IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バーサリ テックスティル サナイ べ ティカレット アノニム シルケティの特許一覧

特許7416525セルロース製品用の環境に優しい染色プロセス
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】セルロース製品用の環境に優しい染色プロセス
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/00 20060101AFI20240110BHJP
   D06M 13/432 20060101ALI20240110BHJP
   D06M 13/463 20060101ALI20240110BHJP
   D06P 1/34 20060101ALI20240110BHJP
   D06P 3/58 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
D06P5/00 101
D06M13/432
D06M13/463
D06P1/34
D06P3/58
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022503999
(86)(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-26
(86)【国際出願番号】 TR2020050764
(87)【国際公開番号】W WO2021040662
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】2019/12917
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(73)【特許権者】
【識別番号】522025732
【氏名又は名称】バーサリ テックスティル サナイ べ ティカレット アノニム シルケティ
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 友和
(72)【発明者】
【氏名】エネル,ユーファン
(72)【発明者】
【氏名】アキヨール,グジン
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-127721(JP,A)
【文献】特開平11-158785(JP,A)
【文献】特開平06-192978(JP,A)
【文献】特開平06-173176(JP,A)
【文献】特開平04-281079(JP,A)
【文献】特開2011-246722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 5/00
D06M 13/432
D06M 13/463
D06P 1/34
D06P 3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タオルやバスローブといったテキスタイル製品の製造に用いられるセルロース製品に適用されて前処理および染色プロセスを可能にし、一浴中で実施される方法であって、以下のステップを含む方法。
a)前記浴内に配した水を60℃に加熱し、
b)加熱した前記浴中に前記セルロース製品を入れて、前記製品が確実に均一に濡れるように湿潤剤を添加し、
c)予め混合して調製したアミラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼおよびカチオン化剤の混合物を添加して前処理浴を調製し、
d)前記セルロース製品をpH値6-6.5の前記浴中で45分間処理し、
e)前処理プロセスの完了後、同じ浴に天然染料および媒染物質を添加して前記染料を前記セルロース製品に結合可能とし、
f)温度を95℃まで上昇させることにより、染色プロセスを行う。
【請求項2】
前記前処理浴は、水87-93.4質量%、湿潤剤1-2.5%、アミラーゼ05-1%、セルラーゼ0.1-0.5%、ペクチナーゼ4-7%およびカチオン化剤1-2%からなることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップcのプロセスにおいて、前記カチオン化剤が、四級アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩酸塩、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素、メチロールヒドロキシエチレン尿素または塩化コリンであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップeのプロセスにおいて、前記天然染料が、松抽出物、ターメリック色素、ハイビスカス色素、クルミ殻抽出物、ザクロ皮抽出物またはタマネギ抽出物であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップeのプロセスにおいて、前記媒染物質が、タンニン酸、酢およびレモンからなる群から選択される1つまたはこれらの組み合わせであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タオルやバスローブといったテキスタイル製品の製造に用いられるセルロース製品に適用されて前処理および染色プロセスを可能にし、天然の生物学的製剤を用いて一浴中で実施される、環境に優しい方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に優しい活動の増加と平行して消費者が天然製品に目を向けるようになったのに伴い、食品からテキスタイルに至るまで広く天然製品の消費が同じ比率で増加している。
環境意識の高まりによって、製品の美観だけでなく、製造段階で使用される原材料の自然への肯定的および否定的な寄与が、消費者の需要と選択の決定に影響を与えるようになってきている。
【0003】
綿繊維といったセルロース材料をタオル製造用の最終テキスタイル材料に変換するプロセスは、多くのプロセスおよび段階からなる。前記プロセスおよび段階は、前処理、後の糊抜きを伴う織編布帛の製造からなる仕上げおよび染色プロセス、親水化、綿繊維を糸に紡績した後の漂白、からなる。
【0004】
現行技術では、綿製品の前処理プロセスおいて、湿潤剤、イオンイモビライザ、安定化剤、腐食剤、過酸化水素、酢酸、抗過酸化酵素といった総じて多くの有害な化学物質が使用されており、またこのプロセスは、3つのステップで3つの異なる浴中において行われている。第1のステップには、親水化、糊抜きおよび漂白プロセスが含まれ、このプロセスは高温(98℃)で行われるが、湿潤剤、イオンイモビライザ、安定化剤、腐食剤および過酸化水素といった化学物質が使用される。第2のステップでは、90℃ですすぐことによってこれらの有害な化学物質の過剰分が熱水で除去され、最終段階では、布帛上に残存している可能性がある酢酸および過酸化化学物質が抗過酸化酵素で除去されて、布帛が中和される。前処理プロセスが完了すると、綿上の油、ワックス、泥が乗り除かれ、確実に外観が白くなる。続いて、別の新しいステップおよび浴中で、塩、ナトリウム化合物、酢酸および活性染料基を用いた染色プロセスが行われる。前記プロセスで使用される化学物質は、製造プロセスにおいても、また環境や意識の高いユーザにとっても、幾つかのデメリットを生じる。
【0005】
環境負荷を低減して環境に優しい製造を行うためには、織物の前処理において、処理プロセスで使用される材料を意識的に注意深く選択することが必要である。これらの化学物質の使用を完全になくすことはできないため、少なくとも、より環境に優しく共存可能な材料や新技術を優先することが必要である。加えて、従来のプロセスで適用される前処理では、有用で自然な柔軟性(セルフタッチ、self-touch)を与える綿上の材料が、綿から除去されていた。こうした状況では、綿の強度が低下するだけでなく、タッチを与えるために仕上げプロセスの中で柔軟仕上げを行うべきとなる。仕上げで付与される柔軟剤の耐久性は、ほんの洗濯10回-15回に限定される。
【0006】
本現出願で言及した欠点を取り除くため、特に環境に優しい酵素が綿織物の染色準備プロセスにおいて集中的に使われ始めており、組合せプロセスの開発研究も行われるようになってきている。綿および綿混合材料の前処理に総じて使用されている酵素は、アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ、リパーゼ、カタラーゼおよびラッカーゼである。これらの酵素は、糊抜き、親水化、柔軟化、バイオポリッシング(bio-polishing)の効果を材料に与えるために使用されている。
【0007】
前処理プロセスを完了した後、水ですすいでから、綿製品をアゾ、カルボニル、シアニン、ジフェニルメタンおよびトリフェニルメタンならびにフタロシアニンといった発色団を含有する染料化学物質に接触させ、これらを染色プロセス用の異なる浴中に入れて、発色させる。染色プロセスの間に生じた排水は、重金属を含んでいる可能性があり、発がん性を示す可能性もある。この状況は、人間と環境の健康および染色プロセスの対象となるテキスタイル製品の両方に、ダメージを与える。
これら全てに加えて、高いpH、高い酸素要求量、厳しい労働条件および高いコストといった問題が、しばしば引き起こされる。
【0008】
この結果、先述した欠点および欠陥のため、関連技術分野におけるイノベーションの創出が希求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上で言及した要件を満たし、全てのデメリットを取り除いて幾つかの付加的なメリットをもたらす、セルロース製品用の環境に優しい染色プロセスに関する。
【0010】
本発明の主たる目標は、セルロース製品の前処理および染色プロセスを、天然の生物学的製剤を用いて一浴中で行うことである。
【0011】
本発明の目標は、パーマネントタッチを与えるプロセスを提案し、また天然染料を用いた染色の環境廃棄物負荷を確実に最低レベルとすることである。
【0012】
本発明の目標は、カチオン化剤を用いることにより、前処理プロセスを行ったセルロース製品を天然染料で染色することである。カチオン化剤を添加すると、アニオン性の綿製品のイオン性がカチオン性となり、よってアニオン性天然染料に対する綿製品の親和性が増大する。この結果、染料の使用量削減が可能となる。
【0013】
本発明の目標は、セルロース製品上の有用な物質を確実に残存させながら、特別な酵素およびカチオン化剤を適切なpH範囲で同じ浴中で混合することによって天然染料と結合させることである。
【0014】
本発明の目的は、前処理および染色プロセスを一浴中で行って、水およびエネルギー消費を節約することである。
【0015】
本発明の目的は、イオンイモビライザ、安定化剤、抗過酸化酵素、腐食剤、酢酸、過酸化水素といった物質を除去することにより、有害化学物質の使用を最小化することである。
【0016】
本発明の別の目的は、環境にとって脅威とならない環境に優しい方法でタオルを染色することである。
【0017】
本発明の別の目的は、製造に必要な労働を削減し、生産速度を増加させることである。
【0018】
上に記載した目標を達成するため、本発明は、タオルやバスローブといったテキスタイル製品の製造に用いられるセルロース製品に適用されて前処理および染色プロセスを可能にし、一浴中で実施される方法であって、以下のステップを含む;
・前記浴中に配した水を60℃に加熱し、
・加熱した前記水浴中にセルロース製品を入れて、前記製品が確実に均一に濡れるように湿潤剤を添加し、
・予め混合して調製したアミラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼおよびカチオン化剤の混合物を添加して前処理浴を調製し、
・前記セルロース製品をpH値6-6.5の浴中で45分間処理し、
・前処理プロセスの完了後、同じ浴に天然染料および媒染物質を添加して前記染料を前記セルロース製品に結合可能とし、
・温度を95℃まで上昇させることにより、染色プロセスを行う。
【0019】
本発明の構造的および特有の性質ならびに全体的な優位性は、以下に記載する詳細な説明のおかげでより明確に理解され、したがって、この詳細な説明を考慮して評価が下されるべきであろう。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この詳細な説明では、タオルやバスローブといったテキスタイル製品の製造に用いられるセルロース製品に適用されて前処理および染色プロセスを可能にし、天然の生物学的製剤を用いて一浴中で実施される、環境に優しい方法が開示されるが、趣旨をより良く理解するためであって、何らの制限的効果を生じるものではない。
【0021】
【表1】
【0022】
タオルやバスローブといったテキスタイル製品の製造に用いられるセルロース製品に適用されて前処理および染色プロセスを可能にし、一浴中で実施される方法は、以下のように実施される;
・浴中に配した水を60℃に加熱し、
・加熱した水浴中に前記セルロース製品を入れて、前記製品が確実に均一に濡れるように湿潤剤を添加し、
・続いて、予め容器中で混合したアミラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼおよびカチオン化剤を添加して前処理浴を調製し、
・セルロース製品をpH値6-6.5の前記浴中で45分間処理し、
・前処理プロセスの完了後、染料がセルロース製品に結合可能となるように同じ浴に天然染料および媒染物質を添加して温度を95℃まで上昇させることにより、染色プロセスを実施する。
【0023】
本発明の方法で使用される湿潤剤によってセルロース製品が均一に濡れると、次のプロセスステップで添加されるアミラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼおよびカチオン化剤物質が、製品内部に適切に浸透可能となる。
【0024】
研究を行った結果、セルロース製品に適用される前処理および染色プロセスに最適な時間を45分、温度を60℃に決定した。60℃より低い温度で行われた前処理プロセスでは、所望の収率を達成できない。従って、前処理プロセスの後で行われる染色を適切に行うことができない。また、処理時間が45分より短いと、前処理プロセスにおいて効果的な結果が得られない。染色プロセスで温度を95℃まで上昇させることにより、布帛中に染料が良好に浸透するようになる。
【0025】
湿潤剤は、非イオン性界面活性剤であって、前処理浴を構成する他の物質(カチオン化剤および酵素)を、セルロース製品の表面により良好に浸透させる。
【0026】
アミラーゼは、セルロース製品上の澱粉サイズ(starch size)を除去する。アミラーゼは、安価で容易に入手可能な天然の酵素物質である。
【0027】
セルラーゼは、セルロース製品構造のセルロースを加水分解して、布帛表面を滑らかにし、ピリングを生じ難くし、バイオポリッシング機能も発揮する。
【0028】
ペクチナーゼは、セルロース製品構造のペクチンを除去することにより、セルロース製品を親水化させる。
【0029】
アニオン性のセルロース製品のイオン性は、カチオン化剤によってカチオン性になる。よって、アニオン性染料に対する製品の親和性が増加することにより、染料の使用量削減が可能となる。セルロース製品を水溶液環境中に浸漬した後には、全ての繊維表面に陰荷電の蓄積が確認される。このため、セルロース製品の染色にアニオン性染料を使用すると、表面に生じた陰荷電によって互いに反発し合う傾向があり、染色プロセスが難しくなる。
本発明の好ましい実施形態では、四級アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩酸塩、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素、メチロールヒドロキシエチレン尿素、または塩化コリンを、カチオン化剤として用いることができる。
【0030】
染色プロセスステップで使用される媒染物質は、生分解性の(エコロジカルな)物質であって、環境および人間の健康に悪影響を与えない。本発明の好ましい実施形態で使用される媒染物質は、タンニン酸、酢およびレモンからなる群から選択される1つまたは組み合わせである。
【0031】
セルロース製品上に蓄積される陰荷電は、カチオン化剤のおかげで陽荷電に変換される。この結果、表面に蓄積された荷電が変えられることによって、セルロース製品の表面が天然染料で染色される。カチオン化された製品への天然染料の固定は容易となる。本発明の好ましい実施形態では、松抽出物、ターメリック色素、ハイビスカス色素、クルミ殻抽出物、ザクロ皮抽出物、またはタマネギ抽出物を、天然染料として使用できる。
【0032】
前処理プロセスの間に、セルロース製品(原綿)上の油、ワックス、泥等といった不純物が除去される一方、カチオン化プロセスによって綿の構造の化学結合が開き、布帛への天然染料の親和性はより良好となる。
【0033】
本発明の方法では、全てのプロセスが一浴中で行われるため、pH値は6-6.5であるべきである。値がこれより高くなると、前処理およびカチオン化プロセスの効率が低下し、染色も非効率化してしまう。したがって、本発明の方法では、適切なpH範囲で互いに協働可能な物質を使用する。試行研究の結果、最適なランニングpHの範囲を決定した。これらの全ての研究の結果、1つのプロセスの共通のランニングpH値を、各物質に最適なpH範囲内である6-6.5に決定した。