(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ブタにおけるT細胞の活性化度を評価する方法、ブタにおけるT細胞活性化を評価する剤、ブタT細胞活性化剤をスクリーニングする方法、ブタの病原体感染を検査する方法、及びハイブリドーマ
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240110BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240110BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20240110BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20240110BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20240110BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/50 K
G01N33/50 Z
C12Q1/06
C07K14/705
C12N5/0783
(21)【出願番号】P 2021502039
(86)(22)【出願日】2020-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2020006335
(87)【国際公開番号】W WO2020171080
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2019026862
(32)【優先日】2019-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行所WILEYが平成30年2月18日にAnimal Science Journal(2018)89,825-832をオンラインにて発行した。
(73)【特許権者】
【識別番号】505327631
【氏名又は名称】株式会社栄養・病理学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100164758
【氏名又は名称】長谷川 博道
(72)【発明者】
【氏名】塚原 隆充
(72)【発明者】
【氏名】井上 亮
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-524780(JP,A)
【文献】林裕美子等,細胞性免疫評価に有用な抗ブタCD69抗体の作製,日本畜産学会大会講演要旨,2015年09月11日,Vol.120th,Page.42
【文献】長谷川明洋等,免疫炎症疾患におけるCD4T細胞の役割:新展開-抗炎症治療ターゲットとしてのCD69-,Jpn. J. Clin. Immunol.,2010年,Vol.33 No.4,Page.189-195
【文献】Laurence Piriou-Guzylack et al.,Membrane markers of the immune cells in swine: an update,Vet. Res.,2008年,39:54,10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
G01N 33/50
C12Q 1/06
C07K 14/705
C12N 5/0783
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタ由来の検体中のCD69タンパク質の存在量を定量する工程を含む、ブタの病原体による感染を検査する方法であって、
前記ブタが予めワクチン接種していないブタであり、前記定量を行い、
健常時の当該ブタの前記検体から得られた測定値、又は、健常ブタの検体群から予め収集して得られた統計的な値若しくは範囲に対してCD69タンパク質の前記存在量が低下している場合、前記接種していないワクチンに対応する病原体により前記ブタが感染したと検査する工
程を含む、方法。
【請求項2】
前記感染が、ブタ繁殖障害・呼吸障害症候群(PRRS)、及びブタ流行性下痢(PED)よりなる群から選択される少なくとも1つのウイルスによる感染、細菌感染、原虫感染、又は真菌感染である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブタにおける細胞性免疫の主体となるT細胞の活性化度を評価する方法、ブタにおけるT細胞活性化を評価する剤、ブタT細胞活性化剤をスクリーニングする方法、ブタの病原体感染を検査する方法、及びブタCD69タンパク質に選択的に結合する抗体を産生するハイブリドーマに関する。
【背景技術】
【0002】
ブタサーコウイルス関連疾患(PCVAD)、ブタ生殖器・呼吸器症候群(PRRS)、ブタ流行性下痢(PED)などの感染症は世界中のブタの個体数に深刻な影響を及ぼしている。ワクチン接種はこれら感染症の拡大を防ぐための1つの手段である。
体液性免疫は主にB細胞が介在することが知られており、上記体液性免疫に対する上記ワクチン接種の有効性分析のために、抗体価が評価されてきた。
しかしながら、感染源によっては体液性免疫及び細胞性免疫のいずれが有効であるかは本来的には様々であるはずである。
【0003】
例えば、PRRSウイルス(PRRSV)感染の過程において、抗体が、生きているウイルスの食作用を増強することにより感染をさらに加速してしまうことが知られており(非特許文献1及び2)、ワクチンによる疾病対策が困難であることが知られている。
また、抗体ではPRRSV感染細胞を完全に除去するのは困難であり、細胞性免疫は、感染細胞を排除するために体液性免疫よりも効果的であると知られている(非特許文献3)。
【0004】
また、ブタサーコウイルス2型(PCV2)によるPCVADはワクチン接種により効果的に予防し得る。
上記ワクチン接種が、PCV2特異的インターフェロン(IFN)-γ産生細胞及びPCV2特異的腫瘍壊死因子(TNF)-α産生細胞を誘導する一方、PCV2特異的抗体は誘導しないことが報告されており(非特許文献4)、上記ワクチン接種による予防には細胞性免疫が関与していることが示唆される。
【0005】
しかしながら、ヒトモデル及びマウスモデルを用いた疾患の研究とは異なり、ブタの疾患の研究においては、細胞性免疫については看過されてきたのが現状である。
例えば、活性化ブタT細胞のマーカー物質等は未だ見出されていないこと等から、ブタにおけるT細胞活性の評価は、免疫細胞からの分泌物質の一部の作用を指標として、T細胞の活性を間接的に評価する、Enzyme-Linked ImmunoSpot(ELISpot)、遅延型過敏症等の間接的方法にほとんど依存している(非特許文献5及び6)。
【0006】
しかしながら、ELISpot等の間接的方法で検出し得る分泌物質の多少では区別できない活性化されたT細胞の存在も、あり得る。
したがって、活性化したT細胞の特質等を指標として直接的にT細胞の活性を評価し得る上記間接的方法に代わる直接的な方法が求められるが、ブタにおけるT細胞の活性を直接評価する方法は、未だ開発されていないのが現状である(非特許文献7及び8)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Yoon KJ,Wu LL,Zimmerman JJ,Hill HT,Platt KB.1996.「Antibody-dependent enhancement (ADE) of porcine reproductive and respiratory syndrome virus(PRRSV) infection in pigs.」Viral Immunology 9,51-63.
【文献】Tirado SM,Yoon KJ.2003.「Antibody-dependent enhancement of virus infection and disease.」Viral Immunology 16,69-86.
【文献】Jin X,Bauer DE,Tuttleton SE,Lewin S,Gettie A,Blanchard J, et al.1999.「Dramatic rise in plasma viremia after CD8(+) T cell depletion in simianimmunodeficiency virus-infected macaques.」Journal of Experimental Medicine 189,991-998.
【文献】Koinig HC,Talker SC,Stadler M,Ladinig A,Graage R,Ritzmann M, et al.2015.「PCV2 vaccination induces IFN-gamma/TNF-alpha co-producing T cells with a potential role in protection.」Veterinary Research 46,20.
【文献】Feng WH,Tompkins MB,Xu JS,Zhang HX,Mccaw MB.2003.「Analysis of constitutive cytokine expression by pigs infected in-utero with porcine reproductive and respiratory syndrome virus.」Veterinary Immunolgy and Immunopathology 94,35-45.
【文献】Klinge KL,Vaughn EM,Roof MB,Bautista EM,Murtaugh MP.2009.「Age-dependent resistance to Porcine reproductive and respiratory syndrome virus replication in swine.」Virology Journal 6,177.
【文献】Li J,Li Y,Yao JY,Jin R,Zhu MZ,Qian XP,et al.2007.「Developmental pathway of CD4+ CD8- medullary thymocytes during mouse ontogeny and its defect in Aire-/-mice.」Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America 104,18175-18180.
【文献】Ravet S,Scott-Algara D,Bonnet E,Tran HK,Tran T,Nguyen N, et al.2007.「Distinctive NK-cell receptor repertoires sustain high-level constitutive NK-cell activation in HIV-exposed uninfected individuals.」Blood 109,4296-4305.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、ブタにおける細胞性免疫の主体となるT細胞の活性化度を評価する方法、ブタにおけるT細胞活性化を評価する剤、ブタT細胞活性化剤をスクリーニングする方法、ブタの病原体感染を検査する方法、及びブタCD69タンパク質に選択的に結合する抗体を産生するハイブリドーマを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ブタのT細胞においてCD69遺伝子が発現するだけでなく、その表面に発現することを初めて発見し、さらには、その細胞表面にCD69タンパク質が発現するT細胞の頻度が免疫刺激に反応して増すことを見出した。
本発明は、上記知見に基づき完成されるに至ったものである。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0010】
<1>ブタ由来の検体中のCD69タンパク質の存在量を定量する工程を含む、ブタにおけるT細胞の活性化度を評価する方法。
<2>細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、記憶性T細胞及びγδT細胞よりなる群から選択される少なくとも1種のT細胞を識別する工程を更に含む、<1>に記載の方法。
<3>ブタCD69タンパク質の定量化剤を含む、ブタにおけるT細胞活性化を評価する剤。
<4>細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、記憶性T細胞及びγδT細胞よりなる群から選択される少なくとも1種のT細胞を識別する剤と併用して用いられる、<3>に記載の剤。
<5>被験物質を投与したブタ由来の検体中のCD69タンパク質の存在量に基づき評価されるT細胞の活性化度の増加を指標としてブタT細胞活性化剤をスクリーニングする方法。
<6>前記ブタT細胞活性化剤が、ブタ疾患に対するワクチン候補物質及び細胞性免疫活性化剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤である、<5>に記載の方法。
<7>ブタ由来の検体中のCD69タンパク質の存在量を定量する工程を含む、ブタの病原体感染を検査する方法。
<8>ブタ由来の検体中のCD69タンパク質の存在量を定量する工程を含む、ブタの病原体感染を検査する方法であって、
前記ブタが予めワクチン接種して免疫獲得後のブタであり、前記定量を行い、健常時の当該ブタ又は健常ブタに対してCD69タンパク質の前記存在量が増加している場合、前記ワクチンに対応する病原体により前記ブタが感染したと検査(診断若しくは判定)する工程、又は、
前記ブタが予めワクチン接種していないブタであり、前記定量を行い、健常時の当該ブタ又は健常ブタに対してCD69タンパク質の前記存在量が低下している場合、前記接種していないワクチンに対応する病原体により前記ブタが感染したと検査(診断若しくは判定)する工程
を含む、方法。
<9>
ブタ由来の検体中のCD69タンパク質の存在量を定量する工程を含む、ブタの病原体感染を検査する方法であって、
前記検体に抗原刺激を付与した後に前記定量を行い、前記抗原刺激を付与していない前記検体又は健常ブタの検体に対してCD69タンパク質の前記存在量が増加している場合、当該ブタが前記病原体に感染したと検査する工程を含む、方法。
<10>前記CD69タンパク質の存在量が、ブタT細胞表面における存在量、又は、健常ブタ若しくは前記ワクチン接種前のブタと比較してCD69タンパク質が細胞表面に多く存在するT細胞の前記検体中の存在割合である、<7>~<9>のいずれか1項に記載の方法。
<11>ブタCD69タンパク質に選択的に結合する抗体を産生するハイブリドーマ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ブタにおける細胞性免疫の主体となるT細胞の活性化度を評価する方法、ブタにおけるT細胞活性化を評価する剤、ブタT細胞活性化剤をスクリーニングする方法、ブタの病原体感染を検査する方法、及びブタCD69タンパク質に選択的に結合する抗体を産生するハイブリドーマを提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】T細胞活性化に伴うCD69タンパク質発現量の変化を示す図である。
【
図2】T細胞の各サブセット(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、及び記憶性T細胞)個別の活性化によるCD69タンパク質発現量の変化を示す図である。
【
図3】CD69及びCD3タンパク質の発現量に基づくPRRSV感染前後におけるブタT細胞の活性化の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0014】
(ブタCD69タンパク質)
Cluster of differentiation69(CD69;以前はEA1、MLR3、AIM、Leu23、又はBL-Ac/p26としても知られている)は、C型レクチンスーパーファミリーのII型膜タンパク質として知られている。
ブタCD69のcDNAは、38アミノ酸の細胞内領域、26アミノ酸の膜貫通ドメイン、及び136アミノ酸の細胞外ドメインからなる200アミノ酸のポリペプチド配列をコードする。また、ブタCD69のアミノ酸配列は、ウシ、ヒト及びマウスのCD69分子のアミノ酸配列とそれぞれ約75%、約67%及び約57%類似していることが知られている(Yim D,Sotiriadis J,Kim KS,Shin SC,Jie HB,Rothschild MF,et al. 2002.「Molecular cloning, expression pattern and chromosomal mapping of pig CD69.」Immunogenetics 54,276-281.)。
ブタCD69タンパク質のアミノ酸配列や遺伝子配列は既に報告されている(非特許文献9)。配列番号1は、ブタCD69タンパク質のアミノ酸配列を表す。
配列表の配列番号1に記載したブタCD69タンパク質のアミノ酸配列上の置換、挿入、欠失等による変異タンパク質であっても、その変異がブタCD69タンパク質の3次元構造において保存性が高い変異であれば、これらは全てブタCD69タンパク質の範囲内に属し得る。
タンパク質の構成要素となるアミノ酸の側鎖は、疎水性、電荷、大きさなどにおいてそれぞれ異なるものであるが、実質的にタンパク質全体の3次元構造(立体構造とも言う)に影響を与えないという意味で保存性の高い幾つかの関係が、経験的にまた物理化学的な実測により知られている。例えば、アミノ酸残基の置換については、グリシン(Gly)とプロリン(Pro)、Glyとアラニン(Ala)又はバリン(Val)、ロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile)、グルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)とアスパラギン(Asn)、システイン(Cys)とスレオニン(Thr)、Thrとセリン(Ser)又はAla、リジン(Lys)とアルギニン(Arg)等が挙げられる。
【0015】
≪ブタにおけるT細胞の活性化度を評価する方法≫
本発明の第1の態様は、ブタ由来の検体中のCD69タンパク質の存在量を定量する工程を含む、ブタにおけるT細胞の活性化度を評価する方法である。
上記存在量としては、ブタT細胞表面におけるCD69タンパク質の存在量であることが好ましい。
ブタ由来の検体中のCD69タンパク質の存在量を指標として、ブタにおけるT細胞の活性化度(免疫による活性化の程度)を評価し得る。
上記検体中のCD69タンパク質の存在量は、検体中のT細胞集団に含まれる1細胞ごと又は2細胞以上に関するCD69タンパク質の存在量であってよい。2細胞以上に関するCD69タンパク質の存在量は、平均値、中央値、積分値等の分布(典型的には、各細胞のCD69タンパク質の存在量と、各細胞の存在頻度との2軸でプロットされた分布の全体、またはCD69タンパク質の存在量が所定範囲内であるT細胞画分)を表すパラメータで表現されてよい。
上記存在量としては、上記検体中のCD69タンパク質を発現する細胞の存在割合であってもよい。
傾向として、上記存在量が高いとT細胞の活性化度が高く、上記存在量が低いとT細胞の活性化度が低いと言える。
【0016】
CD69タンパク質の存在量についての対照は、その目的に応じて適宜選択されてよく、例えば、健常ブタの検体中のCD69タンパク質の存在量(その場で定量した量でもよいし、予め定めた範囲でもよい)、免疫刺激の適用前又は非適用のブタの検体中のCD69タンパク質の存在量、被験物質の投与前又は非投与のブタの検体中のCD69タンパク質の存在量であってよい。
【0017】
ブタ由来の検体中のCD69タンパク質の存在量を指標として、ブタにおけるT細胞の活性化度を評価し得る理由は以下のように推定される。
【0018】
まず、CD69タンパク質はスフィンゴシン1-リン酸受容体1(S1P1)と複合体を形成することにより、S1P1が仲介する細胞遊走を阻害し得る。その結果、CD69タンパク質を発現するT細胞はリンパ組織に留まり、そこでT細胞は分裂し増殖して活性化し得る。
【0019】
また、CD69タンパク質の発現が誘導されると、転写因子活性化タンパク質1(AP-1)も誘導され、AP-1により各種免疫細胞が活性化し得る。
例えば、AP-1により、インターロイキン-2(IL-2)のメッセンジャーRNA(mRNA)の発現が増加し得、IL-2は細胞傷害性T細胞の生成及びNK細胞の活性化を誘導し得る。
以上のように、CD69タンパク質の発現の増加は、T細胞等の細胞性免疫の活性化をもたらすと推定し得る。
【0020】
上記増加としては特に制限はないが、対照に比べて2倍以上、5倍以上、10倍以上に、又は15倍以上であってよい。
上記増加の上限値としては特に制限はないが、対照に対し、例えば、40倍以下、30倍以下が挙げられる。
【0021】
上記低下は特に制限はないが、対照に比べて、1/2以下、1/5以下、1/10以下、又は1/15以下であってよい。
上記低下の程度の下限値としては特に制限はないが、例えば、1/40以上、1/30以上が挙げられる。
【0022】
第1の態様に係るT細胞の活性化度を評価する方法において、ブタ由来の検体としては任意の検体でよく、例えば、血液、尿、汗等が挙げられ、血液が好ましい。
第1の態様に係るT細胞の活性化度を評価する方法において、上記定量は、標識物質(例えば、標識抗体)における測定される標識の強度(例えば、吸光度、酵素標識強度、蛍光強度、紫外線強度、放射線強度等)に基づき得る。
また、上記強度と、CD69タンパク質の量(例えば、濃度、好ましくは、CD69タンパク質を発現する細胞数、CD69タンパク質を発現する細胞の存在割合)との関係に基づき検量線を作成し、上記検量線に基づき(例えば、対比して)定量してもしなくてもよい。
上記定量としては、フローサイトメトリー、酵素免疫測定法(EIA,ELISA)、蛍光酵素免疫測定法(FLEIA)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、電気化学発光測免疫測定法(ECLIA)、蛍光抗体法(FA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウェスタンブロット法(WB)、イムノブロット法などに基づく定量が挙げられる。
【0023】
第1の態様に係るT細胞の活性化度を評価する方法において、αβT細胞(好ましくは細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞及び記憶性T細胞)並びにγδT細胞よりなる群から選択される少なくとも1種のT細胞を識別する工程を更に含むことが好ましい。
細胞型及びサブセットを同定(好ましくは、フローサイトメトリーによる同定)する観点から、マーカー分子に選択的に結合する抗体が知られている(Ogawa S,Tsukahara T,Imaoka T,Nakanishi N,Ushida K,Inoue R.2016.「The effect of colostrum ingestion during the first 24 hours of life on early postnatal development of piglet immune systems.」Animal Science Journal 87,1511-1515.)。
具体的には、T細胞(好ましくはαβT細胞、γδT細胞)のマーカー分子としてCD2タンパク質、CD3タンパク質が、ヘルパーT細胞のマーカー分子としてCD4タンパク質が、細胞傷害性T細胞のマーカー分子としてCD8タンパク質が、記憶性T細胞のマーカー分子としてCD4タンパク質及びCD8タンパク質の両方が、γδT細胞のマーカー分子としてSWC6タンパク質が、それぞれ挙げられる。
すなわち、抗CD2抗体又は抗CD3抗体を用いてT細胞(好ましくはαβT細胞、γδT細胞)を検出することができ、抗CD4抗体を用いてヘルパーT細胞を検出することができ、抗CD8抗体を用いて細胞傷害性T細胞を検出することができ、抗CD4抗体及び抗CD8抗体を組み合わせて用いて記憶性T細胞を検出することができ、抗SWC6抗体を用いてγδT細胞を検出することができる。
ヘルパーT細胞はCD8タンパク質の発現が少ないことから、抗CD4抗体とともに抗CD8抗体を組み合わせてヘルパーT細胞を検出することができる。
細胞傷害性T細胞はCD4タンパク質の発現が少ないことから、抗CD8抗体とともに抗CD4抗体を組み合わせて細胞傷害性T細胞を検出することができる。
また、γδT細胞は抗SWC6抗体とともに抗CD2抗体又は抗CD3抗体を組み合わせて検出することが好ましい。
CD69タンパク質の発現量とこれらのマーカー分子とを組み合わせることにより、ある種の刺激(抗原による刺激、好ましくはワクチン抗原)に応答して、上記抗原に特異的なT細胞の活性化評価、活性化T細胞のサブセット分類評価(例えば、αβT細胞(好ましくは細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞及び記憶性T細胞)並びにγδT細胞のいずれであるかを分類評価)を行うことができる。
【0024】
≪ブタにおけるT細胞活性化を評価する剤≫
本発明の第2の態様は、ブタCD69タンパク質の定量化剤を含む、ブタにおけるT細胞活性化を評価する剤である。
第2の態様に係る剤は、ブタT細胞表面におけるCD69タンパク質の定量に用いられることが好ましい。
第2の態様に係るブタにおけるT細胞活性化を評価する剤は、第1の態様に係るT細胞の活性化度を評価する方法に好ましく適用し得る。
ブタCD69タンパク質の定量化剤としては、上記CD69タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する物質が挙げられ、上記CD69タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する抗体が好ましく、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれでもよい。
ブタCD69タンパク質の定量化剤としては、マウス抗ブタCD69抗体、ウサギ抗ブタCD69抗体、ラット抗ブタCD69抗体、ヤギ抗ブタCD69抗体、ハムスター抗ブタCD69抗体等が挙げられる。
ブタCD69タンパク質の定量化剤は、定量性の観点から標識物質(例えば、標識のための2次抗体)により標識されていることが好ましい。標識としては、吸光度、酵素標識強度、蛍光強度、紫外線強度、放射線強度等が挙げられる。
【0025】
本明細書で抗体と言う場合、全長の抗体だけではなく抗体の断片も包含するものとする。抗体の断片とは、機能性の断片であることが好ましく、例えば、F(ab’)2、Fab’などが挙げられる。F(ab’)2、Fab’とは、イムノグロブリンを、蛋白分解酵素(例えば、ペプシン又はパパイン等)で処理することにより製造されるもので、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の前後で消化されて生成される抗体断片である。
また、抗体は、固相担体などの不溶性担体上に固定された固定化抗体として使用したり、標識物質で標識した標識抗体として使用することができる。このような固定化抗体や標識抗体も全て本発明の範囲内である。
ポリクローナル抗体は、抗原(例えば、CD69タンパク質)を免疫した動物(例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ラット又はハムスター)から得られる血清を分離、精製することにより調製することができる。モノクローナル抗体は、抗原(例えば、CD69タンパク質)を免疫した動物から得られる抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを作製し、該ハイブリドーマを培養するか、動物に投与して該動物を腹水癌化させ、上記の培養液または腹水を分離、精製することにより調製することができる。
【0026】
ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、遠心分離、硫安沈殿、カプリル酸沈殿、またはDEAE-セファロースカラム、陰イオン交換カラム、プロテインA若しくはG-カラム、若しくはゲル濾過カラム等を用いるクロマトグラフィー等による方法を、単独または組み合わせて処理する方法等により分離ないし精製して用い得る。
【0027】
第2の態様に係るブタにおけるT細胞活性化を評価する剤は、必要に応じて吸着防止剤(ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、スキムミルク、ポリエチレングリコール等)、前処理液(任意の界面活性剤、任意の緩衝液等)、反応緩衝液(任意の緩衝液等)、発色基質(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、過酸化水素水等)等を含んでいてもよい。
上記吸着防止剤の含有量としては本発明の効果を損なわない限りにおいて特に制限はないが、0.05~10質量%であることが好ましい。
【0028】
第2の態様に係るブタにおけるT細胞活性化を評価する剤は、細胞型及びサブセットを同定する観点から、αβT細胞(好ましくは細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞及び記憶性T細胞)並びにγδT細胞よりなる群から選択される少なくとも1種のT細胞を識別する剤と併用して用いられることが好ましい。
細胞型及びサブセットを同定する観点から、αβT細胞(好ましくは細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞及び記憶性T細胞)並びにγδT細胞よりなる群から選択される少なくとも1種のT細胞を識別する剤は、単独又は複数組み合わせて用いることができ、各々の識別する剤は、それぞれ、検出性ないし定量性の観点から標識物質(例えば、標識のための2次抗体)により標識されていることが好ましい。
T細胞(好ましくはαβT細胞、γδT細胞)を識別する剤としては、CD2タンパク質又はCD3タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する物質が挙げられ、CD2タンパク質又はCD3タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する抗体が好ましい。
【0029】
ヘルパーT細胞を識別する剤としては、CD4タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する物質が挙げられ、CD4タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する抗体が好ましい。
ヘルパーT細胞は、CD8タンパク質の発現が少ないことから、ヘルパーT細胞を識別する剤として、CD8タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する物質を含むことも好ましく、CD8タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する抗体を含むことがより好ましい。
したがって、ヘルパーT細胞を識別する剤としては、CD4タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する物質及びCD8タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する物質の組み合わせが更に好ましく、CD4タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する抗体及びCD8タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する抗体の組み合わせが特に好ましい。
【0030】
細胞傷害性T細胞を識別する剤としては、CD8タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する物質が挙げられ、CD8タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する抗体が好ましい。
細胞傷害性T細胞は、CD4タンパク質の発現が少ないことから、細胞傷害性T細胞を識別する剤として、CD4タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する物質を含むことも好ましく、CD4タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する抗体を含むことがより好ましい。
したがって、細胞傷害性T細胞を識別する剤としては、CD4タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する物質及びCD8タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する物質の組み合わせが更に好ましく、CD4タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する抗体及びCD8タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する抗体の組み合わせが特に好ましい。
【0031】
記憶性T細胞を識別する剤としては、CD4タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する物質及びCD8タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する物質の組み合わせが挙げられ、CD4タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する抗体及びCD8タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する抗体の組み合わせが好ましい。
γδT細胞を識別する剤としては、SWC6タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する物質が挙げられ、SWC6タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する抗体が好ましい。また、γδT細胞を識別する剤としては、SWC6タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する物質とともに、CD2タンパク質又はCD3タンパク質に選択的(好ましくは特異的)に結合する物質を組み合わせて用いることがより好ましい。
【0032】
≪ブタT細胞活性化剤をスクリーニングする方法≫
本発明の第3の態様は、被験物質を投与したブタ由来の検体中のCD69タンパク質の存在量に基づき評価されるT細胞の活性化度の増加を指標としてブタT細胞活性化剤をスクリーニングする方法である。
上記存在量としては、ブタT細胞表面における存在量、又は、CD69タンパク質発現細胞の上記検体中の存在割合であることが好ましい。
具体的には、被験物質投与によるT細胞の活性化度(すなわち、CD69タンパク質の存在量)の増加を指標としてブタT細胞活性化剤をスクリーニングすることができる。
また、被験物質投与により感作後に、感染源(例えば、ウイルス抗原、細菌抗原、原虫抗原、真菌抗原等の抗原、ワクチン)による刺激(例えば、投与)することによりT細胞の活性化度(すなわち、CD69タンパク質の存在量)の増加を指標としてブタT細胞活性化剤をスクリーニングすることもできる。
上記増加の程度としては統計的に有意な増加であれば特に制限はないが、無刺激下におけるCD69タンパク質の存在量(好ましくはCD69タンパク質発現細胞の存在割合)と対比して、1.2倍以上にCD69タンパク質の存在量(好ましくはCD69タンパク質発現細胞の存在割合)が増加することが好ましく、1.3倍以上にCD69タンパク質の存在量(好ましくはCD69タンパク質発現細胞の存在割合)が増加することがより好ましく、1.4倍以上にCD69タンパク質の存在量(好ましくはCD69タンパク質発現細胞の存在割合)が増加することがさらに好ましく、2倍以上であることが特に好ましい。
上記増加の程度の上限値としては特に制限はないが、例えば、5倍以下、3倍以下が挙げられる。
第3の態様に係るスクリーニング方法に供される被験物質としては任意の物質を使用することができ、抗原(例えば、ウイルス抗原、細菌抗原、原虫抗原、真菌抗原)、抗体でもよいし、核酸分子でもよいし、個々の低分子合成化合物でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、合成ペプチドでもよい。あるいは、被験化合物はまた、化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリーもしくはコンビナトリアルライブラリーでもよい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
第3の態様に係るスクリーニング方法におけるブタ由来の検体としては、第1の態様に係るT細胞の活性化度を評価する方法におけるブタ由来の検体と同様のものが挙げられる。
第3の態様に係るスクリーニング方法において、CD69タンパク質の存在量に基づき評価されるT細胞の活性化度は、第1の態様に係るT細胞の活性化度を評価する方法における定量方法と同様の定量方法により定量し得る。
第3の態様に係るスクリーニング方法において、上記ブタT細胞活性化剤が、ブタ疾患に対するワクチン候補物質及び細胞性免疫活性化剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤であることが好ましい。
【0033】
第3の態様に係るスクリーニング方法において、被験物質によってT細胞のいずれの細胞型ないしサブセットを活性化するかを特定する観点から、細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞及び記憶性T細胞よりなる群から選択される少なくとも1種のT細胞を識別する工程を更に含むことが好ましい。
【0034】
≪ブタの病原体感染を検査する方法≫
本発明の第4の態様は、ブタ由来の検体中のCD69タンパク質の存在量を定量する工程を含む、ブタの病原体感染を検査する方法である。
上記病原体としては、ウイルス、細菌、原虫、真菌等が挙げられる。
上記存在量としては、ブタT細胞表面におけるCD69タンパク質の存在量であることが好ましい。
第4の態様の好ましい1つの実施形態としては、ブタ由来の検体中のCD69タンパク質の存在量を定量する工程を含む、ブタの病原体感染を検査する方法であって、
前記ブタが予めワクチン接種して免疫獲得後のブタであり、前記定量を行い、健常時の当該ブタ又は健常ブタに対してCD69タンパク質の前記存在量が増加している場合、前記ワクチンに対応する病原体により前記ブタが感染したと検査(診断若しくは判定)する工程、又は、
前記ブタが予めワクチン接種していないブタであり、前記定量を行い、健常時の当該ブタ又は健常ブタに対してCD69タンパク質の前記存在量が低下している場合、前記接種していないワクチンに対応する病原体により前記ブタが感染したと検査(診断若しくは判定)する工程を含む、方法が挙げられ、
前記ブタが予めワクチン接種したブタであり、前記定量を行い、健常時の当該ブタ又は健常ブタに対してCD69タンパク質の前記存在量が増加している場合、前記ワクチンに対応する病原体により前記ブタが感染したと検査する工程を含む方法であることが好ましい。
上記定量は、ワクチン免疫獲得の観点から、上記接種後少なくとも1週間後に行うことが好ましく、上記接種後少なくとも2週間後に行うことがより好ましく、上記接種後少なくとも3週間後に行うことが更に好ましく、上記接種後少なくとも1か月後に行うことが特に好ましい。
また、上記定量は、ワクチン免疫獲得の観点から、上記接種後半年以内に行うことが好ましく、上記接種後5か月以内に行うことがより好ましく、上記接種後4か月以内に行うことが更に好ましい。
ワクチン接種しない場合について、上記定量の時期として特に制限はない。
【0035】
第4の態様のもう1つの好ましい実施形態としては、ブタ由来の検体中のCD69タンパク質の存在量を定量する工程を含む、ブタの病原体感染を検査する方法であって、
前記検体に抗原刺激を付与した後に前記定量を行い、前記抗原刺激を付与していない前記検体又は健常ブタの検体に対してCD69タンパク質の前記存在量が増加している場合、当該ブタが前記病原体に感染したと検査する工程を含む方法が挙げられ、
当該実施形態において、前記抗原刺激を付与していない前記検体又は健常ブタの検体に対してCD69タンパク質の前記存在量に有意差がない場合又は低下している場合、当該ブタは前記病原体に感染していないと検査する工程を含むことがより好ましい。
【0036】
上記抗原刺激としては、病原体そのものによる刺激であっても、上記病原体における一部の抗原による刺激であっても、上記病原体に対応するワクチンによる刺激であってもよい。
また、抗原刺激を付与する方法としては、上記病原体に対応する上記抗原に、上記検体を接触若しくは曝露させる方法等が挙げられ、上記接触若しくは曝露させる温度、上記接触若しくは曝露させる上記抗原の濃度等の条件は適宜設定してよい。
また、上記接触若しくは曝露させる時間としては、上記検体に抗原刺激を付与する限り特に制限はなく、例えば、1分以上が挙げられ、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、3時間以上が更に好ましく、5時間以上が特に好ましい。上記接触若しくは曝露させる時間の上限としては特に制限はなく、例えば、30時間以下、20時間以下、10時間以下、8時間以下等が挙げられる。
また、付与後の上記定量の時期としては特に制限はなく、例えば、上記抗原刺激の直後であってもよく、上記抗原刺激後の30分後であってもよく、上記抗原刺激後の1時間後であってもよく、上記抗原刺激後の3時間後であってもよい。
上記定量の時期の上限値としては特に制限はなく、例えば、上記抗原刺激後の10時間以内、上記抗原刺激後の8時間以内、上記抗原刺激後の5時間以内等が挙げられる。
【0037】
上記定量は、マウス抗ブタCD69抗体、ウサギ抗ブタCD69抗体、ラット抗ブタCD69抗体、ヤギ抗ブタCD69抗体又はハムスター抗ブタCD69抗体と、前記検体とを接触させ、上記抗体と、上記CD69タンパク質との抗原抗体反応に基づく定量であることが好ましい。
第4の態様において、上記CD69タンパク質の存在量が、ブタT細胞表面における存在量、又は、上述したCD69タンパク質発現細胞の上記検体中の存在割合であることが好ましく、CD69タンパク質発現T細胞の上記検体中の存在割合であることがより好ましい。
本発明は、ブタCD69タンパク質の定量化剤に関するものでもある。
また、本発明は、ブタの病原体感染を診断するための、ブタCD69タンパク質の定量化剤に関するものでもある。
上記定量化剤としては、第2の態様として上述した通りである。
【0038】
具体的には、病原体感染後のT細胞の活性化度(すなわち、CD69タンパク質の存在量)の変化(具体的には、低下又は増加)を指標としてブタの病原体感染の有無を検査することができる。
上記低下の程度としては統計的に有意な低下であれば特に制限はないが、対照と対比して、3/4以下にCD69タンパク質の存在量(好ましくはCD69タンパク質発現細胞の存在割合)が低下することが挙げられ、2/5以下に低下することが好ましく、1/2以下に低下することがより好ましく、1/3以下に低下することが更に好ましく、1/4以下に低下することが特に好ましい。
上記低下の程度の下限値としては特に制限はないが、例えば、1/10以上が挙げられる。
上記増加の程度としては統計的に有意な増加であれば特に制限はないが、対照と対比して、1.5倍以上にCD69タンパク質の存在量(好ましくはCD69タンパク質発現細胞の存在割合)が増加することが挙げられ、1.6倍以上に増加することが好ましく、2倍以上に増加することがより好ましく、3倍以上に増加することが更に好ましく、4倍以上に増加することが特に好ましい。
上記増加の程度の上限値としては特に制限はないが、例えば、10倍以下が挙げられる。
健常時の当該ブタ、健常ブタ等の上記対照としては、ワクチン接種前若しくは接種後の、病原体感染前の当該ブタの検体から得られた測定値であっても、予め健常ブタの検体群から収集して得られた統計的な値ないし範囲であってもよい。
【0039】
第4の態様に係るブタの病原体感染を検査する方法におけるブタ由来の検体としては、第1の態様に係るT細胞の活性化度を評価する方法におけるブタ由来の検体と同様のものが挙げられる。
第4の態様に係るブタの病原体感染を検査する方法において、CD69タンパク質の存在量の定量は、第1の態様に係るT細胞の活性化度を評価する方法における定量方法と同様の定量方法により定量し得る。
第4の態様に係るブタの病原体感染を検査する方法において、病原(例えば、感染源)によってT細胞のいずれの細胞型ないしサブセットが関与するかは様々であることから、細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞及び記憶性T細胞よりなる群から選択される少なくとも1種のT細胞を識別する工程を更に含むことが好ましい。
第4の態様に係るブタの病原体感染を検査する方法において、ブタの病原体感染としては、ブタ生殖器・呼吸器症候群(PRRS)、ブタサーコウイルス関連疾患(PCVAD)、ブタ流行性下痢(PED)等のウイルス感染、細菌感染、原虫感染、真菌感染等が挙げられる。
【0040】
第4の態様に係るブタの病原体感染を検査する方法において、上記感染の検査が、感染の進行状況の判断、治療方針の参考にされることはもちろんであるが、感染に基づく疾患の重篤度の判定、感染に基づく疾患発症リスクの予測及び疾患進行のモニタリングよりなる群から選択される少なくとも1種の検査が好ましい。
【0041】
≪ハイブリドーマ≫
本発明の第5の態様は、ブタCD69タンパク質に選択的に結合する抗体を産生するハイブリドーマである。
また、本発明は、第5の態様に係るハイブリドーマを含む、第2の態様に係る剤の製造用原料に関するものでもある。
ハイブリドーマは、抗原(例えば、CD69タンパク質)を免疫した動物から得られる抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させて作製し得る。
抗原は、ブタからCD69タンパク質を精製してもよいし、CD69タンパク質のアミノ酸配列またはその変異配列またはそれらの一部を有するタンパク質をコードするDNAを含む組換えベクターを大腸菌、酵母、動物細胞または昆虫細胞などの宿主に導入して、該DNAを発現させて得られるタンパク質を分離、精製することによっても調製できる。また、抗原は、CD69タンパク質のアミノ酸配列の部分配列を有するペプチドをアミノ酸合成機を用いて合成することによって調製することもできる。
免疫方法としては、抗原を、ウサギ、ヤギ、ラット、マウスまたはハムスター等などの非ヒト哺乳動物の皮下、静脈内または腹腔内にそのまま投与してもよいが、抗原をスカシガイヘモシアニン、キーホールリンペットヘモシアニン、牛血清アルブミン、牛チログロブリン等の抗原性の高いキャリアタンパク質と結合して投与したり、完全フロイントアジュバント(Complete Freund’s Adjuvant)、水酸化アルミニウムゲル、百日咳菌ワクチン等の適当なアジュバントとともに投与することも好ましい。
【0042】
ハイブリドーマ細胞は、例えば、以下の方法により作製できる。先ず、抗体産生細胞と骨髄腫細胞を混合し、HAT培地[正常培地にヒポキサンチン、チミジンおよびアミノプテリンを加えた培地]に懸濁したのち、7~14日間培養する。培養後、培養上清の一部をとり酵素免疫測定法などにより、抗原に反応し、抗原を含まないタンパク質には反応しないものを選択する。次いで、限界希釈法によりクローニングを行い、酵素免疫測定法により安定して高い抗体価の認められたものをモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞として選択する。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞を培養して得られる培養液、またはハイブリドーマ細胞を動物の腹腔内に投与して該動物を腹水癌化させて得られる腹水から分離、精製することにより調製できる(Hayashi Y,Okutani M,Ogawa S,Tsukahara T.2018.「Generation of anti-porcine CD69 monoclonal antibodies and their usefulness to evaluate early activation of cellular immunity by flow cytometric analysis」Animal Science Journal 89,825-832.)。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0044】
<実施例1:ブタCD69タンパク質に選択的に結合する抗体(IgG2b-κ及びIgG2a-κ)を産生するハイブリドーマ(01-14-22-51及び01-22-44-102)の調製>
(抗ブタCD69抗体の抗原)
キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)又はオボアルブミンとのコンジュゲートのためのNH2末端に1つのシステイン、シート構造及び細胞外ドメインを有するブタCD69の29アミノ酸(残基133~161)からなる30アミノ酸のカスタムペプチドを設計した。この合成ペプチドは、製造委託したEurofins Genomics社から入手した。
このペプチドのアミノ酸配列は、Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)分析(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)により、CD69タンパク質以外のブタ参照タンパク質との相同性は80%未満であった。
10mg/mLのブタCD69ペプチドを等容量のマレイミド活性化mcKLH(Imject(登録商標)マレイミド活性化mcKLH;ThermoFisher社製)とコンジュゲートした。コンジュゲーション緩衝液中のエチレンジアミン四酢酸を、滅菌した1×リン酸緩衝食塩水(PBS)(-)(137mmol/L NaCl、2.7mmol/L KCl、10mmol/L Na2HPO4、1.8mmol/L KH2PO4、pH7.4)に対する透析によって除去した。
【0045】
(ブタCD69ペプチドに対する動物免疫)
8週齢の雌ICRマウス(日本SLC社製)5匹を、フロイント完全アジュバント(和光純薬社製)中の100μgのKLH結合CD69ペプチドで腹腔内免疫した。末梢血を尾静脈から3週間後に集めた。オボアルブミン結合CD69ペプチド(Imject Maleimide Activated Ovalmumin;ThermoFisher社製)に対する抗体価の上昇が末梢血中で確認された。ブタCD69ペプチドに対する抗体価を検出した後、マウスに過剰量のペントバルビタール(共立社製)を注射し、放血によって殺した。脾細胞及び末梢リンパ節由来の細胞を回収し、マウスミエローマ細胞株SP2/0-Ag14(Riken BioResource Center製)と融合した。抗ブタCD69mAb産生ハイブリドーマを、卵白アルブミン結合CD69ペプチドを抗原として用いたELISAを用いてスクリーニングした。陽性反応したハイブリドーマを限界希釈法により2回クローン化した。
【0046】
(フローサイトメトリーによるハイブリドーマのスクリーニング)
ELISAにおいて、2つのハイブリドーマクローン(01-14-22-51及び01-22-44-102)からの培養上清がいずれも、オボアルブミンコンジュゲートCD69ペプチドと強く反応した(01-14-22-51からの培養上清:2.73±0.11、01-22-44-102からの培養上清:2.84±0.13、SP2/0-Ag14の培養上清:0.07±0.01(光学濃度(OD)450平均±標準偏差(SD)、6反復)。
【0047】
ELISAにおいて強く反応する2つのハイブリドーマクローン(01-14-22-51及び01-22-44-102)からの培養上清をフローサイトメトリーによってさらに評価した。
健康な成ブタ(ランドレース×ラージホワイト×デュロック)1匹から全血を採取した。分割量(100μL)の血液を、PMA(最終濃度50ng/mL;Sigma社製)及びイオノマイシン(Streptomyces conglobatusからのイオノマイシンカルシウム塩、最終濃度1μmol/L;Sigma社製)存在下又は非存在下インキュベートした。
5%CO2環境中37℃で6時間インキュベートした後、赤血球(RBC)を2mLの1×RBC溶解緩衝液(Tonbo Biosciences社製)で溶解した。得られた末梢単核細胞を、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)(w/v)を含む1×PBS(-)で4×106細胞/mLに調整した。
40μLの細胞懸濁液を100μLのハイブリドーマクローン培養上清と共にインキュベートした(1:10希釈)。4℃で30分間インキュベートした後、細胞を0.5%BSA(w/v)及び二次抗体を含む1×PBS(-)で洗浄し、Alexa Fluor488結合ヤギ抗マウスIgG H&L(Abcam社製)を加えた(1:2000希釈)。次に、細胞を再び4℃で10分間インキュベートし、0.5%BSA(w/v)を含む1×PBS(-)で洗浄し、0.5%BSA(w/v)を含む1×PBS(-)で分離した。次いで、細胞をナイロンメッシュ(孔径:32μm;東京スクリーン社製)を通して濾過し、そしてFL-1の蛍光をフローサイトメーター(BDアキュリC6;BD社製)により分析した。
その結果、モノクローナル抗体(IgG2b-κ及びIgG2a-κ)はいずれも、フローサイトメトリーアッセイにおいてPMA及びイオノマイシンで上記6時間刺激した後のほとんどのブタ末梢リンパ球と良好に反応することを確認した。
【0048】
(モノクローナル抗体サブクラスの決定)
ELISA及びフローサイトメトリーにおいて良好な反応性を示した2つのハイブリドーマクローン(01-14-22-51及び01-22-44-102)の培養上清を選択し、それらのIgGサブクラス及び軽鎖クラスをIsoStripマウスモノクローナルキット(ロシュ社製)によって決定してモノクローナル抗体(IgG2b-κ及びIgG2a-κ)を得た。
【0049】
(抗ブタCD69モノクローナル抗体(IgG2b-κ及びIgG2a-κ)の精製及び蛍光標識)
10%(v/v)ウシ胎児血清(FBS)、100μmol/Lヒポキサンチン(和光純薬社製)、16μmol/Lチミジン(和光純薬社製)及び5%(v/v)BM-Condimed H1(Roche社製))を含有するBM-HT(GIT培地(和光純薬社製))を用いて、2つの微小ハイブリドーマクローン(01-14-22-51及び01-22-44-102)を血清栄養培地(ハイブリドーマSFM;ThermoFisher社製)中での増殖に適応させた。
2.5%のFBSの最終濃度となるように、下記3回の一連の5代継代培養で連続希釈した。
10%FBSを含むBM-HTによる5代継代培養、
5%FBSを含むBM-HT:ハイブリドーマSFM(1:1、v/v)による5代継代培養、及び
BM:HAT:SFM(1:3、v/v)による2.5%FBSを含む5代継代培養。
【0050】
Amicon Ultra-15(30KNMWL;メルクミリポア社製)を用いて100mLの培養上清を約1mLに濃縮した。
次に、抗体をIgG精製キットA(同仁堂社製)で精製した。全ての手順は製造業者の説明書通りに行なった。精製されたmAbの濃度は、NanoDrop ND-1000分光計(ThermoFisher社製)にて吸光度280nm(A280)で測定した。精製されたモノクローナル抗体を、HiLyte Fluor(登録商標)647ラベリングキット-NH2(同仁堂社製)を用いて製造業者の説明書に従って蛍光標識した。蛍光標識抗ブタCD69モノクローナル抗体を、以下の実施例で使用するまで-30℃で50%グリセロール(ナカライテスク社製)中で保存した。
【0051】
<実施例2:CD69タンパク質の発現量に基づくブタT細胞の活性化度の評価>
インビトロにおいて、ホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)等で刺激することによって、T細胞においてCD69タンパク質の発現が誘導されることが知られている。
【0052】
PMAはプロテインキナーゼC(PKC)のアクチベーターであり、イオノマイシン(Ionomycin)はカルシウムイオノフォアである。PMA及びイオノマイシンの組み合わせはマイトジェンとして、PKCの活性化及びCa+依存性シグナル伝達経路を活性化し細胞を人工的に活性化するために使用することができる。
例えば、ブタ白血球において、CD69、IFN-γ及びTNF-αを含むいくつかの免疫関連遺伝子の発現が、PMA及びイオノマイシンの組み合わせによる刺激によって誘導されることが報告されている(Ledger TN,Pinton P,Bourges D,Roumi P,Salmon H,Oswald IP.2004.「Development of a macroarray to specifically analyze immunological gene expression in swine.」Clinical and Diagnostic Laboratory Immunology 11,691-698.;Gao Y,Flori L,Lecardonnel J,Esquerre D,Hu ZL,Teillaud A,et al.2010.「Transcriptome analysis of porcine PBMCs after in vitro stimulation by LPS or PMA/ionomycin using an expression array targeting the pig immune response.」BMC Genomics 11,292.)。
【0053】
成ブタ3頭(ランドレース×ラージホワイト×デュロック)から全血を採取した。上述のように、PMA及びイオノマイシンを用いて200mLの全血を刺激した。コントロールとしてPMA及びイオノマイシンで刺激しない200mLの全血を用意した。
それぞれについて上記実施例1で得られたモノクローナル抗体でCD69タンパク質を染色するために、5%CO
2環境下において37℃で6時間インキュベートした。
インキュベーション後、赤血球を1×RBC溶解バッファー(Tonbo Biosciences社製)で溶解した。CD69タンパク質をHiLyte Fluor(登録商標)647コンジュゲートモノクローナル抗体(最終濃度19μg/mL)で染色した。
最後に、細胞をナイロンメッシュ(孔径:32μm;東京スクリーン社製)で濾過し、蛍光をフローサイトメトリーにより分析した。
CD69陽性細胞の百分率は平均±標準偏差(SD)として示し、ウィルコクソンの順位和検定によってPMA及びイオノマイシン6時間刺激T細胞と無刺激T細胞との間で統計的に比較した。P<0.05を細胞群間の有意差とみなした。結果を
図1に示す。
図1はT細胞活性化に伴うCD69タンパク質発現量の変化を示すドットプロットである。(a)は、リンパ球中のT細胞のドットプロットを示し、(b)中、(a)中のT細胞のうち、黒は無刺激T細胞のカウント数を示し、グレー(灰)はPMA及びイオノマイシン6時間刺激により活性化したT細胞のカウント数を示す。
横軸の数値は、常用対数を示す。
図2においても同様である。
【0054】
図1(b)に示した結果から明らかなように、無刺激T細胞に比べて、PMA及びイオノマイシン6時間刺激により活性化したT細胞では、CD69タンパク質の標識強度、すなわちCD69タンパク質の発現量が有意に増加していることがわかる(P<0.01)。
ブタ由来の検体中のCD69タンパク質の存在量を定量することによりブタにおけるT細胞の活性化度を評価し得る。
【0055】
(比較例)
従来、ブタの研究では、IFN-γ又はTNF-αを標的とするELISPOT又はELISAアッセイが、特定の抗原で活性化されたリンパ球を検出するために頻繁に使用されてきた(Klinge KL,Vaughn EM,Roof MB,Bautista EM,Murtaugh MP.2009.「Age-dependent resistance to Porcine reproductive and respiratory syndrome virus replication in swine.」Virology Journal 6,177.;Patterson R,Eley T,Browne C,Martineau HM,Werling D.2015.「Oral application of freeze-dried yeast particles expressing the PCV2b Cap protein on their surface induce protection to subsequent PCV2b challenge in vivo. Vaccine 33,6199-6205.)。
比較例としてサイトカイン(IFN-γ及びTNF-α)の発現量と、ブタT細胞の活性化度との相関の評価も行った。
具体的には、サイトカイン(IFN-γ及びTNF-α)を染色するために、細胞膜からサイトカインの放出を防ぐために、PMA及びイオノマイシンとともにブレフェルジンA(最終濃度10μg/mL;Sigma社製)を添加した。混合物を5%CO2環境中37℃で20時間インキュベートした。インキュベーション後、赤血球を1×RBC溶解バッファー(Tonbo Biosciences社製)で溶解した。IFN-γ及びTNF-αを染色し、次いで、PEコンジュゲート抗ブタIFN-γマウスモノクローナル抗体(クローン:P2G10;BD社製)及びPerCP/Cy5.5コンジュゲート抗ヒトTNF-αマウスモノクローナル抗体(クローン:MAb11;BioLegend社製)を用いて2%パラホルムアルデヒド(ナカライテスク社製)で透過処理した。
最後に、細胞をナイロンメッシュ(孔径:32μm;東京スクリーン社製)で濾過し、蛍光をフローサイトメトリーにより分析した。
【0056】
その結果、リンパ球中のTNF-α陽性細胞もまた、PMA及びイオノマイシン刺激により有意に増加したものの(無刺激:1.55±0.06%、PMA及びイオノマイシン刺激:13.53+5.81%、P<0.01)、無刺激リンパ球数と刺激リンパ球数との差は上記CD69陽性細胞における差よりもはるかに小さかった(約1/5)。
また、IFN-γ陽性細胞の数は、PMA及びイオノマイシンの刺激によってわずかに増加したものの有意差はなかった(無刺激:1.16±0.25%、PMA及びイオノマイシン刺激:4.93±0.63%、CD69陽性細胞における差の約1/15)。
この結果は、刺激に反応して発現されるサイトカインが細胞の種類によって大きく相違するためであると考えられる一方、下記実施例3に示した結果からもわかるように、CD69タンパク質は活性化刺激に反応してほとんどのリンパ球(T細胞を含む。)で発現された。
したがって、サイトカイン(IFN-γ及びTNF-α)の発現量に基づいて、ブタT細胞の活性化度を評価することは困難である一方、ブタ由来の検体中のCD69タンパク質の存在量を定量することは、サイトカインよりも感度よくブタにおけるT細胞の活性化度を評価し得るといえる。
【0057】
<実施例3:CD69、CD4及びCD8タンパク質の発現量に基づくT細胞の各サブセット(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、及び記憶性T細胞)個別の活性化度評価>
上記実施例2で得られたPMA及びイオノマイシン6時間刺激T細胞と無刺激T細胞において、上記実施例1で得られた抗ブタCD69モノクローナル抗体、抗ブタCD4モノクローナル抗体及び抗ブタCD8モノクローナル抗体を組み合わせて用いて、活性化ブタT細胞の各サブセット(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、及び記憶性T細胞)について個別に活性化度を評価した。結果を
図2に示す。
図2は、T細胞の各サブセット(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、及び記憶性T細胞)個別の活性化によるCD69タンパク質発現量の変化を示す図である。
(a)に示したドットプロット中、CD4陰性CD8陽性の領域は細胞傷害性T細胞の領域を示す。
CD4及びCD8二重陽性の領域は記憶性T細胞の領域を示す。
CD4陽性及びCD8陰性の領域はヘルパーT細胞の領域を示す。
【0058】
(b)中、黒は無刺激細胞傷害性T細胞(CD4陰性CD8陽性)のカウント数を示し、グレーはPMA及びイオノマイシン6時間刺激により活性化した細胞傷害性T細胞(CD4陰性CD8陽性)のカウント数を示す。
(c)中、黒は無刺激記憶性T細胞(CD4及びCD8二重陽性)のカウント数を示し、グレーはPMA及びイオノマイシン6時間刺激により活性化した記憶性T細胞(CD4及びCD8二重陽性)のカウント数を示す。
(d)中、黒は無刺激ヘルパーT細胞(CD4陽性及びCD8陰性)のカウント数を示し、グレーはPMA及びイオノマイシン6時間刺激により活性化したヘルパーT細胞(CD4陽性及びCD8陰性)のカウント数を示す。
【0059】
図2(b)~(d)に示した結果から明らかなように、無刺激に比べて、PMA及びイオノマイシン6時間刺激により活性化した各サブセット(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、及び記憶性T細胞)では、CD69タンパク質の標識強度、すなわちCD69タンパク質の発現量が有意に増加していることがわかる。
すなわち、CD69タンパク質は活性化刺激に反応してT細胞の各サブセット(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、及び記憶性T細胞)で発現されていることがわかる。
【0060】
<実施例4:CD69及びCD3タンパク質の発現量に基づくPRRSV感染前後におけるブタT細胞の活性化度の評価>
上記実施例1で得られた抗ブタCD69モノクローナル抗体と、T細胞マーカーCD3タンパク質を検出する抗ブタCD3抗体とを組み合わせて用いて、抗体及びワクチンによる疾病対策が困難なPRRSウイルス(PRRSV)感染におけるT細胞の活性化度を評価した。結果を
図3に示す。
【0061】
図3は、CD69及びCD3タンパク質の発現量に基づくPRRSV感染前後におけるブタT細胞の活性化の変化を示す図である。
グラフ1は、PRRSV感染前の無刺激のブタ血液中活性化T細胞(CD69及びCD3二重陽性細胞)の割合を示すグラフである。
グラフ2は、PRRSV感染前のPRRSV刺激のブタ血液中活性化T細胞(CD69及びCD3二重陽性細胞)の割合を示すグラフである。PRRSV刺激は、PRRSVにおけるMタンパク質の一部のペプチド(配列番号2)をウイルス抗原として用いてインビトロにて行った。
グラフ3は、PRRSV感染2週間後の無刺激のブタ血液中活性化T細胞(CD69及びCD3二重陽性細胞)の割合を示すグラフである。
グラフ4は、PRRSV感染2週間後のPRRSV刺激のブタ血液中活性化T細胞(CD69及びCD3二重陽性細胞)の割合を示すグラフである。
【0062】
グラフ1及び2の比較から、ウイルス感染前は、ブタ血液中活性化T細胞(CD69及びCD3二重陽性細胞)の割合に有意差がなく、感作していないといえる。
【0063】
グラフ1及び3の比較から、ウイルス感染2週間後は、ブタ血液中活性化T細胞(CD69及びCD3二重陽性細胞)の割合が有意に低下し(P=0.012)、免疫力が低下しPRRSに罹患しているといえる。
すなわち、ブタ由来の検体中のCD69タンパク質の存在量を定量することにより、ブタの病原体感染を検査し得る。
また、グラフ3及び4の比較から、ウイルス感染2週間後(感作後)は、ブタ血液中活性化T細胞(CD69及びCD3二重陽性細胞)の割合が、ウイルス刺激直後に有意に増加することから(P=0.015)、ブタの病原体感染を迅速に検査し得るといえる。
また、グラフ1(及び2)と、グラフ3(及び4)との比較から、ウイルス感染前は、抗原刺激によるブタ血液中活性化T細胞の割合に有意差がないのに対し、ウイルス感染後は、抗原刺激によりブタ血液中活性化T細胞の割合が有意に増加することから(P=0.015)、ブタの病原体感染を検査し得るといえる。
【0064】
グラフ3及び4の比較から、ウイルス感染2週間後(感作後)は、ブタ血液中活性化T細胞(CD69及びCD3二重陽性細胞)の割合が、抗原刺激により有意に増加し(P=0.015)、PRRSに対して細胞性免疫が働いているといえる。
したがって、ワクチン候補物質(例えば、PRRSV様物質)を投与したブタ血液中のCD69タンパク質の存在量に基づき評価されるT細胞の活性化度の増加を指標としてブタ疾患(例えば、PRRS)に対するワクチン候補物質をスクリーニングし得ることが考えられる。
【配列表】