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特許7416212軟磁性合金粉末、磁心、磁気応用部品およびノイズ抑制シート
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  • 特許-軟磁性合金粉末、磁心、磁気応用部品およびノイズ抑制シート 図1
  • 特許-軟磁性合金粉末、磁心、磁気応用部品およびノイズ抑制シート 図2
  • 特許-軟磁性合金粉末、磁心、磁気応用部品およびノイズ抑制シート 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】軟磁性合金粉末、磁心、磁気応用部品およびノイズ抑制シート
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20240110BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240110BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240110BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20240110BHJP
   H01F 1/20 20060101ALI20240110BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20240110BHJP
   B22F 1/06 20220101ALI20240110BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20240110BHJP
   C22C 30/04 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B22F1/00 Y
C22C38/00 303S
B22F3/00 E
H01F1/153 108
H01F1/20
H01F27/255
B22F1/06
C22C33/02 E
C22C33/02 L
C22C30/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022512088
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2021012719
(87)【国際公開番号】W WO2021200600
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2020064421
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ラン ケン
(72)【発明者】
【氏名】逸見 和宏
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-240516(JP,A)
【文献】特開2016-003366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00 - 8/00
C22C 38/00
H01F 1/12 - 1/38
H01F 27/255
C22C 33/02
C22C 30/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質相を有する軟磁性合金粒子を含み、
前記軟磁性合金粒子は、FeSiCuSnM1M2で表される化学組成を有し、
M1は、CoおよびNiのうちの1種類以上の元素であり、
M2は、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Cr、Alおよびnのうちの1種類以上の元素であり、
79≦a+h+i≦86、0≦b≦5、7.2≦c≦12.2、0.1≦d≦3、7.3≦c+d≦13.2、0.5≦e≦10、0.4≦f≦2、0.3≦g≦6、0≦h≦30、0≦i≦5かつa+b+c+d+e+f+g+h+i=100(モル部)を満たし、
前記軟磁性合金粒子の二次元投影形状の平均の短軸長/長軸長の比が0.69以上1以下である、軟磁性合金粉末。
【請求項2】
前記軟磁性合金粒子は、前記化学組成の成分合計を100重量%としたとき、0.5重量%以下のSをさらに含む、請求項1に記載の軟磁性合金粉末。
【請求項3】
前記軟磁性合金粒子に占める前記非晶質相の体積割合が10%以上である、請求項1または2に記載の軟磁性合金粉末。
【請求項4】
前記軟磁性合金粒子に含まれる結晶相の結晶粒径が5nm以上30nm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の軟磁性合金粉末。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の軟磁性合金粉末を含む、磁心。
【請求項6】
請求項5に記載の磁心を備える、磁気応用部品。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の軟磁性合金粉末を含む、ノイズ抑制シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性合金粉末、磁心、磁気応用部品およびノイズ抑制シートに関する。
【背景技術】
【0002】
モーター、リアクトル、インダクタ、各種コイル等の磁気応用部品には、大電流での動作が求められている。そのため、磁気応用部品の鉄芯(磁心)に用いられる軟磁性材料には、高い磁場を印加しても飽和しにくいことが求められている。したがって、Fe-3.5Si粉末などの高い飽和磁束密度を有する軟磁性合金粉末が好まれている。
【0003】
また、軟磁性合金粉末を構成する軟磁性合金粒子の平均の短軸長/長軸長の比が1よりも小さい場合、外部磁場に対して長軸両端に磁束が集中しやすくなり、磁気飽和しやすくなることから、軟磁性合金粉末を構成する粒子の形状は球形に近いことが求められる。
【0004】
さらに、磁気応用部品のエネルギー損失成分の1つである鉄損を低減させるために、保磁力の小さい鉄芯が求められる。鉄芯の保磁力は、軟磁性合金粉末の保磁力によって決定される。しかし、上述したFe-3.5Siでは保磁力が大きい問題がある。保磁力が小さい軟磁性合金として、非晶質軟磁性合金がある。また、保磁力が小さく飽和磁束密度が高い軟磁性合金として、Fe基ナノ結晶合金などがある。
【0005】
外部磁場の印加方向に対して平行な方向に軟磁性合金粒子の長軸が強く配向している場合を除いて、軟磁性合金粒子の短軸長/長軸長の比が大きいほど、反磁界の影響が小さくなり保磁力が小さくなる。また、空間充填率の高い軟磁性合金粉末は鉄芯に加工したときの歪の量が少ないため、保磁力が小さくなる。そのため、球形に近い軟磁性合金粒子で構成された軟磁性合金粉末が求められる。
【0006】
例えば、特許文献1には、薄帯と呼ばれる連続した板状の非晶質合金を粉砕して軟磁性合金粉末を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-50053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されている軟磁性合金粉末は、非晶質合金薄帯の粉砕粉である。特許文献1では、非晶質合金薄帯の厚さは10μm以上50μm以下が好ましいとされている。特許文献1の実施例によれば、粗粉砕、中粉砕、微粉砕を異なる粉砕機を順次用いて非晶質合金薄帯を粉砕したのち、目開き106μm(対角150μm)の篩に通した結果、軟磁性合金粉末に含まれる軟磁性合金粒子はエッジ部を有しており、薄帯の主面は粉砕された形跡が見られなかったと記載されている。すなわち、特許文献1に記載の方法によって作製された軟磁性合金粉末が含む軟磁性合金粒子は、平面に近い薄帯主面と粉砕によって露出した粉砕面とを有し、それらの境界線は鋭利であることを示している。そのため、特許文献1に記載の方法で作製された軟磁性合金粉末が含む軟磁性合金粒子は、短軸長/長軸長の比が小さく、球形粒子ではない。したがって、特許文献1に記載の方法で作製された軟磁性合金粉末は、磁気飽和しやすく、軟磁性合金粒子の形状磁気異方性によって保磁力が大きい。その結果、磁心の鉄損が大きい問題があった。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、磁気飽和しにくく、良好な保磁力を有する軟磁性合金粉末を提供することを目的とする。本発明はまた、上記軟磁性合金粉末を含む磁心、上記磁心を備える磁気応用部品、および、上記軟磁性合金粉末を含むノイズ抑制シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の軟磁性合金粉末は、非晶質相を有する軟磁性合金粒子を含む。上記軟磁性合金粒子は、FeSiCuSnM1M2で表される化学組成を有し、M1は、CoおよびNiのうちの1種類以上の元素であり、M2は、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Al、Mn、Ag、V、Zn、As、Sb、Bi、Yおよび希土類元素のうちの1種類以上の元素であり、79≦a+h+i≦86、0≦b≦5、7.2≦c≦12.2、0.1≦d≦3、7.3≦c+d≦13.2、0.5≦e≦10、0.4≦f≦2、0.3≦g≦6、0≦h≦30、0≦i≦5かつa+b+c+d+e+f+g+h+i=100(モル部)を満たす。上記軟磁性合金粒子の二次元投影形状の平均の短軸長/長軸長の比が0.69以上1以下である。
【0011】
本発明の磁心は、本発明の軟磁性合金粉末を含む。
【0012】
本発明の磁気応用部品は、本発明の磁心を備える。
【0013】
本発明のノイズ抑制シートは、本発明の軟磁性合金粉末を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、磁気飽和しにくく、良好な保磁力を有する軟磁性合金粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の軟磁性合金粉末の一例のSEM画像である。
図2図2は、図1中の破線で囲まれた部分を拡大したSEM画像である。
図3図3は、磁気応用部品としてのコイルの一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の軟磁性合金粉末について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する各実施形態の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0017】
[軟磁性合金粉末]
本発明の軟磁性合金粉末は、非晶質相を有する軟磁性合金粒子を含む。上記軟磁性合金粒子は、所定の化学組成を有し、上記軟磁性合金粒子の二次元投影形状の平均の短軸長/長軸長の比が0.69以上1以下であることを特徴とする。
【0018】
本発明の軟磁性合金粉末は、球形に近い形状を有する軟磁性合金粒子を含むため、磁気飽和しにくく、良好な保磁力を有する。
【0019】
例えば、単ロール液体急冷法で作製した所定の化学組成を満たす薄帯を機械的に粉砕して粉砕粉を作製する。所定の化学組成を満たしていると、せん断応力および圧縮応力を印加する装置に該粉砕粉を入れて、複数の粉砕粒子の接触点に応力を加えて塑性変形を与えることで、短軸長/長軸長の比の大きな球形に近い形状を有する軟磁性合金粒子を作製することができる。具体的には、軟磁性合金粉末に含まれる軟磁性合金粒子の平均の二次元投影形状の平均の短軸長/長軸長の比を0.69以上1以下にすることができる。
【0020】
本発明の軟磁性合金粉末に含まれる軟磁性合金粒子は、FeSiCuSnM1M2で表される化学組成を有する。上記化学組成においては、a+b+c+d+e+f+g+h+i=100(モル部)を満たす。
【0021】
本発明の軟磁性合金粒子が含有する元素の役割について以下に説明する。
【0022】
Fe(鉄)は、強磁性特性を発現させるために必須の元素である。Feが多すぎると、非晶質形成能が下がって液体急冷後または熱処理後に粗大な結晶粒子が生成して保磁力が悪化する。
【0023】
Feの一部は、CoおよびNiのうちの1種類以上の元素であるM1で置換されてもよい。その場合、M1は、化学組成全体の30原子%以下であることが好ましい。したがって、M1は、0≦h≦30を満たす。
【0024】
Feの一部は、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Al、Mn、Ag、V、Zn、As、Sb、Bi、Yおよび希土類元素のうちの1種類以上の元素であるM2で置換されてもよい。その場合、M2は、化学組成全体の5原子%以下であることが好ましい。したがって、M2は、0≦i≦5を満たす。
【0025】
なお、Feの一部は、M1およびM2のいずれか一方で置換されてもよく、M1およびM2の両方で置換されてもよい。Fe、M1およびM2の合計は、79≦a+h+i≦86を満たす。
【0026】
Si(シリコン)は、第二結晶化開始温度を高くして熱処理の温度範囲を広げる機能も有する。ただし、Siが多すぎると、非晶質形成能が下がって保磁力が悪化する。以上より、Siは、0≦b≦5を満たし、好ましくは0≦b≦3を満たす。
【0027】
B(ホウ素)は、B原子周辺のFe原子間の結合強度を高め、球形化工程での塑性変形をしやすくするとともに、非晶質形成能を高める必須の元素である。ただし、Bが多すぎると、塑性変形が優勢になり、短軸長/長軸長の比が悪化する。さらに、Bは原子量が小さいので量を増やしても飽和磁束密度が低下しにくいが、多すぎると飽和磁束密度が低下する。以上より、Bは、7.2≦c≦12.2を満たす。
【0028】
C(炭素)は、C原子周辺のFe原子間の結合強度を高め、球形化工程での塑性変形をしやすくするとともに、非晶質形成能を高める必須の元素である。ただし、Cが多すぎると、塑性変形が優勢になり、短軸長/長軸長の比が悪化する。また、Cは原子量が小さいので量を増やしても飽和磁束密度が低下しにくいが、多すぎると飽和磁束密度が低下する。さらに、Cが多すぎると、オーステナイトが生成して保磁力が悪化する。以上より、Cは、0.1≦d≦3を満たす。
【0029】
BおよびCの合計は、7.3≦c+d≦13.2を満たす。
【0030】
P(リン)は、熱処理後の平均結晶粒径を小さくして保磁力を小さくする効果を有する。さらに、Pは、非晶質形成能を高める効果も有する。Pが多すぎると、飽和磁束密度が低下するとともに、非晶質形成能が低下して保磁力が悪化する。また、PはCuとの混合エンタルピーが負のため、Cuを均一に分散させて熱処理時の結晶核生成を促進させる効果を有する。以上より、Pは、0.5≦e≦10を満たす。
【0031】
Cu(銅)は、熱処理中の第一結晶化の結晶核生成を促進する効果を有するため、熱処理後に平均結晶粒径の小さい結晶組織を得て保磁力を低下させる効果を有する。Cuが多すぎると、非晶質形成能が下がって、逆に保磁力が悪化する。以上より、Cuは、0.4≦f≦2を満たす。
【0032】
Sn(錫)は、せん断応力によって脆性破壊をさせやすくして、粉砕させやすくする効果を有する。Snが少なすぎると、弾性変形が優勢となり、歪が蓄積しやすく、保磁力が悪化する。Snが多すぎると、脆性が強くなりすぎて球形化が困難になるとともに、飽和磁束密度が低下する。以上より、Snは、0.3≦g≦6を満たす。
【0033】
本発明の軟磁性合金粉末に含まれる軟磁性合金粒子は、上記化学組成の成分合計を100重量%としたとき、0.5重量%以下のS(硫黄)をさらに含んでもよい。Sは、せん断応力によって脆性破壊をさせやすくして、粉砕させやすくする効果を有する元素である。一方、Sが多すぎると、脆性が強くなりすぎて球形化が困難になるとともに、磁気特性が劣化してしまう。
【0034】
本発明の軟磁性合金粉末に含まれる軟磁性合金粒子は、非晶質相のみを有してもよい。すなわち、軟磁性合金粒子に占める非晶質相の体積割合は100%であってもよい。
【0035】
あるいは、本発明の軟磁性合金粉末に含まれる軟磁性合金粒子は、非晶質相に加えて、結晶相を有してもよい。この場合、軟磁性合金粒子に占める非晶質相の体積割合は、10%以上であることが好ましい。一方、軟磁性合金粒子に占める非晶質相の体積割合は、50%以下であることが好ましく、35%以下であることがさらに好ましい。言い換えると、軟磁性合金粒子に占める結晶相の体積割合は、90%以下であることが好ましい。一方、軟磁性合金粒子に占める結晶相の体積割合は、50%以上であることが好ましく、65%以上であることがさらに好ましい。
【0036】
軟磁性合金粒子にせん断応力および圧縮応力を加えて球形化させる工程において、脆性が強すぎると、軟磁性合金粒子が破壊されるのみで球形化されない。脆性の強い薄帯を粉砕して作製した粒子は、特許文献1に記載のように薄帯の主面が残り、エッジ部を有する形状となる。本発明においては、上記の化学組成を満たすことで、球形粒子を得るには粉砕工程では粉砕されやすく、かつ、球形化工程では塑性変形しやすい性質を併せ持つことができる。これに対して、特許文献1では、粒子形状を球形にするための化学組成の検討はなされていなかった。
【0037】
本発明の軟磁性合金粉末は、好ましくは、以下のように作製される。
【0038】
まず、所定の化学組成になるように、原材料を秤量する。本発明に用いる原材料は特に限定されることはなく、研究開発用の試薬であってもよく、電磁鋼板やその他鋳造製品に用いられる純鉄および鉄合金や、単一の元素からできている純物質であってもよい。例えば、Fe(鉄)の原材料として、電解鉄や鋳造圧延切断品でもよい。Si(シリコン)の原材料は、フェロシリコンでもよく、シリコンウエハおよびその原材料のシリコン片でもよい。B(ホウ素)の原材料は、金属ホウ素でもよく、フェロボロンでもよい。例えば希土類磁石に用いられるフェロボロンは、ホウ素の含有量や不純物の含有量によって様々な品種が存在するが、本発明に用いるフェロボロンは特に限定されない。C(炭素)の原材料は、黒鉛などの単体でもよく、銑鉄などの鉄合金やSiCでもよい。P(リン)の原材料は、リン鉄(フェロフォスフォラス)でもよく、単体でもよい。Cu(銅)の原材料は、電解銅でもよく、電線等の線材および線材の切断品でもよい。Sn(錫)の原材料は、単体の金属Snでもよく、合金でもよい。
【0039】
上記原材料は、Fe、Si、B、C、P、Cu、Sn、M1およびM2以外の不可避不純物元素を含んでいてもよい。軟磁性合金の重量を100%としたとき、不可避不純物元素の重量は2%以下であることが好ましく、1%以下であることがさらに好ましく、0.5%以下であることが特に好ましい。代表的な不可避不純物元素としてO(酸素)が挙げられる。
【0040】
所定の化学組成になるように秤量した原材料を加熱溶解して、化学濃度をできるだけ均一にする。加熱方法は特に限定されない。誘導加熱炉でもよく、外熱式加熱炉でもよく、アーク加熱でもよい。
【0041】
加熱中の雰囲気は特に限定されない。大気でもよく、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気でもよい。雰囲気に酸素が含まれる場合は、加熱中の酸化反応によって溶湯の化学組成が変化することがある。特に、シリコンやホウ素は酸素と反応しやすい。酸素と反応して合金の外部に排出される元素とその量をあらかじめ考慮して、溶解完了後に所定の化学組成になるよう、秤量値を決定することが好ましい。
【0042】
溶解して溶湯となった合金の温度は特に限定されないが、溶湯内部の化学組成ができるだけ均一になる温度と保持時間を選択すればよい。
【0043】
原材料を入れる容器は特に限定されない。アルミナやムライト、ジルコニアなどの耐火物を用いてよい。
【0044】
溶湯を鋳型に注ぎ、鋳造して母合金を作製してもよい。製造コスト削減のために、母合金の作製を省略することもできる。母合金を作製する場合は、必要に応じて母合金を粉砕したのち、母合金を加熱溶解する。
【0045】
溶湯を冷却凝固させて薄帯を作製する。冷却凝固の方法は特に限定されない。薄帯は、例えば長さが1m以上の連続体であってもよく、板状やフレーク状であってもよい。単ロール液体急冷法や双ロール液体急冷法を用いてもよい。ただし、非晶質相を含む薄帯を製造するために、冷却速度の速い冷却凝固方法および条件が好ましい。
【0046】
薄帯の厚さは特に限定されないが、厚すぎると冷却凝固してさらに結晶化開始温度以下に冷却されるまでの時間を長く要することから非晶質相を生成しにくいため、非晶質相を生成できる範囲に薄くすることが好ましい。また、薄帯の厚さは、次の粉砕工程で粉砕に要する時間、および、粉砕後の粒子径に影響する。小さい平均粒子径を有する粉末を作製する場合は薄帯の厚さを薄くすることが好ましいが、粉砕に要する時間は長くなる。以上より、薄帯の厚さは、10μm以上60μm以下が好ましく、14μm以上40μm以下がさらに好ましく、18μm以上30μm以下が特に好ましい。単ロール液体急冷法を用いる場合は、所定の平均厚さが得られるよう、冷却ロールの周速度や溶湯の押出圧を設定することが好ましい。
【0047】
冷却ロールの材質は特に限定されない。純銅を選定してもよく、ベリリウム銅やクロムジルコニア銅などの銅合金を選定してもよい。冷却ロールの内部には冷却のために水や油等の液体を循環させてもよい。冷却ロールの内部の流路直前の水または油等の液体の温度が低いほど冷却速度を早くできるため好ましいが、結露によって同ロールの表面に欠陥が生じる場合は室温より高くしてもよい。溶湯を冷却ロールの表面に供給するノズルの材質は、石英や窒化ホウ素などを選択することができる。ノズル形状は、矩形スリットでもよいし、丸穴でもよい。
【0048】
上記薄帯は非晶質相を含んでいることが好ましく、例えば体心立方構造を有する結晶粒を含んでいてもよい。薄帯の表面は酸化物相を有していてもよく、マグネタイト、ウスタイト、酸化ケイ素および酸化ホウ素のうち1種以上を含んでいてもよい。
【0049】
得られた薄帯に応力を印加して、粉砕粉を作製する。例えばピンミルやハンマーミル、フェザーミル、サンプルミル、ボールミル、スタンプミルなど、粉砕方法は特に限定されないが、粉砕粉の平均粒径が300μm以下であることが好ましい。
【0050】
前記粉砕粉に、せん断応力および圧縮応力を同時に印加して塑性変形させることで、球形に近い粒子を作製する。機械は特に限定されないが、例えばハイブリダイゼーションシステム(株式会社奈良機械製作所製)などの表面改質・複合化装置が好ましい。粉砕粉末がチッピングされる。ついで、塑性変形によって複数の粒子が集合して単一の粒子となる条件では、より球形に近い軟磁性合金粒子が得られるため好ましい。
【0051】
粒径が小さすぎる粒子や異物等を取り除くことを目的に、粉砕工程および球形化処理の前後に適宜分級工程を設けてもよい。分級装置および分級条件は特に限定されることはなく、篩分級でもよいし、気流式分級機でもよい。
【0052】
上記方法で作製した軟磁性合金粒子に熱処理を施すことで、軟磁気特性を改良してもよい。粉砕工程および球形化工程により、軟磁性合金粒子の内部には歪が導入されている。軟磁性合金粒子に導入された歪は、磁気異方性を高めるため保磁力の増加をもたらす。保磁力の悪化を避けるために、原子の拡散が促進される温度まで軟磁性合金粒子を加熱して温度を保持することで、歪を緩和するように原子が拡散し、歪を低減することができる。
【0053】
さらに、本発明の化学組成を有する軟磁性合金粒子を第一結晶化開始温度以上に加熱することで、微細な結晶組織を生成することができる。第一結晶化開始温度とは、本発明の化学組成を有する非晶質相を室温から加熱したときに、体心立方構造を有する結晶相が生成し始める温度である。第一結晶化開始温度は加熱昇温速度に依存し、加熱昇温速度が速いほど第一結晶化開始温度は高くなり、加熱昇温速度が遅いほど第一結晶化開始温度は低くなる。体心立方構造を有する結晶相を充分生成させると、飽和磁束密度が向上し、保磁力は低下する。該結晶相はα―FeにSi等の溶質が固溶した相であるため、飽和磁束密度が高い。
【0054】
軟磁性合金粒子に占める結晶相の体積割合は、50%以上であることが好ましく、65%以上であることが特に好ましい。一方、軟磁性合金粒子に占める結晶相の体積割合は、90%以下であることが好ましい。残部は非晶質相である。したがって、軟磁性合金粒子に占める非晶質相の体積割合は、50%以下であることが好ましく、35%以下であることがさらに好ましい。一方、軟磁性合金粒子に占める非晶質相の体積割合は、10%以上であることが好ましい。
【0055】
また、軟磁性合金粒子に含まれる結晶相の結晶粒径が小さいほど、磁気異方性が小さくなるため好ましい。結晶相の結晶粒径は、30nm以下であることが好ましく、25nm以下であることがさらに好ましく、20nm以下であることが特に好ましい。一方、結晶相の結晶粒径は、例えば5nm以上である。
【0056】
昇温速度が速いほど結晶核生成が活発になり、微細な結晶組織を得ることができるため好ましい。しかし、昇温速度が速すぎると、非晶質相から結晶相への変態反応に伴う発熱によって結晶成長が促進され、保磁力が悪化する。昇温速度は、例えば20℃/min以上100000℃/min以下が好ましく、100℃/min以上50000℃/min以下がさらに好ましい。
【0057】
また、試料温度が第二結晶化開始温度になると、第二結晶化反応が開始される。第二結晶化反応では、例えばFe-B化合物やFe-P化合物が生成する。Fe-B化合物やFe-P化合物は硬磁性を有するため、粉末の保磁力が増大する。そのため、熱処理は第一結晶化開始温度以上第二結晶化開始温度以下で実施することが好ましい。
【0058】
熱処理の雰囲気は特に限定されないが、酸素濃度は低いことが好ましい。雰囲気が酸素を含む場合は、軟磁性合金粒子の表面に酸化物層が生成する。酸化物層は絶縁皮膜として機能する反面、飽和磁束密度を低下させる。
【0059】
熱処理の冷却条件は特に限定されない。熱処理炉の加熱原理は特に限定されないが、上記昇温速度を満足することが好ましい。例えば、赤外線ランプアニール炉は最大1000℃/minで昇温することができる。または、あらかじめ加熱しておいた固体物質に軟試料を接近または接触させてもよい。あるいは、加熱された気体を試料に接触させてもよい。マイクロ波加熱やマイクロ波より短い波長の電磁波による誘導加熱でもよい。
【0060】
軟磁性合金粒子の短軸長/長軸長の比は、軟磁性合金粒子の外観の二次元投影図から測定される。例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した像を解析する方法や、マイクロスコープで撮影した像を解析する方法、島津製作所製のiSpect DIA-10、FPIA、VHX-6000等の粒子画像解析システムを用いる方法がある。後述する実施例では、SEMで撮影した画像から粒子の輪郭を抽出し、短軸長/長軸長の比を自動画像解析ソフト“WinROOF”で解析する。粒子の重なりによって輪郭が欠如した粒子を除き、粒子数が100以上になるように画像を用意し、100個の粒子の平均の短軸長/長軸長の比を軟磁性合金粉末の短軸長/長軸長の比とする。なお、磁気応用部品の磁心に軟磁性合金粒子が使用された場合においても、軟磁性合金粒子の大きさに変化はほとんどない。このため、磁心の断面を研磨し、SEM等で撮像することで軟磁性合金粒子と同様に短軸長/長軸長の比を求めることができる。
【0061】
図1は、本発明の軟磁性合金粉末の一例のSEM画像である。図2は、図1中の破線で囲まれた部分を拡大したSEM画像である。
図1に示す軟磁性合金粉末1に含まれる軟磁性合金粒子10について、図2に示すように、長軸長Xに対する短軸長Yの比(Y/X)を求める。ここで、軟磁性合金粒子10の長軸とは、粒子の輪郭上における任意の2点間を結ぶ直線のうち、最も長い直線を意味する。一方、軟磁性合金粒子10の短軸とは、粒子の輪郭上における任意の2点間を結ぶ直線のうち、長軸を2等分する点を通り、かつ長軸と直交する直線を意味する。
【0062】
本発明の軟磁性合金粉末においては、軟磁性合金粒子の平均の短軸長/長軸長の比が0.69以上1以下を満たす限り、軟磁性合金粒子の平均長軸長および平均短軸長は特に限定されない。軟磁性合金粒子の平均長軸長は、例えば、25μm以上45μm以下の範囲にあり、軟磁性合金粒子の平均短軸長は、例えば、25μm以上45μm以下の範囲にある。
【0063】
本発明の軟磁性合金粉末の用途は特に限定されない。本発明の軟磁性合金粉末は、例えば、モーター、リアクトル、インダクタ、各種コイルなどの磁気応用部品に用いられる磁心や、ノイズ抑制シートに加工することができる。本発明の軟磁性合金粉末を含む磁心、上記磁心を備える磁気応用部品、および、本発明の軟磁性合金粉末を含むノイズ抑制シートもまた、本発明に含まれる。
【0064】
例えば、溶剤で溶解した結着材と軟磁性合金粉末とを混錬し、金型に充填して圧力を加えることで磁心を成形することができる。結着材を構成する樹脂は特に限定されず、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂などの熱硬化性樹脂でもよく、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを混合してもよい。成形した磁心は余分な溶剤を乾燥させたのち、加熱して機械強度を高めることができる。成形時の圧力によって導入された軟磁性合金粒子の歪を緩和するため、熱処理を施してもよい。例えば、樹脂が燃焼あるいは揮発して磁気特性に悪影響を及ぼさない条件で300℃以上450℃以下の温度で熱処理すると歪を緩和させやすい。
【0065】
図3は、磁気応用部品としてのコイルの一例を模式的に示す斜視図である。
図3に示すコイル100は、本発明の軟磁性合金粉末を含む磁心110と、磁心110に巻回される一次巻線120および二次巻線130とを備える。図3に示すコイル100では、環状のトロイダル形状を有する磁心110に、一次巻線120および二次巻線130がバイファイラ巻きされている。
【0066】
コイルの構造は、図3に示すコイル100の構造に限定されない。例えば、環状のトロイダル形状を有する磁心に1本の巻線が巻回されてもよい。また、本発明の軟磁性合金粉末を含む素体と、上記素体に埋め込まれたコイル導体とを備える構造などであってもよい。
【実施例
【0067】
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
原材料を所定の化学組成になるように秤量した。原材料の合計の重量は150gとした。Feの原材料は東邦亜鉛株式会社製のマイロン(純度99.95%)を用いた。Siの原材料は株式会社高純度化学研究所製の粒状シリコン(純度99.999%)を用いた。Bの原材料は株式会社高純度化学研究所製の粒状硼素(純度99.5%)を用いた。Cの原材料は株式会社高純度化学研究所製の粉末状黒鉛(純度99.95%)を用いた。Pの原材料は株式会社高純度化学研究所製の塊状リン化鉄FeP(純度99%)を用いた。Cuの原材料は株式会社高純度化学研究所製のチップ状銅(純度99.9%)を用いた。Snの原材料は株式会社高純度化学研究所製の粒状錫(純度99.9%)を用いた。
【0069】
上記原材料をTEP社製アルミナるつぼ(U1材質)に充填し、誘導加熱で試料温度が1300℃になるまで加熱して、1分間保持して溶解した。溶解雰囲気はアルゴンとした。原材料を溶解して得た溶湯を銅製の鋳型に流し込み、冷却凝固させて母合金を得た。母合金をジョークラッシャーで3mm~10mm程度の大きさに粉砕した。続いて、単ロール液体急冷装置で粉砕した母合金を薄帯に加工した。具体的には、石英材質のノズルに母合金を15g充填し、アルゴン雰囲気中で誘導加熱によって1200℃に加熱して溶解した。母合金を溶解して得た溶湯を銅材質の冷却ロールの表面に供給して、厚さ15μm~25μm、幅1mm~4mmの薄帯を得た。出湯ガス圧は0.015MPaとした。石英ノズルの穴径は0.7mmとした。冷却ロールの周速度は50m/sとした。冷却ロールと石英ノズル間の距離は0.27mmとした。薄帯の長さは化学組成によって異なり、50mm程度の短い薄帯が複数得られた試料や5m以上の長い試料があった。
【0070】
得られた薄帯を株式会社奈良機械製作所製のサンプルミルSAMを用いて粉砕した。SAMの回転数は15000rpmとした。
【0071】
SAMによる粉砕で得られた粉砕粉を、表面改質・複合化装置を用いて球形化処理を施した。表面改質・複合化装置は株式会社奈良機械製作所製のハイブリダイゼーションシステムNHS-0型を用いた。回転数は13000rpmとし、処理時間は30分とした。
【0072】
粉砕粉末を目開き38μmの篩に通して、篩上に残った粗大な粒子を除去した。次いで、粉末を目開き20μmの篩に通して、篩を通過した微小な粒子を除去し、篩上に残った軟磁性合金粉末を回収した。得られた軟磁性合金粉末を試料1~55とした。
【0073】
各試料の化学組成を、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)によって測定した。ただし、Cは燃焼法によって測定した。
【0074】
日本電子株式会社製の走査型電子顕微鏡を用いて、軟磁性合金粉末に含まれる軟磁性合金粒子の外観を撮像した。得られたSEM画像を画像処理ソフト“WinROOF”を用いて輪郭を抽出し、軟磁性合金粒子の重なりによって輪郭が不正確な粒子を除いて100個の軟磁性合金粒子を選択した。自動解析によって、平均の短軸長/長軸長の比を計算した。
【0075】
飽和磁化Msを振動試料型磁化測定器(VSM)で測定した。粉末測定用のカプセルに軟磁性合金粉末を充填し、磁場印加時に粉末が移動しないように圧密した。
【0076】
見かけ密度ρをピクノメータ法で測定した。置換ガスはHeとした。
【0077】
VSMで測定した飽和磁化Msとピクノメータ法で測定した見かけ密度ρの数値から、下記(1)式を用いて、飽和磁束密度Bsを計算した。
Bs=4π・Ms・ρ ・・・(1)
【0078】
保磁力Hcを東北特殊鋼株式会社製の保磁力計K-HC1000で測定した。粉末測定用のカプセルに軟磁性合金粉末を充填し、磁場印加時に粉末が移動しないように圧密した。
【0079】
非晶質相の体積割合VaをX線回折装置のθ-2θ法で測定したX線回折強度プロファイルのピーク面積強度比によって求めた。2θ=44°近傍に、非晶質相によるハローと体心立方構造を有する結晶相の(110)回折ピークが得られた。非晶質相によるハローの面積強度をIaとし、体心立方構造を有する結晶相の(110)ピーク面積強度をIcとして、下記(2)式によって非晶質相の体積割合Vaを求めた。なお、下記(3)式によって体心立方構造を有する結晶相の体積割合Vcを求めることもできる。
Va=Ia/(Ia+Ic) ・・・(2)
Vc=Ic/(Ia+Ic) ・・・(3)
【0080】
試料1~10の化学組成、平均の短軸長/長軸長の比、非晶質相の体積割合Va、飽和磁束密度Bsおよび保磁力Hcを表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1において、試料番号に*を付したものは、本発明の範囲外の比較例である。表2-1、表2-2および表3においても同様である。
【0083】
表1より、化学組成にSnを含まない試料1では、平均の短軸長/長軸長の比が0.67であり、保磁力が高くなっている。一方、化学組成にSnを含み、0.3≦g≦6である試料2~10では、平均の短軸長/長軸長の比が0.69~0.83であり、保磁力が低くなっている。
【0084】
[実施例2]
試料1~55の第一結晶化開始温度および第二結晶化開始温度を示差走査熱量計(DSC)で測定した。室温から650℃まで20℃/minで昇温し、各温度における試料の発熱を測定した。この際、プラチナ製の試料容器を用いた。雰囲気はアルゴン(99.999%)を選択し、ガスフロー速度は1L/minとした。試料の量は15mg~20mgとした。結晶化による発熱が開始される温度以下のDSC曲線の接線と、結晶化反応による試料の発熱ピークの立ち上がりにおける最大傾き接線との交点を結晶化開始温度とした。
【0085】
測定した第一結晶化開始温度より20℃高い温度で試料に熱処理を施して、非晶質相からナノ結晶を生成させた。これにより、試料中に非晶質相とナノ結晶を共存させた。熱処理炉はアドバンス理工株式会社製の赤外線ランプアニール炉RTAを用いた。熱処理雰囲気はアルゴンとし、赤外線のサセプタはカーボンを用いた。直径4インチのカーボン製サセプタの上に試料を2g置き、さらにその上に直径4インチのカーボン製サセプタを置いた。制御用熱電対は下側のカーボン製サセプタに空いた熱電対挿入用の穴に差し込んだ。昇温速度は400℃/minとした。熱処理温度での保持時間は1分間とした。冷却は自然冷却とし、およそ30分で100℃以下に達した。
【0086】
各試料の化学組成、平均の短軸長/長軸長の比、飽和磁束密度Bsおよび保磁力Hcを実施例1と同じ方法で測定した。X線回折装置を用いて、熱処理後の軟磁性合金粉末の結晶状態を確認した。θ-2θ法で測定したX線回折強度プロファイルにおいて、2θ=44°近傍に、非晶質相によるハローと体心立方構造を有するα-Fe結晶相の(110)回折ピークが得られた。下記(4)に示すScherrer式を用いて回折ピークからα-Fe結晶相の平均統計粒子径を算出した。また、保磁力を悪化させるFe-B化合物相の有無について、2θ=46°近傍に回折ピークが存在するかどうかによって確認した。
D=K・λ/(β・cosθ)・・・・・・・・(4)
【0087】
これらの結果を表2-1および表2-2に示す。
【0088】
【表2-1】
【0089】
【表2-2】
【0090】
表2-1および表2-2より、以下のことが確認できる。
【0091】
試料1~10について、表1と同じように、gが0の場合、平均の短軸長/長軸長の比が0.67であり、保磁力が高くなっている。一方、試料2~10では、0.3≦g≦6である。試料の平均の短軸長/長軸長の比が0.69~0.83であり、保磁力が低くなっている。
【0092】
試料11~14について、aが79より小さい場合、飽和磁束密度が低下する。一方、試料14のようにaが86より大きい場合、非晶質形成能が下がって液体急冷後または熱処理後に粗大な結晶粒子(Fe-B化合物相)が生成して保磁力が悪化する。
【0093】
試料15~17について、Siを含むことで、第二結晶化開始温度を高くして熱処理の温度範囲を広げる機能も有する。一方、試料17のように、Siが多すぎると、非晶質形成能が下がって液体急冷後または熱処理後に粗大な結晶粒子(Fe-B化合物相)が生成して保磁力が悪化する。
【0094】
試料18~21について、試料18のようにBが少ないと、保力が高くなってしまう。一方、試料21のようにBが多すぎると、塑性変形が優勢になり、短軸長/長軸長の比が悪化する。
【0095】
試料22~25について、Cを含むことで、保力を低くすることができる。一方、試料25のようにCが多すぎると、塑性変形が優勢になり、短軸長/長軸長の比が悪化する。
【0096】
試料12、18、21、26および29について、試料18はc+dが小さいため、保力が高くなっている。一方、試料21および26はc+dが大きいため、塑性変形が優勢になり、短軸長/長軸長の比が悪化する。
【0097】
試料27~30について、Pを含むことで、保磁力を低くすることができる。一方、試料30のようにPが多すぎると、飽和磁束密度が低下する。
【0098】
試料31~34について、Cuを含むことで、保力を低くすることができる。一方、試料34のようにCuが多すぎると、非晶質形成能が下がって、逆に保磁力が悪化する。
【0099】
試料2、10および35について、Snを含むことで、保力を低くすることができる。一方、試料35のようにSnが多すぎると、短軸長/長軸長の比が悪化し、飽和磁束密度も低下する。
【0100】
試料36~39について、Feの一部をCoまたはNiに置換することでも、飽和磁束密度および保力が良好な軟磁性合金粉末を形成することができる。しかし、試料37および39のようにCoまたはNiに置換する量が多くなると、非晶質形成能が下がって、保力が高くなる。
【0101】
試料40~55について、Feの一部をTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Al、Mn、Ag、V、Zn、As、Sb、Bi、Yおよび希土類元素のうちの1種類以上の元素であるM2で置換することでも、飽和磁束密度および保力が良好な軟磁性合金粉末を形成することができる。しかし、試料41、43、45、47、49、51、53および55のようにM2で置換する量が多くなると、飽和磁束密度が低下し、保力が高くなる。
【0102】
[実施例3]
実施例2で作製した軟磁性合金粉末の表面に絶縁皮膜を形成した。軟磁性合金粒子30gに対し、イソプロピルアルコール(IPA)8.5g、9%アンモニア水8.5g、30%プライサーフALを1.14g混合した。次いで、IPA7.9gとテトラエトキシシラン(TEOS)2.1gの混合溶液を1.0gずつ3回に分けて混合し、ろ紙でろ過した。ろ紙で回収した試料をアセトンで洗浄したのち、80℃の温度条件で60分加熱乾燥し、140℃の温度条件で30分熱処理し、複合軟磁性合金粉末を得た。
【0103】
上記複合軟磁性合金粉末をトロイダル形状の磁心に加工した。複合軟磁性合金粉末の重量を100重量%としたとき、1.5重量%のフェノール樹脂PC-1と3.0重量%のアセトンを乳鉢で混合した。防爆オーブンで温度80℃、保持時間30分間の条件でアセトンを揮発させたのち、試料を金型に充填して60MPaの圧力、180℃の温度の熱間成型で、外径8mm、内径4mmのトロイダル形状に成形した。
【0104】
磁心の比初透磁率をキーサイト社製インピーダンスアナライザE4991Aおよび磁性材料テストフィクスチャ16454Aで測定した。
【0105】
コアロス(鉄損)を測定するために、磁心に銅線を巻いた。銅線の直径は0.26mmとした。励磁のための一次巻線と検出のための二次巻線の巻き数は20ターンで同一とし、バイファイラ巻きを施した。周波数条件は1MHzとし、最大磁束密度を20mTとした。磁心の保磁力およびコアロスを表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
表3より、試料1では、磁心の保磁力が高く、コアロスが高くなっている。一方、試料5では、磁心の保磁力が低く、コアロスが低くなっている。なお、試料56はサンプルミルで粉砕をした比較例である。試料56では、短軸長/長軸長の比が小さく、充填率が悪く、コアロスが高くて測定不能であった。
【符号の説明】
【0108】
1 軟磁性合金粉末
10 軟磁性合金粒子
100 コイル
110 磁心
120 一次巻線
130 二次巻線
X 長軸長
Y 短軸長
図1
図2
図3