(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】鋼線、鋼線用線材及び鋼線用線材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240110BHJP
C22C 38/50 20060101ALI20240110BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20240110BHJP
C22B 9/18 20060101ALI20240110BHJP
C22B 9/20 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/50
C21D8/06 A
C22B9/18 Z
C22B9/20
(21)【出願番号】P 2022501234
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(86)【国際出願番号】 CN2019101310
(87)【国際公開番号】W WO2021007915
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】201910638740.0
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521514543
【氏名又は名称】インスティテュート オブ リサーチ オブ アイロン アンド スティール,ジィァンスー プロビンス/シャー-スティール カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF RESEARCH OF IRON & STEEL,JIANGSU PROVINCE/SHA-STEEL, CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Jinfeng Town, Zhangjiagang Suzhou,Jiangsu 215625, China
(73)【特許権者】
【識別番号】521514565
【氏名又は名称】ジィァンスー シャガン グループ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU SHAGANG GROUP CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Jinfeng Town, Zhangjiagang Suzhou,Jiangsu 215625, China
(74)【代理人】
【識別番号】100104226
【氏名又は名称】須原 誠
(72)【発明者】
【氏名】フゥ シェンジュン
(72)【発明者】
【氏名】ファン ジンシー
(72)【発明者】
【氏名】マー ハン
(72)【発明者】
【氏名】ファン フォン
(72)【発明者】
【氏名】チョン ロン
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-210450(JP,A)
【文献】特開平04-311523(JP,A)
【文献】特開2010-132943(JP,A)
【文献】国際公開第2016/024635(WO,A1)
【文献】特開2000-054073(JP,A)
【文献】特開2005-002413(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108866433(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/06
C22B 9/16 ー 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径50~60μmで引張強度≧4500MPaの鋼線用線材であって、化学組成が、質量%で、C:0.90~0.96%、Si:0.12~0.30%、Mn:0.30~0.65%、Cr:0.10~0.30%、Al≦0.004%、Ti≦0.001%、Cu≦0.01%、Ni≦0.01%、S≦0.01%、P≦0.01%、O≦0.0006%、N≦0.0006%を含有し、残部がFe及び不可避不純物元素であることを特徴とする、鋼線用線材。
【請求項2】
化学組成は、質量%でC:0.90~0.94%、Si:0.12~0.30%、Mn:0.30~0.65%、Cr:0.10~0.30%、Al≦0.004%、Ti≦0.001%、Cu≦0.01%、Ni≦0.01%、S≦0.01%、P≦0.01%、O≦0.0006%、N≦0.0006%を含有し、残部がFe及び不可避不純物元素であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼線用線材。
【請求項3】
夾雑物のサイズ≦4μmで、C系夾雑物の平均密度≦2個/mm
2であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼線用線材。
【請求項4】
直径は、5.5mmであることを特徴とする、請求項1に記載の鋼線用線材。
【請求項5】
ソルバイト化率≧95%、減面率≧40%、引張強度≧1300MPa
、伸線加工過程での無断線の長さ≧300kmであることを特徴とする、請求項1に記載の鋼線用線材。
【請求項6】
直径50~60μmで引張強度≧4500MPaの鋼線であって、化学組成が、質量%で、C:0.90~0.96%、Si:0.12~0.30%、Mn:0.30~0.65%、Cr:0.10~0.30%、Al≦0.004%、Ti≦0.001%、Cu≦0.01%、Ni≦0.01%、S≦0.01%、P≦0.01%、O≦0.0006%、N≦0.0006%を含有し、残部がFe及び不可避不純物元素であることを特徴とする、鋼線。
【請求項7】
直径50~60μmで引張強度≧4500MPaの鋼線用線材の製造方法であって、
真空誘導溶錬炉にて装入物を溶融し、次に精煉して溶鋼内の化学組成及び夾雑物を調整し、出鋼して鋳込みを行って鋼塊を得る溶錬工程、
鋼塊を結晶化及び再溶解して再溶解インゴットを得る再溶解工程、
再溶解インゴットへの均質化熱処理を施した後で鍛造してビレットを得る鍛造工程、及び、
ビレットを900~1100℃の温度下で圧延する圧延工程を含む、
化学組成が質量%で、C:0.90~0.96%、Si:0.12~0.30%、Mn:0.30~0.65%、Cr:0.10~0.30%、Al≦0.004%、Ti≦0.001%、Cu≦0.01%、Ni≦0.01%、S≦0.01%、P≦0.01%、O≦0.0006%、N≦0.0006%を含有し、残部がFe及び不可避不純物元素である鋼線用線材の製造方法。
【請求項8】
前記再溶解工程は、エレクトロスラグ再溶解、又は/及び、消耗電極式真空アーク再溶解を含むことを特徴とする、請求項
7に記載の鋼線用線材の製造方法。
【請求項9】
前記エレクトロスラグ再溶解を行う工程において、前記スラグの化学組成は、質量%で、CaO:6~14%、Al
2O
3:8~15%、SiO
2:20~28%、MgO<5%を含有し、残部がCaF
2であることを特徴とする、請求項
8に記載の鋼線用線材の製造方法。
【請求項10】
前記エレクトロスラグ再溶解を行う工程において、再溶解の溶解速度は、6.5~7.5kg/minであることを特徴とする、請求項
8に記載の鋼線用線材の製造方法。
【請求項11】
前記エレクトロスラグ再溶解を行う工程は、
スラグフォーミング段階、
溶錬室の圧力を2~5MPa、晶析装置内の冷却水圧を2~5MPaに制御する圧力制御段階、
電圧を35~38V、電流を8500~9500A、冷却水温度を35~40℃、冷却水の流量を130~150m
3/hとするエレクトロスラグ溶錬段階、を順次実施することを特徴とする、請求項
8に記載の鋼線用線材の製造方法。
【請求項12】
前記消耗電極式真空アーク再溶解を行う工程において、鋼塊を消耗電極棒として、0.01~1Paの真空度において真空消耗結晶化・再溶解を行うことを特徴とする、請求項
8に記載の鋼線用線材の製造方法。
【請求項13】
前記消耗電極式真空アーク再溶解を行う工程において、鋼塊を消耗電極棒とし、電気アークを発生させた後再溶解し、電気アーク電圧が20~26V、アークが15~20mmであることを特徴とする、請求項
8に記載の鋼線用線材の製造方法。
【請求項14】
前記消耗電極式真空アーク再溶解を行う工程において、再溶解の溶解速度は、3.5~4.5kg/minであることを特徴とする、請求項
8に記載の鋼線用線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、出願日が2019年07月16日であり、出願番号が201910638740.0であり、発明の名称が「超極細超高強度の鋼線、線材及び線材製造方法」である中国特許出願の優先権を主張し、当該出願の全文が引用により本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、鉄鋼製錬の技術分野に属し、特に、超極細超高強度鋼線用線材に関するものであり、また、前記超極細超高強度鋼線用線材からさらに加工された超極細超高強度鋼線、及び超極細超高強度鋼線用線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
超極細超高強度鋼線は、工業化で応用されている高強度鋼線の一種で、ソーラー用シリコンウエハー、石英材料、単結晶シリコンなどの材料を切断するためのソーワイヤーとしてよく使用されている。ソーワイヤーは、カットワイヤー、切断用鋼線、カッティングワイヤーとも呼ばれ、分割に使用される特製線材であり、直径が0.20mm未満で表面が亜鉛・銅めっきされた特殊鋼線であり、消耗品としてエネルギー、航空、設備及び公共施設分野に幅広く活用されている。さらにダイヤモンドの小さな粒子をソーワイヤーに象嵌してダイヤモンドカットワイヤー、ダイヤモンド切断線、ダイヤモンドワイヤーとも呼ばれるダイアモンドソーワイヤーとして作ることもできる。
【0004】
シリコン材料などの被切断材料の切断過程での損耗を減らすため、ソーワイヤーの性能は、直径がより細く、無断線の長さがより長く、強度もより高い方向に向けて発展し、これらの性能はまたソーワイヤー用線材の夾雑物、引張強度の影響を受けている。この技術分野の現在の製造工程で製造されているソーワイヤー用線材は、夾雑物のサイズが大きく、夾雑物の数密度が高く、引張強度が低い等といった問題が存在するため、従来のソーワイヤーの性能は市場のニーズを満たすことができなくなってきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記技術的問題の少なくとも1つを解決するため、本発明の目的は、鋼線用線材、鋼線用線材からさらに加工された鋼線、及び鋼線用線材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的の一つを達成するため、本発明の一実施形態は、超極細超高強度鋼線用線材を提供する。超極細超高強度鋼線用線材の化学組成が、質量%で、C:0.90~0.96%、Si:0.12~0.30%、Mn:0.30~0.65%、Cr:0.10~0.30%、Al≦0.004%、Ti≦0.001%、Cu≦0.01%、Ni≦0.01%、S≦0.01%、P≦0.01%、O≦0.0006%、N≦0.0006%を含有し、残部がFe及び不可避不純物元素である。前記超極細超高強度鋼線用線材は、直径50~60μm、引張強度≧4500MPaの超極細超高強度鋼線の製造用母材とすることができ、かつ前記超極細超高強度鋼線用線材を超極細超高強度鋼線に伸線加工する過程で無断線の長さ≧300kmを実現できる。
【0007】
化学組成及び質量%を制御することによって、超極細超高強度鋼線用線材のサイズ、強度及び清浄度を制御し、ここで線材内のC、Si、Mn、Cr等の元素含有量を制御すると共に、炭素偏析が生じないように制御することによって、超極細超高強度鋼線用線材の組織及び強度を制御し、Al、Ti、O、N等のC系夾雑物を生成する元素の含有量を制
御することで、夾雑物の総量を制御する。
【0008】
ここでCは、鋼の主要構成元素であり、溶鋼凝固後の金属組織及び性能を決定し、Cの含有量が低すぎると鋼線の引き抜き強度に不利となり、Cの含有量が高すぎると線材の引き抜き過程中の硬化速度が速すぎることで、線材の伸線断線率が上昇することを招き、線材内のC含有量を0.90~0.96%に制御する場合、線材及び鋼線の強度を確保できるだけではなく、線材及び鋼線の伸線断線率を低減し、超極細超高強度鋼線用線材を製造できる。
【0009】
Siは、製錬工程の主要な脱酸元素であり、Si含有量が低すぎると溶鋼の脱酸が不十分になり、Si含有量が高すぎると鋼材の塑性と延性が低下し、特に、Siがケイ酸塩夾雑物として鋼材内に現れた場合、伸線断線を起こしやすい。線材内のSi含有量を0.12~0.30%に制御し、一方で溶鋼の完全脱酸を確保し、他方で線材と鋼線の延性を向上させ、線材と鋼線の伸線断線率を低減することができる。
【0010】
Mnは、脱酸剤及び脱硫剤として、FeよりもO、Sとの親和性が高いが、含有量が高すぎる場合、焼入れ性が向上し、熱間圧延後の鋼組織が容易にベイナイト又はマルテンサイトに変態しやすいことで、鋼材の靭性も悪くなり、歩留まりが低くなる。線材内のMn含有量を0.30~0.65%に制御することで、一方で脱酸及び脱硫の効果を確保し、他方で線材及び鋼線の靭性と安定性を確保し、伸線断線率を低減することができる。
【0011】
Crは、線材の強度及び焼入れ性を向上させ、高炭素鋼線材の組織を微細化し、ソルバイトの層間隔を狭め、線材の引抜加工性を向上させことができるが、Crの含有量が高すぎると線材の強度及び硬度を過大にさせ、線材の伸線加工中の加工硬化が激しくなり、引抜加工性が悪くなる。線材内のCr含有量を0.10~0.30%に制御することで、線材に高強度と優れた引抜加工性を兼ね備えさせることができる。
【0012】
Alは、溶鋼中の全酸素含有量を減らすために鋼内の脱酸剤として使用されるが、AlはAl2O3を形成しやすく、Al2O3の変形性が非常に劣り、鋼線材、鋼線等は極力低減する夾雑物であり、含有量も低ければ低いほどよく、線材のAlを≦0.004%に制御することで、夾雑物の含有量を減らし、線材の清浄度を向上させることができる。
【0013】
Tiは、有害な残留元素であり、C、N等の間隙原子と角を持つ立方体又は直方体Ti(C,N)を形成しやすく、鋼材の引抜加工性及び耐疲労性に影響を及ぼし、含有量が低ければ低いほどよく、線材内のTiを≦0.001%に制御することで、線材の引抜加工性と耐疲労性に対する影響を避けることができる。
【0014】
Cu、Ni、S、Pは、有害な不純物元素として、含有量が低ければ低いほどよく、線材のCuを≦0.01%、Ni≦0.01%、S≦0.01%、P≦0.01%に制御することで線材の各性能への悪影響を避ける。
【0015】
鋼材内の非金属夾雑物は、主に酸化物であり、鋼材内のOが室温でほぼ酸化物として存在し、全酸素含有量が高いほど酸化物系夾雑物の含有量が多くなることを示し、伸線した鋼線の清浄度や完成品のサイズに悪影響を及ぼすため、全酸素を≦0.0006%に制御することで、線材内の夾雑物の総量を大幅に低減し、線材と鋼線の清浄度を向上させ、直径がより細く、無断線の長さがより長い鋼線を製造できる。
【0016】
N元素は、線材加工過程中の加工硬化が起こして断線率も上昇するため、Nを≦0.0006%に制御することで線材の伸線・鋼線製造過程中の無断線の長さが増える。
【0017】
好ましくは、前記超極細超高強度鋼線用線材の化学組成は、質量%でC:0.90~0.94%、Si:0.12~0.30%、Mn:0.30~0.65%、Cr:0.10~0.30%、Al≦0.004%、Ti≦0.001%、Cu≦0.01%、Ni≦0.01%、S≦0.01%、P≦0.01%、O≦0.0006%、N≦0.0006%を含有し、残部がFe及び不可避不純物元素である。
【0018】
好ましくは、前記超極細超高強度鋼線用線材の夾雑物のサイズ≦4μmで、C系夾雑物の平均密度≦2個/mm2であり、より細く、無断線の長さがより長く、超高清浄度を有する超極細超高強度鋼線としてさらに伸線加工して製造できる。
【0019】
好ましくは、前記超極細超高強度鋼線用線材の直径は、5.5mmであり、直径が50~60μmの超極細鋼線としてさらに伸線加工して製造できる。
【0020】
好ましくは、前記超極細超高強度鋼線用線材のソルバイト化率≧95%、減面率≧40%、引張強度≧1300MPaであり、より細く、引張強度がより高く、無断線の長さがより長い超極細超高強度鋼線としてさらに伸線加工して製造できる。
【0021】
上記目的の一つを達成するため、本発明の一実施形態は、前記超極細超高強度鋼線用線材を母材として製造された超極細超高強度鋼線も提供する。
【0022】
好ましくは、前記超極細超高強度鋼線の直径は、50~60μmで、引張強度≧4500MPaで、伸線加工過程での無断線の長さ≧300kmであるため、ソーワイヤーの直径、無断線の長さ、強度に対する現在業界の要件を満たすことができるだけでなく、大規模生産も実現できる。
【0023】
上記目的の一つを達成するため、本発明の一実施形態は、超極細超高強度鋼線用線材の製造方法も提供する。前記製造方法は、以下の工程を含む。
【0024】
真空誘導溶錬炉にて装入物を溶融し、次に精煉して溶鋼内の化学組成及び夾雑物を調整し、出鋼して鋳込みを行って鋼塊を得る溶錬工程、
鋼塊を結晶化及び再溶解して再溶解インゴットを得る再溶解工程、
再溶解インゴットへの均質化熱処理を施した後で鍛造してビレットを得る鍛造工程、及び、
ビレットを900~1100℃の温度下で圧延する圧延工程を含む。これにより、化学組成が質量%で、C:0.90~0.96%、Si:0.12~0.30%、Mn:0.30~0.65%、Cr:0.10~0.30%、Al≦0.004%、Ti≦0.001%、Cu≦0.01%、Ni≦0.01%、S≦0.01%、P≦0.01%、O≦0.0006%、N≦0.0006%を含有し、残部がFe及び不可避不純物元素である超極細超高強度鋼線用線材を製造する。
【0025】
本発明の一実施形態に記載の製造方法は、一方で、溶錬、再溶解等の工程を通じ、超極細超高強度鋼線用線材の化学組成への正確な制御を実現することで、強度及び引抜加工性を向上させ、一方で、再溶解を通じ夾雑物の組成及び結晶方位への制御を実現し、夾雑物が大幅に除去され、夾雑物のサイズも縮小させ、清浄度を向上し、さらに線材に中心偏析が生じないよう制御することで、製造される超極細超高強度鋼線用線材の化学組成及び夾雑物を効果的かつ正確に制御させ、高い強度、優れた引抜加工性及び高い清浄度を有することから伸線加工して製造された超極細超高強度鋼線は、超小直径、超高引張強度、超長の無断線の長さ及び超高清浄度を備えるよう確保する。
【0026】
本発明の一実施形態の更なる改善形態として、前記再溶解工程は、エレクトロスラグ再
溶解、又は/及び、消耗電極式真空アーク再溶解を含む。
【0027】
エレクトロスラグ再溶解は、電流がエレクトロスラグ材を通って流れる時に発生する抵抗熱によって加熱し、溶鋼-スラグの反応及び高温ガス化を介し鋼塊をさらに精製して非金属夾雑物を除去し、鋼塊の表面をきれいで滑らかにさせ、同時に熱流方向により、結晶方位を制御し、偏析を効果的に低減できるため、組織がより均一で緻密になり、低温、室温、高温下の鋼塊の塑性と靭性が向上され、最後に製造された超極細超高強度鋼線用線材は高強度、高清浄度、及び優れた靭性と引抜加工性を備えるよう確保する。消耗電極式真空アーク再溶解は、アークによって加熱され、真空と高温条件下で溶鋼が再溶解時に大気との接触を避けることができ、一部の非金属夾雑物が浮上分離又は炭素の発生によって除去され、同時にガス及び低融点の有害な不純物をさらに除去することで、鋼塊の冷間・熱間加工性、塑性及び機械的性質、物理的性質を明らかに改善させることができ、特に、縦方向と横方向の性質の違いが改善され、安定性、一貫性及び信頼性が向上し、さらに最後に製造された超極細超高強度鋼線用線材は、高強度、高清浄度、及び優れた靭性と引抜加工性を備えるよう確保する。
【0028】
本発明の一実施形態の更なる改善形態として、前記エレクトロスラグ再溶解を行う工程において、前記スラグの化学組成は、質量%で、CaO:6~14%、Al2O3:8~15%、SiO2:20~28%、MgO<5%を含有し、残部がCaF2である。スラグの配合比率を最適化することにより、エレクトロスラグ再溶解を行う工程内のスラグフォーミング効果を確保し、さらに最後に製造された超極細超高強度鋼線用線材内の夾雑物の組成、サイズ及び数密度が最適化されるよう確保する。
【0029】
本発明の一実施形態の更なる改善形態として、前記エレクトロスラグ再溶解を行う工程において、前記スラグの化学組成は、質量%でCaO:10%、Al2O=:10%、SiO2:25%を含有し、残部がCaF2である。スラグの配合比率をさらに最適化することにより、エレクトロスラグ再溶解を行う工程におけるスラグフォーミング効果が最高に達するのを確保し、さらに最後に製造された超極細超高強度鋼線用線材内の夾雑物の組成、サイズ及び数密度が最適化されるよう確保する。
【0030】
本発明の一実施形態の更なる改善形態として、前記エレクトロスラグ再溶解を行う工程において、再溶解の溶解速度は、6.5~7.5kg/minである。この範囲内の溶解速度は、鋼塊の結晶品質及び表面品質が良好であるだけでなく、鋼塊内に引け巣、緩み、偏析等の凝固欠陥がなく、鋼塊の表面が滑らかできれいであることを保証でき、また消費電力を最小限に抑え、エネルギーを節約できることで、最後に製造された超極細超高強度鋼線用線材は、高強度、優れた靭性と引抜加工性を備えるよう確保する。
【0031】
本発明の一実施形態の更なる改善形態として、前記エレクトロスラグ再溶解を行う工程は、
【0032】
スラグフォーミング段階、
溶錬室の圧力を2~5MPa、晶析装置内の冷却水圧を2~5MPaに制御する圧力制御段階、
電圧を35~38V、電流を8500~9500A、冷却水温度を35~40℃、冷却水の流量を130~150m3/hとするエレクトロスラグ溶錬段階、を順次実施する段階を含む。
【0033】
エレクトロスラグ再溶解を行う工程内の溶錬室の圧力、冷却水圧、電圧、電流、水温、水流量等のパラメータを制御することによって、エレクトロスラグ再溶解を行う工程内の溶鋼-スラグの反応過程及び高温ガス化効果を制御し、保温及び押湯を効果的に制御し、
鋼塊の緻密性を確保することで、最後に製造された超極細超高強度鋼線用線材の強度、靭性及び引抜加工性を確保する。
【0034】
本発明の一実施形態の更なる改善形態として、前記消耗電極式真空アーク再溶解を行う工程において、消耗電極棒を0.01~1Paの真空度において真空消耗結晶化・再溶解を行う。消耗電極式真空アーク再溶解工程内の真空度を最適化することにより、再溶解時に溶鋼が汚染されないようにし、同時に非金属夾雑物の浮上分離或いは炭素還元の反応条件を確保することで、更なる精製目的を達成し、最後に製造された超極細超高強度鋼線用線材の清浄度を確保する。
【0035】
本発明の一実施形態の更なる改善形態として、前記消耗電極式真空アーク再溶解を行う工程において、鋼塊を消耗電極棒とし、電気アークを発生させた後再溶解し、電気アーク電圧が20~26V、アークが15~20mmである。電気アーク電圧及びアーク長を制御することにより、再溶解温度が非金属夾雑物の浮上分離又は炭素還元の反応条件に達することを確保し、さらに精製することで、最後に製造された超極細超高強度鋼線用線材の清浄度を確保する。
【0036】
本発明の一実施形態の更なる改善形態として、前記消耗電極式真空アーク再溶解を行う工程内において、再溶解の溶解速度は、3.5~4.5kg/minである。この範囲内の溶解速度は、鋼塊の結晶品質及び表面品質が良好であるだけでなく、鋼塊内に引け巣、緩み、偏析等の凝固欠陥がなく、鋼塊の表面が滑らかできれいであることを保証でき、また消費電力を最小限に抑え、エネルギーを節約できることで、最後に製造された超極細超高強度鋼線用線材は、高強度、優れた靭性と引抜加工性を備えるよう確保する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の実施例1に係る超極細超高強度鋼線用線材の金属組織図である。
【
図2】本発明の実施例2に係る超極細超高強度鋼線用線材の金属組織図である。
【
図3】本発明の実施例3に係る超極細超高強度鋼線用線材の金属組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の一実施形態は、超極細超高強度鋼線用線材、及び超極細超高強度鋼線用線材の製造方法を提供する。
【0039】
本発明の超極細超高強度鋼線用線材の化学組成は、質量%で、C:0.90~0.96%、Si:0.12~0.30%、Mn:0.30~0.65%、Cr:0.10~0.30%、Al≦0.004%、Ti≦0.001%、Cu≦0.01%、Ni≦0.01%、S≦0.01%、P≦0.01%、O≦0.0006%、N≦0.0006%を含有し、残部がFe及び不可避不純物元素である。
【0040】
さらに、前記超極細超高強度鋼線用線材の化学組成は、質量%で、C:0.90~0.94%、Si:0.12~0.30%、Mn:0.30~0.65%、Cr:0.10~0.30%、Al≦0.004%、Ti≦0.001%、Cu≦0.01%、Ni≦0.01%、S≦0.01%、P≦0.01%、O≦0.0006%、N≦0.0006%を含有し、残部がFe及び不可避不純物元素である。
【0041】
前記超極細超高強度鋼線用線材の夾雑物のサイズは、4μm以下、C系夾雑物の平均密度は2個/mm2以下、直径は5.5mmである。なお、多数の実験的研究により、前記超極細超高強度鋼線用線材のソルバイト化率≧95%、減面率≧40%、引張強度≧1300MPaであることを実証した。
【0042】
前記超極細超高強度鋼線用線材は、直径50~60μm、引張強度≧4500MPaの超極細超高強度鋼線の製造用母材とすることができ、かつ前記超極細超高強度鋼線用線材から直径50~60μmの超極細超高強度鋼線として伸線加工して製造する過程で無断線の長さ≧300kmを実現できる。
【0043】
別の見方をすれば、本発明の一実施形態は、前記超極細超高強度鋼線用線材を母材として製造された超極細超高強度鋼線も提供する。例えば前記超極細超高強度鋼線用線材をさらに伸線加工して前記超極細超高強度鋼線を製造でき、前記超極細超高強度鋼線の直径は、50~60μmで、引張強度≧4500MPaであり、伸線加工・製造過程で無断線の長さ≧300kmである。
【0044】
本発明の一実施形態は、前記超極細超高強度鋼線用線材の製造方法も提供する。前で述べたように、本発明の製造方法は、多数の実験的研究に従って得られもので、以下に具体的実施例を組み合わせて前記製造方法の各工程をさらに説明する。
【0045】
(第1の実施形態)
前記超極細超高強度鋼線用線材の製造方法は、以下の工程を含む。
【0046】
(1)溶錬工程
真空誘導溶錬炉にて装入物を溶融し、次に精煉して溶鋼内の化学組成及び夾雑物を調整し、出鋼して鋳込みを行って鋼塊を得る。
【0047】
さらに、装入物が完全に溶けるまで装入物を加熱や溶融した後、アルゴンガスを溶錬室に(0.8~1)×104Paまで吹き込み、2~4min撹拌し、温度を1540±5℃に調整して精煉する。精煉は、2回に分けて完了させ、1回目の精煉の間で、精煉10minごとに2~4min撹拌し、1回の精煉時間が25~40minである。試料を採取して溶鋼内の化学組成及び夾雑物を分析した後、アルゴンガスを(2.5~3)×104Paまで追加吹き込み、電解マンガンを加え、2~4min撹拌した後、2回目の精煉に進み、2回目の精煉時間が15~25minである。試料を採取して分析し、夾雑物を除去して、2~4min撹拌した後、温度を1600±5℃に調整し、出鋼して鋳込みを行って鋼塊を得る。最終的な溶鋼に必要な成分に従い、化学元素添加方法で化学組成を調整できる。
【0048】
(2)再溶解工程
鋼塊を結晶化及び再溶解して再溶解インゴットを得る。
【0049】
さらに、前記再溶解工程は、溶錬して得られた鋼塊を消耗電極母材とし、エレクトロスラグ炉のエレクトロスラグ再溶解サイズに適した消耗電極棒として鍛造し、消耗電極棒表面の黒皮を除去し、エレクトロスラグ炉底の水槽にアークスタート材を敷き、消耗電極棒、アークスタート材及び水槽の三者を密着させ、600~800℃でスラグを焼き上げた後にアークスタートしてスラグフォーミングし、アルゴンガスを溶錬室に吹き込んで加圧した後にエレクトロスラグ溶解を開始し、押湯後消耗電極棒を持ち上げて製錬を終了し、圧力を逃がして温度を下げた後再溶解インゴットを排出するエレクトロスラグ再溶解を行う工程を含む。
【0050】
好ましくは、前記エレクトロスラグ再溶解を行う工程は、スラグフォーミング段階と圧力制御段階とエレクトロスラグ溶錬段階とを順次実施する段階を含む。
【0051】
圧力制御段階では、溶錬室の圧力を2~5MPa、晶析装置内の冷却水圧を2~5MPaに制御する。エレクトロスラグ溶錬段階では、電圧を35~38V、電流を8500~
9500A、冷却水温度を35~40℃、冷却水の流量を130~150m3/hとする。
【0052】
好ましくは、前記スラグの化学組成は、質量%で、CaO:6~14%、Al2O3:8~15%、SiO2:20~28%、MgO<5%を含有し、残部がCaF2である。
【0053】
より好ましくは、前記スラグの化学組成は、質量%で、CaO:10%、Al2O3:10%、SiO2:25%を含有し、残部がCaF2である。
【0054】
好ましくは、再溶解の溶解速度は、6.5~7.5kg/minである。
【0055】
(3)鍛造工程
再溶解インゴットへの均質化熱処理を施した後で鍛造してビレットを得る。
【0056】
好ましくは、鍛造開始温度は、1140~1160℃で、鍛造終止温度が800~900℃である。
【0057】
(4)圧延工程
鍛造ビレットを900~1100℃の温度下で圧延する。これにより、化学組成が質量%で、C:0.90~0.96%、Si:0.12~0.30%、Mn:0.30~0.65%、Cr:0.10~0.30%、Al≦0.004%、Ti≦0.001%、Cu≦0.01%、Ni≦0.01%、S≦0.01%、P≦0.01%、O≦0.0006%、N≦0.0006%を含有し、残部がFe及び不可避不純物元素である超極細超高強度鋼線用線材が製造される。
【0058】
さらに、前記超極細超高強度鋼線用線材の直径は、5.5mmである。ここで、前記圧延工程は、ビレット加熱、熱間圧延、ステルモア冷却制御等のプロセスを含み得る。
【0059】
以下に実施例を介して具体的に説明していく。
【0060】
(実施例1)
(1)溶錬
真空誘導溶錬炉にて装入物が完全に溶けるまで装入物を加熱や溶融した後、アルゴンガスを溶錬室に0.8×104Paまで吹き込み、4min撹拌し、温度を1540℃に調整して精煉した。1回目の精煉の間で、精煉10minごとに4min撹拌し、1回の精煉時間が40minであった。試料を採取して溶鋼内の化学組成及び夾雑物を分析した後、アルゴンガスを2.5×104Paまで追加吹き込み、電解マンガンを加え、4min撹拌した後、2回目の精煉に進み、2回目の精煉時間が25minであった。試料を採取して分析し、夾雑物を除去して、4min撹拌した後、温度を1600℃に調整し、出鋼して鋳込みを行って鋼塊を得た。
【0061】
(2)エレクトロスラグ再溶解
溶錬して得られた鋼塊を消耗電極母材とし、エレクトロスラグ炉のエレクトロスラグ再溶解サイズに適した消耗電極棒として鍛造し、消耗電極棒表面の黒皮を除去し、エレクトロスラグ炉底の水槽にアークスタート材を敷き、消耗電極棒、アークスタート材及び水槽の三者を密着させ、600℃でスラグを焼き上げた後にアークスタートしてスラグフォーミングし、スラグフォーミングした後アルゴンガスを溶錬室に吹き込んで2MPaまで増圧すると共にエレクトロスラグ炉の晶析装置内の冷却水圧を2MPaに調整し、アルゴンガスを溶錬室に吹き込んで加圧した後にエレクトロスラグ溶解を開始し、エレクトロスラグ溶解時電圧を38V、電流を9500A、冷却水温度を35℃、冷却水の流量を150
m3/hとした。押湯後消耗電極棒を持ち上げて製錬を終了し、圧力を逃がして温度を下げた後再溶解インゴットを排出した。
【0062】
前記スラグの化学組成は、質量%で、CaO:6%,Al2O3:15%、SiO2:20%,MgO:5%を含有し、残部がCaF2である。前記エレクトロスラグ溶解の溶解速度は、6.5kg/minであった。
【0063】
(3)鍛造
再溶解インゴットへの均質化熱処理を施した後で鍛造してビレットを得た。鍛造開始温度は、1140℃、鍛造終止温度が800℃であった。
【0064】
(4)圧延
ビレット加熱、熱間圧延、ステルモア冷却制御等を含む圧延工程を用いて鍛造ビレットを900℃の温度下で圧延して直径5.5mmの超極細超高強度鋼線用線材を製造し、前記超極細超高強度鋼線用線材の化学組成及びその質量%の情報を表1に示す。
【0065】
製造された超極細超高強度鋼線用線材に対して性能試験を実施し、試験した引張強度、減面率、ソルバイト含有量、夾雑物の情報等を表2に示す。線材の組織は、主にソルバイト、及び少量のパールライトであり、金属組織が
図1に示され、線材は基本的に組織偏析がなかった。さらにこの線材を二次加工して超極細超高強度鋼線として伸線すると共に測定及び性能試験を実施し、超極細超高強度鋼線の直径、引張強度、引抜長さ(すなわち線材を鋼線に伸線する時の無断線の長さ)等の情報を表3に示す。
【0066】
(第2の実施形態)
第2の実施形態と第1の実施形態との相違点は、前記再溶解工程の違いであり、具体的に次の通りである。
【0067】
前記再溶解工程は、溶錬して得られた鋼塊を消耗電極棒として消耗電極式真空アーク再溶解炉に装入し、電気アークを発生させた後、真空消耗結晶化・再溶解を行って再溶解インゴットを得る消耗電極式真空アーク再溶解を行う工程を含む。
【0068】
好ましくは、前記消耗電極棒を0.01~1Paの真空度において真空消耗結晶化・再溶解を行う。
【0069】
好ましくは、前記電気アーク電圧は、20~26V、アークが15~20mmである。
【0070】
好ましくは、前記消耗電極式真空アーク再溶解の溶解速度は、3.5~4.5kg/minである。
【0071】
第2の実施形態と第1の実施形態は、上記の相違点を除き、その他の工程はいずれも同じであるため、ここでその説明を省略する。
【0072】
以下に実施例を介して具体的に説明していく。
【0073】
(実施例2)
(1)溶錬
真空誘導溶錬炉にて装入物が完全に溶けるまで装入物を加熱や溶融した後、アルゴンガスを溶錬室に1.0×104Paまで吹き込み、2min撹拌し、温度を1540℃に調整して精煉した。1回目の精煉の間で、精煉10minごとに3min撹拌し、1回の精煉時間が25minであった。試料を採取して溶鋼内の化学組成及び夾雑物を分析した後
、アルゴンガスを3×104Paまで追加吹き込み、電解マンガンを加え、3min撹拌した後、2回目の精煉に進み、2回目の精煉時間が20minであった。試料を採取して分析し、夾雑物を除去して、3min撹拌した後、温度を1605℃に調整し、出鋼して鋳込みを行って鋼塊を得た。
【0074】
(2)消耗電極式真空アーク再溶解
溶錬して得られた鋼塊を消耗電極棒として消耗電極棒を消耗電極式真空アーク再溶解炉に装入し、消耗電極式真空アーク再溶解炉内の真空度を0.01Pa、電気アーク電圧を20V、アークを20mmに制御し、電気アークを発生させた後、真空消耗結晶化・再溶解を行い、溶解速度を4.5kg/minにして、再溶解インゴットを製造した。
【0075】
(3)鍛造
再溶解インゴットへの均質化熱処理を施した後で鍛造してビレットを得た。鍛造開始温度は、1160℃、鍛造終止温度が900℃であった。
【0076】
(4)圧延
ビレット加熱、熱間圧延、ステルモア冷却制御等を含む圧延工程を用いて鍛造ビレットを1000℃の温度下で圧延して直径5.5mmの超極細超高強度鋼線用線材を製造し、前記超極細超高強度鋼線用線材の化学組成及びその質量%の情報を表1に示す。
【0077】
製造された超極細超高強度鋼線用線材に対して性能試験を実施し、試験した引張強度、減面率、ソルバイト含有量、夾雑物の情報等を表2に示す。線材の組織は、主にソルバイト、及び少量のパールライトであり、金属組織が
図2に示され、線材は基本的に組織偏析がなかった。さらにこの線材を二次加工して超極細超高強度鋼線として伸線すると共に測定及び性能試験を実施し、超極細超高強度鋼線の直径、引張強度、引抜長さ(すなわち線材を鋼線に伸線する時の無断線の長さ)等の情報を表3に示す。
【0078】
(第3の実施形態)
第3の実施形態と第1の実施形態との相違点は、前記再溶解工程の違いであり、具体的に次の通りである。
【0079】
前記再溶解工程は、次の工程を含む。
【0080】
(1)エレクトロスラグ再溶解を行う工程:溶錬して得られた鋼塊を消耗電極母材とし、エレクトロスラグ炉のエレクトロスラグ再溶解サイズに適した消耗電極棒として鍛造し、消耗電極棒表面の黒皮を除去し、エレクトロスラグ炉底の水槽にアークスタート材を敷き、消耗電極棒、アークスタート材及び水槽の三者を密着させ、600~800℃でスラグを焼き上げた後にアークスタートしてスラグフォーミングし、アルゴンガスを溶錬室に吹き込んで加圧した後にエレクトロスラグ溶解を開始し、押湯後消耗電極棒を持ち上げて製錬を終了し、圧力を逃がして温度を下げた後再溶解インゴットを排出した。
【0081】
好ましくは、前記エレクトロスラグ再溶解を行う工程は、スラグフォーミング段階と圧力制御段階とエレクトロスラグ溶錬段階とを順次実施する段階を含む。
【0082】
圧力制御段階では、溶錬室の圧力を2~5MPa、晶析装置内の冷却水圧を2~5MPaに制御する。エレクトロスラグ溶錬段階では、電圧を35~38V、電流を8500~9500A、冷却水温度を35~40℃、冷却水の流量を130~150m3/hとする。
【0083】
好ましくは、前記スラグの化学組成は、質量%で、CaO:6~14%、Al2O3:8
~15%、SiO2:20~28%、MgO<5%を含有し、残部がCaF2である。
【0084】
より好ましくは、前記スラグの化学組成は、質量%で、CaO:10%、Al2O3:10%、SiO2:25%を含有し、残部がCaF2である。
【0085】
好ましくは、再溶解の溶解速度は、6.5~7.5kg/minである。
【0086】
(2)消耗電極式真空アーク再溶解を行う工程:エレクトロスラグ再溶解後の再溶解インゴットを消耗電極棒として消耗電極式真空アーク再溶解炉に装入し、電気アークを発生させた後、真空消耗結晶化・再溶解を行って再溶解インゴットを得る。
【0087】
好ましくは、前記消耗電極棒を0.01~1Paの真空度において真空消耗結晶化・再溶解を行う。
【0088】
好ましくは、前記電気アーク電圧は、20~26V、アークが15~20mmである。
【0089】
好ましくは、前記消耗電極式真空アーク再溶解の溶解速度は、3.5~4.5kg/minである。
【0090】
第3の実施形態と第1の実施形態は、上記の相違点を除き、その他の工程はいずれも同じであるため、ここでその説明を省略する。
【0091】
以下に実施例を介して具体的に説明していく。
【0092】
(実施例3)
(1)溶錬
真空誘導溶錬炉にて装入物が完全に溶けるまで装入物を加熱や溶融した後、アルゴンガスを溶錬室に0.9×104Paまで吹き込み、3min撹拌し、温度を1535℃に調整して精煉した。1回目の精煉の間で、精煉10minごとに2min撹拌し、1回の精煉時間が32minであった。試料を採取して溶鋼内の化学組成及び夾雑物を分析した後、アルゴンガスを2.8×104Paまで追加吹き込み、電解マンガンを加え、2min撹拌した後、2回目の精煉に進み、2回目の精煉時間が15minであった。試料を採取して分析し、夾雑物を除去して、2min撹拌した後、温度を1595℃に調整し、出鋼して鋳込みを行って鋼塊を得た。
【0093】
(2)エレクトロスラグ再溶解
溶錬して得られた鋼塊を消耗電極母材とし、エレクトロスラグ炉のエレクトロスラグ再溶解サイズに適した消耗電極棒として鍛造し、消耗電極棒表面の黒皮を除去し、エレクトロスラグ炉底の水槽にアークスタート材を敷き、消耗電極棒、アークスタート材及び水槽の三者を密着させ、800℃でスラグを焼き上げた後にアークスタートしてスラグフォーミングし、スラグフォーミングした後アルゴンガスを溶錬室に吹き込んで5MPaまで増圧すると共にエレクトロスラグ炉の晶析装置内の冷却水圧を5MPaに調整し、アルゴンガスを溶錬室に吹き込んで加圧した後にエレクトロスラグ溶解を開始し、エレクトロスラグ溶解時電圧を35V、電流を8500A、冷却水温度を40℃、冷却水の流量を130m3/hとした。押湯後消耗電極棒を持ち上げて製錬を終了し、圧力を逃がして温度を下げた後再溶解インゴットを排出した。
【0094】
前記スラグの化学組成は、質量%で、CaO:14%,Al2O3:8%、SiO2:28%、MgO:5%を含有し、残部がCaF2である。前記エレクトロスラグ溶錬の溶解速度は、6.5kg/minであった。
【0095】
(3)消耗電極式真空アーク再溶解
エレクトロスラグ再溶解後の鋼塊を消耗電極棒として消耗電極式真空アーク再溶解炉に装入し、消耗電極式真空アーク再溶解炉内の真空度を1Pa、電気アーク電圧を26V、アークを15mmに制御し、電気アークを発生させた後、真空消耗結晶化・再溶解を行い、溶解速度を3.5kg/minにして、再溶解インゴットを製造した。
【0096】
(4)鍛造
消耗電極式真空アーク再溶解後の鋼塊への均質化熱処理を施した後で鍛造してビレットを得た。鍛造開始温度は、1150℃、鍛造終止温度が850℃であった。
【0097】
(5)圧延
ビレット加熱、熱間圧延、ステルモア冷却制御等を含む圧延工程を用いて鍛造ビレットを1100℃の温度下で圧延して直径5.5mmの超極細超高強度鋼線用線材を製造し、前記超極細超高強度鋼線用線材の化学組成及びその質量%の情報を表1に示す。
【0098】
製造された超極細超高強度鋼線用線材に対して性能試験を実施し、試験した引張強度、減面率、ソルバイト含有量、夾雑物の情報等を表2に示す。線材の組織は、主にソルバイト、及び少量のパールライトであり、金属組織が
図3に示され、線材は基本的に組織偏析がなかった。さらにこの線材を二次加工して超極細超高強度鋼線として伸線すると共に測定及び性能試験を実施し、超極細超高強度鋼線の直径、引張強度、引抜長さ(すなわち線材を鋼線に伸線する時の無断線の長さ)等の情報を表3に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0099】
上記をまとめると、従来技術と比較して、本発明は、以下の有利な効果を有する。
【0100】
(1)化学組成及び質量%を制御することによって、超極細超高強度鋼線用線材のサイズ、強度及び清浄度を制御し、ここで線材内のC、Si、Mn、Cr等の元素含有量を制御すると共に、炭素偏析が生じないように制御することによって、超極細超高強度鋼線用線材の組織及び強度を制御し、Al、Ti、O、N等のC系夾雑物を生成する元素の含有量を制御することで、夾雑物の総量を制御する。最後に製造された超極細超高強度鋼線用線材において、全酸素含有量≦0.0006%、N含有量≦0.0006%、夾雑物のサイズ≦4μm、C系夾雑物の平均密度≦2個/mm2となり、直径5.5mmの前記超極細超高強度鋼線用線材のソルバイト化率≧95%、減面率≧40%、引張強度≧1300MPaであり、清浄度を大幅に向上し、優れた強度、靭性、引抜加工性を備え、清浄度がより高く、直径がより細く、無断線の長さがより長い鋼線を製造できる。
【0101】
(2)一方で、溶錬、再溶解等の工程を通じ、超極細超高強度鋼線用線材の化学組成への正確な制御を実現することで、強度及び引抜加工性を向上させ、一方で、再溶解を通じ夾雑物の組成及び結晶方位への制御を実現し、夾雑物が大幅に除去され、夾雑物のサイズも縮小させ、清浄度を向上し、さらに線材に中心偏析が生じないよう制御することで、組織がより均一で緻密になり、鋼塊内に引け巣、緩み、偏析等の凝固欠陥がなく、低温、室温、高温下の鋼塊の塑性と靭性が向上され、最後に製造された超極細超高強度鋼線用線材の化学組成及び夾雑物を効果的かつ正確に制御させ、高い強度、優れた引抜加工性及び高い清浄度を有することから伸線加工して製造された超極細超高強度鋼線は、超小直径、超高引張強度、超長の無断線の長さ及び超高清浄度を備えるよう確保する。