(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】上着用型紙パターンの学習システム
(51)【国際特許分類】
A41H 3/00 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
A41H3/00 D
(21)【出願番号】P 2023086781
(22)【出願日】2023-05-26
【審査請求日】2023-05-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514125422
【氏名又は名称】株式会社イプシロン・ジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100209129
【氏名又は名称】山城 正機
(72)【発明者】
【氏名】船橋 幸彦
【審査官】西尾 元宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/021349(WO,A1)
【文献】特許第7130295(JP,B1)
【文献】特許第7220324(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0166068(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41H 3/00- 3/08
G06F 30/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃部と後身頃部との境界となる肩前基点を頂点として、頸回りの前側ラインである前頚線、身体の中心側端縁を画定する前中心線、胸囲を画定するバストライン、アームホールの前側縁を画定するアーム前縁線及び前肩稜線によって画定される上部前身頃部と、前身頃部と後身頃部との境界となる肩後基点を頂点として、頸回りの後側ラインである後頚線、身体の背側端縁を画定する背中心線、胸囲を画定するバストライン、アームホールの後側縁を画定するアーム後縁線及び後肩稜線によって画定される上部後身頃部とを有する上着用型紙パターンであって、前記上部前身頃部は前記肩前基点から鉛直下方に垂下される肩前垂線を境に前中心部と前脇部とに区画されるとともに、前記上部後身頃部は前記肩後基点から鉛直下方に垂下される肩後垂線を境に背中心部と背脇部とに区画される上着用型紙パターンの学習システムにおいて、
個々の体型に応じた型紙パターンを作成する際の基準となる基準型紙データを記憶するマスタデータ記憶手段と、
上着用型紙パターンを作成する対象者の身体データを取得する対象者身体データ取得手段と、
前記基準型紙データ及び前記対象者身体データに基づいて、基本型紙データを生成する基本型紙データ生成手段と、
前記基本型紙データを対象者の体型にフィットするよう修正した修正型紙データを記憶する修正型紙データ記憶手段と、
前記対象者身体データに関する情報、前記基本型紙データに関する情報、及び、前記修正型紙データに関する情報に基づいて機械学習に必要な学習用データを生成する機械学習用データ生成手段と、
前記機械学習用データ生成手段によって生成された学習用データを用いて機械学習モデルの学習を行う機械学習手段と、
前記機械学習手段によって学習された機械学習済みモデルを用いて、前記機械学習モデルによる処理を実行する機械学習済みモデル実行手段とを備え、
前記基本型紙データ生成手段は前記機械学習済みモデル実行手段と協働して、前記基本型紙データに対し機械学習モデルを反映させた機械学習結果反映済みの基本型紙データを取得する
ものであり、
前記基準型紙データ、前記基本型紙データ及び前記修正型紙データについて共通するモデルに基づいて生成するモデリング手段をさらに備え、
前記モデリング手段は、前記対象者身体データ取得手段で取得された前記対象者身体データに基づいて、身体の前額面と頸回りのラインとが交差する点から下方に延伸した線を境界として、バストライン上方の胸部を胸部中心部と胸部側方部とに分けたときの当該胸部中心部と当該胸部側方部の面積比率を算出する面積比率算出手段、及び、
前記面積比率に基づいて、前記前中心部と前記前脇部の面積比率である前側面積比率、及び、前記背中心部と前記背脇部の面積比率である後側面積比率を調整する面積比率調整手段、を備える、
上着用型紙パターンの学習システム。
【請求項2】
前記前側面積比率が、前記胸部中心部と前記胸部側方部の面積比率と略等しくなるように、前記前中心部と前記前脇部との面積の調整を行う、
請求項
1に記載の上着用型紙パターンの学習システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背広やコートなど上着用型紙パターンの学習システムに関するものであり、特に、人工知能による機械学習を通じて着用者の個々の体型にあった型紙を自動的に作成するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、着用者の体型に応じた型紙パターンを作成するにあたっては、着用者がメーカーの店舗に出向き、テクニシャンによる採寸を経たうえで、型紙パターンが作成される。すなわち、それぞれのメーカーや店舗においては、それぞれ特有の型紙原型があり、型紙原型を着用者の体の大きさに合わせてグレーディング、つまり拡大縮小をすることで、大まかな大きさの適合を行う。
【0003】
ところで、人体の胴部の形状は人によって様々である。例えば胸部が発達して厚みがある人、猫背の人、人それぞれ異なる体型を有する。そのような個々の体型に適合したパターンを作るためには、テクニシャンがメジャーを用いて着用者の身体の細部寸法を計測し、計測された寸法値を元に、メーカーや店舗が有する型紙原型を補正することで、着用者の体型に応じた型紙パターンを作成している。
【0004】
このような型紙パターンの作成手順においては、着用者が店舗に出向くこととテクニシャンが店舗に在籍していことが必要である。しかしながら、ネットワーク技術が発達した現代において、二者が同時に同じ場所にいることを必要とする方法は非効率的であり、より使い勝手の良いサービスが望まれる。
【0005】
また、型紙原型に基づく体型に応じた型紙パターンへの補正は、職人の勘と経験に依存する部分が多く、特定の理論や方法論に基づく方法があるとは言えなかった。さらに、型紙原型をグレーディングしたものを仮縫いをしたのちに、職人による補正を経て本縫いをするため、かかる手間も大きなものになる。
【0006】
そこで、人工知能による機械学習を用いて衣服の型をモデリングし、着用者の身体にフィットする衣服を自動的に作成するものとして、特許文献1に記載されるような技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された技術によると、着用者の実際の身体の特定部位の寸法に基づき学習モデルを生成することで、ある程度、着用者の身体の特徴に類似する型紙パターンを生成することができる。
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、着用者の個々の身体的特徴にのみ基づいて学習を行うものであり、一人ひとり特徴が異なる着用者の身体に吸い付くようにフィットするようなバランスの取れたパターンを自動的に形成するには、膨大な量のデータが必要となる。そのため、ある程度フィットするような型紙を学習モデルを用いて自動的に作成して仮縫いを行ったのち、職人が最終的に補正を施して本縫いを行う必要があり、かかる手間が従来のものと変わらないと同時に、職人の勘と経験に依存することになり、好ましくない。
【0010】
特に、背広、ジャケットやコート、ワイシャツ等の上着は前身頃部や後身頃部などそれぞれの部位が独立して存在するものではなく、それぞれの部位がつながって一つの上着として成立している。そのため、特定の部位の寸法を身体の形状に合わせて補正したとしても、実際に着用した際には生地のバランスが確保されないことが多く、身体に吸い付くようにフィットさせることは難しい。
【0011】
本発明は、これらの課題に鑑み、膨大な量のデータの収集を必要とせず、また、職人の手を借りることなく、着用者の体型にあった型紙パターンを自動的に作成することが可能な上着用型紙パターンの学習システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意研究の結果、生地の各パーツの面積とその重量が比例関係にあることに着目し、特定のポイントを基点とする生地の面積のバランスを考慮することによって、生地の重量配分を最適なものとすることができ、着用者の体型にフィットするパターンを作成できることを見出し、生地の各パーツの重量配分に基づいて上着用型紙パターンを補正する理論に基づく機械学習を行った。
【0013】
本発明では、以下のような解決手段を提供する。
【0014】
第1の特徴に係る上着用型紙パターンの学習システムは、前身頃部と後身頃部との境界となる肩前基点を頂点として、頸回りの前側ラインである前頚線、身体の中心側端縁を画定する前中心線、胸囲を画定するバストライン、アームホールの前側縁を画定するアーム前縁線及び前肩稜線によって画定される上部前身頃部と、前身頃部と後身頃部との境界となる肩後基点を頂点として、頸回りの後側ラインである後頚線、身体の背側端縁を画定する背中心線、胸囲を画定するバストライン、アームホールの後側縁を画定するアーム後縁線及び後肩稜線によって画定される上部後身頃部とを有する上着用型紙パターンであって、上部前身頃部は肩前基点から鉛直下方に垂下される肩前垂線を境に前中心部と前脇部とに区画されるとともに、上部後身頃部は前記肩後基点から鉛直下方に垂下される肩後垂線を境に背中心部と背脇部とに区画される上着用型紙パターンの学習システムである。
【0015】
第1の特徴に係る上着用型紙パターンの学習システムは、個々の体型に応じた型紙パターンを作成する際の基準となる基準型紙データを記憶するマスタデータ記憶手段と、上着用型紙パターンを作成する対象者の身体データを取得する対象者身体データ取得手段と、基準型紙データ及び対象者身体データに基づいて、基本型紙データを生成する基本型紙データ生成手段と、基本型紙データを対象者の体型にフィットするよう修正した修正型紙データを記憶する修正型紙データ記憶手段と、対象者身体データに関する情報、基本型紙データに関する情報、及び、修正型紙データに関する情報に基づいて機械学習に必要な学習用データを生成する機械学習用データ生成手段と、機械学習用データ生成手段によって生成された学習用データを用いて機械学習モデルの学習を行う機械学習手段と、機械学習手段によって学習された機械学習済みモデルを用いて、機械学習モデルによる処理を実行する機械学習済みモデル実行手段とを備え、基本型紙データ生成手段は機械学習済みモデル実行手段と協働して、基本型紙データに対し機械学習モデルを反映させた機械学習結果反映済みの基本型紙データを取得する。
【0016】
第1の特徴に係る発明によれば、上着用型紙パターンを、前中心部と前脇部、及び、背中心部と背脇部に分け、対象者の体型にフィットするよう修正した修正型紙データを用いて機械学習させ、機械学習の結果を基本型紙データに反映させることで、生地のバランスが難しい上着用型紙であっても、少ないデータで機械学習させることができる。
【0017】
第2の特徴に係る上着用型紙パターンの学習システムは、第1の特徴に係る上着用型紙パターンの学習システムであって、基準型紙データ、基本型紙データ及び修正型紙データについて共通するモデルに基づいて生成するモデリング手段をさらに備える。
【0018】
第2の特徴に係る発明によれば、学習用データの生成の元となる基本型紙データ及び修正型紙データについて、共通するモデルに基づいて生成されるので、大枠の部分について少ないデータでも速く学習できる。
【0019】
第3の特徴に係る上着用型紙パターンの学習システムは、第2の特徴に係る上着用型紙パターンの学習システムであって、モデリング手段は、対象者身体データ取得手段で取得された対象者身体データに基づいて、身体の前額面と頸回りのラインとが交差する点から下方に延伸した線を境界として、バストライン上方の胸部を胸部中心部と胸部側方部とに分けたときの当該胸部中心部と当該胸部側方部の面積比率を算出する面積比率算出手段、及び、面積比率に基づいて、前中心部と前脇部の面積比率である前側面積比率、及び、背中心部と背脇部の面積比率である後側面積比率を調整する面積比率調整手段、を備える。
【0020】
第3の特徴に係る発明によれば、着用者の胸部中心部と胸部側方部の面積比率に基づいて、型紙原型の前側面積比率及び後側面積比率を調整するため、肩前基点及び肩後基点を中心とした生地の回転運動を着用者の体型にフィットするよう適正に引き起こすことができる。そのため、着用者の身体寸法を得るだけで、着用者の身体に吸い付くようにフィットすることが可能な型紙パターンの補正を、学習に組み込むことができる。
【0021】
第4の特徴に係る上着用型紙パターンの学習システムは、第3の特徴に係る上着用型紙パターンの学習システムであって、前側面積比率が、胸部中心部と胸部側方部の面積比率と略等しくなるように、前中心部と前脇部との面積の調整を行う。
【0022】
第4の特徴に係る発明によれば、前側面積比率が胸部中心部と胸部側方部の面積比率と略等しくなるように前中心部と前脇部の面積の調整を行うため、着用者の体型バランスを完全に考慮した補正を、学習に組み込むことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、膨大な量のデータの収集を必要とせず、また、職人の手を借りることなく、着用者の体型にあった型紙パターンを自動的に作成することが可能な上着用型紙パターンの学習システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本実施形態を適用するための型紙原型の左半身パーツを示す展開図である。
【
図2】
図2は、スキャンデータに基づき作成された着用者の左上半身の形状を表す模式図である。
【
図3】
図3は、共通モデルにおける上着用型紙パターン補正方法の面積調整ステップを反身体型に適用した場合を示す模式図である。
【
図4】
図4は、共通モデルにおける上着用型紙パターン補正方法を反身体型に適用した場合の重量配分変化を示す模式図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る上着用型紙パターンの学習システムにおけるハードウェア構成とソフトウェア機能を説明するためのブロック図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る上着用型紙パターンの学習システムを用いた型紙の学習方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、本実施形態に係る上着用型紙パターンの学習システムを用いた型紙の作成方法を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、本実施形態に係る上着用型紙パターンの学習システムに用いられるマスタデータの模式図である。
【
図9】
図9は、本実施形態に係る上着用型紙パターンの学習システムに用いられる対象者身体データの模式図である。(a)は点群データを示し、(b)はメッシュデータを示す。
【
図10】
図10は、本実施形態に係る上着用型紙パターンの学習システムを用いた立体基本型紙データの模式図である。
【
図11】
図11は、本実施形態に係る上着用型紙パターンの学習システムを用いた平面基本型紙データ(機械学習結果反映前)の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。なお、これはあくまでも一例であって、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。
【0026】
なお、本発明において中心側とは身体を正面又は背面から見たときに身体の正中線側のことを指し、脇側とは身体の体側部側のことを指す。また、本発明において上着とは、男性用女性用問わず、スーツやジャケット、コートやワイシャツなどを含む上半身に着用する衣類全体を指すものとする。
【0027】
[共通モデル]
本発明における共通モデルは、本発明における後述するマスタデータ、基本型紙データ及び修正型紙データを形成する際の共通のモデルであり、バランス理論に基づいて作成される。
【0028】
本発明におけるバランス理論とは、上着用型紙パターンを作成するにあたり、生地の各パーツの面積とその重量が比例関係にあることに着目し、特定のポイントを基点とする生地の面積のバランスを考慮することによって、生地の重量配分を最適なものとすることができ、着用者の体型にフィットするパターンを作成できるという理論である。バランス理論においては、衣服が胴部に吸い付くようにフィットするためには、衣服を構成する各パーツにおける重量の配分が重要であるとの考えに基づき、衣服全体の重量を支える点となる肩前基点及び肩後基点を中心とした生地の回転運動と、回転運動によって適切なフィットが発生することに着目する。
【0029】
本発明におけるバランス理論に基づいて作成された共通モデルは、身体の前額面と頸回りのラインとが交差する点から下方に延伸した線を境界として、バストライン上方の胸部を胸部中心部と胸部側方部とに分けたときの当該胸部中心部と当該胸部側方部の面積比率を算出し、算出された面積比率に基づいて、前記前中心部と前記前脇部の面積比率である前側面積比率、及び、前記背中心部と前記背脇部の面積比率である後側面積比率を調整することで作成される。
【0030】
[型紙原型]
図1を用いて、共通モデルの型紙原型について説明する。
図1は、左半身における型紙原型の模式図を示す。右半身の型紙原型については左右を反転させた構成であるため説明を省略する。なお、型紙原型とは、スーツやジャケット、コートなどについて、それぞれのブランドやメーカが固有に保有するパターンの大元となるものであり、型紙原型に基づいて、後述する着用者の体型に応じた補正が行われる。
【0031】
共通モデルにおける型紙原型Xは、上部前身頃部FBと上部後身頃部BBとを有する。
【0032】
<上部前身頃部>
上部前身頃部FBにおいては、頸回りの前側ラインである前頚線NL1と前肩稜線HL1とが交差する位置に肩前基点Nが形成されている。肩前基点Nは上着を着用した際に上着全体の重量のバランスを取るための基点となる点であり、前身頃部と後身頃部との境界となる点である。また、肩前基点Nは人体の胸鎖乳突筋のくぼみ付近に位置する。
【0033】
上部前身頃部FB及び上部後身頃部BBにおいて脇側の上部にアームホールAHが形成されている。アームホールAHは上部前身頃部FBにおけるアーム前縁線AL1によって、また、上部後身頃部BBにおけるアーム後縁線AL2によって画定される。
【0034】
バストラインBLは、胸囲CCを画定するラインであり、上部前身頃部FBと上部後身頃部BBを通して水平に形成される。上部前身頃部FBにおけるバストラインBLの前側中心端部を点F、側方端部を点Gとする。
【0035】
バストラインBL上における点Hは、バストラインBLの前端点である点Fから所定の距離隔てた点であり、
図1に示す共通モデルにおいては胸囲CCに6cmを足した寸法に0.37をかけた距離(つまり(CC+6cm)×0.37)だけ脇側に距離を隔てた点である。バストラインBLの前端点である点Fから鉛直上方に伸長する前中心線CLと前頚線NL1とが交差する点が点Eである。
【0036】
また、バストラインBL上における点Pは、上部前身頃部FBにおいて肩前基点Nから鉛直下方に垂下させた肩前垂線PLとバストラインBLとが交差する点である。
【0037】
点Iは前肩稜線HL1の後端の点であり、前肩稜線HL1とアームホールAHを画定するアーム前縁線AL1が交差する点である。
【0038】
このように、上部前身頃部FBにおけるバストラインBL上方の生地が、肩前基点Nを頂点として、頸回りの前側ラインである前頚線N1、身体の中心側端縁を画定する前中心線CL、胸囲を画定するバストラインBL、アームホールの前側縁を画定するアーム前縁線AL1及び前肩稜線HL1によって、つまり、点E-線CL-点F-点P-点H-点G-線AL1-点I-線HL1-点N-線NL1-点Eによって画定される。
【0039】
このとき、上部前身頃部FBにおける前中心部FB1が点N-線NL1-点E-線CL-点F-点P-線PL-点Nによって画定され、前脇部FB2が点N-線PL-点P-点H-点G-線AL1-点I-線HL1-点Nによって画定される。
【0040】
<上部後身頃部>
上部後身頃部BBにおいては、頸回りの後側ラインである後頚腺NL2と後肩稜線HL2とが交差する位置に肩後基点Mが形成されている。肩後基点Mは衣服を着用した際に衣服全体の重量のバランスを取るための基点となる点であり、前身頃部と後身頃部との境界となる点である。
【0041】
上部後身頃部BBにおいては、前身頃部FBのバストラインBLの延長線上にバストラインBLが形成され、バストラインBLの脇側端部にあたる点を点Kとしている。
【0042】
また、バストラインBL上における点Qは、上部後身頃部BBにおいて肩後基点Mから鉛直下方に垂下させた肩後垂線QLとバストラインBLとが交差する点である。
【0043】
また、ウエストラインWLは、腹囲WCを画定するラインであり、上部後身頃部BBにおけるウエストラインWLの背側中心端部の点、つまり左右の境目となる点を点Sとする。
【0044】
そして、点Sから鉛直上方に延びる線を仮背中心線SL1とし、仮背中心線SL1と後頚線NL2とが交差する点を仮背基点O1とする。
【0045】
ここで、人体の実際の背部は直線状ではなく湾曲した形状を有するため、そのためのゆとり部分を考慮して定めた本来の背基点を本背基点O2とする。本来の本背基点O2は、仮背基点O1から所定の距離だけ後頚腺NL2をさらに延伸させた位置に形成されるが、その距離は、仮背基点O1から肩後垂線QLまで引いた垂線の長さをL1とすると、L1×0.1と定義される。また、本来の本背基点O2とウエストラインWLの背側中心端部である点Sとを緩やかにカーブを描くように接続する線を、本来の本背中心線SL2とする。
【0046】
また、本来の本背中心線SL2とバストラインBLとが交差する点を点Lとする。点LはバストラインBLの背側中心部にあたる点である。
【0047】
このように、上部後身頃部BBにおけるバストラインBL上方の生地が、前身頃部FBと後身頃部BBとの境界となる肩後基点Mを頂点として、頸回りの後側ラインである後頚線NL2、身体の背側端縁を画定する本背中心線SL2、胸囲を画定するバストラインBL、アームホールの後側縁を画定するアーム後縁線AL2及び後肩稜線HL2によって、つまり、点O2-線SL2-点L-点Q-点K-線AL2-点J-線HL2-点M-線NL2-点O1-点O2によって画定される。
【0048】
このとき、上部後身頃部BBにおける背中心部BB1が点M-線NL2-点O1-点O2-線SL2-点L-点Q-線QL-点Mによって画定され、背脇部BB2が点M-線QL-点Q-点K-線AL2-点J-線HL2-点Mによって画定される。
【0049】
以上のようにして、共通モデルの型紙原型が形成される。
【0050】
型紙原型における各パーツの面積は、予め定められており、例えば本実施形態においては、前中心部FB1の前中心部面積Aは21224.5mm2、前脇部FB2の前脇部面積Bは22869.0mm2、背中心部BB1の背中心部面積Cは23457.0mm2、背脇部BB2の背脇部面積Dは33781.9mm2である。
【0051】
[共通モデルにおける型紙補正方法]
次に、
図1~4を使用して、本実施形態に係る共通モデルにおける上着用型紙パターンの補正方法について説明する。
【0052】
図2はスキャンデータに基づき作成された着用者の左上半身の形状を表す模式図、
図3は共通モデルにおける上着用型紙パターン補正方法の面積調整ステップを反身体型に適用した場合を示す模式図、
図4は共通モデルにおける上着用型紙パターン補正方法を反身体型に適用した場合の重量配分変化を示す模式図である。
【0053】
<ステップS110:型紙原型の準備>
まず、上記で作成した
図1に示すような型紙原型を用意する(ステップS110)。
【0054】
ステップS110で用意する型紙原型は、前身頃部と後身頃部との境界となる肩前基点Nを頂点として、頸回りの前側ラインである前頚線NL1、身体の中心側端縁を画定する前中心線CL、胸囲を画定するバストラインBL、アームホールの前側縁を画定するアーム前縁線AL1及び前肩稜線HL1によって画定される上部前身頃部FBと、前身頃部と後身頃部との境界となる肩後基点Mを頂点として、頸回りの後側ラインである後頚線NL1、身体の背側端縁を画定する本背中心線SL2、胸囲を画定するバストラインBL、アームホールの後側縁を画定するアーム後縁線AL2及び後肩稜線HL2によって画定される上部後身頃部BBとによって構成され、上部前身頃部FBは前記肩前基点Nから鉛直下方に垂下される肩前垂線PLを境に前中心部FB1と前脇部FB2とに区画されるとともに、前記上部後身頃部BBは前記肩後基点Mから鉛直下方に垂下される肩後垂線QLを境に背中心部BB1と背脇部BB2とに区画される。
【0055】
なお、型紙原型は、あらかじめ定められた寸法に形成されたものに限ったものではなく、後述するステップS120において計測された着用者の身体の各部位の寸法に応じて調整済みのものを使用しても構わない(その場合、ステップS110とステップS120の順序は入れ替えられる)。
【0056】
<ステップS120:身体各部寸法の計測>
次に、着用者の身体の各部寸法を計測する(ステップS120)。
【0057】
ステップS120においては、人体を三次元で計測することができる3Dボディスキャナを用いて、身長、バスト高、ウエスト高、股突高、股下高、頚囲、胸囲、アンダーバスト囲、ウエスト囲を取得する。また、取得した各データに基づき、水平方向に頚囲、胸囲、アンダーバスト囲、ウエスト囲を分割、垂直方向に臍を通る身体の中心線、及び、肩線によって合計12パーツに分割する。このようにして得られた身体の左上半身の形状を表す模式図を
図2に示す。
【0058】
ここで、身体を前後に分ける前額面と、身体の頸回りのラインとが交差する点Yを画定する。この点Yは、胸鎖乳突筋のわきにあるくぼみの位置に該当する点であり、前述の型紙原型における肩前基点N及び肩後基点Mに相当する点である。そして、点Yから下方に延伸した線XLを境界として、バストライン上方の胸部を胸部中心部CH1と胸部側方部CH2とに分ける。
【0059】
<ステップS130:面積の算出>
ステップS120で計測された各部寸法に基づき、型紙の各パーツに対応する着用者の身体の面積を算出する(ステップS130)。特に、上述した胸部中心部CH1の面積と、胸部側方部CH2の面積とを算出する。それにより、着用者の胸部中心部面積と胸部側方部面積の面積比率が算出される。面積比率の算出は、左右別々に算出されるようにして構わない。人間の体は必ずしも左右対称に出来ているわけではないため、右側パーツと左側パーツとで異なる補正をすることもあるからである。
【0060】
<ステップS140:型紙原型の面積の調整>
ステップS130で算出された着用者の胸部中心部面積と胸部側方部面積の面積比率に基づいて、型紙原型Xにおける前中心部FB1と前脇部FB2の面積比率である前側面積比率、及び、背中心部BB1と背脇部BB2の面積比率である後側面積比率を調整する(ステップS140)。
【0061】
ステップS140における面積比率の調整の仕方について、
図3を用いて詳細に説明する。
【0062】
図3は、共通モデルにおける上着用型紙パターン補正方法の面積調整ステップを反身体型に適用した場合の上部前身頃部FB及び上部後身頃部BBの模式図である。反身体型とは、上体が後方にのけ反ったような体型である。
【0063】
図3に示すように、上部前身頃部FBの下端を画定するバストラインBLの前側中心端部にあたる点FからバストラインBLに沿って点Hまで切り込みを入れ、点Hを支点として上部前身頃部FBを回転させることにより、上部前身頃部FBにおける胸部の寸法を変化させることができる。また、上部後身頃部BBにおけるバストラインBLの背側中心端部にあたる点LからバストラインBLに沿って脇側端部にあたる点Kまで切り込みを入れ、点Kを支点として上部後身頃部BBを回転させることにより、上部後身頃部BBにおける背部の寸法を変化させることができる。なお、
図3においては、補正前の元の形状を破線で示し、補正した後の状態である回転後の形状を実線で示す。
【0064】
例えば、
図3に示す反身体型のように、後方にのけ反ったような体型の場合、型紙原型通りの拡大縮小によって生地を形成すると、胸部の生地が足りなくなり胸部が突っ張るような着こなしになってしまう。そこで、
図3に示すように、点Hを中心としてバストラインBLを上方に開くように上部前身頃部FBを回転させる。また、上部後身頃部BBにおいては逆に点Kを中心としてバストラインを下方に閉じるように上部後身頃部BBを回転させる。
【0065】
<上部前身頃部FBの面積比率の変化>
点Hを中心とした回転に伴い、肩前基点Nは肩前基点N’に、点Iは点I’に移動する。また、バストラインBL自体は不変であり、肩前垂線は肩前基点N’から鉛直下方に延伸する垂線であるので、肩前垂線PLは肩前垂線PL’に移動する。さらに、点Pは肩前垂線PL’とバストラインBLとが交差する点P’に移動する。
【0066】
さらに、上部前身頃部FBの前端縁を画定する垂線である前中心線CLは不変であるので、型紙の回転に伴い点Fは点F’に、点Eは前中心線CLの延長線上の点E’に、それぞれ鉛直上方に移動する。その結果、前頸線NL1は前頸線NL1’に、前肩稜線HL1は前肩稜線HL1’に、アーム前縁部AL1はアーム前縁部AL1’に移動する。
【0067】
前中心線CLとバストラインBLは不変であるので、回転補正後の前中心部FB1’については、点N’-線NL1’-点E’-線CL-点F-点P’-線PL’-点N’によって画定される。
【0068】
回転補正後の前脇部FB2’についても同様に、点N’-線PL’-点P’-点H-点G-線AL1’-点I’-線HL1’-点N’によって画定される。
【0069】
つまり、バストラインBLを前端点Fから所定の距離隔てた点Hまで切り込みを入れ、所定の距離隔てた点Hを中心として上部前身頃部FBを回転することによって得られる回転補正後の新たな前中心部FB1’は、回転前の前中心線CL、回転前のバストラインBL、回転後の肩前垂線PL’及び回転後の前頚腺NL1’によって得られる。
【0070】
また、回転補正後の新たな前脇部FB2’は、回転前のバストラインBL、回転後の肩前垂線PL’、回転後の前肩稜線NL1’及び回転後のアーム前縁線AL1’によって得られる。
【0071】
このように上部前身頃部FBにおけるバストラインBLを上方に開くように回転補正することで、補正前の前中心部FB1の面積Aは拡大し、補正前の前脇部FB2の面積Bは縮小する。前中心部FB1の面積Aが拡大するのは、前中心線CLが不変であるにもかかわらず、肩前垂線PL’が脇側に移動するからである。また、開いた分の点F’-点F-点P’を接続する略三角形状の部位が増加したことにも起因する。
【0072】
また、バストラインBLを上方に開くように回転補正することで前脇部FB2の面積Bが縮小するのは、アーム前縁部AL1は回転中心となる点Hに近いため線の移動量が小さくその分の面積増加が少ないことと、肩前垂線PL’が脇側に移動したことに起因する。
【0073】
つまり、バストラインBLを上方に開くように回転補正することで、上部前身頃部FBにおいて、前中心部FB1の面積を拡大し、前脇部FB2の面積を縮小して前中心部面積A:前脇部面積Bの面積比率である前側面積比率を変化させることができる。
【0074】
そして、本実施形態に係る共通モデルのバランス理論に基づく型紙補正方法を使用して型紙のバランスを調整する際には、回転補正後の前中心部FB1’における新たな前中心部面積A’と前脇部FB2’の新たな前脇部面積FB2’の前側面積比率が、着用者の計測結果に基づいて上記ステップS3で算出された胸部中心部面積と胸部側方部面積の比率に略等しくなるよう、点Fから点F’への移動量を決定する。
【0075】
例えば、型紙原型において前中心部FB1の面積Aが21,224.5mm2であり、前脇部FB2の面積Bが22,869.0mm2であったが、着用者の計測結果に基づいて算出された胸部中心部CH1の面積と胸部側方部CH2の面積の比率がCH1:CH2=1.145:1であった場合、点Fを上方に1cm移動させた。その結果、新たな前中心部FB1’の面積A’は24,474.1mm2、新たな前脇部FB2’の面積B’は21,376.2mm2となった。その結果、新たな前中心部FB1’の面積A’と新たな前脇部FB2’の面積B’の比率はA’:B’=1.145:1となり、計測結果に基づき算出された面積比率と一致する。
【0076】
<上部後身頃部BBの面積比率の変化>
一方、上部後身頃部BBにおいては、上部前身頃部FBの回転方向とは逆に、点Kを中心としてバストラインBLを下方に閉じるように上部後身頃部BBを回転させる。
【0077】
このとき、
図3において、点Kを中心とした回転に伴い、肩後基点Mは肩後基点M’に、点O2は点O2’に、点Jは点J’に移動する。また、バストラインBLは不変であり肩後垂線QLは肩後基点M’から鉛直下方に延伸する垂線であるので、肩後垂線QLは肩後垂線QL’に移動する。さらに、点Qは肩後垂線QL’とバストラインBLとが交差する点Q’に移動する。
【0078】
その結果、アーム後縁部AL2はアーム前縁部AL2’に、後肩稜線HL2は後肩稜線HL2’に、後頸線NL2は後頸線NL2’に移動する。また、点O2は点O2’に移動するもののウエストラインWLの中心側端部の点Sは不変であるため、本背中心線SL2は本背中心線SL2’に移動する。
【0079】
そして、バストラインBLは不変であるので、バストラインBLと本背中心線SL2’が交差する点は点Lから点L’に水平移動する。
【0080】
バストラインBLは不変であるので、回転補正後の新たな背中心部BB1’については、点M’-線NL2’-点O2’-線SL2’-点L’-点Q’-線QL’-点M’によって画定される。
【0081】
回転補正後の新たな背脇部BB2’についても同様に、点M’-線QL’-点Q’-点K-線AL2’-点J’-線HL2’-点M’によって画定される。
【0082】
つまり、バストラインBLに切り込みを入れ、バストラインBLの背側中心端部における点Kを中心として上部後身頃部BBを回転することによって得られる新たな背中心部BB1’は、回転前のバストラインBL、回転後の肩後垂線QL’、回転後の後頚腺NL2’及び回転後の本背中心線SL2’によって得られる。
【0083】
また、回転後の新たな背脇部BB2’は、回転前のバストラインBL、回転後のアーム後縁線AL2’、回転後の後肩稜線HL2’及び回転後の肩後垂線QL’によって得られる。
【0084】
このように、上部後身頃部BBにおけるバストラインBLより上方の部位を下方に閉じるように上部後身頃部BBを回転補正することで、補正前の背中心部BB1の背中心部面積Cは縮小し、補正前の背脇部BB2の背脇部面積Dは拡大する。背中心部BB1の背中心部面積Cが縮小するのは、本背中心線SL2’の移動量に比して肩後垂線QL’の中心側への移動量が大きいからである。それはつまり、肩後垂線QL’は垂線である一方で本背中心線SL2’は点Sへ延伸させる緩やかな曲線であることに起因する。また、閉じた分の略三角形状の部位の面積が減少したことにも起因する。
【0085】
また、バストラインBL上方の部位を下方に閉じるように回転補正をすることで、後肩稜線HL2の位置が下方に下がるにもかかわらず背脇部BB2の背脇部面積Dが拡大するのは、アーム後縁線AL2の移動量に比して肩後垂線QL’の中心側への移動量が大きいからである。
【0086】
ここで、後身頃部BBの補正量は、前身頃部FBの補正量と同じ量とする。つまり、仮に点Fから点F’への上方への移動量を1cmとすると、点Lの点L’への下方への移動量も1cmとする。
【0087】
例えば、型紙原型において背中心部BB1の背中心部面積Cが23,457.0mm2であり、背脇部BB2の背脇部面積Dが33,781.9mm2であったが、前身頃部FBにおける点Fの上方への1cmの移動に対して、後身頃部BBにおける点L2を下方へ1cm移動させた。その結果、新たな背中心部BB1’の背中心部面積C’は21,528.4mm2、新たな背脇部BB2’の背脇部面積D’は36,375.1mm2となった。
【0088】
このようにして、共通モデルを形成するバランス理論に基づき、バストラインBLを境に回転補正を行うことにより、前中心部FB1と前脇部FB2の面積比率である前側面積比率、及び、背中心部BB1と背脇部BB2の面積比率である後側面積比率を調整することができる。
【0089】
ここで、回転補正を行った場合における生地の運動の変化に関して、反身体型の場合について
図4を用いて説明する。反身体型とは、上述の通り、胸部がのけ反った形状の体型であり、型紙原型通りの面積比率でパターンを作成すると、胸部(つまり上部前身頃部FBの前中心部FB1)が突っ張って持ち上がろうとする力が働くとともに背部の生地が余り下方に下がろうとする力が働く。このように窮屈な部位と余裕のある部位とが混在すると、体型にフィットした着こなしをするのは難しい。
【0090】
そのため、
図4に示すように、上部前身頃部FBにおいては点Hを中心にバストラインBLより上方の部位を上方に開くように回転補正し、上部後身頃部BBにおいては点Kを中心にバストラインBLより上方の部位を下方に閉じるように回転補正する。
【0091】
すると、
図3で説明したように、上部前身頃部FBにおいては前中心部FB1’の前中心部面積A’が大きくなり、前脇部FB2’の前脇部面積B’が小さくなる。逆に、上部後身頃部BBにおいては背中心部BB1’の背中心部面積C’が小さくなり、背脇部BB2’の背脇部面積D’が大きくなる。
【0092】
その結果、上部前身頃部FBにおいては前中心部FB1’の重量が重くなり、前脇部FB2’の重量が軽くなるため、肩前基点N’を中心として前中心部FB1’が下方に下がり前脇部FB2’が上方に上がろうとする回転運動が生じる(図中矢印AR1)。
【0093】
一方、上部後身頃部BBにおいては背中心部BB1’の重量が軽くなり、背脇部BB2’の重量が重くなるが、背中心部BB1’は右半身と左半身とが縫合して接続されるため、片側の重量ではなく右半身と左半身とを合算した重量として考慮される。そのため、背中心部BB1’の重量が軽くなったとしても、背中心部BB1’が下方に下がり背脇部BB2’が上方に上がろうとする回転運動の方向自体は補正前と変わらず、回転する力が弱くなるだけである(図中矢印AR2)。
【0094】
このように、反身体型の場合には、バストラインBLより上方の上部前身頃部FBを開き前中心部FB1の重量を増加させることで、突っ張りがちだった前中心部FB’1を下方に下げるとともに、バストラインBLより上方の上部後身頃部BBを閉じ背中心部BB1の重量を減少させることで、余りがちだった背中心部BB1’が下方に下がらないようにフィットさせることが出来る。また、仮背中心線SL1と本背中心線SL2とバストラインBLとの間に囲まれた部位の面積Rは増加する。
【0095】
このように、バランス理論に基づく共通モデルにおいては、肩前基点N’を中心として、前中心部FB1’と前脇部FB2’とがやじろべいのようにバランスを取ろうとする回転運動が生じ、着用者の体にフィットするパターンを形成することができる。同様に、肩後基点M、M’ を中心として、背中心部BB1’と背脇部BB2’とがやじろべいのようにバランスを取ろうとする回転運動が生じ、着用者の体にフィットするパターンを形成することができる。
【0096】
このように、生地の重量の変化に伴う回転運動を考慮してバランスを取ることで着用者の体にフィットするようなパターンを形成するのが、バランス理論を用いた共通モデルの特徴である。
【0097】
[上着用型紙パターンの学習システム1]
次に、
図5を用いて、本実施形態に係る上着用型紙パターンの学習システム1について説明する。
【0098】
図5は、本実施形態に係る上着用型紙パターンの学習システム1におけるハードウェア構成とソフトウェア機能を説明するためのブロック図である。
【0099】
図5に示すように、上着用型紙パターンの学習システム1は、データを制御する制御手段10と、各手段同士の通信を行う通信手段20と、データを記憶する記憶手段30と、対象者の身体データを取得する対象者身体データ取得手段40によって構成される。
【0100】
制御手段10は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備える。
【0101】
制御手段10は、所定のプログラムを読み込み、必要に応じて通信手段20と協働することで、マスタデータ作成手段11と、基本型紙データ生成手段12と、修正型紙データ生成手段13と、機械学習用データ生成手段14と、機械学習手段15と、機械学習済みモデル実行手段16と、モデリング手段17とを実現する。
【0102】
通信手段20は、他の機器と通信可能にするためのデバイス、例えば、IEEE802.11に準拠したWi-Fi(Wireless Fidelity)対応デバイスを備える。
【0103】
記憶手段30は、データやファイルを記憶する装置であって、ハードディスクや半導体メモリ、記録媒体、メモリカード等による、データのストレージ部を備える。また、記憶手段30は、マスタデータ記憶手段31と、対象者身体データ記憶手段32と、基本型紙データ記憶手段33と、修正型紙データ記憶手段34と、機械学習用データ記憶手段35と、機械学習済みモデル記憶手段36と、付属部データ記憶手段37を備える。
【0104】
対象者身体データ取得手段40は、上着用型紙パターンを作成する対象者の身体的特徴データを取得する。対象者身体データ取得手段40は例えば、対象者の詳細な身体寸法を非接触で測定可能な3Dボディスキャナによって構成される。対象者身体データ取得手段40で取得された対象者の身体的特徴データは、通信手段20を介して、対象者身体データ記憶手段32に記憶される。
【0105】
[マスタデータ作成手段11]
マスタデータ作成手段11は、個々の体型に応じた型紙パターンを作成する際の基準となる基準型紙データを作成する。基準型紙データは、型紙原型データを、基準となる体型データである基準体型データに合わせて補正することによって作成される。つまり、
図1に示される型紙原型Xを、基準となる体型に合わせ、
図3に示すような補正を行うことによって作成される。ここで、基準となる体型データである基準体型データは、対象者身体データ取得手段40によって取得される。また、この時に作成される基準型紙データは上述したバランス理論に基づく共通モデルを用いたものである。なお、基準型紙データは、2次元の型紙データである平面基準型紙データ、及び、平面基準型紙データを3次元データに変換した立体基準型紙データからなる。
【0106】
[マスタデータ記憶手段31]
マスタデータ記憶手段31は、基準体型データ、及び、当該基準体型データに基づきマスタデータ作成手段11で作成された基準型紙データからなるマスタデータを記憶する。
【0107】
[基本型紙データ生成手段12]
基本型紙データ生成手段12は、最終的な修正済みの型紙データの前段階における基本型紙データを自動的に生成するものであり、平面の基本型紙データを生成する平面基本型紙データ生成部12aと、3次元の基本型紙データを作成する立体基本型紙データ生成部12bによって構成される。
【0108】
本実施形態において、立体基本型紙データ生成部12bにおける3次元の基本型紙データの作成は、マスタデータ記憶手段31に記憶された基準体型データと、対象者身体データ取得手段40で得られた対象者身体データとの差分に基づき、マスタデータ記憶手段31に記憶された3次元の基準型紙データをおおよその範囲でグレーディングすることにより行われる。
【0109】
平面基本型紙データ生成部12aにおける平面の型紙データの作成は、立体基本型紙データ生成部12bで作成された3次元の基本型紙データを、2次元の型紙データに変換することにより行われる。その際、本実施形態においては、経験や実験の結果を反映させ、直線を保つ箇所やダーツを開かせる箇所や度合いなどの調整を行っている。
【0110】
さらに、基本型紙データ生成手段12は、変換された2次元の基本型紙データと2次元の基準型紙データとの差分を書き出す。書き出された差分に対し、後述する機械学習済みモデル実行手段16で実行された機械学習の結果を反映させたものを、マスタデータ記憶手段31に記憶してある基準型紙データから差分の量だけ変形させ、機械学習結果反映済みの平面基本型紙データとする。つまり、基本型紙データ生成手段12は、機械学習済みモデル実行手段16と協働して、基本型紙データに対し機械学習モデルを反映させた機械学習結果反映済みの基本型紙データを取得する。
【0111】
このようにして生成された平面型紙データと立体型紙データをセットとして基本型紙データを作成する。基本型紙データ生成手段12で生成された基本型紙データは、通信手段20を介して、基本型紙データ記憶手段33に記憶される。
【0112】
[修正型紙データ生成手段13]
修正型紙データ生成手段13は、基本型紙データ生成手段12で生成された基本型紙データを対象者の体型にフィットするよう修正する。なお、基本型紙データの修正は、上述したバランス理論に基づく共通モデルを用いて行われる。なお、本実施形態においては、修正型紙データ生成手段13は学習システムに組み込まれているが、基本型紙データの修正は手動で行ってもよい。ただし、手動で行う場合においても、バランス理論に基づいた修正を行うことに変わりはない。
【0113】
[修正型紙データ記憶手段34]
修正型紙データ記憶手段34は、基本型紙データ生成手段12で生成された基本型紙データを対象者の体型にフィットするよう修正させた修正型紙データを記憶する。なお、基本型紙データの修正は、上述したバランス理論に基づく共通モデルを用いて行われる。
【0114】
[機械学習用データ生成手段14]
機械学習用データ生成手段14は、対象者身体データに関する情報、基本型紙データに関する情報、及び、修正型紙データに関する情報に基づいてAIモデルの機械学習に必要な学習用データを生成する。特にここでは、修正型紙データと基本型紙データの差分である修正量を対象者身体データと紐づけたものを学習用データとして生成する。
【0115】
また、学習用データは、さらに、対象者身体データ取得手段40によって取得した、対象者の身体を
図2に示すように分割した各部の面積、バスト寸、ウエスト寸、ネック寸等に基づいて生成されてもよい。
【0116】
[機械学習用データ記憶手段35]
機械学習用データ記憶手段35は、機械学習用データ生成手段14で生成された学習用データを、学習用データの元となった対象者身体データ、基本型紙データ及び修正型紙データに紐づけて記憶する。
【0117】
[機械学習手段15]
機械学習手段15では、機械学習用データ生成手段14によって生成された学習用データを用いて、機械学習モデルに機械学習を実行させる。機械学習用データ生成手段14で生成された多くの機械学習用データが、機械学習に利用される。機械学習手段15においては、例えば機械学習の一つである畳み込みニューラルネットワークを用いて、入力された機械学習用データに対して畳み込み演算を行い、その特徴量を注出する。なお、機械学習を実行するに際して、畳み込みニューラルネットワーク以外の手段も使用し得る。
【0118】
[機械学習済みモデル記憶手段36]
機械学習済みモデル記憶手段36では、機械学習手段15で機械学習を実行した機械学習モデルを記憶する。
【0119】
[機械学習済みモデル実行手段16]
機械学習済みモデル実行手段16では、機械学習手段15によって学習された機械学習モデルを用いて、機械学習モデルによる処理を実行する。機械学習済みモデル実行手段16による処理は、基本型紙データ生成手段12における平面の基本型紙データの生成に反映される。つまり、基本型紙データ生成手段12で生成される基本型紙データには、基準体型データ、基準型紙データ、対象者身体データに加え、機械学習済みモデル実行手段16によって実行された機械学習モデルによる処理が反映される。
【0120】
[モデリング手段17]
モデリング手段17は、マスタデータ、基本型紙データ及び修正型紙データについて共通するモデルに基づいてデータを生成する。モデリング手段は、面積比率算出部17aと、面積比率調整部17bを有する。
【0121】
面積比率算出部17aは、対象者身体データ取得手段40で取得された対象者身体データに基づいて、
図2に示す身体の前額面と頸回りのラインとが交差する点Yから下方に延伸した線XLを境界として、バストライン上方の胸部を胸部中心部CH1と胸部側方部CH2とに分けたときの胸部中心部CH1と胸部側方部CH2の面積比率を算出する。
【0122】
面積比率調整部17bは、面積比率算出部17aで算出された対象者の胸部中心部CH1と胸部側方部CH2の面積比率に基づいて、
図1に示す前中心部FB1と前脇部FB2の面積比率である前側面積比率、及び、背中心部BB1と背脇部BB2の面積比率である後側面積比率を調整する。
【0123】
[付属部データ記憶手段37]
付属部データ記憶手段37は、襟やポケットなど上着の付帯的なパーツに関する付属部データを記憶する。
【0124】
[上着用型紙パターンの学習システム1を用いた学習方法]
次に、
図6を用いて、上記のように構成された上着用型紙パターンの学習システム1を用いた学習方法について説明する。
【0125】
図6は本実施形態に係る上着用型紙パターンの学習システム1を用いて上着用型紙パターンの学習を行う際のフローチャートである。なお、学習は、後述する上着用型紙パターンの作成時にそれぞれのデータ記憶手段に登録されるデータに基づいて行われる。
【0126】
<ステップS200:対象者身体データの読み出し>
まず、対象者身体データ記憶手段32に記憶されている対象者身体データを読み出す(ステップS200)。
【0127】
<ステップS210:平面基本型紙データの読み出し>
次に、基本型紙データ記憶手段33に記憶されている基本型紙データの中から、平面基本型紙データを読み出す(ステップS210)。
【0128】
<ステップS220:平面修正型紙データの読み出し>
さらに、修正型紙データ記憶手段34に記憶されている修正型紙データの中から、平面修正型紙データを読み出す(ステップS220)。
【0129】
<ステップS230:機械学習用データの生成>
そして、機械学習用データ生成手段14は、ステップS200で読み出した対象者身体データ、ステップS210で読み出した平面基本型紙データ、ステップS220で読み出した平面修正型紙データに基づき、機械学習用データを生成する(ステップS230)。特にここでは、平面修正型紙データと平面基本型紙データの差分である修正量を対象者身体データと紐づけたものを機械学習用データとして生成する。
【0130】
<ステップS240:機械学習の実行>
機械学習手段15は、ステップS230で生成した機械学習用データを用いて、機械学習を行う(ステップS240)。機械学習を実行した結果は、機械学習済みモデル記憶手段36に記憶されている機械学習モデルに反映される。
【0131】
以上のような機械学習が、上着用型紙パターンが作成されるたびに行われ、機械学習の結果が徐々に蓄積され、後述する平面基本型紙データの生成に活用される。
【0132】
[上着用型紙パターンの学習システム1を用いた上着用型紙データの作成]
次に、
図7~
図11を用いて、上記のように構成された上着用型紙パターンの学習システム1を用いた型紙作成方法について説明する。このとき、個々の体型に応じた型紙パターンを作成する際の基準となる基準型紙データ、及び、基準となる体型データである基準体型データは、マスタデータとして既にマスタデータ記憶手段31に登録されているものとする。
【0133】
図7は本実施形態に係る上着用型紙パターンの学習システム1を用いて上着用型紙パターンを作成する際のフローチャートであり、
図8はマスタデータの一例を示す模式図であり、
図9は対象者身体データの一例を示す模式図であり、
図10は立体基本型紙データの一例を示す模式図であり、
図11は、平面基本型紙データ(機械学習結果反映前)の一例を示す模式図である。
【0134】
<ステップS300:マスタデータの読み出し>
まず、予めマスタデータ作成手段11を用いて作成されマスタデータ記憶手段31に記憶されている、個々の体型に応じた型紙パターンを作成する際の基準となる基準型紙データ、及び、基準となる体型データである基準体型データをマスタデータとして読み出す(ステップS300)。マスタデータとなる基準型紙データはバランス理論に基づき作成され、例えば、
図8のようになっている。また、読みだされる基準型紙データは2次元の型紙データである平面基準型紙データだけでなく、平面基準型紙データを3次元データに変換した立体基準型紙データも含まれる。
【0135】
<ステップS310:対象者身体データの取得・登録>
次に、対象者身体データ取得手段40を用いて上着用型紙パターンを作成する対象者の身体の各部寸法を計測し、対象者身体データを取得する(ステップS310)。
【0136】
ステップS310においては、対象者身体データ取得手段40の一例である、人体を三次元で計測することができる3Dボディスキャナを用いて、対象者の身体形状について計測を行う。ここで得られるデータは、身体の表面における各点を3次元座標系に投影した点群データであり、このようにして得られた点群データは例えば
図9(a)のようになる。
【0137】
続いて、3Dボディスキャナでの三次元計測によって得られた点群データをメッシュ状の身体メッシュデータに変換する。点群データを身体メッシュデータに変換するにあたっては、近接する3つの点同士を接続して三角形メッシュを形成し、小さな三角形メッシュの集合体によって対象者の身体形状が表現できるようにする。このようにして得られた対象者の身体メッシュデータは
図9(b)のようになる。
【0138】
得られた身体メッシュデータから、対象者の身長、バスト高、ウエスト高、股突高、股下高、頚囲、胸囲、アンダーバスト囲、ウエスト囲を取得する。また、取得した各データに基づき、
図2に示すように、水平方向に頚囲、胸囲、アンダーバスト囲、ウエスト囲を分割、垂直方向に臍を通る身体の中心線、及び、肩線によって合計12パーツに分割する。このようにして、身体メッシュデータ及び各部寸法データからなる、本願発明における対象者身体データが得られる。取得された対象者身体データは、通信手段20を介して、対象者身体データ記憶手段32に記憶される。なお、点群データから身体メッシュデータへの変換、及び、身体メッシュデータから各寸法データの取得は、対象者身体データ取得手段40内で行ってもよいし、制御手段10内に別途設けた計算用の手段を用いて行ってもよい。
【0139】
<ステップS320:立体基本型紙データの生成>
ステップS310で得られた対象者身体データに基づいて、立体基本型紙データを生成する(ステップS320)。立体基本型紙データの生成は基本型紙データ生成手段12における立体基本型紙生成部12bを用いて行われ、ステップS300で読み出された基準体型データとステップS310で取得された対象者身体データとの差分に基づき、ステップS300でマスタデータ記憶手段31から読み出された3次元の立体基準型紙パターンをおおよその範囲でグレーディングすることにより行われる。ステップS320で生成された立体基本型紙データによって表される立体型紙は
図10に示されるようになる。ここで生成された立体基本型紙データは、マスタデータとして登録されている基準となる体型データと、対象者の体型データとの差分に基づき、基準型紙データを大まかにグレーティングすることによって得られるものであるため、精度としては高くなく、実際に着用するには多少の余裕を持たせ作成されたものである。
【0140】
<ステップS330:平面基本型紙データの生成>
ステップS320で生成された立体基本型紙データに基づいて、平面基本型紙データを生成する(ステップS330)。平面基本型紙データの生成は基本型紙データ生成手段12における平面基本型紙生成部12aを用いて行われ、まず、立体基本型紙データを平面型紙データに変換する。立体基本型紙データを平面型紙データに変換するに際しては、例えば、データベースに蓄積されている立体型紙データと平面型紙データとの関係性を参照して行われるか、あるいは、立体型紙データと平面型紙データとの間のモデリングを関数化したモデルによって行われる。その際、本実施形態においては、経験や実験の結果を反映させ、直線を保つ箇所やダーツを開かせる箇所や度合いなどの調整を行っている。このようにして作成された平面基本型紙データは
図11に示すようになる。
【0141】
<ステップS340:マスタと平面基本型紙データとの差分の書き出し>
次に、ステップS300で読み出されたマスタデータにおける基準型紙データのうちの平面型紙データである平面基準型紙データと、ステップS330で生成された平面基本型紙データとの差分を書き出す(ステップS340)
【0142】
<ステップS350:機械学習結果反映済みの平面基本型紙データの取得>
ステップS340で書き出された平面基準型紙データと平面基本型紙データとの差分に対し、機械学習済みモデル実行手段16で実行した結果を反映させ、新たな差分データとしたうえで、マスタデータの平面基準型紙データに足し戻すことで、機械学習済みモデルを反映させた平面基本型紙データを取得する(ステップS350)。つまり、このステップでは、ステップS340で書き出された2次元の基準型紙データと2次元の基本型紙データとの差分に対し、機械学習済みモデル実行手段16で実行された機械学習の結果を反映させたものを、マスタデータ記憶手段31に記憶してある基準型紙データから変形させ、機械学習結果反映済みの平面基本型紙データとする。つまり、基本型紙データ生成手段12は、機械学習済みモデル実行手段16と協働して、平面基本型紙データに対し機械学習モデルを反映させた機械学習結果反映済みの平面基本型紙データを取得する。
【0143】
機械学習手段15での機械学習には、
図6で説明したとおり、平面基本型紙データ生成手段12aで機械的に自動で生成された平面基本型紙データに対し、実際に対象者の体にフィットするよう修正した修正量が紐づけられており、この体型なら基本型紙データはこうであったが実際の修正型紙データはこうであったという修正量と修正箇所に関するデータが学習される。この修正量と修正箇所を身体データに紐づけて学習することで、ステップS330で生成される平面基本型紙データの精度が向上していく。
【0144】
<ステップS360:基本型紙データの登録>
ステップS350で生成された機械学習結果反映済みの平面基本型紙データ、及び、ステップS320で生成された立体基本型紙データは、基本型紙データ記憶手段33に登録される(ステップS360)。
【0145】
<ステップS370:平面修正型紙データの生成>
ステップS350で作成された、機械学習結果反映済みの平面基本型紙データについて、対象者の体型にフィットするよう修正し、平面修正型紙データを生成する(ステップS370)。平面修正型紙データの生成は、修正型紙データ生成手段13を用い、
図3を用いて上述したように、バランス理論にしたがって行われる。なお、ステップS370における修正により平面の型紙データは完成し、対象者に納品する型紙データの作成はここで完了となる。
【0146】
<ステップS380:平面修正型紙データの記憶>
ステップS370で生成された平面修正型紙データを修正型紙データ記憶手段34に記憶する(ステップS380)。
【0147】
<ステップS390:付属部データの組み込み>
ステップS370で生成された平面修正型紙データに対し、付属部データ記憶手段37に記憶されている、襟やポケットなどに関する付属部データを組み込む(ステップS390)。これにより、納品するための平面データが完成する。
【0148】
このようにして、本実施形態に係る上着用型紙パターンの学習システムを用いた型紙作成方法で作成した型紙パターンが完成する。
【0149】
以上、本発明をまとめると以下のようになる。
【0150】
本発明に係る上着用型紙パターンの学習システムは、前身頃部と後身頃部との境界となる肩前基点を頂点として、頸回りの前側ラインである前頚線、身体の中心側端縁を画定する前中心線、胸囲を画定するバストライン、アームホールの前側縁を画定するアーム前縁線及び前肩稜線によって画定される上部前身頃部と、前身頃部と後身頃部との境界となる肩後基点を頂点として、頸回りの後側ラインである後頚線、身体の背側端縁を画定する背中心線、胸囲を画定するバストライン、アームホールの後側縁を画定するアーム後縁線及び後肩稜線によって画定される上部後身頃部とを有する上着用型紙パターンであって、上部前身頃部は肩前基点から鉛直下方に垂下される肩前垂線を境に前中心部と前脇部とに区画されるとともに、上部後身頃部は前記肩後基点から鉛直下方に垂下される肩後垂線を境に背中心部と背脇部とに区画される上着用型紙パターンの学習システムである。
【0151】
そして、個々の体型に応じた型紙パターンを作成する際の基準となる基準型紙データを記憶するマスタデータ記憶手段と、上着用型紙パターンを作成する対象者の身体データを取得する対象者身体データ取得手段と、基準型紙データ及び対象者身体データに基づいて、基本型紙データを生成する基本型紙データ生成手段と、基本型紙データを対象者の体型にフィットするよう修正した修正型紙データを記憶する修正型紙データ記憶手段と、対象者身体データに関する情報、基本型紙データに関する情報、及び、修正型紙データに関する情報に基づいて機械学習に必要な学習用データを生成する機械学習用データ生成手段と、機械学習用データ生成手段によって生成された学習用データを用いて機械学習モデルの学習を行う機械学習手段と、機械学習手段によって学習された機械学習済みモデルを用いて、機械学習モデルによる処理を実行する機械学習済みモデル実行手段とを備え、基本型紙データ生成手段は機械学習済みモデル実行手段と協働して、基本型紙データに対し機械学習モデルを反映させた機械学習結果反映済みの基本型紙データを取得する。
【0152】
それによれば、上着用型紙パターンを、前中心部と前脇部、及び、背中心部と背脇部に分け、対象者の体型にフィットするよう修正した修正型紙データを用いて機械学習させ、機械学習の結果を基本型紙データに反映させることで、生地のバランスが難しい上着用型紙であっても、少ないデータで機械学習させることができる
【0153】
また、基準型紙データ、基本型紙データ及び修正型紙データについて共通するモデルに基づいて生成するモデリング手段をさらに備える。
【0154】
それによれば、学習用データの生成の元となる基本型紙データ及び修正型紙データについて、共通するモデルに基づいて生成されるので、大枠の部分について少ないデータでも速く学習できる。
【0155】
さらにモデリング手段は、対象者身体データ取得手段で取得された対象者身体データに基づいて、身体の前額面と頸回りのラインとが交差する点から下方に延伸した線を境界として、バストライン上方の胸部を胸部中心部と胸部側方部とに分けたときの当該胸部中心部と当該胸部側方部の面積比率を算出する面積比率算出手段、及び、面積比率に基づいて、前中心部と前脇部の面積比率である前側面積比率、及び、背中心部と背脇部の面積比率である後側面積比率を調整する面積比率調整手段、を備える。
【0156】
それによれば、着用者の胸部中心部と胸部側方部の面積比率に基づいて、型紙原型の前側面積比率及び後側面積比率を調整するため、肩前基点及び肩後基点を中心とした生地の回転運動を着用者の体型にフィットするよう適正に引き起こすことができる。そのため、着用者の身体寸法を得るだけで、着用者の身体に吸い付くようにフィットすることが可能な型紙パターンの補正を、学習に組み込むことができる。
【0157】
さらに、前側面積比率が、胸部中心部と胸部側方部の面積比率と略等しくなるように、前中心部と前脇部との面積の調整を行う。
【0158】
それによれば、前側面積比率が胸部中心部と胸部側方部の面積比率と略等しくなるように前中心部と前脇部の面積の調整を行うため、着用者の体型バランスを完全に考慮した補正を、学習に組み込むことができる。
【0159】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述したこれらの実施形態に限るものではない。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0160】
例えば、本発明における各パーツの生地の重量配分を考慮して型紙パターンを形成するという考え方は、ジャケットなどの上衣だけでなく、パンツやスラックスにも応用して理論化することが可能である。
【0161】
また、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0162】
この発明の上着用型紙パターンの学習システムは、スーツのジャケットのみならず、コートやワイシャツなどの上半身に着衣する衣類全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0163】
N 肩前基点
M 肩後基点
BL バストライン
CL 前中心線
FB1 前中心部
FB2 前脇部
BB1 背中心部
BB2 背脇部
PL 肩前垂線
QL 肩後垂線
【要約】
【課題】膨大な量のデータの収集を必要とせず、また、職人の手を借りることなく、着用者の体型にあった型紙パターンを自動的に作成することが可能な上着用型紙パターンの学習システムを提供する。
【解決手段】本発明の上着用型紙パターンの学習システムは、基準型紙データを記憶する手段と、対象者身体データ取得手段と、基準型紙データ及び対象者身体データに基づいて、基本型紙データを生成する基本型紙データ生成手段と、基本型紙データを対象者の体型にフィットするよう修正した修正型紙データを記憶する手段と、対象者身体データ、基本型紙データ、及び、修正型紙データに基づいて学習用データを生成する手段と、機械学習を行う手段と、学習済みモデルを用いて機械学習モデルによる処理を実行する手段とを備え、基本型紙データ生成手段は機械学習モデルによる処理を実行する手段と協働して、機械学習結果反映済みの基本型紙データを取得する。
【選択図】
図5