(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ポリグリセリン脂肪酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C11C 3/02 20060101AFI20240110BHJP
C07C 69/30 20060101ALI20240110BHJP
C07C 67/08 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C11C3/02
C07C69/30
C07C67/08
(21)【出願番号】P 2019173486
(22)【出願日】2019-09-24
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】390028897
【氏名又は名称】阪本薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】稲岡 知和
(72)【発明者】
【氏名】近藤 聖典
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-166658(JP,A)
【文献】特開2013-194032(JP,A)
【文献】特開平04-297440(JP,A)
【文献】特開2009-268369(JP,A)
【文献】特開平08-217725(JP,A)
【文献】特開2001-200288(JP,A)
【文献】特開2018-153155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00- 15/00
C11C 1/00- 5/02
C07C67/08
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00- 90/00
A23D 7/00- 9/06
C09K23/00- 23/56
C11D 1/00- 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基価より算出される平均重合度が2~20のポリグリセリンと炭素数8~22の脂肪酸を反応させるポリグリセリン脂肪酸エステルの製造方法において、ポリグリセリンと脂肪酸を反応させる温度が180~270℃であり、反応中に不活性ガスを内包したマイクロバブルを供給することを特徴とするポリグリセリン脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項2】
マイクロバブルに内包される不活性ガスが窒素であることを特徴とする請求項1記載のポリグリセリン脂肪酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリグリセリン脂肪酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの製造工程は、高温で反応されるため、反応終了後のポリグリセリン脂肪酸エステルには臭気物質が含有される。化粧品や食品用途のポリグリセリン脂肪酸エステルでは、臭気が良好であることが要望される。そのため、反応終了後に水蒸気脱臭や窒素増量による脱臭工程を設けて臭気物質を追い出して、ポリグリセリン脂肪酸エステルの臭気を改善している。非特許文献1で報告されているように、グリセリンと脂肪酸のエステル化物である油脂についても一般的に水蒸気脱臭が行われている。しかし、脱臭工程の追加は反応終了後に製造工程が増える課題がある。さらに、脱臭時は減圧や加熱する必要があり、条件によっては臭気を悪化させる可能性がある。また、非特許文献2において報告されているように、活性炭に臭気や色を除去する能力があることが知られている。ポリグリセリン脂肪酸エステルの合成においても反応液を処理することで反応終了後の臭気を改善できることは公知である。この方法についても、活性炭のろ過処理が必要となり、製造工程が増える課題がある。
【0003】
特許文献1において、窒素を含有したマイクロバブルは油脂の酸化による劣化を抑制することが報告されている。この報告では、マイクロバブルを供給する温度条件について記載されておらず、臭気の抑制については言及されていない。反応中に臭気物質を追い出し、臭気を抑制させる報告例は見当たらない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】浜本武幸ら著、日本油化学会誌、第48巻、第10号、1123-1131(1999)
【文献】芳倉太郎著、生活衛生、第41巻、第5号、161-173(1997)
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ポリグリセリンと脂肪酸を反応させる際に、製造工程を増やすことなく反応終了後の臭気が抑制されたポリグリセリン脂肪酸エステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリグリセリンと脂肪酸を反応させる際、180~270℃の高温の反応液に不活性ガスをマイクロバブルとして供給することにより、反応終了後に臭気が抑制されたポリグリセリン脂肪酸エステルが得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、水酸基価から算出される平均重合度が2~20のポリグリセリンと炭素数8~22の脂肪酸を反応させるポリグリセリン脂肪酸エステルの製造方法において、ポリグリセリンと脂肪酸を反応させる温度が180~270℃であり、不活性ガスを内包したマイクロバブルを供給することを特徴とするポリグリセリン脂肪酸エステルの製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、マイクロバブルに内包される不活性ガスが窒素であることを特徴とするポリグリセリン脂肪酸エステルの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、脱臭工程などの煩雑な精製工程を経ることなく、反応終了後に臭気が抑制されたポリグリセリン脂肪酸エステルを製造することができる。また、本発明により製造されたポリグリセリン脂肪酸エステルは、臭気が良好であることから食品、化粧品の分野で有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための形態をより詳細に説明するが、本発明の範囲は、この実施形態に限定するものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で変更等が加えられた形態も本発明に属する。
【0012】
本発明で使用するポリグリセリンは、水酸基価から算出される平均重合度が2~20のものを使用する。本明細書において水酸基価から算出される平均重合度(n)とは、末端分析法によって算出される値であり、次式(式1)及び(式2)から算出される。
(式1)分子量=74n+18
(式2)水酸基価=56110(n+2)/分子量
前記水酸基価とは、エステル化物中に含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1gのエステル化物に含まれる遊離のヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいい、水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法、2013年度版」に準じて算出される。
【0013】
本発明で使用する脂肪酸は、炭素数が8~22の飽和または不飽和脂肪酸であり、その構造は直鎖であっても分岐状であってもよい。例えば、カプリル酸、2-エチルヘキサン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、エルカ酸等が挙げられる。これらの脂肪酸は単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0014】
上記ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化反応は、反応速度を速めるために触媒存在下で行うことが好ましい。酸触媒も使用できるが、通常はアルカリ触媒が用いられる。使用できるアルカリ触媒としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カリウムなどのアルカリ土類金属、これらの酸化物、水酸化物、アルコラート、炭酸塩、重炭酸塩などが挙げられる。アルカリ触媒を使用する場合の量は、通常のエステル化反応に使用される範囲で、ポリグリセリンと脂肪酸との合計量に対して5重量%以下である。
【0015】
本発明の方法に従いエステル化反応する際には、ポリグリセリン、脂肪酸、触媒を仕込み、窒素を供給し、撹拌下、加熱することによって、遂行する。この際の加熱温度は、180~270℃の範囲である。揮発性の臭気成分は温度が高いほど留出されやすく、180℃より低い温度では臭気を留出させる効率が低下するため好ましくない。一方、温度が270℃より高い場合は、臭気成分を留出させても、反応中に原料の酸化、熱分解が生じやすく、臭気が悪化するため好ましくない。
【0016】
本発明では、マイクロバブルを供給するためのマイクロバブル発生装置、留出管、および、撹拌機を備えた反応器を用いて、エステル化反応を行う。反応器の材質、形状は問わないが、内温を調節できる加熱ジャケットを装着した縦型反応槽が好ましい。
【0017】
マイクロバブル発生装置のマイクロバブル発生方式は、エジェクタ方式、加圧溶解方式、キャビテーション方式、旋回流方式、超音波方式、超微細孔方式などの様々な方式があり、本発明では何れの方式を用いてもよい。
【0018】
本発明で供給される不活性ガスは、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴンおよびそれらの混合物の何れも問わないが、費用対効果の点で窒素が好ましい。反応液1Lあたりに供給される不活性ガスの流量は、0.001~1L/minが好ましい。不活性ガスの流量を0.001L/min以上とすることで臭気は抑制されるが、1L/minを超えて不活性ガスを供給しても臭気の抑制効果が大幅に向上することはない。
【実施例】
【0019】
以下に具体的な実施例を示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0020】
[実施例1]
マイクロバブル発生装置、留出管、温度計、加熱ジャケット、撹拌機を備えた容量1Lの反応器にポリグリセリン(平均重合度2、水酸基価1352)96.9gと、オレイン酸644.2gと水酸化ナトリウム0.07gを仕込んで撹拌、混合した。マイクロバブル発生装置より窒素を0.4L/minで吹き込み、反応器の内温を227℃に昇温した。この温度で酸価が5以下となるまで反応した。得られたポリグリセリン脂肪酸エステルの酸価は5.0であった。酸価は基準油脂分析試験法に準じて測定した。なお、実施例2、3、比較例1、2における酸価も同様に算出した。
【0021】
[実施例2]
ポリグリセリンとオレイン酸のエステル化反応において、反応温度を250℃とした以外は実施例1と同様の方法でポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。得られたポリグリセリン脂肪酸エステルの酸価は5.0であった。
【0022】
[実施例3]
実施例1と同じ反応器にポリグリセリン(平均重合度10、水酸基価888)253.1gと、イソステアリン酸504.1gと水酸化ナトリウム0.35gを仕込んで撹拌、混合した。マイクロバブル発生装置より窒素を0.4L/minで吹き込み、反応器の内温を250℃に昇温した。この温度で酸価が0.5以下となるまで反応した。得られたポリグリセリン脂肪酸エステルの酸価は0.2であった。
【0023】
[比較例1]
実施例1で使用したマイクロバブル発生装置をガラス管(φ5mm)に変更した。ポリグリセリン、オレイン酸、水酸化ナトリウムの仕込み量は実施例1と同量とし、ガラス管より窒素を0.4L/minで供給しながら227℃で反応した。得られたポリグリセリン脂肪酸エステルの酸価は4.9であった。
【0024】
[比較例2]
実施例3で使用したマイクロバブル発生装置をガラス管(φ5mm)に変更した。ポリグリセリン、イソステアリン酸、水酸化ナトリウムの仕込み量は実施例3と同量とし、ガラス管より窒素を0.4L/minで供給しながら250℃で反応した。得られたポリグリセリン脂肪酸エステルの酸価は0.2であった。
【0025】
(臭気の評価)
実施例1~3、比較例1、2で合成したポリグリセリン脂肪酸エステルをそれぞれ140mLのマヨネーズ瓶に40g量り取り、50℃で30分間加温したものを臭気の評価サンプルとした。臭気スコアの範囲を1から5までとし、数値が大きくなるほど臭気の強度が強くなるものとして0.5刻みで臭気の強度を評価した。評価対象サンプルの試料名を伏せて4名の評価員で評価し、その平均値を臭気スコアとした。結果を表1に示した。
【0026】
【0027】
ポリグリセリンの平均重合度、脂肪酸種が異なる場合であっても、不活性ガスを含有するマイクロバブルを反応液に供給した実施例は、比較例に比べて臭気が抑制されたことがわかる。