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特許7416438浸水防止壁、浸水防止壁の構築方法及びプレキャストコンクリート製の壁体
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  • 特許-浸水防止壁、浸水防止壁の構築方法及びプレキャストコンクリート製の壁体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】浸水防止壁、浸水防止壁の構築方法及びプレキャストコンクリート製の壁体
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/14 20060101AFI20240110BHJP
   E02B 3/10 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
E04H9/14 Z
E02B3/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021076462
(22)【出願日】2021-04-28
(65)【公開番号】P2022170370
(43)【公開日】2022-11-10
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】592086880
【氏名又は名称】丸栄コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100161230
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 雅博
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 肇
(72)【発明者】
【氏名】渡部 健
(72)【発明者】
【氏名】三輪 啓司
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 宗孝
(72)【発明者】
【氏名】山田 真也
(72)【発明者】
【氏名】石黒 憲司
(72)【発明者】
【氏名】杉山 晃久
【審査官】廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】特許第6760529(JP,B1)
【文献】特開平09-144393(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0085432(KR,A)
【文献】特公昭62-057788(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/14
E04H 17/14
E04H 17/20
E04B 2/02
E04B 2/86
E02B 3/04-10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤よりも上方に立ち上げられた状態で設けられることにより建物等の浸水防止対象への浸水を防止する浸水防止壁であって、
幅方向に並べて設けられた複数の壁体を備え、
前記壁体は、前記壁体の厚み方向に対向する一対の対向板部を有し、
前記各対向板部の間には、前記幅方向の両端及び下方に開放された壁内空間が形成されており、
前記壁体には、前記壁内空間を上方に開放させる開放領域が設けられており、
前記地盤に打ち込まれ、上端側が前記壁内空間に下方から入り込んでいる支持体と、
前記壁内空間に充填され、前記支持体と前記壁体とを結合する固化材と、を備え、
前記固化材は、隣り合う前記壁体の前記壁内空間に跨って設けられている、浸水防止壁。
【請求項2】
前記支持体は、前記各壁体が並ぶ方向に延在させて設けられた鋼矢板である、請求項1に記載の浸水防止壁。
【請求項3】
前記各壁体は、前記一対の対向板部の上端側を接続して設けられ前記壁内空間を上方から覆う上板部を有している、請求項1又は2に記載の浸水防止壁。
【請求項4】
前記隣り合う壁体の境界部において前記壁内空間を上方に開放させる開口部が形成されるように、前記隣り合う壁体の前記上板部が形成されている、請求項3に記載の浸水防止壁。
【請求項5】
前記各壁体には、前記上板部よりも下方位置に、前記壁内空間に前記固化材を充填する際に前記各対向板部が互いに離間する側に開くのを抑制する開き抑制部材が設けられている、請求項3又は4に記載の浸水防止壁。
【請求項6】
前記開き抑制部材は、長尺状の締結部材であり、
前記各対向板部のうち一方の対向板部には、前記締結部材が挿通される第1孔部が形成されており、
前記支持体には、前記締結部材が挿通される第2孔部が形成されており、
前記締結部材は、前記第1孔部と前記第2孔部とを通じて、前記各対向板部のうち他方の対向板部に設けられた締結孔部又は前記他方の対向板部の外側に設けられた被締結部材に締結されている、請求項5に記載の浸水防止壁。
【請求項7】
前記他方の対向板部は、前記浸水防止壁を挟んで前記浸水防止対象とは反対側の領域である外側領域に面して設けられ、
前記他方の対向板部には、前記壁内空間にのみ開放された凹状の前記締結孔部が設けられている、請求項6に記載の浸水防止壁。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の浸水防止壁を構築する際の構築方法であって、
前記地盤に前記支持体を打ち込む支持体打込工程と、
前記壁内空間に前記支持体の上端側を入り込ませた状態で前記壁体を設置する壁体設置工程と、
前記壁内空間に前記固化材を流動状態で充填し、その後固化させる固化材充填工程と、を備え、
前記固化材充填工程では、隣り合う前記壁体の前記壁内空間に跨って前記固化材を充填する、浸水防止壁の構築方法。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の浸水防止壁を構成するプレキャストコンクリート製の壁体であって、
前記壁内空間を形成する前記一対の対向板部と、前記壁内空間を上方から覆う前記上板部とを備え、
前記一対の対向板部のうち前記一方の対向板部には前記第1孔部が形成され、前記他方の対向板部には前記締結孔部が形成されている、プレキャストコンクリート製の壁体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物等の浸水防止対象への浸水を防止する浸水防止壁、その浸水防止壁を構築する際の構築方法、及び浸水防止壁を構成するプレキャストコンクリート製の壁体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、集中豪雨に伴う河川の決壊等により建物等への浸水がたびたび生じている。こうした建物等への浸水を防止する技術として、特許文献1には、建物等を囲むようにして浸水防止壁を構築する技術が提案されている。特許文献1の浸水防止壁は、コンクリート製のL形ブロックを並べて設置することにより構築されている。詳しくは、このL形ブロックは、水平方向に延びて地中に設置される底板部と、底板部から上方に立ち上がる壁部とを有して断面L字状に形成されている。また、特許文献1の浸水防止壁では、隣り合うL形ブロックの間にパッキン等の止水材が介在されており、それにより、L形ブロック間を通じた水の浸入が防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6501961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1の技術では、L形ブロックが奥行き方向に長い底板部を有しているため、L形ブロックの設置の際に必要な用地幅が広くなることが考えられる。そのため、浸水防止壁を構築するにあたり、用地の制限を受け易いという問題がある。
【0005】
また、L形ブロックの設置の際には、隣り合うL形ブロック間ごとに止水材を設けるとともに、その止水材を隣り合うL形ブロックの間で挟み込むようにしてL形ブロックを設置する必要がある。そのため、一方のL形ブロックを他方のL形ブロックに引き寄せて高精度に位置決めする必要があり、止水作業が大変になるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、用地の制限を受けにくく、しかも止水作業の容易化を図ることができる浸水防止壁、浸水防止壁の構築方法及びプレキャストコンクリート製の壁体を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明の浸水防止壁は、
地盤よりも上方に立ち上げられた状態で設けられることにより建物等の浸水防止対象への浸水を防止する浸水防止壁であって、
幅方向に並べて設けられた複数の壁体を備え、
前記壁体は、前記壁体の厚み方向に対向する一対の対向板部を有し、
前記各対向板部の間には、少なくとも前記幅方向の両端及び下方に開放された壁内空間が形成されており、
前記地盤に打ち込まれ、上端側が前記壁内空間に下方から入り込んでいる支持体と、
前記壁内空間に充填され、前記支持体と前記壁体とを結合する固化材と、を備え、
前記固化材は、隣り合う前記壁体の前記壁内空間に跨って設けられている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、壁体の一対の対向板部の間に幅方向の両端及び下方に開放された壁内空間が形成されており、その壁内空間に地盤に打ち込まれた支持体が下方から入り込んでいる。壁内空間にはコンクリート等の固化材が充填されており、その固化材により支持体と壁体とが互いに結合されている。この場合、壁体を支持体に支持させることができるため、従来技術(上記特許文献1)のL形ブロックのように底板部を設けなくても、壁体を安定した状態で設置することができる。そのため、用地の制限を受けにくくすることができる。
【0009】
また、固化材は隣り合う壁体の壁内空間に跨って設けられているため、固化材により隣り合う壁体の間の止水を行うことができる。この場合、施工の際に固化材を壁内空間に充填することにより、壁体と支持体との結合に加え、壁体間の止水を行うことができる。そのため、止水作業の容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】建物の周囲に浸水防止壁が設置された状態を示す斜視図。
図2】浸水防止壁を示す斜視断面図。
図3】浸水防止壁を示す縦断面図。
図4】(a)が防水ブロックを示す斜視図であり、(b)が縦断面図である。
図5】浸水防止壁の構築方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を具体化した一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、図1は、建物の周囲に浸水防止壁が設置された状態を示す斜視図である。
【0012】
図1に示すように、浸水防止壁10は、建物11の周囲において地盤12よりも上方に立ち上がった状態で設けられている。浸水防止壁10は、建物11を囲むように環状に設けられており、例えば四角環状に設けられている。この場合、浸水防止壁10により囲まれた内側の内側領域13がその外側の外側領域14と浸水防止壁10によって仕切られている。これにより、洪水等で浸水が発生した場合に、建物11が設けられた内側領域13に外側領域14から水が浸入するのを防止することが可能となっている。なお、建物11が浸水防止対象に相当する。
【0013】
続いて、浸水防止壁10の構成について図2図4に基づき説明する。なお、図2は、浸水防止壁10を示す斜視断面図である。図3は、浸水防止壁10を示す縦断面図である。図4は、(a)が防水ブロック20を示す斜視図であり、(b)が縦断面図である。
【0014】
図2及び図3に示すように、浸水防止壁10は、横並びに設けられた複数の防水ブロック20を備える。防水ブロック20は、プレキャストコンクリートにより形成された矩形の壁状ブロックである。防水ブロック20は幅方向(以下、ブロック幅方向ともいう。)に並べて設けられ、その下部が地盤12の内部に埋め込まれた状態で設置されている。詳しくは、防水ブロック20の下方には、板状の基礎コンクリート16が地盤12内に埋設された状態で設けられ、その基礎コンクリート16の上に防水ブロック20が載置された状態で設けられている。なお、防水ブロック20が壁体に相当する。
【0015】
図2図4に示すように、防水ブロック20は、厚み方向に対向する一対の対向板部21,22と、各対向板部21,22の上端部を接続して設けられる上板部23とを有している。各対向板部21,22は矩形板状に形成され、それら各対向板部21,22のうち、対向板部21が内側領域13に面し、対向板部22が外側領域14に面している。なお、図示は省略するが、各対向板部21,22の内部と上板部23の内部とにはそれぞれ鉄筋が配設されている。
【0016】
各対向板部21,22の間には、防水ブロック20の内側空間25が形成されている。内側空間25は、ブロック幅方向の両端側と下方とにそれぞれ開放されている。この場合、隣り合う防水ブロック20の内側空間25は互いに連続した状態となっている。また、内側空間25は、上板部23により上方から覆われている。なお、内側空間25が壁内空間に相当する。
【0017】
上板部23には、厚み方向に貫通する複数(本実施形態では2つ)の孔部27が設けられている。これらの孔部27は矩形形状とされ、ブロック幅方向に対称となるように配置されている。これらの孔部27を介して内側空間25は上方に開放されている。
【0018】
上板部23には、ブロック幅方向の両端部にそれぞれ同方向の内側に凹んだ凹部28が形成されている。これらの凹部28は、上板部23を厚み方向に貫通している。隣り合う防水ブロック20の境界部においては、それら各防水ブロック20の凹部28同士が互いに向き合っており、それにより、それらの凹部28により矩形の開口部29が形成されている。これにより、隣り合う防水ブロック20の境界部では、開口部29を介して内側空間25が上方に開放されている。
【0019】
各防水ブロック20の下方には、地盤12内に打ち込まれた状態で鋼矢板30が設けられている。鋼矢板30は、基礎コンクリート16を貫通した状態で地盤12に打ち込まれている。鋼矢板30は、各防水ブロック20が並ぶ方向に延在させて設けられ、各防水ブロック20に跨って連続して配置されている。鋼矢板30は、その上端側が防水ブロック20の内側空間25に下方から入り込んでいる。この場合、鋼矢板30は、その上端が地盤面よりも低い位置に設定されている。なお、鋼矢板30が支持体に相当する。
【0020】
防水ブロック20の各対向板部21,22の下端側には、締結部材としてのボルト31が設けられている。ボルト31は、各対向板部21,22に跨って設けられ、そのボルト31を介して各対向板部21,22が互いに連結されている。なお、ボルト31が開き抑制部材に相当する。
【0021】
各対向板部21,22のうち、対向板部21にはボルト31が挿通される挿通孔部33が形成され、対向板部22にはボルト31が締結されるねじ孔部34が形成されている。ねじ孔部34は、内側空間25にのみ開放された凹状の孔部とされ、その内周面にめねじ部(図示略)が形成されている。詳しくは、ねじ孔部34は、対向板部22に形成された凹状の孔部にめねじ部が形成されたインサートねじが挿入されることにより形成されている。なお、挿通孔部33が第1孔部に相当し、ねじ孔部34が締結孔部に相当する。また、対向板部21が一方の対向板部に相当し、対向板部22が他方の対向板部に相当する。
【0022】
鋼矢板30にも、ボルト31が挿通される挿通孔部35が形成されている。ボルト31は、対向板部21の挿通孔部33と鋼矢板30の挿通孔部35とを通じて対向板部22のねじ孔部34に締結されている。これにより、各対向板部21,22と鋼矢板30とがボルト31を介して互いに連結され、ひいては防水ブロック20と鋼矢板30とが互いに連結されている。なお、挿通孔部35が第2孔部に相当する。
【0023】
ボルト31は、各対向板部21,22における幅方向(ブロック幅方向と同方向)の複数箇所に配置されている。本実施形態では、ボルト31が各対向板部21,22において3箇所に配置され、詳しくは一つが各対向板部21,22の幅方向の中央部に配置され、残りの二つがそれぞれ各対向板部21,22の幅方向の両端側にそれぞれ配置されている。そして、これら複数のボルト31を介して各対向板部21,22と鋼矢板30とが互いに連結されている。したがって、これら複数のボルト31に対応させて、対向板部21には挿通孔部33が複数形成され、鋼矢板30には挿通孔部35が複数形成され、対向板部22にはねじ孔部34が複数形成されている。また、各ボルト31は、地盤面よりも下方に配置されている。
【0024】
各防水ブロック20の内側空間25には、中詰めコンクリート38が充填されている。中詰めコンクリート38は、現場で内側空間25に打設され、その後固化されることにより形成されている。したがって、中詰めコンクリート38は、現場打ちコンクリートにより形成されている。なお、中詰めコンクリート38が固化材に相当する。
【0025】
中詰めコンクリート38は、内側空間25の全体に亘って充填されている。また、内側空間25において鋼矢板30とボルト31とは中詰めコンクリート38に埋設された状態となっている。この場合、鋼矢板30と防水ブロック20とがボルト31を介して連結された状態で、鋼矢板30と防水ブロック20とが中詰めコンクリート38により互いに結合された状態となっている。また、中詰めコンクリート38は、隣り合う防水ブロック20の内側空間25に跨って充填されている。そのため、中詰めコンクリート38により、隣り合う防水ブロック20の間の止水が行われている。
【0026】
続いて、浸水防止壁10を構築する際の構築方法について説明する。図5は、かかる構築方法を説明するための図である。
【0027】
まず、図5(a)に示すように、地盤12に鋼矢板30を打ち込む鋼矢板打込工程を行う。この工程では、鋼矢板30を杭打ち機等を用いて地盤12に打ち込む。また、この工程では、鋼矢板30の上端側の一部が地盤12から上方に突出するように鋼矢板30の打ち込みを行う。鋼矢板30の打ち込みが終了した後、地盤12に基礎コンクリート16を打設する(図5(b)参照)。なお、鋼矢板打込工程が支持体打込工程に相当する。
【0028】
次に、図5(b)に示すように、防水ブロック20を設置する防水ブロック設置工程を行う。この工程では、防水ブロック20の内側空間25に鋼矢板30の上端側を下方から入り込ませた状態で防水ブロック20を基礎コンクリート16上に設置する。防水ブロック20の設置の際には、クレーンにより防水ブロック20を吊り上げ、その状態で防水ブロック20を設置位置まで移動させ設置する。この際、例えば、クレーン付きのバックホウを用いて設置作業を行う。なお、防水ブロック設置工程が壁体設置工程に相当する。
【0029】
次に、図5(c)に示すように、防水ブロック20と鋼矢板30とをボルト31により連結する連結工程を行う。この工程ではまず、鋼矢板30にボルト31を挿通する挿通孔部35を形成する孔形成工程を行う。この工程では、防水ブロック20の対向板部21の挿通孔部33を通じてドリルにより鋼矢板30に挿通孔部35を形成する。続いて、ボルト31により各対向板部21,22と鋼矢板30とを連結するボルト連結工程を行う。この工程では、ボルト31を対向板部21の挿通孔部33と鋼矢板30の挿通孔部35とを通じて対向板部22のねじ孔部34に締結する。
【0030】
次に、図5(d)に示すように、防水ブロック20の内側空間25に中詰めコンクリート38を流動状態で充填し、その後固化させるコンクリート充填工程を行う。この工程では、中詰めコンクリート38を流動状態で防水ブロック20の孔部27を通じて内側空間25に流し込む(打設する)。また、この際、中詰めコンクリート38を隣り合う防水ブロック20の各内側空間25に跨って充填する。中詰めコンクリート38の充填後、所定時間が経過すると、中詰めコンクリート38が固化する。これにより、中詰めコンクリート38により、防水ブロック20と鋼矢板30とが結合されるとともに、隣り合う防水ブロック20の間の止水が行われる。なお、コンクリート充填工程が固化材充填工程に相当する。
【0031】
以上の各工程により、浸水防止壁10が構築され、一連の作業が終了する。
【0032】
以上、詳述した本実施形態の構成によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0033】
(1)防水ブロック20において、一対の対向板部21,22の間に幅方向(ブロック幅方向)の両端及び下方に開放された内側空間25を形成し、その内側空間25に地盤12に打ち込まれた鋼矢板30の上端側を下方から入り込ませた。内側空間25には中詰めコンクリート38を充填し、その中詰めコンクリート38により鋼矢板30と防水ブロック20とを互いに結合した。この場合、防水ブロック20を鋼矢板30に支持させることができるため、従来技術(上記特許文献1)のL形ブロックのように底板部を設けなくても、防水ブロック20を安定した状態で設置することができる。そのため、用地の制限を受けにくくすることができる。
【0034】
また、中詰めコンクリート38を隣り合う防水ブロック20の内側空間25に跨って設けたため、中詰めコンクリート38により隣り合う防水ブロック20の間の止水を行うことができる。この場合、施工の際に中詰めコンクリート38を内側空間25に充填することにより、防水ブロック20と鋼矢板30との結合に加え、防水ブロック20の間の止水を行うことができる。そのため、止水作業の容易化を図ることができる。
【0035】
(2)防水ブロック20を支持する支持体として鋼矢板30を用いたため、防水ブロック20の下方の地盤12内に鋼矢板30により連続した壁部分を構築することができる。これにより、浸水時に壁下の地盤12内を通じて水が建物11側へ回り込むのを抑制することができる。
【0036】
(3)防水ブロック20を、一対の対向板部21,22を上端側で接続する上板部23を備える構成としたため、内側空間25への鋼矢板30の挿入ルートを確保しつつ、一対の対向板部21,22を含む防水ブロック20の強度を高めることができる。
【0037】
(4)隣り合う防水ブロック20の境界部において内側空間25を上方に開放させる開口部29が形成されるように、それら各防水ブロック20の上板部23を形成した。具体的には、上板部23におけるブロック幅方向の両端側にそれぞれ凹部28を形成し、隣り合う防水ブロック20の境界部において互いの凹部28が向き合うことにより開口部29が形成されるようにした。この場合、内側空間25に中詰めコンクリート38を充填する際に、内側空間25内の空気を開口部29を通じて抜くことができる。そのため、隣り合う防水ブロック20の境界部において内側空間25に空気が溜まって中詰めコンクリート38の充填が不十分になるのを抑制することができる。その結果、隣り合う防水ブロック20の間において止水性が低下するのを抑制することができる。
【0038】
また、内側空間25に中詰めコンクリート38を充填する際に、中詰めコンクリート38が隣り合う防水ブロック20の境界部において十分に充填されているか否かを開口部29を通じて確認することもできる。そのため、隣り合う防水ブロック20の間の止水性を確保する上で好都合でもある。
【0039】
(5)下方に開放された内側空間25を有する防水ブロック20では、内側空間25への中詰めコンクリート38の充填時に、各対向板部21,22が充填圧により外側に押され開いてしまうことが考えられる。その場合、例えば隣り合う防水ブロック20のうち一方の防水ブロック20の対向板部21,22だけが開いて、それにより隣接する対向板部21,22同士の間に隙間が生じるおそれがある。そうなると、その隙間から中詰めコンクリート38の漏れが生じ、隣り合う防水ブロック20の境界部にて中詰めコンクリート38の充填不良が生じるおそれがあり、止水性の低下が懸念される。
【0040】
そこで、上記の実施形態では、このような点に鑑み、各防水ブロック20にそれぞれ、中詰めコンクリート38の充填時に各対向板部21,22が互いに離間する側に開くのを抑制する開き抑制部材を設けている。具体的には、開き抑制部材として、各対向板部21,22を連結するボルト31を設けている。これにより、中詰めコンクリート38の充填時に各対向板部21,22が開くのを抑制することができるため、対向板部21,22の開きに伴う止水性の低下を抑制することができる。
【0041】
(6)ボルト31を対向板部21の挿通孔部33と鋼矢板30の挿通孔部35とを通じて対向板部22のねじ孔部34に締結し、それにより、中詰めコンクリート38の充填時における各対向板部21,22の開きを抑制するようにした。かかる構成では、ボルト31を介して各対向板部21,22と鋼矢板30とが互いに連結され、その連結状態で中詰めコンクリート38が充填されるため、防水ブロック20と鋼矢板30とをより強固に結合することができる。
【0042】
(7)対向板部22を外側領域14に面して設け、その対向板部22に内側空間25にのみ開放された凹状のねじ孔部34を設けた。これにより、ボルト31により各対向板部21,22を連結することで各対向板部21,22の開きを抑制する上述の構成にあって、浸水時にボルト31の周囲を通じて水が建物11側に入り込むのを確実に回避することができる。
【0043】
(8)防水ブロック20の幅方向の複数箇所にボルト31を設けたため、上記幅方向に延びる鋼矢板30と防水ブロック20とを強固に結合することができる。また、ボルト31を各対向板部21,22の幅方向の両端側にそれぞれ配置したため、中詰めコンクリート38の充填時に各対向板部21,22の両端側の開きをそれぞれ抑制することができる。これにより、隣り合う防水ブロック20の隣接する各対向板部21,22のうち一方が開くことで、それら対向板部21,22の間に隙間が生じる上述の不都合(上記(5)を参照)を好適に抑制することができる。
【0044】
(9)防水ブロック20を、内側空間25を有する中空状に形成したため、防水ブロック20の軽量化を図ることができ、防水ブロック20の設置作業をし易くすることができる。例えば、防水ブロック20をクレーン付きのバックホウを用いて吊り上げ設置するといったことが可能となる。
【0045】
本発明は上記実施形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
【0046】
・上記実施形態では、壁体としての防水ブロック20を各対向板部21,22と上板部23とを有するプレキャストコンクリート製としたが、壁体の構成は必ずしもこれに限らない。例えば、壁体として、互いに別体で設けられたプレキャストコンクリート製の一対の対向板部と、それら各対向板部を互いに離間した状態で連結する連結部材とを有する構成としてもよい。この場合、連結部材としては、ボルト等の締結部材が考えられる。かかる構成の壁体においても、一対の対向板部の間に壁内空間が形成される。そのため、壁内空間に鋼矢板30を下方から入り込ませた状態で壁体を設置し、その後壁内空間に中詰めコンクリート38を充填することにより、浸水防止壁を構築することができる。
【0047】
・上記実施形態では、対向板部22にボルト31が締結されるねじ孔部34を形成したが、これを変更して、例えば、対向板部22にボルト31が挿通される挿通孔部を形成するとともに、対向板部22の外面側にボルト31と締結されるナットを設けてもよい。この場合、ボルト31を、対向板部21及び鋼矢板30の各挿通孔部33,35を通じてナットに締結することになる。なお、この場合、ナットが被締結部材に相当する。
【0048】
・上記実施形態では、締結部材としてボルト31を用いたが、ねじ等、その他の締結部材を用いてもよい。
・上記実施形態では、中詰めコンクリート38を充填する際の各対向板部21,22の開きを抑制するためにボルト31を用いたが、かかる開きを抑制するためにボルト31以外の部材を用いてもよい。例えば、各対向板部21,22を挟持するコ字状の挟持部材を用いることが考えられる。この場合、挟持部材を、その内側に各対向板部21,22が入り込むようにして各対向板部21,22の下方から嵌め込む。かかる構成によっても、各対向板部21,22の開きを抑制することが可能となる。また、この場合、挟持部材は、予め工場にて防水ブロック20に取り付けられるのがよい。
【0049】
・上記実施形態では、地盤12に打ち込まれた状態で防水ブロック20を支持する支持体として鋼矢板30を用いたが、かかる支持体として、杭等、鋼矢板30以外のものを用いてもよい。
【0050】
・上記実施形態では、防水ブロック20をコンクリート製としたが、樹脂製や金属製としてもよい。
【0051】
・上記実施形態では、防水ブロック20の内側空間25に固化材として中詰めコンクリート38を充填したが、内側空間25にモルタル等、コンクリート以外の固化材を充填してもよい。要するに、内側空間25に流動状態で充填され、その後固化されるものであれば、固化材として用いることができる。
【0052】
・上記実施形態では、浸水防止壁10を建物11を囲むように環状に設けたが、浸水防止壁10は必ずしも環状に設ける必要はない。例えば、建物11の一側面側に高台等、地盤面よりも高くなっている部分があれば、その部分とともに建物11を囲むように浸水防止壁10を平面視コ字状に配置してもよい。この場合にも、建物11への浸水を防止することができる。
【0053】
・上記実施形態では、浸水防止壁10を建物11への浸水防止のために設けたが、例えば排水機場等の施設への浸水防止のために設けてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10…浸水防止壁、11…浸水防止対象としての建物、20…壁体としての防水ブロック、21…一方の対向板部としての対向板部、22…他方の対向板部としての対向板部、23…上板部、25…壁内空間としての内側空間、29…開口部、30…支持体としての鋼矢板、31…締結部材及び開き抑制部材としてのボルト、38…固化材としての中詰めコンクリート。
図1
図2
図3
図4
図5