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▶ イッサム リサーチ ディベロップメント カンパニー オブ ザ ヘブライ ユニバーシティー オブ エルサレム リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】薬物送達システム
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/165 20060101AFI20240110BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240110BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20240110BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 13/00 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A61K31/165
A61K9/14
A61K9/19
A61K45/00
A61K47/12
A61K47/34
A61K47/40
A61K47/44
A61P1/00
A61P1/04
A61P3/00
A61P3/02
A61P3/10
A61P9/12
A61P13/00
A61P17/00
A61P17/02
A61P17/06
A61P19/02
A61P25/04
A61P25/16
A61P27/02
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P31/00
A61P31/04
A61P31/10
A61P35/00
A61P37/06
A61P37/08
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020544019
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 IL2019050217
(87)【国際公開番号】W WO2019162951
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】62/635,088
(32)【優先日】2018-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515166314
【氏名又は名称】イッサム リサーチ ディベロップメント カンパニー オブ ザ ヘブライ ユニバーシティー オブ エルサレム リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YISSUM RESEARCH DEVELOPMENT COMPANY OF THE HEBREW UNIVERSTY OF JERUSALEM LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ベニータ,シモン
(72)【発明者】
【氏名】ナサール,タヘル
(72)【発明者】
【氏名】レビボ,レスリー
(72)【発明者】
【氏名】バディヒ,アミット
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0065533(US,A1)
【文献】特表2008-518992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/165
A61K 9/14
A61K 9/19
A61K 45/00
A61K 47/12
A61K 47/34
A61K 47/40
A61K 47/44
A61P 1/00
A61P 1/04
A61P 3/00
A61P 3/02
A61P 3/10
A61P 9/12
A61P 13/00
A61P 17/00
A61P 17/02
A61P 17/06
A61P 19/02
A61P 25/04
A61P 25/16
A61P 27/02
A61P 29/00
A61P 31/00
A61P 31/04
A61P 31/10
A61P 35/00
A61P 37/06
A61P 37/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体キャリア中に粉末を含む眼内用等張性製剤であって、
前記粉末は、ナノキャリア及びナノスフィアから選択される複数のPLGAナノカプセルを含み、
前記ナノカプセルは、1よりも大きいLogPを有する少なくとも1つの非親水性水分感受性剤と、少なくとも1つの油とを含み、
前記少なくとも1つの非親水性水分感受性剤は、タクロリムス、及びピメクロリムスから選択され、
前記粉末は、7%(w/w)を超えない水分含有量、少なくとも0.04%(w/v)の前記少なくとも1つの非親水性水分感受性剤の含有量、及び少なくとも81%の封入効率を有し、
前記PLGAナノカプセルは、50KDaを超える平均分子量又は2~20KDaの平均分子量とは異なるように選択された平均分子量、200nm未満の粒子サイズ、並びに凍結乾燥の前、凍結乾燥の後、及び再構成の後の0.15よりも低い多分散指数(PDI)を有する
ことを特徴とする眼内用等張性製剤。
【請求項2】
請求項1に記載の眼内用等張性製剤を含む水分散液であって、前記水分散液が、7~28日間以内での使用に適していることを特徴とする水分散液。
【請求項3】
請求項1に記載の眼内用等張性製剤において、点眼液の形態である、又は注射用に製剤化されていることを特徴とする眼内用等張性製剤。
【請求項4】
請求項1に記載の眼内用等張性製剤において、直ちに使用するための、又は7~28日間の期間内に使用するためのものであることを特徴とする眼内用等張性製剤。
【請求項5】
請求項1に記載の眼内用等張性製剤において、前記粉末が、前記ナノカプセルを含む分散液からの凍結乾燥によって製造された乾燥フレークの形態であることを特徴とする眼内用等張性製剤。
【請求項6】
請求項1に記載の眼内用等張性製剤において、前記少なくとも1つの非親水性水分感受性剤が、タクロリムスであることを特徴とする眼内用等張性製剤。
【請求項7】
請求項に記載の眼内用等張性製剤において、前記PLGAナノカプセルが、50KDa~100KDaの分子量を有し、タクロリムス、少なくとも1つの油、グリセリン、界面活性剤、及びβ-シクロデキストリン、並びに所望に応じて保存剤を含むことを特徴とする眼内用等張性製剤。
【請求項8】
請求項に記載の眼内用等張性製剤において、前記タクロリムスが、0.04~0.1%(w/v)の範囲の量で提供され、前記グリセリンが2.25%(w/v)の量であり、前記少なくとも1つの油がヒマシ油であることを特徴とする眼内用等張性製剤。
【請求項9】
請求項に記載の眼内用等張性製剤において、前記界面活性剤が、Tween(登録商標)80、Lipoid E80、Solutol(登録商標)、及びPVAから選択されることを特徴とする眼内用等張性製剤。
【請求項10】
請求項1乃至の何れか1項に記載の眼内用等張性製剤において、前記製剤が、点眼液の形態であり、同一の非親水性水分感受性剤を有する類似の油製剤よりも少なくとも2倍の角膜における保持を有することを特徴とする眼内用等張性製剤。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の眼内用等張性製剤において、前記PLGAナノカプセルが、100nm~200nmの粒子サイズを有することを特徴とする眼内用等張性製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独特の送達システム、再構成された溶液、及びその使用全般を提供する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎(AD)の制御は、最適なスキンケア、局所療法、及び全身治療を含む治療的課題である。局所用コルチコステロイド(TCS)は、その抗炎症性、免疫抑制性、及び抗増殖性効果のために、AD治療に用いられる第一選択治療剤である。しかし、それは、長期療法に付随して、多くの局所的及び全身の副作用を有する。タクロリムス及びピメクロリムスは、TCSと比較して、より高い選択性、より高い効率、及びより良好な短期的安全性プロファイルを示す。しかし、長期的な安全性データがないこと、適応外使用が広がっていること、並びに皮膚癌及びリンパ腫の潜在的リスクのために、FDAの小児諮問委員会は、これらの剤に対して「黒枠」警告を推奨し、それらの使用を制限した。
【0003】
シクロスポリンA(CsA)は、タクロリムス及びピメクロリムに類似の免疫調節性を呈する。CsAは、経口投与された場合、数多くの皮膚疾患の治療において、優れた効果を示す。実際、CsA療法は、重篤なADにおける第一選択短期全身療法である。確かに、CsAの長期的な全身投与は、腎機能不全、慢性腎毒性、及び高血圧症を含む重度の副作用を伴う。
【0004】
残念なことに、その分子量が大きいこと及び水溶性が低いことによって、CsAの局所投与後の皮膚層への浸透は、限定的である。さらに、様々なナノキャリアを介してCsAを無傷の皮膚へ送達する見込みは、あったとしてもほとんど成功してこなかった。
【0005】
参考文献
[1]Fessi H, Puisieux F, Devissaguet JP, Ammoury N, Benita S. Nanocapsule formation by interfacial polymer deposition following solvent displacement. Int J Phar 1989; 55: R1-R4
[2]国際公開第2012/101638号
[3]国際公開第2012/101639号
【発明の概要】
【0006】
本明細書で開示される技術の発明者らは、様々な用途に対して様々な製剤で調節することができ、薬物送達に伴う1又は複数の要件を満たすように調節することができる、保存安定性で有効な薬物送達システムを製造するための新規なプラットフォームを開発した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この技術は、皮膚への薬物の浸透を促進する、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)-ナノスフィア(NS)及びナノカプセル(NC)の形態のナノキャリアシステムに基づいている。このキャリアシステムは、無水局所用製剤に組み込むことができ、並びに、生体外で例証されるように、改善された薬物の皮膚吸収及び様々な皮膚層における適切な皮膚体内分布(dermato-biodistribution)(DBD)プロファイルを提供する、フリーズドライナノ粒子(NP)として提供される。
【0008】
CsAなどの活性剤を含有する様々なPLGAナノキャリアが、充分に確立された溶媒置換法[1]に従って製造されており、完全な詳細事項は、以下の実験セクションに提示する。
【0009】
したがって、最も一般的に述べると、本発明は、本明細書で開示される用途の一部(特に、直ちに使用する用途)では水性キャリアであってよく、又は他の用途、特に長期の保存期間を必要とする用途ではシリコーン系キャリアなどの無水キャリア(水分を含まない)であってよい液体キャリア中で再構成するように構成された、凍結乾燥固体粉末製剤を提供する。固体粉末は、別の選択肢として、そのまま、非液体又は処方された形態で用いられてもよい。
【0010】
第一の態様では、本発明は、複数のPLGAナノ粒子を含む粉末を提供し、各ナノ粒子は、少なくとも1つの非親水性材料(薬物又は活性剤)を含み、粉末は、典型的には凍結乾燥によって得ることができる、乾燥フレークの形態である。
【0011】
いくつかの実施形態では、乾燥粉末は、さらに、シクロデキストリン、PVA、スクロース、トレハロース、グリセリン、デキストロース、ポリビニルピロリドン、マンニトール、キシリトールなどから所望に応じて選択されてよい少なくとも1つの抗凍結剤を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、凍結乾燥は、上記の通りに選択されてよい少なくとも1つの抗凍結剤の存在下で行われる。
【0013】
さらなる態様では、本発明は、複数のPLGAナノ粒子を含むすぐに再構成できる粉末を提供し、各ナノ粒子は、少なくとも1つの非親水性材料(薬物又は活性剤)を含む。粉末は、定められる通りに乾燥固体であってよいが、いくつかの条件下において、及び油又はワックス系材料の含有量に応じて、製品は、軟膏の粘度を有していてもよい。
【0014】
本発明は、さらに、少なくとも1つの非親水性薬物の固体剤形を提供し、この剤形は、複数のPLGAナノ粒子を含む乾燥粉末であり、各ナノ粒子は、少なくとも1つの非親水性材料(薬物又は活性剤)を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、本発明に従う乾燥粉末又は再構成された製剤は、乾燥粉末若しくは再構成された製剤が製造された直後の期間又はその製造から7日間以内に、少なくとも1つの非親水性材料の、それが含有されているナノ粒子からの実質的な浸出を直接又は間接的に引き起こすことのない(ナノ粒子の全集団の15~20%以下又は10~15%以下)、成分又はキャリア又は賦形剤を含む。
【0016】
本発明のPLGAナノ粒子中に含有される「少なくとも1つの非親水性材料」は、水不溶性である薬物若しくは治療活性剤、又は本質的に疎水性若しくは両親媒性である薬物若しくは治療活性剤である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの非親水性材料は、logP値が1よりも大きいことを特徴とし、LogP値は、化合物の全体としての親油性、及び活性成分が溶解された水性液体相と有機液体相との間の分配の推定値である。
【0017】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの非親水性材料は、シクロスポリンA(CysA)、タクロリムス、ピメクロリムス、パルミチン酸デキサメサゾン、テトラヒドロカンナビノール(THC)及びカンナビジオール(CBD)(植物性カンナビノイド)又は合成カンナビノイドなどの大麻の親油性抽出誘導体、ザフィルルカスト、フィナステリド、パルミチン酸酢酸オキサリプラチン(OPA)などから選択される。
【0018】
いくつかの実施形態では、非疎水性材料は、シクロスポリンA(CysA)、タクロリムス、及びピメクロリムスから選択される。いくつかの実施形態では、非疎水性材料は、シクロスポリンA(CysA)、又はタクロリムス、又はピメクロリムス、又はCBD、又はTHC、又はフィナステリド、又はパルミチン酸酢酸オキサリプラチン(OPA)である。
【0019】
いくつかの実施形態では、非親水性材料は、シクロスポリンではない。
【0020】
式(I)に示されるシクロスポリンは、T細胞の作用及び増殖に干渉し、それによって免疫系の作用を低下させる免疫抑制性高分子である。認識することができるように、その比較的大きいサイズに起因して、シクロスポリンの局所送達は、従来から公知の送達システムでは困難であることが示されてきた。本発明の文脈において、シクロスポリンへの言及は、シクロスポリンファミリーのいずれのマクロライドも(すなわち、シクロスポリンA、シクロスポリンB、シクロスポリンC、シクロスポリンD、シクロスポリンE、シクロスポリンF、又はシクロスポリンG)、さらにはその医薬的に許容される塩、誘導体、又は類似体のいずれをも包含する。

【0021】
いくつかの実施形態によると、シクロスポリンは、シクロスポリンA(CysA)である。
【0022】
タクロリムス及びピメクロリムスはいずれも、それらの局所的抗炎症特性のために、アトピー性皮膚炎の治療に皮膚科で用いられている。これらの非ステロイド系医薬は、免疫系を下方制御する。タクロリムスは、0.03%及び0.1%の軟膏として製造され、一方ピメクロリムスは、1%のクリームとして流通されており、両方共に、臨床上の改善が見られるまで患部に1日2回定期的に投与される。
【0023】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの非親水性剤は、タクロリムスである。

【0024】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの非親水性剤は、ピメクロリムスである。

【0025】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、約0.1~10重量%のシクロスポリンを例とする少なくとも1つの非親水性材料を含む。
【0026】
本発明に従って用いられる大麻の親油性抽出誘導体は、本技術分野で公知の手段によって大麻草から得られる活性剤、組成物、又はこれらの組み合わせである。抽出誘導体は、精製後さらには精製前の乾燥植物材料及び抽出物に適用される。濃縮された大麻由来材料を製造するための方法は数多くあり、例えば、ろ過、冷浸漬、温浸漬、浸出、様々な溶媒中での煎出、ソックスレー抽出、マイクロ波及び超音波の補助による抽出などの方法である。
【0027】
大麻の親油性植物抽出物は、大麻草から、最も多くの場合サティバ(Sativa)、インディカ(Indica)、又はルデラリス(Ruderalis)の種から得られる植物由来材料又は組成物の混合物である。抽出物の材料組成及び他の特性が、様々であり得ること、さらに、本発明に従う併用療法の所望される特性を満たすように調節されてよいことは理解されたい。
【0028】
大麻草抽出物が、例えば大麻草から抽出によって直接得られることから、それには、複数の天然化合物の組み合わせが含まれていてよく、中でも、親油性誘導体、すなわち、2つの主たる天然カンナビノイドであるテトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビジオール(CBD)、及びCBG(カンナビゲロール)、CBC(カンナビクロメン)、CBL(カンナビシクロール)、CBV(カンナビバリン)、THCV(テトラヒドロカンナビバリン)、CBDV(カンナビジバリン)、CBCV(カンナビクロメバリン)、CBGV(カンナビゲロメバリン)、CBGM(カンナビゲロールモノメチルエーテル)などのうちの1つ又は組み合わせなどのさらなるカンナビノイドである。
【0029】
THC及びCBDが、主たる親油性誘導体であるが、抽出画分の他の成分も、そのような親油性誘導体の範囲内である。
【0030】
テトラヒドロカンナビノール(THC)は、本明細書において、CB1及びCB2受容体に対する高い親和性を特徴とする向精神性カンナビノイドの種類を意味する。C2130の分子式を有するTHCは、およそ314.46Daの平均質量及び以下に示される構造を有する。

【0031】
カンナビジオール(CBD)は、本明細書において、CB1及びCB2受容体に対する低い親和性を有する非向精神性カンナビノイドの種類を意味する。C2130の式を有するCBDは、およそ314.46Daの平均質量及び以下に示される構造を有する。

【0032】
「THC」及び「CBD」の用語はさらに、本明細書において、(-)-トランス-Δ9-テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC)、Δ8-THC、及びΔ9-CBDなどのこれらの分子の異性体、誘導体、又は前駆体も包含し、さらに、対応する2-カルボン酸(2-COOH)であるTHC-A及びCBD-Aから誘導されたTHC及びCBDも包含する。
【0033】
「PLGAナノ粒子」は、ポリ乳酸(PLA)とポリグリコール酸(PGA)とのコポリマーから作られたナノ粒子であり、このコポリマーは、いくつかの実施形態では、ブロックコポリマー、ランダムコポリマー、及びグラフトコポリマーの中から選択される。いくつかの実施形態では、PLGAコポリマーは、ランダムコポリマーである。いくつかの実施形態では、PLAモノマーは、PLGA中に過剰量で存在する。いくつかの実施形態では、PLAのPGAに対するモル比は、95:5、90:10、85:15、80:20、75:25、70:30、65:35、60:40、55:45、及び50:50の中から選択される。他の実施形態では、PLAのPGAに対するモル比は、50:50(1:1)である。
【0034】
PLGAは、いかなる分子量のものであってもよい。いくつかの実施形態では、PLGAは、少なくとも20KDaの平均分子量を有する。いくつかの実施形態では、ポリマーは、少なくとも約50KDaの平均分子量を有する。いくつかの他の実施形態では、ポリマーは、約20KDa~1000KDa、約20KDa~750KDa、又は約20KDa~500KDaの平均分子量を有する。
【0035】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、20KDaとは異なる平均分子量を有する。
【0036】
いくつかの実施形態では、PLGAは、所望に応じて、少なくとも約50KDaの平均分子量、又は平均分子量2~20KDaとは異なるように選択された平均分子量を有する。
【0037】
少なくとも1つの非親水性材料のナノ粒子からの所望される放出の速度及び/又はモード、さらには投与経路に応じて、それは、ナノ粒子中に含有(封入)されていてよく、ナノ粒子を構成しているポリマーマトリックス中に埋め込まれていてよく、及び/又はナノ粒子の表面(表面全体又はその一部分)と化学的若しくは物理的に会合していてもよい。いくつかの用途では、ナノ粒子は、ポリマーシェル及び油状コアを有するコア/シェル(以降ではナノカプセル又はNCとも称する)の形態であってよく、少なくとも1つの非親水性活性剤は、油状コア中に溶解されている。別の選択肢として、ナノ粒子は、明確なコア/シェル構造を特徴としない実質的に均一な組成のナノ粒子で、その中に、非親水性材料が埋め込まれており、そのようなナノ粒子の場合、本明細書においてそれはナノスフィア(NS)と称され、材料は、例えば均質に、ポリマーマトリックス中に埋め込まれていてよく、その結果、ナノ粒子中の材料の濃度がナノ粒子の体積又は質量全体にわたって実質的に均一であるナノ粒子が得られる。ナノスフィアでは、油成分は不要であり得る。
【0038】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、ナノスフィア又はナノカプセルの形態である。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、PLGAポリマーから作られたマトリックスを含むナノスフィアの形態であり、非親水性材料は、マトリックス中に埋め込まれている。
【0039】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、PLGAポリマーから作られたシェルを含むナノカプセルの形態であり、シェルは、非親水性材料を溶解する油(又は油の組み合わせ若しくは油性製剤)を封入している。油は、いかなる油性有機溶媒又は媒体(単一材料又は混合物)によって構成されていてもよい。そのような実施形態では、油は、オレイン酸、ヒマシ油、オクタン酸、グリセリルトリブチレート、及び中鎖又は長鎖トリグリセリドのうちの少なくとも1つを含んでよい。
【0040】
いくつかの実施形態では、油製剤は、ヒマシ油を含む。他の実施形態では、油製剤は、オレイン酸を含む。
【0041】
油は、少なくとも1つの界面活性剤を例とする様々な添加剤をさらに含んでいてよい油製剤の形態であってよい。界面活性剤は、オレオイルマクロゴール-6グリセリド(Labrafil M 1944 CS)、ポリソルベート80(Tween(登録商標)80)、マクロゴール15ヒドロキシステアレート(Solutol HS15)、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(Kleptose(登録商標)HP)、リン脂質(例:lipoid 80、phospholiponなど)、チロキサポール、ポロクサマー、及びこれらのいずれかの混合物から選択されてよい。
【0042】
いくつかの実施形態では、及び上記で説明したように、少なくとも1つの抗凍結剤が、凍結乾燥時のナノ粒子の完全性を保護するために用いられてもよい。抗凍結剤の限定されない例としては、PVA、及び2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(Kleptose(登録商標)HP)などのシクロデキストリン、及び他の本明細書で列挙されるものが挙げられる。
【0043】
薬物又は活性剤である本明細書で列挙される非親水性材料は、用いられるナノ粒子の種類に関わらず(NS及NCの両方において)、例えば、直接結合(化学的又は物理的)によって、表面上への吸着によって、又はリンカー部分を介して、前記ナノ粒子の表面と会合していてよい。別の選択肢として、ナノ粒子がナノスフィアである場合、活性剤は、ナノ粒子中に埋め込まれていてよい。ナノ粒子がナノカプセルの形態である場合、活性剤は、ナノ粒子のコアの中に含有されていてよい。
【0044】
いくつかの実施形態では、非親水性材料が、ナノカプセルのコア中を例とするナノ粒子中に含有された油に溶解されている場合、非親水性材料は、コア中に溶解されていてよく、ポリマーシェル中に埋め込まれていてよく、又はナノカプセルの表面と会合していてもよい。ナノ粒子がナノスフィアである場合、非親水性材料は、ポリマー中に埋め込まれていてよい。
【0045】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、少なくとも2つの異なる非親水性材料と会合していてよく、各々は、同様に又は異なってそのナノ粒子と会合している。複数の活性剤、例えば少なくとも2つの非親水性材料の場合、剤は、全て非親水性材料であってよく、又はそれらのうちの少なくとも1つが非親水性材料であってもよい。非親水性材料の組み合わせにより、複数の生物学的ターゲットの標的化、又は特定のターゲットに対する親和性の増加が可能となる。
【0046】
少なくとも1つの非親水性材料と共に与えられるべき追加の活性剤は、ビタミン、タンパク質、抗酸化剤、ペプチド、ポリペプチド、脂質、炭水化物、ホルモン、抗体、モノクローナル抗体、治療剤、抗生物質、ワクチン、予防剤、診断剤、造影剤、核酸、栄養補助剤、分子量が約1000Da未満若しくは約500Da未満の低分子、電解質、薬物、免疫剤、高分子、生体高分子、鎮痛剤、又は抗炎症剤;駆虫剤(enthelmintic agent);抗不整脈剤;抗菌剤;抗凝固剤;抗うつ剤;抗糖尿病剤;抗てんかん剤;抗真菌剤;抗痛風剤;降圧剤;抗マラリア剤;抗片頭痛剤;抗ムスカリン剤;抗悪性腫瘍剤、又は免疫抑制剤;抗原虫剤;抗甲状腺剤;抗不安剤(alixiolytic);鎮静剤;催眠剤、又は神経遮断剤;β-遮断剤;心臓変力作用剤(cardiac inotropic agent);コルチコステロイド;利尿剤;抗パーキンソン病剤;胃腸剤;ヒスタミンH1-受容体アンタゴニスト;脂質制御剤;硝酸剤、又は抗狭心症;栄養剤;HIVプロテアーゼ阻害剤;オピオイド鎮痛剤;カプサイシン 性ホルモン;細胞毒;及び刺激剤、並びに上記のうちのいずれかの組み合わせ、から選択されてよい。
【0047】
さらに、ナノ粒子は、少なくとも1つの非活性剤と会合していてもよい。最も一般的に述べると、非活性剤は、直接の治療効果を有しないが、それは、ナノ粒子の1又は複数の特性を改変し得る。いくつかの実施形態では、非活性剤は、サイズ、極性、疎水性/親水性、電荷、反応性、化学的安定性、クリアランス、及び標的化などのうちの1又は複数など、ナノ粒子の少なくとも1つの特徴を調整するために選択されてよい。非活性剤は、とりわけ、ナノ粒子の浸透性の改善、液体懸濁液中のナノ粒子の分散性の改善、凍結乾燥時及び/又は再構成時のナノ粒子の安定化などをもたらし得る。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの非活性剤は、少なくとも1つの非治療的効果及び/又は非全身性効果を誘導、向上、停止、又は減少させることができる。
【0048】
本明細書で述べるように、本発明は、複数のPLGAナノ粒子及び非親水性材料を含む凍結乾燥されたフレーク状分散性乾燥粉末を提供する。粉末は、粒子状形態であってよい水分を乾燥させた固体材料である。「乾燥」の用語は、本明細書で用いられる場合、水分を乾燥させた、水分を含まない、水分が存在しない、実質的に乾燥している(1%~5%以下の水分を含む)、水和水だけを含む、水でも水溶液でもない、の代替語のうちのいずれか1つを意味する。いくつかの実施形態では、水分の量は、7重量%を超えない。粉末は、無水、すなわち、粉末の総重量に対して3重量%未満、若しくは2重量%未満、若しくは1重量%未満の水分含有量を有してよく、及び/又は追加されたいかなる水分も含有しない組成物、すなわち、粉末中に存在し得る水分が、より詳細には、塩の結晶水などの結合水である、若しくは粉末の製造に用いた出発物質によって吸収された微量の水分である、組成物であってもよい。
【0049】
本技術分野において公知であるように、凍結乾燥とは、製剤を凍結させ、続いて周囲圧力を低下して凍結製剤に、固相から気相への直接の揮発、蒸発、又は昇華を起こさせ、定められる通りの乾燥粉末を残すフリーズドライを意味する。したがって、本発明の凍結乾燥した乾燥粉末は、乾燥状態で得られた粉末である。いくつかの実施形態では、粉末は、凍結乾燥ではない他の方法によって、同じ乾燥度で得ることが可能であり、例えば、ナノ噴霧(例:Buchi,Flawill,Switzerlandのナノ噴霧乾燥器B-90を用いる)による。したがって、本発明はまた、凍結乾燥によって得られたものではない乾燥粉末も提供する。
【0050】
本発明の乾燥粉末は、粉末を医薬的に許容される再構成液体媒体又はキャリア中に添加することによって再分散することができる形態で、すぐに再構成できるように提供される。本発明の粉末の独特性は、活性成分をナノ粒子のキャリアから分離することによる分解に対するその安定性にあり、さらには安定で様々な様式での投与及び使用が可能である様々な再構成された液体製剤を調節することができることにもある。再構成媒体の例としては、水、注射用水、注射用静菌水、塩化ナトリウム溶液(例:0.9パーセント(重量/体積)NaCl)、グルコース溶液(例:5パーセントグルコース)、液体界面活性剤、pH緩衝溶液(例:リン酸緩衝溶液)、シリコーン系溶液などが挙げられる。
【0051】
いくつかの実施形態によると、再構成媒体は、本明細書で述べる水分を含まない又は水分を乾燥させた無水シリコーン系キャリアであり、そのため、ナノ粒子を長期間にわたって変化せずに保持する。シリコーン系キャリアは、ナノ粒子が水分と接触する時点までナノ粒子のカーゴを放出させず、その時点で、ナノ粒子のカーゴが放出を開始する。この放出は、シリコン系製剤を皮膚上に投与し、ナノ粒子が皮膚層中に浸透した後に発生し得る。
【0052】
シリコーン系キャリアは、液体、粘稠液体、又は半固体キャリアであり、典型的には、ケイ素系のビルディングブロックを含むポリマー、オリゴマー、又はモノマーである。いくつかの実施形態では、シリコーン系キャリアは、少なくとも1つのシリコーンポリマー、又はシリコーンポリマー、オリゴマー、及び/若しくはモノマーの少なくとも1つの製剤である。いくつかの実施形態では、シリコーン系キャリアは、シクロペンタキシロアン(cyclopentaxiloane)、シクロヘキサシロキサン(ST-Cyclomethicone 56-USP-NFなど)、ポリジメチルシロキサン(Q7-9120 Silicone 350cst(ポリジメチルシロキサン)-USP-NF Elastomer 10など)などを含む。
【0053】
いくつかの実施形態では、シリコーン系キャリアは、シクロペンタシロキサン及びジメチコンクロスポリマーを含む。いくつかの実施形態では、シリコーン系キャリアは、シクロペンタキシロアン及びシクロヘキサシロキサンを含む。
【0054】
いくつかの実施形態では、すぐに再構成できる固体は、シクロヘキサシロキサン、シクロペンタシロキサン、及びポリジメチルシロキサンポリマーを、それぞれ80:15:3重量/重量の重量比で含む半固体シリコーンエラストマーブレンド中に混合されてよい。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの非親水性材料を含む凍結乾燥されたナノ粒子の2%が、シクロヘキサシロキサン、シクロペンタシロキサン、及びポリジメチルシロキサンポリマーを、それぞれ80:15:3重量/重量の重量比で含む製剤中に分散され、0.1重量/重量%の活性剤最終濃度が得られる。
【0055】
いくつかの実施形態では、そのような製剤は、さらに、安息香酸及び/又は塩化ベンザルコニウムなどの少なくとも1つの保存剤を含む。
【0056】
いくつかの実施形態では、再構成媒体は、水系である。
【0057】
例えばタクロリムス及び抗生物質などの水分感受性活性成分に対して推奨されるように、活性成分に応じて、直ちに使用することが意図される、又は7~28日間を例とする短い期間内に使用することが意図される製剤の場合、製剤は、本発明の粉末、及び定められる通りの少なくとも1つの水性キャリアを含む水性又は水系の媒体中に形成される。例えば、そのような製剤は、点眼剤を例とする眼内用製剤、又は注射用製剤であってよい。製剤が、長期間にわたる使用、又はすぐに使用できる製剤としての保存を意図するものである場合、粉末は、無水シリコン系液体キャリア中に再構成されてよい。
【0058】
本発明の製剤の安定性は、とりわけ、製剤の構成、用いられる具体的な活性成分、粉末が再構成される媒体、及び保存条件に依存する。理論に束縛されるものではないが、一般的に述べると、製剤の安定性は、2つの方向から考え、試験され得る。
【0059】
1/凍結乾燥されたフレーク状粉末中に含有されている活性成分に関する経時での安定性で、例えば油性コア中のシクロスポリンに対して以下で提供されるデータに示される。示されるように、そのような製剤は、ヒマシ油コアNC中で安定であるが、オレイン酸コアNC中では安定ではない(表5、表8)。37℃で6ヶ月間にわたる経時での安定性試験から、油がオレイン酸である場合に、漏れ、及び初期値からの活性剤含有量のずれが示され、一方ヒマシ油中では、活性剤は、化学的に安定であり、漏れの増加は示されなかった。このことは、これらの凍結乾燥された粉末が、通常は、少なくとも約3年間にわたって室温で保存可能であることを意味する。
【0060】
2/安定性は、局所用製剤中に分散されたNCである。試験条件下において、3つの異なる温度で6ヶ月間にわたって、NC中にヒマシ油を含む場合のみ、CsAを例とする活性剤は、安定に維持され、局所用製剤の外相への漏れは10%以下であった。
【0061】
したがって、本発明は、さらに、各々が少なくとも1つの非親水性材料を油性コア中に含んでいる複数のNCナノ粒子を含む皮膚科(局所用)製剤を提供し、コアは、ヒマシ油を含んでいる。
【0062】
眼内用又は注射用製剤が考慮される場合、乾燥フレーク状NCは、局所投与用に製剤されたNCと同様に挙動する(以下の表10及び17)。眼内用製剤のための分散製剤、タクロリムスの乾燥NCの分散液の滅菌水性製剤、が考慮される場合、安定性は、活性成分及びその水に対する感受性に応じて、7~28日間にわたって維持される。
【0063】
例えば、凍結乾燥物の再構成の場合の、1.45%グリセリン溶液中のNCの再構成安定性(60mgの凍結乾燥NCを350uLの1.45%グリセリン水溶液に再懸濁して、等張性製剤を得た。安定性を室温で評価した)。
【0064】
2.5%デキストロース溶液中のNCの再構成安定性(60mgの凍結乾燥NCを350uLの2.5%デキストロース水溶液に再懸濁して、等張性製剤を得た。安定性を室温で評価した)。
【0065】
上記の結果から分かり得るように、タクロリムスを例とする活性剤は、この水性製剤中、室温で少なくとも2週間安定に維持された。
【0066】
したがって、本発明は、さらに、製剤再構成の時点から7~28日間にわたって使用するための、本発明の粉末を含む安定な水性製剤を提供する。本発明は、さらに、上記で示されるように、少なくとも2週間を例とする安定な水性製剤を提供する。
【0067】
キャリアの選択は、部分的に、活性剤(用いられる場合)との適合性によって、さらには組成物の投与に用いられる特定の方法によって決定されることになる。したがって、粉末を液体キャリア中に再構成した後に得られる医薬組成物(又は製剤)は、経口、経腸、頬側、経鼻、局所、経上皮、直腸内、腟内、エアロゾル、経粘膜、表皮、経皮、皮膚、眼内、経肺、皮下、皮内、及び/又は非経口の投与のために製剤されてよい。
【0068】
いくつかの実施形態では、製剤は、局所的使用のために構成又は適合される。公知のように、ヒトの皮膚は、3つの主要な層の群、皮膚の外表面上に位置する角質層、表皮、及び真皮、に分けることができる数多くの層から成っている。角質層は、細胞外の脂質に富むマトリックス中にケラチンが満たされた細胞層であり、実はこれが、皮膚への薬物送達の主たるバリアであるが、一方表皮及び真皮の層は、生きた組織である。表皮には血管がないが、真皮は、経上皮による全身分布のために治療剤を運ぶことができる毛細血管ループを含有している。薬物の経皮送達が最適な経路であると考えられるが、この経路を通しては、限られた数の薬物しか投与することができない。より様々な薬物を経皮送達できないことは、主として、薬物の低い分子量(500Da以下の分子量の薬物)、親油性、及び少ない用量という要件によって決まる。
【0069】
本発明のナノ粒子は、これらの障害を明確に克服するものである。上記で述べたように、ナノ粒子は、シクロスポリン並びに分子量及び親水性が非常に様々である他の活性剤などの活性成分を保持することができる。本発明の送達システムは、皮膚層の少なくとも1つを通しての、角質層、表皮、及び真皮の層を通しての、少なくとも1つの非親水性剤の輸送を可能とする。理論に束縛されるものではないが、送達システムが角質層を通して治療剤を輸送する能力は、無変化のシステム、又は解離した治療剤及び/若しくは解離したナノ粒子の、水和したケラチン層を通っての皮膚層のより深くへの拡散を含む一連のイベントによって決まる。
【0070】
局所用製剤は、クリーム、軟膏、無水エマルジョン、無水液体、無水ゲル、粉末、フレーク、又は顆粒から選択される形態であってよい。組成物は、局所、経上皮、表皮、経皮、及び/又は皮膚の投与経路用に製剤されてよい。
【0071】
いくつかの実施形態では、製剤は、少なくとも1つの非親水性剤の経皮投与用に適合される。そのような実施形態では、製剤は、皮膚層を通しての、具体的には角質層を通しての非親水性剤の局所送達用に製剤されてよい。非親水性剤の全身効果が所望される場合、経皮投与は、対象の循環系に剤を送達するように構成されてよい。
【0072】
局所投与用を例とする本発明の製剤中のナノ粒子の安定性向上は、本質的に又は完全に水分を含まないキャリア組成物を製剤することによって実現することができる。したがって、水分を含まない又は無水の局所用組成物は、シリコン系キャリアで設計されてよい。
【0073】
同様に、製剤組成物は、少なくとも1つの非親水性剤の眼内投与用に構成されてもよい。いくつかの実施形態では、眼内用製剤は、注射用又は点眼用に構成されてよい。
【0074】
経口投与、注射による投与、点滴による投与、滴剤の形態での投与、又は他のいずれかの投与の形態のために設計された、ナノ粒子の懸濁液の形成を必要とする製剤では、溶液は、限定されないが、生理食塩水、水、又は医薬的に許容される有機媒体を含んでよい。
【0075】
ナノ粒子の量又は濃度、及びナノ粒子中若しくは本発明の製剤全体における少なくとも1つの非親水性剤の対応する量又は濃度は、その量が、非親水性剤の所望される有効量を対象の中のターゲット臓器又は組織へ送達するのに充分であるように選択され得る。少なくとも1つの非親水性剤の「有効量」は、剤の量が、所望される治療効果を実現するだけでなく、定められる通りの安定な送達システムを実現するのにも有効であるように、本技術分野において公知の考えによって決定されてよい。したがって、とりわけ、用いられる特定の剤、用いられる特定のキャリアシステム、治療されるべき疾患の種類及び重篤度、並びに治療計画に応じて、各製剤は、製剤の時点だけでなく、より重要なことには、投与の時点でも有効である所定の量を含有するように調節されてよい。有効量は、典型的には、適切に設計された臨床試験(用量範囲の試験)で決定され、当業者であれば、有効量を決定するためにそのような試験を適切に行う方法は分かるであろう。一般的に知られているように、有効量は、受容体に対するリガンドの親和性、体内でのその分布プロファイル、体内での半減期などの様々な薬理学的パラメータを含む様々な因子、存在する場合は所望されない副作用、年齢及び性別などの因子、などに決まる。
【0076】
医薬製剤は、分散特性が異なる又は同一であり、異なる又は同一の分散剤を用いた様々な種類又はサイズのナノ粒子を含んでよく、それによって、標的化薬物送達及び放出制御様式、作用部位での薬物の生体利用度の向上(クリアランスの低下にもよる)、投与頻度の低減、及び副作用の最小化のうちの1つ以上を促進する。送達システムとして作用する製剤及びナノ粒子は、所望される非親水性活性剤を、その放出制御を可能とする速度で、少なくとも約12時間にわたって、又はいくつかの実施形態では、少なくとも約24時間、少なくとも約48時間にわたって、又は他の実施形態では、数日間にわたって、送達することができる。したがって、送達システムは、限定されないが、薬物送達、遺伝子療法、医学的診断、並びに例えば皮膚病態、癌、病原体媒介疾患、ホルモン関連疾患、臓器移植に伴う反応副生物(reaction-by-products)、及び他の細胞又は組織の異常増殖に対する医学的治療剤のため、などの様々な用途に用いることができる。
【0077】
本発明は、さらに、凍結乾燥された乾燥粉末を得る方法を提供し、粉末は、複数のPLGAナノ粒子を含み、各ナノ粒子は、少なくとも1つの非親水性材料(薬物)を含み、方法は、PLGAナノ粒子の懸濁液を凍結乾燥して、凍結乾燥された乾燥粉末を得ることを含む。
【0078】
いくつかの実施形態では、方法は:
- 少なくとも1つの疎水性材料(薬物)を含むPLGAナノ粒子の懸濁液を得ること;及び
- 前記懸濁液を凍結乾燥して、凍結乾燥された乾燥フレーク状粉末を提供すること、
を含む。
【0079】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの非親水性材料を含むPLGAナノ粒子は、PLGAを、少なくとも1つの界面活性剤、少なくとも1つの油、及び少なくとも1つの非親水性材料(シクロスポリンなど)を含有する少なくとも1つの溶媒(アセトンなど)中に溶解することによって有機相を形成し、有機相を水相(有機媒体又は製剤)中に導入し、それによって前記ナノキャリアを含む懸濁液を得ること、によって得られる。
【0080】
いくつかの実施形態では、懸濁液は、例えば蒸発によって、濃縮され、続いて、少なくとも1つの抗凍結剤で処理され(10%HPβCD溶液で、体積比1:1で希釈するなど)、凍結乾燥される。
【0081】
そうして凍結乾燥された固体は、5%を超えない水分含有量を有し、さらに、すぐに再構成できる粉末として用いることができる。
【0082】
本発明は、さらに、凍結乾燥された乾燥粉末、及び少なくとも1つの液体キャリア、及び使用説明書を含むキット又は市販用パケージを提供する。いくつかの実施形態では、液体キャリアは、本明細書で列挙されるように、水又は水溶液又は無水(水分を含まない)液体キャリアである。
【0083】
本明細書で示されるように、本発明に従う製剤は、一般に、異なる非親水性薬物実体と共に用いることができる。用いられる非親水性薬物に応じて、製剤は、異なる疾患及び状態の治療又は予防の方法に用いることができる。いくつかの実施形態では、医薬製剤は、本明細書で具体的に列挙される非親水性材料の1又は複数で典型的には治療可能である状態又は障害の治療に用いることができる。いくつかの実施形態では、前記疾患又は状態は、移植片対宿主病、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、乾癬、貨幣状角膜炎、ドライアイ症状、後部ぶどう膜炎、中間部ぶどう膜炎、アトピー性皮膚炎、木村病、壊疸性膿皮症、自己免疫性じん麻疹、及び全身性肥満細胞症から選択される。
【0084】
本開示のナノ粒子及び医薬製剤は、物理的バリアによって保護されている組織に対して特に有利であり得る。そのようなバリアは、皮膚、血液関門(例:血液胸腺、血液脳、血液空気、血液精巣など)、臓器の外膜などであってよい。バリアが皮膚である場合、本明細書で述べる医薬製剤によって治療され得る皮膚病態としては(シクロスポリンが他の活性剤と組み合わされた場合)、限定されないが、抗真菌性障害若しくは疾患、ざ瘡、乾癬、アトピー性皮膚炎、白斑、ケロイド、熱傷、瘢痕、乾燥症、魚鱗癬(ichthoyosis)、角化症、角皮症、皮膚炎、そう痒症、湿疹、疼痛、皮膚癌、及び胼胝が挙げられる。
【0085】
本発明の医薬製剤は、皮膚科学的状態の予防又は治療に用いることができる。いくつかの実施形態では、皮膚科学的状態は、皮膚炎、湿疹、接触皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、刺激性接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、乳児湿疹、ベニエ痒疹、アレルギー性皮膚炎、屈面性湿疹、播種性神経皮膚炎、脂漏性(又は脂漏性(seborrhoeic))皮膚炎、乳児脂漏性皮膚炎、成人脂漏性皮膚炎、乾癬、神経皮膚炎、疥癬、全身性皮膚炎、疱疹状皮膚炎、口囲皮膚炎、円板状湿疹、貨幣状皮膚炎、主婦湿疹、汗疱 異汗症、手掌及び足底の不応性膿疱性皮疹(Recalcitrant pustular eruptions)、Barber型又は膿疱性乾癬、全身性剥脱性皮膚炎、うっ滞性皮膚炎、結節状湿疹、異汗性湿疹、慢性単純性苔癬(限局性掻爬皮膚炎;神経皮膚炎)、扁平苔癬、真菌感染症、カンジダ性間擦疹、異型白癬、白斑、パナウ(panau)、白癬、足部白癬、モニリア症、カンジダ症、皮膚糸状菌感染症、水疱性皮膚炎、慢性皮膚炎、海綿状皮膚炎、ベナタ皮膚炎(dermatitis venata)、ビダール苔癬、皮脂欠乏性湿疹皮膚炎、自己感作性湿疹、皮膚癌(非メラノーマ)、真菌及び細菌耐性皮膚感染症(fungal and microbial resistant skin infections)、皮膚疼痛、又はこれらの組み合わせなどの皮膚科学的疾患の中らか選択され得る。
【0086】
さらなる実施形態では、本発明の製剤は、面皰、尋常性ざ瘡、痣、そばかす、刺青、瘢痕、熱傷、日焼け、シワ、眉間のシワ、目じりの小ジワ、カフェオレ斑、1つの実施形態では脂漏性角化症、黒色丘疹性皮膚症、スキンタッグ、脂腺過形成、汗管腫、黄色板腫、又はこれらの組み合わせである良性皮膚腫瘍、良性皮膚増殖(benign skin growths)、ウィルス性疣贅、おむつカンジダ症、毛包炎、癰、おでき、癰、皮膚の真菌感染症、滴状メラニン減少症、脱毛症、膿痂疹、肝斑、伝染性軟属腫、酒さ、疥癬(scapies)、帯状疱疹、丹毒、紅色陰癬、帯状疱疹、水痘帯状疱疹ウィルス、水疱、皮膚癌(扁平上皮癌、基底細胞癌、悪性黒色腫など)、前悪性増殖(先天性黒子、日光角化症)、じん麻疹、じん麻疹、白斑、魚鱗癬、黒色表皮腫、水疱性類天疱瘡、鶏眼及び胼胝、フケ、ドライスキン、結節性紅斑、グレーブス皮膚症、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、毛孔性苔癬、光沢苔癬、扁平苔癬、硬化性苔癬、肥満細胞症、伝染性軟属腫、ばら色粃糠疹、毛孔性紅色粃糠疹、PLEVA若しくはムッハ・ハーベルマン病、表皮水疱症、脂漏性角化症(Seborrheic Keratoses)、スティーブンス・ジョンソン症候群、天疱瘡、又はこれらの組み合わせの予防又は治療に用いられ得る。
【0087】
さらなる実施形態では、製剤は、汗管腫、黄色板腫、膿痂疹、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、若しくはこれらの組み合わせなどの眼の領域に関連する皮膚科学的状態;細菌、真菌、酵母菌、及びウィルスによる感染症、爪囲炎、若しくは乾癬などの頭皮、爪に関連する皮膚科学的状態;口腔扁平苔癬、口唇ヘルペス(ヘルペス性歯肉口内炎)、口腔白板症、口腔カンジダ症、若しくはこれらの組み合わせなどの口の領域に関連する皮膚科学的状態、又はこれらの組み合わせの予防又は治療に用いられ得る。
【0088】
いくつかの実施形態によると、医薬組成物は、脱毛症に伴う少なくとも1つの症状の治療又は寛解に用いられ得る。
【0089】
本明細書で開示される主題をより良く理解するために、及びそれが実際に行われ得る方法を例示するために、単なる限定されない例として、添付の図面を参照しながら以降で実施形態について記載する。
【図面の簡単な説明】
【0090】
図1図1A~1Eは、CsA搭載NCの特性決定を示す。(A)結晶化CsA(i)、凍結乾燥されたCsA NC(ii)、及び凍結乾燥されたブランクNC(iii)のXRDパターン。CsA搭載PLGA NCの透過電子顕微鏡画像(B~C、スケールバー=100nm)。フリーズフラクチャー後に無水シリコーンベースに組み込まれた、凍結乾燥されたCsA搭載NC(D、D(i))及び抗凍結剤(E)のクライオSEM画像。スケールバー=1μm(D)、200nm(D(i))、2μm(E)。
図2図2A~2Cは、CsA NCの皮膚での体内分布を示す。フランツセルによる浸透アッセイによって特定した皮膚区画中の[H]-CsA分布。様々な油組成物によるCsA搭載NC及びそれぞれの油コントロールの6時間及び24時間のインキュベーション後における(A)SC上層、(B)SC下層及び表皮、並びに(C)真皮。値は、平均±SDである。N=5。OL及びLAは、それぞれオレイン酸及びLabrafilを意味する。
図3図3A~3Dは、フランツセルによる浸透アッセイによって特定した皮膚区画中の[H]-CsA分布を示す。様々な油組成物によるCsA搭載NC及びそれぞれの油コントロールの6時間及び24時間のインキュベーション後における(A)SC上層、(B)SC下層及び表皮、(C)真皮、並びに(D)レセプターコンパートメント。値は、平均±SDである。N=3。
図4図4は、マウスでの接触過敏症(CHS)に対する異なるCsA製剤の効果を示す。単一の治療(20μg/cm)を、剪毛した腹部に局所適用し、その後1%のオキサゾロンに曝露した。5日後に、耳の反応誘発を、右耳たぶに行い(0.5%のオキサゾロン)、耳の腫脹を、右耳と左耳との差によって表した。値は、平均±SEである。N=5。P<0.05。
図5図5は、MasterSizerによって得たNEの液滴サイズ分布を示す。
図6図6A~6Cは、(A)NE-6、(B)NE-7、(C)NE-8のクライオTEM画像を示す。
図7図7A~7Bは、NE及び油コントロールの24時間のインキュベーション後における、角膜/単位面積に維持されたタクロリムスの量(A)、及びレセプター液中のタクロリムス濃度(B)を示す。値は、3つの反復サンプルに基づいた平均±SDである。NEと油コントロールとの間で、P<0.05。
図8図8A~8Bは、タクロリムス搭載ナノカプセルの、凍結乾燥前(A)、並びに凍結乾燥及び続いての水性再構成後(B)のTEM画像である。
図9図9A~9Bは、NC及び油コントロールの24時間のインキュベーション後における、角膜/単位面積に維持されたタクロリムスの量(A)、及びレセプター液中のタクロリムス濃度(B)を示す。値は、6つの反復サンプルに基づいた平均±SDである。NEと油コントロールとの間で(A)、及び示した処理間で(B)、P<0.05、**P<0.01。
図10図10は、凍結乾燥されたNC-2及びNEの24時間のインキュベーション後におけるレセプター液中のタクロリムス濃度を示す。値は、3つの反復サンプルに基づいた平均±SDである。NEと凍結乾燥されたNC-2との間で、P<0.05、**P<0.01。
図11図11は、インキュベートした生体外のブタ角膜に対する処理投与の72時間後に行ったMTT生存率アッセイを示す。コントロールは、未処理角膜を表し、ネガティブコントロールは、Labrasol処理角膜である。値は、3つの反復サンプルに基づいた平均±SEである。
図12図12は、72時間インキュベートした後の組織学的生体外ブタ角膜に対する上皮厚さ測定を示す。値は、3つの反復サンプルに基づいた平均±SDである。
【発明を実施するための形態】
【0091】
I.実験
1)局所用製剤に含まれる活性剤及び賦形剤
【0092】
2)ブランク及び薬物搭載NCの調製
様々なPLGAナノキャリアを、充分に確立された溶媒置換法(Fessi et al., 1989)に従って調製した。簡潔に述べると、ポリマーのポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)100K(乳酸:グリコール酸の50:50ブレンド)を、0.2重量/体積%のTween(登録商標)80及び1重量/体積%までの異なる組成の異なる油のブレンドを含有するアセトン中に、0.6重量/体積%の濃度で溶解した。CsAを、様々な濃度で有機相に添加し、それを0.1重量/体積%のSolutol(登録商標)HS 15を含有する水相に添加して、その結果、NCが形成された。懸濁液を、15分間にわたって900rpmで撹拌し、次に80%の初期水性媒体を減圧蒸発で蒸発させることによって濃縮した。水性媒体に分散されたNCを、1:1の体積比で10%のHPβCD溶液で希釈し、その後、epsilon 2-6 LSCパイロットフリーズドライヤー(Martin Christ,Germany)で凍結乾燥した。最終的に、ブランク及びCsA NCの半固体無水製剤は、それぞれ80:15:3:2の重量比の半固体シリコーンエラストマーブレンド、シクロヘキサシロキサン(及び)シクロペンタシロキサン、ポリジメチルシロキサンポリマー、及び凍結乾燥されたブランクNC又はCsA NCから成っていた。実際には、2%の凍結乾燥されたCsA NCを、薬用製剤中に分散した結果、最終試験製剤中のCsAの最終濃度として0.1重量/重量%を得た。
【0093】
加えて、安息香酸及び/又は塩化ベンザルコニウムも、保存の目的で組み込まれてよい。
【0094】
3)CsA NC単独及び局所用製剤中での物理化学的評価プロトコル
水性懸濁液中に濃縮したNCの物理化学的評価(PLGA濃度:15mg/mL)
3.1)粒子サイズ及びゼータ電位測定
NCの平均径及びゼータ電位を、25℃でMalvernのZetasizer(Nano ZSP)を用いて特性決定した。サンプル調製では、10μLの濃縮分散液を、990μLのHPLC水中に希釈した。
【0095】
3.2)CsA搭載効率の特定
10μLの濃縮分散液を、990μLのアセトニトリル(HPLCグレード)及びCsA中に希釈した。CsA量を、以降で記載するようにしてHPLCで定量した(希釈率×100)。
【0096】
4)凍結乾燥されたNCの物理化学的評価
4.1)粒子サイズ及びゼータ電位測定
NCの平均径及びゼータ電位を、25℃でMalvernのZetasizer(Nano ZSP)を用いて特性決定した。サンプル調製では、約20mgの凍結乾燥されたNCを、1mLのHPLC水中に溶解した。次に、10μLの再構成された凍結乾燥NCを、990μLのHPLCに希釈した。
【0097】
4.2)水分含有量の特定
凍結乾燥されたNCの水分含有量を、カールフィッシャー法(KF)によって特定した(Coulometer 831+KF Termoprep(オーブン)860;Metrohm)。オーブンを、150℃に設定し、オーブンの空気流量を、80ml/分に設定した。装置を、オーブン標準品(Hydranal-Water standard KF-oven、140-160℃,Fluka,Sigma-aldrich)で校正し、ドリフトを設定するために、各使用の前に3つの反復サンプルのブランクを試験した。サンプル調製では、およそ20mgの凍結乾燥されたNCをバイアル中に秤量した。
【0098】
4.3)アセトン含有量の特定
凍結乾燥されたNC中の微量アセトンを特定するために、GCMS装置と結合した90℃に予備加熱したバイアルのデッドスペースサンプルを用いた。
【0099】
4.4)CsA含有量の特定
30mgの凍結乾燥されたNCを、1mLのHPLC水に溶解した。次に、10μLの再構成された凍結乾燥NCを、490μLのHPLC水に添加した。500μLのアセトニトリルも添加した。最後に、250uLの調製サンプルを、750μLのアセトニトリル中に希釈した(希釈率×400)。CsA量を、以降で記載するようにしてHPLCで定量した。
【0100】
4.5)遊離CsAの特定
プロトコルの確認:オレイン酸:labrafilに溶解した約5mgのCsA溶液(28重量/重量%)を、30mgのブランク凍結乾燥NCに添加した。以下で述べるように、CsAは完全にトリブチリンによって抽出され、CsAの100%が回収された。
【0101】
凍結乾燥されたNC中の遊離CsA:凍結乾燥されたNCをトリブチリンで抽出することによって、遊離CsAの評価を行った。およそ15mgの凍結乾燥されたNCを4mLのバイアル中に秤量し、次に2.5mLのトリブチリンを添加した。溶液を30秒間ボルテックス撹拌し、さらに遠心分離した(14000rpm、10分間)(Mikro 200R,Hettich)。次に、100μLの上澄を、1900μLのアセトニトリル中に希釈し、溶液をボルテックス撹拌し、続いて遠心分離した(14000rpm、10分間)。最後に、800μLの上澄を回収し、HPLCで評価した(希釈率×50)。CsAレベルは、凍結乾燥されたNC中に封入されなかったCsAを表している。
【0102】
4)無水局所用製剤
80%のElastomer 10、16%のST-Cyclomethicone 56-NF、及び4%のQ7-9120 Silicone 350cstから成る無水半固体ベースを調製した。次に、2%の凍結乾燥されたNCを、このベース中に分散した。小スケールの調製時は、1800rpmに設定したヘッドスターラーを用いて混合物を撹拌した。1kgまでの大スケールでの調製では、IKA(登録商標)LR 1000 basic reactorを用いた(100rpm、温度制御条件下)。
【0103】
5)無水半固体製剤の物理化学的評価
5.1)粒子サイズ及びゼータ電位測定
NCの平均径及びゼータ電位を、25℃でMalvernのZetasizer(Nano ZSP)を用いて特性決定した。サンプル調製では、200mgの無水半固体製剤を、2mLのHPLC水中に溶解した。サンプルをボルテックス撹拌し、さらに遠心分離した(4000rpm、10分間)。次に、1.2mLの上澄を回収し、再度遠心分離した(14000rpm、10分間)。最後に、得られた上澄の1mLを回収し、評価した。
【0104】
5.2)CsA含有量の特定(修正予定)
200mgの無水半固体製剤を、4mLのバイアル中の2mLのDMSOに溶解した。サンプルを37℃で30分間振とうし、次に遠心分離した(4000rpm、10分間)。1mLの上澄を遠心分離した(14000rpm、10分間)。最後に、10μLの上澄を、990μLのアセトニトリル中に希釈した(希釈率×200)。CsA量を、以降で記載するようにしてHPLCで定量した。
【0105】
5.3)遊離CsAの特定
プロトコルの確認:オレイン酸:labrafilに溶解した約1.5mgのCsA溶液(28重量/重量%)を、500mgのシリコーンベースに添加した。以下で述べるように、CsAは、トリブチリンによって抽出された。少なくとも80%のCsAが回収された。
【0106】
無水半固体製剤中の遊離CsA:遊離CsAを、抽出手順を用いて評価した。およそ500mgの無水半固体製剤を4mLのバイアル中に秤量し、次に2.5mLのトリブチリンを添加した。この溶液をボルテックス撹拌し、さらに遠心分離した(14000rpm、10分間)。次に、100μLの上澄を、1900μLのアセトニトリル中に希釈し、続いて溶液をボルテックス撹拌し、遠心分離した(14000rpm、10分間)。最後に、800μLの上澄を回収し、HPLCで評価した(希釈率×50)。
【0107】
6)CsA定量のためのHPLC法
10μLのサンプルを、ポンプ、オートサンプラー、カラムオーブン、及びUV検出器から成るHPLCシステム(Dionex ultimate 300,Thermo Fisher Scientific)に注入した。5μm XTerra MS C8カラム(3.9×150mm)(Waters corporation,Mildfold,Massachusetts,USA)により、CsAを、215nmの波長で識別した。カラムは、サーモスタットで60℃に調温した。CsAの特定は、アセトニトリル:水(60:40体積/体積)の混合物から成る移動相を用いて実現し、6.6分の保持時間で溶出した。CsAストック溶液(200μg/mL)を、2mgのCsAを20mLのシンチレーションバイアル中に秤量し、10mLのアセトニトリルを添加することによって調製した。このストックをボルテックス撹拌し、1~100μg/mLの濃度範囲で検量線を作成した。
【0108】
検量線の作成
【0109】
検量線
凍結乾燥された粉末中のCsA含有量は、式(1)に記載のようにして特定した。
【0110】
7)形態の評価
最後に、2つの技術:透過電子顕微鏡(TEM)及びクライオ-走査型電子顕微鏡(クライオ-SEM)を用いて形態の評価を行った。形態の評価は、リンタングステン酸によるネガティブ染色後、透過電子顕微鏡(TEM)(Philips Technai F20 100KV)を用いて、及びクライオ-走査型電子顕微鏡(クライオ-SEM)(Ultra 55 SEM,Zeiss,Germany)によって行った。クライオ-SEM法では、サンプルを、2つの平らなアルミニウム板の間に、それらの間のスペーサとして用いられる200メッシュのTEMグリッドと共に挟んだ。次に、サンプルを、HPM010高圧凍結装置(Bal-Tec,Liechtenstein)で高圧凍結した。凍結したサンプルを、ホルダーに載せ、VCT 100真空低温移送装置(Bal-Tec)を用いてBAF 60フリーズフラクチャー装置(Bal-Tec)に移した。-120℃の温度でのフラクチャー後、VCT 100を用いてサンプルをSEMに移し、二次後方散乱及びインレンズ電子検出器を-120℃の温度で1kVで用いて観察した。X線回折(XRD)測定を、二次グラファイトモノクロメータ、2°のSollerスリット、及び0.2mmの受光スリットを備えたD8 Advance回折計(Bruker AXS,Karlsruhe,Germany)で行った。2°~55°2θの範囲内のXRDパターンを、CuKα放射線(λ=1.5418Å)を以下の測定条件:管電圧40kV、管電流40mA、ステップサイズ0.02°2θ及び計数時間1秒/ステップのステップスキャンモード、で用いて室温で記録した。結晶化度の計算を、Wang et al(Wang et al., 2006)によって報告された方法に従って行った。EVA3.0ソフトウェア(Bruker AXS)をすべての計算に用いた。結晶化度の計算のための式は、以下の通りであり:DC=100%・Ac/(Ac+Aa)、式中、DCは、結晶化度であり、Ac及びAaは、X線回折図上の結晶及びアモルファスの面積である。
【0111】
8)ブタ組織の処理
形を整えた厚さおよそ750μmのブタの耳の皮膚を、Lahav Animal Research Institute(Kibbutz Lahav,Israel)から購入し、注意深く洗浄し、このデルマトームで採取した皮膚を、処理した、又は使用まで最大で1ヶ月間、-20℃で凍結保存した。VapoMeter装置(Delfin Technologies,Finland)を用いて経皮水分喪失量(TEWL)を測定することによって(Heylings et al., 2001)、皮膚の完全性を確認した。TEWL値が≦15gh-1である皮膚サンプルのみを実験に用いた(Weiss-Angeli et al., 2010)。
【0112】
9)生体外DBD実験
切除したブタの皮膚を、アクセプターコンパートメントにPBS中10%のエタノール(pH7.4)を入れたフランツ拡散セルに配置した。NC製剤及び対応するコントロール中の937.5μgのCsAと同等である様々な量の放射活性を、搭載した皮膚に適用した。異なる時間間隔で、放射標識CsAの分布を、いくつかの皮膚区画で特定した。まず、皮膚表面上に残留した製剤を、一連の洗浄によって回収し、D-SQUAME(登録商標)皮膚サンプリングディスク(CuDERM Corporation,Dallas,USA)によって回収した第一のストリップと合わせて、ドナーコンパートメント分とした。続いての10のストリップは、5つの連続するストリッピングテープ対から成り、SC上層としてプールした。SC下層も含む生表皮を、真皮から加熱分離(PBS中56℃で1分間)した(Touitou et al., 1998)。次に、様々な分離した層を、Solvable(登録商標)で化学的に溶解した。強調すべきことには、残りの皮膚残渣もSolvable(登録商標)中で消化し、残渣の放射活性が無視できる程度あることが見出された。レセプター液のアリコートも回収した。放射活性化合物はすべて、Tri-CARB 2900TRベータカウンターにより、Ultima-gold(登録商標)シンチレーション液中で特定した。
【0113】
III 結果と考察
1)CsAを搭載した様々なナノキャリアの調製及び特性決定
様々なナノ粒子製剤をこの実験のために調製し、それらの物理的特徴を表1にまとめて示す。様々なナノキャリアの平均径は、得られた低いPDI値によって反映されるように、比較的狭い分布範囲で、100~200nmで変動していた。MCT含有CsA NCの平均径は、CsA NSよりも2倍大きかったが、油コアの変更によるNCの粒子サイズ分布に対する影響は、より小さかった(表1)。活性剤CsAの組み込みは、油が存在する場合も存在しない場合も、平滑で球状のPLGAをベースとするNP表面の負に帯電した性質を変化させることはなかった。NCの油コアがオレイン酸:labrafilから成る場合にのみ、高い薬物封入効率(92.15%の回収)によって、凍結乾燥された粉末中の薬物含有量が4.65%(重量/重量)となっている(表1)。局所用製剤中の薬物搭載NCの分散からの主たる懸念は、ナノキャリアから局所用製剤の外相への活性カーゴの漏れであり、その結果、皮膚を通しての活性剤の輸送効率が大きく損なわれる。さらに、PLGAのNCは、水分感受性であり、水性製剤中では、少しずつ分解し得る。したがって、それらは、フリーズドライに掛け、適切な水分を含まない局所用製剤に組み込む必要がある。NCは、フリーズフラクチャーのクライオSEM画像[図1D図1D(i)]によって確認されるように、シリコーンブレンド中で効率的に分散された。図1Aに示されるX線回折(XRD)パターンによると、結晶CsA(i)の典型的なピークは、ブランク(iii)又はCsA搭載NC(ii)の回折のいずれからも消えていることが分かる。このことは、NCに組み込まれた場合に、CsAの物理的状態が結晶ではなくアモルファスであることを示唆し得る。TEM画像から、水性媒体中のブランク及び薬物搭載NCの両方の球形状及び均質な分布が確認される(図1B~1C)。図1Dに示されるように、凍結乾燥されたNCは、NCなしのHPβCDの平滑な表面とは対照的に(図1E)、粗く不均一な格子を形成している。フリーズフラクチャーした凍結乾燥NC粉末をよく観察すると、球状NCが抗凍結剤中に埋め込まれていることが分かる[図1D(i)]。適切な製剤の選択は、封入効率及び凍結乾燥ストレスに対する耐性を含む2つの基準に基づいた。5つの製剤から、MCT及びオレイン:labrafil含有CsA NCだけが、凍結乾燥ストレスにパスしたが、オレイン酸と比較して油の濃度が高いことから、良好な凍結乾燥ケーキを得ることはより困難であった。さらに、理論的薬物量の92.15%を含有していた高い封入効率のために、オレイン:labrafil製剤を選択した。この油コアの組み合わせは、NCの形成プロセスの過程での凍結乾燥プロセス前後でNC中にCsAを維持するのに、明らかに最も効率が良かった(表1)。
【0114】
2)生体外モデルにおいて新しいブタ皮膚を用いたCsA NCの皮膚での体内分布
図2に報告される結果は、様々な油組成の[H]-CsA搭載NC及び対応する油コントロールの局所適用後の、フランツセル中6時間及び24時間のインキュベーション時間での異なる皮膚区画におけるCsAの生体外皮膚内分布を示す。SC上層での[H]-CsA分布を図2Aに示し、これは、各々が2つの別個の連続するストリッピングテープから構成される5つの連続するストリッピングテープの抽出物(合わせて10のストリッピングテープの抽出物)を合わせたものから構成した。異なるCsA NC製剤の局所適用後に、放射活性CsAのレベルが上昇して初期適用量の約15%となったことが、SC上層において6時間後に検出された。対応する油コントロールが投与された場合、初期量の1.5%を超えない低いレベルの[H]-CsAがSCにおいて記録されたことには留意されたい(図2A)。さらに、図2Bに示されるように、各皮膚サンプルの生表皮層において、CsA搭載NC製剤からの算出されたCsA相当濃度(親薬物及び恐らくは一部の代謝物)が、対応する油製剤よりも著しく高かったことも見出された。特筆すべきことには、CsAは、対応する油コントロールで投与された場合、いずれの時間点においても、ほとんど生表皮層まで浸透していなかった。対照的に、CsAがNC中に封入された場合、投与の6時間後及び24時間後に、より高い濃度のCsAが観察された。組織重量1mgあたり300~500ngのCsAが、各時間点で回収された。真皮区画でも同様のパターンが観察されたが(図2C)、CsA濃度(10~20ng/mg組織重量)は、非常により低かった。油コアの組成に関わらず、調べたすべての区画において、いずれの時間点でも、様々なNC製剤間で統計的な有意差が見られなかったことは強調されるべきである。他方、レセプターコンパートメント液では、[H]-CsAレベルは、適用された処理に関わらず、すべての時間間隔で、初期の放射活性から1%未満であった(データ示さず)。
【0115】
凍結乾燥及び凍結乾燥された粉末のNC水性分散液への再構成に従った場合、驚くべきことに、表5にも示されるように、時間点0での漏れたCsAの量が、オレイン:labrafil油コアでは、10%超と非常に大きかった一方で、驚くべきことに、同じ比率のヒマシ油:labrafilでは、やはり表5に示されるように、漏れは、10%よりも著しく低かったことが分かった。
【0116】
薬物ベースのナノ粒子(NP)製剤は、様々な薬物製剤でのその使用のために、過去10年の間に大きな関心を集めてきた。送達システムとしてのポリマーNPを設計する際の主たる目標は、粒子サイズ及び多分散度を制御すること、薬物封入効率及び薬物搭載量を最大化すること、並びに表面特性及び薬理活性剤の放出を最適化して治療上最適な所望される速度及び用量計画で薬物の部位特異的作用を実現することである。
【0117】
さらなるいずれの問題点をも回避するために、最適化プロセスにおいて、本発明者らの目的は、1:1の比率のオレイン酸:labrafil又はヒマシ油:labarafilのいずれかの選択された油組成物をPLGA(Lactel Ltd 100K E)又はPurac Ltd.のPLGA 17Kと共に用いて、封入CsA効率を最適化することとした。すべての実験条件は、油の性質(オレイン酸対ヒマシ油)以外は同一であった。
【0118】
NP製剤は、CsA搭載ポリ(乳酸-co-グリコール酸)ナノカプセル(PLGA-CsA)をベースとする。
【0119】
PLGAナノカプセルは、以下のように調製した。ポリマーのポリ-乳酸-co-グリコール酸(PLGA)100K(乳酸:グリコール酸の50:50ブレンド)を、0.2重量/体積%のTween(登録商標)80及び0.8重量/体積%の異なる組成の異なる油のブレンドを含有するアセトン中に、0.6重量/体積%の濃度で溶解した。CsAを、様々な濃度で有機相に添加し、次にそれを、0.1重量/体積%のSolutol HS 15を含有する水相に添加して、その結果、ナノカプセル(NC)が形成された。懸濁液を、15分間にわたって900rpmで撹拌し、次に、初期水性体積の20%まで(アセトンが完全に除去されると仮定)減圧蒸発によって濃縮した。製剤の組成を表2に示す。
【0120】
水性媒体に分散されたNCを、1:1の体積比で10%のHPβCD水溶液で希釈し、その後、Epsilon 2-6 LSCパイロットフリーズドライヤー(Martin Christ,Germany)で凍結乾燥した。
【0121】
150mlバッチの凍結乾燥プロセスを表3に示す。
【0122】
オレイン酸:labrafilでは、凍結乾燥プロセスは、17K又は100K分子量のPLGAのいずれかを用いたNCの壁コーティングの完全性を損なうストレスを誘導したことが分かる(表5)。
【0123】
表2に記載し、ヒマシ油:labrafilを用いて調製した典型的なバッチの様々な特性に対する異なる値を、表4に示す。
【0124】
様々な物理化学的特性が、凍結乾燥プロセスによって影響を受けておらず、凍結乾燥ストレス後のNCからのCsAの漏れが、僅かに7.7±0.9であったことが分かる。
【0125】
表5に示されるように、最も良いバッチは、ヒマシ油:labrafilのブレンドを用いて調製したNCによって得られ、Lactel 100k Eに中程度の利点があることに留意することは重要である。
【0126】
表5に示されるデータから、製剤中のCsAの合計濃度を、5%から9%まで増加させたことが分かる。
【0127】
凍結乾燥及び粉末の再構成の後、NCの平均径は、製剤の組成にはほとんど関わらず、すべてのNCを取り囲んでそれを凍結乾燥プロセスから保護する抗凍結剤Kleptoseの存在に起因して、100nm増加した。
【0128】
PDI値は、0.15~0.2よりも低く、このことは、特に凍結乾燥の前、並びに凍結乾燥及び分散液の再構成の後の、NC集団の良好な均質性を示しており、この均質性は、主として、ヒマシ油ブレンドで、より詳細にはPLGA 100kとの場合に維持される。
【0129】
したがって、ヒマシ油が、オレイン酸及びMCTを含む表1に提示される他のいずれの油よりも良好にNCを凍結乾燥プロセスのストレスから保護可能であることが実証される。
【0130】
最後に、最も有望な製剤は、5%のCsAでのlactel PLGA 100k ヒマシ油:labrafilである。必要に応じて、7%の製剤がバックアップとして用いられ得る。
【0131】
本発明者らの最も良く理解するところでは、CsA搭載ナノキャリアの局所用製剤の多くは、製剤中のナノキャリアの安定性が限定的であり、及びそれに続いてナノキャリアから局所用製剤の外相への活性カーゴの漏れが発生し、その結果、皮膚を通しての活性剤の輸送効率が大きく損なわれるために、市販する段階まで到達して来なかった。さらに、PLGAのNPは、水分感受性であり、水性製剤中では、少しずつ分解し得る。したがって、それらは、フリーズドライに掛け、水分を含まない局所用製剤に組み込む必要がある。
【0132】
オレイン:labrafil-CsA搭載NC製剤を、凍結乾燥プロセス後に得られた充分な結果(表1)を考慮して選択した。NCは、フリーズフラクチャーのクライオSEM画像[図1D図1D(i)]によって確認されるように、シリコーンブレンド中で効率的に分散された。
【0133】
本実験では、このように、NC中のCsAの短期間の安定性、及び凍結乾燥されたNC粉末で示されるように、恐らくは同様に顕著であるシリコーン系製剤への最小限の漏れが確保される、局所用無水製剤中に分散されたCsA NCの独自の設計を提示した。
【0134】
PLGA NCを用いたCsAの局所送達は、その生皮膚層への浸透を高め、初期用量の20%がSC層で回収された(図2)。生表皮及び真皮に到達したパーセントは、非常により低かったが、それでも、本発明者らの理解するところによると、治療的な可能性のある組織中レベルであった(図2)。さらに、他の著者らは、浸透促進剤としてのモノオレイン、ミセル状ナノキャリア、又は皮膚浸透性ペプチドの水性エタノール溶液のいずれかを用いることで、高レベルのCsAがブタ皮膚の深層部へ到達したことも報告した。しかし、本発明者らの最も良く理解するところでは、これらの送達システムのいずれも、今までのところ、いかなる有効性実験においても評価されていない。本実験では、NC製剤の局所適用の6時間後及び24時間後における生表皮及び真皮中でのCsAの濃度は、それぞれ、215及び260ng/mg;11及び21ng/mgであった。Furlanut et al.は、乾癬のヒト患者において、12時間トラフ値での100ng/mgよりも高いCsA濃度が、良好な臨床応答と関連していることを報告した(Furlanut et al., 1996)。明らかに、閾値効果が、相関性の欠如に対する妥当な説明である。実際、CsAは、血液中のピーク値に近いと推定されるレベルで(Fisher et al., 1988)、及び治療に対して反応したプラーク型乾癬を患っている患者のトラフ血液サンプル中のレベルよりも約10倍高いレベルで(Ellis et al., 1991)皮膚中に濃縮されていることが明らかであった。本発明者らは、乾癬に対して活性であると報告された1ng/mgと同等の1000ng/gの皮膚レベルが、皮膚に配置され、AD病態に関与している炎症細胞の活性化を阻害するのに充分であると無理なく仮定することができる。表皮及び真皮中のCsAの実際のレベルは、したがって、既に言及したように、有効であると見なすことができる。表皮及び真皮中のCsAの実際のレベルは、有効であると見なすことができる。さらに、ブタの耳の皮膚を通してのレセプター液中への放射活性の検出可能な透過は、経時で測定することができず、このことから、皮膚バリア全体を通り抜けることができる放射活性は、存在するとしても非常に低いことが示唆される。したがって、局所適用後のCsAの考え得る著しい全身曝露が発生する可能性は低いと予測することができる。しかし、この仮定は、動物実験で、よりふさわしくは臨床薬物動態実験で確認する必要がある。有効性の動物実験は、NC油コアの一部としてオレイン酸を用いて既に報告されており、過去に提出されている。しかし、本発明者らは、凍結乾燥後の著しいCsAの漏れについては分かっていなかった。したがって、ヒマシ油による研究の一部を繰り返して、オレイン酸の場合と比較し、オレインNCで示されたものと同じ有効性であることを確認することが重要であった。
【0135】
図3に示されるデータから、皮膚の様々な層でのCsAの透過プロファイルにおいて、オレイン酸ベースのNCとヒマシ油ベースのNCとの間に差異はなく、一方対応する油溶液は、皮膚層の浸透を高めることはなかったことが分かる(図3)。オレイン酸コア又はヒマシ油コアのいずれかをベースとするCsA NCの有効性に差異が生ずるはずがなく、むしろ、NCから漏れるCsAが大きく減少しており、皮膚層に浸透するCsAの量が増加さえして、強く求められている改善された薬理活性を引き起こすはずであることから、改善さえ期待されるはずであると想定することができる。
【0136】
これらの生体外実験の結果を確認する目的で、この生体外実験から導かれた結論を確認するための比較動物実験も行うこととした。
【0137】
接触過敏症(CHS)のマウスモデル
CHSの誘発を以下に述べるようにして行った。CHS感作の4日前に、6~7週齢のBALB/cマウスの腹部を注意深く剪毛し、安静にして回復させた。感作の当日に、様々な局所用CsA製剤及びProtopic(登録商標)を、剪毛した皮膚に適用した(20mgのCa:La又はOl:LaのいずれかのCsA NC、及び空のNCの半固体無水製剤の20mg、すべて20μg/cmのCsAに相当)。局所処理の4時間後、CHSを起こすために、マウスを、剪毛した腹部上に4:1のアセトン/オリーブ油(AOO)中1%オキサゾロンの50μlで感作させた。5日後、マウスに、AOO中0.5%オキサゾロンの25μlによる曝露を右耳のみの後ろ側に行った。左耳は未処理とし、腫脹反応をマイクロメーター(Mytutoyo,USA)で測定し、曝露の24、48、72、96、及び168時間後に、左耳と右耳との違いを記録した。150μmの平均腫脹を、アレルギー反応と見なした。
【0138】
ヒマシ油ベースのCsA NCは、オレイン酸ベースのNCと同等に有効であることが分かる。さらに、第2日(図4)には、ヒマシ油ベースのNCが、オレイン酸ベースのCsA NCと比較して大きく改善された効果を誘導したことも観察することができ、これまでの推論が確認される。
【0139】
より重要なことには、表6~表8に提示する結果に示されるように、CsA NCの長期的安定性について、オレイン酸よりもヒマシ油の方が非常により有利であることも観察された。
【0140】
ヒマシ油コアの場合にのみ、様々なパラメータが、特に37℃で6ヶ月間にわたって、安定であった。
【0141】
これらの結果は、ヒマシ油の場合にのみ、市販のための製品を設計することが可能であることを明らかに示しており、なぜなら、37℃で6ヶ月間の安定性は、市販品の3年間の保存寿命と同等であり、一方そのような安定な製品は、表6~表8に示されるように、オレイン酸では実現することができないからである。
【0142】
眼内送達
背景
ヒトの眼は、多くの異なる細胞型から成る複雑な臓器である。薬物の局所投与は、適用が容易であること及び患者コンプライアンスを主たる理由として、眼疾患の治療において依然として好ましい経路である。しかし、眼に局所適用された薬物の吸収は、本来備わっている解剖学的及び生理学的バリアのために非常に低く、このため、高用量の投与を繰り返す必要がある。第一に、薬物分子は、全厚さがおよそ10μmである角膜前涙液膜で希釈される。この涙液の外側相の迅速な再生速度(1~3μl/分)は、瞬目反射と一緒になって、角膜前の空間での薬物の滞留時間を厳しく限定し(<1分間)、したがって、滴下した薬物の眼内生体利用度を限定する(<5%)。異なる眼病態の標的部位に応じて、薬物は、角膜及び/若しくは結膜に維持されることが必要であるか、又はこれらのバリアを通り抜けて眼の内部構造に到達する必要があるかのいずれかである。結膜を通しての薬物の進入は、通常、薬物の全身吸収を伴うものであり、強膜によって強く妨害される。その結果、角膜が、眼の内部が標的である薬物にとっての主たる進入経路である。残念なことに、角膜バリアを通り抜けることは、多くの薬物にとって主要な課題である。実際、多層親油性角膜上皮は、効果的に異分子及び異物粒子を除外するタイトジャンクション及びデスモソームが豊富に存在するによって、高度に組織化されている。さらに、親水性のストローマが、薬物の輸送を非常に困難としている。低分子量及び中程度の親油性を有する薬物だけが、ほんの僅かに、これらのバリアを処理することができる。
【0143】
春季角結膜炎(VKC)は、両側性で慢性の視力を脅かす重篤な炎症性眼疾患であり、主として小児が罹患する。一般的な発症年齢は、10歳より前である(4~7歳)。男性の方が多数であることが、特に20歳以下の患者において観察されており、その中での男女比は、4:1~3:1である。春季(春)は、この疾患の季節的な偏りを示唆するものであるが、その進行は、特に熱帯地方において、一年中発生している。VKCは、世界中で見られ、ほとんどすべての国で報告されている。アトピー性の感作が、患者のうちの50%で見出されている。VKCの患者は、通常、眼の症状を呈し、より主要な症状は、かゆみ、眼脂、流涙、眼の刺激、充血、及び様々な度合いでの羞明である。
【0144】
VKCは、IgE及び非IgEの両方が媒介する眼アレルギー疾患として、眼表面の過敏性障害の最も新しい分類に含まれている。しかしながら、すべてのVKC患者が皮膚アレルギー試験に陽性というわけではないこともよく知られている。結膜中のTh2リンパ球の数が増加すること、及び共刺激性分子及びサイトカインの発現が増加することは、VKC3の発症にT細胞が重要な役割を担っていることを示唆している。典型的なTh2由来サイトカインに加えて、Th1型サイトカイン、炎症促進性サイトカイン、様々なケモカイン、増殖因子、及び酵素が、VKC患者で過剰発現されている。
【0145】
1.VKCの治療
一般的な治療法としては、局所用抗ヒスタミン剤及びマスト細胞安定化剤が挙げられる。これらの治療法が充分であることは稀であり、この疾患の重症化及びより重篤なケースの治療には、局所用コルチコステロイドが必要となる場合が多い。コルチコステロイドは、依然として眼炎症の主要な治療法であり、抗炎症薬及び免疫抑制薬の両方として作用する。治療法の目標は、眼の損傷、傷、及び最終的な視力喪失を防止することである。これらの剤は非常に有効ではあるが、リスクを伴わない分けではない。すべての投与の種類及び手段における長期的なステロイドの使用の眼に対する副作用としては、白内障形成、眼圧上昇、及び感染に対する感受性の上昇が挙げられる。局所用ステロイドによる失明の可能性のある合併症を克服するために、シクロスポリンA及びタクロリムスなどの免疫調節薬がより頻繁に用いられている。
【0146】
タクロリムスは、シクロスポリン抵抗性であるVKCの重篤なケースであっても、ステロイド薬減量剤として有効であった。
【0147】
2.タクロリムスの有効性及び限界
FK506としても知られるタクロリムスは、細菌ストレプトマイセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)を含んだ日本の土壌サンプルの発酵ブロスから生産されるマクロライドである。この薬物は、Tリンパ球内のFK506結合タンパク質と結合し、カルシニューリン活性を阻害する。カルシニューリン阻害は、活性化されたT細胞の核内因子の脱リン酸化及びその核内への移動を抑制し、その結果、Tリンパ球によるサイトカインの形成が抑制される。Tリンパ球の阻害は、したがって、炎症性サイトカインの放出の阻害、及び他の炎症性細胞の刺激の低下に繋がり得る。タクロリムスの免疫抑制効果は、Tリンパ球に限定されず、B細胞、好中球、及びマスト細胞に対しても作用することができ、VKCの症状及び徴候の改善に繋がる。
【0148】
タクロリムスの異なる形態及び濃度が、前眼部炎症性障害の治療について評価されてきた。大部分の臨床試験で調べられた局所用タクロリムス製剤の主たる濃度は、0.1%であった。他のいつくかの研究では、0.005、0.01、0.02、及び0.03%を含むより低い濃度のタクロリムスの評価が行われ、局所用点眼液は安全であり、局所用ステロイド薬を含む従来の医薬に対して抵抗性であるVKCの患者において、有効な治療モダリティであることが示された。しかし、タクロリムスは、角膜上皮の浸透が難しく、その低い水溶性及び比較的高い分子量に起因して、角膜ストローマで蓄積する。さらに、この薬物の世界で市販されている眼内用製剤はなく、VKCの患者は、アトピー性皮膚炎の治療を意図する皮膚科用タクロリムス軟膏を使用せざるを得ない。
【0149】
3.眼疾患の治療のためのナノキャリア
頻繁に滴下する必要なしに正しい用量で薬物を送達することができる有効な局所用剤形の開発は、薬科学及び製薬技術における大きな課題である。過去数十年の間に、<1000nmのサイズの特定のナノキャリアが、眼に関連するバリアを克服することができることが示されてきた。実際、それらは、高親油性薬物を含む広く様々な薬物と会合する能力、不安定な薬物の分解を低減する能力、会合した薬物の眼の表面上における滞留時間を延長する能力、並びに角膜及び結膜上皮との相互作用を改善し、結果としてそれらの生体利用度を改善する能力、を示してきた。ナノコロイド系は、リポソーム、ナノ粒子、及びナノエマルジョンを含む。
【0150】
3.1ポリマーナノ粒子
ポリマーナノ粒子(PN)は、10~1000nmの範囲内の直径を有するコロイド状キャリアであり、様々な生分解性及び非生分解性ポリマーを含む。PNは、ナノスフィア(NS)又はナノカプセル(NC)として分類することができ、NSは、薬物を吸着又はトラップするマトリックスシステムであり、一方NCは、薬物が分散されている油コアを含有して取り囲んでいるポリマー壁を有する貯留型のシステムである。
【0151】
これらのシステムは、局所用眼内送達システムとして研究され、眼の表面に対する改善された付着及びそれらによる薬物の放出制御が示されてきた。これらのPNは、トラップされた薬物の物理化学的特性を隠すことができることから、薬物の安定性を改善することができ、その結果、薬物の生体利用度を改善することができる。加えて、これらのコロイド状キャリアは、液体の形態で投与することができ、投与及び患者コンプライアンスを容易とする。
【0152】
ナノエマルジョン(NE)は、界面活性剤の使用によって安定化された2つの非混和性液体の不均質分散液である(水中油型又は油中水型)。これらの均質系は、すべてが低粘度の液体であり、したがって、眼への局所投与に適用可能である。さらに、界面活性剤が存在することは、膜透過性を高め、それによって、薬物の取り込みが増加する。これに加えて、NEは、薬物の持続放出を提供し、親水性薬物及び親油性薬物の両方を収容する能力を有する。局所的眼内送達におけるナノキャリアの数多くの利点、及び既に証明されている春季角結膜炎におけるタクロリムスの有効性に照らして、本発明者らの研究は、開発に焦点を当てた。
【0153】
本実験では、コロイド状送達システム(ナノカプセル及び/又はナノエマルジョン)へのタクロリムスの封入が、角膜での薬物保持を改善し、その眼内浸透を高め、その結果としてVKCにおけるより高い治療効果をもたらすという仮説を立てている。
【0154】
全体としての目的は、抵抗性VKCの患者のために世界で市販される治療薬の必要性を満たすために、タクロリムスが搭載された安定なコロイド状眼内用製剤を開発することである。
本実験では、本発明者らは、以下の目的に焦点を当てた。
a - タクロリムスナノキャリア(NE/NC)の設計及びその特性決定
b - 製剤の安定化及び眼の生理学的条件への適合
c - ナノキャリアのブタ角膜浸透の生体外評価、及び切除したブタ角膜に対する選択されたナノキャリアの生体外毒性評価
【0155】
4.材料
タクロリムス(一水和物として)は、TEVA(Opava,Komarov,Czech Republic)の厚意で寄贈を受け、ヒマシ油は、TAMAR industries(Rishon LeTsiyon,Israel)から入手し、ポリソルベート80(Tween(登録商標)80)、ポリオキシル-35ヒマシ油(CremophorEL)、D(+)トレハロース、D-マンニトール、スクロース、MTT(3–(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)は、Sigma-Aldrich(Rehovot,Israel)から購入した。Lipoid E80は、Lipoid GmbH(Ludwigshafen,Germany)から入手し、中鎖トリグリセリド(MCT)は、Societe des Oleagineux(Bougival,France)の厚意で提供を受けた。グリセリンは、Romical(Be’er-Sheva,Israel)から入手した。[H]-タクロリムス、Ultima-Gold(登録商標)液体シンチレーションカクテル液、及びSolvable(登録商標)は、Perkin-Elmer(Boston,MA,USA)から購入した。PVA(Mowiol 4-88)は、Efal Chemical Industries(Netanya,Israel)から入手し、PLGA 4.5K(MW:4.5KDa)、PLGA 7.5K(MW:7.5KDa)、及びPLGA 17K(MW:17KDa)は、Evonik Industries(Essen,Germany)から入手した。PLGA 50K(MW 50KDa)は、Lakeshore Biomaterials(Birmingham,AL,USA)から、PLGA 100K(MW 100KDa)は、Lactel(登録商標)(Durect Corp.,AL,USA)から購入した。Macrogol 15ヒドロキシステアレート(Solutol(登録商標)HS 15)は、BASF(Ludwigshafen,Germany)の厚意で寄贈を受けた。(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン(HPβCD)は、Carbosynth(Compton,UK)製であった。有機溶媒はすべてHPLCグレードとし、J.T Baker(Deventer,Holland)から購入した。すべての組織培養品は、Biological Industries Ltd.(Beit Ha Emek,Israel)製であった。
【0156】
5.方法
5.1.ナノキャリアの調製
5.1.1.ブランク及び薬物搭載NPの調製
様々なPLGAナノ粒子を、充分に確立された溶媒置換法20に従って調製した。簡潔に述べると、ポリマーのポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)(乳酸:グリコール酸の50:50ブレンド)を、アセトン中に0.6重量/体積%の濃度で溶解した。NCの調製の場合、製剤をスキャンする目的で、MCT/ヒマシ油及びTween 80/Cremophor EL/Lipoid E80を、様々な濃度及び組み合わせで有機相に導入した。NSの調製の場合は、有機相に油は混合しなかった。タクロリムスを、いくつかの濃度で有機相に添加し、最適濃度は、0.05及び0.1重量/体積%であった。有機相を、0.2~0.5重量/体積%のSolutol(登録商標)HS 15又は1.4重量/体積%のPVAを含有する水相に注ぎ入れた。有機相と水相との間の体積比は、1:2体積/体積であった。懸濁液を、15分間にわたって900rpmで撹拌し、次にすべてのアセトンを、減圧蒸発によって除去した。濃縮製剤の場合、所望される最終体積が得られるまで、水も蒸発させた。NPの精製を、遠心分離(4000rpm;5分間;25℃)によって行った。タクロリムスに対する最適な製剤を実現するために、多くのNP、特にNC製剤を調製し、それによって、本発明者らは、PLGAのMW、活性成分濃度、油の種類、並びに水相及び有機相中の異なる界面活性剤の存在が、NPの安定性及び特性に対して及ぼす影響を特定することができた。
【0157】
5.1.2.薬物搭載NEの調製
異なるナノエマルジョンを、NCについて記載したものと同じプロセスにより、ポリマーPLGAの添加なしで調製した。これらの製剤を、さらに、目標のタクロリムス濃度0.05重量/体積%を達成するために、さらに水で希釈した。
【0158】
放射標識NC/NEを調製する際は、3μCiの[H]-タクロリムスを、0.05重量/体積%のタクロリムスのアセトン溶液と混合し、その後水相に添加した。
【0159】
5.2.ナノキャリアの物理化学的特性決定
5.2.1.粒子/液滴サイズの測定
5.2.1.1.Zetasizer Nano ZS
様々なNC及びNEの平均径を、MalvernのZetasizer装置(Nano series,Nanos-ZS)によって25℃で測定した。10μLの各製剤を、990μLのHPLC用水中に希釈した。
【0160】
5.2.1.2.Mastersizer
NEの液滴サイズも、Mastersizer 2000(Malvern Instruments,UK)を用いることによって測定した。1回の測定あたり各NEのおよそ5mLを用い、120mlのDDW中に分散し、一定の撹拌下で測定した(よそ1760rpm)。
【0161】
5.2.2.形態の評価
5.2.2.1.透過電子顕微鏡(TEM)によるイメージング
透過電子顕微鏡(TEM)観察結果を、JEM-1400plus 120kV(JEOL Ltd.)を用いて評価した。サンプルを酢酸ウラニルと混合することによって、ネガティブ染色用の検体を調製した。
【0162】
5.2.2.2.クライオ透過電子顕微鏡(クライオ-TEM)によるイメージング
クライオ透過電子顕微鏡(クライオ-TEM)観察の場合、NE/NP懸濁液の液滴を、300メッシュCuグリッド(Ted Pella Ltd.)上に支持されたカーボンコーティングした穿孔ポリマーフィルム上に載せ、検体を、Vitrobot Mark-IV(FEI)を用いて、液体エタン中で-170℃まで急冷することによって自動的にガラス化した。サンプルを、Tecnai T12 G2 Spirit TEM(FEI)を120kVで、-180℃に維持したGatanクライオホルダーと共に用いて調べた。
【0163】
5.3.NPの凍結乾燥
いくつかの抗凍結剤を、1:20~1:1(PLGA:抗凍結剤)の範囲内の様々な質量比で試験した。抗凍結剤の水溶液の1部を、新しいNP懸濁液の1部に添加し、充分に混合した。次に、調製物を、Epsilon 2-6Dフリーズドライヤーによって17時間凍結乾燥した。必要である場合は、1mLのNPの算出重量に相当する量の乾燥粉末を、1mLの水に分散させて初期分散液を再構成し、再構成物を粒子サイズ分布によって特性決定した。
【0164】
5.4.等張性の調節及び測定
等張性を実現するために、異なる製剤にグリセリンを添加した。NE及び新しいNPの場合、2.25重量/体積%の濃度のグリセリンが必要であり、一方凍結乾燥されて再構成されたNPの場合は、2重量/体積%で充分であった。オスモル濃度測定を、3MO Plus Micro Osmometer(Advanced Instruments Inc.,Massachusetts,USA)で行った。
【0165】
5.5.タクロリムスの定量
5.5.1.NE/新しいNPの薬物含有量
NE中のタクロリムス含有量(重量/体積)を、HPLCによって特定した。50μlのNEを、950μlのアセトニトリルに添加し、UV検出器を備えたHPLCシステムに注入した(Dionex ultimate 300,Thermo Fisher Scientific)。5μm Phenomenex C18カラム(4.6×150mm)(Torrance,California,USA)、60℃で0.5mL/分の流量、及び移動相として95:5体積/体積のアセトニトリル:水の混合物を用いて、タクロリムスを、213nmの波長で検出し、保持時間は5.1分であった。
【0166】
5.5.2.凍結乾燥されたNPへの薬物搭載
20mgの凍結乾燥されたNPを、2.5mLの水で再構成し、さらに10分間超音波処理した。次に、この分散液の1mLを9mLのアセトニトリルに添加し、5分間にわたってボルテックス撹拌した。凍結乾燥されたNP中のタクロリムスの搭載効率を、HPLCによって特定した。後者の溶液の1mLを、上記で述べたHPLCシステムに注入した。凍結乾燥された粉末中のタクロリムスの搭載量は、式(1)に記載のようにして特定した。
【0167】
5.6.タクロリムスNPの封入効率アッセイ
新しいNPの封入効率(EE)特定では、1mLの製剤を1.5mLのキャップ付きポリプロピレンチューブ(caped polypropylene tube)(Beckman Coulter)に入れ、4℃、45000rpmで75分間の超遠心分離に掛けた(Optima MAX-XP ultracentrifuge,TLA-45 Rotor,Beckman Coulter)。上澄を、HPLC分析のために分離した。遊離タクロリムスの量を、100μLの上澄を900μLのアセトニトリル中に溶解することによって特定した。EEは、式(2)に従って算出した。
【0168】
凍結乾燥されたNPの封入効率特定では、8mgの凍結乾燥された粉末を1mLの水で再構成し、4℃、40000rpmの速度で40分間の超遠心分離に掛けた。封入効率は、新しいNPの場合に上記で述べたようにして特定した。
【0169】
5.7.タクロリムス搭載ナノキャリアの安定性アッセイ
5.7.1.NEの安定性評価
新しいタクロリムスNEを、1mLのサンプルに分割し、密封して、4℃、室温、及び37℃で暗所で保存した。NEの安定性を、1、2、4、及び8週間でサンプルを取り、上記で述べたものと同じプロトコルを用いて液滴サイズ分布及び薬物含有量について評価した。
【0170】
5.7.2.NPの安定性評価
タクロリムスNPの乾燥された粉末を、150mgのサンプルに分割し、密封して、4℃、室温、及び37℃で暗所で保存した。粉末を、1、2、4、8、12、及び17週間で分析した。各期間の終了時に、対応するサンプルから粉末を取り、水に再分散させた。この懸濁液の安定性を、上記で述べたプロトコルを用いて、粒子サイズ分布及び含有量分析によって評価した。
【0171】
5.8.生体外角膜薬物浸透実験
ブタの眼を、Lahav Animal Research Institute(Kibbutz Lahav,Israel)から入手した。眼球除去した眼を、氷上に保持して輸送し、眼球除去後3時間以内に使用した。およそ5mmの強膜に囲まれた角膜を切除し、有効拡散面積1.0cm及びレセプターコンパートメント8mLのフランツ拡散セル(Permegear Inc.,Hellertown,PA,USA)に配置した。10%のエタノールと混合したダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH=7.0)を、レセプターチャンバーに入れ、35℃に維持して撹拌を続けた。NE/NP製剤中に搭載したH-タクロリムス、及びヒマシ油中にH-タクロリムスを含有するコントロールを、配置した角膜に適用した。実験開始の24時間後に、放射活性標識H-タクロリムスを、複数の区画中で特定した。まず、角膜表面に残留する製剤を、レセプター媒体による一連の洗浄によって回収した。次に、角膜を、60℃に維持したウォーターバス中、組織が完全に崩壊するまでSolvable(登録商標)で化学的に溶解した。最後に、レセプター液のアリコートも回収した。放射線標識タクロリムスを、Tri-Carb 4910TRベータカウンター(PerkinElmer,USA)により、Ultima-gold(登録商標)シンチレーション液中で特定した。
【0172】
5.9.生体外角膜毒性評価
5.9.1.MTT生存率アッセイ
上記で述べたものと同じ条件下に保持したブタの眼を生存率アッセイに用いた。およそ5mmの強膜に囲まれた角膜を切除し、20mLのポビドンヨード溶液で5分間殺菌した。次に、角膜をPBSで洗浄し、10μLの異なる濃度のNCで処理し、1.5mLのDMEM中、37℃で72時間インキュベートした。異なる処理後の角膜細胞生存率を評価するために、MTT生存率アッセイを行った。まずMTT粉末をPBSに溶解して、5mg/mLのストック溶液を調製した。この溶液を、PBSでさらに0.5mg/mLに希釈し、この希釈溶液の500μLを、各角膜にインキュベーションの1時間前に添加した。染料抽出を、各角膜に対して700μLのイソプロパノールを用い、室温で30分間振とうすることによって行った。後者のプロセスの後、100μLの抽出物を取り、BioTek製Cytation 3イメージングリーダーによって570nmの波長で読み取った。
【0173】
5.9.2.上皮厚さ測定
切除し、上記で述べたものと同じプロトコルに従って処理及びインキュベートした角膜を、パラホルムアルデヒドに12時間浸漬し、さらにエタノール中に移した後に、組織切片を作製した。サンプルを4μmに切断し、ヘマトキシリン及びエオシンによって染色した。組織写真は、Olympus B201顕微鏡(光学倍率×40、Olympus America,Inc.,MA,USA)によって撮影した。Image Jソフトウェアを用い、測定した上皮面積をその長さで除することによって上皮厚さを得た。
【0174】
6.結果
6.1.ナノエマルジョン(NE)
6.1.1.組成及び特性決定
数多くのNEを、界面活性剤及び薬物濃度を変えて調製し、狭いサイズ分布を呈するサブミクロン液滴の物理的及び化学的に安定な製剤を見出す目的のスクリーニングを行った。得られたNEの物理化学的特性を表9にまとめて示す。水相中の界面活性剤としてPVAを、有機相中にはヒマシ油を含有する製剤だけが、物理的に安定であった(NE-5~NE-8)。NE-6~NE-8を、さらなる評価のために選択した。これらのNEは、有機相界面活性剤Tween 80の濃度が主として異なっており、Zetasizer Nano ZSで測定した低い多分散指数(PDI)、及び176~201nmの範囲の平均液滴径を呈した。
【0175】
標準Zetasizer Nano ZSは、ミクロンサイズの粒子の測定に限定されることから、NE液滴の粒子サイズ分布の確認は、0.02~2000μmのサイズ範囲をカバーするMastersizer 2000(Malvern Instruments,UK)を用いたレーザー回折法によって行うことができる。この装置によって得られた図5から分かるように、選択された製剤(NE-6~NE-8)は、試験したNEすべてにおいて類似しているサブミクロンプロファイルを呈し、Zetasizer Nano ZSによって得られた結果が確認された。
【0176】
選択されたNEの形態の検討を、その物理化学的特性決定を完了するために行った。球形状のNE液滴が、すべての製剤で観察された(図6)。
【0177】
6.1.2.生体外角膜浸透実験
図7に報告される結果は、[H]-タクロリムス搭載NE及び油コントロールの局所投与の24時間後における、角膜中の単位面積あたりの[H]-タクロリムスの量(図7A)、及びレセプターコンパートメント中のその濃度(図7B)を示す。試験したNEはすべて、0.05%のタクロリムス濃度が得られるように希釈し、等張性となるように調節した。
【0178】
NE-8に搭載されたタクロリムスは、油コントロールと比較して、有意により多く角膜中に維持された(p<0.05)。レセプター液中の薬物濃度も、コントロールと比較して、NE-6、NE-7、及びNE-8で4倍高く(p<0.05)、ナノエマルジョンに搭載された場合のタクロリムスの角膜への浸透が有意に増加することが明らかに示される。しかし、試験したNE間では、透過の違いは見られなかった(p>0.05)。
【0179】
6.1.3.安定性の評価
3つの選択されたNEは、4℃及び室温で保存された場合、8週間後において、物理化学的特性及び薬物含有量を保持していた。しかし、表10から分かるように、37℃では、同じ期間の後、タクロリムス含有量(重量/体積で)は、初期薬物含有量から少なくとも20%低下していた。
【0180】
6.2.ナノ粒子
数多くのナノ粒子製剤を、PLGA MW、油、界面活性剤、薬物、及びそれらの濃度を変えて調製し、ナノカプセル(NC)又はナノスフィア(NS)とした。このスクリーニングは、狭いサイズ分布及び高い封入効率を示す粒子の安定な製剤を見出すことを目的とした。
【0181】
6.2.1.ナノスフィア(NS)
NS中のタクロリムスを製剤するすべての試みは成功せず、数時間後には凝集体が形成された(表11)。タクロリムスを溶解するための油は、薬物を製剤して安定な製品を得るのに不可欠であると思われた。
【0182】
6.2.2.ナノカプセル(NC)
6.2.2.1.組成及び特性決定
唯一の種類の油としてヒマシ油を用いて製剤した場合のNEの物理的安定性に基づいて、本発明者らは、同じ成分を用いてNCを製剤した。PLGA分子量、並びに水相及び有機相中に用いた界面活性剤の濃度と種類などの製剤の様々なパラメータを変更した(表12)。
【0183】
最も安定な製剤を、さらなる特性決定のために選択した(表13)。PLGA 100KDaを用いて製剤したNC-18以外は、すべてのNCをPLGA 50KDaを用いて製剤した。NCのサイズは、90~165nmで変動し、0.1以下のPDIを呈し、形成されたNCの均質性が明らかに示される。得られた封入効率(EE)は、異なるパラメータを変更した場合にも、大きく異なることはなく、最大で81%に達した。
【0184】
6.2.2.2.凍結乾燥
水性媒体中でのPLGA NCの不安定性のために、凍結乾燥を行った。粒子の凝集を防止することができる最も有効な化合物を識別するために、様々な比率での抗凍結剤のスクリーニングを行った。FDAの要件を満たすために、最終再構成品中のこれらの化合物の濃度を、試験した比率の考慮に入れた。スクロース及びトレハロースは、1:1~1:20の範囲のPLGA:抗凍結剤の比率ではケーキが不充分であることにより、NCの凍結乾燥には適さないことが見出された。マンニトールではケーキが得られたが、1:1~1:6の比率では、再構成後に凝集が見られた(表14)。
【0185】
選択されたNCにおいて、β-シクロデキストリンが、良好なケーキ及び水中での素早い再分散を与える唯一の抗凍結剤であった。比較的低いPDIと合わせてプロセス前後でのサイズが同様であることを考えると、最良の凍結乾燥結果は、NC-1及びNC-2の製剤で得られた。好ましいPLGA:β-シクロデキストリンの比率は、両NCに対して1:10であった(表15)。
【0186】
結果として、有望な製剤は、水相及び有機相中に用いた界面活性剤が異なっているNC-1及びNC-2であった。NC-1は、Cremophor EL及びPVAを含有しており、一方NC-2は、Tween 80及びSolutolを用いて製剤した。表16から分かるように、これら2つのNC製剤は、凍結乾燥プロセスの後、低PDI及び70%の封入効率と共に、およそ170nmであるその初期サイズを保存した。
【0187】
形態の検討についても、TEMによって評価した(図8)。評価した2つの製剤は、凍結乾燥前、球形状のNCを呈した(図8A)。凍結乾燥及水中での粉末再構成は、粒子の物理的態様に影響を与えず、凝集は見られなかった(図8B)。
【0188】
6.2.2.3.生体外角膜浸透実験
NCに搭載された場合にタクロリムスが角膜を透過する可能性を評価する目的で、放射線標識性剤の浸透実験を行った。図9に報告される結果は、[H]-タクロリムス搭載NC及び油コントロールの局所投与の24時間後における、角膜中の単位面積あたりの[H]-タクロリムスの量(図9A)、及びレセプターコンパートメント中のその濃度(図9B)を示す。2つのNC製剤を凍結乾燥及び水中での再構成の前後で試験し、タクロリムスの濃度0.05重量/体積%を得た。
【0189】
すべてのNC処理は、油コントロールと比較して、有意に多いタクロリムスを角膜中に維持していた(p<0.05、**p<0.01)。レセプター液中の薬物濃度についても同じ結果が得られ、コントロールと比較して、有意に高かった(**p<0.01)。さらに、これらの結果は、NC-1と比較してNC-2に搭載した場合の方が、角膜の薬物の透過が良好であったことも示しており(**p<0.01)、製剤中に用いられる界面活性剤の重要性が明らかに示される。凍結乾燥及び水性採再構成後に、これらの観察結果に違いは見られておらず(p>0.05)、このプロセスがNCの特性を変化させなかったことが示唆される。
【0190】
6.2.2.4.安定性の評価
2つの選択されたNC製剤は、異なる温度である期間保存した場合に、異なる安定性プロファイルを示した。37℃で8週間後、NC-1のサイズ及びPDIは増加し、初期薬物含有量(重量/重量)は、およそ20%低下した(表17)。対照的に、NC-2は、試験した保存期間の間、その物理化学的特性及び初期薬物含有量を保持した(表18)。これらの結果は、製剤中の界面活性剤の選択も、初期NC特性を経時で保持するために重要であることを示唆するものであった。
【0191】
6.2.3.生体外角膜浸透のNC対NEの比較
角膜浸透に関して、あるタクロリムス搭載ナノキャリアの第二のナノキャリアに対する考え得る優位性を評価する目的で、得られた結果の比較を行った。統計分析から、新しいNCは、凍結乾燥されたNC-1と共に、角膜に浸透する量がNEと比較して多くはないことが示唆された(p>0.05)。しかし、図10から分かるように、凍結乾燥されたNC-2は、角膜を通して異なるNEよりも多い量のタクロリムスを送達した(p<0.05、**p<0.01)。
【0192】
6.2.4.生体外毒性評価
6.2.4.1.MTT生存率アッセイ
角膜浸透実験の成功及びその安定性が経時で保持された結果として、NC-2が有望な製剤となった。角膜細胞に対するその毒性を評価するために、異なる濃度の等張性の再構成したNC-2を、ブタの角膜に対して、臓器培養物中で72時間インキュベートして生体外で試験した。MTTアッセイをその後に実施し、図11に示されるように、コントロールの未処理角膜と比較して、NCが、評価した濃度で組織の生存率に影響を与えなかったことが示唆された(p>0.05)。
【0193】
6.2.4.2.上皮厚さ測定
NC-2投与によって誘発される角膜上皮の損傷の可能性を評価する目的で、生体外処理したブタ角膜の組織分析及びH&E染色を、72時間のインキュベーション後に行い、続いて上皮厚さ測定を行った。得られた結果は、NC-2処理角膜と未処理コントロールとの間で、類似の上皮厚さを示し(p>0.05)、試験した濃度のNCが、角膜の形態に影響を与えなかったことが示唆される(図12)。
【0194】
7.考察
眼を標的とする免疫抑制薬送達システムの設計は、まず、免疫抑制剤を封入し、及び眼の高度に選択的な角膜バリアに効率的に浸透する可能性を有するナノキャリアを開発する必要があった。
【0195】
本発明の研究では、免疫抑制剤のタクロリムスを、生分解性PLGAベースのナノ粒子状送達システム内に封入した、又は水中油型ナノエマルジョンに搭載した。親油性薬物封入においてよく用いられる好適な技術である溶媒置換法を、異なる界面活性剤、PLGA MW、タクロリムス、及び油濃度と共に本実験でのNE、NS、及びNCのいずれの調製においても採用した。水相中に界面活性剤としてPVAを含有するNE製剤だけが、物理的に安定であり、それは恐らく、安定化鎖の強い溶媒和(水和)と共に、このポリマーの酢酸基が油滴の疎水性表面に吸着することができ、その結果として、有効な立体障害がもたらされるからである。さらに、PVAなどのポリマー界面活性剤は、水相の粘度を高め、それによって、懸濁液中でナノ液滴を維持する。有機相の界面活性剤(Tween 80)濃度が様々である選択されたNE製剤は、所望されるすべての物理化学的特性を呈した。実際、ナノ液滴は、176~201nmの範囲の平均サイズ、低い多分散指数(約0.1)、及び物理的安定性を呈した。タクロリムスNEを特性決定し、最適化した後、それらの角膜浸透/透過プロファイルを、フランツ拡散セルを用いることによって評価した。NE及び油コントロールの両方からの[H]-タクロリムスの分布を、異なる区画で特定した。結果から、角膜を通しての[H]-タクロリムスの浸透は、油コントロールの場合の2倍を超えて高いことが明らかとなった(図7B)。
【0196】
この知見は、タクロリムスが、その低い水溶性及び比較的高い分子量に起因して、角膜上皮への浸透が困難であり、角膜ストローマに蓄積するが、ナノエマルジョンに搭載されると、より多くのタクロリムスが、セルのレセプター液に透過しており、複雑な角膜組織を構成する親油性及び親水性部分の両方に薬物が浸透したことが示唆されることから、特に重要である。
【0197】
これらの結果は、文献での過去の報告からの結果と一致しており、ナノエマルジョンキャリアの使用が、角膜上皮によるコロイド状液滴の取り込みに起因して、角膜を通しての薬物の浸透を改善することができることを示している。
【0198】
これらのフランツセル実験の結果から、Tween 80の濃度を、NE-6の1.4%からNE-8の0.4%まで低下させた場合に、角膜浸透に大きな低下がなかったことも強調されるべきであり、このことは、浸透促進剤として作用するその可能性に影響を与えることなく、最小限の量でこの界面活性剤を用いることができることを示唆している。
【0199】
促進温度条件で行った3つの選択されたNE(NE-6~NE-8)の物理化学的特性評価から、NEの物理的安定性は保持され、試験したすべての温度で液滴のサイズ及びPDIは同様であったが、薬物含有量は、37℃での8週間後に、初期タクロリムス濃度の80%まで低下したことが示された。これらの知見から、油相と水相との間での薬物の分配を考慮して、タクロリムスは、恐らく、水が存在する結果として分解されたことが示唆される。
【0200】
したがって、水性媒体中でのNE製剤の不安定性を克服するために、凍結乾燥及び使用前の再構成も施されることになるNP製剤の最適化に対してすべての労力を集中することにした。高い親油性のタクロリムスをNS中に封入する試みは成功しなかった。実際、数分後に薬物は凝集した。このナノキャリアの不安定性には、いくつかの理由が存在し得る。まず、タクロリムスは、PLGAポリマーよりも界面活性剤に対して高い親和性を有する可能性があり、このことは、薬物の封入ではなくミセル化を引き起こし得る。さらに、タクロリムスは、ポリマー表面に吸着する可能性があり、このことは、薬物が水相へ送られる際に平衡で薬物の凝集をもたらし得る。
【0201】
加えて、NSのサイズが小さいことは、ギブズの自由エネルギーを高め、したがって、粒子は、それ自体で集合して表面エネルギーを低下させる傾向にあり、それらの衝突、薬物の放出、及びその結晶化が誘発される。NCの設計は、薬物を溶解する油成分のために、タクロリムスを封入するためのより良好なソリューションであると思われた。多くの製剤のスクリーニングを、NCの成分及びそれらの濃度を変えることによって行った。選択されたNCは、170nm未満の平均サイズ、低いPDI(≦0.1)、及びNC-10の場合の61%からNC-6の場合の81%までの範囲の封入効率を呈した。したがって、必要となる次の工程は、水性環境中でのタクロリムス及びPLGAの両方の分解を阻止するために、NCの凍結乾燥を行うことであった。
【0202】
適切な凍結乾燥法は、以下の3つの必要とされる基準、元の凍結された物質と同じ体積を占める完全なケーキ、再構成されたNCが凝集体のない均質な懸濁液の外観を有すること、及び3つ目として、水での再構成時にNCの初期物理化学的特性が維持されるべきであること、を有する。抗凍結剤の種類及び濃度を含む数多くのパラメータが、凍結乾燥によって課されるストレスに対するNCの耐性に影響を与える。適切な抗凍結剤を選択するために、その多くの様々な濃度でのスクリーニングを行った。選択されたNCのすべてにおいて、異なる比率のスクロース及びトレハロースからは、保持されるケーキが得られなかった。マンニトールを抗凍結剤として用いた後に完全なケーキが得られたにも関わらず、再構成水溶液は均質ではなかった。しかし、β-シクロデキストリンを1:10の比率で用いた場合、凍結乾燥は、保持されるケーキ、均質な再構成水溶液の両方について最適であり、選択された6つのNCの中で2つについては、物理化学的特性に変化はなかった。水相及び有機相に用いられる界面活性剤が異なるNC-1及びNC-2が、次の実験のための有望な製剤となった。形態についての検討から、これら2つの製剤においては、凍結乾燥の前後での類似性が高いことが明らかとなり、粒子の球形状が保持され、凝集は見られなかった。これら2つの製剤を、フランツセルでさらに試験して、角膜での維持及び浸透の可能性を評価した。NC-1、NC-2、それらの対応する凍結乾燥された粉末、及び油コントロールからの[H]-タクロリムスの分布を、異なる区画で特定した。結果から、第一に、新しい製剤と凍結乾燥された製剤との間に、角膜での維持にもその浸透にも差はないことが明らかとなり、このプロセスがNCの特性を変化させなかったことが示唆される。第二に、[H]-タクロリムスは、油コントロールよりもNCの場合に、角膜中に2倍多く維持された(図9A)。さらに、レセプター中の薬物濃度は、油コントロールよりも最大で4倍高かった(図9B)。第三に、NC-1とNC-2との間で、レセプター液中の[H]-タクロリムス濃度に有意な差があることを強調することも重要である。製剤を構成する界面活性剤が異なるこれらの製剤を試験して、これらの化合物の浸透促進に対する影響について評価した。Tween 80を有機相中に、Solutolを水相中に含有するNC-2は、有機相中にCremophor ELを、水相中にPVAを含有するNC-1よりも良好な角膜浸透を呈した。いずれもポリオキシエチレン化非イオン性界面活性剤であるTween 80及びCremophor ELは、これらの差に関与していないと想定した。対照的に、水相に用いたPVAは、異なる作用機構を有するポリマー界面活性剤であり、既に述べたように、立体障害を構成している。加えて、PLGAナノ粒子の製剤では、PVAの疎水性部分が、ポリマー表面上に網目構造を形成し、粒子の表面疎水性を変化させる。さらに、この変化は、眼内浸透に関与する機構であるこれらの粒子の細胞取り込みに影響を与え得ることが報告された。したがって、PVAと共に製剤されたNC-2の浸透が低下したことは、コロイド状薬物送達システムが眼に対して局所適用された場合に発生する角膜上皮による取り込みの低下に起因する可能性がある。NEとNCとの比較から、いずれのナノキャリアも、角膜を通しての薬物浸透の実現にはコントロールよりも優れていることが示唆されたが、既に報告されているように、新しいNCとNEとの間には有意差は見出されなかった。しかしながら、凍結乾燥されたNC-2の角膜浸透は、NEよりも有意に優れていた。この結果は、コロイド状ナノキャリアの角膜浸透に差がないこと、及びβ-シクロデキストリンを含む粒子の凍結乾燥が眼内への透過を低下させたことを示すこれまでに発表された研究と矛盾している。本発明者らの結果は、薬物の良好な封入に起因する可能性があり、このことが、トラップされていないタクロリムスとβ-シクロデキストリンとの間の複合体形成の低減に繋がり、その結果、遊離の薬物が抗凍結剤と複合体形成した場合には発生しないプロセスであるナノカプセルの取り込みによって、薬物の浸透が増加する。選択された凍結乾燥NCの安定性評価では、NC-2の場合のみ、促進条件下で初期薬物含有量が経時で保持されたことが示された。対照的に、NC-1のタクロリムス含有量は、37℃で8週間後に17%減少しており、それは恐らく、一部の界面活性剤が薬物分解の促進に対して有し得る影響による。NC-2によって得られたより良好な浸透及び安定性の結果を考慮して、NC-2が、さらなる実験のための有望な製剤となった。角膜上皮に対するNC-2の毒性を、MTT実験及び組織学的測定の両方によって評価した。凍結乾燥された粉末を水で再構成して得た異なる薬物濃度から、角膜細胞の生存率が保持され、及び角膜上皮の完全性が保存されたことが証明され、このことは、この製剤の局所点眼が、患者にとって安全であり得ることを示唆している。
【0203】
8.パルミチン酸デキサメサゾン
8.1.眼内使用のためのFDA承認油中の溶解性
パルミチン酸デキサメサゾンの溶解性を、鉱油、ヒマシ油、及びMCT中で評価した。
【0204】
薬物の最も高い溶解性は、MCT油中で得られ、この油を、製剤の開発のために選択した。
【0205】
8.2.ナノキャリアの開発
ナノエマルジョン、ナノスフィア、及びナノカプセルを、パルミチン酸デキサメサゾンに最も適合したナノキャリアを選択するために試験した。最も重要なパラメータは、サイズ、PDI、ナノ粒子の封入効率、及び物理的安定性であった。第二の目標は、高い薬物濃度及び凍結乾燥の実行可能性を得ることであった。
【0206】
8.3 PLGAとの異なる比率でのヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを用いた凍結乾燥を行った。
表21に示されるように、空のボックスは、水による粉末の再構成が均質ではなかったことを意味する。灰色のボックスは、最小比率の抗凍結剤で得られた最良の物理的パラメータを表す。
【0207】
8.4.ナノスフィア
数日後、ナノスフィア(D11)で凝集体が見られた。さらに、凍結乾燥は、試験した比率ではまったく成功しなかった。したがって、ナノエマルジョン及びナノカプセルを用いて継続することとした。
【0208】
8.5.ナノエマルジョン
ナノエマルジョンの物理的安定性における成分の重要性を検討するために、サンプルD9及びD10を、油なし及び/又は異なる界面活性剤で製剤した。両サンプル共に、数日後に相分離を示した。
【0209】
しかし、サンプルD3、D4、及びD12は成功し、D3は、最小の抗凍結剤濃度で凍結乾燥したが、再現性はなかった。しかしながら、凍結乾燥されたナノカプセルとの比較の目的で、後者を、さらなる検討のために選択した。
【0210】
8.6.ナノカプセル
最も高い薬物濃度及び封入効率は、D6、D8、及びD13~D16で得られた。凍結乾燥は、1:10~1:15の比率のPLGA:HPBCDでも成功した。
【0211】
8.7.安定性
【0212】
表22に示されるように、6週間後に、液滴のサイズ及びPDIは、特に4℃及び25℃の保存温度で変化しており、ナノエマルジョンが安定ではなかったことを意味する。PDI値の著しい増加は、液滴サイズ集団の均質性が増加していないことを明らかに示しており、PDIの増加は、多くの油滴の直径サイズを増加させる油滴の著しい合着を示唆している。このプロセスは不可逆的である。
【0213】
サンプルD6及びD8は、いずれも12週間後に僅かなサイズ変化しか見られないことを示したことから、サンプルの候補である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A-6C】
図7
図8A-8B】
図9
図10
図11
図12