(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】アンカー用下孔形成方法、及び、それに用いられる削り落とし具
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20240110BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20240110BHJP
B28D 1/14 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
E04G23/02 Z
E04G21/12 105Z
B28D1/14
(21)【出願番号】P 2020132891
(22)【出願日】2020-08-05
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000178619
【氏名又は名称】アーキヤマデ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】野元 裕正
(72)【発明者】
【氏名】大西 裕之
(72)【発明者】
【氏名】中島 宏
(72)【発明者】
【氏名】小畑 治生
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-177737(JP,A)
【文献】特開2019-132098(JP,A)
【文献】実開昭62-61819(JP,U)
【文献】特開2013-238049(JP,A)
【文献】特開2014-80738(JP,A)
【文献】特開2016-79556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04G 21/12、21/16
B28D 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の防水層が上面側に敷設された既設の防水下地にアンカーを取り付けるための下孔を形成するアンカー用下孔形成方法であって、
前記防水層における前記防水下地の下孔形成予定箇所の直上部位及びその周囲部位からなる除去対象部位を削り落とし具にて削り落とす防水層除去工程と、
前記防水層除去工程の実行後、前記防水下地の前記下孔形成予定箇所を削孔具にて削孔して下孔を形成する防水下地削孔工程と、が備えられるアンカー用下孔形成方法。
【請求項2】
前記防水層と前記防水下地との間に既設の断熱層が備えられている場合において、
前記防水層除去工程の実行後で前記防水下地削孔工程の実行前に、前記断熱層における前記防水下地の前記下孔形成予定箇所の直上部位及びその周囲部位からなる切り抜き対象部位を切り抜き具にて切り抜いて貫通穴を形成する断熱層切り抜き工程が備えられる請求項1記載のアンカー用下孔形成方法。
【請求項3】
前記削り落とし具には、外部開放させる開口部を先端部に有する円筒状の本体部と、前記本体部を筒軸芯周りで回転操作するための回転操作部と、前記本体部の内部の先端側に前記開口部を分断する状態で取り付けられる削り板とが備えられ、
前記防水層除去工程において、前記回転操作部を操作して前記本体部を回転させる状態で、前記本体部の先端部を前記防水層の前記除去対象部位に押し付けることで、前記本体部の先端側の前記削り板にて前記防水層の前記除去対象部位を削り落とす請求項1又は2記載のアンカー用下孔形成方法。
【請求項4】
前記削り落とし具において、前記削り板が前記本体部の先端部の開口縁部よりも前記本体部の内部側に引退した位置に配置される請求項3記載のアンカー用下孔形成方法。
【請求項5】
前記削り落とし具において、1又は複数の前記削り板が着脱自在に取り付けられる請求項3又は4記載のアンカー用下孔形成方法。
【請求項6】
前記削り落とし具には、外部開放させる開口部を先端部に有する円筒状の本体部と、前記本体部を筒軸芯周りで回転操作するための回転操作部と、前記本体部の内部の先端側に前記開口部を分断する状態で着脱自在に取り付けられる削り板とが備えられ、
前記削り落とし具は、全ての前記削り板を取り外した状態で前記切り抜き具として機能するように構成され、
前記防水層除去工程では、前記削り板を前記本体部に取り付け、前記回転操作部を操作して前記本体部を回転させる状態で、前記本体部の先端部を前記防水層の前記除去対象部位に押し付けることで、前記本体部の内部の先端側の前記削り板にて前記防水層の前記除去対象部位を削り落とし、
前記断熱層切り抜き工程では、全ての前記削り板を前記本体部から取り外し、前記回転操作部を操作して前記本体部を回転させる状態で、前記本体部の先端部を前記断熱層の前記除去対象部位に押し付けることで、前記切り抜き具として、前記本体部の先端部の開口縁部にて前記断熱層の前記切り抜き対象部位を切り抜いて前記貫通穴を形成する請求項2記載のアンカー用下孔形成方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のアンカー用下孔形成方法に用いられる削り落とし具であって、
外部開放させる開口部を先端部に有する円筒状の本体部と、前記本体部を筒軸芯周りで回転操作するための回転操作部と、前記本体部の内部の先端側に前記開口部を分断する状態で取り付けられる削り板とが備えられる削り落とし具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の防水層が上面側に敷設された既設の防水下地にアンカーを取り付けるための下孔を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
既設の防水層が既設の防水下地の上面側に敷設された建物の防水改修では、防水下地にアンカーを取り付けるための下孔を形成し、既設の防水層の上面側に新規の防水層を敷設し、その新規の防水層をアンカーにて防水下地に固定するアンカー固定工法が多く用いられている。このアンカー固定方法では、一般的に回転しながら軸方向に打撃を加えられる振動ドリルを使用して既設の防水下地に下孔を形成しているが、この振動ドリルを使用して下孔を形成する際に騒音が発生することになる。
【0003】
ところで、近年、病院や集合住宅の防水改修では、騒音が発生する工法が敬遠されるケースが増えてきている。このようなケースにおいて、アンカーを使用せずに新規の防水層を既設の防水層の上面に接着剤にて接着する接着工法を採用する場合もある。しかしながら、この接着工法では、新規の防水層が接着される被接着面(既設の防水層の上面)の不陸調整等に手間がかかることや、そもそも既設の防水層が既設の防水下地に確実に固定されていなければ品質を確保できないこと等の問題がある。
【0004】
そこで、アンカー固定工法において、回転動作のみを行う回転ドリル及びその先端に装着される専用の削孔具(ドリルビット等を有する市販の削孔具)を使用し、回転ドリルにて打撃を加えることなく削孔具を回転させ、その回転状態の削孔具にて防水層ごと防水下地を削孔することで、騒音の発生を回避しながら防水下地に下孔を形成することが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したアンカー固定工法では、防水層ごと防水下地を削孔する際に削孔具に既設の防水層の構成材料(アスファルトやウレタン等)にこびりつくため、削孔具の清掃をこまめにしなければ、削孔具の性能が大幅に低下して削孔作業に時間がかかる問題がある。特に、既設の防水層の構成材料がアスファルトである場合には、アスファルトの焼け付きにより削孔具の清掃に大幅に時間がかかることになり、削孔作業に時間がかかる問題が顕著になる。ちなみに、例えば、既存の防水層を斫り機等で斫って除去することも考えられるが、その場合、除去範囲が広範囲になるので大規模な雨養生が必要となり、更に防水下地を傷つけるので下地処理の必要も生じる。
【0006】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、打撃を加えること及び削孔具に防水層の構成材料がこびりつくことの両方を回避することができ、騒音の発生を抑制しながら短時間で効率良く防水下地に下孔を形成することができるアンカー用下孔形成方法、及び、それに用いられる削り落とし具を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1特徴構成は、既設の防水層が上面側に敷設された既設の防水下地にアンカーを取り付けるための下孔を形成するアンカー用下孔形成方法であって、
前記防水層における前記防水下地の下孔形成予定箇所の直上部位及びその周囲部位からなる除去対象部位を削り落とし具にて削り落とす防水層除去工程と、
前記防水層除去工程の実行後、前記防水下地の前記下孔形成予定箇所を削孔具にて削孔して下孔を形成する防水下地削孔工程と、が備えられる点にある。
【0008】
本構成によれば、防水下地削孔工程に先立って実行される防水層除去工程にて、防水層における防水下地の下孔形成予定箇所の直上部位及びその周囲部位からなる比較的小さな除去対象部位を削り落とし具にて削り落とすので、大規模な雨養生や下地処理を必要とせず、防水層の除去対象部位を短時間で除去することができる。
そして、この防水層除去工程の実行後に実行される防水下地削孔工程にて、防水層が除去されて外部に露出している防水下地の下孔形成予定箇所を、回転状態で削孔可能な専用の削孔具にて削孔し、騒音の発生を招く打撃を加えることなく、下孔を形成することができる。
したがって、打撃を加えること及び削孔具に防水層の構成材料がこびりつくことの両方を回避することができ、騒音の発生を抑制しながら短時間で効率良く防水下地に下孔を形成することができる。
【0009】
本発明の第2特徴構成は、前記防水層と前記防水下地との間に既設の断熱層が備えられている場合において、
前記防水層除去工程の実行後で前記防水下地削孔工程の実行前に、前記断熱層における前記防水下地の前記下孔形成予定箇所の直上部位及びその周囲部位からなる切り抜き対象部位を切り抜き具にて切り抜いて貫通穴を形成する断熱層切り抜き工程が備えられる点にある。
【0010】
本構成によれば、防水層除去工程の実行後で防水下地削孔工程の実行前に実行される断熱層切り抜き工程にて、断熱層における防水下地の下孔形成予定箇所の直上部位及びその周囲部位からなる比較的小さな切り抜き対象部位を切り抜き具にて切り抜くので、削孔具にて断熱層ごと防水下地に削孔する場合のように、断熱層の屑を周囲に飛散させたり、削孔具に断熱層の屑がこびり付いたりすることなく、貫通穴を形成することができる。よって、防水層と防水下地との間に既設の断熱層が備えられている場合でも、防水下地に短時間で下孔を形成することができる。
【0011】
本発明の第3特徴構成は、前記削り落とし具には、外部開放させる開口部を先端部に有する円筒状の本体部と、前記本体部を筒軸芯周りで回転操作するための回転操作部と、前記本体部の内部の先端側に前記開口部を分断する状態で取り付けられる削り板とが備えられ、
前記防水層除去工程において、前記回転操作部を操作して前記本体部を回転させる状態で、前記本体部の先端を前記防水層の前記除去対象部位に押し付けることで、前記本体部の先端側の前記削り板にて前記防水層の前記除去対象部位を削り落とす点にある。
【0012】
本構成によれば、防水層除去工程にて、上述の円筒状の本体部、回転操作部、削り板が備えられる削り落とし具を使用し、回転操作部を操作して本体部を回転させる状態で本体部の先端を防水層の除去対象部位に押し付けることで、本体部の先端側の削り板にて本体部の先端の開口部の縁部に囲まれる防水層の除去対象部位を短時間で削り落とすことができる。しかも、防水層の削り落とし屑を円筒状の本体部の内部に留める状態で、防水層の削り落とし屑が周囲に飛散するのを抑制することができる。
【0013】
本発明の第4特徴構成は、前記削り落とし具において、前記削り板が前記本体部の先端部の開口縁部よりも前記本体部の内部側に引退した位置に配置される点にある。
【0014】
本構成によれば、防水層除去工程において、本体部の先端側の削り板にて防水層の除去対象部位を削り落とすのに少し先行して本体部の先端部の開口縁部を防水層の除去対象部位の外周縁部に進入させることができる。よって、その本体部の先端部の開口縁部により本体部の先端部を防水層の除去対象部位に位置決めしながら、本体部の先端側の削り板にて防水層の除去対象部位を効率良く削り落とすことができる。
【0015】
本発明の第5特徴構成は、前記削り落とし具において、1又は複数の前記削り板が着脱自在に取り付けられる点にある。
【0016】
本構成によれば、削り板を本体部に対して取り付けたり、取り外したりすることで、作業の実情に応じて削り板の数を任意に変更することができる。例えば、削り板の数を多くすることで、防水層の除去対象部位を細かく砕くことができる。
【0017】
本発明の第6特徴構成は、前記削り落とし具には、外部開放させる開口部を先端部に有する円筒状の本体部と、前記本体部を筒軸芯周りで回転操作するための回転操作部と、前記本体部の内部の先端側に前記開口部を分断する状態で着脱自在に取り付けられる削り板とが備えられ、
前記削り落とし具は、全ての前記削り板を取り外した状態で前記切り抜き具として機能するように構成され、
前記防水層除去工程では、前記削り板を前記本体部に取り付け、前記回転操作部を操作して前記本体部を回転させる状態で、前記本体部の先端部を前記防水層の前記除去対象部位に押し付けることで、前記本体部の内部の先端側の前記削り板にて前記防水層の前記除去対象部位を削り落とし、
前記断熱層切り抜き工程では、全ての前記削り板を前記本体部から取り外し、前記回転操作部を操作して前記本体部を回転させる状態で、前記本体部の先端部を前記断熱層の前記切り抜き対象部位に押し付けることで、前記切り抜き具として、前記本体部の先端部の開口縁部にて前記断熱層の前記切り抜き対象部位を切り抜いて前記貫通穴を形成する点にある。
【0018】
本構成によれば、上述の円筒状の本体部、回転操作部、削り板が備えられる削り落とし具を使用し、防水層除去工程では、削り板を本体部に取り付け、回転操作部を操作して本体部を回転させる状態で本体部の先端を防水層の除去対象部位に押し付けることで、本体部の先端側の削り板にて本体部の先端の開口部の縁部に囲まれる防水層の除去対象部位を短時間で削り落とすことができる。
そして、断熱層切り抜き工程では、全ての削り板を本体部から取り外し、回転操作部を操作して本体部を回転させる状態で本体部の先端部を断熱層の切り抜き対象部位に押し付けることで、削り落とし具を切り抜き具として機能させ、本体部の先端部の開口縁部にて断熱層の切り抜き対象部位を切り抜いて短時間で貫通穴を形成することができる。
よって、削り落とし具を切り抜き具に兼用し、効率良く防水下地に下孔を形成することができる。
【0019】
本発明の第7特徴構成は、第1~第6特徴構成のいずれかに記載のアンカー用下孔形成方法に用いられる削り落とし具であって、
外部開放させる開口部を先端部に有する円筒状の本体部と、前記本体部を筒軸芯周りで回転操作するための回転操作部と、前記本体部の内部の先端側に前記開口部を分断する状態で取り付けられる削り板とが備えられる点にある。
【0020】
本構成によれば、防水層除去工程において、回転操作部を操作して本体部を回転させる状態で本体部の先端を防水層の除去対象部位に押し付けることで、本体部の先端側の削り板にて本体部の先端の開口部の縁部に囲まれる防水層の除去対象部位を短時間で削り落とすことのできる削り落とし具を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】(a)削り落とし具の正面図、(b)IIb-IIb線断面図、(c)削り落とし具の底面図
【
図6】(a)別実施形態の削り落とし具を示す斜視図、(b)別実施形態の削り落とし具を示す斜視図、(c)別実施形態の削り落とし具の底面図
【
図7】(a)別実施形態の削り落とし具を示す斜視図、(b)別実施形態の削り落とし具を示す斜視図、(c)別実施形態の削り落とし具の底面図
【
図8】アンカー用下孔形成方法を用いた防水改修工法を模式的に示す図
【
図9】アンカー用下孔形成方法を用いた防水改修工法を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のアンカー用下孔形成方法の実施形態を図面に基づいて説明する。
このアンカー用下孔形成方法は、
図4に示すように、既設の防水層1が上面側に敷設された既設の防水下地2に防水改修用等のアンカー4(
図8,
図9参照)を取り付けるための下孔Aを形成する工法である。既設の防水層1は、例えば、砂付きアスファルトルーフィングやウレタン塗膜等から構成される。図示例では、既設の防水層1が砂付きアスファルトルーフィングから構成され、既設の防水下地2がコンクリートスラブから構成される場合を例示している。
【0023】
そして、このアンカー用下孔形成方法には、防水層1における防水下地2の下孔形成予定箇所の直上部位を含む除去対象部位1Aを削り落とし具10にて削り落とす防水層除去工程(
図1、
図3参照)と、防水層除去工程の実行後、防水下地2の下孔形成予定箇所を削孔具20にて削孔して下孔Aを形成する防水下地削孔工程(
図4参照)と、が備えられる。
【0024】
また、建物によっては、
図5に示すように、既設の防水層1と既設の防水下地2との間に、既設の断熱層3が備えられている場合がある。既設の断熱層3は、例えば、グラスウールボード等から構成される。このような場合には、防水層除去工程の実行後で防水下地削孔工程の実行前に、断熱層3における防水下地2の下孔形成予定箇所の直上部位を含む切り抜き対象部位3Aを切り抜き具30にて切り抜いて貫通穴を形成する断熱層切り抜き工程が備えられる。
【0025】
以下、防水層除去工程、防水下地削孔工程、断熱層切り抜き工程の詳細について順番に説明する。
【0026】
(防水層除去工程)
この防水層除去工程では、
図3に示すように、防水層1の除去対象部位1Aを削り落とし具10にて削り落とす。防水層1の除去対象部位1Aは、防水下地2の下孔形成予定箇所の直上部位及びその周囲の所定範囲の部位(周囲部位)からなる小さな円柱状の部位に設定される。
【0027】
削り落とし具10は、
図1及び
図2に示すように、内部を外部開放させる開口部11aを先端部11Aに有する円筒状の本体部11と、本体部11を筒軸芯X周りで回転操作するための回転操作部12と、本体部11の内部の先端側に開口部11aを分断する状態で取り付けられる削り板13とが備えられる。この本体部11の先端側の開口部11aの直径は、防水層1の除去対象部位1Aの直径と略同一に設定される。
【0028】
本体部11は、先端部11Aの端面が開口部11aにより外部開放され、且つ、基端部11Bの端面が閉塞されたステンレス製(金属製の一例)の円筒状部材にて構成される。本体部11の先端部11Aの円環状の開口縁部11bは、先端に向かって尖る形状に形成されており、本体部11の回転に伴って防水層1の除去対象部位1Aの外周縁部を切り込むように構成される。よって、削り落とし具10にて防水層1の除去対象部位1Aを削り落とす際に、円環状の開口縁部11bによって本体部11の先端部11Aを防水層1の除去対象部位1Aに位置決めすることができる。
【0029】
回転操作部12は、例えば、インパクトドライバー等の回転操作具T1にて回転操作が可能な六角柱状のビット等から構成することができる。回転操作部12は、本体部11の基端部11Bの端面の中心部位から筒軸芯X方向に沿って外方に突出する状態で備えられる。回転操作部12は、溶接等の適宜の固定手段にて本体部11の基端部11Bに固定される。なお、本体部11の周壁部における先端部11Aよりも基端側の部位には、本体部11の内部を外部に露出させる大型の窓14が備えられる。
【0030】
削り板13は、本体部11の板厚よりも大きな板厚のステンレス板等から構成され、筒軸芯X方向に沿って延びる縦姿勢で本体部11の内部の先端側に備えられる。削り板13は、本体部11の先端部11Aの開口縁部11bよりも本体部11の内部側(基端部11B側)に引退した位置に配置される。具体的には、削り板13の先端縁部13dが、本体部11の先端部11Aの開口縁部11bから所定寸法だけ本体部11の内部側となる基端部11B側(図中の上方側)に偏倚した位置に配置される。削り板13の基端縁部は、本体部11における窓14よりも先端側の位置に配置される。ちなみに、削り板13の先端縁部13dは、十分な板厚を有する剛性の高い矩形断面の部位として構成される。
【0031】
そして、この防水層除去工程では、
図3(a)~
図3(c)に示すように、回転操作具T1により削り落とし具10の回転操作部12を操作して削り落とし具10の本体部11を回転させる状態で削り落とし具10の本体部11の先端部11Aを防水層1の除去対象部位1Aに押し付けることで、本体部11の先端部11Aの開口縁部11bにて本体部11の先端部11Aを防水層1の除去対象部位1Aに位置決めしながら、本体部11の内部の先端側の削り板13の先端縁部13dにて防水層1の除去対象部位1Aを削り落とす。このとき、防水層1の削りカスは削り落とし具10の本体部11の周壁部にて外部への飛散が防止される。
このようにして、大規模な雨養生や下地処理を必要とせず、防水層1の比較的小さな小さな除去対象部位1Aを削り落とし具10にて短時間で効率良く削り落とし、防水下地2の下孔形成予定箇所を外部に適切に露出させることができる。
【0032】
(防水下地削孔工程)
防水層除去工程の実行後に実行される防水下地削孔工程では、
図4に示すように、外部に露出している防水下地2の下孔形成予定箇所を削孔具20にて削孔して下孔Aを形成する。削孔具20は、上述した削り落とし具10とは異なる市販の棒状の工具である。削孔具20の棒状本体21の基端側には、回転ドリル等の回転操作具T2にて回転操作が可能な回転操作部22が備えられ、棒状本体21の先端側には、着脱自在なドリルビット等からなる二股状の削孔部位21Aが備えられる。
【0033】
そして、この防水下地削孔工程では、
図4(a)~
図4(c)に示すように、回転操作具T2により削孔具20の回転操作部22を操作して削孔具20の棒状本体21を回転させる状態で、削孔具20の先端側の二股状の削孔部位21Aを、防水層1が除去されて外部に露出している防水下地2の下孔形成予定箇所に押し付けることで、棒状本体21の先端側の二股状の削孔部位21Aにて防水下地2の下孔形成予定箇所を削孔して下孔Aを形成する。
このようにして、防水下地2の下孔形成予定箇所に削孔具20にて短時間で下孔Aを形成することができる。
【0034】
(断熱層切り抜き工程)
前述の如く、建物によっては、
図5に示すように、既設の防水層1と既設の防水下地2との間に、既設の断熱層3が備えられている場合がある。
そこで、このような場合には、防水層除去工程(
図3参照)の実行後で防水下地削孔工程(
図4参照)の実行前に、断熱層3における防水下地2の下孔形成予定箇所の直上部位を含む切り抜き対象部位3Aを切り抜き具30にて切り抜いて貫通穴を形成する断熱層切り抜き工程が実行される。
【0035】
断熱層3の切り抜き対象部位3Aは、防水下地2の下孔形成予定箇所の直上部位及びその周囲の所定範囲の部位(周囲部位)からなる小さな円柱状の部位に設定される。本実施形態では、断熱層3の切り抜き対象部位3Aは、平面視で防水層1の除去対象部位1Aと同じ範囲に設定される。ちなみに、本実施形態では、切り抜き具30は、削り板13が備えられていない点以外は削り落とし具10と同様であるので、同様の構成箇所には同様の符号を付記し、その説明は省略する。
【0036】
そして、この断熱層切り抜き工程では、
図5(a)~(c)に示すように、回転操作具T1により切り抜き具30の回転操作部12を操作して切り抜き具30の本体部11を回転させる状態で、切り抜き具30の本体部11の先端部11Aを、防水層1が除去されて外部に露出している断熱層3の切り抜き対象部位3Aに押し付けることで、当該本体部11の先端部11Aの開口縁部11bにて断熱層3の切り抜き対象部位3Aを切り抜いて貫通穴を形成する。
このようにして、断熱層3の切り抜き対象部位3Aを切り抜き具30にて簡単且つ短時間で切り抜いて貫通穴を形成し、防水下地2の下孔形成予定箇所を外部に適切に露出させることができる。
【0037】
なお、切り抜き具30において、本体部11の内部を外部に露出させる窓14は、断熱層3から切り抜かれて本体部11の内部に入り込んだ円柱状の切り抜き対象部位3Aを本体部11の外部に放出するための放出口等として好適に機能する。
【0038】
次に、本発明のアンカー用下孔形成方法を用いた防水改修工法について、
図8、
図9を参照して説明を加える。
【0039】
図8は、既設の防水層1の上面に新設の防水層1´を敷設する防水改修工法を示している。この防水改修工法は、まず、本発明のアンカー用下孔形成方法の上述した防水層除去工程及び防水下地削孔工程を実行し、既設の防水層1が上面側に敷設された既設の防水下地2の適所で防水層1の除去対象部位1Aを除去した上で下孔Aを形成する(
図4参照)。
そして、熱可塑性樹脂製の接着剤(ホットメルト接着剤)からなる接着層を上面に有する円盤状の固定板5をアンカー4を用いて下孔Aに固定した後、固定板5の上面側に新設の防水層1´を敷設する。
その後、新設の防水層1´の上から誘導加熱装置等にて固定板5の上面の接着層を加熱して溶かし、新設の防水層1´を固定板5の上面に接着固定する。
【0040】
図9は、既設の防水層1の上面との間に通気層6を介在させる状態で新設の防水層1´を敷設するとともに、通気層6等を通じて防水下地2の湿気等を外部に放出させる脱気塔8を設置した防水改修工法を示している。この防水改修工法は、まず、上述した防水層除去工程及び防水下地削孔工程を実行し、既設の防水層1が上面側に敷設された既設の防水下地2の適所で防水層1の除去対象部位1Aを除去した上で下孔Aを形成する(
図4参照)。このとき、既設の防水層1を除去した部位が均等に分散配置されるように、既設の防水層1において、下孔Aを形成する除去対象部位1Aだけでなく、下孔Aを形成しない部位1Bも削り落とし具10にて除去することができる。また、既設の防水層1における脱気塔8の設置予定部位1Cについても除去する。
【0041】
そして、通気性を有するマット状部材等からなる通気層6を、脱気塔8の設置予定部位1Cを除いて既設の防水層1の上面側に敷設するとともに、脱気塔8を設置する。また、通気層6の上面に絶縁シート7を敷設する。
その後、上述した固定板5をアンカー4を用いて下孔Aに固定し、固定板5の上面側に新設の防水層1´を敷設する。そして、新設の防水層1´の上から誘導加熱装置等にて固定板5の上面の接着層を加熱して溶かし、新設の防水層1´を固定板5の上面に接着固定する。
【0042】
この防水改修工法では、
図9中の矢印にて示すように、平面的に分散配置された既設の防水層1を除去した部位1A,1B,1C、既設の防水層1と新設の防水層1´の間の通気層6、及び、脱気塔8を通じて防水下地2の湿気等を外部に適切に放出できる防水構造に改修することができる。
このように、本発明のアンカー用下孔形成方法は、既存の防水層1の上面側に新設の防水層1´を敷設する各種の防水改修工法に好適に用いることができる。
【0043】
なお、上述した各防水改修工法において、既設の防水層1と既設の防水下地2との間に、既設の断熱層3が備えられている場合には、既設の防水下地2の適所に下孔Aを形成する際に断熱層切り抜き工程(
図5参照)を実行すればよい。
【0044】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0045】
(1)前述の実施形態の改良として、
図6、
図7に示すように、削り落とし具10において、本体部11に削り板13が着脱自在に取り付けられてもよい。
【0046】
図6に示す例では、削り落とし具10に、固定式の1つの削り板13Aと、着脱式の1つの削り板13Bとの二種の削り板13が備えられ、着脱式の1つの削り板13Bを本体部11に対して取り付けたり、取り外したりすることで、削り板13の数を変更することができる。そのため、1つの削り板13Aにて防水層1の除去対象部位1Aを削り落とす使用形態(
図6(a)参照)と、底面視で十字状をなす二つの削り板13A,13Bにて防水層1の除去対象部位1Aを削り落とす使用形態(
図6(b)、
図6(c)参照)とを任意に選択することができる。
【0047】
削り板13Bを本体部11に対して着脱自在とする着脱機構としては、各種の構成を採用可能であるが、以下のような構成を採用することもできる。
例えば、本体部11の先端部11Aの周壁部には、本体部11の開口部11aから内部に削り板13Bを差し込むためのスリット11cが形成される。また、着脱式の削り板13Bの板幅方向(図中の左右方向)の中間部には、固定式の削り板13aを差し込むためのスリット13bが形成される。更に、削り板13Bの板幅方向の両端部には、本体部11の開口部11aから内部に削り板13Bを差し込んだ状態で、本体部11の周壁部の外側でスリット11cの周縁部に当接する位置保持板部13cが形成される。
【0048】
このようにすれば、防水層除去工程において、着脱式の1つの削り板13Bを本体部11に取り付け、二つの削り板13A,13Bにて防水層1の除去対象部位1Aを削り落とす使用形態を選択した場合でも、削り落とし具10の本体部11の先端部11Aを防水層1の除去対象部位1Aに押し当てた状態では、着脱式の削り板13Bが本体部11の先端部11Aから脱落することはなく、二つの削り板13A,13Bにて防水層1の除去対象部位1Aを削り落とすことができる。
【0049】
図7に示す例では、削り落とし具10に、1つの削り板13(全ての削り板13の一例)が着脱自在に取り付けられる。よって、この削り落とし具10は、全ての削り板13を本体部11から取り外すことで、断熱層切り抜き工程にて断熱層3の切り抜き対象部位3Aを切り抜くための切り抜き具30として機能させることができる。削り板13Dを本体部11に対して着脱自在とする着脱機構としては、各種の構成を採用可能であるが、上述した削り板13Bと同様の構成を採用することができる。
【0050】
そして、防水層除去工程(
図3参照)では、
図7(b)、
図7(c)に示すように、削り落とし具10の本体部11に削り板13Dを取り付け、回転操作具T1により削り落とし具10の回転操作部12を操作して削り落とし具10の本体部11を回転させる状態で、削り落とし具10の本体部11の先端部11Aを防水層1の除去対象部位1Aに押し付けることで、本体部11の内部の先端側の削り板13Dの先端縁部13dにて防水層1の除去対象部位1Aを削り落とすことができる。
【0051】
また、断熱層切り抜き工程(
図5参照)では、
図7(a)に示すように、削り落とし具10の本体部11から全ての削り板13Dを取り外し、回転操作具T1により切り抜き具30の回転操作部12を操作して切り抜き具30の本体部11を回転させる状態で、切り抜き具30の本体部11の先端部11Aを、防水層1が除去されて外部に露出している断熱層3の切り抜き対象部位3Aに押し付けることで、当該削り落とし具10を切り抜き具30として機能させ、当該本体部11の先端部11Aの開口縁部11bにて断熱層3の切り抜き対象部位3Aを切り抜いて貫通穴を形成することができる。
【0052】
なお、
図6、
図7では、1つの削り板13が本体部11に着脱自在に取付けられる場合を例に示したが、勿論、複数の削り板13が本体部11に着脱自在に取り付けられてもよい。
また、本体部11から削り板13を取り外して使用する場合には、本体部11の先端部11Aの周壁部に形成されたスリット11cを埋めるためのスリット埋め部材等が取り付けられてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 防水層
1A 除去対象部位
2 防水下地
3 断熱層
3A 切り抜き対象部位
10 落とし具
11 本体部
11A 先端部
11a 開口部
11b 開口縁部
12 回転操作部
13 削り板
20 削孔具
30 切り抜き具
A 下孔
X 筒軸芯