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  • 特許-自己推進式塗装機および塗装方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】自己推進式塗装機および塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05B 17/00 20060101AFI20240110BHJP
   B64D 1/18 20060101ALI20240110BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20240110BHJP
   B64C 27/08 20230101ALI20240110BHJP
   B64C 25/32 20060101ALI20240110BHJP
   B64F 3/00 20060101ALI20240110BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20240110BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B05B17/00
B64D1/18
B64C39/02
B64C27/08
B64C25/32
B64F3/00
B05D1/02 A
B05D3/00 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019163566
(22)【出願日】2019-09-09
(65)【公開番号】P2021041317
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000203977
【氏名又は名称】日鉄テックスエンジ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517011065
【氏名又は名称】株式会社アイ・ロボティクス
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】湊川 諒
(72)【発明者】
【氏名】小▲崎▼ 照卓
(72)【発明者】
【氏名】石井 和利
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 康晴
(72)【発明者】
【氏名】平佐田 崇
(72)【発明者】
【氏名】安藤 嘉康
(72)【発明者】
【氏名】野口 克也
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-136651(JP,A)
【文献】特開2019-089470(JP,A)
【文献】特開2019-084934(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0043386(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 17/00-17/08
B05D 1/00-7/26
B64D 1/18
B64C 25/32
27/08
39/02
B64F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気推力装置と、
前記空気推力装置の動作領域の外側に吹付口を形成する吹付ノズルと、
0.1MPa以上1MPa以下の圧力で前記吹付ノズルに塗液を供給する供給手段と、
前記吹付口よりも先まで延びて前記吹付ノズルが前記塗液を吹き付ける作業面に接触し、前記吹付口と前記作業面との間の距離を維持するように配置される接触フレームと
を備える自己推進式塗装機。
【請求項2】
前記作業面に接触する車輪をさらに備え、
前記接触フレームは、前記車輪を介して前記作業面に接触する、請求項1に記載の自己推進式塗装機。
【請求項3】
前記車輪は、弾性部材で形成される、請求項2に記載の自己推進式塗装機。
【請求項4】
前記接触フレームと前記車輪の間に介在する弾性部材をさらに備える、請求項2または請求項3に記載の自己推進式塗装機。
【請求項5】
前記吹付口の近傍からエアカーテンを発生させる機構をさらに備える、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の自己推進式塗装機。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の自己推進式塗装機を用いた塗装方法であって、
前記空気推力装置が発生させる推力によって前記自己推進式塗装機を前記作業面の近傍まで移動させる工程と、
前記接触フレームが前記作業面に接触することによって前記吹付口を前記作業面から所定の距離に維持する工程と、
前記供給手段が前記吹付ノズルに前記塗液を供給する工程と、
前記空気推力装置が発生させる推力によって前記自己推進式塗装機を前記作業面に沿って移動させる工程と
を含む塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己推進式塗装機および塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場建屋などの大型構造物において壁や屋根などを再塗装する場合、塗膜生成の工程が実施される。塗膜生成では、例えば塗液を吹き付けることによって、塗装面に塗膜を生成する。通常の場合、塗膜生成の工程は足場に乗った作業員の手で実施されるが、特に塗装面が高所にある場合には足場の組立および解体の作業量が膨大になり、塗装そのものの作業量を上回ることも多かった。
【0003】
この点に関し、特許文献1および特許文献2には、回転翼を有する飛翔機を用いて塗装を行うことができることが記載されている。飛翔機を用いて塗装を行うことによって、作業員が乗るための足場が必要なくなれば、足場の組立および解体にかかる膨大な作業量を削減できる。しかしながら、これらの文献には、例えば上述したような塗膜生成のような塗装の具体的な工程については言及がなく、従ってこれらの文献の記載から飛翔機を用いて足場を不要とした塗装工程を実現することは現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-171032号公報
【文献】特開2017-39334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、飛翔機を含む自己推進機を用いて塗装を行う場合の実際的な問題として、吹き付けられる塗液の周囲への飛散を防止する必要がある。飛散防止の観点からは塗液を吹き付ける際の圧力が低い方が望ましいが、その場合、プロペラが発生させる気流が塗液の噴射流に影響を与え、塗装面に生成される塗膜が乱れる場合がある。このように、塗液の飛散防止と塗膜の品質とを両立させることは容易ではないが、上記の特許文献1および特許文献2ではこの点に関して言及されていない。
【0006】
そこで、本発明は、空気推力装置を用いることによって塗装機を任意の作業位置に容易に移動させ、かつ吹き付けられる塗液の飛散防止と塗膜の品質とを両立させることが可能な自己推進式塗装機および塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある観点によれば、自己推進式塗装機は、空気推力装置と、空気推力装置の動作領域の外側に吹付口を形成する吹付ノズルと、1MPa以下の圧力で吹付ノズルに塗液を供給する供給手段と、吹付口よりも先まで延びて吹付ノズルが塗液を吹き付ける作業面に接触する接触フレームとを備える。
上記の構成によれば、塗液を1MPa以下の低い圧力で吹付ノズルに供給することによって塗液の飛散を防止しつつ、吹付口を空気推力装置の外側に形成することによって気流が塗液の噴射流に与える影響を軽減し、さらに接触フレームを用いて作業面と吹付口との間の距離を維持することによって塗膜の品質を向上させることができる。
【0008】
上記の自己推進式塗装機は、作業面に接触する車輪をさらに備え、接触フレームは、車輪を介して作業面に接触してもよい。
作業面に接触する車輪を設けることによって、作業面と吹付口との間の距離を維持しながら自己推進式塗装機を作業面に沿って移動させることが容易になる。
【0009】
上記の場合において、車輪は、弾性部材で形成されてもよい。あるいは、自己推進式塗装機が、接触フレームと車輪の間に介在する弾性部材をさらに備えてもよい。
車輪を弾性部材で形成したり、接触フレームと車輪との間に弾性部材を介在させたりすることによって、例えば自己推進式塗装機に揺れが生じた場合に作業面から受ける衝撃を吸収することができる。
【0010】
上記の自己推進式塗装機を用いた塗装方法は、空気推力装置が発生させる推力によって自己推進式塗装機を作業面の近傍まで移動させる工程と、接触フレームが作業面に接触することによって吹付口を作業面から所定の距離に維持する工程と、供給手段が吹付ノズルに塗液を供給する工程と、空気推力装置が発生させる推力によって自己推進式塗装機を作業面に沿って移動させる工程とを含む。
自己推進式塗装機が空気推力装置の発生させる推力で飛行して作業面の近傍まで移動できることによって、作業面が高所にある場合であっても足場が不要になる。自己推進式塗装機が作業面に沿って飛行して移動できることによって、作業面上の障害物や凹凸についても対応することが容易になる。
【発明の効果】
【0011】
以上で説明したように、本発明によれば、空気推力装置を用いることによって塗装機を任意の作業位置に容易に移動させ、かつ吹き付けられる塗液の飛散防止と塗膜の品質とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る自己推進式塗装機を含む塗装システムの構成を示す図である。
図2図1に示した自己推進式塗装機の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
図1に示されるように、塗装システム1は、自己推進式塗装機10と、固定配置ユニット20とを含む。自己推進式塗装機10は、空気推力装置の例であるプロペラ11と、作業面Wに向けられる吹付口121を形成する吹付ノズル12と、吹付ノズル12に塗料を含む塗液を供給する供給手段の例である供給配管13と、作業面Wに接触する接触フレーム14とを備える。図2に示されるように、自己推進式塗装機10のプロペラ11(プロペラ11A~11D)は、マルチローターを構成し、自己推進式塗装機10を上昇、下降、前進、後進、および旋回させるための推力を発生させる。ここで、図示されているように、本実施形態において、吹付ノズル12が形成する吹付口121は、プロペラ11の動作領域Rの外側に位置する。これによって、プロペラ11が発生させる気流が塗液の噴射流に与える影響を軽減することができる。
【0015】
吹付ノズル12には、固定配置ユニット20に含まれる塗液タンク21から圧送ポンプ22を用いて送出された塗液が、固定配置ユニット20と自己推進式塗装機10との間を連絡する連絡管23および供給配管13を介して供給される。ここで、供給配管13は、1MPa以下の圧力で吹付ノズル12に塗液を供給する。自己推進式塗装機を用いない一般的な壁面の吹付塗装の場合において塗液が供給される圧力は200MPa程度であるため、本実施形態において塗液が供給される圧力は一般的な場合と比べて低圧である。このような低圧で吹付ノズル12に塗液を供給することによって、塗液の飛散を防止することができる。塗液が低圧で供給されることによって、例えば吹付ノズル12の吹付口121の近傍からエアカーテンを発生させることによって塗液の飛散を防止する機構(図示せず)を効果的に利用することもできる。吹付ノズル12に塗液が供給される圧力の下限は特に限定されないが、プロペラ11が発生させる気流の影響を回避するために例えば0.1MPa以上としてもよい。
【0016】
接触フレーム14は、吹付ノズル12の吹付口121よりも先まで延びて作業面Wに接触することによって、図2に示す吹付口121と作業面Wとの間の距離dを維持する。上述のように、本実施形態では吹付ノズル12に低圧で塗液が供給されるが、この場合、塗液の吹付によって作業面Wに形成される塗膜の品質が、距離dに大きく影響される。つまり、距離dの変動が大きいと、塗膜の品質を安定させることが難しい。本実施形態では、接触フレーム14を用いて距離dを維持することによって、塗膜の品質を安定的に向上させることができる。
【0017】
さらに、図示された例において、自己推進式塗装機10は、接触フレーム14の先端に取り付けられて作業面Wに接触する車輪15と、接触フレーム14と車輪15との間に介在する弾性部材16とを備える。この場合、接触フレーム14は車輪15を介して作業面Wに接触する。例えば、車輪15の回転軸は、自己推進式塗装機10が作業面Wに沿って上下方向に移動するときに回転するように配向される。これによって、例えば、接触フレーム14を用いて距離dを維持しながら、自己推進式塗装機10を作業面Wに沿って上昇させることが容易になる。
【0018】
また、接触フレーム14と車輪15との間に弾性部材16が介在することによって、例えば車輪15を最初に作業面Wに接触させるときや、自己推進式塗装機10に揺れが生じたときに作業面Wから受ける衝撃を吸収することができる。弾性部材16を配置するとともに、または弾性部材16を配置する代わりに、車輪15を弾性部材で形成しても同様の効果が得られる。
【0019】
上記のような自己推進式塗装機10を用いた塗装方法は、プロペラ11が発生させる推力によって自己推進式塗装機10を作業面Wの近傍、具体的には作業面Wから所定の距離だけ離隔した位置まで移動させる工程と、接触フレーム14が作業面Wに接触することによって吹付口121を作業面Wから所定の距離dに維持する工程と、供給配管13が吹付ノズル12に塗液を供給する工程と、プロペラ11が発生させる推力によって自己推進式塗装機10を作業面Wに沿って移動させる工程とを含む。これらの工程によって、作業面Wが高所にある場合であっても足場を用いることなく、また作業面W上の障害物や凹凸にも対応しながら、作業面Wの所定の領域に塗膜を形成することができる。
【実施例
【0020】
続いて、本発明の実施例について説明する。本実施例では、上記で説明した自己推進式塗装機10を、プロペラ11が発生させる推力によって鋼板で形成された壁面である作業面Wの近傍まで移動させた上で、接触フレーム14を作業面Wに接触させて、吹付口121を作業面Wから20cmの位置に維持した。その状態で、供給配管13から吹付ノズル12に0.6MPa~1.4MPaの圧力で塗液を供給した。吹付ノズル12から作業面Wに塗液を吹き付けながら、プロペラ11が発生させる推力によって自己推進式塗装機10を0.4m/sの速度で作業面Wの所定の領域に沿って上方に移動させる工程を2回繰り返した。結果を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
ケース1~ケース3では、0.6MPa~1.0MPaの圧力で吹付ノズル12に塗液を供給することによって、塗液の塗着効率が80%以上になり、膜厚90μmの塗膜を良好な品質で形成することができた。一方、ケース4およびケース5では、1.0MPaを超える圧力で吹付ノズル12に塗液を供給したところ、塗着効率が80%未満になり、塗膜の膜厚が不足して良好な品質が得られなかった。
【0023】
この結果から、自己推進式塗装機10が接触フレーム14を作業面Wに接触させて、吹付口121の作業面Wからの距離を維持して塗液を吹き付けることができる場合には、塗液の飛散が防止できる1MPa以下の圧力で吹付ノズル12に塗液を供給することで塗膜の品質も向上することがわかった。
【0024】
なお、上記の実施例では鋼板で形成された作業面Wの塗装処理に自己推進式塗装機10を用いたが、自己推進式塗装機10はコンクリート面など各種の材質の作業面Wにおいて利用することが可能である。作業面Wは必ずしも壁面でなくてよく、屋根面や天井面などであってもよい。
【0025】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0026】
1…塗装システム、10…自己推進式塗装機、11…プロペラ、12…吹付ノズル、121…吹付口、13…供給配管、14…接触フレーム、15…車輪、16…弾性部材、20…固定配置ユニット、21…塗液タンク、22…圧送ポンプ、23…連絡管、R…動作領域、W…作業面、d…距離。
図1
図2