(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】低損失横方向励起フィルムバルク音響共振器及びフィルタ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20240110BHJP
H03H 9/25 20060101ALI20240110BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H03H9/145 D
H03H9/25 Z
H03H9/17 F
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022085912
(22)【出願日】2022-05-26
【審査請求日】2022-07-25
(32)【優先日】2021-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア ブライアント
(72)【発明者】
【氏名】ダイヤー グレッグ
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-251910(JP,A)
【文献】特開2016-001923(JP,A)
【文献】特開平10-209804(JP,A)
【文献】特開2015-054986(JP,A)
【文献】特開2012-199638(JP,A)
【文献】特開2007-202087(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131530(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接または1つ以上の中間材料層を介して基板
に取り付けられる圧電プレートの一部であって、キャビティに跨る
前記圧電プレートの一部
である振動板と、
前記圧電プレートの表面に形成された導電体パターンと、を備え、
前記導電体パターンは、
第1のバスバー、第2のバスバー及び複数のインターリーブフィンガーを備えるインターデジタルトランスデューサ(IDT)であって、前記複数のインターリーブフィンガーが、前記第1のバスバー及び
前記第2のバスバーから交互に延びており、前記複数のインターリーブフィンガーの重なり部が前記振動板に位置するインターデジタルトランスデューサ(IDT)と、
前記複数のインターリーブフィンガーのうちの第1のフィンガーに近接し、かつ該第1のフィンガーと平行な前記振動板上の第1の反射素子及び第2の反射素子と、
前記複数のインターリーブフィンガーのうちの最後のフィンガーに近接し、かつ該最後のフィンガーと平行な前記振動板上の第3の反射素子及び第4の反射素子とを含
み、
pr1は、前記第1の反射素子及び第2の反射素子の中心間距離並びに前記第3の反射素子及び前記第4の反射素子の中心間距離であり、
pは、前記複数のインターリーブフィンガーのピッチであり、
1.2p≦pr1≦1.5pである、音響共振器デバイス。
【請求項2】
前記第1のフィンガーは、前記第1のバスバーから延びており、
前記第1の反射素子及び第2の反射素子は、前記第2のバスバーから延びており、
前記最後のフィンガーは、前記第1のバスバー及び
前記第2のバスバーのいずれか一方から延びており、
前記第3の反射素子及び第4の反射素子は、前記第1のバスバー及び
前記第2のバスバーの他方から延びる、請求項1に記載の
音響共振器デバイス。
【請求項3】
pr2は、前記第1の反射素子及び前記第1のフィンガーの中心間距離、及び前記第3の反射素子及び前記最後のフィンガーの中心間距離であり、
p≦pr2≦pr1である、請求項
1に記載の
音響共振器デバイス。
【請求項4】
pr2=(pr1+p)/2である、請求項
3に記載の
音響共振器デバイス。
【請求項5】
ラダー型フィルタ回路内に接続された1つ以上の直列共振器及び1つ以上のシャント共振器を備える複数の音響共振器を備え、
前記複数の音響共振器のそれぞれは、
直接または1つ以上の中間材料層を介して基板
に取り付けられる圧電プレートの一部であって、それぞれのキャビティに跨る
前記圧電プレートの一部
であるそれぞれの振動板と、
前記圧電プレートの表面に形成され、第1のバスバーと、第2のバスバーと、前記第1のバスバー及び
前記第2のバスバーから交互に延びている複数のインターリーブフィンガーとを備え、前記複数のインターリーブフィンガーの重なり部が前記それぞれの振動板に位置するインターデジタルトランスデューサ(IDT)と、を備え、
前記1つ以上の直列共振器のうちの少なくとも1つは、
前記複数のインターリーブフィンガーのうちの第1のフィンガーに近接し、かつ平行な前記それぞれの振動板上の第1の反射素子及び第2の反射素子と、
前記複数のインターリーブフィンガーのうちの最後のフィンガーに近接し、かつ平行な前記それぞれの振動板上の第3の反射素子及び第4の反射素子と、を更に備
え、
前記第1から第4の反射素子を備える各直列共振器に対して、
pr1は、前記第1の反射素子及び第2の反射素子の中心間距離並びに前記第3の反射素子及び第4の反射素子の中心間距離であり、
pは、前記インターリーブフィンガーのピッチであり、
1.2p≦pr1≦1.5pである、バンドパスフィルタ。
【請求項6】
前記第1から第4の反射素子を備える各直列共振器に対して、
前記第1のフィンガーは、前記第1のバスバーから延びており、
前記第1の反射素子及び第2の反射素子は、前記第2のバスバーから延びており、
前記最後のフィンガーは、前記第1のバスバー及び
前記第2のバスバーのいずれか一方から延びており、
前記第3の反射素子及び第4の反射素子は、前記第1のバスバー及び
前記第2のバスバーの他方から延びる、請求項
5に記載の
バンドパスフィルタ。
【請求項7】
pr2は、前記第1の反射素子及び前記第1のフィンガーの中心間距離、及び前記第3の反射素子及び前記最後のフィンガーの中心間距離であり、
p≦pr2≦pr1である、請求
項5に記載の
バンドパスフィルタ。
【請求項8】
pr2=(pr1+p)/2である、請求項
7に記載の
バンドパスフィルタ。
【請求項9】
前記1つ以上の直列共振器の全ては、それぞれ第1から第4の反射素子を備える、請求項
5に記載の
バンドパスフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔著作権及びトレードドレスの通知〕
本特許文書の開示の一部は、著作権保護の対象となる資料を含む。本特許文書は、所有者のトレードドレスであるか、又は、トレードドレスとなり得る事項を示し、及び/又は、記載することができる。著作権及びトレードドレスの所有者は、米国特許商標庁の特許ファイル又は記録内にあるので、当該特許開示の誰による複製にも異議はないが、それ以外は何であれ、全ての著作権及びトレードドレスの権利を保有するものである。
【0002】
〔関連出願情報〕
この特許は、2021年6月3日に出願された「XBAR N79 FILTER GRATING ELEMENTS」と題する仮特許出願第63/196,645号の優先権を主張するものである。この特許は、2021年4月13日に出願された「SMALL TRANSVERSLEY-EXCITED FILM BULK ACOUSTIC RESONATORS WITH ENHANCED Q-FACTOR」と題する出願第17/229,767号の一部継続出願でもあり、2020年4月20日に出願された「SMALL HIGH Q XBAR RESONATORS」と題する出願第63/012,849号、2020年8月17日に出願された「SMALL REFLECTORS TO IMPROVE XBAR LOSS」と題する出願第63/066,520号、及び2020年9月4日に出願された「SMALL REFLECTORS TO IMPROVE PERFORMANCE OF TRANSVERSELY-EXCITED FILM BUILK ACOUSTIC RESONATORS AT A SPECIFIED FREQUENCY」と題する出願第63/074,991号などの仮特許出願の優先権を主張するものである。これらの出願は、いずれも参照により本願明細書に組み込まれる。
【0003】
本開示は、音響波共振器を使用した無線周波数フィルタ、特に通信装置用のフィルタに関する。
【背景技術】
【0004】
無線周波数(RF)フィルタは、一部の周波数を通過させ、他の周波数を阻止するように構成された2ポートデバイスであり、ここで、「通過」は、比較的低い信号損失で送信することを意味し、「阻止」は、遮断するか又は実質的に減衰させることを意味する。フィルタを通過する周波数範囲は、フィルタの「通過帯域(pass-band)」と呼ばれる。このようなフィルタによって阻止される周波数範囲は、フィルタの「阻止帯域(stop-band)」と呼ばれる。典型的なRFフィルタは、少なくとも1つの通過帯域及び少なくとも1つの阻止帯域を有する。通過帯域又は阻止帯域の特定の要件は、用途に依存する。例えば、「通過帯域」は、フィルタの挿入損失が1dB、2dB又は3dBなどの規定値よりも優れる周波数範囲として定義され得る。「阻止帯域」は、用途に応じて、フィルタの除去が20dB、30dB、40dB又はそれ以上などの規定値よりも大きい周波数範囲として定義され得る。
【0005】
RFフィルタは、情報が無線リンクを介して送信される通信システムに使用される。例えば、RFフィルタは、セルラ基地局、携帯電話及びコンピューティング装置、衛星トランシーバ及び地上局、IoT(モノのインターネット)装置、ラップトップコンピュータ及びタブレット、固定点無線リンク、並びに他の通信システムのRFフロントエンドに見られる。RFフィルタは、レーダー、電子戦及び情報戦システムにも使用される。
【0006】
RFフィルタは、典型的には、特定の用途ごとに、挿入損失、除去、分離、電力処理、直線性、サイズ及びコストなどの性能パラメータ間の最良の妥協点を実現するために、多くの設計上のトレードオフを必要とする。特定の設計、製造方法及び機能強化は、これらの要件の1つ以上を同時に満たすことができる。
【0007】
無線システムにおけるRFフィルタの性能強化は、システム性能に幅広い影響を与える可能性がある。RFフィルタの改善を活用して、セルサイズの拡大、電池寿命の延長、データレートの向上、ネットワーク容量の拡大、コストの削減、セキュリティの強化、信頼性の向上などのシステム性能の改善を実現することができる。これらの改善は、無線システムの様々なレベルで、例えばRFモジュール、RFトランシーバ、モバイル又は固定サブシステム又はネットワークレベルなど、個別に又は組み合わせて実現することができる。
【0008】
現在の通信システム用の高性能RFフィルタには、通常、表面弾性波(SAW)共振器、バルク音響波(BAW)共振器、フィルムバルク音響波共振器(FBAR)及びその他のタイプの音響共振器を含む音響波共振器が組み込まれる。しかしながら、従来技術は、将来の通信ネットワークで提案されているより高い周波数及び帯域幅での使用には適さない。
【0009】
通信チャネルの帯域幅をより広くしたいという要望は、必然的に高い周波数の通信帯域を使用することになる。携帯電話ネットワーク用の無線アクセス技術は、3GPP(登録商標)(3rd Generation Partnership Project)によって標準化されている。5G NR(new radio)規格では、第5世代(5G)モバイルネットワークの無線アクセス技術が規定されている。5G NR規格は、いくつかの新しい通信帯域が定義されている。これらの新しい通信帯域の2つは、3300MHz~4200MHzの周波数帯を使用するn77と、4400MHz~5000MHzの周波数帯を使用するn79である。帯域n77及び帯域n79ともに時分割複信(TDD)を使用するため、帯域n77及び/又は帯域n79で動作する通信機器は、アップリンク送信及びダウンリンク送信の両方に同じ周波数を使用する。帯域n77及び帯域n79のバンドパスフィルタは、通信機器の送信電力に対応できるものでなければならない。5GHzと6GHzのWiFiバンドにも、高周波数及び広帯域幅が必要である。5G NR規格では、周波数が24.25GHz~40GHzのミリ波通信帯も規定される。
【発明の概要】
【0010】
横方向励起フィルムバルク音響共振器(XBAR)は、マイクロ波フィルタ用の音響共振器構造である。XBARは、「TRANSVERSELY EXCITED FILM BULK ACOUSTIC RESONATOR」と題する特許US10,491,291に記載されている。XBAR共振器は、単結晶圧電材料の薄いフローティング層又は振動板上に形成されたインターデジタルトランスデューサ(IDT)を備えている。IDTは、第1のバスバーから延びる第1セットの平行フィンガーと、第2のバスバーから延びる第2セットの平行フィンガーとを含む。第1及び第2セットの平行フィンガーは、インターリーブされている。
【0011】
IDTに印加されたマイクロ波信号は、圧電振動板においてせん断一次音響波を励起する。XBAR共振器は、非常に高い電気機械結合及び高周波能力を提供する。XBAR共振器は、バンドリジェクトフィルタ、バンドパスフィルタ、デュプレクサ、マルチプレクサなどの様々なRFフィルタで使用されてもよい。XBARは、周波数が3GHzを超える通信帯域のフィルタにおける使用によく適する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】横方向励起フィルムバルク音響共振器(XBAR)の概略平面図、2つの概略断面図及び詳細図である。
【
図2】音響共振器を使用したバンドパスフィルタの概略回路図である。
【
図3】XBARのQファクタとXBARのインターデジタルトランスデューサ(IDT)のフィンガー数との関係を示すグラフである。
【
図5】他の反射素子付きIDTの概略平面図である。
【
図6】反射素子を有する場合と有さない場合のXBARの共振周波数での正規化Qファクタを比較したグラフである。
【
図7】反射素子を有する場合と有さない場合のXBARの反共振周波数での正規化Qファクタを比較したグラフである。
【
図8】周波数5150MHzでの代表的なXBARの反射素子のピッチとマークの関数としての相対的なQファクタを示すグラフである。
【
図9】各端に2つの反射素子を有するXBARの周波数及び反射素子マークの関数である相対的なQファクタを示すグラフである。
【
図10】各端に1つの反射素子を有するXBARの周波数及び反射素子マークの関数である相対的なQファクタを示すグラフである。
【
図11】各端に5つの反射素子を有するXBARの周波数及び反射素子マークの関数である相対的なQファクタを示すグラフである。
【
図12】反射素子を有する場合と有さない場合のXBARを使用した2つのバンドパスフィルタの性能を比較したグラフである。
【
図13】反射素子付き他のIDTの概略平面図である。
【
図14】反射素子を有する場合と有さない場合のXBARを使用したバンドパスフィルタの性能を比較したグラフである。
【
図15】XBAR又はXBARを使用したフィルタの製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この説明全体を通して、図面に現れる要素には、3桁又は4桁の参照番号が割り当てられ、ここで、下2桁は、要素に特有のものであり、上1桁又は上2桁は、要素が最初に導入された図面番号である。図面と組み合わせて説明されていない要素は、同じ参照番号を有する前述の要素と同じ特性及び機能を有すると仮定してもよい。
【0014】
〔デバイスの説明〕
図1は、XBAR100の簡略化された上面概略図及び直交断面図を示す。共振器100などのXBAR共振器は、バンドリジェクトフィルタ、バンドパスフィルタ、デュプレクサ及びマルチプレクサを含む様々なRFフィルタで使用されてもよい。
【0015】
XBAR100は、それぞれ平行な前面112及び背面114を有する圧電プレート(圧電板)110の表面に形成された薄膜導電体パターンから構成される。圧電プレートは、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ランタムガリウムシリケート、窒化ガリウム又は窒化アルミニウムなどの圧電材料の薄い単結晶層である。圧電プレートは、前面及び背面に対するX、Y及びZ結晶軸の配向が既知で一貫しているようにカットされる。圧電プレートはZカットされてもよく、つまり、Z軸は前面112及び背面114に垂直である。圧電プレートは、回転Zカット又は回転YXカットされてもよい。他の結晶学的配向の圧電プレートにXBARを製造してもよい。
【0016】
圧電プレート110の背面114は、基板に形成されたキャビティ140に跨る振動板115を形成する圧電プレート110の一部を除いて、基板120の表面に取り付けられている。本明細書では、キャビティに跨る圧電プレートの一部は、マイクロフォンの振動板と物理的に似ているため、振動板115と呼ばれる。
図1に示すように、振動板115は、キャビティ140の外周145のすべての周りで圧電プレート110の残りの部分と隣接する。この文脈において、「隣接する」とは、「介在するアイテムなしで連続的に接続される」ことを意味する。他の構成では、振動板115は、キャビティ140の外周145の少なくとも50%の周囲で圧電プレートに隣接してもよい。
【0017】
基板120は、圧電プレート110を機械的に支持する。基板120は、例えば、シリコン、サファイア、石英又はいくつかの他の材料、又は材料の組み合わせであってもよい。圧電プレート110の背面114は、ウェハ接合工程を使用して基板120に接合してもよい。或いは、圧電プレート110は、基板120に成長してもよく、他の方法で基板に取り付けられてもよい。圧電プレート110は、基板に直接取り付けられてもよく、(
図1に示されない)1つ以上の中間材料層を介して基板120に取り付けられてもよい。
【0018】
「キャビティ」は、「固体内の空いた空間」という従来の意味を有する。キャビティ140は、(A-A断面、B-B断面で示される)基板120を完全に貫通する穴であってもよく、振動板115の下の基板120における凹部であってもよい。キャビティ140は、例えば、圧電プレート110及び基板120の取り付け前又は取り付け後に基板120を選択的にエッチングすることにより形成されてもよい。
【0019】
XBAR100の導電体パターンは、インターデジタルトランスデューサ(IDT)130を含む。IDT130は、第1のバスバー132から延びるフィンガー136などの第1の複数の平行フィンガーと、第2のバスバー134から延びる第2の複数の平行フィンガーとを含む。「バスバー」とは、IDTのフィンガーが延びる導電体を意味する。第1の複数の平行フィンガー及び第2の複数の平行フィンガーは、インターリーブされている。インターリーブされたフィンガーは、通常、IDTの「アパーチャ」と呼ばれる距離APだけ重なっている。IDT130の最も外側のフィンガー間の中心間距離Lは、IDTの「長さ」である。
【0020】
第1のバスバー132及び第2のバスバー134は、XBAR100の端子として機能する。IDT130の2つのバスバー132、134の間に印加される無線周波数又はマイクロ波信号は、圧電プレート110において一次音響モードを励起する。一次音響モードは、音響エネルギーが、圧電プレート110の表面に実質的に直交する方向に沿って伝搬するバルクせん断モードであり、該方向は、IDTフィンガーが生成する電界の方向にも垂直又は横方向である。したがって、XBARは、横方向励起フィルムバルク波共振器と考えられる。
【0021】
IDT130は、少なくともIDT130のフィンガーがキャビティ140に跨るか、又はキャビティ140の上に吊り下げられた振動板115に配置されるように、圧電プレート110に配置されている。
図1に示すように、キャビティ140は、IDT130のアパーチャAP及び長さLよりも大きい範囲を有する長方形(rectangular shape、矩形状)に形成されている。XBARのキャビティは、規則的な多角形又は不規則的な多角形などの様々な形状を有してもよい。XBARのキャビティは、直線又は曲線の4辺より多くてもよいし、少なくてもよい。
【0022】
図1の説明を容易にするために、IDTフィンガーの幾何学的ピッチ及び幅は、XBARの長さ(寸法L)及びアパーチャ(寸法AP)に対して大きく誇張されている。典型的なXBARは、IDT130に10本以上の平行フィンガーを有する。XBARは、IDT130に数百本、場合によって数千本の平行フィンガーを有してもよい。同様に、断面図におけるIDTフィンガー及び圧電プレートの厚さは大きく誇張されている。
【0023】
詳細な概略断面図を参照すると、前側誘電体層150は、圧電プレート110の前側に任意選択で形成されてもよい。XBARの「前側」は、定義上に基板とは反対側を向いている表面である。前側誘電体層150は、IDTフィンガー(例えば、IDTフィンガー138b)の間のみに形成されてもよく、IDTフィンガー(例えば、IDTフィンガー138a)の間かつ上方に誘電体層が形成されるようにブランケット層として堆積(deposited、蒸着)されてもよい。前側誘電体層150は、二酸化シリコン、アルミナ、シリコン窒化物などの非圧電誘電体材料であってもよい。前側誘電体層150の厚さは、典型的には、圧電プレート110の厚さtpより約3分の1小さい。前側誘電体層150は、2種類以上の材料からなる多層で形成されてもよい。いくつかの用途では、後側誘電体層(図示せず)は、圧電プレート110の後側に形成されてもよい。
【0024】
IDTフィンガー138a、138bは、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ベリリウム、金、タングステン、モリブデン、クロム、チタン又はいくつかの他の導電性材料からなる1つ以上の層であってもよい。IDTフィンガーは、アルミニウム又はアルミニウムを少なくとも50%備える合金から形成されている場合、「実質的にアルミニウム」であると考えられる。IDTフィンガーは、銅又は銅を50%以上備える合金で形成されている場合、「実質的に銅」であると考えられる。フィンガーと圧電プレート110との密着性を向上させるために、及び/又は、フィンガーを不動態化又はカプセル化させるために、及び/又は、電力処理(power handling)を向上させるために、フィンガーの下方及び/又は上方及び/又はフィンガーの内部にクロム又はチタンなどの金属の(導電体の総厚さに対して)薄い層を形成してもよい。IDTのバスバー(
図1の132、134)は、フィンガーと同じ又は異なる材料で製造されてもよい。
【0025】
寸法pは、IDTフィンガーの中心間の間隔又は「ピッチ」であり、これはIDTのピッチ及び/又はXBARのピッチと呼ばれてもよい。寸法mは、IDTフィンガーの幅又は「マーク」である。いくつかの実施形態において、IDTフィンガーのピッチ及び/又はマークは、IDTの長さに沿って多少変化してもよい。この場合、寸法p及びmは、それぞれピッチ及びマークの平均値である。XBARのIDTの幾何学的形状は、表面弾性波(SAW)共振器に使用されるIDTとは実質的に異なる。SAW共振器では、IDTのピッチは、共振周波数での音響波長の半分である。追加的に、SAW共振器のIDTのマークとピッチとの比率は、典型的には、0.5に近い(つまり、マーク又はフィンガーの幅は、共振時の音響波長の約4分の1である)。XBARにおいて、IDTのピッチpは、フィンガーの幅wの2~20倍であってもよい。ピッチpは、典型的には、フィンガーの幅wの3.3~5倍である。また、IDTのピッチpは、圧電プレート210の厚さの2~20倍であってもよい。IDTのピッチpは、典型的には、圧電プレート210の厚さの5~12.5倍である。XBARにおけるIDTフィンガーの幅mは、共振時の音響波長の約4分の1に拘束されない。例えば、XBARのIDTフィンガーの幅は、光リソグラフィを使用してIDTを容易に製造できるように、500nm以上であってもよい。IDTフィンガーの厚さは、100nmから幅mにほぼ等しくてもよい。IDTのバスバー(132、134)の厚さは、IDTフィンガーの厚さtmと同じ又はそれ以上であってもよい。
【0026】
図2は、XBARを使用した高周波バンドパスフィルタ200の概略回路図及びレイアウト図である。フィルタ200は、3つの直列共振器210A、210B、210Cと、2つのシャント共振器220A、220Bとを有する従来のラダー型フィルタ構造を有する。3つの直列共振器210A、210B、210Cは、第1のポートと第2のポートとの間に直列接続されている(したがって、「直列共振器」と呼ばれる)。
図2では、第1のポート及び第2のポートは、「イン」及び「アウト」で表記されている。しかしながら、フィルタ200は双方向であり、いずれのポートがフィルタの入力又は出力として機能してもよい。2つのシャント共振器220A、220Bは、直列共振器間のノードからグランドに接続されている。フィルタには、
図2に示していないコンデンサ及び/又はインダクタなどの追加のリアクタンス成分(reactive components)が含まれてもよい。全てのシャント共振器及び直列共振器は、XBARである。3つの直列共振器及び2つのシャント共振器を含むことは、例示的なことである。フィルタは、合計で5つより多い又は少ない共振器、3つより多い又は少ない直列共振器及び2つより多い又は少ないシャント共振器を有してもよい。典型的には、全ての直列共振器は、フィルタの入力と出力との間に直列接続される。全てのシャント共振器は、典型的には、グランドと、入力、出力又は2つの直列共振器間のノードとの間に接続される。
【0027】
例示的なフィルタ200では、フィルタ200の3つの直列共振器210A、B、Cと2つのシャント共振器220A、Bとは、(見えない)シリコン基板に接合された圧電材料の単一の板230に形成されている。いくつかのフィルタにおいて、直列共振器とシャント共振器とは、圧電材料の異なる板に形成されてもよい。各共振器は、それぞれのIDT(図示せず)を含み、IDTの少なくともフィンガーは、基板内のキャビティの上方に配置される。この文脈及び類似の文脈において、「それぞれ」という用語は、「それぞれをそれぞれに関連付けること」を意味し、すなわち、一対一の対応関係を有することを意味する。
図2では、キャビティを破線の長方形(例えば長方形235)として概略的に示している。この例において、各IDTは、それぞれのキャビティの上方に配置される。他のフィルタでは、2つ以上の共振器のIDTは、単一のキャビティの上方に配置されてもよい。
【0028】
フィルタ200の共振器210A、210B、210C、220A、220Bのそれぞれは、共振器のアドミタンスが非常に高い共振と、共振器のアドミタンスが非常に低い反共振とを有する。共振及び反共振は、それぞれ、共振周波数及び反共振周波数で生じ、これらは、フィルタ200内の種々の共振器に対して同一であってもよく、異なっていてもよい。過度に簡略化すると、各共振器は、その共振周波数で短絡回路(short-circuit)であり、その反共振周波数で開回路(open circuit)であると考えられる。入出力伝達関数は、シャント共振器の共振周波数及び直列共振器の反共振周波数でほぼゼロになる。典型的なフィルタでは、シャント共振器の共振周波数は、フィルタの通過帯域の下側エッジよりも下側に位置し、直列共振器の反共振周波数は、通過帯域の上側エッジよりも上側に位置する。一部のフィルタでは、一点鎖線の長方形270で示される前側誘電体層(front-side dielectric layer)(「周波数設定層(frequency setting layer)」とも呼ばれる)をシャント共振器に形成して、シャント共振器の共振周波数を直列共振器の共振周波数に対して相対的に低く設定してもよい。
【0029】
音響共振器のQファクタ(Q-factor,Q値)は、通常、印加されたRF信号の1周期において蓄積されたピークエネルギーを、1周期において散逸(dissipated、消散)又は損失した総エネルギーで除して得られたものとして定義される。XBARのQファクタは、XBARのIDTにおけるフィンガーの長さ又は本数を含む多数のパラメータの複雑な関数である。
【0030】
音響共振器において生じ得る損失メカニズムは、IDT及び他の導電体での抵抗損失と、圧電プレート、IDTフィンガー及び他の材料での粘性損失又は音響損失と、共振器構造からの音響エネルギーの漏れとを含む。共振器に蓄積されたピークエネルギーは、共振器の静電容量に比例する。XBAR共振器では、静電容量は、IDTフィンガーの本数に比例する。抵抗損失及び粘性損失もIDTフィンガーの本数に比例する。共振器から横方向(つまり、IDTフィンガーに平行な方向)に漏洩する音響エネルギーは、共振器の長さに比例するため、IDTフィンガーの本数にも比例する。一方、IDTの端部から長手方向(つまり、IDTフィンガーに垂直な方向)に損失したエネルギーは、IDTフィンガーの本数によらずほぼ一定である。IDTフィンガーの本数及びXBARに蓄積されたピークエネルギーが低下すると、長手方向における音響エネルギー損失は、蓄積されるピークエネルギーに対してますます増加することになる。
【0031】
図3は、XBARのIDTフィンガーの本数の関数として代表的なXBARの正規化Qファクタ(normalized Q-factor)を示すグラフである。「正規化Qファクタ」とは、有限個のIDTフィンガーを有するXBARのQファクタを、同じ構造で無限個のIDTフィンガーを有する仮想XBARのQファクタで除して得られたものである。
図3において、正規化Qファクタは、無限個のIDTフィンガーを有するXBARのQファクタのパーセントとして定量化されている。具体的には、実線の曲線310は、共振周波数での正規化Qファクタをプロットしたものであり、破線の曲線320は、反共振周波数での正規化Qファクタをプロットしたものである。
図3のデータは、有限要素法を使用したシミュレーションにより導出されたものである。
【0032】
図3は、有限個のIDTフィンガーを有するXBARの正規化Qファクタは100%未満であり、つまり、有限個のIDTフィンガーを有するXBARのQファクタは、無限個のIDTフィンガーを有する同様のXBARのQファクタよりも小さいことを示している。
図3には示されていないが、XBARの正規化Qファクタは、非常に多数のIDTフィンガーに対して漸近的に100%に近づく可能性がある。想定されるように、正規化Qファクタは、IDTフィンガーの本数に依存する。特に、約20個より少ないIDTフィンガーを有するXBARに対して、長手方向における音響エネルギー損失の重要性が増すため、正規化Qファクタが急激に低下する。
【0033】
図4は、XBARの端部での長手方向への音響エネルギーの漏れを低減する例示的な導電体パターン400を示す平面図である。導電体パターン400は、IDT430と、4つの反射素子462、464、466、468とを含む。IDT430は、第1のバスバー432と、第2のバスバー434と、第1のバスバー及び第2のバスバーから交互に延びる複数のn本のインターリーブIDTフィンガーとを含む。この例では、IDTフィンガーの本数nは24である。他のXBARにおいては、nは、20~100本以上のIDTフィンガーの範囲であってもよい。IDTフィンガー436は1番目のIDTフィンガーであり、IDTフィンガー438はn番目のIDTフィンガーである。
図4に示すように、左から右へのIDTフィンガーの番号付けは任意であり、1番目のフィンガーとn番目のフィンガーの指定を逆にしてもよい。
【0034】
図4に示すように、奇数番目のIDTフィンガーは、第1のバスバー432から延びており、偶数番目のIDTフィンガーは、第2のバスバー434から延びている。IDT430は、1番目のIDTフィンガー436及びn番目のIDTフィンガー438が、異なるバスバーから延びているように、偶数本のIDTフィンガーを有する。いくつかの場合では、IDTは、1番目のIDTフィンガー及びn番目のIDTフィンガーと全ての反射素子とが、同じバスバーから延びるような、奇数本のIDTフィンガーを有してもよい。
【0035】
IDT430の外周(outside of periphery)の外側には、合計4つの反射素子が設けられている。IDT430の左端には、1番目のIDTフィンガー436に近接し、かつ平行な第1の反射素子462が配置されている。IDT430の右端には、n番目のIDTフィンガー438に近接し、かつ該n番目のIDTフィンガー438と平行な第2の反射素子466が配置されている。任意の第3の反射素子464は、第1の反射素子462と平行である。任意の第4の反射素子468は、第2の反射素子466と平行である。
【0036】
第1の反射素子462及び第3の反射素子464は、第1のバスバー432から延びているため、1番目のIDTフィンガー436と同電位となっている。同様に、第2の反射素子466及び第4の反射素子468は、第2のバスバー4340から延びているため、n番目のIDTフィンガー438と同電位となっている。
【0037】
反射素子462、464、466、468は、音響エネルギーをIDT430の領域に閉じ込め、長手方向における音響エネルギー損失を低減するように構成される。このため、典型的には、隣接する反射素子の間、及び反射素子462、466と隣接する1番目のIDTフィンガー、n番目のIDTフィンガーとの間のピッチprはそれぞれ、IDTフィンガーのピッチpよりも大きい。反射素子462、464、466、468の幅又はマークmrは、必ずしもIDTフィンガーのマークmと等しいとは限らない。後述するように、反射素子のマークmrは、特定の周波数又は周波数範囲においてQファクタを最適化するように選択されてもよい。
【0038】
図5は、XBARの端部での長手方向への音響エネルギーの漏れを低減する他の導電体パターン500の平面図である。導電体パターン500は、IDT530と、4つの反射素子562、564、566、568とを含む。IDT530は、第1のバスバー532と、第2のバスバー534と、前述したように、第1のバスバー及び第2のバスバーから交互に延びる複数のインターリーブIDTフィンガーとを含む。IDTフィンガー536、538は、IDT530の左右(
図5に示す)端部にある1番目のIDTフィンガー、およびn番目のIDTフィンガーである。
【0039】
IDT530の外周の外側には、合計4つの反射素子が設けられている。IDT530の左端には、1番目のIDTフィンガー536に近接し、かつ、平行な第1の反射素子562及び第3の反射素子564が配置されている。第1の反射素子562及び第3の反射素子564は、互いに接続されているが、バスバー532、534のいずれにも接続されていない。第1の反射素子562及び第3の反射素子564は、1番目のIDTフィンガー536と容量結合(capacitively coupled)されるため、1番目のIDTフィンガー536と実質的に同じ電位となっている。バスバー532、534間にRF信号が印加されたときに、反射素子と1番目のIDTフィンガーとの間の電位が、隣接するIDTフィンガー間の電位よりも小さい場合、反射素子は、ほぼ実質的に同じ電位になると考えられる。
【0040】
同様に、第2の反射素子566及び第4の反射素子568は、IDT530の右端でn番目のIDTフィンガー538に近接し、かつ平行である。第2の反射素子566及び第4の反射素子568は、互いに接続されており、バスバー532、534のいずれにも接続されていない。第2の反射素子566及び第4の反射素子568は、n番目のIDTフィンガー538と容量結合されるため、n番目のIDTフィンガー538とほぼ同電位となっている。
【0041】
反射素子562、564、566、568は、音響エネルギーをIDT530の領域に閉じ込め、長手方向における音響エネルギー損失を低減するように構成される。このため、典型的には、隣接する反射素子の間、及び反射素子562、566と隣接する末端IDTフィンガーとの間のピッチprは、IDTフィンガーのピッチpよりも大きい。反射素子562、564、566、568の幅又はマークmrは、必ずしもIDTフィンガーのマークmと等しいとは限らない。反射素子のマークmrは、特定の周波数又は周波数範囲においてQファクタを最適化するように選択されてもよい。
【0042】
図6は、
図4に示した反射素子と同様の反射素子を有する場合と有さない場合の他のXBARのIDTフィンガーの本数の関数である正規化Qファクタを示すグラフである。具体的には、実線の曲線610は、反射素子を有さないXBARの共振周波数での正規化Qファクタをプロットしたものである。破線の曲線620は、IDTの両側にそれぞれ2つの反射素子を有する同様のXBARの共振周波数での正規化Qファクタをプロットしたものである。いずれの場合でも、圧電プレートは、厚さ400nmのニオブ酸リチウムであり、IDTフィンガーは、厚さ500nmのアルミニウムで、IDTピッチp=4ミクロン、IDTフィンガーマークm=1ミクロンである。反射素子付きXBARは、pr=4.2ミクロン、mr=0.735ミクロンである。反射素子を有すると、わずか10本程度のフィンガーを有するXBARが、最大80%までの正規化Qファクタを得ることができる。
【0043】
図7は、
図4に示した反射素子と同様の反射素子を有する場合と有さない場合の他のXBARのIDTフィンガーの本数の関数である正規化Qファクタを示すグラフである。具体的には、実線の曲線710は、反射素子を有さないXBARの反共振周波数での正規化Qファクタをプロットしたものである。破線の曲線720は、IDTの両側にそれぞれ2つの反射素子を有する同様のXBARの反共振周波数での正規化Qファクタをプロットしたものである。いずれの場合でも、圧電プレートは、厚さ400nmのニオブ酸リチウムであり、IDTフィンガーは、厚さ500nmのアルミニウムで、IDTピッチp=4ミクロン、IDTフィンガーマークm=1ミクロンである。反射素子付きXBARは、pr=8ミクロン、mr=0.80ミクロンである。反射素子を有すると、わずか14本程度のフィンガーを有するXBARでも、最大80%までの正規化Qファクタを有することができる。
【0044】
図8は、例示的なXBARデバイスの5150MHzの固定周波数での反射素子のピッチprとマークmrとの関係を示すチャート800である。例示的なXBARデバイスは、厚さ400nmのニオブ酸リチウム圧電プレートと、厚さ500nmのアルミニウムIDT及び反射素子とを有する。IDTフィンガーのピッチ及びマークはそれぞれ、4ミクロン、1ミクロンである。IDTの各端には2つの反射素子がある。薄い影付き領域810A、810B、810C、810Dは、正規化Qファクタが85%以上であるprとmrの組み合わせを特定する。濃い影付き領域820A、820B、820C、820Dは、正規化Qファクタが90%以上であるprとmrの組み合わせを特定する。比較のために、この反射素子を有さないXBARの正規化Qファクタは、5150MHzで74%である。
図8では明示していないが、正規化Qファクタが75%未満であるprとmrの組み合わせが存在し、反射素子の構成が不適切であると、XBARのQファクタを低下させる可能性があることを示している。
【0045】
正規化Qファクタを85%又は90%に向上させるprとmrの組み合わせが複数ある。90%以上の正規化Qファクタを得るために、prをIDTフィンガーのピッチpの1.2倍以上にしなければならない。pr=6ミクロン(1.5p)の場合、正規化Qファクタを90%より大きく向上させるmrの値は少なくとも4つがある。
【0046】
図9は、IDTの各側に2つの反射素子を有し、pr=5.2ミクロンの例示的なXBARデバイスの反射素子のマークmrと周波数との関係を示すチャート900である。前述の例のように、該例示的なXBARデバイスは、厚さ400nmのニオブ酸リチウム圧電プレートと、厚さ500nmのアルミニウムIDT及び反射素子とを有する。IDTフィンガーのピッチ及びマークはそれぞれ、4ミクロン、1ミクロンである。領域910などの薄い影付き領域は、正規化Qファクタが85%以上である周波数とmrとの組み合わせを特定する。領域920などの濃い影付き領域は、正規化Qファクタが90%以上である周波数とmrとの組み合わせを特定する。比較のために、この反射素子を有さないXBARの正規化Qファクタは、5150MHzで74%である。
【0047】
チャート900では、特定の反射素子のピッチprについて、XBARのQファクタを改善する必要がある周波数を考慮して反射素子マークmrを選択しなければならないことが示されている。例えば、mr=0.95ミクロンを選択することにより、約4980MHzから5200MHzより大きい周波数範囲にわたって、90%を超える正規化Q-ファクタが得られる。mr=1.7ミクロンを選択することにより、4700MHzより小さいから約4950MHzまでの周波数範囲にわたって、90%以上の正規化Qファクタが得られる。しかしながら、mr=1.7ミクロンを選択することにより、反射素子を有さないXBARと比較して5200MHzでのQファクタを実際に低下させる可能性がある。
【0048】
図10は、IDTの各側に1つの反射素子を有し、pr=5.2ミクロンの例示的なXBARデバイスの反射素子のマークmrと周波数との関係を示すチャート1000である。該例示的なXBARデバイスは、前述の例と同様である。
図9と同様に、領域1010などの薄い影付き領域は、正規化Qファクタが85%以上である周波数とmrとの組み合わせを特定する。領域1020などの濃い影付き領域は、正規化Qファクタが90%以上である周波数とmrとの組み合わせを特定する。
【0049】
図9と
図10とを比較すると、一般的に、正規化Qファクタを向上させるために、反射素子が2つである場合に比べて、反射素子が1つのみである場合の効果が小さいことが分かる。しかしながら、いくつかの用途によっては、IDTの各端に1つの反射素子があればよい。この例では、mr=0.75ミクロンの反射素子(IDTの各端)が1つであることにより、約4770MHz~4970MHzの周波数範囲において、正規化Qファクタを大幅に向上させる。
【0050】
図11は、IDTの各端に5つの反射素子を有し、pr=5.2ミクロンの例示的なXBARデバイスの反射素子のマークmrと周波数との関係を示すチャート1100である。該例示的なXBARデバイスは、前述の例と同様である。
図9と同様に、領域1110などの薄い影付き領域は、正規化Qファクタが85%以上である周波数とmrとの組み合わせを特定する。領域1120などの濃い影付き領域は、正規化Qファクタが90%以上である周波数とmrとの組み合わせを特定する。
【0051】
図9と
図11とを比較すると、2つの反射素子に比べて、5つの反射素子は有意な向上が見られない。
【0052】
図12は、反射素子を有する場合と有さない場合の例示的なXBARバンドパスフィルタの性能を示すチャートである。具体的には、実線1210は、フィルタのXBARの各端に2つの反射素子を有する帯域n77のフィルタのS
21(入出力伝達関数、input-output transfer function)の大きさをプロットしたものである。シャント共振器の反射素子は、周波数3.35GHzに最適化され、直列共振器の反射素子は、周波数4.2GHzに最適化された。これらの周波数は、典型的には最小S
21に対する要件を達成することが最も困難なn77バンドのエッジ又はその近傍にある。破線1220は、XBARに反射素子を有さない同じフィルタのS
21の大きさをプロットしたものである。全てのデータは、有限要素法を使用したフィルタのシミュレーションにより開発された。
【0053】
反射素子を含むことにより、3.35GHzではS
21を0.2dB向上させ、4.2GHzではS
21を0.4dB向上させる。しかしながら、反射素子を含むことにより、他の周波数ではS
21を0.25dB低減しており、これがXBARフィルタ設計時のトレードオフを示すことに留意されたい。
図12の例示的なバンドパスフィルタでは、全てのシャント共振器の反射素子を同じ周波数(3.35GHz)での最大Qファクタとなるように選択し、全ての直列共振器の反射素子を同じ周波数(4.2GHz)での最大Qファクタとなるように選択した。各共振器の反射素子を独立して最適化する場合、フィルタ伝達関数の更なる改善が期待できる。
【0054】
図13は、XBARの端部での長手方向への音響エネルギーの漏れを低減させる他の例示的な導電体パターン1300を示す平面図である。導電体パターン1300は、IDT1330と、第1の反射素子1362、第2の反射素子1364、第3の反射素子1366及び第4の反射素子1368とを含む。IDT1330は、第1のバスバー1332と、第2のバスバー1334と、第1のバスバー及び第2のバスバーから交互に延びている複数のインターリーブIDTフィンガーとを有する。この例では、IDTフィンガーの本数は24本である。他のXBARにおいては、IDTフィンガーの本数は、20本以上100本以下であってもよい。インターリーブされたIDTフィンガーと第1の反射素子1362、第2の反射素子1364、第3の反射素子1366及び第4の反射素子1368の重なり部は、XBARの振動板に位置する。IDTフィンガー1336が第1のIDTフィンガーであり、フィンガー1338が最後のフィンガーである。第1のIDTフィンガーと最後のIDTフィンガーの指定は任意であり、第1のIDTフィンガーと最後のIDTフィンガーの指定を逆にしてもよい。
【0055】
IDT1330の外周の外側には、合計4つの反射素子が設けられている。第1の反射素子1362及び第2の反射素子1364は、IDT1330の(図示される)左端にある第1のIDTフィンガー1336に近接し、かつ平行である。第3の反射素子1366及び第4の反射素子1368は、IDT1330の(図示される)右端にある最後のIDTフィンガー1338に近接し、かつ平行である。
【0056】
第1の反射素子1362及び第2の反射素子1364は、第1のIDTフィンガーとは異なるバスバーから延びている。この例では、第1の反射素子1362及び第2の反射素子1364は、第2のバスバー1334から延びており、第1のIDTフィンガー1336は、第1のバスバー1332から延びている。したがって、第1の反射素子1362及び第2の反射素子1364の電位は、第1のIDTフィンガー1336の電位とは逆になる。同様に、第3の反射素子1366及び第4の反射素子1368は、最後のIDTフィンガー1338とは異なるバスバーから延びている。このため、第3の反射素子1366及び第4の反射素子1368の電位は、最後のIDTフィンガー1338の電位とは逆になる。
【0057】
反射素子1362、1364、1366、1368は、音響エネルギーをIDT1330の領域に閉じ込め、長手方向における音響エネルギー損失を低減するように構成される。このため、隣接する反射素子間の中心間距離pr1は、(すなわち、第1の反射素子と第2の反射素子との間、第3の反射素子と第4の反射素子との間)は、典型的には、IDTフィンガーのピッチpの1.2倍以上かつpの1.5倍以下である。
【0058】
典型的には、反射素子と隣接するIDTフィンガーとの中心間距離pr2(つまり、第1の反射素子と第1のIDTフィンガーとの間、第3の反射素子と最後のIDTフィンガーとの間)は、pよりも大きく、pr1よりも小さい。いくつかの場合では、pr2は、pとpr1との平均値であってもよい。
【0059】
反射素子1362、1364、1366、1368の幅又はマークmrは、必ずしもIDTフィンガーのマークmと等しいとは限らない。上述したように、反射素子のマークmrは、特定の周波数又は周波数範囲においてQファクタを最適化するように選択されてもよい。
【0060】
図14Aは、反射フィンガーを有する場合と有さない場合の第1のXBARフィルタ対の周波数の関数であるS
21の大きさ(入出力伝達関数)のグラフ1400である。フィルタは、5G NR帯域n79を通過するように設計されている。帯域n79の周波数範囲が特定される。
【0061】
実線の曲線1410は、全ての直列共振器に反射フィンガーを有するフィルタのS21の大きさである。各直列共振器について、pr1=1.3p、pr2=1.15pである。mrは、各共振器に対して独立に最適化されて、上側バンドエッジ(5.0Hhz)での損失を最小化した。破線の曲線1420は、いずれの共振器に反射フィンガーを有さない同じフィルタのS21の大きさである。直列共振器に反射フィンガーが存在する(実線曲線1410)ことにより、反射フィンガーを有さないフィルタ(破線曲線1420)と比較して、上側バンドエッジでの損失が約0.4dB低下する(つまり、S21が増加する)。
【0062】
図14Bは、反射フィンガーを有する場合と有さない場合の第2のXBARフィルタ対の周波数の関数であるS
21の大きさ(入出力伝達関数)のグラフ1450である。フィルタは、第1のXBARフィルタ対の設計とは独立して、5G NR帯域n79を通過するように設計されている。帯域n79の周波数範囲が特定される。
【0063】
実線の曲線1460は、全ての直列共振器に反射フィンガーを有するフィルタのS21の大きさである。各直列共振器について、pr1=1.3p、pr2=1.15pである。mrは、上側バンドエッジ(5.0Hhz)での損失を最小化するように各共振器について独立に最適化した。破線の曲線1470は、いずれの共振器にも反射フィンガーを有さない同じフィルタのS21の大きさである。直列共振器に反射フィンガーが存在する(実線曲線1460)ことにより、反射フィンガーを有さないフィルタ(破線曲線1470)と比較して、上側バンドエッジでの損失が約0.3dB低下する(つまり、S21が増加する)。
【0064】
〔方法の説明〕
図15は、XBARを組み込んだフィルタデバイスを製造するプロセス1500をまとめた簡略化されたフローチャートである。具体的には、プロセス1500は、複数のXBARを含むフィルタデバイスを製造するためのプロセスであり、そのうちのいくつかは周波数設定誘電体層を含んでもよい。プロセス1500は、装置基板と、犠牲基板(sacrificial substrate)に配置された圧電材料の薄板を使用してステップ1505から開始する。プロセス1500は、完成したフィルタデバイスを使用してステップ1595で終了する。
図15のフローチャートは、主要なプロセスステップのみを含む。様々な従来のプロセスステップ(例えば、表面処理、洗浄、点検(inspection)、焼成、アニール、モニタリング、検査(testing)は、
図15に示すステップの前、間、後及びステップ中に実行されてもよい。
【0065】
図15は、一般的に単一のフィルタデバイスを製造するプロセスを説明したが、複数のフィルタデバイスは、(基板に接合された圧電プレートからなる)共通のウェハに同時に製造されてもよい。この場合、プロセス1500の各ステップは、ウェハ上の全てのフィルタデバイスに対して並行して実行されてもよい。
【0066】
図15のフローチャートは、装置基板にいつ、どのように(when and how)キャビティを形成するかが異なるXBARを作成するためのプロセス1500の3つの変形例を示したものである。キャビティは、ステップ1510A、1510B又は1510Cで形成されてもよい。これらのステップのうちの1つのステップのみがプロセス1500の3つの変形例のそれぞれにおいて実行される。
【0067】
圧電プレートは、例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムであってもよく、そのいずれかはZカット、回転Zカット、回転YXカットのいずれかであってもよい。圧電プレートは、いくつかの他の材料及び/又はいくつかの他のカットであってもよい。装置基板は、好ましくは、シリコンであってもよい。装置基板は、エッチング又は他の処理により深いキャビティを形成することが可能な他の何らかの材料であってもよい。
【0068】
プロセス1500の1つの変形例では、ステップ1515で圧電プレートを基板に接合する前に、ステップ1510Aで装置基板に1つ以上のキャビティを形成する。フィルタデバイス内の各共振器に対して別個のキャビティを形成してもよい。従来のフォトリソグラフィー技術及びエッチング技術を使用して1つ以上のキャビティを形成してもよい。典型的には、ステップ1510Aに形成されたキャビティは、装置基板を貫通しない。
【0069】
ステップ1515では、圧電プレートを装置基板に接合する。圧電プレートと装置基板とは、ウェハ接合工程により接合されてもよい。典型的に、装置基板と圧電プレートとの合わせ面は高度に研磨されている。圧電プレート及び装置基板の一方又は両方の合わせ面には、酸化物又は金属などの1層以上の中間材料が形成又は蒸着されてもよい。一方又は両方の合わせ面は、例えば、プラズマプロセスを使用して活性化されてもよい。そして、合わせ面を大きな力で押圧することにより、圧電プレートと装置基板又は中間材料層との間で分子結合を確立させることができる。
【0070】
ステップ1520では、犠牲基板を除去してもよい。例えば、圧電プレートと犠牲基板とは、圧電プレートと犠牲基板との境界を規定する平面に沿って結晶構造に欠陥を生成するためにイオン注入された圧電材料のウェハであってもよい。ステップ1520では、例えば熱衝撃によりウェハを欠陥平面に沿って分割し、犠牲基板を剥離し、圧電プレートを装置基板に接合したままにしてもよい。犠牲基板を剥離した後に、圧電プレートの露出面を何らかの方法で研磨したり、加工したりしてもよい。
【0071】
非圧電基板に積層された単結晶圧電材料の薄板が市販されている。この用途の時点では、ニオブ酸リチウム及びタンタル酸リチウムの両方はシリコン、石英、溶融シリカを含む様々な基板に接合可能である。他の圧電材料の薄板も現在又は将来入手可能である。圧電プレートの厚さは、300nm以上1000nm以下であってもよい。基板がシリコンの場合、圧電プレートと基板との間にSiO2の層が配置されてもよい。市販の圧電プレート/装置基板積層体を使用する場合には、プロセス1500のステップ1510A、1515、1520は実行されない。
【0072】
ステップ1545では、圧電プレートの前側に1つ以上の導電体層を蒸着してパターニングすることにより、各XBARのIDT及び反射素子を含む第1の導電体パターンを形成する。導電体層は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金又は何らかの他の導電性金属であってもよい。任意選択で、他の材料の1つ以上の層が、導電体層の下方(すなわち、導電体層と圧電プレートとの間)及び/又は導電体層の上方に配置してもよい。例えば、導電体層と圧電プレートとの密着性を向上させるために、チタン、クロム又は他の金属の薄膜を使用してもよい。第1の導電体パターンの一部(例えば、IDTバスバー及びIDT間の配線)に、金、アルミニウム、銅又は他の高導電性金属の第2の導電体パターンが形成されてもよい。
【0073】
ステップ1545では、圧電プレートの表面に導電体層、任意選択で1つ以上の他の金属層を順次蒸着することにより、各導電体パターンを形成することができる。そして、パターニングされたフォトレジストを介して余分な金属をエッチングにより除去してもよい。導電体層は、例えば、プラズマエッチング、反応性イオンエッチング、ウェットケミカルエッチング又は他のエッチング技術によりのエッチング行うことができる。
【0074】
或いは、ステップ1545では、リフトオフプロセスを使用して各導電体パターンを形成してもよい。圧電プレートにフォトレジストを蒸着し、パターニングして導電体パターンを形成してもよい。圧電プレートの表面には、導電体層と、任意選択で1つ以上の他の層とを順次蒸着してもよい。そして、フォトレジストを除去して、余分な材料を除去し、導電体パターンを残してもよい。
【0075】
ステップ1550では、圧電プレートの前側に1層以上の誘電体材料を蒸着させることにより1つ以上の周波数設定誘電体層(複数可)を形成してもよい。例えば、誘電体層をシャント共振器の上方に形成して、直列共振器の周波数に対してシャント共振器の周波数を低減してもよい。1つ以上の誘電体層は、物理気相成長法、原子層堆積法、化学気相成長法又はいくつかの他の方法などの従来の堆積方法を使用して蒸着することができる。誘電体層の蒸着を圧電プレートの選択された領域に限定(limit)するために、1回以上のリソグラフィープロセス(フォトマスクを使用する)を使用してもよい。例えば、シャント共振器のみを覆うように誘電体層を限定するために、マスクを使用してもよい。
【0076】
ステップ1555では、圧電プレート及び導電体パターンの上方にパッシベーション/チューニング用(passivation/tuning)誘電体層を蒸着する。パッシベーション/チューニング用誘電体層は、フィルタの外部回路との電気的接続のためのパッドを除いて、フィルタの全面を覆ってもよい。プロセス1500のいくつかの例では、ステップ1510B又はステップ1510Cのいずれかで装置基板のキャビティをエッチングした後に、パッシベーション/チューニング用誘電体層を形成してもよい。
【0077】
プロセス1500の第2の変形例では、ステップ1510Bでは、装置基板の後側に1つ以上のキャビティを形成する。フィルタデバイス内の各共振器に対して別個のキャビティを形成してもよい。1つ以上のキャビティは、異方性又は配向依存性のドライ又はウェットエッチングを使用して、装置基板の裏面から圧電プレートまでの穴を開けて形成してもよい。この場合、得られた共振器デバイスは、
図1に示すような断面を有する。
【0078】
プロセス1500の第3の変形例では、ステップ1510Cでは、圧電プレートの開口部から導入されたエッチング液を使用して基板をエッチングすることにより、装置基板に1つ以上の凹部状のキャビティを形成してもよい。フィルタデバイス内の各共振器に対して別個のキャビティを形成してもよい。ステップ1510Cに形成された1つ以上のキャビティは、装置基板を貫通しない。
【0079】
理想的には、ステップ1510B又は1510Cでキャビティを形成した後、ウェハ上のフィルタデバイスの大部分又は全部が一連の性能要件を満たすことになる。しかしながら、通常のプロセス公差は、ステップ1550、1555で形成される誘電体層の厚さ、ステップ1545で形成される導電体及びIDTフィンガーの厚さ及び線幅の変動と、圧電プレートの厚さの変動などのパラメータの変動を引き起こす。これらの変化は、一連の性能要件からのフィルタデバイスの性能との乖離の一因となる。
【0080】
性能要件を満たすフィルタデバイスの歩留まりを向上させるために、ステップ1555では、共振器に蒸着されたパッシベーション/チューニング層の厚さを選択的に調整して周波数チューニングを実行してもよい。パッシベーション/チューニング層に材料を添加することによりフィルタデバイスの通過帯域の周波数を低くすることができ、パッシベーション/チューニング層に材料を除去することによりフィルタデバイスの通過帯域の周波数を高くすることができる。典型的には、プロセス1500は、最初は必要な周波数範囲よりも低いが、パッシベーション/チューニング層の表面から材料を除去することにより所望の周波数範囲にチューニング可能な通過帯域を有するフィルタデバイスを製造することに向ける。
【0081】
ステップ1560では、プローブカード又は他の手段を使用してフィルタと電気的に接続し、無線周波数(RF)試験及び入出力伝達関数などのフィルタ特性の測定を可能にする。典型的には、RF測定は、共通の圧電プレートと基板に同時に製造されたフィルタデバイスの全部又は大部分に対して行われる。
【0082】
ステップ1565では、前述したように、例えば走査イオンミルなどの選択的材料除去ツールを使用して、パッシベーション/チューニング層の表面から材料を除去することにより、グローバル周波数チューニングを実行してもよい。「グローバル」チューニングは、個々のフィルタデバイスと同等またはそれ以上の空間分解能で実行される。グローバルチューニングの目的は、各フィルタデバイスの通過帯域を所望の周波数範囲に向けて移動させることである。ステップ1560の試験結果を処理して、ウェハ上の2次元位置の関数である除去される材料の量を示すグローバル等高線図を生成してもよい。そして、選択的材料除去ツールを使用して、等高線図に従って材料を除去する。
【0083】
ステップ1570では、ステップ1565で実行されるグローバル周波数チューニングに加えて、又はその代わりに、ローカル周波数チューニングを実行してもよい。「ローカル」周波数チューニングは、個々のフィルタデバイスよりも小さい空間分解能で実行される。ステップ1560の試験結果を処理して、各フィルタデバイスで除去される材料の量を示すマップを生成してもよい。ローカル周波数チューニングは、材料を除去する領域のサイズを制限(restrict)するためにマスクを使用する必要がある場合がある。例えば、第1のマスクを使用してシャント共振器のみにチューニングを制限し、続いて第2のマスクを使用して直列共振器のみにチューンニングを制限してもよい(又はその逆も可能)。これにより、フィルタデバイスの(シャント共振器のチューニングによる)下側バンドエッジと(直列共振器のチューンニングによる)上側バンドエッジとを独立してチューニングすることができる。
【0084】
ステップ1565及び/又は1570で周波数チューニングを行った後、ステップ1575でフィルタデバイスを完成させる。ステップ1575に発生する可能性のある動作は、装置と外部回路とを接続するための接合パッド、はんだバンプ又は他の手段の形成(このようなパッドがステップ1545で形成されなかった場合)、複数のフィルタデバイスを含むウェハからの個々のフィルタデバイスの切り出し、他のパッケージングステップ、及び追加の検査を含む。各フィルタ装置が完成すると、ステップ1595でプロセスを終了する。
【0085】
〔結びのコメント〕
この説明全体を通して、示される実施形態及び例は、開示又は請求されたデバイス及び手順を限定するものではなく、例示的なものと見なされるべきである。本明細書に提示される例の多くは、方法動作又はシステム要素の特定の組み合わせを含むが、これらの動作及び要素は、同じ目的を達成するために他の方法で組み合わされてもよいことを理解されたい。フローチャートにおいて、ステップの追加及び減少を行ってもよく、示されるステップを組み合わせるか又は更に改良して、本明細書に記載される方法を達成してもよい。一実施形態に関連して論じる動作、要素及び特徴は、他の実施形態における同様の役割を除外することを意図するものではない。
【0086】
本明細書で使用される場合、「複数」は、2つ以上を意味する。項目の「セット」は、そのような項目の1つ以上を含むことができる。本明細書で使用される場合、明細書又は特許請求の範囲における、「備える」、「含む」、「運ぶ」、「有する」、「含有する」、「関与する」などの用語は、オープンエンドであると理解されるべきであり、つまり、これに限定されない。特許請求の範囲において、「からなる」及び「実質的にからなる」という移行句に限っては、それぞれ限定的又は半限定的な移行句である。請求項要素を変更する請求項における「第1」、「第2」、「第3」などの序数詞の使用は、それ自体では、ある一つの請求項要素が他の請求項要素に対して優先される何らかの優先度、優先順位、もしくは順序、または方法の動作が実施される時間的順序、を含意するものではなく、ある特定の名称を有する一つの請求項要素を(請求項要素の区別のために序数詞を使用しなければ)同じ名称を有する他の要素と区別するための単なるラベルとして使用されるものである。本明細書で使用される場合、「及び/又は」は、列挙されたアイテムが選択肢であることを意味するが、それらの選択肢には、列挙されるアイテムの任意の組み合わせも含まれる。