(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】アーク加工システム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/073 20060101AFI20240110BHJP
H02M 3/28 20060101ALI20240110BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240110BHJP
【FI】
B23K9/073 530
B23K9/073 535
H02M3/28 W
H02M7/48 E
(21)【出願番号】P 2019227225
(22)【出願日】2019-12-17
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】永見 一敏
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】宮島 雄一
(72)【発明者】
【氏名】成定 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】坂口 善槻
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-296185(JP,A)
【文献】特開平11-028568(JP,A)
【文献】特開平06-091369(JP,A)
【文献】実開昭50-089936(JP,U)
【文献】実開昭61-177773(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2006/0226130(US,A1)
【文献】米国特許第05343017(US,A)
【文献】特開平09-271940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00、9/06 - 9/133、
10/00
H02M 3/00 - 3/44
H02M 7/42 - 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を出力する直流電源装置と、
前記直流電源装置から離隔された別の装置であり、直流電力を交流電力に変換する交流変換装置と、
前記直流電源装置および前記交流変換装置から離隔された別の装置であり、直流電力を出力する第2の直流電源装置と、
前記直流電源装置と前記交流変換装置との間に接続される直流用外部ケーブルと、
前記第2の直流電源装置と前記交流変換装置との間に接続される第2直流用外部ケーブルと、
を備え、
前記交流変換装置が出力する電力で発生させたアークによって加工を行う、
アーク加工システム。
【請求項2】
前記直流電源装置は、
交流電力を直流電力に変換する整流回路と、
前記整流回路が出力する直流電力を高周波電力に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路が出力する高周波電力を直流電力に変換する第2の整流回路と、
を備えている、
請求項1に記載のアーク加工システム。
【請求項3】
前記交流変換装置は、直流電力を交流電力に変換せずに、そのまま出力可能である、
請求項1または2に記載のアーク加工システム。
【請求項4】
直流電力を出力する第3の直流電源装置、および、第4の直流電源装置と、
前記第3の直流電源装置および前記第4の直流電源装置から離隔された別の装置であり、直流電力を交流電力に変換する第2の交流変換装置と、
前記第3の直流電源装置
と前記第2の交流変換装置との間に接続される第
3直流用外部ケーブルと、
前記第4の直流電源装置と前記第2の交流変換装置との間に接続される第4直流用外部ケーブルと、
をさらに備えて
いる、請求項
1ないし3のいずれかに記載のアーク加工システム。
【請求項5】
前記交流変換装置が出力する電力で発生させたアークによって溶接を行う、
請求項1ないし
4のいずれかに記載のアーク加工システム。
【請求項6】
サブマージアーク溶接を行う、
請求項
5に記載のアーク加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発生させたアークによって加工を行うアーク加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばアーク溶接の溶接システムで用いられる溶接電源装置は、入力ケーブルでの電圧ドロップにより入力電圧が不安定になることを防ぐために、電源設備の近辺に配置される。このため、溶接箇所が電源設備から離れた位置にある場合、長い出力ケーブルが用いられる。また、溶接電源装置には、交流電力を出力して、アークを発生させるものがある。特許文献1には、商用電源から入力される交流電力を溶接用の交流電力に変換して出力する溶接電源装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出力ケーブルの抵抗値は出力ケーブルの長さに比例するので、出力ケーブルが長くなるほど、出力ケーブルの抵抗値は大きくなる。さらに、溶接電源装置が交流電力を出力する場合、出力ケーブルのインピーダンスは、抵抗値とリアクタンスとのベクトル和になる。出力ケーブルのインダクタンスは、出力ケーブルが長くなるほど大きくなり、また、出力ケーブルが複雑に引き回されるほど大きくなる。出力ケーブルのリアクタンスは、インダクタンスに比例する。出力ケーブルが長い場合、リアクタンスは抵抗値に比べて圧倒的に大きくなるので、インピーダンスもこれに応じて大きくなる。したがって、溶接電源装置が交流電力を出力する場合、出力ケーブルのインピーダンスによる電圧降下を考慮する必要がある。よって、従来は、実際の溶接に必要な電力に応じたものより大きな定格出力電力の溶接電源装置を用いていた。このような溶接電源装置は、実際の溶接に必要な電力に応じた定格出力電力の溶接電源装置より、大型であり高価格である。この問題は溶接システムに限られた問題ではなく、発生させたアークによって加工を行うアーク加工システムにおいて問題となる。
【0005】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、アークの発生に交流電力を用いる場合でも、ケーブルでの電圧降下を抑制できるアーク加工システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって提供されるアーク加工システムは、直流電力を出力する直流電源装置と、前記直流電源装置から離隔された別の装置であり、直流電力を交流電力に変換する交流変換装置と、前記直流電源装置と前記交流変換装置との間に接続される直流用外部ケーブルとを備え、前記交流変換装置が出力する電力で発生させたアークによって加工を行う。
【0007】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記直流電源装置は、交流電力を直流電力に変換する整流回路と、前記整流回路が出力する直流電力を高周波電力に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路が出力する高周波電力を直流電力に変換する第2の整流回路とを備えている。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記交流変換装置は、直流電力を交流電力に変換せずに、そのまま出力可能である。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、直流電力を出力する第2の直流電源装置をさらに備えており、前記直流電源装置と前記第2の直流電源装置とは、出力側で並列接続されている。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、直流電力を出力する第3の直流電源装置、および、第4の直流電源装置と、前記第3の直流電源装置および前記第4の直流電源装置から離隔された別の装置であり、直流電力を交流電力に変換する第2の交流変換装置と、前記第3の直流電源装置および前記第4の直流電源装置と、前記第2の交流変換装置との間に接続される第2の直流用外部ケーブルとをさらに備えており、前記第3の直流電源装置と前記第4の直流電源装置とは、出力側で並列接続されている。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記交流変換装置が出力する電力で発生させたアークによって溶接を行う。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、サブマージアーク溶接を行う。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、直流電源装置と交流変換装置とが互いに離隔された別々の装置であり、直流用外部ケーブルによって接続されている。交流変換装置を加工箇所の近辺に配置することで、交流電流が流れる出力ケーブルを短くして、出力ケーブルでの電圧降下を抑制できる。また、直流電源装置は直流電力を出力するので、直流用外部ケーブルには直流電流が流れる。したがって、直流用外部ケーブルにはリアクタンスによる電圧降下が発生しない。これにより、本発明に係るアーク加工システムは、直流電源部と交流変換部とが一体となった従来の交流用電源装置を用いる場合と比較して、ケーブルでの電圧降下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係る溶接システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図2】第2実施形態に係る溶接システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図3】第3実施形態に係る溶接システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図4】第4実施形態に係る溶接システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図5】第5実施形態に係る溶接システムの全体構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、本発明を溶接システムに適用した場合を例として、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0016】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る溶接システムの全体構成を示すブロック図である。
【0017】
溶接システムA1は、交流アーク溶接を行う、例えばTIG溶接システムである。
図1に示すように、溶接システムA1は、直流電源装置1、交流変換装置2、溶接トーチ3、直流用外部ケーブル41,42、出力ケーブル51,52、および通信線6を備えている。
【0018】
直流電源装置1は、電源設備Pから入力される交流電力を直流電力に変換して、交流変換装置2に出力する。交流変換装置2は、直流電源装置1から入力される直流電力を交流電力に変換し、溶接トーチ3および被加工物Wに供給して、溶接トーチ3の電極の先端と被加工物Wとの間にアークを発生させる。当該アークの熱によって、溶接が行われる。直流電源装置1と交流変換装置2とは、それぞれが図示しない筐体を有し、互いに離隔された別々の装置である。直流電源装置1と交流変換装置2とは、直流用外部ケーブル41,42によって接続されている。
【0019】
直流電源装置1は、電源設備Pの近辺に配置され、電源設備Pから入力される交流電力を直流電力に変換して出力する。直流電源装置1は、整流平滑回路11、インバータ回路12、トランス13、整流平滑回路14、および制御回路15を備えている。また、直流電源装置1は、出力端子1a,1bを備えている。直流電源装置1は、直流電力を出力端子1a,1bから出力する。本実施形態では、出力端子1aが正極側の出力端子であり、出力端子1bが負極側の出力端子である。
【0020】
整流平滑回路11は、電源設備Pから入力される商用周波数の交流電力を直流電力に変換して出力する。整流平滑回路11は、交流電流を整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備えている。なお、整流平滑回路11の構成は限定されない。整流平滑回路11が、本発明の「整流回路」に相当する。
【0021】
インバータ回路12は、例えば、単相フルブリッジ型のPWM制御インバータであり、4個のスイッチング素子を備えている。インバータ回路12は、制御回路15から入力される出力制御駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、整流平滑回路11から入力される直流電力を高周波電力に変換して出力する。なお、インバータ回路12は直流電力を高周波電力に変換するものであればよく、例えばハーフブリッジ型であってもよいし、その他の構成のインバータ回路であってもよい。
【0022】
トランス13は、インバータ回路12が出力する高周波電圧を変圧して、整流平滑回路14に出力する。トランス13は、一次側巻線13aおよび二次側巻線13bを備えている。一次側巻線13aの各入力端子は、インバータ回路12の各出力端子にそれぞれ接続されている。二次側巻線13bの各出力端子は、整流平滑回路14の各入力端子にそれぞれ接続されている。インバータ回路12の出力電圧は、一次側巻線13aと二次側巻線13bの巻き数比に応じて変圧されて、整流平滑回路14に入力される。二次側巻線13bは一次側巻線13aに対して絶縁されているので、電源設備Pから入力される電流が二次側の回路に流れることを防止できる。また、トランス13は、インバータ回路12が出力する高周波電圧を変圧するので、電源設備Pの交流電圧を変圧するトランスと比較して、小型軽量化されている。
【0023】
整流平滑回路14は、トランス13から入力される高周波電力を直流電力に変換して出力する。整流平滑回路14は、高周波電流を整流する整流回路と、平滑する直流リアクトルとを備えている。なお、整流平滑回路14の構成は限定されない。整流平滑回路14から出力された直流電力は、出力端子1a,1bから出力される。整流平滑回路14が、本発明の「第2の整流回路」に相当する。
【0024】
制御回路15は、直流電源装置1を制御するための回路であり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路15は、通信線6を介して、交流変換装置2の後述する制御回路23から、各種指令を入力される。制御回路15は、制御回路23から電力出力の開始を指示する開始指令を入力されたときに、インバータ回路12に、出力制御駆動信号の出力を開始することで、直流電力の出力を開始させる。また、制御回路15は、制御回路23から電力出力の停止を指示する停止指令を入力されたときに、出力制御駆動信号の出力を停止することで、電力の出力を停止させる。
【0025】
制御回路15は、通信線6を介して、制御回路23から、電流指令値を入力される。また、制御回路15は、通信線6を介して、制御回路23から、交流変換装置2の出力電流の実効値を入力される。そして、制御回路15は、出力電流の実効値と電流指令値とに基づいて、インバータ回路12のスイッチング素子を制御するための出力制御駆動信号を生成して、インバータ回路12に出力する。つまり、制御回路15は、交流変換装置2の出力電流の実効値が電流指令値に一致するように、フィードバック制御を行う。
【0026】
交流変換装置2は、溶接箇所の近辺に配置され、直流電源装置1から入力される直流電力を所望の周波数の交流電力に変換して出力する。交流変換装置2は、インバータ回路21、電流センサ22、および制御回路23を備えている。また、交流変換装置2は、入力端子2a,2bおよび出力端子2c,2dを備えている。交流変換装置2は、入力端子2a,2bから入力される直流電力を交流電力に変換して、出力端子2c,2dから出力する。本実施形態では、入力端子2aが正極側の入力端子であり、入力端子2bが負極側の入力端子である。
【0027】
インバータ回路21は、本実施形態では、単相フルブリッジ型のPWM制御インバータである。インバータ回路21は、制御回路23から入力されるスイッチング駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、直流電源装置1から入力される直流電力を交流電力に変換して出力する。
【0028】
インバータ回路21は、4個のスイッチング素子Q1~Q4および4個のダイオードを備えている。本実施形態では、スイッチング素子Q1~Q4としてMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を使用している。なお、スイッチング素子Q1~Q4はMOSFETに限定されず、バイポーラトランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor : 絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ)などであってもよい。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とは、直列接続され、入力端子2aと入力端子2bとの間に接続されて、ブリッジ構造を形成する。当該ブリッジ部分を第1アームとする。同様に、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4とは、直列接続され、入力端子2aと入力端子2bとの間に接続されて、ブリッジ構造を形成する。当該ブリッジ部分を第2アームとする。つまり、スイッチング素子Q1~Q4は、第1アームと第2アームとが並列接続されたフルブリッジ回路を形成する。
【0029】
スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続点は、出力端子2cに接続されている。また、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4との接続点は、出力端子2dに接続されている。各スイッチング素子Q1~Q4のゲート端子には、制御回路23から入力されるスイッチング駆動信号がそれぞれ入力される。各スイッチング素子Q1~Q4には、それぞれ、ダイオードが逆並列に接続されている。各スイッチング素子Q1~Q4は、それぞれ、入力されるスイッチング駆動信号に基づいて、スイッチングを行う。
【0030】
インバータ回路21は、出力端子2d(被加工物Wに接続)の電位が出力端子2c(溶接トーチ3に接続)の電位より高い状態である正極性と、出力端子2dの電位が出力端子2cの電位より低い状態である逆極性とを交互に切り換えることで、交流電力を出力する。なお、インバータ回路21は直流電力を交流電力に変換するものであればよく、例えばハーフブリッジ型であってもよいし、その他の構成のインバータ回路であってもよい。
【0031】
電流センサ22は、交流変換装置2の出力電流を検出するものであり、本実施形態では、インバータ回路21の一方の出力端子と出力端子2dとを接続する接続線に配置されている。電流センサ22は、検出した電流に応じた電流検出信号を制御回路23に入力する。なお、電流センサ22の構成は限定されず、出力電流を検出するものであればよい。なお、電流センサ22の配置場所は限定されない。例えば、電流センサ22は、インバータ回路21の他方の出力端子と出力端子2cとを接続する接続線に配置されてもよい。
【0032】
制御回路23は、交流変換装置2を制御するための回路であり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路23は、通信線6を介して、直流電源装置1の制御回路15に各種指令を送信することで、間接的に直流電源装置1も制御している。制御回路23は、操作者によって図示しない操作部を操作され、電力出力の開始を指示された場合、通信線6を介して、直流電源装置1に電力出力の開始を指示する開始指令を送信する。また、このとき、制御回路23は、インバータ回路21に、スイッチング駆動信号の出力を開始することで、電力の変換を開始させる。また、制御回路23は、電力出力の停止を指示された場合、通信線6を介して、直流電源装置1に電力出力の停止を指示する停止指令を送信する。また、このとき、制御回路23は、スイッチング駆動信号の出力を停止することで、電力の変換を停止させる。また、制御回路23は、通信線6を介して、溶接条件に応じた電流指令値を直流電源装置1に送信する。
【0033】
制御回路23は、電流センサ22から電流検出信号を入力される。制御回路23は、当該電流検出信号と、内部で生成した波形指令信号とに基づいて、インバータ回路21のスイッチング素子Q1~Q4を制御するためのスイッチング駆動信号を生成して、インバータ回路21に出力する。つまり、制御回路23は、出力電流の波形が波形指令信号で指令する波形に一致するように、フィードバック制御を行う。本実施形態では、波形指令信号は、正弦波信号である。これにより、インバータ回路21は、波形指令信号に応じた正弦波状の交流電流を出力する。なお、制御回路23は、電流検出信号を用いずに、波形指令信号のみに基づいて、スイッチング駆動信号を生成してもよい。また、制御回路23は、電流検出信号に基づいて、交流変換装置2の出力電流の実効値を算出し、通信線6を介して、当該実効値を直流電源装置1に送信する。
【0034】
本実施形態では、溶接システムA1は、交流電力だけでなく直流電力も出力することができる交直両用の溶接システムである。制御回路23は、操作者によって操作部を操作され、直流電力の出力を指示された場合、インバータ回路21に出力するスイッチング駆動信号を、所定のスイッチング素子をオン状態に固定して、その他のスイッチング素子をオフ状態に固定する信号とする。例えば、制御回路23は、スイッチング素子Q2,Q3をオン状態とし、スイッチング素子Q1,Q4をオフ状態とすることで、入力端子2aと出力端子2dとが接続され、入力端子2bと出力端子2cとが接続されたままの状態とする。これにより、溶接システムA1は、出力端子2dを正極とし、出力端子2cを負極として、直流電力を出力する。
【0035】
直流用外部ケーブル41,42は、直流電源装置1と交流変換装置2とを接続しているケーブルである。直流用外部ケーブル41は、直流電源装置1の出力端子1aと交流変換装置2の入力端子2aとを接続している。直流用外部ケーブル42は、直流電源装置1の出力端子1bと交流変換装置2の入力端子2bとを接続している。直流用外部ケーブル41,42は、例えば、銅またはアルミニウムなどの導体線を絶縁体で被覆した被覆ケーブルであり、直流電源装置1が出力する最大電流を許容できるものである。直流用外部ケーブル41,42の長さは、電源設備Pの近辺に配置された直流電源装置1と、溶接箇所の近辺に配置された交流変換装置2とを接続できる長さであり、例えば30メートル程度である。なお、直流用外部ケーブル41,42の種類、直径、および長さは限定されない。直流用外部ケーブル41,42には、直流電源装置1が出力する直流電流が流れる。
【0036】
出力ケーブル51は、交流変換装置2と溶接トーチ3とを接続しているケーブルであり、図示しないトーチケーブルに挿通されている。出力ケーブル51は、交流変換装置2の出力端子2cと溶接トーチ3の図示しない給電チップとを接続している。出力ケーブル52は、交流変換装置2と被加工物Wとを接続しているケーブルである。出力ケーブル52は、交流変換装置2の出力端子2dと被加工物Wとを接続している。出力ケーブル51,52は、例えば、銅またはアルミニウムなどの導体線を絶縁体で被覆した被覆ケーブルであり、交流変換装置2が出力する最大電流を許容できるものである。出力ケーブル51,52の長さは、交流変換装置2と溶接箇所との距離に応じて適宜決定される。交流変換装置2が溶接箇所の近辺に配置されているので、出力ケーブル51,52の長さは、電源設備Pの近辺に配置される従来の溶接電源装置を利用する場合と比較して、短くできる。なお、出力ケーブル51,52の種類、直径、および長さは限定されない。出力ケーブル51,52には、交流変換装置2が出力する交流電流が流れる。
【0037】
通信線6は、直流電源装置1の制御回路15と交流変換装置2の制御回路23とを接続する通信線である。制御回路15と制御回路23とは、通信線6を介して、例えばフィールドバス通信により通信を行っている。制御回路23は、通信線6を介して、制御回路15に、電力出力の開始指令および停止指令、電流指令値、交流変換装置2の出力電流の実効値などを送信する。また、制御回路15は、直流電源装置1に異常が発生した場合に、通信線6を介して、制御回路23に、異常を知らせる情報を送信する。なお、制御回路15と制御回路23との間の通信内容は限定されない。また、制御回路15と制御回路23とが通信線6を介して行う通信規格は、フィールドバス通信に限定されない。
【0038】
次に、本実施形態に係る溶接システムA1の作用および効果について説明する。
【0039】
本実施形態によると、直流電力を出力する直流電源装置1と、直流電力を交流電力に変換する交流変換装置2とは、互いに離隔された別々の装置であり、直流用外部ケーブル41,42によって接続されている。直流電源装置1は電源設備Pの近辺に配置され、交流変換装置2は溶接箇所の近辺に配置される。交流変換装置2が溶接箇所の近くに配置されることで、交流電流が流れる出力ケーブル51,52を短くできる。これにより、出力ケーブル51,52での電圧降下は、抑制される。また、直流電源装置1は直流電力を出力するので、直流用外部ケーブル41,42には直流電流が流れる。したがって、直流用外部ケーブル41,42にはリアクタンスによる電圧降下が発生しない。これにより、溶接システムA1は、直流電源部と交流変換部とが一体となった従来の交流用溶接電源装置を用いる場合と比較して、ケーブルでの電圧降下を抑制できる。電圧降下を見越して定格出力電力を必要以上に大きくする必要がないので、直流電源装置1および交流変換装置2を構成する各部品を、小型軽量で低価格のものにできる。これにより、直流電源装置1および交流変換装置2を、小型軽量化でき、価格を抑制できる。
【0040】
また、本実施形態によると、直流電源装置1は、インバータ回路12を備えている。したがって、溶接システムA1は、交流変換装置2の出力電流をフィードバック制御できる。また、インバータ回路12が高周波電圧を出力するので、トランス13は、電源設備Pの交流電圧を変圧するトランスと比較して、小型軽量化されている。
【0041】
また、本実施形態によると、制御回路23は、インバータ回路21に出力するスイッチング駆動信号を調整することで、交流変換装置2から直流電力を出力させることができる。これにより、溶接システムA1は、交流電力だけでなく直流電力も出力できる。
【0042】
なお、本実施形態においては、直流電源装置1が、インバータ回路12を備えて、電源設備Pから入力される交流電力を直流電力に変換して出力する場合について説明したが、これに限られない。例えば、直流電源装置1は、整流平滑回路11が変換した直流電力をそのまま出力してもよい。また、直流電源装置1は、太陽電池および燃料電池などの直流電力を生成して出力するものでもよいし、蓄電池およびコンデンサなどの直流電力を蓄積して出力できるものでもよい。
【0043】
また、本実施形態においては、出力電流の波形が正弦波である場合について説明したが、これに限られない。出力電流の波形は、例えば矩形波であってもよい。また、本実施形態においては、溶接システムA1が定電流制御を行う場合について説明したが、これに限られない。溶接システムA1は、定電圧制御を行ってもよい。
【0044】
また、本実施形態においては、制御回路15と制御回路23とが通信線6を用いて通信を行う場合について説明したが、これに限られない。制御回路15と制御回路23とは、通信線6を用いず、無線通信によって通信を行ってもよい。また、制御回路15と制御回路23とは、直流用外部ケーブル41,42を利用して、電力線搬送通信(PLC:Power Line Communication)を行ってもよい。これらの場合、通信線6が必要ないので、離れて配置された直流電源装置1と交流変換装置2との間の接続が簡略化される。
【0045】
〔第2実施形態〕
図2は、第2実施形態に係る溶接システムA2を説明するための図であり、溶接システムA2の全体構成を示すブロック図である。同図において、第1実施形態に係る溶接システムA1(
図1参照)と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。なお、
図2においては、インバータ回路21を簡略化して記載している。
【0046】
溶接システムA2は、制御装置7をさらに備えている点で、第1実施形態に係る溶接システムA1(
図1参照)と異なる。
【0047】
制御装置7は、溶接システムA2の全体を制御する装置である。制御装置7は、汎用的なコンピュータに溶接システムA2の各種制御を行うプログラムをインストールしたものであってもよいし、溶接システムA2の制御のための専用装置であってもよい。制御装置7は、通信線6を介して、直流電源装置1の制御回路15および交流変換装置2の制御回路23に各種指令を送信する。通信線6は、制御装置7、制御回路15および制御回路23を互いに接続する通信線であり、バス型の配線形態で配線されている。
【0048】
制御装置7は、操作者によって図示しない操作部を操作され、電力出力の開始を指示された場合、通信線6を介して、直流電源装置1および交流変換装置2に電力出力の開始を指示する開始指令を送信する。また、制御装置7は、電力出力の停止を指示された場合、通信線6を介して、直流電源装置1および交流変換装置2に電力出力の停止を指示する停止指令を送信する。また、制御装置7は、通信線6を介して、溶接条件に応じた電流指令値を直流電源装置1に送信する。また、制御装置7は、直流電力の出力を指示された場合、直流出力を指示する指令を、制御回路23に送信する。また、制御回路15は、直流電源装置1に異常が発生した場合に、通信線6を介して、制御装置7に、異常を知らせる情報を送信する。また、制御回路23は、交流変換装置2に異常が発生した場合に、通信線6を介して、制御装置7に、異常を知らせる情報を送信する。なお、制御回路23が、電流検出信号に基づいて算出した実効値を制御装置7に送信し、制御装置7が、当該実効値を直流電源装置1に送信してもよい。なお、制御装置7、制御回路15および制御回路23の間の通信内容は限定されない。
【0049】
本実施形態においても、直流電源装置1と交流変換装置2とは互いに離隔された別々の装置であり、直流用外部ケーブル41,42によって接続されている。したがって、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0050】
なお、第1および第2実施形態においては、溶接システムA1,A2がTIG溶接システムである場合について説明したが、これに限られない。本発明は、その他の半自動溶接システムにおいても適用できるし、ロボットによる全自動溶接システム、および、被覆アーク溶接システムなどにも適用できる。また、本発明は、サブマージアーク溶接システム、および、スタッド溶接システムなどにも適用できる。
【0051】
〔第3実施形態〕
図3は、第3実施形態に係る溶接システムA3を説明するための図であり、溶接システムA3の全体構成を示すブロック図である。同図において、第1実施形態に係る溶接システムA1(
図1参照)と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。なお、
図3においては、直流電源装置1およびインバータ回路21を簡略化して記載している。
【0052】
溶接システムA3は、サブマージアーク溶接システムである点と、4台の直流電源装置1が並列接続されている点で、第1実施形態に係る溶接システムA1(
図1参照)と異なる。サブマージアーク溶接は、被加工物Wの上に粒上のフラックスを散布し、フラックスの中に溶接ワイヤを送給して、溶接ワイヤの先端(以下では、「電極」と記載する場合がある)と被加工物Wとの間にアークを発生させて溶接を行うものである。サブマージアーク溶接では、太径の溶接ワイヤに大電流を流すことで、厚板を高能率で溶接することができる。サブマージアーク溶接には、大電流(例えば2000A)が必要であり、1台の直流電源装置1で出力することが困難なので、溶接システムA3では、4台の直流電源装置1が並列接続されている。
【0053】
溶接システムA3は、4台の直流電源装置1、交流変換装置2、直流用外部ケーブル41,42、出力ケーブル51,52、通信線6、台車81、ワイヤ送給装置82、ワイヤリール83、ホッパ84、電極85、および制御装置86を備えている。溶接システムA3は、被加工物Wの溶接線に沿って台車81を移動させながら、ホッパ84から粒上のフラックスを散布させ、ワイヤ送給装置82に溶接ワイヤをフラックスの中に送給させる。溶接ワイヤはワイヤリール83から供給される。溶接システムA3は、溶接ワイヤの先端(電極85)と被加工物Wとの間にアークを発生させて溶接を行う。
【0054】
制御装置86は、溶接システムA3の全体を制御する装置であり、サブマージアーク溶接システム特有の制御を行う。具体的には、制御装置86は、台車81を所定の移動速度で移動させる。移動速度は、被加工物Wの材質および厚さなどに応じて設定される。また、制御装置86は、ホッパ84にフラックスの散布の開始および停止を指示する。制御装置86は、ワイヤ送給装置82に、溶接ワイヤの送給の開始および停止を指示する。また、溶接ワイヤの送給速度も指示する。送給速度は、設定される溶接電流などに応じて設定される。制御装置86は、交流変換装置2に、電力出力の開始および停止を指示する。
【0055】
4台の直流電源装置1は、電源設備Pの近辺に配置され、それぞれ、電源設備Pから入力される交流電力を直流電力に変換して出力する。各直流電源装置1は、出力側で互いに並列接続されている。具体的には、各直流電源装置1の出力端子1aが互いに接続されて、直流用外部ケーブル41によって、交流変換装置2の入力端子2aに接続されている。また、各直流電源装置1の出力端子1bが互いに接続されて、直流用外部ケーブル42によって、交流変換装置2の入力端子2bに接続されている。交流変換装置2は、各直流電源装置1がそれぞれ出力する直流電力が合成されて入力される。交流変換装置2は、入力端子2a,2bから入力される直流電力を交流電力に変換して、出力端子2c,2dから出力する。出力端子2cは、出力ケーブル51によって電極85に接続されている。出力端子2dは、出力ケーブル52によって被加工物Wに接続されている。
【0056】
4台の直流電源装置1の各制御回路15(
図3においては図示しない)と、交流変換装置2の制御回路23とは、バス型の配線形態で配線された通信線6を介して、例えばフィールドバス通信により通信を行っている。なお、制御装置86も通信線6に接続されて、交流変換装置2と通信を行ってもよい。
【0057】
4台の直流電源装置1の各制御回路15は、通信線6を介して、制御回路23から、溶接条件に応じた電流指令値を入力される。また、各制御回路15は、通信線6を介して、制御回路23から、交流変換装置2の出力電流の実効値を入力される。そして、各制御回路15は、それぞれ、出力電流の実効値と電流指令値とに基づいて、インバータ回路12のスイッチング素子Q1~Q4を制御するための出力制御駆動信号を生成して、インバータ回路12に出力する。つまり、各制御回路15は、それぞれが、交流変換装置2の出力電流の実効値が電流指令値に一致するように、フィードバック制御を行う。
【0058】
交流変換装置2は、入力された直流電力を交流電力に変換して出力し、フラックスの内部で、溶接ワイヤの先端部分である電極85と被加工物Wとの間にアークを発生させる。当該アークの熱によって、溶接が行われる。これにより、被加工物Wの溶接線に沿って溶接が行われる。なお、台車81を用いる代わりに、被加工物Wを移動させたり、回転させたりしてもよい。
【0059】
本実施形態においても、各直流電源装置1と交流変換装置2とは互いに離隔された別々の装置であり、直流用外部ケーブル41,42によって接続されている。したがって、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、各直流電源装置1がそれぞれ出力する直流電力が合成されて交流変換装置2に入力される。したがって、溶接システムA3は、大電流を出力できる。
【0060】
交流出力の溶接電源装置を複数並列接続した場合、出力電流の正負が切り替るタイミングが一致しないと、循環電流が発生して、電力の損失が発生する。一方、溶接システムA3の場合、複数の直流電源装置1が出力する直流電力を合成するので、循環電流の発生による電力の損失が発生しない。
【0061】
なお、本実施形態においては、溶接システムA3が、直流電源装置1を4台備えている場合について説明したが、これに限られない。並列接続される直流電源装置1の数は限定されず、2台であってもよいし、3台であってもよいし、5台以上であってもよい。
【0062】
また、本実施形態においては、4台の直流電源装置1の各制御回路15がそれぞれ、交流変換装置2の出力電流の実効値が電流指令値に一致するように、フィードバック制御を行う場合について説明したがこれに限られない。各制御回路15は、それぞれ、自身が配置されている直流電源装置1の出力電流が、溶接条件に応じた電流指令値に一致するように、フィードバック制御を行ってもよい。この場合、4台の直流電源装置1の定格出力電力が同じであれば、電流指令値は、交流変換装置2の出力電流の実効値を制御する場合の4分の1になる。
【0063】
〔第4実施形態〕
図4は、第4実施形態に係る溶接システムA4を説明するための図であり、溶接システムA4の全体構成を示すブロック図である。同図において、第3実施形態に係る溶接システムA3(
図3参照)と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0064】
溶接システムA4は、各直流電源装置1と交流変換装置2との接続方法が、第3実施形態に係る溶接システムA3(
図3参照)と異なる。
【0065】
本実施形態に係る交流変換装置2は4組(またはそれ以上)の入力端子2a,2bを備えている。各直流電源装置1の出力端子1aは、それぞれ、直流用外部ケーブル41によって、交流変換装置2の入力端子2aに接続されている。また、各直流電源装置1の出力端子1bは、それぞれ、直流用外部ケーブル42によって、交流変換装置2の入力端子2bに接続されている。各入力端子2aは、交流変換装置2の内部で、互いに接続されて、インバータ回路21の正極側の入力端子に接続されている。また、各入力端子2bは、交流変換装置2の内部で、互いに接続されて、インバータ回路21の負極側の入力端子に接続されている。
【0066】
本実施形態においても、各直流電源装置1と交流変換装置2とは互いに離隔された別々の装置であり、それぞれ直流用外部ケーブル41,42によって接続されている。また、各直流電源装置1がそれぞれ出力する直流電力が合成されて交流変換装置2に入力される。したがって、本実施形態においても、第3実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0067】
なお、第3および第4実施形態においては、溶接システムA3,A4がサブマージアーク溶接システムである場合について説明したが、これに限られない。本発明は、TIG溶接システムなどの半自動溶接システムにおいても適用できるし、ロボットによる全自動溶接システム、および、被覆アーク溶接システムなどにも適用できる。また、本発明は、スタッド溶接システムなどにも適用できる。
【0068】
〔第5実施形態〕
図5は、第5実施形態に係る溶接システムA5を説明するための図であり、溶接システムA5の全体構成を示すブロック図である。同図において、第3実施形態に係る溶接システムA3(
図3参照)と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。なお、
図5においては、直流電源装置1および交流変換装置2を簡略化して記載している。
【0069】
溶接システムA5は、多電極式のサブマージアーク溶接システムである点で、第3実施形態に係る溶接システムA3(
図3参照)と異なる。
【0070】
溶接システムA5は、4台の直流電源装置1(101,102,103,104)、2台の交流変換装置2(201,202)、2本ずつの直流用外部ケーブル41(411,412),42(421,422)、2本ずつの出力ケーブル51(511,512),52(521,522)、2本の通信線6(601,602)、台車81、2個の電極85(851,852)、制御装置86、および通信線9を備えている。
図5においては記載を省略しているが、溶接システムA5は、2台のワイヤ送給装置82、2個のワイヤリール83、およびホッパ84も備えている。
【0071】
2個の電極85のうち、進行方向の前方(
図5において右側)に位置する電極85を電極851とし、後方(
図55において左側)に位置する電極85を電極852とする。電極851,852は、それぞれ異なるワイヤリール83(図示なし)から、それぞれ異なるワイヤ送給装置82(図示なし)によって送給された溶接ワイヤの先端部である。電極851,852は、台車81に配置されたホッパ84(図示なし)から散布されたフラックスの中に配置されている。
【0072】
溶接システムA5は、被加工物Wの溶接線に沿って台車81を移動させながら、電極851,852と被加工物Wとの間にそれぞれアークを発生させて溶接を行う。電極851,852の先端位置は、進行方向に平行に一直線に並んでいる。各電極851,852は、それぞれ溶接線に沿って溶接を行う。なお、各電極851,852の配置位置、間隔、ならびに、傾く方向および角度などは限定されない。また、各電極851,852の先端位置は、一直線に並ばなくてもよい。
【0073】
4台の直流電源装置1(101,102,103,104)は、電源設備Pの近辺に配置され、それぞれ、電源設備Pから入力される交流電力を直流電力に変換して出力する。直流電源装置101と直流電源装置102とは、出力側で互いに並列接続されている。具体的には、直流電源装置101,102の各出力端子1aが互いに接続されて、直流用外部ケーブル411によって、交流変換装置201の入力端子2aに接続されている。また、直流電源装置101,102の各出力端子1bが互いに接続されて、直流用外部ケーブル421によって、交流変換装置201の入力端子2bに接続されている。同様に、直流電源装置103と直流電源装置104とは、出力側で互いに並列接続されている。具体的には、直流電源装置103,104の各出力端子1aが互いに接続されて、直流用外部ケーブル412によって、交流変換装置202の入力端子2aに接続されている。また、直流電源装置103,104の各出力端子1bが互いに接続されて、直流用外部ケーブル422によって、交流変換装置202の入力端子2bに接続されている。
【0074】
2台の交流変換装置2(201,202)は、溶接箇所の近辺に配置され、入力される直流電力を所望の周波数の交流電力に変換して出力する。交流変換装置201は、直流電源装置101と直流電源装置102とがそれぞれ出力する直流電力が合成されて入力される。交流変換装置201は、入力端子2a,2bから入力される直流電力を交流電力に変換して、出力端子2c,2dから出力する。出力端子2cは、出力ケーブル511によって電極851に接続されている。出力端子2dは、出力ケーブル521によって被加工物Wに接続されている。交流変換装置202は、直流電源装置103と直流電源装置104とがそれぞれ出力する直流電力が合成されて入力される。交流変換装置202は、入力端子2a,2bから入力される直流電力を交流電力に変換して、出力端子2c,2dから出力する。出力端子2cは、出力ケーブル512によって電極852に接続されている。出力端子2dは、出力ケーブル522によって被加工物Wに接続されている。
【0075】
通信線601は、直流電源装置101,102の各制御回路15(
図5において図示なし)および交流変換装置201の制御回路23(
図5において図示なし)に接続されている。通信線602は、直流電源装置103,104の各制御回路15(
図5において図示なし)および交流変換装置202の制御回路23(
図5において図示なし)に接続されている。通信線9は、交流変換装置201,202の各制御回路23および制御装置86に接続されている。制御装置86は、通信線9を介して、各種指令を交流変換装置201,202の各制御回路23に送信する。例えば、制御装置86は、電極851で発生するアークと、電極852で発生するアークとが引き合わないようにするために、交流変換装置201の出力電流と交流変換装置202の出力電流とで位相をずらすように、交流変換装置201,202の各制御回路23に指令を送信する。また、制御装置86は、交流変換装置201の制御回路23に、直流電流の出力を指示する指令を出力することで、電極852には交流電力を供給し、電極851には直流電力を供給することもできる。なお、直流電源装置101,102,103,104の各制御回路15、交流変換装置201,202の各制御回路23、および制御装置86がすべて、バス型の配線形態で配線された通信線6で接続され、例えばフィールドバス通信により互いに通信を行ってもよい。
【0076】
本実施形態においても、各直流電源装置1と各交流変換装置2とは互いに離隔された別々の装置であり、直流用外部ケーブル41,42によって接続されている。したがって、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、本実施形態によると、直流電源装置101と直流電源装置102とがそれぞれ出力する直流電力が合成されて交流変換装置201に入力される。交流変換装置201が出力する交流電力は電極851に供給される。また、直流電源装置103と直流電源装置104とがそれぞれ出力する直流電力が合成されて交流変換装置202に入力される。交流変換装置202が出力する交流電力は電極852に供給される。したがって、溶接システムA5は、大電流を出力する2電極式の溶接を行うことができる。
【0077】
なお、本実施形態においては、交流変換装置201,202に接続される直流電源装置1がそれぞれ2台である場合について説明したが、これに限られない。交流変換装置201,202に接続される直流電源装置1は、1台であってもよいし、3台以上であってもよい。また、交流変換装置201と交流変換装置202とで、接続される直流電源装置1の数が異なってもよい。
【0078】
第3,4実施形態と第5実施形態とに示すように、4台の直流電源装置1と2台の交流変換装置2とがあれば、その組み合わせ方によって、溶接システムA3~A5を構成することができる。つまり、各直流電源装置1と各交流変換装置2とが互いに離隔された別々の装置であり、直流用外部ケーブル41,42によって接続可能なユニット型なので、出力形態に合わせて、構成を多様化することができる。
【0079】
なお、第1~第5実施形態においては、本発明を溶接システムに適用した場合について説明したが、これに限られない。例えば、先端に発生させたアークによって被加工物Wを切断するアーク切断システムや、被加工物Wに溝彫りを行うアークガウジングシステムなどにおいても、本発明は適用可能である。
【0080】
本発明に係る溶接システムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る溶接システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0081】
A1~A5:溶接システム、1:直流電源装置、11,14:整流平滑回路、12:インバータ回路、2:交流変換装置、41,42:直流用外部ケーブル