(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】水中搬送装置及び水中搬送方法
(51)【国際特許分類】
G21C 19/02 20060101AFI20240110BHJP
B63C 11/00 20060101ALI20240110BHJP
B63C 11/52 20060101ALI20240110BHJP
G21C 13/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G21C19/02 100
B63C11/00 F
B63C11/52
G21C13/00 220
(21)【出願番号】P 2021029635
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】玉古 博朗
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第19756244(DE,A1)
【文献】特開2011-196903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 19/02
B63C 11/00
B63C 11/52
G21C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉ウェルのプールと水が満たされて連通しているドライヤセパレータプール内に保管されている放射化された炉内構造物を、前記原子炉ウェルのプールと前記ドライヤセパレータプールとの水が満たされた連通部を介して前記原子炉ウェルのプール内に浮力を用いて搬送する
水中搬送装置は、前記放射化された炉内構造物に覆いかぶさるように保持して搬送するか、或いは2台の前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物を間に挟むように保持して搬送し、
前記水中搬送装置は、水中において気体を出し入れし浮力を調整する浮力調整部と、前記放射化された炉内構造物を保持するための保持部と、該保持部による前記放射化された炉内構造物を保持する保持時の転倒を防止するため、水平方向のバランスを調整する調整機構と、を備え、
前記放射化された炉内構造物には複数のリフティングロッドが設けられており、
前記保持部は、前記水中搬送装置の上部に設置されたロッドピンと、エアホースを有するエアシリンダと、を備え、
前記エアシリンダに前記エアホースから空気を注入して前記ロッドピンを押し出すことで、前記リフティングロッドの上部に形成された穴に前記ロッドピンが篏合して前記放射化された炉内構造物を保持することを特徴とする水中搬送装置。
【請求項2】
原子炉ウェルのプールと水が満たされて連通しているドライヤセパレータプール内に保管されている放射化された炉内構造物を、前記原子炉ウェルのプールと前記ドライヤセパレータプールとの水が満たされた連通部を介して前記原子炉ウェルのプール内に浮力を用いて搬送する水中搬送装置は、前記放射化された炉内構造物に覆いかぶさるように保持して搬送するか、或いは2台の前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物を間に挟むように保持して搬送し、
前記水中搬送装置は、水中において気体を出し入れし浮力を調整する浮力調整部と、前記放射化された炉内構造物を保持するための保持部と、該保持部による前記放射化された炉内構造物を保持する保持時の転倒を防止するため、水平方向のバランスを調整する調整機構と、を備え、
前記放射化された炉内構造物には複数のリフティングロッドが設けられており、
前記保持部を構成する吊り具は、巻上機と、該巻上機により吊り上げたり、吊り下ろしされるチェーン又はワイヤーと、前記巻上機が設置される第1の部材と、前記チェーン又はワイヤーの先端に設置され、前記巻上機による吊り上げ、吊り下げ動作に伴い上下動する第2の部材と、該第2の部材の下方に設置されたロッドピンと、該ロッドピンを動作させるエアホースを有するエアシリンダと
、を備え、
前記エアシリンダに前記エアホースから空気を注入して前記ロッドピンを押し出すことで、前記リフティングロッドの上部に形成された穴に前記ロッドピンが篏合して前記放射化された炉内構造物を保持し、この状態で前記巻上機による吊り上げ、吊り下げ動作に伴い前記放射化された炉内構造物の吊り上げ、吊り下げ作業が行われることを特徴とする水中搬送装置。
【請求項3】
原子炉ウェルのプールと水が満たされて連通しているドライヤセパレータプール内に保管されている放射化された炉内構造物を、前記原子炉ウェルのプールと前記ドライヤセパレータプールとの水が満たされた連通部を介して前記原子炉ウェルのプール内に浮力を用いて搬送する水中搬送装置は、前記放射化された炉内構造物に覆いかぶさるように保持して搬送するか、或いは2台の前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物を間に挟むように保持して搬送し、
前記水中搬送装置は、水中において気体を出し入れし浮力を調整する浮力調整部と、前記放射化された炉内構造物を保持するための保持部と、該保持部による前記放射化された炉内構造物を保持する保持時の転倒を防止するため、水平方向のバランスを調整する調整機構と、を備え、
前記保持部は、L字部が回転及び上下スライドが可能なL字型のロッドを有し、前記水中搬送装置の下部にL字型の前記ロッドを配置し、このL字型の前記ロッドを回転させることでL字部の先端を前記放射化された炉内構造物の下側に設置し、そのまま前記水中搬送装置が浮力により上昇することで前記ロッドのL字部が前記放射化された炉内構造物を持ち上げ保持することを特徴とする水中搬送装置。
【請求項4】
原子炉ウェルのプールと水が満たされて連通しているドライヤセパレータプール内に保管されている放射化された炉内構造物を、前記原子炉ウェルのプールと前記ドライヤセパレータプールとの水が満たされた連通部を介して前記原子炉ウェルのプール内に浮力を用いて搬送する水中搬送装置は、前記放射化された炉内構造物に覆いかぶさるように保持して搬送するか、或いは2台の前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物を間に挟むように保持して搬送し、
前記水中搬送装置は、水中において気体を出し入れし浮力を調整する浮力調整部と、前記放射化された炉内構造物を保持するための保持部と、該保持部による前記放射化された炉内構造物を保持する保持時の転倒を防止するため、水平方向のバランスを調整する調整機構と、を備え、
前記浮力調整部は、逆U状に形成された容器と、該容器の上部に設けられたエアホースと
、から成り、前記エアホースから空気を出し入れすることで前記容器内に空気が入り、前記容器の下側開口部から水が押し出され浮力が調整され
、
前記水中搬送装置は、前後、左右のバランスの微調整を行う重石から成る調整機構を備えていることを特徴とする水中搬送装置。
【請求項5】
原子炉ウェルのプールと水が満たされて連通しているドライヤセパレータプール内に保管されている放射化された炉内構造物を、前記原子炉ウェルのプールと前記ドライヤセパレータプールとの水が満たされた連通部を介して前記原子炉ウェルのプール内に浮力を用いて搬送する水中搬送装置は、前記放射化された炉内構造物に覆いかぶさるように保持して搬送するか、或いは2台の前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物を間に挟むように保持して搬送し、
前記水中搬送装置は、水中において気体を出し入れし浮力を調整する浮力調整部と、前記放射化された炉内構造物を保持するための保持部と、該保持部による前記放射化された炉内構造物を保持する保持時の転倒を防止するため、水平方向のバランスを調整する調整機構と、を備え、
水平方向のバランスを調整する前記調整機構は、前記水中搬送装置の外表面に設置された複数のブラケットを備え、前記ブラケットにワイヤーを通し、外部から前記ワイヤーを引っ張ったり或いは緩めたりすることで、前記水中搬送装置のバランスを調整することを特徴とする水中搬送装置。
【請求項6】
原子炉ウェルのプールと水が満たされて連通しているドライヤセパレータプール内に保管されている放射化された炉内構造物を、前記原子炉ウェルのプールと前記ドライヤセパレータプールとの水が満たされた連通部を介して前記原子炉ウェルのプール内に浮力を用いて搬送する水中搬送装置は、前記放射化された炉内構造物に覆いかぶさるように保持して搬送するか、或いは2台の前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物を間に挟むように保持して搬送し、
前記水中搬送装置は、水中において気体を出し入れし浮力を調整する浮力調整部と、前記放射化された炉内構造物を保持するための保持部と、該保持部による前記放射化された炉内構造物を保持する保持時の転倒を防止するため、水平方向のバランスを調整する調整機構と、を備え、
水平方向のバランスを調整する前記調整機構は、前記水中搬送装置の内部が仕切板で仕切られた複数の小部屋と、それぞれの前記小部屋に接続されたホースと
、から成り、前記ホースから注入される空気の量を前記小部屋毎に調整することで、前記水中搬送装置のバランスを調整することを特徴とする水中搬送装置。
【請求項7】
請求項
6記載の水中搬送装置であって、
前記水中搬送装置は、前後、左右のバランスの微調整を行う重石から成る調整機構を備えていることを特徴とする水中搬送装置。
【請求項8】
原子炉ウェルのプールと水が満たされて連通しているドライヤセパレータプール内に保管されている放射化された炉内構造物を、前記原子炉ウェルのプールと前記ドライヤセパレータプールとの水が満たされた連通部を介して前記原子炉ウェルのプール内に浮力を用いて水中搬送装置で搬送する
水中搬送方法であって、
前記放射化された炉内構造物を、浮力を用いて水中搬送装置で搬送する際に、
前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物に覆いかぶさるように保持して搬送するか、或いは2台の前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物を間に挟むように保持して搬送し、
前記水中搬送装置は、水中において気体を出し入れし浮力を調整する浮力調整部と、前記放射化された炉内構造物を保持するための保持部と、該保持部による前記放射化された炉内構造物を保持する保持時の転倒を防止するため、水平方向のバランスを調整する調整機構と、を備えていると共に、
前記放射化された炉内構造物には複数のリフティングロッドが設けられており、更に、前記保持部は、前記水中搬送装置の上部に設置されたロッドピンと、エアホースを有するエアシリンダと、を備え、
前記エアシリンダに前記エアホースで空気を注入して前記ロッドピンを押し出すことで、前記リフティングロッドの上部に形成された穴に前記ロッドピンが篏合して前記放射化された炉内構造物を保持して搬送することを特徴とする水中搬送方法。
【請求項9】
原子炉ウェルのプールと水が満たされて連通しているドライヤセパレータプール内に保管されている放射化された炉内構造物を、前記原子炉ウェルのプールと前記ドライヤセパレータプールとの水が満たされた連通部を介して前記原子炉ウェルのプール内に浮力を用いて水中搬送装置で搬送する水中搬送方法であって、
前記放射化された炉内構造物を、浮力を用いて水中搬送装置で搬送する際に、
前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物に覆いかぶさるように保持して搬送するか、或いは2台の前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物を間に挟むように保持して搬送し、
前記水中搬送装置は、水中において気体を出し入れし浮力を調整する浮力調整部と、前記放射化された炉内構造物を保持するための保持部と、該保持部による前記放射化された炉内構造物を保持する保持時の転倒を防止するため、水平方向のバランスを調整する調整機構と
、を備えていると共に、
前記放射化された炉内構造物には複数のリフティングロッドが設けられており、更に、前記保持部を構成する吊り具は、巻上機と、該巻上機により吊り上げたり、吊り下げされるチェーン又はワイヤーと、前記巻上機が設置される第1の部材と、前記チェーン又はワイヤーの先端に設置され、前記巻上機による吊り上げ、吊り下げ動作に伴い上下動する第2の部材と、該第2の部材の下方に設置されたロッドピンと、該ロッドピンを動作させるエアホースを有するエアシリンダと
、を備え、
前記エアシリンダに前記エアホースから空気を注入して前記ロッドピンを押し出すことで、前記リフティングロッドの上部に形成された穴に前記ロッドピンが篏合して前記放射化された炉内構造物を保持し、この状態で前記巻上機による吊り上げ、吊り下げ動作に伴い前記放射化された炉内構造物の吊り上げ、吊り下げ作業が行われることを特徴とする水中搬送方法。
【請求項10】
原子炉ウェルのプールと水が満たされて連通しているドライヤセパレータプール内に保管されている放射化された炉内構造物を、前記原子炉ウェルのプールと前記ドライヤセパレータプールとの水が満たされた連通部を介して前記原子炉ウェルのプール内に浮力を用いて水中搬送装置で搬送する水中搬送方法であって、
前記放射化された炉内構造物を、浮力を用いて水中搬送装置で搬送する際に、
前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物に覆いかぶさるように保持して搬送するか、或いは2台の前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物を間に挟むように保持して搬送し、
前記水中搬送装置は、水中において気体を出し入れし浮力を調整する浮力調整部と、前記放射化された炉内構造物を保持するための保持部と、該保持部による前記放射化された炉内構造物を保持する保持時の転倒を防止するため、水平方向のバランスを調整する調整機構と
、を備えていると共に、
前記保持部は、L字部が回転及び上下スライドが可能なL字型のロッドを有し、前記水中搬送装置の下にL字型の前記ロッドを配置し、このL字型の前記ロッドを回転させることでL字部の先端を前記放射化された炉内構造物の下側に設置し、そのまま前記水中搬送装置が浮力により上昇することで前記ロッドのL字部が前記放射化された炉内構造物を持ち上げ保持して搬送することを特徴とする水中搬送方法。
【請求項11】
原子炉ウェルのプールと水が満たされて連通しているドライヤセパレータプール内に保管されている放射化された炉内構造物を、前記原子炉ウェルのプールと前記ドライヤセパレータプールとの水が満たされた連通部を介して前記原子炉ウェルのプール内に浮力を用いて水中搬送装置で搬送する水中搬送方法であって、
前記放射化された炉内構造物を、浮力を用いて水中搬送装置で搬送する際に、
前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物に覆いかぶさるように保持して搬送するか、或いは2台の前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物を間に挟むように保持して搬送し、
前記水中搬送装置は、水中において気体を出し入れし浮力を調整する浮力調整部と、前記放射化された炉内構造物を保持するための保持部と、該保持部による前記放射化された炉内構造物を保持する保持時の転倒を防止するため、水平方向のバランスを調整する調整機構と
、を備えていると共に、
水平方向のバランスを調整する前記調整機構は、前記水中搬送装置の外表面に設置された複数のブラケットを備え、前記ブラケットにワイヤを通し、外部から前記ワイヤを引っ張ったり或いは緩めたりすることで、前記水中搬送装置のバランスを調整して前記放射化された炉内構造物が搬送されることを特徴とする水中搬送方法。
【請求項12】
原子炉ウェルのプールと水が満たされて連通しているドライヤセパレータプール内に保管されている放射化された炉内構造物を、前記原子炉ウェルのプールと前記ドライヤセパレータプールとの水が満たされた連通部を介して前記原子炉ウェルのプール内に浮力を用いて水中搬送装置で搬送する水中搬送方法であって、
前記放射化された炉内構造物を、浮力を用いて水中搬送装置で搬送する際に、
前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物に覆いかぶさるように保持して搬送するか、或いは2台の前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物を間に挟むように保持して搬送し、
前記水中搬送装置は、水中において気体を出し入れし浮力を調整する浮力調整部と、前記放射化された炉内構造物を保持するための保持部と、該保持部による前記放射化された炉内構造物を保持する保持時の転倒を防止するため、水平方向のバランスを調整する調整機構と
、を備えていると共に、
水平方向のバランスを調整する前記調整機構は、前記水中搬送装置の内部が仕切板で仕切られた複数の小部屋と、それぞれの前記小部屋に接続されたホースと
、から成り、前記ホースから注入される空気の量を前記小部屋毎に調整することで、前記水中搬送装置のバランスを調整して前記放射化された炉内構造物が搬送されることを特徴とする水中搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中搬送装置及び水中搬送方法に係り、特に、原子力発電プラントにおけるドライヤセパレータ(以下、DSという)プール内の水中に保管されている放射化された炉内構造物を、所定の場所に水中で搬送するものに好適な水中搬送装置及び水中搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントにおいては、定期点検中には、原子炉建屋内のDSプール内の水中に、放射化された炉内構造物であるセパレータ(気水分離機)やドライヤ(蒸気乾燥器)等が保管されており、定期点検終了後は、セパレータやドライヤ等を炉内の所定の位置に戻し再度運転することが行われる。
【0003】
この放射化された炉内構造物であるセパレータやドライヤ等を、DSプールから原子炉ウェルに搬送するには、天井レーン等の揚重機を用いて行う。
【0004】
なお、原子力発電プラントにおける水中搬送装置の先行技術文献としては、例えば、特許文献1、2及び3を挙げることができる。
【0005】
上記した特許文献1には、炉内における搬送物の搬送作業時間を短縮すると共に、その搬送物の搬送中に搬送物を保護するために、原子炉の炉水中を遊泳して搬送物を搬送する水中搬送装置は、炉水中における浮力を調整可能とする浮力調整部と、原子炉の上下方向及び水平方向に水力を生じさせると共に、鉛直軸周りに自転可能とする水中移動部と、搬送物を把持する搬送物把持部と、搬送物を把持した状態で搬送物を保護する保護リングとを備えていることが記載されている。
【0006】
また、上記した特許文献2には、精密な移動制御、位置決めが可能である水が満たされた装置内の移動装置は、水が満たされた装置内を監視するためのカメラ及び作業機器を搭載し、推進機構又は車輪により装置内を移動し得る狭隘部移動装置と、狭隘部移動装置を出入りさせる開口部及び狭隘部移動装置を保持する保持手段を持った内部空間を有し、狭隘部移動装置を出入り可能に収納して該狭隘部移動装置に対する支援動作を行う支援装置であって、水中移動手段を有し、この水中移動手段によって原子炉内を移動し得る支援装置とを備え、所要時に前記支援装置における前記保持手段による保持を解除し、前記開口部を介して前記狭隘部移動装置を発信させるようにした水中狭隘部移動システムが記載されている。
【0007】
更に、上記した特許文献3には、原子炉内の如き水中を自由に移動する水中ビークルの垂直方向の位置ずれを確実に防止することができる水中移動補修検査装置を得るために、水中を移動するための浮力を発生する浮力発生装置と、遊泳及び壁面吸着用装置と、少なくとも1つの走行車輪が設けられた水中ビークルを有し、その水中ビークルに、作業ツールが装着されると共に、被検査対象構造物の下面に接触するガイドローラが設けられていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-3073号公報
【文献】特開2003-40194号公報
【文献】特開2007-212393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献1に記載された水中搬送装置は、原子力発電プラントにおいて水中に設置された燃料や制御棒などの搬送物を移動させて他の場所に設置するなどの搬送作業を行うもので、また、特許文献2及び3に記載された水中搬送装置は、水が満たされた原子炉の炉内構造物の点検、検査、予防保全及び補修を行うものであり、いずれの特許文献も、原子炉建屋内のDSプール内の水中に保管されているセパレータやドライヤ等の放射化された炉内構造物を、所定の場所(例えば、原子炉ウェル)に水中で搬送することを意図しているものではない。
【0010】
従って、特許文献1、2及び3には、原子炉建屋内のDSプール内の水中に保管されているセパレータやドライヤ等の放射化された炉内構造物を、所定の場所に水中で搬送するという発想はない。
【0011】
このようなことから、原子炉建屋内のDSプール内の水中に保管されているセパレータやドライヤ等の放射化された炉内構造物を、所定の場所に水中で搬送するに当たり、他の作業との調整や待ち時間が生じる天井レーン等の揚重機を用いないでセパレータやドライヤ等の放射化された炉内構造物を水中で搬送することが望ましい。
【0012】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、原子炉建屋内のDSプール内の水中に保管されている放射化された炉内構造物を、所定の場所に他の作業との調整や待ち時間が生じる天井クレーン等の揚重機を用いないで水中で搬送することができる水中搬送装置及び水中搬送方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の水中搬送装置は、上記目的を達成するために、原子炉ウェルのプールと水が満たされて連通しているドライヤセパレータプール内に保管されている放射化された炉内構造物を、前記原子炉ウェルのプールと前記ドライヤセパレータプールとの水が満たされた連通部を介して前記原子炉ウェルのプール内に浮力を用いて搬送する水中搬送装置は、前記放射化された炉内構造物に覆いかぶさるように保持して搬送するか、或いは2台の前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物を間に挟むように保持して搬送し、
前記水中搬送装置は、水中において気体を出し入れし浮力を調整する浮力調整部と、前記放射化された炉内構造物を保持するための保持部と、該保持部による前記放射化された炉内構造物を保持する保持時の転倒を防止するため、水平方向のバランスを調整する調整機構と、を備え、
前記放射化された炉内構造物には複数のリフティングロッドが設けられており、
前記保持部は、前記水中搬送装置の上部に設置されたロッドピンと、エアホースを有するエアシリンダと、を備え、
前記エアシリンダに前記エアホースから空気を注入して前記ロッドピンを押し出すことで、前記リフティングロッドの上部に形成された穴に前記ロッドピンが篏合して前記放射化された炉内構造物を保持することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の水中搬送方法は、上記目的を達成するために、原子炉ウェルのプールと水が満たされて連通しているドライヤセパレータプール内に保管されている放射化された炉内構造物を、前記原子炉ウェルのプールと前記ドライヤセパレータプールとの水が満たされた連通部を介して前記原子炉ウェルのプール内に浮力を用いて水中搬送装置で搬送する水中搬送方法であって、
前記放射化された炉内構造物を、浮力を用いて水中搬送装置で搬送する際に、
前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物に覆いかぶさるように保持して搬送するか、或いは2台の前記水中搬送装置で前記放射化された炉内構造物を間に挟むように保持して搬送し、
前記水中搬送装置は、水中において気体を出し入れし浮力を調整する浮力調整部と、前記放射化された炉内構造物を保持するための保持部と、該保持部による前記放射化された炉内構造物を保持する保持時の転倒を防止するため、水平方向のバランスを調整する調整機構と、を備えていると共に、
前記放射化された炉内構造物には複数のリフティングロッドが設けられており、更に、前記保持部は、前記水中搬送装置の上部に設置されたロッドピンと、エアホースを有するエアシリンダと、を備え、
前記エアシリンダに前記エアホースで空気を注入して前記ロッドピンを押し出すことで、前記リフティングロッドの上部に形成された穴に前記ロッドピンが篏合して前記放射化された炉内構造物を保持して搬送することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、原子炉建屋内のDSプール内の水中に保管されている放射化された炉内構造物を、所定の場所に他の作業との調整や待ち時間が生じる天井クレーン等の揚重機を用いないで水中で搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一般的な沸騰水型原子炉の定期点検時において、放射化された炉内構造物であるセパレータやドライヤが原子炉圧力容器から原子炉ウェルのプールを経てDSプールに仮置きされている状態を示す正面図である。
【
図3】本発明の水中搬送装置の実施例1であり、水中搬送機が放射化された炉内構造物であるドライヤに覆いかぶさり保持する例を示す断面図である。
【
図4】本発明の水中搬送装置の実施例1であり、2つの水中搬送装置で放射化された炉内構造物ドライヤを挟み保持する例を示す断面図である。
【
図5】本発明の水中搬送装置を構成する保持部の一例を示す正面図である。
【
図7】本発明の水中搬送装置を構成する水平方向のバランスを調整する調整機構の一例の外形を示す斜視図である。
【
図8】本発明の水中搬送装置を構成する水平方向のバランスを調整する調整機構の一例の内部構造を示す斜視図である。
【
図9】本発明の水中搬送装置を構成する保持部の他の例を示す正面図である。
【
図11】
図9及び
図10に示した保持部の詳細を示し、(a)は巻上機によるドライヤやセパレータの吊り下ろし前の状態を、(b)は巻上機によるドライヤやセパレータの吊り下ろし状態をそれぞれ示す図である。
【
図12】一般的な沸騰水型原子炉の定期点検時において、セパレータと同程度の深さの水中に設置されたセパレータをDSプールから原子炉ウェルのプールに搬送する例を示す図である。
【
図13】本発明の水中搬送装置を用いてセパレータ又はドライヤをDSプールから原子炉ウェルのプールに搬送する一例を示し、吊り具でセパレータ又はドライヤを吊り下ろす場合のフロー図である。
【
図14】本発明の水中搬送装置を用いてドライヤをDSプールから原子炉ウェルのプールに搬送する際のウインチを用いた例の正面と平面から見た状態を示すフロー図である。
【
図15】本発明の水中搬送装置を用いて構造物をDSプールから原子炉ウェルのプールに搬送する際の長物天秤を用いた例を示すフロー図である。
【
図16】本発明の水中搬送装置の左右及び前後のバランスの調整手順を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の水中搬送装置及び水中搬送方法を説明する。なお、各図において、同一構成部品には同符号を使用する。また、下記はあくまでも実施の例であり、発明の内容を下記具体的態様に限定することを意図する趣旨ではない。
【実施例1】
【0019】
図1及び
図2に、一般的な沸騰水型原子炉の定期点検時において、放射化された炉内構造物であるセパレータ(気水分離機)やドライヤ(蒸気乾燥器)が原子炉圧力容器から原子炉ウェルのプールを経てDSプールに仮置きされている状態の概略構成を示し、
図1は正面図、
図2は
図1の平面図である。
【0020】
通常、原子力発電プラントは、原子炉及び原子炉格納容器2を備えている。原子炉格納容器2は、原子炉建屋1内に設置されて、上端部に上蓋が取り付けられて密封されており、内部に形成されたドライウェル及び冷却水が充填された圧力抑制プールが内部に形成された圧力抑制室を有している。
【0021】
また、原子炉は、原子炉圧力容器用上蓋が取り付けられて構成される原子炉圧力容器3、核燃料物質を含む複数の燃料集合体が装荷された炉心、セパレータ5及びドライヤ6等を備えている。炉心とセパレータ5及びドライヤ6は、原子炉圧力容器3内に配置されている。
【0022】
また、炉心内に装荷された各燃料集合体は、下端部が炉心支持板によって支持され、上端部が上部格子板によって保持され、セパレータ5は、炉心の上端部に位置する上部格子板よりも上方に配置され、ドライヤ6は、セパレータ5の上方に配置されている。
【0023】
また、原子炉建屋1には、原子炉ウェル7を挟み込むようにDSプール4と使用済みの燃料を保管する使用済燃料プール(SFP)8が設けられており、DSプール4は、定期点検時にセパレータ5やドライヤ6といった炉内構造物を仮置きする場所(保管場所)として使われる。
【0024】
なお、
図1及び
図2において、9Aは天井クレーン、9Bは燃料取扱機である。
【0025】
図1及び
図2に示すように、DSプール4と原子炉ウェル7及び使用済燃料プール(SFP)8には水が満たされており、DSプール4と原子炉ウェル7は連通部Aで水が満たされた状態で連通している。
【0026】
このDSプール4と原子炉ウェル7の連通部Aは、
図2に示すように、幅が広くセパレータ5やドライヤ6が水中移動できる。
【0027】
本実施例の水中搬送装置は原子炉ウェル7と水が満たされて連通しているDSプール4内に保管されている放射化された炉内構造物であるセパレータ5或いはドライヤ6を、原子炉ウェル7とDSプール4との水が満たされた連通部Aを介して原子炉ウェル7内に浮力を用いて搬送することを特徴とする。
【0028】
図3に示すように、本実施例の水中搬送装置10Aは、放射化された炉内構造物であるドライヤ6(又はセパレータ5)に覆いかぶさるように保持して搬送するか、或いは
図4に示すように、2台の水中搬送装置10A1と10A2の間に、ドライヤ6(又はセパレータ5)を挟むように保持して搬送するものである。
【0029】
上述した本実施例の水中搬送装置10A、10A1及び10A2は、水中において気体を出し入れし浮力を調整する浮力調整部と、ドライヤ6(又はセパレータ5)を保持するための保持部と、この保持部によるドライヤ6(又はセパレータ5)を保持する保持時の転倒を防止するため、水平方向のバランスを調整する調整機構とを備えている。
【0030】
また、上記したドライヤ6(又はセパレータ5)には、
図3、
図4、
図5及び
図6に示すように、上部に穴が形成された複数(本実施例では4本)のリフティングロッド15が設けられており、
図5及び
図6に示す例の保持部は、水中搬送装置10A1及び10A2の上部に設置されたロッドピン17と、エアホース19を有するエアシリンダ18とを備え、エアシリンダ18にエアホース19から空気を注入してロッドピン17を押し出すことで、リフティングロッド15の上部に形成された穴にロッドピン17が篏合してドライヤ6(又はセパレータ5)を保持している。
【0031】
なお、
図5及び
図6において、20a、20b、20c及び20dは転倒防止ブラケット、21a及び21bはリフティングアイ、22a及ぶ22cは上部接続バー、22b及ぶ22d(図には表れない)は下部接続バーである。
【0032】
また、
図3に示す水中搬送装置10Aの保持部は、L字部が回転及び上下スライドが可能なL字型のロッド12a及び12bを有し、ドライヤ6(又はセパレータ5)の下部にL字型のロッド12a及び12bを配置し、このL字型のロッド12a及び12bを回転させることでL字部の先端をドライヤ6(又はセパレータ5)の下側に設置し、そのまま水中搬送装置10Aが浮力により上昇することで、L字型のロッド12a及び12bのL字部がドライヤ6(又はセパレータ5)を持ち上げ保持している。
【0033】
なお、
図4に示す水中搬送装置10A1及び10A2の保持部は、特に図示していないが、上述した
図3に示す水中搬送装置10Aの保持部と同様な構成となっている。
【0034】
また、
図3に示す水中搬送装置10Aの浮力調整部は、逆U状に形成された容器11と、この容器11の上部に設けられたエアホース13とから成り、エアホース13から空気を出し入れすることで容器11内に空気が入り、容器11の下側開口部から水が押し出され浮力が調整される。
【0035】
更に、
図3に示す水中搬送装置10Aは、前後、左右のバランスの微調整を行う重石14から成る調整機構を備えている。
図3に示す水中搬送装置10Aは、バランスが良いので上下のみの調整でよいが、重石14を備えていれば、前後、左右のバランスの微調整を行うこともでき、より確実に水中搬送装置10Aのバランスをとることができる。
【0036】
なお、
図4に示す水中搬送装置10A1及び10A2の浮力調整部は、特に図示していないが、上述した
図3に示す水中搬送装置10Aの浮力調整部と同様な構成となっている。
【0037】
また、
図4に示す水中搬送装置10A1及び10A2は、
図3に示す水中搬送装置10Aと同様に、前後、左右のバランスの微調整を行う重石14を備えていても良い。
【0038】
次に、
図5及び
図6に示す水中搬送装置10A1及び10A2における水平方向のバランスを調整する調整機構は、水中搬送装置10A1及び10A2の外表面に設置された複数(本実施例では4個)の転倒防止ブラケット20a、20b、20c及び20dを備え、この転倒防止ブラケット20a、20b、20c及び20dにワイヤ(図示せず)を通し、外部からワイヤを引っ張ったり或いは緩めたりすることで、水中搬送装置10A1及び10A2のバランスを調整することができる。
【0039】
また、水中搬送装置10A1及び10A2の水平方向のバランスを調整する調整機構の他の例としては、
図7及び
図8に示す例がある。
【0040】
図7は、本実施例の水中搬送装置10A1及び10A2を構成する水平方向のバランスを調整する調整機構の一例の外形を示す斜視図、
図8は、本実施例の水中搬送装置10A1及び10A2を構成する水平方向のバランスを調整する調整機構の一例の内部構造を示す斜視図である。
【0041】
本実施例の水中搬送装置10A1及び10A2における水平方向のバランスを調整する調整機構は、内部が複数の浮力調整板(仕切板)16a(2枚の前後浮力調整板16a1と2枚の左右浮力調整板16a2)で仕切られた複数の小部屋(第1の小部屋11a、第2の小部屋11b、第3の小部屋11c及び第4の小部屋11d)と、第1の小部屋11a、第2の小部屋11b、第3の小部屋11c及び第4の小部屋11dのそれぞれに接続された第1のホース13a、第2のホース13b、第3のホース13c及び第4のホース13dとから成り、第1のホース13a、第2のホース13b、第3のホース13c及び第4のホース13dから注入される空気の量を、第1の小部屋11a、第2の小部屋11b、第3の小部屋11c及び第4の小部屋11d毎に調整することで、水中搬送装置10A1及び10A2のバランスを調整することができる。
【0042】
即ち、水中搬送装置10A1及び10A2の前後のバランスを取る場合には、第2の小部屋11b及び第4の小部屋11dと第1の小部屋11a及び第3の小部屋11cの空気調整量のバランスを変えることで調整し、水中搬送装置10A1及び10A2の左右のバランスを取る場合には、第1の小部屋11a及び第2の小部屋11bと第3の小部屋11c及び第4の小部屋11dの空気調整量のバランスを変えることで調整している。
【0043】
これにより、水中搬送装置10A1及び10A2の転倒を防止することができる。
【0044】
次に、本発明の水中搬送装置10A1及び10A2を構成する保持部の他の例を、
図9、
図10及び
図11を用いて説明する。
図9は、水中搬送装置10A1及び10A2を構成する保持部の正面図、
図10は、
図9の平面図、
図11は、
図9及び
図10に示した保持部を構成する吊り具30の詳細を示し、
図11の(a)は吊り具30によるドライヤ又はセパレータの吊り下ろし前の状態を、
図11の(b)は吊り具30によるドライヤ又はセパレータの吊り下ろし状態をそれぞれ示す図である。
【0045】
図9、
図10及び
図11に示す水中搬送装置10A1及び10A2を構成する保持部の例は、保持部を構成する吊り具30が、巻上機30aと、この巻上機30aにより吊り上げたり、吊り下ろしされるチェーン又はワイヤー30dと、巻上機30aが設置される第1の部材30bと、チェーン又はワイヤー30dの先端に設置され、巻上機30aによる吊り上げ、吊り下ろし動作に伴い上下動する第2の部材30cと、この第2の部材30cの下方に設置されたロッドピン30eと、このロッドピン30eを動作させるエアホース19を有するエアシリンダ30fとを備えている。
【0046】
そして、エアシリンダ30fにエアホース19から空気を注入してロッドピン30eを押し出すことで、リフティングロッド15の上部に形成された穴にロッドピン30eが篏合してドライヤ6(又はセパレータ5)を保持し(
図11の(a)の状態)、この状態で巻上機30aによる吊り上げ、吊り下ろし動作に伴いドライヤ6(又はセパレータ5)の吊り上げ、吊り下ろし作業が行われる(
図11の(b)の状態)。
【0047】
なお、水中搬送装置10A1及び10A2の前後、左右のバランス調整は、上述した
図4、
図5、
図6、
図7及び
図8と同様な手段を用いることで可能である。
【0048】
次に、本実施例の水中搬送装置10A1及び10A2を用いて、一般的な沸騰水型原子炉の定期点検時において、セパレータ5と同程度の深さの水中に設置されたセパレータ5をDSプール4から原子炉ウェル7に搬送する例を、
図12を用いて説明する。
【0049】
図12に示す例は、ドライヤ6又はセパレータ5の高さが、DSプール4と原子炉ウェル7の連通部Aの幅とほぼ同程度となっている。
【0050】
図12に示すように、DSプール4と原子炉ウェル7は水で満たされており(符号24は水面を表す)、DSプール4内にはドライヤ6が配置され、DSプール4内に配置されていたセパレータ5を、本実施例の水中搬送装置10A1と10A2の間に挟んで搬送している。
【0051】
セパレータ5の高さが、DSプール4と原子炉ウェル7の連通部Aの幅とほぼ同程度であっても(狭隘な連通部であっても)、本実施例の水中搬送装置10A1と10A2の間に挟んで搬送することにより、搬送可能になる。
【0052】
なお、
図12の場合、セパレータ5を原子炉圧力容器3の内部まで下降させる必要があるので、吊り具30を水中搬送装置10A1及び10A2の天板上に設置している。
【0053】
図12において、3aは原子炉圧力容器3のフランジ上面、23はDSプール4と原子炉ウェル7の間のカナル部、25は原子炉建屋1のオペレーションフロアーである。
【0054】
図13に、本実施例の水中搬送装置10A1及び10A2を用いてセパレータ5又はドライヤ6をDSプール4から原子炉ウェル7に搬送する(
図13は、セパレータ5を搬送する例)フロー図を示し、
図11に示した吊り具30でセパレータ5を吊り下ろす場合の例である。
【0055】
図13において、先ず水中搬送装置10A1及び10A2を、天井クレーンを用いてDSプール4内に搬入する(ステップ(1))。次に、吊り具30を天井クレーンを用いてセパレータ5の上に搬入し(ステップ(2))、吊り具30を天井クレーンを用いて吊り下ろし水中搬送装置10A1及び10A2に取付け、セパレータ5を把持する(ステップ(3))。
【0056】
続いて、水中搬送装置10A1及び10A2に空気を充填しセパレータ5を浮上させ(ステップ(4))、セパレータ5を原子炉ウェル7へ移送し(ステップ(5))、原子炉ウェル7内にセパレータ5を設置する(ステップ(6))。次に、水中搬送装置10A1及び10A2から空気を排出させ、セパレータ5を原子炉ウェル7の床に着座させ(ステップ(7))、着座後、吊り具30を使ってセパレータ5を下降させ、原子炉内の元の位置に据え付ける(ステップ(8))。その後、セパレ-タ5を吊り具30から切り離し、吊り具30を回収し(ステップ(9))する。水中搬送装置10A1及び10A2に再び空気を充填してDSプール4に戻した後、(ステップ(1))に戻り同様な手順でドライヤ6を原子炉ウェル7内に移送する(ステップ(10))。
【0057】
次に、ウインチ27を用いてドライヤ6を、DSプール4から原子炉ウェル7へ、水中搬送装置10A1及び10A2で搬送する例を、
図14を用いて説明する。
【0058】
図14の(a)は、水が満たされたDSプール4内にドライヤ6が設置されており、水中搬送装置10A1の側面にある転倒防止ブラケット20b及び水中搬送装置10A2の側面にある転倒防止ブラケット20dのそれぞれに、ウインチ27に接続されているワイヤ(ロープ)を引っ掛けている。この状態で、水中搬送装置10A1及び10A2で保持されたドライヤ6を原子炉ウェル7の手前まで移動する(
図14(b)参照)。
図14(b)の位置でワイヤ(ロープ)のウインチ27への繋ぎ変えを行い(
図14(c)参照)、この
図14の(c)の状態から水中搬送装置10A1及び10A2で保持されたドライヤ6を、DSプール4と原子炉ウェル7の連通部Aを移動させ(
図14の(d)参照)、ワイヤ(ロープ)のウインチ27への繋ぎ変えを繰り返し、ドライヤ6を原子炉ウェル7内に移動させ、ドライヤ6を原子炉ウェル7内への移動が完了する(
図14の(e)参照)。
【0059】
この例では、水中搬送装置10A1及び10A2の側面にある転倒防止ブラケット20b及び20dを、ワイヤ(ロープ)で引っ張ることで、水中搬送装置10A1及び10A2の浮上時の転倒が防止できる。
【0060】
図15は、福島第一原子力発電所4号機に適用する場合の別例である。福島第一原子力発電所4号機では、原子炉ウェル7はカバー建屋9の中にあり、DSプール4はカバー建屋9の外にあるため、水中で両プールが連通していることは、通常沸騰水型原子力発電所と同じだが、水上では、カバー建屋9の壁9aが両プールの間に位置している。
【0061】
図15には、本発明の水中搬送装置10A1及び10A2を用いてドライヤ6とセパレータと同様な構造物XをDSプール4から原子炉ウェル7に搬送する際の長物天秤を用いた例を示す。
【0062】
図15に示す例において、先ず水中搬送装置10A1及び10A2を、天井クレーン9Aを用いてDSプール4内に搬入する(ステップ(1))。次に、構造物Xを、天井クレーン9Aを用いてDSプール4内に搬入し(ステップ(2))、水中搬送装置10A1及び10A2に取付ける(ステップ(3))。
図15では、ステップ(1)~ステップ(3)は省略しており、ここでは、それ以降のステップについて説明する。
【0063】
ステップ(3)を行った後、水中搬送装置10A1及び10A2に空気を充填しドライヤ6を浮上させる(ステップ(4))。次に、クローラクレーン41を用いて長物天秤40の吊り箇所2を使って、水中搬送装置10A1及び10A2に接続しドライヤ6を吊り上げ(ステップ(5))、カバー建屋9の壁9aまで移動する(ステップ(6))。
【0064】
続いて、水中搬送装置10A1及び10A2の浮力を用いて長物天秤40への荷重を0にコントロールし、その後、クローラクレーン41の吊り箇所を吊り箇所2に持ち替え、カバー内のクレーン26で長物天秤40の吊り箇所3に接続し(ステップ(7))、原子炉ウェル7の中心へ移動(長物天秤40の吊り箇所1をカバー建屋9の壁9a付近まで移動)する(ステップ(8))。
【0065】
次に、水中搬送装置10A1及び10A2の浮力を用いて長物天秤40への荷重を0にコントロールした後、カバー内のクレーン26の吊り箇所を長物天秤40の吊り箇所2に持ち替え(ステップ(9))、最後に、カバー内のクレーン26で原子炉ウェル7にドライヤ6を搬入する(ステップ(10))。
【0066】
次に、本実施例の水中搬送装置10A1及び10A2の左右及び前後のバランスの調整手順を、
図16を用いて説明する。
【0067】
図16の上段が水中搬送装置10A1及び10A2の左右のバランスの調整手順を示し、
図16の下段が水中搬送装置10A1及び10A2の前後のバランスの調整手順を示す。
【0068】
先ず、
図16の上段に示す水中搬送装置10A1及び10A2の左右のバランスの調整手順は、水中搬送装置10A1(10A2)を天井クレーン9Aで設置し、搬送装置ホースのバルブを開放することで、水が内部に入る(ステップ12a)。天井クレーン9Aから水中搬送装置10A1(10A2)を切り離し、水中搬送装置10A1(10A2)の保持部でドライヤ6を保持する(ステップ12b)。
【0069】
次に、水中搬送装置10A1(10A2)内に空気を入れることで浮力が生じ、ドライヤ6を持ち上げる(ステップ12c)。なお、ステップ12cは、水中搬送装置10A1(10A2)がバランス良く持ち上げられた例である。ステップ12dは、ドライヤ6の保持位置がずれる等で、水中搬送装置10A1(10A2)が右側に傾いた例である。
【0070】
ステップ12dの状態で、水中搬送装置10A1(10A2)の浮力調整部の空気を出し入れすることで浮力を調整し、左右のバランスをコントロールする(ステップ12e)。左右の浮力を調整することで、水中搬送装置10A1(10A2)の傾きを修正する(ステップ12f)。
【0071】
図16の下段に示す水中搬送装置10A1及び10A2の左右のバランスの調整手順は、クローラクレーンで2つの水中搬送装置10A1及び10A2を設置し、搬送装置ホースのバルブを開放することで、水が内部に入る(ステップ12g)。天井クレーン9Aから水中搬送装置10A1及び10A2を切り離し、水中搬送装置10A1及び10A2の保持部でドライヤ6を保持する(ステップ12h)。
【0072】
次に、水中搬送装置10A1及び10A2内に空気を入れることで浮力が生じ、ドライヤ6を持ち上げる(ステップ12i)。なお、ステップ12iは、水中搬送装置10A1及び10A2がバランス良く持ち上げられた例である。ステップ12jは、ドライヤ6の保持位置がずれる等で、水中搬送装置10A1及び10A2が前側に傾いた例である。
【0073】
ステップ12iの状態で、水中搬送装置10A1及び10A2の浮力調整部の空気を出し入れすることで浮力を調整し、前後のバランスをコントロールする(ステップ12k)。前後の浮力を調整することで、水中搬送装置10A1及び10A2の傾きを修正する(ステップ12l)。
【0074】
このような本実施例の水中搬送装置及び水中搬送方法とすることにより、原子炉建屋1内のDSプール4内の水中に保管されている放射化された炉内構造物であるドライヤ6又はセパレータ5を、原子炉ウェル7に水中で搬送するに当たり、所定の場所に、他の作業との調整や待ち時間が生じる天井クレーン等の揚重機を用いないで、放射化された炉内構造物であるドライヤ6又はセパレータ5を水中で搬送することができる。
【0075】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれている。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1…原子炉建屋、2…原子炉格納容器、3…原子炉圧力容器、3a…原子炉圧力容器のフランジ上面、4…ドライヤセパレータ(DS)プール、5…セパレータ(気水分離機)、6…ドライヤ(蒸気乾燥器)、7…原子炉ウェル、8…使用済燃料プール(SFP)、9…カバー建屋、9A…天井クレーン、9B…燃料取扱機、9a…カバー建屋の壁、10A、10A1、10A2…水中搬送装置、11…容器、11a…第1の小部屋、11b…第2の小部屋、11c…第3の小部屋、11d…第4の小部屋、12a、12b…L字型のロッド、13…エアホース、13a…第1のホース、13b…第2のホース、13c…第3のホース、13d…第4のホース、14…重石、15…リフティングロッド、16a…浮力調整板(仕切板)、16a1…前後浮力調整板、16a2…左右浮力調整板、17、30e…ロッドピン、18、30f…エアシリンダ、19…エアホース、20a、20b、20c、20d…転倒防止ブラケット、21a、21b…リフティングアイ、22a、22c…上部接続バー、22b、22d…下部接続バー、23…DSプールと原子炉ウェル(カバー内プール)の間のカナル部、24…水面、25…原子炉建屋のオペレーションフロアー、26…カバー内のクレーン、27…ウインチ、28…遮蔽板、30…吊り具、30a…巻上機、30b…第1の部材、30c…第2の部材、30d…チェーン又はワイヤー、40…長物天秤、41…クローラクレーン。