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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】生体モデル
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/28 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
G09B23/28
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019192696
(22)【出願日】2019-10-23
(65)【公開番号】P2021067794
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳史
(72)【発明者】
【氏名】二見 聡一
【審査官】遠藤 孝徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-189909(JP,A)
【文献】特開2013-25032(JP,A)
【文献】特許第5745155(JP,B1)
【文献】特開2010-178809(JP,A)
【文献】特開2016-157121(JP,A)
【文献】特許第6055069(JP,B1)
【文献】国際公開第2011/040200(WO,A1)
【文献】特開2018-189761(JP,A)
【文献】特許第4841663(JP,B2)
【文献】特許第4675414(JP,B2)
【文献】特開2017-146412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/00 - 23/40
A61B 17/00 - 17/94
A61F 2/00 - 2/80
A61M 25/00 - 25/18
A61M 29/00 - 29/04
B29C 67/00 - 67/06
B33Y 10/00 - 99/00
C08J 3/00 - 3/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体モデルであって、
部分的に化学架橋されたポリビニルアルコールのゲルを含み、生体の所定の部分を模した柱状体を備え、
前記柱状体は、外側部と、前記外側部の内側に位置する内側部と、を有し、
前記外側部を形成する前記ポリビニルアルコールの化学架橋の程度は、前記内側部を形成する前記ポリビニルアルコールの化学架橋の程度より高く、
前記柱状体は、前記柱状体の長手方向における、一方側の第1の端部と、他方側の第2の端部とを有し、
前記第1の端部と前記第2の端部とを形成する前記ポリビニルアルコールの化学架橋の程度は、前記外側部を形成する前記ポリビニルアルコールの化学架橋の程度より低い、
生体モデル。
【請求項2】
生体モデルであって、
部分的に化学架橋されたポリビニルアルコールのゲルを含み、生体の所定の部分を模した柱状体を備え、
前記柱状体は、外側部と、前記外側部の内側に位置する内側部と、を有し、
前記外側部を形成する前記ポリビニルアルコールの化学架橋の程度は、前記内側部を形成する前記ポリビニルアルコールの化学架橋の程度より高く、
前記柱状体は、前記柱状体の長手方向における、一方側の第1の端部と、他方側の第2の端部とを有し、
前記第1の端部と前記第2の端部とを形成する前記ポリビニルアルコールの化学架橋の程度は、前記内側部を形成する前記ポリビニルアルコールの化学架橋の程度より高く、かつ、前記外側部を形成する前記ポリビニルアルコールの化学架橋の程度と同等である、
生体モデル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の生体モデルにおいて、
前記柱状体は、中実体である、
生体モデル。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の生体モデルにおいて、
前記内側部の硬度は、1gf/cm以上、30gf/cm以下である、
生体モデル。
【請求項5】
請求項2に記載の生体モデルにおいて、
中空部を有する管状の模擬血管と、
前記柱状体により形成され、かつ、前記模擬血管の前記中空部に位置する模擬病変部と、を備える、
生体モデル。
【請求項6】
請求項5に記載の生体モデルにおいて、
前記模擬血管は、ヒドロキシル基を有する高分子材料のゲルである、
生体モデル。
【請求項7】
請求項6に記載の生体モデルにおいて、
前記ヒドロキシル基を有する高分子材料は、ポリビニルアルコールである、
生体モデル。
【請求項8】
請求項5から請求項7までのいずれか一項に記載の生体モデルにおいて、
前記模擬病変部は、前記模擬血管の長手方向における一部に位置している、
生体モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、生体モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
血管における狭窄部や閉塞部(以下、「病変部」という)における血流を回復させるために、経皮的血管形成術(以下、「PTA」という)や、経皮的冠動脈形成術(以下、「PTCA」という)が広く行われている。病変部は、個人差や形成期間によって、血管の様々な位置に、様々な状態(形状や硬さ)で形成される。このため、PTAやPTCA(以下、「PTA等」という)では、病変部の位置や状態に応じて、血栓吸引法やバルーン拡張法等の種々の手技が採用されている。
【0003】
血栓吸引法による手技は、例えば、以下の手順により行われる。すなわち、ガイドワイヤを血管内に挿入し、ガイドワイヤが血管内の病変部を通過するまでガイドワイヤを押し進める。次に、ガイドワイヤをレールにして、血栓吸引カテーテルを病変部付近まで進める。その後、血栓吸引カテーテルで病変部を吸引して体外に除去する。また、バルーン拡張法による手技は、例えば、以下の手順により行われる。すなわち、上記血管内に挿入され、病変部を通過するまで押し進めたガイドワイヤをレールにして、バルーンカテーテルを病変部まで進める。その後、バルーンカテーテルのバルーンを拡張させることにより、病変部の血管壁を内側から押し広げる。これらの手技により、血液の通路が確保され、血流が回復する。
【0004】
PTA等による手技では、手技者に繊細な操作が求められる上に、血管における病変部の位置や状態は患者毎に種々異なるため、PTA等の手技を習得することは容易ではない。そのため、PTA等の手技を向上させるためのトレーニング用として、血管を模した模擬血管と病変部を模した模擬病変部とを備える血管病変モデルが種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、血管モデル等の臓器モデルの形成材料として、ポリビニルアルコールを用いる技術が種々提案されている(例えば、特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-132622号公報
【文献】特開2016-38563号公報
【文献】特開2010-156894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、実際の病変部の状態は種々多様である。例えば、アテローム血栓症のような病変部は、血管壁に強固に固着している。このため、例えば、当該病変部を血栓吸引法により吸引する際に、血管壁から病変部を吸い剥がすことが困難な場合がある。しかしながら、例えば、模擬血管と模擬病変部とが別体に形成された従来の病変モデルでは、模擬血管の血管壁から模擬病変部を比較的容易に吸い剥がすことができるため、実際の病変部に十分に近似しているとは言えない。このように、PTA等の手技を十分に向上させるために、実際の病変部に十分に近似した模擬病変部を備える血管病変モデルを提供することが望まれている。
【0008】
なお、模擬病変部が実際の病変部に十分に近似しているとは言えないという課題は、PTA等の手技を向上させるためのトレーニングに用いられる血管病変モデルに限らず、血管を模した模擬血管と病変部を模した模擬病変部とを備える血管病変モデルや、血管以外に形成された病変部を模した模擬病変部を備える生体モデル一般に共通の課題である。
【0009】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0011】
(1)本明細書に開示される生体モデルは、生体モデルであって、部分的に化学架橋されたポリビニルアルコールのゲルを含む柱状体を備え、前記柱状体は、外側部と、前記外側部の内側に位置する内側部と、を有し、前記外側部を形成する前記ポリビニルアルコールの化学架橋の程度は、前記内側部を形成する前記ポリビニルアルコールの化学架橋の程度より高い。本生体モデルによれば、実際の生体のうち、内側部と比較して硬度の高い外側部を有し、かつ、内側部が外側部から離脱しにくい性質を有する生体に、より近似した生体モデルを提供することができる。例えば、血管と、血管内に形成されたアテローム血栓症のように血管壁に強固に固着した病変部とを備える生体に、より近似した血管病変モデルや、内側部と比較して硬度の高い外側部を有する病変部を備える生体に、より近似した病変モデルを提供することができる。
【0012】
(2)上記生体モデルにおいて、前記柱状体は、中実体である構成としてもよい。本生体モデルによれば、実際の生体のうち、中実の生体により近似した生体モデルを提供することができる。例えば、血管と、血管内を閉塞するように形成された病変部とを備える生体に、より近似した血管病変モデルや、中実の病変部を備える生体に、より近似した病変モデルを提供することができる。
【0013】
(3)上記生体モデルにおいて、前記柱状体は、前記柱状体の長手方向における、一方側の第1の端部と、他方側の第2の端部とを有し、前記第1の端部と前記第2の端部とを形成する前記ポリビニルアルコールの化学架橋の程度は、前記内側部を形成する前記ポリビニルアルコールの化学架橋の程度より高い構成としてもよい。本生体モデルによれば、実際の生体のうち、内側部と比較して硬度の高い端部を有する生体に、より近似した生体モデルを提供することができる。例えば、血管と、硬化した端部を有する病変部とを備える生体に、より近似した血管病変モデルや、硬化した端部を有する病変部を備える生体に、より近似した病変モデルを提供することができる。
【0014】
(4)上記生体モデルにおいて、前記柱状体は、前記柱状体の長手方向における、一方側の第1の端部と、他方側の第2の端部とを有し、前記第1の端部と前記第2の端部とを形成する前記ポリビニルアルコールの化学架橋の程度は、前記外側部を形成する前記ポリビニルアルコールの化学架橋の程度より低い構成としてもよい。本生体モデルによれば、実際の生体のうち、外側部と比較して硬度の低い端部を有する生体に、より近似した生体モデルを提供することができる。例えば、血管と、軟らかい端部を有する病変部とを備える生体に、より近似した血管病変モデルや、軟らかい端部を有する病変部を備える生体に、より近似した病変モデルを提供することができる。
【0015】
(5)上記生体モデルにおいて、中空部を有する管状の模擬血管と、前記柱状体により形成され、かつ、前記模擬血管の前記中空部に位置する模擬病変部と、を備える構成としてもよい。本生体モデルによれば、実際の生体のうち、血管と病変部とを備える生体に、より近似した血管病変モデルを提供することができる。
【0016】
(6)上記生体モデルにおいて、前記模擬血管は、ヒドロキシル基を有する高分子材料のゲルである構成としてもよい。本生体モデルによれば、模擬病変部を模擬血管に強固に接合することができ、模擬病変部が模擬血管から剥離して例えばトレーニングに支障が出ることを回避することができる。また、本生体モデルによれば、アテローム血栓症等の病変部のような、血管壁に強固に固着した病変部を模擬することができる。
【0017】
(7)上記生体モデルにおいて、前記ヒドロキシル基を有する高分子材料は、ポリビニルアルコールである構成としてもよい。本生体モデルによれば、模擬病変部を模擬血管に非常に強固に接合することができ、模擬病変部が模擬血管から剥離して例えばトレーニングに支障が出ることをより確実に回避することができる。また、本生体モデルによれば、アテローム血栓症等の病変部のような、血管壁に強固に固着した病変部をより確実に模擬することができる。
【0018】
(8)上記生体モデルにおいて、前記模擬病変部は、前記模擬血管の長手方向における一部に位置している構成としてもよい。本生体モデルによれば、実際の血管の長手方向における一部に形成された病変部を備える生体に、より近似した血管病変モデルを提供することができる。
【0019】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、生体モデル、生体モデルを備えるトレーニングキット、生体モデルを備えるシミュレータ、それらの製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態における部分血管病変モデル10の外観構成を概略的に示す説明図である。
図2】第1実施形態における部分血管病変モデル10のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
図3】第1実施形態における部分血管病変モデル10の製造方法を示すフローチャートである。
図4】第1実施形態における部分血管病変モデル10の製造方法を概念的に示す説明図である。
図5】第1実施形態における部分血管病変モデル10の使用形態を概略的に示す説明図である。
図6】第2実施形態における血管病変モデル200の構成を概略的に示す説明図である。
図7】第2実施形態における模擬病変部10aの構成を概略的に示す説明図である。
図8】第3実施形態における部分血管モデル10cの構成を概略的に示す説明図である。
図9】第3実施形態における部分血管モデル10cの構成を概略的に示す説明図である。
図10】第3実施形態の変形例における部分血管病変モデル10dの構成を概略的に示す説明図である。
図11】変形例における血管病変モデル200の構成を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.第1実施形態:
A-1.部分血管病変モデル10の構成:
図1は、第1実施形態における部分血管病変モデル10の外観構成を概略的に示す説明図であり、図2は、第1実施形態における部分血管病変モデル10のXZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、部分血管病変モデル10は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置または使用されていてもよい。図5以降についても同様である。
【0022】
部分血管病変モデル10は、実際の血管および病変部を模した装置である。部分血管病変モデル10は、単独で、他の模擬血管と組み合わせて、または、トレーニングキットやシミュレータの一部として、例えば、PTA等の手技を向上させるためのトレーニングに使用される。部分血管病変モデル10の使用方法の一例については、後で詳述する。
【0023】
図1および図2に示すように、部分血管病変モデル10は、X軸方向に延びている中実の略円柱体であり、表面S1(以下、「外側面S1」という)、表面S2(以下、「端面S2」という)および表面S3(以下、「端面S3」という)を有している。なお、各図において、外側面S1、端面S2および端面S3は、平滑であるが、凹凸を有していてもよい。部分血管病変モデル10の直径は、例えば、1mm以上、30mm以下程度であり、部分血管病変モデル10の長さは、例えば、1mm以上、100mm以下程度である。また、本実施形態において、部分血管病変モデル10は、外側部20と、外側部20の内側に位置する内側部30とを有している。内側部30の両端には、第1の端部40aおよび第2の端部40b(以下、「端部40」ともいう)が位置している。本実施形態では、外側部20は、血管を模した模擬血管であり、内側部30および端部40は、血管の内腔部分に位置する病変部を模した模擬病変部である。また、本実施形態では、病変部として、石灰化や、プラーク化、線維化の少なくとも一による病変を想定している。部分血管病変モデル10は、特許請求の範囲における生体モデルの一例である。また、X軸方向は、特許請求の範囲における長手方向の一例である。
【0024】
部分血管病変モデル10は、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」ともいう)をゲル化させたPVAゲルにより形成されている。このため、部分血管病変モデル10は、実際の血管や病変部と同様に、良好な可撓性を有している。より具体的には、部分血管病変モデル10は、PVAを物理架橋によりゲル化させた物理架橋ゲルと、PVAを化学架橋によりゲル化させた化学架橋ゲルとにより形成されている。すなわち、部分血管病変モデル10は、部分的に化学架橋されたPVAのゲルを含んでいる。ここで、本明細書において、「ゲル」とは、常温または部分血管病変モデル10の使用温度(例えば、20℃~50℃)においてゲル状であることを意味している。部分血管病変モデル10の形成材料であるPVAとしては、ポリ酢酸ビニルのケン化により得られるPVA単独重合体、酢酸ビニルとこれと共重合可能な他のモノマーとの共重合体のケン化により得られるPVA共重合体、PVAに含まれる一部のヒドロキシル基が他の置換基に置換されたPVA変性体等を挙げることができる。上記PVA共重合体に用いられる他のモノマーとしては、特に限定されず、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、t-ブチル安息香酸ビニル等の従来公知のモノマーを挙げることができる。また、上記PVA変性体に用いられる他の置換基としては、特に限定されず、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、アセトアセチル基、アミン基等を挙げることができる。上記PVAは、より好ましくは、PVA単独重合体である。形状安定性・柔軟性等において実際の血管により近い物性を示すとともに、生体への安全性を有することから、生体モデルとしての取扱いが簡便であるためである。なお、上記PVAは、1種単独で、または、2種以上を組み合わせて使用されうる。
【0025】
本実施形態において、PVAの平均重合度は、例えば、500以上、3000以下程度である。当該平均重合度が、500未満であると、得られるゲルが柔らかくなり、生体モデルとして自立した形状を維持することが困難である傾向がある。これに対し、当該平均重合度が、3000を超えると、PVAの溶媒(例えば、水)等への溶解性が低下し、均一なゲル形状への成形が困難になるため、所望の形状に成形することが困難になる傾向がある。当該平均重合度は、より好ましくは、1000以上、2000以下程度であり、さらに好ましくは、1500以上、1800以下程度である。また、PVAのケン化度は、例えば、80モル%以上程度である。当該ケン化度が、80モル%未満であると、物理架橋の強度が弱くなり、PVAゲルを成形することが困難になる傾向がある。当該ケン化度は、より好ましくは、90モル%以上であり、さらに好ましくは、98モル%以上である。
【0026】
なお、上述の「物理架橋ゲル」は、水素結合やイオン結合等の非共有結合で架橋されているゲルであり、温度変化等の外力により可逆的に架橋点が生成消滅するゲルを意味している。一方、「化学架橋ゲル」は、共有結合で架橋されているゲルであり、温度変化等の外力により架橋点が消滅することのないゲルを意味している。
【0027】
外側部20は、部分血管病変モデル10の外側面S1を含む、管状(例えば円管状)の部分であり、上述したように、実際の血管を模している。外側部20の径方向(部分血管病変モデル10の長手方向に略直交する方向)における厚みは、例えば、5μm以上、1mm以下程度である。外側部20は、主にPVAの化学架橋ゲルにより形成されている。換言すれば、外側部20を形成するPVAの化学架橋の程度は、後述する内側部30を形成するPVAの化学架橋の程度より高い。PVAゲルにおける化学架橋の程度が高いほど、PVAゲルの硬度は高くなる。すなわち、PVAゲルにおける化学架橋が進行するほど、PVAゲルの硬度は高くなる。このため、外側部20は、機械的強度に優れ、病変部と比較して硬度や弾性の高い血管を模擬することができる。なお、上述したように、外側部20は、主にPVAの化学架橋ゲルにより形成されているが、化学架橋ゲルとともに物理架橋ゲルを含んでいてもよい。本実施形態において、外側部20における化学架橋の程度は、略均一である。
【0028】
ここで、PVAゲルにおける「化学架橋の程度」は、例えば、PVAゲルの硬度、PVAゲルにおける化学架橋により形成された置換基が示すスペクトルの強度等、従来公知の方法によって表すことができる。外側部20において、上記硬度は、30gf/cm以上、15000gf/cm以下程度である。当該硬度が、30gf/cm未満であると、得られるゲルが柔らかくなり、生体モデルとして自立した形状を維持することが困難である傾向がある。これに対し、当該硬度が、15000gf/cmを超えると、得られるゲルが脆くなり、外的応力や外部刺激等によるゲルへの亀裂の発生や、ゲルの崩壊等が起こりやすくなる傾向がある。
【0029】
上記PVAゲルの硬度は、ゲルの貯蔵弾性率を指標とすることができる。ゲルの貯蔵弾性率は、例えば、動的粘弾性測定装置(日立ハイテクノロジー製「DMA7100」)を用いて測定することができる。すなわち、外側部20および内側部30のそれぞれのPVAゲルの硬度は、外側部20および内側部30のそれぞれの貯蔵弾性率を測定することにより得ることができる。具体的には次の通りである。温度:30℃、歪振幅:10μm、プローブ重量:62.2671gの測定条件下、以下の測定手順で、貯蔵弾性率を測定する。例えば、複数(例えば、3つ)の試験対象サンプルについて測定を実施し、得られた値の平均値を貯蔵弾性率とした。
(1)試験サンプルとして、所定の大きさ(高さ:10mm、幅:10mm、厚み:1.6mm)に形成された、2つのPVAゲルを準備する。
(2)ずり試験用治具の測定位置に、上記2つの試験サンプルを挟み込む形で接触させる。
(3)上記ずり試験治具を、試験装置本体(DMA7100)に設置し、25℃程度の水中に完全に浸漬させる。
(4)上記測定条件で測定を開始しつつ、ヒーターを用いて試験サンプル周辺の水を加温する。
(5)水温及び対象サンプル温度が30℃になったときの貯蔵弾性率を記録する。
【0030】
また、上記PVAゲルにおける化学架橋により形成された置換基が示すスペクトルの強度は、従来公知の方法により評価することができ、例えば、次の方法により評価することができる。例えば、化学架橋剤としてグルタルアルデヒドを使用することにより、PVAを化学架橋した場合、PVAゲル中にエステル基が形成される。核磁気共鳴分光法(NMR分光法)や赤外分光法(IR分光法)を用いて、このエステル基に特有のスペクトル(化学シフトまたはピーク)を特定し、特定されたスペクトルの強度を算出する。
【0031】
内側部30は、外側部20の径方向における内側に位置しているとともに、外側部20と一体に形成されている部分であり、上述したように、実際の病変部を模している。内側部30の直径は、例えば、1mm以上、30mm以下程度である。本実施形態において、内側部30は、外側部20のX軸方向(長手方向)に沿った所定の位置において、外側部20の内側を完全に閉塞するように形成されている。内側部30は、主にPVAの物理架橋ゲルにより形成されている。換言すれば、内側部30を形成するPVAの化学架橋の程度は、外側部20を形成するPVAの化学架橋の程度より低い。このため、内側部30は、血管と比較して硬度や弾性の低い病変部を模擬することができる。なお、上述したように、内側部30は、主にPVAの物理架橋ゲルにより形成されているが、物理架橋ゲルとともに化学架橋ゲルを含んでいてもよい。本実施形態において、内側部30における化学架橋の程度は、略均一である。
【0032】
内側部30において、上記硬度は、1gf/cm以上、30gf/cm以下程度である。当該硬度が、1gf/cm未満であると、PVAゲルの流動性が上昇し、内側部30の外側部20への固定化が困難である傾向がある。これに対し、当該硬度が、30gf/cmを超えると、PVAゲルの硬度が高すぎて、実際の病変部を模擬することが困難であり、例えば、部分血管病変モデル10を吸引モデルへ適用することが困難となる傾向がある。
【0033】
第1の端部40aおよび第2の端部40bは、部分血管病変モデル10のX軸方向視において、それぞれ、端面S2および端面S3を含む部分であり、上述したように、内側部30とともに、実際の病変部を模している。第1の端部40aおよび第2の端部40bは、ともに、内側部30と一体に形成されている。本実施形態において、端部40は、内側部30と同様の構成を有している。すなわち、端部40は、外側部20の径方向における内側に位置している。また、端部40の直径は、1mm以上、30mm以下程度である。本実施形態において、端部40は、内側部30とともに、外側部20の内側を完全に閉塞するように形成されている。本実施形態において、端部40は、主にPVAの物理架橋ゲルにより形成されている。換言すれば、端部40を形成するPVAの化学架橋の程度は、外側部20を形成するPVAの化学架橋の程度より低い。本実施形態において、端部40を形成するPVAの化学架橋の程度は、内側部30を形成するPVAの化学架橋の程度と同等である。これにより、端部40は、内側部30と一体として、実際の病変部を模擬することができる。
【0034】
上述したように、本実施形態の部分血管病変モデル10は、外側部20と、内側部30と、端部40とが、一体に形成されている。このため、模擬病変としての内側部30および端部40が、模擬血管としての外側部20から離脱しにくい。換言すれば、実際の血管および病変部と同様に、外側部20から、内側部30および端部40を吸い剥がすことが困難である。従って、本実施形態の部分血管病変モデル10は、実際の血管内に形成されたアテローム血栓症等の病変部に近似した性質を有するため、当該病変部を吸引する血栓吸引法のトレーニングに好適に使用することができる。また、本実施形態の部分血管病変モデル10は、端部40が内側部30と同様に、主に物理架橋ゲルにより形成されている。このため、部分血管病変モデル10は、比較的軟らかい(ドロドロした粥状の)病変部を吸引する血栓吸引法のトレーニングに好適に使用することができる。
【0035】
部分血管病変モデル10において、外側部20と、内側部30との境界は、例えば、次の方法により特定することができる。図2に示されたXZ断面において、部分血管病変モデル10を、X軸方向と平行な方向に10等分し、10等分された各区画における各硬度を測定する。当該測定された硬度が、所定閾値(例えば、30gf/cm)以上である1または複数の区画を外側部20と特定することができる。
【0036】
A-2.部分血管病変モデル10の製造方法:
次に、第1実施形態における部分血管病変モデル10の製造方法を説明する。図3は、本実施形態における部分血管病変モデル10の製造方法を示すフローチャートである。また、図4は、本実施形態における部分血管病変モデル10の製造方法を概念的に示す説明図である。
【0037】
はじめに、高密度物理架橋ゲルPHで形成された、中実の略円柱状の第1の前駆体10pxを準備する(S110、図4(A)参照)。高密度物理架橋ゲルPHは、例えば、キャストドライ法や凍結解凍法といった公知の方法により作製することができる。キャストドライ法は、水にPVAを加えて熱処理を行うことにより所定の濃度のPVA水溶液を作製し、このPVA水溶液を乾燥させることにより物理架橋ゲルを得る方法である。また、凍結解凍法は、上記と同様のPVA水溶液に対して、凍結処理と解凍処理とを所定の回数繰り返すことにより物理架橋ゲルを得る方法である。高密度物理架橋ゲルPHを作製する際には、当該高密度物理架橋ゲルPHを構成するPVAの濃度を高めることにより、物理架橋の程度を高めて、部分血管病変モデル10における硬度や弾性を高めることができる。第1の前駆体10pxは、上記公知の方法により得られた高密度物理架橋ゲルPHを柱状に成形することにより作製することができる。
【0038】
次に、第1の前駆体10pxを第1の溶液SAに浸漬して、第2の前駆体10pyを作製する(S120、図4(B)参照)。第1の溶液SAは、PVAを化学架橋可能な架橋剤と、PVAの架橋反応を促進可能な酸触媒とを含む溶液である。架橋剤としては、特に限定されず、例えば、グルタルアルデヒド、グリオキサール、ホルマリン、テレフタルアルデヒド等のジアルデヒド等を挙げることができる。ここで、ジアルデヒドとは、アルデヒド基(ホルミル基)を2つ有するアルデヒドである。また、酸触媒としては、特に限定されず、例えば、クエン酸、塩酸等を挙げることができる。第1の溶液SAは、例えば、グルタルアルデヒドの25%水溶液5gと、0.5Nクエン酸2.0gとを混合して得ることができる。また、第1の溶液SAにおけるジアルデヒドの含有量(濃度)は、例えば、0.01mol/L以上、1.0mol/L以下程度であり、より好ましくは、0.1mol/L以上、0.3mol/L以下程度である。第1の溶液SAにおける酸触媒の含有量(濃度)は、例えば、0.01mol/L以上、1.0mol/L以下程度であり、より好ましくは、0.1mol/L以上、0.3mol/L以下程度である。ステップS120の工程は、例えば、第1の前駆体10pxを、第1の溶液SA(例えば、pH1~4)に、1atm下、50℃で10分間浸漬することにより行うことができる。ステップS120を行うことにより、酸触媒と架橋剤とを含む第1の溶液SAの第1の前駆体10pxにおける触媒交換反応によって、高密度物理架橋ゲルPHの外表面付近において化学架橋ゲルCが形成された、第2の前駆体10pyを作製することができる(図4(C)参照)。なお、化学架橋ゲルCの形成度合いは、架橋剤や酸触媒の添加量や、第1の溶液SAのpH、反応圧力、反応温度、反応時間等を調整することにより変更することができる。また、第1の前駆体10pxを、炭酸ナトリウム等のアルカリ溶液に浸漬させることにより、化学架橋の形成反応を停止させてもよい。上述したように、PVAゲルの硬度は、化学架橋の程度が高いほど高くなる。このため、第2の前駆体10pyでは、外側面S1、端面S2,S3に近い部分ほど硬度が高く、中央に近い部分ほど硬度が低くなる。
【0039】
次に、第2の前駆体10pyを第2の溶液SBで処理して、第3の前駆体10pzを作製する(S130、図4(D)参照)。第2の溶液SBは、例えば、80℃~100℃の水溶液であり、より好ましくは、熱水である。ステップS130の工程は、例えば、第2の前駆体10pyを、1atm下、80℃の熱水で10分間煮沸することにより行うことができる。ステップS130を行うことにより、高密度物理架橋ゲルPHで形成された部分(具体的には、第2の前駆体10pyの内側部分)から、低密度物理架橋ゲルPLが形成された、第3の前駆体10pzを作製することができる(図4(E)参照)。より具体的には、高密度物理架橋ゲルPH中における一部の物理架橋が消滅し、高密度物理架橋ゲルPHより物理架橋の程度が低い、低密度物理架橋ゲルPLが形成される。なお、低密度物理架橋ゲルPLの物理架橋の度合いは、第2の溶液SBの種類、温度、時間等を調整することにより変更することができる。
【0040】
最後に、第3の前駆体10pzの両端部を除去する(S140、図4(E)参照)。ステップS140では、より具体的には、第3の前駆体10pzの両端部において、化学架橋ゲルCが形成された部分を切断等により除去する。これにより、化学架橋ゲルCにより形成された外側部20と、低密度物理架橋ゲルPLにより形成された内側部30および端部40とを有する部分血管病変モデル10を作製することができる。
【0041】
A-3.部分血管病変モデル10の使用方法:
次に、第1実施形態における部分血管病変モデル10の使用方法を説明する。図5は、本実施形態における部分血管病変モデル10の使用形態を概略的に示す説明図である。図5に示すように、本実施形態の部分血管病変モデル10は、一対の模擬血管120に接続して、血管病変モデル100として使用することができる。
【0042】
一対の模擬血管120は、それぞれ、実際の血管を模した、中空部(内孔)122を有する管状(例えば円管状)の部材である。模擬血管120における中空部22の直径は、例えば、1mm以上、30mm以下程度であり、部分血管病変モデル10の直径と略同一である。なお、図5では、各模擬血管120の一部(各模擬血管120の両端部のうち、部分血管病変モデル10に接続した端部とは反対側の端部)の図示を省略している。
【0043】
各模擬血管120は、例えば、ヒドロキシル基を有する高分子材料のゲルにより形成されている。このため、各模擬血管120は、実際の血管と同様に、良好な可撓性を有している。より具体的には、模擬血管120は、上記高分子材料の物理架橋ゲル、化学架橋ゲル、または、それら両方を含むゲルにより形成されている。ヒドロキシル基を有する高分子材料としては、特に限定されず、例えば、部分血管病変モデル10の形成材料であるPVAを使用することができる。当該高分子材料の他の例としては、ヒドロキシル基(-OH)、カルボン酸基(-COOH)、アミン基(NH)、スルホン基(-SOH)を有する高分子材料を上げることができる。より具体的には、例えば、ヒアルロン酸、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、寒天、カラギナン、アガロース、アガロペクチン等の多糖類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルおよびそれらの構造類似体、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)等のアクリル酸エステルおよびそれらの構造類似体、ポリアクリルアミド、ポリN-イソプロピルアクリルアミド、ポリアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のアミド、ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸およびそれらのアルカリ金属塩、タンパク質、ゼラチン、ポリ乳酸、天然ゴム等、および、これらの共重合体を挙げることができる。本実施形態の部分血管病変モデル10に使用される模擬血管120の形成材料は、より好ましくは、PVA単独重合体である。形状安定性・柔軟性等において実際の血管により近い物性を示すとともに、生体への安全性を有することから、生体モデルとしての取扱いが簡便であるためである。さらに好ましくは、部分血管病変モデル10の外側部20と同様の形成材料である観点から、PVA単独重合体の化学架橋ゲルである。
【0044】
各模擬血管120は、それぞれ、一方の端部において、部分血管病変モデル10に接続している。すなわち、部分血管病変モデル10は、血管病変モデル100の長手方向において、血管病変モデル100の一部に位置している。当該接続の方法は、特に限定されず、従来公知の方法を使用することができる。より具体的には、接続部材130によって、部分血管病変モデル10と各模擬血管120とを接続することができる。接続部材130は、例えば、シール状の接着剤や、クランプ等である。
【0045】
なお、血管病変モデル100において、部分血管病変モデル10の端部40は、各模擬血管120の中空部122に露出している。
【0046】
A-4.第1実施形態の効果:
以上説明したように、第1実施形態の部分血管病変モデル10は、部分的に化学架橋されたPVAのゲル(化学架橋ゲル)を含む柱状体を備える。当該柱状体は、外側部20と、外側部20の内側に位置する内側部30とを有する。外側部20を形成するPVAの化学架橋の程度は、内側部30を形成するPVAの化学架橋の程度より高い。本実施形態の部分血管病変モデル10によれば、実際の病変部を備える血管のうち、病変部と比較して硬度の高い血管を有し、かつ、病変部が血管から離脱しにくい性質を有する血管に、より近似した部分血管病変モデル10を提供することができる。例えば、血管内に形成されたアテローム血栓症のように血管壁に強固に固着した病変部を備える血管に、より近似した部分血管病変モデル10を提供することができる。
【0047】
また、第1実施形態の部分血管病変モデル10では、上記柱状体は、中実体である。本実施形態の部分血管病変モデル10によれば、実際の病変部を備える血管のうち、血管内を閉塞するように形成された病変部を備える血管に、より近似した部分血管病変モデル10を提供することができる。
【0048】
また、第1実施形態の部分血管病変モデル10では、上記柱状体は、X軸方向(長手方向)における、第1の端部40aと第2の端部40bとを有する。第1の端部40aおよび第2の端部40bを形成するPVAの化学架橋の程度は、外側部20を形成するPVAの化学架橋の程度より低い。本実施形態の部分血管病変モデル10によれば、実際の病変部を備える血管のうち、軟らかい端部を有する病変部を備える血管に、より近似した部分血管病変モデル10を提供することができる。
【0049】
B.第2実施形態:
図6は、第2実施形態における血管病変モデル200の構成を概略的に示す説明図であり、図7は、第2実施形態における血管病変モデル200の一部分(図6に示す模擬病変部10a)の断面構成を拡大して示す説明図である。
【0050】
血管病変モデル200は、第1実施形態の部分血管病変モデル10と同様に、実際の血管および病変部を模した装置であり、上述したトレーニングに使用される。血管病変モデル200は、模擬血管220と、模擬病変部10aとを備える。
【0051】
模擬血管220は、第1実施形態の模擬血管120と同様に、実際の血管を模した、中空部(内孔)222を有する管状(例えば円管状)の部材である。模擬血管220の内径(模擬血管220における中空部222の直径)は、例えば、1mm以上、30mm以下程度である。なお、図6では、模擬血管220の一部(両端部)の図示を省略している。
【0052】
模擬血管220は、第1実施形態の模擬血管120と同様に、例えば、ヒドロキシル基を有する高分子材料のゲルにより形成されている。本実施形態において、より具体的には、模擬血管220は、PVAの物理架橋ゲルにより形成されている。
【0053】
模擬病変部10aは、実際の病変部を模した部材であり、模擬血管220の中空部222内における一部に位置している。すなわち、模擬病変部10aは、血管病変モデル200の長手方向において、血管病変モデル200の一部に位置している。また、本実施形態において、模擬病変部10aは、模擬血管220の長手方向に沿った所定の位置において、中空部222を完全に閉塞するように配置されている。
【0054】
図7に示すように、模擬病変部10aは、第1実施形態の部分血管病変モデル10と同様に、外側部20と、内側部30と、端部40(第1の端部40aおよび第2の端部40b)とを有している。本実施形態の模擬病変部10aは、端部40が化学架橋ゲルにより形成されている点で、第1実施形態の部分血管病変モデル10と異なる。このような模擬病変部10aは、例えば、上述の「部分血管病変モデル10の製造方法」において、第3の前駆体10pzを作製することにより準備することができる。なお、模擬病変部10aは、第1実施形態の部分血管病変モデル10と同様に、X軸方向に延びている中実の略円柱体である。また、模擬病変部10aの直径は、例えば、1mm以上、30mm以下程度であり、模擬血管220の内径と略同一である。模擬病変部10aの長さは、例えば、1mm以上、100mm以下程度である。
【0055】
端部40は、第1実施形態の部分血管病変モデル10における端部40と同様に、模擬病変部10aのX軸方向視においてそれぞれ、端面S2および端面S3を含む部分であり、内側部30とともに、実際の病変部を模している。また、端部40は、内側部30と一体に形成されている。本実施形態において、端部40は、内側部30と同様の構成を有している。すなわち、端部40は、外側部20の径方向における内側に位置しており、内側部30とともに、外側部20の内側を完全に閉塞するように形成されている。また、端部40の直径は、1mm以上、30mm以下程度である。本実施形態において、端部40は、主にPVAの化学架橋ゲルにより形成されている。換言すれば、端部40を形成するPVAの化学架橋の程度は、内側部30を形成するPVAの化学架橋の程度より高い。本実施形態において、端部40を形成するPVAの化学架橋の程度は、外側部20を形成するPVAの化学架橋の程度と同等である。これにより、端部40は、外側部20および内側部30と一体として、実際の病変部を模擬することができる。
【0056】
上述したように、第1実施形態の部分血管病変モデル10と同様に、本実施形態の模擬病変部10aは、外側部20と、内側部30と、端部40とが、一体に形成されている。
【0057】
本実施形態の血管病変モデル200は、例えば、模擬血管220の中空部222に、模擬病変部10aを挿入することにより製造することができる。
【0058】
このような血管病変モデル200において、模擬病変部10aの端部40は、実際の血管内に形成されたアテローム血栓等の病変部に近似した性質(内側部はドロドロした粥状であり、端部は硬化した状態である性質)を有するため、当該病変部において血管を拡張する血管拡張トレーニングに好適に使用することができる。
【0059】
以上説明したように、第2実施形態の血管病変モデル200は、中空部222を有する管状の模擬血管220と、模擬病変部10aとを備える。模擬病変部10aは、柱状体により形成され、かつ、模擬血管220の中空部222に位置している。本実施形態の血管病変モデル200によれば、実際の病変部を備える血管のうち、内側部と比較して硬度の高い外側部を有する病変部を備える血管に、より近似した血管病変モデル200を提供することができる。
【0060】
また、第2実施形態の血管病変モデル200では、模擬病変部10aは、模擬血管220の長手方向における一部に位置している。本実施形態の血管病変モデル200によれば、実際の血管の長手方向における一部に形成された病変部を備える生体に、より近似した血管病変モデル200を提供することができる。
【0061】
また、第2実施形態の模擬病変部10aでは、第1の端部40aおよび第2の端部40bを形成するPVAの化学架橋の程度は、内側部30を形成するPVAの化学架橋の程度より高い。本実施形態の血管病変モデル200によれば、実際の病変部を備える血管のうち、硬化した端部を有する病変部を備える血管に、より近似した血管病変モデル200を提供することができる。
【0062】
また、第2実施形態では、模擬血管220は、ポリビニルアルコールのゲルである。本実施形態の血管病変モデル200によれば、模擬病変部10aを模擬血管220に強固に接合することができ、模擬病変部10aが模擬血管220から剥離して例えばトレーニングに支障が出ることを回避することができる。また、本実施形態の血管病変モデル200によれば、アテローム血栓症等の病変部のような、血管壁に強固に固着した病変部を模擬することができる。
【0063】
C.第3実施形態:
C-1.部分血管モデル10cの構成:
図8は、第3実施形態における部分血管モデル10cの構成を概略的に示す説明図であり、図9は、第3実施形態における部分血管モデル10cのX軸方向視における断面構成を示す説明図である。
【0064】
本実施形態における部分血管モデル10cは、X軸方向に延びている中空の略円管体である点で、第1実施形態の部分血管病変モデル10と異なる。以下では、第3実施形態の部分血管モデル10cの構成の内、上述した第1実施形態の部分血管病変モデル10と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0065】
図8および図9に示すように、部分血管モデル10cは、X軸方向に延びている中空の略円管体であり、外側面S1、端面S2、端面S3および表面S4c(以下、「内側面S4c」という)を有している。なお、第1実施形態の部分血管病変モデル10と同様に、各図において、外側面S1、端面S2、端面S3および内側面S4cは、平滑であるが、凹凸を有していてもよい。第1実施形態の部分血管病変モデル10と同様に、部分血管モデル10cの直径は、例えば、1mm以上、30mm以下程度であり、部分血管モデル10cの長さは、例えば、1mm以上、100mm以下程度である。また、本実施形態において、部分血管モデル10cは、外側部20と、外側部20の内側に位置する内側部30cとを有している。内側部30cの両端には、第1の端部40aおよび第2の端部40b(以下、「端部40」ともいう)が位置している。上述したように、本実施形態の部分血管モデル10cは、中空部50cを有する略円管体である。本実施形態において、X軸方向視における中空部50cの形状は、部分血管モデル10cの中心点CPを中心とする略円形である。本実施形態の部分血管モデル10cは、外側部20と内側部30cとによって、実際の血管を模している。
【0066】
第1実施形態の部分血管病変モデル10と同様に、本実施形態の部分血管モデル10cにおいて、外側部20の径方向における厚みは、例えば、5μm以上、1mm以下程度である。また、内側部30cの径方向における厚みは、例えば、5μm以上、1mm以下程度である。第1実施形態の部分血管病変モデル10と同様に、外側部20および内側部30cは、ともに、PVAゲルにより形成されている。より具体的には、外側部20は、化学架橋ゲルにより形成されており、内側部30cは、物理架橋ゲルにより形成されている。外側部20および内側部30cにおけるPVAゲルの化学架橋の程度は、第1実施形態の部分血管病変モデル10における外側部20および内側部30と同様である。本実施形態の部分血管モデル10cでは、内側部30cを物理架橋ゲルで形成することにより、部分血管モデル10cの内側面S4cにおける滑り性を向上させることができる。ここで、滑り性とは、部分血管モデル10cの中空部50c内への模擬病変部の挿入しやすさ、部分血管モデル10cの内側面S4cにおけるカテーテルの先端の進行しやすさ等を意味する。このように、本実施形態の部分血管モデル10cでは、内側面の滑り性が良好な血管を模擬することができる。
【0067】
本実施形態の部分血管モデル10cにおける中空部50cは、例えば、第1実施形態の部分血管病変モデル10の製造方法において、上述の高密度物理架橋ゲルPHで形成された中実の略円柱状の第1の前駆体10pxを準備する際に形成することができる。例えば、高密度物理架橋ゲルPHの略円柱体を形成する際に、略円柱体の長手方向における中央部に略円柱状の芯金等を配置し、最後に、第3の前駆体10pzから芯金を除去することにより、中空部50cを有する部分血管モデル10cを作製することができる。
【0068】
C-2.第3実施形態の変形例:
図10は、第3実施形態の変形例における部分血管病変モデル10dのX軸方向視における断面構成を示す説明図である。
【0069】
本変形例における部分血管病変モデル10dは、X軸方向視における中空部50dの形状が、部分血管病変モデル10dの中心点CPを中心とする円形でなく、一部(本変形例では、下側部)が中心点CPに向かって隆起している点で、第3実施形態の部分血管モデル10cと異なる。以下では、本変形例の部分血管病変モデル10dの構成の内、上述した第1実施形態の部分血管病変モデル10および第3実施形態の部分血管モデル10cと同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0070】
図10に示すように、部分血管病変モデル10dは、X軸方向に延びている中空の略円管体であり、外側面S1、端面S2、端面S3および表面S4d(以下、「内側面S4d」という)を有している。なお、第1実施形態の部分血管病変モデル10と同様に、各図において、外側面S1、端面S2、端面S3および内側面S4dは、平滑であるが、凹凸を有していてもよい。第1実施形態の部分血管病変モデル10と同様に、部分血管病変モデル10dの直径は、例えば、1mm以上、30mm以下程度であり、部分血管病変モデル10dの長さは、例えば、1mm以上、100mm以下程度である。また、本変形例において、部分血管病変モデル10dは、外側部20と、外側部20の内側に位置する内側部30dとを有している。内側部30dの両端には、第1の端部および第2の端部(図示せず)が位置している。上述したように、本変形例の部分血管病変モデル10dは、中空部50dを有する略円管体である。本変形例の部分血管病変モデル10dは、X軸方向視における内側部30dの一部が突出した、隆起部Rを有している。換言すれば、中空部50dは、隆起部Rに対応する部分に凹部を有している。隆起部Rは、本変形例の部分血管病変モデル10dは、外側部20と内側部30cとによって、実際の血管を模擬しており、また、内側部30cの隆起部Rにおいて、実際の病変部を模擬している。なお、隆起部Rは、X軸方向に略垂直な任意の断面において形成されていてもよいし、少なくとも一部の断面において形成されていてもよい。また、隆起部Rは任意の位置に形成されていてもよい。
【0071】
第1実施形態の部分血管病変モデル10と同様に、本変形例の部分血管病変モデル10dにおいて、外側部20の径方向における厚みは、例えば、5μm以上、1mm以下程度である。また、内側部30dの径方向における厚み(隆起部Rを除く部分での)は、例えば、5μm以上、1mm以下程度である。内側部30dの隆起部Rにおける厚みは、例えば、50μm以上、10mm以下程度である。第1実施形態の部分血管病変モデル10と同様に、外側部20および内側部30dは、ともに、PVAゲルにより形成されている。より具体的には、外側部20は、化学架橋ゲルにより形成されており、内側部30dは、物理架橋ゲルにより形成されている。外側部20および内側部30dにおけるPVAゲルの化学架橋の程度は、第1実施形態の部分血管病変モデル10における外側部20および内側部30と同様である。本変形例の部分血管病変モデル10dでは、内側部30dを物理架橋ゲルで形成することにより、部分血管病変モデル10dの内側面S4dにおける滑り性を向上させるとともに、血管に比べ柔軟性の高い病変部を模擬することができる。このように、本変形例の部分血管病変モデル10dでは、内側面の滑り性が良好な血管および病変部を模擬することができる。
【0072】
本実施形態の部分血管病変モデル10dにおける中空部50dは、例えば、第3実施形態の部分血管モデル10cの製造方法において、高密度物理架橋ゲルPHの略円柱体を形成する際に、略円柱体の長手方向における中央部に所望の形状の(例えば、凹部を有する)芯金等を配置し、最後に、第3の前駆体10pzから芯金を除去することにより、中空部50dを有する部分血管病変モデル10dを作製することができる。
【0073】
D.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態および変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0074】
上記実施形態では、部分血管病変モデル10および模擬病変部10aが、PVAゲルにより形成されている構成を採用したが、これに限定されず、PVA以外の樹脂を含む構成を採用してもよい。
【0075】
上記実施形態では、部分血管病変モデル10および模擬病変部10aの外側部20における化学架橋の程度が、略均一である構成を採用したが、これに限定されず、当該化学架橋の程度が異なる(例えば、化学架橋の程度に勾配がある)構成を採用してもよい。例えば、アテローム血栓症のように病変部の内側に向かうほど軟らかい病変部に近似するよう、外側部20において、内側部30に向かうにつれて化学架橋の程度が低くなる構成を採用することができる。
【0076】
上記第1実施形態において、実際の病変部の状態に応じて、端部40を形成するPVAの化学架橋の程度を、外側部20を形成するPVAの化学架橋の程度より高い構成を採用してもよい。また、上記第2実施形態において、実際の病変部の状態に応じて、端部40を形成するPVAの化学架橋の程度を、内側部30を形成するPVAの化学架橋の程度より低い構成を採用してもよい。端部40を形成する化学架橋の程度を高くする(端部40の硬度を高くする)ことにより、例えば、長い形成期間の間、血流の圧力に晒されたことにより、端部が硬化した病変部を模擬することができる。
【0077】
上記実施形態において、化学架橋ゲルにより形成された外側部20と、物理架橋ゲルにより形成された内側部30とを別個に作製し、外側部20の内部に内側部30を配置する構成を採用してもよい。
【0078】
上記実施形態において、上述のPVAにおける触媒交換反応に代えて、または、これとともに、放射線架橋、プラズマ架橋、加硫等の方法を用いてPVAの化学架橋ゲルを形成してもよい。
【0079】
上記実施形態において、部分血管病変モデル10および模擬病変部10aを製造する際の高密度物理架橋ゲルPHから低密度物理架橋ゲルPLを形成する工程として、例えば、物理的外力を加える(例えば、揉むこと)等の工程を採用してもよい。
【0080】
上記実施形態において、部分血管病変モデル10および/または模擬病変部10aは、中実の略円柱体に限定されず、中空部を有する円筒体等の他の形状であってもよい。
【0081】
第2実施形態の血管病変モデル200では、模擬病変部10aが、模擬血管220の中空部222を閉塞するように配置されているが、これに限定されない。例えば、図11に示すように、模擬血管220の中空部222を完全に閉塞しないよう模擬病変部10bが配置された血管病変モデル200であってもよい。模擬病変部10bの模擬血管220への固定の方法は、特に限定されず、例えば、接着剤による固定等、従来公知の方法を採用することができる。
【符号の説明】
【0082】
10:部分血管病変モデル 10a:模擬病変部 10b: 模擬病変部 10c: 部分血管モデル 10d: 部分血管病変モデル 10px:第1の前駆体 10py:第2の前駆体 10pz:第3の前駆体 20:外側部 22:中空部 30:内側部 30c: 内側部 30d: 内側部 40:端部 40a:第1の端部 40b:第2の端部 50c: 中空部 50d: 中空部 100:血管病変モデル 120:模擬血管 122:中空部 130:接続部材 200:血管病変モデル 220:模擬血管 222:中空部 S1:表面 S2:端面 S3:端面
図1
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図11