(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】低減させられた背景およびピーク重複を伴うトップダウン分析のための入手方略
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240110BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20240110BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01N27/62 D
H01J49/00 360
H01J49/00 310
H01J49/02 500
(21)【出願番号】P 2021544170
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(86)【国際出願番号】 IB2020050795
(87)【国際公開番号】W WO2020157720
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-31
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】リューミン, パヴェル
(72)【発明者】
【氏名】馬場 崇
(72)【発明者】
【氏名】ブルームフィールド, ニック ジー.
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-500539(JP,A)
【文献】特表2017-531802(JP,A)
【文献】特開2014-112068(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0314951(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
H01J 49/00 - H01J 49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の電子増倍管アナログ-デジタル変換(ADC)検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離するためのシステムであって、前記システムは、
質量分析器を含む質量分析計であって、前記質量分析器は、イオン電荷状態に比例する強度を伴う検出されたイオンに関する検出パルスを生成する電子増倍管ADC検出器を含む、質量分析計と、
プロセッサと
を備え、
前記プロセッサは、
前記質量分析計によって前記質量分析器に伝送される複数のイオンから前記ADC検出器に衝突する各イオンに関するパルスを検出するように前記質量分析器に命令することと、
ピーク発見を使用して検出された各パルスに関するピークを計算することと、
各ピークに関する強度を計算することと、
各ピークの前記強度を2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較し、前記比較に基づいて、前記2つ以上の所定の強度範囲に対応する2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各ピークを記憶することと、
前記2つ以上のデータセットのうちの各データセットにおけるピークを組み合わせることによって、前記2つ以上のデータセットのうちの各々に関する質量スペクトルを作成し、電荷状態に基づいて、前記質量分析器によって検出されたイオンに関する2つ以上の質量スペクトルを生成することと
を行う、システム。
【請求項2】
前記プロセッサは、各ピークに関する到着時間をさらに計算し、各ピークの前記強度と各ピークの前記到着時間とは、各ピークに関する強度および到着時間対を形成する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記2つ以上のデータセットのうちの各データセットにおけるピークを組み合わせることは、各データにおけるピークの強度および到着時間対をヒストグラムに組み合わせ、前記ヒストグラムから前記質量スペクトルを作成することを含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記2つ以上のデータセットのうちの1つ以上の他のデータセットの中に各ピークをさらに記憶する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記2つ以上の異なる所定の強度範囲は、重複している少なくとも2つの範囲を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記プロセッサは、前記少なくとも2つの範囲に対応するデータセットをさらに組み合わせ、1つ以上の重複していない強度範囲に対応する1つ以上のデータセットを生成する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記プロセッサは、各ピークの前記強度を2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較し、入手中、2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各ピークを記憶する、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記プロセッサは、各ピークの前記強度を2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較し、入手後、2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各ピークを記憶する、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記質量分析計は、前記ADC検出器が任意の所与の時間に単一のイオン衝突のみを受け取るように、前記質量分析器にイオンを伝送する、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
イオン源デバイスをさらに含み、前記質量分析計は、解離デバイスをさらに含み、前記プロセッサは、
サンプルのタンパク質をイオン化し、イオンビームにおいて前記タンパク質に関する複数の前駆イオンを生成するように前記イオン源デバイスに命令することと、
前記イオンビームにおける前記複数の前駆イオンを解離させ、前記イオンビームにおいて異なる電荷状態を伴う複数の生成イオンを生成するように前記解離デバイスに命令することと、
前記複数の生成イオンが前記質量分析計によって前記質量分析器に伝送される前記複数のイオンであるように、前記複数の生成イオンを前記質量分析器に伝送するように前記質量分析計に命令することと
によって、トップダウンタンパク質分析をさらに提供する、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記ADC検出器は、マルチチャネルデジタイザを備え、前記プロセッサは、前記マルチチャネルデジタイザの各デジタイザから前記ADC検出器に衝突する各イオンに関するパルスを検出するように前記質量分析器に命令する、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記マルチチャネルデジタイザの各デジタイザは、前記2つ以上の異なる所定の強度範囲のうちの異なる所定の強度範囲内のパルスをデジタル化するように適合されている、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
単一の電子増倍管アナログ-デジタル変換(ADC)検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法であって、前記方法は、
プロセッサを使用して、質量分析器の電子増倍管ADC検出器に衝突する各イオンに関するパルスを検出するように質量分析計の前記質量分析器に命令することであって、前記ADC検出器に衝突する各イオンは、前記質量分析計によって前記質量分析器に伝送される複数のイオンからのものであり、前記ADC検出器は、イオン電荷状態に比例する強度を伴う検出されたイオンに関する検出パルスを生成する、ことと、
前記プロセッサを使用して、ピーク発見を使用して検出された各パルスに関するピークを計算することと、
前記プロセッサを使用して、各ピークに関する強度を計算することと、
前記プロセッサを使用して、各ピークの前記強度を2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較し、前記比較に基づいて、前記2つ以上の所定の強度範囲に対応する2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各ピークを記憶することと、
前記プロセッサを使用して、各データセットにおけるピークを組み合わせることによって前記2つ以上のデータセットのうちの各々に関する質量スペクトルを作成し、電荷状態に基づいて、前記質量分析器によって検出されたイオンに関する2つ以上の質量スペクトルを生成することと
を含む、方法。
【請求項14】
非一過性および有形コンピュータ読み取り可能な記憶媒体を備えているコンピュータプログラム製品であって、前記記憶媒体のコンテンツは、命令を伴うプログラムを含み、前記命令は、単一の電子増倍管アナログ-デジタル変換(ADC)検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法を実施するためにプロセッサ上で実行され、
前記方法は、
システムを提供することであって、前記システムは、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを備え、前記異なるソフトウェアモジュールは、制御モジュールと、分析モジュールとを備えている、ことと、
前記制御モジュールを使用して、質量分析器の電子増倍管ADC検出器に衝突する各イオンに関するパルスを検出するように質量分析計の前記質量分析器に命令することであって、前記ADC検出器に衝突する各イオンは、前記質量分析計によって前記質量分析器に伝送される複数のイオンからのものであり、前記ADC検出器は、イオン電荷状態に比例する強度を伴う検出されたイオンに関する検出パルスを生成する、ことと、
前記分析モジュールを使用して、ピーク発見を使用して検出された各パルスに関するピークを計算することと、
前記分析モジュールを使用して、各ピークに関する強度を計算することと、
前記分析モジュールを使用して、各ピークの前記強度を2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較し、前記比較に基づいて、前記2つ以上の所定の強度範囲に対応する2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各ピークを記憶することと、
前記分析モジュールを使用して、各データセットにおけるピークを組み合わせることによって、前記2つ以上のデータセットのうちの各々に関する質量スペクトルを作成し、電荷状態に基づいて、前記質量分析器によって検出されたイオンに関する2つ以上の質量スペクトルを生成することと
を含む、コンピュータプログラム製品。
【請求項15】
鏡像電荷検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離するためのシステムであって、前記システムは、
質量分析器を含む質量分析計であって、前記質量分析器は、鏡像電荷検出器を含む、質量分析計と、
プロセッサと
を備え、
前記プロセッサは、
前記質量分析器内の複数のイオンの振動によって前記鏡像電荷検出器において誘発された過渡時間ドメイン信号を検出するように前記質量分析器に命令することであって、前記複数のイオンは、前記質量分析計によって前記質量分析器に伝送される、ことと、
前記過渡時間ドメイン信号を複数の周波数ドメインピークに変換することであって、前記複数の周波数ドメインピークのうちの各周波数ドメインピークは、前記複数のイオンのうちのあるイオンに対応する、ことと、
各周波数ドメインピークの強度を2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較し、前記比較に基づいて、前記2つ以上の所定の強度範囲に対応する2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各周波数ドメインピークを記憶することと、
各データセットにおける周波数ドメインピークを組み合わせ、各データセットにおける前記組み合わせられた周波数ドメインピークを質量電荷比(m/z)ピークに変換することによって、前記2つ以上のデータセットのうちの各々に関する質量スペクトルを作成し、電荷状態に基づいて、前記質量分析器によって検出されたイオンに関する2つ以上の質量スペクトルを生成することと
を行う、システム。
【請求項16】
前記プロセッサは、フーリエ変換を使用して、前記過渡時間ドメイン信号を複数の周波数ドメインピークに変換する、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記プロセッサは、前記過渡時間ドメイン信号を複数の周波数ドメインピークに変換し、各周波数ドメインピークの強度を計算し、各周波数ドメインピークの強度を2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較し、入手中、2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各周波数ドメインピークを記憶する、請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
前記プロセッサは、前記過渡時間ドメイン信号を複数の周波数ドメインピークに変換し、各周波数ドメインピークの強度を計算し、各周波数ドメインピークの強度を2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較し、入手後、2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各周波数ドメインピークを記憶する、請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
前記質量分析計は、前記質量分析器が、特定のm/zおよび電荷状態の単一のイオンのみを含むように、前記質量分析器にイオンを伝送する、請求項15に記載のシステム。
【請求項20】
イオン源デバイスをさらに含み、前記質量分析計は、解離デバイスをさらに含み、前記プロセッサは、
サンプルのタンパク質をイオン化し、イオンビームにおいて前記タンパク質に関する複数の前駆イオンを生成するように前記イオン源デバイスに命令することと、
前記イオンビームにおける前記複数の前駆イオンを解離させ、前記イオンビームにおいて異なる電荷状態を伴う複数の生成イオンを生成するように前記解離デバイスに命令することと、
前記複数の生成イオンが前記質量分析計によって前記質量分析器に伝送される前記複数のイオンであるように、前記複数の生成イオンを前記質量分析器に伝送するように前記質量分析計に命令することと
によって、トップダウンタンパク質分析をさらに提供する、請求項15に記載のシステム。
【請求項21】
鏡像電荷検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法であって、前記方法は、
プロセッサを使用して、質量分析器内の複数のイオンの振動によって前記質量分析器の鏡像電荷検出器において誘発された過渡時間ドメイン信号を検出するように質量分析計の前記質量分析器に命令することであって、前記複数のイオンは、前記質量分析計によって前記質量分析器に伝送される、ことと、
前記プロセッサを使用して、前記過渡時間ドメイン信号を複数の周波数ドメインピークに変換することであって、前記複数の周波数ドメインピークのうちの各周波数ドメインピークは、前記複数のイオンのうちのあるイオンに対応する、ことと、
前記プロセッサを使用して、各周波数ドメインピークの強度を2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較し、前記比較に基づいて、前記2つ以上の所定の強度範囲に対応する2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各周波数ドメインピークを記憶することと、
前記プロセッサを使用して、各データセットにおける周波数ドメインピークを組み合わせ、各データセットにおける前記組み合わせられた周波数ドメインピークを質量電荷比(m/z)ピークに変換することによって、前記2つ以上のデータセットのうちの各々に関する質量スペクトルを作成し、電荷状態に基づいて、前記質量分析器によって検出されたイオンに関する2つ以上の質量スペクトルを生成することと
を含む、方法。
【請求項22】
非一過性および有形コンピュータ読み取り可能な記憶媒体を備えているコンピュータプログラム製品であって、前記記憶媒体のコンテンツは、命令を伴うプログラムを含み、前記命令は、鏡像電荷検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法を実施するようにプロセッサ上で実行され、
前記方法は、
システムを提供することであって、前記システムは、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを備え、前記異なるソフトウェアモジュールは、制御モジュールと、分析モジュールとを備えている、ことと、
前記制御モジュールを使用して、質量分析器内の複数のイオンの振動によって前記質量分析器の鏡像電荷検出器において誘発された過渡時間ドメイン信号を検出するように質量分析計の前記質量分析器に命令することであって、前記複数のイオンは、前記質量分析計によって前記質量分析器に伝送される、ことと、
前記分析モジュールを使用して、前記過渡時間ドメイン信号を複数の周波数ドメインピークに変換することであって、前記複数の周波数ドメインピークのうちの各周波数ドメインピークは、前記複数のイオンのうちのあるイオンに対応する、ことと、
前記分析モジュールを使用して、各周波数ドメインピークの強度を2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較し、前記比較に基づいて、前記2つ以上の所定の強度範囲に対応する2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各周波数ドメインピークを記憶することと、
前記分析モジュールを使用して、各データセットにおける周波数ドメインピークを組み合わせ、各データセットにおける前記組み合わせられた周波数ドメインピークを質量電荷比(m/z)ピークに変換することによって、前記2つ以上のデータセットのうちの各々に関する質量スペクトルを作成し、電荷状態に基づいて、前記質量分析器によって検出されたイオンに関する2つ以上の質量スペクトルを生成することと
を含む、コンピュータプログラム製品。
【請求項23】
複数の電子増倍管アナログ-デジタル変換(ADC)検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離するためのシステムであって、前記システムは、
質量分析器を含む質量分析計であって、前記質量分析器は、2つ以上の電子増倍管ADC検出器を含み、前記2つ以上のADC検出器のうちの各検出器は、イオン電荷状態に比例する強度を伴う検出されたイオンに関する検出パルスを生成し、前記2つ以上のADC検出器のうちの各検出器は、2つ以上の所定の強度範囲のうちの異なるイオン強度範囲内にある前記検出パルスからのピークを計算するためにピーク発見を使用するように適合され、前記2つ以上の所定の強度範囲は、2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する、質量分析計と、
プロセッサと
を備え、
前記プロセッサは、
前記質量分析器内の複数のイオンからのイオンが前記2つ以上のADC検出器に衝突すると、前記2つ以上のADC検出器のうちの各々を使用して、パルスを同時に検出し、ピークを計算するように前記質量分析器に命令することと、
前記各検出器に対応するデータセットの中に各検出器の各ピークを記憶し、前記2つ以上の異なる電荷状態に対応する2つ以上のデータセットを生成することと、
各データセットにおけるピークを組み合わせることによって、前記2つ以上のデータセットのうちの各々に関する質量スペクトルを作成し、電荷状態に基づいて、前記質量分析器によって検出されたイオンに関する2つ以上の質量スペクトルを生成することと
を行う、システム。
【請求項24】
前記2つ以上のADC検出器は、2つ以上のADCデバイスに接続された単一の電子増倍管検出器を備え、前記2つ以上のADCデバイスは、前記単一の電子増倍管検出器の同じ出力をデジタル化し、前記2つ以上のADCデバイスのうちの各ADCデバイスは、2つ以上の所定の強度範囲のうちの異なるイオン強度範囲内にある前記検出パルスからのピークを計算するためにピーク発見を使用するように適合されている、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記2つ以上の異なる所定の強度範囲は、重複している少なくとも2つの範囲を含む、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記プロセッサは、前記少なくとも2つの範囲に対応するデータセットをさらに組み合わせ、1つ以上の重複していない強度範囲に対応する1つ以上のデータセットを生成する、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記質量分析計は、前記2つ以上のADC検出器のうちの各々が任意の所与の時間に単一のイオン衝突のみを受け取るように、前記質量分析器にイオンを伝送する、請求項23に記載のシステム。
【請求項28】
イオン源デバイスをさらに含み、前記質量分析計は、解離デバイスをさらに含み、前記プロセッサは、
サンプルのタンパク質をイオン化し、イオンビームにおいて前記タンパク質に関する複数の前駆イオンを生成するように前記イオン源デバイスに命令することと、
前記イオンビームにおける前記複数の前駆イオンを解離させ、前記イオンビームにおいて異なる電荷状態を伴う複数の生成イオンを生成するように前記解離デバイスに命令することと、
前記複数の生成イオンが前記質量分析計によって前記質量分析器に伝送される前記複数のイオンであるように、前記複数の生成イオンを前記質量分析器に伝送するように前記質量分析計に命令することと
によって、トップダウンタンパク質分析をさらに提供する、請求項23に記載のシステム。
【請求項29】
複数の電子増倍管アナログ-デジタル変換(ADC)検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法であって、前記方法は、
プロセッサを使用して、質量分析器内の複数のイオンからのイオンが2つ以上のADC検出器に衝突すると、前記質量分析器の2つ以上のADC検出器のうちの各々を使用して、パルスを同時に検出し、ピークを計算するように質量分析計の前記質量分析器に命令することであって、前記複数のイオンは、前記質量分析計によって前記質量分析器に伝送され、前記2つ以上のADC検出器のうちの各検出器は、2つ以上の所定の強度範囲のうちの異なるイオン強度範囲内にある前記検出されたパルスからのピークを計算するためにピーク発見を使用するように適合され、前記2つ以上の所定の強度範囲は、2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する、ことと、
前記プロセッサを使用して、各検出器に対応するデータセットの中に前記各検出器の各ピークを記憶し、前記2つ以上の異なる電荷状態に対応する2つ以上のデータセットを生成することと、
前記プロセッサを使用して、各データセットにおけるピークを組み合わせることによって、前記2つ以上のデータセットのうちの各々に関する質量スペクトルを作成し、電荷状態に基づいて、前記質量分析器によって検出されたイオンに関する2つ以上の質量スペクトルを生成することと
を含む、方法。
【請求項30】
非一過性および有形コンピュータ読み取り可能な記憶媒体を備えているコンピュータプログラム製品であって、前記記憶媒体のコンテンツは、命令を伴うプログラムを含み、前記命令は、複数の電子増倍管アナログ-デジタル変換(ADC)検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法を実施するようにプロセッサ上で実行され、
前記方法は、
システムを提供することであって、前記システムは、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを備え、前記異なるソフトウェアモジュールは、制御モジュールと、分析モジュールとを備えている、ことと、
プロセッサを使用して、質量分析器内の複数のイオンからのイオンが2つ以上のADC検出器に衝突すると、前記質量分析器の2つ以上のADC検出器のうちの各々を使用して、パルスを同時に検出し、ピークを計算するように質量分析計の前記質量分析器に命令することであって、前記複数のイオンは、前記質量分析計によって前記質量分析器に伝送され、前記2つ以上のADC検出器のうちの各検出器は、2つ以上の所定の強度範囲のうちの異なるイオン強度範囲内にある前記検出されたパルスからのピークを計算するためにピーク発見を使用するように適合され、前記2つ以上の所定の強度範囲は、2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する、ことと、
前記分析モジュールを使用して、前記各検出器に対応するデータセットの中に各検出器の各ピークを記憶し、前記2つ以上の異なる電荷状態に対応する2つ以上のデータセットを生成することと、
前記プロセッサを使用して、各データセットにおけるピークを組み合わせることによって、前記2つ以上のデータセットのうちの各々に関する質量スペクトルを作成し、電荷状態に基づいて、前記質量分析器によって検出されたイオンに関する2つ以上の質量スペクトルを生成することと
を含む、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、その内容が参照することによってその全体として本明細書に組み込まれる2019年1月31日に出願された米国仮特許出願第62/799,600号の利益を主張する。
【0002】
(技術分野)
本明細書の教示は、イオンの電荷状態に基づいて、測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離するための質量分析システムおよび方法に関する。より具体的に、イオン測定値は、(i)単一の電子増倍管検出器によって測定されたイオンパルスの強度に基づいて、(ii)鏡像電荷検出器(image-charge detector)によって測定された過渡時間ドメイン信号から変換された周波数ドメインピークの強度に基づいて、または、(iii)異なる強度範囲を測定する2つ以上の電子増倍管アナログ-デジタル変換(ADC)検出器を使用することによって、電荷状態によって分離される。
【0003】
本明細書に開示されるシステムおよび方法はまた、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、または
図1のコンピュータシステム等のコンピュータシステムと併せて実施される。
【背景技術】
【0004】
(ピーク重複問題)
例えば、トップダウン質量分析(MS)タンパク質分析では、質量スペクトルにおける質量または質量対電荷(m/z)ピークの重複が、重大な問題である。このタイプの分析では、1~200個のアミノ酸の長さを有し、1~50個の異なる電荷状態を有する生成イオンを含む非常に広い範囲の異なる断片または生成イオンが、生成される。生成イオンピークは、単一のスペクトルにおいて互いに大量に重なり合う。加えて、重複は、非常に広範であり得るので、最も高い質量分解能を伴う質量分析計(フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR)またはオービトラップ)であっても、そのような重なり合ったピークの畳み込みを解くことができない。結果として、多くの生成イオンが、多くの場合、トップダウンタンパク質分析において失われ、多くのタンパク質の配列包括度を限定する。
【0005】
図2は、トップダウンMSタンパク質分析において起こる断片化を示す例示的略
図200である。
図2では、無傷のタンパク質210が、タンデムMS220を使用して断片化される。結果として、タンパク質断片またはペプチドの生成イオン230が、生成される。質量スペクトルが、生成イオン230に関して生成される。
【0006】
図3は、30,000のm/z分解能を使用するタンデム質量分析計によって測定されたトップダウンMSタンパク質分析からの生成イオンスペクトルを示す例示的プロット300である。プロット300は、殆ど全ての生成イオンピークが、いくらかの重複を有することを示す。
【0007】
図4は、
図3に示される同じ生成イオンの生成イオンスペクトルを示すが、70,000のm/z分解能を使用するタンデム質量分析計によって測定された例示的プロット400である。
図3のプロット300と比較したプロット400は、生成イオンピークのいくらかの重複が、低減させられることを示す。
【0008】
図5は、
図3および
図4に示される同じ生成イオンの生成イオンスペクトルを示すが、240,000のm/z分解能を使用するタンデム質量分析計によって測定された例示的プロット500である。
図4のプロット400と比較したプロット500は、生成イオンピーク間のなおもより少ない重複を示す。しかしながら、240,000のm/z分解能であっても、重複は、依然として、明らかである。
図3-5は、重複が、非常に広範であり得るので、それが、分解能単独によって改善されることができないことを示す。
【0009】
従来の電子増倍管検出器では、発生させられる一次電子の数は、入射イオンの電荷状態に依存する(高荷電イオンは、より多くの一次電子を発生させ、したがって、より強い電子信号を発生させる)。Richard B.Cole (Ed.),「Electrospray ionization mass spectrometry:fundamentals,instrumentation,and applications」 New York:WileyにおけるChernushevich et al.(1997),「Electrospray ionization time-of-flight mass spectrometry」(以降では「Chernushevich et al.」)は、電荷状態に基づいてイオンを分離し、イオンピークの重複を低減させるために、電子増倍管検出器のこの特性を使用した。具体的に、Chernushevich et al.は、2つの異なる一定分数弁別器(CFD)値を使用する2つの時間-デジタル変換(TDC)検出器を用いて同時にイオンを測定した。CFDは、信号の最大値を発見するデバイスである。この場合、2つのTDCは、イオン強度の異なる最大レベルにおいてそれらのCFDデバイスによってトリガされた。このように、第1のTDCは、強度および電荷状態の第1の最大レベルを上回る全てのイオンを測定し、第2のTDCは、第2のより高い最大レベルを上回る強度および電荷状態を伴うイオンを測定した。第1の最大レベルと第2のより高い最大レベルとの間の範囲内の強度および電荷状態を伴うイオンは、第1のTDCによって測定されたイオンから第2のTDCによって測定されたイオンを減算することによって発見され得る。
【0010】
Chernushevich et al.は、イオンを分離する重要な新しい方法を提供したが、複数のTDC検出器の使用は、理想的ではない。TDC検出器は、イオン信号の強度を測定せず、したがって、電荷状態を直接測定しない。また、各TDC検出器は、TDC検出器によって測定される強度を限定するために、CFDデバイスを要求する。結果として、複数のTDC検出器の使用は、強度および電荷状態の範囲を発見するために、追加の処理およびハードウェアを要求する。
【0011】
その結果、追加のシステムおよび方法が、質量分析計によって測定されたイオンピーク間の重複を低減させるために、電荷状態によってイオンを分離するために必要とされる。
【0012】
(質量分析背景)
質量分析(MS)は、それらの化合物から形成されるイオンのm/z値の分析に基づく化学化合物の検出および定量化のための分析技法である。MSは、サンプルからの1つ以上の着目化合物のイオン化、前駆イオンの生成、および前駆イオンの質量分析を伴う。
【0013】
タンデム質量分析または質量分析/質量分析(MS/MS)は、サンプルからの1つ以上の着目化合物のイオン化、1つ以上の化合物の1つ以上の前駆イオンの選択、生成イオンへの1つ以上の前駆イオンの断片化、および生成イオンの質量分析を伴う。
【0014】
MSおよびMS/MSの両方は、定性的および定量的情報を提供することができる。測定された前駆または生成イオンスペクトルは、着目分子を識別するために使用されることができる。前駆イオンおよび生成イオンの強度も、サンプルに存在する化合物の量を定量化するために使用されることができる。
【0015】
(断片化技法背景)
電子ベースの解離(ExD)、紫外線光解離(UVPD)、赤外線光解離(IRMPD)、および衝突誘発解離(CID)が、多くの場合、タンデム質量分析(MS/MS)のための断片化技法として使用される。ExDは、限定ではないが、電子捕捉解離(ECD)または電子伝達解離(ETD)を含むことができる。CIDは、タンデム質量分析計における解離のための最も従来的な技法である。
【0016】
上で説明されるように、トップダウンおよびミドルダウンプロテオミクスでは、無傷または消化されたタンパク質が、イオン化され、タンデム質量分析を受ける。例えば、ECDは、ペプチドおよびタンパク質骨格を優先的に解離する解離技法である。結果として、この技法は、トップダウンおよびミドルダウンプロテオミクスアプローチを使用して、ペプチドまたはタンパク質配列を分析するための理想的なツールである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
種々の実施形態による、単一の電子増倍管ADC検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離するためのシステム、方法、およびコンピュータプログラム製品が、開示される。
【0018】
質量分析計の質量分析器が、プロセッサを使用して、質量分析器の電子増倍管ADC検出器に衝突する各イオンに関するパルスを検出するよう命令される。ADC検出器に衝突する各イオンは、質量分析計によって質量分析器に伝送される複数のイオンからのものである。ADC検出器は、イオン電荷状態に比例する強度を伴う検出されたイオンに関する検出パルスを生成する。
【0019】
ピークが、プロセッサを使用して、ピーク発見を使用して検出された各パルスに関して検出される。強度が、プロセッサを使用して、各ピークのために計算される。各ピークの強度は、プロセッサを使用して、2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較される。加えて、各ピークは、プロセッサを使用して、比較に基づいて、2つ以上の所定の強度範囲に対応する2つ以上のデータセットのうちの1つの中に記憶される。
【0020】
質量スペクトルが、プロセッサを使用して、各データセットにおけるピークを組み合わせることによって、2つ以上のデータセットのうちの各々に関して作成される。結果として、2つ以上の質量スペクトルが、電荷状態に基づいて、質量分析器によって検出されたイオンに関して生成される。
【0021】
種々の実施形態による、鏡像電荷検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離するためのシステム、方法、およびコンピュータプログラム製品が、開示される。
【0022】
質量分析計の質量分析器が、プロセッサを使用して、質量分析器内の複数のイオンの振動によって質量分析器の鏡像電荷検出器において誘発された過渡時間ドメイン信号を検出するように命令される。複数のイオンは、質量分析計によって質量分析器に伝送される。
【0023】
過渡時間ドメイン信号は、プロセッサを使用して、複数の周波数ドメインピークに変換される。各周波数ドメインピークは、複数のイオンのうちのあるイオンに対応する。
【0024】
複数の周波数ドメインピークのうちの各周波数ドメインピークの強度が、プロセッサを使用して、2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較される。加えて、各周波数ドメインピークは、プロセッサを使用して、比較に基づいて、2つ以上の所定の強度範囲に対応する2つ以上のデータセットのうちの1つの中に記憶される。
【0025】
プロセッサを使用して、質量スペクトルが、各データセットにおける周波数ドメインピークを組み合わせることによって、2つ以上のデータセットのうちの各々に関して作成され、各データセット内の組み合わせられた周波数ドメインピークは、m/zピークに変換される。2つ以上の質量スペクトルが、電荷状態に基づいて、質量分析器によって検出されたイオンに関して生成される。
【0026】
種々の実施形態による、複数の電子増倍管ADC検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離するためのシステム、方法、およびコンピュータプログラム製品が、開示される。
【0027】
質量分析計の質量分析器が、プロセッサを使用して、質量分析器内の複数のイオンからのイオンが2つ以上のADC検出器に衝突すると、質量分析器の2つ以上のADC検出器のうちの各々を使用して、パルスを同時に検出し、ピークを計算するように命令される。複数のイオンは、質量分析計によって質量分析器に伝送される。2つ以上のADC検出器のうちの各検出器は、2つ以上の所定の強度範囲のうちの異なるイオン強度範囲内にある検出パルスからのピークを計算するためにピーク発見を使用するように適合される。2つ以上の所定の強度範囲は、2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する。
【0028】
各検出器の各ピークは、検出器に対応するデータセット内に記憶され、2つ以上の異なる電荷状態に対応する2つ以上のデータセットを生成する。
【0029】
質量スペクトルが、プロセッサを使用して、各データセットにおけるピークを組み合わせることによって、2つ以上のデータセットのうちの各々に関して作成され、電荷状態に基づいて、質量分析器によって検出されたイオンに関する2つ以上の質量スペクトルを生成する。
【0030】
本出願人の教示のこれらおよび他の特徴が、本明細書に記載される。
【0031】
当業者は、下で説明される図面が例証目的のみのためであることを理解するであろう。図面は、いかようにも本教示の範囲を限定することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、本教示の実施形態が実装され得るコンピュータシステムを図示するブロック図である。
【0033】
【
図2】
図2は、トップダウンMSタンパク質分析において起こる断片化を示す例示的略図である。
【0034】
【
図3】
図3は、30,000のm/z分解能を使用するタンデム質量分析計によって測定されたトップダウンMSタンパク質分析からの生成イオンスペクトルを示す例示的プロットである。
【0035】
【
図4】
図4は、
図3に示される同じ生成イオンの生成イオンスペクトルを示すが、70,000のm/z分解能を使用するタンデム質量分析計によって測定された例示的プロットである。
【0036】
【
図5】
図5は、
図3および
図4に示される同じ生成イオンの生成イオンスペクトルを示すが、240,000のm/z分解能を使用するタンデム質量分析計によって測定された例示的プロットである。
【0037】
【
図6】
図6は、飛行時間(TOF)質量分析器のADC検出器によって測定され、異なる強度を有するイオン信号が、従来通りに処理される方法を示す一連の例示的プロットである。
【0038】
【
図7】
図7は、種々の実施形態による、TOF質量分析器のADC検出器によって測定され、異なる強度を有するイオン信号が異なる質量スペクトルにおける使用のために別個のイオン強度範囲または帯域に処理される方法を示す一連の例示的プロットである。
【0039】
【
図8】
図8は、種々の実施形態による、イオンピーク重複が、類似した強度を伴う単一イオン到着パルスを別個のデータセットに分離し、別個のデータセットの各々に関する質量スペクトルを作成することによって質量スペクトルにおいて低減させられる方法を示す一連のプロットである。
【0040】
【
図9】
図9は、パルスの低ビットADC点の破棄が、Hofstadler Paperの方法において使用されるデジタル閾値の結果として、誤ったピーク位置を生成し得る様子を示す例示的プロットである。
【0041】
【
図10】
図10は、Hofstadler Paperの方法において、異なるデジタル閾値において入手されたスペクトルが、互いに減算される様子を示す例示的プロットである。
【0042】
【
図11】
図11は、Hofstadler Paperの方法による、
図10の異なるデジタル閾値が
図10のピークに適用されると、人為的ピークおよびより低い電荷状態ピークが生成されることを示す例示的プロットである。
【0043】
【
図12】
図12は、種々の実施形態による、単一の電子増倍管ADC検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離するためのシステムを示す例示的概略図である。
【0044】
【
図13】
図13は、種々の実施形態による、単一の電子増倍管ADC検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法を示すフローチャートである。
【0045】
【
図14】
図14は、種々の実施形態による、単一の電子増倍管ADC検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法を実施する1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステムの例示的概略図である。
【0046】
【
図15】
図15は、種々の実施形態による、質量分析器内で振動する複数のイオンの各々からの成分を含む鏡像電荷検出器によって測定された例示的過渡時間ドメイン信号のプロットである。
【0047】
【
図16】
図16は、種々の実施形態による、単一の鏡像電荷検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離するためのシステムを示す例示的概略図である。
【0048】
【
図17】
図17は、種々の実施形態による、単一の電子増倍管鏡像電荷検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法を示すフローチャートである。
【0049】
【
図18】
図18は、種々の実施形態による、単一の電子増倍管鏡像電荷検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法を実施する1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステムの例示的概略図である。
【0050】
【
図19】
図19は、種々の実施形態による、複数の電子増倍管ADC検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離するためのシステムを示す例示的概略図である。
【0051】
【
図20】
図20は、種々の実施形態による、複数のADC検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離するためのシステムによって生成される一連の質量スペクトルである。
【0052】
【
図21】
図21は、種々の実施形態による、複数の電子増倍管ADC検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法を示すフローチャートである。
【0053】
【
図22】
図22は、種々の実施形態による、単一の電子増倍管ADC検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法を実施する1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステムの例示的概略図である。
【0054】
【
図23】
図23は、本教示の実施形態が実装され得る各々が非理想的形状を有する例示的イオンパケットのデジタル化信号が分解能を向上させるために4つの電極および4チャネルデジタイザを使用して取得される方法を示す例示的TOFイオン検出システムの側面図である。
【0055】
【
図24】
図24は、本教示の実施形態が実装され得る5つのADCデバイスに接続された単一の電子増倍管検出器を含む例示的TOFイオン検出システムの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本教示の1つ以上の実施形態が詳細に説明される前に、当業者は、それらの用途において、本教示が以下の詳細な説明に記載され、または図面に図示される構造の詳細、構成要素の配列、およびステップの配列に限定されないことを理解するであろう。本明細書に使用される表現法および専門用語が説明の目的のためのものであり、限定的と見なされるべきではないことも理解されたい。
【0057】
(コンピュータ実装システム)
図1は、本教示の実施形態が実装され得るコンピュータシステム100を図示するブロック図である。コンピュータシステム100は、情報を通信するためのバス102または他の通信機構と、情報を処理するためのバス102と結合されるプロセッサ104とを含む。コンピュータシステム100は、プロセッサ104によって実行されるべき命令を記憶するために、バス102に結合されたランダムアクセスメモリ(RAM)または他の動的記憶デバイスであり得るメモリ106も含む。メモリ106は、プロセッサ104によって実行されるべき命令の実行中に一時変数または他の中間情報を記憶するためにも使用され得る。コンピュータシステム100は、プロセッサ104のための静的情報および命令を記憶するためのバス102に結合された読み取り専用メモリ(ROM)108または他の静的記憶デバイスをさらに含む。磁気ディスクまたは光学ディスク等の記憶デバイス110が、情報および命令を記憶するために提供され、バス102に結合される。
【0058】
コンピュータシステム100は、情報をコンピュータユーザに表示するために、バス102を介してブラウン管(CRT)または液晶ディスプレイ(LCD)等のディスプレイ112に結合され得る。英数字および他のキーを含む入力デバイス114が、情報およびコマンド選択をプロセッサ104に通信するためにバス102に結合される。別のタイプのユーザ入力デバイスは、方向情報およびコマンド選択をプロセッサ104に通信するため、かつディスプレイ112上のカーソル移動を制御するためのマウス、トラックボール、またはカーソル方向キー等のカーソル制御装置116である。この入力デバイスは、典型的に、デバイスが平面内の位置を規定することを可能にする2つの軸、第1の軸(すなわち、x)および第2の軸(すなわち、y)において2自由度を有する。
【0059】
コンピュータシステム100は、本教示を実施することができる。本教示のある実装と一貫して、結果が、プロセッサ104がメモリ106内に含まれる1つ以上の命令の1つ以上の一続きを実行することに応答して、コンピュータシステム100によって提供される。そのような命令は、記憶デバイス110等の別のコンピュータ読み取り可能な媒体からメモリ106に読み込まれ得る。メモリ106内に含まれる命令の一続きの実行は、プロセッサ104に、本明細書に説明されるプロセスを実施させる。代替として、配線回路が、本教示を実装するために、ソフトウェア命令の代わりに、またはそれと組み合わせて、使用され得る。したがって、本教示の実装は、ハードウェア回路およびソフトウェアのいずれの具体的組み合わせにも限定されない。
【0060】
種々の実施形態において、コンピュータシステム100は、ネットワーク化システムを形成するように、ネットワークを横断して、コンピュータシステム100のような1つ以上の他のコンピュータシステムに接続されることができる。ネットワークは、私設ネットワークまたはインターネット等の公衆ネットワークを含むことができる。ネットワーク化システムでは、1つ以上のコンピュータシステムは、データを記憶し、他のコンピュータシステムにサービス提供することができる。データを記憶およびサービス提供する1つ以上のコンピュータシステムは、クラウドコンピューティングシナリオでは、サーバまたはクラウドと称され得る。1つ以上のコンピュータシステムは、例えば、1つ以上のウェブサーバを含むことができる。サーバまたはクラウドに、およびそれからデータを送信および受信する、他のコンピュータシステムは、例えば、クライアントまたはクラウドデバイスと称され得る。
【0061】
本明細書に使用されるような用語「コンピュータ読み取り可能な媒体」は、実行のために命令をプロセッサ104に提供することに関与する任意の媒体を指す。そのような媒体は、限定ではないが、不揮発性媒体、揮発性媒体、および伝送媒体を含む多くの形態をとり得る。不揮発性媒体は、例えば、記憶デバイス110等の光学または磁気ディスクを含む。揮発性媒体は、メモリ106等の動的メモリを含む。伝送媒体は、バス102を備えているワイヤを含む同軸ケーブル、銅ワイヤ、および光ファイバを含む。
【0062】
コンピュータ読み取り可能な媒体またはコンピュータプログラム製品の一般的形態は、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、または任意の他の磁気媒体、CD-ROM、デジタルビデオディスク(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク、任意の他の光学媒体、サムドライブ、メモリカード、RAM、PROM、およびEPROM、FLASH(登録商標)-EPROM、任意の他のメモリチップまたはカートリッジ、またはコンピュータが読み取り得る任意の他の有形媒体を含む。
【0063】
コンピュータ読み取り可能な媒体の種々の形態が、実行のために1つ以上の命令の1つ以上の一続きをプロセッサ104に搬送することに関与し得る。例えば、命令は、最初に、遠隔コンピュータの磁気ディスク上で搬送され得る。遠隔コンピュータは、命令をその動的メモリの中にロードし、モデムを使用して、電話線を経由して命令を送信することができる。コンピュータシステム100にローカルのモデルが、電話線上でデータを受信し、赤外線伝送機を使用し、データを赤外線信号に変換することができる。バス102に結合される赤外線検出器が、赤外線信号内で搬送されるデータを受信し、バス102上にデータを設置することができる。バス102は、メモリ106にデータを搬送し、それから、プロセッサ104が、命令を読み出し、実行する。メモリ106によって受信される命令は、随意に、プロセッサ104による実行の前または後のいずれかに記憶デバイス110上に記憶され得る。
【0064】
種々の実施形態によると、方法を実施するためにプロセッサによって実行されるように構成される命令が、コンピュータ読み取り可能な媒体上に記憶される。コンピュータ読み取り可能な媒体は、デジタル情報を記憶するデバイスであり得る。例えば、コンピュータ読み取り可能な媒体は、ソフトウェアを記憶するための当技術分野で公知であるようなコンパクトディスク読み取り専用メモリ(CD-ROM)を含む。コンピュータ読み取り可能な媒体は、実行されるように構成される命令を実行するために好適なプロセッサによってアクセスされる。
【0065】
本教示の種々の実装の以下の説明は、例証および説明の目的のために提示されている。これは、包括的ではなく、本教示を開示される精密な形態に限定しない。修正および変形例が、上記の教示に照らして可能であるか、または本教示の実践から入手され得る。加えて、説明される実装は、ソフトウェアを含むが、本教示は、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせとして、またはハードウェア単独で実装され得る。本教示は、オブジェクト指向および非オブジェクト指向プログラミングシステムの両方を用いて実装され得る。
【0066】
(電荷状態によるピーク分離)
上で説明されるように、トップダウンタンパク質分析等のいくつかの質量分析法分析方法では、質量スペクトルにおける質量またはm/zピークの重複が、重大な問題である。加えて、重複は、非常に広範であり得るので、最も高い質量分解能を伴う質量分析計であっても、そのような重なり合ったピークの畳み込みを解くことができない
【0067】
従来の電子増倍管検出器では、発生させられる一次電子の数は、入射イオンの電荷状態に依存する。Chernushevich et al.は、電荷状態に基づいてイオンを分離し、イオンピークの重複を低減させるために、電子増倍管検出器のこの特性を使用した。具体的に、Chernushevich et al.は、2つの異なるCFD値を使用する2つのTDC検出器を用いて同時にイオンを測定した。Chernushevich et al.は、イオンを分離する重要な新しい方法を提供したが、複数のTDC検出器の使用は、理想的ではない。
【0068】
その結果、追加のシステムおよび方法が、質量分析計によって測定されたイオンピーク間の重複を低減させるために、電荷状態によってイオンを分離するために必要とされる。
【0069】
(単一のADC検出器のイオン分離)
種々の実施形態において、イオンが、単一のアナログ-デジタル変換器(ADC)検出器を使用して、測定され、次いで、電荷状態に従って分離される。上で説明されるように、従来の電子増倍管ADC検出器において発生させられる一次電子の数は、入射イオンの電荷状態に依存する。したがって、高荷電イオンは、より多くの一次電子を発生させ、ADC検出器によってデジタル化されるより強い電子信号をもたらす。これは、異なる電荷状態を有する個々のイオンに関する実質的に異なる応答をもたらす。
【0070】
したがって、それらの検出器信号応答に基づいて、入手中または入手後、信号をソートすることが、可能である。具体的に、異なる電荷状態を伴うイオンが、異なるスペクトルに分離またはソートされる。
【0071】
測定されたイオン信号をソートする方法に対する1つの注意点は、それが、ADC検出器における単一イオン到着に依存することである。言い換えると、複数のイオンが、同時にADC検出器に到着する場合、測定される強度は、電荷状態に比例しないこともある。結果として、種々の実施形態において、下で説明されるように、追加のシステムおよび方法が、複数のイオンが同時にADC検出器に到着することを制限または防止するために使用される。
【0072】
図6は、飛行時間(TOF)質量分析器のADC検出器によって測定され、異なる強度を有するイオン信号が、従来通りに処理される方法を示す一連の例示的プロット600である。プロット610は、ADC検出器における3つの異なる単一イオン到着の3つの異なるアナログパルス611、612、および613を示す。パルス611、612、および613は、異なる電荷状態を伴う3つの異なるイオンを表す。従来的に、パルス611、612、および613は、デジタル化され、ピークが、各デジタル化パルスから発見され、強度および到着時間が、各ピークのため計算される。長方形631、632、および633は、各デジタル化ピークのために計算された強度および到着時間対を表す。
【0073】
プロット620では、ADC検出器に衝突する全てのイオンに関して計算された強度および到着時間対が、ヒストグラム621に組み合わせられる。単一の質量ピーク622が、ヒストグラム621から形成される。結果として、プロット620は、従来的処理を通して、異なるピークを表すプロット610のアナログパルス611、612、および613が、単一のピークに畳み込まれ得ることを示す。
【0074】
図7は、種々の実施形態による、TOF質量分析器のADC検出器によって測定され、異なる強度を有するイオン信号が、異なる質量スペクトルにおける使用のために別個のイオン強度範囲または帯域に処理される方法を示す一連の例示的プロット700である。
図6のプロット610のように、
図7のプロット710は、ADC検出器における3つの異なる単一イオン到着の3つの異なるアナログパルス711、712、および713を示す。パルス711、712、および713は、異なる電荷状態を伴う3つの異なるイオンを表す。
図6におけるように、
図7のパルス711、712、および713は、デジタル化され、ピークが、各デジタル化パルスから発見され、強度および到着時間対が、各ピークのために計算される。長方形751、752、および753は、各デジタル化ピークのために計算された強度および到着時間対を表す。
【0075】
しかしながら、プロット710は、少なくとも3つの所定の強度範囲721、731、および741をさらに含む。ADC検出器に衝突する各イオンの各計算された強度対の強度は、範囲721、731、および741と比較される。この比較に基づいて、各デジタル化ピークは、範囲721、731、および741に対応する3つのデータストリームのうちの1つに送信される。各データストリーム内のデジタル化ピークは、組み合わせられ、それぞれ、範囲721、731、および741に対応するスペクトル720、730、および740を生成する。
【0076】
プロット710の範囲721内のピークを伴う全てのイオンに関して計算された強度および到着時間対は、プロット720のヒストグラム723に組み合わせられる。単一の質量スペクトル722が、プロット720のヒストグラム723から形成される。
【0077】
同様に、プロット710の範囲731内のピークを伴う全てのイオンに関して計算された強度および到着時間対は、プロット730のヒストグラム733に組み合わせられる。単一の質量スペクトル732が、プロット730のヒストグラム733から形成される。
【0078】
プロット710の範囲741内のピークを伴う全てのイオンに関して計算された強度および到着時間対も、プロット740のヒストグラム743に組み合わせられる。単一の質量スペクトル742が、プロット740のヒストグラム743から形成される。
【0079】
単一イオン到着パルスをプロット720、730、および740によって表されるデータセットに分離することによって、異なる電荷状態を伴うイオンが、異なる質量スペクトルに分離される。異なる質量スペクトルの各々内で、イオンピーク重複は、低減させられる。
【0080】
図8は、種々の実施形態による、類似した強度を伴う単一イオン到着パルスを別個のデータセットに分離し、別個のデータセットの各々に関する質量スペクトルを作成することによって、質量スペクトルにおいて、イオンピーク重複が低減させられる方法を示す一連のプロット800である。
図8のプロット810は、全てのイオン到着パルスが、単一の質量スペクトルを発生させるために従来通りに組み合わせられた質量スペクトルの一部を示す。プロット810の質量スペクトルは、かなりのイオンピーク重複を含む。
【0081】
プロット820は、対照的に、全て同じスケールでプロットされ、プロット810の質量スペクトルとも同じスケールでプロットされた8つの別個の質量スペクトルを示す。プロット820の質量スペクトルの各々は、類似した強度を伴う単一到着パルスに関する組み合わせられたイオンピークを表す。言い換えると、プロット820の8つの異なる質量スペクトルは、8つの異なる電荷状態範囲を伴うイオンを表す。プロット820の8つの異なる質量スペクトルの比較は、大量のイオンピーク重複が、イオンをこれらの異なる質量スペクトルに分離することによって低減させられることを示す。プロット820の8つの異なる質量スペクトルにおける多くのピークが同じm/z値を有することに留意されたい。
【0082】
Hofstadler et al.,「selective ion filtering by digital thresholding:a method to unwind complex ESI-mass spectra and eliminate signals from low molecular weight chemical noise」,Anal.Chem 2006,78,372-378(以降では「Hofstadler Paper」)は、異なる電荷状態を伴うイオンを分離する以前の方法を説明している。この方法は、ユーザがカットオフ電圧を設定することを可能にする飛行時間(TOF)質量分析器における電子機器を使用する。カットオフ電圧は、「デジタル閾値」を下回る信号を本質的にゼロにする。言い換えると、低ビットADCカウントまたは点は、破棄される。
【0083】
Hofstadler Paperでは、例えば、デジタル閾値は、単一荷電イオンの強度を上回るが、それらの多重荷電対応物の強度を下回って設定される。結果として、多重荷電イオンのみが、検出され、これらのイオンは、それらの単一荷電対応物から効果的に分離される。しかしながら、単一のデジタル閾値の使用は、単一荷電イオンが、多重荷電イオンから分離されることを可能にしない。
【0084】
より高い電荷状態を伴うイオンからより低い電荷状態を伴うイオンを分離するために、Hofstadler Paperは、2つ以上のデジタル閾値を使用し、次いで、より低い閾値において検出されたイオンからより高い閾値において検出されたイオンを減算することを提案している。具体的に、Hofstadler Paperは、「ADCからの出力が、複数の並列データストリームに分割され、それらの各々が、異なるデジタル閾値に従う」方法を説明している。異なるデジタル閾値において入手されたスペクトルを減算することによって、質量スペクトルが、イオン集団の任意の「スライス」に関して取得される。
【0085】
しかしながら、Hofstadler Paperの方法は、少なくとも2つの問題を有する。最初に、低ビットADCカウントまたは点の破棄は、イオンの飛行時間の誤った割り当てにつながり得る。言い換えると、ピークを横断する点の喪失は、不適切なピーク位置をもたらし得る。
【0086】
図9は、パルスの低ビットADC点の破棄が、Hofstadler Paperの方法において使用されるデジタル閾値の結果として、誤ったピーク位置を生成し得る様子を示す例示的プロット900である。プロット900は、ADC検出器が検出することが可能であるイオンパルス910の点またはカウント911、912、913、914、および915を示す。点911、912、913、914、および915を使用するイオンパルス910の真のピーク位置は、線920によって示される。
【0087】
しかしながら、Hofstadler Paperの方法では、ピーク位置を決定するために使用される点の数は、低減させられる。例えば、デジタル閾値930が、使用される場合、点911および915は、破棄される。結果として、ピーク位置は、点912、913、および914のみから決定される。これらの点を使用して、イオンパルス910のピーク位置は、ここで、線940によって示される。線920と940との比較は、Hofstadler Paperの方法が、時として、誤ったピーク位置につながり得ることを示す。
【0088】
Hofstadler Paperの方法に関する第2の問題は、より高い電荷状態を伴うイオンからより低い電荷状態を伴うイオンを分離するために使用されるスペクトルの減算からもたらされる。具体的に、スペクトルの減算は、低ビットADCカウントまたは点を破棄することの結果として、人為的または残留ピークをもたらし得る。
【0089】
図10は、Hofstadler Paperの方法において、異なるデジタル閾値において入手されたスペクトルが、互いに減算される様子を示す例示的プロット1000である。例えば、より高い電荷状態ピーク1010からより低い電荷状態ピーク1020を分離するために、Hofstadler Paperの方法は、2つの異なるデジタル閾値1030および1040を使用する。最初に、Hofstadler Paperの方法は、デジタル閾値1030を使用して、第1のスペクトルを作成する。言い換えると、デジタル閾値1030を上回る全ての点は、第1のスペクトルを作成するために使用される。ピーク1010の点1015およびピーク1020の点1024は、破棄される。
【0090】
次いで、Hofstadler Paperの方法は、デジタル閾値1040を使用して、第2のスペクトルを作成する。言い換えると、デジタル閾値1040を上回る全ての点は、第2のスペクトルを作成するために使用される。ピーク1010の点1011および1015は、破棄され、ピーク1020の全ての点は、破棄される。
【0091】
最後に、第2のスペクトルは、より高い電荷状態ピーク1010からより低い電荷状態ピーク1020を分離するために、第1のスペクトルから減算される。言い換えると、デジタル閾値1040を上回る全ての点は、デジタル閾値1030を上回る全ての点から減算される。
【0092】
この減算スキームは、より低い電荷状態ピークおよびより高い電荷状態ピークが、2つの閾値の間の点を共有しない限り、良好に機能する。例えば、プロット1000では、より高い電荷状態ピーク1010は、デジタル閾値1030とデジタル閾値1040との間に位置する点1011を含む。結果として、第2のスペクトルが、第1のスペクトルから減算されると、この場合、ピーク1010の点1011は、残る。これは、人為的または残留ピークをもたらす。
【0093】
図11は、Hofstadler Paperの方法による、
図10の異なるデジタル閾値が
図10のピークに適用されるとき、人為的ピークおよびより低い電荷状態ピークが生成されることを示す例示的プロット1100である。プロット1100は、人為的または残留ピーク1110およびより低い電荷状態ピーク1120が、
図10のデジタル閾値1040を上回る全ての点からデジタル閾値1030を上回る全ての点を減算することによって生成されることを示す。
【0094】
図11のプロット1100は、Hofstadler Paperの方法が、そのより高い電荷状態ピークからより低い電荷状態ピークを分離しようとするとき、より高い電荷状態ピークの不要な残留ピーク1110を生成し得ることを示す。これは、Hofstadler Paperの方法が、単純に、デジタル閾値を下回る点を破棄するからである。言い換えると、Hofstadler Paperの方法は、より低い電荷状態ピークからより高い電荷状態ピークを完全には減算しない。
【0095】
本明細書に説明される種々の実施形態は、Hofstadler Paperの方法に優る改良を提供する。上記に示されるように、
図7では、種々の実施形態は、各パルスの範囲または帯域を決定する前に、ピークまたはパルス検出を実施することを含む。このピーク発見ステップは、正しいピーク位置が、特定の範囲への点またはカウントの割り当ての前に発見されることを確実にする。加えて、低ビットADCカウントまたは点のいかなる減算および破棄も、最初に実施されないので、いかなる人為的または残留ピークも、生成されない。
【0096】
対照的に、Hofstadler Paperの方法は、フィルタリングに先立って、ピーク検出の重要なステップが存在することを認識しない。代わりに、Hofstadler Paperの方法は、代わりに、低ビットADC信号を盲目的にフィルタリングして取り除く。
【0097】
より具体的に、種々の実施形態において、各検出されたパルスは、ADCを使用してデジタル化される。パルスデジタル化後、各デジタル化パルスが、パルス状時間および強度対に変換される追加ステップが、存在する。この変換は、より一般的に、「ピーク発見」と称されるパルス発見を使用して実施される。当業者は、ピーク発見が、種々の異なる方法を使用して実施され得ることを理解することができる。一例示的方法は、ADCをトリガし、いくつかの近隣の点を含むある閾値を上回る信号(または点)を送信することを含む。これらの点は、次いで、ピークの時間および強度を計算するために使用される。
【0098】
例えば、ピークの時間は、その頂点の時間位置またはその開始の時間であり得る。同様に、概して、許容されるピーク強度を発見する方法は、限定ではないが、ピークエリア、ピーク高さ、またはピーク幅を計算することを含む。
【0099】
種々の実施形態において、デジタル化各パルスに関する時間および強度対が、ピーク発見を使用して発見された後、バンドパスフィルタリングが、時間および強度対の強度を使用して実施される。より具体的に、各デジタル化パルスの時間および強度対の強度は、デジタル化パルスが記憶されるべきである所定の帯域または強度範囲を決定するために使用される。所定の帯域または強度範囲毎のパルスは、次いで、所定の帯域または強度範囲に関する適切な質量スペクトルを生成するために、合計される。結果として、種々の実施形態によるシステムおよび方法は、同じパルスからのADC点が、異なるスペクトルに入れられる状況を防止する。
【0100】
加えて、種々の実施形態において、それらを帯域または強度範囲に割り当てる前にデジタル化パルスのピークを定義することによって、ピークは、歪まされず、正しいピーク位置が、維持される。
【0101】
(単一のADC検出器のイオン分離システム)
図12は、種々の実施形態による、単一の電子増倍管ADC検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離するためのシステムを示す例示的概略
図1200である。
図12のシステムは、質量分析計1210と、プロセッサ1220とを含む。質量分析計1210は、質量分析器1217を含む。
【0102】
質量分析器1217は、電子増倍管ADC検出器1218を含む。ADC検出器1218は、イオン電荷状態に比例する強度を伴う検出されたイオンに関する検出パルスを生成する。質量分析器1217は、限定ではないが、飛行時間(TOF)、イオントラップ、または四重極質量分析器を含むADC検出器を使用してイオンを検出し得る任意のタイプの質量分析器であり得る。
【0103】
ADC検出器1218は、イオン電荷状態に必ずしも線形に比例しない強度を伴う検出されたイオンに関する検出パルスを生成することに留意されたい。言い換えると、より具体的に、電荷状態は、必ずしも線形ではないピーク強度の単調増加関数に等しい。
【0104】
プロセッサ1220は、質量分析計1210によって質量分析器1217に伝送される複数のイオンからADC検出器1218に衝突する各イオンに関するパルスを検出するように質量分析器1217に命令する。検出されたデジタルパルス1219が、生成される。
【0105】
プロセッサ1220は、ピーク発見を使用して検出された各パルスに関するピークを計算する。例えば、ピーク1221が、計算される。上で説明されるように、ピーク発見は、種々の異なる方法を使用して実施されることができる。一例示的方法は、パルスまたは点およびいくつかの近隣の点をピーク形状に群化することを含む。
【0106】
プロセッサ1220は、各ピークに関する強度を計算する。上で説明されるように、概して、許容されるピーク強度を発見する方法は、限定ではないが、ピークエリア、ピーク高さ、またはピーク幅を計算することを含む。
【0107】
種々の実施形態において、プロセッサ1220は、各ピークに関する到着時間をさらに計算する。各ピークの強度および各ピークの到着時間は、各ピークに関する強度および到着時間対を形成する。例えば、強度および到着時間対1221が、計算されたピークに関してプロセッサ1220によって生成される。
【0108】
プロセッサ1220は、各ピークの強度を2つ以上の異なる電荷状態範囲と比較する。プロセッサ1220は、比較に基づいて、2つ以上の所定の強度範囲に対応する2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各ピークを記憶する。例えば、2つ以上のデータセットが、生成される。各ピークは、メモリデバイス(図示せず)内にピークを記憶することによって、2つ以上のデータセットのうちの1つの中に記憶される。メモリデバイスは、RAM等の揮発性メモリデバイスまたは磁気ディスクまたは固体ドライブ(SSD)等の永続メモリを含むことができる。2つ以上のデータセットは、メモリデバイス内の別個の論理場所内に記憶されることができる。例えば、2つ以上のデータセットの各々は、別個のファイル内に記憶されることができる。種々の実施形態において、プロセッサ1220は、例えば、各ピークに関する強度および到着時間対を2つ以上のデータセット1222内に記憶する。
【0109】
用語「記憶する」および「記憶される」は、処理の全てが、リアルタイムで起こることができないこと、または任意の「記憶すること」に続くステップが、入手後にのみ起こり得ることを含意することを意味しない。言い換えると、プロセッサ1220は、2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各ピークを記憶し、次いで、全てリアルタイムで、2つ以上のデータセットのうちの各々に関する質量スペクトルを作成する。
【0110】
最後に、プロセッサ1220は、各データセットにおけるピークを組み合わせることによって、2つ以上のデータセットのうちの各々に関する質量スペクトルを作成する。2つ以上の質量スペクトルが、したがって、電荷状態に基づいて、質量分析器1217によって検出されたイオンに関して生成される。種々の実施形態において、2つ以上のデータセットのうちの各データセットにおけるピークを組み合わせることは、各データにおけるピークの強度および到着時間対をヒストグラムに組み合わせ、ヒストグラムから質量スペクトルを作成することを含む。例えば、質量スペクトル1223が、ヒストグラムから作成される。1つのみの質量ピークが、質量スペクトル1223のうちの各スペクトルに関して示されることに留意されたい。しかしながら、各スペクトルは、1つ以上の質量ピークを含むことができる。
【0111】
図12では、各ピークが、1つのデータセット内に記憶される。しかしながら、種々の実施形態において、プロセッサ1220はさらに、2つ以上のデータセットのうちの1つ以上の他のデータセット内にピークを記憶することができる。例えば、ピークが、ピークの強度を下回るより低い閾値を有する全ての範囲のデータセット内に記憶されることができる。または、代替として、ピークが、ピークの強度を上回る上側閾値を有する全ての範囲の全てのデータセット内に記憶されることができる。
【0112】
複数のデータセット内にピークを記憶することによって、追加のデータセットが、これらのデータセットを組み合わせることによって形成されることができる。これらのデータセットを組み合わせるステップは、限定ではないが、加算することまたは減算することを含むことができる。
【0113】
図7では、例えば、範囲721、731、および741は、重複しない。しかしながら、種々の代替実施形態において、2つ以上の異なる所定の強度範囲は、重複している少なくとも2つの範囲を含む。
図12に再び目を向けると、プロセッサ1220は、次いで、例えば、少なくとも2つの範囲に対応するデータセットを組み合わせ、1つ以上の重複していない強度範囲に対応する1つ以上のデータセットを生成することができる。再び、これらのデータセットを組み合わせるステップは、限定ではないが、加算することまたは減算することを含むことができる。
【0114】
Hofstadler Paperに説明されるように、データセットは、異なる電荷状態を伴うイオンを分離するために、減算されることができる。しかしながら、Hofstadler Paperの方法は、人為的または残留ピークが、不適切な電荷状態スペクトル内に含まれることをもたらし得る。これは、Hofstadler Paperにおける点を破棄する方法に起因する。方法は、異なるデータセットにおいて同じピークの異なる点を有することをもたらし得る。
【0115】
本明細書に説明される種々の実施形態において、同じピークの全ての点は、異なるデータセット内にあり得る。しかしながら、同じピークの異なる点は、異なるデータセット内にあり得ない。結果として、本明細書に説明される種々の実施形態は、データセットが、減算またはデータセットを組み合わせる他の方法を通して組み合わせられるとき、人為的または残留ピークを生成しない。その結果、本明細書に説明される種々の実施形態は、Hofstadler Paperの方法より有利なこととして、異なる電荷状態を伴うピークを含むデータセットを組み合わせることができる。
【0116】
種々の実施形態において、プロセッサ1220は、各ピークの強度を2つ以上の異なる電荷状態範囲と比較し、質量分析走査中または入手中に2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各ピークを記憶する。代替実施形態において、プロセッサ1220は、各ピークの強度を2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較し、質量分析走査後または入手後、2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各ピークを記憶する。
【0117】
上で説明されるように、検出されたパルスの測定される強度は、ADC検出器1218における単一イオン到着に関してのみ電荷状態に比例する。言い換えると、複数のイオンが、同時にADC検出器1218に到着する場合、測定される強度は、電荷状態に比例しないこともある。結果として、種々の実施形態において、質量分析計1210は、ADC検出器1218が、任意の所与の時間に単一のイオン衝突のみを受け取るように、質量分析器1217にイオンを伝送する。
【0118】
種々の実施形態において、
図12のシステムは、イオン源デバイス1211をさらに含む。イオン源デバイス1211は、例えば、エレクトロスプレーイオン源(ESI)デバイスであり得る。イオン源デバイス1211は、
図12では質量分析計1210の一部として示されるが、別個のデバイスでもあり得る。
【0119】
加えて、質量分析計1210は、解離デバイスをさらに含む。解離デバイスは、限定ではないが、ExDデバイス1215またはCIDデバイス1216であり得る。解離デバイスは、例えば、トップダウンタンパク質分析のために使用されることができる。
【0120】
トップダウンタンパク質分析では、プロセッサ1220は、サンプルのタンパク質をイオン化し、イオンビームにおいてタンパク質に関する複数の前駆イオンを生成するようにイオン源デバイス1211に命令する。プロセッサ1220は、次いで、イオンビーム中の複数の前駆イオンを解離させ、イオンビームにおいて異なる電荷状態を伴う複数の生成イオンを生成するように解離デバイスに命令する。
【0121】
プロセッサ1220は、複数の生成イオンが、上で説明されるように、質量分析計1210によって質量分析器1217に伝送される複数のイオンであるように、複数の生成イオンを質量分析器1217に伝送するように質量分析計1210に命令する。
【0122】
種々の実施形態において、プロセッサ1220は、イオン源デバイス1211および質量分析計1210への命令を制御または提供し、収集されたデータを分析するために使用される。プロセッサ1220は、例えば、1つ以上の電圧、電流、または圧力源(図示せず)を制御することによって、命令を制御または提供する。プロセッサ1220は、
図12に示されるような別個のデバイスであり得るか、または、質量分析計1210の1つ以上のデバイスのプロセッサまたはコントローラであり得る。プロセッサ1220は、限定ではないが、コントローラ、コンピュータ、マイクロプロセッサ、
図1のコンピュータシステム、または制御信号およびデータを送信および受信し、データを分析することが可能な任意のデバイスであり得る。
【0123】
種々の実施形態において、ADC検出器1218は、マルチチャネルデジタイザ(図示せず)を含み、プロセッサ1218は、マルチチャネルデジタイザの各デジタイザからADC検出器に衝突する各イオンに関するパルスを検出するように質量分析器1217に命令する。
【0124】
現在、いくつかの従来のTOF質量分析器は、例えば、4チャネルデジタイザを含むイオン検出システムを使用している。4チャネルデジタイザは、時間-デジタル変換器(TDC)またはADCのいずれかを含むことができる。マルチチャネルイオン検出システムは、2つの主要な利益を提供する:チャネルの独立した較正(チャネル整合としても公知である)を通した強化された動的範囲および向上した分解能。
【0125】
図23は、例示的TOFイオン検出システムの側面
図2300であり、各々が非理想的形状を有する例示的イオンパケットのデジタル化信号が、分解能を向上させるために、4つの電極および4チャネルデジタイザを使用して取得される方法を示し、それに基づいて、本教示の実施形態は、実装され得る。
図23では、直列に位置付けられる2つのマイクロチャネル板(MCP)2310が、凸状形状を有するイオンパケット2351および2352によって衝突される。MCP2310によって生成された増倍電子が、4つのセグメント化されたアノード電極板2321、2322、2323、および2324によって収集される。アノード電極板2321、2322、2323、および2324の各々は、4チャネルデジタイザ2330の別個のチャネルに電気的に接続される。
【0126】
4チャネルデジタイザ2330は、例えば、ADCまたはTDCである。アノード電極板2321、2322、2323、および2324の各々は、例えば、4チャネル前置増幅器(図示せず)を通して4チャネルデジタイザ2330に電気的に接続されることができる。4チャネル前置増幅器は、電極板から受信された電気信号を増幅する。
【0127】
MCP2310は、本質的に、片側のイオン衝突像を他側の対応する電子放出像に変換する。イオンパケット2351および2352は、凸状形状を有するが、MCP2310の両側のそれらの像は、長方形パターンまたは形状を有する。
【0128】
図12に再び目を向けると、種々の実施形態において、ADC検出器1218のマルチチャネルデジタイザ(図示せず)の各デジタイザは、同じ強度範囲内のパルスをデジタル化する。
【0129】
種々の代替実施形態において、ADC検出器1218のマルチチャネルデジタイザの各デジタイザは、2つ以上の異なる所定の強度範囲のうちの異なる所定の強度範囲内のパルスをデジタル化するように適合される。各デジタイザは、例えば、異なる検出器利得または異なるADC閾値を使用して、異なる所定の強度範囲内のパルスをデジタル化する。
【0130】
(単一のADC検出器のイオン分離方法)
図13は、種々の実施形態による、単一の電子増倍管ADC検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法1300を示すフローチャートである。
【0131】
方法1300のステップ1313において、質量分析計の質量分析器が、プロセッサを使用して、質量分析器の電子増倍管ADC検出器に衝突する各イオンに関するパルスを検出するように命令される。ADC検出器に衝突する各イオンは、質量分析計によって質量分析器に伝送される複数のイオンからのものである。ADC検出器は、イオン電荷状態に比例する強度を伴う検出されたイオンに関する検出パルスを生成する。
【0132】
ステップ1320において、ピークが、プロセッサを使用して、ピーク発見を使用して検出された各パルスに関して計算される。
【0133】
ステップ1330において、プロセッサを使用して、各ピークに関する強度を計算する。
【0134】
ステップ1340において、各ピークの時間および強度対の強度が、プロセッサを使用して、2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較される。加えて、各ピークは、プロセッサを使用して、比較に基づいて、2つ以上の所定の強度範囲に対応する2つ以上のデータセットのうちの1つの中に記憶される。
【0135】
ステップ1350において、質量スペクトルが、プロセッサを使用して、各データセットにおけるピークを組み合わせることによって、2つ以上のデータセットのうちの各々に関して作成される。結果として、2つ以上の質量スペクトルが、電荷状態に基づいて、質量分析器によって検出されたイオンに関して生成される。
【0136】
(単一のADC検出器のイオン分離コンピュータプログラム製品)
種々の実施形態において、コンピュータプログラム製品が、そのコンテンツが、単一の電子増倍管ADC検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法を実施するようにプロセッサ上で実行される命令を伴うプログラムを含む有形コンピュータ読み取り可能な記憶媒体を含む。方法は、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステムによって実施される。
【0137】
図14は、種々の実施形態による、単一の電子増倍管ADC検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法を実施する1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステム1400の例示的概略図である。システム1400は、制御モジュール1410と、分析モジュール1420とを含む。
【0138】
制御モジュール1410は、質量分析器の電子増倍管ADC検出器に衝突する各イオンに関するパルスを検出するように質量分析計の質量分析器に命令する。ADC検出器に衝突する各イオンは、質量分析計によって質量分析器に伝送される複数のイオンからのものである。ADC検出器は、イオン電荷状態に比例する強度を伴う検出されたイオンに関する検出パルスを生成する。
【0139】
分析モジュール1420は、ピーク発見を使用して検出された各パルスに関するピークを計算する。分析モジュール1420は、各ピークに関する強度を計算する。分析モジュール1420は、各ピークの強度を2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較する。分析モジュール1420は、次いで、比較に基づいて、2つ以上の所定の強度範囲に対応する2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各ピークを記憶する。最後に、分析モジュール1420は、各データセットにおけるピークを組み合わせることによって、2つ以上のデータセットのうちの各々に関する質量スペクトルを作成する。結果として、2つ以上の質量スペクトルが、電荷状態に基づいて、質量分析器によって検出されたイオンに関して生成される。
【0140】
(鏡像電荷検出器のイオン分離)
上で説明されるように、電子増倍管検出器では、発生させられる一次電子の数は、入射イオンの電荷状態に依存する。電子増倍管検出器のこの特性は、それらが、電荷状態に基づいてイオンを分離することを可能にする。しかしながら、電子増倍管検出器は、イオン電荷状態に比例する強度を生成する唯一のタイプの検出器ではない。具体的に、鏡像電荷検出器も、イオン電荷状態に比例する強度を生成することができる。実際に、鏡像電荷検出器は、加えて、イオン電荷状態とともに線形に変動する強度を生成することができる。
【0141】
結果として、種々の実施形態において、イオンが、単一の鏡像電荷検出器を使用して、測定され、次いで、電荷状態に従って分離される。質量分析器の鏡像電荷検出器は、質量分析器内のイオンの近傍の振動によって検出器上に誘発される時変電流または電圧を測定する。その結果、鏡像電荷検出器によって測定される誘発された過渡時間ドメイン信号は、質量分析器内で振動するイオンの各々からの成分を含む。
【0142】
図15は、種々の実施形態による、質量分析器内で振動する複数のイオンの各々からの成分を含む鏡像電荷検出器によって測定された例示的過渡時間ドメイン信号のプロット1500である。
【0143】
鏡像電荷検出器によって測定された過渡時間ドメイン信号を個々の成分に分解するために、過渡時間ドメイン信号は、周波数ドメイン信号に変換される。変換方法は、限定ではないが、フーリエ変換またはウェーブレット変換を含む。周波数ドメイン信号内のピークは、質量分析器内で振動する複数のイオンの個々のイオンに対応する。周波数ドメインピークは、質量スペクトルを生成するために、特定のタイプの質量分析器に依存する周知の公式を使用して、m/zピークに変換される。
【0144】
鏡像電荷検出器に関して、したがって、周波数ドメイン信号またはピークの強度は、基礎となるイオンの電荷状態に比例する。したがって、異なる強度を伴う周波数ドメインピークをソートすることによって、異なる電荷状態を伴うイオンを分離することが、可能である。このソートは、入手中または入手後に実施されることができる。
【0145】
電子増倍管検出器のように、測定されたイオン信号をソートする方法に対する1つの注意点が、存在する。それは、特定のm/zおよび電荷状態の単一のイオンの振動に依存する。言い換えると、同じイオンの複数のコピーが、同時に質量分析器内で振動している場合、測定される強度は、電荷状態に比例しないこともある。結果として、種々の実施形態において、下で説明されるように、追加のシステムおよび方法が、複数のイオンが同時に質量分析のために質量分析器に伝送されることを制限または防止するために使用される。
【0146】
(単一の鏡像電荷検出器のイオン分離システム)
図16は、種々の実施形態による、単一の鏡像電荷検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離するためのシステムを示す例示的概略
図1600である。
図16のシステムは、質量分析計1610と、プロセッサ1620とを含む。質量分析計1610は、質量分析器1617を含む。
【0147】
質量分析器1617は、鏡像電荷検出器1618を含む。鏡像電荷検出器1618は、イオン電荷状態に比例する強度を伴う検出されたイオンに関する振動信号または過渡時間ドメイン信号を生成する。質量分析器1617は、限定ではないが、静電線形イオントラップ(ELIT)、FT-ICR、またはオービトラップ質量分析器を含む鏡像電荷検出器を使用してイオンを検出し得る任意のタイプの質量分析器であり得る。質量分析器1617は、ELITとして
図16に示され、鏡像電荷検出器1618は、ELITのピックアップ電極として示される。
【0148】
プロセッサ1620は、質量分析器1617内の複数のイオンの振動によって鏡像電荷検出器1618上に誘発される過渡時間ドメイン信号1619を検出するように質量分析器1617に命令する。複数のイオンは、質量分析計1610によって質量分析器1617に伝送される。プロセッサ1620は、過渡時間ドメイン信号1619を複数の周波数ドメインパルスまたはピーク1621に変換する。各周波数ドメイン信号は、複数のイオンのうちのあるイオンに対応する。プロセッサ1620は、例えば、フーリエ変換を使用して、過渡時間ドメイン信号1619を複数の周波数ドメインピーク1621に変換する。
【0149】
プロセッサ1620は、複数の周波数ドメインピーク1621の各周波数ドメインピークの強度を2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較する。プロセッサ1620は、比較に基づいて、2つ以上の所定の強度範囲に対応する2つ以上のデータセット1622のうちの1つの中に各周波数ドメインピークを記憶する。
【0150】
最後に、プロセッサ1620は、各データセットにおける周波数ドメインピークを組み合わせ、各データセット内の組み合わせられた周波数ドメインピークをm/zピークに変換することによって、2つ以上のデータセット1622の各々に関する質量スペクトルを作成する。2つ以上の質量スペクトル1623が、電荷状態に基づいて、質量分析器1617によって検出されたイオンに関して生成される。
【0151】
種々の実施形態において、プロセッサ1620は、過渡時間ドメイン信号1619を複数の周波数ドメインピーク1621に変換し、各周波数ドメインピークの強度を2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較し、入手中、2つ以上のデータセット1622のうちの1つの中に各周波数ドメインピークを記憶する。代替実施形態において、プロセッサ1620は、過渡時間ドメイン信号1619を複数の周波数ドメインピーク1621に変換し、各周波数ドメインピークの強度を2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較し、入手後、2つ以上のデータセット1622のうちの1つの中に各周波数ドメインピークを記憶する。
【0152】
上で説明されるように、同じイオンの複数のコピーが、同時に質量分析器1617内で振動している場合、測定される強度は、電荷状態に比例しないこともある。結果として、種々の実施形態において、質量分析計1610は、質量分析器1617が、任意の所与の時間に特定のm/zおよび電荷状態の単一のイオンのみを含むように、質量分析器1617にイオンを伝送する。
【0153】
種々の実施形態において、
図16のシステムは、イオン源デバイス1611をさらに含む。イオン源デバイス1611は、例えば、エレクトロスプレーイオン源(ESI)デバイスであり得る。イオン源デバイス1611は、
図16では質量分析計1610の一部として示されるが、また、別個のデバイスでもあり得る。
【0154】
加えて、質量分析計1610は、解離デバイスをさらに含む。解離デバイスは、限定ではないが、ExDデバイス1615またはCIDデバイス1616であり得る。解離デバイスは、例えば、トップダウンタンパク質分析のために使用されることができる。
【0155】
トップダウンタンパク質分析では、プロセッサ1620は、サンプルのタンパク質をイオン化し、イオンビームにおいてタンパク質に関する複数の前駆イオンを生成するようにイオン源デバイス1611に命令する。プロセッサ1620は、次いで、イオンビーム中の複数の前駆イオンを解離させ、イオンビームにおいて異なる電荷状態を伴う複数の生成イオンを生成するように解離デバイスに命令する。
【0156】
プロセッサ1620は、複数の生成イオンが、上で説明されるように、質量分析計1610によって質量分析器1617に伝送される複数のイオンであるように、複数の生成イオンを質量分析器1617に伝送するように質量分析計1610に命令する。
【0157】
種々の実施形態において、プロセッサ1620は、イオン源デバイス1611および質量分析計1610への命令を制御または提供し、収集されたデータを分析するために使用される。プロセッサ1620は、例えば、1つ以上の電圧、電流、または圧力源(図示せず)を制御することによって、命令を制御または提供する。プロセッサ1620は、
図16に示されるような別個のデバイスであり得るか、または、質量分析計1610の1つ以上のデバイスのプロセッサまたはコントローラであり得る。プロセッサ1620は、限定ではないが、コントローラ、コンピュータ、マイクロプロセッサ、
図1のコンピュータシステム、または制御信号およびデータを送信および受信し、データを分析することが可能な任意のデバイスであり得る。
【0158】
(単一の鏡像電荷検出器のイオン分離方法)
図17は、種々の実施形態による、単一の電子増倍管鏡像電荷検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法1700を示すフローチャートである。
【0159】
方法1700のステップ1710において、質量分析計の質量分析器が、プロセッサを使用して、質量分析器内の複数のイオンの振動によって質量分析器の鏡像電荷検出器において誘発された過渡時間ドメイン信号を検出するように命令される。複数のイオンは、質量分析計によって質量分析器に伝送される。
【0160】
ステップ1720において、過渡時間ドメイン信号は、プロセッサを使用して、複数の周波数ドメインピークに変換される。各周波数ドメインピークは、複数のイオンのうちのあるイオンに対応する。
【0161】
ステップ1730において、複数の周波数ドメインピークのうちの各周波数ドメインピークの強度が、プロセッサを使用して、2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較される。加えて、各周波数ドメインピークは、プロセッサを使用して、比較に基づいて、2つ以上の所定の強度範囲に対応する2つ以上のデータセットのうちの1つの中に記憶される。
【0162】
ステップ1740において、プロセッサを使用して、質量スペクトルが、各データセットにおける周波数ドメインピークを組み合わせることによって、2つ以上のデータセットのうちの各々に関して作成され、各データセット内の組み合わせられた周波数ドメインピークは、m/zピークに変換される。2つ以上の質量スペクトルが、電荷状態に基づいて、質量分析器によって検出されたイオンに関して生成される。
【0163】
(単一の鏡像電荷検出器のイオン分離コンピュータプログラム製品)
種々の実施形態において、コンピュータプログラム製品が、そのコンテンツが、単一の電子増倍管鏡像電荷検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法を実施するようにプロセッサ上で実行される命令を伴うプログラムを含む有形コンピュータ読み取り可能な記憶媒体を含む。方法は、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステムによって実施される。
【0164】
図18は、種々の実施形態による、単一の電子増倍管鏡像電荷検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法を実施する1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステム1800の例示的概略図である。システム1800は、制御モジュール1810と、分析モジュール1820とを含む。
【0165】
制御モジュール1810は、質量分析器内の複数のイオンの振動によって質量分析器の鏡像電荷検出器において誘発された過渡時間ドメイン信号を検出するように質量分析計の質量分析器に命令する。複数のイオンは、質量分析計によって質量分析器に伝送される。
【0166】
分析モジュール1820は、過渡時間ドメイン信号を複数の周波数ドメインピークに変換する。各周波数ドメインピークは、複数のイオンのうちのあるイオンに対応する。分析モジュール1820は、複数の周波数ドメインピークのうちの各周波数ドメインピークの強度を2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する2つ以上の異なる所定の強度範囲と比較する。分析モジュール1820は、比較に基づいて、2つ以上の所定の強度範囲に対応する2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各周波数ドメインピークを記憶する。最後に、分析モジュール1820は、各データセットにおける周波数ドメインピークを組み合わせ、各データセット内の組み合わせられた周波数ドメインピークをm/zピークに変換することによって、2つ以上のデータセットのうちの各々に関する質量スペクトルを作成する。2つ以上の質量スペクトルが、電荷状態に基づいて、質量分析器によって検出されたイオンに関して生成される。
【0167】
(複数のADC検出器のイオン分離)
上で説明されるように、Chernushevich et al.は、電荷状態に基づいてイオンを分離するために、複数のTDC検出器を使用した。しかしながら、TDC検出器は、イオン信号の強度を測定せず、したがって、電荷状態を直接測定しない。各TDC検出器は、TDC検出器によって測定される強度を限定するために、CFDデバイスも要求する。結果として、複数のTDC検出器の使用は、強度および電荷状態の範囲を発見するために、追加の処理およびハードウェアを要求する。
【0168】
種々の実施形態において、イオンが、2つ以上のADC検出器を使用して、測定され、電荷状態に従って分離される。ADC検出器は、イオン強度を直接測定し、それらが測定し得る強度を限定するためのCFDを要求しない。
【0169】
(複数のADC検出器のイオン分離システム)
図19は、種々の実施形態による、複数の電子増倍管ADC検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離するためのシステムを示す例示的概略
図1900である。
図19のシステムは、質量分析計1910と、プロセッサ1920とを含む。質量分析計1910は、質量分析器1917を含む。
【0170】
質量分析器1917は、2つ以上の電子増倍管ADC検出器1918を含む。2つ以上のADC検出器1918の各検出器は、イオン電荷状態に比例する強度を伴う検出されたイオンに関する検出パルスを生成する。2つ以上のADC検出器1918の各検出器は、2つ以上の所定の強度範囲のうちの異なるイオン強度範囲内にある検出パルスからのピークを計算するためにピーク発見を使用するように適合される。例えば、2つ以上のADC検出器1918の各検出器は、2つ以上の所定の強度範囲のうちの異なるイオン強度範囲を検出するために、異なる利得設定を提供される。2つ以上の所定の強度範囲は、2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する。質量分析器1917は、限定ではないが、飛行時間(TOF)、イオントラップ、または四重極質量分析器を含むADC検出器を使用してイオンを検出し得る任意のタイプの質量分析器であり得る。
【0171】
プロセッサ1920は、質量分析器内の複数のイオンからのイオンが2つ以上のADC検出器1918に衝突すると、2つ以上のADC検出器1918の各々を使用して、パルスを同時に検出し、ピークを計算するように質量分析器1917に命令する。複数のイオンは、質量分析計1910によって質量分析器1917に伝送される。
【0172】
種々の実施形態において、2つ以上のADC検出器1918の各々は、各ピークに関する強度および到着時間対を計算する。結果として、強度および到着時間対1919が、2つ以上のADC検出器1918によって生成される。
【0173】
プロセッサ1920は、検出器に対応するデータセットの中に各検出器の各ピークを記憶し、2つ以上の異なる電荷状態に対応する2つ以上のデータセットを生成する。
【0174】
再び、用語「記憶する」および「記憶される」は、処理の全てが、リアルタイムで起こることができないこと、または任意の「記憶すること」に続くステップが、入手後にのみ起こり得ることを含意することを意味しない。言い換えると、プロセッサ1920は、2つ以上のデータセットのうちの1つの中に各ピークを記憶し、次いで、全てリアルタイムで、2つ以上のデータセットのうちの各々に関する質量スペクトルを作成する。
【0175】
プロセッサ1920は、各データセットにおけるピークを組み合わせることによって、2つ以上のデータセット1919の各々に関する質量スペクトルを作成する。2つ以上の質量スペクトルが、電荷状態に基づいて、質量分析器1917によって検出されたイオンに関して生成される。種々の実施形態において、2つ以上のデータセットのうちの各データセットにおけるピークを組み合わせることは、各データにおけるピークの強度および到着時間対をヒストグラムに組み合わせ、ヒストグラムから質量スペクトルを作成することを含む。例えば、質量スペクトル1921が、ヒストグラムから作成される。1つのみの質量ピークが質量スペクトル1921の各スペクトルに関して示されることに留意されたい。しかしながら、各スペクトルは、1つ以上の質量ピークを含むことができる。
【0176】
図19に示されるように、2つ以上のADC検出器1918の各々は、別個の検出器およびADC対である。
【0177】
種々の代替実施形態において、2つ以上のADC検出器1918は、単一の電子増倍管検出器および複数のADCデバイスを使用して実現されることができる。言い換えると、2つ以上のADC検出器1918は、2つ以上のADCデバイス(図示せず)に接続される、単一の電子増倍管検出器(図示せず)を含む。2つ以上のADCデバイスは、単一の電子増倍管検出器の同じ出力をデジタル化する。2つ以上のADCデバイスのうちの各ADCデバイスは、2つ以上の所定の強度範囲のうちの異なるイオン強度範囲内にある検出パルスからのピークを計算するためにピーク発見を使用するように適合される。
【0178】
結果として、強度および到着時間対1919が、2つ以上のADCデバイスによって生成される。プロセッサ1920は、検出器に対応するデータセット内に各ADCデバイスの各ピークを記憶し、2つ以上の異なる電荷状態に対応する2つ以上のデータセットを生成する。
【0179】
種々の実施形態において、2つ以上の異なる所定の強度範囲は、重複している少なくとも2つの範囲を含む。種々の代替実施形態において、プロセッサ1920は、少なくとも2つの範囲に対応するデータセットをさらに組み合わせ、1つ以上の重複していない強度範囲に対応する1つ以上のデータセットを生成する。
【0180】
種々の実施形態において、2つ以上のADC検出器1918の各検出器は、各検出器のプロセッサ(図示せず)を使用して、ピークを計算するためにピーク発見を使用するように適合される。同様に、2つ以上のADCデバイスのうちの各ADCデバイスは、プロセッサ(図示せず)を使用して、ピークを計算するためにピーク発見を使用するように適合される。
【0181】
種々の代替実施形態において、2つ以上のADC検出器1918の各検出器は、プロセッサ1920を使用して、ピークを計算するためにピーク発見を使用するように適合される。同様に、2つ以上のADCデバイスのうちの各ADCデバイスは、プロセッサ1920を使用して、ピークを計算するためにピーク発見を使用するように適合される。
【0182】
図24は、本教示の実施形態が実装され得る5つのADCデバイスに接続された単一の電子増倍管検出器を含む例示的TOFイオン検出システムの側面
図2400である。このイオン検出システムでは、5つのADCデバイス2451、2452、2453、2454、および2455が、単一の検出器出力またはアノード2421に接続される。
図23のセグメント化されたアノードと比較して、
図24の単一のアノードまたは電極2421は、分解能を向上させない。しかしながら、異なる利得に増幅された同じ信号をデジタル化するように5つの異なるADCデバイスを構成することによって達成される改良された動的範囲の利益が、依然として存在する。
【0183】
アノード2421は、MCP2410によって生成された増倍電子を収集する。種々の実施形態において、5つのADCデバイス2451、2452、2453、2454、および2455は、それぞれ、前置増幅器2441、2442、2443、2444、および2445を通して、単一の検出器出力またはアノード2421に接続される。
【0184】
種々の実施形態において、上で説明されるように、
図24のTOFイオン検出システムは、データ減算のために使用されることができる。これは、本実施形態における各ADCデバイスが、異なるレベルに増幅された本質的に同じ信号をデジタル化している(または異なるADC閾値を用いてこれをデジタル化している)からである。
【0185】
図20は、種々の実施形態による、複数のADC検出器設定を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離するためのシステムによって生成される一連の質量スペクトル2000である。この場合、異なる利得電圧が、複数のADC検出器のマルチチャネル板に印加される。検出器利得の各減少(負電圧の増加)とともに、より低い電荷状態を伴うより少ないイオンが、取得される。
【0186】
より低い電圧利得(より高い検出器利得)を用いて測定される
図20の質量スペクトルはまた、より高い電圧利得(より低い検出器利得)を用いて測定される質量スペクトルのイオンを含む。複数のADCが、(
図24に示されるような)同じ検出器出力をデジタル化している場合、より低い検出器利得を用いて測定される質量スペクトルは、より低い電圧を用いて測定される質量スペクトル上のより高い電荷状態を伴うイオンをさらに分離するために、より高い検出器利得を用いて測定される質量スペクトルから減算されることができる。言い換えると、
図20の質量スペクトルのさらなる処理は、
図8のプロット820に示される質量スペクトルのような縞模様質量スペクトルを生成することができる。
【0187】
図19に再び目を向けると、上で説明されるように、検出されたパルスの測定される強度は、2つ以上のADC検出器1918の各々における単一イオン到着に関してのみ電荷状態に比例する。言い換えると、複数のイオンが、同時に2つ以上のADC検出器1918のある検出器に到着する場合、測定される強度は、電荷状態に比例しないこともある。結果として、種々の実施形態において、質量分析計1910は、2つ以上のADC検出器1918の各々が任意の所与の時間に単一のイオン衝突のみを受け取るように、質量分析器1917にイオンを伝送する。
【0188】
種々の実施形態において、
図19のシステムは、イオン源デバイス1911をさらに含む。イオン源デバイス1911は、例えば、エレクトロスプレーイオン源(ESI)デバイスであり得る。イオン源デバイス1911は、
図19では質量分析計1910の一部として示されるが、また、別個のデバイスでもあり得る。
【0189】
加えて、質量分析計1910は、解離デバイスをさらに含む。解離デバイスは、限定ではないが、ExDデバイス1915またはCIDデバイス1916であり得る。解離デバイスは、例えば、トップダウンタンパク質分析のために使用されることができる。
【0190】
トップダウンタンパク質分析では、プロセッサ1920は、サンプルのタンパク質をイオン化し、イオンビームにおいてタンパク質に関する複数の前駆イオンを生成するようにイオン源デバイス1911に命令する。プロセッサ1920は、次いで、イオンビーム中の複数の前駆イオンを解離させ、イオンビームにおいて異なる電荷状態を伴う複数の生成イオンを生成するように解離デバイスに命令する。
【0191】
プロセッサ1920は、複数の生成イオンが、上で説明されるように、質量分析計1910によって質量分析器1917に伝送される複数のイオンであるように、複数の生成イオンを質量分析器1917に伝送するように質量分析計1910に命令する。
【0192】
種々の実施形態において、プロセッサ1920は、イオン源デバイス1911および質量分析計1910への命令を制御または提供し、収集されたデータを分析するために使用される。プロセッサ1920は、例えば、1つ以上の電圧、電流、または圧力源(図示せず)を制御することによって、命令を制御または提供する。プロセッサ1920は、
図19に示されるような別個のデバイスであり得るか、または、質量分析計1910の1つ以上のデバイスのプロセッサまたはコントローラであり得る。プロセッサ1920は、限定ではないが、コントローラ、コンピュータ、マイクロプロセッサ、
図1のコンピュータシステム、または制御信号およびデータを送信および受信し、データを分析することが可能な任意のデバイスであり得る。
【0193】
(複数のADC検出器のイオン分離方法)
図21は、種々の実施形態による、複数の電子増倍管ADC検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法2100を示すフローチャートである。
【0194】
方法2100のステップ2110において、質量分析計の質量分析器が、プロセッサを使用して、質量分析器内の複数のイオンからのイオンが2つ以上のADC検出器に衝突すると、質量分析器の2つ以上のADC検出器のうちの各々を使用して、パルスを同時に検出し、ピークを計算するように命令される。複数のイオンは、質量分析計によって質量分析器に伝送される。2つ以上のADC検出器のうちの各検出器は、2つ以上の所定の強度範囲のうちの異なるイオン強度範囲内にある検出されたパルスからのピークを計算するためにピーク発見を使用するように適合される。2つ以上の所定の強度範囲は、2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する。
【0195】
ステップ2120において、各検出器の各ピークは、プロセッサを使用して、検出器に対応するデータセット内に記憶され、2つ以上の異なる電荷状態に対応する2つ以上のデータセットを生成する。
【0196】
ステップ2130において、質量スペクトルが、プロセッサを使用して、各データセットにおけるピークを組み合わせることによって、2つ以上のデータセットのうちの各々に関して作成され、電荷状態に基づいて、質量分析器によって検出されたイオンに関する2つ以上の質量スペクトルを生成する。
【0197】
(複数のADC検出器のイオン分離コンピュータプログラム製品)
種々の実施形態において、コンピュータプログラム製品が、そのコンテンツが、単一の電子増倍管鏡像電荷検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法を実施するようにプロセッサ上で実行される命令を伴うプログラムを含む有形コンピュータ読み取り可能な記憶媒体を含む。方法は、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステムによって実施される。
【0198】
図22は、種々の実施形態による、単一の電子増倍管ADC検出器を使用して、電荷状態に基づいて、質量分析器によって測定されたイオンを2つ以上の質量スペクトルに分離する方法を実施する1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステム2200の例示的概略図である。システム2200は、制御モジュール2210と、分析モジュール2220とを含む。
【0199】
制御モジュール2210は、質量分析器内の複数のイオンからのイオンが2つ以上のADC検出器に衝突すると、質量分析器の2つ以上のADC検出器のうちの各々を使用して、パルスを同時に検出し、ピークを計算するように質量分析計の質量分析器に命令する。複数のイオンは、質量分析計によって質量分析器に伝送される。2つ以上のADC検出器のうちの各検出器は、2つ以上の所定の強度範囲のうちの異なるイオン強度範囲内にある検出されたパルスからのピークを計算するためにピーク発見を使用するように適合される。2つ以上の所定の強度範囲は、2つ以上の異なる電荷状態範囲に対応する。
【0200】
分析モジュール2220は、各検出器に対応するデータセットの中に各検出器の各ピークを記憶し、2つ以上の異なる電荷状態に対応する2つ以上のデータセットを生成する。分析モジュール2220は、各データセットにおけるピークを組み合わせることによって、2つ以上のデータセットのうちの各々に関する質量スペクトルを作成し、電荷状態に基づいて、質量分析器によって検出されたイオンに関する2つ以上の質量スペクトルを生成する。
【0201】
本教示は、種々の実施形態と併せて説明されるが、本教示が、そのような実施形態に限定されることを意図していない。対照的に、本教示は、当業者によって理解されるであろうように、種々の代替物、修正、および均等物を包含する。
【0202】
さらに、種々の実施形態を説明する際に、本明細書は、ステップの特定の一続きとして、方法および/またはプロセスを提示していることもある。しかしながら、方法またはプロセスが本明細書に記載されるステップの特定の順序に依拠しない限りにおいて、方法またはプロセスは、説明されるステップの特定の一続きに限定されるべきではない。当業者が理解するであろうように、ステップの他の一続きも、可能性として考えられ得る。したがって、本明細書に記載されるステップの特定の順序は、請求項に対する限定として解釈されるべきではない。加えて、方法および/またはプロセスを対象とする請求項は、書かれる順序でのそれらのステップの実施に限定されるべきではなく、当業者は、一続きが変動され、依然として、種々の実施形態の精神および範囲内に留まり得ることを容易に理解することができる。