(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】水電気分解システム
(51)【国際特許分類】
C25B 15/02 20210101AFI20240110BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240110BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240110BHJP
C25B 9/65 20210101ALI20240110BHJP
【FI】
C25B15/02
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/65
(21)【出願番号】P 2021563462
(86)(22)【出願日】2019-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2019048117
(87)【国際公開番号】W WO2021117097
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】米澤 遊
(72)【発明者】
【氏名】中島 善康
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/142693(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2006/0065302(US,A1)
【文献】国際公開第2007/018830(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 15/02
C25B 1/04
C25B 9/00
C25B 9/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電装置と、
隔膜を介して陽極の表面と陰極の表面との間に挟まれる部分の抵抗成分と
、キャパシタ成分を並列に有する水電気分解セルと、
前記発電装置から供給される電力を変換して、前記水電気分解セルに印加する出力電圧を生成する電力変換器とを備え、
電流
が前記抵抗成分に流れ始める電圧を閾値電圧とするとき、
前記電力変換器は、前記出力電圧が前記閾値電圧未満にならないように、前記出力電圧の変動を前記閾値電圧以上の範囲に制限する、水電気分解システム。
【請求項2】
前記発電装置から供給される電力に基づいて、前記電力変換器の制御指令値を生成する制御器を備え、
前記電力変換器は、前記出力電圧が前記制御指令値により前記閾値電圧未満にならないように、前記出力電圧の変動を前記範囲に制限する、請求項1に記載の水電気分解システム。
【請求項3】
前記電力変換器は、前記制御指令値により指示される前記出力電圧の指示電圧値と、前記閾値電圧以上の設定電圧値とのうち大きい方の値に、前記出力電圧を近づける、請求項2に記載の水電気分解システム。
【請求項4】
前記電力変換器は、前記指示電圧値と前記設定電圧値とのうち大きい方の値と、前記出力電圧のフィードバック値との差が零に近づくように、前記出力電圧を制御する、請求項3に記載の水電気分解システム。
【請求項5】
前記電力変換器は、前記指示電圧値に前記出力電圧を近づける第1の制御値と、前記閾値電圧以上の設定電圧値に前記出力電圧を近づける第2の制御値とのうち、前記出力電圧を大きくする方の制御値に応じて、前記出力電圧を制御する、請求項3に記載の水電気分解システム。
【請求項6】
前記第1の制御値及び前記第2の制御値は、前記電力変換器のスイッチングのデューティ比である、請求項5に記載の水電気分解システム。
【請求項7】
前記電力変換器は、前記制御指令値により指示される前記出力電圧の指示電圧値に前記出力電圧を近づける第1の制御値と、前記出力電圧が前記閾値電圧以上となる設定電流値に前記水電気分解セルに流れる出力電流を近づける第3の制御値とのうち、前記出力電圧を大きくする方の制御値に応じて、前記出力電圧を制御する、請求項2に記載の水電気分解システム。
【請求項8】
前記第1の制御値及び前記第3の制御値は、前記電力変換器のスイッチングのデューティ比である、請求項7に記載の水電気分解システム。
【請求項9】
前記電力変換器は、前記設定電流値と前記出力電流のフィードバック値との差に応じて前記第3の制御値を生成する、請求項7又は8に記載の水電気分解システム。
【請求項10】
前記電力変換器は、前記指示電圧値と前記出力電圧のフィードバック値との差に応じて前記第1の制御値を生成する、請求項5から9のいずれか一項に記載の水電気分解システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水電気分解システム及び水電気分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水を電気分解する電解装置と、太陽電池の出力電圧V1を電圧V2に降圧して電解装置へ出力するスイッチングレギュレータ部とを備える電解システムが知られている。スイッチングレギュレータ部は、電圧V2に基づくフィードバック制御により、電圧V2の変動を抑えた定電圧電源として用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水を電気分解する電解装置(以下、"水電気分解セル"ともいう)に印加する電圧の変動が定電圧電源により抑えられていても、太陽電池等の発電装置から供給される電力の挙動によっては、水電気分解セルに印加する電圧が変動する場合がある。例えば、発電装置から供給される電力が急減すると、フィードバックがかかっていても、水電気分解セルに印加する電圧が一時的に急減する場合がある。水電気分解セルに印加する電圧の変動は、水電気分解セルに過剰な突入電流を流し、水電気分解セルを劣化させる要因となりうる。
【0005】
本開示は、水電気分解セルに流れる突入電流を抑制可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
発電装置と、
水電気分解セルと、
前記発電装置から供給される電力を変換して、前記水電気分解セルに印加する出力電圧を生成する電力変換器とを備え、
前記電力変換器は、前記出力電圧が前記水電気分解セルの閾値電圧未満にならないように、前記出力電圧の変動を前記閾値電圧以上の範囲に制限する、水電気分解システムを提供する。
【0007】
また、本開示は、
水電気分解セルと、
入力される電力を変換して、前記水電気分解セルに印加する出力電圧を生成する電力変換器とを備え、
前記電力変換器は、前記出力電圧が前記水電気分解セルの閾値電圧未満にならないように、前記出力電圧の変動を前記閾値電圧以上の範囲に制限する、水電気分解装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術によれば、水電気分解セルに流れる突入電流を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態における水電気分解システムの構成例を示す図である。
【
図3】水電気分解セルの電気特性の一例を示す図である。
【
図4】水電気分解セルに流れる突入電流を例示する図である。
【
図5】水電気分解セルの等価回路の一例を示す図である。
【
図6】水電気分解セルに印加する電圧が変動する場合を例示する図である。
【
図7】一比較形態における水電気分解システムの構成例を示す図である。
【
図8】一比較形態における水電気分解システムの動作波形を例示する図である。
【
図9】水電気分解セルにおける電圧と電流との静特性の一例を示す図である。
【
図10】水電気分解セルにおける電圧と電流との動特性の一例を示す図である。
【
図11】電力変換器の第1の構成例を示す図である。
【
図12】電力変換器の第2の構成例を示す図である。
【
図13】電力変換器の第3の構成例を示す図である。
【
図14】電力変換器の動作波形を例示する図である。
【
図15】出力電圧の変動を水電気分解セルの閾値電圧以上の範囲に制限しない場合の動作波形の一例を示す図である。
【
図16】出力電圧の変動を水電気分解セルの閾値電圧以上の範囲に制限する場合の動作波形の一例を示す図である。
【
図17】制御部のハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、一実施形態における水電気分解システムの構成の一例を示す図である。
図1に示す水電気分解システム1001は、ソーラーパネル10が発電した電気エネルギーにより、水を電気分解することによって水素を生成する。水電気分解システム1001は、ソーラーパネル10から最大電力が出力されるように、ソーラーパネル10から引き出す電力を制御する。水電気分解システム1001は、ソーラーパネル10及び水電気分解装置101を備える。水電気分解装置101は、MPPT(Maximum Power Point Tracking)制御器70、電力変換器20、セル30、電流計72及び電圧計73を備える。
【0012】
ソーラーパネル10は、発電した第1の直流電力Poを出力する発電装置の一例であり、パネル面に配列された複数の太陽電池を有する。太陽電池は、光起電力効果を利用し、太陽光のような光エネルギーを直流電力に変換して出力する。
【0013】
太陽電池は、内部抵抗の比較的大きな電池のような電流-電圧特性をもっており、電流を引き出すことで電圧降下が発生する。最大の電力を引き出せる電流と電圧で決まる最大電力点(Maximum Power Point)は、太陽電池を照らす照度(日射量S)と太陽電池の温度によって変化する。照度が高ければ、発電量が上がるため、最大電力は増加する。一方で、太陽電池の温度が高くなると内部抵抗が増加し最大電力が低下する。
【0014】
常に最大電力点を満たすように太陽電池から引き出す電力を制御する方法を最大電力点追従(MPPT:Maximum Power Point Tracking)制御と称し、山登り法と呼ばれる制御方法が使用されることが多い。太陽電池を高効率で使うためには、MPPT制御は有効な技術である。以下では、ソーラーパネル10の最大電力点での出力電力を最大電力Psolar_maxと表記する。
【0015】
MPPT制御器70は、ソーラーパネル10の出力ライン71に設置された電流計72及び電圧計73により計算されたソーラーパネル10の出力電力(第1の直流電力P
o)を、最大電力Psolar_maxに近づける制御指令値を生成する。
図1に示すMPPT制御器70は、ソーラーパネル10から供給される電力(第1の直流電力P
o)に基づいて、MPPT制御を行うことにより、ソーラーパネル10の負荷の一つである電力変換器20の制御指令値rを生成する。制御指令値rにより指示される内容は、電力変換器20の出力電圧V
outの目標値を表す指示電圧値でもよいし、電力変換器20の出力電圧V
outを制御するデューティ比の目標値を表す指示デューティ比でもよい。
【0016】
電力変換器20は、ソーラーパネル10が出力する第1の直流電力Poを、MPPT制御器70から供給される制御指令値rに応じて、第2の直流電力Poutに変換して出力するDC-DCコンバータである(DC:Direct Current)。電力変換器20は、MPPT制御器70から供給される制御指令値rに応じて、ソーラーパネル10からの入力電圧Vinを出力電圧Voutに変換し、出力経路21に接続されるセル30の両端に出力電圧Voutを印加する。
【0017】
セル30は、水電気分解セルの一例である。セル30は、単体のセルでもよいし、複数のセルが直列に接続されるセルスタックでもよい。セル30がセルスタックの場合、出力電圧Voutがセル30の両端に印加されることにより、直列に接続される複数のセルの各々の両端(陽極と陰極との間)に、出力電圧Voutを分圧した電圧が印加される。
【0018】
図2は、水電気分解セルの構造例を示す図である。
図2に示すセル30は、単体のセルを表すが、セルスタックの場合、直列に接続される複数のセルのうちの一つのセルを表す。セル30は、電解槽とも称する。セル30は、陽極31と、陰極32と、隔膜33とを有する。隔膜33は、陽極31と陰極32との間に挟まれている。陽極31に供給される水(H
2O)は、陽極31と陰極32との間に印加される電圧により電気分解される。この電気分解によって、陽極31において酸素(O
2)が発生し、水素イオン(H
+)が陽極31側から隔膜33を通って陰極32側に移動して、陰極32において水素(H
2)が発生する。陽極31において発生した酸素は、酸素配管を介して、大気に放出又は貯蔵される。陰極32において発生した水素は、水素配管を介して、水素タンクに貯蔵される。水素タンクに貯蔵された水素は、エネルギーとして利用される。
【0019】
図3は、水電気分解セルの電気特性の一例を示す図である。セル30は、ダイオードのような電流‐電圧特性を持っており、閾値電圧V
thから急激に電流が流れ出し、電気分解が始まる。セル30がN個のセルが直列に接続されるセルスタックの場合、直列に接続されるN個のセル全体の閾値電圧は、セル1個当たりの閾値電圧(1~1.5V程度)のN倍となる。セル30に流れる電流が大きくなるほど、水素の発生量も多くなる。
【0020】
ところが、セル30に過剰な突入電流が瞬間的に流れると、セル30の劣化(特に、陽極31等の電極の劣化)が進行し、セル30の抵抗値が増大する。セル30の抵抗値が増大すると、セル30に同じ電圧を印加しても、セル30に流れる電流が低下するので、水素の発生量も低下してしまう(
図3の破線参照)。
【0021】
例えば
図4に示すように、太陽の日射量Sが変動すると、過剰な突入電流iが、セル30に流れる電流(セル電流I
cell)に瞬間的に発生することがある。日射量Sの変動に伴って、ソーラーパネル10から電力変換器20に供給される第1の直流電力P
oは変動するので、日射量Sの変動が大きいと、電力変換器20から出力される第2の直流電力P
outも大きく変動する場合がある。第2の直流電力P
outの変動に伴って、セル30に印加する出力電圧V
outが大きく変動すると、出力電圧V
outの変動に同期した突入電流iがセル30に瞬間的に流れることがある。出力電圧V
outの変動に同期した突入電流iがセル30に瞬間的に流れる要因の一つは、セル30に構造上存在するキャパシタ成分である。
【0022】
図5は、水電気分解セルの等価回路の一例を示す図である。
図5に示す等価回路11で表されるセル30は、陽極31と陰極32との間の抵抗成分に並列に寄生するキャパシタ成分Cpを有する。R
sは、陽極31及び陰極32の構造上の抵抗成分、R
Cellは、隔膜33を介して陽極31の表面と陰極32の表面との間に挟まれる部分の抵抗成分、R
Cpは、キャパシタ成分Cpに直列に存在する抵抗成分を表す。V
thは、セル30の閾値電圧(ダイオード成分の順方向特性における順方向電圧に相当)を表す。I
dは、抵抗成分R
Cell及びダイオード成分に流れる電流、I
capは、抵抗成分R
Cp及びキャパシタ成分Cpに流れる電流、I
cell(=I
d+I
cap)は、セル30に流れる総電流を表す。キャパシタ成分Cpは、数F(ファラド)の容量を有する。
【0023】
図6は、水電気分解セルに印加する電圧が変動する場合を例示する図である。セル電圧V
cdは、セル30に印加する電圧を表し、電力変換器20の出力電圧V
outに略等しい。セル電流I
cellは、セル30に流れる電流を表し、電力変換器20の出力電流I
outに略等しい。セル電圧V
cdの変動に同期して、キャパシタ成分Cpを充電又は放電する電流I
cap(すなわち、過剰な突入電流)が瞬間的に流れる。
【0024】
セル電圧Vcdが閾値電圧Vthまで上昇する期間t1-t2には、電流Idが流れずに、キャパシタ成分Cpを充電する過剰な電流Icapがキャパシタ成分Cpに瞬間的に流れる。セル電圧Vcdが閾値電圧Vthよりも上昇してから閾値電圧Vth以上の一定値になるまでの期間t2-t3では、電流Icapと電流Idの両方が流れる。セル電圧Vcdが閾値電圧Vth以上の一定値である期間t3-t4では、電流Icapが流れずに電流Idが流れる。セル電圧Vcdが閾値電圧Vthに低下するまでの期間t4-t5には、電流Icapと電流Idの両方が流れる。セル電圧Vcdが閾値電圧Vthよりも低下する期間t5-t6には、電流Idが流れずに、キャパシタ成分Cpを放電する過剰な電流Icapがキャパシタ成分Cpに瞬間的に流れる。
【0025】
このような充放電電流(突入電流)を抑制するため、例えば
図7に示す水電気分解システム1000のように、出力経路21に蓄電池システム40を設ける形態が考えられる。蓄電池システム40において充放電される電力P
bよって、セル30に供給される電力P
aの変動は抑制される(
図8参照)。電力P
aの変動が抑制されることによって、セル30に印加する電圧の変動も抑制されるので、セル30のキャパシタ成分に流れる突入電流を抑制できる。しかしながら、このような蓄電池システム40を設ける形態では、蓄電池システム40の充放電時の損失が新たに生じてしまうことがある。
【0026】
本開示の実施形態における電力変換器20は、このような蓄電池システム40の有無にかかわらず、セル30のキャパシタ成分に流れる突入電流を抑制できる機能を有する。次に、この機能について説明する。
【0027】
図9は、水電気分解セルにおける電圧と電流との静特性の一例を示す図である。セル電圧V
cdは、セル30に印加する電圧を表し、電力変換器20の出力電圧V
outに略等しい。セル電流I
cellは、セル30に流れる電流を表し、電力変換器20の出力電流I
outに略等しい。
【0028】
出力電圧V
out(セル電圧V
cd)を変動させる範囲を制限しなければ、出力電圧V
outは範囲Xを自由に変動できる。このため、出力電圧V
outを一定値に制御するフィードバック制御を行っていても、ソーラーパネル10から供給される電力P
Oが急減すると、出力電圧V
outは、閾値電圧V
th未満の範囲X
1に一時的に急減するおそれがある。セル30に印加する出力電圧V
out(セル電圧V
cd)が閾値電圧V
th未満の範囲X
1で変動すると、セル30のキャパシタ成分Cpに突入電流が流れてしまう(
図5,6参照)。
【0029】
これに対し、本開示の実施形態における電力変換器20は、出力電圧V
out(セル電圧V
cd)がセル30の閾値電圧V
th未満にならないように、出力電圧V
out(セル電圧V
cd)の変動を閾値電圧V
th以上の範囲Yに制限する機能を有する(
図9参照)。このような制限機能により、出力電圧V
out(セル電圧V
cd)が閾値電圧V
th未満の範囲X
1で変動しないように制御できるので、セル30のキャパシタ成分Cpに流れる突入電流を抑制でき、セル30の劣化を抑制できる。セル30に常に印加する出力電圧V
outが閾値電圧V
th以上であると、セル30のキャパシタ成分Cpに流れる突入電流を常に抑制できる。もちろん、このような制限機能があっても、出力電圧V
outがセル30の閾値電圧V
th未満になる期間(例えば、電力変換器20の起動時の出力電圧V
outの立ち上がり期間及び停止時の出力電圧V
outの立ち下がり期間など)があってもよい。
【0030】
範囲Yの上限値は、特に限定されないが、セル30が許容する最大印加電圧などによって適宜設定されるとよい。
【0031】
なお、本開示の実施形態においても、出力電圧Voutの平滑化等のために蓄電池システム40のような蓄電部を設けてもよいが、そのような蓄電部を設けないことにより、当該蓄電部での充放電時の損失の低減とセル30に流れる突入電流の抑制とを両立できる。
【0032】
図10は、水電気分解セルにおける電圧と電流との動特性の一例を示す図である。実線のXは、出力電圧V
out(セル電圧V
cd)の変動を閾値電圧V
th以上の範囲に制限しない場合の動作波形の一例を示す。破線のYは、出力電圧V
out(セル電圧V
cd)の変動を閾値電圧V
th以上の範囲に制限する場合の動作波形の一例を示す。
【0033】
電力変換器20は、出力電圧Voutが制御指令値rにより閾値電圧Vth未満にならないように、出力電圧Vout(セル電圧Vcd)の変動を閾値電圧Vth以上の範囲Yに制限する機能を有する。この制限機能により、制御指令値rにより指示される出力電圧Voutの指示電圧値Vrが閾値電圧Vth未満でも、閾値電圧Vth未満への出力電圧Vout(セル電圧Vcd)の低下を妨げるので、セル30のキャパシタ成分Cpに流れる突入電流を抑制できる。
【0034】
例えば、電力変換器20は、制御指令値rにより指示される出力電圧Voutの指示電圧値Vrと、閾値電圧Vth以上の設定電圧値V1とのうち大きい方の値に、出力電圧Voutを近づける制御機能を有する。この制御機能により、制御指令値rにより指示される出力電圧Voutの指示電圧値Vrが閾値電圧Vth未満でも、閾値電圧Vth未満への出力電圧Vout(セル電圧Vcd)の低下を妨げるので、セル30のキャパシタ成分Cpに流れる突入電流を抑制できる。
【0035】
図11は、電力変換器20の第1の構成例を示す図である。
図11に示す電力変換器20Aは、上述の電力変換器20の一例であり、電源回路50及び制御部60を有する。
【0036】
電源回路50は、入力電圧V
inを出力電圧V
outに降圧変換するレギュレータであるが、
図11に示す構成に限られない。
図11に示す電源回路50は、スイッチング素子51,52と、インダクタ53と、コンデンサ54とを有する公知のバック型変換回路である。
【0037】
制御部60は、電源回路50の変換動作を制御する。制御部60は、指示電圧値Vrと設定電圧値V1とのうち大きい方の値Vrrと、出力電圧Voutのフィードバック値との差E1が零に近づくように、電源回路50の変換動作を制御することで、出力電圧Voutを制御する。制御部60は、選択器61、減算器62、補償器63及びPWM(Pulse Width Modulation)変調器64を有する。
【0038】
選択器61は、指示電圧値Vrと設定電圧値V1とのうち大きい方の値を選択し、選択した大きい方の値Vrrを減算器62に供給する。減算器62は、選択器61から供給される値Vrrと出力電圧Voutのフィードバック値との差E1を導出する。補償器63は、比例・積分制御により、差E1を零に近づけるデューティ比Dを算出する。PWM変調器64は、デューティ比Dに従って、スイッチング素子51,52を相補的にオン又はオフにスイッチングさせる。
【0039】
制御部60によれば、電力変換器20Aは、制御指令値rにより指示される出力電圧Voutの指示電圧値Vrと、閾値電圧Vth以上の設定電圧値V1とのうち大きい方の値に、出力電圧Voutを近づけることができる。これにより、指示電圧値Vrが閾値電圧Vth未満になっても、出力電圧Voutは閾値電圧Vth以上の設定電圧値V1に維持されるので、セル30に流れる突入電流を抑制できる。
【0040】
図12は、電力変換器20の第2の構成例を示す図である。
図12に示す電力変換器20Bは、上述の電力変換器20の一例であり、電源回路50及び制御部65を有する。上述の構成例と同様の点についての説明は、上述の説明を援用することで、省略する。
【0041】
制御部65は、指示電圧値Vrに出力電圧Voutを近づけるデューティ比Aと、閾値電圧Vth以上の設定電圧値V1に出力電圧Voutを近づけるデューティ比Bとのうち、出力電圧Voutを大きくする方のデューティ比に応じて、出力電圧Voutを制御する。デューティ比Aは、指示電圧値に出力電圧を近づける第1の制御値の一例である。デューティ比Bは、閾値電圧以上の設定電圧値に出力電圧を近づける第2の制御値の一例である。デューティ比Dは、第1の制御値と第2の制御値とのうち、出力電圧を大きくする方の制御値の一例である。
【0042】
制御部65は、減算器62、補償器63、補償器67、選択器66及びPWM変調器64を有する。減算器62は、指示電圧値Vrと出力電圧Voutのフィードバック値との差E1を算出する。補償器63は、差E1に応じてデューティ比Aを生成し、例えば比例・積分制御により、差E1を零に近づけるデューティ比Aを導出する。補償器67は、入力電圧Vinの検出値と設定電圧値V1とを用いて、デューティ比Bを生成する。例えば、補償器67は、入力電圧Vinの検出値を設定電圧値V1で除算することによって、デューティ比B(=Vin/V1)を算出する。選択器66は、デューティ比Aとデューティ比Bとのうち、出力電圧Voutを大きくする方の値を選択し、選択した値をデューティ比DとしてPWM変調器64に供給する。PWM変調器64は、デューティ比Dに従って、スイッチング素子51,52を相補的にオン又はオフにスイッチングさせる。
【0043】
制御部65によれば、電力変換器20Bは、制御指令値rにより指示される出力電圧Voutの指示電圧値Vrと、閾値電圧Vth以上の設定電圧値V1とのうち大きい方の値に、出力電圧Voutを近づけることができる。これにより、指示電圧値Vrが閾値電圧Vth未満になっても、出力電圧Voutは閾値電圧Vth以上の設定電圧値V1に維持されるので、セル30に流れる突入電流を抑制できる。
【0044】
図13は、電力変換器20の第3の構成例を示す図である。
図13に示す電力変換器20Cは、上述の電力変換器20の一例であり、電源回路50及び制御部68を有する。上述の構成例と同様の点についての説明は、上述の説明を援用することで、省略する。
【0045】
制御部68は、指示電圧値V
rに出力電圧V
outを近づけるデューティ比Aと、設定電流値I
1に出力電流I
outを近づけるデューティ比Cとのうち、出力電圧V
outを大きくする方のデューティ比に応じて、出力電圧V
outを制御する。設定電流値I
1は、零よりも僅かに大きい値に設定されることが好ましい(
図9参照)。デューティ比Aは、指示電圧値に出力電圧を近づける第1の制御値の一例である。デューティ比Cは、零よりも大きい設定電流値にセルに流れる出力電流を近づける第3の制御値の一例である。デューティ比Dは、第1の制御値と第3の制御値とのうち、出力電圧を大きくする方の制御値の一例である。
【0046】
制御部68は、減算器62、補償器63、減算器69、補償器74、選択器66及びPWM変調器64を有する。減算器62は、指示電圧値Vrと出力電圧Voutのフィードバック値との差E1を算出する。補償器63は、差E1に応じてデューティ比Aを生成し、例えば比例・積分制御により、差E1を零に近づけるデューティ比Aを導出する。減算器69は、設定電流値I1と出力電流Ioutのフィードバック値との差E2を算出する。補償器74は、差E2に応じてデューティ比Cを生成し、例えば比例・積分制御により、差E2を零に近づけるデューティ比Cを導出する。選択器66は、デューティ比Aとデューティ比Cとのうち、出力電圧Voutを大きくする方の値を選択し、選択した値をデューティ比DとしてPWM変調器64に供給する。PWM変調器64は、デューティ比Dに従って、スイッチング素子51,52を相補的にオン又はオフにスイッチングさせる。
【0047】
制御部68によれば、
図14に示すように、指示電圧値V
rが閾値電圧V
th未満になっても、電流フィードバックの制御(補償器74)により、設定電流値I
1の最低限の出力電流I
outがセル30に流れる。これにより、出力電圧V
outの変動を閾値電圧V
th以上の範囲に制限できるので、セル30に流れる突入電流を抑制できる。また、閾値電圧V
thがセル30の温度や劣化によって変化しても、設定電流値I
1の最低限の出力電流I
outがセル30に流れるので、出力電圧V
outの変動を閾値電圧V
th以上の範囲に制限できる。
【0048】
図13に示す制御部68の減算器62の前段に、選択器61(
図11)が追加されてもよい。選択器61が制御部68に追加されることにより、指示電圧値V
rが閾値電圧V
th未満になっても、出力電圧V
outは、閾値電圧V
th以上の設定電圧値V
1に又は設定電流値I
1に対応する電圧値に維持されるので、セル30に流れる突入電流を抑制できる。
【0049】
各構成例における設定電圧値V1は、セル30の温度に応じて変化してもよい。これにより、セル30の温度に応じて、閾値電圧Vthが変動しても、設定電圧値V1を補正できる。設定電圧値V1は、セル30の温度が高い場合、セル30の温度が低い場合に比べて、小さくなることが好ましい。これにより、セル30の温度上昇により閾値電圧Vthが低下しても、閾値電圧Vthよりも僅かに大きな値に設定電圧値V1を補正できる。
【0050】
図15は、出力電圧の変動を水電気分解セルの閾値電圧以上の範囲に制限しない場合の動作波形の一例を示す図である。
図16は、出力電圧の変動を水電気分解セルの閾値電圧以上の範囲に制限する場合の動作波形の一例を示す図である。
図15,16は、いずれもシミュレーションによる動作確認結果を示す。シミュレーション条件は、セル30を3個のセルが直列に接続されるセルスタックとし、セル30の閾値電圧V
thを4.5ボルトとし、セル30のキャパシタ成分Cpを1ファラドとする。
図15では、突入電流iが出力電圧V
outの変動に同期して発生するのに対し、
図16では、突入電流iが抑制されている。
【0051】
図17は、制御部のハードウェア構成例を示す図である。上述の制御部60,65,68は、いずれも、アナログ回路のみにより実現されてもよいし、
図17に示すような制御装置500により実現されてもよい。制御装置500は、それぞれバス506で相互に接続されているドライブ装置501、補助記憶装置502、メモリ装置503、CPU(Central Processing Unit)504、及びインタフェース装置505等を有する。
【0052】
制御装置500での処理を実現するプログラムは、記録媒体507によって提供される。プログラムを記録した記録媒体507がドライブ装置501にセットされると、プログラムが記録媒体507からドライブ装置501を介して補助記憶装置502にインストールされる。ただし、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体507より行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置502は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータ等を格納する。
【0053】
メモリ装置503は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置502からプログラムを読み出して格納する。CPU504は、メモリ装置503に格納されたプログラムに従って制御装置500に係る機能を実行するプロセッサである。インタフェース装置505は、外部と接続するためのインタフェースとして用いられる。
【0054】
なお、記録媒体507の一例としては、CD-ROM、DVDディスク、又はUSBメモリ等の可搬型の記録媒体が挙げられる。また、補助記憶装置502の一例としては、HDD(Hard Disk Drive)又はフラッシュメモリ等が挙げられる。記録媒体507及び補助記憶装置502のいずれについても、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に相当する。
【0055】
以上、実施形態について説明したが、本開示の技術は上記の実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が可能である。
【0056】
例えば、発電装置は、再生可能エネルギーの一つである太陽光を用いて電力を発電する装置に限られず、風力などの他の再生可能エネルギーを用いて電力を発電する装置でもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 ソーラーパネル
11 等価回路
20,20A,20B,20C 電力変換器
21 出力経路
30 セル
31 陽極
32 陰極
33 隔膜
40 蓄電池システム
50 電源回路
60,65,68 制御部
70 MPPT制御器
1000,1001 水電気分解システム