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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】自己洗浄コーティング
(51)【国際特許分類】
   B05D 5/00 20060101AFI20240110BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20240110BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20240110BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240110BHJP
   B01J 23/52 20060101ALI20240110BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240110BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20240110BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20240110BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240110BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240110BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B05D5/00 H
B01J35/02 J
B01J37/02 301D
B01J37/08
B01J23/52 M
B05D7/24 303B
B05D3/02 Z
C09D1/00
C09D7/61
C09D7/20
C09D5/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020524453
(86)(22)【出願日】2018-11-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-21
(86)【国際出願番号】 EP2018079983
(87)【国際公開番号】W WO2019086594
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-08-30
(31)【優先権主張番号】17199799.2
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510214573
【氏名又は名称】ユニフェルシテイト アントウェルペン
【氏名又は名称原語表記】Universiteit Antwerpen
【住所又は居所原語表記】Prinsstraat 13,Antwerpen,BELGIUM
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】マールテン・クーレマンス
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィア・レナールツ
(72)【発明者】
【氏名】サミー・フェルブルッヘン
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-520758(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0262806(US,A1)
【文献】R. S. Sonawane et al., Journal of Molecular Catalysis A: Chemical, 2006, Vol.243, p.68-76
【文献】Betul Akkopru Akgun et al., J. Sol-Gel Sci Technol, 2011, Vol.58, p.277-289
【文献】BUSO, Dario et al., Adv. Funct. Mater., 2007, Vol.17, p.347-354
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J,B05D,B32B,C09D
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己洗浄コーティングを形成するための方法であって、
a.有機媒体中に3nm~200nmのサイズを有するプラズモニックナノ粒子を懸濁することによって、プラズモニックナノ粒子を含む第1の分散体を提供することと、
b.有機媒体中に光触媒マトリックスの前駆体を含む第2の分散体を提供することと、
c.前記第1および第2の分散体の混合物を形成することと、
d.前記混合物を表面にコーティングすることと、
e.前記コーティングした混合物を焼成することと、を含み、
前記プラズモニックナノ粒子が、前記有機溶剤中に懸濁する前に、安定化剤によってキレート化され、それにより分散体が安定し、前記安定化剤が、前記有機溶剤の前記プラズモニックナノ粒子の前記分散体を安定させるのに適している、方法。
【請求項2】
前記プラズモニックナノ粒子が、貴金属を含み、および/または前記光触媒マトリックスの前記前駆体が、TiOの前駆体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1および第2の分散体の前記混合物を形成する工程cが、ゾルを形成することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記混合物を表面にコーティングする工程dが、ウェットコーティング技法を適用することを含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記コーティングした混合物を焼成する工程eが、前記コーティングした混合物を、300℃~800℃の温度に加熱することを含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記第2の分散体が、有機溶剤をさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記第1の溶液が、酸をさらに含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己洗浄コーティングに関し、具体的には、自己洗浄作用が光触媒プロセスを含むそのようなコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
これから数十年にわたって我々の社会において主要な取り組みの1つは、我々の環境内の複数の種類の廃棄物、すなわち、エネルギーの生成および輸送による汚染物質、食物の生産に使用される除草剤および農薬、尿からの医薬、包装材からのプラスチック、工業で生成される廃棄物などに、どのように対処するかということである。これらの分子の多くは、空気および水の流れを汚染するので、環境への相当な影響を有する。これは、野生生物に対する大きな影響を有するだけでなく、人間の健康にも相当な影響を与え、同様に、地球温暖化、オゾン層破壊、またはスモッグ発生となる要因などの環境影響も有する。したがって、空気および水の流れから汚染物質を除去するための材料に対する必要性が存在する。
【0003】
このような状況において、半導体TiO(二酸化チタン、チタニア)は、豊富であり、安価であり、無毒であり、生体適合性があり、広いpH範囲において化学的に安定しており、また、有望な(光)触媒特性を呈するので、非常に魅力的である。特に光触媒として、TiOは、例えば太陽照射の下で有機分子をCOおよび水に分解することができるので、環境に優しい化学にとって非常に興味深い。
【0004】
TiOが自己洗浄用途に向けて使用するときには、太陽光を使用して表面から汚染物質を除去することができる薄膜を、数ナノメートル~数マイクロメートルの範囲で、基材上に堆積させる。スパッタリング、ゾルゲルプロセス、熱的方法、および化学蒸着(CVD)などの、TiO薄膜を得るための異なる方法が存在する。これらの技法のうち、ゾルゲル法は、非常に容易であり、付加的な熱処理工程後に引き続いて結晶化されるTiO前駆体分子を含有する液体溶液をスピンコーティングまたはディップコーティングすることを介して、様々な基材上に容易に行うことができる。
【0005】
TiOには、触媒として2つの大きな欠点、すなわち、高い再結合率(約90%)により、反応に関与することができる電子および正孔がより少なくなり、したがって活性がより少なくなること、ならびにそのバンドギャップ(3.2eV)が広いこと、がある。広バンドギャップは、UV光(太陽スペクトルの4%)のみを使用して電子を価電子帯から伝導帯へと励起し、一方で、太陽光の可視部分(太陽スペクトルの約50%)が未使用のままであることを意味する。
【0006】
吸収問題に対処する1つの方法は、金属ナノ粒子を有するTiOの表面を官能化することであり、例えば、Zhengら(2006)(Zheng,Nanfeng and Galen D.Stucky.「A general synthetic strategy for oxide-supported metal nanoparticle catalysts」.Journal of the American Chemical Society 128.44(2006):14278~14280)によって、およびTanakaらのLangmuir(2012)28の13105~13111ページの「Gold-titanium(IV)oxide plasmonic photocatalysts prepared by a colloid-photodeposition method:Correlation between physical properties and photocatalytic activities」によって説明されているような方法を使用する。金属ナノ粒子は、TiOの有効吸収範囲を拡張することによって、下層の材料の光触媒特性を向上させることができる。しかしながら、複数の問題点がこの手法と関連付けられる。第1に、金属ナノ粒子は、TiO表面にわずかしか吸着しない場合があり、したがって、容易に脱離する場合がある。第2に、金属ナノ粒子が曝露され、したがって環境(例えば、汚染物質)中の化合物と反応しやすく、それによって、それらの化学的性質を変化させる。第3に、金属ナノ粒子とTiOとの有益な相互作用は、頂部のTiO層に限られ、材料の大部分を通して存在していない。第4に、金属ナノ粒子は、光触媒材料から貴重な表面積を取り上げる。他の触媒反応と同様に、分解反応が触媒の表面で進行する。したがって、比表面積を最大にすることは、反応を行わせるためにより多くの表面を利用できるので、材料の活性を増加させる。利用できる表面積は、特定の時間フレーム内で分解することができる汚染物質の量を決定する際に、しばしば主要な役割を果たす。
【0007】
したがって、当技術分野には、より良好な自己洗浄コーティングに対する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、光触媒自己洗浄である良好なコーティングおよび当該コーティングを備える物品を提供することである。本発明のさらなる目的は、当該コーティングを形成するための良好な方法を提供することである。上記の目的は、本発明による方法および装置よって達成される。
【0009】
本発明の実施形態の利点は、利用される電磁スペクトルの範囲を拡張することによって、光触媒材料の自己洗浄特性を向上させることができることである。
【0010】
本発明の実施形態の利点は、プラズモニックナノ粒子を光触媒材料と強固に一体化することができることである。
【0011】
本発明の実施形態の利点は、光触媒ナノ粒子を保護することができることである。
【0012】
本発明の実施形態の利点は、光触媒マトリックスが、UV光の吸収に基づく良好な光触媒特性を有することができることである。本発明の実施形態のさらなる利点は、自己洗浄コーティングを透明にすることができることである。
【0013】
本発明の実施形態の利点は、光触媒自己洗浄が、高い親水性または疎水性の表面に基づく自己洗浄によって補充され得ることである。
【0014】
本発明の実施形態の利点は、利用される電磁スペクトルの範囲を拡張して、実質的に電磁スペクトルの可視範囲全体を含むことができることである。
【0015】
本発明の実施形態の利点は、物品の表面を、自己洗浄特性を有するものにすることができることである。本発明の実施形態のさらなる利点は、自己洗浄コーティングを様々な表面に容易に提供することができることである。本発明の実施形態のなおさらなる利点は、自己洗浄コーティングを比較的経済的な方法で表面に提供することができることである。
【0016】
本発明の実施形態の利点は、プラズモニックナノ粒子を最終自己洗浄コーティング内に十分に分散させることができることである。
【0017】
本発明の実施形態の利点は、自己洗浄コーティングを比較的簡単に生成することができることである。
【0018】
本発明の実施形態の利点は、自己洗浄コーティングを比較的経済的な方法で形成することができることである。
【0019】
本発明の実施形態の利点は、形成方法を十分に制御することができることである。本発明の実施形態のさらなる利点は、自己洗浄コーティングの形成を、十分に研究されたゾルゲルプロセスを使用して達成することができることである。
【0020】
本発明の実施形態の利点は、プラズモニックナノ粒子を有機溶剤分散液中で十分に安定させることができることである。
【0021】
本発明の実施形態の利点は、形成方法が、酸または塩基で触媒することができることである。
【0022】
本発明の実施形態の利点は、多段階プロセスでナノ粒子を光触媒表面に堆積させる「従来の方法」とは対照的に、TiOゾルゲル合成プロセス中にナノ粒子を二酸化チタン前駆体と混合して均一に分散させて、結果として生じるTiOマトリックス中に完全に組み込ませることである。これは、ナノ粒子をTiOマトリックス中に組み込むといった、自己洗浄活性に有益な効果をもたらす。
【0023】
本発明の実施形態の利点は、UV光が半導体内の電子-正孔対励起を誘発し、一方で、ナノ粒子が単に不活性電子シンクとして作用し、より少ない再結合イベントをもたらすが、さらにまた、可視光照明下のAu/TiO複合体の場合、プラズモン励起したナノ粒子からTiOの伝導帯への直接の電子注入もまた重要な役割を果たすことである。
【0024】
本発明の実施形態の利点は、ナノ粒子と半導体との直接接触が、生じ得るエネルギー伝達プロセスの両方を向上させることである。本発明の実施形態の利点は、ナノ粒子をTiOマトリックス中に部分的または完全に組み込むことによって、かなり高い光触媒活性につながり得る接触界面が大幅に増加することである。加えて、本発明の実施形態に従ってナノ粒子を剛性マトリックス中に部分的または完全に組み込むことは、それらを堆積前の試料の処理または光触媒試験中に化学腐食、再形成、凝集、および脱離から保護し、それによって、複合システム全他の安定性を高める。
【0025】
本発明の少なくともいくつかの実施形態の利点は、ナノ粒子が、最初に、バッチシステムで別個に調製され、その後にナノ粒子がゾルゲルプロセス(エクスシトゥ法)で導入されることである。
【0026】
本発明の実施形態の利点は、エクスシトゥ法が、想定された必要性に合わせて調整されるナノ粒子特性の正確かつ精密な制御を可能にすることである。
【0027】
第1の態様において、本発明は、自己洗浄コーティングを形成するための方法に関し、本方法は、
有機媒体中にプラズモニックナノ粒子を含む第1の分散体を提供することと、
有機媒体中に光触媒マトリックスの前駆体を含む第2の分散体を提供することと、
第1および第2の分散体の混合物を形成することと、
混合物を表面にコーティングすることと、
コーティングした混合物を焼成することと、を含む。
【0028】
第1の分散体を提供する工程は、プラズモニックナノ粒子を有機溶剤中に分散させることを含むことができる。
【0029】
プラズモニックナノ粒子は、有機溶剤中に懸濁する前に、安定化剤によってキレート化することができ、安定化剤は、有機溶剤中のプラズモニックナノ粒子の分散体を安定させるのに適している。プラズモニックナノ粒子は、有機媒体中に分散させる前に、最初に、水性媒体中に作製し、次いで、安定化剤によってキレート化することができる。
【0030】
プラズモニックナノ粒子は、貴金属を含むことができ、および/または光触媒マトリックスの前駆体は、TiOの前駆体である。
【0031】
第1および第2の分散体の混合物を形成する工程は、ゾルを形成することを含むことができる。
【0032】
混合物を表面にコーティングする工程は、ウェットコーティング技法を適用することを含むことができる。
【0033】
コーティングされた混合物を焼成する工程は、コーティングされた混合物を、300℃~800℃、例えば450℃~650℃、好ましくは500℃~600℃の温度に加熱することを含むことができる。
【0034】
第2の分散体は、有機溶剤中に分散させることをさらに含むことができる。
第1の溶液は、酸をさらに含むことができる。
【0035】
第2の態様において、本発明は、光触媒マトリックス、および光触媒マトリックス中に組み込まれたプラズモニックナノ粒子を含む、自己洗浄コーティングに関する。本発明による自己洗浄コーティングは、第1の態様の実施形態による方法を使用して作製される。
【0036】
プラズモニックナノ粒子は、0.01%~3%の重量濃度でコーティング中に存在することができる。
【0037】
コーティングは、少なくとも50%の透過率を有することができる。
【0038】
光触媒マトリックスは、TiOを含むことができ、またはそれで構成することができる。
【0039】
プラズモニックナノ粒子は、貴金属を含むことができ、またはそれで構成することができる。
【0040】
貴金属は、Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Re、およびCuのリストから選択することができる。
【0041】
コーティングは、25nmよりも大きい、好都合には40nmよりも大きい厚さを有することができる。
【0042】
コーティングのAFM測定における算術平均高さは、1.5nm未満であり得る。
【0043】
第3の態様において、本発明は、自己洗浄表面を有する物品に関し、当該物品は、少なくとも1つの表面と、表面を覆う第2の態様の任意の実施形態において定義される自己洗浄コーティングの層と、を備える。
【0044】
第4の態様において、本発明は、当該光触媒マトリックスの自己洗浄特性を強化するための、光触媒マトリックス中に組み込まれたプラズモニックナノ粒子の使用に関する。この使用は、物品の自己洗浄特性を強化するために、第2の態様による層を物品に使用することができる。
【0045】
本発明の特定の好ましい態様は、添付の独立請求項および従属請求項に記載される。従属請求項からの特徴は、必要に応じて、単に請求項に明示的に記載されているだけでなく、独立請求項の特徴と組み合わせることができ、また、他の従属請求項の特徴と組み合わせることができる。
【0046】
本技術分野には、絶え間のない改善、変更、および発展が存在しているが、本発明の概念は、従来の実践からの逸脱を含む実質的に新しい、新規な改善を表すものであり、より効果的で、安定した、信頼性の高い、この類の装置を提供するものと考えられる。
【0047】
本発明の上記および他の特性、特徴、および利点は、一例として本発明の原理を例示する添付図面と併せてなされる以下の詳細な説明から明らかになるであろう。この説明は、本発明の範囲を限定することなく、例示のためにのみ与えられる。下で引用する参照図は、添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明の一実施形態による、エクスシトゥ合成手順の概略的な表現を示す図であり、当該手順によって、プラズモン改質透明薄膜を得るために、ナノ粒子合成が、ゾルゲル法から分離される。
図2】試料距離において収集した、異なる光源の絶対放射照度スペクトルを例示する図である。暗線=UVA、明灰色曲線=100mW/cmに設定したAM1.5フィルタを使用した疑似太陽光。
図3】本発明の実施形態において使用することができる、リガンド交換前(暗灰色線)およびリガンド交換後(明灰色線)の、19nmのコロイド金懸濁液の正規化したUV-VIS吸収スペクトルを例示する図である。挿入画には、吸収ピークのわずかな赤方偏移を視認することができ、これは、クエン酸がPVPと置き換えられたことを示している。
図4】本発明の実施形態による、コーティングされたガラススライドの写真である。比較のため、下半分のみコーティングしている。
図5】本発明の実施形態において使用することができるシリコン(黒丸)およびガラス基板(白丸)のフィルム厚さに対する(a)粘度(1500rpmでスピンコーティングしたもの)および(b)スピンコーティング速度(4.5cpの粘度)の影響を例示する図である。全ての粘度は、12rpmのスピンドル速度で決定した。フィルム厚さは、偏光解析法によって測定した。
図6】本発明の実施形態の利点を例示する、(a)UVA、および(b)AM1.5の疑似太陽光照明の下での、未改質の薄膜に関する異なる担持量による、組み込まれたAu/TiO試料の相対的な向上を示す図である。
図7】本発明の実施形態の利点を例示する、光源としてAM1.5フィルタを装備した300WのXeアーク放電ランプによる、100mW/cm-2での異なるコーティングおよびベンチマーク試料のステアリン分解結果を示す図である。
図8】本発明の実施形態の利点を例示する、調製した試料およびベンチマーク材料の透明度を示す図である。
図9】剥き出しのBorofloat基材の、Sonawaneらによって開示されている方法に従って行った0.5重量%のAu-TiOコーティング、および本発明の一実施形態による0.5重量%のAu-TiOコーティングのAFM測定を例示する図である。
図10】本発明の一実施形態によるコーティング、およびSonawaneらによって開示されている方法に従って行ったコーティング、を使用したステアリン酸の分解を例示する図である。
【0049】
異なる図において、同じ参照符号は、同じまたは類似する要素を指す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明は、特定の実施形態に関して、ある特定の図面を参照して説明されるが、本発明は、それらに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってだけ限定されるものである。記載されている図面は、概略的なものに過ぎず、限定的なものではない。図面において、要素のいくつかのサイズは、説明の目的で誇張され、一定の縮尺で描画されない場合がある。寸法および相対寸法は、本発明の実施に対する実際の縮小に対応していない。
【0051】
さらにまた、説明および特許請求の範囲における第1の、第2の、第3の、および同類の用語は、類似する要素を区別するために使用されるものであり、必ずしも時間的、空間的、ランキング、または任意の他の様態で順序を説明するためのものではない。そのように使用される用語は、適切な条件下で交換可能であること、および本明細書で説明される本発明の実施形態が、本明細書で説明または例示されるもの以外の他の順序での動作が可能であることを理解されたい。
【0052】
その上、説明および特許請求の範囲における頂部、下部、および同類の用語は、説明の目的で使用されるものであり、必ずしも相対位置を説明するためのものではない。そのように使用される用語は、適切な条件下でそれらの反意語と交換可能であること、および本明細書で説明される本発明の実施形態が、本明細書で説明または例示されるもの以外の他の配向での動作が可能であることを理解されたい。
【0053】
特許請求の範囲で使用される「備える(comprising)」という用語は、その後に列記された手段に限定されるように解釈されるべきでないことに留意すべきであり、他の要素または工程を排除しない。したがって、言及されているように、述べられている特徴、整数、工程、または構成要素の存在を特定するように解釈されるべきであり、1つ以上の他の特徴、整数、工程、もしくは構成要素、またはそれらの群の存在または追加を排除しない。したがって、「手段AおよびBを備えるデバイス」という表現の範囲は、構成要素AおよびBのみからなる装置に限定されるべきでない。それは、本発明に関して、装置の唯一の関連する構成要素がAおよびBであることを意味する。
【0054】
本明細書の全体を通して「1つの実施形態(one embodiment)」または「一実施形態(an embodiment)」に言及することは、その実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書の全体を通して種々の場所における「1つの実施形態において(in one embodiment)」または「一実施形態において(in an embodiment)」という句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態に言及するものではないが、その場合もある。さらにまた、特定の特徴、構造、または特性は、1つ以上の実施形態において、本開示から当業者に明らかになるような、任意の適切な方法で組み合わせられ得る。
【0055】
同様に、本発明の例示的な実施形態の説明において、本発明の種々の特徴が、あるときには、本開示を合理化し、また、種々の本発明の態様の1つ以上の理解を支援する目的で、単一の実施形態、図、またはその説明にグループ化されることを認識されたい。しかしながら、本開示の方法は、特許請求される発明が、各請求項において明示的に記載されるよりも多い特徴が必要であるという意図を反映したものと解釈されない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、発明の態様は、単一の上で開示された実施形態の全ての特徴よりも少ないものに存する。したがって、詳細な説明に続く特許請求の範囲は、この詳細な説明に明示的に組み込まれ、各請求項は、本発明の別個の実施形態としてそれ自体で成立する。
【0056】
さらに、本明細書で説明されるいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴は含むが、他の特徴は含まず、当業者によって理解されるように、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内であることを意味し、異なる実施形態を形成する。例えば、以下の特許請求の範囲において、特許請求される実施形態のいずれも、任意の組み合わせで使用することができる。
【0057】
さらにまた、実施形態のいくつかは、コンピュータシステムのプロセッサによって、または機能を実行する他の手段によって実施することができる方法または方法の要素の組み合わせとして本明細書に記載されている。したがって、そのような方法または方法の要素を実施するための必要な命令を有するプロセッサは、方法または方法の要素を実行するための手段を形成する。さらにまた、装置の実施形態の本明細書で説明される要素は、本発明を実行する目的で、要素によって行われる機能を実行する手段の一例である。
【0058】
本明細書で提供される説明では、多数の特定の詳細が記載される。しかしながら、本発明の実施形態は、これらの具体的な詳細を伴わずに実践され得ることを理解されたい。他の事例では、この説明の理解を不明瞭にしないために、よく知られている方法、構造、および手法は、詳細に示されていない。
【0059】
第1の態様において、本発明は、光触媒マトリックスを含む自己洗浄コーティング、および光触媒マトリックス中に組み込まれたプラズモニックナノ粒子に関する。
【0060】
光触媒マトリックスは、典型的に、プラズモニックナノ粒子を組み込むことができ、かつ望ましくない汚染物質を光触媒分解する(degrade)(例えば、分解する(decompose))ことができる材料である。実施形態において、自己洗浄コーティングは、少なくとも1つの汚染物質を分解するのに適し得る。実施形態において、汚染物質は、有機化合物(例えば、揮発性有機化合物)、無機化合物(例えば、窒素酸化物)、または微生物(例えば、細菌、真菌、ウイルス、または寄生虫)であり得る。実施形態において、汚染物質は、流体中に、例えば、液体中に、または気体中に存在し得る。自己洗浄コーティングは、気体環境(例えば、空気)中で使用することができ、および/または液体(例えば、廃水などの水)中に浸漬することができる。自己洗浄コーティングは、屋外で、例えば、環境汚染物質を分解する、または窓、壁、もしくは屋根を汚れのない状態に保つために有用であり得る。同様に、自己洗浄コーティングはまた、屋内で、例えば、魚槽の窓を汚れおよび藻のない状態に保つ、タバコの煙を分解する、または抗菌特性を(例えば、病院の)壁、ドア、ハンドルなどに提供するためにも有用であり得る。
【0061】
理論に束縛されるものではないが、光触媒マトリックスの光励起は、汚染物質を伴う分解反応を促進すると考えられる。これらの分解反応は、酸素または水などの環境中の他の反応物質をさらに含むことができる。例えば、エネルギー伝達は、光触媒マトリックスにおける光励起から酸素へと生じる場合があり、高反応性酸素種(例えば、酸素ラジカル)の形成をもたらす。次いで、これらの高反応性酸素種は、汚染物質または中間分解生成物と次々に反応して、さらなる分解生成物を形成する。実施形態において、少なくとも1つの汚染物質を分解することは、一連の酸化工程を含み得る。完全に分解した汚染物質の分解生成物は、例えば、二酸化炭素および水を含み得る。
【0062】
実施形態において、自己洗浄コーティングは、高親水性表面または高疎水性表面を有することができる。高親水性表面は、例えば、45°以下、好ましくは30°以下、より好ましくは20°以下の静的水接触角を特徴とすることができる。高疎水性表面は、例えば、135°以上、好ましくは150°以上、より好ましくは160°以上の静的水接触角を特徴とすることができる。高親水性表面または高疎水性表面は、典型的に、水(例えば、雨)と結合して、表面への汚染物質(例えば、汚れ)の蓄積を防止し、汚染物質を(例えば、雨によって)容易に洗い流させることによって、自己洗浄の代替形態を提供する。高親水性表面の場合は、水のシーティングが汚染物質を取り除くことができる。反対に、高疎水性表面の場合は、水滴が転がることによって汚染物質を取り除くことができる。さらにまた、自己洗浄のこの代替形態は、光触媒自己洗浄と互換性があり、したがって、それに加えて提供することができる。
【0063】
実施形態において、光触媒マトリックスは、TiOを含むことができるが、ZnO、WO、CdSなど、またはこれらの組み合わせのような、任意の他の光触媒を含むことができる。TiOは、好都合に、良好な光触媒特性を有することが知られている。さらに、TiOは、UV範囲内の光を吸収し、それによって、好都合に可視光に対して透明である自己洗浄コーティング中のマトリックスとして機能することを可能にする。これは、自己洗浄コーティングが、好ましくは透明である表面(窓の窓ガラスまたはソーラーパネルなどの上)に適用されるものである場合、ならびにコーティングによる表面の外観の変化(例えば、変色)が望ましくない場合、の両方で、多くの応用例において有用な特性である。したがって、プラズモニックナノ粒子を導入することによって、コーティングは、実質的に透明なままであるが、典型的には特定の色合いの曇りを与え得る可視光領域を吸収する。加えて、TiOは、光(例えば、太陽光)に曝露されたときに高親水性(例えば、超親水性)となることが知られている。したがって、汚染物質の光触媒分解および高親水性表面の付着防止性の両方を組み合わせた、自己洗浄コーティングを備えるTiOによって、二重形態の自己洗浄を提供することができる。
【0064】
驚くべきことに、本発明において、光触媒マトリックスの自己洗浄作用は、その中にプラズモニックナノ粒子を組み込むことによって強化することができることを見出した。プラズモニックナノ粒子は、例えば、光触媒マトリックスの吸収範囲の外側の光を吸収し、その後に、励起状態と関連付けられたエネルギーを光触媒マトリックスに伝達すること(例えば、ホット電子移動)によって、光触媒マトリックスによって利用することができるスペクトル範囲を好都合に拡張する(すなわち、スペクトル応答を向上させる)ことができる。代替的または追加的に、マトリックス-ナノ粒子界面の近くに障壁(例えば、ショットキー障壁)が存在するため、プラズモニックナノ粒子は、励起子の異なる電荷担体(例えば、電子および正孔)への空間的分離を容易にすることができる。電荷担体の空間分離は、電荷担体の再結合速度を遅らせ、再結合は、電荷担体が光触媒分解に関与することを阻止する。
【0065】
ナノ粒子の濃度は、相当な効果を得るために、高くする必要がないことに留意されたい。このように、プラズモニックナノ粒子は、電磁スペクトルの可視範囲を吸収する場合であっても、自己洗浄コーティングは、高透明性および無色のままであり得る。ナノ粒子の濃度は、0.01重量%~4重量%以内、例えば0.5重量%~4重量%以内、例えば1重量%~3重量%とすることができる。
【0066】
本発明の実施形態の利点は、埋め込みナノ粒子を有するフィルムの透過率が、少なくとも50%、例えば少なくとも60%、例えば少なくとも70%、例えば少なくとも75%、例えば少なくとも80%、とすることができることである。
【0067】
さらに、プラズモニックナノ粒子を光触媒マトリックスに組み込むことは、例えばナノ粒子をマトリックスの頂部に提供することと比較して、追加的な利点をもたらす。第1の利点は、ナノ粒子のより多くの均一な分布を得ることができ、一方で、ナノ粒子とマトリックスとのより密な統合を達成することができる。これは、頂部層のみがナノ粒子と接触することとは対照的に、マトリックスのより大きい部分のスペクトル範囲を、例えばマトリックスのほぼ全体まで拡張することを可能にする。同時に、より密な統合は、打ち勝つべきエネルギー伝達距離を短くする。第2の利点は、ナノ粒子を、周囲のマトリックスによって、例えば物理的および/または化学的影響からから保護することができることである。実際に、ナノ粒子が中に組み込まれるのではなく、マトリックスの表面に取り付けられている場合、ナノ粒子は、物理的な力により脱離し易く、または環境との化学反応によりナノ粒子の性質が変化し易い。第3の利点は、埋め込まれたナノ粒子が、光触媒マトリックスから有用な反応表面積を取り上げないことであり、それによって、ナノ粒子がマトリックスの頂部を覆う場合と比較して、自己洗浄コーティングのためのより広い活性表面積を可能にする。
【0068】
実施形態において、プラズモニックナノ粒子は、貴金属を含むことができる。実施形態において、貴金属は、Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Re、およびCuのリストから選択することができる。好ましい実施形態において、貴金属は、Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Pt、およびAuのリストから選択することができる。非常に好ましい実施形態において、貴金属は、AuもしくはAg、またはその両方の合金とすることができる。実施形態において、プラズモニックナノ粒子は、3nm~200nm、例えば5nm~200nm、例えば5nm~50nmのサイズを有することができる。実施形態において、プラズモニックナノ粒子は、390~700nmのスペクトル範囲の吸収帯を有することができる。実施形態において、吸収帯は、390nm~700nmの全スペクトル範囲を実質的にカバーすることができる。貴金属プラズモニックナノ粒子は、典型的に、可視領域の光を好都合に吸収し、これは、光触媒マトリックス(例えば、TiO)による吸収を補うことができる。さらにまた、吸収特性は、典型的に、ナノ粒子のサイズおよび形状に依存し、したがって、これらの特性は、ナノ粒子の合成時の変化を通して制御することができる。
【0069】
実施形態において、コーティングは、25nmよりも大きい、有利には40nmよりも大きい厚さを有することができる。実施形態において、コーティングは、最大で1mm、さらにはそれ以上の厚さを有することができる。
【0070】
実施形態において、第1の態様およびその実施形態の特徴は、独立して、任意の他の態様の任意の実施形態について対応して説明されているものであり得る。
【0071】
第2の態様において、本発明は、自己洗浄表面を有する物品に関し、当該物品は、少なくとも1つの表面と、表面を覆う第1の態様の任意の実施形態において定義される自己洗浄コーティングの層と、を備える。
【0072】
自己洗浄コーティングは、様々な表面に好都合に提供することができ、それによって、自己洗浄特性を有する様々な物品を可能にする。実施形態において、物品は、窓ガラス、構造材料、または布地を含むことができる。例えば、窓ガラスは、例えば魚槽または窓に使用するために、ガラスパネル内に備えることができ、または、例えば光起電システムに使用するために、ソーラーパネル内に備えることができる。構造材料は、例えば、レンガ、タイル、石膏、または塗料であり得る。布地は、例えば、衣服またはドレープに使用されものであり得る。
【0073】
実施形態において、第2の態様およびその実施形態の特徴は、独立して、任意の他の態様の任意の実施形態について対応して説明されているものであり得る。
【0074】
第3の態様において、本発明は、自己洗浄コーティングを形成するための方法に関し、本方法は、
プラズモニックナノ粒子を含む第1の分散体を提供することと、
光触媒マトリックスの前駆体を含む第2の分散体(例えば、溶液)を提供することと、
第1および第2の分散体の混合物を形成することと、
混合物を表面にコーティングすることと、
コーティングした混合物を焼成することと、を含む。
このようにして、自己洗浄コーティングは、好都合に十分に分散されたプラズモニックナノ粒子によって得ることができ、これは、比較的単純で経済的な方法である。
【0075】
実施形態において、プラズモニックナノ粒子は、貴金属を含むことができる。実施形態において、光触媒マトリックスの前駆体は、TiO(例えば、チタン(IV)イソプロポキシド)の前駆体とすることができる。
【0076】
実施形態において、第1および第2の分散体の混合物を形成する工程は、ゾルを形成することを含むことができる。本方法は、好ましくは十分に研究されたゾルゲルプロセスに基づく。このプロセスは、合成の良好な制御を提供し、一方で、比較的に経済的であることが知られている。例えば、ゾルゲルに基づく方法を使用すると、混合物は、典型的に、他の従来の合成方法と比較して、より低い温度で好都合に焼成することができる。実施形態において、コーティングされた混合物を焼成する工程は、コーティングされた混合物を、300℃~800℃、例えば450~650℃、好ましくは550℃などの500℃~600℃の温度に加熱することを含むことができる。
【0077】
実施形態において、第1および/または第2の分散体は、エタノールなどの有機溶剤をさらに含むことができる。第1の分散体が有機溶剤をさらに含む実施形態において、プラズモニックナノ粒子は、有機溶剤中のプラズモニックナノ粒子の分散体を安定させるのに適している安定化剤によってキレート化することができる。実施形態において、安定化剤は、ポリビニルピロリドン(PVP)とすることができる。実施形態において、安定化剤によってプラズモニックナノ粒子をキレート化することは、(例えば、水性媒体、例えばクエン酸ナトリウム中のプラズモニックナノ粒子を安定させるために)第1の安定化剤によってプラズモニックナノ粒子をキレート化することと、その後に、(例えば、有機媒体、例えばPVP中のプラズモニックナノ粒子を安定させるために)第1の安定化剤を2の安定化剤と交換することと、を含むことができる。
【0078】
本方法(例えば、ゾルゲルに基づく方法)は、一般に、酸または塩基のいずれかによって触媒することができる。酸触媒法が好ましくなり得る。したがって、実施形態において、第1の溶液は、酸、例えば酢酸をさらに含むことができる。
【0079】
実施形態において、混合物を表面にコーティングする工程は、スピンコーティングまたはディップコーティングなどのウェットコーティング技法を含むことができる。これは、比較的経済的な技法を使用して、コーティングを様々な表面に形成することを好都合に可能にする。
【0080】
実施形態において、第3の態様およびその実施形態の特徴は、独立して、任意の他の態様の任意の実施形態について対応して説明されているものであり得る。
【0081】
第4の態様において、本発明は、当該光触媒マトリックスの自己洗浄特性を強化するための、光触媒マトリックス中に組み込まれたプラズモニックナノ粒子の使用に関する。
【0082】
実施形態において、第4の態様およびその実施形態の特徴は、独立して、任意の他の態様の任意の実施形態について対応して説明されているものであり得る。
【0083】
以下、本発明を、本発明の複数の実施形態の詳細な説明によって説明する。本発明の他の実施形態は、本発明の真の技術的な教示から逸脱することなく、当業者の知識に従って構成することができることは明らかであり、本発明は、添付の特許請求の範囲の用語のみによって限定される。
【0084】
実施例1:自己洗浄コーティングの形成
第1の実施例において、エタノール(すなわち、溶媒)中のAuプラズモニックナノ粒子の分散体を、反応容器中で水および酢酸と混合した。その後に、チタン(IV)イソプロポキシドの光触媒マトリックス前駆体エタノール溶液(すなわち、溶媒)を、攪拌しながら、反応容器に滴下して加え、それによって、ゾルを得た。次いで、スピンコーティングまたはディップコーティングによってゾルを基材にコーティングした。コーティングしたゾルを550℃で焼成し、透明な自己洗浄コーティングを形成した。
【0085】
さらに、例示として、本発明の実施形態の特徴および効果を例示する結果を論じる。結果は、埋め込みシステムがどのように自己洗浄用途のための経済的に可能な触媒として使用することができるのかを例示する。光触媒自己洗浄活性をステアリン酸分解実験によって評価した。この広く認識されているモデル反応は、典型的にガラス表面を汚染する化合物群を表す。
【0086】
最初に、この実施例で使用する基材の調製について論じる。シリコンウエハ(15mm×30mm)をメタノール中で超音波洗浄し、圧縮空気で乾燥した。顕微鏡スライド(15mm×25mm)を切断してガラス基板を得て、ガラス基板を、室温で、新しいピラニア溶液(7:3v/vの硫酸(Chem-Lab、95~97%):過酸化水素(Chem-Lab、30%))中で15分にわたって洗浄し、蒸留水で3回リンスした。洗浄したガラススライドは、蒸留水中に保管し、スピンコーティングの直前に圧縮空気によって送風乾燥した。
【0087】
さらに、本実施例で使用したPVP安定化金ナノ粒子の合成について論じる。Auナノ粒子の水性コロイド懸濁は、修正したTurkevich手順を使用して調製したが、より高い濃度で行った(10倍高く濃縮した)。簡潔には、1mMの総金属濃度が得られるように、10mLの0.01MのHAuCl.3HO(Sigma-Aldrich、>99.9%)を希釈した。溶液は、激しく撹拌しながら沸騰させ、その後に10mLの新たに調製した1重量%のクエン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich、99%)溶液を沸騰溶液中に迅速に加えた。正確に30分の沸騰させた後、結果として生じるコロイドAu懸濁液を直ちに室温まで冷却した。使用した安定化剤のクエン酸ナトリウムは、電荷反発によってナノ粒子を安定させ、また、ナノ粒子とは弱くしか結合させず、結果として生じるAuナノ粒子を有機媒体中で不安定にさせた。二酸化チタン前駆体溶液もまた、有機溶剤(例えば、エタノール、下記参照)を含有し、したがって、水性相から有機相へのナノ粒子の相間移動を必要とする。これは、クエン酸ナトリウムをPVP(ポリビニルピロリドン、Alfa Aesar、10000g・モル-1)と交換することによって達成される。PVPは、溶液を15分にわたって超音波処理することによって水中に溶解させた。1nmのナノ粒子表面当たり約60個のPVP分子が提供されるように、適切な量のPVP溶液(2.5mM)をコロイドAu懸濁液に加えた。溶液は、室温で、24時間にわたって600rpmで撹拌して、安定化剤の完全な交換を確実にした。結果として生じるPVP安定化Auナノ粒子は、最終的に、遠心分離し、洗浄し、無水エタノール(Emplura、99.5%)中に懸濁させた。コロイドAuナノ粒子溶液のUV-VIS吸収スペクトルは、Shimadzu製UV-VIS2600ダブルビーム分光計で測定した。
【0088】
さらに、プラズモン改質薄膜の調製について論じる。酢酸(Riedel-de Haen、96%)の存在下で、チタン(IV)イソプロポキシド(TTIP、Sigma-Aldrich、97%)の加水分解によってゾルを調製した。TTIPおよびエタノール(0.05:1.64のモル比)の溶液(以下、混合物1と称する)を、激しく撹拌しながら、水、エタノール、および酢酸(1.07:1.31:0.34のモル比)を含有する溶液(混合物2と称する)に滴下した。Au/TiO薄膜の調製の場合、混合物2のエタノール部分を、エタノール中に適切な量の金ナノ粒子を含有する濃縮分散体と置き換えた。このようにして、ゾルを(全てのTTIPが加水分解されたとみなして形成したTiOの総量に対して計算して)0.1-0.3-1、および3重量%の最終的な金の担持量によって調製した。形成したゾルの粘度の変化は、Brookfield LVDV-Iプライムデジタル粘度計で監視して、全ての試料が同じ粘度でスピンコーティングされることを確実にした。したがって、膜の堆積は、室温で、1分にわたって1000rpmでガラス基板およびシリコン基板の両方にスピンコーティングすることによって達成した。最後に、試料を、823Kで、1K・分-1の加熱速度で3時間にわたって焼成した。合成手順の概略図は、図1に見ることができる。
【0089】
以下、上で説明したように製造した例示的なシステムによって得られる自己洗浄活性について論じる。光触媒自己洗浄試験は、PazらがJ.Mater.Res.10(1995)2842~2848に提案している方法に基づいて、ステアリン酸分解実験によって行った。簡潔には、1分にわたって1000rpmで、100μLの、クロロホルム(Sigma-Aldrich、>99.8%)中に0.25重量%のステアリン酸(Sigma-Aldrich、>98.5%)の溶液をスピンコーティングすることによって、ステアリン酸の層を、シリコンウエハ上に調製した薄膜の頂部に適用した。結果として生じる試料は、363Kで乾燥して、その後に、1時間にわたって試験環境中で平衡させた。光触媒実験のために、試料は、疑似太陽光(AM1.5太陽シミュレータを備えた300WのXe源(Oriel Instruments))およびUVA光(蛍光灯によって提供される、λmax=350nm)を組み合わることによって照明した。対応する放射照度スペクトルおよび強度出力を図2に提供する。光の強度および光子束は、較正した強度分光計(Avantes Avaspec 3648)によって、試料距離で直接測定した。ステアリン酸の残存表面被覆率は、ZnSe窓を備えたNicolet(商標)380(Thermo Fisher Scientific)分光光度計を使用して測定した。全てのスペクトルは、2cm-1の解像度で、400~4000cm-1の波数範囲で記録した。測定ごとに、8つのスペクトルを平均した。試料は、内面反射を最小にするために、IRビームによって9°の固定角度に配置した。ステアリン酸の濃度は、1単位の積分面積(a.u.cm-1で)が1.39×1016個のステアリン酸分子・cm-2に対応するように、2800~3000cm-1の波数範囲内の積分吸光度に関連する。
【0090】
積分強度は、UVA LED源(300~400nm、スペクトルの左側の曲線)について6.9mW・cm-2、および組み合わせ疑似太陽光について100.1mW・cm-2(AM1.5、300~800nm、スペクトルの右側の曲線)である。
【0091】
以下、PVP安定化金ナノ粒子に関するいくつかの特徴付け結果についてさらに論じる。濃縮金懸濁液は、Turkevich法に従って調製した。結果として生じるコロイド溶液は暗赤色で、100%のAu懸濁液に類似するUV-VIS吸収スペクトルを示したが、これは、濃度を増加させても、最終的なナノ粒子特性がいかなる効果も有しないことを示している。クエン酸ナトリウムからPVPに安定化剤を置き換えた効果は、図3に見ることができる。リガンド交換の後、プラズモンピークのわずかな赤方偏移が観察された。これは、Bastusらによって得られた結果と、すなわち、様々な界面活性剤とのリガンド交換の後に類似する赤方偏移が観察されたことと一致している。この偏移は、ナノ粒子を(PVPのような)より大きく嵩高い分子でキャップすることによって生じる、流体力学的直径の増大に起因する。
以下、プラズモン改質透明薄膜のためのいくつかの特徴付け結果を提示する。これらの薄膜を得るために、ゾルゲルプロセス中に、PVP安定化ナノ粒子をEtOH中に分散させて、TiOマトリックスに組み込まれる混合物2(図1)に加えた。薄膜は、結果として生じるゾルを同じ粘度でスピンコーティングすることによって、シリコン基板およびガラス基板の両方に堆積させた。シリコンウエハ上の膜厚さに対するスピンコーティング速度および粘度の効果の以前の実験は、コーティングゾルの粘度を変化させることが、(図5(a)に示されるように)膜厚さに対して限定された影響しか有しないことを示している。一方で、スピン速度を変化させることは、図5(b)で証明されるように、明らかに、膜厚さに影響を及ぼしている。これらの結果に基づいて、プラズモン改質薄膜について、1000rpmのスピンコーティング速度を使用することを選択し、(図5(b)に示されるように)±94nmの層厚さをもたした。顕微鏡ガラススライドに対して行われる類似する実験は、この基材を使用したときに、層厚さ全体が若干小さいことを示した(図5(a)の白丸)。
【0092】
コーティングの光透過率を評価する(表1)。より具体的には、表1は、金の担持量を変化させた、コーティングの光透過率を示す(300~800nmの波長範囲で、ガラススライドおよびコーティングを通って入る光の強度を測定することによって計算した)。ガラススライドをTiOの薄い未改質の層でコーティングすると、試料を通過する光の量が17%低減する。図4に見ることができるように、このコーティングはまた、わずかに着色した外観を有するように見える。しかしながら、この点に関して、TiO膜の透明度を向上させるためのいかなる行為も行わなかったことを強調しておきたい。例えば、(光触媒活性とのトレードオフを保ちながら)膜厚さを低くすることで、既に透明度を向上させている。TiOを、SiOのような低屈折率材料と組み合わせることは、結果として生じる膜の光学特性を制御することを可能にする別の方法である。したがって、まだ進歩させることができる。しかしながら、表1で、3重量%(最高担持量)のAuを伴う膜を担持したときに、4%の追加的な低下しか観察されないことが分かる。金ナノ粒子を加えることは、結果として生じる膜の光透過特性に対して限定された影響しか有しないことを示すことから、これは、有望な結果である。
【表1】
【0093】
上に示したように、ステアリン酸分解を監視することによって膜の光触媒活性を評価したが、これは、ステアリン酸がガラス窓への有機付着物の良好なモデル化合物であることから、自己洗浄材料の活性を評価するための広く受け入れられている方法である。UVAおよび擬似太陽光の下で行ったこれらの実験の結果を図6に示す。金によってTiO薄膜を改質する付加価値が発明者らの主な関心事であるので、全ての試料の形式的量子効率を、未改質の試料に対して表す。純粋なUVA照明(図6(a))の下では、金ナノ粒子をTiO中に組み込むことで、未改質の試料と比較して、光触媒活性を増加させる(3重量%の試料に対して最高16%)ことが分かる。おそらくは、金属粒子が活性部位を遮断し、かつTiO表面の一部を入射光から保護することに起因して、この結果は、貴金属による表面の改質が活性の低下につながるシステムとは異なる。触媒設計を変更すること、すなわちナノ粒子をTiOマトリックス中に組み込むことによって、これらの課題は、回避される。加えて、ナノ粒子とTiOとの接点面積が大幅に増加し、おそらくは、励起状態の半導体から受動Auナノ粒子電子シンクへの向上した電子移動効率につながる。広帯域太陽光照明(図6(b))の下では、類似の傾向を観察することができ、より高い担持量が、未改質の試料に対して向上した活性につながる。相対的な向上は、約1重量%から飽和し始め、したがって、十分な担持量であるとみなすことができる。最高で29~40%(それぞれ、1重量%および3重量%の試料について)の相対的な向上が達成される。興味深いことに、これらの向上は、純粋なUVA照明下で観察されるものをはるかに超えており(図6(a)対(b))、したがって、単に疑似太陽光のUV部分だけに起因し得ない。したがって、これらの結果は、太陽照射下でプラズモニック光触媒を二重励起する(UV光による半導体、および可視光照明下でのプラズモニックナノ粒子)、相乗効果を暗示する。
【0094】
効率はまた、虹光触媒のために貴金属による表面の改質を伴う基材(すなわち、貴金属が組み込まれていない基材)に関しても2倍の向上が観察され、これは、例えば、異なるサイズおよび組成物の金-銀合金によってTiO表面を改質することによって、太陽スペクトル全体に応答するように最適化した、VerbruggenらのApplied Catalysis B:Environmental 188(2016)147~153に定義されており、1重量%のAuを組み込んだ研究中の光触媒の場合の29%と比較して、1.5重量%の表層改質虹光触媒の場合は16%である。本実験では、ナノ粒子組成物が1つだけしか使用されていないので、すなわち、太陽スペクトル全体はもとより、太陽照射のうちの最も強い波長にも応答するように、まだ調整されていない(TiOに純金しか組み込まれていない)ので、活性をさらに向上させるための十分な余地があると思われる。
【0095】
さらなる例示として、本発明の実施形態は、それに限定されておらず、試料の活性に関するさらなる試験結果を下に提供する。ガラス窓への有機付着物のモデル化合物としてステアリン酸を使用して、様々な試料を、それらの自己洗浄挙動に関して試験した。試料は、周囲条件の下で、および100mW・cm-2の入射放射照度に適合させた光源としてAM1.5フィルタを備えた300WのXeアーク放電ランプを使用して、本実施例において試験したものである。合成したコーティングは、基材としてのBorofloatガラスに適用した。Pilkington Activ(商標)を市販のベンチマークとして使用した。結果を図7に示す。プレーンBorofloatガラスは、予想した通り、自己洗浄活性を示さなかった。Pilkington Activ(商標)のベンチマークは、本発明の実施形態によるコーティングよりも優れている、適度の活性を示した。プラズモニック金ナノ粒子の導入に応じて、金の割合の増加とともに活性が増加し、約3重量%の担持量において横ばいになったことが観察された。プラズモン共鳴が490~500nmの波長範囲である、Au0.3Ag0.7バイメタルプラズモニックナノ粒子を使用した場合、コーティングの吸光度は、太陽シミュレータ(および、実際の太陽光)のピーク強度波長に、より適合した。この試料は、0.3重量%の低さの金属担持量であっても、最も高い活性を示した。
【0096】
ガラス表面への実際の応用に関して、主な物理的特性の1つとして高い透明性が提案された。Pilkington Activ(商標)のベンチマークガラスは、87%強の高い透明性を示す。本発明の実施形態によるコーティングをBorofloatに適用した場合、結果として生じる透明度は、図8に見ることができるように、ベンチマークに非常に近い、86%程度で達成される。金の担持量が高くなるほど、全体的な透明度が低くなる。コーティングに統合されたAu-Agバイメタルナノ粒子の場合、商用ベンチマークと同程度であるほぼ87%の透明度が測定された。
【0097】
また、例示として、本発明の実施形態は、それに限定されるものではなく、実施例は、本発明の実施形態による薄膜の特性を示す。本発明の実施形態による方法に従って調製した、0.5重量%のAuを含有するTiOコーティングの表面特性を、J.Molecular Catalysis A,243(2006)68~76ページにおいてSonawaneらによって説明されている方法に従って調製した膜と比較した。
【0098】
0.23nmの算術平均高さRa(平均粗さ係数)を有する無処理のBorofloatガラス基板から始めて、Sonawaneらの0.5重量%のコーティングを適用することで、1.92nmの平均的粗さRaをもたらした。本発明の実施形態によるコーティング方法は、1.3nmのRaを有する、より滑らかな膜をもたらした。対応するAFM画像を図9に示す。
【0099】
さらなる例示として、(シリコンウエハへのコーティングである)本発明の実施形態によるコーティングの活性を、ステアリン酸の分解速度を評価することによって試験する(試験した分解時間スケールは、空気中で、数分単位である)。J.Molecular Catalysis A,243(2006)68~76ページのSonawaneらのプロトコルを使用して得られたコーティングとの比較を行った。得られた分解測定値を図10に示すが、この図は、本発明の実施形態によって得られたコーティング、および(比較として)Sonawaneらのプロトコルに従って作製したコーティングを備えるAu、による分解を例示する。本発明の実施形態に従って行ったコーティングの場合、分解速度が、ガラス上の同じコーティングの場合に類似しており、それによって、金の追加が相当な向上をもたらすことが分かる。さらにまた、類似するコーティングであるが、Sonawaneらのプロトコルを使用して作製した場合、分解が、本発明のコーティングによって得られた分解の量のわずか4%にしか到達しないこと、およびAuの追加が向上をもたらさないことが分かる。Sonawaneらによる物品において与えられる結果は、長い分解時間にわたる結果であり、本実施例において評価され、必要とされる分解時間よりもかなり長いことに留意されたい。したがって、本発明の実施形態によるコーティングの分解特性はまた、分解の程度でだけでなく、分解時間においても効率的であるといった利点を有する。Sonawaneらに基づくコーティングの場合の絶対測定分解値は、1.6×1011分子/cm/sであり、一方で、本発明によるコーティングに基づいた場合、分解値は、4.8×1012分子/cm/sである。
【0100】
好ましい実施形態、特定の構造、および構成、ならびに材料を、本発明による装置について本明細書で論じてきたが、本発明の範囲および技術的な教示を逸脱することなく、形態および細部について様々な変更または修正が行われ得ることを理解されたい。例えば、上で与えられた任意の式は、単に、使用され得る手順を表しているに過ぎない。ブロック線図に対して機能を加えること、または削除することができ、動作は、機能ブロックの中で交換することができる。工程は、本発明の範囲内で説明されている方法に対して加えること、または削除することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10