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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
G01N23/223
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022536010
(86)(22)【出願日】2020-07-14
(86)【国際出願番号】 JP2020027312
(87)【国際公開番号】W WO2022013934
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森久 祐司
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-109502(JP,A)
【文献】特開2016-114394(JP,A)
【文献】特開2011-022163(JP,A)
【文献】特開2004-043882(JP,A)
【文献】特開平06-330346(JP,A)
【文献】米国特許第04150179(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N23/00-G01N23/2276
G01B15/00-G01B15/08
G21F 1/00-G21F 7/06
G21K 1/00-G21K 7/00
G01T 1/00-G01T 7/12
H05G 1/00-H05G 2/00
A61B 6/00-A61B 6/14
C23C 2/00-C23C 2/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDream3)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料にX線を照射するためのX線源と、
前記X線の照射により前記試料から放出される蛍光X線を検出するための検出器と、
前記試料を収納するための鉄製の試料室とを含み、
前記試料室は、その内部表面の少なくとも一部が溶融アルミニウム由来のアルミニウムからなる層により被覆されている、蛍光X線分析装置。
【請求項2】
前記試料室は、その内部表面の90%以上が前記溶融アルミニウム由来のアルミニウムからなる層により被覆されている、請求項1に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項3】
前記溶融アルミニウム由来のアルミニウムからなる層上に更に被覆層を有し、
前記被覆層は、アルミニウムの蛍光X線を減衰させる層である、請求項1または2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項4】
前記被覆層はカーボンからなる層である、請求項3に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項5】
前記試料室は、前記X線源および前記検出器を含まず、かつ前記内部表面のみが前記溶融アルミニウム由来のアルミニウムからなる層により被覆されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の蛍光X線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析装置は、固体試料や粉体試料や液体試料に一次X線を照射し、一次X線により励起されて放出される蛍光X線を検出することによって、その試料に含まれる元素の定性や定量分析を行うものである。現在、蛍光X線分析装置は有用な分析装置として広く用いられており、その分析対象は金属分野から食品分野まで多岐にわたる。
【0003】
図3は、従来の一般的な蛍光X線分析装置の構成を示す概略図である。蛍光X線分析装置101は、試料Sが内部に配置される試料室20と、X線源10と検出器30とが内部に配置された装置筐体60とを備える。
【0004】
試料室20は、四角形板状の試料ベース21と、四角形板状の上面を有する四角筒形状の上部チャンバ22とを有する。試料ベース21の中央部には、円形状の開口21aが形成されている。上部チャンバ22の一つの側壁の下面と試料ベース21の上面側の一辺とが軸となるように、上部チャンバ22は試料ベース21に対して回転可能に取り付けられている。そして、上部チャンバ22の内部は、真空ポンプ(図示せず)と接続されており、真空ポンプによって真空に排気されるようになっている。このような試料室20によれば、上部チャンバ22を開くことにより、試料Sの分析面が開口21aを塞ぐように試料Sを配置することができ、試料Sを配置した後、上部チャンバ22を閉めて上部チャンバ22の内部を真空に排気することができる。
【0005】
装置筐体60は、四角形板状の下面を有する四角筒形状であり、四角筒形状の側壁の上面に試料ベース21の下面側の周縁部が取り付けられている。そして、装置筐体60の内部には、X線源10と検出器30とが配置されている。
【0006】
X線源10は、たとえば、ポイントフォーカスのX線管球であり、筐体を有し、筐体の内部に陽極であるターゲット(図示せず)と陰極であるフィラメント(図示せず)とが配置されている。これにより、ターゲットに高電圧を印加するとともに、フィラメントに低電圧を印加することで、フィラメントから放射された熱電子をターゲットの端面に衝突させることで、ターゲットの端面で発生した一次X線を出射するようになっている。
【0007】
X線源10は、試料ベース21の開口21aの左下方に固定して取り付けられており、X線源10から出射される一次X線が開口21a中に入射角θで入射するように構成されている。よって、試料Sの分析面が開口21aを塞ぐように当接されることで、試料Sの分析面が一次X線に入射角θで照射されるようになっている。
【0008】
検出器30は、たとえば、導入窓が形成された筐体を有し、筐体の内部に蛍光X線を検出する検出素子(半導体素子)が配置されている。そして、検出器30は、試料ベース21の開口21aの右下方に固定して取り付けられており、試料Sの分析面で発生する蛍光X線が導入窓に入射するように構成されている。よって、試料Sの分析面が一次X線に照射されると、検出器30は試料Sの分析面で発生した蛍光X線を検出するようになっている。
【0009】
X線分析装置101では、試料Sを透過したX線に使用者が被曝する危険を低減すため、試料Sは試料室20内に収納される。試料室20を構成する試料ベース21および上部チャンバ22は、遮蔽材料により形成されている。すなわち、試料室20は遮蔽材料により形成されている。遮蔽材料として、たとえば厚さ3.2mmの鉄が用いられることが、特開2011-022163号公報(特許文献1)に示されている。図4は、鉄の厚さとX線透過率との関係を示している。図4を参照して、遮蔽材料として厚さ15mmの鉄を用いた場合、試料室20を透過する管電圧50kVのX線は10桁減衰されるものとなり、使用者がX線に被曝する危険が大幅に低減される。また、一般的に試料室20の遮蔽材料として鉄を用いる場合、防錆対策としてニッケルメッキが鉄に施される。ニッケルによる鉄の防錆加工に関する特許文献として、たとえば特開2004-197151号公報(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-022163号公報
【文献】特開2004-197151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
鉄製の試料室20の内部表面にニッケルメッキが施された構造を有する場合、試料Sを透過したX線が試料ベース21や上部チャンバ22に当たった際、ニッケルの蛍光X線(Ni-K:7478eV)を発生させることになる。係るニッケルの蛍光X線は試料Sの分析面で発生する蛍光X線と共に検出器30にて検出され得る。そのため、蛍光X線分析結果に悪影響を及ぼす懸念がある。また、仮に鉄製の試料室20の内部表面にニッケルメッキを施さない場合においても、試料Sを透過したX線が試料室20の試料ベース21や上部チャンバ22に当たった際、鉄の蛍光X線(FE-K:6403eV)を発生させることになる。係る鉄の蛍光X線もまた、試料Sの分析面で発生する蛍光X線と共に検出器30にて検出され得る。そのため、蛍光X線分析結果に悪影響を及ぼす懸念がある。
【0012】
以下、試料Sを透過したX線が試料室20の試料ベース21や上部チャンバ22に当たり発生するニッケルの蛍光X線は「ニッケル由来の不純線」とも記され、試料Sを透過したX線が試料室20の試料ベース21や上部チャンバ22に当たり発生する鉄の蛍光X線は「鉄由来の不純線」とも記される。
【0013】
ニッケルは蛍光X線分析装置101における分析対象となり得る。たとえば、試料Sが医薬品、食品、化学薬品等である場合、試料Sの不純物の測定を目的としてニッケルの微量分析が行われ得る。係る場合、ニッケル由来の不純線は試料S中のニッケルの微量分析に対して大きな妨げとなると考えられる。
【0014】
また、近年蛍光X線分析装置を用いた微量(ppmオーダー)分析のニーズが高まっている。微量分析を行うためには、ppmオーダーの標準試料を準備する必要がある。係る標準試料の調製には塩酸等の酸溶媒が一般的に用いられる。酸溶媒を含む標準試料を蛍光X線分析する際には、酸溶媒が揮発する。揮発した酸溶媒は鉄製の試料室20の内部表面に施されたニッケルメッキを侵食する。その結果、分析の性能自体には影響は与えないものの、試料室20の内部表面に黒ずみが生じ、蛍光X線分析装置の美観が損なわれるという問題もあった。
【0015】
本発明の目的は、鉄製の試料室を含む蛍光X線分析装置において、ニッケル由来の不純線および鉄由来の不純線による蛍光X線分析に対する影響を低減させつつ、酸溶媒による試料室内部表面における黒ずみの発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、以下に示す蛍光X線分析装置を提供する。
[1] 試料にX線を照射するためのX線源と、X線の照射により試料から放出される蛍光X線を検出するための検出器と、試料を収納するための鉄製の試料室とを含み、試料室は、その内部表面の少なくとも一部が溶融アルミニウム由来のアルミニウムからなる層により被覆されている、蛍光X線分析装置。これによりニッケル由来の不純線および鉄由来の不純線による蛍光X線分析に対する影響を低減させることができる。さらに酸溶媒による試料室内部表面における黒ずみの発生を抑制することができる。
【0017】
[2] 試料室は、その内部表面の略全面が溶融アルミニウム由来のアルミニウムからなる層により被覆されている、[1]に記載の蛍光X線分析装置。これによりニッケル由来の不純線および鉄由来の不純線による蛍光X線分析に対する影響を、より十分に低減させることができる。
【0018】
[3] 溶融アルミニウム由来のアルミニウムからなる層上に更に被覆層を有し、被覆層は、アルミニウムの蛍光X線を減衰させる層である、[1]または[2]に記載の蛍光X線分析装置。これにより、アルミニウム由来の不純線による蛍光X線分析に対する影響も低減させることができる。
【0019】
[4] 被覆層はカーボンからなる層である、[3]に記載の蛍光X線分析装置。これにより、アルミニウム由来の不純線による蛍光X線分析に対する影響を、より十分に低減させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、鉄製の試料室を含む蛍光X線分析装置において、ニッケル由来の不純線および鉄由来の不純線による蛍光X線分析に対する影響を低減させつつ、酸溶媒による試料室内部表面における黒ずみの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明に係る蛍光X線分析装置の一例を示す概略図である。
図2図2は、本発明に係る蛍光X線分析装置の他の例を示す概略図である。
図3図3は、従来の蛍光X線分析装置の一例を示す概略図である。
図4図4は、鉄の厚さとX線透過率との関係を示す図である。
図5図5は、溶融アルミニウム由来のアルミニウムからなる層の厚さとX線透過率との関係を示す図である。
図6図6は、カーボンからなる層の厚さとX線透過率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。ここで本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0023】
<蛍光X線分析装置>
図1は、本発明の実施形態に係る蛍光X線分析装置の一例を示す概略図である。なお、上述した従来の蛍光X線分析装置101と共通する構成については、同一の参照符号を付している。
【0024】
本発明に係る蛍光X線分析装置1は、試料SにX線を照射するためのX線源10と、X線の照射により試料Sから放出される蛍光X線を検出するための検出器30と、試料Sを収納するための鉄製の試料室20とを含む。試料室20は、その内部表面の少なくとも一部が溶融アルミニウム由来のアルミニウムからなる層40により被覆されている。試料室20の内部表面には、ニッケルメッキは施されていない。以下、「溶融アルミニウム由来のアルミニウムからなる層40」は、「溶融アルミニウム層40」とも記される。
【0025】
本発明に係る蛍光X線分析装置1において、鉄製の試料室20の内部表面にはニッケルメッキが施されていない。そのため、ニッケル由来の不純線が発生することは無いものと考えられる。すなわち、本発明に係る蛍光X線分析装置1においては、ニッケル由来の不純線の発生が抑制され、ニッケル由来の不純線による蛍光X線分析に対する影響を低減させることができる。
【0026】
本発明に係る蛍光X線分析装置1においては、鉄製の試料室20の内部表面の少なくとも一部が溶融アルミニウム層40により被覆されている。X線源10から発生されるX線は溶融アルミニウム層40を透過し、試料室20の試料ベース21や上部チャンバ22に到達する。結果として、鉄由来の不純線が発生する。
【0027】
ここで図5に示されるように、溶融アルミニウム層40は鉄由来の不純線を減衰させる。たとえば、図1に示されるように上部チャンバ22の内部表面が溶融アルミニウム層40により被覆されている場合、鉄製の上部チャンバ22から発生した鉄由来の不純線は、上部チャンバ22に被覆された溶融アルミニウム層40を透過する際に減衰されるものと考えられる。すなわち、本発明に係る蛍光X線分析装置1においては、鉄由来の不純線の発生が抑制されるため、鉄由来の不純線による蛍光X線分析に対する影響を低減させることができる。
【0028】
溶融アルミニウム層40は、鉄製の試料室20の内部表面の少なくとも一部を被覆する。これにより、上述の通り鉄由来の不純線による蛍光X線分析に対する影響を低減させることが可能となる。溶融アルミニウム層40は、鉄製の試料室20の内部表面の約10%を被覆してもよいし、約20%を被覆してもよいし、約30%を被覆してもよいし、約40%を被覆してもよいし、約50%を被覆してもよいし、約60%を被覆してもよいし、約70%を被覆してもよいし、約80%を被覆してもよいし、試料室20の内部表面の略全面を被覆してもよい。本明細書において「試料室20の内部表面の略全面を被覆」とは、試料室20の内部表面の90%以上が被覆されている状態を示す。溶融アルミニウム層40により被覆される試料室20の内部表面の割合を大きくすることにより、発生した鉄由来の不純線が溶融アルミニウム層40により顕著に減衰されるため、鉄由来の不純線による蛍光X線分析に対する影響を顕著に低減させることができる。
【0029】
溶融アルミニウム層40は、ニッケルメッキと比較して耐蝕性に優れている。そのため、鉄製の試料室20の内部表面の少なくとも一部が溶融アルミニウム層40により被覆されることにより、酸溶媒による試料室20内部表面における黒ずみの発生が抑制されると期待される。試料室20が、その内部表面の略全面が溶融アルミニウム層40により被覆されている場合は、酸溶媒による試料室20の黒ずみの発生が顕著に抑制されると期待される。
【0030】
すなわち、本発明に係る蛍光X線分析装置1においては、ニッケル由来の不純線および鉄由来の不純線による蛍光X線分析に対する影響が低減されつつ、酸溶媒による試料室20内部表面における黒ずみの発生も抑制されるものである。
【0031】
《溶融アルミニウム層》
溶融アルミニウム層40は、溶融アルミニウム由来のアルミニウムからなる層である。溶融アルミニウム層40は、たとえば以下に示す(1)~(4)の工程により形成することができる。
(1)鉄製の試料室20の母材となる清浄な鉄鋼を準備すること。
(2)該清浄な鉄鋼に対し、前処理としてフラックス処理を行うこと。
(3)融点(約660℃)以上に保たれた溶融アルミ溶液を準備すること。
(4)フラックス処理を経た該清浄な鉄鋼を、該溶融アルミ溶液中に数分間浸漬すること。
【0032】
このようして、鉄鋼の表面を溶融アルミニウム層により被覆することが可能となる。溶融アルミニウム層の最表面には、不動態である酸化被膜が形成されていると考えられる。係る酸化被膜により、酸溶媒に起因する黒ずみの発生が抑制されると期待される。
【0033】
溶融アルミニウム層40の厚みには特に制限は無いが、ニッケルメッキに代えて溶融アルミニウム層40を施したことによる好ましい効果(すなわち鉄製の試料室が、その内部表面にニッケルメッキが施された構造を有する場合において得られる鉄由来の不純線の減衰効果よりも大きな減衰効果)が得られる厚みであることが望ましい。上記ニッケルメッキの厚みは、通常5~15μmであり、当該厚みによって鉄由来の不純線は30~67%に迄、減衰させることができると考えられる。したがって、溶融アルミニウム層40は、鉄由来の不純線を30%未満に迄減衰させることができる厚みを有することが望ましい。
【0034】
たとえば図5によれば、溶融アルミニウム層40の厚みがたとえば50μmの場合、溶融アルミニウム層40を透過した鉄由来の不純線は、溶融アルミニウム層40を透過する前と比較して約17.0%まで減衰されるので好ましい。溶融アルミニウム層40の厚みがたとえば100μmの場合、溶融アルミニウム層40を透過した鉄由来の不純線は、溶融アルミニウム層40を透過する前と比較して約8.5%まで減衰されるのでより好ましい。溶融アルミニウム層40の厚みがたとえば200μmの場合、溶融アルミニウム層40を透過した鉄由来の不純線は、溶融アルミニウム層40を透過する前と比較して約0.8%まで減衰されるのでさらに好ましい。一方、溶融アルミニウム層40の厚みが25μm未満であると、鉄由来の不純線の減衰に改善の余地が生じる可能性がある。溶融アルミニウム層40の厚みが1000μmを超える場合、溶融アルミニウム層40の形成そのものが困難になる可能性がある。この場合、上記(4)において、フラックス処理を経た清浄な鉄鋼を溶融アルミ溶液中に数分間浸漬することに代えて、上記鉄鋼に対しアルミ鋳造を行う等の他の手段を行うことが合理的となる場合がある。したがって、たとえば溶融アルミニウム層40の厚みは、25μm以上1000μm未満であることができる。
【0035】
なお、X線源10から発生されるX線が溶融アルミニウム層40に当たることにより、アルミニウムの蛍光X線(Al-K:1486eV)が発生する。しかしながら、係るアルミニウムの蛍光X線が蛍光X線分析結果に与える影響は限定的であると考えられる。通常、アルミニウムの蛍光X線は蛍光X線分析装置にて分析対象となる元素とエネルギーが大きく異なるためである。以下、「アルミニウムの蛍光X線」は、「アルミニウム由来の不純線」とも記される。
【0036】
《被覆層》
図2を参照して、溶融アルミニウム層40上に更に被覆層50を有してもよい。被覆層50は、アルミニウム由来の不純線を減衰させる層である。溶融アルミニウム層40から発生したアルミニウム由来の不純線は、溶融アルミニウム層40上に配置された被覆層50を透過する際に減衰されるものと考えられる。これにより、アルミニウム由来の不純線による蛍光X線分析に対する影響が顕著に低減されると期待される。
【0037】
被覆層50を構成する材料は、アルミニウム由来の不純線を減衰させ、その材料自身が蛍光X線分析の障害となる蛍光X線を発生させず、かつ、溶融アルミニウム層40の形状がたとえば自由曲面等の複雑な場合であっても溶融アルミニウム層40上に配置可能であれば、特に制限されない。たとえば被覆層50は、カーボン、窒化ボロン(BN)、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等からなる層であってもよい。
【0038】
被覆層50は、カーボンからなる層であることが望ましい。図6に示されるように、カーボンからなる被覆層50の厚さが50μmの場合、被覆層50を透過したアルミニウム由来の不純線は、被覆層50を透過する前と比較して約0.04%まで減衰される。これにより、アルミニウム由来の不純線による蛍光X線分析に対する影響が顕著に低減される。なお、被覆層50がBN、ポリイミド、またはPMMAからなる層である場合においても、カーボンからなる被覆層50と同程度にアルミニウム由来の不純線が減衰されるものと考えられる。
【0039】
ここで本発明に係る蛍光X線分析装置は、上記試料室の内部表面と溶融アルミニウム由来のアルミニウムからなる層との間に、試料室を構成する材料(例えば鉄)とアルミニウムとからなる合金層を有することが好ましい。この合金層は、試料室を構成する材料とアルミニウムとが5:1~1:5となる組成比率を有することが好ましく、2:1~1:2となる組成比率を有することがより好ましく、1:1となる組成比率を有することが最も好ましい。
【0040】
この場合、蛍光X線分析装置は、上記試料室の内部表面上に、溶融アルミニウム層として試料室の内部表面側の合金層と、上記合金層上のアルミニウム層とを備える層構造を有する。上記溶融アルミニウム層は、鉄由来の不純線を30%未満に迄減衰させることができる厚みを有することが望ましく、たとえば上記合金層とアルミニウム層との合計の厚みを25μm以上1000μm未満とすることができる。さらに溶融アルミニウム層は、上記合金層およびアルミニウム層を備える場合、上記アルミニウム層は、12.5~500μmであることが好ましく、25~200μmであることがより好ましく、50~100μmであることがさらに好ましい。
【0041】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0042】
1,101 蛍光X線分析装置、10 X線源、20 試料室、21 試料ベース、22 上部チャンバ、30 検出器、40 溶融アルミニウム層、50 被覆層、60 装置筐体、21a 開口、S 試料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6