(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】センサ処理装置
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20240110BHJP
G01H 11/08 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01B7/16 R
G01H11/08 Z
(21)【出願番号】P 2023529622
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022016232
(87)【国際公開番号】W WO2022264641
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2021100589
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 健一
(72)【発明者】
【氏名】冨永 亨
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-006831(JP,A)
【文献】特開2019-087886(JP,A)
【文献】特開昭63-029203(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021981(WO,A1)
【文献】実開昭57-144023(JP,U)
【文献】特開2007-170942(JP,A)
【文献】特開2002-022560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/16
G01H 11/08
G01D 5/14
G01L 1/16
G01N 29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体と、
前記圧電体の第1主面に配置された電気抵抗体と、
前記圧電体の第2主面に配置された振動検知電極と、
第1入力端子および分圧点を有する抵抗分圧回路と、
第2入力端子を有する帰還処理回路と、
を備え
るセンサと、
前記抵抗分圧回路の出力に基づいて前記帰還処理回路の出力を調整する処理部と、
を備え、
前記電気抵抗体は、前記分圧点および前記第1入力端子に接続され、
前記振動検知電極は、前記第2入力端子に接続され、
前記圧電体は、単一の部材で構成さ
れ、
前記処理部は、
前記抵抗分圧回路の出力に基づいてひずみ量を検出し、
前記帰還処理回路の出力に基づいて脈動を検出し、
前記抵抗分圧回路で検出される前記ひずみ量が一定の値を超える場合、前記帰還処理回路で検出される脈動を無効にする、
センサ
処理装置。
【請求項2】
前記帰還処理回路はボルテージフォロワを含む、
請求項1に記載のセンサ
処理装置。
【請求項3】
前記帰還処理回路は非反転増幅回路を含む、
請求項1に記載のセンサ
処理装置。
【請求項4】
前記電気抵抗体は、前記非反転増幅回路のリファレンス入力端子に接続される、
請求項3に記載のセンサ
処理装置。
【請求項5】
前記抵抗分圧回路はブリッジ回路である、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のセンサ
処理装置。
【請求項6】
前記ブリッジ回路に接続される差動増幅回路をさらに備える、
請求項5に記載のセンサ
処理装置。
【請求項7】
第3主面および第4主面を有し、前記第3主面が前記第2主面に対向して配置される絶縁体と、
前記絶縁体の前記第4主面に配置されるシールド電極と、を備えた、
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のセンサ
処理装置。
【請求項8】
前記圧電体は、ポリ乳酸からなる、
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のセンサ
処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、静的ひずみおよび微小振動を検出するセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のセンサは、高分子圧電体表面に電気抵抗体を形成している。特許文献1のセンサは、高分子圧電体で弾性波(微小振動)を計測する。また、特許文献1のセンサは、電気抵抗体の抵抗変化で静的ひずみを計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のセンサは、電気抵抗体の抵抗と圧電体の容量による時定数の変化によって静的ひずみを計測する。したがって、特許文献1のセンサは、充電用のパルス波形とタイマーが必要となり、複雑な回路が必要になる。
【0005】
そこで、本発明の一実施形態は、より簡単な構成で静的ひずみおよび微小振動の両方を検出するセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係るセンサは、圧電体と、前記圧電体の第1主面に配置された電気抵抗体と、前記圧電体の第2主面に配置された振動検知電極と、第1入力端子および分圧点を有する抵抗分圧回路と、第2入力端子を有する帰還処理回路と、を備える。そして、前記電気抵抗体は、前記分圧点および前記第1入力端子に接続され、前記振動検知電極は、前記第2入力端子に接続される。
【0007】
圧電体にひずみが生じると電気抵抗体の抵抗が変化する。電気抵抗体の抵抗が変化すると抵抗分圧回路の出力電圧が変化する。したがって、センサは、静的ひずみを検出することができる。また、センサは、圧電体に振動が生じると発生した電荷を入力インピーダンスの大きい帰還処理回路により電圧に変換することで、微少な振動であっても高レベルで検出することができる。
【発明の効果】
【0008】
この発明の一実施形態によれば、簡単な構成で静的ひずみおよび微小振動の両方を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】抵抗分圧回路90の構成を示す回路図である。
【
図3】帰還処理回路91の構成を示す回路図である。
【
図4】
図4(A)は、帰還処理回路91の出力電圧Voutを示す図であり、
図4(B)は、抵抗分圧回路90の出力電圧eを示す図である。
【
図5】変形例に係る帰還処理回路91Bの構成を示す回路図である。
【
図6】変形例に係る抵抗分圧回路90Aの構成を示す回路図である。
【
図7】センサ1およびマイコン95からなるセンサ処理装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明のセンサについて説明する。
図1は、センサ1の側面断面図である。センサは、例えば人の皮膚に貼り付けて、微少振動である脈動および静的ひずみを検出する。センサ1は、人の皮膚などの検出対象物2に粘着剤5で貼り付けられる。
【0011】
センサ1は、圧電体40と、該圧電体40の第1主面401に配置された電気抵抗体30と、該圧電体40の第2主面402に配置された振動検知電極50と、を備える。さらに、センサ1は、圧電体40の第2主面402に対向して配置された絶縁体60と、シールド電極70と、を有する。絶縁体60は、第3主面601および第4主面602を有し、第3主面601が圧電体40の第2主面402に対向して配置される。また、シールド電極70は、絶縁体60の第4主面602に配置される。ただし、絶縁体60およびシールド電極70は本発明において必須の構成ではない。
【0012】
圧電体40は、例えばセラミックスあるいはポリマー系の圧電材料からなる。ポリマー圧電材料は、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)あるいは一軸延伸されたポリ乳酸等を含む。一軸延伸されたポリ乳酸の圧電定数は、高分子中で非常に高い部類に属する。すなわち、微少振動および静的ひずみを高感度に検出することができる。また、ポリ乳酸は、焦電性がないため、人の皮膚などに熱が伝わる場合であっても、発生する電荷量が変化することがない。したがって、ポリ乳酸は、人の皮膚などに貼り付けるセンサとして好適である。さらに、ポリ乳酸の圧電定数は経時的に変動することがなく、極めて安定している。
【0013】
絶縁体60は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)あるいはポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等からなる。
【0014】
電気抵抗体30、振動検知電極50、およびシールド電極70は、銅ニッケル合金あるいはニッケルクロム合金等の金属薄膜からなる。
【0015】
振動検知電極50は、圧電体40の第2主面402の略全面を覆うベタ電極である。シールド電極70は、平面視すると振動検知電極50の面積と略同一のベタ電極であり、絶縁体60を介して、振動検知電極50の略全面を覆う。電気抵抗体30は、例えば平面視してミアンダ状にパターニングされている。
【0016】
電気抵抗体30は、配線を介して抵抗分圧回路90に接続される。配線の一方は、接続点P1を介して抵抗分圧回路90に接続され、他方は接続点P2を介して抵抗分圧回路90に接続される。また、シールド電極70は、接続点P2に接続される。また、振動検知電極50は、配線および接続点P3を介して帰還処理回路91に接続される。帰還処理回路91は、接続点P2を介してシールド電極70および電気抵抗体30に接続される。
【0017】
図2は、抵抗分圧回路90の構成を示す回路図である。
図3は、帰還処理回路91の構成を示す回路図である。
【0018】
図2に示す抵抗分圧回路90は、抵抗R1、抵抗R2、および抵抗R3を有する。接続点P1は、抵抗分圧回路90の入力点(第1入力端子)に対応する。接続点P2は、抵抗分圧回路90の分圧点(抵抗R3および電気抵抗体30による分圧点)に対応する。抵抗R1、抵抗R2、抵抗R3、および電気抵抗体30は、ブリッジ回路を構成する。
【0019】
第1入力端子である接続点P1には、電源電圧(ブリッジ電圧)Eが印加される。すると、抵抗分圧回路90は、分圧点である接続点P2と、抵抗R1および抵抗R2の分圧点(接続点)P4と、の電位差である出力電圧eを出力する。
【0020】
ここで、検出対象物2が変形して圧電体40がひずむと、ミアンダ状にパターニングされた電気抵抗体30の形状が変化するため、電気抵抗体30の抵抗値が変化する。電気抵抗体30の抵抗値が変化すると出力電圧eも変化する。例えば、抵抗R1、抵抗R2、抵抗R3および電気抵抗体30の抵抗値が全てRであり、電気抵抗体30の抵抗値の変化がΔRである場合、出力電圧eは、e=(1/4)・(ΔR/R)・Eで表される。
【0021】
これにより、センサ1は、出力電圧eを測定(計測)することで、電気抵抗体30の抵抗値の変化を測定することができる。そして、センサ1は、抵抗値の変化をゲージ率(電気抵抗体30の材料で決まる値)で除算すれば、ひずみを求めることができる。
【0022】
なお、センサ1は、接続点P2および接続点P4を差動増幅回路(不図示)に接続して、電位差を増幅することにより、微少な出力電圧eをより高精度に測定することもできる。
【0023】
次に、
図3に示す帰還処理回路91は、オペアンプOPを備える。オペアンプOPには、並列接続される圧電体40、抵抗R4およびコンデンサCからなる回路が接続される。オペアンプOPは、出力が反転入力端子に接続されたボルテージフォロワを構成する。抵抗R4の抵抗値およびコンデンサCの容量は、例えば数100msec程度の微少振動により生じる圧電体40の出力電圧を検出するための時定数に調整される。
【0024】
接続点P2は、上述の様にシールド電極70および電気抵抗体30に接続され、基準電位になる。電気抵抗体30を基準電位とすれば、シールド電極70と電気的に接続されていることで、電気抵抗体30もシールド電極として機能する。すなわち、振動検知電極50は、基準電位のシールド電極70および電気抵抗体30により両主面が覆われるため、ノイズを低減することができる。特に、検出対象物2に近い電気抵抗体30を基準電位とすれば、検出対象物2からのノイズを防止することができ、微少な信号をより高精度に検出することができる。
【0025】
本発明の第2入力端子に対応する接続点P3は、振動検知電極50に接続される。圧電体40に振動が生じるとオペアンプの非反転入力に微少な信号が入力される。オペアンプOPにより構成されるボルテージフォロワは非常に高い入力インピーダンスを有するため、この様な微少な入力信号を減衰することなく出力電圧Voutを出力することができる。したがって、センサ1は、圧電体40に生じる微少振動を検出することができる。
【0026】
なお、仮に出力電圧Voutにハムノイズ等が重畳される場合には、例えばアナログフィルタ回路を接続して該ノイズを低減してもよいし、デジタル信号処理によりノイズ低減処理を行ってもよい。
【0027】
図4(A)は、帰還処理回路91の出力電圧Voutを示す図であり、
図4(B)は、抵抗分圧回路90の出力電圧eを示す図である。
図4(A)に示す様に、帰還処理回路91の出力電圧Voutは、微小振動が生じていない状態では1V程度の安定した電圧値を示すのに対して、微小振動が生じた場合には、1±0.1V以上の電圧変動を示す。また、
図4(B)に示す様に、抵抗分圧回路90の出力電圧eは、ひずみが生じていない場合には0.5V程度の電圧値を示すのに対して、ひずみが生じた場合には0.7V程度の電圧値を示す。
【0028】
したがって、センサ1は、充電用のパルス波形やタイマー等の複雑な回路を用いずに、圧電体、電気抵抗体、振動検知電極、抵抗分圧回路(抵抗回路)、および帰還処理回路(オペアンプ)からなる簡易な回路構成だけで、微小振動および静的ひずみの両方を検出することができる。
【0029】
次に、
図5は、変形例に係る帰還処理回路91Bの構成を示す回路図である。
図3と共通する構成は同一の符号を付し、説明を省略する。帰還処理回路91Bは、非反転増幅回路である。
【0030】
接続点P2は、抵抗R5を介してオペアンプOPの反転入力端子(リファレンス入力端子)に接続される。つまり、シールド電極70および電気抵抗体30は、非反転増幅回路のリファレンス入力端子に接続される。また、オペアンプOPの出力は抵抗R6を介してリファレンス入力端子に接続される。
【0031】
出力電圧Voutは、接続点P3の電圧に対して、抵抗R5および抵抗R6の抵抗値の比で決まる増幅率に応じて増幅される。すなわち、出力電圧Voutは、接続点P3の電圧の(1+R6/R5)倍になる。
【0032】
この様な非反転増幅回路である帰還処理回路91Bにおいても、微少な入力信号を減衰することなく出力電圧Voutを出力することができる。かつ、帰還処理回路91Bは、入力電圧を増幅するため、抵抗R5および抵抗R6の抵抗値を適切に設定すれば、さらに微少な振動に対する入力信号であっても適切に検出することができる。
【0033】
図6は、変形例に係る抵抗分圧回路90Aの構成を示す回路図である。
図2と共通する構成は同一の符号を付し、説明を省略する。抵抗分圧回路90Aは、抵抗R7を有する。接続点P1は、抵抗分圧回路90Aの入力点(第1入力端子)に対応する。接続点P2は、抵抗分圧回路90Aの分圧点(抵抗R7および電気抵抗体30による分圧点)に対応する。
【0034】
第1入力端子である接続点P1には、電源電圧Eが印加される。すると、抵抗分圧回路90Aは、分圧点である接続点P2の電圧を出力電圧eとして出力する。ここで、検出対象物2が変形して圧電体40がひずみ、電気抵抗体30にひずみが生じると、電気抵抗体30の抵抗値が変化する。電気抵抗体30の抵抗値が変化すると出力電圧eも変化する。例えば、抵抗R7の抵抗値がRであり、電気抵抗体30の抵抗値の変化がΔRである場合、出力電圧eは、e=E/{2+(ΔR/R)}で表される。
【0035】
これにより、
図6に示す抵抗分圧回路90Aにおいても、センサ1は、出力電圧eを測定すれば、電気抵抗体30の抵抗値の変化を測定することができる。そして、センサ1は、抵抗値の変化をゲージ率(電気抵抗体30の材料で決まる値)で除算すれば、ひずみを求めることができる。
【0036】
この様に、センサ1は、より簡易な構成であっても静的ひずみを検出することができる。ただし、ひずみが小さく、電気抵抗体30の抵抗値の変化が微少な場合には、抵抗分圧回路は、より感度の高い
図2に示したブリッジ回路を用いることが好ましい。
【0037】
次に、
図7は、センサ1およびマイコン95からなるセンサ処理装置の構成を示すブロック図である。マイコン95には、センサ1の抵抗分圧回路90の出力900と、帰還処理回路91の出力911とが接続される。
【0038】
マイコン95は、演算処理を行う処理部に対応し、抵抗分圧回路90の出力に基づいて帰還処理回路91の出力の演算処理を行う。また、マイコン95は、帰還処理回路91の出力に基づいて抵抗分圧回路90の出力の演算処理を行う。例えば、上述の様にセンサ1を人の皮膚に貼り付けて脈拍を検知する場合、皮膚の大きなひずみを抵抗分圧回路90で検出し、脈動を帰還処理回路91で検知する。そして、マイコン95は、抵抗分圧回路90で検出されるひずみ量が一定の値を超える場合、正確な脈動が取得できないと判断して、帰還処理回路91で検出した脈動を無効にする。これにより、センサ処理回路は、脈拍を正確に検出することができる。また、例えばセンサ1を柔らかいロボットハンドに貼り、把持力の調整に使用する場合、該ロボットハンドの変形および変形量を抵抗分圧回路90で検出することができる。マイコン95は、例えば変形量に基づいて把持力を調整することができる。また、帰還処理回路91は、把持物の重力による滑りを検出することができる。マイコン95は、帰還処理回路91で検出した滑りが一定の値を超える場合、把持物の落下の危険性があると判定し、抵抗分圧回路90の出力をオフセットさせる。オフセット分の変形量を補完することによって、ロボットハンドの把持力を増加させる。これにより、落下の危険性を抑えたロボットハンドを実現することができる。
【0039】
本実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0040】
例えば、上記実施形態では検出対象物2として皮膚を示し、人の脈動およびひずみを検出する例を示した。しかし、例えば検出対象物2は、ロボットアームであってもよい。この場合、センサ1は、機械的な微少振動と大きなひずみ検出することができる。
【符号の説明】
【0041】
1…センサ
2…検出対象物
5…粘着剤
30…電気抵抗体
40…圧電体
50…振動検知電極
60…絶縁体
70…シールド電極
90…抵抗分圧回路
90A…抵抗分圧回路
91…帰還処理回路
91B…帰還処理回路
95…マイコン