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特許7416278訓練データ生成プログラム、訓練データ生成方法及び訓練データ生成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】訓練データ生成プログラム、訓練データ生成方法及び訓練データ生成装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/398 20200101AFI20240110BHJP
   G06F 30/27 20200101ALI20240110BHJP
   G06F 119/10 20200101ALN20240110BHJP
【FI】
G06F30/398
G06F30/27
G06F119:10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022554999
(86)(22)【出願日】2020-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2020037829
(87)【国際公開番号】W WO2022074728
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 広明
(72)【発明者】
【氏名】山根 昇平
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 崇史
(72)【発明者】
【氏名】巨智部 陽一
(72)【発明者】
【氏名】大原 敏靖
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-078392(JP,A)
【文献】特開2019-101924(JP,A)
【文献】特開2019-082874(JP,A)
【文献】特開2011-158373(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0089560(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/398
G06F 30/27
G06F 119/10
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の複数の回路情報のそれぞれに含まれる回路の特性インピーダンスを算出し、
算出された前記特性インピーダンスに基づいて、前記複数の回路情報を分類し、
前記分類の処理により第1のグループに分類された第2の複数の回路情報から一又は複数の回路情報を選択し、
選択された前記一又は複数の回路情報に基づいて、機械学習用の訓練データを生成する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする訓練データ生成プログラム。
【請求項2】
前記生成する処理は、選択された前記一又は複数の回路情報に対応する回路を流れる電流の空間分布と、選択された前記一又は複数の回路情報に対応する回路の電磁波放射状況とが対応付けられた訓練データを生成する処理を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の訓練データ生成プログラム。
【請求項3】
前記訓練データの集合を用いて、前記電流の空間分布を特徴量とし、前記電磁波放射状況を目的変数とする機械学習モデルを訓練する処理を前記コンピュータにさらに実行させる、
ことを特徴とする請求項2に記載の訓練データ生成プログラム。
【請求項4】
前記第1の複数の回路情報は、前記回路に関する基板特性のパラメータごとに前記基板特性のパラメータに割り当てられた範囲内で数値を変動させることにより生成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の訓練データ生成プログラム。
【請求項5】
前記算出する処理は、前記第1の複数の回路情報のそれぞれに含まれる回路ごとに、前記第1の複数の回路情報に対応する複数の回路の間で前記基板特性のパラメータが不連続である点を境界に前記回路の線路が分割された部分線路の特性インピーダンスを算出する処理を含み、
前記分類する処理は、前記回路ごとに算出された前記部分線路の特性インピーダンスの集合に基づいて前記複数の回路情報をクラスタリングする処理を含む、
ことを特徴とする請求項4に記載の訓練データ生成プログラム。
【請求項6】
前記分類する処理は、前記部分線路の特性インピーダンスの集合に対応するベクトルを用いて前記回路のペア間のベクトルの距離を算出し、前記距離に基づいて前記複数の回路情報をクラスタリングする処理を含む、
ことを特徴とする請求項5に記載の訓練データ生成プログラム。
【請求項7】
前記第1の複数の回路情報のうち、前記算出する処理で算出された前記特性インピーダンスが、前記訓練データを用いる機械学習モデルのタスクが適用されるドメインに対応する特性インピーダンスの範囲外である回路情報を除外する処理を前記コンピュータにさらに実行させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の訓練データ生成プログラム。
【請求項8】
第1の複数の回路情報のそれぞれに含まれる回路の特性インピーダンスを算出し、
算出された前記特性インピーダンスに基づいて、前記複数の回路情報を分類し、
前記分類の処理により第1のグループに分類された第2の複数の回路情報から一又は複数の回路情報を選択し、
選択された前記一又は複数の回路情報に基づいて、機械学習用の訓練データを生成する、
処理をコンピュータが実行することを特徴とする訓練データ生成方法。
【請求項9】
第1の複数の回路情報のそれぞれに含まれる回路の特性インピーダンスを算出し、
算出された前記特性インピーダンスに基づいて、前記複数の回路情報を分類し、
前記分類の処理により第1のグループに分類された第2の複数の回路情報から一又は複数の回路情報を選択し、
選択された前記一又は複数の回路情報に基づいて、機械学習用の訓練データを生成する、
処理を実行する制御部を含む訓練データ生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、訓練データ生成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路におけるEMI(Electromagnetic Interference)予測に機械学習技術が用いられる。ここでEMIとは、電子回路から放射される電磁波放射状況を指す。また、EMIは、電磁波放射状況のうち遠方の電磁界の状況を指す側面から遠方界とも呼ばれる。
【0003】
例えば、回路情報と、当該回路情報に対する電磁波解析のシミュレーション結果とが対応付けられた訓練データから生成される訓練済みの機械学習モデルを用いて、予測対象とする回路におけるEMI強度が予測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-194919号公報
【文献】特開2011-158373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の機械学習モデルによりEMI強度を予測する場合、上記の機械学習モデルの訓練に様々な基板特性を持つ回路の訓練データが必要となるので、機械学習に用いる訓練データの数が増大する。
【0006】
1つの側面では、本発明は、機械学習用の訓練データ数の削減を実現できる訓練データ生成プログラム、訓練データ生成方法及び訓練データ生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの案では、訓練データ生成プログラムは、第1の複数の回路情報のそれぞれに含まれる回路の特性インピーダンスを算出し、算出された前記特性インピーダンスに基づいて、前記複数の回路情報を分類し、前記分類の処理により第1のグループに分類された第2の複数の回路情報から一又は複数の回路情報を選択し、選択された前記一又は複数の回路情報に基づいて、機械学習用の訓練データを生成する、処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0008】
機械学習用の訓練データ数の削減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1に係るサーバ装置の機能的構成の一例を示すブロック図である。
図2図2は、単純回路および複雑回路の一例を示す図である。
図3図3は、EMI予測モデルの機械学習方法の一例を示す図である。
図4図4は、複雑回路のEMI予測の一例を示す図である。
図5図5は、素子あり回路のEMI予測の一例を示す図である。
図6図6は、基板特性のバリエーションの一例を示す図である。
図7図7は、基板特性のバリエーションの他の一例を示す図である。
図8図8は、特性インピーダンス及びEMIの関連性の一面を示す図である。
図9図9は、フィルタリングの一例を示す図である。
図10図10は、回路の列挙方法の一例を示す図である。
図11図11は、線路の分割線の設定方法の一例を示す図である。
図12図12は、実施例1に係る訓練データ生成処理の手順を示すフローチャートである。
図13図13は、フィルタリングの応用例を示す図である。
図14図14は、コンピュータのハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して本願に係る訓練データ生成プログラム、訓練データ生成方法及び訓練データ生成装置について説明する。なお、この実施例は開示の技術を限定するものではない。そして、各実施例は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【実施例1】
【0011】
図1は、実施例1に係るサーバ装置10の機能的構成の一例を示すブロック図である。図1に示すサーバ装置10は、電子回路におけるEMI強度を予測する機械学習モデルの訓練に用いる訓練データを生成する訓練データ生成機能を提供するコンピュータの一例である。以下、電子回路におけるEMI強度を予測する機械学習モデルのことを「EMI予測モデル」と記載する場合がある。
【0012】
このような訓練データ生成機能は、上記の訓練データを用いてEMI予測モデルの機械学習を実行する機械学習サービスの一機能としてパッケージ化され得る。この他、上記の訓練データ生成機能、或いは上記の機械学習サービスは、訓練済みのEMI予測モデルを提供するモデル提供サービス、或いは訓練済みのEMI予測モデルを用いて回路のEMI強度を予測するEMI予測サービスの一機能としてパッケージ化され得る。さらに、上記のモデル提供サービス、あるいは上記のEMI予測サービスは、電磁波解析のシミュレーションを実行するシミュレーションサービスの一機能としてパッケージ化され得る。
【0013】
例えば、サーバ装置10は、上記の訓練データ生成機能を実現する訓練データ生成プログラムを任意のコンピュータにインストールさせることにより実装できる。一例として、サーバ装置10は、上記の訓練データ生成機能をオンプレミスに提供するサーバとして実装することができる。他の一例として、サーバ装置10は、SaaS(Software as a Service)型のアプリケーションとして実装することで、上記の訓練データ生成機能をクラウドサービスとして提供することもできる。
【0014】
また、サーバ装置10は、図1に示すように、ネットワークNWを介して、クライアント端末30と通信可能に接続され得る。例えば、ネットワークNWは、有線または無線を問わず、インターネットやLAN(Local Area Network)などの任意の種類の通信網であってよい。
【0015】
クライアント端末30は、上記の訓練データ生成機能の提供を受けるコンピュータの一例である。例えば、クライアント端末30には、パーソナルコンピュータなどのデスクトップ型のコンピュータなどが対応し得る。これはあくまで一例に過ぎず、クライアント端末30は、ラップトップ型のコンピュータや携帯端末装置、ウェアラブル端末などの任意のコンピュータであってよい。
【0016】
なお、図1には、上記の訓練データ生成機能がクライアントサーバシステムで提供される例を挙げるが、この例に限定されず、スタンドアロンで上記の訓練データ生成機能が提供されることとしてもよい。
【0017】
上記のEMI予測は、1つの側面として、電子回路基板の設計、いわゆる回路設計に有用な一面がある。すなわち、回路設計では、規格や法規制の面から、回路で観測される放射電磁波が周波数ごとに定められた規定値以内に収めることの関心が高い。このことから、回路設計では、電磁波解析のシミュレーションによりEMI予測が行われる。ところが、シミュレーションの実施には、回路のモデリングコストやシミュレータの計算コストなどの要因がハードルとなる。
【0018】
このような背景から、ニューラルネットワーク、例えばCNN(Convolutional Neural Network)等の機械学習技術が用いられる。例えば、上記の背景技術の欄で説明した通り、回路情報と、当該回路情報に対する電磁波解析のシミュレーション結果とが対応付けられた訓練データから生成される訓練済みのEMI予測モデルを用いて、解析対象の回路におけるEMI強度が予測される。
【0019】
このようにEMI予測モデルを用いて回路のEMI強度を予測する場合、EMI予測の精度が一定の水準に達するためには、EMIに影響を与える回路の特徴が抽出された訓練データがEMI予測モデルの訓練に用いられることが条件となる。
【0020】
しかしながら、EMIに影響を与える回路の特徴には、様々なものがある。例えば、回路上に配置される線路の形状、あるいは回路の線路上の素子、例えば抵抗やコイル、コンデンサなどの配置が挙げられる。したがって、上記のEMI予測の訓練には、膨大な量の訓練データが必要となる。
【0021】
このことから、訓練データ数の削減を実現する技術として、先進技術1および先進技術2がある。ここで挙げる先進技術1および先進技術2は、公知である特許文献や非特許文献等に記載がある従来技術とは区別される。
【0022】
先進技術1では、回路に配線された線路の分岐の有無に応じて回路が「単純回路」と「複雑回路」が分類される。例えば、回路のうち分岐がない回路が「単純回路」に分類される一方で、分岐がある回路が「複雑回路」に分類される。このような分類の下、先進技術1では、複雑回路は単純回路の組合せで表現できるという着眼点が訓練データ数の削減という課題の解決に活用される。
【0023】
図2は、単純回路および複雑回路の一例を示す図である。図2には、一例として、複雑回路C1が示されると共に、当該複雑回路C1に対応する単純回路の組合せの一例として、単純回路c1および単純回路c2が示されている。図2に示すように、複雑回路C1は、分岐点b1を境界にして単純回路c11および単純回路c12へ分割できる。この場合、分岐点b1から分岐する3つの部分線路のうち、励振源ES1を含む部分線路と、励振源ES1を含まない部分線路の各々との組合せを単純回路c11および単純回路c12の線路として複雑回路C1が分割される。これら単純回路c11および単純回路c12が合成されることにより複雑回路C1が得られるのは勿論のこと、単純回路c11のEMI強度200Aおよび単純回路c12のEMI強度200Bが合成されることにより複雑回路C1のEMI強度20が得られる。
【0024】
図3は、EMI予測モデルの機械学習方法の一例を示す図である。図3に示すように、EMI予測モデルM1の機械学習には、訓練データセットDS1が用いられる。例えば、訓練データセットDS1は、単純回路c11~cNの回路情報と、単純回路c11~cNの各々で観測されるEMI強度400A~400Nとが対応付けられた訓練データの集合である。ここで言う「回路情報」には、電子回路に含まれる素子の回路網の情報、例えばネットリストなどが含まれ得る。また、ここで言う「EMI強度」は、あくまで一例として、特定の周波数ドメインにおけるEMI強度の分布、いわゆるEMIスペクトルであってよい。
【0025】
例えば、単純回路c11の回路情報がEMI予測モデルm1へ入力された場合、EMI予測モデルm1からEMI強度300Aが出力される。同様に、単純回路c12~cNの回路情報がEMI予測モデルm1へ入力されることにより、EMI予測モデルm1からEMI強度300B~300Nの出力が得られる。その上で、EMI予測モデルm1の出力であるEMI強度300B~300Nと、正解ラベルのEMI強度400A~400Nとの損失に基づいてEMI予測モデルm1のパラメータが更新される。このように、単純回路c11~cNの回路情報を特徴量、いわゆる説明変数とし、EMI強度を目的変数として、EMI予測モデルm1の機械学習が実行される。これにより、単純回路のEMI予測を実現する訓練済みのEMI予測モデルM1が得られる。
【0026】
図4は、複雑回路のEMI予測の一例を示す図である。図4には、一例として、図3に示された訓練済みのEMI予測モデルM1を用いて複雑回路C1のEMI強度を予測する事例が示されている。図4に示すように、複雑回路C1が予測対象とされる場合、複雑回路C1は、分岐点b1を境界にして単純回路c11および単純回路c12へ分割される。その後、単純回路c11のEMI予測および単純回路c12のEMI予測が並行して実施される。すなわち、単純回路c11の回路情報をEMI予測モデルM1へ入力することによりEMI予測モデルM1の出力としてEMI強度の推定値200Aが得られる。また、単純回路c12の回路情報をEMI予測モデルM1へ入力することによりEMI予測モデルM1の出力としてEMI強度の推定値200Bが得られる。これらEMI強度の推定値200AおよびEMI強度の推定値200Bが合成されることにより、複雑回路C1のEMI強度の推定値20が得られる。
【0027】
このように、先進技術1では、単純回路用のEMI予測モデルM1による単純回路のEMI予測の結果を合成することにより複雑回路のEMI予測を実現できる。このため、先進技術1によれば、複雑回路の訓練データを削減できる。さらに、先進技術1では、回路の線路の分岐パターンが多いEMI予測モデルのドメインほど訓練データ数の削減効果が高まる。
【0028】
次に、先進技術2では、インダクタ(L)、キャパシタ(C)、抵抗器(R)などのLCR素子を有する素子あり回路は電流が素子で反射されるパターンと電流が素子で反射されないパターンとの2つの組合せで表現できる点が着眼点の1つとされる。以下、素子あり回路で流れる電流成分のうち素子で反射される電流成分のことを「反射成分」と記載すると共に、素子で反射されない電流成分のことを「非反射成分」と記載する場合がある。
【0029】
例えば、先進技術2では、素子あり回路が反射相当の回路と非反射相当の回路とに分割される。ここで言う「反射相当の回路」とは、反射成分および非反射成分の比が1対0である条件、言い換えれば非反射成分が観測されず、反射成分のみが観測される条件下で素子あり回路の配線のうち電流が観測される部分の線路を配線とする回路のことを指す。一方、「非反射相当の回路」とは、反射成分および非反射成分の比が0対1である条件、言い換えれば反射成分が観測されず、かつ非反射成分のみが観測される条件下で素子あり回路の配線のうち電流が観測される部分の線路を配線とする回路のことを指す。
【0030】
その上で、先進技術2では、1つの素子あり回路につき反射相当の回路および非反射相当の回路の2つに絞り込んで、EMI予測モデルm2の機械学習が実行される。この際、EMI予測モデルm2の説明変数を反射相当の回路の回路情報または非反射相当の回路の回路情報から計算される電流分布とすることができる。ここで言う「回路情報」には、電子回路に含まれる素子の回路網の情報、例えばネットリストの他、各素子の物性値、例えば抵抗値やインダクタンス、静電容量などが含まれ得る。例えば、周波数ドメインに含まれる周波数成分ごとに計算された電流分布の全てをEMI予測モデルm2の機械学習に用いることもできるが、詳細は後述するが、周波数ドメインを代表する電流分布として共振周波数の電流分布を用いることができる。このようにして得られた反射相当の回路または非反射相当の回路の電流分布がEMI予測モデルm2へ入力されることにより得られたEMI予測モデルm1の出力と、正解ラベルのEMI強度との損失に基づいてEMI予測モデルm2のパラメータが更新される。これにより、反射相当の回路および非反射相当の回路のみが訓練済みであるEMI予測モデルM2が得られる。
【0031】
ここで、反射相当の回路および非反射相当の合成で素子あり回路のEMI予測を実現する側面から、先進技術2では、素子あり回路のEMI予測時に参照される参照データとして、次のような参照データが生成される。
【0032】
例えば、参照データには、素子あり回路に配置される素子の物性値と、反射成分および非反射成分の比との対応関係が定義されたルックアップテーブルや関数などを用いることができる。あくまで一例として、インダクタ(L)の値が極度に大きい領域、キャパシタ(C)の値が極度に小さい領域、さらには、抵抗器(R)の値が極度に大きい領域では反射が起こる。一方、これら以外の領域では反射は十分に小さくなる。
【0033】
あくまで一例として、キャパシタ(C)が配置された回路から参照データが生成される例を説明する。この場合、反射成分および非反射成分の比が1対0となる素子の物性値および反射成分および非反射成分の比が0対1となる素子の物性値が探索される。例えば、キャパシタ(C)の静電容量が1nFである条件下では反射成分は観測されず、非反射成分のみが観測される。この場合、キャパシタ(C)の静電容量「1nF」と、反射成分「0」および非反射成分「1」とが対応付けられる。また、キャパシタ(C)の静電容量が1pFである条件下では反射成分と非反射成分が同等の割合で観測される。この場合、キャパシタ(C)の静電容量「1pF」と、反射成分「0.5」および非反射成分「0.5」とが対応付けられる。さらに、キャパシタ(C)の静電容量が100fFである条件下では、非反射成分は観測されず、反射成分のみが観測される。この場合、キャパシタ(C)の静電容量「1fF」と、反射成分「1」および非反射成分「0」とが対応付けられる。これらの対応関係が参照データとして生成される。なお、ここでは、100fFから1nFまでのキャパシタ(C)の静電容量の範囲のうち1pFに対応する反射成分および非反射成分の比を1つ例に挙げたが、任意の個数の対応関係が定義されてもよい。
【0034】
これら訓練済みのEMI予測モデルM2および参照データが得られた状況の下、先進技術2では、素子あり回路のEMI予測を実現できる。図5は、素子あり回路のEMI予測の一例を示す図である。図5には、一例として、訓練済みのEMI予測モデルM2を用いて素子あり回路C2のEMI強度を予測する事例が示されている。図5に示すように、素子あり回路C2が予測対象とされる場合、素子あり回路C2の回路情報に含まれるキャパシタ(C)の静電容量「1.0pF」に対応する反射成分および非反射成分の比「0.5:0.5」が参照データから参照される。そして、素子あり回路C2は、反射相当の回路c21と非反射相当の回路c22とに分割される。
【0035】
その後、反射相当の回路c21のEMI予測および非反射相当の回路c22のEMI予測が並行して実施される。すなわち、反射相当の回路c21の回路情報を回路シミュレータへ入力することにより反射相当の回路c21の電流分布I1が計算される。このように計算された反射相当の回路c21の電流分布I1をEMI予測モデルM2へ入力することによりEMI予測モデルM2の出力としてEMI強度の推定値210Aが得られる。また、非反射相当の回路c22の回路情報を回路シミュレータへ入力することにより非反射相当の回路c22の電流分布I2が計算される。このように計算された非反射相当の回路c22の電流分布I2をEMI予測モデルM2へ入力することによりEMI予測モデルM2の出力としてEMI強度の推定値210Bが得られる。これらEMI強度の推定値210AおよびEMI強度の推定値210Bが参照データから参照された反射成分および非反射成分の比「0.5:0.5」にしたがって合成されることにより、素子あり回路C2のEMI強度の推定値21が得られる。
【0036】
このように、先進技術2では、反射相当の回路および非反射相当の回路のEMI予測の結果を合成することにより素子あり回路のEMI予測を実現できる。このため、先進技術2によれば、1つの素子あり回路につき反射相当の回路および非反射相当の回路の2つ以外の回路の訓練データを削減できる。さらに、先進技術2は、回路に配置される素子およびその物性値のパターンが多いEMI予測モデルのドメインほど訓練データ数の削減効果が高まる。
【0037】
しかしながら、先進技術1および先進技術2であっても、基板特性にバリエーションがあるドメインに関するEMI予測モデルの機械学習に用いる訓練データ数を削減するのは困難である。
【0038】
ここで言う「基板特性」とは、線路の幅(線幅)、基板の厚さ(層厚)、基板樹脂の種類(誘電率)といった回路が印刷される基板に関わる特性を指す。ここに例示する基板特性のうち少なくともいずれか1つの基板特性が変化すれば、その他の基板特性が同一であってもEMIも変化する。
【0039】
図6は、基板特性のバリエーションの一例を示す図である。図6には、基板特性のバリエーションの一例として、線路の幅(線幅)が異なる基板BP11および基板BP12の上面図が例示されている。図6に示すように、基板BP11および基板BP12の間では、同一の形状の線路L11および線路L12がプリントされる一方で線路L11および線路L12の線幅は異なる。このように線幅のバリエーションがある場合、基板BP11および基板BP12の間で電気特性も変わるので、基板BP11および基板BP12のEMIも変化する。
【0040】
図7は、基板特性のバリエーションの他の一例を示す図である。図7には、基板特性のバリエーションの一例として、基板の厚さ(層厚)が異なる基板BP21および基板BP22の断面図が例示されている。図7に示すように、基板BP21の線路L211および線路L212と、基板BP22の線路L221および線路L222との間で線幅が同一であり、かつプリントのパターンが同一である一方で層厚W21および層厚W22は異なる。このように層厚のバリエーションがある場合、基板BP21および基板BP22の間で電気特性も変わるので、基板BP21および基板BP22のEMIも変化する。
【0041】
なお、図6及び図7では、基板特性の例として、線幅および層厚を挙げたが、他の基板特性、例えば基板樹脂の種類(誘電率)についても同様の課題が生じる。例えば、基板樹脂の種類の例として、紙フェノール基板(FR-1,FR-2)やガラスエポキシ樹脂基板(FR-4,FR-5)、ガラスコンポジット基板(CEM-3)などのバリエーションがある。これら基板樹脂の種類が異なれば、誘電率も異なるので、EMIも変化する。
【0042】
このように、様々な基板特性を持つ回路の特徴をEMI予測モデルで訓練させるには、膨大なバリエーションの訓練データが必要となる。ところが、先進技術1や先進技術2で例示された分割および合成は、線路の分岐パターンや回路上の素子の物性値パターンに関する訓練データのバリエーションの削減をサポートするものに過ぎない。それ故、先進技術1や先進技術2は、基板特性に関する訓練データのバリエーションの削減に適用するのは困難である。
【0043】
そこで、本実施例に係る訓練データ生成機能は、同一の回路形状を持つ回路群を特性インピーダンスに基づいて分類し、同一のグループに分類された複数の回路のうち一部を選択して残りを削除してEMI予測モデルの機械学習用の訓練データを生成する。
【0044】
本実施例における着眼点の1つは、基板特性が異なるが電流分布およびEMIが共通する回路を回路の特性インピーダンスから識別できるという点にある。すなわち、線幅、層厚および誘電率は、線路の特性インピーダンス、すなわち交流回路における抵抗値を決める。このような特性インピーダンスは回路に流れる電流分布を定める。さらに、電流分布は回路から放射されるEMIを決める。したがって、基板特性が異なっても、回路の特性インピーダンスが同じであれば、電流分布とEMIは同じになる。
【0045】
図8は、特性インピーダンス及びEMIの関連性の一面を示す図である。図8には、同一の回路形状を持つ回路に関する2つの基板特性パラメータセットps1およびps2が例示されている。図8に示すように、基板特性パラメータセットps1には、線幅「0.5mm」、層厚「0.2mm」、電極厚み「0.01mm」、比誘電率「3.0」および周波数「1GHz」の4つの基板特性パラメータが含まれる。基板特性パラメータセットps1は、図8に示す基板BP31の通りに模式化できる。このような基板BP31の回路情報を回路シミュレータへ入力すると、基板BP31の電流分布I31およびEMI強度310を算出できる。また、基板特性パラメータセットps2には、線幅「1.0mm」、層厚「0.4mm」、電極厚み「0.02mm」、比誘電率「3.0」および周波数「1GHz」の4つの基板特性パラメータが含まれる。基板特性パラメータセットps2は、図8に示す基板BP32の通りに模式化できる。このような基板BP32の回路情報を回路シミュレータへ入力すると、基板BP32の電流分布I32およびEMI強度320を算出できる。
【0046】
これら基板BP31および基板BP32の間で基板特性パラメータが異なることは目視で明らかである。その一方で、基板BP31および基板BP32は、いずれも特性インピーダンスは49.5Ωの同値である。このように特性インピーダンスが同値である場合、基板BP31および基板BP32の間で、電流分布I31およびEMI310と、電流分布I32およびEMI320とが同じになる。このため、EMI予測モデルの説明変数を電流分布とする条件下では、基板BP31および基板BP32の各回路に対応する訓練データは特徴量空間上で同一の位置に存在するとみなすことができる。したがって、基板BP31および基板BP32のうち一方に対応する訓練データを削除したとしても、EMI予測モデルのEMI予測の精度に悪影響を与えないことが明らかである。
【0047】
このことから、本実施例に係る訓練データ生成機能では、特性インピーダンスが共通するグループの回路のうち一部を選択し、残りは削除する。例えば、特性インピーダンスが共通する回路の数がM個であるとしたとき、M個のうち最小で1つ選択することにより、最大でM-1個を削除することができる。なお、以下では、あくまで一例として、特性インピーダンスが共通するM個の回路のうち1つ選択して残りのM-1個を削除する例を説明するが、選択する回路の数および削除する回路の数は任意に設定できる。
【0048】
図9は、フィルタリングの一例を示す図である。図9には、同一の回路形状で異なる基板特性パラメータが列挙された回路の模式図と、各回路から計算された特性インピーダンスと、各回路に対応する訓練データがデータセットから除外されるか否かを示すフィルタリング結果との対応関係が表形式で示されている。図9に示す例で言えば、基板BP41~基板BP46の6つの回路のうち基板BP41および基板BP46の2つの回路の特性インピーダンスが一致する。この場合、あくまで一例として、基板BP41の回路に対応する訓練データが訓練データの集合の1つとして選択されると共に、基板BP46の回路に対応する訓練データが訓練データの集合から削除される。これら基板BP41および基板BP46以外の基板BP42~基板BP45の回路では特性インピーダンスが一致しない。よって、基板BP42~基板BP45の回路に対応する訓練データは、訓練データの集合の1つとして選択される。
【0049】
以上のように、本実施例に係る訓練データ生成機能は、同一の回路形状で異なる基板特性を持ち、かつ特性インピーダンスが類似する複数の回路のうち一部の回路を選択して電流分布を特徴量とするEMI予測モデルの訓練に用いる訓練データを生成する。それ故、削除された回路の訓練データが生成されない分、訓練データ数を低減させることができる。したがって、本実施例に係る訓練データ生成機能によれば、基板特性に関する訓練データのバリエーションを削減できる。
【0050】
次に、本実施例に係るサーバ装置10の機能的構成について説明する。図1には、サーバ装置10が有する機能に対応するブロックが模式化されている。図1に示すように、サーバ装置10は、通信インタフェイス部11と、記憶部13と、制御部15とを有する。なお、図1には、上記のデータ生成機能に関連する機能部が抜粋して示されているに過ぎず、図示以外の機能部、例えば既存のコンピュータがデフォルトまたはオプションで装備する機能部がサーバ装置10に備わることとしてもよい。
【0051】
通信インタフェイス部11は、他の装置、例えばクライアント端末30との間で通信制御を行う通信制御部の一例に対応する。あくまで一例として、通信インタフェイス部11は、LANカードなどのネットワークインターフェイスカードにより実現され得る。例えば、通信インタフェイス部11は、クライアント端末30から訓練データ生成のリクエストや訓練データ生成機能に関する各種のユーザ設定を受け付ける。また、通信インタフェイス部11は、訓練データ生成機能により生成された訓練データの集合や訓練済みのEMI予測モデルなどをクライアント端末30へ出力したりする。
【0052】
記憶部13は、各種のデータを記憶する機能部である。あくまで一例として、記憶部13は、ストレージ、例えば内部、外部または補助のストレージにより実現される。例えば、記憶部13は、回路情報群13Aと、訓練データセット13Bと、モデルデータ13Mとを記憶する。これら回路情報群13A、訓練データセット13B及びモデルデータ13M以外にも、記憶部13は、上記の訓練データ生成機能の提供を受けるユーザのアカウント情報などの各種のデータを記憶することができる。なお、回路情報群13A、訓練データセット13B及びモデルデータ13Mの各データの説明は、参照または生成が行われる処理の説明と合わせて後述する。
【0053】
制御部15は、サーバ装置10の全体制御を行う処理部である。例えば、制御部15は、ハードウェアプロセッサにより実現される。図1に示すように、制御部15は、設定部15Aと、算出部15Bと、分類部15Cと、選択部15Dと、生成部15Eと、訓練部15Fとを有する。
【0054】
設定部15Aは、訓練データ生成機能に関する各種のパラメータを設定する処理部である。あくまで一例として、設定部15Aは、クライアント端末30から訓練データ生成のリクエストを受け付けた場合、動作を開始することができる。この際、設定部15Aは、特性インピーダンスに基づく回路の分類、例えばクラスタリングで回路間の類似度を評価する側面から、周波数ドメインのうち特性インピーダンスの算出対象とする周波数fを設定する。この他、設定部15Aは、特性インピーダンスに基づく回路のクラスタリングでクラスタ間の距離dと比較する閾値Thを設定する。これら周波数fや閾値Thには、クライアント端末30を介して受け付けたユーザ設定を適用することとしてもよいし、上記の訓練データ生成機能の設計者等により定められたシステム設定を適用することもできる。
【0055】
算出部15Bは、回路の特性インピーダンスを算出する処理部である。あくまで一例として、算出部15Bは、記憶部13に記憶された回路情報群13Aを参照する。ここで、回路情報群13Aは、回路情報の集合である。このような回路情報の一例として、SPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)などの回路シミュレータで用いられるネットリスト等の回路接続情報が挙げられる。例えば、回路接続情報は、CAD(Computer-Aided Design)システム等の設計支援プログラムからインポートすることにより取得することができる。このような回路情報で定められた回路形状ごとに、算出部15Bは、基板特性パラメータごとに基板特性パラメータに割り当てられた範囲内で数値を変動させる。例えば、算出部15Bは、基板特性パラメータごとにバリエーションとして割り当てられた範囲内の数値、例えば同一のドメインの回路設計の履歴で用いられた数値を網羅して設定する。これにより、同一の回路形状で異なる基板特性を持つ複数の訓練データ候補の回路を列挙する。
【0056】
図10は、回路の列挙方法の一例を示す図である。図10には、回路情報群13Aのうち回路情報13A1が用いられる例が抜粋して示されている。図10に示すように、回路情報13A1に対応する回路形状が選択された場合、基板特性パラメータセットPS1~PSnに対応するn個の訓練データ候補の回路が列挙される。例えば、基板特性パラメータセットPS1の例で言えば、線幅「W11(mm)」、層厚「h11(mm)」、電極厚み「t11(mm)」および比誘電率「3.0GHz」の4つの基板特性パラメータを持つ訓練データ候補の回路が定義される。また、基板特性パラメータセットPS2の例で言えば、線幅「W12(mm)」、層厚「h12(mm)」、電極厚み「t12(mm)」および比誘電率「3.0GHz」の4つの基板特性パラメータを持つ訓練データ候補の回路が定義される。さらに、基板特性パラメータセットPSnの例で言えば、線幅「W1n(mm)」、層厚「h1n(mm)」、電極厚み「t1n(mm)」および比誘電率「3.0GHz」の4つの基板特性パラメータを持つ訓練データ候補の回路が定義される。
【0057】
このように列挙された複数の訓練データ候補の回路の間で基板特性パラメータが不連続である点を境界にして、算出部15Bは、各訓練データ候補の回路の線路を分割する分割線を設定する。その上で、算出部15Bは、先に設定された分割線にしたがって各訓練データ候補の回路の線路を分割する。これにより、訓練データ候補の回路ごとに線路が分割線により分割された部分線路が得られる。
【0058】
図11は、線路の分割線の設定方法の一例を示す図である。図11には、図10に示されたn個の基板特性パラメータセットPS1~PSnに対応するn個の訓練データ候補の回路TR1~TRnが模式化して示されている。さらに、図11には、基板特性パラメータのうち線幅を例に挙げて分割線を設定する例が挙げられている。例えば、訓練データ候補の回路TR1の例で言えば、訓練データ候補の回路TR1の線路上で線幅が変化する箇所を境界に分割線dl1が設定される。また、訓練データ候補の回路TR2の例で言えば、訓練データ候補の回路TR2の線路上で線幅が変化する箇所を境界にして分割線dl2が設定される。さらに、訓練データ候補の回路TRnの例で言えば、訓練データ候補の回路TRnの線路上で線幅が変化する箇所を境界に分割線dl3が設定される。これら分割線dl1~dl3にしたがって訓練データ候補の回路TR1~TRnの線路が分割される。これにより、訓練データ候補の回路TR1~TRnの線路は、部分線路x1~x4へ分割される。ここで、図11には、訓練データ候補の回路TRnの部分線路x1~x4が抜粋して図示されているが、他の訓練データ候補の回路についても同数、すなわち4つの部分線路x1~x4へ分割される。
【0059】
その後、算出部15Bは、下記の式(1)にしたがって特性インピーダンスを訓練データ候補の回路ごとに算出する。下記の式(1)における「w」は線幅を指し、「h」は層厚を指し、「t」は電極厚みを指す。また、下記の式(1)における「ε」は比誘電率を指し、周波数の関数である。
【数1】
【0060】
例えば、図11に示す例で言えば、訓練データ候補の回路TR1~TRnの部分線路x1~x4ごとに線幅、層厚、電極厚みおよび比誘電率の基板特性パラメータが入力される。この際、比誘電率には、設定部15Aにより設定された周波数が用いられる。これにより、部分線路x1~x4ごとに特性インピーダンスが算出される。これら部分線路x1~x4の特性インピーダンスをベクトル化することにより、下記の式(2)に示す特性インピーダンスベクトルZが得られる。なお、ここで挙げる特性インピーダンスベクトルZの表記は、通常のフォントとなっているが、ベクトルを表す太字や二重線で表記されてよい。
【数2】
【0061】
分類部15Cは、算出部15Bにより算出された特性インピーダンスに基づいて、訓練データ候補の回路を分類する処理部である。あくまで一例として、分類部15Cは、訓練データ候補の回路のペアごとに特性インピーダンスベクトルZのユークリッド距離を算出する。例えば、n個の訓練データ候補の回路TR1~TRnが列挙された場合、n個の訓練データ候補の回路TR1~TRnから2つを抽出して得られる組合せに対応する個数のユークリッド距離が算出される。そして、分類部15Cは、訓練データ候補の回路のペアごとに算出された個のユークリッド距離を用いて訓練データ候補の回路のクラスタリングを実行する。例えば、階層的クラスタリングの一種である群平均法を用いる場合、全てのクラスタが単一の訓練データ候補の回路とする初期状態から、クラスタ間の距離dが最小になるクラスタを再帰的に併合する処理が開始される。その上で、分類部15Cは、クラスタ間の距離dが設定部15Aにより設定された閾値Th以内であるクラスタを併合する処理を繰り返す。このような併合により得られた訓練データ候補の回路が同一のグループと識別される。
【0062】
選択部15Dは、分類部15Cによる分類の処理により同一のグループに分類された複数の訓練データ候補の回路から一又は複数の訓練データ候補の回路を選択する処理部である。あくまで一例として、選択部15Dは、同一のグループに分類された訓練データ候補の回路の数がM個であるとしたとき、M個のうち最小で1つ選択することにより、最大でM-1個を削除することができる。なお、ここでは、あくまで一例として、同一のグループに分類されたM個の訓練データ候補の回路のうち1つ選択して残りのM-1個を削除する例を挙げたが、選択する回路の数および削除する回路の数は任意に設定できる。例えば、M個の訓練データ候補の回路のうち最大でM-1個の訓練データ候補の回路を選択し、最小で1個の訓練データ候補の回路を削除することもできる。
【0063】
生成部15Eは、選択部15Dにより選択された一又は複数の訓練データ候補の回路に基づいて、機械学習用の訓練データを生成する処理部である。あくまで一例として、生成部15Eは、選択部15Dにより選択された訓練データ候補の回路の回路接続情報や素子の物性値などに当該訓練データ候補の回路の基板特性パラメータセットが追加される。その後、生成部15Eは、基板特性パラメータセットが追加された回路情報を回路シミュレータに入力することにより、訓練データ候補の回路における電流分布およびEMI強度を計算する。例えば、生成部15Eは、サーバ装置10上で動作する回路シミュレータに回路情報を入力することにより電流分布およびEMI強度を計算することができる。また、生成部15Eは、回路シミュレータを実行する外部の装置、サービス、あるいはソフトウェアが公開するAPI(Application Programming Interface)を利用して、電流分布およびEMI強度の計算リクエストを行うこともできる。その後、生成部15Eは、電流分布およびEMI強度が対応付けられた訓練データを生成する。
【0064】
より具体的には、回路シミュレータは、特定の周波数ドメインに含まれる周波数成分ごとに電流分布を算出する。これにより、回路シミュレータにより計算された回路の電流分布、例えば基板表面上に流れる電流の強度が2次元マップ上にマッピングされた電流分布画像が周波数成分ごとに得られる。続いて、生成部15Eは、周波数成分ごとに計算された電流分布の最大値が極大を取る1又は複数の共振周波数を識別する。
【0065】
その後、生成部15Eは、電子回路の近傍界を近似する側面から、上記の共振周波数に対応する電流分布画像に含まれる画素の画素値を各画素の線路からの距離に基づいて加工する加工処理を実行する。例えば、線路上に流れる電流が大きくなるに連れて濃淡値を上限値、例えば白色に対応する255に近付ける一方で電流が小さくなるに連れて濃淡値を下限値、例えば黒色に対応する0に近付けることにより生成された電流分布画像を例に挙げる。この場合、電流分布画像に含まれる画素の線路からの距離が小さくなるに連れて当該画素の濃淡値を上限値側へシフトさせるシフト量が大きく設定される。その一方で、電流分布画像に含まれる画素の線路からの距離が大きくなるに連れて当該画素の濃淡値を下限値側へシフトさせるシフト量が小さく設定される。このようなシフト量にしたがって電流分布画像の画素の濃淡値がシフトされることにより、線路からの距離に応じて電流の強度が強調された電流分布画像を得ることができる。なお、ここでは、あくまで一例として、基板特性パラメータセットに定義された線幅の大きさに関わらず、1ピクセルの線画として描画された線路からの距離が画素ごとに算出される例を挙げるが、これに限定されない。例えば、基板特性パラメータセットに定義された線幅にしたがって描画された線路からの距離を画素ごとに算出することもできる。
【0066】
その上で、生成部15Eは、共振周波数および電流分布画像と、EMI強度とが対応付けられた訓練データを生成する。ここで、スカラー値である共振周波数は、EMI予測モデルの一例として、標準的なニューラルネットワークへ入力可能な行列に変換される。例えば、共振周波数および電流分布画像の複数の入力データがEMI予測モデルへ入力される場合、各チャンネルの行列を同一の型へ統一する側面から、電流分布画像の2次元配列に対応する行列を生成した上で当該行列の各要素に共振周波数の値が埋め込まれる。このように生成された共振周波数が埋め込まれた行列および電流分布画像(行列)と、正解ラベルであるEMI強度とが対応付けられた訓練データが生成される。
【0067】
その後、生成部15Eは、回路情報群13Aに含まれる全ての回路情報ごとに訓練データが生成された場合、回路情報ごとに生成された訓練データの集合を訓練データセット13Bとして記憶部13に登録する。
【0068】
訓練部15Fは、機械学習用の訓練データを用いてEMI予測モデルを訓練する処理部である。あくまで一例として、訓練部15Fは、回路情報群13Aに含まれる全ての回路情報ごとに訓練データが生成された場合、あるいは記憶部13に訓練データセット13Bが保存された場合、訓練部15Fは、次のような処理を実行する。すなわち、訓練部15Fは、訓練データセット13Bに含まれる訓練データの電流分布を特徴量とし、EMI強度を目的変数として、EMI予測モデルを訓練する。例えば、生成部15Eは、チャンネル1の入力データに対応する共振周波数およびチャンネル2の入力データに対応する電流分布画像をEMI予測モデルへ入力する。これにより、EMI予測モデルの出力としてEMI強度の推定値が得られる。その上で、訓練部15Fは、EMI予測モデルが出力するEMI強度の推定値と、正解ラベルのEMI強度との損失に基づいてEMI予測モデルのパラメータを更新する。これにより、訓練済みのEMI予測モデルが得られる。
【0069】
このようにして得られた訓練済みのEMI予測モデルに関するデータは、モデルデータ13Mとして記憶部13に保存される。例えば、機械学習モデルがニューラルネットワークである場合、モデルデータ13Mには、入力層、隠れ層及び出力層の各層のニューロンやシナプスなどの機械学習モデルの層構造を始め、各層の重みやバイアスなどの機械学習モデルのパラメータが含まれ得る。
【0070】
この他、訓練済みのEMI予測モデルのモデルデータをクライアント端末30に提供することによりモデル提供サービスを行うこととしてもよいし、訓練済みのEMI予測モデルを用いて回路のEMI強度を予測するEMI予測サービスを提供してもよい。
【0071】
次に、本実施例に係るサーバ装置10の処理の流れについて説明する。図12は、実施例1に係る訓練データ生成処理の手順を示すフローチャートである。この処理は、あくまで1つの側面として、クライアント端末30から訓練データ生成のリクエストを受け付けた場合に開始することができる。
【0072】
図12に示すように、設定部15Aは、周波数ドメインのうち特性インピーダンスの算出対象とする周波数fや特性インピーダンスに基づく回路のクラスタリングでクラスタ間の距離dと比較する閾値Thなどの各種のパラメータを設定する(ステップS101)。
【0073】
続いて、算出部15Bは、回路情報群13Aに含まれる回路情報で定まる回路形状ごとに、基板特性パラメータのバリエーションとして割り当てられた範囲内の数値を網羅して設定することによりn個の訓練データ候補の回路TR1~TRnを列挙する(ステップS102)。
【0074】
そして、算出部15Bは、ステップS102で列挙された複数の訓練データ候補の回路の間で基板特性パラメータが不連続である点を境界にして、各訓練データ候補の回路の線路を分割する分割線を設定する(ステップS103)。
【0075】
その後、算出部15Bは、ステップS102で列挙された訓練データ候補の回路TR1~TRnの個数に対応する回数の分、ステップS104およびステップS105の処理を繰り返すループ処理1を開始する。なお、ここでは、ループ処理が行われる例を挙げるが、訓練データ候補の回路TR1~TRnごとにステップS104およびステップS105の処理が並列して行われてもよい。
【0076】
すなわち、算出部15Bは、ステップS103で設定された分割線により訓練データ候補の回路の線路が分割された部分線路ごとに、基板特性パラメータを上記の式(1)へ代入することにより特性インピーダンスを算出する(ステップS104)。
【0077】
そして、算出部15Bは、ステップS104で部分線路ごとに算出された特性インピーダンスをベクトル化することにより、上記の式(2)に示す特性インピーダンスベクトルZを作成する(ステップS105)。
【0078】
このようなループ処理1が繰り返されることにより、訓練データ候補の回路TR1~TRnごとに特性インピーダンスベクトルZを得ることができる。そして、ループ処理1が終了すると、分類部15Cは、ステップS102で列挙されたn個の訓練データ候補の回路TR1~TRnから2つを抽出して得られる組合せに対応する回数の分、ステップS106の処理を繰り返すループ処理2を開始する。
【0079】
すなわち、分類部15Cは、2つの訓練データ候補の回路のペアに関する特性インピーダンスベクトルZのユークリッド距離を算出する(ステップS106)。このようなステップS106に対応するループ処理2が繰り返されることにより、訓練データ候補の回路のペアごとにユークリッド距離が得られる。
【0080】
その後、ループ処理2が終了すると、分類部15Cは、ステップS106で訓練データ候補の回路のペアごとに算出された個のユークリッド距離を用いて訓練データ候補の回路のクラスタリングを実行する(ステップS107)。
【0081】
その上で、分類部15Cは、ステップS107のクラスタリングで得られたクラスタ間の距離dがステップS101で設定された閾値Th以内であるクラスタを同一のグループと識別する(ステップS108)。
【0082】
そして、選択部15Dは、同一のグループに分類された訓練データ候補の回路のうち訓練データ候補の回路を1つ選択して残りの訓練データ候補の回路を削除する(ステップS109)。
【0083】
その後、生成部15Eは、ステップS109で選択された訓練データ候補の回路の回路情報を回路シミュレータに入力することにより計算された電流分布およびEMI強度を対応付けることにより、機械学習用の訓練データを生成する(ステップS110)。
【0084】
そして、訓練部15Fは、ステップS110で生成された訓練データの電流分布を特徴量とし、EMI強度を目的変数として、EMI予測モデルを訓練する(ステップS111)。これにより、訓練済みのEMI予測モデルが得られる。
【0085】
上述してきたように、本実施例に係る訓練データ生成機能は、同一の回路形状で異なる基板特性を持ち、かつ特性インピーダンスが類似する複数の回路のうち一部の回路を選択して電流分布を特徴量とするEMI予測モデルの訓練に用いる訓練データを生成する。それ故、削除された回路の訓練データが生成されない分、訓練データ数を低減させることができる。したがって、本実施例に係る訓練データ生成機能によれば、基板特性に関する訓練データのバリエーションを削減できる。
【実施例2】
【0086】
さて、これまで開示の装置に関する実施例について説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。そこで、以下では、本発明に含まれる他の実施例を説明する。
【0087】
上記の実施例1では、同一の回路形状で異なる基板特性を持つ複数の訓練データ候補の回路にクラスタリングに基づくフィルタリングを行う例を挙げたが、クラスタリング以外の他の基準にしたがってフィルタリングを行うこともできる。
【0088】
すなわち、電子回路の線路の特性インピーダンスは、EMI予測モデルのタスクが適用されるドメインの特性に合わせて特定の値を取るように設計される場合がある。この点に着目して、基板特性パラメータのバリエーションとして割り当てる範囲を、予測対象のドメインに基づいて設定された特性インピーダンスの値の範囲に絞り込む。これにより、さらに訓練データ数を削減することもできる。
【0089】
図13は、フィルタリングの応用例を示す図である。図13には、複数の訓練データ候補の回路の模式図と、特性インピーダンスと、予測対象のドメインに基づくフィルタリング結果と、クラスタリングに基づくフィルタリング結果と、訓練データセットの設計結果との対応関係が表形式で示されている。さらに、図13では、予測対象のドメインに対応する特性インピーダンスの値を50Ωとし、50Ωから±5Ω以内の範囲に絞り込む例を挙げる。
【0090】
図13に示す例で言えば、基板BP41~基板BP46の6つの訓練データ候補の回路のうち、基板BP42、基板BP43および基板BP45の3つの回路の特性インピーダンスの値が予測対象のドメインに基づいて設定された50Ω±5Ωの範囲外となる。この場合、基板BP42、基板BP43および基板BP45の3つの訓練データ候補の回路が削除される。さらに、基板BP41および基板BP46の2つの回路が同一のグループにクラスタリングされる。この場合、あくまで一例として、基板BP41に対応する訓練データ候補の回路が選択されると共に、基板BP46に対応する訓練データ候補の回路が訓練データの集合から削除される。この結果、基板BP41および基板BP44に対応する訓練データ候補の回路が訓練データの集合の1つとして選択される。
【0091】
このように、予測対象のドメインに基づくフィルタリングを行うことにより、訓練データ数をさらに削減することもできる。すなわち、図13に示す例で言えば、図9に示す例に比べて、基板BP42、基板BP43および基板BP45の3つの回路を訓練データセットから削減することができる。
【0092】
また、図示した各装置の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。例えば、設定部15A、算出部15B、分類部15C、選択部15D、生成部15Eまたは訓練部15Fをサーバ装置10の外部装置としてネットワーク経由で接続するようにしてもよい。また、設定部15A、算出部15B、分類部15C、選択部15D、生成部15Eまたは訓練部15Fを別の装置がそれぞれ有し、ネットワーク接続されて協働することで、上記のサーバ装置10の機能を実現するようにしてもよい。
【0093】
[訓練データ生成プログラム]
また、上記の実施例で説明した各種の処理は、予め用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。そこで、以下では、図14を用いて、実施例1及び実施例2と同様の機能を有する訓練データ生成プログラムを実行するコンピュータの一例について説明する。
【0094】
図14は、コンピュータのハードウェア構成例を示す図である。図14に示すように、コンピュータ100は、操作部110aと、スピーカ110bと、カメラ110cと、ディスプレイ120と、通信部130とを有する。さらに、このコンピュータ100は、CPU150と、ROM160と、HDD170と、RAM180とを有する。これら110~180の各部はバス140を介して接続される。
【0095】
ここで、図14では、ハードウェアプロセッサの一例として、CPUを例に挙げるが、これに限定されない。すなわち、CPUやMPUなどの汎用のプロセッサに限らず、DLU(Deep Learning Unit)やGPGPU(General-Purpose computing on Graphics Processing Units)、GPUクラスタなどであってもよい。
【0096】
HDD170には、図14に示すように、上記の実施例1で示した設定部15A、算出部15B、分類部15C、選択部15D及び生成部15Eと同様の機能を発揮する訓練データ生成プログラム170aが記憶される。この訓練データ生成プログラム170aは、図1に示された設定部15A、算出部15B、分類部15C、選択部15D及び生成部15Eの各構成要素と同様、統合又は分離しても良い。すなわち、HDD170には、必ずしも図1で示した全てのデータが格納されずともよく、処理に用いるデータがHDD170に格納されればよい。
【0097】
このような環境の下、CPU150は、HDD170から訓練データ生成プログラム170aを読み出した上でRAM180へ展開する。この結果、訓練データ生成プログラム170aは、図14に示すように、訓練データ生成プロセス180aとして機能する。この訓練データ生成プロセス180aは、RAM180が有する記憶領域のうち訓練データ生成プロセス180aに割り当てられた領域にHDD170から読み出した各種データを展開し、この展開した各種データを用いて各種の処理を実行する。例えば、訓練データ生成プロセス180aが実行する処理の一例として、図12に示す処理などが含まれる。なお、CPU150では、必ずしも上記の実施例1で示した全ての処理部が動作せずともよく、実行対象とする処理に対応する処理部が仮想的に実現されればよい。
【0098】
なお、上記の訓練データ生成プログラム170aは、必ずしも最初からHDD170やROM160に記憶されておらずともかまわない。例えば、コンピュータ100に挿入されるフレキシブルディスク、いわゆるFD、CD-ROM、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカードなどの「可搬用の物理媒体」に各プログラムを記憶させる。そして、コンピュータ100がこれらの可搬用の物理媒体から各プログラムを取得して実行するようにしてもよい。また、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介してコンピュータ100に接続される他のコンピュータまたはサーバ装置などに各プログラムを記憶させておき、コンピュータ100がこれらから各プログラムを取得して実行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0099】
10 サーバ装置
11 通信インタフェイス部
13 記憶部
13A 回路情報群
13B 訓練データセット
13M モデルデータ
15 制御部
15A 設定部
15B 算出部
15C 分類部
15D 選択部
15E 生成部
15F 訓練部
30 クライアント端末
図1
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図14