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特許7416446フェノール類に起因する症状又は疾患の予防若しくは改善剤
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  • 特許-フェノール類に起因する症状又は疾患の予防若しくは改善剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】フェノール類に起因する症状又は疾患の予防若しくは改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/095 20060101AFI20240110BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 31/37 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 31/5685 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A61K31/095
A61K31/198
A61K31/192
A61K31/37
A61K31/5685
A61P13/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021508518
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013073
(87)【国際公開番号】W WO2020194563
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】阿部 高明
(72)【発明者】
【氏名】富岡 佳久
(72)【発明者】
【氏名】松本 洋太郎
(72)【発明者】
【氏名】中山 亨
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/213268(WO,A1)
【文献】特開平06-183963(JP,A)
【文献】米国特許第05591736(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チロシンサルフェート、2-ナフトールサルフェート、4-メチルウンベリフェリルサルフェート、アンドロステロンサルフェート、ジヒドロフェルリックアシッド4-サルフェート、2(4-ヒドロキシフェニル)アセトアミドサルフェート、シクロヘキサノールサルフェート、4-エチルフェニルサルフェート、テストステロンサルフェート、o-メトキシフェニルサルフェート、及びそれらの塩からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物を有効成分として含有することを特徴とするフェノール又はその代謝物の低減剤。
【請求項2】
化合物が、以下の式で示される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の低減剤。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール又はその代謝物(以下、これらを総称して、「フェノール類」ということがある)を低減するための剤や、フェノール類に起因する症状又は疾患を予防若しくは改善するための剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの腸管内には、数百種類以上にも及ぶ腸内細菌が棲息しており、一人の腸内に棲息している腸内細菌の合計重量は、約1.5kgにもなる。腸内におけるこの腸内細菌の群衆は腸内細菌叢と呼ばれている。腸内細菌叢は、難消化性多糖の分解、必須栄養素であるビタミン等の産生、免疫システムの構築、病原性菌の増殖抑制等の役割を担い、人間の恒常性の維持に重要な存在である。しかし一方で、腸内細菌叢のバランスが崩れると、大腸癌等をはじめとする様々な腸疾患(非特許文献1、2)、2型糖尿病等の代謝疾患(非特許文献3)、肥満の発症(非特許文献4)等につながることが示唆されている。このように、腸内細菌叢は、人体に好影響も悪影響も及ぼし得る存在である。
【0003】
腸内においては、しばしばフェノールの遊離が観察されるが、これに関わる酵素がチロシンフェノールリアーゼ(Tyrosine Phenol Lyase;TPL)である。TPLを発現する腸内細菌が、タンパク質を構成するアミノ酸であるチロシンを、ピルビン酸、アンモニア、及びフェノールへと加水分解する。フェノールは、生体内で様々な悪影響を示すことから、血液中や尿中のフェノール濃度は、腸内環境の悪化の指標になると考えられている。実際に、TPL発現腸内細菌により生成されたフェノールは、皮膚に蓄積し、皮膚のくすみや乾燥を引き起こすことが報告されている(非特許文献5)。
【0004】
一方、TPL発現細菌におけるTPLを阻害する作用を有する物質として、2-アザチロシンや3-アザチロシンが報告されている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Science 2012, 338, 120-123
【文献】Cell 2007, 131, 33-45
【文献】Science 2010, 328, 228-231
【文献】Nature 2006, 444, 1027-1031
【文献】飯塚量子著 「腸内細菌が皮膚生理に及ぼす影響」第15回腸内細菌学会 シンポジウム2-4
【文献】Biochemistry 2001, 40, 14862-14868
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、フェノール類を低減する作用や、フェノール類に起因する症状又は疾患を予防若しくは改善する作用を有する物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を続けている。その過程において、以下に示す本件化合物群が、2-アザチロシンよりも、チロシンフェノールリアーゼ(TPL)発現細菌によるフェノール産生を効果的に低減する作用を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
【化1】
[式中、
環Aは、芳香族環;脂肪族環;複素環;又は、芳香族環、脂肪族環及び複素環から選択される2以上の環の縮合環;を表し、
X及びO-SO-ORは、環Aを構成する環原子の置換基であり、
nは、0~5の整数を表し、
Xは、ハロゲン原子;置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルキル基;置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルコキシ基;置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルケニル基;置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルケニルオキシ基;置換された若しくは置換されていないシクロアルキル基;置換された若しくは置換されていないシクロアルケニル基;アルデヒド基;ヒドロキシ基;アミノ基;ニトロ基;カルボキシ基;及びシアノ基;からなる群より選択され、nが2~5の場合、各Xは同一でもあっても異なっていてもよく、
Rは、水素原子;Li;Na;K;Mg;Ca;及び、置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルキル基;からなる群より選択される]で示される化合物、及びその塩からなる群(以下、これらを総称して「本件化合物群」ということがある)。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕以下の式(I);
【0010】
【化2】
[式中、
環Aは、芳香族環;脂肪族環;複素環;又は、芳香族環、脂肪族環及び複素環から選択される2以上の環の縮合環;を表し、
X及びO-SO-ORは、環Aを構成する環原子の置換基であり、
nは、0~5の整数を表し、
Xは、ハロゲン原子;置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルキル基;置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルコキシ基;置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルケニル基;置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルケニルオキシ基;置換された若しくは置換されていないシクロアルキル基;置換された若しくは置換されていないシクロアルケニル基;アルデヒド基;ヒドロキシ基;アミノ基;ニトロ基;カルボキシ基;及びシアノ基;からなる群より選択され、nが2~5の場合、各Xは同一でもあっても異なっていてもよく、
Rは、水素原子;Li;Na;K;Mg;Ca;及び、置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルキル基;からなる群より選択される]で示される化合物、及びその塩からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物を有効成分として含有することを特徴とするフェノール又はその代謝物の低減剤。
〔2〕式(I)で表される化合物が、下記のいずれかであることを特徴とする上記〔1〕に記載の低減剤。
【0011】
【化3】
(上記各式中、R、X及びnは、上記〔1〕において定義したとおりの意味を有する)
〔3〕Xが、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、アルデヒド基、-CH-COOH、-CH-COONa、-CH-COOK、-CH-CH(NH)-COOH、-CH(NH)-COONa、-CH(NH)-COOK、及び-CH-CONHから選択されることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の低減剤。
〔4〕Rが、水素原子、Na、及びKから選択されることを特徴とする上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の低減剤。
〔5〕式(I)の化合物が、チロシンサルフェート、2-ナフトールサルフェート、4-メチルウンベリフェリルサルフェート、アンドロステロンサルフェート、ジヒドロフェルリックアシッド4-サルフェート、2(4-ヒドロキフェニル)アセトアミドサルフェート、シクロヘキサノールサルフェート、4-エチルフェニルサルフェート、テストステロンサルフェート、及びo-メトキシフェニルサルフェートから選択されることを特徴とする上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の低減剤。
〔6〕式(I)の化合物が、以下の式で示される化合物であることを特徴とする上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の低減剤。
【0012】
【化4】
〔7〕以下の式(I);
【0013】
【化5】
[式中、
環Aは、芳香族環;脂肪族環;複素環;又は、芳香族環、脂肪族環及び複素環から選択される2以上の環の縮合環;を表し、
X及びO-SO-ORは、環Aを構成する環原子の置換基であり、
nは、0~5の整数を表し、
Xは、ハロゲン原子;置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルキル基;置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルコキシ基;置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルケニル基;置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルケニルオキシ基;置換された若しくは置換されていないシクロアルキル基;置換された若しくは置換されていないシクロアルケニル基;アルデヒド基;ヒドロキシ基;アミノ基;ニトロ基;カルボキシ基;及びシアノ基;からなる群より選択され、nが2~5の場合、各Xは同一でもあっても異なっていてもよく、
Rは、水素原子;Li;Na;K;Mg;Ca;及び、置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルキル基;からなる群より選択される]で示される化合物、及びその塩からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物を有効成分として含有することを特徴とするフェノール又はその代謝物に起因する症状若しくは疾患の予防又は改善剤。
〔8〕環Aが、下記のいずれかであることを特徴とする上記〔7〕に記載の予防又は改善剤。
【0014】
【化6】
(上記各式中、R、X及びnは、上記〔7〕において定義したとおりの意味を有する)
〔9〕Xが、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、アルデヒド基、-CH-COOH、-CH-COONa、-CH-COOK、-CH-CH(NH)-COOH、-CH(NH)-COONa、-CH(NH)-COOK、及び-CH-CONHから選択されることを特徴とする上記〔7〕又は〔8〕に記載の予防又は改善剤。
〔10〕Rが、水素原子、Na、及びKから選択されることを特徴とする上記〔7〕~〔9〕のいずれかに記載の予防又は改善剤。
〔11〕式(I)の化合物が、チロシンサルフェート、2-ナフトールサルフェート、4-メチルウンベリフェリルサルフェート、アンドロステロンサルフェート、ジヒドロフェルリックアシッド4-サルフェート、2(4-ヒドロキフェニル)アセトアミドサルフェート、シクロヘキサノールサルフェート、4-エチルフェニルサルフェート、テストステロンサルフェート、及びo-メトキシフェニルサルフェートから選択されることを特徴とする上記〔7〕~〔10〕のいずれかに記載の予防又は改善剤。
〔12〕式(I)の化合物が、以下の式で示される化合物であることを特徴とする上記〔7〕~〔11〕のいずれかに記載の予防又は改善剤。
【0015】
【化7】
〔13〕フェノール又はその代謝物に起因する症状若しくは疾患が、糖尿病性腎症、ネフローゼ症候群、又は慢性腎炎症候群であることを特徴とする上記〔7〕~〔12〕のいずれかに記載の予防又は改善剤。
【0016】
また本発明の実施の他の形態として、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物を、フェノール類の低減を必要とする対象者に投与することにより、フェノール類を低減する方法や、フェノール類の低減剤として使用するための、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物や、フェノール類の低減における使用のための、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物や、フェノール類の低減剤を製造するための、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物の使用を挙げることができる。
【0017】
また本発明の実施の他の形態として、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物を、フェノール類に起因する症状又は疾患の予防若しくは改善(治療)を必要とする患者に投与することにより、フェノール類に起因する症状又は疾患を予防若しくは改善(治療)する方法や、フェノール類に起因する症状又は疾患の予防若しくは改善(治療)剤として使用するための、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物や、フェノール類に起因する症状又は疾患の予防若しくは改善(治療)における使用のための、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物や、フェノール類に起因する症状又は疾患の予防若しくは改善(治療)剤を製造するための、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物の使用を挙げることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、フェノール類、例えば、生体中に存在するTPL発現細菌から産生されるフェノールや、当該フェノールが哺乳動物の生体中で代謝されることにより得られる物質(フェノール代謝物)を効果的に低減することができるため、フェノール類に起因する症状又は疾患の予防若しくは改善(治療)に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例2において、4種類のTPL発現細菌(K. intermedia、C. freundii、C. koseri、及びM. morganii subsp. Morganii)を、GAN69又は2-アザチロシンの存在下、或いはこれらの化合物非存在下で培養した後、培養液中のフェノールを測定した結果を示す図である。図1Aは、培養液中のフェノールの濃度を示す。図1Bは、TPL発現細菌(Kluyvera intermedia)を化合物非存在下で培養した場合のフェノールの濃度を100としたときの相対値として示す。図中の「*」及び「**」は、各TPL発現細菌を化合物非存在下で培養したときのフェノール濃度に対して、Student's testによりそれぞれ統計学的に有意差(p<0.05及びp<0.01)があることを示す。
図2図2Aは、実施例3において、db/dbマウスの2群(通常飼育群[図中の「C群」]、及び硫酸フェニル群[図中の「PS群」])における血液中の硫酸フェニルの濃度を測定した結果を示す図であり、図2Bは、かかる2種類の群における腎組織を解析した結果を示す図である。図2BのPAS画像中のサイズバーは80μmを示し、電子顕微鏡画像中のサイズバーは1μmを示す。図2Cは、実施例3において、高脂肪飼料[HFD]で飼育したKKAYマウス(HFD-KKAYマウス)の2群(通常飼育群[図中の「C群」]、及び硫酸フェニル群[図中の「PS群」])における血液中の硫酸フェニルの濃度を測定した結果を示す図であり、図2Dは、かかる2種類の群における腎組織を解析した結果を示す図である。図2DのPAS画像中のサイズバーは200μmを示し、電子顕微鏡画像中のサイズバーは1μmを示し、Elastica Masson画像及びF4/80画像中のサイズバーは、それぞれ80μmを示す。図2A及びCの「*」は、Student's testにより統計学的に有意差(p<0.05)があることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のフェノール類の低減剤は、「フェノール又はその代謝物を低減するため」という用途に特定された、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物を有効成分として含有する剤(以下、「本件低減剤」ということがある)であり、また、本発明のフェノール類に起因する症状又は疾患の予防若しくは改善剤は、「フェノール又はその代謝物に起因する症状若しくは疾患を予防又は改善するため」という用途に特定された、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物を有効成分として含有する剤(以下、「本件予防/改善剤」ということがある)である(これら剤を総称して、「本件剤」ということがある)。本件剤は、有効成分である本件化合物群を、単独で飲食品又は医薬品(製剤)として使用してもよいし、さらに添加剤を混合し、組成物の形態(飲食品組成物又は医薬組成物)として使用してもよい。かかる飲食品としては、例えば、健康食品(機能性食品、栄養補助食品、健康補助食品、栄養強化食品、栄養調整食品、サプリメント等)、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等)を挙げることができる。
【0021】
本明細書において、「フェノール類の低減」とは、本件化合物群がTPLにおける基質(すなわち、チロシン)の結合部位以外に結合し、当該結合部位に対する基質の親和性を低下する作用(すなわち、アロステリック阻害効果);本件化合物群が、TPLにおける基質の結合部位へ結合することにより、当該結合部位へのTPLの基質の結合を妨げる作用(すなわち、競合的阻害効果)等の作用により、哺乳動物の生体内(例えば、血液中、腸内)におけるフェノール類の量が低減(減少)することを意味する。本件低減剤の低減対象のフェノールは、特に制限されないが、通常、TPLにより生成されるフェノールである。また、本件低減剤の低減対象のフェノール代謝物は、特に制限されないが、通常、TPLにより生成されるフェノールが哺乳動物の生体中で代謝されることにより得られる物質である。
【0022】
フェノール類におけるフェノール代謝物としては、例えば、フェノールのグルクロン酸抱合体、フェノールの硫酸抱合体(具体的には、硫酸フェニル)、ヒドロキノンのグルクロン酸抱合体、ヒドロキノンの硫酸抱合体等を挙げることができる。
【0023】
本件予防/改善剤の予防又は改善対象としては、哺乳動物の生体内(例えば、血液中、腸内)におけるフェノール類に起因する症状又は疾患であれば特に制限されず、かかる症状又は疾患としては、例えば、便秘、食欲不振、悪心、嘔吐、口臭、口内炎、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病)等の消化器系異常;無欲、無関心、記銘力低下、うつ状態、傾眠、昏睡、多発神経炎、(発達性)協調運動障害、食思不振等の神経系異常;動脈硬化、貧血、赤血球造血障害、高血圧、虚血性心疾患、心膜炎、心筋炎、(血液)凝固異常、心不全、心血管障害等の循環器系異常;肌荒れ(例えば、皮膚のくすみ、皮膚の乾燥)、色素沈着、掻痒(感)、皮下出血、皮膚萎縮、感染、アトピー、脱毛等の皮膚異常(疾患);アルブミン尿、急性腎不全、急性尿細管壊死、腎性貧血、慢性腎不全、尿細管間質障害、急性腎炎、慢性腎炎、急性腎炎症候群、慢性腎炎症候群、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症、動脈硬化性腎症、腎性骨異常症(例えば、腎性骨異栄養症)、溢水等の腎機能障害;脳卒中;心筋梗塞;がん(例えば、大腸癌、肝臓癌、白血病);自閉症;免疫不全;骨異常症;副甲状腺亢進症;インスリン抵抗性;栄養不良;炎症;振戦;動脈硬化関連疾患;ループス、強皮症、リウマチ等の自己免疫疾患;肥満;メタボリックシンドローム;糖尿病;などを挙げることができ、これらの中でも糖尿病性腎症、ネフローゼ症候群、慢性腎炎症候群を好適に例示することができる。
【0024】
本発明において、本件化合物群から選択される化合物とは、以下の式(I)で表される化合物、及び前記化合物の塩を意味する。
【0025】
【化8】
【0026】
式中、環Aは、芳香族環;脂肪族環;複素環;又は、芳香族環、脂肪族環及び複素環から選択される2以上の環の縮合環;を表し、X及びO-SO-ORは、環Aを構成する環原子の置換基であり、nは、0~5の整数を表し、Xは、ハロゲン原子;置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルキル基;置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルコキシ基;置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルケニル基;置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルケニルオキシ基;置換された若しくは置換されていないシクロアルキル基;置換された若しくは置換されていないシクロアルケニル基;アルデヒド基;ヒドロキシ基;アミノ基;ニトロ基;カルボキシ基;及びシアノ基;からなる群より選択され、nが2~5の場合、各Xは同一でもあっても異なっていてもよく、Rは、水素原子;Li;Na;K;Mg;Ca;及び、置換された若しくは置換されていない直鎖又は分枝鎖のアルキル基;からなる群より選択される。但し、下記の化合物、その塩、及びそのエステル体は、式(I)で表される化合物の範囲から除外される。
ホモチロシン(光学異性体及びラセミ体)
ビスホモチロサイン(光学異性体及びラセミ体)
O-メチルホモチロシン(光学異性体及びラセミ体)
O-メチルビスホモチロサイン(光学異性体及びラセミ体)
2-アザチロシン(光学異性体及びラセミ体)
3-アザチロシン(光学異性体及びラセミ体)
【0027】
本明細書において、「芳香族環」とは、炭化水素のみで単一若しくは複数の環を構成し、非局在化π電子軌道を有する環状構造若しくは当該環状構造を有する化合物を意味する。前記芳香族環が複数の環を構成する場合、当該芳香族環は縮合環であっても非縮合環(例えば、ビフェニル)であってもよい。
【0028】
本明細書において、「脂肪族環」とは、脂肪族化合物(非芳香族性の炭化水素化合物)及び環式化合物(構成する原子が環状に結合した化合物)の両方の性質を有する環状構造若しくは当該環状構造を有する化合物を意味する。前記脂肪族環は、芳香族性を有しない飽和又は不飽和の炭素環を1若しくは2以上含む。2つ以上の環が1個の炭素原子によって繋がった構造を有するスピロ化合物も「脂肪族環」に含まれる。前記脂肪族環が複数の環を構成する場合、当該脂肪族環は縮合環であっても非縮合環であってもよい。
【0029】
本明細書において、「複素環」とは、2種類以上の元素により構成される環状構造若しくは当該環状構造を有する化合物を意味する。前記複素環は、単一若しくは複数の環を構成する。前記複素環が、複数の環を構成する場合、当該複素環は縮合環であっても非縮合環(例えば、2,2’-ビピリジン、4,4’-ビピリジン)であってもよい。
【0030】
本明細書において、「縮合環」とは、2個以上の環が2個又は3個以上の原子を共有して結合した環状構造を意味する。
【0031】
本明細書において、「芳香族環、脂肪族環及び複素環から選択される2以上の環の縮合環」とは、芳香族環と脂肪族環との縮合環、脂肪族環と複素環との縮合環、芳香族環と複素環との縮合環又は芳香族環、脂肪族環及び複素環の三種類の環の縮合環を有する環状構造若しくは当該環状構造を有する化合物を意味する。芳香族環、脂肪族環及び複素環の意味は前に定義したとおりである。
【0032】
環Aが、芳香族環、脂肪族環、複素環、又は芳香族環、脂肪族環及び複素環から選択される2以上の環の縮合環を表す場合、及び、本願の化合物の任意の置換基が、芳香族環、脂肪族環、複素環、又は芳香族環、脂肪族環及び複素環から選択される2以上の環の縮合環を含む基を表す場合、それらの環は完全飽和、部分飽和、又は完全不飽和であり得る。このような環の例として、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フェナレン、ビフェニレン、ペンタレン、インデン、as-インダセン、s-インダセン、アセナフチレン、フルオレン、フルオランテン、アセフェナントリレン、アズレン、ヘプタレン、クマリン、クマロン、ウンベリフェロン、ステロイド(例えば、アンドロステロン、テストステロン、エストラジオール、アルドステロン、ヒドロコルチゾン、コレステロール、コール酸、エルゴステロール、等)、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、テトラゾール、ピロリジン、フラン、テトラヒドロフラン、2-アザ-テトラヒドロフラン、3-アザ-テトラヒドロフラン、オキサゾール、イソオキサゾール、フラザン、1,2,4-オキサジアゾール、1,3,4-オキサジアゾール、チオフェン、イソチアゾール、チアゾール、チオラン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、2-アザピペリジン、3-アザピペリジン、ピペラジン、ピラン、テトラヒドロピラン、2-アザピラン、3-アザピラン、4-アザピラン、2-アザ-テトラヒドロピラン、3-アザ-テトラヒドロピラン、モルホリン、チオピラン、2-アザチオピラン、3-アザチオピラン、4-アザチオピラン、チアン、インドール、インダゾール、ベンズイミダゾール、4-アザインドール、5-アザインドール、6-アザインドール、7-アザインドール、イソインドール、4-アザイソインドール、5-アザイソインドール、6-アザイソインドール、7-アザイソインドール、インドリジン、1-アザインドリジン、2-アザインドリジン、3-アザインドリジン、5-アザインドリジン、6-アザインドリジン、7-アザインドリジン、8-アザインドリジン、9-アザインドリジン、プリン、カルバゾール、カルボリン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ベンゾチオフェン、イソベンゾチオフェン、キノリン、シンノリン、キナゾリン、キノキザリン、5-アザキノリン、6-アザキノリン、7-アザキノリン、イソキノリン、フタラジン、6-アザイソキノリン、7-アザイソキノリン、プテリジン、キノキサリン、クロメン、イソクロメン、アクリジン、フェナントリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェノキサジン、キサンテン、フェノキサチイン及び/又はチアントレン、並びに上記基の位置異性体を挙げることができる。
【0033】
本発明の一態様において、環Aは、例えば、ベンゼン、ナフタレン、クマリン、アンドロステロン、及びテストステロンからなる環の群より選択される。
【0034】
本発明の一態様において、式(I)で表される化合物としては、例えば、環Aがベンゼン環、シクロヘキサン環、ナフタレン環、クマリン環、及びステロイド骨格を有する環から選択される下記式に示す化合物を挙げることができる。
【0035】
【化9】
(上記各式中、R、X及びnは、前記式(I)の化合物において定義したとおりの意味を有する。)
【0036】
式(I)において、X及びO-SO-ORは、環Aを構成する任意の結合可能な炭素原子及び/又はヘテロ原子に結合することができる。したがって、置換基X及びO-SO-ORは、ベンゼン環のような芳香族環の他、複素環、ナフタレン等の多環における任意の結合可能な炭素原子及び/又はヘテロ原子にも結合することができる。
【0037】
環Aが芳香族環、脂肪族環、複素環、又は芳香族環、脂肪族環及び複素環から選択される2以上の環の縮合環を表す場合、X及びO-SO-ORは、当該2以上の環の任意の環の炭素原子及び/又はヘテロ原子に結合することができる。したがって、X及びO-SO-ORは、同一の環上に存在していても、別個の環上に存在していてもよい。
【0038】
式(I)において、Xは、ハロゲン原子、置換された若しくは置換されていない直鎖若しくは分枝鎖のアルキル基、置換された若しくは置換されていない直鎖若しくは分枝鎖のアルコキシ基、置換された若しくは置換されていない直鎖若しくは分枝鎖のアルケニル基、置換された若しくは置換されていない直鎖若しくは分枝鎖のアルケニルオキシ基、置換された若しくは置換されていないシクロアルキル基、置換された若しくは置換されていないシクロアルケニル基、アルデヒド基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシ基、及びシアノ基からなる群より選択され、nが2~5の場合、各Xは同一でもあっても異なっていてもよい。なお、環Aは、芳香族環;脂肪族環;複素環;又は、芳香族環、脂肪族環及び複素環から選択される2以上の環の縮合環;を表し、かつnが2~5の場合、2以上のXは、それぞれ同一の環上に存在していても、別個の環上に存在していてもよい。
【0039】
本明細書において、「ハロゲン原子」とは、フルオロ(F)、クロロ(Cl)、ブロモ(Br)又はヨード(I)を意味する。本明細書において、「ハロゲン化」とは、基の1若しくは2以上の炭素原子上の1若しくは2以上の水素原子がハロゲン原子に置き換わった基を意味する。2以上の水素原子がハロゲン原子に置き換わった場合、2以上のハロゲンは同一であっても異なっていてもよい。置換基としてハロゲン原子を有する化合物、あるいはハロゲン原子を含む置換基を有する化合物を「ハロゲン化合物」と称する場合がある。
【0040】
本明細書において、「置換された若しくは置換されていない」の「置換された」とは、1若しくは2以上の置換基を有することを意味し、「置換されていない」とは、置換基を全く有さないことを意味する。
【0041】
本明細書において、「直鎖」とは、水素原子以外の原子が枝分かれせずに直線状に連なっている構造を意味する。
【0042】
本明細書において、「分枝鎖」とは、1若しくは2以上の任意の炭素原子に2以上の別の炭素原子が結合している構造を意味する。
【0043】
本明細書において、「アルキル基」とは、一般式C2n+2(nは正の整数)で表されるアルカン(脂肪族飽和炭化水素)の任意の炭素原子から水素原子1個を除いた残りの炭化水素基を意味する。アルキル基の炭素数は特に限定されない。本発明の一態様において、アルキル基は、炭素数1~20のアルキル基である。本発明の一態様において、アルキル基は、炭素数1~16のアルキル基である。本発明の一態様において、アルキル基は、炭素数1~12のアルキル基である。本発明の一態様において、アルキル基は、炭素数1~10のアルキル基である。本発明の一態様において、アルキル基は、炭素数1~8のアルキル基である。本発明の一態様において、アルキル基は、炭素数1~6のアルキル基である。本発明の一態様において、アルキル基は、炭素数1~4のアルキル基である。
【0044】
「アルキル基」の例として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-エチル-1-メチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-エチル-1-メチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、n-ヘプチル基、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、1-エチルペンチル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、4,4-ジメチルペンチル基、1-プロピルブチル基、n-オクチル基等を挙げることができる。
【0045】
本明細書において、「アルコキシ基」とは、「-O-アルキル基」で表される基を意味する。「アルキル基」は前記で定義したとおりである。本明細書において、「置換された若しくは置換されていない直鎖若しくは分枝鎖のアルコキシ基」とは、「-O-置換された若しくは置換されていない直鎖若しくは分枝鎖のアルキル基」を意味する。「アルコキシ基」におけるアルキル基の炭素数は特に限定されない。本発明の一態様において、アルキル基は、炭素数1~20のアルキル基である。本発明の一態様において、アルキル基は、炭素数1~16のアルキル基である。本発明の一態様において、アルキル基は、炭素数1~12のアルキル基である。本発明の一態様において、アルキル基は、炭素数1~10のアルキル基である。本発明の一態様において、アルキル基は、炭素数1~8のアルキル基である。本発明の一態様において、アルキル基は、炭素数1~6のアルキル基である。本発明の一態様において、アルキル基は、炭素数1~4のアルキル基である。
【0046】
「アルコキシ基」の例として、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペントキシ基、1-メチルブトキシ基、2-メチルブトキシ基、3-メチルブトキシ基、1-エチルプロポキシ基、1,1-ジメチルプロポキシ基、1,2-ジメチルプロポキシ基、2,2-ジメチルプロポキシル基、n-ヘキシルオキシ基、1-メチルペンチルオキシ基、2-メチルペンチルオキシ基、3-メチルペンチルオキシ基、4-メチルペンチルオキシ基、1,1-ジメチルブトキシ基、1,2-ジメチルブトキシ基、1,3-ジメチルブトキシ基、2,2-ジメチルブトキシ基、2,3-ジメチルブトキシ基、3,3-ジメチルブトキシ基、1,1,2-トリメチルプロポキシ基、1-エチルブトキシ基、2-エチルブトキシ基、1-エチル-1-メチルプロポキシ基、1-エチル-2-メチルプロポキシ基、n-ヘプチルオキシ基、1-メチルヘキシルオキシ基、2-メチルヘキシルオキシ基、3-メチルヘキシルオキシ基、4-メチルヘキシルオキシ基、5-メチルヘキシルオキシ基、1-エチルペンチルオキシ基、2-エチルペンチルオキシ基、3-エチルペンチルオキシ基、4,4-ジメルペンチルオキシ基、1-プロピルブトキシ基、n-オクチルオキシ基等を挙げることができる。
【0047】
本明細書において、「アルケニル基」とは、分子内に炭素間二重結合を1つ有し、一般式C2n(nは2若しくは3以上の正の整数)で表されるアルケン(オレフィン系炭化水素)の任意の炭素原子から水素原子1個を除いた残りの炭化水素基を意味する。アルケニル基の炭素数は特に限定されない。本発明の一態様において、アルケニル基は、炭素数2~20のアルケニル基である。本発明の一態様において、アルケニル基は、炭素数2~16のアルケニル基である。本発明の一態様において、アルケニル基は、炭素数2~12のアルケニル基である。本発明の一態様において、アルケニル基は、炭素数2~10のアルケニル基である。本発明の一態様において、アルケニル基は、炭素数2~8のアルケニル基である。本発明の一態様において、アルケニル基は、炭素数2~6のアルケニル基である。本発明の一態様において、アルケニル基は、炭素数2~4のアルケニル基である。
【0048】
「アルケニル基」の例として、エテニル基(ビニル基)、1-プロペニル基、2-プロペニル基(アリル基)、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、イソブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、1-オクテニル基、2-オクテニル基、3-オクテニル基、4-オクテニル基等を挙げることができる。
【0049】
本明細書において、「アルケニルオキシ基」とは、「-O-アルケニル基」で表される基を意味する。「アルケニル基」は前記で定義したとおりである。本明細書において、「置換された若しくは置換されていない直鎖若しくは分枝鎖のアルケニル基」とは、「-O-置換された若しくは置換されていない直鎖若しくは分枝鎖のアルケニル基」を意味する。「アルケニルオキシ基」におけるアルケニル基の炭素数は特に限定されない。本発明の一態様において、アルケニル基は、炭素数2~20のアルケニル基である。本発明の一態様において、アルケニル基は、炭素数2~16のアルケニル基である。本発明の一態様において、アルケニル基は、炭素数1~12のアルケニル基である。本発明の一態様において、アルケニル基は、炭素数2~10のアルケニル基である。本発明の一態様において、アルケニル基は、炭素数2~8のアルケニル基である。本発明の一態様において、アルケニル基は、炭素数2~6のアルケニル基である。本発明の一態様において、アルケニル基は、炭素数2~4のアルケニル基である。
【0050】
「アルケニルオキシ基」の例として、エテニルオキシ基(ビニルオキシ基)、1-プロペニルオキシ基、2-プロペニル基オキシ(アリルオキシ基)、1-ブテニルオキシ基、2-ブテニルオキシ基、3-ブテニルオキシ基、イソブテニルオキシ基、1-ペンテニルオキシ基、2-ペンテニルオキシ基、3-ペンテニルオキシ基、4-ペンテニルオキシ基、1-ヘキセニルオキシ基、2-ヘキセニルオキシ基、3-ヘキセニルオキシ基、1-オクテニルオキシ基、2-オクテニルオキシ基、3-オクテニルオキシ基、4-オクテニルオキシ基等を挙げることができる。
【0051】
本明細書において、「シクロアルキル基」とは、一般式C2n(nは3以上の正の整数)で表されるシクロアルカン(環状飽和炭化水素)の任意の炭素原子から水素原子1個を除いた残りの炭化水素基を意味する。本発明の一態様において、シクロアルキル基は、炭素数3~12のシクロアルキル基である。本発明の一態様において、シクロアルキル基は、炭素数3~10のシクロアルキル基である。本発明の一態様において、シクロアルキル基は、炭素数3~8のシクロアルキル基である。本発明の一態様において、シクロアルキル基は、炭素数3~6のシクロアルキル基である。本発明の一態様において、シクロアルキル基は、炭素数3~4のシクロアルキル基である。
【0052】
「シクロアルキル基」の例として、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等を挙げることができる。
【0053】
本明細書において、「シクロアルケニル基」とは、一般式C2n-2(nは3以上の正の整数)で表されるシクロアルケン(環状アルケン)の任意の炭素原子から水素原子1個を除いた残りの炭化水素基を意味する。本発明の一態様において、シクロアルケニル基は、炭素数3~12のシクロアルケニル基である。本発明の一態様において、シクロアルケニル基は、炭素数3~10のシクロアルケニル基である。本発明の一態様において、シクロアルケニル基は、炭素数3~8のシクロアルケニル基である。本発明の一態様において、シクロアルケニル基は、炭素数3~6のシクロアルケニル基である。本発明の一態様において、シクロアルケニル基は、炭素数3~4のシクロアルケニル基である。
【0054】
「シクロアルケニル基」の例として、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、シクロオクテニル基、シクロノネニル基、シクロデセニル基等を挙げることができる。
【0055】
本発明の一態様において、Xは、例えば、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、アルデヒド基、-CH-COOH、-CH-COONa、-CH-COOK、-CH-CH(NH)-COOH、-CH(NH)-COONa、-CH(NH)-COOK、及び-CH-CONHから選択される。
【0056】
式(I)において、Rは、水素原子、Li、Na、K、Mg、Ca、及び置換された若しくは置換されていない直鎖若しくは分枝鎖のアルキル基からなる群より選択される。なお、RがMg又はCaの場合、これらは2価の陽イオンとなるので、式(I)の化合物は、例えば、RがMgの場合、下記式(I’)の構造となる。
【0057】
【化10】
【0058】
本発明の一態様において、Rは、水素原子、Na、及びKから選択される。
【0059】
式(I)において、nは、0~5の整数を表す。n=0は、環A上にXで表される1価の置換基が存在しないことを意味する。nが2~5の場合、(X)における各Xは同一であっても異なっていてもよい。例えば、n=2の場合、2つのXの組合せとして、例えば、メトキシ基とアルデヒド基との組合せ、メトキシ基と2-カルボキシエチル基との組合せ、メトキシ基と1,2-ジヒドロキシエチル基との組合せ、メトキシ基とカルボキシメチル基との組合せ、ヒドロキシ基とアセチル基との組合せ、ヒドロキシ基と1,2-ジヒドロキシエチル基との組合せ等を挙げることができる。
【0060】
O-SO-RにおけるRは、水素原子、アルカリ金属原子(Li、Na、K、Rb、Cs、Fr)、アルカリ土類金属原子(Ca、Sr、Ba、Ra)、及び置換された若しくは置換されていない直鎖若しくは分枝鎖のアルキル基からなる群より選択される。
【0061】
本発明の一態様において、Rは、例えば、水素原子、Na、及びKから選択される。
【0062】
本発明の化合物の塩としては、生理学的及び/又は薬理学的に許容される塩であればよく、ここで、「生理学的及び/又は薬理学的に許容される塩」とは、妥当な生理学的及び/又は医学的判断の範囲内で、哺乳動物の組織と接触して用いるのに、過度の毒性、刺激性、アレルギー応答、及び/又は他の合併症を伴うことなく、適度な受益性/危険性比率に相応して適しているそれら化合物、物質、組成物、及び/又は、剤形を意味する。
【0063】
式(I)で表される本発明の化合物の塩としては、塩基塩が存在する。かかる塩基塩には、アンモニウム塩;ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;アルミニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;ジシクロヘキシルアミン塩、N-メチル-D-グルカミン等の有機塩基との塩;アルギニン、リシン、オルニチン等のアミノ酸との塩;などが含まれる。
【0064】
式(I)で表される本発明の化合物に関する種々の異性体(例えば、光学異性体、位置異性体、互変異性体等)、光学異性体のラセミ体、水和物等の溶媒和物、結晶多形、及びエステル体(例えば、式(I)で表される本発明の化合物とメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、又はtert-ブタノールとのエステル)等は、いずれも本発明の範囲に包含される。また、式(I)で表される本発明の化合物の薬学的に許容されるエステル、及び該化合物の水和物、並びにこれらの光学異性体も本発明に含まれる。
【0065】
式(I)で表される本発明の化合物としては、具体的に、以下に示す10種類の化合物を挙げることができる。
チロシンサルフェート(チロシン硫酸)(tyrosine sulfate)
2-ナフトールサルフェート(2-naphthol sulfate)
4-メチルウンベリフェリルサルフェート(4-methylumbelliferyl sulfate)
アンドロステロンサルフェート(androsterone sulfate)
ジヒドロフェルリックアシッド4-サルフェート(dihydroferulic acid 4-sulfate)
2(4-ヒドロキフェニル)アセトアミドサルフェート(2-(4-hydroxyphenyl)acetamide sulfate)
シクロヘキサノールサルフェート(cyclohexanol sulfate)
4-エチルフェニルサルフェート(4-ethylphenyl sulfate)
テストステロンサルフェート(testosterone sulfate)
o-メトキシフェニルサルフェート(o-methoxyphenyl sulfate)
なお、本明細書においては、チロシン硫酸という用語も使用されているが、チロシン硫酸は、チロシンサルフェートと同じ構造の化合物を意味する用語である。また、硫酸化チロシンもチロシンサルフェートと同じ構造の化合物を意味する用語である。
【0066】
上記10種類の化合物に包含される具体的な化合物の構造式を、以下の表1に示すが、本発明はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0067】
【表1】
【0068】
表1の構造式において、式(I)のRがいずれもKであるが、Kに代えて、H、Na等であってもよい。また、式(I)のRがメチル基、エチル基のアルキル基であってもよい。
【0069】
式(I)で示される本発明の化合物は、公知の反応を適宜組み合わせることによって合成することができる。原料は市販購入又は市販購入品に一般的な保護基等を付与して合成することが可能である。カルボニル基の還元やアルコール基のハロゲン化については、一般的な有機化学で使用する還元剤やハロゲン化試薬等により合成可能である。またいずれの工程も有機化学で汎用される保護・脱保護による精製等も適応可能である。
【0070】
本件剤の投与形態としては、例えば、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型で投与する経口投与;溶液、乳剤、懸濁液等の剤型を注射、又はスプレー剤の型で鼻孔内投与する非経口投与;などを挙げることができる。
【0071】
本件剤の投与量は、年齢、体重、性別、症状、薬剤への感受性等に応じて適宜決定され、例えば、0.1μg~200mg/kg(体重)/日の投与量の範囲である。
【0072】
本件剤の投与対象は、特に制限されないが、通常、TPL発現生物や、TPL発現生物を保持する哺乳動物である。
【0073】
本明細書において、「哺乳動物」としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類;ウサギ等のウサギ目;ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目;イヌ、ネコ等のネコ目;ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類;などを挙げることができ、ヒトを好適に例示することができる。
【0074】
本件化合物群は、後述する実施例において実証されているとおり、TPLにより生成されるフェノールを効果的に低減することができる。このため、本件化合物群は、TPL発現生物におけるTPLや、TPL発現生物を保持する哺乳動物におけるTPLを阻害するためという用途に用いることができる。
【0075】
本明細書において、「TPL発現生物」とは、チロシンフェノールリアーゼ(TPL)を発現する生物を意味し、ここでTPLは、当該生物に由来するTPL(すなわち、内在性TPL)であっても、当該生物に由来しないTPL(すなわち、外来性のTPL)であってもよい。
【0076】
本明細書において、「TPL」は、チロシンをフェノール、ピルビン酸、及びアンモニアへと加水分解する酵素であり、当該加水分解反応中にカテコールが存在すると、フェノールとカテコールの置換が触媒され、L-DOPAが生成される。
【0077】
TPL発現生物としては、由来や生物種等は特に制限されず、例えば、TPL発現微生物(例えば、細菌[例えば、腸内細菌]、菌類、ウイルス等)、哺乳動物等を挙げることができ、TPL発現細菌、特にTPL発現腸内細菌を好適に例示することができる。かかる細菌としては、クロストリジウム属(Clostridium)細菌(例えば、C. tetanomorphum)、エスケリキア属(Escherichia)細菌(例えば、E. intermedia)、シトロバクター属(Citrobacter)細菌(例えば、C. freundii、C. koseri)、クライベラ属(Kluyvera)細菌(例えば、K. intermedia)、モーガネラ属(Morganella)細菌(例えば、M. morganii)、エルウィニア属(Erwinia)細菌(例えば、E. herbicola)等を例示することができる。
【0078】
本件剤は、必要に応じて、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、等張剤、添加剤、被覆剤、可溶化剤、潤滑剤、滑走剤、溶解補助剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、溶剤、ゲル化剤、栄養剤等の添加剤をさらに含むものであってもよい。かかる添加剤としては、具体的に、水、生理食塩水、動物性脂肪及び油、植物油、乳糖、デンプン、ゼラチン、結晶性セルロース、ガム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリンを例示することができる。
【0079】
本件低減剤としては、本件化合物群以外の、フェノール類の低減作用成分を含むものであってもよいが、本件化合物群単独でも優れた、フェノール類の低減効果を発揮するため、本件化合物群以外の、フェノール類の低減作用成分(例えば、タンパク質、DNA、RNA、植物由来の抽出物、ポリマー)を含まないものが好ましい。また、本件予防/改善剤としては、本件化合物群以外の、フェノール類に起因する症状又は疾患の予防若しくは改善成分を含むものであってもよいが、本件化合物群単独でも優れた、フェノール類に起因する症状又は疾患の予防若しくは改善効果を発揮するため、本件化合物群以外の、フェノール類に起因する症状又は疾患の予防若しくは改善成分(例えば、タンパク質、DNA、RNA、植物由来の抽出物、ポリマー)を含まないものが好ましい。
【0080】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0081】
1.本件化合物群のスクリーニング
TPLを阻害する物質をスクリーニングするために、TPLと、TPLの基質であるS-o-ニトロフェニル-L-システイン(SOPC)とを、被検物質存在下でインキュベートし、SOPC消費量の変化を解析した。具体的には、以下の手順〔1〕~〔4〕の方法に従って行った。なお、比較対照として、TPL阻害効果を有することが知られている2-アザチロシン(非特許文献6参照)を用いた。
【0082】
1-1 方法
〔1〕エルウィニア・ヘルビコラ(Erwinia herbicola)由来のTPLを発現する大腸菌BL21の培養液を回収後、定法に従って硫安沈殿を行い、30~70%の硫安分画を回収した後、疎水性クロマト(Source 15 Phe、GEヘルスケア・ジャパン社製)を用いてTPLを精製し、Amicon Ultra-30K(Merck社製)を用いてTPLの濃縮と、溶液(20mMのリン酸カリウム緩衝液[pH7.0]、200mMのPLP、4mMのME、及び1mMのEDTA)への置換を行い、TPL含有液を得た。
〔2〕0.5mMの16種類の被検物質(GAN1、GAN8、GAN11、GAN14、GAN19、GAN20、GAN21、GAN22、GAN23、GAN24、GAN34、GAN35、GAN37、GAN42、GAN48、及びGAN69)(表2参照)と、0.5mMのSOPCとを含む反応液(100mMのリン酸カリウム緩衝液[pH8.0]、0.1mMのピリドキサールリン酸[PLP]、及び2mMの2-メルカプトエタノール[ME])を、96穴マルチプレートの各ウェルに100μLずつ添加し、37℃で5分間インキュベートした。
〔3〕上記〔1〕の手順で得たTPL含有液を、酵素希釈液(50mMのリン酸カリウム緩衝液[pH8.0]、50mMのPLP、及び1mMのME)で2000倍希釈した後、各ウェルに添加した。
〔4〕37℃で10時間静置培養する間、20分毎に、反応液の一部を回収し、SOPCを測定するために、分光光度計(SpectraMax 190 マイクロプレートリーダー、モレキュラーデバイス社製)を用いて、370nmの波長の吸光度(SOPC量に相当)の経時変化を測定し、SOPC量変化を示すグラフの傾きからSOPC量の減少レベルを算出した(表3参照)。
【0083】
1-2 結果
TPL反応を、上記16種類の被検物質や2-アザチロシン存在下で行うと、SOPC量は減少傾向にあった。また、上記16種類の被検物質を用いた場合のSOPC量の減少レベルと、2-アザチロシンを用いた場合のSOPC量の減少レベルとを比較した結果、10種類の被検物質(GAN19、GAN20、GAN23、GAN24、GAN34、GAN35、GAN37、GAN42、GAN48、及びGAN69)を用いた場合、2-アザチロシンを用い場合よりも、SOPC量の減少レベルが抑制されることが示された(表3参照)。この結果は、上記10種類の被検物質(すなわち、本件化合物)は、2-アザチロシンよりも効果的にTPLを阻害することを示している。
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
表中の「SOPC量の減少レベル」は、TPL反応を2-アザチロシン存在下で行ったときのSOPC量の減少レベル(すなわち、SOPC量変化を示すグラフの傾き)を100としたときの相対値として示す(n=3)。表中の「*」及び「**」は、それぞれ、2-アザチロシンの結果に対して、Student's testにより統計学的に有意差(p<0.05及びp<0.01)があることを示す。
【実施例2】
【0086】
2.本件化合物のフェノール低減効果の確認
TPL発現細菌をチロシン存在下で培養すると、チロシンは当該細菌のTPLにより加水分解され、フェノールが生成される。このため、実施例1において、2-アザチロシンよりも効果的にTPLを阻害することが示唆された10種類の本件化合物のうち、特にその効果が高いGAN69(チロシン硫酸のカリウム塩)について、TPLによるフェノール生成の低減効果を解析した。具体的には、以下の手順〔1〕~〔5〕の方法に従って行った。なお、比較対照として、2-アザチロシンを用いた。
【0087】
2-1 方法
〔1〕白金耳に付着した4種類のTPL発現細菌(Kluyvera intermedia、Citrobacter freundii、Citrobacter koseri、及びMorganella morganii subsp. Morganii)、すべてJCMより入手)を、0.2%のチロシンを含む変法GAM培養液(日水製薬社製)5mL中に添加し、37℃で16時間静置培養した。
〔2〕培養液を500μLずつ分注した後、遠心処理(15000×g、5分間、4℃)により集菌した。
〔3〕0.85%の塩化ナトリウム溶液500μLを用いてTPL発現細菌を洗浄した後、200μMのGAN69(チロシン硫酸のカリウム塩)と、500μMのチロシンとを含む反応液(100mMのリン酸カリウム緩衝液[pH8.0]、400μMのPLP、及び2mMのME)250μL中に再懸濁した。
〔4〕37℃で3時間静置培養した後、反応停止液(40%のアセトニトリル及び4%のトリフルオロ酢酸[TFA]を含む液)250μLを添加した。
〔5〕遠心処理(15000×g、10分間、4℃)後の上清50μLを、HPLC内に添加し、以下の表4に示すHPLC分析条件でフェノールを分離した後、紫外検出器(SPD-M2OA、島津製作所社製)を用いてフェノール濃度を測定した。
【0088】
【表4】
【0089】
2-2 結果
その結果、いずれのTPL発現細菌を用いた場合においても、GAN69存在下で培養した方が、2-アザチロシン存在下で培養した場合と比べ、フェノール量が低下することが示された(図1参照)。この結果は、本件化合物群は、フェノール低減効果を有することを示している。このため、本件化合物群を、哺乳動物の生体内(例えば、血液中、腸内)にTPL発現細菌(例えば、上記4種類のTPL発現細菌)を保持する対象者へ投与すると、かかる対象者の生体中において、TPLにより生成されるフェノール量や、当該フェノールが上記対象者の生体中で代謝されることにより得られる物質(フェノール代謝物)量を減少することが十分期待できる。このことから、本件化合物群は、フェノール又はその代謝物に起因する症状又は疾患の予防若しくは改善に有用である。
【実施例3】
【0090】
3.硫酸フェニル(phenyl sulfate)を投与した糖尿病モデルにおける腎組織の解析
腎組織の糸球体足細胞(ポドサイト)が傷害を受けると、蛋白尿が生じ、その結果、糖尿病性腎症、ネフローゼ症候群、慢性腎炎症候群等が発症することが知られている(文献「Brinkkoetter PT, Ising C, Benzing T. Nature reviews Nephrology 9: 328-336, 2013」、文献「日本内科学会雑誌第101巻第4 号・平成24年4 月10日」参照)。そこで、フェノール代謝物である硫酸フェニルが、ポドサイトに与える影響を調べた。具体的には、以下の方法(1)及び方法(2)に従って解析を行った。
【0091】
3-1 方法(1)
〔1〕普通飼料で飼育した11週齢の糖尿病モデルマウス(db/dbマウス;日本CLEA株式会社から購入)を、蒸留水を摂取させる通常飼育群(n=5)と、50(mg/kg体重)の硫酸フェニル(Sundia MediTech社製)を含む蒸留水を1日1回経口投与する硫酸フェニル群(n=6)とに分けた。
〔2〕6週間飼育した後、上記2種類の群(通常飼育群及び硫酸フェニル群)からそれぞれ血液検体を採取し、定法にしたがって血漿を調製し、LC-MS/MS(島津製作所社製)を用いた質量分析法により、血液中の硫酸フェニルの濃度を測定した(図2A参照)。また、腎組織を採取し、10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィン包埋を行った。パラフィン包埋した腎組織をスライスして腎組織切片を作製し、文献「Matsuhashi, T., et al: EBioMedicine 20: 27-38, 2017」に記載の方法に従って、電子顕微鏡を用いた解析と、過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色法を用いた解析とを行った(図2B参照)。
【0092】
3-2 方法(2)
〔1〕HFDで飼育した6週齢の糖尿病モデルマウス(KKAYマウス;日本CLEA株式会社から購入)を、蒸留水を摂取させる通常飼育群(n=3)と、50(mg/kg体重)の硫酸フェニル(Sundia MediTech社製)を含む蒸留水を1日1回経口投与する硫酸フェニル群(n=4)とに分けた。
〔2〕6週間飼育した後、上記2種類の群(通常飼育群及び硫酸フェニル群)からそれぞれ血液検体を採取し、定法にしたがって血漿を調製し、LC-MS/MS(島津製作所社製)を用いた質量分析法により、血液中の硫酸フェニルの濃度を測定した。また、腎組織を採取し、10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィン包埋を行った。パラフィン包埋した腎組織をスライスして腎組織切片を作製し、文献「Matsuhashi, T., et al: EBioMedicine 20: 27-38, 2017」に記載の方法に従って、電子顕微鏡を用いた解析と、エラスチカ・マッソン(Elastica Masson)染色法を用いた解析と、抗F4/80抗体を用いたDAB染色法による解析とを行った。
【0093】
3-3 結果
2種類の糖尿病モデルマウス(db/dbマウス及びHFD-KKAYマウス)の硫酸フェニル群における血中硫酸フェニル濃度は、それぞれ27.3±9.17μM及び6.09±3.18μMであり、通常飼育群における血中硫酸フェニル濃度(それぞれ3.06±2.63μM及び1.48±0.85μM)と比べ、有意に増加することが確認された(図2A及び2C参照)。また、db/dbマウスの硫酸フェニル群における糸球体のメサンギウム領域は拡大し、さらに、糸球体足細胞(ポドサイト)の足突起の消失が増加し(図2Bの矢印参照)、糸球体基底膜(GBM)が肥厚した(図2Bの矢頭参照)。また、HFD-KKAYマウスについても同様に、硫酸フェニル群におけるポドサイトの足突起の消失が増加し(図2Dの電子顕微鏡画像における矢印参照)、GBMが肥厚した(図2Dの電子顕微鏡画像における矢頭参照)。さらに、HFD-KKAYマウス硫酸フェニル群におけるポドサイトには、血管周囲線維化領域が認められた(図2DのElastica Masson画像及びF4/80画像における矢頭参照)。
【0094】
これらの結果は、糖尿病モデルマウスにおいて、硫酸フェニルが糸球体を構成するポドサイトに障害を与えることを示している。一方、前述のとおり、ポドサイトが傷害を受けると糖尿病性腎症、ネフローゼ症候群、慢性腎炎症候群等が発症することを考慮すると、糖尿病患者の血液中の硫酸フェニル濃度が上昇すると、糖尿病性腎症、ネフローゼ症候群、慢性腎炎症候群等が発症するリスクが高まることを示している。そして、実施例1及び2の内容も考慮すると、本件化合物群は、哺乳動物の生体内にTPL発現細菌を保持する対象者において、TPLにより生成されたフェノールの代謝産物(すなわち、硫酸フェニル)量を減少させ、糖尿病性腎症、ネフローゼ症候群、慢性腎炎症候群等のフェノール類に起因する症状又は疾患の予防若しくは改善に有効であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、哺乳動物の生体内(例えば、血液中、腸内)におけるフェノール類の蓄積(増加)に起因する症状又は疾患の予防若しくは改善(治療)に資するものである。
図1
図2