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特許7416285固体酸化物形燃料電池用電解質シート、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法、及び、固体酸化物形燃料電池用単セル
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  • 特許-固体酸化物形燃料電池用電解質シート、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法、及び、固体酸化物形燃料電池用単セル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池用電解質シート、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法、及び、固体酸化物形燃料電池用単セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1253 20160101AFI20240110BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240110BHJP
   C04B 35/486 20060101ALI20240110BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01M8/1253
H01M8/12 101
C04B35/486
C04B35/622
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022572119
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2021045281
(87)【国際公開番号】W WO2022138192
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2020214718
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】藤田 誠司
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕亮
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-105589(JP,A)
【文献】特表2014-535155(JP,A)
【文献】特開2016-060687(JP,A)
【文献】特表2012-513096(JP,A)
【文献】特開2014-191943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 - 8/0297
H01M 8/08 - 8/2495
C04B 35/48 -35/488
C04B 35/622-35/657
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニアの焼結体を含むセラミック板状体からなり、
セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布において、累積確率が90%となる粒径D90と累積確率が10%となる粒径D10との差は、2.5μm以上である、ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項2】
体積基準の累積粒度分布において、累積確率が50%となる粒径D50が3μm以下であり、かつ、累積確率が99%となる粒径D99が6μm以上であるジルコニア焼結粉末を準備する工程と、
前記ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末とを、前記ジルコニア焼結粉末と前記ジルコニア未焼結粉末との合計重量に対する前記ジルコニア焼結粉末の重量割合が5重量%以上、50重量%以下となるように混合することにより、セラミックスラリーを調製する工程と、
前記セラミックスラリーを成形することにより、セラミックグリーンシートを作製する工程と、
前記セラミックグリーンシートを含む未焼結板状体を焼結させることにより、セラミック板状体を作製する工程と、を備える、ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法。
【請求項3】
前記セラミックスラリーを調製する工程では、前記ジルコニア焼結粉末と前記ジルコニア未焼結粉末とを、前記ジルコニア焼結粉末と前記ジルコニア未焼結粉末との合計重量に対する前記ジルコニア焼結粉末の重量割合が5重量%以上、30重量%以下となるように混合する、請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法。
【請求項4】
燃料極と、
空気極と、
前記燃料極と前記空気極との間に設けられた請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シートと、を備える、ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用単セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用電解質シート、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法、及び、固体酸化物形燃料電池用単セルに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、燃料極:H+O2-→HO+2e、空気極:(1/2)O+2e→O2-の反応により、電気エネルギーを取り出す装置である。固体酸化物形燃料電池は、セラミック板状体からなる固体酸化物形燃料電池用電解質シート上に燃料極及び空気極が設けられた固体酸化物形燃料電池用単セルを複数積み重ねて、積層構造にして使用される。
【0003】
固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法として、特許文献1には、スカンジア安定化ジルコニアの焼結体を粉砕して、透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径Deが0.3μm超、1.5μm以下、レーザー散乱法で測定される平均粒子径Drが0.3μm超、3.0μm以下、かつDr/Deが1.0以上、2.5以下であるスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を得る工程と、スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末を含むスラリーであって、スラリー中におけるスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末の合計に対するスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の割合が2質量%以上、40質量%以下であるスラリーを調製する工程と、スラリーをシート状に成形する工程と、得られた成形体を焼結する工程と、を含む、スカンジア安定化ジルコニアシートの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-105589号公報(特許第4796656号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法で製造されたスカンジア安定化ジルコニアシートからなる固体酸化物形燃料電池用電解質シートでは、固体酸化物形燃料電池の発電効率を高めるために薄型化しようとすると、強度が低下する問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、強度の高い固体酸化物形燃料電池用電解質シートを提供することを目的とするものである。また、本発明は、強度の高い固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、上記固体酸化物形燃料電池用電解質シートを有する固体酸化物形燃料電池用単セルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートは、ジルコニアの焼結体を含むセラミック板状体からなり、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布において、累積確率が90%となる粒径D90と累積確率が10%となる粒径D10との差は、2.5μm以上である、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法は、体積基準の累積粒度分布において、累積確率が50%となる粒径D50が3μm以下であり、かつ、累積確率が99%となる粒径D99が6μm以上であるジルコニア焼結粉末を準備する工程と、上記ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末とを、上記ジルコニア焼結粉末と上記ジルコニア未焼結粉末との合計重量に対する上記ジルコニア焼結粉末の重量割合が5重量%以上、50重量%以下となるように混合することにより、セラミックスラリーを調製する工程と、上記セラミックスラリーを成形することにより、セラミックグリーンシートを作製する工程と、上記セラミックグリーンシートを含む未焼結板状体を焼結させることにより、セラミック板状体を作製する工程と、を備える、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の固体酸化物形燃料電池用単セルは、燃料極と、空気極と、上記燃料極と上記空気極との間に設けられた本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートと、を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、強度の高い固体酸化物形燃料電池用電解質シートを提供できる。また、本発明によれば、強度の高い固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法を提供できる。更に、本発明によれば、上記固体酸化物形燃料電池用電解質シートを有する固体酸化物形燃料電池用単セルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの一例を示す平面模式図である。
図2図1中の線分A1-A2に対応する部分を示す断面模式図である。
図3】本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法の一例について、セラミックグリーンシートを作製する工程を示す平面模式図である。
図4】本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法の一例について、セラミックグリーンシートを作製する工程を示す平面模式図である。
図5】本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法の一例について、セラミックグリーンシートを作製する工程を示す平面模式図である。
図6】本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法の一例について、セラミック板状体を作製する工程で未焼結板状体を作製する態様を示す断面模式図である。
図7】本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法の一例について、セラミック板状体を作製する工程で未焼結板状体を焼成する態様を示す断面模式図である。
図8】本発明の固体酸化物形燃料電池用単セルの一例を示す断面模式図である。
図9】実施例1の電解質シートについて、セラミックグレインの粒径の確率分布を示すグラフである。
図10】実施例1の電解質シートについて、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シート(以下、電解質シートとも言う)と、本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法(以下、電解質シートの製造方法とも言う)と、本発明の固体酸化物形燃料電池用単セル(以下、単セルとも言う)とについて説明する。なお、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更されてもよい。また、以下において記載する個々の好ましい構成を複数組み合わせたものもまた本発明である。
【0013】
以下に示す図面は模式図であり、その寸法、縦横比の縮尺等は、実際の製品と異なる場合がある。
【0014】
[固体酸化物形燃料電池用電解質シート]
本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの一例について、以下に説明する。
【0015】
図1は、本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの一例を示す平面模式図である。図2は、図1中の線分A1-A2に対応する部分を示す断面模式図である。
【0016】
図1及び図2に示した固体酸化物形燃料電池用電解質シート10は、ジルコニアの焼結体を含むセラミック板状体からなる。
【0017】
ジルコニアの焼結体としては、例えば、スカンジウム、イットリウム等の希土類元素の酸化物で安定化されたジルコニアの焼結体が挙げられ、より具体的には、スカンジアで安定化されたジルコニアの焼結体、イットリアで安定化されたジルコニアの焼結体等が挙げられる。
【0018】
ジルコニアの焼結体は、スカンジアで安定化されたジルコニアの焼結体であることが好ましい。電解質シート10がスカンジアで安定化されたジルコニアの焼結体を含むセラミック板状体からなることにより、電解質シート10の導電率が高まる。この場合、電解質シート10が固体酸化物形燃料電池に組み込まれることにより、固体酸化物形燃料電池の発電効率が高まる。
【0019】
ジルコニアの焼結体は、立方晶系ジルコニアの焼結体であることが好ましい。電解質シート10が立方晶系ジルコニアの焼結体を含むセラミック板状体からなることにより、電解質シート10の導電率が高まる。この場合、電解質シート10が固体酸化物形燃料電池に組み込まれることにより、固体酸化物形燃料電池の発電効率が高まる。
【0020】
立方晶系ジルコニアの焼結体としては、例えば、スカンジウム、イットリウム等の希土類元素の酸化物で安定化された立方晶系ジルコニアの焼結体が挙げられ、より具体的には、スカンジアで安定化された立方晶系ジルコニアの焼結体、イットリアで安定化された立方晶系ジルコニアの焼結体等が挙げられる。
【0021】
立方晶系ジルコニアの焼結体は、スカンジアで安定化された立方晶系ジルコニアの焼結体であることが好ましい。電解質シート10がスカンジアで安定化された立方晶系ジルコニアの焼結体を含むセラミック板状体からなることにより、電解質シート10の導電率が顕著に高まる。この場合、電解質シート10が固体酸化物形燃料電池に組み込まれることにより、固体酸化物形燃料電池の発電効率が顕著に高まる。
【0022】
厚み方向から平面視したとき、電解質シート10は、例えば、図1に示すような正方形状である。
【0023】
厚み方向から平面視したとき、電解質シート10は、図示しないが、角部に丸みを有する略矩形状であることが好ましく、角部に丸みを有する略正方形状であることがより好ましい。この場合、電解質シート10は、すべての角部に丸みを有していてもよいし、一部の角部に丸みを有していてもよい。
【0024】
電解質シート10には、図示しないが、厚み方向に貫通する貫通孔が設けられていることが好ましい。このような貫通孔は、固体酸化物形燃料電池において、ガスの流路として機能する。
【0025】
貫通孔の数は、1つのみであってもよいし、2つ以上であってもよい。
【0026】
厚み方向から平面視したとき、貫通孔は、円形状であってもよいし、それ以外の形状であってもよい。
【0027】
貫通孔の位置は、特に限定されない。
【0028】
厚み方向から平面視したとき、電解質シート10のサイズは、例えば、50mm×50mm、100mm×100mm、110mm×110mm、120mm×120mm、200mm×200mm等である。
【0029】
電解質シート10(セラミック板状体)の厚みは、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは130μm以下である。また、電解質シート10の厚みは、好ましくは30μm以上であり、より好ましくは50μm以上である。
【0030】
電解質シート10の厚みは、以下のようにして定められる。まず、電解質シート10の外縁から5mmより内側の領域の任意の9箇所の厚みを、ミツトヨ社製のU字形鋼板マイクロメータ「PMU-MX」で測定する。そして、9箇所の厚みの測定値から算出された平均値を、電解質シート10の厚みと定める。
【0031】
電解質シート10の少なくとも一方主面には、図示しないが、凹部が散在していることが好ましい。電解質シート10の少なくとも一方主面に凹部が散在していることにより、電解質シート10が固体酸化物形燃料電池に組み込まれたとき、電極とガスとの接触面積が大きくなるため、固体酸化物形燃料電池の発電効率が高まる。凹部は、電解質シート10の一方主面のみに散在していてもよいが、一方主面及び他方主面の両方に散在していることが特に好ましい。
【0032】
電解質シート10では、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布において、累積確率が90%となる粒径D90と累積確率が10%となる粒径D10との差は、2.5μm以上である。
【0033】
電解質シートが固体酸化物形燃料電池に組み込まれる際、電解質シート上に燃料極用スラリー及び空気極用スラリーが塗工されたり、電解質シート上に燃料極及び空気極が設けられた単セルがセパレータとともに積み重ねられたりすることで、電解質シートに負荷が加わる。そのため、強度の低い電解質シートは、上述したように負荷が加わることで破断しやすくなる。電解質シートが破断する場合、電解質シート内の亀裂は、通常、セラミックグレインの粒内を通って進展する。
【0034】
これに対して、電解質シート10では、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布が上述した条件を満たすことにより、セラミックグレインの粒径の確率分布が広くなり、粒径の大きなセラミックグレインが存在することになる。そのため、電解質シート10では、粒径の大きなセラミックグレインが亀裂の進展を抑制し、強度の低下抑制に寄与する。その結果、強度の高い電解質シート10が実現される。このように強度の高い電解質シート10は、固体酸化物形燃料電池に組み込まれる際に、上述したような負荷が加わっても破断しにくい。
【0035】
電解質シートにおけるセラミックグレインの個数基準の累積粒度分布は、以下のようにして定められる。まず、電解質シートの任意の箇所(例えば、中央部)に対して、日立ハイテクノロジーズ社製の卓上顕微鏡「TM3000」を用いて倍率を3000倍とした状態で、セラミックグレインが100個以上存在し、かつ、大きさが30μm×30μmである領域の画像を撮像する。次に、得られた画像に対して、三谷商事社製の画像解析計測システム「WinROOF2018粒界抽出モジュール」を用いて画像解析を行うことにより、100個以上のセラミックグレインの粒径を等価円相当径として測定する。その後、各セラミックグレインの粒径の測定結果に対して、マイクロソフト社製の表計算ソフト「Microsoft Excel」の関数「NORMDIST」(又は、関数「NORM.DIST」)を用いて、関数形式で「TRUE」を指定することにより、そのセラミックグレインの粒径以下となる累積確率を計算する。そして、得られた累積確率から、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布を定める。
【0036】
上述したように定められたセラミックグレインの個数基準の累積粒度分布において、累積確率が90%となる粒径D90と累積確率が10%となる粒径D10とを定めたとき、電解質シート10では、粒径D90と粒径D10との差が2.5μm以上となっている。なお、電解質シート10では、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布において、粒径D90と粒径D10との差は、好ましくは2.6μm以上である。
【0037】
電解質シート10では、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布において、粒径D90と粒径D10との差は、好ましくは3.5μm以下であり、より好ましくは3.1μm以下である。
【0038】
電解質シート10では、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布における粒径D90は、好ましくは3μm以上、4μm以下であり、より好ましくは3.2μm以上、3.8μm以下である。
【0039】
電解質シート10では、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布における粒径D10は、好ましくは0.5μm以上、1μm以下であり、より好ましくは0.7μm以上、0.9μm以下である。
【0040】
なお、上述した各セラミックグレインの粒径の測定結果に対して、マイクロソフト社製の表計算ソフト「Microsoft Excel」の関数「NORMDIST」(又は、関数「NORM.DIST」)を用いて、関数形式で「FALSE」を指定することにより、そのセラミックグレインの粒径となる確率密度を計算できる。そして、得られた確率密度から、セラミックグレインの粒径の確率分布を定めることができる。電解質シート10に対して、上述したようにセラミックグレインの粒径の確率分布を定めると、その確率分布が広く、粒径の大きなセラミックグレインが存在していることが分かる。
【0041】
[固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法]
本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法の一例について、以下に説明する。
【0042】
<ジルコニア焼結粉末を準備する工程>
体積基準の累積粒度分布において、累積確率が50%となる粒径D50(メジアン径とも言う)が3μm以下であり、かつ、累積確率が99%となる粒径D99が6μm以上であるジルコニア焼結粉末を準備する。
【0043】
上述したように、電解質シートが破断する場合、電解質シート内の亀裂は、通常、セラミックグレインの粒内を通って進展する。そのため、電解質シートにおいて、セラミックグレインの粒径の確率分布が広く、粒径の大きなセラミックグレインが存在すると、亀裂の進展が抑制されやすくなる。
【0044】
本製造方法では、体積基準の累積粒度分布において、粒径D50が3μm以下であり、かつ、粒径D99が6μm以上であるジルコニア焼結粉末を用いることにより、後の工程を経て得られる電解質シートにおいて、セラミックグレインの粒径の確率分布を広くし、粒径の大きなセラミックグレインが存在するようにしている。
【0045】
本製造方法では、後述するように、ジルコニア焼結粉末及びジルコニア未焼結粉末の混合物を含むセラミックスラリーを成形した後に焼結させることにより、電解質シートを製造する。そこで、ジルコニア未焼結粉末に近い焼結性を実現するためには、体積基準の累積粒度分布において粒径D50が3μm以下であるジルコニア焼結粉末を用いることが重要である。更に、ジルコニア焼結粉末について、体積基準の累積粒度分布における粒径D99を6μm以上とすることにより、粒径が6μm以上である粗粒分が、セラミックスラリーの焼結時にグレイン成長の核となり、全体のグレイン成長を促進する。その結果、後述するように、セラミックグレインの粒径の確率分布が広く、粒径の大きなセラミックグレインが存在する電解質シートが得られる。
【0046】
ジルコニア焼結粉末の体積基準の累積粒度分布は、以下のようにして定められる。まず、レーザー回折式粒度分布測定装置等を用いたレーザー散乱法により、ジルコニア焼結粉末の粒度分布を測定する。この際、ジルコニア焼結粉末の粒径は、等価円相当径として測定される。そして、得られたジルコニア焼結粉末の粒度分布を累積確率で表したものに変換することにより、ジルコニア焼結粉末の体積基準の累積粒度分布を定める。
【0047】
上述したように定められたジルコニア焼結粉末の体積基準の累積粒度分布において、累積確率が50%となる粒径D50と累積確率が99%となる粒径D99とを定めたとき、本製造方法で用いられるジルコニア焼結粉末は、粒径D50が3μm以下であり、かつ、粒径D99が6μm以上となっている。
【0048】
ジルコニア焼結粉末について、体積基準の累積粒度分布における粒径D50は、3μm以下であり、好ましくは2.5μm以下である。
【0049】
ジルコニア焼結粉末について、体積基準の累積粒度分布における粒径D50は、好ましくは0.5μm以上であり、より好ましくは1.5μm以上である。
【0050】
ジルコニア焼結粉末について、体積基準の累積粒度分布における粒径D99は、6μm以上であり、好ましくは6.1μm以上である。
【0051】
ジルコニア焼結粉末について、体積基準の累積粒度分布における粒径D99は、好ましくは8.5μm以下であり、より好ましくは7.9μm以下である。
【0052】
本工程では、ジルコニアの焼結体を粉砕することにより、ジルコニア焼結粉末を準備することが好ましい。
【0053】
ジルコニアの焼結体を粉砕することにより、ジルコニア焼結粉末を準備する場合、ジルコニア焼結粉末の原料であるジルコニアの焼結体としては、例えば、ジルコニア未焼結粉末を焼結させたものが用いられる。このようなジルコニアの焼結体としては、ジルコニアの焼結体からなる電解質シートが用いられてもよく、リサイクルの観点から、反り、破断等の不良が生じている電解質シート、固体酸化物形燃料電池に組み込まれている電解質シート等が用いられることが好ましい。固体酸化物形燃料電池に組み込まれている電解質シートを用いる場合、例えば、使用済みの単セル、不良が生じている単セル等から燃料極及び空気極を除去することにより、電解質シートを取り出してもよい。
【0054】
ジルコニアの焼結体としては、例えば、スカンジウム、イットリウム等の希土類元素の酸化物で安定化されたジルコニアの焼結体が用いられ、より具体的には、スカンジアで安定化されたジルコニアの焼結体、イットリアで安定化されたジルコニアの焼結体等が用いられる。
【0055】
ジルコニアの焼結体としては、スカンジアで安定化されたジルコニアの焼結体が用いられることが好ましい。つまり、ジルコニア焼結粉末としては、スカンジアで安定化されたジルコニア焼結粉末が用いられることが好ましい。スカンジアで安定化されたジルコニア焼結粉末を用いることにより、導電率の高い電解質シートを製造できる。この場合、製造された電解質シートを固体酸化物形燃料電池に組み込むことにより、固体酸化物形燃料電池の発電効率を高めることができる。
【0056】
ジルコニアの焼結体としては、立方晶系ジルコニアの焼結体が用いられることが好ましい。つまり、ジルコニア焼結粉末としては、立方晶系ジルコニア焼結粉末が用いられることが好ましい。立方晶系ジルコニア焼結粉末を用いることにより、導電率の高い電解質シートを製造できる。この場合、製造された電解質シートを固体酸化物形燃料電池に組み込むことにより、固体酸化物形燃料電池の発電効率を高めることができる。
【0057】
立方晶系ジルコニアの焼結体としては、例えば、スカンジウム、イットリウム等の希土類元素の酸化物で安定化された立方晶系ジルコニアの焼結体が用いられ、より具体的には、スカンジアで安定化された立方晶系ジルコニアの焼結体、イットリアで安定化された立方晶系ジルコニアの焼結体等が用いられる。
【0058】
立方晶系ジルコニアの焼結体としては、スカンジアで安定化された立方晶系ジルコニアの焼結体が用いられることが好ましい。つまり、ジルコニア焼結粉末としては、スカンジアで安定化された立方晶系ジルコニア焼結粉末が用いられることが好ましい。スカンジアで安定化された立方晶系ジルコニア焼結粉末を用いることにより、導電率が顕著に高い電解質シートを製造できる。この場合、製造された電解質シートを固体酸化物形燃料電池に組み込むことにより、固体酸化物形燃料電池の発電効率を顕著に高めることができる。
【0059】
ジルコニアの焼結体を粉砕する際、乾式粉砕を行うことが好ましい。乾式粉砕によれば、ジルコニアの焼結体を強い衝撃力で粉砕できるため、粉砕効率が高まりやすくなる。
【0060】
乾式粉砕を行うための乾式粉砕機としては、例えば、ジェットミル、振動ミル、遊星ミル、乾式ボールミル、ファインミル等が用いられる。
【0061】
乾式粉砕機用の粉砕メディアとしては、例えば、ジルコニア製玉石等が用いられる。
【0062】
ジルコニアの焼結体を乾式粉砕する場合、乾式粉砕機の分級ロータの回転数、粉砕時間等の粉砕条件を調整することにより、上述した体積基準の累積粒度分布を有するジルコニア焼結粉末を得ることができる。
【0063】
ジルコニアの焼結体を粉砕する際、乾式粉砕に代えて湿式粉砕を行ってもよいし、乾式粉砕及び湿式粉砕を組み合わせて行ってもよいが、粉砕効率の観点からは、乾式粉砕のみを行うことが好ましい。
【0064】
<セラミックスラリーを調製する工程>
ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末とを、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末との合計重量に対するジルコニア焼結粉末の重量割合が5重量%以上、50重量%以下となるように混合することにより、セラミックスラリーを調製する。
【0065】
本工程では、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末とを、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末との合計重量に対するジルコニア焼結粉末の重量割合が5重量%以上、30重量%以下となるように混合することが好ましい。
【0066】
セラミックスラリーを調製する際、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末との合計重量に対するジルコニア焼結粉末の重量割合を5重量%未満とすると、ジルコニア焼結粉末の粗粒分の重量割合が小さくなり過ぎるため、セラミックスラリーの焼結時に全体のグレイン成長が促進されない。
【0067】
セラミックスラリーを調製する際、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末との合計重量に対するジルコニア焼結粉末の重量割合を50重量%よりも大きくすると、ジルコニア焼結粉末の粗粒分の重量割合が大きくなり過ぎるため、セラミックスラリーの焼結性が低下する。その結果、後に得られる電解質シートの強度が低下してしまう。
【0068】
ジルコニア未焼結粉末は、体積基準の累積粒度分布において、累積確率が50%となる粒径D50が0.1μm以上、0.3μm以下であり、かつ、累積確率が99%となる粒径D99が1.5μm以上、2.5μm以下であることが好ましい。
【0069】
ジルコニア未焼結粉末としては、例えば、スカンジウム、イットリウム等の希土類元素の酸化物で安定化されたジルコニア未焼結粉末が用いられ、より具体的には、スカンジアで安定化されたジルコニア未焼結粉末、イットリアで安定化されたジルコニア未焼結粉末等が用いられる。
【0070】
ジルコニア未焼結粉末としては、スカンジアで安定化されたジルコニア未焼結粉末が用いられることが好ましい。スカンジアで安定化されたジルコニア未焼結粉末を用いることにより、導電率の高い電解質シートを製造できる。この場合、製造された電解質シートを固体酸化物形燃料電池に組み込むことにより、固体酸化物形燃料電池の発電効率を高めることができる。
【0071】
ジルコニア未焼結粉末としては、立方晶系ジルコニア未焼結粉末が用いられることが好ましい。立方晶系ジルコニア未焼結粉末を用いることにより、導電率の高い電解質シートを製造できる。この場合、製造された電解質シートを固体酸化物形燃料電池に組み込むことにより、固体酸化物形燃料電池の発電効率を高めることができる。
【0072】
立方晶系ジルコニア未焼結粉末としては、例えば、スカンジウム、イットリウム等の希土類元素の酸化物で安定化された立方晶系ジルコニア未焼結粉末が用いられ、より具体的には、スカンジアで安定化された立方晶系ジルコニア未焼結粉末、イットリアで安定化された立方晶系ジルコニア未焼結粉末等が用いられる。
【0073】
立方晶系ジルコニア未焼結粉末としては、スカンジアで安定化された立方晶系ジルコニア未焼結粉末が用いられることが好ましい。スカンジアで安定化された立方晶系ジルコニア未焼結粉末を用いることにより、導電率が顕著に高い電解質シートを製造できる。この場合、製造された電解質シートを固体酸化物形燃料電池に組み込むことにより、固体酸化物形燃料電池の発電効率を顕著に高めることができる。
【0074】
セラミックスラリーを調製する際、ジルコニア焼結粉末及びジルコニア未焼結粉末に加えて、バインダー、分散剤、有機溶媒等を適宜調合してもよい。
【0075】
<セラミックグリーンシートを作製する工程>
図3図4、及び、図5は、本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法の一例について、セラミックグリーンシートを作製する工程を示す平面模式図である。
【0076】
まず、セラミックスラリーをキャリアフィルムの一方主面上で成形することにより、図3に示すようなセラミックグリーンテープ1tを作製する。
【0077】
セラミックスラリーの成形方法としては、テープ成形法が好ましく用いられ、ドクターブレード法又はカレンダー法がより好ましく用いられる。図3では、セラミックスラリーをテープ成形法で成形した場合の、キャスティング方向をX、キャスティング方向に直交する方向をYで示している。
【0078】
そして、セラミックグリーンテープ1tを、図4に示すように所定の大きさになるように既知の手法により打ち抜き、キャリアフィルムを剥離することにより、図5に示すようなセラミックグリーンシート1gを作製する。セラミックグリーンテープ1tの打ち抜きとキャリアフィルムの剥離とについては、その順序を問わない。
【0079】
<セラミック板状体を作製する工程>
まず、セラミックグリーンシートを含む未焼結板状体を作製する。
【0080】
図6は、本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法の一例について、セラミック板状体を作製する工程で未焼結板状体を作製する態様を示す断面模式図である。
【0081】
図6に示すように、2枚のセラミックグリーンシート1gを積層及び圧着することにより、未焼結板状体1sを作製する。そのため、未焼結板状体1sはセラミックグリーンシート1gを含んでいる、と言える。
【0082】
未焼結板状体1sを作製する際のセラミックグリーンシート1gの枚数は、図6に示すように2枚であってもよく、3枚以上であってもよい。このような複数のセラミックグリーンシート1gは、圧着されていてもよく、圧着されずに単に積層されていてもよい。複数のセラミックグリーンシート1gから未焼結板状体1sを作製する場合、後に得られるセラミック板状体の厚みを適切かつ容易に制御できる。
【0083】
なお、1枚のセラミックグリーンシート1gから未焼結板状体1sを作製してもよい。この場合、図6に示す工程は省略される。
【0084】
次に、図示しないが、未焼結板状体1sの一方主面に散在する凹部を形成してもよい。例えば、表面に凸部が散在した金型を押圧することにより、未焼結板状体1sの一方主面に散在する凹部を形成してもよい。
【0085】
金型の表面に散在した凸部は、規則的に並んでいてもよいし、不規則的に並んでいてもよい。
【0086】
また、未焼結板状体1sの一方主面及び他方主面の両主面に散在する凹部を形成してもよい。
【0087】
なお、未焼結板状体1sの一方主面及び他方主面の両主面に散在する凹部を形成しなくてもよい。
【0088】
次に、図示しないが、未焼結板状体1sを厚み方向に貫通する貫通孔を形成してもよい。
【0089】
未焼結板状体1sに貫通孔を形成する際、ドリルを用いることが好ましい。この場合、ドリルが未焼結板状体1sの一方主面から他方主面に向けて進行することにより、未焼結板状体1sを厚み方向に貫通する貫通孔が形成される。ドリルによる加工条件は、特に限定されない。
【0090】
貫通孔は、1つのみ形成されてもよいし、2つ以上形成されてもよい。
【0091】
なお、貫通孔は形成されなくてもよい。
【0092】
未焼結板状体1sに上述した凹部及び貫通孔を形成する場合、凹部の形成と貫通孔の形成とについては、その順序を問わない。
【0093】
次に、未焼結板状体1sを焼結させることにより、セラミック板状体を作製する。
【0094】
図7は、本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法の一例について、セラミック板状体を作製する工程で未焼結板状体を焼成する態様を示す断面模式図である。
【0095】
未焼結板状体1sを焼成することにより、図7に示すように、未焼結板状体1sを焼結させて、セラミック板状体10pを作製する。セラミック板状体10pは、ジルコニアの焼結体を含んでいる。
【0096】
未焼結板状体1sを焼成する際、脱脂処理及び焼結処理を行うことが好ましい。
【0097】
未焼結板状体1sの一方主面に散在する凹部を形成した場合、図7に示すように、セラミック板状体10pの一方主面には、凹部が散在するように形成されることになる。
【0098】
また、未焼結板状体1sの一方主面及び他方主面の両主面に散在する凹部を形成した場合、セラミック板状体10pの一方主面及び他方主面の両主面には、凹部が散在するように形成されることになる。
【0099】
セラミック板状体10pに上述した凹部が形成される場合、これらの凹部は、規則的に並んでいてもよいし、不規則的に並んでいてもよい。
【0100】
なお、一方主面及び他方主面の両主面に凹部が散在していないセラミック板状体を作製してもよい。
【0101】
また、未焼結板状体1sに貫通孔を形成した場合、セラミック板状体10pには、厚み方向に貫通する貫通孔が設けられることになる。
【0102】
以上により、セラミック板状体10pからなる電解質シートが製造される。
【0103】
本製造方法では、上述したように、ジルコニア焼結粉末を準備する工程で、体積基準の累積粒度分布において、粒径D50が3μm以下であり、かつ、粒径D99が6μm以上であるジルコニア焼結粉末を準備しており、更に、セラミックスラリーを調製する工程で、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末との合計重量に対するジルコニア焼結粉末の重量割合を50重量%以下としている。そのため、このようなセラミックスラリーを用いて作製されたセラミック板状体10pでは、セラミックグレインの粒径の確率分布が広く、粒径の大きなセラミックグレインが存在することになり、強度が高まる。より具体的には、セラミック板状体10pでは、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布において、粒径D90と粒径D10との差が2.5μm以上となり、強度が高まる。つまり、本製造方法によれば、セラミック板状体10pからなる本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートを製造できる。
【0104】
[固体酸化物形燃料電池用単セル]
本発明の固体酸化物形燃料電池用単セルの一例について、以下に説明する。
【0105】
図8は、本発明の固体酸化物形燃料電池用単セルの一例を示す断面模式図である。
【0106】
図8に示すように、固体酸化物形燃料電池用単セル100は、燃料極110と、空気極120と、電解質シート130と、を有している。電解質シート130は、燃料極110と空気極120との間に設けられている。
【0107】
燃料極110としては、公知の固体酸化物形燃料電池用の燃料極が用いられる。
【0108】
空気極120としては、公知の固体酸化物形燃料電池用の空気極が用いられる。
【0109】
電解質シート130としては、本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シート(例えば、図1及び図2に示した電解質シート10)が用いられる。よって、単セル100が固体酸化物形燃料電池に組み込まれたとき、固体酸化物形燃料電池の発電効率が高まる。
【0110】
[固体酸化物形燃料電池用単セルの製造方法]
本発明の固体酸化物形燃料電池用単セルの製造方法の一例について、以下に説明する。
【0111】
まず、燃料極の材料の粉体にバインダー、分散剤、溶媒等を適宜添加することにより、燃料極用スラリーを調製する。また、空気極の材料の粉体にバインダー、分散剤、溶媒等を適宜添加することにより、空気極用スラリーを調製する。
【0112】
燃料極の材料としては、固体酸化物形燃料電池用の燃料極の公知の材料が用いられる。
【0113】
空気極の材料としては、固体酸化物形燃料電池用の空気極の公知の材料が用いられる。
【0114】
燃料極用スラリー及び空気極用スラリーに含まれるバインダー、分散剤、溶媒等としては、固体酸化物形燃料電池用の燃料極及び空気極の形成方法で公知となっているものが用いられる。
【0115】
次に、燃料極用スラリーを電解質シートの一方主面上に、空気極用スラリーを電解質シートの他方主面上に、各々所定の厚みで塗工する。そして、これらの塗膜を乾燥させることにより、燃料極用グリーン層及び空気極用グリーン層を形成する。
【0116】
そして、燃料極用グリーン層及び空気極用グリーン層を焼成することにより、燃料極及び空気極を形成する。焼成温度等の焼成条件については、燃料極及び空気極の材料の種類等に応じて適宜決定すればよい。
【実施例
【0117】
以下、本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートと、本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法とをより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0118】
[実施例1]
実施例1の電解質シートを、以下の方法で製造した。
【0119】
<ジルコニア焼結粉末を準備する工程>
ジルコニアの焼結体を乾式粉砕することにより、体積基準の累積粒度分布において、粒径D50が1.5μmであり、かつ、粒径D99が6.1μmであるジルコニア焼結粉末を得た。
【0120】
ジルコニアの焼結体としては、スカンジアで安定化されたジルコニア未焼結粉末を焼結させることにより得られた、スカンジアで安定化されたジルコニアの焼結体を用いた。つまり、ジルコニア焼結粉末としては、スカンジアで安定化されたジルコニア焼結粉末が得られた。
【0121】
乾式粉砕機用の粉砕メディアとしては、直径が1mm以上、10mm以下のジルコニア製玉石を用いた。
【0122】
乾式粉砕機の分級ロータの回転数については、4000回転/分以上とした。
【0123】
<セラミックスラリーを調製する工程>
まず、ジルコニア焼結粉末、ジルコニア未焼結粉末、バインダー、分散剤、及び、有機溶媒を所定の割合で調合した。この際、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末とを、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末との合計重量に対するジルコニア焼結粉末の重量割合が10重量%となるように混合した。そして、得られた調合物を、部分安定化ジルコニアからなるメディアとともに1000回転/分で3時間撹拌することにより、セラミックスラリーを調製した。
【0124】
ジルコニア未焼結粉末としては、スカンジアで安定化されたジルコニア未焼結粉末を用いた。ジルコニア未焼結粉末は、体積基準の累積粒度分布において、粒径D50が0.2μmであり、かつ、粒径D99が1.8μmであった。
【0125】
有機溶媒としては、トルエン及びエタノール(重量比7:3)の混合溶媒を用いた。
【0126】
<セラミックグリーンシートを作製する工程>
まず、セラミックスラリーを、ポリエチレンテレフタレートからなるキャリアフィルムの一方主面上で既知の手法によりテープ成形することにより、セラミックグリーンテープを作製した。
【0127】
そして、セラミックグリーンテープを、所定の大きさになるように既知の手法により打ち抜き、キャリアフィルムを剥離することにより、セラミックグリーンシートを作製した。
【0128】
<セラミック板状体を作製する工程>
まず、2枚のセラミックグリーンシートを積層及び圧着することにより、未焼結板状体を作製した。
【0129】
次に、表面に凸部が散在した金型を押圧することにより、未焼結板状体の一方主面に散在する凹部を形成した。
【0130】
次に、ドリルを用いて、未焼結板状体を厚み方向に貫通する貫通孔を形成した。
【0131】
ドリルによる加工条件については、進行速度を0.04mm/回転、回転数を2000回転/分とした。
【0132】
次に、未焼結板状体に対して、焼成炉により400℃で所定の時間保持する脱脂処理を行った。そして、脱脂処理後の未焼結板状体に対して、焼成炉により1400℃で5時間保持する焼結処理を行った。
【0133】
このように未焼結板状体を焼成することにより、未焼結板状体を焼結させて、セラミック板状体を作製した。セラミック板状体の厚みは、120μmであった。
【0134】
以上により、実施例1の電解質シート(セラミック板状体)を製造した。
【0135】
[実施例2]
セラミックスラリーを調製する工程で、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末との合計重量に対するジルコニア焼結粉末の重量割合を20重量%としたこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、実施例2の電解質シートを製造した。
【0136】
[実施例3]
セラミックスラリーを調製する工程で、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末との合計重量に対するジルコニア焼結粉末の重量割合を50重量%としたこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、実施例3の電解質シートを製造した。
【0137】
[実施例4]
ジルコニア焼結粉末を準備する工程で、体積基準の累積粒度分布において、粒径D50が3.0μmであり、かつ、粒径D99が7.9μmであるジルコニア焼結粉末を得たこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、実施例4の電解質シートを製造した。
【0138】
[実施例5]
セラミックスラリーを調製する工程で、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末との合計重量に対するジルコニア焼結粉末の重量割合を5重量%としたこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、実施例5の電解質シートを製造した。
【0139】
[実施例6]
セラミックスラリーを調製する工程で、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末との合計重量に対するジルコニア焼結粉末の重量割合を30重量%としたこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、実施例6の電解質シートを製造した。
【0140】
[実施例7]
セラミックスラリーを調製する工程で、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末との合計重量に対するジルコニア焼結粉末の重量割合を40重量%としたこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、実施例7の電解質シートを製造した。
【0141】
[比較例1]
ジルコニア焼結粉末を準備する工程を行わなかった、つまり、セラミックスラリーを調製する工程でジルコニア焼結粉末を調合しなかったこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、比較例1の電解質シートを製造した。
【0142】
[比較例2]
ジルコニア焼結粉末を準備する工程で、体積基準の累積粒度分布において、粒径D50が1.3μmであり、かつ、粒径D99が4.1μmであるジルコニア焼結粉末を得たこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、比較例2の電解質シートを製造した。
【0143】
[比較例3]
ジルコニア焼結粉末を準備する工程で、体積基準の累積粒度分布において、粒径D50が3.5μmであり、かつ、粒径D99が8.2μmであるジルコニア焼結粉末を得たこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、比較例3の電解質シートを製造した。
【0144】
[比較例4]
セラミックスラリーを調製する工程で、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末との合計重量に対するジルコニア焼結粉末の重量割合を55重量%としたこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、比較例4の電解質シートを製造した。
【0145】
なお、実施例1~7、及び、比較例1~4の電解質シートを製造する際の上述した製造条件については、表1にも示す。表1では、ジルコニア焼結粉末を準備する工程で得られたジルコニア焼結粉末の粒径D50及び粒径D99を、各々、「D50」及び「D99」と示し、セラミックスラリーを調製する工程でのジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末との合計重量に対するジルコニア焼結粉末の重量割合を、「重量割合」と示す。
【0146】
[評価]
実施例1~7、及び、比較例1~4の電解質シートについて、以下の評価を行った。
【0147】
<セラミックグレインの粒度分布>
実施例1~7、及び、比較例1~4の電解質シートについて、上述した方法により、セラミックグレインの粒径の確率分布を定めた。
【0148】
図9は、実施例1の電解質シートについて、セラミックグレインの粒径の確率分布を示すグラフである。
【0149】
図9に示すように、実施例1の電解質シートについては、セラミックグレインの粒径の確率分布が広く、粒径の大きなセラミックグレインが存在していることが確認された。
【0150】
実施例2~7の電解質シートについても、実施例1の電解質シートと同様に、セラミックグレインの粒径の確率分布が広く、粒径の大きなセラミックグレインが存在していることが確認された。一方、比較例1~4の電解質シートについては、実施例1~7の電解質シートと比較して、セラミックグレインの粒径の確率分布が狭いことが確認された。
【0151】
以上の確認結果を定量的に示すため、実施例1~7、及び、比較例1~4の電解質シートについて、上述した方法により、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布を定めた。
【0152】
図10は、実施例1の電解質シートについて、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布を示すグラフである。
【0153】
図10に示すように、実施例1の電解質シートについては、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布において、累積確率が50%となる粒径D50(メジアン径とも言う)が2.2μm、累積確率が10%となる粒径D10が0.7μm、累積確率が90%となる粒径D90が3.8μmであり、粒径D90と粒径D10との差が3.1μmと算出された。
【0154】
実施例2~7、及び、比較例1~4の電解質シートについても、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布から粒径D50、粒径D10、及び、粒径D90を読み取り、粒径D90と粒径D10との差を算出した。結果を表1に示す。表1では、セラミックグレインの粒度分布の評価について、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布における、粒径D50、粒径D10、粒径D90、及び、粒径D90と粒径D10との差を、各々、「D50」、「D10」、「D90」、及び、「D90-D10」と示す。
【0155】
<強度>
実施例1~7、及び、比較例1~4の電解質シートについて、以下のようにして強度を評価した。まず、島津製作所製の精密万能試験機「AGS-X」において、電解質シートを中心にセットし、下部の治具を32.5mmの間隔でセットし、上部の治具を65mmの間隔でセットした。そして、上部の治具を5mm/分の速度で下降させることにより、電解質シートの4点曲げ試験を行い、電解質シートの強度を測定した。このようにして測定された電解質シートの強度を、以下の基準に基づいて表1に示す。
○:強度が200MPa以上であった。
×:強度が200MPa未満であった。
【0156】
<導電率>
実施例1~7、及び、比較例1~4の電解質シートについて、以下のようにして導電率を評価した。まず、電解質シートの一方主面上に電極を形成することにより、試料を作製した。次に、試料を864±1℃の高温状態に到達させて30分間以上放置した後、高温状態での試料の抵抗を2分間隔で3回測定した。その後、3つの抵抗の測定値から導電率を各々算出し、これらの導電率の平均値を高温状態での導電率と定めた。そして、高温状態での導電率を用いて、以下の基準で電解質シートの導電率を評価した。結果を表1に示す。
○:高温状態での導電率が135mS/cm以上であった。
△:高温状態での導電率が125mS/cm以上、135mS/cm未満であった。
×:高温状態での導電率が125mS/cm未満であった。
【0157】
【表1】
【0158】
表1に示すように、実施例1~7の電解質シートを製造する際、ジルコニア焼結粉末を準備する工程で、体積基準の累積粒度分布において、粒径D50が3μm以下であり、かつ、粒径D99が6μm以上であるジルコニア焼結粉末を得ており、更に、セラミックスラリーを調製する工程で、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末との合計重量に対するジルコニア焼結粉末の重量割合を50重量%以下としていた。この場合、実施例1~7の電解質シートでは、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布において、粒径D90と粒径D10との差が2.5μm以上となり、強度が高かった。また、実施例1~7の電解質シートでは、高温状態での導電率が125mS/cm以上と高かった。
【0159】
表1に示すように、比較例1の電解質シートを製造する際、ジルコニア焼結粉末を準備する工程を行わなかった、つまり、セラミックスラリーを調製する工程でジルコニア焼結粉末を調合しなかった。この場合、比較例1の電解質シートでは、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布において、粒径D90と粒径D10との差が2.5μm未満となり、強度が低かった。
【0160】
表1に示すように、比較例2の電解質シートを製造する際、ジルコニア焼結粉末を準備する工程で、体積基準の累積粒度分布において、粒径D50が3μm以下であるものの、粒径D99が6μm未満であるジルコニア焼結粉末を得ていた。この場合、比較例2の電解質シートでは、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布において、粒径D90と粒径D10との差が2.5μm未満となり、強度が低かった。
【0161】
なお、特許文献1に記載の製造方法で電解質シートを製造しても、比較例2の電解質シートを製造する際と同様に、ジルコニア焼結粉末を準備する工程で、体積基準の累積粒度分布において、粒径D50が3μm以下であるものの、粒径D99が6μm未満であるジルコニア焼結粉末が得られることが確認された。そのため、特許文献1に記載の製造方法で製造された電解質シートでは、比較例2の電解質シートと同様に、厚みを120μmと薄型化すると、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布において、粒径D90と粒径D10との差が2.5μm未満となり、強度が低くなることが確認された。
【0162】
表1に示すように、比較例3の電解質シートを製造する際、ジルコニア焼結粉末を準備する工程で、体積基準の累積粒度分布において、粒径D99が6μm以上であるものの、粒径D50が3μmよりも大きいジルコニア焼結粉末を得ていた。この場合、比較例3の電解質シートでは、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布において、粒径D90と粒径D10との差が2.5μm未満となり、強度が低かった。
【0163】
表1に示すように、比較例4の電解質シートを製造する際、セラミックスラリーを調製する工程で、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末との合計重量に対するジルコニア焼結粉末の重量割合を50重量%よりも大きくしていた。この場合、比較例4の電解質シートでは、セラミックグレインの個数基準の累積粒度分布において、粒径D90と粒径D10との差が2.5μm未満となり、強度が低かった。
【符号の説明】
【0164】
1g セラミックグリーンシート
1s 未焼結板状体
1t セラミックグリーンテープ
10、130 固体酸化物形燃料電池用電解質シート(電解質シート)
10p セラミック板状体
100 固体酸化物形燃料電池用単セル(単セル)
110 燃料極
120 空気極
X キャスティング方向
Y キャスティング方向に直交する方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10