池である。なお、二次電池以外にも、フライホイール・圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)設備、揚水発電設備などのエネルギー貯蔵装置でもよい。なお、蓄電池の直流を交流に変換する蓄電池PCSや、蓄電池残量の監視装置も、蓄電設備に含まれるとする。
【0028】
接続部24は、外部の電力系統90を含む各部に対して電力を配分する機能を有する。接続部24は、例えば分電盤である。接続部24は、例えば、EMS3からの指示に基づいて各部への電力配分を制御する。受電電力測定部25及び送電電力測定部26は、それぞれ外部の電力系統90との受電電力・送電電力を測定する。
【0029】
[EMS(運転計画作成装置)]
図2は上述のマイクログリッド2における電力の移動・授受を監視するEMS3を説明する図である。すなわち、EMS3は、運転計画を作成する運転計画作成装置として機能する。ただし、
図2には、EMS3の各種機能能のうち、本開示が意図する運転計画の作成機能に関連する機能部のみを記載している。EMS3は、
図2に示す以外の機能として、例えば、トレンドデータの保存機能、デマンド監視機能等を有しているが、これらの機能部については省略している。
【0030】
図2に示すように、EMS3は、立上げ・立下げ許可時間帯設定部31、PV発電電力予測部32、目的関数・制約条件作成部33、最適化部34、データベース(DB)として、水電解設定DB41、蓄電池設定DB42、外部系統設定DB43、及び重みDB44を有する。
【0031】
立上げ・立下げ許可時間帯設定部31は、それぞれ、マイクログリッド2における水電解装置22A,22Bの立上げ(起動)、立下げ(停止)の動作を行うことを許可する時間帯(許可時間帯)を設定する機能を有する。具体的にはパソコンの画面とキーボードもしくはマウス操作によってユーザーが設定する。ユーザーは水電解装置22A,22Bの立上げ操作に対応できる時間帯、立下げ操作に対応できる時間帯をそれぞれ設定する。立上げ・立下げ許可時間帯については、2台の水電解装置22A,22Bについて個別に設定してもよい。ただし、本実施形態では、2台の水電解装置22A,22Bについて共通の設定とする場合について説明する。立上げ・立下げ許可時間帯の設定の一例として、例えば、12時から13時は従業員の昼休憩の時間なので機器の立上げ・立下げ許可時間帯には含めない、という設定を行ってもよい。そのほか、夜勤等があり従業員の交代時間のときは従業員による起動停止操作ができないので、許可時間帯に含めない、という設定してもよい。このように、立上げ・立下げ許可時間帯の設定は、従業員の確保等に基づいて設定してもよいし、水電解装置22A,22Bまたはマイクログリッド2の環境に応じて設定してもよい。立上げ・立下げ許可時間帯に係る設定は事前にオペレータによって設定済みとされ得る。
【0032】
PV発電電力予測部32、目的関数・制約条件作成部33、最適化部34は、EMS3における運転計画の際に機能する機能部であり、運転計画の最適化に係る計算を行う機能部である。すなわち、PV発電電力予測部32、目的関数・制約条件作成部33、最適化部34は、計画作成期間全体の再生可能エネルギー発電装置における発電電力の予測値に係る情報と、負荷装置である水電解装置22A,22Bにおける電力消費の特性に係る情報と、運転計画に含まれる負荷装置の起動動作または停止動作において必要な一時消費電力に関する情報と、に基づいて、運転計画を作成する作成部として機能する。
【0033】
PV発電電力予測部32は、運転計画をする対象となる期間の太陽光発電の発電電力の予測値を準備する機能を有する。PV発電電力予測部32による太陽光発電の発電電力の予測方法としては、気象予報データ(日射量及び気温)を基にPV発電電力を予測する方法、現地のPV発電電力や日射量の過去の実測値から統計的な手法によって予測する方法などがあるが、いずれの方法でもよい。なお、PV発電電力予測部32において発電電力の予測値を計算するのではなく、外部の予測装置等から通信によってPV発電電力の予測値を得てもよい。
【0034】
目的関数・制約条件作成部33は、運転計画を作成する際に必要な最適化問題の目的関数と制約条件式を作成する機能を有する。このとき、目的関数・制約条件作成部33は、蓄電設備23及び水電解装置22A,22Bをそれぞれ制御する制御装置もしくは通信装置から、蓄電設備23及び水電解装置22A,22Bの現在の状態を取得する。具体的には、蓄電設備23からは蓄電池残量を取得し、水電解装置22A,22Bからは現在の動作状態(運転中か停止かを特定する情報)を取得する。
【0035】
また、EMS3は水電解装置、蓄電池、外部系統、単価、重みといった最適化の定式化に必要な値を水電解設定DB41、蓄電池設定DB42、外部系統設定DB43、及び重みDB44の各DBから取得する。各DB41~44に保持される値は、マイクログリッド2に係るオペレータまたは設計者によって事前に設定されて、各DB41~44に保存済みであるとする。
【0036】
目的関数・制約条件作成部33は、上記の各DB41~44に保持される値を用いて、最適化問題の目的関数と制約条件式を作成する。
【0037】
最適化部34は、目的関数・制約条件作成部33において作成された最適化問題の目的関数と制約条件式を解くことで、運転計画を作成する。運転計画に含まれる情報としては、水電解装置22A,22Bの運転計画(起動時間、停止時間、水素製造量)と、蓄電設備23における充放電計画(充電時間、放電時間)である。目的関数・制約条件作成部33で作成される最適化問題は、例えば、後述のように混合整数線形計画問題として定式化される。そのため、最適化部34では、例えば市販の最適化ソルバーを用いて容易に求解できる。
【0038】
水電解設定DB41、蓄電池設定DB42、外部系統設定DB43、及び重みDB44は、それぞれ、最適化問題の作成に必要なパラメータを保持する機能を有する。各DB41~44において保持する情報については、後述する。
【0039】
最適化部34による計算によって運転計画の解を得た後、EMS3は後述の
図5または
図7に示すような作成された運転計画を可視化したグラフを作成し、オペレータにパソコンやスマートフォンのディスプレイ経由で提示する構成としてよい。オペレータはEMS3から提示された結果をみて、マイクログリッド2の運転の参考にしてもよいし、重みや立上げ・立下げ許可時間帯などを一部変更して再計算を行ってもよい。また、最適化部34による運転計画の最適化の結果の提示方法は、ディスプレイ表示に限らず、プリンタなどでの印刷や、メールでの配信でもよい。また、最適化の結果は必ずしも図にする必要はなく、例えば、2台の水電解装置22A,22Bの立上げ時間、立下げ時間だけをオペレータに対してメール等によって送信する形態でもよい。
【0040】
また、最適化部34によって得られた最適化結果に基づいて、EMS3はマイクログリッド2の各装置(具体的には、水電解装置22A,22B及び蓄電設備23)へ指令値として与えて、最適化結果どおりの動作をさせるように各装置を制御してもよい。また、最適化で得られたすべての時刻における値を、マイクログリッド2の各装置への指令値として採用しなくてもよい。例えば1時間おきに最適化計算を行い、各最適化計算で得られた最初の1時間の値を指令値として採用する、といった運用でもよい。
【0041】
さらに、最適化結果の利用方法として、EMS3は、最適化結果に含まれる全ての装置に対して最適化結果に基づく指令値を与える必要はなく、例えば、水電解装置22A,22Bの負荷指令値だけEMS3が与える形態でもよい。この場合、指令値を受けていない蓄電設備23は、別の制御ロジックで動作する態様であってもよい。例えば、蓄電設備23は、電力系統90との受電送電電力がある与えられた目標値になるように充放電制御する構成としてもよい。
【0042】
なお、前述しているように、立上げ、立下げは手動の操作が必要になる場合もあることから、水電解装置22A,22Bが運転中の場合にのみ、その指令値をEMS3が自動で水電解装置22A,22Bに対して配信する、すなわち、立上げ・立下げ動作はオペレータまたはその他の作業者が行い、水電解装置22A,22Bの起動期間の負荷調整はEMS3による最適化結果に基づいて自動で行う構成としてもよい。
【0043】
なお、EMS3から各装置への指令は、イーサネット(登録商標)などの有線通信でもよいし、無線通信でもよい。また、通信のプロトコルは、modbus/TCPやECHONET Liteでもよい。
【0044】
(目的関数及び制約条件式の作成例)
目的関数・制約条件作成部33において、最適化問題の目的関数と制約条件式を作成する手法について説明する。具体的な定式化について説明する前に、記号を以下の表1,2に示すように定義する。表1は最適化問題における時刻に関するパラメータであり、ほとんどの場合、設計者によって与えられる。表2は時刻の集合を定義したものである。
【0045】
【0046】
【0047】
次に、最適化問題の目的関数及び制約条件式の作成に使用するパラメータについて説明する。表3は、水電解装置に関するパラメータ一覧であり、水電解設定DB41にて保持される。表4は、蓄電設備の蓄電池に関するパラメータ一覧であり、蓄電池設定DB42にて保持される。表5は、その他のパラメータ一覧であり、一部は外部系統設定DB43にて管理される。
【0048】
【0049】
表3のNo.8~11に係るパラメータである、水電解装置の最大水素製造流量、最低水素製造流量、待機電力、消費力原単位について、
図3を参照して説明する。
図3は、水電解装置における水素製造流量と消費電力との関係を説明する図である。水電解装置では基本的に水素製造の有無に関係なく消費される待機電力が存在する。また、水電解装置では、水素製造流量に応じ一次関数的に消費電力が発生する。この際の消費電力の傾きを消費電力原単位という。また、水電解装置は、水素製造時の最低水素製造流量と最大水素製造流量とが決められている。したがって、水電解装置の運転計画を作成する際には、動作時(水素製造時)には、水素製造流量が最低水素製造流量と最大水素製造流量との間で設定される必要がある。No.8~11に示すパラメータ群は、水電解装置における電力消費の特性に係る情報に相当する。
【0050】
また、表3のNo.12,13に係るパラメータである、水電解装置の立上げに必要な電力量及び立下げに必要な電力量は、水電解装置の立上げまたは立下げ時のみに必要な電力であり、一時的に消費電力が増大する原因となりえる要素である。そこで、本実施形態では、これらの電力量を一時消費電力と呼ぶ場合がある。
【0051】
【0052】
【0053】
表6は、目的関数に用いられるパラメータ一覧である。表6に示すパラメータは重みDB44にて管理される。
【0054】
【0055】
目的関数・制約条件作成部33は、上記のパラメータを用いて、最適化問題として、混合整数計画問題を作成する。混合整数計画問題(P)を以下に示す。なお、混合整数計画問題(P)は、以下の数式(1)~(20)によって構成される。
【0056】
【0057】
混合整数計画問題(P)に含まれる各式の意味は以下のとおりである。なお、数式(1)は目的関数であり、数式(2)~(20)は制約条件である。
数式(1):最大化する目的関数である。第1項は合計水素製造量価格、第2項は売電価格、第3項は水電解の変動に対するペナルティ項、第4項は送電電力の変動に対するペナルティ項をそれぞれ意味する。
数式(2):マイクログリッド2内の電力の需給バランスが取れていることに係る条件式。
数式(3)送電電力は指定の範囲内でおさまっていることに係る条件式。
数式(4):蓄電池の充放電電力は指定の範囲内でおさまっていることに係る条件式。
数式(5):蓄電池の残量は指定の範囲内でおさまっていることに係る条件式。
数式(6):蓄電池の残量を定義する条件式。
数式(7):蓄電池の初期残量を定義する条件式。
数式(8):水電解装置の状態は運転か停止かのどちらかをとることを示す条件式。
数式(9):水電解装置が運転中の場合、水素製造流量は指定の範囲内に収まっていること及び停止中の場合は0の値をとることを示す条件式。
数式(10):水電解装置の消費電力の計算式。動作状態が停止(ZECi(k)=0)の場合、基本的に消費電力はゼロであるが、立下げ時のみ立下げ操作に必要な消費電力pECi
SDをとる。立下げ操作に必要な消費電力とは、例えば装置停止後に装置内や配管内の有害物質を置換するためのファンやポンプを動かす動力である。動作状態が運転(ZECi(k)=1)の場合、水素製造流量QECi(k)と待機電力pECi
Sbとに応じた消費電力をとる。さらに立上げ時であれば立上げ操作に応じた消費電力pECi
SDをさらに加算する。立上げ操作に応じた消費電力とは、例えば、装置起動前の余熱操作に使用する電熱ヒータの消費電力である。
数式(11):水電解装置の初期時刻の動作状態を定義する条件式。
数式(12):水電解装置の動作状態と立上げ・立下げの関係式。
数式(13):水電解装置の立上げ変数は0か1の値のみをとることを示す条件式。
数式(14):水電解装置は許可された時間帯でしか立上げできないことを示す条件式。
数式(15):水電解装置の立上げ変数は0か1の値のみとることを示す条件式。
数式(16):水電解装置は許可された時間帯でしか立下げできないことを示す条件式。
数式(17):水電解装置の立上げ回数は指定された回数以下であることを示す条件式。
数式(18):水電解装置の立下げ回数は指定された回数以下であることを示す条件式。
数式(19):水電解装置の消費電力の変化を抑制するために導入した補助変数αECi(k)の制約式。
数式(20):系統への送電電力の変化を抑制するために導入した補助変数β(k)の制約式。
【0058】
上記の最適化問題に含まれる補助変数について補足する。補助変数αECiは、前述したように、水電解装置の消費電力が短時間に立ち上がる動きを抑制することを目的として導入している。また、補助変数βは、送電電力の急激な変化を避けるために導入している。
【0059】
マイクログリッド2内で発生した太陽光発電の電力は、所内の水電解装置22A,22B及び蓄電設備23で消費しきれない場合は外部の電力系統90に送電することになる。しかしながら電力系統90に対して変動の大きい送電を行うことは電力系統90の安定性を脅かすこととなり好ましくない。そこで、上記の補助変数を用いることで、電力系統90への送電電力が発生する場合も、なるべく時間的になだらかな送電を行う効果が得られる。また、この補助変数を用いた場合、最適化問題を解くことによって得られた運転計画の終端付近で、蓄電設備23の蓄電池が無駄な放電を行うことを防ぐという別の効果も得られることを発明者らが確認している。
【0060】
運転計画の作成シミュレーション例について後述するが、上記の補助変数を用いない場合、運転計画の終端付近で水電解装置が2台とも定格運転している場合、蓄電設備23が停止しても放電しても目的関数の最大値に違いが表れないため、まれに蓄電設備23が放電して送電する現象が起きていたことを確認している。これに対して、上記の補助変数を入れて最適化問題を作成し、これを解く構成とすることで、上記のような無駄な放電を防ぐ効果が確認された。
【0061】
上述のEMS3では、以下の手順で運転計画を作成する。事前準備として、立上げ・立下げ許可時間帯設定部31、水電解設定DB41、蓄電池設定DB42、外部系統設定DB43、及び重みDB44において、必要な情報(設定値、パラメータ等)が準備されている。この状態で、EMS3は、PV発電電力予測部32、目的関数・制約条件作成部33、最適化部34が動作することによって、運転計画を作成する。すなわち、計画作成期間全体の太陽光発電設備21における発電電力の予測値に係る情報と、水電解装置22A,22Bにおける電力消費の特性に係る情報と、運転計画に含まれる水電解装置22A,22Bの起動動作または停止動作において必要な一時消費電力に関する情報と、に基づいて、運転計画を作成する。
【0062】
EMS3による運転計画の作成、すなわち、最適化に係る計算を開始するトリガー条件は、オペレータによるボタン押下でもよいし、事前に決めた定刻に実施してもよいし、固定時間周期(例えば、1時間周期)で繰り返し実行する形態でもよい。
【0063】
[実施例]
次に、上記の電力供給システム1における運転計画をEMS3でシミュレーションとして作成した結果について説明する。
【0064】
まず、マイクログリッド2における運転計画を作成する際の前提条件として、太陽光発電電力以外のパラメータ群を以下の条件で設定した。
【0065】
(1)最適化の区間は1日半(36時間)と設定した。マイクログリッド2の運転計画は通常1日単位で作成することが多い。しかしながら、本実施例では、最適化に必要な計算時間が長くなるものの、後述するように立上げ・立下げを夜間に行わない制約としているため、太陽光発電の電力がゼロである夜間を含む区間で最適化したほうがよいと想定される。仮に1日(24時間)とした場合、運転計画の終端は本実施例の想定だと23時になる。計画終端時に蓄電設備23の蓄電池の残量がない場合、水電解装置22A,22Bを停止せざるを得ない。その状況は本最適化で意図した立上げ・立下げ許可時間帯の制約を逸脱した状況に陥っているからである。
(2)水電解装置22A,22Bの立上げは朝7時から昼2時に実施可能とし、立下げは朝8時から昼5時に実施可能と設定した。すなわち、夜間の立上げまたは立下げの動作は許可しない設定とした。
(3)電力系統90へは送電のみを想定し、受電は行わない設定とした。
(4)マイクログリッド2では、売電よりも水素製造を優先することとし、水素製造量の重みを1にし、売電の重みを0にした。また、重みwα、wβは最適化計算を何度か繰り返して調整して決めた。目的関数の第3、第4項の値が第1項に対して十分小さくなるようにしている。
【0066】
上記の設定に基づいて設定したパラメータは、それぞれ次の表7に示すとおりである。
【0067】
【0068】
上記のように固定値となるパラメータを設定し、計画起点時刻を2018年4月12日の0時と、対象期間を2018年4月12日0時~13日12時の間とした1日半運転計画を作成した。第1実施例として、太陽光発電電力の予測値を
図4とした場合の結果を
図5に示し、第2実施例として、太陽光発電電力の予測値を
図6とした場合の結果を
図7に示す。
【0069】
(第1実施例)
第1実施例では、
図4に示すように、運転計画対象の期間において、日の出から日の入りの時間と想定されている時間帯は、概ね太陽光の照射が十分である場合のシミュレーションを行った。
【0070】
図5に示すシミュレーション結果は、マイクログリッド内の電力のバランスを左軸基準の積み上げ棒グラフで、蓄電池のSoC(State of Charge)を右軸基準の折れ線グラフで示したものである。SoCは、100×q
ESS(k)/Q
ESSとして算出することができる。
【0071】
図5に示す積み上げ棒グラフにおいて、原点よりも上側は電力負荷(水電解装置消費電力、蓄電池の充電電力、送電電力)を意味し、原点よりも下側は電力供給(太陽光発電電力と蓄電池の放電電力)を意味している。運転計画を作成する前提として、系統内での電力バランスが取れているため、上下対称の形をしている(前述した数式(2)の制約式)。
【0072】
図5に示す結果によれば、初日(4月12日)6時までは蓄電池は太陽光発電の電力を充電し、7時から15時までは2台の水電解装置1,2の両方を定格運転していることがわかる。太陽光の電力が落ちてきた16時からは水電解装置1を停止させて、水電解装置2のみを翌日(4月13日)まで蓄電池の電力を使いながら運転継続している結果が得られた。
【0073】
(第2実施例)
第2実施例では、
図6に示すように、運転計画対象の期間における太陽光の照射が少なくなる条件を想定したシミュレーションを行った。具体的には、太陽光発電が初日の午後以降に急激に低下する(例えば、曇りや雨になる)という予想値を用いたシミュレーションを行った。
【0074】
この場合、
図7に示す結果のように、初日(4月12日)の6時までは蓄電池は太陽光発電の電力で充電し、7時から水電解装置を2台とも稼働させている。14時になると太陽光発電の電力が急激に落ちるが、蓄電池を放電させることで水電解装置を2台とも水素製造効率がよい定格電力付近で運転を継続させて、17時になると2台とも停止させている。このように、第2実施例の場合には、第1実施例と異なり、夜間動作させるよりも定格付近で運転する時間を長くとって蓄電池の電力を使いきったほうが水素製造量が増える、という結果になった。
【0075】
なお、第1実施例、第2実施例のいずれにおいても、水電解装置を立上げる時間、立下げる時間は、それぞれの制約条件(上述の条件(2))を順守していることがわかる。
【0076】
なお、最適化の解を得た後、上述のようにEMS3は、
図5または
図7に示すような可視化グラフを作成し、オペレータにパソコンやスマートフォンのディスプレイ経由で提示してもよい。また、その他の方法を用いて得られた運転計画に含まれる情報の少なくとも一部をオペレータに対して通知してもよい。
【0077】
[ハードウェア構成]
図8を参照して、EMS3のハードウェア構成について説明する。
図8は、EMS3のハードウェア構成の一例を示す図である。EMS3は、1又は複数のコンピュータ100を含む。コンピュータ100は、CPU(Central Processing Unit)101と、主記憶部102と、補助記憶部103と、通信制御部104と、入力装置105と、出力装置106とを有する。EMS3は、これらのハードウェアと、プログラム等のソフトウェアとにより構成された1又は複数のコンピュータ100によって構成される。
【0078】
EMS3が複数のコンピュータ100によって構成される場合には、これらのコンピュータ100はローカルで接続されてもよいし、インターネット又はイントラネットなどの通信ネットワークを介して接続されてもよい。この接続によって、論理的に1つのEMS3が構築される。
【0079】
CPU101は、オペレーティングシステムやアプリケーション・プログラムなどを実行する。主記憶部102は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)により構成される。補助記憶部103は、ハードディスクおよびフラッシュメモリなどにより構成される記憶媒体である。補助記憶部103は、一般的に主記憶部102よりも大量のデータを記憶する。通信制御部104は、ネットワークカード又は無線通信モジュールにより構成される。EMS3における他の装置との通信機能の少なくとも一部は、通信制御部104によって実現されてもよい。入力装置105は、キーボード、マウス、タッチパネル、および、音声入力用マイクなどにより構成される。出力装置106は、ディスプレイおよびプリンタなどにより構成される。
【0080】
補助記憶部103は、予め、プログラム110および処理に必要なデータを格納している。プログラム110は、EMS3の各機能要素をコンピュータ100に実行させる。プログラム110によって、例えば、上述した運転計画作成方法に係る処理がコンピュータ100において実行される。例えば、プログラム110は、CPU101又は主記憶部102によって読み込まれ、CPU101、主記憶部102、補助記憶部103、通信制御部104、入力装置105、および出力装置106の少なくとも1つを動作させる。例えば、プログラム110は、主記憶部102および補助記憶部103におけるデータの読み出しおよび書き込みを行う。
【0081】
プログラム110は、例えば、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどの有形の記憶媒体に記録された上で提供されてもよい。プログラム110は、データ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0082】
[実施形態の作用効果]
上記の運転計画作成装置としてのEMS3、運転計画作成方法及び運転計画作成プログラムでは、再生可能エネルギー発電装置としての太陽光発電設備21と、負荷装置としての水電解装置22A,22Bが含まれるマイクログリッド2において、水電解装置22A,22Bの運転計画が作成される。運転計画には、水電解装置22A,22Bの起動動作(立上げ動作)または停止動作(立下げ動作)を実行する計画が含まれる。そして、EMS3では、運転計画の作成期間全体の太陽光発電設備21における発電電力の予測値に係る情報と、水電解装置22A,22Bにおける電力消費の特性に係る情報と、運転計画に含まれる水電解装置22A,22Bの起動動作または停止動作において必要な一時消費電力に関する情報と、に基づいて、運転計画が作成される。
【0083】
上記のように、本実施形態に係る手法では、運転計画の作成期間全体の太陽光発電設備21における発電電力の予測値に係る情報と、水電解装置22A,22Bにおける電力消費の特性に係る情報と、水電解装置22A,22Bの起動動作または停止動作において必要な一時消費電力に関する情報と、に基づいて運転計画が作成される。このように、水電解装置22A,22Bにおける電力消費の特性に係る情報と、水電解装置22A,22Bの起動動作または停止動作において必要な一時消費電力に関する情報とを用いることで、一時消費電力を含む、水電解装置22A,22Bの電力消費に関するより詳細な情報に基づいて運転計画を作成することができる。したがって、負荷装置である水電解装置22A,22Bの電力消費特性を考慮した運転計画を柔軟に作成することが可能となる。
【0084】
特に、上記の手法で作成された運転計画は、水電解装置22A,22Bの立上げ時及び立下げ時に必要な電力を考慮した運転計画であるため、実現可能性が高い運転計画を作成することが可能となる。
【0085】
マイクログリッド2は、エネルギー貯蔵装置としての蓄電設備23を有していてもよい。この場合、EMS3では、蓄電設備23における蓄電量(エネルギー貯蔵量)にも基づいて、運転計画を作成してもよい。このような構成とすることで、蓄電設備23において蓄電することと、蓄電された電力を活用することを想定した運転計画を作成することが可能となり、より柔軟に運転計画を作成することができる。
【0086】
EMS3では、起動動作または停止動作の実行可能時間帯を限定した条件で、前記運転計画を作成してもよい。水電解装置22A,22Bの起動動作及び停止動作は、例えば、作業者による動作が必要な場合など、動作可能な時間帯が限定される場合がある。上記の構成とした場合、人員配置等を考慮した運転計画を作成することができることから、運転計画の実行への支障が低減された運転計画を作成することが可能となる。また、運転計画に基づいて人員配置を計画することも可能となる。
【0087】
EMS3では、水電解装置22A,22Bの起動動作及び停止動作の上限または回数を指定した条件で、運転計画を作成してもよい。水電解装置22A,22Bの起動動作及び停止動作の回数が増えることは、作業者の負担の増大や、負荷装置の起動動作及び停止動作によって生じる消費電力変動に由来する劣化を引き起こす可能性が考えられる。このような場合に、上記の構成とすることで、運転計画の実行への支障が低減された運転計画を作成することが可能となる。
【0088】
EMS3では、水電解装置22A,22Bの消費電力変動がなだらかな計画を優先して採用する条件で、運転計画を作成してもよい。上記実施形態では、水電解装置22A,22Bの変動をなるべくなだらかにするための調整パラメータwαと、補助変数αECiとを用いることで、消費電力変動がなだらかな計画を優先して採用する条件を実現している。水電解装置22A,22Bの消費電力変動は、装置自体の劣化に影響を与える可能性がある。また、水電解装置22A,22Bの消費電力変動に由来して、外部とのエネルギー授受量が変化する可能性がある。これに対して、上記の構成とすることで、運転計画の実行への支障が低減された運転計画を作成することが可能となる。
【0089】
マイクログリッド2は、外部の電力系統90との間でエネルギーの授受が可能であってもよい。このとき、EMS3では、外部とのエネルギー授受量の変動がなだらかな計画を優先して採用する条件で、運転計画を作成してもよい。上記実施形態では、送電電力の変動をなるべくなだらかにするための調整パラメータwβと、補助変数βとを用いることで、外部の電力系統90との授受電力の変動がなだらかな計画を優先して採用する条件を実現している。外部とのエネルギー授受量が増大すると、外部の電力系統の安定性を脅かす可能性がある。これに対して、上記の構成とすることで、外部とのエネルギー授受量が安定した運転計画を作成することが可能となる。
【0090】
EMS3では、より具体的には、水電解装置22A,22Bの動作によって生成される生成物の総量または当該生成物に基づく収益が最大化することを条件とした最適化問題を設定し、これを解くことによって運転計画を作成する態様であってもよい。上記の構成とすることで、負荷装置の動作に基づく成果が大きくなる条件で運転計画を作成することが可能となる。
【0091】
また、上記の最適化問題を設定し、これを解く構成によれば、太陽光発電の発電電力の予想値に基づいて、水素製造量もしくは収益を最大化する上で、水電解装置22A,22Bを蓄電設備23に蓄電された電力で夜間運転したほうがよいのか、または、停止したほうがよいのか、という複雑な問題について意思決定ができる。
【0092】
なお、上記実施形態のように、再生可能エネルギーが太陽光発電であって、水電解装置22A,22Bの起動動作または停止動作を太陽光発電設備21における発電終了時から発電開始時(つまり夜間)に実施しない制約となっている場合、最適化問題を用いて運転計画を作成する対象となる区間の終端は、太陽光発電設備21における発電終了時から発電開始時ではように設定され得る。
【0093】
最適化問題を設定する対象となる(運転計画を作成する対象となる)区間の終端が夜間になっている場合、運転計画の終端タイミングまでは、蓄電設備23において蓄電された電力を利用して水電解装置22A,22Bが運転するように計画を作成することができる。しかしながら、運転計画の対象区間が終了した後はその保証がない。すなわち、蓄電設備23における蓄電容量が0になった場合には、太陽光発電設備21も動作していないため、水電解装置22A,22Bを停止せざるを得ない状況も考えられる。上述の最適化問題は、あくまで計画区間内での運転計画を作成するものであるため、計画区間が終了した後のことは考慮しない設定となっている。したがって、夜間に水電解装置22A,22Bの停止動作ができない条件になっている場合には、計画区間の終端が夜間になっていることは不適切であるといえる。換言すると、計画区間の終端は、負荷装置(水電解装置22A,22B)の停止動作が可能な時間帯に設定され得るべきであるともいえる。このような構成とすることで、計画区間の終端タイミング以降にマイクログリッド2を構成する各部の異常動作(特に、水電解装置の強制終了)等を防ぐことが可能となる。
【0094】
[変形例]
本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0095】
上記の実施形態では、マイクログリッド2が2台の水電解装置22A,22Bを有する場合について説明したが、前記実施例では水電解装置を2つとしたが、むろん1つでもよいし、より多くの台数でもよい。水電解装置1台と電気ボイラ1台といった組み合わせでもよい。
【0096】
上記の実施形態では、簡単のために、蓄電設備23における蓄電池の充放電によるエネルギー損失について考慮しなかった。実際には充電した電力量のすべてを放電で取り出すことはできない。そのような充放電による損失を考慮してもよい。充放電損失を考慮した最適化の定式化の手法として、例えば、特開2019-97267号公報(エネルギーマネジメントシステム、電力需給計画最適化方法、及び電力需給計画最適化プログラム)に記載された手法を用いてもよい。
【0097】
上記の実施形態では、蓄電設備23(蓄電池)は1つである場合を想定した、複数あってもよい。蓄電設備23の数の変更に応じた目的関数・制約条件の拡張は、当事者であれば容易に行うことができる。なお、蓄電設備23を有していないマイクログリッド2であっても、上記実施形態と同様の運転計画の作成を行うことができる。この場合も、目的関数・制約条件の該当箇所の変更によって上記の拡張・変更に対応することが可能である。
【0098】
上記の実施形態では、マイクログリッド2が外部の電力系統90との間でエネルギーを授受することを前提としていたが、外部とエネルギー授受を行わないマイクログリッド2にも上記の手法は適用可能である。例えば、オフグリッド型のマイクログリッド2においても、上記実施形態と同様の運転計画の作成を行うことができる。この場合も、目的関数・制約条件の該当箇所の変更によって上記の拡張・変更に対応することが可能である。
【0099】
上記の実施形態では、立上げ回数の上限であるSUi
maxを2回としたが、これは設定例の1つである。例えば、立上げ回数の上限は、プログラムが自動で調整する構成であってもよい。例えば、水電解装置の初期状態であるzECi
0が1(つまり、計画起点時ですでに立上げ済み)の場合、SUi
maxを1に設定する、というように、水電解装置の動作状態に基づいて設定を変更するような処理を行ってもよい。
【0100】
上記の実施形態では、対象となる全区間に対して、立上げ回数の上限、立下げ回数の下限を指定したが、より細かく時間帯ごとにこれらの値を指定してもよい。例えば、1日目の立上げ回数の上限、2日目の立上げ回数の上限というように、個別にすることが考えられる。立下げ回数の下限についても同様である。マイクログリッドにおいて水電解装置の立上げ、立下げを作業者が行う運用とされている場合、上記のような制約条件を用いながら運転計画を作成することにより作業総量や人員等の制約に配慮できる。
【0101】
さらに、水電解装置の動作に特定の制約がある場合、当該制約に基づいた条件を設定してもよい。一例として、水電解装置の夜間運転を行わないというポリシーに基づいて、水電解装置を毎日立上げ・立下げを行うと運用のルールで決めている場合、立上げ回数の上限を設定する代わりに、立上げ回数を指定することとしてもよい。この場合、上述の制約条件のうち数式(17)における不等号を、等号とすることで対応できる。立下げについても同様である。
【0102】
立上げ・立下げ回数の制約条件については、水電解装置毎に設定することに加えて、全機器(例えば2台)を通算しての立上げ/立下げ回数を制約条件として加えてもよい。
【0103】
上記実施形態では、水素の製造流量と電力消費量の関係式(
図3参照)が1次式であることを前提とした説明をしたが、より高次の関係式でもよいし、非線形マップでもよい。水素の製造流量と電力消費量との関係に係る情報に基づいて制約条件を変更することによって、最適化問題において対応が可能である。
【0104】
上記実施形態では、最適化問題を混合整数線形計画問題として定式化したが、特にこれに限定しない。例えば非線形計画問題として定式化してもよい。非線形計画問題を解くアルゴリズムとして、例えば、遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm、GA)や粒子群最適化(Particle Swarm Optimization、PSO)を用いてもよい。なお、非線形計画問題は大域的最適解を求めることが難しいことが知られているため、準最適解(近似解)を求める形態でもよい。
【0105】
[付記]
水素は次世代のエネルギー源として注目されている。本発明は、再生可能エネルギー由来100%の電力を用いて効率的に水素製造を行うことができる発明である。そのため、本発明は、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の以下の目標、ターゲットに貢献するものである。
・目標7「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」
・ターゲット7.2「2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる。」
・目標9「強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」
・ターゲット9.3「2030年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。全ての国々は各国の能力に応じた取組を行う。」
【符号の説明】
【0106】
1 電力供給システム
2 マイクログリッド
3 エネルギーマネジメントシステム(EMS:運転計画作成装置)
21 太陽光発電設備(再生可能エネルギー発電装置)
21a 太陽光パネル
22A 水電解装置(負荷装置)
22B 水電解装置(負荷装置)
23 蓄電設備(エネルギー貯蔵装置)
24 接続部
25 受電電力測定部
26 送電電力測定部
31 立上げ・立下げ許可時間帯設定部
32 PV発電電力予測部(作成部)
33 制約条件作成部(作成部)
34 最適化部(作成部)
90 電力系統