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特許7416425アルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法
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  • 特許-アルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】アルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/18 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
C23C18/18
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020203191
(22)【出願日】2020-12-08
(65)【公開番号】P2022090724
(43)【公開日】2022-06-20
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】593174641
【氏名又は名称】メルテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】中田 優希
(72)【発明者】
【氏名】塚原 義人
(72)【発明者】
【氏名】渡口 繁
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 秀樹
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-169447(JP,A)
【文献】特開2004-346405(JP,A)
【文献】特開2012-026029(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0044665(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-18/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムおよびアルミニウム合金にジンケート処理、無電解ニッケルめっきを行うためのめっき前処理方法であって、
銀イオンと銀の錯化剤とを含み、pHが8以上9.9以下であるアルカリエッチング溶液で前記アルミニウムおよびアルミニウム合金をエッチングする工程と、
前記エッチング後の前記アルミニウムおよびアルミニウム合金から、銀を溶解することができる洗浄溶液を用いて前記エッチング工程で前記アルミニウムおよびアルミニウム合金の表面に置換析出させた金属を除去する工程とを有することを特徴とするアルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法。
【請求項2】
前記銀イオンの濃度は、0.1mg/L以上1000mg/L以下である請求項1に記載のアルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法。
【請求項3】
前記銀の錯化剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はその塩の群より選択される1種以上を含有する請求項1又は請求項2に記載のアルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法。
【請求項4】
前記銀の錯化剤の濃度は、0.01g/L以上10g/L以下である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のアルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法。
【請求項5】
前記アルカリエッチング溶液は、pH調整剤として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムの群より選択される1種以上を含有する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のアルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法。
【請求項6】
前記アルカリエッチング溶液は、pH緩衝剤として、リン酸塩、ポリリン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩の群より選択される1種以上を含有する請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のアルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法。
【請求項7】
前記洗浄溶液は、銀の酸化剤として硝酸、硝酸鉄及び過硫酸塩の群より選択される1種以上を含有する請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のアルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法。
【請求項8】
前記銀の酸化剤の濃度は、1g/L以上500g/L以下である請求項7に記載のアルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、アルミニウムおよびアルミニウム合金、特に半導体用アルミニウム電極やアルミニウム合金電極上へ無電解ニッケルめっきを行うためのめっき前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体デバイスの金属配線には、電気伝導率、耐熱性、コスト、化学的安定性、ケイ素材料や酸化ケイ素材料との反応性および接着性等の観点から、アルミニウムが使用されてきた。アルミニウムは、エレクトロマイグレーション現象によって、通電時にケイ素材料や酸化ケイ素材料中に移動しやすい性質をもつ。その防止策として、アルミニウムと他の材料との間にチタン系材料からなる層を介在させた積層構造とする方法、アルミニウムにケイ素や銅を0.5~1.0重量%の範囲で含有させたアルミニウム合金を用いる方法が知られている。また、半導体デバイス最外層の接続用電極材料として、同様の理由から、アルミニウム、あるいは、アルミニウム-ケイ素合金、アルミニウム-銅合金、アルミニウム-ケイ素-銅合金等のアルミニウム合金が使用されている。
【0003】
このようなアルミニウムやアルミニウム合金からなる電極のはんだ濡れ性を向上させるためには、アルミニウムやアルミニウム合金からなる電極に、無電解ニッケルめっき、置換金めっき等を施す。そして、アルミニウムやアルミニウム合金に無電解ニッケルめっきを施すための前処理工程として、ダブルジンケート法が知られている。通常、ダブルジンケート法は、脱脂処理、酸またはアルカリによるエッチング処理が行われ、次に、第1亜鉛置換→硝酸剥離→第2亜鉛置換からなる2回の亜鉛置換処理、いわゆるダブルジンケート処理が施され、緻密な亜鉛置換皮膜を形成する。その後、亜鉛置換皮膜上に無電解ニッケルめっきによりニッケル膜が形成される。
【0004】
このダブルジンケート法による前処理を行った後に、無電解ニッケルめっき、置換金めっき等を施してはんだ濡れ性を向上させた電極の表面状態は、電極を構成するアルミニウム合金の表面状態によって大きく異なることが知られている。例えば、アルミニウム-ケイ素合金電極では、ジンケート処理における亜鉛置換が不均一で、めっき膜はノジュールの多い粗れた状態となることが指摘されており、めっき膜の密着性、めっき後のはんだ濡れ性、接続信頼性を低下させるという問題があった。
【0005】
そこで特許文献1は、ジンケート処理を行うための前処理として、アルミニウム及びアルミニウム合金をエッチングする前処理方法を提案している。この前処理方法は、アルミニウムやアルミニウム合金に脱脂処理を施し、水洗した後、銅イオンを含有するエッチング溶液でアルミニウムやアルミニウム合金をエッチングする。次いで、水洗した後、銅溶解剤を含む洗浄溶液を用いてエッチング残渣をアルミニウムはアルミニウム合金上から除去する。このような前処理を施すことによって、アルミニウム、アルミニウム合金表面の形状が、ジンケート処理を良好に行うことができる細かい凹凸状となる。そして、その後形成されたニッケルめっき膜はノジュールの発生がなく良好な密着性や皮膜外観をもつものとなることを開示している。
【0006】
ただし、このような前処理方法のエッチング工程には、アルミニウム素材の特定の結晶配向面((100)面)において、添加金属が置換されずにエッチングだけが進行してしまう「置換抜け」問題があることも近年知られている。エッチング工程において置換抜けが発生した場所の表面には、細かい凹凸形状が形成されない。細かい凹凸形状が形成されなかった表面では、その後のジンケート処理において、亜鉛が置換せず、亜鉛が置換されなかった場所として残る。このような表面を有するアルミニウム素材にニッケルめっきを施しても、亜鉛が置換されなかった場所ではニッケルが析出せず、ニッケルめっき皮膜の密着性が不十分になったり、ニッケルめっき皮膜の外観不良が生じたりする。
【0007】
そこで、特許文献2は、銀イオン及び/又は銅イオンと、銀イオン及び/又は銅イオンの可溶化剤を含有し、pHが10~13.5である除去液を用いて、アルミニウム又はアルミニウム合金上に生成したアルミニウム酸化皮膜を処理する方法を提案している。この方法によって、酸化皮膜を迅速に除去し、更に特定の結晶配向面((100)面)に対しても均一にエッチングし添加金属を置換することが可能だとしている。さらに当該除去液は、水酸化第4級アンモニウム化合物を含有することによって、アルミニウム又はアルミニウム合金表面の過度のエッチングを抑制するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-346405号公報
【文献】特開2012-26029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に開示の除去液は、エッチング処理によって酸化銀の沈殿が発生するため、浴安定性が低い。そのため、ジンケート処理を行うための前処理工程を安定して行うことができない。さらに、特許文献2に開示の除去液は、除去液のpH値が10~13.5と高いため、前処理中のアルミニウム素材の侵食量が1.0μm以上と大きい。そのため、アルミニウム素材が薄膜である場合、当該除去液を使用することができない、という問題があった。
【0010】
本件発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、アルミニウムやアルミニウム合金上に良好な密着性、皮膜外観をもつニッケル膜を無電解ニッケルめっきにより形成可能とするためのジンケート処理のめっき前処理方法である。すなわち、本件発明は、アルミニウム素材の結晶配向面((100)面)でも添加金属が置換され、いかなる結晶配向面に対しても添加金属の置換抜けが生じない前処理方法であり、かつ、浴安定性が高く、前処理中のアルミニウム素材の侵食量が0.1μm以下であるめっき前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するために、鋭意研究の結果、以下の発明に想到した。
【0012】
本件発明に係るアルミニウムおよびアルミニウム合金にジンケート処理、無電解ニッケルめっきを行うためのめっき前処理方法は、アルミニウムおよびアルミニウム合金にジンケート処理、無電解ニッケルめっきを行うためのめっき前処理方法であって、銀イオンと銀の錯化剤とを含み、pHが8以上9.9以下であるアルカリエッチング溶液で前記アルミニウムおよびアルミニウム合金をエッチングする工程と、前記エッチング後の前記アルミニウムおよびアルミニウム合金から、銀を溶解することができる洗浄溶液を用いて前記エッチング工程で前記アルミニウムおよびアルミニウム合金の表面に置換析出させた金属を除去する工程とを有することを特徴とするアルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法を採用した。
【発明の効果】
【0013】
本件発明に係るアルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法は、アルミニウム素材の結晶配向面((100)面)でも添加金属が置換され、いかなる結晶配向面に対しても添加金属の置換抜けが発生せず、かつ、浴安定性が高い。すなわち、当該めっき前処理方法を採用することによって、ジンケート処理前の、めっき前処理工程を、いかなる結晶配向面に対しても均一に安定して行うことができ、かつ、その後形成されたニッケルめっき膜は、ノジュールの発生がなく、良好な密着性や皮膜外観をもつものとなる。さらに、当該めっき前処理方法は、アルミニウム素材の侵食量が0.1μm以下である。したがって、処理対象であるアルミニウム素材の膜厚が薄い場合であっても、当該めっき前処理方法を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例4におけるニッケルめっき皮膜の外観写真である。
図2】比較例2におけるニッケルめっき皮膜の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本件発明に係るアルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法の実施の形態について説明する。
【0016】
本件発明に係るアルミニウムおよびアルミニウム合金にジンケート処理、無電解ニッケルめっきを行うためのめっき前処理方法は、銀イオンと銀の錯化剤とを含み、pHが8以上10以下であるアルカリエッチング溶液でアルミニウム、アルミニウム合金をエッチングする工程と、エッチング後のアルミニウム、アルミニウム合金から、銀を溶解することができる洗浄溶液を用いてエッチング工程で前記アルミニウムおよびアルミニウム合金の表面に置換析出させた金属を除去する工程とを有している。
【0017】
具体的には、アルミニウムやアルミニウム合金に脱脂処理を施し、水洗した後、本件発明に係るめっき前処理を施す。当該めっき前処理を施した後、ダブルジンケート処理、無電解ニッケルめっきにより、アルミニウムやアルミニウム合金の表面にニッケル膜を形成することができる。当該めっき前処理を施すことにより、めっき前処理工程をアルミニウム素材のいかなる結晶配向面に対しても均一に安定して行うことができ、かつ、その後形成されたニッケルめっき膜は、ノジュールの発生がなく、良好な密着性や皮膜外観をもつものとなる。さらに、処理対象であるアルミニウム素材の膜厚が薄い場合であっても、当該めっき前処理方法を適用することができる。
【0018】
本件発明のめっき前処理を施す対象であるアルミニウム合金としては、アルミニウム-ケイ素合金、アルミニウム-銅合金、アルミニウム-ケイ素-銅合金、アルミニウム-ネオジウム合金等のアルミニウム合金などが挙げられる。
【0019】
〔アルカリエッチング溶液〕
本件発明に係るアルカリエッチング溶液は、銀イオンと銀の錯化剤とを含んでいる。アルカリエッチング溶液に銀イオンを含むことによって、アルミニウム素材のいかなる結晶配向面に対しても添加金属である銀の置換抜けが生じない。その後、本件発明に係る洗浄溶液を用いてアルミニウムおよびアルミニウム合金の表面に置換析出した銀を除去することによって、アルミニウム、アルミニウム合金の表面はジンケート処理を良好に行うことができる状態となる。具体的には、当該アルカリエッチング溶液でエッチングすることによって、アルミニウム、アルミニウム合金表面の酸化膜を完全に溶解するとともに、アルミニウム、アルミニウム合金表面に銀が置換析出する。そして、その後、本件発明に係る洗浄溶液を用いて、置換析出した銀を除去することによって、アルミニウム、アルミニウム合金表面が、ジンケート処理を良好に行うことができる細かい凹凸状となる。
【0020】
アルカリエッチング溶液のpHは8以上10以下が好ましい。アルミニウム素材を過度にエッチングしないからである。このことによって、本件発明に係るアルカリエッチング溶液は、エッチングを抑えるための化合物、例えば水酸化第4級アンモニウム化合物などのアルカリ化合物を必要としない。アルミニウム素材を過度にエッチングしないことを考慮すると、pH値の上限値は9.9であることがより好ましい。
【0021】
アルカリエッチング溶液に銀イオンを供給する化合物としては、硝酸銀、塩化銀、酸化銀、炭酸銀、メタンスルホン酸銀、臭化銀、ヨウ化銀、バナジン酸銀、硫酸銀、チオシアン銀、酢酸銀などが挙げられる。しかしここに挙げた化合物に制限されるものではなく、これらの化合物の1種を単独で用いても、又は2種以上を用いても良い。
【0022】
上述の銀イオンの濃度は、0.1mg/L以上1000mg/L以下であることが好ましい。銀イオンの濃度が0.1mg/L未満、もしくは1000mg/Lを超える場合、めっき前処理工程後のアルミニウム、アルミニウム合金表面が、適切な凹凸状とならず、形成されたニッケル膜にノジュールの発生がみられ、密着性の低下し、皮膜外観が悪化するからである。
【0023】
また、銀の錯化剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はその塩、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン、こはく酸イミド、ヒダントイン化合物、サリチル酸、ニコチン酸、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、バルビツール酸化合物、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン、アミノピリジン、ピリジンカルボン酸類などが挙げられる。特に、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はその塩の群より選択される1種以上であることが好ましい。銀の錯化剤として、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はその塩の群より選択される1種以上を用いることによって、アルミニウム素材の特定の結晶配向面((100)面)でも添加金属が置換され、いかなる結晶配向面に対しても添加金属の置換抜けが発生せず、かつ、アルカリエッチング溶液の浴安定性が高くなるからである。
【0024】
上述の銀の錯化剤の濃度は、0.01g/L以上10g/L以下であることが好ましい。銀の錯化剤の濃度が0.01g/L未満の場合、酸化銀の沈殿が発生し、浴が不安定になるおそれがある。10g/Lを超える場合、アルミニウム上へ添加金属の置換が生じないおそれがあるからである。
【0025】
アルカリエッチング溶液は、pH調整剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムの群より選択される1種以上を含有することが好ましい。アルカリエッチング溶液のpHを8以上10以下に調整することができるからである。
【0026】
また、アルカリエッチング溶液は、pH緩衝剤として、炭酸水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム等のリン酸塩、トリポリリン酸ナトリウムやポリリン酸ナトリウム等のポリリン酸塩、炭酸ナトリウムや炭酸カルシウムなどの炭酸塩、四ホウ酸ナトリウムや四ホウ酸アンモニウムなどのホウ酸塩の群より選択される1種以上を含有することが好ましい。アルカリエッチング溶液を用いてアルミニウム素材のエッチング処理を行うと、浴中の水酸化物イオンが消費され、pH値が低下していく。pH緩衝剤をアルカリエッチング溶液に添加することによって、エッチング処理中のpH値の変動を抑制でき、アルカリエッチング溶液のpHを8以上10以下に保つことができるからである。なお、pHが8以上10以下の範囲で緩衝性を持つ化合物であれば、上述に限定されず、pH緩衝剤として使用できる。
【0027】
さらに、アルカリエッチング溶液は、界面活性剤を0.1mg/L以上1000mg/L以下で含有するものであってもよい。アルミニウムおよびアルミニウム合金の表面に、水濡れ性を与えることによって、アルミニウム、アルミニウム合金の表面を均一にエッチングし、添加金属の置換を行うことができるからである。
【0028】
界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、アルキルグリコシド等のノニオン系界面活性剤、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、脂肪族モノカルボン酸塩、ジアルキルスルホこはく酸塩、アルカンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸―ホルムアミド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤、モノアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルベンザルコニウム等のカチオン系界面活性剤などが挙げられる。しかしここに挙げた化合物に制限されるものではなく、これらの1種を単独で用いても、又は2種以上を用いても良い。
【0029】
〔洗浄溶液〕
本件発明に係る洗浄溶液は、アルカリエッチング溶液でアルミニウム、アルミニウム合金表面に置換析出した銀を酸化して溶解するものである。置換析出した銀を除去することによって、アルミニウム、アルミニウム合金表面が、細かい凹凸状となる。当該洗浄溶液が含有する酸化剤としては、硝酸、硝酸鉄、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素などが挙げられる。特に、銀の酸化剤としては硝酸、硝酸鉄及び過硫酸塩の群より選択される1種以上であることが好ましい。これらの酸化剤を用いた洗浄溶液中では、アルミニウムは表面に不働態を形成し、過度に侵食されないからである。
【0030】
上述の酸化剤の濃度は、1g/L以上500g/L以下であることが好ましい。酸化剤の濃度が1g/L未満であると、形成されたニッケルめっき膜にノジュールの発生がみられ、密着性が低下し、皮膜外観が悪化するため好ましくない。また、酸化剤の濃度が500g/Lを超えても洗浄溶液として使用可能ではあるが、必要以上の酸化剤は無駄になってしまうことから好ましくない。
【0031】
〔めっき前処理方法〕
本件発明に係るアルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法の工程について説明する。このめっき前処理工程では、脱脂処理を施し、その後、脱脂処理に用いた薬剤を洗い落とすために水洗した、アルミニウムやアルミニウム合金を用いる。このアルミニウムやアルミニウム合金を、上述のアルカリエッチング溶液に浸漬する。これを本件発明ではエッチング工程と呼ぶ。このとき、アルカリエッチング溶液の液温は特に制限されないが、例えば、20~80℃の範囲とするのが好ましい。液温が20℃未満であると、アルミニウムやアルミニウム合金表面の酸化皮膜を溶解できない場合があり、好ましくない。液温が80℃を超えると、アルミニウムやアルミニウム合金が溶出することがあるため、好ましくない。
【0032】
アルカリエッチング溶液への浸漬時間は特に制限されず、処理対象であるアルミニウムやアルミニウム合金の表面状態、例えばアルミニウム酸化皮膜の膜厚等に基づいて、適切に設定することができる。通常は、10秒以上300秒以下であるのが好ましい。浸漬時間が10秒未満の場合は、アルミニウムやアルミニウム合金表面の酸化皮膜を十分に溶解することができないため、好ましくない。浸漬時間が300秒を超えると、アルミニウムやアルミニウム合金が溶出することがあるため、好ましくない。
【0033】
エッチング工程の後、エッチング工程で用いたアルカリエッチング溶液を洗い落とすために水洗する。その後、アルミニウムやアルミニウム合金を、上述の洗浄溶液に浸漬する。これを、本件発明ではコンディショニング工程と呼ぶ。このとき、洗浄溶液の液温は特に制限されないが、例えば、15℃以上80℃以下とするのが好ましい。液温が15℃未満であると、エッチング工程で置換析出させた銀を十分に溶解できない場合があり、好ましくない。液温が80℃を超えると、腐食性のあるミストが発生するおそれがあることに加え、経済的ではないため好ましくない。
【0034】
洗浄溶液への浸漬時間は特に制限されず、処理対象であるアルミニウムやアルミニウム合金の表面状態、例えばエッチング工程で置換析出させた置換銀皮膜の膜厚等に基づいて、適切に設定することができる。通常は、5秒以上300秒以下であるのが好ましい。浸漬時間が5秒未満の場合は、置換銀を十分に溶解することができないため、好ましくない。浸漬時間が長過ぎることによる弊害は特にないが、生産性を考慮した場合、その浸漬時間は短い方が好ましく、300秒以下とするのが良い。
【0035】
コンディショニング工程の後は、コンディショニング工程で用いた洗浄溶液を洗い落とすために水洗する。その後、ジンケート処理(ダブルジンケート処理)、無電解ニッケルめっきを施すことができる。
【0036】
以上説明した本件発明に係る実施の形態は、本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、以下実施例を挙げて本件発明をより具体的に説明するが、本件発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
実施例1では、結晶配向面の(100)面と(111)面とが混在するアルミニウム板に、脱脂工程、エッチング工程、コンディショニング工程、第1亜鉛置換工程、亜鉛剥離工程、第2亜鉛置換工程、無電解ニッケルめっき工程の各工程を順に施した。このとき、各工程で用いた溶液の組成もしくは製品名を表1に示す。なお、実施例1のエッチング工程で用いるアルカリエッチング溶液は、pH調整剤を用いてpH=8.5に調整した。そして、表1に示す浴温度、処理時間で各工程の処理を実施した。また各工程の間には1分間の水洗工程を設けた。
【0038】
【表1】
【実施例2】
【0039】
エッチング工程で用いるアルカリエッチング溶液のpH値を、pH=9.0に調整した以外は、実施例1と同じにして、アルミニウム板に、脱脂工程、エッチング工程、コンディショニング工程、第1亜鉛置換工程、亜鉛剥離工程、第2亜鉛置換工程、無電解ニッケルめっき工程の各工程を順に施した。
【実施例3】
【0040】
エッチング工程で用いるアルカリエッチング溶液のpH値を、pH=9.5に調整した以外は、実施例1と同じにして、アルミニウム板に、脱脂工程、エッチング工程、コンディショニング工程、第1亜鉛置換工程、亜鉛剥離工程、第2亜鉛置換工程、無電解ニッケルめっき工程の各工程を順に施した。
【実施例4】
【0041】
エッチング工程で用いるアルカリエッチング溶液のpH値を、pH=9.75に調整した以外は、実施例1と同じにして、アルミニウム板に、脱脂工程、エッチング工程、コンディショニング工程、第1亜鉛置換工程、亜鉛剥離工程、第2亜鉛置換工程、無電解ニッケルめっき工程の各工程を順に施した。
【比較例】
【0042】
〔比較例1〕
エッチング工程で用いるアルカリエッチング溶液において、銀イオンを供給する硝酸銀の代わりに、亜鉛イオン換算で30mg/Lとなるよう硫酸亜鉛7水和物を用いて調製した。また、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウムは不使用とした。そして、アルカリエッチング溶液のpH値を、pH=9.75に調整した。上述した以外は、実施例1と同じにして、アルミニウム板に、脱脂工程、エッチング工程、コンディショニング工程、第1亜鉛置換工程、亜鉛剥離工程、第2亜鉛置換工程、無電解ニッケルめっき工程の各工程を順に施した。
【0043】
〔比較例2〕
エッチング工程で用いるアルカリエッチング溶液において、銀イオンを供給する硝酸銀の代わりに、銅イオン換算で30mg/Lとなるよう硫酸銅5水和物を用いて調製した。用いた。また、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウムは不使用とした。そして、アルカリエッチング溶液のpH値を、pH=9.75に調整した。上述した以外は、実施例1と同じにして、アルミニウム板に、脱脂工程、エッチング工程、コンディショニング工程、第1亜鉛置換工程、亜鉛剥離工程、第2亜鉛置換工程、無電解ニッケルめっき工程の各工程を順に施した。
【0044】
〔比較例3〕
エッチング工程で用いるアルカリエッチング溶液において、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウムは不使用とした。そして、アルカリエッチング溶液のpH値を、pH=10.0に調整した。上述した以外は、実施例1と同じにして、アルミニウム板に、脱脂工程、エッチング工程、コンディショニング工程、第1亜鉛置換工程、亜鉛剥離工程、第2亜鉛置換工程、無電解ニッケルめっき工程の各工程を順に施した。
【0045】
〔比較例4〕
エッチング工程で用いるアルカリエッチング溶液において、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウムは不使用とした。そして、アルカリエッチング溶液のpH値を、pH=10.5に調整した。上述した以外は、実施例1と同じにして、アルミニウム板に、脱脂工程、エッチング工程、コンディショニング工程、第1亜鉛置換工程、亜鉛剥離工程、第2亜鉛置換工程、無電解ニッケルめっき工程の各工程を順に施した。
【0046】
〔比較例5〕
エッチング工程で用いるアルカリエッチング溶液において、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウムは不使用とした。そして、アルカリエッチング溶液のpH値を、pH=11.0に調整した。上述した以外は、実施例1と同じにして、アルミニウム板に、脱脂工程、エッチング工程、コンディショニング工程、第1亜鉛置換工程、亜鉛剥離工程、第2亜鉛置換工程、無電解ニッケルめっき工程の各工程を順に施した。
【0047】
〔比較例6〕
エッチング工程で用いるアルカリエッチング溶液において、錯化剤のエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムは不使用とした。そして、アルカリエッチング溶液のpH値を、pH=9.75に調整した。上述した以外は、実施例1と同じにして、アルミニウム板に、脱脂工程、エッチング工程、コンディショニング工程、第1亜鉛置換工程、亜鉛剥離工程、第2亜鉛置換工程、無電解ニッケルめっき工程の各工程を順に施した。
【0048】
〔比較例7〕
エッチング工程で用いるアルカリエッチング溶液において、錯化剤として、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウムの代わりに、5,5-ジメチルヒダントインを0.5g/L用いた。そして、アルカリエッチング溶液のpH値を、pH=9.75に調整した。上述した以外は、実施例1と同じにして、アルミニウム板に、脱脂工程、エッチング工程、コンディショニング工程、第1亜鉛置換工程、亜鉛剥離工程、第2亜鉛置換工程、無電解ニッケルめっき工程の各工程を順に施した。
【0049】
〔比較例8〕
エッチング工程で用いるアルカリエッチング溶液において、錯化剤として、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウムの代わりに、コハク酸イミドを0.5g/L用いた。そして、アルカリエッチング溶液のpH値を、pH=9.75に調整した。上述した以外は、実施例1と同じにして、アルミニウム板に、脱脂工程、エッチング工程、コンディショニング工程、第1亜鉛置換工程、亜鉛剥離工程、第2亜鉛置換工程、無電解ニッケルめっき工程の各工程を順に施した。
【0050】
〔比較例9〕
エッチング工程で用いるアルカリエッチング溶液において、銀イオンを供給する硝酸銀の濃度を10mg/Lとし、炭酸水素ナトリウムは不使用とした。そして、錯化剤として、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウムの代わりに、ニトリロ三酢酸を10g/L、5,5-ジメチルヒダントインを1g/L、ポリオキシエチレンエーテルを1g/L用いた。また、アルカリエッチング溶液のpH値を、水酸化第4級アンモニウム化合物(TMAH)を用いて、pH=12.8に調整した。エッチング工程の浴温度は60℃、処理時間は60秒とした。上述した以外は、実施例1と同じにして、アルミニウム板に、脱脂工程、エッチング工程、コンディショニング工程、第1亜鉛置換工程、亜鉛剥離工程、第2亜鉛置換工程、無電解ニッケルめっき工程の各工程を順に施した。
【0051】
〔評価結果〕
実施例1~実施例4、比較例1~比較例9の各工程を施したアルミニウム板において、エッチング工程におけるアルミニウムのエッチング量と、エッチング工程における添加金属の析出性を評価した。また、エッチング工程におけるアルカリエッチング溶液の浴安定性についても評価した。
【0052】
アルミニウムのエッチング量は、アルカリエッチング溶液に浸漬する前と後の、結晶配向面の(100)面と(111)面とが混在するアルミニウム板の重量をそれぞれ計測し、その重量差から算出した。アルミニウム素材のエッチング量が0.1μm以下を、良好である判定基準とした。添加金属の析出性は、無電解ニッケルめっきを行った後のアルミニウム板の表面を観察して判断した。具体的には、アルミニウム板の全面にニッケルめっき皮膜が形成されている場合を良好(Good)とし、ニッケルめっき皮膜が形成されていない(すなわち、アルカリエッチング溶液の添加金属である銀の置換抜けが生じている)場所を確認した場合を不良(Bad)とした。浴安定性の評価は、各実施例、比較例のアルカリエッチング溶液を入れたビーカーへアルミニウム板を浸漬し、1dm/L(アルカリエッチング溶液1Lあたり、アルミニウム板の1dmの面積を処理)の負荷量で5分間処理した。そして、処理後にアルカリエッチング溶液に沈殿が発生しなければ良好(Good)とし、沈殿が発生した場合を不良(Bad)とした。評価結果を表2に示す。各評価項目の結果を受けて、総合的に良否を判断した結果を判定欄に記した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2から、本件発明に係るアルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法は、pHが8以上10以下であることによって、水酸化第4級アンモニウム化合物のような過度のエッチングを抑制するための化合物をアルカリエッチング溶液に含有しなくても、アルミニウム素材の侵食量が0.1μm以下であった。したがって、処理対象であるアルミニウム素材の膜厚が薄い場合であっても、当該めっき前処理方法を適用することができることを確認した。
【0055】
さらに、表2に示す結果から、当該めっき前処理方法は、アルミニウム素材の特定の結晶配向面((100)面)でも添加金属が置換され、いかなる結晶配向面に対しても添加金属の置換抜けが発生しないことを確認した。実施例4におけるニッケルめっき皮膜の外観写真を図1に示す。実施例4のアルカリエッチング溶液を用いて処理した場合のニッケルめっき皮膜は、(100)面であってもノジュールの発生が無く、いかなる結晶配向面に対しても添加金属の置換抜けが発生しなかった。一方、比較例2におけるニッケルめっき皮膜の外観写真を図2に示す。比較例2のアルカリエッチング溶液を用いて処理した場合のニッケルめっき皮膜は、(100)面において添加金属がまばらに析出し、全面析出が得られなかった。
【0056】
そして、表2に示す結果から、当該めっき前処理方法に用いたアルカリエッチング溶液は、浴安定性が高いことも明らかとなった。すなわち、当該めっき前処理方法を採用することによって、ジンケート処理前の、めっき前処理工程を、いかなる結晶配向面に対しても均一に安定して行うことができる。そして、その後、ジンケート処理を経て形成されたニッケルめっき皮膜は、ノジュールの発生がなく、良好な密着性や皮膜外観をもつものとなることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本件発明に係るアルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法は、アルミニウム素材の特定の結晶配向面((100)面)でも添加金属が置換され、いかなる結晶配向面に対しても添加金属の置換抜けが発生せず、かつ、浴安定性が高い。したがって、ジンケート処理前の、めっき前処理工程を、均一に安定して行うことができる。したがって、その後ジンケート処理を経て形成されたニッケルめっき膜は、ノジュールの発生がなく、良好な密着性や皮膜外観をもつものとなる。さらに、当該めっき前処理方法は、アルミニウム素材の侵食量が0.1μm以下であるため、処理対象であるアルミニウム素材の膜厚が薄い場合であっても、当該めっき前処理方法を適用することができる。すなわち、本件発明に係るアルミニウムおよびアルミニウム合金のめっき前処理方法は、半導体デバイス最外層の接続用のアルミニウムやアルミニウム合金からなる電極への無電解ニッケルめっき、置換金めっき等を施すためのジンケート処理の前処理に好適である。
図1
図2